特許異議申立
2016-700550
ゴム組成物及びタイヤ
- 審判番号
- 2016-700550
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2015-539986外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2016年06月16日
- 審決日
- 2017年06月19日
- 公報発行日
- 2017年09月29日
- 結論
- 訂正認容
- 分類
- P1651.121-YAA(C08L)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第2項、特許法第29条第2項、特許法第120条の5第5項、特許法第120条の5第7項、特許法第120条の5第2項第1号
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第5837727号発明「ゴム組成物及びタイヤ」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
【結 論】
特許第5837727号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-3〕について訂正することを認める。
特許第5837727号の請求項1ないし3に係る特許を維持する。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
特許第5837727号(設定登録時の請求項の数は3。以下、「本件特許」という。)は、平成26年11月27日(優先権主張 平成25年11月27日)にされたとみなされる特願2015-539986号の出願に係るものであって、平成27年11月13日に設定登録された。
特許異議申立人 伊達俊二(以下、単に「異議申立人」という。)は、平成28年6月16日(受入日:同年6月17日)に、本件特許の請求項1ないし3に係る発明についての特許に対して特許異議の申立てをした。
当合議体において、平成28年8月31日付けで取消理由を通知したところ、特許権者は、同年11月7日に、訂正請求書及び意見書を提出したので、異議申立人に対して特許法第120条の5第5項に基づく通知をしたところ、その指定期間内に異議申立人から意見書が提出されなかった。
当合議体において、平成29年1月26日付けで取消理由(決定の予告)を通知したところ、特許権者は、同年4月3日に、訂正請求書(以下、当該訂正請求書による訂正を「本件訂正」という。)及び意見書を提出したので、異議申立人に対して特許法第120条の5第5項に基づく通知をしたところ、その指定期間内に異議申立人から意見書が提出されなかったものである。
なお、平成28年11月7日に提出した訂正請求書による訂正請求は、特許法第120条の5第7項の規定により、取り下げられたものとみなす。
第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
本件訂正による訂正の内容は以下の(1)ないし(4)のとおりである。
(1) 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に
「C5系樹脂、C5~C9系樹脂、C9系樹脂、テルペン系樹脂、テルペン-芳香族化合物系樹脂、ロジン系樹脂、ジシクロペンタジエン樹脂、及びアルキルフェノール系樹脂の中から選ばれる少なくとも1種の熱可塑性樹脂(B)」
とあるのを、
「C5系樹脂、C5~C9系樹脂、C9系樹脂、ロジン系樹脂、ジシクロペンタジエン樹脂、及びアルキルフェノール系樹脂の中から選ばれる少なくとも1種の熱可塑性樹脂(B)」
に訂正する。
(2) 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1に
「シリカ」
とあるのを、
「BET比表面積が200~250m2/gである湿式シリカ」
に訂正する。
(3) 訂正事項3
特許請求の範囲の請求項1に
「シリカを含む充填剤(C)」
とあるのを、
「シリカ及びカーボンブラックを含む充填剤(C)」
に訂正する。
(4) 訂正事項4
特許請求の範囲の請求項1に
「充填剤(C)中のシリカの含有量が90~100質量%である」
とあるのを、
「充填剤(C)中のシリカの含有量が90質量%以上100質量%未満である」
に訂正する。
2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1) 訂正事項1について
訂正事項1は、訂正前の請求項1に記載の発明では、熱可塑性樹脂(B)として、「C5系樹脂、C5~C9系樹脂、C9系樹脂、テルペン系樹脂、テルペン-芳香族化合物系樹脂、ロジン系樹脂、ジシクロペンタジエン樹脂、及びアルキルフェノール系樹脂の中から選ばれる少なくとも1種」と特定していたのに対して、訂正後の請求項1に記載の発明では、訂正前の請求項1において選択肢として択一的に記載されていたものの中から「テルペン系樹脂」及び「テルペン-芳香族化合物系樹脂」を削除することにより、熱可塑性樹脂(B)を限定し、特許請求の範囲を減縮しようとするものであるから、当該訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、当該訂正事項1は、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(2) 訂正事項2について
訂正事項2は、訂正前の請求項1に記載の発明では、充填剤(C)が含むものとして、単に「シリカ」とのみ特定していたのに対して、訂正後の請求項1に記載の発明では、シリカを「BET比表面積が200~250m2/gである湿式」のものに限定することにより、シリカを限定し、特許請求の範囲を減縮しようとするものであるから、当該訂正事項2は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、当該訂正事項2は、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(3) 訂正事項3について
訂正事項3は、訂正前の請求項1に記載の発明では、充填剤(C)として、「シリカを含む」と特定していたのに対して、訂正後の請求項1に記載の発明では、シリカに加えてさらに「カーボンブラック」も必須成分とすることにより、充填剤(C)を限定し、特許請求の範囲を減縮しようとするものであるから、当該訂正事項3は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、当該訂正事項3は、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(4) 訂正事項4について
訂正事項4は、訂正前の請求項1に記載の発明では、充填剤(C)中のシリカの含有量として、「90~100質量%」と特定していたのに対して、訂正後の請求項1に記載の発明では、当該範囲を「90質量%以上100質量%未満」とすることにより、充填剤(C)中のシリカの含有量を限定し、特許請求の範囲を減縮しようとするものであるから、当該訂正事項4は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、当該訂正事項4は、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
3 一群の請求項について
訂正事項1ないし4に係る請求項1について、請求項2、3はそれぞれ直接又は間接的に請求項1を引用しているものであって、訂正事項1ないし4によって連動して訂正されるものである。
そして、訂正前の請求項2ないし3は、訂正前の請求項1を直接又は間接的に引用するものであり、訂正前の請求項1ないし3は一群の請求項である。
したがって、訂正事項1ないし4は一群の請求項ごとにされている。
4 むすび
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項の規定並びに同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正することを認める。
第3 本件発明について
上記第2 のとおり、本件訂正は認容されるので、本件特許の請求項1ないし3に係る発明(以下、それぞれ「本件訂正発明1」ないし「本件訂正発明3」という。)は、平成29年4月3日に提出された訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「【請求項1】
天然ゴムを70質量%以上含むゴム成分(A)を配合してなり、ゴム成分100質量部に対して、C5系樹脂、C5~C9系樹脂、C9系樹脂、ロジン系樹脂、ジシクロペンタジエン樹脂、及びアルキルフェノール系樹脂の中から選ばれる少なくとも1種の熱可塑性樹脂(B)を10~30質量部、並びにBET比表面積が200~250m2/gである湿式シリカ及びカーボンブラックを含む充填剤(C)を20~120質量部配合してなり、
前記充填剤(C)中のシリカの含有量が90質量%以上100質量%未満である、ことを特徴とするゴム組成物。
【請求項2】
前記ゴム成分(A)中にスチレン-ブタジエン共重合体ゴムが10~30質量%含まれる、請求項1記載のゴム組成物。
【請求項3】
請求項1または2に記載のゴム組成物をトレッドゴムに用いたことを特徴とするタイヤ。」
第4 取消理由(決定の予告)の概要
平成29年1月26日付けで通知した取消理由(決定の予告)は、本件特許の請求項1ないし3に係る発明は、本件特許の優先日前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである、というものである。
刊行物1:特開2006-63093号公報(異議申立人の証拠方法である甲第1号証。以下、「甲1文献」という。)
第5 当合議体の判断
当合議体は、以下述べるように、本件特許の本件訂正発明1ないし3は、取消理由(決定の予告)で通知した刊行物に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件訂正発明1ないし3に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであるとはいえず、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものであるとはいえないと判断する。
1 本件訂正発明1について
(1) 甲1文献の記載及び甲1発明
甲1文献の請求項1、段落【0016】、【0017】、【0022】、【0024】及び実施例の記載から、甲1文献には、以下の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されているといえる。
「天然ゴムおよび/またはエポキシ化天然ゴムを80重量%以上含むゴム成分100重量部に対して、
10~35重量部のレジンとして、芳香族系石油樹脂(C9留分による樹脂)、クマロンインデン樹脂(石炭クマロンインデン樹脂など)、テルペン樹脂、芳香族変性テルペン樹脂(天然芳香族テルペンなど)、ロジン樹脂、フェノール系樹脂、石油系レジン(C5留分による樹脂)、および
白色充填剤としてのシリカ90重量%以上からなる75~85重量部の充填剤を含有するトレッド用ゴム組成物。」
(2) 本件訂正発明1と甲1発明との対比
ア 本件訂正発明1における「ゴム組成物」は、甲1発明における「トレッド用ゴム組成物」に相当し、「天然ゴムを70質量%以上含むゴム成分(A)」は「天然ゴムおよび/またはエポキシ化天然ゴムを80重量%以上含むゴム成分」に、「C5系樹脂、C5~C9系樹脂、C9系樹脂、ロジン系樹脂、ジシクロペンタジエン樹脂、及びアルキルフェノール系樹脂の中から選ばれる少なくとも1種の熱可塑性樹脂(B)」は「レジンとして、芳香族系石油樹脂(C9留分による樹脂)、クマロンインデン樹脂(石炭クマロンインデン樹脂など)、テルペン樹脂、芳香族変性テルペン樹脂(天然芳香族テルペンなど)、ロジン樹脂、フェノール系樹脂、石油系レジン(C5留分による樹脂)」に、「充填剤(C)」に含まれる「シリカ」はシリカである限りにおいて「白色充填剤としてのシリカ90重量%以上からなる充填剤」に各々相当し、それらの使用量及び含有割合についても重複するものと認められる。
そうすると、本件訂正発明1と甲1発明とは、以下の相違点1ないし3で相違し、当該相違点以外の点では一致するものであると認められる。
相違点1:充填剤(C)に含まれるシリカが、本件訂正発明1では、「BET比表面積が200~250m2/gである湿式シリカ」と特定されているのに対し、甲1発明では、シリカであること以外に特に特定されていない点。
相違点2:充填剤(C)が、本件訂正発明1では、シリカと共に「カーボンブラックを含む」と特定されているのに対し、甲1発明では、カーボンブラックを含むことに関し特に特定されていない点。
相違点3:充填剤(C)におけるシリカの割合が、本件訂正発明1では、「90質量%以上100質量%未満である」と特定されているのに対し、甲1発明では、「90重量%以上」と特定されており、上限値が特定されていない点。
イ 以下、相違点1について検討する。
本件訂正発明1において、相違点1に係る「BET比表面積が200~250m2/gである湿式シリカ」であることの技術的な意義は、本件明細書の段落【0028】に「湿式シリカのBET比表面積は・・・200~250m2/gであるのが更に好ましい。BET比表面積がこの範囲であるシリカは、ゴム補強性とゴム成分中への分散性とを両立できるという利点がある。」と記載されており、このことは、例えば、本件明細書の実施例7(シリカA:東ソー・シリカ(株)製、商品名「ニプシルAQ」、BET比表面積205m2/gを使用したもの。本件訂正発明1における実施例。)と実施例12(シリカB:エボニック社製、商品名「ウルトラジルVN3」、BET比表面積175m2/gを使用したもの。本件訂正発明1における比較例。)とを対比すれば、乾燥路面での制動特性(指数表示)は105で良好な状態を維持したまま、鉄板湿潤路面での制動特性(指数表示)が109から120へと向上していることからも理解されるところである。
一方、甲1文献の段落【0016】では、シリカについて、「本発明のトレッド用ゴム組成物としては、シリカ、・・・などの白色充填剤を用いることが好ましい。これらの白色充填剤を用いることで、カーボンブラックなどの充填剤の場合と異なり、転がり抵抗が低減し、石油外資源の比率が上昇するという効果が得られる。」と記載されているに留まり、シリカのBET比表面積とトレッド用ゴム組成物から製造されたタイヤの物性に関し何ら記載されていないし、示唆もされていない。
そして、甲1文献の実施例で具体的に用いられているシリカは、テグッサ社製のウルトラシル VN3(BET比表面積175m2/g)のみであって、これは、本件明細書の実施例12において比較として用いられているシリカBと同じものであると認められる。
そうすると、甲1発明において、用いるシリカとして、甲1文献に具体的に用いられているシリカに代えて、敢えてBET比表面積が200~250m2/gである湿式シリカを採用することの動機付けが見当たらないし、BET比表面積が200~250m2/gである湿式シリカを採用することにより、トレッドゴムにおいて、乾燥路面での制動特性を良好に維持したまま、鉄板湿潤路面での制動特性を向上させる、すなわち、乾燥路面での制動特性が高く、マンホール等の滑りやすい湿潤路面においても高い制動特性を有するという効果が奏されることについては、たとえ当業者であっても予測することはできない。
したがって、相違点1は、たとえ当業者であっても想到容易とはいえない。
ウ 念のため、以下、相違点2及び3について検討する。
甲1文献の段落【0016】には、充填剤が例示されており、その中には「カーボンブラック」も記載されている。そして、カーボンブラックはタイヤトレッドゴム用に用いられる最も普通の充填剤であることに鑑みれば、甲1発明において、その充填剤の一部として、さらにカーボンブラックを配合してみる程度のことは、当業者が容易になし得る程度のことであると認められ、その具体的な配合割合について、甲1発明において「白色充填剤としてのシリカ90重量%以上」とされていることから、残りの10重量%未満の量でカーボンブラックを配合するとすることについても、当業者が適宜設定し得ることにすぎず、それによる効果も予測し得ることにすぎない。
エ 小括
以上のとおり、本件訂正発明1は、甲1発明と少なくとも相違点1において相違するものであって、当該相違点1が想到容易とはいえない以上、本件訂正発明1は、甲1発明から当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(3) まとめ
以上のとおりであるから、本件訂正発明1は、甲1文献に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではなく、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえないから、本件訂正発明1に係る特許は、同法第113条第2号に該当するものではなく、取り消すべきものであるとはいえない。
2 本件訂正発明2及び3について
本件訂正発明2及び3は、本件訂正発明1を直接又は間接的に引用するものであるから、上記1で本件訂正発明1について示した判断と同様の理由により、甲1文献に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではなく、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえない。
したがって、本件訂正発明2及び3に係る特許は、同法第113条第2号に該当するものではなく、取り消すべきものであるとはいえない。
第6 むすび
以上のとおりであるから、取消理由によっては、本件訂正発明1ないし3に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件訂正発明1ないし3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
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