特許異議申立
2016-700130
微細セルロース繊維分散液およびその製造方法、セルロースフィルムならびに積層体
- 審判番号
- 2016-700130
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2012-504426外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2016年02月17日
- 審決日
- 2017年02月16日
- 公報発行日
- 2017年05月26日
- 結論
- 訂正認容
- 分類
- P1651.113-YAA(C08L) / P1651.161-YAA(C08L) / P1651.537-YAA(C08L)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第7項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第5765331号発明「微細セルロース繊維分散液およびその製造方法、セルロースフィルムならびに積層体」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
【結 論】
特許第5765331号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~13〕、〔14~18〕について訂正することを認める。
特許第5765331号の請求項1ないし18に係る特許を維持する。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
本件特許の請求項1~18に係る特許についての出願は、平成23年3月3日(優先権主張 平成22年9月27日(1件)、同年7月12日(2件)、同年3月9日(1件))を国際出願日とする出願であって、平成27年6月26日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許に対し、平成28年2月17日付け(受理日:同年同月18日)で特許異議申立人 山本 美映子(以下、単に「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、当審において同年5月24日付けで取消理由が通知され、同年7月25日付け(受理日:同年同月26日)で意見書が提出されるとともに訂正の請求がされ、同年9月29日付け(受理日:同年同月30日)で特許異議申立人により意見書が提出され、さらに当審において同年10月18日付けで取消理由が通知され、同年12月19日付け(受理日:同年同月20日)で意見書が提出されるとともに訂正の請求(以下、「本件訂正の請求」という。)がされ、平成29年2月3日付け(受理日:同年同月6日)で特許異議申立人により意見書が提出されたものである。
なお、平成28年7月25日付け(受理日:同年同月26日)でされた訂正の請求は、特許法第120条の5第7項(以下、法令名省略)の規定により取り下げられたものとみなす。
第2 訂正の適否
1 訂正の内容
本件訂正の請求による訂正の内容は、次のとおりである(なお、下線は訂正箇所を示すものである。)。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「少なくとも、酸化反応によりピラノース環の第6位水酸基に選択的にカルボキシル基が導入された微細セルロース繊維と、有機アルカリとを含むpH4以上pH12以下の微細セルロース繊維分散液であって、
前記有機アルカリが、アミン類または水酸化物イオンを対イオンとする有機オニウム化合物のいずれかであることを特徴とする微細セルロース繊維分散液。」とあるのを、「少なくとも、酸化反応によりピラノース環の第6位水酸基に選択的にカルボキシル基が導入された微細セルロース繊維を含み、前記微細セルロース繊維中の金属イオン含有量が1wt%以下であるpH4以上pH12以下の微細セルロース繊維分散液であって、
前記カルボキシル基を対イオンとするイオン化したアミン類または前記カルボキシル基を対イオンとする有機オニウムイオンのいずれかを含むことを特徴とする微細セルロース繊維分散液。」に訂正する。
(2)訂正事項2
明細書の段落【0013】に「上記課題を解決するために、本発明における請求項1に記載した発明は、少なくとも、酸化反応によりピラノース環の第6位水酸基に選択的にカルボキシル基が導入された微細セルロース繊維と、有機アルカリとを含むpH4以上pH12以下の微細セルロース繊維分散液であって、前記有機アルカリが、アミン類または水酸化物イオンを対イオンとする有機オニウム化合物のいずれかであることを特徴とする微細セルロース繊維分散液である。」とあるのを、「上記課題を解決するために、本発明における請求項1に記載した発明は、少なくとも、酸化反応によりピラノース環の第6位水酸基に選択的にカルボキシル基が導入された微細セルロース繊維を含み、前記微細セルロース繊維中の金属イオン含有量が1wt%以下であるpH4以上pH12以下の微細セルロース繊維分散液であって、
前記カルボキシル基を対イオンとするイオン化したアミン類または前記カルボキシル基を対イオンとする有機オニウムイオンのいずれかを含むことを特徴とする微細セルロース繊維分散液である。」に訂正する。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項2に「前記有機アルカリが、水酸化物イオンを対イオンとする4級アンモニウム化合物であることを特徴とする請求項1に記載の微細セルロース繊維分散液。」とあるのを、「前記有機オニウムイオンが、4級アンモニウムイオンであることを特徴とする請求項1に記載の微細セルロース繊維分散液。」に訂正する。
(4)訂正事項4
明細書の段落【0015】に「次に、請求項2に記載した発明は、前記有機アルカリが、水酸化物イオンを対イオンとする4級アンモニウム化合物であることを特徴とする請求項1に記載の微細セルロース繊維分散液である。」とあるのを、「次に、請求項2に記載した発明は、前記有機オニウムイオンが、4級アンモニウムイオンであることを特徴とする請求項1に記載の微細セルロース繊維分散液である。」に訂正する。
(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項14に「セルロースをTEMPO酸化処理して酸化セルロースを得る酸化工程と、
前記酸化工程で得られた酸化セルロースを、有機アルカリを用いてpH4以上pH12以下に調整された水系媒体中で分散処理して微細セルロース繊維分散液を得る分散工程であって、前記有機アルカリが、アミン類または水酸化物イオンを対イオンとする有機オニウム化合物のいずれかである分散工程と、
を備えることを特徴とする微細セルロース繊維分散液の製造方法。」とあるのを、「セルロースをTEMPO酸化処理して酸化セルロースとし、酸を添加してカルボン酸に変換した酸化セルロースを回収する工程と、
前記工程で得られた酸化セルロースを、有機アルカリを用いてpH4以上pH12以下に調整された水系媒体中で分散処理して微細セルロース繊維分散液を得る分散工程であって、前記有機アルカリが、アミン類または水酸化物イオンを対イオンとする有機オニウム化合物のいずれかである分散工程と、
を備えることを特徴とする微細セルロース繊維分散液の製造方法。」に訂正する。
(6)訂正事項6
明細書の段落【0027】に「次に、請求項14に記載した発明は、セルロースをTEMPO酸化処理して酸化セルロースを得る酸化工程と、前記酸化工程で得られた酸化セルロースを、有機アルカリを用いてpH4以上pH12以下に調整された水系媒体中で分散処理して微細セルロース繊維分散液を得る分散工程であって、前記有機アルカリが、アミン類または水酸化物イオンを対イオンとする有機オニウム化合物のいずれかである分散工程と、を備えることを特徴とする微細セルロース繊維分散液の製造方法である。」とあるのを、「次に、請求項14に記載した発明は、セルロースをTEMPO酸化処理して酸化セルロースとし、酸を添加してカルボン酸に変換した酸化セルロースを回収する工程と、前記工程で得られた酸化セルロースを、有機アルカリを用いてpH4以上pH12以下に調整された水系媒体中で分散処理して微細セルロース繊維分散液を得る分散工程であって、前記有機アルカリが、アミン類または水酸化物イオンを対イオンとする有機オニウム化合物のいずれかである分散工程と、を備えることを特徴とする微細セルロース繊維分散液の製造方法である」に訂正する。
2 訂正の目的の適否、一群の請求項ごとに訂正の請求を行っているか否か、願書に添付した明細書の訂正をする場合であって、請求項ごとに訂正の請求をするときに、当該明細書の訂正に係る請求項の全てについて訂正の請求を行っているか否か、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内か否か、及び、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1
訂正事項1は、特許請求の範囲の減縮及び明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。
また、訂正事項1は、特許請求の範囲についての訂正であるが、訂正前の請求項2~13は、訂正前の請求項1を引用するものであり、訂正前の請求項1~13は一群の請求項であるから、訂正事項1は、一群の請求項ごとの訂正である。
さらに、訂正事項1は、訂正前の明細書の段落【0040】、【0041】、【0051】等の記載に基づくものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであるし、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(2)訂正事項2
訂正事項2は、訂正事項1による訂正に伴い特許請求の範囲の記載と明細書の記載との整合を図るための訂正であるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
また、訂正事項2は、願書に添付した明細書の訂正をする場合であるが、当該明細書の訂正に係る請求項の全てについて、訂正の請求を行うものである。
さらに、訂正事項2は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであるし、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(3)訂正事項3
訂正事項3は、明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。
また、訂正事項3は、特許請求の範囲についての訂正であるが、訂正前の請求項11~13は、訂正前の請求項2を引用するものであり、訂正前の請求項2、11~13は一群の請求項であるから、訂正事項3は、一群の請求項ごとの訂正である。
さらに、訂正事項3は、訂正前の明細書の段落【0051】等の記載に基づくものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであるし、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(4)訂正事項4
訂正事項4は、訂正事項3による訂正に伴い特許請求の範囲の記載と明細書の記載との整合を図るための訂正であるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
また、訂正事項4は、願書に添付した明細書の訂正をする場合であるが、当該明細書の訂正に係る請求項の全てについて、訂正の請求を行うものである。
さらに、訂正事項4は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであるし、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(5)訂正事項5
訂正事項5は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、訂正事項5は、特許請求の範囲についての訂正であるが、訂正前の請求項15~18は、訂正前の請求項14を引用するものであり、訂正前の請求項14~18は一群の請求項であるから、訂正事項5は、一群の請求項ごとの訂正である。
さらに、訂正事項5は、訂正前の明細書の段落【0040】等の記載に基づくものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであるし、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(6)訂正事項6
訂正事項6は、訂正事項5による訂正に伴い特許請求の範囲の記載と明細書の記載との整合を図るための訂正であるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
また、訂正事項6は、願書に添付した明細書の訂正をする場合であるが、当該明細書の訂正に係る請求項の全てについて、訂正の請求を行うものである。
さらに、訂正事項6は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであるし、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
3 むすび
以上のとおりであるから、本件訂正の請求による訂正は、第120条の5第2項第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項及び第9項において準用する第126条第4項~第6項の規定に適合するので、本件訂正の請求による訂正後の請求項1~18について訂正することを認める。
第3 本件特許発明
本件訂正の請求により訂正された請求項1~18に係る発明(以下、それぞれ、「本件特許発明1」~「本件特許発明18」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1~18に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
少なくとも、酸化反応によりピラノース環の第6位水酸基に選択的にカルボキシル基が導入された微細セルロース繊維を含み、前記微細セルロース繊維中の金属イオン含有量が1wt%以下であるpH4以上pH12以下の微細セルロース繊維分散液であって、
前記カルボキシル基を対イオンとするイオン化したアミン類または前記カルボキシル基を対イオンとする有機オニウムイオンのいずれかを含むことを特徴とする微細セルロース繊維分散液。
【請求項2】
前記有機オニウムイオンが、4級アンモニウムイオンであることを特徴とする請求項1に記載の微細セルロース繊維分散液。
【請求項3】
前記微細セルロース繊維が、セルロースを、水系媒体中で、分散処理して得られたものであることを特徴とする請求項1に記載の微細セルロース繊維分散液。
【請求項4】
前記水系媒体が、水、または水とアルコールの混合液であり、前記アルコールが、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノールのいずれかであることを特徴とする請求項3に記載の微細セルロース繊維分散液。
【請求項5】
さらに、水溶性有機溶剤を含むことを特徴とする請求項1に記載の微細セルロース繊維分散液。
【請求項6】
前記水溶性有機溶剤が、メタノール、エタノール、2-プロパノール、アセトン、メチルエチルケトン、1,4-ジオキサン、テトラヒドロフラン、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、アセトニトリルまたは酢酸エチルから選択される1または2以上の有機溶剤であることを特徴とする請求項5に記載の微細セルロース繊維分散液。
【請求項7】
前記水溶性有機溶剤の量が、微細セルロース繊維分散液全体に対して0.1重量%以上であることを特徴とする請求項6に記載の微細セルロース繊維分散液。
【請求項8】
さらに、反応性官能基を有する化合物からなる添加剤を含むことを特徴とする請求項1に記載の微細セルロース繊維分散液。
【請求項9】
前記微細セルロース繊維のカルボキシル基の含有量が、0.1mmol/g以上2mmol/g以下である特徴とする請求項1に記載の微細セルロース繊維分散液。
【請求項10】
前記微細セルロース繊維の数平均繊維径が、0.003μm以上0.050μm以下であることを特徴とする請求項9に記載の微細セルロース繊維分散液。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか一項に記載の微細セルロース繊維分散液を乾燥して形成したことを特徴とするセルロースフィルム。
【請求項12】
請求項1~10のいずれか一項に記載の微細セルロース繊維分散液を、基材上の少なくとも片面に塗布して、被膜を形成したことを特徴とする積層体。
【請求項13】
前記被膜が、アンダーコート層であることを特徴とする請求項12に記載の積層体。
【請求項14】
セルロースをTEMPO酸化処理して酸化セルロースとし、酸を添加してカルボン酸に変換した酸化セルロースを回収する工程と、
前記工程で得られた酸化セルロースを、有機アルカリを用いてpH4以上pH12以下に調整された水系媒体中で分散処理して微細セルロース繊維分散液を得る分散工程であって、前記有機アルカリが、アミン類または水酸化物イオンを対イオンとする有機オニウム化合物のいずれかである分散工程と、
を備えることを特徴とする微細セルロース繊維分散液の製造方法。
【請求項15】
前記有機アルカリが、水酸化物イオンを対イオンとする4級アンモニウム化合物であることを特徴とする請求項14に記載の微細セルロース繊維分散液の製造方法。
【請求項16】
前記水系媒体が、水、または水とアルコールの混合液であり、前記アルコールが、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノールのいずれかであることを特徴とする請求項14に記載の微細セルロース繊維分散液の製造方法。
【請求項17】
前記水系媒体が、水溶性有機溶剤を含み、前記水溶性有機溶剤が、メタノール、エタノール、2-プロパノール、アセトン、メチルエチルケトン、1,4-ジオキサン、テトラヒドロフラン、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、アセトニトリルまたは酢酸エチルから選択される1または2以上の有機溶剤であることを特徴とする請求項14に記載の微細セルロース繊維分散液の製造方法。
【請求項18】
前記分散工程の後、得られた微細セルロース繊維分散液に水溶性有機溶剤を加える調製工程を備え、前記水溶性有機溶剤が、メタノール、エタノール、2-プロパノール、アセトン、メチルエチルケトン、1,4-ジオキサン、テトラヒドロフラン、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、アセトニトリルまたは酢酸エチルから選択される1または2以上の有機溶剤であることを特徴とする請求項14に記載の微細セルロース繊維分散液の製造方法。」
第4 平成28年10月18日付けの取消理由の概要
1 請求項1~18に係る特許は、第36条第6項第1号の規定に適合する特許出願に対してされたものではないから、第36条第6項に規定する要件を満たしておらず、第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。
2 請求項1~13に係る特許は、第36条第6項第2号の規定に適合する特許出願に対してされたものではないから、第36条第6項に規定する要件を満たしておらず、第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。
第5 平成28年10月18日付けの取消理由についての判断
1 第36条第6項第1号
(1)請求項1~13
請求項1には「微細セルロース繊維中の金属イオン含有量が1wt%以下であるpH4以上pH12以下の微細セルロース繊維分散液であって」と記載されており、該記載は、微細セルロース繊維中の金属イオン含有量が1wt%以下であることを意味している。
一方、発明の詳細な説明の段落【0041】においても、酸化セルロース中、言い換えると、微細セルロース繊維中の金属イオン含有量が1wt%であることが記載されている。
そうしてみると、請求項1の記載と発明の詳細な説明の記載が一致しており、請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものであると認められる。
また、請求項1に係る発明を直接的または間接的に引用する請求項2~13に係る発明についても同様である。
したがって、請求項1~13に係る特許は、第36条第6項第1号の規定に適合する特許出願に対してされたものであり、第36条第6項に規定する要件を満たしており、第113条第4号に該当しない。
(2)請求項14~18
請求項14には「セルロースをTEMPO酸化処理して酸化セルロースとし、酸を添加してカルボン酸に変換した酸化セルロースを回収する工程」と記載されており、該記載は、セルロースをTEMPO酸化処理し、反応液に酸を添加することによって、カルボン酸に変換した酸化セルロースを回収することを意味している。
一方、発明の詳細な説明の段落【0035】~【0040】においても、セルロースをTEMPO酸化処理することによって酸化セルロースを得て、得られた当該酸化セルロースを含む反応液に酸を添加して酸化セルロースを回収することが記載されている。
そうしてみると、請求項14の記載と発明の詳細な説明の記載が一致しており、請求項14に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものであると認められる。
また、請求項14に係る発明を直接的または間接的に引用する請求項15~18に係る発明についても同様である。
したがって、請求項14~18に係る特許は、第36条第6項第1号の規定に適合する特許出願に対してされたものであり、第36条第6項に規定する要件を満たしており、第113条第4号に該当しない。
2 第36条第6項第2号
請求項1~13
請求項1には「前記カルボキシル基を対イオンとするイオン化したアミン類」と記載されているところ、当該技術分野の技術常識からみて、イオン化したアミン類はカルボキシル基の対イオンになり得るものである。
よって、請求項1の記載は明確である。
また、請求項1に従属する請求項2~13の記載についても同様である。
したがって、請求項1~13に係る特許は、第36条第6項第2号の規定に適合する特許出願に対してされたものであり、第36条第6項に規定する要件を満たしており、第113条第4号に該当しない。
なお、平成29年2月3日付け(受理日:同年同月6日)で特許異議申立人が提出した意見書も検討したが、請求項1~18に係る特許を取り消すことはできない。
第6 平成28年5月24日付けの取消理由の概要
1 本件発明1、3、4は、いずれも甲1号証に記載された発明であって、第29条第1項第3号の規定に該当するものであるから、本件発明1、3、4に係る特許は、第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
2 本件発明1~7、9、10、14~16は、その出願の日前の特許出願であって、その出願後に出願公開がされた特許出願である甲4出願の願書に最初に添付された特許請求の範囲又は明細書に記載された発明と同一であって、第29条の2の規定により特許を受けることができないものであるから、本件発明1~7、9、10、14~16に係る特許は、第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
甲1号証:Langmuir, Vol. 17, No. 1, p.21-27 の写し及び部分翻訳
甲4出願:特願2010-269128号(特開2011-140738号)
第7 平成28年5月24日付けの取消理由についての判断
1 第29条第1項第3号
(1)本件特許発明1
ア 甲1号証に記載された発明
甲1号証には「酸化反応により1級水酸基のみをカルボキシル基に変換したセルロース微結晶とPEG-NH2を含むpH7.5以上8.0以下のセルロース微結晶混合物」(以下、「甲1発明」という。)が記載されているといえる。
イ 甲1発明との対比
本件特許発明1と甲1発明とを対比すると、本件特許発明1では、カルボキシル基を対イオンとするイオン化したアミン類またはカルボキシル基を対イオンとする有機オニウムイオンを含むのに対して、甲1発明では、そのような特定がされていない点で、両者は相違するところ、甲1号証にはカルボキシル基を対イオンとするイオン化したアミン類またはカルボキシル基を対イオンとする有機オニウムイオンを含ませることは記載も示唆もされておらず、両者は実質的に相違している。
よって、本件特許発明1は、甲1発明に対して、新規性を有する。
(2)本件特許発明3、4
本件特許の訂正後の請求項1を直接的又は間接的に引用する訂正後の請求項3、4に係る本件特許発明3、4は、本件特許発明1と同様に、甲1発明に対して、新規性を有する。
(3)まとめ
以上のとおりであるから、訂正後の請求項1、3、4に係る特許は、第29条の規定に違反してされたものとはいえず、第113条第2号に該当するものではない。
2 第29条の2
(1)本件特許発明1
ア 甲4出願の願書に最初に添付された特許請求の範囲及び明細書に記載された発明
甲4出願には「天然セルロース繊維100gにイオン交換水9900gを加えて十分に攪拌してスラリーを得、該スラリーに、TEMPOを対パルプ1.25質量%、臭化ナトリウムを対パルプ14.2質量%、次亜塩素酸ナトリウムを対パルプ28.4質量%、それぞれこの順で添加し、更にpHスタッドを用い、0.5Mの水酸化ナトリウムの滴下にてスラリーのpHを10.5に保持し、温度20℃で酸化反応を行い、120分間の酸化時間で水酸化ナトリウムの滴下を停止し、イオン交換水にて十分に洗浄し、脱水処理を行い、反応物繊維(酸化パルプ)を得て、次いで、前記反応物繊維を固形分換算で2gとイオン交換水400gとを混合し、界面活性剤として10%テトラブチルアンモニウムヒドロキシド(TBAH、和光純薬工業(株)製)を10.8g添加して24時間撹拌したもの」(以下、「甲4発明1」という。)及び「天然セルロース繊維100gにイオン交換水9900gを加えて十分に攪拌してスラリーを得、該スラリーに、TEMPOを対パルプ1.25質量%、臭化ナトリウムを対パルプ14.2質量%、次亜塩素酸ナトリウムを対パルプ28.4質量%、それぞれこの順で添加し、更にpHスタッドを用い、0.5Mの水酸化ナトリウムの滴下にてスラリーのpHを10.5に保持し、温度20℃で酸化反応を行い、120分間の酸化時間で水酸化ナトリウムの滴下を停止し、イオン交換水にて十分に洗浄し、脱水処理を行い、反応物繊維(酸化パルプ)を得て、次いで、前記反応物繊維を固形分換算で2gとイオン交換水400gとを混合し、界面活性剤として10%テトラブチルアンモニウムヒドロキシド(TBAH、和光純薬工業(株)製)を10.8g添加して24時間撹拌する方法」(以下、「甲4発明2」という。)が記載されているといえる。
イ 甲4発明1との対比
本件特許発明1と甲4発明1とを対比すると、本件特許発明1では、微細セルロース繊維中の金属イオン含有量が1wt%以下であるのに対して、甲4発明1では、そのような特定がされていない点で、両者は相違する。
そして、甲4出願には、微細セルロース繊維中の金属イオン含有量については一切記載されていない。
また、本件特許発明1において、当該金属イオン含有量が1wt%以下となるのは、反応液に酸を添加してカルボン酸に変換し回収することにより得られるものであると認められる(本件特許の明細書の段落【0040】、【0041】)ところ、甲4出願には酸を添加してカルボン酸に変換することは記載も示唆もされていない以上、甲4発明1の微細セルロース繊維中の金属イオン含有量が1wt%以下であるとまでは認められず、両者は実質的に相違している。
よって、本件特許発明1は、甲4発明1と同一であるとはいえない。
(2)本件特許発明2~7、9、10
本件特許の訂正後の請求項1を直接的又は間接的に引用する訂正後の請求項2~7、9、10に係る本件特許発明2~7、9、10は、本件特許発明1と同様に、甲4発明1と同一であるとはいえない。
(3)本件特許発明14
甲4発明2との対比
本件特許発明14と甲4発明2とを対比すると、本件特許発明14では「酸を添加してカルボン酸に変換した酸化セルロースを回収する」のに対して、甲4発明2では、そのような特定がされていない点で、両者は相違するところ、甲4出願には酸を添加してカルボン酸に変換することは記載も示唆もされておらず、両者は実質的に相違している。
よって、本件特許発明14は、甲4発明2と同一であるとはいえない。
(4)本件特許発明15、16
本件特許の訂正後の請求項14を直接的又は間接的に引用する訂正後の請求項15、16に係る本件特許発明15、16は、本件特許発明14と同様に、甲4発明2と同一であるとはいえない。
(5)まとめ
以上のとおりであるから、訂正後の請求項1~7、9、10、14~16に係る特許は、第29条の2の規定に違反してされたものとはいえず、第113条第2号に該当するものではない。
第8 結語
上記第5及び第7のとおりであるから、平成28年10月18日付けの取消理由及び平成28年5月24日付けの取消理由によっては、訂正後の請求項1~18に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に訂正後の請求項1~18に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2016-700130