特許異議申立
2016-700245
繊維強化熱可塑性樹脂シートの圧縮成形方法
- 審判番号
- 2016-700245
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2010-195269外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2016年03月23日
- 審決日
- 2017年01月16日
- 公報発行日
- 2017年04月28日
- 結論
- 訂正認容
- 分類
- P1651.121-YAA(B29C) / P1651.537-YAA(B29C)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第1号、特許法第120条の5第2項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第5789933号発明「繊維強化熱可塑性樹脂シートの圧縮成形方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
【結 論】
特許第5789933号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-3〕について訂正することを認める。
特許第5789933号の請求項1及び3に係る特許を維持する。
特許第5789933号の請求項2に係る特許についての申立てを却下する。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
特許第5789933号の請求項1ないし3に係る特許についての出願は、平成22年9月1日を出願日とする特許出願であって、平成27年8月14日にその特許権の設定登録がされ、その後、特許異議申立人植松愛(以下、単に「特許異議申立人」という。)により請求項1ないし3に係る特許について特許異議の申立てがなされ、平成28年7月20日付けで請求項1ないし3に係る特許について取消理由が通知され、その指定期間内である同年10月3日に意見書の提出及び訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)がなされ、同年10月18日付けで特許異議申立人に対して訂正請求があった旨の通知がなされ、その指定期間内に特許異議申立人から意見書が提出されなかったものである。
第2 訂正の適否についての判断
1.訂正の内容
本件訂正請求による訂正の内容は以下の訂正事項(1)ないし(4)のとおりである。
訂正事項(1) 請求項1において、「シート上の任意のx軸方向とこれに直交するy軸方向にそれぞれ切削した試験片の曲げ弾性率の比が4/5~5/4であるランダム強化タイプ繊維強化熱可塑性樹脂シートから切削した複合材料を金型の凹部に少なくとも一層配置して圧縮成形する方法において、金型の凹部の水平面への投影図において、最も長い軸をx軸とし、この中点と直交する軸をy軸とし、この金型の凹部のx軸とy軸の長さをそれぞれa,bとしたとき、a/bが2.0以上であり、複合材料のx軸方向の長さm,y軸方向の長さnが下記式(i)および(ii)を満足することを特徴とする方法:
0.8≦m/a<1.0 (i)
0.8≦n/b<1.0 (ii)」とあるのを、
「シート上の任意のx軸方向とこれに直交するy軸方向にそれぞれ切削した試験片の曲げ弾性率の比が4/5~5/4であるランダム強化タイプ繊維強化熱可塑性樹脂シートから切削した複合材料を長方形の金型の凹部に一層又は二層配置して圧縮成形する方法において、複合材料が、金型の凹部と相似形であり、金型の凹部の水平面への投影図において、最も長い軸をx軸とし、この中点と直交する軸をy軸とし、この金型の凹部のx軸とy軸の長さをそれぞれa,bとしたとき、a/bが2.0以上であり、複合材料のx軸方向の長さm,y軸方向の長さnが下記式(i)および(ii)を満足すること、及びランダム強化タイプ繊維強化熱可塑性樹脂シートが、無撚で長さ10~50mmの強化繊維50~85質量%、および熱可塑性樹脂50~15質量%からなり、一軸方向に配向した強化繊維に熱可塑性樹脂を含浸して得られたプリプレグテープを10~50mmにカットし、その短冊をランダムに配置した後、予備加熱成形し、強化繊維を実質的に無方向に分散したものであることを特徴とする方法:
0.85≦m/a<0.98 (i)
0.85≦n/b<0.98 (ii)」に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項3も同様に訂正する。)。
訂正事項(2) 請求項2を削除する。
訂正事項(3) 請求項3において、「請求項2に記載の方法。」とあるのを、
「請求項1に記載の方法。」に訂正する。
訂正事項(4) 明細書の段落【0013】において、「すなわち、本発明は、以下の(1)~(3)の構成を有するものである。
(1)シート上の任意のx軸方向とこれに直交するy軸方向にそれぞれ切削した試験片の曲げ弾性率の比が4/5~5/4であるランダム強化タイプ繊維強化熱可塑性樹脂シートから切削した複合材料を金型の凹部に少なくとも一層配置して圧縮成形する方法において、金型の凹部の水平面への投影図において、最も長い軸をx軸とし、この中点と直交する軸をy軸とし、この金型の凹部のx軸とy軸の長さをそれぞれa,bとしたとき、a/bが2.0以上であり、複合材料のx軸方向の長さm,y軸方向の長さnが下記式(i)および(ii)を満足することを特徴とする方法:
0.8≦m/a<1.0 (i)
0.8≦n/b<1.0 (ii)
(2)ランダム強化タイプ繊維強化熱可塑性樹脂シートが、無撚で長さ10~50mmの強化繊維50~85質量%、および熱可塑性樹脂50~15質量%からなり、一軸方向に配向した強化繊維に熱可塑性樹脂を含浸して得られたプリプレグテープを10~50mmにカットし、その短冊をランダムに配置した後、予備加熱成形し、強化繊維を実質的に無方向に分散したものであることを特徴とする(1)に記載の方法。
(3)プリプレグテープが、1000~30000本を集束した強化繊維からなり、短冊が、10~50mmの長さと同じかまたはこれより小さい幅を有することを特徴とする(2)に記載の方法。」とあるのを、
「すなわち、本発明は、以下の(1)~(3)の構成を有するものである。
(1)シート上の任意のx軸方向とこれに直交するy軸方向にそれぞれ切削した試験片の曲げ弾性率の比が4/5~5/4であるランダム強化タイプ繊維強化熱可塑性樹脂シートから切削した複合材料を長方形の金型の凹部に一層又は二層配置して圧縮成形する方法において、複合材料が、金型の凹部と相似形であり、金型の凹部の水平面への投影図において、最も長い軸をx軸とし、この中点と直交する軸をy軸とし、この金型の凹部のx軸とy軸の長さをそれぞれa,bとしたとき、a/bが2.0以上であり、複合材料のx軸方向の長さm,y軸方向の長さnが下記式(i)および(ii)を満足すること、及びランダム強化タイプ繊維強化熱可塑性樹脂シートが、無撚で長さ10~50mmの強化繊維50~85質量%、および熱可塑性樹脂50~15質量%からなり、一軸方向に配向した強化繊維に熱可塑性樹脂を含浸して得られたプリプレグテープを10~50mmにカットし、その短冊をランダムに配置した後、予備加熱成形し、強化繊維を実質的に無方向に分散したものであることを特徴とする方法:
0.85≦m/a<0.98 (i)
0.85≦n/b<0.98 (ii)
(2)(削除)
(3)プリプレグテープが、1000~30000本を集束した強化繊維からなり、短冊が、10~50mmの長さと同じかまたはこれより小さい幅を有することを特徴とする(1)に記載の方法。
」に訂正する。
2.訂正の目的の適否、一群の請求項、願書に添付した明細書の訂正をする場合であって、請求項毎に訂正の請求をする場合に、当該明細書の訂正に係る請求項の全てについて行っているか否か、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)上記訂正事項(1)の訂正は、請求項1において、
ア 金型の形状を「長方形」と特定し、
イ 金型の凹部に配置する複合材料の層数を「少なくとも一層」から「一層又は二層」に限定し、
ウ 複合材料の形状を「金型の凹部と相似形であり」と特定し、
エ ランダム強化タイプ繊維強化熱可塑性樹脂シートが、「無撚で長さ10~50mmの強化繊維50~85質量%、および熱可塑性樹脂50~15質量%からなり、一軸方向に配向した強化繊維に熱可塑性樹脂を含浸して得られたプリプレグテープを10~50mmにカットし、その短冊をランダムに配置した後、予備加熱成形し、強化繊維を実質的に無方向に分散したものである」と特定し、
オ 式(i)を「0.8≦m/a<1.0」から「0.85≦m/a<0.98」に限定し、
カ 式(ii)を「0.8≦n/b<1.0」から「0.85≦n/b<0.98」に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(2)上記訂正事項(2)の訂正は、請求項2を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、って、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(3)上記訂正事項(3)の訂正は、請求項3において、引用する請求項を減縮するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(4)上記訂正事項(4)の訂正は、訂正事項(1)ないし(3)に係る訂正に伴い特許請求の範囲の記載と明細書の記載との整合を図るための訂正であるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
訂正事項(4)は、願書に添付した明細書の訂正であるが、本件訂正の請求は、全ての請求項について行われているので、当該明細書の訂正に係る全ての請求項について行われている。
(5)そして、これら訂正は一群の請求項ごとに適法に請求されたものである。
3.むすび
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び、同条第9項において準用する同法第126条第4項から第6項までの規定に適合するので、訂正後の明細書の発明の詳細な説明の段落【0013】及び訂正後の請求項1ないし3について訂正を認める。
第3 本件発明について
本件訂正請求により訂正された請求項1~3に係る発明(以下、それぞれ順に「本件特許発明1」~「本件特許発明3」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1~3に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
シート上の任意のx軸方向とこれに直交するy軸方向にそれぞれ切削した試験片の曲げ弾性率の比が4/5~5/4であるランダム強化タイプ繊維強化熱可塑性樹脂シートから切削した複合材料を長方形の金型の凹部に一層又は二層配置して圧縮成形する方法において、複合材料が、金型の凹部と相似形であり、金型の凹部の水平面への投影図において、最も長い軸をx軸とし、この中点と直交する軸をy軸とし、この金型の凹部のx軸とy軸の長さをそれぞれa,bとしたとき、a/bが2.0以上であり、複合材料のx軸方向の長さm,y軸方向の長さnが下記式(i)および(ii)を満足すること、及びランダム強化タイプ繊維強化熱可塑性樹脂シートが、無撚で長さ10~50mmの強化繊維50~85質量%、および熱可塑性樹脂50~15質量%からなり、一軸方向に配向した強化繊維に熱可塑性樹脂を含浸して得られたプリプレグテープを10~50mmにカットし、その短冊をランダムに配置した後、予備加熱成形し、強化繊維を実質的に無方向に分散したものであることを特徴とする方法:
0.85≦m/a<0.98 (i)
0.85≦n/b<0.98 (ii)
【請求項2】(削除)
【請求項3】
プリプレグテープが、1000~30000本を集束した強化繊維からなり、短冊が、10~50mmの長さと同じかまたはこれより小さい幅を有することを特徴とする請求項1に記載の方法。」
第4 取消理由の概要
当審において平成28年7月20日付けで通知した取消理由の概要は、請求項1ないし3に係る発明は、本件特許の出願前に頒布された特開平7-164439号公報(特許異議申立人が提出した甲第1号証。以下、「甲1」という。)又は特開平10-113927号公報(特許異議申立人が提出した甲第9号証。以下、「甲9」という。)に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、その特許は取り消すべきものであり(以下、「取消理由1」という。)、また、請求項1ないし3に係る発明についての特許は、特許請求の範囲の記載がいわゆるサポート要件に違反するものであるから、その特許は特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない(以下、「取消理由2」という。)、というものである。
第5 当審の判断
1.取消理由について
上記第2で述べたとおり、請求項2は、訂正により削除されたことにより、特許異議申立人がした本件特許発明2に係る特許については特許異議の申立ての対象が存在しないこととなった。
以下においては、本件特許発明1及び3に係る特許について検討する。
2.取消理由1の検討
(1)本件特許発明1に係る特許についての検討
ア 甲1の記載と甲1に記載された発明
甲1の請求項1には、繊維強化熱可塑性樹脂シートが記載されており、甲1には、当該繊維強化熱可塑性樹脂シートが「異方性がなく、充分な強度及び弾性率を有しながら、低い成形圧力で容易に成形できる」(段落【0008】)ものであることや、当該シートを型に設置し、加圧成形すること(実施例1~2)、その成形方法(段落【0020】)や成形品(段落【0037】)も記載されているから、これらの記載によれば、甲1には、当該繊維強化熱可塑性樹脂シートの成形方法をもとにした以下の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されているといえる。
(甲1発明)
「熱可塑性樹脂と強化繊維からなる繊維強化熱可塑性樹脂シ-トであって、下記のA~Cの要件を満たし且つ上記熱可塑性樹脂中に上記強化繊維が均一に分散されている、異方性がない繊維強化熱可塑性樹脂シ-トを金型に設置し、高速圧縮成形する方法において、
成形品が、バンパービーム又はガードレールである方法。
A.上記強化繊維が実質的に無撚であり、
B.上記強化繊維の平均繊維長が10mm乃至50mmであり、
C.上記繊維強化熱可塑性樹脂シ-ト中の上記強化繊維の体積含有率が30%乃至80%である。」
イ 甲9の記載と甲9に記載された発明
甲9の実施例1(段落【0042】~【0044】)にはシートを金型に配置し圧縮成形することが具体的に記載されており、図1には得られた一次成形品の形状及び寸法が記載されているから、これらの記載によれば、甲9には、当該シートを金型に配置し圧縮成形する方法をもとにした以下の発明(以下「甲9発明」という。)が記載されているといえる。
(甲9発明)
「ガラス長繊維にポリプロピレンを溶融含浸させたスタンパブルシート原反(商品名;アズデル〔登録商標〕、宇部日東化成株式会社製、ポリプロピレン60重量%、ガラス繊維40重量%、厚み3. 7mm、単位重量4. 4kg/ m2 )から52×28cmの大きさの長方形の繊維強化熱可塑性樹脂シートを得、このシートを、予備加熱器である赤外線ヒータで内部温度が190℃、表面温度が220℃になるように、4分間予備加熱し、次いで、予備加熱された複数枚の、熱く膨れた前記シートを、プレスに取り付けられた金型における下型内に、予め定められたチャージパターンに従って、配置し、積層し、その後に、上型を下降させ、下型と上型とで、前記予備加熱され、かつ積層されたシートを加圧力150kg/ cm2 、加圧持続時間0.7分で圧縮成形することによる、長手方向に平行に延在する長辺側面部が540mmであり、長手方向に直交する方向に延在立設する短辺側面部が305mmである一次成形品を成形する方法。」
ウ 本件特許発明1と甲1発明との対比
(ア)本件特許発明1と甲1発明とを対比する。
甲1発明における繊維強化熱可塑性樹脂シ-トは、本件特許発明1におけるランダム強化タイプ繊維強化熱可塑性樹脂シ-トに一致するものであると認められる。
そうすると、本件特許発明1と甲1発明とは、以下の相違点1ないし3で相違し、相違点1ないし3以外の点では一致するものであると認められる。
相違点1:金型について、本件特許発明1では、「長方形の」と特定しているのに対し、甲1発明では特に特定していない点。
相違点2:金型凹部への複合材料の配置について、本件特許発明1では、「一層又は二層」と特定しているのに対し、甲1発明では特に特定していない点。
相違点3:複合材料の配置について、本件特許発明1では、「金型の凹部と相似形であり、金型の凹部の水平面への投影図において、最も長い軸をx軸とし、この中点と直交する軸をy軸とし、この金型の凹部のx軸とy軸の長さをそれぞれa,bとしたとき、a/bが2.0以上であり、複合材料のx軸方向の長さm,y軸方向の長さnが下記式(i)および(ii)を満足する:
0.85≦m/a<0.98 (i)
0.85≦n/b<0.98 (ii)
」と特定しているのに対し、甲1発明では特に特定していない点。
(イ)相違点1ないし3についての検討
以下、相違点1ないし3についてまとめて検討する。
甲1発明では、成形品がバンパービームやガードレールと特定されており、これらは一般的に細長い形状のものであることまでは理解できるものの、斯かる成形品を成形する際の金型において、本件特許発明1における「この金型の凹部のx軸とy軸の長さをそれぞれa,bとしたとき、a/bが2.0以上であり」との特定事項を満足するかどうかについては明らかであるとはいえない。
そして、甲1は、「低い成形圧力で容易に成形することができ、また、得られた成形品は異方性がなく、高い強度、弾性率及び耐衝撃性を有する」(段落【0037】)ものであるところ、甲1の実施例2では、半球状の成形品を得るに留まるものであって、甲1発明において、バンパービームやガードレールを成形するに際し、その金型の形状や繊維強化熱可塑性樹脂シ-トを金型に対してどのように配置するのかといった具体的な条件について何ら明示するものではない。
ここで、圧縮成形において、一般にチャージ率(金型のキャビティー面積に対する成形材料の面積の比率)を80程度以上とすることは、本件特許に係る出願時において周知慣用技術であったと認められる(例えば、国際公開第2007/053443号(特許異議申立人が提出した甲第2号証。)の20頁25~28行を参照のこと。)。これは、金型の凹部のx軸/y軸の長さに対して、複合材料のx軸/y軸の長さが0.9程度以上のものを使用することが広く知られていたことを意味するとも解することができる。また、特開平6-155499号公報(特許異議申立人が提出した甲第4号証。)の実施例6には、長さが955mm、巾が100mmのブランク材を長さが1115mm、巾が120mmの凹部を有する金型に配置し成形すること(特許異議申立人が提出した甲第11号証によれば、m/a=0.86、n/b=0.85と計算される。)、及び、特開平10-113927号公報(特許異議申立人が提出した甲第9号証。)の実施例1には、52×28cmの長方形のシートを金型で圧縮成形することにより、長手方向に平行に延在する長辺側面部が540mmであり、長手方向に直交する方向に延在立設する短辺側面部が305mmである一次成形品を成形すること(同じく甲第11号証によれば、m/a=0.90、n/b=0.90と計算される。)が、それぞれ記載されており、これらはいずれも本件特許発明1における「金型の凹部の水平面への投影図において、最も長い軸をx軸とし、この中点と直交する軸をy軸とし、この金型の凹部のx軸とy軸の長さをそれぞれa,bとしたとき、複合材料のx軸方向の長さm,y軸方向の長さnが式(i)および(ii)(式の記載を省略する。)を満足する(以下、この特定事項を「金型内配置事項」という。)ものであると認められる。
しかしながら、これら金型内配置事項を満足するものであると認められる繊維強化熱可塑性樹脂シ-トは、「下記のA~Cの要件を満たし且つ上記熱可塑性樹脂中に上記強化繊維が均一に分散されている、異方性がない繊維強化熱可塑性樹脂シ-ト
A.上記強化繊維が実質的に無撚であり、
B.上記強化繊維の平均繊維長が10mm乃至50mmであり、
C.上記繊維強化熱可塑性樹脂シ-ト中の上記強化繊維の体積含有率が30%乃至80%である。」という甲1発明における繊維強化熱可塑性樹脂シ-トとはその構造が異なるものであるから、これら別の構造である繊維強化熱可塑性樹脂シ-トに係る金型内配置事項を、甲1発明における繊維強化熱可塑性樹脂シ-トの成形に際して、金型内配置の条件としてそのまま適用することができるとする根拠は見当たらない。
そうすると、甲1発明において、長尺物の成形であっても機械的強度の異方性を少なくすることを目的として、相違点1ないし3の構成とすることは、たとえ当業者であっても容易になし得ることであるとはいえず、それによる効果も当業者が予測できるものとはいえない。
(ウ)小括
したがって、本件特許発明1は、甲1に記載された発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえず、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえない。
イ 本件特許発明1と甲9発明との対比
(ア)本件特許発明1と甲9発明とを対比する。
甲9発明における繊維強化熱可塑性樹脂シートは、本件発明1におけるランダム強化タイプ繊維強化熱可塑性樹脂シ-トに一致するものであることは明らかである。
そうすると、本件特許発明1と甲9発明とは、以下の相違点4ないし6で相違し、相違点4ないし6以外の点では一致するものであると認められる。
相違点4:金型凹部への複合材料の配置について、本件特許発明1では、「一層又は二層」と特定しているのに対し、甲9発明では「複数枚」と特定している点。
相違点5:複合材料について、本件特許発明1では、「シート上の任意のx軸方向とこれに直交するy軸方向にそれぞれ切削した試験片の曲げ弾性率の比が4/5~5/4であるランダム強化タイプ繊維強化熱可塑性樹脂シートから切削した」及び「無撚で長さ10~50mmの強化繊維50~85質量%、および熱可塑性樹脂50~15質量%からなり、一軸方向に配向した強化繊維に熱可塑性樹脂を含浸して得られたプリプレグテープを10~50mmにカットし、その短冊をランダムに配置した後、予備加熱成形し、強化繊維を実質的に無方向に分散したものである」と特定しているのに対し、甲9発明では「ガラス長繊維にポリプロピレンを溶融含浸させたスタンパブルシート原反(商品名;アズデル〔登録商標〕、宇部日東化成株式会社製、ポリプロピレン60重量%、ガラス繊維40重量%、厚み3. 7mm、単位重量4. 4kg/ m2 )」と特定している点。
相違点6:複合材料の配置について、本件特許発明1では、「金型の凹部と相似形であり、金型の凹部の水平面への投影図において、最も長い軸をx軸とし、この中点と直交する軸をy軸とし、この金型の凹部のx軸とy軸の長さをそれぞれa,bとしたとき、a/bが2.0以上であり、複合材料のx軸方向の長さm,y軸方向の長さnが下記式(i)および(ii)を満足する:
0.85≦m/a<0.98 (i)
0.85≦n/b<0.98 (ii)
」と特定しているのに対し、甲9発明では「52×28cmの大きさの長方形の繊維強化熱可塑性樹脂シートを得、このシートを、予備加熱器である赤外線ヒータで内部温度が190℃、表面温度が220℃になるように、4分間予備加熱し、次いで、予備加熱された複数枚の、熱く膨れた前記シートを、プレスに取り付けられた金型における下型内に、予め定められたチャージパターンに従って、配置し、積層し」と特定している点。
(イ)相違点4ないし6についての検討
以下、相違点5について検討する。
甲1には、「下記のA~Cの要件を満たし且つ上記熱可塑性樹脂中に上記強化繊維が均一に分散されている、異方性がない繊維強化熱可塑性樹脂シ-ト
A.上記強化繊維が実質的に無撚であり、
B.上記強化繊維の平均繊維長が10mm乃至50mmであり、
C.上記繊維強化熱可塑性樹脂シ-ト中の上記強化繊維の体積含有率が30%乃至80%である。」が記載されているものの、斯かる繊維強化熱可塑性樹脂シ-トを甲9発明における「ガラス長繊維にポリプロピレンを溶融含浸させたスタンパブルシート原反(商品名;アズデル〔登録商標〕、宇部日東化成株式会社製、ポリプロピレン60重量%、ガラス繊維40重量%、厚み3. 7mm、単位重量4. 4kg/ m2 )」に敢えて代えて用いることの動機付けを見出すことはできない。
仮に繊維強化熱可塑性樹脂シ-トを変更することが容易であるとしても、相違点4及び6については、上記ア(イ)で述べたとおり、甲9発明において、繊維強化熱可塑性樹脂シ-トの成形に際して、繊維強化熱可塑性樹脂シ-ト自体を変更したにも拘わらず、金型内配置の条件として斯かる金型内配置事項をそのまま適用することができるとする根拠は見当たらない。
そうすると、甲9発明において、機械的強度の異方性を少なくすることを目的として、相違点4ないし6の構成とすることは、たとえ当業者であっても容易になし得ることであるとはいえず、それによる効果も当業者が予測できるものとはいえない。
(ウ)小括
したがって、本件特許発明1は、甲9に記載された発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえず、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえない。
(2)本件特許発明3に係る特許についての検討
本件特許発明3は、本件特許発明1を引用してなるものであるから、本件特許発明1と同様の理由により、甲1又は甲9に記載された発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえず、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえない。
(3)まとめ
以上のとおり、本件特許発明1及び3は、甲1又は甲9に記載された発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえず、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえない。
3.取消理由2の検討
(1)本件特許発明1に係る特許についての検討
本件特許発明1及び3の課題は、本件特許明細書には、「本発明は、上記の従来技術の問題点に鑑み創案されたものであり、その目的は、ランダム強化タイプ繊維強化熱可塑性樹脂から切削した複合材料を金型で圧縮成形する方法において、機械的性質の異方性が少なく、使用した複合材料の機械的性質が変形方向や場所によらず維持される方法を提供することにある。」(段落【0011】)と記載されている。
そして、同じく本件特許明細書には、「本発明者らは、かかる目的を達成するために使用した複合材料の機械的性質の異方性が生じにくい圧縮成形方法について鋭意検討した結果、特定の条件を満たす複合材料の金型内での配置方法により機械的性質の異方性が少ない信頼性のある圧縮成形品が得られることを見出し、本発明の完成に至った。」(段落【0012】)と記載されており、本件特許発明1及び3の効果として「本発明の方法は、機械的性質の異方性の少ないランダム強化タイプ繊維強化熱可塑性樹脂シートから切削した複合材料を予備成形体として使用し、この予備成形体を特定の条件で金型の凹部に配置して圧縮成形しているので、得られた成形品は、強化繊維と樹脂の分離を殆ど起こさずに強化繊維のランダム配合性を保持することができ、結果として変形方向や場所によらず、高い強度や剛性を達成することができる。従って、本発明の方法によれば、機械的性質の信頼性が高い成形品を確実に得ることができ、設計品質強度や剛性を高く設定したり、薄肉化などの製品設計を自由に行うことができる。」(段落【0014】)とも記載されている。
また、本件特許明細書の実施例及び比較例においては、以下のとおり記載されている。
「実施例1
6000本の炭素繊維からなるロービング(東邦テナックス社IMS40)を4kg/Hになる速度で拡張開繊して含浸台のダイヘッドに供給した。ポリアミド6樹脂(東洋紡績製T802、融点227℃、1.2kg荷重下のメルトフローレート42g/10min)を、270℃に温度調節されたスクリュー式押し出し機のホッパーに投入し、溶融樹脂をギアポンプにより2kg/H計量して、含浸台のダイヘッドに供給した。含浸台で加圧含浸、脱泡後、幅10mm・高さ0.2mmのダイから含浸被覆されたテープ状プリプレグを押し出し、空冷固化した後、枷に巻き取った(炭素繊維67質量%、ポリアミド6樹脂32質量%)。
得られたプリプレグテープを35mmにカットし、短冊状のプリプレグテープを300mm×300mm×3mmの平板状の型内にランダムにばらまき供給する。型を280℃に加熱した後、圧縮し、型を120℃まで冷却して、強化繊維がランダム配向したプリプレグシートを得た。
得られたプリプレグシートの中央部からx軸方向に10mm×150mmの曲げ試験片を5本、y軸方向に10mm×150mmに曲げ試験片を5本切り出した。この絶乾状態の試験片をデシケーターに入れ、23℃に温度調節した試験室に48時間保管した。万能引張試験機(オリエンテック社製テンシロンU500)を使用し、JIS K7171に準拠して、スパン長120mm、クロスヘッドスピード2mm/分にて3点曲げ試験を行った。x軸方向とy軸方向サンプルの曲げ弾性率の平均値(Ex,Ey)は、それぞれ117GPaと121GPaであった。この比Ey/Exは、1.03であった。
縦25cm、横10cm、高さ5cm、コーナー15Rの凹部を有する下型(水平投影図:x軸a=26.9cm、y軸b=10.7cm)と成形品全体の肉厚が2.0mmになるように組み合わされた上型を圧縮成形機(神藤金属工業所製、圧力50t)に設置した。
上記で得られたプリプレグテープから、m=24.2,n=9.6cmとなるように凹部と相似形に切り出した。これを遠赤外線ヒータで250℃に加熱した。加熱されたプリプレグテープを、予め、180℃に温度調節した圧縮成形機の金型にx軸、y軸方向を合わせて凹部上に置き、40MPaの圧力を3分間かけた後、金型を140℃まで冷却して成形品を脱型した。
圧縮成形により得られた箱型成形品の立ち上がり側面10cm×5cmと5cm×5cmのそれぞれ中央部において、鉛直方向(MD方向)と鉛直方向と直交する方向(TD方向)に幅7mm、長さ18mmの試験片を切り出した(図4参照)。
切り出した試験片を23℃に温度調節された試験室中のデシケーター中で48時間保管した後、試験規格DIN53453に準じ、ダインスタット試験機(英弘精機社製)を使用して、8mmの片持ち状態で衝撃試験を行った。長手方向の側面中央部のMD方向、TD方向に切削した試験片のダインシュタット衝撃強度(It,Im)は、それぞれ93KJ/m2,89KJ/m2であり、その比It/Imは0.96であった。また、短手方向の側面中央部のMD方向、TD方向に切削した試験片のダインシュタット衝撃強度(It2,Im2)は、それぞれ97KJ/m2,91KJ/m2であり、その比It2/Im2は0.94であった。試験後ISO3451-4に準拠して、500℃にて焼却して、繊維含有率を測定した。長手方向側面と短手方向の側面の灰分は、それぞれ灰分1=65%、灰分2=66%であった。得られた試験データを表1に示す。
実施例2~12
熱可塑性樹脂の種類や配合比、テープ状プリプレグ形状、プリプレグシートから切り出した前駆体のサイズおよび圧縮成形条件を表1に示したように変更した以外は、実施例1と全く同様にプリプレグを作製した後、箱型成形品を成形した。成形品から得られた試験片について、実施例と全く同様に、ダインシュタット衝撃強度、灰分を測定した。得られた試験データを成形条件とともに表1に示す。
比較例1~4
熱可塑性樹脂の種類や配合比、テープ状プリプレグ形状、プリプレグシートから切り出した前駆体のサイズおよびスタンピング成形条件を表2に示したように変更した以外は、実施例1と全く同様にプリプレグを作製した後、箱型成形品を成形した。なお、比較例1は、テープ状プリプレグを35mmにカットして得た短冊の長さ方向を意図的に、x方向に配置してプリプレグシートを得た。そのプリプレグシートのy方向の曲げ弾性率は、x方向のそれの0.3倍であった。成形品から得られた試験片について、実施例と全く同様に、ダインシュタット衝撃強度、灰分を測定した。得られた試験データを成形条件とともに表2に示す。」
確かに、圧縮成形において、金型形状の違いや予備成形体の配置位置の違いによって得られる成形体中の強化繊維の流れが変化することは技術常識であるとはいえるものの、本件特許発明1においては、複合材料として、「シート上の任意のx軸方向とこれに直交するy軸方向にそれぞれ切削した試験片の曲げ弾性率の比が4/5~5/4であるランダム強化タイプ繊維強化熱可塑性樹脂シートから切削した複合材料」であって、「ランダム強化タイプ繊維強化熱可塑性樹脂シートが、無撚で長さ10~50mmの強化繊維50~85質量%、および熱可塑性樹脂50~15質量%からなり、一軸方向に配向した強化繊維に熱可塑性樹脂を含浸して得られたプリプレグテープを10~50mmにカットし、その短冊をランダムに配置した後、予備加熱成形し、強化繊維を実質的に無方向に分散したものである」ことを特定するとともに、金型の形状を「長方形」に特定し、金型に対する複合材料の配置を「金型の凹部に一層又は二層配置して圧縮成形する」に際して「金型の凹部と相似形」に配置するとともに、「金型の凹部の水平面への投影図において、最も長い軸をx軸とし、この中点と直交する軸をy軸とし、この金型の凹部のx軸とy軸の長さをそれぞれa,bとしたとき、a/bが2.0以上であり、複合材料のx軸方向の長さm,y軸方向の長さnが下記式(i)および(ii)を満足する
0.85≦m/a<0.98 (i)
0.85≦n/b<0.98 (ii)」ものであることを全て特定するものである。
そうすると、斯かる複合材料自体、金型の形状及び金型に対する複合材料の配置に関し、全ての点で上記のとおり特定したものであってみれば、当業者であれば、本件特許明細書の実施例におけるものと同様な効果を奏するものであることを理解することができる。
してみると、当業者が、本件特許に係る出願時の技術常識を参酌すれば、当該圧縮成形方法として、本件特許明細書の発明の詳細な説明に開示された内容から、請求項1に係る全般の範囲にまで拡張ないし一般化できるものということができるから、本件特許発明1は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載したものというべきである。
(2)本件特許発明3に係る特許についての検討
本件特許発明3は、直接的に本件特許発明1を引用してなるものであるから、本件特許発明1について述べたのと同じ理由によって、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載したものというべきである。
(3)まとめ
以上のとおり、請求項1及び請求項1を直接的に引用する請求項3に係る発明は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載したものであるといえる。
したがって、本件特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえない。
第6 むすび
以上のとおりであるから、取消理由によっては、本件特許発明1及び3に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許発明1及び3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
さらに、本件特許発明2に係る特許は、訂正により削除されたため、本件特許発明2に対して、特許異議申立人がした特許異議の申立てについては、対象となる請求項が存在しない。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
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2016-700245