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特許異議申立

2016-700150

積層フィルム

審判番号
2016-700150
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2011-030841
登録番号
特許第5771021号(P5771021)
請求日
2016年02月22日
審決日
2017年07月12日
公報発行日
2018年09月28日
結論
請求成立(取消)
当事者
  • 【権利者】帝人株式会社
  • 【権利者代理人】為山 太郎
  • 【異議申立人】関谷 祐子
  • 【異議申立人】澤山 政子
審判長/審判官
  • 審判長 渡邊 豊英
  • 審判官 井上 茂夫
  • 審判官 谿花 正由輝
分類
P1651.161-ZDA(B32B) / P1651.121-ZDA(B32B) / P1651.536-ZDA(B32B) / P1651.537-ZDA(B32B)
根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
特許法29条の2特許法113条2号
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条の2、特許法第29条第2項、特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第2号、特許法第120条の5第7項、特許法第120条の5第2項第1号、特許法第113条第2号
データ出所
審決公報(SGML)

事件の表示

特許第5771021号発明「積層フィルム」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

【結 論】 特許第5771021号の明細書、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書、訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-7〕について訂正することを認める。 特許第5771021号の請求項1ないし6に係る特許を維持する。 同請求項7に係る特許を取り消す。

理由

【理 由】 第1 手続の経緯 特許第5771021号の請求項1~6に係る特許についての出願は、平成23年2月16日に出願され、平成27年7月3日にその特許権の設定登録がされたものである。その後、その特許について、特許異議申立人関谷祐子、同じく澤山政子により、それぞれ特許異議の申立てがされ、当審において平成28年5月23日付けで取消理由を通知し、その指定期間内である平成28年7月22日に意見書の提出及び訂正の請求がされ、平成28年8月30日に特許異議申立人関谷祐子より、平成28年9月1日に特許異議申立人澤山政子より、それぞれ、この訂正の請求について意見書が提出され、当審より平成28年9月15日付けで特許権者に審尋し、その指定期間内である平成28年10月24日に回答書が提出された。 その後、当審において平成28年12月22日付けで取消理由(決定の予告)を通知し、その指定期間内である平成29年2月27日に意見書の提出及び訂正の請求(以下、「本件訂正請求」という。)がされ、平成29年4月13日に特許異議申立人関谷祐子より、平成29年4月21日に特許異議申立人澤山政子より、それぞれ、本件訂正請求について意見書が提出されたものである。 なお、平成28年7月22日の訂正の請求は、特許法第120条の5第7項の規定により、取り下げられたものとみなす。 第2 訂正の請求について 1.訂正の内容 本件訂正請求による訂正の請求は、「特許第5771021号の明細書、特許請求の範囲を本訂正請求書に添付した訂正明細書、訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~7について訂正する」ことを求めるものであり、その訂正の内容は、本件特許に係る願書に添付した明細書(以下、「本件特許明細書」という。)及び特許請求の範囲を、次のように訂正するものである。 (1)訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1に、 「熱可塑性樹脂材料がポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂のいずれかであり、」とあるのを、 「熱可塑性樹脂材料がアクリル樹脂であり、」に訂正する。 (請求項1を引用する請求項2~6についても、同様に訂正する。) (2)訂正事項2 本件特許明細書の段落【0008】に、 「熱可塑性樹脂材料がポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂のいずれかであり、」とあるのを、 「熱可塑性樹脂材料がアクリル樹脂であり、」に訂正する。 (3)訂正事項3 特許請求の範囲の請求項1に、 「熱可塑性エラストマー系樹脂である多層フィルム。」とあるのを、 「熱可塑性エラストマー系樹脂であり、印刷層は片面に積層されている多層フィルム。」に訂正する。 (請求項1を引用する請求項2~6についても、同様に訂正する。) (4)訂正事項4 本件特許明細書の段落【0008】に、 「熱可塑性エラストマー系樹脂である多層フィルム。」とあるのを、 「熱可塑性エラストマー系樹脂であり、印刷層は片面に積層されている多層フィルム。」に訂正する。 (5)訂正事項5 特許請求の範囲の請求項7を追加し、 「植物由来のエーテルジオール残基を含んでなるポリカーボネート樹脂材料の層(A)の少なくとも一方の面に、熱可塑性樹脂材料の層(B)および印刷層を積層されてなる多層フィルムであって、植物由来のエーテルジオール残基を含んでなるポリカーボネート樹脂が下記式(1)で表されるジオール残基を含んでなり、全ジオール残基中式(1)で表されるジオール残基が15~100モル%を占め、樹脂0.7gを塩化メチレン100mlに溶解した溶液の20℃における比粘度が0.14~0.50のポリカーボネートであり、熱可塑性樹脂材料が粘度平均分子量で表して13,000~40,000のポリカーボネート樹脂であり、印刷層のバインダー樹脂がポリウレタン系樹脂、ビニル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、ポリビニルアセタール系樹脂、ポリエステルウレタン系樹脂、セルロースエステル系樹脂、アルキド系樹脂または熱可塑性エラストマー系樹脂であり、印刷層は片面に積層されており、印刷層の厚みが0.01~100μmである多層フィルム。 【化2】 」に訂正する。 (6)訂正事項6 本件特許明細書の段落【0009】の記載の末尾に、 「7.植物由来のエーテルジオール残基を含んでなるポリカーボネート樹脂材料の層(A)の少なくとも一方の面に、熱可塑性樹脂材料の層(B)および印刷層を積層されてなる多層フィルムであって、植物由来のエーテルジオール残基を含んでなるポリカーボネート樹脂が下記式(1)で表されるジオール残基を含んでなり、全ジオール残基中式(1)で表されるジオール残基が15~100モル%を占め、樹脂0.7gを塩化メチレン100mlに溶解した溶液の20℃における比粘度が0.14~0.50のポリカーボネートであり、熱可塑性樹脂材料が粘度平均分子量で表して13,000~40,000のポリカーボネート樹脂であり、印刷層のバインダー樹脂がポリウレタン系樹脂、ビニル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、ポリビニルアセタール系樹脂、ポリエステルウレタン系樹脂、セルロースエステル系樹脂、アルキド系樹脂または熱可塑性エラストマー系樹脂であり、印刷層は片面に積層されており、印刷層の厚みが0.01~100μmである多層フィルム。 【化11】 」という記載を追加する訂正をする。 2.訂正の適否 (1)訂正事項1、2について 訂正前の請求項1では、熱可塑性樹脂材料について、ポリカーボネート樹脂とアクリル樹脂のいずれかの択一であったものを、一方のアクリル樹脂のみに限定するものであるから、訂正事項1は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 また、訂正事項2は、訂正事項1に係る訂正に伴い、記載を整合させるための訂正であり、明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。 そして、訂正事項1、2は、本件特許明細書に記載された事項の範囲内においてするものであること、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないことは明らかである。 (2)訂正事項3、4について 訂正前の請求項1では、印刷層のポリカーボネート樹脂材料の層に対する積層位置について、「少なくとも一方の面」としか特定されていなかったものを、印刷層は片面に積層されていることを特定して限定するものであるから、訂正事項3は、特許請求の範囲を減縮を目的とするものに該当する。 また、訂正事項4は、訂正事項3に係る訂正に伴い、記載を整合させるための訂正であり、明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。 そして、本件特許明細書の段落【0097】には、「本発明の多層フィルムにおいては、ベースフィルムの少なくとも片面に加飾層が積層することができる。本発明に用いられる加飾層は、各種形態を取り得る。例えばベースフィルムに直接的に施される印刷層や蒸着層、ベースフィルムに積層される着色した樹脂層、および印刷や蒸着などの加飾を施したフィルムを用いた層などが加飾層として挙げられるが、特に限定されるものではない。」と記載されていることからみて、訂正事項3、4の訂正は、本件特許明細書に記載された事項の範囲内においてするものであること、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないことは明らかである。 (3)訂正事項5、6について 訂正前の請求項1では、熱可塑性樹脂材料について、ポリカーボネート樹脂とアクリル樹脂のいずれかの択一であったものを、一方のアクリル樹脂の場合と、他方のポリカーボネート樹脂の場合に分け、他方のポリカーボネート樹脂の場合を新たに請求項7としたものであって、訂正事項5は、その新たな請求項7について、訂正前の請求項1に、ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量が13,000~40,000であること、層(A)のポリカーボネート樹脂材料が樹脂0.7gを塩化メチレン100mlに溶解した溶液の20℃における比粘度が0.14~0.50のポリカーボネートであること、さらに、印刷層は片面に積層され、その印刷層の厚みが0.01~100μmであることを、それぞれ限定するものであるから、訂正事項5は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 訂正事項6は、訂正事項5に係る訂正に伴い、記載を整合させるための訂正であり、明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。 そして、本件特許明細書の段落【0039】には「本発明のイソソルビド系ポリカーボネート樹脂は、樹脂0.7gを塩化メチレン100mlに溶解した溶液の20℃における比粘度としては0.14~0.50のものを用いることができる。」と、同じく段落【0063】には「ポリカーボネート樹脂の分子量は、粘度平均分子量で表して13,000~40,000の範囲が好ましい。」と、同じく段落【0097】には「本発明の多層フィルムにおいては、ベースフィルムの少なくとも片面に加飾層が積層することができる。本発明に用いられる加飾層は、各種形態を取り得る。例えばベースフィルムに直接的に施される印刷層や蒸着層、ベースフィルムに積層される着色した樹脂層、および印刷や蒸着などの加飾を施したフィルムを用いた層などが加飾層として挙げられるが、特に限定されるものではない。」と、同じく段落【0101】には「加飾層として印刷層を形成した場合、加飾層の厚みの範囲は、本発明の効果を阻害しない限り限定されないが、成形性の観点から0.01~100μmが好ましい。」と記載されていることからみて、訂正事項5、6の訂正は、本件特許明細書に記載された事項の範囲内においてするものであること、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないことは明らかである。 (4)一群の請求項について 上記訂正事項1~6に係る各訂正は、一群の請求項ごとに請求されたものである。 3.むすび 以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は特許法第120条の5第2項第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び同条第9項において準用する同法第126条第4項から第6項までの規定に適合するので、訂正後の請求項〔1~7〕について訂正を認める。 第3 特許異議の申立てについて 1.請求項1~7に係る発明 本件訂正請求により訂正された請求項1~7に係る発明(以下、「本件訂正発明1」等という。)は、それぞれ、訂正特許請求の範囲の請求項1~7に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。 「【請求項1】 植物由来のエーテルジオール残基を含んでなるポリカーボネート樹脂材料の層(A)の少なくとも一方の面に、熱可塑性樹脂材料の層(B)および印刷層を積層されてなる多層フィルムであって、植物由来のエーテルジオール残基を含んでなるポリカーボネート樹脂が下記式(1)で表されるジオール残基を含んでなり、全ジオール残基中式(1)で表されるジオール残基が15~100モル%を占めるポリカーボネートであり、熱可塑性樹脂材料がアクリル樹脂であり、印刷層のバインダー樹脂がポリウレタン系樹脂、ビニル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、ポリビニルアセタール系樹脂、ポリエステルウレタン系樹脂、セルロースエステル系樹脂、アルキド系樹脂または熱可塑性エラストマー系樹脂であり、印刷層は片面に積層されている多層フィルム。 【化1】 【請求項2】 積層フィルムの25℃、24時間、水中での吸水率が3%以下である請求項1に記載の多層フィルム。 【請求項3】 積層フィルムの鉛筆硬度がB以上である請求項1または2に記載の多層フィルム。 【請求項4】 植物由来のエーテルジオール残基を含んでなるポリカーボネート樹脂が上記式(1)で表されるジオール残基を含んでなり、全ジオール残基中式(1)で表されるジオール残基が30~100モル%を占めるポリカーボネートである請求項1~3のいずれか1項に記載の多層フィルム。 【請求項5】 植物由来のエーテルジオール残基を含んでなるポリカーボネート樹脂材料の厚みが1μm~100μmの層が積層されてなる請求項1~4のいずれか1項に記載の多層フィルム。 【請求項6】 多層フィルムの総厚みが10μm~600μmである請求項1~5のいずれか1項に記載の多層フィルム。 【請求項7】 植物由来のエーテルジオール残基を含んでなるポリカーボネート樹脂材料の層(A)の少なくとも一方の面に、熱可塑性樹脂材料の層(B)および印刷層を積層されてなる多層フィルムであって、植物由来のエーテルジオール残基を含んでなるポリカーボネート樹脂が下記式(1)で表されるジオール残基を含んでなり、全ジオール残基中式(1)で表されるジオール残基が15~100モル%を占め、樹脂0.7gを塩化メチレン100mlに溶解した溶液の20℃における比粘度が0.14~0.50のポリカーボネートであり、熱可塑性樹脂材料が粘度平均分子量で表して13,000~40,000のポリカーボネート樹脂であり、印刷層のバインダー樹脂がポリウレタン系樹脂、ビニル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、ポリビニルアセタール系樹脂、ポリエステルウレタン系樹脂、セルロースエステル系樹脂、アルキド系樹脂または熱可塑性エラストマー系樹脂であり、印刷層は片面に積層されており、印刷層の厚みが0.01~100μmである多層フィルム。 【化2】 」 2.取消理由の概要 訂正前の請求項1~6に係る特許に対して、特許権者に通知した取消理由の概要は以下のとおりである。 [理由1] 本件特許の請求項1~6に係る発明は、本件特許の出願の日前の特許出願であって、その出願後に出願公開がされた特許出願の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された発明と同一であり、しかも、本件特許の発明者がその出願前の特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、また本件特許の出願の時において、その出願人が上記特許出願の出願人と同一でもないので、特許法第29条の2の規定により、特許を受けることができない。 [理由2] 本件特許の請求項1~6に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された刊行物に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 請求項1~6に係る発明は、特許異議申立人関谷祐子が提出した甲第1号証に記載された発明と実質的に同一である。 また、請求項1~6に係る発明は、特許異議申立人澤山政子が提出した甲第1号証に記載された発明、甲第2号証に記載された技術的事項、及び甲第3~4号証に記載された周知の技術的事項に基いて、当業者が容易に想到し得たものである。 ・特許異議申立人関谷祐子が提出した証拠 甲第1号証:特願2010-46630号の明細書及び特許請求の範囲 甲第2号証:特開2011-201304号公報(甲第1号証を優先基礎とする特願2011-45898号の公開公報) 甲第3号証:相原次郎著、「印刷インキ入門」、株式会社印刷学会出版部、増補版第4刷、1999年9月15日、p.13~17,26~45 甲第4号証:早川敦、「活躍する三洋化成グループのパフォーマンス・ケミカルス73 特殊グラビア印刷インキ用バインダー樹脂」、三洋化成ニュース、2008初夏、No.448、p.1~4 甲第5号証:藤本武彦監修、「高分子薬剤入門」、三洋化成工業株式会社、初版第2刷、1993年3月、p.431~453 甲第6号証:桜内雄二郎著、「新版プラスチック材料読本」、株式会社工業調査会、新版第4刷、1993年4月1日、p.118~119 ・特許異議申立人澤山政子が提出した証拠 甲第1号証:特開2004-82565号公報 甲第2号証:特開2009-1703号公報 甲第3号証:特開2009-161746号公報 甲第4号証:特開2006-28441号公報 [理由3] 本件特許は、明細書及び特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条第4項第1号及び第6項第1号に規定する要件を満たしていない。 3.取消理由3(36条)に係る当審の判断 まず、記載不備に係る取消理由について判断する。 (1)印刷層については、本件特許明細書の段落【0098】に「加飾層の一種である印刷層のバインダー樹脂素材としては、ポリウレタン系樹脂、ビニル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、ポリビニルアセタール系樹脂、ポリエステルウレタン系樹脂、セルロースエステル系樹脂、アルキド系樹脂、熱可塑性エラストマー系樹脂等が好ましく、特に柔軟な被膜を作製することができる樹脂が好ましい。またバインダー樹脂中には、適切な色の顔料または染料を着色剤として含有する着色インキを配合することが好ましい。」と、 同じく段落【0099】に「印刷層の積層方法は、オフセット印刷法、グラビア印刷法、スクリーン印刷法などの方法を用いることが好ましい。特に多色刷りや階調色彩を必要とする場合には、オフセット印刷法やグラビア印刷法が好ましい。また単色の場合は、グラビアコート法、ロールコート法、コンマコート法などのコート法を採用することもできる。図柄に応じて、フィルムに全面的に印刷層を積層する印刷法でも、部分的に印刷層を積層する印刷法でもよい。」と、 さらに、段落【0101】には「加飾層として印刷層を形成した場合、加飾層の厚みの範囲は、本発明の効果を阻害しない限り限定されないが、成形性の観点から0.01~100μmが好ましい。」と、それぞれ記載されている。 そうすると、本件特許明細書に印刷層の具体的なバインダー樹脂素材や、その積層方法が記載され、印刷層の厚さについても、0.01~100μmの範囲であれば、発明の効果を阻害しない旨記載されていることからすれば、当業者であれば、これらの記載をもとに、本件訂正発明1~7を実施することは格別困難なこととはいえない。 (2)さらに、請求項1~7には、「植物由来のエーテルジオール残基を含んでなるポリカーボネート樹脂材料の層(A)の少なくとも一方の面に、熱可塑性樹脂材料の層(B)および印刷層を積層されてなる多層フィルム」と、また、「印刷層は片面に積層されている」と記載されている。 これらのことからすれば、本件訂正発明1~7の多層フィルムは、 ・アクリル樹脂又はポリカーボネート樹脂からなる「熱可塑性樹脂材料の層(B)」/「印刷層」/「植物由来のエーテルジオール残基を含んでなるポリカーボネート樹脂材料の層(A)」の順で積層され、「印刷層」が樹脂層に挟まれる場合、 ・「印刷層」/アクリル樹脂又はポリカーボネート樹脂からなる「熱可塑性樹脂材料の層(B)」 /「植物由来のエーテルジオール残基を含んでなるポリカーボネート樹脂材料の層(A)」の順で積層され、「印刷層」が外側に配置される場合が、それぞれ想定され得るものといえる。 このうち、「印刷層」が樹脂層に挟まれる場合は、積層体の最外層に樹脂層が配置されることになるから、間に挟まれた「印刷層」が、薬品や水や物に、直接、接触しない。また、「印刷層」が外側に配置される場合についても、積層体として使用する際、薬品や水や物に接触することが想定される最外層を、加飾のために設けられた印刷層ではなく、積層体の樹脂層側とすることが通常といえるから、多層フィルムに「印刷層」が加わったからといって、多層フィルムとして用いる上で、耐薬品性、表面硬度及び吸水率について差違が生じるとはいえない。 さらに、熱成形性や靱性についても、請求項1~6の「印刷層」は、バインダー樹脂を含むものであり、バインダー樹脂により、印刷対象への密着性や、適度な粘度が与えられることが技術常識である(例えば、特許異議申立人関谷祐子が提出した甲第4号証(2頁「印刷インキの構成」の項)参照)ことからすれば、多層フィルムとして用いる上で、熱成形時や延伸時に、「印刷層」が加わったことにより、直ちに支障が生じるとはいえない。 したがって、印刷層の配置がいずれの場合であっても、多層フィルムとして用いる上で、その効果に顕著な差違が生じるとはいえないこと明らかであり、「印刷層」が設けられた多層フィルムについても、「印刷層」が設けられていない多層フィルムと同様に、発明の課題を解決し得ることが当業者に容易に予測できることといえる。 (3)特許異議申立人澤山政子は、平成29年4月21日の意見書(「(1-2)記載不備(特許法第36条第4項第1号及び同条第6項第1号)について」)において、印刷層の材質により吸水率等に影響するから、印刷層を用いない実施例をもって、本件訂正発明1~7の効果を主張することはできない旨主張する。 しかし、本件訂正発明1~7の印刷層が、樹脂層に挟まれる場合と積層体の外側に配置される場合のいずれにおいても、多層フィルムに印刷層が加わったことにより、多層フィルムとして用いる上で吸水率に差違が生じるとはいえないことは、上記(2)で述べたとおりであり、この主張を採用することはできない。 (4)以上のことから、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものでないとはいえない。 また、本件訂正発明1~7が、発明の詳細な説明に記載されたものでないとはいえない。 4.取消理由1(29条の2)、取消理由2(29条2項)に係る当審の判断 (1)提出された証拠に記載された発明 ア.特許異議申立人関谷祐子が提出した甲第1号証(以下、「先願明細書」という。甲第2号証は、甲第1号証を優先基礎とする特願2011-45898号の公開公報であり、本件出願後に公開されたもの。)には以下の記載がある。 「【発明が解決しようとする課題】 ・・・・ 【0010】 本発明が解決しようとする課題は、芳香族ポリカーボネート樹脂シートでは達成できない表面硬度と、アクリル樹脂又はアクリル樹脂を表層に配置してなる積層体では達成できない耐衝撃性や打ち抜き加工性とを兼備したディスプレイカバー、及び紫外線吸収機能を付与した芳香族ポリカーボネート樹脂シートでは達成できない耐黄変劣化性を有する建材などに適した積層体を提供することにある。」 「【課題を解決するための手段】 【0011】 本発明者らは、前記課題を解決するため鋭意検討を行った結果、特定の脂肪族ポリカーボネート樹脂と芳香族ポリカーボネート樹脂とを積層してなる積層体が、総厚さが現行厚さでも薄肉化しても歩留まり良く打ち抜き加工が可能で、特定の脂肪族ポリカーボネート樹脂層が前面側になるよう配置して使用するディスプレイカバーは、製品の表面硬度と耐衝撃性に優れることを見出し、本発明を完成するに至った。さらに少なくとも前面側にハードコート層を配置すると打ち抜き加工性や耐衝撃性を著しく低下させること無く表面硬度をさらに高めることも見出した。」 「【0014】 第1の発明によれば、構造の一部に下記一般式(1)で表される部位を有するジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を含む脂肪族ポリカーボネート樹脂層(A層)と、芳香族ポリカーボネート樹脂層(B層)とを積層してなることを特徴とする積層体が提供される。」 「【0031】 <脂肪族ポリカーボネート樹脂層(A層)> 本発明におけるA層に用いる脂肪族ポリカーボネート樹脂としては、構造の一部に下記一般式(1)で表される部位を有するジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を含むポリカーボネート樹脂が用いられる。 ・・・・ 【0034】 前記ジヒドロキシ化合物の主成分としては、分子構造の一部が前記一般式(1)で表されるものであれば特に限定されるものではないが、具体的には・・・・下記一般式(2)で表されるジヒドロキシ化合物に代表される無水糖アルコール、・・・・が挙げられる。・・・・具体的には、下記一般式(2)で表されるジヒドロキシ化合物としては、立体異性体の関係にある、イソソルビド、イソマンニド、イソイデットが挙げられる。・・・・ これらは単独で用いても良く、2種以上を組み合わせて用いても良い。 【0035】 【化4】 」 「【0038】 前記一般式(2)で表されるジヒドロキシ化合物は、生物起源物質を原料として糖質から製造可能なエーテルジオールである。とりわけイソソルビドは澱粉から得られるD-グルコースを水添してから脱水することにより安価に製造可能であって、資源として豊富に入手することが可能である。これら事情により、イソソルビドが最も好ましい。」 「【0043】 前記脂肪族ポリカーボネート樹脂の、構造の一部に前記一般式(1)で表される部位を有するジヒドロキシ化合物に由来する構造単位の含有割合としては、好ましくは35モル%以上、より好ましくは40モル%以上であって、また、好ましくは90モル%以下、より好ましくは80モル%以下であればよい・・・・」 「【0054】 <芳香族ポリカーボネート樹脂層(B層)> 本発明におけるB層に用いる芳香族ポリカーボネート樹脂は、ホモポリマー又はコポリマーのいずれであってもよい。また、芳香族ポリカーボネート樹脂は、分岐構造であっても、直鎖構造であってもよいし、さらに分岐構造と直鎖構造との混合物であってもよい。 【0055】 本発明に用いる芳香族ポリカーボネート樹脂の製造方法は、ホスゲン法、エステル交換法、ピリジン法など、公知のいずれの方法を用いてもかまわない。以下一例として、エステル交換法による芳香族ポリカーボネート樹脂の製造方法を説明する。 【0056】 エステル交換法は、2価フェノールと炭酸ジエステルとを塩基性触媒、さらにはこの塩基性触媒を中和する酸性物質を添加し、溶融エステル交換縮重合を行う製造方法である。2価フェノールの代表例としては、ビスフェノール類が挙げられ、特に2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、すなわちビスフェノールAが好ましく用いられる。・・・・ 【0057】 炭酸ジエステルの代表例としては、・・・・などが挙げられる。これらのうち、特にジフェニルカーボネートが好ましく用いられる。 【0058】 本発明に用いられる芳香族ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量は、力学特性と成形加工性のバランスから、通常、8,000以上、30,000以下、好ましくは10,000以上、25,000以下の範囲である。又、前記芳香族ポリカーボネート樹脂の還元粘度は、溶媒として塩化メチレンを用い、ポリカーボネート濃度を0.60g/dlに精密に調整し、温度20.0℃±0.1℃で測定され、通常、0.23dl/g以上0.72dl/g以下で、好ましくは0.27dl/g以上0.61dl/g以下の範囲内である。」 「【0062】 <本発明の積層体の製造方法> A層とB層とを積層してなる本発明の積層体の製造方法は特に制限されるものではないが、より好適な方法は前述の通り両者を共押出しして製膜する方法である。具体的に説明すると、B層を構成する樹脂を供給する主押出機と、A層を構成する樹脂を供給する副押出機とを備え、主押出機の温度設定は通常220℃以上、300℃以下、好ましくは220℃以上、280℃以下であり、副押出機は通常220℃以上、280℃以下、好ましくは220℃以上、250℃以下である。 ・・・・ 【0064】 本発明の積層体は、A層とB層を各々少なくとも一層以上積層してあれば、その構成は特に制限されるものではない。例えば、B層の両面にA層を積層し、A/B/A型2種3層の積層体としてもよい。この場合も両者を共押出しして製膜する方法で製造することが好ましい。該積層体は両面のA層厚さを揃えて中心対称構造にすると、環境反りや捻れのおそれを低減させることができるので好適である。」 「【0073】 <印刷層> 本発明の積層体には、さらに印刷層を設けることができる。印刷層は、グラビア印刷、オフセット印刷、スクリーン印刷他公知の印刷の方法で設けられる。・・・・ 【0074】 また、印刷層は本発明の積層体におけるA層、B層のいずれの表面に印刷して設けても良く、最表面に前記のハードコート層や反射防止層、防汚層を設ける場合は、それらの層を設ける前の工程において印刷層を印刷して設けることが好ましい。・・・・ 【0075】 印刷層に用いられる印刷用インクに含有される顔料や溶剤は特に限定されること無く、一般的に利用されるものを適用することができる。特に、アクリル系樹脂やウレタン系樹脂を含むものは、印刷層を設けた場合においても、本発明の積層体を層間剥離等の支障なく作製することが可能となることから好適である。」 「【0080】 <本発明の積層体の用途> 本発明の積層体は、前述の製造方法によってフィルム、シート、プレートなどの形状に成形される。・・・・」 上記記載によれば、「積層体」は、「ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を含む脂肪族ポリカーボネート樹脂層(A層)と、芳香族ポリカーボネート樹脂層(B層)とを積層してなる」(段落【0014】)ものであり、「A層とB層を各々少なくとも一層以上積層してあれば、その構成は特に制限されるものではな」く(段落【0064】)、「印刷層」も「A層、B層のいずれの表面に印刷して設けても良」い(段落【0074】)ものであるから、先願明細書記載の「積層体」の態様には、「ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を含む脂肪族ポリカーボネート樹脂層(A層)」の少なくとも一方の面に、「芳香族ポリカーボネート樹脂層(B層)」と、「印刷層」とを積層した態様が含まれるものといえる。 A層に用いる脂肪族ポリカーボネート樹脂のジヒドロキシ化合物の主成分としては、「一般式(2)で表されるジヒドロキシ化合物」(段落【0034】)があり、そのジヒドロキシ化合物は、生物起源物質に由来するエーテルジオール(段落【0038】)である。 このジヒドロキシ化合物に由来する構造単位の含有割合として、「好ましくは35モル%以上」であり、「好ましくは90モル%以下」(段落【0043】)である。 また、B層に用いる芳香族ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量は、「力学特性と成形加工性のバランスから、通常、8,000以上、30,000以下、好ましくは10,000以上、25,000以下の範囲」(段落【0058】)である。 さらに、印刷層に用いられる印刷用インクは、「アクリル系樹脂やウレタン系樹脂を含むもの」(段落【0073】)である。 そして、「積層体」は、「フィルム」などの形状に成形される(段落【0080】)。 以上より、先願明細書には、以下の発明(以下、「先願発明」という。)が記載されている。 「ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を含む脂肪族ポリカーボネート樹脂の層(A層)の少なくとも一方の面に、芳香族ポリカーボネート樹脂の層(B層)と、印刷層とを積層してなる積層体であって、 前記脂肪族ポリカーボネート樹脂のジヒドロキシ化合物の主成分は、一般式(2)で表され、生物起源物質に由来するエーテルジオールであり、このジヒドロキシ化合物に由来する構造単位の含有割合として、好ましくは35モル%以上、90モル%以下であり、 前記芳香族ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量は、力学特性と成形加工性のバランスから、通常、8,000以上、30,000以下、好ましくは10,000以上、25,000以下の範囲であり、 前記印刷層に用いられる印刷用インクは、アクリル系樹脂やウレタン系樹脂を含んでいる、積層体からなるフィルム。」 イ.特許異議申立人澤山政子が提出した甲第1号証には、その段落【0023】~【0025】の記載からみて、以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。 「厚さ100μmのアクリルフィルムを基体シートとし、その表面にオーバーコート層を形成し、裏面に絵柄層および接着層を形成したインサート形成用シートであって、オーバーコート層はエポキシアクリレート樹脂を含み、絵柄層はバインダーとしてアクリル樹脂を含む、インサート形成用シート」 (2)本件訂正発明1~6についての判断 ア.取消理由1(29条の2)について 本件訂正発明1の多層フィルムは、「植物由来のエーテルジオール残基を含んでなるポリカーボネート樹脂材料の層(A)の少なくとも一方の面に、熱可塑性樹脂材料の層(B)および印刷層を積層されてなる多層フィルム」であって、「熱可塑性樹脂材料がアクリル樹脂」であるのに対し、前記「4.(1)ア」で述べたように、先願発明の積層体は、「ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を含む脂肪族ポリカーボネート樹脂の層(A層)の少なくとも一方の面に、芳香族ポリカーボネート樹脂の層(B層)と、印刷層とを積層してなる積層体」である。 そうすると、本件訂正発明1と先願発明は、植物由来のエーテルジオール残基を含んでなるポリカーボネート樹脂材料の層に積層される熱可塑性樹脂について、本件訂正発明1はアクリル樹脂であるの対し、先願発明は芳香族ポリカーボネート樹脂であることで相違する。 そして、芳香族ポリカーボネート樹脂とアクリル樹脂とでは、先願明細書によれば、芳香族ポリカーボネート樹脂が「透明性、耐衝撃性、打ち抜き加工性、耐熱性、低比重、廉価などに優れているが、表面硬度が非常に低く、近紫外~可視光波長領域で光吸収が起こることに由来して光線透過性や反射特性が不十分とされる」(段落【0002】)のに対し、アクリル樹脂は「表面硬度が高く、芳香族ポリカーボネート樹脂の様な光吸収が無いため透明性と光線透過性に非常に優れるが、耐衝撃性が非常に低く、打ち抜き加工時の歩留まりが低くなる傾向がある。」(段落【0003】)と、それぞれ樹脂材料として特性が異なるから、本件訂正発明1と先願発明との上記相違は微差とはいえず、本件訂正発明1は先願発明と同一であるとはいえない。 また、本件訂正発明2~6は、いずれも本件訂正発明1の発明特定事項を全て含むものであるところ、本件訂正発明1は上記のように先願発明と同一ではないから、本件訂正発明2~6も先願発明と同一ではない。 イ.取消理由2(29条2項)について 本件訂正発明1と引用発明を対比すると、基材について、本件訂正発明1が「植物由来のエーテルジオール残基を含んでなるポリカーボネート樹脂が式(1)で表されるジオール残基を含んでなり、全ジオール残基中式(1)で表されるジオール残基が15~100モル%を占めるポリカーボネート」であるのに対し、引用発明はアクリルフィルムである点で、少なくとも相違する。 この点について、植物由来のエーテルジオール残基を含んでなるポリカーボネート樹脂を基材シートとして用いることが、特許異議申立人澤山政子が提出した甲第2号証に記載されているものの、同甲第2号証には、植物由来のエーテルジオール残基を含んでなるポリカーボネート樹脂を、アクリル樹脂からなる樹脂層と積層して、多層フィルムを構成することは記載されていない。また、同甲第3、4号証にも記載されていない。 そして、本件訂正発明1は、「植物由来のエーテルジオール残基を含んでなるポリカーボネート樹脂材料の層(A)」、「アクリル樹脂」の層および「印刷層」を積層されてなる多層フィルムとすることにより、「耐薬品性、吸水率、成形加工性、靭性に優れた多層フィルムが得られ、さらに透明性にも優れ」たものとすることができるという効果を奏するものである(本件特許明細書の段落【0010】)。 よって、本件訂正発明1は、引用発明及び同甲第2~4号証に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に想到し得たものとはいえない。 また、本件訂正発明2~6は、いずれも本件訂正発明1の発明特定事項を全て含むものであるところ、本件訂正発明1は、上記のように、引用発明及び同甲第2~4号証に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に想到し得たものとはいえないから、本件訂正発明2~6も、引用発明及び甲第2~4号証に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に想到し得たものとはいえない。 なお、特許異議申立人澤山政子は、平成29年4月21日の意見書(「(1-1)進歩性(特許法第29条第2項)について」)において、新たな証拠を示してアクリル樹脂層とポリカーボネート樹脂層との多層フィルムは技術常識であった旨主張するが、いずれの証拠にも、本件訂正発明1~7の「植物由来のエーテルジオール残基を含んでなるポリカーボネート樹脂材料の層(A)」と「アクリル樹脂」の層からなる多層フィルムについて記載されておらず、この主張を採用することはできない。 (3)本件訂正発明7についての判断 ア.本件訂正発明7と先願発明を対比する。 (ア)本件訂正発明7は、「ポリカーボネート樹脂は、表面硬度が劣るため傷つきやすいという問題を有し」ており(本件特許明細書の段落【0002】)、ポリカーボネートシートに(メタ)アクリレート重合体の層が被覆された「既存の多層フィルムにおいては、耐薬品性、成形性、衝撃強度の点で満足できるものは得られていなかった」(同段落【0003】)が、「植物由来のモノマーであるイソソルビドからなるポリカーボネート樹脂の少なくとも一方の面に、熱可塑性樹脂材料を積層されてなるフィルムにすることで、耐薬品性、吸水率、成形加工性、靭性が改良されることを見出し本発明を完成するに至った」(同段落【0007】)ものである。 これに対し、先願発明は、「芳香族ポリカーボネート樹脂シートでは達成できない表面硬度と、アクリル樹脂又はアクリル樹脂を表層に配置してなる積層体では達成できない耐衝撃性や打ち抜き加工性」(先願明細書の段落【0001】)を兼備することを目的に、特定の脂肪族ポリカーボネート、すなわち、生物起源物質に由来するエーテルジオールを含む脂肪族ポリカーボネート樹脂の層と、芳香族ポリカーボネート樹脂の層とを積層したものである。 (イ)ここで、本件訂正発明7の「式(1)で表されるジオール残基を含んで」いる「植物由来のエーテルジオール残基を含んでなるポリカーボネート樹脂材料」について、本件特許明細書の段落【0015】~【0017】には、 「【0015】 本発明に用いるポリカーボネート樹脂は、下記式(a)で表されるエーテルジオールおよび炭酸ジエステルとから溶融重合法により製造することができる。 【0016】 【化3】 【0017】 エーテルジオールとしては、具体的には下記式(b)、(c)および(d)で表されるイソソルビド、イソマンニド、イソイディッドなどが挙げられる。」と記載されている。 一方、先願発明の「ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を含む脂肪族ポリカーボネート樹脂」は、先願明細書によれば、「脂肪族ポリカーボネート樹脂は、一般に用いられる重合方法で製造することができ、・・・・重合触媒の存在下に、構造の一部に前記一般式(1)で表される部位を有するジヒドロキシ化合物と、脂肪族及び/又は脂環式ジヒドロキシ化合物と、必要に応じて用いられるその他のジヒドロキシ化合物と、炭酸ジエステルとを反応させるエステル交換法が好ましい。」(段落【0046】)とされ、このうち、ジヒドロキシ化合物として、「下記一般式(2)で表されるジヒドロキシ化合物に代表される無水糖アルコール」(段落【0034】)が挙げられ、生物起源物質を原料として糖質から製造可能であって、資源として豊富に入手することが可能であることから、イソソルビドが最も好ましく(段落【0038】)、 また、炭酸ジエステルとしては、特にジフェニルカーボネートが好ましく用いられる(段落【0047】)とされている。 そうすると、本件訂正発明7の式(a)で表される植物由来のエーテルジオールは、先願発明の一般式(2)で表される生物起源物質を原料とするジヒドロキシ化合物と同じであり、このジヒドロキシ化合物に炭酸ジエステルと重合させて形成した先願発明の「脂肪族ポリカーボネート樹脂」は、エーテルジオールに炭酸ジエステルと重合させて形成した本件訂正発明7の「式(1)で表される」「植物由来のエーテルジオール残基を含んでなるポリカーボネート樹脂」に相当するものといえる。 (ウ)本件訂正発明7の「植物由来のエーテルジオール残基を含んでなるポリカーボネート樹脂材料の層(A)」の少なくとも一方の面に積層される「熱可塑性樹脂材料の層(B)」は、ポリカーボネート樹脂からなる。 一方、先願発明の「ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を含む脂肪族ポリカーボネート樹脂の層(A層)」の少なくとも一方の面に積層される「芳香族ポリカーボネート樹脂の層(B層)」は、先願明細書の記載(段落【0062】)によれば、芳香族ポリカーボネート樹脂の層(B層)は、A層とともに加熱して共押出しにより積層体を製造することから、熱可塑性樹脂であることが明らかであり、本件訂正発明7のポリカーボネート樹脂からなる「熱可塑性樹脂材料の層(B)」と、先願発明の「芳香族ポリカーボネート樹脂の層(B層)」とは、ともに熱可塑性樹脂材料のポリカーボネート樹脂からなる層という限りにおいて一致する。 (エ)先願発明の「ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を含む脂肪族ポリカーボネート樹脂の層(A層)」の少なくとも一方の面に積層される「印刷層」は、本件訂正発明7の「植物由来のエーテルジオール残基を含んでなるポリカーボネート樹脂材料の層(A)」の少なくとも一方の面に積層される印刷層に相当する。 (オ)先願発明の「積層体」は、「ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を含む脂肪族ポリカーボネート樹脂の層(A層)」と「芳香族ポリカーボネート樹脂の層(B層)」と「印刷層」とを積層した「多層」のものであり、その「多層」の「積層体」を「フィルム」として用いることから、先願発明の「積層体からなるフィルム」は、多層フィルムともいえる。 イ.よって、本件訂正発明7と先願発明とは、 「植物由来のエーテルジオール残基を含んでなるポリカーボネート樹脂材料の層の少なくとも一方の面に、熱可塑性樹脂材料のポリカーボネート樹脂からなる層および印刷層を積層されてなる多層フィルムであって、植物由来のエーテルジオール残基を含んでなるポリカーボネート樹脂が下記式(1)で表されるジオール残基を含む、多層フィルム 」であることで一致し、下記の点で相違する。 《相違点1》 植物由来のエーテルジオール残基を含んでなるポリカーボネート樹脂材料について、本件訂正発明7が「全ジオール残基中式(1)で表されるジオール残基が15~100モル%を占め、樹脂0.7gを塩化メチレン100mlに溶解した溶液の20℃における比粘度が0.14~0.50のポリカーボネート」であるのに対し、先願発明は「ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位の含有割合として、好ましくは35モル%以上、90モル%以下」のポリカーボネートであるものの、比粘度については特定されていない点。 《相違点2》 熱可塑性樹脂材料のポリカーボネート樹脂について、本件訂正発明7が「粘度平均分子量で表して13,000~40,000のポリカーボネート樹脂」であるのに対し、先願発明は粘度平均分子量が「8,000以上、30,000以下、好ましくは10,000以上、25,000以下の範囲」の芳香族ポリカーボネート樹脂である点。 《相違点3》 印刷層について、本件訂正発明7が「印刷層のバインダー樹脂がポリウレタン系樹脂、ビニル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、ポリビニルアセタール系樹脂、ポリエステルウレタン系樹脂、セルロースエステル系樹脂、アルキド系樹脂または熱可塑性エラストマー系樹脂であり」、「印刷層の厚みが0.01~100μm」であるのに対し、先願発明は「印刷層に用いられる印刷用インクは、アクリル系樹脂やウレタン系樹脂を含むものの、印刷層の厚みについては特定されていない点。 ウ.上記相違点について検討する。 (ア)相違点1 全ジオール残基中式(1)で表されるエーテルジオール残基、あるいは、ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位の含有割合について、先願発明が「35モル%以上、90モル%以下」の範囲であるのに対し、本件訂正発明7は「15~100モル%」であり、先願発明の範囲の上限と下限を広げるものであるが、本件特許明細書中には、「全ジオール残基中、式(1)で表されるジオール残基が好ましくは15~100モル%、より好ましくは30~100モル%、さらに好ましくは40~100モル%、特に好ましくは50~100モル%を占めるポリカーボネートである。」(段落【0021】)と記載されるものの、先願発明の範囲を超えることにより得られる効果について記載されていない。 また、比粘度についても、本件特許明細書中には、「本発明のイソソルビド系ポリカーボネート樹脂は、樹脂0.7gを塩化メチレン100mlに溶解した溶液の20℃における比粘度としては0.14~0.50のものを用いることができる。・・・・また比粘度が0.14より低くなると本発明のポリカーボネート樹脂より得られた積層フィルムが充分な機械強度を持たせることが困難となる。また比粘度が0.50より高くなると溶融流動性が高くなりすぎて、成形に必要な流動性を有する溶融温度が分解温度より高くなってしまう。」(段落【0039】)と記載されているものの、樹脂を成膜して積層体を形成し、フィルムとして使用する以上、求められる成形性や機械強度のためには、樹脂材料自体の比粘度は、当然、考慮されるべきものである。実際、特開2009-74029号公報(特許異議申立人関谷祐子が新たに提出した甲第10号証。特に、段落【0013】~【0036】の記載参照。)、特開2009-61762号公報(同じく甲第11号証。特に、段落【0015】~【0033】の記載参照。)、特開2008-274203号公報(同じく甲第12号証。特に、段落【0019】~【0037】の記載参照。)に記載されているように、バイオマス由来のイソソルビド等のエーテルジオールを構造単位にもつポリカーボネート樹脂として、十分な機械強度や適度な溶融流動性を得るために、樹脂0.7gを塩化メチレン100mlに溶解した溶液の20℃における比粘度を、0.14~0.5程度に調整するが好ましいことが記載されており、「樹脂0.7gを塩化メチレン100mlに溶解した溶液の20℃における比粘度が0.14~0.50」とすることで、新たな効果を奏するものとはいえない。 よって、相違点1に係る相違は、積層体として求められる成形性や機械強度を得るための具体化手段における微差にすぎない。 (イ)相違点2 本件訂正発明7のポリカーボネート樹脂について、本件特許明細書には、「ジヒドロキシ成分の代表的な例としては、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン(通称ビスフェノールA)、・・・・等が挙げられる。これらを単独で使用したホモポリマーでも、2種類以上共重合した共重合体であっても良い。物性面、コスト面からビスフェノールAが好ましい。」(段落【0059】)と記載され、特に、ジヒドロキシ成分としてビスフェノールAを採用したポリカーボネート樹脂、すなわち、先願発明と同様に芳香族ポリカーボネート樹脂が好ましいとされている。 また、粘度平均分子量についても、先願発明が「8,000以上、30,000以下、好ましくは10,000以上、25,000以下の範囲」であるのに対し、本件訂正発明7は「13,000~40,000」であり、範囲が重複している。しかも、本件特許明細書には、粘度平均分子量の範囲について、「該分子量が13,000より低いと多層フィルムとして脆くなり、また40,000より高いとその溶融粘度が高くなりすぎて溶融製膜が困難となるため好ましくない。」(段落【0063】)と記載されるのみであって、成膜してフィルムとして使用する以上、必要な成形性と機械強度のため、樹脂材料自体の分子量を考慮することは当然のことであることからすれば、分子量の範囲の上限と下限が相違することにより新たな効果を奏するものともいえない。 よって、相違点2に係る相違は、積層体として求められる成形性や機械強度を得るための具体化手段における微差にすぎない。 (ウ)相違点3 さらに、先願明細書の記載によれば、先願発明の印刷層に用いられる印刷用インクに含まれるアクリル系樹脂やウレタン系樹脂により、「印刷層を設けた場合においても、本発明の積層体を層間剥離等の支障なく作製することが可能となる」(段落【0075】)とされている。 一般に、印刷用インクは、「色料」、「バインダー樹脂」、「溶剤」等を含み、「バインダー樹脂」には、1)色料の素材への転移と固着、2)色料の湿潤と安定分散、3)印刷用インクに適度な粘度を与え素材へ転移しやすくする、4)転移した後、皮膜を形成し素材と密着する、という機能をもつことが技術常識である(例えば、特許異議申立人関谷祐子が提出した甲第4号証(2頁「印刷インキの構成」の項)、同じく甲第5号証(433頁2~10行)参照。)。また、アクリル系樹脂やウレタン系樹脂は、印刷用インクのバインダー樹脂として、広く用いられる一般的な材料である(同じく甲第3号証(32頁表2・6))。 そうすると、先願発明の印刷層に用いられる印刷用インクに含まれるアクリル系樹脂やウレタン系樹脂は、バインダー樹脂の機能といえる「層間剥離等の支障なく作製すること」を可能にするものであり、印刷用インクのバインダー樹脂として、広く用いられる一般的な材料でもあるから、本件訂正発明7の印刷層のバインダー樹脂に相当するものであるといえる。 また、印刷層の厚みについても、皮膜を形成し基材に密着させるため、印刷層がある程度の厚みを有する必要があることは明らかである上、印刷層として0.01~100μmの厚みは、特開2006-82539号公報(同じく甲第7号証(段落【0017】、【0020】))、特開2002-18893号公報(同じく甲第8号証(段落【0037】))、特開2010-82872号公報(同じく甲第9号証(段落【0014】~【0015】))に記載されているように一般的なものである。しかも、本件特許明細書に、「加飾層として印刷層を形成した場合、加飾層の厚みの範囲は、本発明の効果を阻害しない限り限定されないが、成形性の観点から0.01~100μmが好ましい。」(段落【0101】)と記載され、加飾層の厚みの範囲は、本発明の効果を阻害しない限り限定されないともされるものであるから、印刷層の厚みを0.01~100μmとすることで、新たな効果を奏するものとすることはできない。 よって、相違点3に係る相違は、印刷層を形成し基材に密着させるための具体化手段における微差にすぎない。 (エ)以上より、上記相違点1~3に係る本件訂正発明7の構成は、いずれも、それらを備えることにより新たな効果を奏するものでなく、多層フィルムとして、求められる成形性や機械強度を得るための具体化手段における微差にすぎないものであるから、本件訂正発明7は先願発明と実質的に同一である。 エ.なお、取消理由2(29条2項)については、特許異議申立人澤山政子が提出した甲第1~4号証のいずれにも、植物由来のエーテルジオール残基を含んでなるポリカーボネート樹脂からなる層を、ポリカーボネート樹脂からなる層と積層して、多層フィルムを構成することは記載されておらず、本件訂正発明7は、引用発明及び同甲第2~4号証に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に想到し得たものとはいえない。 5.取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について 特許異議申立人関谷祐子は、訂正前の請求項1の「植物由来のエーテルジオール残基」との記載は、物の発明を製造方法によって特定しようとするものであり、特許法第36条第6項第2号が規定する「発明が明確であること」に反する発明である旨主張する。 しかし、「植物由来のエーテルジオール残基」との記載は、単にエーテルジオール残基の原料を特定するものであって、この記載があることをもって、「発明が明確であること」に反するとまではいえない。 よって、特許異議申立人の特許法第36条第6項第2号の規定に係る主張は採用できない。 6.むすび 以上のとおり、本件訂正発明1~6に係る特許については、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては取り消すことはできない。 また、他に本件訂正発明1~6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 本件訂正発明7は、先願発明と同一であるから、本件訂正発明7に係る特許は、特許法第29条の2の規定に違反してされたものである。 したがって、本件訂正発明7に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。 よって結論のとおり決定する。

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2016-700150

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