特許異議申立
2016-700679
強化ポリアミド樹脂ペレット
- 審判番号
- 2016-700679
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2013-517999
- 登録番号
- 特許第5853021号(P5853021)
- 請求日
- 2016年08月03日
- 審決日
- 2017年09月26日
- 公報発行日
- 2017年12月28日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】旭化成株式会社
- 【権利者代理人】稲葉 良幸
- 【権利者代理人】内藤 和彦
- 【権利者代理人】秋山 祐子
- 【権利者代理人】斉藤 直彦
- 【権利者代理人】大貫 敏史
- 【異議申立人】東レ 株式会社
- 審判長/審判官
- 審判長 小野寺 務
- 審判官 原田 隆興
- 審判官 西山 義之
- 分類
- P1651.536-YAA(C08L) / P1651.113-YAA(C08L) / P1651.537-YAA(C08L)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第2項、特許法第120条の5第9項、特許法第29条第1項第3号、特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第1号、特許法第120条の5第5項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第5853021号発明「強化ポリアミド樹脂ペレット」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
【結 論】
特許第5853021号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の明細書及び請求項1について訂正することを認める。
特許第5853021号の請求項1に係る特許を維持する。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
特許第5853021号(以下、「本件特許」という。)に係る出願(特願2013-517999号、以下「本願」という。)は、平成24年5月23日(優先権主張:平成23年5月27日、特願2011-118723号)を国際出願日とする出願であって、平成27年12月11日に特許権の設定登録(請求項の数1)がなされたものである。
本件特許につき平成28年8月3日付け(受理日:同年8月5日)で特許異議申立人 東レ株式会社(以下「申立人」という。)により「特許第5853021号の特許請求の範囲の請求項1に記載された発明についての特許は取り消されるべきものである。」という趣旨の本件異議申立がなされた。
平成28年12月1日付けで取消理由が通知され、平成29年2月3日付けで意見書及び訂正請求書が提出され、同年2月27日付けで申立人に対して訂正請求があった旨の通知(特許法第120条の5第5項)がなされ、同年3月31日付け(受理日:同年4月3日)で申立人から意見書が提出され、同年6月1日付けで取消理由(決定の予告)が通知され、同年8月7日付けで意見書が提出されたものである。
第2 平成29年2月3日付けの訂正請求について
上記平成29年2月3日付けの訂正請求書による訂正(以下「本件訂正」という。)の適否につき検討する。
1.訂正内容
本件訂正は、本件特許に係る特許請求の範囲及び明細書を、上記訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲及び訂正明細書のとおり訂正するものであって、具体的な訂正事項は以下のとおりである。
(1)訂正事項1
本件特許請求の範囲の請求項1に「(A)融点が200~270℃であるポリアミド樹脂」と記載されているのを、「(A)半芳香族ポリアミドを含み、融点が200~270℃であるポリアミド樹脂」に訂正する。
(2)訂正事項2
本件特許請求の範囲の請求項1に「前記強化ポリアミド樹脂のストランドの水浸漬長さを90cm以下として冷却する工程を有する、強化ポリアミド樹脂ペレットの製造方法」と記載されているのを、「溶融混練機において溶融混練を行った後、前記強化ポリアミド樹脂をダイノズルから押し出し、230~350℃のストランドとする工程、前記ストランドを水中で、水浸漬長さを90cm以下として冷却する工程、ペレタイザーのロール引き取り圧力、ペレタイザーのカッターの回転速度を調整して、冷却した前記ストランドをペレタイザーで切断してペレットとする工程、を有する、強化ポリアミド樹脂ペレットの製造方法」に訂正する。
(3)訂正事項3
本件特許に係る明細書の【0010】において、
「〔1〕
(A)融点が200~270℃であるポリアミド樹脂と、
(B)チョップドストランドガラス繊維、炭素繊維、ウォラストナイト、タルク、マイカ、カオリン、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、アパタイト、リン酸ナトリウム、蛍石、窒化珪素、チタン酸カリウム、二硫化モリブデンからなる群より選ばれる少なくとも1種の無機充填材と、
を、含有する強化ポリアミド樹脂からなり、
前記ポリアミド樹脂と、前記無機充填材とを、溶融混練することにより製造された強化ポリアミド樹脂ペレットであり、長さが1~5mmであり、断面の長径と短径との比(長径/短径)が1.3~2.5である強化ポリアミド樹脂ペレットの製造方法であって、
前記強化ポリアミド樹脂のストランドの水浸漬長さを90cm以下として冷却する工程を有する、強化ポリアミド樹脂ペレットの製造方法。」
とあるのを、
「〔1〕
(A)半芳香族ポリアミドを含み、融点が200~270℃であるポリアミド樹脂と、
(B)チョップドストランドガラス繊維、炭素繊維、ウォラストナイト、タルク、マイカ、カオリン、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、アパタイト、リン酸ナトリウム、蛍石、窒化珪素、チタン酸カリウム、二硫化モリブデンからなる群より選ばれる少なくとも1種の無機充填材と、
を、含有する強化ポリアミド樹脂からなり、
前記ポリアミド樹脂と、前記無機充填材とを、溶融混練することにより製造された強化ポリアミド樹脂ペレットであり、長さが1~5mmであり、断面の長径と短径との比(長径/短径)が1.3~2.5である強化ポリアミド樹脂ペレットの製造方法であって、
溶融混練機において溶融混練を行った後、前記強化ポリアミド樹脂をダイノズルから押し出し、230~350℃のストランドとする工程、
前記ストランドを水中で、水浸漬長さを90cm以下として冷却する工程、
ペレタイザーのロール引き取り圧力、ペレタイザーのカッターの回転速度を調整して、冷却した前記ストランドをペレタイザーで切断してペレットとする工程、
を有する、強化ポリアミド樹脂ペレットの製造方法。」
に訂正する。
2.検討
上記訂正事項1及び2による訂正は、いずれも本件特許に係る請求項1について、請求項1の「製造方法」で使用されるポリアミド樹脂の種別の限定(訂正事項1)及び製造工程の追加(訂正事項2)を行うことにより、同項記載の「製造方法」に係る発明の範囲を減縮するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものと認められる。
訂正事項3による訂正は、本件特許に係る請求項1についての上記訂正事項1及び2による訂正に伴って生じた、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載(【0010】)の不整合、すなわち明瞭でない記載を整合させるよう単に正したものと認められるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものと認められる。
訂正事項1及び2による訂正は、本件特許明細書の【0014】及び【0049】に記載された事項に基づき、特許請求の範囲の請求項1に係る発明の範囲を減縮しており、また、上記訂正事項3による訂正は、上記訂正事項1及び2による訂正により生じた不整合を単に正したものであるから、本件特許明細書に記載した事項の範囲内で訂正するものであることが明らかであり、さらに、本件特許に係る特許請求の範囲を実質的に変更又は拡張するものでないことも明らかであるから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項に適合するものである。
訂正事項3は、明細書の訂正に係る請求項の全て(請求項1)について行われているので、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第4項に適合するものである。
3.まとめ
以上のとおりであるから、本件訂正に係る上記訂正事項1ないし3による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、また、同法第120条の5第9項で準用する同法第126条第4項ないし第6項に適合するものである。
よって、本件訂正後の請求項1及び明細書の【0010】について訂正を認める。
第3 本件発明
本件訂正は第2のとおり認められるから、本件特許の請求項1に係る発明(以下、「本件発明」という。)は、以下のとおりのものである。
「【請求項1】
(A)半芳香族ポリアミドを含み、融点が200~270℃であるポリアミド樹脂と、
(B)チョップドストランドガラス繊維、炭素繊維、ウォラストナイト、タルク、マイカ、カオリン、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、アパタイト、リン酸ナトリウム、蛍石、窒化珪素、チタン酸カリウム、二硫化モリブデンからなる群より選ばれる少なくとも1種の無機充填材と、
を、含有する強化ポリアミド樹脂からなり、
前記ポリアミド樹脂と、前記無機充填材とを、溶融混練することにより製造された強化ポリアミド樹脂ペレットであり、長さが1~5mmであり、断面の長径と短径との比(長径/短径)が1.3~2.5である強化ポリアミド樹脂ペレットの製造方法であって、
溶融混練機において溶融混練を行った後、前記強化ポリアミド樹脂をダイノズルから押し出し、230~350℃のストランドとする工程、
前記ストランドを水中で、水浸漬長さを90cm以下として冷却する工程、
ペレタイザーのロール引き取り圧力、ペレタイザーのカッターの回転速度を調整して、冷却した前記ストランドをペレタイザーで切断してペレットとする工程、
を有する、強化ポリアミド樹脂ペレットの製造方法。」
第4 取消理由の概要
平成28年12月1日付け取消理由は下記の取消理由1ないし3、及び、平成29年6月1日付け取消理由(決定の予告)は下記の取消理由2を通知した。
(取消理由1)本件発明は、甲第1号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであって、本件発明についての特許は、同法第29条に違反してされたものであるから、同法第113条第2号の規定に該当し、取り消されるべきものである。
(取消理由2)本願は、願書に添付された明細書(以下「本件特許明細書」という。)の発明の詳細な説明の記載が不備であるから、本件発明についての特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであって、同法第113条第4号の規定に該当し、取り消されるべきものである。
(取消理由3)本願は、本件特許の請求項1の記載が不備であるから、本件発明についての特許は、特許法第36条第6項第1号の規定を満たしていない特許出願に対してされたものであって、同法第113条第4号の規定に該当し、取り消されるべきものである。
<申立人提示の証拠方法>
甲第1号証:特開平7-96519号公報
甲第2号証:申立人従業者川上弘二が平成28年7月27日付けで作成した「実験報告書」(甲第1号証に記載された実施例等の追試を行ったもの)
(以下、それぞれ「甲1」及び「甲2」という。)
第5 当審の判断
上記取消理由1ないし3につき、事案に鑑み、取消理由2、取消理由1、取消理由3の順に検討する。
1.取消理由2について
取消理由2について以下検討する。
特許権者は、平成29年8月7日付け意見書(以下、「特許権者の意見書」という。)において、当該意見書に添付された参考文献1(村上健吉編、「押出成形」、改訂第7版、株式会社プラスチックス・エージ、1985年12月10日、210~213頁)に基づき、概略、以下のとおり主張している。
ストランドカット方式による樹脂ペレット製造方法は古くから確立された樹脂ペレットの工業的製造方法であって、使用される装置も本件出願時においてよく知られており、各種設定値についても同様である。
本件発明においては、本質的には、このように一般に確立されたストランドカット方式による樹脂ペレット製造において、水浸漬長さを通常より短い90cm以下の範囲で調整するだけで、わずかに扁平な断面形状を有するペレットが製造できるので、当業者であれば技術常識に基づいて、過度な試行錯誤を繰り返すことなく本件発明を実施することができる。
カッターの回転速度は、所望するペレットの長さとカッターの刃の間隔に基づいて自ずと決まる値である。
ロール引き取り圧力については、円形のペレットを製造する通常の場合から大きく変える必要はなく、ロール引き取り圧力を上げればストランドがつぶれやすく長径/短径比が大きくなり、逆に下げれば長径/短径比が1に近づくことは明らかなので、所望するペレットの長径/短径比に応じて適宜設定することは容易である。
水浸漬長さについても、これを長くすればストランドの冷却が進みつぶれにくくなるため、長径/短径比が1に近づき、逆に短くすれば長径/短径比が大きくなることは明らかである。水浸漬長さの調整は、温度を厳密に制御するという意味ではなく、押圧により変形するかしないかが変わる程度に冷却状態を制御するという趣旨である。
また、参考文献1は、以下の事項が記載されている。
ストランドカット方式はいずれの場合でも、ダイ(ノズル)から円形断面のストランドを押出して冷却後切断を行うので、コールドカット方式とも呼ばれる(211頁右欄下から1行~212頁左欄3行)。
ストランドカット方式において、ペレット径は通常2.5~3.2φ程度で、これに対して4~4.8φくらいのノズル穴が用いられる(212頁右欄10、11行)。
通常のストランドカット方式では、水槽の中のガイドロールによって冷却長を調整して、もろい材料では過度の冷却となる前に切断を行ったり、融点の高い材料では自熱により付着水分を乾燥させるなどの操作を行う。この水槽中のストランド掛けなどはすべて人力で行うのでストランド本数200~240本、引取速度50~60m/minが操作限界で、能力に対応する(213頁左欄1~9行)。
本件特許明細書には、強化ポリアミド樹脂をダイノズルから押し出し後のストランドの温度、水浸漬長さ、ペレタイザーのロール引き取り圧力、ペレタイザーのカッターの回転速度を調整することが記載されているが、実施例において、その具体的な条件、数値等は記載されず、その他の必要な条件、数値等についても記載されていない。
しかしながら、特許権者の意見書及び参考文献1によれば、ロール引き取り圧力と長径/短径比とが相関関係を有すること、水浸漬長さはストランドの冷却に影響を与え、長径/短径比と相関関係を有すること、ストランドカット方式は、通常ダイ(ノズル)から円形断面のストランドを押出すものであって、ペレット径は通常2.5~3.2φ程度で、これに対して4~4.8φくらいのノズル穴が用いられること、材料によって水槽における冷却長を調整すること、引取速度には操作限界があること等が、当業者の技術常識であること、また、本件発明は、一般に確立されたストランドカット方式による樹脂ペレット製造において、水浸漬長さを調整するだけで極端な条件の変更を行うものではないことが理解できる。
また、本件特許明細書の【0014】にポリアミド樹脂の融点が200~270℃であること、【0049】にストランドの温度が230~350℃であること、実施例3~15に水浸漬長さを60cm以下とすることが記載されている。
そうすると、当業者の技術常識及び本件特許明細書の記載から、当業者であれば、ロール引き取り圧力又は水浸漬長さと長径/短径比との相関関係、通常のストランドカット方式におけるペレット径、水槽における冷却長調整の必要性、引取速度、ポリアミド樹脂の融点とストランドの温度範囲等を理解した上で、ストランドの温度、水浸漬長さ、ロール引き取り圧力、ペレタイザーのカッターの回転速度、及び、その他の必要な条件、数値等を具体的に設定し、得られたペレットの長さ、長径/短径比を計測し、その上で、長径/短径比が1.3を下廻っている場合には、水浸漬長さを90cm以下の範囲内で短くするか、ロール引き取り圧力を上げることにより、長径/短径比を1.3以上とし、逆に長径/短径比が2.5を上廻っている場合には、水浸漬長さを長くするか、ロール引き取り圧力を下げることにより、長径/短径比を2.5以下とすることができるといえるし、ペレットの長さについても1mmを下廻っている場合には、ペレタイザーのカッターの回転速度を小さくすることにより、ペレットの長さを1mm以上とし、逆にペレットの長さが5mmを上廻っている場合には、ペレタイザーのカッターの回転速度を大きくすることにより、ペレットの長さを5mm以下とすることができるといえ、これらの条件、数値等の設定を変えることは、当業者であれば、数度程度の変更により達成できるものであるといえ、過度の試行錯誤を要するものであるとまではいえない。そうすると、当業者であれば、ペレットの長さ、長径/短径比を、過度の試行錯誤をすることなく、本件発明の範囲内とすることができるといえるので、本件発明を実施することができるものである。
申立人は、平成29年3月31日付け意見書(以下、「申立人の意見書」という。)において、概略、以下のとおり主張している。
ストランドの冷却度合いは様々な要因により有意に変化するものであり、ストランドの冷却度合いに大きな影響を与える条件は、(ア)ストランドの外径、(イ)ダイノズルから押し出された直後のストランドの温度、(ウ)ストランドを冷却する水浴の温度、及び(エ)水浴中でのストランドの冷却時間であると考えられるが、本件特許明細書はストランドの冷却度合いに関する開示が不十分である。
申立人の主張について検討する。
本件特許明細書には、(ア)~(エ)は具体的に記載されていない。
しかしながら、上記で述べたとおり、当業者であれば、ロール引き取り圧力又は水浸漬長さと長径/短径比との相関関係、通常のストランドカット方式におけるノズル穴の寸法、水槽における冷却長調整の必要性、引取速度、ポリアミド樹脂の融点とストランドの温度範囲等を理解することができ、本件発明は、一般に確立されたストランドカット方式による樹脂ペレット製造において、水浸漬長さと共に、ペレタイザーのロール引き取り圧力、ペレタイザーのカッターの回転速度を調整するだけで極端な条件の変更を行うものではないことも理解することができる。
そうすると、
(ア)ストランドの外径として、通常のストランドカット方式におけるペレット径とすることは容易であること、
(イ)ダイノズルから押し出された直後のストランドの温度は、原料ポリアミド樹脂の融点に基づき設定される押出機の設定温度と略同一であると考えられること、
(ウ)ストランドを冷却する水浴の温度は、特に指定がないので、季節による多少の変動があるにしても、室温付近と考えられること、
(エ)水浴中でのストランドの冷却時間は、上記(ア)~(ウ)の条件や、その他の必要な条件からストランドの冷却状態を考慮して設定することは容易であることから、申立人の主張を採用することができない。
したがって、本件特許に係る明細書の発明の詳細な説明は、本件発明を当業者が実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されたものであるから、本件特許に係る出願は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしている。
2.取消理由1について
各甲号証の記載事項及び記載された発明は以下のとおりである。
(1)甲1の記載事項及び記載された発明
ア.甲1の記載事項
甲1には、申立人が申立書第7頁最下行~第8頁第26行で主張するとおりの事項が記載されており、さらに、以下の事項も記載されている。
「【0002】
【従来の技術】脂肪族ポリアミドと強化繊維とを主成分とする樹脂組成物あるいは脂肪族ポリアミド、α,β-不飽和カルボン酸でグラフト変性したポリオレフィン及び強化繊維を主成分とする樹脂組成物等の脂肪族ポリアミド系繊維強化樹脂組成物のペレットの製造方法においては、これらの原料を押出機により溶融混練し、ダイより押出されたストランドを水冷し、ストランドの表面を固化することによって、一定の長さに切断していた。しかし、脂肪族ポリアミド系繊維強化樹脂組成物は吸湿性が高いため、こうして得たペレットの水分量は通常0.1重量%を越えるものであった。ペレットの水分が多いとペレットから成形品を作る際、成形時に発泡等の不良現象が発生するため、一般にカッティング後のペレットを乾燥機によって乾燥し、ペレットの水分量を0.1重量%程度以下にまで減少し防湿袋に包装することが行なわれてきている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】しかし、乾燥設備に多大な費用を要するだけでなく、熱源コストもかかり、又乾燥工程に長時間を要するという問題があった。また乾燥温度を上げて乾燥時間を短縮する方法もあるが、窒素等の不活性ガスを用いたとしても加熱により着色し品質の低下を起こすという問題があった。
【0004】本発明の目的は、ダイより押出されたストランドを水冷後、カッティング不良なしにカッティングすることができ、又得られたペレット中に含有される水分を十分低くすることで、包装前に乾燥機を用いて長時間乾燥することなしに防湿袋に包装することができ、且つ色調の優れた脂肪族ポリアミド系繊維強化樹脂組成物ペレットの製造方法を提供することにある。」
「【0037】
【発明の効果】本発明の方法によれば、ダイより押出されたストランドを水冷後カッティング不良なしにカッティングすることができ、又得られたペレットの水分量が十分低く、包装前に乾燥機を用いて長時間乾燥することなしに防湿袋に包装することのできる脂肪族ポリアミド系繊維強化樹脂組成物ペレットの製造方法を提供することができる。又、得られるペレットの色調も黄変がなく良好である。」
イ.甲1に記載された発明
上記ア.の記載事項(特に実施例1の記載)からみて、甲1には、申立人が申立書第10頁第13行~第23行に概略示すとおりの、
「(A)「ノバミッド1010J」なる商品名のポリアミド樹脂と、
(B)強化繊維としてのガラスファイバーからなる無機充填材と、を含有する強化ポリアミド樹脂組成物からなり、
前記ポリアミド樹脂と前記無機充填材とを、溶融混練することにより製造された強化ポリアミド樹脂組成物ペレットであり、長さが2.2mmである強化ポリアミド樹脂組成物ペレットの製造方法であって、
前記強化ポリアミド樹脂組成物のストランドの水浸漬長さを220mmとして冷却する工程を有する、強化ポリアミド樹脂組成物ペレットの製造方法。」
に係る発明(以下「甲1発明」という。)が記載されているものと認められる。
(2)甲2の記載事項
甲2には、申立人が申立書第8頁下から第2行~第9頁第7行で主張するとおりの事項が記載されている。
(3)対比・検討
本件発明と甲1発明とを対比すると、本件発明と甲1発明とは、下記の点でのみ一応相違し、その余で一致するものと認められる。
<相違点1>
本件発明では、「(A)半芳香族ポリアミドを含み、融点が200~270℃であるポリアミド樹脂」であるのに対して、甲1発明では、「(A)「ノバミッド1010J」なる商品名のポリアミド樹脂」である点。
<相違点2>
製造されたペレットにつき、本件発明では、「断面の長径と短径との比(長径/短径)が1.3~2.5である」のに対して、甲1発明では、ペレット断面の長径と短径との比につき特定されていない点。
<相違点3>
本件発明では、「溶融混練機において溶融混練を行った後、前記強化ポリアミド樹脂をダイノズルから押し出し、230~350℃のストランドとする工程」を有するのに対して、甲1発明では、当該工程につき特定されていない点。
<相違点4>
本件発明では、「前記ストランドを水中で、水浸漬長さを90cm以下として冷却する工程」を有するのに対して、甲1発明では、当該工程につき特定されていない点。
<相違点5>
本件発明では、「ペレタイザーのロール引き取り圧力、ペレタイザーのカッターの回転速度を調整して、冷却した前記ストランドをペレタイザーで切断してペレットとする工程」を有するのに対して、甲1発明では、当該工程につき特定されていない点。
相違点1について検討する。
甲1発明の「ノバミッド1010J」なる商品名のポリアミド樹脂は、平成29年2月3日付け意見書に添付された乙第1号証によれば、PA6(ナイロン6)であり、同乙第2号証によれば、PA6は、ポリカプロラクタム、すなわち、芳香環を含まない脂肪族ポリアミドであって、半芳香族ポリアミドではないから、相違点1は実質的な相違点である。
そうすると、その余の相違点を検討するまでもなく、本件発明と甲1発明とは相違しているといえる。
(4)小括
したがって、本件発明は、甲1に記載された発明ではないから、本件発明は、特許法第29条第1項第3号に該当する発明ではない。
3.取消理由3について
取消理由3は、概略、訂正前の請求項1において、ストランドの温度が限定されていないので、ストランドの温度が限定されていない製造方法についてまで、当業者が本件訂正前の請求項1に係る発明の課題を解決することができると認識できるとはいえないというものである。
上記で述べたとおり、本件訂正が認められ、「230~350℃のストランドとする工程」が追加・減縮される訂正が行われたので、取消理由3は解消しているから、本願の特許請求の範囲の請求項1の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしている。
第6 むすび
以上のとおりであるから、取消理由によっては、本件発明に係る特許を取り消すことができない。
そして、他に本件発明に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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