特許異議申立
2016-700531
液晶配向剤
- 審判番号
- 2016-700531
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2010-022370
- 登録番号
- 特許第5831674号(P5831674)
- 請求日
- 2016年06月09日
- 審決日
- 2017年06月29日
- 公報発行日
- 2017年09月29日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】JSR株式会社
- 【権利者代理人】大島 正孝
- 【権利者代理人】白石 泰三
- 【権利者代理人】勝又 秀夫
- 【異議申立人】田嶋 順治
- 審判長/審判官
- 審判長 恩田 春香
- 審判官 河原 英雄
- 審判官 近藤 幸浩
- 分類
- P1651.113-YAA(G02F) / P1651.121-YAA(G02F) / P1651.536-YAA(G02F) / P1651.537-YAA(G02F)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第4項第1号、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項、特許法第120条の5第5項、特許法第120条の5第2項第1号、特許法第36条第6項第2号
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第5831674号発明「液晶配向剤」の特許異議申立事件について,次のとおり決定する。
結論
【結 論】
特許第5831674号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項〔1-4〕について訂正することを認める。
特許第5831674号の請求項1ないし4に係る特許を維持する。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
特許第5831674号の請求項1ないし4に係る特許についての出願は,平成22年2月3日に特許出願され,平成27年11月6日にその特許権の設定登録がされ,その後,その特許について,特許異議申立人田嶋順治(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされ,平成28年9月30日付けで取消理由が通知され,その指定期間内である平成28年11月29日に意見書の提出及び訂正の請求(以下「本件訂正請求」という。)があった。そして,当審は,特許法第120条の5第5項の規定に基づき,期間を指定して,申立人に意見書を提出する機会を与えたが,その指定期間内に,申立人から意見書は提出されなかった。
第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
本件訂正請求による訂正の内容は,次のとおりである(下線は訂正箇所を示す)。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に
「光反応性構造を有するジアミンを含むジアミン」
とあるのを,
「光反応性構造を有するジアミン50~99モル%を含むジアミン」
に訂正する。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1に
「(A)・・・ポリアミック酸A,および
(B)・・・ポリアミック酸B(ただし,上記ポリアミック酸Aは除く)を含有する」
とあるのを,
「(A)・・・ポリアミック酸Aを20~70重量%,および
(B)・・・ポリアミック酸B(ただし,上記ポリアミック酸Aは除く)を80~30重量%で含有する」
に訂正する。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項1に
「eおよびfは,それぞれ0~4の整数であり,」
とあるのを,
「eは0~4の整数であり,fは0の整数であり,」
に訂正する。
(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項1に
「iは0~2の整数であり,」
とあるのを,
「iは0の整数であり,」
に訂正する。
(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項1に
「ただし,上記光反応性構造が・・・」
とあるのを,
「そして,前記ポリアミック酸Aの光反応性構造を有するジアミン50~99モル%以外のその他のジアミンが3,5-ジアミノ安息香酸コレスタニルまたは1-コレスタニルオキシ-2,4-ジアミノベンゼンであり,ただし,上記光反応性構造が・・・」
に訂正する。
(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項2に
「10~70重量%」
とあるのを,
「20~50重量%」に訂正する。
(7)訂正事項7
願書に添付した明細書(以下「明細書」という。)の段落【0007】に
「光反応性構造を有するジアミンを含むジアミン」
とあるのを,
「光反応性構造を有するジアミン50~99モル%を含むジアミン」
に訂正する。
(8)訂正事項8
明細書の段落【0041】に
「光反応性構造を有するジアミンジアミンは,全ジアミンに対して,50~99モル%含むものであることが好ましく,」
とあるのを,
「光反応性構造を有するジアミンは,全ジアミンに対して,50~99モル%含むものであり,」
に訂正する。
(9)訂正事項9
明細書の段落【0068】に
「また,実施例20~30および51~61はいずれも光反応性構造を有するジアミンが100モル%のジアミンを使用したポリアミック酸(ポリアミック酸A)を用いたものであり,参考例である。」
を加入する。
(10)訂正事項10
明細書の段落【0007】に
「(A)・・・ポリアミック酸A,および
(B)・・・ポリアミック酸B(ただし,上記ポリアミック酸Aは除く)を含有する」
とあるのを,
「(A)・・・ポリアミック酸Aを20~70重量%,および
(B)・・・ポリアミック酸B(ただし,上記ポリアミック酸Aは除く)を80~30重量%で含有する」
に訂正する。
(11)訂正事項11
明細書の段落【0047】に
「10~70重量%含有することが好ましく,」
とあるのを,
「20~70重量%含有し,」
に訂正する。
(12)訂正事項12
明細書の段落【0068】に
「なお,実施例16は,ポリアミック酸AであるPA-16の使用量が10重量%であり,参考例である。」
を加入する。
(13)訂正事項13
明細書の段落【0015】に
「eおよびfは,それぞれ0~4の整数であり,」
とあるのを,
「eは0~4の整数であり,fは0の整数であり,」
に訂正する。
(14)訂正事項14
明細書の段落【0017】に
「iは0~2の整数であり,」
とあるのを,
「iは0の整数であり,」
に訂正する。
(15)訂正事項15
明細書の段落【0041】に
「任意的にその他のジアミンの少なくとも1種をさらに含んでいてもよい。」
とある次に,
「上記その他のジアミンは3,5-ジアミノ安息香酸コレスタニルまたは1-コレスタニルオキシ-2,4-ジアミノベンゼンである。」
を加入する。
2 訂正の目的の適否,一群の請求項,新規事項の有無,及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否について
(1)訂正事項1について
訂正事項1は,請求項1において,「光反応性構造を有するジアミンを含むジアミン」について,「光反応性構造を有するジアミン」の含有量を「50~99モル%」に限定するものである。
訂正事項1に関連する記載として,訂正前の明細書に,「本発明におけるポリアミック酸Aを合成するために用いられる光反応性構造を有するジアミンジアミンは,全ジアミンに対して,50~99モル%含むものであることが好ましく」(【0041】)との記載があるから,「光反応性構造を有するジアミンを含むジアミン」について,「光反応性構造を有するジアミン」の含有量を「50~99モル%」とすることは,明細書に記載されているものと認められる。
したがって,訂正事項1は,特許請求の範囲の減縮を目的としており,特許請求の範囲又は明細書に記載された事項の範囲内においてするものと認められる。
また,訂正事項1は,発明のカテゴリーや対象,目的を変更するものではないから,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。
(2)訂正事項2について
訂正事項2は,請求項1において,「ポリアミック酸A」の含有量を「20~70重量%」に限定し,「ポリアミック酸B(ただし,上記ポリアミック酸Aは除く)」の含有量を「80~30重量%」に限定するものである。
訂正事項2に関連する記載として,訂正前の明細書に,「上記ポリアミック酸Aを,上記ポリアミック酸Aと上記ポリアミック酸Bの合計を基準にして10~70重量%含有することが好ましく,20~50重量%含有することがより好ましい。」(【0047】)との記載があるから,「ポリアミック酸A」の含有量を「20~70重量%」に限定し,「ポリアミック酸B(ただし,上記ポリアミック酸Aは除く)」の含有量を「80~30重量%」に限定することは,明細書に記載されているものと認められる。
したがって,訂正事項2は,特許請求の範囲の減縮を目的としており,特許請求の範囲又は明細書に記載された事項の範囲内においてするものと認められる。
また,訂正事項2は,発明のカテゴリーや対象,目的を変更するものではないから,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。
(3)訂正事項3について
訂正事項3は,請求項1において,式(A-2-1)及び(A-2-2)中の「f」の値を,訂正前の「0~4の整数」から訂正後の「0の整数」に限定するものである。
したがって,訂正事項3は,特許請求の範囲の減縮を目的としており,特許請求の範囲又は明細書に記載された事項の範囲内においてするものと認められる。
また,訂正事項3は,発明のカテゴリーや対象,目的を変更するものではないから,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。
(4)訂正事項4について
訂正事項4は,請求項1において,式(A-2-1)及び(A-2-2)中の「i」の値を,訂正前の「0~2の整数」から訂正後の「0の整数」に限定するものである。
したがって,訂正事項4は,特許請求の範囲の減縮を目的としており,特許請求の範囲又は明細書に記載された事項の範囲内においてするものと認められる。
また,訂正事項4は,発明のカテゴリーや対象,目的を変更するものではないから,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。
(5)訂正事項5について
訂正事項5は,請求項1において,「前記ポリアミック酸Aの光反応性構造を有するジアミン50~99モル%以外のその他のジアミン」が「3,5-ジアミノ安息香酸コレスタニルまたは1-コレスタニルオキシ-2,4-ジアミノベンゼンであ」ることを限定するものである。
訂正事項5に関連する記載として,訂正前の明細書に,「本発明におけるポリアミック酸Aを合成するために用いられるジミアンは,前記光反応性構造を有するジアミンを含むものであり,任意的にその他のジアミンの少なくとも1種をさらに含んでいてもよい。」と記載され,さらに,実施例として,ポリアミック酸Aを合成するジアミンとして,光反応性構造を有するジアミン「d-1」~「d-14」(第二のジアミン)とともに,その他のジアミン「d-15」又は「d-16」(第一のジアミン),すなわち「3,5-ジアミノ安息香酸コレスタニル」又は「1-コレスタニルオキシ-2,4-ジアミノベンゼン」を含むジアミンが用いられた例が記載されている(【0073】表1,【0074】表2及び【0076】)。
従って,「前記ポリアミック酸Aの光反応性構造を有するジアミン50~99モル%以外のその他のジアミン」が「3,5-ジアミノ安息香酸コレスタニルまたは1-コレスタニルオキシ-2,4-ジアミノベンゼンであ」ることは,明細書に記載されているものと認められる。
したがって,訂正事項5は,特許請求の範囲の減縮を目的としており,特許請求の範囲又は明細書に記載された事項の範囲内においてするものと認められる。
また,訂正事項5は,発明のカテゴリーや対象,目的を変更するものではないから,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。
(6)訂正事項6について
訂正事項6は,請求項2において,「ポリアミック酸A」の含有量を,訂正前の「10~70%」から訂正後の「20~50重量%」に限定するものである。
したがって,訂正事項6は,特許請求の範囲の減縮を目的としており,特許請求の範囲又は明細書に記載された事項の範囲内においてするものと認められる。
また,訂正事項6は,発明のカテゴリーや対象,目的を変更するものではないから,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。
(7)訂正事項7について
訂正事項7は,訂正事項1による訂正後の請求項1の記載と明細書の記載を整合させるものであるから,明瞭でない記載の釈明を目的としていると認められる。
そして,訂正事項7は,訂正事項1と同様に,特許請求の範囲又は明細書に記載された事項の範囲内においてするものと認められ,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。
(8)訂正事項8について
訂正事項8は,訂正前の明細書の段落【0041】の「光反応性構造を有するジアミンジアミン」との記載を「光反応性構造を有するジアミン」に訂正すること(以下「訂正事項8-1」という。),及び同じく「50~99モル%含むものであることが好ましく」との記載を「50~99モル%含むものであり」に訂正すること(以下「訂正事項8-2」という。)からなる。
訂正事項8-1は,訂正前の「反応性構造を有するジアミンジアミン」との記載が「反応性構造を有するジアミン」の誤記であることが明らかであるから,誤記の訂正を目的としていると認められる。そして,この訂正事項8-1は,本件特許の願書に最初に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載下事項の範囲内においてするものと認められ,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。
訂正事項8-2は,訂正事項1による訂正後の請求項1の記載と明細書の記載を整合させるものであるから,明瞭でない記載の釈明を目的としていると認められる。そして,この訂正事項8-2は,訂正事項1と同様に,特許請求の範囲又は明細書に記載された事項の範囲内においてするものと認められ,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。
(9)訂正事項9について
訂正事項9は,訂正事項1による請求項1の減縮にともない,訂正前の明細書に記載されている実施例のうち,実施例とはいえなくなった実施例20~30及び51~61を参考例とする訂正である。
したがって,訂正事項9は,訂正事項1による訂正後の請求項1の記載と明細書の記載を整合させるものであるから,明瞭でない記載の釈明を目的としていると認められる。
また,訂正事項9は,訂正事項1と同様に,特許請求の範囲又は明細書に記載された事項の範囲内においてするものと認められ,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。
(10)訂正事項10について
訂正事項10は,訂正事項2による訂正後の請求項1の記載と明細書の記載を整合させるものであるから,明瞭でない記載の釈明を目的としていると認められる。
そして,訂正事項10は,訂正事項2と同様に,特許請求の範囲又は明細書に記載された事項の範囲内においてするものと認められ,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。
(11)訂正事項11について
訂正事項11は,訂正事項2による訂正後の請求項1の記載と明細書の記載を整合させるものであるから,明瞭でない記載の釈明を目的としていると認められる。
そして,訂正事項11は,訂正事項2と同様に,特許請求の範囲又は明細書に記載された事項の範囲内においてするものと認められ,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。
(12)訂正事項12について
訂正事項12は,訂正事項2による請求項1の減縮にともない,訂正前の明細書に記載されている実施例のうち,実施例とはいえなくなった実施例16を参考例とする訂正である。
したがって,訂正事項12は,訂正事項2による訂正後の請求項1の記載と明細書の記載を整合させるものであるから,明瞭でない記載の釈明を目的としていると認められる。
また,訂正事項12は,訂正事項2と同様に,特許請求の範囲又は明細書に記載された事項の範囲内においてするものと認められ,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。
(13)訂正事項13について
訂正事項13は,訂正事項3による訂正後の請求項1の記載と明細書の記載を整合させるものであるから,明瞭でない記載の釈明を目的としていると認められる。
そして,訂正事項13は,訂正事項3と同様に,特許請求の範囲又は明細書に記載された事項の範囲内においてするものと認められ,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。
(14)訂正事項14について
訂正事項14は,訂正事項4による訂正後の請求項1の記載と明細書の記載を整合させるものであるから,明瞭でない記載の釈明を目的としていると認められる。
そして,訂正事項14は,訂正事項4と同様に,特許請求の範囲又は明細書に記載された事項の範囲内においてするものと認められ,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。
(15)訂正事項15について
訂正事項15は,訂正事項5による訂正後の請求項1の記載と明細書の記載を整合させるものであるから,明瞭でない記載の釈明を目的としていると認められる。
そして,訂正事項15は,訂正事項5と同様に,特許請求の範囲又は明細書に記載された事項の範囲内においてするものと認められ,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。
(16)そして,これら訂正事項1ないし15は,一群の請求項に対して請求されたものである。
3 小括
以上のとおりであるから,本件訂正請求による訂正は,特許法第120条の5第2項第1号ないし第3号に掲げる事項を目的とするものであり,かつ,同条第4項,及び同条第9項において準用する同法第126条第4項から第6項までの規定に適合するので,訂正後の請求項〔1~4〕について訂正することを認める。
第3 特許異議の申立てについて
1 訂正後の本件発明
本件訂正請求による訂正後の請求項1ないし4に係る発明(以下「訂正発明1」ないし「訂正発明4」という。)は,訂正後の特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項により特定されるとおりのものであり,その請求項1ないし4の記載は次のとおりである。
「【請求項1】
(A)テトラカルボン酸二無水物と,光反応性構造を有するジアミン50~99モル%を含むジアミンとを反応させて得られるポリアミック酸Aを20~70重量%,および
(B)テトラカルボン酸二無水物としての1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物,または1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物とピロメリット酸二無水物と,2,2’-ジメチル-4,4’-ジアミノビフェニル,p-フェニレンジアミン,4,4’-ジアミノジフェニルメタン,4,4’-ジアミノジフェニルエーテルよりなる群から選択される少なくとも1種のジアミンを反応させて得られるポリアミック酸B(ただし,上記ポリアミック酸Aは除く)を80~30重量%
で含有する液晶配向剤であって,
前記ポリアミック酸Aの有する光反応性構造が下記式(A-2-1)および(A-2-2)
【化2】
(式(A-2-1)および(A-2-2)中,A1およびA2は,それぞれ,炭素数1~6のアルキル基,炭素数1~6のアルコキシル基,ハロゲン原子またはシアノ基であり,dは0または1であり,eは0~4の整数であり,fは0の整数であり,
RIおよびRIIは,それぞれ,水素原子の一部または全部はフッ素原子で置換されていてもよい炭素数1~40のアルキル基であり,
XIIおよびXIIIは,それぞれ,-O-,-CO-,-CO-O-,-O-CO-,-NR-,-NR-CO-,-CO-NR-,-NR-CO-O-,-O-CO-NR-,-NR-CO-NR-または-O-CO-O-(ここで,Rは,水素原子または炭素数1~4のアルキル基である。)であり,
RIIIは,それぞれ,メチレン基,アリーレン基,2価の脂環式基,-Si(CH3)2-,-CH=CH-または-C≡C-であり,ただしRIIIの有する水素原子の1個または2個以上は,シアノ基,ハロゲン原子または炭素数1~4のアルキル基に置換されていてもよく,
hは1~6の整数であり,
iは0の整数であり,
上記XIIおよびRIIIが複数存在する場合には,これらは互いに同一であっても相異なっていてもよく,
jは0または1であり,そして
「+」は,それぞれ,結合手であることを示す。)
のそれぞれで表される構造から選択される少なくとも1種の構造であり,そして,
前記ポリアミック酸Aの光反応性構造を有するジアミン50~99モル%以外のその他のジアミンが3,5-ジアミノ安息香酸コレスタニルまたは1-コレスタニルオキシ-2,4-ジアミノベンゼンであり,ただし,
上記光反応性構造が上記式(A-2-1)で表される構造であるときには,ポリアミック酸Aを合成するためのテトラカルボン酸二無水物が下記式(G)
【化14】
で表される化合物である場合を除き,そして
上記光反応性構造が上記式(A-2-2)で表される構造であるときには,該構造は下記式(A-2-2-1)および(A-2-2-2)
【化11】
のそれぞれで表される化合物から選択される少なくとも1種のジアミンに由来する構造である,前記液晶配向剤。
【請求項2】
上記ポリアミック酸Aを,上記ポリアミック酸Aと上記ポリアミック酸Bの合計を基準にして20~50重量%含有することを特徴とする請求項1に記載の液晶配向剤。
【請求項3】
請求項1または2に記載の液晶配向剤から形成されたことを特徴とする,液晶配向膜。
【請求項4】
請求項3に記載の液晶配向膜を具備することを特徴とする,液晶表示素子。」
2 取消理由の概要
訂正前の請求項1ないし4に係る発明(以下「本件発明1」ないし「本件発明4」という。)の特許に対して,平成28年9月30日付け取消理由通知により特許権者に通知した取消理由の概要は,次のとおりである。
理由1
本件特許の請求項1ないし4に係る発明(以下「本件発明1」ないし「本件発明4」という。)は,本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された下記1の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であって,特許法第29条第1項第3号に該当し,特許を受けることができないから,その発明に係る特許は取り消すべきものである。
理由2
本件発明1ないし本件発明4は,本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された下記1の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから,その発明に係る特許は取り消すべきものである。
理由3
本件特許は,明細書又は特許請求の範囲の記載が下記2の点で不備のため,特許法第36条第4項第1号及び第6項第1号に規定する要件を満たしていない。したがって,本件発明1ないし本件発明4の特許は取り消すべきものである。
記
1.理由1及び理由2について
甲1:国際公開第2009/080271号
甲2:特表2011-507041号公報
甲3:国際公開第2007/071091号
甲4:特表2009-520702号公報
甲5:国際公開第2009/133803号
本件発明1ないし本件発明4は,甲1に記載された発明であるか,本件発明1ないし本件発明4は,甲1に記載された発明と甲3に記載された発明とに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
本件発明1ないし本件発明4は,甲5に記載された発明と甲3に記載された発明とに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
2.理由3について
本件特許の明細書又は特許請求の範囲の記載は,特許異議申立書93頁13行~101頁3行「(iv)実施可能要件及びサポート要件の理由・・・・・・取り消されるべきものである」に記載された点で不備である。
3 甲号証の記載
(1)甲1
ア 甲1には,次の事項が記載されている。
「Claims
1.) A photoalignment composition comprising
a) 0.001 to 20%, by weight, of at least one photoreactive compound (I) that comprises a photoalignment group and
b) 80 to 99.999% by weight, of at least one compound (II) that does not comprise a photoalignment group, and
c) optionally at least one reactive or non reactive additives, and d) optionally at least one solvent.」(46頁1~8行)
(請求項1
a) 0.001~20重量%の,光配向基を含む少なくとも1つの光反応性化合物(I)と,
b) 80~99.999重量%の,光配向基を含まない少なくとも1つの化合物(II)と,
c) 場合により少なくとも1つの反応性又は非反応性添加剤と,
d) 場合により少なくとも1つの溶媒と
を含む,光配向組成物。)
「The present invention relates to a photoalignment composition especially for the alignment of liquid crystals or liquid crystal polymers comprising
a) 0.001 to 20%, by weight, preferably, 0.05 to 10% by weight, more preferably 0.1 to 9% by , especially more preferred 0.1 to 5%, more especially more preferred 0.1 to 2% weight of at least one photoreactive compound (I) that comprises a photoalignment group and
b) 80 to 99.999% by weight, preferably, 90 to 99% by weight, more preferably 91 to 99% by weight of at least one compound (II) that does not comprise a photoalignment group, and
c) optionally at least one reactive or non reactive additives, and
d) optionally at least one solvent.」(1頁2~13行)
( 本発明は,
a) 0.001~20重量%,好ましくは0.05~10重量%,より好ましくは0.1~9重量%,とりわけより好ましくは0.1~5重量%,さらにとりわけより好ましくは0.1~2重量%の,光配向基を含む少なくとも1つの光反応性化合物(I)と,
b) 80~99.999重量%,好ましくは90~99重量%,より好ましくは91~99重量%の,光配向基を含まない少なくとも1つの化合物(II)と,
c) 場合により少なくとも1つの反応性又は非反応性添加剤と,
d) 場合により少なくとも1つの溶媒と
を含む,特に液晶又は液晶ポリマーの配向のための光配向組成物に関する。)
「Example 28 :
A blend 1 was prepared that consisted of 95% by weight of a compound (II) as given in the below table, and 5% by weight of a photoreactive compound (II) as given in the table below. Blend 1 was dissolved to 2% by weight in cyclopentanone and stirred for half an hour at room temperature.
Indium tin oxide (ITO) coated glass plates were used as substrates. By means of spin- coating a solution of blend 1 with a solid content of 2 weight percent in cyclopentanone an alignment layer with a dry thickness of approximately 60 nm was prepared with the spin parameters of 2000rpm during 60s. The alignment layer was subsequently thermally treated on a hot-plate for 10 minutes at a temperature of 180 ℃. After that, the photo-alignment layer was vertically exposed to linearly polarised UVB light (wavelengths between 280 and 320 nm). A dose of 150 mJ/cm 2 was applied at an intensity of 3 mW/cm 2 . In a next step, a 25 weight percent solution in cyclopentanone of the formulation M1 (Example 1) was spin- coated on top of the functionalized photo-alignment layer with the spin parameters of 800rpm during 60s. A dry film thickness of approximately 800 nm was achieved this way. A thermal treatment at a temperature of 40 ℃ on a hot-plate was then carried out for a duration of 10 minutes.
Compounds (II) are prepared in analogy to methods known in the art such as for example Polymerisation step : Formation of the polyamic acid
(30.26 mmol) of 4,4'-diaminodiphenyl derivative (4,4'-diaminodiphenyl methane, 4,4'- diaminodiphenyl thioether, 4,4'-diaminodiphenyl ether, 4,4'-diaminodiphenyl glutaric ester) was solubilised in 71 mL of 1-methyl-2-pyrrolidone (NMP). The mixture was cooled to 0℃ for 10 minutes. (29.66 mmol) of 1,2,3,4-cyclobutanetretracarboxilic acid dianhydride were added to the solution. The mixture was stirred at 0 ℃ for two hours and then at rt for 3 hours. The reaction gave the polyamic acid precursor having a viscosity of 0.4dL/g. 」(43頁13行~45頁2行)
(実施例28:
下記の表に示されている化合物(II)の95重量%及び下記の表に示されている光反応性化合物(II)の5重量%から構成されるブレンド1を調製した。ブレンド1をシクロペンタノンに溶解して2重量%にし,室温で1時間半撹拌した。
インジウムスズ酸化物(ITO)被覆ガラスプレートを基板として使用した。シクロペンタノン中に固形含有量の2重量%を有するブレンド1の溶液をスピンコーティングすることによって,乾燥厚がおよそ60nmの配向層を,2000rpmで60秒間の回転パラメーターにより調製した。続いて配向層をホットプレートにより180℃の温度で10分間熱処理した。その後,光配向層を直線偏光UVB光線(波長280~320nm)に垂直に暴露した。150mJ/cm2の線量を3mW/cm2の強度で適用した。次の工程において,配合物M1(実施例1)のシクロペンタノン中の溶液25重量%を,機能化光配向層の上に800rpmで60秒間の回転パラメーターでスピンコーティングした。およそ800nmの乾燥膜厚をこの方法により達成した。次にホットプレートによる40℃の温度での熱処理を10分間実施した。
(審決注:表中の記載の訳)
Photoreactive compound (II)(光反応性化合物(II))
Compounds (II)(化合物(II))
prepared as described in example 9 and 18 of WO 07/071091(WO07/071091の例8及び18に記載されたように調製した)
化合物(II)は,例えば重合工程:ポリアミド酸の形成のような,当該技術に既知の方法と同様にして調製した:
(30.26mmol)の4,4’-ジアミノジフェニル誘導体(4,4’-ジアミノジフェニルメタン,4,4’-ジアミノジフェニルチオエーテル,4,4’-ジアミノジフェニルエーテル,4,4’-ジアミノジフェニルグルタル酸エステル)を,71mLの1-メチル-2-ピロリドン(NMP)で可溶化した。混合物を0℃で10分間冷却した。(29.66mmol)の1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物を溶液に加えた。混合物を0℃で2時間,次に室温で3時間撹拌した。反応は,0.4dL/gの粘度を有するポリアミド酸前駆体を与えた。)
イ 甲1発明
(ア)甲1の上記記載によれば,甲1の表に記載された化合物IIの「a)」は,1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物と4,4’-ジアミノジフェニルエーテルとを反応させて得たポリアミド酸であると解される。
(イ)したがって,甲1には,実施例28として,次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
「国際公開第07/071091号の実施例9及び18に記載されているように調製した光反応性化合物1)を含む光反応性化合物(II)の5重量%と,1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物と4,4’-ジアミノジフェニルエーテルとを反応させて得たポリアミド酸である化合物a)を含む化合物(II)の95重量%とを含む,液晶の配向のための光配向組成物。」
(2)甲3
ア 甲3には,次の事項が記載されている。
「EXAMPLE 9
Polymersiation Step A (formation of the Polyamic Acid)
2.25 g (11.47 mmol) of 1,2,3,4-cyclobutantetracarboxylic acid dianhydride is added to a solution of 8.030 g (12.77 mmol) of 6-{[((2E)-3-{4-[(4-(4,4,4- trifluorobutoxy)benzoyl)oxy]phenyl}prop-2-enoyl)oxy]}hexyl 3,5-Diaminobenzoate in 56.0 ml of tetrahydrofuran. Stirring is then carried out at 0℃ for 2 hours. Then another 0.255 g (1.30 mmol) of 1,2,3,4-cyclobutantetracarboxylic acid dianhydride are added. The mixture is subsequently allowed to react for 21 hours at room temperature. The polymer mixture is diluted with 56 ml THF, precipitated into 2000 ml diethyl ether and collected by filtration. The polymer is reprecipitated form THF (160 ml) into 3500 ml water to yield, after drying at room temperature under vacuum, 9.42 g of Polyamic Acid 1 in the from of a white powder; [η] = 0.50 dL/g
Analogous to EXAMPLE 9the following diamines are used for the preparation of Polyamic Acid with 1,2,3,4-cyclobutantetracarboxylic acid dianhydride
・・・
2-(2,4-Diaminophenyl)ethyl (2E) 3-{4-[(4-(4,4,4-trifluorobutoxy)benzoyl)oxy]phenyl} acrylate
yield Polyamic acid 17 as white powder; [η] = 0.50 dL/g 」(115頁29行~120頁末行)
(例9
重合工程A(ポリアミック酸の形成)
1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物2.25g(11.47mmol)を,テトラヒドロフラン56.0ml中の6-{[((2E)-3-{4-[(4-(4,4,4-トリフルオロブトキシ)ベンゾイル)オキシ]フェニル}プロパ-2-エノイル)オキシ]}ヘキシル3,5-ジアミノベンゾアート8.030g(12.77mmol)の溶液に加えた。次に撹拌を0℃で2時間行った。次にさらに1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物0.255g(1.30mmol)を加えた。次に混合物を室温で21時間反応させた。ポリマー混合物をTHF56mlで希釈し,ジエチルエーテル2000mlで沈殿させ,濾過により回収した。ポリマーを水3500mlでTHF(160ml)から沈殿させ,真空下,室温で乾燥後,ポリアミック酸1 9.42gを白色の粉末の形態で得た;[η]=0.50dL/g
例9と同様にして,ポリアミック酸の調製のため,以下のジアミンを1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物とともに使用した。
・・・
2-(2,4-ジアミノフェニル)エチル(2E)3-{4-[(4-(4,4,4-トリフルオロブトキシ)ベンゾイル)オキシ]フェニル}アクリラート
・・・
は,ポリアミック酸17を白色の粉末として生成した;[η]=0.50dL/g)
「EXAMPLE 18
Polymerisation Step B (Formation of the Polvimide)
0.50 g of Polyamic Acid No. 1 obtained in above EXAMPLE 9 are dissolved in 3 ml of 1-methyl-2-pyrrolidon (NMP). Thereto are added 0.28 g (3.57 mmol, 4 equivalent) of pyridine and 364 mg (3.57 mmol, 4 equivalent) acetic acid anhydride, and the dehydration and ring closure is carried out at 80 ℃ for 2 h. The polymer mixture is diluted with 1.5 ml NMP, precipitated into 100 ml diethyl ether and collected by filtration. The polymer is reprecipitated from THF (10 ml) into 200 ml water to yield, after drying at room temperature under vacuum, 0.55 g Polyimide No 1 ; [η] = 0.50 dL/g, Imidization degree ID=100%
Analogous to the polymerization step of EXAMPLE 18 the following polyamic acids are used for the preparation of partially imidizated polyimide. The imidization degree is adjusted with the ratio of acetic acid anhydride and pyridine.
・・・
Polyamic acid 17 yield Polyimide 17 as white powder; [η] = 0.29 dL/g, ID=100%」(129頁22行~130頁21行)
(例18
重合工程B (ポリイミドの形成)
上記実施例9で得たポリアミック酸No.1 0.50gを,1-メチル-2-ピロリドン(NMP)3mlに溶解した。それに,ピリジン0.28g(3.57mmol,4当量)および無水酢酸364mg(3.57mmol,4当量)を加え,脱水および閉環を80℃で2時間行った。ポリマー混合物をNMP1.5mlで希釈し,ジエチルエーテル100mlに沈殿させ,濾過により回収した。ポリマーをTHF(10ml)から水200ml中で再沈殿させ,室温で,真空下で乾燥後,ポリイミドNo 1 0.55gを得た;[η]=0.50dL/g,イミド化度ID=100%
【0416】
実施例18の重合工程と同様にして,以下のポリアミック酸を部分的にイミド化したポリイミドの調製に使用した。イミド化度を無水酢酸およびピリジンの比で調整した。
【0417】
・・・
ポリアミック酸17は,ポリイミド17を白色の粉末として生成した;[η]=0.29dL/g,ID=100%)
イ 上記アの実施例9及び実施例18の記載から,甲3には,次の発明(以下「甲3発明」という)が記載されていると認められる。
「1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物 と2-(2,4-ジアミノフェニル)エチル(2E)3-{4-[(4-(4,4,4-トリフルオロブトキシ)ベンゾイル)オキシ]フェニル}アクリラート(以下「甲1ジアミン」という。)とを反応させて得たポリアミック酸をさらにイミド化して得た化合物。」
(3)甲5
ア 甲5には,次の事項が記載されている。
「
」(31頁,スキーム1の最終生成物)
「実施例7
テトラカルボン酸二無水物として2,3,5-トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物4.5g(0.02モル)およびジアミンとして化合物(3A-1)10g(0.02モル)をN-メチル-2-ピロリドン44gに溶解し(反応濃度25重量%),室温で5日間反応を行うことにより,ポリアミック酸(CPA-1)を含有する溶液を得た。得られたポリアミック酸溶液を少量分取し,N-メチル-2-ピロリドンを加えてポリアミック酸濃度10重量%の溶液として測定した溶液粘度は27mPa・sであった。」(44頁14~21行)
「<他のポリアミック酸の合成例>
合成例1
テトラカルボン酸二無水物としてピロメリット酸二無水物109g(0.50モル)および1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物98g(0.50モル)ならびにジアミンとして4,4-ジアミノジフェニルエーテル200g(1.0モル)をN-メチル-2-ピロリドン230gおよびγ―ブチロラクトンからなる混合溶媒に2,060gに溶解し,40℃で3時間反応を行った後,γ―ブチロラクトン1,350gを追加することにより,ポリアミック酸(PA-1)を10重量%含有する溶液約3,800gを得た。この溶液の溶液粘度は200mPa・sであった。」(45頁16行~46頁4行)
「<液晶配向剤の調製>
実施例14
上記式(1)または(2)で表される基を有する重合体として上記実施例7で得たポリアミック酸(CPA-1)を含有する溶液の(CPA-1)に換算して100重量部に相当する量と,他の重合体として上記合成例1で得たポリアミック酸(PA-1)を含有する溶液の(PA-1)に換算して400重量部に相当する量とを合わせ,これにγ―ブチロラクトン,1-メチル-2-ピロリドンおよびブチルセロソルブを加え,溶媒組成がγ-ブチロラクトン/1-メチル-2-ピロリドン/ブチルセロソルブ=20/30/50(重量比),固形分濃度が3.0重量%の溶液とした。
この溶液を孔径1μmのフィルターで濾過することにより,液晶配向剤A-1を調製した。」(47頁25行~46頁8行)
イ したがって,甲5には,実施例14として,次の発明(以下「甲5発明」という。)が記載されていると認められる。
「テトラカルボン酸二無水物として2,3,5-トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物およびジアミンとして化合物(3A-1)
を反応させて得たポリアミック酸(CPA-1)と,テトラカルボン酸二無水物としてピロメリット酸二無水物および1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物ならびにジアミンとして4,4-ジアミノジフェニルエーテルを反応させて得たポリアミック酸(PA-1)とを含む,液晶配向剤A-1。」
4 判断
(1)取消理由通知に記載した取消理由について
ア 理由1(特許法第29条第1項第3号)について
訂正発明1と甲1発明とを対比する。
甲1発明における「液晶の配向のための光配向組成物」は,「液晶配向剤」という概念で,訂正発明1における「液晶配向剤」と共通する。
甲1の表1に記載された光反応性化合物1)の構造式はポリイミドを表していること,及び上記3(2)の甲3の実施例18の記載を踏まえると,甲1発明における「光反応性化合物1)」は,「1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物」と「甲1ジアミン」とを反応させて得たポリアミック酸をさらにイミド化して得た化合物であると解される。
ここで上記の甲1ジアミンの光反応性構造(すなわち,甲1ジアミンの構造のうち,(2,4-ジアミノフェニル)エチル基を除いた部分)は,訂正発明1における式(A-2-1)中,
dを1,
e,fを0,
iを0,
jを1,
XIIIを-O-,
RIを水素原子の一部はフッ素原子で置換されていてもよい炭素数4のアルキル基
とした構造に相当する。
さらに,甲1発明における光反応性化合物1)を合成するための「1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物」は,訂正発明1における「式(G)」で表される化合物ではない。
そうすると,甲1発明における「国際公開第07/071091号の実施例9及び18に記載されているように調製した光反応性化合物1)を含む光反応性化合物(II)」と,訂正発明1における(A)の「テトラカルボン酸二無水物と,光反応性構造を有するジアミン・・・を含むジアミンとを反応させて得られるポリアミック酸A」とは,訂正発明1における式(A-2-1)で表される構造の光反応性構造を有する化合物である点で共通する。
甲1発明における「1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物と4,4’-ジアミノジフェニルエーテルとを反応させて得たポリアミド酸である化合物(II)a)」は,訂正発明1における(B)のテトラカルボン酸二無水物の選択肢の一つである「1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物」と,同じくジアミンの選択肢の一つである「4,4’-ジアミノジフェニルエーテル」とを反応させて得られるポリアミック酸B(ただし,上記ポリアミック酸Aは除く)」に相当する。
甲1発明において,「1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物と4,4’-ジアミノジフェニルエーテルとを反応させて得たポリアミド酸である化合物a)」は,「国際公開第07/071091号の実施例9及び18に記載されているように調製した光反応性化合物1)」とは異なる化合物である。
したがって,訂正発明1と甲1発明とは,次の点で一致する。
[一致点]
「(A)テトラカルボン酸二無水物と,光反応性構造を有するジアミンを含むジアミンとを反応させて得られる化合物および
(B)テトラカルボン酸二無水物としての1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物と,4,4’-ジアミノジフェニルエーテルを反応させて得られるポリアミック酸B(ただし,上記ポリアミック酸Aは除く)を含有する液晶配向剤であって,
前記ポリアミック酸Aの有する光反応性構造が下記式(A-2-1)
【化2】
dを1,
e,fを0,
iを0,
jを1,
XIIIを-O-,
RIを水素原子の一部はフッ素原子で置換されていてもよい炭素数4のアルキル基
(式(A-2-1)中,dは1,eは0の整数であり,fは0の整数であり,
RIは,水素原子の一部または全部はフッ素原子で置換されていてもよい炭素数4のアルキル基であり,
XIIIは,-O-であり,
iは0の整数であり,
jは1であり,そして
「+」は,それぞれ,結合手であることを示す。)
で表される構造であり,
ただし,
上記光反応性構造が上記式(A-2-1)で表される構造であるときには,ポリアミック酸Aを合成するためのテトラカルボン酸二無水物が下記式(G)
【化14】
で表される化合物である場合を除く,前記液晶配向剤。」
そして,両者は次の点で相違する。
[相違点1-1]
光反応性構造を有するジアミンを含むジアミンについて,訂正発明1においては,光反応性構造を有するジアミンを「50~99モル%を含む」と特定され,さらに,「光反応性構造を有するジアミン50~99モル%以外のその他のジアミンが3,5-ジアミノ安息香酸コレスタニルまたは1-コレスタニルオキシ-2,4-ジアミノベンゼンであり」と特定されているのに対し,甲1発明においてはこれらの特定がない点。
[相違点1-2]
(A)のテトラカルボン酸二無水物と,光反応性構造を有するジアミンを含むジアミンとを反応させて得られる化合物について,訂正発明1においては「ポリアミック酸」と特定されているのに対し,甲1発明における「光反応性化合物1)」は,前記したとおりポリアミック酸をさらにイミド化して得た化合物であると解されるところ,その光反応性化合物1)を含む「光反応性化合物(II)」が「ポリアミック酸」といえるか不明な点。
[相違点1-3]
(A)と(B)の2種類のポリアミック酸の含有量について,訂正発明1においては,(A)のポリアミック酸Aが「20~70重量%」で,(B)のポリアミック酸Bが「80~30重量%」と特定されているのに対し,甲1発明においては,(A)のポリアミック酸に相当する光反応性化合物(II)が「5重量%」で,(B)のポリアミック酸に相当する化合物(II)が「95重量%」である点。
まず,上記相違点1-1が実質的な相違点であるか検討する。
光反応性構造を有するジアミンを含むジアミンについて,光反応性構造を有するジアミンに加えて,「3,5-ジアミノ安息香酸コレスタニル」又は「1-コレスタニルオキシ-2,4-ジアミノベンゼン」を用いることは,甲1には記載も示唆もされていないし,技術常識であるとも認められない。
したがって,上記相違点1は実質的な相違点であると認められる。
よって,相違点1-2及び1-3について検討するまでもなく,訂正発明1は甲1発明と同一とはいえない。
訂正発明2ないし4は,訂正発明1を引用して特定されており,訂正発明1の発明特定事項をすべて備えている。
したがって,訂正発明2ないし4も,訂正発明1と同様に,甲1発明と同一とはいえない。
イ 理由2(特許法第29条第2項)について
(ア)甲1を主たる引用例として
上記相違点1-1に係る訂正発明1の構成が,当業者が容易に想到し得るものといえるか検討する。
上記のとおり,光反応性構造を有するジアミンを含むジアミンについて,光反応性構造を有するジアミンに加えて,「3,5-ジアミノ安息香酸コレスタニル」又は「1-コレスタニルオキシ-2,4-ジアミノベンゼン」を用いることは,甲1には記載も示唆もされていないし,技術常識であるとも認められない。
甲3には,前記した甲3発明におけるように,光反応性構造を有するジアミンである甲1ジアミンと,テトラカルボン酸二無水物である1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物 とを反応させてポリアミック酸を得ることが記載されているが,光反応性構造を有するジアミンとともに「3,5-ジアミノ安息香酸コレスタニル」又は「1-コレスタニルオキシ-2,4-ジアミノベンゼン」を用いることについては記載も示唆もされていない。
したがって,甲1発明において,光反応性構造を有するジアミンを含むジアミンについて,光反応性構造を有するジアミンに加えて,「3,5-ジアミノ安息香酸コレスタニル」又は「1-コレスタニルオキシ-2,4-ジアミノベンゼン」を用い,相違点1-1に係る訂正発明1の構成とすることは,甲3を参照しても当業者が容易に想到し得るものとはいえない。
よって,相違点1-2及び1-3について検討するまでもなく,訂正発明1は甲1発明と甲3に記載された発明とに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
訂正発明2ないし4は,訂正発明1の発明特定事項をすべて備えているから,訂正発明2ないし4も,訂正発明1と同様に,甲1発明と甲3に記載された発明とに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(イ)甲5を主たる引用例として
訂正発明1と甲5発明とを対比する。
甲5発明における「液晶配向剤A-1」は,「液晶配向剤」との概念で,訂正発明1における「液晶配向剤」と共通する。
甲5発明における「2,3,5-トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物」は,訂正発明1における(A)の「テトラカルボン酸二無水物」に相当する。
甲5発明における「ポリアミック酸(CPA-1)」と,訂正発明1における「ポリアミック酸A」は,「テトラカルボン酸二無水物と,光反応性構造を有するジアミンを含むジアミンとを反応させて得られるポリアミック酸」である点で共通する。
甲5発明における「テトラカルボン酸二無水物としてピロメリット酸二無水物および1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物ならびにジアミンとして4,4-ジアミノジフェニルエーテルを反応させて得たポリアミック酸(PA-1)」は,訂正発明1における(B)の「テトラカルボン酸二無水物」の選択肢の一つである「1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物とピロメリット酸二無水物」と,ジアミンのの選択肢の一つである「4,4’-ジアミノジフェニルエーテル」を「反応させて得られるポリアミック酸B(ただし,上記ポリアミック酸Aは除く)」に相当する。
甲5発明において,「ポリアミック酸(CPA-1)」及び「ポリアミック酸(PA-1)」の含有量は,それぞれ「100重量部」及び「400重量部」であり,含有比率で表すとそれぞれ「20重量%」及び「80重量%」である。したがって,甲5発明における「ポリアミック酸(CPA-1)」及び「ポリアミック酸(PA-1)」のそれぞれの含有比率は,訂正発明1における「ポリアミック酸A」及び「ポリアミック酸B」のそれぞれの含有比率と「20重量%」及び「80重量%」という数値で一致する。
甲5発明における「化合物(3A-1)」は,化学式からみて「光反応性構造を有するジアミン」であることは明らかであるが,その光反応性構造は,訂正発明1における式(A-2-1)及び(A-2-2)で表される構造のいずれにも該当しない。
したがって,訂正発明1と甲5発明は,次の点で一致する。
[一致点]
「(A)テトラカルボン酸二無水物と,光反応性構造を有するジアミンを含むジアミンとを反応させて得られるポリアミック酸Aを20重量%,および
(B)テトラカルボン酸二無水物としての1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物とピロメリット酸二無水物と,4,4’-ジアミノジフェニルエーテルを反応させて得られるポリアミック酸B(ただし,上記ポリアミック酸Aは除く)を80重量%で含有する液晶配向剤。」
そして,両者は次の点で相違する。
[相違点5-1]
光反応性構造を有するジアミンを含むジアミンについて,訂正発明1においては,光反応性構造を有するジアミンを「50~99モル%を含む」と特定され,さらに,「光反応性構造を有するジアミン50~99モル%以外のその他のジアミンが3,5-ジアミノ安息香酸コレスタニルまたは1-コレスタニルオキシ-2,4-ジアミノベンゼンであり」と特定されているのに対し,甲5発明においてはこれらの特定がない点。
[相違点5-2]
光反応性構造について,訂正発明1においては,「式(A-2-1)および(A-2-2)」「のそれぞれで表される構造から選択される少なくとも1種の構造で表される構造であり」と特定されているのに対し,甲5発明における「化合物(3A-1)」の光反応性構造は当該構造を有していない点。
上記相違点5-1に係る訂正発明1の構成が,当業者が容易に想到し得るものといえるか検討する。
光反応性構造を有するジアミンを含むジアミンについて,光反応性構造を有するジアミンに加えて,「3,5-ジアミノ安息香酸コレスタニル」又は「1-コレスタニルオキシ-2,4-ジアミノベンゼン」を用いることは,甲5には記載も示唆もされていないし,技術常識であるとも認められない。
甲3には,前記した甲3発明におけるように,光反応性構造を有するジアミンである甲1ジアミンと,テトラカルボン酸二無水物である1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物 とを反応させてポリアミック酸を得ることが記載されているが,光反応性構造を有するジアミンとともに「3,5-ジアミノ安息香酸コレスタニル」又は「1-コレスタニルオキシ-2,4-ジアミノベンゼン」を用いることについては記載も示唆もされていない。
したがって,甲5発明において,光反応性構造を有するジアミンを含むジアミンについて,光反応性構造を有するジアミンに加えて,「3,5-ジアミノ安息香酸コレスタニル」又は「1-コレスタニルオキシ-2,4-ジアミノベンゼン」を用い,相違点5-1に係る訂正発明1の構成とすることは,甲3を参照しても当業者が容易に想到し得るものとはいえない。
よって,相違点5-2について検討するまでもなく,訂正発明1は甲5発明と甲3に記載された発明とに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
訂正発明2ないし4は,訂正発明1の発明特定事項をすべて備えているから,訂正発明2ないし4も,訂正発明1と同様に,甲5発明と甲3に記載された発明とに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
ウ 理由3(特許法第36条第4項第1号及び第6項第1号)について
(ア)本件特許の明細書又は特許請求の範囲の記載の不備について,取消理由通知に記載した点の要旨は次のとおりである。
1 本件発明の課題と解決手段について
本件発明が解決しようとする課題は,「光配向法によって良好なプレチルト特性を得ることができ,しかも長時間連続駆動した場合であっても表示性能の劣化を来たさない液晶配向膜を与える液晶配向剤を提供すること」及び「印刷性に優れた液晶配向剤を提供すること」(本件明細書【0006】)である。しかしながら,本件明細書の記載は以下の情報の開示が十分でないから,本件発明1ないし4の範囲まで,発明の詳細な説明の記載を拡張又は一般化することはできないし,本件発明1ないし4を過度の試行錯誤なく実施することができない。
a)合成例1~31(【0070】,表1)及び比較合成例1~15(【0071】,表2)には,得られたポリマーの構造,ポリマー鎖中の光反応性部分の分布や量についての記載はない(特に2種のアミンを使用している場合)。
b)実施例35~65(【0089】)及び比較実施例18~32(【0090】)では,液晶配向性,電圧保持率,プレチルト角および残存DC電圧についての検討は成されていない。
c)印刷性の評価の基準が明確でない。
2 「光反応性構造」について
本件明細書には,本件発明1ないし4の式(A-2-1)及び(A-2-2)のA2,XII及びRIIIを有する光反応性構造を有するジアミンは具体例が記載されておらず,本件発明1ないし4の式(A-2-1)及び(A-2-2)は,実施例により具体的に裏付けられていない非常に多くの実施形態を含むものである。したがって,当業者は,本件発明1ないし4で特定された光反応性構造を有するポリアミック酸全般にわたり,本件発明の課題を解決できることを推認することができないし,本件発明1ないし4を過度の試行錯誤なく実施することができない。
3 「ポリアミック酸B」について
本件明細書において,実施例で使用された「ポリアミック酸B」は「OPA-2」のみである。したがって,本件発明1ないし4の「ポリアミック酸B」として,「OPA-2」以外を使用する態様まで,発明の詳細な説明の記載を拡張又は一般化することはできない。
4 液晶配向剤中の光反応性構造,ポリアミック酸A及びポリアミック酸Bの量について
本件明細書に記載された実施例は,いずれも光反応性構造を有するジアミンを非常に多量に含んでいる。したがって,液晶配向剤中の光反応性構造又はポリアミック酸の量が何ら規定されていない本件発明1ないし4の範囲まで,発明の詳細な説明の記載を拡張又は一般化することはできないし,本件発明1ないし4を過度の試行錯誤なく実施することができない。
(イ)理由3についての判断
上記(ア)1ないし4について検討する。
1 本件発明の課題と解決手段について
ポリアミック酸を含有する液晶配向剤の技術分野において,出発物質の重量,溶液中のジアミン及びテトラカルボン酸二無水物の合計重量の濃度,反応温度および時間並びに得られた溶液の粘度が記載されていれば,当業者の技術常識に基づいて,その粘度に相当する重合度のポリアミック酸が得られることは十分に理解することができ,また光反応性部分の分布や量は使用するジアミンの種類や量に依存することも十分に理解することができるといえる。そうすると,液晶配向剤の具体的組成及びそれと関連する技術的課題との関係もまた本件明細書の表2に記載された上記出発物質の重量等の情報に基づいて当業者が容易に理解することができるといえる。
したがって,本件明細書の発明の詳細な説明の記載は,訂正発明1ないし4を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載したものであるといえる。
本件明細書の実施例35~65で印刷性が評価されているポリアミック酸(PA-1)~(PA-31)についての,液晶配向性,電圧保持率,プレチルト角および残留DC電圧については,実施例1~34において評価されている(表3参照)。比較実施例18~32で印刷性が評価されているポリアミック酸(PR1-1)~(PR1-15)についての,液晶配向性,電圧保持率,プレチルト角および残留DC電圧については,比較例1~17において評価されている(表4参照)。したがって,これら液晶配向剤の具体的組成により,訂正発明1ないし4によって発明の課題が解決できることを当業者は確認することができる。
本件明細書には,印刷性を評価する方法として,段落【0088】に,「この塗膜を倍率20倍の顕微鏡で観察して印刷ムラおよびピンホールの有無を調べたところ,印刷ムラおよびピンホールとも観察されず,印刷性は良好であった。」と記載され,印刷性は印刷ムラとピンホールの有無とを基準として評価されたことが記載されている。すなわち,顕微鏡下で観察して印刷ムラとピンホールが観察されないときには,印刷性が良好である,と評価され,これに対し,印刷ムラとピンホールの両方が観察される場合には,比較例18~33に記載されているように印刷性は不良と評価されることが理解される。このように,本件発明では,印刷ムラの存在を問題にしていることが理解されるので,印刷性の評価の基準が明確でないとはいえない。
また,上記したところから明らかなとおり,訂正発明1ないし4は,発明の詳細な説明に記載した実施例1~65の具体例(ただし,訂正によって参考例となった実施例16,20~30,51~61を除く。)により,裏付けられているといえる。
したがって,訂正発明1ないし4の範囲まで,発明の詳細な説明の記載を拡張又は一般化することはできないともいえないし,本件発明1ないし4を過度の試行錯誤なく実施することができないともいえない。
2 「光反応性構造」について
訂正によって,式(A-2-1)及び式(A-2-2)の変数fおよび1がいずれも「0の整数」と訂正されたので,訂正発明1ないし4は,A2,XII及びRIIIを持つ光反応性構造を有するジアミンを用いる態様をもはや包含しない。
したがって,訂正発明1ないし4について,発明の課題を解決できることを推認することができないともいえないし,訂正発明1ないし4を過度の試行錯誤なく実施することができないともいえない。
3 「ポリアミック酸B」について
本件明細書に記載された実施例1~15,17~19,31~34と従来の液晶配向剤である比較例1~17とを表3(段落【0085】,【0086】)と表4(段落【0087】)に記載された,表示性能(液晶配向性,電圧保持率,プレチルト角および残留DC電圧)について比較すると,残留DC電圧を除く表示性能は,実施例1~15,17~19,31~34と比較例1~17とで大きな違いはない。
一方,実施例35~50,62~65と比較例18~33とを比較すると,段落【0088】~【0091】に記載されているとおり,実施例35~50,62~65では,印刷ムラおよびピンホールが観察されず,印刷性が良好であるのに対し,比較例18~33では,印刷ムラおよびピンホールが観察され,印刷性が不良であることが理解される。
以上の実施例及び比較例はいずれもポリアミック酸Bとして「OPA-2」が用いられており,このことから,本件発明の液晶配向剤の優れた印刷性は,主に,光反応性構造を有するジアミンを用いたポリアミック酸Aの性能に依存することが理解される。そして,このようなポリアミック酸Aと併用されるポリアミック酸Bについては,その使用割合がプレチルト角耐光性と残留DC電圧に影響することが段落【0047】に記載されている。
上記の実施例ではいずれもポリアミック酸Bとして,OPA-2が用いられているが,ポリアミック酸Bが本件発明の課題のうちの「印刷性」に大きく影響するものではなく,またその使用割合を調製することによってプレチルト角耐光性と残留DC電圧を良好に維持することができることが段落【0047】の記載から理解できるから,実施例ではポリアミック酸BとしてOPA-2が用いられているだけであるものの,当業者は本件明細書の全体の開示および技術常識を勘案して,ポリアミック酸BとしてOPA-2以外のポリアミック酸Bを用いても当業者が本件発明の課題を解決できることを理解することができるといえる。
したがって,ポリアミック酸Bについて,訂正発明1ないし4の範囲まで,発明の詳細な説明の記載を拡張又は一般化することはできないとはいえない。
4 液晶配向剤中の光反応性構造,ポリアミック酸Aおよびポリアミック酸Bの量について
訂正によって,訂正発明1において,ポリアミック酸Aのジアミンとして,光反応性構造を有するジアミンが「50~99モル%」用いられること,及びポリアミック酸Aの使用割合が「20~70重量%」であることが特定された。
このように,訂正発明1では,液晶配向剤中の光反応性構造の量およびポリアミック酸Aとポリアミック酸Bの量が特定されている。
したがって,訂正発明1ないし4の範囲まで,発明の詳細な説明の記載を拡張又は一般化することはできないともいえないし,訂正発明1ないし4を過度の試行錯誤なく実施することができないともいえない。
上記のとおりであるから,本件特許が,特許法第36条第4項第1号及び同法第36条第6項に規定する要件を満たしていないとはいえない。
(2)取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
申立人は,本件発明1は,物の発明であるところ,「・・・反応させて得られる」との特定を含んでいるから,いわゆる「プロダクト・バイ・プロセスクレーム」であるとし,本件発明1ないし4は不明確であり,特許法第36条第6項第2号の要件を満たさないと主張している。
しかしながら,訂正発明1における「テトラカルボン酸二無水物と,光反応性構造を有するジアミン・・・を含むジアミンとを反応させて得られるポリアミック酸A」との記載,及び「テトラカルボン酸二無水物としての1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物,または1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物とピロメリット酸二無水物と,2,2’-ジメチル-4,4’-ジアミノビフェニル,p-フェニレンジアミン,4,4’-ジアミノジフェニルメタン,4,4’-ジアミノジフェニルエーテルよりなる群から選択される少なくとも1種のジアミンを反応させて得られるポリアミック酸B(ただし,上記ポリアミック酸Aは除く)」との記載は,いずれも単に反応後の状態を示すことによりポリアミック酸A及びポリアミック酸Bの構造を特定しているに過ぎないものと認められ,「その物の製造方法が記載されている場合」に該当しない。
そして,上記の記載によって特定される「ポリアミック酸A」及び「ポリアミック酸B」の構造は,明確に把握できる。
したがって,申立人の上記主張は採用できない。
第4 むすび
以上のとおりであるから,取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては,本件請求項1ないし4に係る特許を取り消すことはできない。
また,他に本件請求項1ないし4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり決定する。
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2016-700531