特許異議申立
2016-700148
酸化チタンゾル及びその製造方法、並びに酸化チタン含有ポリマー
- 審判番号
- 2016-700148
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2010-134718外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2016年02月19日
- 審決日
- 2017年05月08日
- 公報発行日
- 2017年08月25日
- 結論
- 訂正認容
- 分類
- P1651.113-YAA(C01G) / P1651.121-YAA(C01G) / P1651.536-YAA(C01G) / P1651.537-YAA(C01G) / P1651.851-YAA(C01G)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第6項第1号、特許法第120条の5第2項第1号、特許法第29条第1項第3号、特許法第36条第6項第2号、特許法第36条第4項第1号
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第5769932号発明「酸化チタンゾル及びその製造方法、並びに酸化チタン含有ポリマー」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
【結 論】
特許第5769932号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1,2,4,5〕、3について訂正することを認める。
特許第5769932号の請求項1~5に係る特許を維持する。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
本件特許第5769932号は、平成22年6月14日を出願日とする特願2010-134718号の特許請求の範囲に記載された請求項1~5に係る発明について、平成27年7月3日にその特許権の設定登録がされたものであり、その後、その請求項1~5に係る特許について平成28年2月19日付けで特許異議申立人 宮本 邦彦(以下、「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、同年6月24日付けで取消理由が通知され、これに対し、特許権者より同年8月19日付けで意見書が提出され、同年11月2日付けで取消理由(決定の予告)が通知され、同年12月27日付けで意見書の提出及び訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)がされ、平成29年1月6日付けで訂正請求があった旨の通知がされたが、特許異議申立人から意見書の提出はなかったものである。
第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
本件訂正請求による訂正の内容は、次の訂正事項1,2のとおりである。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「酸化チタンの固形分が25~35重量%である酸化チタンゾル。」とあるのを、「酸化チタンの固形分が25~35重量%である酸化チタンゾルであって、前記有機シラン化合物が一般式Rn-Si-(OR’)4-n〔式中Rはアルキル基、ビニル基、メタクリル基の少なくとも1種を含む炭素数10以下の炭化水素基であり、R’はメチル基又はエチル基であり、nは1~3の整数である。但し、nが2または3のときは、Rは同種の炭化水素基であってもよいし、異種の炭化水素基であってもよい。〕で表される化合物である、酸化チタンゾル。」に訂正する。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項3に「前記加水分解生成物を含む被覆を形成する第一工程と、」とあるのを、「前記加水分解生成物を含む被覆を形成する第一工程であって、前記有機シラン化合物が一般式Rn-Si-(OR’)4-n〔式中Rはアルキル基、ビニル基、メタクリル基の少なくとも1種を含む炭素数10以下の炭化水素基であり、R’はメチル基又はエチル基であり、nは1~3の整数である。但し、nが2または3のときは、Rは同種の炭化水素基であってもよいし、異種の炭化水素基であってもよい。〕で表される化合物である、第一工程と、」に訂正する。
2 訂正の目的の適否、一群の請求項、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否について
(1)訂正事項1,2について
訂正事項1,2は、訂正前の請求項1,3の「有機シラン化合物」を、「一般式Rn-Si-(OR’)4-n〔式中Rはアルキル基、ビニル基、メタクリル基の少なくとも1種を含む炭素数10以下の炭化水素基であり、R’はメチル基又はエチル基であり、nは1~3の整数である。但し、nが2または3のときは、Rは同種の炭化水素基であってもよいし、異種の炭化水素基であってもよい。〕で表される化合物」に限定するものであって、特許請求の範囲の減縮を目的とする。
そして、訂正事項1,2は、本件明細書の段落【0016】の記載から導き出される事項であって新規事項の追加に該当せず、実質上、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでない。
(2)一群の請求項について
訂正前の請求項2,4,5は、請求項1の記載を他の請求項が引用して記載した関係にあるから一群の請求項であり、訂正事項1はこれら一群の請求項についての訂正である。
3 むすび
以上のとおりであるから、訂正事項1,2はいずれも、特許法第120条の5第2項第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び同条第9項で準用する第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1,2,4,5〕、3について訂正することを認める。
第3 特許異議申立てについて
1 本件発明
本件訂正請求により訂正された請求項1~5に係る発明(以下、項番に従って、「本件発明1」~「本件発明5」といい、まとめて「本件発明」という。)は、次の事項により特定されるとおりのものである。
【請求項1】
平均粒径が100nm以下の酸化チタン粒子表面に、Si-O-Ti結合を20%以上有する有機シラン化合物の重縮合物を前記酸化チタンに対して1.0~60.0重量%含む被覆を有する酸化チタン粒子と、相溶性有機溶媒とを含み、酸化チタンの固形分が25~35重量%である酸化チタンゾルであって、前記有機シラン化合物が一般式Rn-Si-(OR’)4-n〔式中Rはアルキル基、ビニル基、メタクリル基の少なくとも1種を含む炭素数10以下の炭化水素基であり、R’はメチル基又はエチル基であり、nは1~3の整数である。但し、nが2または3のときは、Rは同種の炭化水素基であってもよいし、異種の炭化水素基であってもよい。〕で表される化合物である、酸化チタンゾル。
【請求項2】
有機シラン化合物がメタクリロキシ基を含む、請求項1に記載の酸化チタンゾル。
【請求項3】
水と相溶性有機溶媒を含む媒液のスラリー中で、平均粒径が100nm以下の酸化チタン粒子と有機シラン化合物の加水分解生成物を接触させ、前記加水分解生成物を含む被覆を形成する第一工程であって、前記有機シラン化合物が一般式Rn-Si-(OR’)4-n〔式中Rはアルキル基、ビニル基、メタクリル基の少なくとも1種を含む炭素数10以下の炭化水素基であり、R’はメチル基又はエチル基であり、nは1~3の整数である。但し、nが2または3のときは、Rは同種の炭化水素基であってもよいし、異種の炭化水素基であってもよい。〕で表される化合物である、第一工程と、
スラリーのpHを6~9に調整する第二工程と、
前記の水を含む媒液を相溶性有機溶媒で置換して、酸化チタンの固形分を25~35重量%に調整する第三工程を含む、Si-O-Ti結合を20%以上有する有機シラン化合物の重縮合物を前記酸化チタンに対して1.0~60.0重量%含む被覆を有する酸化チタンゾルの製造方法。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の酸化チタンゾルと、不飽和結合をもつ有機化合物とを重合反応させて得られる、酸化チタン含有ポリマー。
【請求項5】
前記の不飽和結合をもつ有機化合物がスチレンである、請求項4に記載の酸化チタン含有ポリマー。
2 取消理由の概要
平成28年6月24日付け取消理由通知の概要
特許法第36条第6項第1号
ア 訂正前の請求項1,3において「Si-O-Ti結合を20%以上有する有機シラン化合物の重縮合物」と特定されているが、「有機シラン化合物の重縮合物」が「Si-O-Ti結合を20%以上有する」点は、発明の詳細な説明に記載されたものであるということはできない。訂正前の請求項1を引用する訂正前の請求項2,4,5についても同様である。
イ 訂正前の請求項1,3において「有機シラン化合物」は具体的な構造が特定されていないものであるところ、特許異議申立書に添付した甲第3号証に記載のとおり、「有機珪素化合物」は、広義には、正ケイ酸の有機エステル等も含むものであるから、本件明細書に具体的に開示のない有機シラン化合物を含む上記請求項1,3に係る発明は、本件発明の解決しようとする課題を解決することができると認識できない。訂正前の請求項1を引用する訂正前の請求項2,4,5についても同様である。
甲第3号証 化学大辞典編集委員会編,化学大辞典9,p.337,338,
昭和51年9月10日
3 当審の判断
(1)取消理由に対する判断
● アについて
本件明細書の発明の詳細な説明において、【0020】には「・・・有機シラン化合物中にSi-O-Si結合をn個有し、かつ、Si-O-Ti結合をk個(kはn+k≦3を満たす0以上の整数)有するものは、RSi(OSi)n(OTi)k(OR')3-n-kで表される。これらの化合物に由来するピークは、・・・ 複合ピークとして、TnTiで表される。」と記載され、表1(【0042】)には、Si-NMRの測定結果が記載され、【0043】には「・・・有機シラン化合物の加水分解物のうち、酸化チタン粒子に担持されたもの(Si-O-Ti結合を、構造内に有するものであり、表1において、T0Ti+T1Ti+T2Tiとして表される)の割合は、試料Aでは26.5%であり、試料Bでは29.0%であった。このように、Si-O-Ti結合を有する加水分解生成物の割合が20%以上であることは、有機シラン化合物の自己縮合が80%以下に抑制されていることを表している。・・・ このような理由からSi-O-Ti結合の割合が20%以上であることが好ましい。・・・」と記載されている。
そうすると、発明の詳細な説明によれば、本件発明の「Si-O-Ti結合を20%以上有する有機シラン化合物の重縮合物」の特定事項は、有機シラン化合物の重縮合物のうち「Si-O-Ti結合」を構造内に有するものが20%以上であることを意味しており、当該特定事項は、発明の詳細な説明に具体的に裏付けられたものであるといえる。
したがって、本件発明は、発明の詳細な説明に記載されている。
● イについて
本件訂正請求により、本件発明1~5の「有機シラン化合物」は、「一般式Rn-Si-(OR’)4-n〔式中Rはアルキル基、ビニル基、メタクリル基の少なくとも1種を含む炭素数10以下の炭化水素基であり、R’はメチル基又はエチル基であり、nは1~3の整数である。但し、nが2または3のときは、Rは同種の炭化水素基であってもよいし、異種の炭化水素基であってもよい。〕で表される化合物」であることが特定された。
したがって、訂正後の本件発明は、発明の詳細な説明に記載された有機シラン化合物に特定されたものであるから、本件発明は、発明の詳細な説明により当業者がその課題を解決することができると認識できる範囲内のものである。
よって、いずれの取消理由も理由がない。
(2)取消理由に採用しなかった特許異議申立理由に対する判断
特許異議申立人は、上記取消理由以外に、概ね以下の理由を申し立てた。
ア 特許法第29条第1項第3号及び同法第29条第2項
訂正前の請求項1,3に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であり、また、訂正前の請求項2,4に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であるか、または甲第1号証の記載から、当業者が容易に発明をすることができたものである。
甲第1号証:特開2009-35573号公報
イ 特許法第36条第6項第2号
(a) 甲第2号証によれば、固体29Si-NMR測定において、Si-O-Ti結合が形成された場合、当該Si原子の共鳴線が低磁場シフトすることが当業者の技術常識であると認められるところ、本件明細書の表1には、Si-O-Ti結合を有しない、T0、T1、及びT2の化学シフトに対して、T0、T1、及びT2が酸化チタンと反応し、その中に少なくとも1つのSi-O-Ti結合を有するT0Ti、T1Ti、及びT2Tiの化学シフトが、いずれも高磁場側にシフトしているから、本件発明において、高磁場シフトした共鳴線を基に、Si-O-Ti結合の含有割合を算出することの化学的根拠は不明である。
したがって、訂正前の請求項1,3で規定された「Si-O-Ti結合を20%以上有する」という発明特定事項は、その意味するところが不明であるから、訂正前の請求項1,3に係る発明、及び訂正前の請求項1を引用する訂正前の請求項2,4,5に係る発明は不明確である。
甲第2号証:CAROL L.SCHUTTE et al. "INITIAL EVIDENCE FOR Si-O-Ti BOND FORMATION IN ORGANICALLY MODIFIED SILICON TITANATES BY SOLID-STATE 29Si NUCLEAR MAGNETIC RESONANCE SPECTROSCOPY", ULTRASTRUCTURE PROCESSING OF ADVENCED MATERIALS,1992年, p.95-102
(b)本件明細書【0019】によれば、訂正前の請求項1,3に係る発明で特定された酸化チタン粒子は、有機シラン化合物の重縮合物を含む被覆よりも内側全部が無機化合物で被覆されてもよいことが記載されているから、酸化チタン粒子の全表面が無機化合物で被覆された場合、酸化チタン粒子の表面には、有機シラン化合物由来の「Si-O-Ti結合」が存在しないことになる。
したがって、訂正前の請求項1,3に規定される「Si-O-Ti結合」がどのような結合を意味しているのか理解できないため、訂正前の請求項1,3に係る発明、及び訂正前の請求項1を引用する訂正前の請求項2,4,5に係る発明は不明確である。
ウ 特許法第36条第4項第1号
上記イ(a)に記載のとおり、Si-O-Ti結合が形成された場合、当該Si原子の共鳴線は低磁場シフトすることが技術常識であるところ、本件明細書の表1の記載では、実施例で作成した酸化チタンゾルにおいて、Si-O-Ti結合が形成されているか否かは不明であり、Si-O-Ti結合の割合をどのように決定するのかも不明であるというべきであるから、当業者は、訂正前の請求項1,3に規定される「平均粒径が100nm以下の酸化チタン粒子表面に、Si-O-Ti結合を20%以上有する有機シラン化合物の重縮合物」からなる被覆が形成されているか否かを確かめることができない。
よって、発明の詳細な説明の記載は、実施可能要件を満たしていない。
エ 特許法第36条第6項第1号
上記イ(a)に記載のとおり、本件明細書の記載内容、及び当業者の技術常識からして、本件明細書の表1のデータが「Si-O-Ti結合を20%以上有する」という数値限定の根拠であるということはできないから、「Si-O-Ti結合を20%以上有する」という発明特定事項を規定する訂正前の請求項1,3に係る発明、及び訂正前の請求項1を引用する訂正前の請求項2,4,5に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものでない。
これらの主張について検討する。
●アについて
甲第1号証には、以下の記載がある。
1a 「【請求項1】
金属酸化物粒子の水および/または有機溶媒分散液に、下記式(1)で表される有機ケイ素化合物を加えて加水分解し、ついで、下記式(2)で表される有機ケイ素化合物を加えて加水分解することを特徴とする金属酸化物粒子の表面処理方法。
(NH2-CnH2n-Z-CmH2m)L-Si-Y4-L (1)
(但し、式中、Z:-NH、-CH2、Y:炭素数1~4のアルコキシ基、水酸基、ハロゲン、水素。L:1~3の整数,n:0~10の整数、m:0~10の整数。)
Rp-SiX4-p (2)
(但し、式中、Rは炭素数1~10の非置換または置換炭化水素基であって、互いに同一であっても異なっていてもよい。X:炭素数1~4のアルコキシ基、水酸基、ハロゲン、水素、p:1~3の整数、但し、置換炭化水素基中アミノ基置換炭化水素基を除く。)
【請求項2】
前記表面処理された金属酸化物粒子中の式(1)で表される有機ケイ素化合物の含有量が、[(NH2-C2H2n-Z-CmH2m)L-SiO4-L/2]として0.001~20重量%の範囲にあり、式(2)で表される有機ケイ素化合物の含有量がRp-Si-O4-p/2として1~60重量%の範囲にあることを特徴とする請求項1に記載の金属酸化物粒子の表面処理方法。
【請求項3】
前記金属酸化物粒子がシリカ、アルミナ、ジルコニア、酸化チタン、酸化スズ、酸化亜鉛、五酸化アンチモン、酸化インジウム、低次酸化チタンおよびこれらの複合酸化物、あるいはSbドープ酸化スズ(ATO)、Fドープ酸化スズ、Pドープ酸化スズ、Snドープ酸化インジウム(ITO)、Fドープ酸化インジウムから選ばれる1種または2種以上であり、平均粒子径が3~300nmの範囲にあることを特徴とする請求項1または2に記載の金属酸化物粒子の表面処理方法。」
1b「【実施例6】
【0073】
表面処理金属酸化物粒子(6)の調製
酸化チタン・ジルコニア・シリカ系微粒子のメタノール分散液(触媒化成工業(株)製:オプトレイク1130ZS7A8、固形分濃度20重量%、平均粒子径20nm)100gを純水100gで希釈した。ついでγ-アミノプロピルトリメトキシシラン(信越化学製:KBM-603、濃度81.2重量%)2gを添加し、60℃で1時間熟成した。その後γ-アクリロオキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学製:KBM-5103、濃度81.2重量%)10g、メタノール100gおよび濃度29.8重量%のアンモニア水1gを添加し、さらに60℃で5時間熟成した。その後、セラミック製限外膜を用いて2-プロパノールに溶剤置換し、固形分濃度30重量%の表面処理金属酸化物粒子(6) 2-プロパノール分散液を調製した。・・・」
1c 表1(【0102】)には、実施例6のγ-アミノプロピルトリメトキシシラン(γ-AM)の処理量が7.5重量%、γ-アクリロオキシプロピルトリメトキシシラン(γ-A)の処理量が27.3重量%であることが記載されている。
甲第1号証の記載事項1a~1cによれば、甲第1号証には、
「水とメタノールを含む分散液中で、平均粒子径20nmの酸化チタン・ジルコニア・シリカ系微粒子にγ-アミノプロピルトリメトキシシランを加えて加水分解し、ついで、γ-アクリロオキシプロピルトリメトキシシランとアンモニアを加えて加水分解する工程、及び2-プロパノールに溶媒置換する工程を有する、γ-アミノプロピルトリメトキシシランとγ-アクリロオ
キシプロピルトリメトキシシランとの処理量の合計が34.8重量%である酸化チタン・ジルコニア・シリカ系微粒子分散液の製造方法」
の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されているといえる。
甲1発明と本件発明3とを比較すると、本件発明3は、酸化チタン粒子を対象とする点、及び第一工程の後に、スラリーのpHを6~9に調整する第二工程を有する点で、甲1発明と少なくとも相違している。
これに関し、記載事項1bによれば、甲1発明でアンモニアを添加することは記載されているが、加水分解時にγ-アクリロオキシプロピルトリメトキシシランと同時に添加するものであって、本件発明3のように加水分解物の被覆を形成した後でpHを調整するために行うものではない。
そして、甲第1号証のその他の記載を参照しても、加水分解生成物を含む被覆を酸化チタン粒子表面に形成した後において、スラリーのpHを調整するという上記第二工程を導出することはできない。
したがって、本件発明3は、甲第1号証に記載された発明ではなく、また、当該発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
上記のとおり、甲第1号証は、本件発明3とは異なる製造方法により酸化チタンを構成成分として含む複合酸化物粒子などの分散液を製造することについて具体的に記載されているのみであって、本件発明1に係る酸化チタンゾルの製造方法である本件発明3が導出できず、また、記載事項1aのとおり、甲第1号証には、酸化チタンについては単に金属酸化物粒子の選択肢の1つとして記載されているにすぎないものであるから、甲第1号証の他の記載を参照したとしても、甲1発明により本件発明1の酸化チタンゾルが得られるという根拠が見出せない。
したがって、本件発明1、及び本件発明1に従属する本件発明2,4は、甲第1号証に記載された発明ではなく、また、当該発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
●イ(a)について
本件明細書【0020】によれば、有機シラン化合物中にSi-O-Si結合をn個(nは、0~3の整数)有するものは、RSi(OSi)n(OR’)3-n(Rはアルキル基を、R’はCH3或いはHを、それぞれ表す)で表され、そのピークは一般にTnで表される。また、有機シラン化合物中にSi-O-Si結合をn個有し、かつ、Si-O-Ti結合をk個(kはn+k≦3を満たす0以上の整数)有するものは、RSi(OSi)n(OTi)k(OR')3-n-kで表され、これらの化合物に由来するピークは、複合ピークとして、TnTiで表される。
これらにしたがうと、Si-O-Si結合を、T3は3個、T2は2個、T1は1個有するものであり、T2Tiは、Si-O-Si結合を2個、Si-O-Ti結合を1個、T1Tiは、Si-O-Si結合を1個、Si-O-Ti結合を1又は2個、T0Tiは、Si-O-Si結合は0個、Si-O-Ti結合を1~3個有することを意味し、T3、T2,T1に対して、T2Ti、T1Ti、T0Tiは、それぞれSi-O-Si結合が1個減るとともに、Si-O-Ti結合が形成されているものであるといえる。
そして、本件明細書の表1において、T3、T2,T1に対して、T2Ti、T1Ti、T0Tiの検出ピークの化学シフト値はそれぞれ低磁場シフトしているから、Si-O-Si結合に替えてSi-O-Ti結合が形成されると、検出ピークは低磁場シフトしているといえる。
そうすると、表1の記載は、Si-O-Ti結合が形成されると、Si原子の共鳴線は低磁場シフトするという上記「技術常識」と矛盾するものではなく、本件明細書のSi-O-Ti結合の含有割合を算出する根拠である本件明細書【0020】,【0041】~【0043】の記載は、Si-O-Ti結合の確認方法が具体的に記載されているといえる。
したがって、本件発明1,3に記載された「Si-O-Ti結合を20%以上有する」という発明特定事項は、技術的意味が明らかであるから、本件発明1,3、及び本件発明1に従属する本件発明2,4,5は明確である。
●イ(b)について
本件発明1,3において、酸化チタン粒子に対して「酸化チタン粒子の表面に、Si-O-Ti結合の割合を20%以上有する有機シラン化合物の重縮合物」の被覆を有することが特定されているのであるから、本件発明1,3は、有機シラン化合物の重縮合物と酸化チタン粒子表面とで、Si-O-Ti結合を形成可能である酸化チタン粒子を特定していることは明らかである。
したがって、本件発明1,3、及び本件発明1に従属する本件発明2,4,5は、明確である。
●ウ、エについて
上記「イ(a)について」に記載のとおり、Si-O-Ti結合の確認方法については、本件明細書【0020】,【0041】~【0043】に具体的に記載されているから、これらの記載にしたがって「Si-O-Ti結合を有する加水分解生成物の割合」を確認することができる。
したがって、発明の詳細な説明は、本件発明を当業者が実施することができる程度に記載されており、また、本件発明は「Si-O-Ti結合を20%以上有する」ことが、発明の詳細な説明に裏付けをもって記載されているといえる。
よって、いずれの申立理由も理由がない。
第4 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した申立理由によっては、本件発明1~5に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1~5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。
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2016-700148