特許異議申立
2016-700400
光学部材用粘着剤および粘着剤層付き光学部剤、ならびに画像表示装置
- 審判番号
- 2016-700400
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2011-155610外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2016年05月09日
- 審決日
- 2017年02月17日
- 公報発行日
- 2017年05月26日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】日本合成化学工業株式会社
- 【権利者代理人】西藤 征彦
- 【権利者代理人】井▲崎▼ 愛佳
- 【権利者代理人】西藤 優子
- 【異議申立人】森岡 道朗
- 分類
- P1651.113-YAA(C09J) / P1651.121-YAA(C09J) / P1651.537-YAA(C09J)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条特許法36条4項1号特許法36条6項特許法113条2号特許法113条4号
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第6項第1号、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項、特許法第120条の5第2項、特許法第36条第6項第2号、特許法第120条の5第3項、特許法第29条
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第5808177号発明「光学部材用粘着剤および粘着剤層付き光学部剤、ならびに画像表示装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
【結 論】
特許第5808177号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1ないし7〕について訂正することを認める。
特許第5808177号の請求項1ないし7に係る特許を維持する。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯等
1 本件特許異議の申立てに係る特許
本件特許異議の申立てに係る特許第5808177号は、特許権者である日本合成化学工業株式会社より、平成23年7月14日、特願2011-155610号として出願され、平成27年9月18日、発明の名称を「光学部材用粘着剤および粘着剤層付き光学部剤、ならびに画像表示装置」、請求項の数を「7」として特許権の設定登録を受けたものである。
2 手続の経緯
本件特許に対して、平成28年5月9日、特許異議申立人である森岡道朗(以下、「異議申立人」という)より特許異議の申立てがなされ、同年8月30日付けで取消理由が通知され、同年11月1日、特許権者より意見書及び訂正請求書が提出され、これに対し、異議申立人に、期間を指定して意見書を提出する機会を与えたが何らの応答もなかったものである。
第2 訂正の適否
上記平成28年11月1日提出の訂正請求書による訂正(以下、「本件訂正」という。)は、本件明細書及び特許請求の範囲を、上記訂正請求書に添付した訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり一群の請求項を構成する請求項1~7について訂正することを求めるものであって、その具体的訂正事項は次のとおりである。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「アクリル系樹脂(A)、エチレン性不飽和基を1つ含有する化合物(B)、及びエチレン性不飽和基を2つ以上含有するエチレン性不飽和化合物(C)を含有する粘着剤組成物[I]」とあるのを、「アクリル系樹脂(A)、エチレン性不飽和基を1つ含有する化合物(B)、エチレン性不飽和基を2つ以上含有するエチレン性不飽和化合物(C)及び架橋剤(E)を含有する粘着剤組成物[I]」と訂正し、
さらに、同請求項に「アクリル系樹脂(A)の重量平均分子量が10万~100万であり・・・(略)・・・エチレン性不飽和基を1つ含有する化合物(B)の含有割合が50mol%よりも大きいことを特徴とする光学部材用粘着剤」とあるのを、「アクリル系樹脂(A)が(メタ)アクリル酸アルキルエステル系モノマー(a1)と官能基含有モノマー(a3)とを含有する共重合成分を共重合してなるものであり、官能基含有モノマー(a3)が、水酸基含有モノマー及びカルボキシル基含有モノマーの少なくとも一つであり、アクリル系樹脂(A)の重量平均分子量が10万~100万であり・・・(略)・・・エチレン性不飽和基を1つ含有する化合物(B)の含有割合が50mol%よりも大きく、架橋剤(E)がイソシアネート系架橋剤であることを特徴とする光学部材用粘着剤」と訂正する。
(2)訂正事項2
本件特許明細書の段落【0011】に「アクリル系樹脂(A)、エチレン性不飽和基を1つ含有する化合物(B)、及びエチレン性不飽和基を2つ以上含有するエチレン性不飽和化合物(C)を含有する粘着剤組成物[I]」とあるのを、「アクリル系樹脂(A)、エチレン性不飽和基を1つ含有する化合物(B)、エチレン性不飽和基を2つ以上含有するエチレン性不飽和化合物(C)及び架橋剤(E)を含有する粘着剤組成物[I]」と訂正し、
さらに、同段落に「アクリル系樹脂(A)の重量平均分子量が10万~100万であり・・・(略)・・・エチレン性不飽和基を1つ含有する化合物(B)の含有割合が50mol%よりも大きいことを特徴とする」とあるのを、「アクリル系樹脂(A)が(メタ)アクリル酸アルキルエステル系モノマー(a1)と官能基含有モノマー(a3)とを含有する共重合成分を共重合してなるものであり、官能基含有モノマー(a3)が、水酸基含有モノマー及びカルボキシル基含有モノマーの少なくとも一つであり、アクリル系樹脂(A)の重量平均分子量が10万~100万であり・・・(略)・・・エチレン性不飽和基を1つ含有する化合物(B)の含有割合が50mol%よりも大きく、架橋剤(E)がイソシアネート系架橋剤であることを特徴とする」と訂正する。
(3)訂正事項3
本件特許明細書の段落【0013】に「アクリル系樹脂(A)は、(メタ)アクリル酸アルキルエステル系モノマー(a1)を主成分として含有し、好ましくは芳香環含有モノマー(a2)、官能基含有モノマー(a3)も含有する共重合成分を共重合してなるものであり」とあるのを、「アクリル系樹脂(A)は、(メタ)アクリル酸アルキルエステル系モノマー(a1)を主成分として含有するとともに、官能基含有モノマー(a3)を含有し、好ましくは芳香環含有モノマー(a2)も含有する共重合成分を共重合してなるものであり」と訂正する。
(4)訂正事項4
本件特許明細書の段落【0020】に「官能基含有モノマー(a3)としては、後述の架橋剤(E)と反応することにより架橋点となりうる官能基を含有するモノマーが挙げられ、例えば・・・(略)・・・等が挙げられ、これらの中でも、効率的に架橋反応ができる点で水酸基含有モノマー、カルボキシル基含有モノマーが好ましく用いられる。」とあるのを、「官能基含有モノマー(a3)としては、後述の架橋剤(E)と反応することにより架橋点となりうる官能基を含有するモノマーが挙げられ、例えば・・・(略)・・・等が挙げられ、これらの中でも、効率的に架橋反応ができる点で、本発明では、上記官能基含有モノマー(a3)として水酸基含有モノマー及びカルボキシル基含有モノマーの少なくとも一つが用いられる。」と訂正する。
(5)訂正事項5
本件特許明細書の段落【0028】に「官能基含有モノマー(a3)の含有量としては、共重合成分全体に対して、好ましくは0~30重量%」とあるのを、「官能基含有モノマー(a3)の含有量としては、共重合成分全体に対して、好ましくは0.5~30重量%」と訂正する。
(6)訂正事項6
本件特許明細書の段落【0071】に「また、本発明においては、上記粘着剤組成物[I]を硬化する方法として、上記(A)成分および(B)成分(必要に応じて(C)成分あるいは(D)成分)に加えて、更に架橋剤(E)を含有させたものとし、粘着剤組成物[I]を、活性エネルギー線及び/又は熱による硬化と架橋剤による硬化(架橋)とにより硬化する方法もあげられる。」とあるのを、「また、本発明においては、上記粘着剤組成物[I]を、上記(A)成分および(B)成分(必要に応じて(C)成分あるいは(D)成分)に加えて、更に架橋剤(E)を含有させたものとし、粘着剤組成物[I]を、活性エネルギー線及び/又は熱による硬化と架橋剤による硬化(架橋)とにより硬化する。」と訂正する。
(7)訂正事項7
本件特許明細書の段落【0072】に「更に、架橋剤による硬化(架橋)を併用することも好ましく、」とあるのを、「更に、架橋剤による硬化(架橋)を併用することで、」と訂正する。
(8)訂正事項8
本件特許明細書の段落【0090】に「上記架橋剤(E)としては、例えば、イソシアネート系架橋剤、エポキシ系架橋剤、アジリジン系架橋剤、メラミン系架橋剤、アルデヒド系架橋剤、アミン系架橋剤、金属キレート系架橋剤が挙げられる。これらの中でも、基材との密着性を向上させる点やベースポリマーとの反応性の点で、イソシアネート系架橋剤が好適に用いられる。」とあるのを、「上記架橋剤(E)としては、例えば、イソシアネート系架橋剤、エポキシ系架橋剤、アジリジン系架橋剤、メラミン系架橋剤、アルデヒド系架橋剤、アミン系架橋剤、金属キレート系架橋剤が挙げられ、これらの中でも、基材との密着性を向上させる点やベースポリマーとの反応性の点で、本発明では、架橋剤(E)としてイソシアネート系架橋剤が用いられる。」と訂正する。
(9)訂正事項9
本件特許明細書の段落【0114】に「粘着剤組成物[I]に架橋剤を用いた場合(架橋剤による硬化(架橋)も併用する場合)には、」とあるのを、「粘着剤組成物[I]に架橋剤を用いる(架橋剤による硬化(架橋)も併用する)ため、」と訂正する。
(10)訂正事項10
本件特許明細書の段落【0138】に「実施例1~5」とあるのを、「実施例1~4、参考例1」と訂正する。
2 訂正の目的の適否、新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1について
訂正事項1は、粘着剤組成物[I]に関し、本件特許明細書の段落【0071】及び【0090】の記載に基づいて、訂正前、アクリル系樹脂(A)、エチレン性不飽和基を1つ含有する化合物(B)、及びエチレン性不飽和基を2つ以上含有するエチレン性不飽和化合物(C)を含有するとされていた粘着剤組成物[I]を、訂正後、前記(A)、(B)及び(C)に加え、さらにイソシアネート系架橋剤である架橋剤(E)を含有するものに限定するものである。
また、アクリル系樹脂(A)に関し、本件特許明細書の段落【0013】及び【0020】の記載に基づいて、訂正前、単に、アクリル系樹脂(A)とされていたのを、訂正後、(メタ)アクリル酸アルキルエステル系モノマー(a1)と、水酸基含有モノマー及びカルボキシル基含有モノマーの少なくとも一つである官能基含有モノマー(a3)とを含有する共重合成分を共重合してなるものに限定するものである。
したがって、この訂正事項は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるといえるとともに、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、かつ実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではないから、同法同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものといえる。
(2)訂正事項2~10について
上記訂正事項2~9は、いずれも、上記訂正事項1に係る訂正に起因する特許請求の範囲(請求項1)の記載内容と明細書の記載内容との不一致を整合するように明細書の記載内容を正すものである。
また、上記訂正事項10は、本件特許明細書の段落【0137】等の「〔実施例1~4、参考例1、比較例1、2〕」との記載内容との不一致を整合するように段落【0138】の対応箇所の記載内容を正すものである。
したがって、これらの訂正事項は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものであるといえるとともに、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、かつ実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではないから、同法同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものといえる。
3 小括
上記「2」のとおり、本件訂正は、特許法第120条の5第3項及び第4項の規定に従い、一群の請求項を構成する請求項1ないし7について訂正を求めるものであり、その訂正事項はいずれも、特許法第120条の5第2項ただし書第1号又は第3号に掲げる事項を目的とするものに該当し、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項1ないし7について訂正することを認める。
第3 本件発明
上記「第2」のとおり、本件訂正は認容し得るものであるから、本件訂正後の請求項1ないし7に係る発明(以下、請求項1に係る発明を項番に対応して「本件発明1」、「本件発明1」に係る特許を「本件特許1」などといい、併せて「本件発明」、「本件特許」ということがある。)の記載は、次のとおりである。
「【請求項1】
アクリル系樹脂(A)、エチレン性不飽和基を1つ含有する化合物(B)、エチレン性不飽和基を2つ以上含有するエチレン性不飽和化合物(C)及び架橋剤(E)を含有する粘着剤組成物[I]が、活性エネルギー線及び/又は熱により硬化されてなる光学部材用粘着剤であり、アクリル系樹脂(A)が(メタ)アクリル酸アルキルエステル系モノマー(a1)と官能基含有モノマー(a3)とを含有する共重合成分を共重合してなるものであり、官能基含有モノマー(a3)が、水酸基含有モノマー及びカルボキシル基含有モノマーの少なくとも一つであり、アクリル系樹脂(A)の重量平均分子量が10万~100万であり、エチレン性不飽和基を1つ含有する化合物(B)のガラス転移温度が-100~60℃であり、アクリル系樹脂(A)100重量部に対するエチレン性不飽和基を1つ含有する化合物(B)の含有量が10~100重量部であり、エチレン性不飽和基を1つ含有する化合物(B)とエチレン性不飽和基を2つ以上含有するエチレン性不飽和化合物(C)の合計量に対するエチレン性不飽和基を1つ含有する化合物(B)の含有割合が50mol%よりも大きく、架橋剤(E)がイソシアネート系架橋剤であることを特徴とする光学部材用粘着剤。
【請求項2】
アクリル系樹脂(A)の酸価が、10mgKOH/g以上であることを特徴とする請求項1記載の光学部材用粘着剤。
【請求項3】
エチレン性不飽和基を1つ含有する化合物(B)が、分子内に芳香環と1つのエチレン性不飽和基を有する芳香族単官能モノマーであることを特徴とする請求項1又は2記載の光学部材用粘着剤。
【請求項4】
粘着剤組成物[I]が、重合開始剤(D)を含有することを特徴とする請求項1~3いずれか記載の光学部材用粘着剤。
【請求項5】
光学部材が偏光板であることを特徴とする請求項1~4いずれか記載の光学部材用粘着剤。
【請求項6】
請求項1~5いずれか記載の光学部材用粘着剤を含む粘着剤層および光学部材の積層構造を含むことを特徴とする粘着剤層付き光学部材。
【請求項7】
請求項6記載の粘着剤層付き光学部材を含有することを特徴とする画像表示装置。」
第4 取消理由の概要
訂正前の本件発明1ないし7(訂正前の本件特許1ないし7)に対して平成28年8月30日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。
(1)本件発明1、3ないし7は、いずれも甲第1号証に記載された発明であり、本件特許1、3ないし7は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである(以下、「取消理由1」という。)。
(2)本件発明1ないし7は、いずれも甲第1号証に記載された発明、又は甲第1号証に記載された発明及び甲第1号証に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、本件特許1ないし7は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである(以下、「取消理由2」という。)。
甲第1号証:特開2009-24160号公報
甲第2号証:日東電工(株)、粘着剤設計技術[平成28年4月25日検索]、インターネット<URL:http://www.nitto.com/jp/ja/rd/base/adhesive/specificat/>
甲第3号証:巴工業(株)、製品情報、単官能モノマー[平成28年4月25日検索]、インターネット<URL:http://www.tomo-e.co.jp/j/product/chem/sartomer .html>の「単官能モノマー」のリンク先の資料<URL:http://www.tomo-e.co.jp/j/pr oduct/chem_pdf/.../1_tankannou.pdf>
甲第4号証:東亞合成(株)光硬化型樹脂 東亞合成(株)発行、発行日:平成21年7月発行 表紙、1~4頁、裏表紙
甲第5号証:特開平6-306247号公報
以下、甲第1号証を「甲1」などという。
(3)本件発明1ないし7が、発明の詳細な説明に記載したものでなく、本件特許1ないし7は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである(以下、「取消理由3」という。)。
第5 当審の判断
1 取消理由1及び2(特許法第29条第1項第3号及び特許法第29条第2項)について
(1)刊行物に記載の事項
ア 甲1(特開2009-24160号公報)
(ア-1)
「【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)(メタ)アクリル酸系誘導体ポリマーと、
(B)1官能の(メタ)アクリル酸系誘導体モノマーと、
(C)2官能以上の(メタ)アクリル酸系誘導体と
を含有する光学用樹脂組成物であって、
前記(B)1官能の(メタ)アクリル酸系誘導体モノマーが、
(B1)下記一般式
【化1】
(式中、lは2~4の整数、mは0または1であり、nは8~18の整数である)
で表される(メタ)アクリル酸系モノマーの少なくとも1種と、
(B2)繰り返し単位数4以上のポリアルキレンオキシアルキルエーテル(メタ)アクリレート、及び繰り返し単位数4以上のポリアルキレンオキシ(メタ)アクリレートからなる群から選択される少なくとも1種とを含むことを特徴とする光学用樹脂組成物。
【請求項2】~【請求項6】(略)
【請求項7】
前記(A)(メタ)アクリル酸系誘導体ポリマーが、炭素数4~18のアルキルアクリレートと水酸基を有するアクリレートとの共重合体であることを特徴とする請求項1~6のいずれかに記載の光学用樹脂組成物。
【請求項8】~【請求項11】(略)
【請求項12】
前記(A)(メタ)アクリル酸系誘導体ポリマーが、100,000~700,000の重量平均分子量を有することを特徴とする請求項1~11のいずれかに記載の光学用樹脂組成物。
【請求項13】
請求項1~12のいずれかに記載の光学用樹脂組成物を硬化することによって得られる光学用樹脂材料。
【請求項14】(略)」
(ア-2)
「【0023】
(A)(メタ)アクリル酸系誘導体ポリマーの分子内には、ガラス板への粘着性を向上させる目的で、極性基を付与しておくことが好ましい。粘着性の向上に有効な極性基の例のとして、水酸基、カルボキシル基、シアノ基、グリシジル基等が挙げられる。これら極性基の導入は、例えば、極性基を有するモノマー化合物と、(メタ)アクリル酸系モノマー化合物とを共重合させることによって達成される。ポリマー中に水酸基等の極性基を導入することによって、樹脂組成物に適度な極性を持たせ、吸湿時の白濁を防止することが可能となる。また、そのような樹脂組成物からフィルムあるいはシートを作製した際にそれらに高い粘着力を発現させることが可能となる。このように粘着性を有するシート又はフィルム部材は、接着剤の使用なしで表示パネル等の装置の表面に貼り合わせることができる。」
(ア-3)
「【0030】
本発明の光学用樹脂材料における(A)(メタ)アクリル酸系誘導体ポリマーの配合量は、上記成分(A)、(B)及び(C)の全配合量を100とした場合、15~50重量部の範囲が好ましく、15~40重量部の範囲がより好ましい。上記(A)のポリマー成分の配合量が少なすぎると、機械的特性に問題が生じ、光学用樹脂材料の衝撃吸収性が低下する傾向がある。また硬化収縮が大きくなり、作製したシート又はフィルムの膜の平坦性に問題が生じやすくなる。一方、配合量が多すぎると、樹脂組成物の粘度が高くなりすぎ、シートまたはフィルムを作製することが困難となる。」
(ア-4)
「【0041】
本発明の光学用樹脂組成物における成分(B)の配合量は、樹脂組成物を構成する全成分の配合量を100とした場合、40~70重量部の範囲が好ましく、40~60重量部の範囲がより好ましい。上記成分(B)の配合量が少なすぎると、樹脂組成物の粘度が高くなりすぎ、シート又はフィルムを作製することが困難となる傾向がある。一方、配合量が多すぎると、作製したシート又はフィルムの機械的特性に問題が生じる可能性がある。
なお、吸湿時の組成物及びその硬化物が白濁しないように、成分(B)における(B1):(B2)の割合は、90:10~60:40の範囲で適切に調整することが好ましい。」
(ア-5)
「【0066】
本発明の光学用樹脂材料における(C)(メタ)アクリル酸誘導体の配合量は、樹脂組成物を構成する全成分の配合量を100とした場合、1~40重量部の範囲が好ましい。樹脂組成物における成分(C)の配合量が少なすぎると、硬化物が形状を保つことが困難となる傾向がある。一方、配合量が多すぎると樹脂組成物の粘度が高くなりすぎてシートの作製が困難なり、また粘着力が小さくなりすぎる傾向がある。さらに樹脂組成物の硬化物が脆くなり、機械的特性に問題が生じやすくなる傾向がある。」
(ア-6)
「【0068】
上述のように、本発明の樹脂組成物に例えば電子線を照射すると、重合開始剤がなくても重合反応が進行する場合がある。すなわち、本発明の樹脂組成物を硬化させるための重合反応は、活性エネルギー線の照射、熱、あるいはこれらの併用による硬化方法によって実施することができる。なお「活性エネルギー線」とは、紫外線、電子線、α線、β線、γ線等をいう。上述の硬化方法は、樹脂組成物における成分(A)の(メタ)アクリル酸系誘導体ポリマーの合成にも利用できる。・・・(略)・・・熱重合開始剤を使用する場合は、上記前配合量100に対して、0.01~1重量部の範囲が好ましく、0.01~0.5重量部の範囲がより好ましい。」
イ 甲2(日東電工(株)、粘着剤設計技術)
アクリル系粘着剤に用いられるモノマーとして、「アクリル酸2-エチルヘキシル」が記載されていると共に、そのガラス転移点Tg(℃)が「-70」であることが記載されている。
ウ 甲3(巴工業(株)、製品情報、単官能モノマー)
製品コードが「SR489D」である製品名「トリデシルアクリレート」が記載されていると共に、そのTg[℃](ガラス転移点)が「-55」であることが記載されている。
エ 甲4(東亞合成(株)光硬化型樹脂 東亞合成(株)発行)
製品名が「M-120」、化学名が「2-エチルヘキシルEO変性(n≒2)アクリレート」が記載されていると共に、硬化物物性として、Tg(℃)(ガラス転移点)が「-65」であること、特徴として、硬化物のTgが低いことが記載されている。
オ 甲5(特開平6-306247号公報)
(オ-1)
「【0022】
【実施例】
次に本発明の実施例を示す。以下「部」は「重量部」、「%」は「重量%」を意味する。
合成例1及び2
(A)成分の製造
温度計、還流冷却器、撹拌機および窒素ガス導入口を備えた四つ口フラスコにメトキシポリエチレングリコールモノメタクリレート(FA-400M、日立化成工業(株)製、ケン化価115~125KOHmg/g、酸価0.1以下、数平均分子量約490)を表1に示す配合量(固形分として)をフラスコに仕込み・・・(略)・・・重合率が99.9%以上になるように反応させて共重合体を得た。得られた共重合体に、pHが8~9となるようにトリエチルアミンを添加して中和した後、共重合体が30~40%固形分になるように溶剤(水)を加えた。得られた共重合体の加熱残分、粘度、ガラス転移点(Tg)及び重量平均分子量を表1に示す。」
(オ-2)
「【0023】
【表1】
」
(2)甲1に記載の発明
上記(ア-1)の請求項1、請求項7、請求項12を直列的に引用する請求項13には、
「(A)(メタ)アクリル酸系誘導体ポリマーと、
(B)1官能の(メタ)アクリル酸系誘導体モノマーと、
(C)2官能以上の(メタ)アクリル酸系誘導体とを含有する光学用樹脂組成物を硬化することによって得られる光学用樹脂材料であって、
前記(A)(メタ)アクリル酸系誘導体ポリマーが、炭素数4~18のアルキルアクリレートと水酸基を有するアクリレートとの共重合体であり、100,000~700,000の重量平均分子量を有し、
前記(B)1官能の(メタ)アクリル酸系誘導体モノマーが、
(B1)下記一般式
【化1】
(式中、lは2~4の整数、mは0または1であり、nは8~18の整数である)
で表される(メタ)アクリル酸系モノマーの少なくとも1種と、
(B2)繰り返し単位数4以上のポリアルキレンオキシアルキルエーテル(メタ)アクリレート、及び繰り返し単位数4以上のポリアルキレンオキシ(メタ)アクリレートからなる群から選択される少なくとも1種とを含む光学用樹脂材料。」が記載されているといえる。
ここで、上記(ア-6)には、上記の光学用樹脂組成物の硬化は、活性エネルギー線の照射、熱、あるいはこれらの併用による硬化方法によって実施することができることが記載されている。
また、上記(ア-3)には、上記成分(A)の配合量は、上記成分(A)、(B)及び(C)の全配合量を100とした場合、15~50重量部の範囲が好ましいことが記載され、上記(ア-4)には、上記成分(B)の配合量は、樹脂組成物を構成する全成分の配合量を100とした場合、40~70重量部の範囲が好ましいことが記載され、上記(ア-5)には、上記成分(C)の配合量は、樹脂組成物を構成する全成分の配合量を100とした場合、1~40重量部の範囲が好ましいことが記載されている。
これらの甲1の記載事項をまとめると、甲1には、
「(A)(メタ)アクリル酸系誘導体ポリマーと、
(B)1官能の(メタ)アクリル酸系誘導体モノマーと、
(C)2官能以上の(メタ)アクリル酸系誘導体とを含有する光学用樹脂組成物を、活性エネルギー線の照射、熱、あるいはこれらの併用によって硬化することによって得られる光学用樹脂材料であって、
前記(A)(メタ)アクリル酸系誘導体ポリマーが、炭素数4~18のアルキルアクリレートと水酸基を有するアクリレートとの共重合体であり、100,000~700,000の重量平均分子量を有し、
上記成分(A)、(B)及び(C)の全配合量を100とした場合、上記成分(A)の配合量は、15~50重量部であり、
樹脂組成物を構成する全成分の配合量を100とした場合、上記成分(B)の配合量は、40~70重量部であり、
樹脂組成物を構成する全成分の配合量を100とした場合、上記成分(C)の配合量は、1~40重量部であり、
前記(B)1官能の(メタ)アクリル酸系誘導体モノマーが、
(B1)下記一般式
【化1】
(式中、lは~4の整数、mは0または1であり、nは8~18の整数である)
で表される(メタ)アクリル酸系モノマーの少なくとも1種と、
(B2)繰り返し単位数4以上のポリアルキレンオキシアルキルエーテル(メタ)アクリレート、及び繰り返し単位数4以上のポリアルキレンオキシ(メタ)アクリレートからなる群から選択される少なくとも1種とを含む光学用樹脂材料。」(以下、「甲1発明」という。)が記載されているといえる。
(3)対比・判断
ア 本件発明1について
ここで、本件発明1と甲1発明を対比すると、甲1発明の「(B)1官能の(メタ)アクリル酸系誘導体モノマー」の「(メタ)アクリル酸」が「エチレン性不飽和基」を含有する化合物であり、「1官能」が、1つの「エチレン性不飽和基」を意味することは、技術的な常識であるといえるから、甲1発明の「(B)1官能の(メタ)アクリル酸系誘導体モノマー」は、本件発明1の「エチレン性不飽和基を1つ含有する化合物(B)」に相当する。
また、同様に、甲1発明の「(C)2官能以上の(メタ)アクリル酸系誘導体」は、本件発明1の「エチレン性不飽和基を2つ以上含有するエチレン性不飽和化合物(C)」に相当する。
さらに、甲1発明の「(A)(メタ)アクリル酸系誘導体ポリマー」の共重合成分である「炭素数4~18のアルキルアクリレート」及び「水酸基を有するアクリレート」は、それぞれ、本件発明1の「(メタ)アクリル酸アルキルエステル系モノマー(a1)」及び「官能基含有モノマー(a3)」である「水酸基含有モノマー」に相当するから、甲1発明の「(A)(メタ)アクリル酸系誘導体ポリマー」は、本件発明1の「アクリル系樹脂(A)」に相当し、甲1発明の「(A)(メタ)アクリル酸系誘導体ポリマー」の重量平均分子量は、10万~70万の範囲で、本件発明1の「アクリル系樹脂(A)」の重量平均分子量に重複している。
そして、甲1発明の「光学用樹脂組成物」及び「光学用樹脂材料」は、それぞれ、本件発明1の「粘着剤組成物[I]」及び「光学部材用粘着剤」と、「組成物」及び「光学用材料」という点で共通している。
そうすると、本件発明1と甲1発明は、
「アクリル系樹脂(A)、エチレン性不飽和基を1つ含有する化合物(B)、及びエチレン性不飽和基を2つ以上含有するエチレン性不飽和化合物(C)を含有する組成物が、活性エネルギー線及び/又は熱により硬化されてなる光学用材料であり、アクリル系樹脂(A)が(メタ)アクリル酸アルキルエステル系モノマー(a1)と官能基含有モノマー(a3)とを含有する共重合成分を共重合してなるものであり、官能基含有モノマー(a3)が、水酸基含有モノマーであり、アクリル系樹脂(A)の重量平均分子量が10万~70万である光学用材料。」の点で一致し、以下の点で相違しているといえる。
(相違点1)
硬化されてなる光学用材料が、本件発明1では、「(メタ)アクリル酸アルキルエステル系モノマー(a1)と、水酸基含有モノマー及びカルボキシル基含有モノマーの少なくとも一つである官能基含有モノマー(a3)とを含有する共重合成分を共重合してなるアクリル系樹脂(A)、エチレン性不飽和基を1つ含有する化合物(B)、エチレン性不飽和基を2つ以上含有するエチレン性不飽和化合物(C)及びイソシアネート系架橋剤である架橋剤(E)を含有する組成物を硬化させたもの」であるのに対し、甲1発明では、「炭素数4~18のアルキルアクリレートと水酸基を有するアクリレートとの共重合体である(A)(メタ)アクリル酸系誘導体ポリマーと、(B)1官能の(メタ)アクリル酸系誘導体モノマーと、(C)2官能以上の(メタ)アクリル酸系誘導体とを含有する組成物を硬化させたもの」である点。
(相違点2)
「組成物」及び「光学用材料」に関し、それぞれ、本件発明1では、「粘着剤組成物[I]」及び「光学部材用粘着剤」とされているのに対し、甲1発明では、「光学用樹脂組成物」及び「光学用樹脂材料」とされている点。
(相違点3)
エチレン性不飽和基を1つ含有する化合物(B)について、本件発明1では、「ガラス転移温度が-100~60℃」とされているのに対し、甲1発明では、その様な特定がなされていない点。
(相違点4)
エチレン性不飽和基を1つ含有する化合物(B)の含有量について、本件発明1では、アクリル系樹脂(A)100重量部に対して、10~100重量部であるのに対し、甲1発明では、成分(A)、(B)及び(C)の全配合量を100とした場合、成分(A)の配合量は、15~50重量部であり、樹脂組成物を構成する全成分の配合量を100とした場合、上記成分(B)の配合量は、40~70重量部である点。
(相違点5)
エチレン性不飽和基を1つ含有する化合物(B)とエチレン性不飽和基を2つ以上含有するエチレン性不飽和化合物(C)の合計量に対するエチレン性不飽和基を1つ含有する化合物(B)の含有割合が、本件発明1では、50mol%よりも大きいとされているのに対し、甲1発明では、そこまでの特定がなされていない点。
事案に鑑み、上記相違点のうち、上記(相違点1)について以下検討する。
まず、本件発明1の硬化されてなる「光学部材用粘着剤」について検討するに、本件明細書の段落【0020】の「官能基含有モノマー(a3)としては、後述の架橋剤(E)と反応することにより架橋点となりうる官能基を含有するモノマーが挙げられ・・・(略)・・・これらの中でも、効率的に架橋反応ができる点で、本発明では、上記官能基含有モノマー(a3)として水酸基含有モノマー及びカルボキシル基含有モノマーの少なくとも一つが用いられる。」との記載によれば、本件発明1の光学部材用粘着剤で、「アクリル系樹脂(A)」は、アクリル系樹脂(A)の水酸基含有モノマー、カルボキシル基含有モノマーによる水酸基、カルボキシル基と架橋剤であるイソシアネート系架橋剤が反応することにより架橋構造を形成しているといえる。
また、同段落【0064】の「上記単官能性不飽和化合物(B)の重量平均分子量としては、好ましくは150~10,000、特に好ましくは200~1,000、更に好ましくは220~500である。かかる重量平均分子量が大きすぎると単官能モノマーのネットワークの網の目がゆるくなり、耐久性が低下する傾向があり、小さすぎると粘着剤の乾燥時に揮発しやすくなってしまい、発明の効果が得難くなる傾向がある。」及び同段落【0070】の「かかる硬化では、単官能性芳香族化合物(B)、および多官能性不飽和化合物(C)が活性エネルギー線および/または熱により重合(ポリマー化)され、硬化される。」との記載によれば、本件発明1の光学部材用粘着剤で、「エチレン性不飽和基を1つ含有する化合物(B)」及び「エチレン性不飽和基を2つ以上含有するエチレン性不飽和化合物(C)」は、活性エネルギー線および/または熱による硬化でネットワークの網目を形成しているといえる。
そして、同段落【0010】の「アクリル系樹脂(A)とエチレン性不飽和基を1つ含有する化合物(B)とを含有する粘着剤組成物を活性エネルギー線照射及び/又は加熱することで、エチレン性不飽和化合物(B)の重合物とアクリル系樹脂(A)とが相互進入網目構造を形成することができ、従来のようにアクリル系樹脂(A)を高分子量化しなくとも高い耐久性能が発揮されることを見出し、更には、アクリル系樹脂(A)の分子量が低く樹脂粘度が低いため、塗工適正粘度にするための希釈溶剤の使用量が少なくて済み、乾燥適性にも優れることを見出し、本発明を完成した。」との記載によれば、本件発明1の光学部材用粘着剤は、上記の「アクリル系樹脂(A)」の架橋構造と、「エチレン性不飽和基を1つ含有する化合物(B)」及び「エチレン性不飽和基を2つ以上含有するエチレン性不飽和化合物(C)」のネットワークの網目の構造があいまって、「相互進入網目構造」を形成しているといえる。
これに対し、甲1発明の「光学用樹脂組成物」には、本件発明1の「架橋剤(E)」に相当するものが存在しないし、上記(ア-2)によれば、甲1発明の「(A)(メタ)アクリル酸系誘導体ポリマー」における「水酸基を有するアクリレート」は、ガラス板への粘着性の向上及び吸湿時の白濁の防止のため含まれるもので、この「水酸基」は、光学樹脂組成物の硬化後にその作用を発揮しているといえるから、甲1発明の「(A)(メタ)アクリル酸系誘導体ポリマー」では、本件発明1の様なイソシアネート系架橋剤を介した架橋構造が生じているとはいえない。さらには、甲1発明の光学用樹脂材料では、本件発明1の「相互進入網目構造」に相当する構造が生じているとはいえない。
そうすると、本件発明1の「光学部材用粘着剤」(硬化後)における「アクリル系樹脂(A)」及び「光学部材用粘着剤」は、それぞれ、甲1発明の「光学用樹脂材料」(硬化後)における「(A)(メタ)アクリル系誘導体ポリマー」及び「光学用樹脂材料」とその構造において相違するから、本件発明1の「光学部材用粘着剤」における「アクリル系樹脂(A)」及び「光学部材用粘着剤」は、それぞれ、甲1に記載も示唆もされていないといえる。
さらに、この点が、いくつかの化合物(モノマー)のガラス転移点を示すために引用された甲2~甲5に記載も示唆もされていないことは明らかである。
そして、この点に係る相違点1により、本件発明1は、同段落【0010】に記載される「従来のようにアクリル系樹脂(A)を高分子量化しなくとも高い耐久性能が発揮され、更には、アクリル系樹脂(A)の分子量が低く樹脂粘度が低いため、塗工適正粘度にするための希釈溶剤の使用量が少なくて済み、乾燥適性にも優れる」という格別の効果を奏するものである。
よって、上記(相違点2)~(相違点5)を検討するまでもなく、上記(相違点1)が、当業者が容易に想到し得るものであるとはいえないから、本件発明1は、甲1発明であるとはいえないし、甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえないから、本件特許1は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものである、または、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるとすることはできない。
イ 本件発明2ないし7について
本件発明2ないし7は、本件発明1の発明特定事項をさらに限定したものであるから、本件発明1と同様に、本件発明3ないし7は、いずれも甲第1号証に記載された発明であるとはいえないから、本件特許3ないし7は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものであるとすることはできないし、本件発明2ないし7は、いずれも甲1発明、又は甲1発明及び甲1に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから、本件特許2~7は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるとすることはできない。
2 取消理由3(特許法第36条第6項第1号)について
取消理由3は、要は、『本件発明の課題を解決するには、本件明細書の段落【0010】の記載によれば本件発明1の「アクリル系樹脂(A)」が網目構造を形成していることが必要であるといえるところ、(訂正前の)本件発明1の「アクリル系樹脂(A)、エチレン性不飽和基を1つ含有する化合物(B)、及びエチレン性不飽和基を2つ以上含有するエチレン性不飽和化合物(C)を含有する粘着剤組成物[I]が、活性エネルギー線及び/又は熱により硬化されてなる光学部材用粘着剤」との特定では、アクリル系樹脂(A)が網目を形成していることが特定されているとはいえないから、本件発明1は、「アクリル樹脂(A)」や「粘着剤組成物」について、本願明細書に記載される発明の課題を解決することを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものである。
よって、本件発明1、及び本件発明1を引用する本件発明2ないし7は、発明の詳細な説明に記載したものでなく、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。』というものである。
これに対し、訂正後の本件発明1では、アクリル系樹脂(A)が、「水酸基含有モノマー及びカルボキシル基含有モノマーの少なくとも一つ」である「官能基含有モノマー(a3)」を含有する共重合成分を共重合して成るものであること、及び「粘着剤組成物[I]」が「イソシアネート系架橋剤」である「架橋剤(E)」を含有することが特定され、粘着剤組成物[I]の硬化により、アクリル系樹脂(A)の「水酸基及びカルボキシル基の少なくとも一つ」と「イソシアネート系架橋剤」が反応し、「アクリル系樹脂(A)」が網目構造を形成していることが技術的に明らかになり、本件発明1が、本願明細書に記載される発明の課題を解決することを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものとはいえなくなった。
よって、本件発明1、及び本件発明1を引用する本件発明2ないし7は、発明の詳細な説明に記載したものでないとはいえないから、本件発明1~7は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないとはいえない。
3 取消理由通知において採用しなかった特許異議の申立理由について
(1)申立理由1(特許法第36条第6項第1号)について
申立理由1は、『本件発明1には、「エチレン性不飽和基を1つ含有する化合物(B)のTgが-100~60℃であり」と特定されている。
しかしながら、本件明細書に記載された(B)成分の具体例は、低分子量の化合物ばかりであり、常温で液体の化合物か、常温で固体であってもTgを有しないと考えられる化合物しか記載されていない。
従って、本件発明1及び本件発明1を引用する本件発明2ないし7は、発明の詳細な説明に記載されたものではない。』というものであるといえる。
しかしながら、通常、モノマーである「エチレン性不飽和基を1つ含有する化合物(B)」(以下、「化合物(B)という。)に対しガラス転移温度(Tg)を特定することができないのに対し、その重合体(ポリマー)に対しては、ガラス転移温度(Tg)を特定することができることは技術的な常識である。
また、本件明細書の段落【0067】の「単官能不飽和化合物(B)のガラス転移温度(Tg)は、耐久性と粘着物性のバランスが取れる点で-100~60℃であり、更に好ましくは-30~60℃、殊に好ましくは-10~20℃である。単官能性不飽和化合物(B)のガラス転移温度が高すぎると粘着力のコントロールが困難になる傾向があり、低すぎると耐久性に劣る傾向がある。」との記載によれば、化合物(B)のガラス転移温度(Tg)を-100~60℃とするのは、光学部材用粘着剤の耐久性と粘着物性のバランスを取るためであるところ、この耐久性と粘着物性に影響するのは、粘着剤組成物[I]が「硬化した後」の化合物(B)の「重合体」であることから、本件発明1の「エチレン性不飽和基を1つ含有する化合物(B)のガラス転移温度(Tg)が-100~60℃であり」との特定は、化合物(B)の「重合体」のガラス転移温度(Tg)を意味していることは、明細書の記載から当業者にとり明らかである。
そうすると、本件発明1の上記の特定、及びそれに対応する本件明細書の記載は、いずれも化合物(B)の重合体のガラス転移温度(Tg)に関するものであるといえるから、本件発明1ないし7は、発明の詳細な説明に記載されたものであり、上記の「申立理由1」では、本件発明1ないし7は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないとはいえない。
(2)申立理由2(特許法第36条第6項第2号)について
申立理由2は、『本件明細書には、エチレン性不飽和基を1つ含有する化合物(B)のTgは、Foxの式を用いてい計算したものであることが記載されている(段落【0067】)。
一方、本件明細書の段落【0039】に記載されたFoxの式をホモポリマーに適用すると、Wa=1であるから下式に変換される。
1/Tg=1/Tga
これを変形すると Tg=Tgaとなる。
Tgaは、ホモポリマーのTg(K)を意味するから、エチレン性不飽和基を1つ含有する化合物(B)のTgがホモポリマーのTgを意味するとすれば、本件発明1のTgは、定義されていないことになる。
ポリマーのTgの測定方法としては、例えば、示差走査熱量測定(DSC)、示差熱分析法(DTA)及び動的粘弾性測定等が知られており、これら測定方法によりTgの値が異なることは当業者の常識として知られることである。また、本件明細書には、Tgの測定温度が定義されておらず、この点も不明確である。例えば、常温で液体の水も、低温状態ではTgを有することは、当業者の常識として知られていることである。
よって、本件発明1のガラス転移温度は一義的に解釈することはできないから、本件発明1及び本件発明1を引用する本件発明2ないし7は、不明確である。』というものであるといえる。
しかしながら、Foxの式に関する本件明細書の段落【0039】の「ガラス転移温度はFoxの式より算出されるものである。
Tg:共重合体のガラス転移温度(K)
Tga:モノマーAのホモポリマーのガラス転移温度(K)
Wa:モノマーAの重量分率
Tgb:モノマーBのホモポリマーのガラス転移温度(K)
Wb:モノマーBの重量分率
Tgn:モノマーNのホモポリマーのガラス転移温度(K)
Wn:モノマーNの重量分率
(Wa+Wb+・・・+Wn=1)」との記載において、算出されるガラス転移温度Tgが「共重合体のガラス転移温度(K)」とされているように、Foxの式は、化合物(B)の「共重合体」のガラス転移温度を算出する際に用いることは、本件明細書の記載から明らかである。
そして、Foxの式で共重合体のTgを算出する際に、各モノマーのホモポリマーのTgを既知の値として用いるように、化合物(B)のホモポリマーのTgは、既知の値を用いるか、必要があればTgの測定を行えば良いことは、当業者にとり明らかであるといえる。
そうすると、本件発明1において、化合物(B)がホモポリマーである場合にTgが定義されていないということはない。
また、ガラス転移温度の測定では、主な測定方法のなかでも、示差走査熱量測定(DSC)が、測定が簡便であり、原理面でも優位性があるため、最も使用頻度が高い測定方法であるとされ(平成28年11月1日付け意見書で乙第2号証として提出された「新高分子実験学 第8巻高分子の物性(1)-熱的・力学的性質-」初版2刷 高分子学会編、共立出版株式会社、2007年5月15日発行、第46、47、51、59頁参照)、示差走査熱量測定(DSC)を用いた高分子のガラス転移温度の測定方法がJISとして規格化されている(乙第2号証、第51頁参照)。
そうすると、本件明細書にガラス転移温度の測定方法や測定条件が記載されていないとしても、本件発明1の化合物(B)のガラス転移温度は、JISとして規格化までされている示差走査熱量測定(DSC)等の一般的な測定方法及び測定条件で特定されるものであることは、当業者にとり明らかであるといえる。
よって、当業者の技術的な常識に照らせば、本件発明1のガラス転移温度を一義的に解釈することができないということはなく、本件発明1ないし7は、明確ではないとはいえないから、本件発明1ないし7は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないとはいえない。
第6 むすび
上記「第5」で検討したとおり、本件特許1ないし7は、特許法第29条の規定に違反してされたものであるということはできないし、同法第36条第4項第1号又は第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるということはできず、同法第113条第2号又は第4号に該当するものではないから、上記取消理由1ないし3、及び、特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、本件特許1ないし7を取り消すことはできない。
また、他に本件特許1ないし7を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
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2016-700400