特許異議申立
2017-700799
ポリビニルアルコール系フィルム
- 審判番号
- 2017-700799
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2013-067783外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2017年08月21日
- 審決日
- 2018年01月29日
- 公報発行日
- 2018年05月25日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】日本合成化学工業株式会社
- 【異議申立人】森川 真帆
- 分類
- P1651.121-YAA(C08J) / P1651.537-YAA(C08J)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第29条第1項第3号、特許法第36条第6項第1号、特許法第120条の5第5項、特許法第120条の5第2項、特許法第29条、特許法第36条
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第6084090号発明「ポリビニルアルコール系フィルム」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
【結 論】
特許第6084090号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1、〔2-4〕について訂正することを認める。
特許第6084090号の請求項2ないし4に係る特許を維持する。
特許第6084090号の請求項1に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
特許第6084090号の請求項1~4に係る特許についての出願は、平成25年3月28日に特許出願され、平成29年2月3日にその特許権の設定登録がされ、その後、平成29年8月21日付けで特許異議申立人 森川真帆(以下、「特許異議申立人」という。)により請求項1~4に対して特許異議の申立てがされ、同年10月13日付けで取消理由が通知され、同年12月12日付け(受理日:同年12月14日)で意見書の提出及び訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)がされ、同年12月18日付けで訂正請求があった旨の通知(特許法第120条の5第5項)がされ、平成30年1月11日付け(受理日:同年1月12日)で特許異議申立人から意見書が提出されたものである。
第2 本件訂正請求の適否
1 訂正の内容
本件訂正請求による訂正の内容は、次の訂正事項1~3のとおりである。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1を削除する。
また、請求項1を直接的に引用する請求項3において「請求項1または2」と記載されているのを「請求項2」に、請求項1を直接的に引用する請求項4において「請求項1~3いずれか」と記載されているのを「請求項2または3」に、それぞれ訂正する。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2に「乾燥雰囲気条件下におけるフィルム幅方向の、110℃でのフィルムの貯蔵弾性率(α)が、5×108Pa以上であることを特徴とする請求項1記載のポリビニルアルコール系フィルム。」と記載されているのを、「乾燥雰囲気条件下におけるフィルム幅方向の、110℃でのフィルムの貯蔵弾性率(α)と180℃でのフィルムの貯蔵弾性率(β)との比(α/β)が5以上であり、乾燥雰囲気条件下におけるフィルム幅方向の、110℃でのフィルムの貯蔵弾性率(α)が、7×108Pa~13×108Paであることを特徴とするポリビニルアルコール系フィルム。」に訂正する(請求項2の記載を直接的に引用する請求項3及び4も同様に訂正する)。
(3)訂正事項3
願書に添付した明細書の段落【0011】に、「即ち、本発明の要旨は、乾燥雰囲気条件下におけるフィルム幅方向の、110℃でのフィルムの貯蔵弾性率(α)と180℃でのフィルムの貯蔵弾性率(β)との比(α/β)が5以上であるポリビニルアルコール系フィルムに関するものである。」と記載されているのを、「即ち、本発明の要旨は、乾燥雰囲気条件下におけるフィルム幅方向の、110℃でのフィルムの貯蔵弾性率(α)と180℃でのフィルムの貯蔵弾性率(β)との比(α/β)が5以上であり、乾燥雰囲気条件下におけるフィルム幅方向の、110℃でのフィルムの貯蔵弾性率(α)が、7×108Pa~13×108Paであるポリビニルアルコール系フィルムに関するものである。」に訂正する。
また、願書に添付した明細書の段落【0018】に、「また、本発明のポリビニルアルコール系フィルムにおいては、乾燥雰囲気条件下におけるフィルム幅方向の、110℃でのフィルムの貯蔵弾性率(α)が、5×108Pa以上であることが均一な膜厚の成形品を得る点で好ましく、更には6×108~15×108Pa、特には7×108~13×108Paであることが好ましい。」と記載されているのを、「また、本発明のポリビニルアルコール系フィルムにおいては、乾燥雰囲気条件下におけるフィルム幅方向の、110℃でのフィルムの貯蔵弾性率(α)が、7×108~13×108Paであることが均一な膜厚の成形品を得る点で好ましい。」に訂正する。
2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否、独立特許要件の適否及び一群の請求項
(1)訂正事項1について
訂正事項1のうち、請求項1を削除する訂正については、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当すると認められ、かつ、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであり、また実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
また、請求項1を削除することを受けて、当該請求項1を引用しないように下位請求項の引用関係を整合させる訂正については、明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当すると認められ、かつ、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであり、また実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(2)訂正事項2について
訂正事項2は、ポリビニルアルコール系フィルムの性質について、「乾燥雰囲気条件下におけるフィルム幅方向の、110℃でのフィルムの貯蔵弾性率(α)」の数値範囲が、訂正前は「5×108Pa以上」であったところ、それよりも数値範囲が限定された「7×108Pa~13×108Pa」の範囲に訂正するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当すると認められる。そして、かかる数値範囲の根拠は、例えば願書に添付した明細書の段落【0018】に記載されていることから、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであり、また実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(3)訂正事項3について
訂正事項3は、上記訂正事項2に連動して、願書に添付した明細書の段落【0011】及び【0018】についても、「乾燥雰囲気条件下におけるフィルム幅方向の、110℃でのフィルムの貯蔵弾性率(α)」の数値範囲を「7×108Pa~13×108Pa」に限定する訂正である。よって、訂正事項3は、形式的に訂正後の請求項2の記載に整合させるための訂正であるといえるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当すると認められ、かつ、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであり、また実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(4)一群の請求項
訂正前の請求項2~4は、訂正前の請求項1を引用しており、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものであるから、訂正前の請求項1~4は一群の請求項である。
したがって、本件訂正請求は、一群の請求項に対して請求されたものと認められる。
(5)別の訂正単位とする求めについて
本件訂正請求書の第6頁において、訂正後の請求項2、3及び4についての訂正が認められる場合には、一群の他の請求項とは別途訂正することを求めている。
上記(1)~(4)のとおり、本件訂正請求による請求項2、3及び4についての訂正が認められるものであるため、上記一群の請求項とは別途訂正することを認める。
3 小括
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同法同条第4項及び第9項で準用する同法第126条第4~6項の規定に適合するので、訂正後の請求項1、〔2~4〕について訂正することを認める。
第3 本件発明
上記第2のとおり、本件訂正請求による訂正が認められるから、訂正後の請求項1~4に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」~「本件発明4」という。)は、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1~4に記載された次の事項により特定されるとおりのものである(下線は、訂正された箇所を示す。)。
【請求項1】
(削除)
【請求項2】
乾燥雰囲気条件下におけるフィルム幅方向の、110℃でのフィルムの貯蔵弾性率(α)と180℃でのフィルムの貯蔵弾性率(β)との比(α/β)が5以上であり、乾燥雰囲気条件下におけるフィルム幅方向の、110℃でのフィルムの貯蔵弾性率(α)が、7×108Pa~13×108Paであることを特徴とするポリビニルアルコール系フィルム。
【請求項3】
乾燥雰囲気条件下におけるフィルム幅方向の、180℃でのフィルムの(β)が、3×108Pa以下であることを特徴とする請求項2記載のポリビニルアルコール系フィルム。
【請求項4】
ポリビニルアルコール系フィルムが、二軸延伸されたポリビニルアルコール系フィルムであることを特徴とする請求項2または3記載のポリビニルアルコール系フィルム。
第4 特許異議の申立ての概要
特許異議申立人は、証拠方法として、
甲1:山田雅章 他、「ケン化度の異なるポリビニルアルコールをブレンドした相分離系接着剤による難接着木材の接着I-ブレンドPVAの相構造-」、日本接着学会誌、一般社団法人日本接着学会、平成24年6月1日発行、第48巻、第6号、表紙、(7)~(17)頁(通し頁:193~203頁)及び最終頁(なお、甲1と併せて、甲1中の第(13)頁の「Fig.10」の上図を拡大したものが甲第1-2号証として提出されている。)
甲2:特開2007-92041号公報
甲3:特開2006-327881号公報
を提出し、特許異議の申立てとして、次の主張をしている。
・本件特許発明1~4は、甲1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定に違反して特許されたものであり、本件特許は同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
・本件特許発明1~4は、甲2及び甲3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであり、本件特許は同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
・本件特許発明1~4は発明の詳細な説明に記載されたものではないので、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないものであり、本件特許は同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
第5 当審が通知した取消理由
当審が通知した取消理由の概要は、次のとおりである。
本件特許の請求項1~4に係る特許は、下記(1)~(3)の理由によって、特許法第29条に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
また、本件特許は、下記の理由(4)の理由によって、特許法第36条に違反してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
(1)本件特許の請求項1~3に係る発明は、甲1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものである。
(2)本件特許の請求項1~3に係る発明は、甲1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものである。
(3)本件特許の請求項4に係る発明は、甲1に記載された発明並びに甲2及び甲3の記載に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものである。
(4)本件特許の請求項1~4に係る発明は、本件特許の明細書に記載されたものとは認められないから、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
第6 取消理由についての当審の判断
1 特許法第29条第1項第3号(新規性)について
(1)甲1の記載
取消理由通知において提示した、本件特許の出願前に頒布されたことが明らかな刊行物である甲1には、以下のとおりア~キの記載がある。(頁については丸括弧()内の数字で示す。)
ア
「油状成分を多く含み接着が阻害される木材に適応可能な接着剤を開発するため,ケン化度の異なる5種類のPVAを用い,単独系とブレンド系における相構造の観察や動的粘弾性について検討した。
単独系,ブレンド系ともにケン化度の低いPVAでは吸湿率は高くなった。また,pMDIの添加によりほとんどのPVAで吸湿率が低く抑えられたが,ケン化度が同程度の場合は単独系よりもブレンド系の方が吸湿率は低かった。
SEM観察により完全ケン化と低ケン化度PVAのブレンド系フィルムで海島構造が確認された。また分率の多いPVAが海に,少ないPVAが島領域になる傾向が見られた。ブレンドPVAにはN77とN99の二つのTgが連続して観測され,相分離していることが確認された。また,結晶化度はN99の比率が高いほど高く,pMDI添加系についてもほぼ同様の傾向を示した。
ブレンド系PVAの貯蔵弾性率は,Tg以上の温度域では完全ケン化PVAの割合が多いものほど高かった。pMDIを添加した場合,架橋によるゴム状平坦部が現れた。ケン化度の低いPVAの比率が高いブレンド系ほどゴム状平坦部のE’値が高く架橋密度も高い傾向が見られた。」(第7頁「要旨」)
イ
「本報では特にフィルム物性について検討するため,ケン化度の異なる5種類の一般PVAを用い,それらをそのまま使用した単独系とブレンドして使用したブレンド系におけるフィルムの吸湿率,走査型電子顕微鏡によるフィルムの構造観察,示差走査熱量測定や動的粘弾性測定による結晶化度,ガラス転移温度等について実験を行った。」(第8頁左欄第2~7行)
ウ
「2.1 供試材料
2.1.1 供試PVAおよびそのブレンド法
本実験で使用した単独系およびブレンド系PVAをTable 1に示す。なお,単独系PVAではNの後の数字はケン化度を示している。これらに使用したPVAは全て日本合成化学工業(株)の試作品である。単独系については,粉末状のPVAと蒸留水をビーカーに取り,80℃の湯浴中にて1時間プロペラで攪拌しながら溶解した。水溶液濃度は15%とした。ブレンド系水溶液の作製は,単独系PVA水溶液を各ブレンド比になるようにビーカーに取り,ガラス棒で200回攪拌して作製した。なお,ブレンド系PVAの親・疎水基量はブレンドした2種類の単独系PVAのケン化度およびブレンド比から算出した値である。」(第8頁左欄第9~21行)
エ
「
」(第8頁)
オ
「2.2.4 動的粘弾性の測定
作成したフィルムを120℃の乾燥機中に2時間入れ加温処理を行った。その後,60℃で3日間減圧乾燥し全乾とした。動的粘弾性の測定はDVA-225型(アイティー計測制御(株))を用い,測定周波数10Hz,昇温速度約3℃/分で行った。なお,測定中は試料の吸湿を防ぐため,乾燥空気を流入した。」(第8頁右欄第31行~第9頁左欄第5行)
カ
「3.4 動的粘弾性
3.4.1 ブレンド系PVAの動的粘弾性
N99とN77の単独系およびブレンド系のpMDI未添加系,添加系の動的粘弾性をFig.10に示す。pMDI未添加の場合,ガラス転移点(Tg)以上の温度域では結晶性の高いN99の貯蔵弾性率(E’)が最も高く,N99の割合が多い80/20,60/40,40/60,20/80の順に値は低くなった。40/60と20/80の間でE’挙動に大きな差が見られるが,これはフィルム中の相構造の結晶化度の違いによるものと考えられる。3.2のSEM観察から,40/60フィルムには結晶性の高いN99が海領域(連続相)となった構造が存在するのに対し,20/80は結晶性の低いN77が海領域となった海島構造を有していて40/60と20/80との間で相反転が起こっている可能性があり,このようなE’挙動の違いが生じたものと思われる。なお,40/60については,SEMの項でも考察したように,造膜の過程でテフロンおよび空気に触れている表裏面に表面張力の低いN77が移動しN99はフィルム中央部に残り,表層部では連続相がN77,分散相がN99,芯部ではその逆になっている。本来は分率の高いN77が連続相になる筈であるが,部分的に弾性率の高いN99が連続相になっているため,全体としてはN99の影響が強く粘弾性挙動に反映されているものと考えられる。なお,ここではテフロン板上でフィルムをキャストしており,PVA水溶液はテフロンと空気に挟まれた形態をとっている。実際の木材接着ではPVA水溶液の上下に木材が存在することから,ここで得られた結果が必ずしも木材接着に反映するか否かは不明である。」(第13頁右欄第1行~第14頁左欄第18行)
キ
「
」(第13頁)
(2)甲1に記載された発明
甲1は、記載ア及びイによると、油状成分を多く含み接着が阻害される木材に適応可能な接着剤を開発するため、ケン化度の異なる5種類のPVAを用い、単独系とブレンド系における相構造の観察や動的粘弾性について検討した結果を示す文献である。
甲1の記載ウにおいて、実験に使用された「供試PVA」として、記載エの「Table 1」に示されるとおりのPVAを用いたことが記載されている。また、記載オには、供試PVAから作成したフィルムの乾燥方法及び動的粘弾性の測定方法が記載され、その測定結果が記載カに、そして各PVAの貯蔵弾性率と温度との関係を示す図が記載キの「Fig.10」に記載されている。かかる図中、PVAのみの結果である上側の図の「N99」(点線で示されたもの)に着目すると、その110℃及び180℃における貯蔵弾性率E’(N/m2)の値は、それぞれおよそ5×108N/m2、7×107N/m2であることが看取される。
したがって、特に記載エにおける供試PVAとして「N99」に着目し、これと記載キの「Fig.10」における「N99」の貯蔵弾性率の値に基づくと、甲1には次の発明が記載されているといえる(以下、「甲1発明」という。)。
甲1発明:
「乾燥雰囲気条件下におけるフィルムの、110℃でのフィルムの貯蔵弾性率が約5×108N/m2であり、180℃でのフィルムの貯蔵弾性率が約7×107N/m2であるポリビニルアルコールフィルム。」
(3)対比・判断
ア 本件発明2について
本件発明2と甲1発明とを対比する。
甲1発明における「ポリビニルアルコールフィルム」は、本件発明2における「ポリビニルアルコール系フィルム」に相当することは明らかである。
甲1発明における「貯蔵弾性率」については、甲1の記載オにおけるフィルムの乾燥方法及び動的粘弾性の測定方法の記載からみて、本件発明2における「貯蔵弾性率」と同じものを意味していることは明らかである。
また、甲1発明における、本件発明2の「110℃でのフィルムの貯蔵弾性率(α)と180℃でのフィルムの貯蔵弾性率(β)との比(α/β)」に対応する値については、甲1発明の110℃でのフィルムの貯蔵弾性率(α)=5×108N/m2と、180℃でのフィルムの貯蔵弾性率(β)=7×107N/m2とから計算すると、α/β=5×10/7=約7.1となる。したがって、甲1発明における「110℃でのフィルムの貯蔵弾性率(α)と180℃でのフィルムの貯蔵弾性率(β)との比(α/β)」は、本件発明2の数値範囲「5以上」に含まれている。
したがって、本件発明2と甲1発明とは次の点で一致している。
「乾燥雰囲気条件下におけるフィルムの、110℃でのフィルムの貯蔵弾性率(α)と180℃でのフィルムの貯蔵弾性率(β)との比(α/β)が5以上である、
ポリビニルアルコール系フィルム。」
そして、両者は次の点で一見相違している。
(相違点1)
貯蔵弾性率に係るフィルムの方向について、本件発明2ではフィルムの「幅方向」であることが特定されているのに対し、甲1発明ではそうであるか不明な点。
(相違点2)
110℃でのフィルムの貯蔵弾性率(α)について、本件発明2では「7×108Pa~13×108Pa」であるのに対し、甲1発明では「約5×108N/m2」である点。
事案に鑑み、相違点2について検討する。
貯蔵弾性率の単位として1N/m2=1Paと換算できることは技術常識であるところ、110℃でのフィルムの貯蔵弾性率(α)について、本件発明2では7×108Pa~13×108Paであるのに対し、甲1発明では約5×108Paであり、数値範囲に重複する部分がないから、相違点2は実質的な相違点であることは明らかである。
したがって、相違点1について検討するまでもなく、本件発明2は、甲1に記載された発明であるとはいえない。
イ 本件発明3、4について
本件発明3、4は、請求項2を直接又は間接的に引用してなるものであり、本件発明2の発明特定事項をすべて含むものであるから、本件発明2と同様に、甲1に記載された発明であるとはいえない。
2 特許法第29条第2項(進歩性)について
(1)本件発明2について
上記1(3)アで示したとおり、本件発明2と甲1発明との間には、相違点1及び相違点2が存在する。
事案に鑑み、相違点2について検討する。
甲1には、実験に使用された「供試PVA」の一つとして「N99」というものが記載されており、かかる「N99」の貯蔵弾性率と温度との関係を示す図が記載キの「Fig.10」で示されているにすぎない。してみると、甲1には、「N99」の110℃における貯蔵弾性率の値に関して、およそ5×108N/m2という値を含まない数値範囲である「7×108Pa~13×108Pa」に変更するということは記載も示唆もされていない。よって、甲1発明において、110℃でのフィルムの貯蔵弾性率(α)を「7×108Pa~13×108Pa」とすることに動機付けがない。
したがって、本件発明2は、相違点1について検討するまでもなく、甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(2)本件発明3、4について
本件発明3、4は、請求項2を直接又は間接的に引用してなるものであり、本件発明2の発明特定事項をすべて含むものであるから、本件発明2と同様に、甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
3 特許法第36条第6項第1号(サポート要件)について
本件発明2~4が解決しようとする課題は、本件特許の明細書の段落【0009】等の記載に基づくと、経済的メリットが大きいうえに、水蒸気等のガスバリア性や成形性に優れた積層体を得るためのポリビニルアルコール系フィルムを提供することであると認められる。
本件発明2~4が、本件特許の明細書の記載及び技術常識に照らして、上記課題を解決することができると理解できるかについて検討する。
まず、ポリビニルアルコール系フィルムを採用することによって、経済的なメリットがある点については、本件特許の明細書の段落【0006】の記載からみて明らかである。
次に、本件特許の明細書の段落【0065】~【0079】に記載された「実施例」の特に【表2】には、積層体すなわち基材フィルム、ポリビニルアルコール系フィルム及びフッ素樹脂フィルムを積層したものについての「透湿度」と「成形性」の評価結果が記載されている。かかる記載によれば、本件発明2~4に含まれる具体的なポリビニルアルコール系フィルム(B-1又はB-2)を用いた積層体は「透湿度」と「成形性」の点で満足いくものであり、一方、本件発明2~4には含まれないポリビニルアルコール系フィルム(B’-1又はB’-2)を用いた積層体は、「透湿度」と「成形性」のいずれかが満足いくものではなかったことが理解できる。積層体については、ポリビニルアルコール系フィルム以外は同じ素材であるため、「透湿度」と「成形性」の評価の差については、ポリビニルアルコール系フィルム自体の差に基づくものと理解することができる。
すなわち、本件特許の明細書には、上記課題を解決することができるポリビニルアルコール系フィルムが開示されていると認められるから、本件発明2~4は本件特許の明細書に記載されたものであるといえる。
第7 取消理由通知で採用しなかった特許異議申立の理由について
1 甲2及び甲3の記載
(1)甲2の記載
本件特許の出願前に頒布されたことが明らかな刊行物である甲2には、以下のとおりク~サの記載がある。
ク
「【0025】
ポリビニルアルコール系フィルムの製造(製膜)に用いるポリビニルアルコール系樹脂溶液としては、ポリビニルアルコール系樹脂含有量(濃度)が5~70重量%のポリビニルアルコール系樹脂水溶液を調製することが好ましく、10~60重量%のポリビニルアルコール系樹脂水溶液を調製することがより好ましい。」
ケ
「【0027】
次いで、上記で調製したポリビニルアルコール系樹脂水溶液は、製膜機(押出機)により、製膜されるが、かかる水溶液を一旦乾燥させて、ペレット化あるいはフレーク化してから製膜機に供給して押出製膜することも可能である。」
コ
「【0029】
押出機での溶融混練温度は、55~160℃であることが好ましい。かかる温度が下限値未満ではフィルム肌の不良を招く傾向があり、上限値を超えると発泡現象を招く傾向があり、好ましくない。押出製膜されたフィルムは、次いで乾燥されるのであるが、このときの乾燥温度は、70~120℃であることが好ましく、80~100℃がより好ましい
。かかる温度が下限値未満ではフィルムの乾燥時間が不必要に長くなったり、水分が残りすぎてしまって後工程に悪影響を及ぼす傾向があり、逆に上限値を超えるとフィルムの水分が失われすぎて硬くなってしまい、延伸工程で充分延伸ができなくなってしまう傾向がある。」
サ
「【0030】
かくして、ポリビニルアルコール系フィルムが得られるのであるが、本発明においては、耐水性、可撓性、機械的強度や酸素遮断性等の物性を安定付与できる点で、かかるフィルムが延伸されていることが必要で、かかる延伸方法について以下に説明する。
【0031】
延伸するにあたっては、縦(機械)方向に一軸延伸してもよいが、縦・横両方向に二軸延伸することが、上記の物性をより改善することができる点で好ましい。」
(2)甲3の記載
本件特許の出願前に頒布されたことが明らかな刊行物である甲3には、以下のとおりシ、スの記載がある。
シ
「【0018】
次いで、上記で調製したポリビニルアルコール水溶液は、製膜機(押出機)により、製膜される」
ス
「【0019】
押出機での溶融混練温度は、55~140℃(さらには55~130℃)が好ましく、かかる温度が55℃未満ではフィルム肌の不良を招き、140℃を超えると発泡現象を招き好ましくない。押出製膜されたフィルムは、次いで乾燥されるが、このときの乾燥温度は、70~120℃(さらには80~100℃)で行うことが好ましく、かかる温度が70℃未満では乾燥に時間がかかりすぎたり残存水分が過剰となり、逆に120℃を超えるとフィルムの柔軟性が失われて後の延伸工程に支障をきたす場合があり好ましくない。
尚、ポリビニルアルコールの製膜において、最初に調整される水溶液は、そのまま製膜に用いることも出来るが、これを一旦含水状態でペレット化あるいはフレーク化してから製膜機に供給して押出製膜することも可能である。
かくして、本発明の保護方法に用いるポリビニルアルコールフィルムが得られるのであるが、本発明においては、かかるフィルムが延伸されていることが、耐水性、可撓性、機械的強度や酸素遮断性等の物性を安定付与できる点で好ましく、かかる延伸方法について説明する。
【0020】
延伸するにあたっては、縦(機械)方向に一軸延伸してもよいが、縦・横両方向に二軸延伸することが、上記の物性をより改善することができ好ましい。・・・(以下省略)・・・」
2 判断
甲2及び甲3には、溶融混練して押出することでポリビニルアルコール系フィルムを製造することが記載されているが、貯蔵弾性率については記載がなく、ましてや、本件発明2の発明特定事項である「110℃でのフィルムの貯蔵弾性率(α)」に着目して、これを「7×108Pa~13×108Pa」とすることについては記載も示唆もない。
したがって、本件発明2は、甲2及び甲3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
また、本件発明3、4は、請求項2を直接的又は間接的に引用してなるものであり、本件発明2の発明特定事項をすべて含むものであるから、本件発明2と同様に、甲2及び甲3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
第8 むすび
以上のとおりであるから、当審が通知した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項2~4に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項2~4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
さらに、本件特許の請求項1は、訂正により削除されたため、本件特許の請求項1に対する特許異議の申立てについては、対象となる請求項が存在しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2017-700799