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特許異議申立

2016-700446

高粘度感熱インクによる印刷方法

審判番号
2016-700446
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2012-519758外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
請求日
2016年05月17日
審決日
2017年12月18日
公報発行日
2018年06月29日
結論
請求成立(取消)
当事者
審判長/審判官
分類
P1651.536-ZB (B41M) / P1651.537-ZB (B41M) / P1651.121-ZB (B41M)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第36条、特許法第113条、特許法第184条の3第1項、特許法第120条の5第7項、特許法第29条
データ出所
審決公報(SGML)

事件の表示

特許第5822828号発明「高粘度感熱インクによる印刷方法」の特許異議申立事件について,次のとおり決定する。

結論

【結 論】 特許第5822828号の請求項1ないし9に係る特許を取り消す。

理由

【理 由】 第1 事案の概要 1 手続の経緯 特許第5822828号の請求項1-請求項9に係る特許(以下「本件特許」という。)についての特許出願(特願2012-519758号として)は,特許法184条の3第1項の規定により2010年7月9日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2009年7月10日 米国)に出願されたものとみなされ,平成27年10月16日に特許権の設定の登録がされたものである。 本件特許について,平成27年11月24日に特許掲載公報が発行されたところ,発行の日から6月以内である平成28年5月17日に,特許異議申立人 柏木里美から特許異議の申立てがされた(異議2016-700446号)。 その後の手続の経緯の概要は,以下のとおりである。 平成28年 9月 7日付け:取消理由通知書 平成28年12月12日付け:訂正請求書 (この訂正請求書による訂正の請求を,以下「先にした訂正の請求」という。) 平成28年12月12日付け:意見書(特許権者) 平成29年 1月12日付け:意見書(特許異議申立人) 平成29年 2月24日付け:取消理由通知書(決定の予告) 平成29年 5月30日付け:訂正請求書 平成29年 5月30日付け:意見書(特許権者) 平成29年 6月28日付け:意見書(特許異議申立人) 平成29年 8月23日付け:手続補正書 (この手続補正書(以下「手続補正書」という。)によって補正された後の訂正請求書による訂正の請求を,以下「本件訂正請求」といい,本件訂正請求による訂正を「本件訂正」という。) 平成29年 9月11日付け:訂正拒絶理由通知書 平成29年11月 2日付け:意見書(特許権者) なお,本件訂正請求がされたため,特許法120条の5第7項の規定により,先にした訂正の請求は,取り下げられたものとみなされた。 2 証拠 (1) 特許異議申立人が提出した証拠は以下のとおりである。 甲1:特開平10-330661号公報 甲2:米国特許第5642141号明細書 甲3:大木道則他,「化学大事典」,東京化学同人,1989年10月20日(第1版),638頁 (当合議体注:グリセリンの沸点が記載されている。) 甲4:"ウィキペディア",「グリセリン」,[online],2016年4月9日(最終更新日),[2016年4月21日検索],インターネット<URL:https://ja.wikipedia.org/wiki/グリセリン> (当合議体注:グリセリンの粘度が記載されている。なお,URLは当合議体において確認したものを表記している。) 甲5:東京理科大学理工学辞典編集委員会,「理工学辞典」,日刊工業新聞社,1996年3月28日,1339頁,1533頁 (当合議体注:「平均粒径」及び「粒度分布」について記載されている。) 甲6:特開2007-261206号公報 甲7:特開2007-161850号公報 参考資料1:長倉三郎他,「岩波 理化学辞典 第5版」,岩波書店,2001年8月20日,1506頁 (2) 特許権者が提出した証拠は以下のとおりである。 乙1:ヨーロッパ特許庁からの送付書類及び翻訳文,2014年6月23日 (当合議体注:本件特許に対応する欧州特許第2451648号の異議申立事件に関する送付書類である。) 乙2:"Wikipedia",「Filtration」,[online],2009年2月2日(最終更新日),[2016年1月28日検索],インターネット<URL:http://web.archive.org/web/20090205135246/http://en.wikipedia.org/wiki/Filtration> (当合議体注:ウェイバックマシンにより収集されたもの及び翻訳文が提出されている。) 乙3:特許第2627200号公報 乙4:ヨーロッパ特許庁からの送付書類及び翻訳文,2017年5月18日 (当合議体注:本件特許に対応する欧州特許第2451648号の異議申立事件に関する送付書類である。) 乙5:特開2008-31194号公報 乙6:特開2007-314749号公報 乙7:特表2009-503123号公報 乙8:"ウィキペディア",「限外ろ過膜」,[online],2008年8月1日(最終更新日),[2017年5月24日検索],インターネット<URL:https://ja.wikipedia.org/w/index.php?title=限外ろ過膜&oldid21037753> (当合議体注:孔の大きさが2-200nmのろ過膜が記載されている。なお,URLは当合議体において確認したものを表記している。) 乙9の1:ヨーロッパ特許庁からの送付書類,2017年5月18日 (当合議体注:本件特許に対応する欧州特許第2451648号の異議申立事件に関する送付書類である。) 乙9の2:乙9の1の翻訳文 第2 本件訂正請求について 1 訂正事項 本件訂正は,以下の訂正事項7及び訂正事項8を含むものである。なお,下線を付した箇所は訂正箇所を示す。 (1) 訂正事項7 特許請求の範囲の請求項1に「95%以上」とあるのを「95個数%以上」に訂正する。 (2) 訂正事項8 特許請求の範囲の請求項2に「95%」とあるのを「95個数%」に訂正する。 2 当合議体の判断 以下,願書に添付した特許請求の範囲及び明細書を,それぞれ「訂正前特許請求の範囲」及び「訂正前明細書」といい「訂正前明細書等」と総称する。また,本件訂正後の請求項1を「訂正後請求項1」といい,訂正後請求項1に係る発明を「訂正後発明1」という。他の請求項についても,同様とする。 (1) 訂正の内容について 訂正事項7による訂正により,訂正後発明1及び訂正後発明3-訂正後発明9の「液体インク」は,個数基準で「熱活性化固体着色剤の粒子の95%以上が0.05ミクロン以上の直径を有する」ものとなった。また,訂正事項8による訂正により,訂正後発明2-訂正後発明9の「D」は,個数基準による「全粒子サイズ分布の95%として表される粒子サイズ」となった。 そこで,訂正事項7による訂正及び訂正事項8による訂正が,訂正前明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものであるかについて,以下,検討する。 (2) 訂正前明細書等の記載 ア 訂正前特許請求の範囲の記載 「【請求項1】 熱活性化固体着色剤を使用するインクジェットプリンタによりデザインを印刷する方法であって, 液体インクを使用するインクジェットプリンタへの使用に適した液体インクを調製するステップであって,前記液体インクが,水,熱活性化固体着色剤,及び前記液体インクの15重量%以上の粘度調整剤を含み,前記液体インクが6.0センチポアズ以上の粘度を有し,前記熱活性化固体着色剤は,前記粘度調整剤に対する溶解性が低く,前記熱活性化固体着色剤の粒子の95%以上が0.05ミクロン以上の直径を有するステップと, 液体インクを印刷するインクジェットプリンタに前記液体インクを供給するステップと, 前記インクジェットプリンタによって所望の画像で前記液体インクを基材上に印刷して画像を形成するステップであって,前記熱活性化固体着色剤の前記粒子が,印刷の時点で固体であるステップと, 前記熱活性化固体着色剤を熱活性化させるステップであって,熱活性化後,X-Rite濃度計によって測定した前記画像の光学濃度が1.25以上となるステップと を含む,方法。 【請求項2】 熱活性化固体着色剤を使用するインクジェットプリンタによりデザインを印刷する方法であって, 液体インクを使用するインクジェットプリンタへの使用に適した液体インクを調製するステップであって,前記液体インクが,水,熱活性化固体着色剤,及び前記液体インクの15重量%以上の粘度調整剤を含み, 前記液体インクが6.0センチポアズ以上の粘度を有し, 前記熱活性化固体着色剤は,前記粘度調整剤に対する溶解性が低く, 前記熱活性化固体着色剤の粒子の粒子サイズ分布の上限が,前記液体インクの印刷に使用されるインクジェットプリンタのプリンタヘッドの最小オリフィスと,前記熱活性化固体着色剤の全重量の前記液体インクの全重量に対する比との両方の関数により表され,前記関数が下記式: 【数1】 (式中,Φは,前記最小オリフィスとしてのオリフィス直径(単位ミクロン)であり, Dは,全粒子サイズ分布の95%として表される粒子サイズ(単位ミクロン)であり, fは,全配合物重量に対する熱活性化固体着色剤の重量分率(<1)である。) で表されるステップと, 液体インクを印刷するインクジェットプリンタに前記液体インクを供給するステップと, 前記インクジェットプリンタによって所望の画像で前記液体インクを基材上に印刷して画像を形成するステップであって,前記熱活性化固体着色剤の前記粒子が,印刷の時点で固体であるステップと, 前記熱活性化固体着色剤を熱活性化させるステップであって,熱活性化後,X-Rite濃度計によって測定した前記画像の光学濃度が1.25以上となるステップと を含む,方法。 …(省略)… 【請求項9】 50nm未満の直径を有する前記熱活性化固体着色剤のすべての粒子が前記液体インクから排除される,請求項1~8のいずれか一項に記載の熱活性化固体着色剤を使用するインクジェットプリンタによりデザインを印刷する方法。」 イ 訂正前明細書の記載 「【技術分野】 【0001】 本出願人は,2009年7月10日に出願した米国仮出願第61/224,720号の利益を主張する。 【0002】 [発明の分野] 本発明は,熱活性化着色剤のインクジェット印刷方法,及び熱活性化着色剤を含むインクに関する。 【背景技術】 …(省略)… 【0005】 水性インクを形成する手段の1つは,高分子量天然合成ポリマー,より高粘度の水溶性又は混和性のグリコール,高級アルコールである粘度調整剤を,より高濃度の着色剤とともに,加えることである。このような単純な方法ではいくつかの問題が生じる。高分子量ポリマーを使用することによって,インクの印刷に使用されるインクジェットプリンタにおける,ニュートン流体挙動などの物理的性質の要求から逸脱した水性系が生じ得る。従って,インクの吐出機構への対応が不適当となる。より高粘度のインク用に設計されたより新しいプリントヘッド技術を使用した場合でさえも,着色剤,特に不溶性型着色剤の量を増加させて使用される高分子量ポリマーでは,プリントヘッドノズルの目詰まりが生じ得るが,その理由は,このようなプリンタは,印刷時に固体である着色剤の使用のために特に設計されたわけではないからである。 …(省略)… 【0007】 高粘度インクジェットインクは,高濃度の着色剤が存在する場合に熱活性化インクに関してさらに問題が生じ得る。インクの物理的性質を制御又は調節する物質は,高沸点,活性化温度における熱活性化染料に対する親和性,又は化合物/物質の長いポリマー鎖構造による染料粒子の取り込み/封入のために,着色剤の熱活性化効率を妨害し得る。これらの問題は,インク中に使用される着色剤の粒子サイズが非常に小さい場合により顕著になり得る。例えば,高濃度のグリセリンは,通常の熱活性化温度及び時間において,小さな染料粒子の熱活性化効率を変化させることができる。さらに,カルボキシメチルセルロース(CMC)などの増粘剤は非ニュートン系を生じさせながら,熱活性化染料の活性化又は昇華をも妨害することができる。 …(省略)… 【0016】 所望の粘度を有する水性インクジェットインクは,インク密度,微粒子のブラウン運動,及び電気伝導性などの物理的性質が変化するために,異なる安定化要求を有することができる。これらの変化は,微粒子サイズ分布形状,特に粒子サイズ分布要求の上限に影響を与える。粒子サイズ分布が正規分布モデルから実質的に逸脱しないのであれば以下の経験式を粒子サイズ分布の上限の選択に役立てることができる: 【数4】 (式中, Φは,ノズル/オリフィス直径などのプリントヘッドの内側の最も狭いインク通路(単位ミクロン)であり, Dは,全粒子サイズ分布の95%として表される粒子サイズ(単位ミクロン)であり, fは,全配合物重量に対する着色剤の重量分率(<1)である)。 例えば,35ミクロンのノズル/オリフィス直径を有するプリントヘッドは,着色剤が全重量の5%である場合に,95%分布において,0.62ミクロン以下の直径の粒子サイズを示す。この式は,プリントヘッドの内側の狭い通路を目詰まりさせないインクの製造に役立つ。 …(省略)… 【0019】 高沸点のグリコール,ポリオール,及び他の粘度調整成分が比較的高濃度であると,高沸点系が形成されて,着色剤の活性化又は昇華が非常に困難となり得る。この沸点は,染料熱活性化温度付近,又は高くても熱活性化温度の20°F以内などとすることができる。水素結合,取り込み,又は高沸点共沸系の形成のために,より小さな直径の粒子とこれらの成分と一時的又はさらには永久的な結合が形成され,活性化しないことがある。これらの成分の非極性部分の溶解性は,これらの溶媒又は物質の沸点付近の温度において,着色剤,特に着色剤微粒子の外側部分の妨害に寄与することができる。インクの「バルク」成分と接触しない着色剤粒子の内側部分のみが活性化又は昇華することができる。 【0020】 本発明の一実施形態では,十分な着色剤分子が首尾よく活性化又は昇華するように,熱活性化着色剤の微粒子サイズが限定される。 …(省略)… 【0021】 本発明の一実施形態は,着色剤微粒子に関して65%を超える熱活性化効率(K)を有する。50nm未満の直径の実質的にすべての着色剤粒子が,インクから排除される。それにより,粘度調整溶媒/共溶媒がこれらの微粒子に対して高濃度であることによって生じる低い転写効率は実質的に解消される。 …(省略)… 【実施例】 【0024】 以下の実施例は,高粘度熱活性化インクの一般的な組成を示している。 【0025】 [実施例1] ノズルサイズ35ミクロンのRicoh GelSprinterインクジェットプリンタに使用される粘度が約7.5cPのインク: 成分 分散青色染料(あらかじめ安定化) 3.5重量% グリセリン 40重量% ポリ(2-エチル-オキサゾリン) 2重量% 非イオン性界面活性剤 3.5重量% Proxel GXL 0.1重量% 他の物質 2.0重量% 脱イオン水 残分 【0026】 このインク実施例のインクは,粒子上限(95%)が0.3ミクロンであり,粒子下限が0.05ミクロンの条件で製造される。400°F及び35秒の熱活性化時間を使用して,ポリエステル布上インクを印刷した画像の転写印刷によって,X-Rite濃度計によって測定して光学濃度(シアン)が1.25以上の画像が得られる。 …(省略)…」 (3) 当合議体の判断 訂正前明細書の【0016】及び【0025】の記載からみて,訂正前明細書等における「95%」とは,全粒子サイズ分布における「95%」,すなわち,全粒子について,例えば,グラフの横軸に粒径を取り,グラフの縦軸に積算値(0-100%)を取ったときの縦軸の値に対応するものと考えられる。 しかしながら,訂正前明細書等には,上記95%が,積算値を個数基準で取ったときの95%(95個数%)なのか,積算値を体積基準で取ったときの95%(95体積%)なのか,あるいは他のものなのか,明記がなく,不明である(当合議体注:積算値を個数基準で取る場合のグラフの縦軸は,粒子の個数を積算することになり,積算値を体積基準で取る場合のグラフの縦軸は,粒子の体積を積算することになる。)。 したがって,「95%」を「95個数%」に訂正する,訂正事項7による訂正及び訂正事項8による訂正は,いずれも,訂正前明細書等に記載した範囲内においてしたものであるということができない。 (4) 特許権者の主張について ア 訂正事項7に関して,特許権者は,概略,[A]何ら限定のない「%」の表現であれば,液体インク中に存在する異なる直径を有する複数の粒子のうち,その95%以上の数の粒子が,0.05ミクロン以上の直径を有することを当然意味している,また,[B]当業者が訂正前明細書の【0007】及び【0019】-【0021】の記載に接すれば,所定の直径未満を有する粒子1つ1つを排除する上で「95%以上」の「%」が個数基準であることを当然に理解する,なぜなら,体積基準では粒子径の3乗が「95%以上」の「%」に寄与することとなるが,このような寄与の技術的意義が全く見いだせないからである,と主張する(手続補正書の10頁7行-12頁14行)。 確かに,一般の統計学的な度数分布(ヒストグラム)における縦軸は,もっぱら,頻度(例:回数,個数)であるから,何ら限定のない「%」の表現による「粒子の95%」は,一般常識により「粒子の95個数%」ということになる。しかしながら,印刷用着色粒子の発明が属する化学工学や粉体工学の技術分野における粒子サイズ分布の縦軸は,個数基準であったり体積基準等であったりするから,「粒子の95%」は,その基準に対応して「粒子の95個数%」であったり「粒子の95体積%」であったりする。 したがって,本件においては,「%」について訂正前明細書等に「体積%」か「個数%」かの明記がないことを根拠に当然に「個数%」とすることは,妥当ではない。粒子サイズ分布の「%」について,訂正前明細書等に「体積%」か「個数%」かの明記がない場合には,訂正前明細書等の他の記載を参酌し,訂正前明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる「%」の技術的意義に基づいて,「体積%」と理解するべきか「個数%」と理解するべきか推定するのが妥当と考えられる(当合議体注:「%」の技術的意義が,例えば,一般の統計学と同様のものと理解されるのならば,「個数%」と理解するのが妥当と考えられるし,「%」の技術的意義が,例えば,反応等に関与する物質の分量にあるのならば,「体積%」(質量%)と理解するのが妥当と考えられる。)。 そこで,「95%以上」という数値の技術的意義について検討する。 訂正前明細書の【0007】,【0019】-【0021】及び【0026】の記載からみて,熱活性化固体着色剤の粒子の95%以上を0.05ミクロン以上とするのは,十分な熱活性化固体着色剤が首尾良く活性化又は昇華されることにより,高い光学濃度の画像を得られるようにするためと考えられる。 ここで,高い光学濃度の画像が得られるか否かは,活性化又は昇華する熱活性化固体着色剤の「量」が十分か否かに左右されるところ,この「量」が「数」ではなく「体積」(質量)であることは,技術的にみて明らかである。すなわち,画像の光学濃度は,活性化した熱活性化固体着色剤の粒子の総体積によって決まるのであり,活性化した熱活性化固体着色剤の粒子の総数によって決まるのではない。 したがって,訂正前明細書の【0007】及び【0019】-【0021】及び【0026】の記載から「95%」の技術的意義を推定するとしても,「95%」が「95個数%」を意味するとすることはできない。 特許権者は,インク中に含まれる熱活性化固体着色剤の粒子が多数であることや粒子1つ1つのサイズが問題であることを根拠として,「95%」は「95個数%」であると主張しているようにも解される(平成29年11月2日付け意見書の3頁9行-4頁16行の主張も同旨と思われる。)。しかしながら,既に述べたとおり,粒子が多数であり,粒子1つ1つのサイズが問題であるとしても,印刷用着色粒子の発明が属する化学工学や粉体工学の技術分野においては,粒子サイズ分布における粒子の割合が「個数%」であるとは限らない。したがって,例えば,甲5の1533頁左欄20-23行には,「粒度分布には,粒子量を粒子個数で評価した個数基準の粒度分布と,粒子量を粒子質量で評価した質量基準または重量基準の粒度分布があり,明確に区別しなければならない。」と記載されている(当合議体注:「粒度分布」は「粒子サイズ分布」に対応する学術用語である。)。そして,印刷用着色粒子に関する技術に限るとしても,例えば,国際公開第2009/085140号の12頁13-14行,米国特許第6548571号明細書の13欄2-10行,国際公開第2009/022308号の23頁下から8-2行においては,「%」の基準が明示され,曖昧にならないようにされている。 なお,技術常識によれば,上記95%が「95個数%」なのか「95体積%」なのかを,その測定方法から推定できる場合もある。例えば,「95%」が電子顕微鏡でカウントしたものである旨の記載があれば,「95%」は「95個数%」と,一応,推定できる(当合議体注:国際公開2009/010140号の12頁6-14行に記載があるように,換算により体積%とされる場合もある。)。 そこで,訂正前明細書等の記載を確認すると,【0026】には,「インク実施例のインクは,粒子上限(95%)が0.3ミクロンであり,粒子下限が0.05ミクロンの条件で製造される」との記載があるから,インクを製造するために粒径が測定されたことは明らかである。しかしながら,訂正前明細書等には,測定方法に関する開示が一切ない(当合議体注:X-Rite濃度計は,光学濃度の測定器であり,粒径の測定器ではない。)。 したがって,特許権者の主張は採用できない。 イ 訂正事項8に関して,特許権者は,概略,訂正前明細書の【0005】及び【0016】を引用して,体積基準では粒子径の3乗が「95%」の「%」に寄与することとなるが,このような寄与の技術的意義が全く見いだせない,と主張する(手続補正書の14頁3行-15頁16行)。 そこで,「D」における「95%」という数値の技術的意義について,訂正前明細書等の記載を参酌する。 訂正前明細書の【0005】及び【0016】の記載からみて,Dを,全粒子サイズ分布の95%として表される粒子サイズとするのは,この粒子サイズを越える熱活性化固体着色剤が,プリントヘッドの内側の狭い通路を目詰まりさせる原因になるからと考えられる。 ここで,プリントヘッドの内側の狭い通路が目詰まりするか否かは,目詰まりの原因となる熱活性化固体着色剤が,プリントヘッドの内側の狭い通路内の空間を閉塞してしまうか否かに左右されると考えられる。したがって,プリントヘッドの目詰まりに関して問題となる「量」は,「数」ではなく「体積」と考えられる。このような理解は,【数4】において「D」が3乗で寄与していることからも推測される事項である。あるいは,インクジェット用インクによるノズル目詰まりに関する技術が記載された,特開平6-145568号公報の【請求項1】,特開平2-190337号公報の2頁右下欄2-9行,特開平1-204979号公報5頁の第1表の注釈において,粒径が体積基準に基づいて規定されていることからも,推測される事項である。 したがって,訂正前明細書の【0005】及び【0016】の記載から「95%」の技術的意義を推定するとしても,「95%」が「95個数%」を意味するとすることはできない。 したがって,特許権者の主張は採用できない。 3 まとめ 訂正事項7及び訂正事項8を含む本件訂正は,請求項1-請求項9からなる一群の請求項についてされたものである。 よって,本件訂正後の請求項1-請求項9についての訂正を,認めない。 第3 当合議体の判断 1 本件特許発明 前記「第2」のとおり,本件訂正を認めないこととなった。 したがって,本件特許の特許請求の範囲の請求項1-請求項9に係る発明(以下,それぞれ「本件特許発明1」-「本件特許発明9」といい,総称して「本件特許発明」という。)は,本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1-請求項9に記載された事項により特定されるとおりの,以下のものである。 「【請求項1】 熱活性化固体着色剤を使用するインクジェットプリンタによりデザインを印刷する方法であって, 液体インクを使用するインクジェットプリンタへの使用に適した液体インクを調製するステップであって,前記液体インクが,水,熱活性化固体着色剤,及び前記液体インクの15重量%以上の粘度調整剤を含み,前記液体インクが6.0センチポアズ以上の粘度を有し,前記熱活性化固体着色剤は,前記粘度調整剤に対する溶解性が低く,前記熱活性化固体着色剤の粒子の95%以上が0.05ミクロン以上の直径を有するステップと, 液体インクを印刷するインクジェットプリンタに前記液体インクを供給するステップと, 前記インクジェットプリンタによって所望の画像で前記液体インクを基材上に印刷して画像を形成するステップであって,前記熱活性化固体着色剤の前記粒子が,印刷の時点で固体であるステップと, 前記熱活性化固体着色剤を熱活性化させるステップであって,熱活性化後,X-Rite濃度計によって測定した前記画像の光学濃度が1.25以上となるステップと を含む,方法。 【請求項2】 熱活性化固体着色剤を使用するインクジェットプリンタによりデザインを印刷する方法であって, 液体インクを使用するインクジェットプリンタへの使用に適した液体インクを調製するステップであって,前記液体インクが,水,熱活性化固体着色剤,及び前記液体インクの15重量%以上の粘度調整剤を含み, 前記液体インクが6.0センチポアズ以上の粘度を有し, 前記熱活性化固体着色剤は,前記粘度調整剤に対する溶解性が低く, 前記熱活性化固体着色剤の粒子の粒子サイズ分布の上限が,前記液体インクの印刷に使用されるインクジェットプリンタのプリンタヘッドの最小オリフィスと,前記熱活性化固体着色剤の全重量の前記液体インクの全重量に対する比との両方の関数により表され,前記関数が下記式: 【数1】 (式中,Φは,前記最小オリフィスとしてのオリフィス直径(単位ミクロン)であり, Dは,全粒子サイズ分布の95%として表される粒子サイズ(単位ミクロン)であり, fは,全配合物重量に対する熱活性化固体着色剤の重量分率(<1)である。) で表されるステップと, 液体インクを印刷するインクジェットプリンタに前記液体インクを供給するステップと, 前記インクジェットプリンタによって所望の画像で前記液体インクを基材上に印刷して画像を形成するステップであって,前記熱活性化固体着色剤の前記粒子が,印刷の時点で固体であるステップと, 前記熱活性化固体着色剤を熱活性化させるステップであって,熱活性化後,X-Rite濃度計によって測定した前記画像の光学濃度が1.25以上となるステップと を含む,方法。 【請求項3】 前記インクジェットプリンタによって,5.0センチポアズ以上の粘度を有する液体インクが印刷される,請求項1又は2に記載の熱活性化固体着色剤を使用するインクジェットプリンタによりデザインを印刷する方法。 【請求項4】 前記粘度調整剤によって,前記液体インクの粘度が少なくとも6.0センチポアズまで増加し,ある体積の液体インク中に存在する前記粘度調整剤の重量が,前記体積の液体インク中に存在する前記熱活性化固体着色剤の重量の少なくとも3倍である,請求項1~3のいずれか一項に記載の熱活性化固体着色剤を使用するインクジェットプリンタによりデザインを印刷する方法。 【請求項5】 前記粘度調整剤がグリコールであり,前記グリコールによって,前記液体インクの粘度が少なくとも6.0センチポアズまで増加し,ある体積の液体インク中に存在する前記グリコールの重量が,前記体積の液体インク中に存在する前記熱活性化固体着色剤の重量の少なくとも3倍である,請求項1~3のいずれか一項に記載の熱活性化固体着色剤を使用するインクジェットプリンタによりデザインを印刷する方法。 【請求項6】 前記粘度調整剤によって,前記液体インクの粘度が少なくとも6.0センチポアズまで増加し,ある体積の液体インク中に存在する前記粘度調整剤の重量が,前記体積の液体インクの全重量の15~60%である,請求項1~5のいずれか一項に記載の熱活性化固体着色剤を使用するインクジェットプリンタによりデザインを印刷する方法。 【請求項7】 前記熱活性化固体着色剤の熱活性化温度が,前記粘度調整剤の沸点以下である,請求項1~6のいずれか一項に記載の熱活性化固体着色剤を使用するインクジェットプリンタによりデザインを印刷する方法。 【請求項8】 前記熱活性化固体着色剤の熱活性化温度が,前記粘度調整剤の沸点よりも20°Fを超えて高くない,請求項1~6のいずれか一項に記載の熱活性化固体着色剤を使用するインクジェットプリンタによりデザインを印刷する方法。 【請求項9】 50nm未満の直径を有する前記熱活性化固体着色剤のすべての粒子が前記液体インクから排除される,請求項1~8のいずれか一項に記載の熱活性化固体着色剤を使用するインクジェットプリンタによりデザインを印刷する方法。」 2 取消理由1(粒子の直径)について 請求項1及び請求項2には,それぞれ「前記熱活性化固体着色剤の粒子の95%以上が0.05ミクロン以上の直径を有する」及び「Dは,全粒子サイズ分布の95%として表される粒子サイズ(単位ミクロン)であり」と記載されている。また,請求項1及び請求項2には,「95%」が,個数分布における「95%」なのか,体積分布における「95%」なのか,あるいは他の基準による「95%」なのか,記載されていない。加えて,発明の詳細な説明を参照しても,請求項1及び請求項2の「95%」の記載について,定義する記載が存在しない。 しかしながら,個数分布において95%のところの粒子と,体積分布において95%のところの粒子と,他の分布において95%のところの粒子が,異なることは技術常識である。 そうしてみると,本件特許発明1の「前記熱活性化固体着色剤の粒子の95%以上が0.05ミクロン以上の直径を有する」という構成,及び本件特許発明2の「Dは,全粒子サイズ分布の95%として表される粒子サイズ(単位ミクロン)であり」という構成は,粒子の分布を個数分布と理解するか,体積基準と理解するか,他の基準と理解するかに応じて,異なる構成に解釈される。 以上のとおり,請求項1及び請求項2の「95%」という記載は,多義的な解釈が可能であるから,本件特許発明1及び本件特許発明2は,いずれも明確であるということができない。そもそも,請求項1及び請求項2には,「95%」とのみ記載され,例えば,「95個数%」などというようには記載されていないから,この点においても,本件特許発明1及び本件特許発明2は,明確であるということができない。 請求項1及び請求項2の記載を引用して記載された請求項に係る,本件特許発明3-本件特許発明9についても同様である。 この点に関し,特許権者は,平成29年5月30日付け意見書(以下「意見書」という。)において,概略,[A]個数を数えられる熱活性化固体着色剤の粒子に関し,「95%以上」と「体積%」や「重量%」と何ら限定のない「%」の表現であれば,液体インク中に存在する異なる直径を有する複数の粒子のうち,その95%以上の数の粒子が,0.05ミクロン以上の直径を有することを当然意味していると主張し,また,[B]0.05ミクロンよりも小さい粒子を係数する方法について,乙5(粒度分布計として,大塚電子製の濃厚径粒度分布径FPAR-1000(動的光散乱法による粒径アナライザー)が記載されている。),乙6及び乙7(測定出段として日本電子株式会社の透過型電子顕微鏡が記載されている。)を公知技術として挙げている(意見書14頁下から3行-17頁下から4行)。 しかしながら,インク等を含む,化学工学や粉体工学の技術分野における粒子サイズ分布の縦軸は,個数基準であったり体積基準であったりするから,「粒子の95%」は,その基準に対応して「粒子の95個数%」や「粒子の95体積%」になる(前記「第2」2(4)参照。)。また,発明の詳細な説明の記載に基づいて「95%」の技術的意義を理解すると,本件特許発明1における「95%以上」及び本件特許発明2における「95%」は,いずれも,体積基準又は質量基準による「95%」と推定される(前記「第2」2(4)参照。)。 加えて,本件特許の発明の詳細な説明の【0026】に「このインク実施例のインクは,粒子上限(95%)が0.3ミクロンであり,粒子下限が0.05ミクロンの条件で製造される。」と記載されているとおり,本件特許発明のインクを製造するためには0.05ミクロンよりも小さい粒子を測定しなければならない。しかしながら,本件特許の発明の詳細な説明には,0.05ミクロンよりも小さい粒子の測定手段が記載されていないから,当業者は,本件特許発明の方法を実施するために必要であるインクを製造する方法が判らない。 この点に関して,特許権者は,測定手段として,動的光散乱法と電子顕微鏡による観察の2つを挙げているが,前者によって測定される粒子径は拡散径であるのに対して,後者によって測定される粒子径は幾何学径である。したがって,「0.05ミクロン」それ自体が,明確であるとはいえない(製造の基準となる,本件特許発明の粒子下限値が不明である。)。 以上のとおりであるから,本件特許発明は明確であるということができない。また,本件特許の発明の詳細な説明の記載は,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるということができない。 3 取消理由7(甲1に基づく進歩性)について (1) 甲1の記載 本件特許の優先日前に頒布された刊行物である,甲1(特開平10-330661号公報)には,以下の記載がある。 ア 「【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は,インクジェット方式により布帛の捺染を行うインクジェット捺染用分散染料インク(以下単に分散染料インク,インクともいう)及びインクジェット捺染方法に関するものである。」 イ 「【0002】 【従来の技術】現在,布帛の捺染は,スクリーン捺染やローラー捺染等で行われている。これらは,染色に先だって,捺染用の版銅やスクリーン版を作成する必要がある。 【0003】版の製作は,時間と人手が掛かり,非常に高価であり,一定量以上の生産を行わないと,コスト的に引き合わない為,小規模生産や見本作り等の目的に,最近無製版の電子捺染システムが要望されている。 【0004】例えば,現行の捺染法では,注文を受けてから,最初の生産サンプルを作るまで,6~16週間も掛かる。しかし,最近の小売店は,シーズンの初め,品物の極一部だけを注文し,その後,リアルタイムのポイント オブ セールス データーを活用して,実際に売れている,スタイルや色やサイズだけを,再注文する事を望んでいる。 【0005】この為,注文サイズが著しく小さくなり,製造業者は,小さな注文をタイムリーに供給できる能力を要求される様になった。現在,染色業界やアパレル業界では,顧客の要望に迅速に対応できるクイックレスポンスが重視され,これに対し,インクジェット捺染,熱転写捺染,電子写真捺染,静電捺染,磁気捺染等,多くの無版捺染技術が提案されている。 【0006】中でも,インクジェット捺染が最も期待されている。その理由は,中間トナーやインク等の転写を必要とせず,染料を布に,直接供給できる為である。 【0007】この様に,インクジェット捺染の特徴は,高価な彫刻ロールやスクリーン型が不要になる。 【0008】型製作に要する時間が無くなるので,受注後直ちに,生産が可能になる。 【0009】また,図柄や配色の変更が容易で,ユーザーの要望に即応できる。 …(省略)… 【0012】一方,インクジェット捺染の課題は, 充分な濃度の発色を生じる ノズルを目詰まりさせない インクの分散安定性が良い インクの保存安定性が良い 過度のニジミを生じない 色再現範囲を拡げる スクリーン捺染並の品質を得る 等がある。 …(省略)… 【0020】ポリエステル布は疎水性の為,疎水性の分散染料を水中に微粒子状に分散して捺印を行なう。 【0021】インクジェット技術によるポリエステル布の捺染は,分散染料を微粒子状に分散させたインクをノズルから,ニジミ防止処理を施した布上に,吐出して画像を形成する。 【0022】更に,この布を,ポリエステルのガラス転移温度以上に加熱(例えば150~220℃)して,染料を,繊維内部に浸透させて,染着する。 …(省略)… 【0040】インクジェットインクは,ノズルの乾燥を防ぐ為,水溶性高沸点有機溶剤の使用が不可欠である。 【0041】この水溶性高沸点有機溶剤が分散染料を溶解させる。水溶性高沸点有機溶剤は,通常インク量の5~50%も使用されるので,水溶性高沸点有機溶剤による溶解作用が,分散安定性に極めて大きな影響を与える。」 ウ 「【0052】 【発明が解決しようとする課題】従って,本発明の目的は,微粒子化能力が高く,分散安定性が良く,長期保存性が良く,連続吐出中のフィルター,ノズルの目詰まりの少ないインクジェット捺染用分散染料インク及びインクジェット捺染方法を提供することにある。」 エ 「【0053】 【課題を解決するための手段】本発明の目的は以下の構成により達成される。 【0054】1.染色可能な染料を含有するインクをインクジェット方式によりノズルからインク滴として布帛に付与し,発色処理し洗浄,乾燥させるインクジェット捺染システムに使用されるインクジェット捺染用分散染料インクにおいて,該インクジェット捺染用分散染料の分散剤として官能基を有するアニオン性オリゴマー分散剤を使用し,該インク中の水溶性高沸点有機溶剤が表面張力46dyne/cm以上であり,且つ,無機性/有機性の値が2~6であり,該水溶性高沸点有機溶剤をインク中に5~70wt%含有し,かつ25℃での粘度が10cp以下であることを特徴とするインクジェット捺染用分散染料インク。 【0055】2.前記インクジェット捺染用分散染料インクの平均粒子径が0.25μm以下であり,かつ最大粒子径が0.4μm以下であることを特徴とする前記1に記載のインクジェット捺染用分散染料インク。 【0056】3.前記インクジェット捺染用分散染料インク中に粒径0.1μm以下のインクジェット捺染用分散染料粒子が1wt%以下存在することを特徴とする前記1又は2に記載のインクジェット捺染用分散染料インク。 【0057】4.前記1~3の何れか1項に記載のインクジェット捺染用分散染料インクを布帛に付与するインクジェットノズルがピエゾの変形による機械的エネルギーを使用してインクを吐出させ,かつそのノズル径が10~40μmでありノズル数が60以上で構成されるインクジェットプリンターで布帛にインクを付与させることを特徴とするインクジェット捺染方法。 【0058】以下,本発明を更に詳細に述べる。 【0059】粒子分散系インクの最大の問題点は,粗大粒子がノズルやオリフィスやフィルターを閉塞する事である。これを防ぐ為,できるだけ,微粒子化する必要が有る。 【0060】しかし,過度に微粒子化すると,表面積が増大して,分散が不安定になったり,粒子の溶解性が増大する為,保存中に粒子径が大きくなるので,最適な範囲が存在する。 【0061】本発明は,微粒子化と分散安定化と言う両立しにくい問題を,湿潤作用の有る界面活性剤と官能基を持つアニオン性オリゴマー分散剤と,インクジェット捺染用分散染料(以下,単に分散染料ともいう)を溶解しにくい水溶性高沸点有機溶剤を組合せ,更に,粒径範囲を制御する事により,解決したものである。 …(省略)… 【0067】更に,分散染料を溶解しない,水溶性高沸点有機溶剤を使用するので,環境温度の変化や,溶解度の上昇による,粒径増大が起こりにくい。 …(省略)… 【0070】本発明で使用する,官能基を持つ多環構造のアニオン性のオリゴマー分散剤は,その多環構造が分散染料の多環構造と類似しているので,強く物理吸着するのみならず,該官能基が,分散染料の官能基と水素結合するので,高温等の厳しい条件でも脱着せず,長期間分散安定を保つ事が出来る。 【0071】本発明の官能基を有するアニオン性のオリゴマー分散剤の多環構造とはベンゼン,ナフタリン,アントラセン,フェナントレン等の縮合環を言う。 【0072】本発明のアニオン性のオリゴマー分散剤の持つ官能基とは,フェノール性水酸基,アルコール性水酸基,であり,特に,フェノール性水酸基が好ましい。 【0073】本発明の官能基を有するアニオン性のオリゴマー分散剤の重合度は,疎水部をホルマリンで縮合した,2核体から10核体が好ましい。或いは,分子量5,000から10,000が好ましい。 【0074】分子量が大きい程,分散性が優れるが,水溶性が低下し,粘度が上昇するので,2~5核体,或いは,分子量5,000~10,000が好ましい。」 オ 「【0078】本発明のインクジェットヘッドのノズル径は,画像の解像度を多める為,微小化しつつ有り,10~40ミクロンであり,また,印刷速度をたかめるため,ノズルの数が60以上である。又,インクタンクとヘッド間に設けた,異物除去と気泡除去を兼ねるフィルターの径は50ミクロン程度である。又,ピエゾ方式のインクジェットヘッドのインク室の入口ノズルの径は40ミクロン程度である。 【0079】この為,分散染料インクの平均粒子径はできるだけ小さい方が好ましく,通常0.5ミクロン以下,より好ましくは,0.15~0.25ミクロン以下である。 【0080】上記粒子径が0.5ミクロンを越えると保存中に,粒子が沈殿して凝集をお越しノズルやフィルターを閉塞する。 【0081】平均粒子径は0.15~0.25ミクロン以下がより好ましい。0.25ミクロン以下では,沈降より,ブラウン運動の方が優勢となるので,保存中に,沈降しにくくなり,目詰まりをお越しにくくなる。 【0082】しかし0.15ミクロン未満であると,分散が難しくなり,多量の分散剤を必要とするので,インク粘度が上昇して好ましくない。又,粒子の溶解度が高くなり,保存中,凝集し易くなるので0.1ミクロン以下の粒子はインク中に1wt%以下存在することが好ましい。 【0083】ノズルやフィルターの閉塞は,平均粒子径のみなならず,最大粒子径も関係する。最大粒子径は0.8μ以下が好ましく,より好ましくは,0.5μ以下である。更に,好ましくは,0.4ミクロン以下である。最大粒径は,分散剤や分散時間やフィルターの選定で制御できる。 【0084】粒子径の測定は,島津レーザー回折式粒度分布測定装置を使用して,その平均径と99%累積度数分布を,それぞれ,平均径,最大粒子径として表す。 …(省略)… 【0089】インクの粘度は25℃で10cp以下であり,粘度が10cpを越えると,ノズル部の流動抵抗が大きくなり,吐出量が減少する。粘度は分散剤の量や分散時間で制御する。 …(省略)… 【0093】上述の分散剤の中で,クレオソート油を原料とする活性剤が,本発明の分散染料に対して,微粒子が可能で安定性に優れ,発泡やゲル化を起こさず,良好な流動性を与える事がわかった。 【0094】更に,リグニンスルホン酸塩が,分散性,分散安定性に優れ,分散液の粘度が低く,好ましい事が分かった。これは,パルプの製造廃液から生産される物で,スルホン酸基,カルボキシル基,アルコール性水酸基,フェノール性水酸基を含む為と思われる。 【0095】本発明に好ましい,湿潤剤は,ドデシルベンゼンスルホン酸ソーダ,2-エチルヘキシルスルホ琥珀酸ソーダ,アルキルナフタリンスルホン酸ソーダやノニルフェノールの酸化エチレン付加物,アセチレンジオールの酸化エチレン付加物等,湿潤作用に優れる活性剤が好ましい。 【0096】使用する分散染料の構造により,分散中に,発泡したり,ゲル化したり,流動性が悪くなる事が有るので,分散剤や湿潤剤は,湿潤能力や微粒子化能力や分散安定性の他,分散時の発泡,分散液のゲル化,分散液の流動性等を考慮して選定する必要がある。 【0097】上記の要求を全て満たす分散剤は無いので,分散する染料に合わせて,最適な分散剤を選定して,必要に応じて,消泡剤等を添加する必要がある。 【0098】分散剤の使用量は,分散染料に対して,50~200%が好ましい。分散剤がこの範囲を越えると微粒子化や分散安定性が劣ったり,粘度が高くなり好ましくない。」 カ 「【0100】インクジェットインクのノズル乾燥を防ぐ為に,インクに,グリコール,グリコールエーテル等の,水溶性高沸点有機溶剤が使用される。本発明で使用する,好ましい水溶性高沸点有機溶剤の分散染料に対する溶解度は0.1wt%が好ましい。 【0101】有機化合物の溶解性は,有機化合物の(無機性/有機性)値で表す事ができる。 【0102】この値の求め方は,甲田善生著有機概念図三共出版に詳しく述べられられている。 【0103】本発明で使用する分散染料の(無機性/有機性)値は0.8~1.5の範囲にあり,この範囲に有る有機溶剤には良く溶解するので,本発明の水溶性高沸点有機溶剤は,その(無機性/有機性)比が2~6の範囲に有るものである。 【0104】本発明の水溶性高沸点有機溶媒は,例えば,エチレングリコール(5),グリセリン(5),ジエチレングリコール(2.8)等のグリコール類が好ましい。なお,上記( )内の数値は(無機性/有機性)の値である。また,これらのグルコール類の表面張力は46dyne/cm以上である。 【0105】特に,グリセリンは,比重も高いので,インクの比重が高くなり,粒子の沈降を防ぐ上からも好ましい。通常インクジェットに使用されているグリコールエーテル類は,無機性/有機性値が1~2の範囲にあり,分散染料を溶解しやすいので好ましくない。 【0106】更に,グリコールエーテル類は,表面張力が40dyne/cm以下であり,一方,本発明の官能基を有するアニオン性のオリゴマー分散剤は,表面張力が50dyne/cm以上の為,分散を阻害する恐れがある。」 キ 「【0110】本発明においては,従来公知の分散染料はいずれも使用することができる。 …(省略)… 【0112】本発明のインクは,上記の分散染料,分散剤,媒体および任意成分を混合し分散機を用いることによって分散して得ることができる。分散機としては従来公知のボールミル,サンドミル,ラインミル,高圧ホモジナイザー等が使用できる。」 ク 「【0113】 【実施例】以下に,実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが,本発明の態様はこれらに限定されるものではない。 【0114】 実施例1 イエロー分散染料原体(C.I.Disperse Yellow 160) 25部 グリセリン(50dyne/cm)              10部 クレオソート油スルホン酸ナトリウムのホルマリン縮合物 (花王(株)製 デモール C)               10部 2-(2エチルヘキシル)スルホコハク酸ソーダ      0.05部 ノニルフェノール酸化エチレン10モル付加物          1部 水                             40部 上記,混合物に直径0.5mmのセラミックビーズを使用して,アイメックス社(旧名,五十嵐製作所)製サンドグラインダーで回転数2500rpmで5時間分散した。この分散液を,染料濃度が5%に成る様に,水/グリセリン=1:4で希釈してインクを作成した。 【0115】30mmHgの減圧下で,一時間,脱気した後,コニカ(株)製のピエゾ方式インクジェット試験器にて吐出させた。 【0116】吐出ノズル数=64,ノズル径=40μ,吐出周波数=7KHZで,1億ドット吐出させ,吐出量を精密天秤で測定した。 【0117】インク中の粒子の粒径を,島津レーザー回折式粒度分布測定装置にて測定した。更に,インクの高温分散安定性を調べる為,インクを60℃の恒温層に1週間放置した。」 ケ 「【0137】 【表1】 【0138】本発明の官能基を有するアニオン性のオリゴマー分散剤は,疎水部が,分散染料の多核構造と親和性を持ち,分散染料と強く結合できる官能基を持つ為,分散安定性が良い。60℃で一週間保存後でも,粒子径の変化が少ない。 【0139】また,実施例1~7は,官能基を有する多環構造のアニオン性分散剤を使用し,分散染料に対する溶解度が低い,無機性/有機性の値が5の水溶性高沸点有機溶剤を使用し,且つ,過度の分散をさけて,インク中の0.1μ以下の粒子の存在割合が1wt%以下なので,高温で保存しても粒子が大きくならなく,又インクの平均粒子径が0.25μ以下,インクの最大粒子径が0.4μ以下であるので,1億滴連続吐出させても,フィルターやノズルが目詰まりが少ない。 …(省略)… 【0141】これに対して,本発明外である,官能基を持たない分散剤や,染料溶解性の高い有機溶剤を使用すると,保存中に粒子径が大きくなり高温安定性が悪い。又,長時間の連続吐出試験で,吐出量が低下し,従来のスクリーン捺染を使用したものは,分散染料の可溶化力が強く好ましく無い。 【0142】 【発明の効果】実施例で実証したごとく,本発明による捺染用分散染料インクは,微粒子化能力が高く,分散安定性が良く,長期保存性が良く,連続吐出中のフィルター,ノズルの目詰まりの少ない優れた効果を有する。」 (2) 甲1発明 甲1の段落【0054】~【0056】には,甲1でいう「本発明」の「染色可能な染料を含有するインクをインクジェット方式によりノズルからインク滴として布帛に付与し,発色処理し洗浄,乾燥させるインクジェット捺染システムに使用されるインクジェット捺染用分散染料インク」が記載されている。 そうしてみると,甲1には,甲1でいう「本発明」の「インクジェット捺染用分散染料インク」を使用して,インクジェット方式によりノズルからインク滴として布帛に付与し,発色処理し洗浄,乾燥させるインクジェット捺染システムによる方法として,以下の発明が記載されている(以下「甲1発明」という。)。 「 染色可能な染料を含有するインクをインクジェット方式によりノズルからインク滴として布帛に付与し,発色処理し洗浄,乾燥させるインクジェット捺染システムによる方法において, インクジェット捺染用分散染料インクは, インクジェット捺染用分散染料の分散剤として官能基を有するアニオン性オリゴマー分散剤を使用し, インク中の水溶性高沸点有機溶剤が表面張力46dyne/cm以上であり,かつ,無機性/有機性の値が2~6であり, 水溶性高沸点有機溶剤をインク中に5~70wt%含有し,かつ25℃での粘度が10cp以下であり, インクジェット捺染用分散染料インクの平均粒子径が0.25μm以下であり,かつ最大粒子径が0.4μm以下であり, インクジェット捺染用分散染料インク中に粒径0.1μm以下のインクジェット捺染用分散染料粒子が1wt%以下存在する, 方法。」 (3) 対比 本件特許発明1と甲1発明を対比すると,以下のとおりとなる。 ア デザインを印刷する方法 甲1発明の方法は,「インクジェット捺染」による方法であるところ,「捺染」とは,「色糊で布地に文様を印刷する染色法」(広辞苑6版)のことである。また,甲1発明全体の構成からみて,甲1発明の「インクジェット捺染」とは,インクジェットプリンタによる捺染のことである。 したがって,甲1発明の方法は,本件特許発明1の「インクジェットプリンタによりデザインを印刷する方法」の要件を満たす方法である。 イ 熱活性化固体着色剤 甲1発明の方法は,その工程中に「発色処理」を含むところ,インクジェット捺染における「発色処理」が,「熱活性化」により行われることは,技術常識である。この点は,甲1の段落【0022】に,「加熱(例えば150~220℃)して,染料を,繊維内部に浸透させて,染着する」と記載されていることからみても,明らかである。 また,甲1発明における「インクジェット捺染用分散染料」は,その名のとおり「染料」であるから,「着色剤」といえる。さらに,甲1発明の「インクジェット捺染用分散染料インク」は,その「平均粒子径が0.25μm以下であり,かつ最大粒子径が0.4μm以下」であるから,甲1発明の「インクジェット捺染用分散染料」それ自体は,「固体」といえる。 以上勘案すると,甲1発明の「インクジェット捺染用分散染料」は,本件特許発明1の「熱活性化固体着色剤」に相当する。また,甲1発明の方法は,「インクジェット捺染用分散染料」を使用するものといえるから,本件特許発明1の「熱活性化固体着色剤を使用するインクジェットプリンタによりデザインを印刷する方法」の要件を満たす方法である。 ウ 液体インクを供給するステップ,画像を形成するステップ 甲1発明の方法は,「染色可能な染料を含有するインクをインクジェット方式によりノズルからインク滴として布帛に付与」するものである。したがって,甲1発明の方法が,本件特許発明1の「液体インクを印刷するインクジェットプリンタに前記液体インクを供給するステップ」を含む方法であることは,技術的にみて明らかである。 また,前記ア及びイのとおりであるから,甲1発明の方法は,本件特許発明1の「前記インクジェットプリンタによって所望の画像で前記液体インクを基材上に印刷して画像を形成するステップであって,前記熱活性化固体着色剤の前記粒子が,印刷の時点で固体であるステップ」を含む方法である。 エ 熱活性化させるステップ 前記イで述べたとおり,甲1発明の「発色処理」は,「熱活性化」により行われる。 したがって,甲1発明の方法は,本件特許発明1の「前記熱活性化固体着色剤を熱活性化させるステップ」を含む方法である。 (4) 一致点及び相違点 ア 一致点 本件特許発明1と甲1発明は,次の構成で一致する。 「 熱活性化固体着色剤を使用するインクジェットプリンタによりデザインを印刷する方法であって, 液体インクを印刷するインクジェットプリンタに前記液体インクを供給するステップと, 前記インクジェットプリンタによって所望の画像で前記液体インクを基材上に印刷して画像を形成するステップであって,前記熱活性化固体着色剤の前記粒子が,印刷の時点で固体であるステップと, 前記熱活性化固体着色剤を熱活性化させるステップと を含む,方法。」 イ 相違点 本件特許発明1と甲1発明は,以下の点で相違する。 (相違点1) 本件特許発明1は,「液体インクを使用するインクジェットプリンタへの使用に適した液体インクを調製するステップであって,前記液体インクが,水,熱活性化固体着色剤,及び前記液体インクの15重量%以上の粘度調整剤を含み,前記液体インクが6.0センチポアズ以上の粘度を有し,前記熱活性化固体着色剤は,前記粘度調整剤に対する溶解性が低く,前記熱活性化固体着色剤の粒子の95%以上が0.05ミクロン以上の直径を有するステップ」を方法の発明の1ステップとして含むのに対して,甲1発明は,この構成を,方法の発明の1ステップとして含むとは,いえない点。 (相違点2) 本件特許発明1は,前記熱活性化固体着色剤を熱活性化させるステップであって,「熱活性化後,X-Rite濃度計によって測定した前記画像の光学濃度が1.25以上となるステップ」を具備するのに対し,甲1発明の方法は,前記熱活性化固体着色剤を熱活性化させるステップを含むとしても,このステップが「熱活性化後,X-Rite濃度計によって測定した前記画像の光学濃度が1.25以上となるステップ」であるか,明らかでない点。 (5) 判断 相違点についての判断は,以下のとおりである。 ア 相違点1について (ア)液体インクを調製するステップについて 甲1の段落【0078】,【0079】及び【0089】には,それぞれ「本発明のインクジェットヘッドのノズル径は,画像の解像度を多める為,微小化しつつ有り,10~40ミクロンであり」,「この為,分散染料インクの平均粒子径はできるだけ小さい方が好ましく,通常0.5ミクロン以下,より好ましくは,0.15~0.25ミクロン以下である」及び「インクの粘度は25℃で10cp以下であり,粘度が10cpを越えると,ノズル部の流動抵抗が大きくなり,吐出量が減少する」と記載されている。 そうしてみると,甲1発明においては,その方法の前工程に「液体インクを使用するインクジェットプリンタへの使用に適した液体インクを調製するステップ」が存在することは,明らかである。また,このステップを発明の範囲に含めるか否かは,特許を受けようとする発明の特定の問題にすぎない。 したがって,相違点1に係る構成のうち,「液体インクを使用するインクジェットプリンタへの使用に適した液体インクを調製するステップ」については,発明の特定に関する形式的な相違にすぎないものであり,実質的な相違点であるとはいえない。 (イ)液体インクの組成について 甲1発明の「インクジェット捺染用分散染料インク」は,「インクジェット捺染用分散染料の分散剤として官能基を有するアニオン性オリゴマー分散剤を使用」するものである。したがって,甲1発明の「インクジェット捺染用分散染料インク」に,分散媒としての「水」が含まれることは,技術的にみて明らかである(甲1の段落【0020】及び【0114】の記載からみても明らかである。)。 また,前記(3)イで対比したとおりであるから,甲1発明の「インクジェット捺染用分散染料インク」は,「インクジェット捺染用分散染料」として,「熱活性化固体着色剤」を含む。 さらに,甲1発明の「インクジェット捺染用分散染料インク」は,「水溶性高沸点有機溶剤をインク中に5~70wt%含有」するところ,甲1の段落【0100】,【0104】及び【0105】には,それぞれ,「インクジェットインクのノズル乾燥を防ぐ為に,インクに,グリコール,グリコールエーテル等の,水溶性高沸点有機溶剤が使用される。本発明で使用する,好ましい水溶性高沸点有機溶剤の分散染料に対する溶解度は0.1wt%が好ましい。」,「本発明の水溶性高沸点有機溶媒は,例えば,エチレングリコール(5),グリセリン(5),ジエチレングリコール(2.8)等のグリコール類が好ましい。」及び「特に,グリセリンは,比重も高いので,インクの比重が高くなり,粒子の沈降を防ぐ上からも好ましい。」と記載されている。そうしてみると,甲1発明において「水溶性高沸点有機溶剤」として,「グリセリン」を採用するとともに,インクジェットインクのノズル乾燥との兼ね合いにおいてその分量を「15重量%以上」,ただし,70重量%を超えない量とすることは,甲1発明を具体化するに際し当業者が適宜採用しうる事項である。また,「グリセリン」の粘度が高いことは技術常識であるから,甲1発明の「インクジェット捺染用分散染料インク」の粘度は,その上限である10cpに近くなると考えられる。 加えて,甲1の前記段落【0100】の記載からみて,甲1発明の「インクジェット捺染用分散染料」は,甲1発明の「水溶性高沸点有機溶剤」(グリセリン)に対する溶解性が低いものといえる。そして,甲1発明の「インクジェット捺染用分散染料インク」は,「粒径0.1μm以下のインクジェット捺染用分散染料粒子が1wt%以下存在する」ものであるから,粒径0.05μm以下の直径のインクジェット捺染用分散染料粒子は,1wt%をさらに下回ることとなる。したがって,甲1発明の「インクジェット捺染用分散染料インク」は,「インクジェット捺染用分散染料粒子」の粒子の95%以上が0.05ミクロン以上の直径を有することは明らかである。あるいは,少なくとも,甲1の段落【0082】の記載が示唆する範囲内の事項にすぎない(当合議体注:仮に,甲1発明の「95%」が体積%であり,本件特許発明1の「95%」が個数%であるとしても,同様である。)。 ところで,本件特許発明1における「粘度調整剤」とは,具体的には,「グリセリン」である。 そうしてみると,甲1発明において,「水溶性高沸点有機溶剤」として,「グリセリン」を採用するとともに,インクジェットインクのノズル乾燥との兼ね合いにおいてその分量を「15重量%以上」としてなる,「インクジェット捺染用分散染料インク」と,本件特許発明1の「液体インク」は,相違するところがない。 以上のとおりであるから,甲1発明の「インクジェット捺染用分散染料インク」を,相違点1に係る本件特許発明1の構成を具備するものとすることは,甲1発明を具体化するに際し当業者が容易に採用しうる範囲内の事項にすぎない。 イ 相違点2について 本件特許発明1の画像の光学濃度は1.25以上,すなわち,光透過率でいえば約5.6%以下であればよい程度のものである。したがって,甲1発明の方法において,熱活性化後,X-Rite濃度計によって測定した前記画像の光学濃度が1.25以上となるようにすることは,当然のことにすぎない。 (6) 本件特許発明2~本件特許発明9について ア 本件特許発明2について 甲1発明が前提とするインクジェットヘッドのノズル径は,10~40ミクロンである(段落【0078】)。また,甲1発明のインクジェット捺染用分散染料インクの最大粒子径は0.4μm以下である。そこで,仮に,φ=10,D=0.4とすると,f≦0.2,すなわち,全配合物重量に対する熱活性化固体着色剤の重量分率が0.2を超えて初めて本件特許発明2の【数1】の要件を満たさないことになる。 しかしながら,例えば,甲1の段落【0114】に開示された染料濃度は,5%である。また,染料濃度を20%にまで高める必要性を,甲1の記載からうかがい知ることはできない。 したがって,全配合物重量に対する熱活性化固体着色剤の重量分率を,0.2を超えない範囲内にとどめることは,甲1発明に接した当業者が自然に設計する事項にすぎない。 その余については,本件特許発明1について示した判断と同様である。 イ 本件特許発明3について 本件特許発明1について示した判断と同様である。 ウ 本件特許発明4について 粘度については,本件特許発明1について示した判断と同様である。 また,分量についてみても,例えば,甲1の段落【0114】に開示されたグリセリンの量は,染料の3倍以上である。 エ 本件特許発明5について 本件特許発明4について示した判断と同様である。 オ 本件特許発明6について 本件特許発明1について示した判断と同様である。 カ 本件特許発明7及び本件特許発明8について 甲1の【0022】の記載及びグリセリンの沸点を考慮すると,本件特許発明1について示した判断と同様である。 キ 本件特許発明9について 甲1の段落【0082】の記載が示唆する範囲内の事項にすぎない。 (7) 小括 本件特許発明1-本件特許発明9は,本件特許の優先日前に頒布された刊行物である甲1に記載された発明及び周知技術に基づいて,その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものである。 4 まとめ 本件特許(請求項1-請求項9に係る特許)は,特許法36条6項2号及び特許法36条4項1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから,特許法113条4項に該当し,取り消されるべきものである。 本件特許(請求項1-請求項9に係る特許)は,特許法29条2項の規定に違反してされたものであるから,特許法113条2項に該当し,取り消されるべきものである。 よって,結論のとおり決定する。

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2016-700446

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