特許拒絶査定不服審判
2016-006489
2,3,3,3-テトラフルオロプロペン、1,1,2,3-テトラクロロプロペン、2-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン、または2-クロロ-1,1,1,2-テトラフルオロプロパンを含む組成物
- 審判番号
- 2016-006489
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2012-546178外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2016年05月02日
- 審決日
- 2017年12月05日
- 公報発行日
- 2018年06月29日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】ザ ケマーズ カンパニー エフシー リミテッド ライアビリティ カンパニー
- 【請求人代理人】結田 純次
- 【請求人代理人】竹林 則幸
- 【請求人代理人】特許業務法人 谷・阿部特許事務所
- 分類
- P18 .121-WZ (C09K)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特願2012-546178「2,3,3,3-テトラフルオロプロペン、1,1,2,3-テトラクロロプロペン、2-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン、または2-クロロ-1,1,1,2-テトラフルオロプロパンを含む組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成23年 7月21日国際公開、WO2011/087825、平成25年 5月 2日国内公表、特表2013-515158〕について、次のとおり審決する。
結論
【結 論】
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
【理 由】
1.手続の経緯
本願は、2010年(平成22年)12月22日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2009年12月22日、(US)アメリカ合衆国)を国際出願日とする出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
平成22年12月22日 :特許出願
平成25年12月20日 :手続補正書の提出
平成26年12月 3日付け:拒絶理由の通知
平成27年 6月 9日 :意見書、手続補正書の提出
平成27年12月21日付け:拒絶査定
平成28年 5月 2日 :審判請求書の提出
平成28年 6月22日 :審判請求書の手続補正書(方式)の提出
平成29年 3月15日付け:拒絶理由の通知
平成29年 9月21日 :意見書、手続補正書の提出
2.本願発明について
本願の請求項1~5に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」~「本願発明5」という。まとめて、「本願発明」ということもある。)は、平成29年9月21日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1~5に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、本願発明1は、以下のとおりのものと認められる。
「[請求項1]
HFO-1234yfと、組成物の全質量に基づいて、1質量パーセント未満のHCFO-1232xfおよびHCFO-1231xfからなる群から選択される少なくとも1種の追加の化合物とを含む組成物。」
3.当審拒絶理由の概要
平成29年3月15日付けで当審より通知した拒絶理由(以下、「当審拒絶理由」という。)のうち、理由II(進歩性)の概要は次のとおりである。
理由II(進歩性)
平成27年6月9日に提出された手続補正書により補正された本願の請求項1~6に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の引用文献1に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
<引用文献等一覧>
引用文献1:特開2009-227675号公報
4.引用文献1に記載された事項
当審拒絶理由において引用した引用文献1(特開2009-227675号公報)には、以下の事項が記載されている。
(1-1)「[0002]
テトラフルオロプロペン(2,3,3,3-テトラフルオロプロパ-1-エン(HFO-1234yf)を含む)などのハイドロフルオロオレフィン類(HFO類)は、有効な冷媒、消火剤、伝熱媒体、推進剤、起泡剤、発泡剤、ガス誘電体、滅菌担体、重合媒体、微粒子除去液、分散媒、バフ研磨剤、排水乾燥剤、動力サイクル作動流体として知られている。クロロフルオロカーボン類(CFC類)およびハイドロクロロフルオロカーボン類(HCFC類)は、両方とも潜在的に地球のオゾン層に損害を与えるが、これらと異なり、HFO類は塩素を含有せず、それ故に、オゾン層にとって脅威をもたらすものではない。加えて、HFO-1234yfは毒性が低く低地球温暖化化合物であり、従って、車両用空調における冷媒としての高い差し迫った要求を満たすことが出来る。」
(1-2)「[0009]
出願人は、HFO-1234yfなどのハイドロフルオロプロペン類を含む、フッ素化された有機化合物を生成するための方法を見出した。一つの側面においては、本発明は、塩素化されたハイドロカーボンまたは塩素化されたオレフィンから2,3,3,3-テトラフルオロプロペンを生成する総合製造プロセスを含む。好ましくは、総合製造プロセスは三つの独立した反応工程を含み、これらは各々任意に一つまたはそれより多い精製プロセスを伴う。本発明は、HFO-1234yfを生成するための他の既知のプロセスよりも有利である。それは、本プロセスが、未反応の出発材料を再利用して、原材料の利用および生成収率を最大化できることを含んでいるからである。本発明は、商業的に価値のある副生成物を分離できることによっても特徴付けられる。」
(1-3)「[0014]
好ましくは、本方法は、一般的に少なくとも3つの反応工程を含む。第一工程において、好ましくは1,1,2,3-テトラクロロプロペン(TCP)および/または1,1,1,2,3-ペンタクロロプロパン(HCC-240db)を含む出発組成物は、第一の気相反応器(フッ素化反応器)において無水のHFと反応し、HCFO-1233xf(2-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン)およびHClの混合物を生成する。好ましくは、この反応はフッ化クロム酸化物(Fluorinated Chromium Oxide)などの触媒の存在下で行う。この反応は第一の気相反応器において、好ましくは約200~400℃の反応温度および約0~200psig(0~1.38×106PaG)の反応圧力で実施する。気相反応器を出て行く留出流は、任意に未反応のHF、重質中間体およびHFC-245cbなどの追加の構成物を含んでよい。」
(1-4)「[0016]
第二工程においては、HCFO-1233xfを、好ましくはTFEまたはPFAでライニングされた液相反応器において、HCFC-244bbに転化させる。好ましくは、このプロセスは約70~120℃、および約50~120psig(3.4×105~8.27×105PaG)で実施する。」
(1-5)「[0019]
第三工程において、HCFC-244bbを脱塩化水素化するために第二の気相反応器(脱塩化水素反応器)に供給して、望ましい生産物であるHFO-1234yf(2,3,3,3-テトラフルオロプロパ-1-エン)を作り出す。この反応器は触媒を含有し、これによってHCFC-244bbを触媒作用により脱塩化水素化し、HFO-1234yfを作り出す。」
(1-6)「[0022]
好ましい触媒としては、活性炭、ステンレス鋼(例えばSS 316)、オーステナイト系ニッケル基合金(たとえばインコネル 625)、ニッケル、フッ素化された10%CsCl/MgO、および10%CsCl/MgF2が挙げられる。反応温度は、好ましくは約300~550℃であり、反応圧力は、好ましくは約0~150psig(0~1.03×106PaG)である。好ましくは、反応器の留出物を苛性スクラバーまたは蒸留カラムに供給し、HClの副生成物を取り除き、酸を含まない有機生産物を生成する。また、任意に更なる精製を経ても良い。
[0023]
一般的な反応経路を以下に提供する。
[0024]
・・・
[0025]
これらの三つの一般的な工程に加えて、好ましい実施形態は、一つまたはそれより多くの以下の工程(未反応のHFおよび中間体の再利用、HClの除去、過剰のHFの再利用、HFの回収/再利用のための硫酸抽出または相分離、最終生産物の精製)を含む。」
(1-7)「[0041]
実施例1
この実施例は、第一工程の連続気相フッ素化反応である、1,1,2,3-テトラクロロプロペン(TCP)+3HF→2-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン(HCFO-1233xf)+3HClについて説明する。本実験のためのフッ素化触媒は、フッ素化されたCr2O3であった。
[0042]
N2、NF、および有機物供給装置、供給物気化器、過熱器、4インチ(1×10-3m)ID(内径、以下同じ)モネル反応器、酸スクラバー、乾燥機、ならびに生産物収集装置からなる、連続気相フッ素化反応系を本反応の検討に用いた。反応器に、約6.5リッターの触媒に相当する、9415.2グラムの前処理済みのCr2O3触媒を充填した。反応器を次いで一定温度のサンドバスに設置した後、触媒を通過させるようにN2パージを行いながら、約235℃の反応温度に加熱した。反応器は約3psig(2×104PaG)の圧力であった。HFを同時供給物として15分間N2とともに反応器に導入し、N2フローを停止させた。HFの流量は、1.4lb/時間(0.63kg/時間)に調整し、次いで反応器に(気化器および過熱器を通して)1,1,2,3-テトラクロロプロペン(TCP)の供給を開始した。TCPの流量は、約0.8lb/時間(0.36kg/時間)で一定に保ち、HFの流量は1.4lb/時間(0.63kg/時間)で、HF対TCPが約15対1のモル比になるように一定に保った。反応が開始されると、触媒床の温度は250~260℃の範囲に上昇した。250~260℃、3psig(2×104PaG)および上記の流量での接触時間は、計算すると約16秒であった。材料の平均組成は、500時間以上の運転時間にわたって集計され、GCによる面積において、約97.2GC面積%のHCFO-1233xf、1.6GC面積%のHCFC-244bb、0.6GC面積%のHFO-1234yf/HFC-245cb、0.1GC面積%のHCFO-1233xd、および0.08GC面積%のHCFO-1231であった。500時間が経過した後、触媒が活性を失い始め、HCFO-1233xfの選択性が減少したため、フッ素化途中の中間体である2,3-ジクロロ-3,3-ジフルオロプロペン(HCFO-1232xf)が現れはじめた。運転時間が650時間を経過した後、HCFO-1233xfの選択性が約83%にまで減少し、フッ素化途中の中間体であるHCFO-1232xfの選択性が約15%に上昇した時に、触媒の失活を理由に反応を停止した。TCPの転化率は、全運転を通して99%より高く保持されていた。」
(1-8)「[0050]
実施例4
この実施例は、第二工程の連続液相フッ素化反応である、2-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン(HCFO-1233xf)+HF→2-クロロ-1,1,1,2-テトラフルオロプロパン(HCFC-244bb)について説明する。本実験のためのフッ素化触媒は、SbCl5であった。
[0051]
約5618グラムのSbCl5を、2インチ(5×10-2m)ID(内径)の充填カラムおよびコンデンサを備え、テフロン(商標)でライニングされた液相反応器に入れた。反応器は2.75インチ(7×10-2m)ID×36インチ(0.91m)L(長さ)であった。最初に、モル比で5対1よりも多いHFを、触媒をフッ素化するために反応器に加えた。触媒を五価の状態に確実に戻すために、モル比で3:1よりも多いCl2を次いで反応器に加えた。この反応器を約85℃~87℃に加熱した。最初にHFの供給を開始した。1.5lbs(0.68kg)の追加のHFが加えられたときに、2-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンの供給を開始した。2-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンの供給原料の純度は、約97.3GC(ガスクロマトグラフィー)面積%であった。実験は約162時間連続して行った。この運転のために、運転の間中、約4時間ごとに塩素を回分式で供給し、触媒の活性を保った。
[0052]
転化率はすぐに98%を超え、残りの運転の間中その値を保っていた。HFおよびHCFO-1233xfの平均供給速度は、それぞれ0.91および0.88lb/時間(0.41および0.40kg/時間)であった。塩素の添加は、重量基準で平均有機物供給量の約3%に達した。約123ポンド(55.8kg)の酸を含まない粗2-クロロ-1,1,1,2-テトラフルオロプロパンを収集した。
[0053]
本実験のための反応器温度の範囲は78℃~86℃、圧力の範囲は70psig~105psig(4.8×105PaG~7.24×105PaG)であった。反応は反応器の留出流を定期的にサンプリングすることにより監視した。サンプルはガスクロマトグラフィーで分析した。2-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン(HCFO-1233xf)の平均転化率は約98%であり、生産物の平均選択率は以下のとおり、HCFC-244bb=90%、HCFO-1233xd=1%、およびHFC-245cb=8%であった。」
(1-9)「[0060]
実施例7
この実施例は、第二工程の選択肢AおよびBの再利用カラムを説明する。
第二工程における実験の反応からの、反応器の留出混合物を蒸留カラムに充填した。蒸留カラムは10ガロン(3.8×10-2m3)のリボイラー、2インチ(5×10-2m)IDで10フィートのプロパックカラム、ならびにシェルアンドチューブ式コンデンサからなっていた。カラムは約30の理論段を有していた。蒸留カラムは温度伝送機、圧力伝送機および差圧伝送機を備えていた。蒸留カラムの供給混合物は、約71.5重量%のHFおよび28.5重量%の有機物であった。有機物はほとんどがHCFO-1233xfおよびHCFC-244bbの混合物であったが、いくらかの軽質または重質の不純物ならびにいくらかのHCFO-1232xf中間体を含有していた。蒸留は約100psig(6.89×105)の圧力で行った。蒸留物をサンプリングし、HF濃度を決定するために滴定を行い、そしてGCによって標準間隔で分析した。滴定は、HF濃度が20~30重量%の範囲であることを示した(0.1NのKOHを滴定に用いた)。全体で蒸留物を38lbs(17kg)収集し、約20~30重量%のHFを含有していた。残りは有機物であり、GC分析による平均で54.5%のHCFO-1233xf、44.5%のHCFC-244bb、および1%の軽質不純物を有し、高沸点不純物はわずかppmレベルであった。再沸騰器の底部留出物は、Ceodeuxのデュアルバルブアセンブリ、および浸漬管を用いて、別の100lb(45.4kg)シリンダーに排出した。主としてHFを62lbs(28kg)回収した。HCFO-1232xf中間体、および高沸点不純物が一部観察された。回収したHF(リボイラーの底部留出物から)を用いて、続く第二工程の反応において再利用を行い、十分に機能した。」
(1-10)「[0067]
上記のHF濃度を図8に図示した。
実施例9
この実施例は、第三工程の連続気相脱塩化水素反応である、2-クロロ-1,1,1,2-テトラフルオロプロパン(HCFC-244bb)→2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234yf)+HClについて説明する。本実験のための脱塩化水素触媒は、10重量%CsCl/90重量%MgF2であった。
[0068]
HCFC-244bbのHFO-1234yfへの転化は、熱伝導を高めるためにニッケルメッシュを充填したモネル予熱器(ID1インチ(2.5×10-2m)、長さ32インチ(0.81m))を備えたモネル反応器(ID2インチ(5×10-2m)、長さ32インチ(0.81m))を用いた。反応器を2リットルのペレット化した10重量%CsCl/90重量%MgF2脱塩化水素触媒で満たした。ニッケルメッシュは、触媒を支持するために、反応器の頂部と底部に置いた。マルチポイント熱電対を反応器の中心に挿入した。触媒を、480℃の温度で乾燥N2フローによって6時間前処理した。次いで、95GC%HCFC-244bb/3.1GC%HCFO-1233xf/0.35GC%HFC-245cbの組成を持つ供給物を反応器に1.0lb/時間(0.45kg/時間)の速度で導入した。供給物は、反応器の余熱器に導入する前に気化させた。供給速度は、1.0lbs/時間(0.45kg/時間)で一定に維持し、温度と圧力は両方とも変化させた。反応器全体の温度勾配は決して3~5℃を超えなかった。触媒の生産性は3~6lbs/時間/ft3(5~10kg/時間/m3)と見積もられた。最も高い生産性が、470℃および45psig(3.1×105PaG)で観察され、最も低い生産性は、480℃および3psig(2×104PaG)で観察された。反応生成物を苛性スクラバーに供給し、HCl副生成物を取り除いた。次いで生成物流を吸湿剤を充填したカラムに通し、残留水分を取り除いた。オイルレスコンプレッサーを用いて、圧力が30~45psig(2.1×105~3.1×105PaG)に維持された蒸留カラムに粗生産物を供給した。蒸留は、連続方式で実行し、離脱する速度は、反応器においてHFO-1234yfが生成される速度と等しかった。蒸留されたHFO-1234yfの純度は99.9+GC面積%であった。蒸留物のGC分析は、ppmレベルの軽質不純物の存在を示した。蒸留カラムの底部留出物を排出し、脱塩化水素反応器に再利用した。」
5.引用文献1に記載された発明
引用文献1には、HFO-1234yfなどのハイドロフルオロプロペン類を含む、フッ素化された有機化合物を生成するための方法が記載されており(摘記1-2)、好ましくは本方法は、一般的に少なくとも3つの反応工程を含む方法であり、第一工程において、好ましくは1,1,2,3-テトラクロロプロペン(TCP)および/または1,1,1,2,3-ペンタクロロプロパン(HCC-240db)を含む出発組成物は、第一の気相反応器(フッ素化反応器)において無水のHFと反応し、HCFO-1233xf(2-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン)およびHClの混合物を生成すること(摘記1-3)、第二工程においては、HCFO-1233xfを、好ましくはTFEまたはPFAでライニングされた液相反応器において、HCFC-244bbに転化させること(摘記1-4)、第三工程において、HCFC-244bbを脱塩化水素化するために第二の気相反応器(脱塩化水素反応器)に供給して、望ましい生産物であるHFO-1234yf(2,3,3,3-テトラフルオロプロパ-1-エン)を作り出すこと(摘記1-5)が記載されている。
また、上記第三工程の具体例として実施例9(摘記1-10)が記載されており、95GC%HCFC-244bb/3.1GC%HCFO-1233xf/0.35GC%HFC-245cbの組成を持つ供給物を反応器に1.0lb/時間(0.45kg/時間)の速度で導入し、供給速度は、1.0lbs/時間(0.45kg/時間)で一定に維持し、温度と圧力は両方とも変化させたこと、反応生成物を苛性スクラバーに供給し、HCl副生成物を取り除き、次いで生成物流を吸湿剤を充填したカラムに通し、残留水分を取り除き、オイルレスコンプレッサーを用いて、圧力が30~45psig(2.1×105~3.1×105PaG)に維持された蒸留カラムに粗生産物を供給し、蒸留は、連続方式で実行したところ、蒸留されたHFO-1234yfの純度は99.9+GC面積%であり、蒸留物のGC分析は、ppmレベルの軽質不純物の存在を示したことが記載されている。
そうすると、引用文献1には以下の発明が記載されているものと認められる。
「純度が99.9+GC面積%であるHFO-1234yfを含む組成物。」(以下、「引用発明」という。)
6.本願発明1と引用発明との対比
本願発明1と引用発明とを対比すると、引用発明における「HFO-1234yf」は、本願発明の「HFO-1234yf」と同じ化合物であるから、両者は、
「HFO-1234yfを含む組成物。」
である点で一致し、
相違点1:本願発明1は、組成物の全質量に基づいて、1質量パーセント未満のHCFO-1232xfおよびHCFO-1231xfからなる群から選択される少なくとも1種の追加の化合物を含むのに対し、引用発明においてはそのようなことが明らかでない点
で相違する。
そこで、上記相違点について検討する。
7.相違点1について
(1) 引用文献1には、HFO-1234yfを含む組成物が、第一工程、第二工程及び第三工程の各工程を経て製造されることが記載されており(摘記1-2~1-5)、三つの一般的な工程に加えて、好ましい実施形態は、一つまたはそれより多くの以下の工程(未反応のHFおよび中間体の再利用、HClの除去、過剰のHFの再利用、HFの回収/再利用のための硫酸抽出または相分離、最終生産物の精製)を含むことが記載されている(摘記1-6)。
(2) また、引用文献1の実施例1(摘記1-7)には、上記第一工程として、連続気相フッ素化反応である、1,1,2,3-テトラクロロプロペン(TCP)+3HF→2-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン(HCFO-1233xf)+3HClについて記載されており、具体的には、反応器に(気化器および過熱器を通して)1,1,2,3-テトラクロロプロペン(TCP)の供給を開始し、TCPの流量は、約0.8lb/時間(0.36kg/時間)で一定に保ち、HFの流量は1.4lb/時間(0.63kg/時間)で、HF対TCPが約15対1のモル比になるように一定に保ち、反応が開始されると、触媒床の温度は250~260℃の範囲に上昇したこと、250~260℃、3psig(2×104PaG)および上記の流量での接触時間は、計算すると約16秒であったこと、材料の平均組成は、500時間以上の運転時間にわたって集計され、GCによる面積において、約97.2GC面積%のHCFO-1233xf、1.6GC面積%のHCFC-244bb、0.6GC面積%のHFO-1234yf/HFC-245cb、0.1GC面積%のHCFO-1233xd、および0.08GC面積%のHCFO-1231であったこと、500時間が経過した後、触媒が活性を失い始め、HCFO-1233xfの選択性が減少したため、フッ素化途中の中間体である2,3-ジクロロ-3,3-ジフルオロプロペン(HCFO-1232xf)が現れはじめたこと、運転時間が650時間を経過した後、HCFO-1233xfの選択性が約83%にまで減少し、フッ素化途中の中間体であるHCFO-1232xfの選択性が約15%に上昇した時に、触媒の失活を理由に反応を停止したこと、TCPの転化率は、全運転を通して99%より高く保持されていたことが記載されている。
ここで、上記実施例1に記載された「HFO-1234yf」及び「HCFO-1232xf」は、それぞれ本願発明1における「HFO-1234yf」及び「HCFO-1232xf」と同じ化合物である。また、上記実施例1に記載された「HCFO-1231」については、異性体の種類は明記されていないが、同実施例には、「1,1,2,3-テトラクロロプロペン(TCP)+3HF→2-クロロ3,3,3-トリフルオロプロペン(HCFO-1233xf)+3HCl」というフッ素化反応の中間体として、2分子のHFが反応した化合物に相当する2,3-ジクロロ-3,3-ジフルオロプロペン(HCFO-1232xf)が現れることが記載されているから、当該中間体よりもフッ素原子の導入数が1つ少ない、1分子のHFが反応した化合物に相当する2,3,3-トリクロロ-3-フルオロプロペン(本願発明1における「HCFO-1231xf」に相当する。)もまた、上記フッ素化反応の中間体として生成していると解される。
そうすると、上記第一工程においては、第一工程の反応目的物である2-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン(HCFO-1233xf)とともに、フッ素化反応の中間体であるHCFO-1232xf及びHCFO-1231xfを含む組成物が生成物として得られるものと認められる。
(3) 次に、引用文献1の実施例4(摘記1-8)には、上記第二工程として、連続液相フッ素化反応である、2-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン(HCFO-1233xf)+HF→2-クロロ-1,1,1,2-テトラフルオロプロパン(HCFC-244bb)について記載されており、具体的には、2-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン(HCFO-1233xf)の供給原料の純度は、約97.3GC(ガスクロマトグラフィー)面積%であったこと、及び2-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン(HCFO-1233xf)の平均転化率は約98%であり、生産物の平均選択率はHCFC-244bb=90%、HCFO-1233xd(当審注:後記する摘記1-9の記載からみて、HCFO-1233xfの誤記と認められる。)=1%、およびHFC-245cb=8%であったことが記載されている。
また、引用文献1には、第一~第三の三つの一般的な工程に加えて、好ましい実施形態は未反応のHF及び中間体の再利用の工程等を含む旨が記載されているところ(摘記1-6)、実施例7(摘記1-9)には、第二工程における実験の反応からの反応器の流出混合物を蒸留カラムに充填したこと、蒸留カラムの供給混合物は、約71.5重量%のHFおよび28.5重量%の有機物であり、有機物はほとんどがHCFO-1233xfおよびHCFC-244bbの混合物であったが、いくらかの軽質または重質の不純物ならびにいくらかのHCFO-1232xf中間体を含有していたことが記載されている。
ここで、上記実施例4には、2-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン(HCFO-1233xf)の供給原料の純度が約97.3GC(ガスクロマトグラフィー)面積%であったことが記載されているところ、当該HCFO-1233xfの純度は、第一工程である実施例1の生成物の純度(約97.2GC面積%のHCFO-1233xf、1.6GC面積%のHCFC-244bb、0.6GC面積%のHFO-1234yf/HFC-245cb、0.1GC面積%のHCFO-1233xd、および0.08GC面積%のHCFO-1231)(摘記1-7)と概ね一致しており、また、上記実施例7に記載された「HCFO-1232xf中間体」は、第一工程の生成物に含まれる反応中間体である。
そうすると、第二工程の反応においては、第一工程の反応生成物(HCFO-1232xf中間体等を含有する。)が供給原料として用いられ、第二工程の反応生成物にも、供給原料に含まれていた中間体等が引き継がれて含まれるものと解される。
(4) さらに、引用文献1の実施例9(摘記1-10)には、上記第三工程として、連続気相脱塩化水素反応である、2-クロロ-1,1,1,2-テトラフルオロプロパン(HCFC-244bb)→2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234yf)+HClについて記載されており、具体的には、95GC%HCFC-244bb/3.1GC%HCFO-1233xf/0.35GC%HFC-245cbの組成を持つ供給物を反応器に導入して反応させ、粗生産物を蒸留カラムにおいて蒸留することにより、純度99.9+GC面積%のHFO-1234yfと、ppmレベルの軽質不純物の存在を示す生成物が得られた旨が記載されている。
ここで、上記第三工程の供給物には、第一工程から引き継がれて含まれる中間体が含まれることは具体的には記載されておらず、また、最終的に得られた生成物に含まれる「ppmレベルの軽質不純物」に、第一工程から引き継がれて含まれる中間体が含まれることも具体的には記載されていないが、引用文献1には、「総合製造プロセスは三つの独立した反応工程を含み、これらは各々任意に一つまたはそれより多い精製プロセスを伴う」(摘記1-2)と記載されており、また、第三工程の生成物についても、「HClの副生成物を取り除き、酸を含まない有機生産物を生成する。また、任意に更なる精製を経ても良い。」(摘記1-6)と記載されているから、第一~第三工程における反応生成物(後の工程への供給原料)の精製の程度は、所望する反応中間体の再利用の効率や、所望するHFO-1234yfの純度、さらには、当該精製にかかるコスト等に応じて、後の工程の反応や組成物の用途に影響しない範囲で当業者が適宜に設計し得る事項であると認められる。
(5) そうすると、引用文献1に記載された第一工程~第三工程における各反応生成物(供給原料)の精製に際して、第一工程の反応生成物に含まれていたHCFO-1232xf及びHCFO-1231xfが最終製品まで引き継がれて残留する程度の精製を行うようにすることにより、本願発明1に相当する組成物を得ることは、当業者が容易に想到し得たことである。
8.本願発明1の効果について
(1) 本願明細書には、HFO-1234yfを含む組成物の有用性に関して、以下のような一般的な記載がある。
「[技術分野]
[0001]
本開示は、熱伝達組成物、エアロゾル噴射剤、発泡剤(foaming agent(blowing agent))、溶剤、洗浄剤、キャリア流体、置換乾燥剤、バフ研磨剤、重合媒体、ポリオレフィンおよびポリウレタン用発泡剤、ガス状誘電体、消火剤、および液体またはガス状形態の火災抑制剤として有用であり得る組成物の分野に関する。特に、本開示は、熱伝達組成物として有用であり得る組成物、例えば、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234yf、または1234yf)、またはHFO-1234yfを製造するプロセスにおいて有用である1,1,1,2,3-ペンタフルオロプロパン(HFC-245eb、または245eb)を含む組成物に関する。
[背景技術]
[0002]
新しい環境規制は、冷蔵、空調およびヒートポンプ装置で用いる新規な組成物に対する必要性をもたらした。低地球温暖化係数の化合物は、特に重要である。
[発明の概要]
[課題を解決するための手段]
[0003]
本出願人らは、このような新規な低地球温暖化係数の化合物、例えば、HFO-1234yfを調製する際に、ある種の追加の化合物が少量で存在することを見出した。」、
「[0009]
組成物
HFO-1234yf(2,3,3,3-テトラフルオロプロペン)は、他の用途の中でも、冷媒、熱伝達流体、エアロゾル噴射剤、フォーム発泡剤(foam expansion agent)としての用途について提案されてきた。それはまた、有利には、HFO-1234yfが、Physical Chemistry Chemical Physics,2007,volume 9,pages 1-13において、V.C.Papadimitriouらにより報告されたとおりの低地球温暖化係数(GWP)を有することもわかった。したがって、HFO-1234yfは、より高いGWP飽和HFC冷媒を置き換えるための良い候補である。」、
「[0017]
HFO-1234yfを含む本明細書で開示される組成物は、低地球温暖化係数(GWP)の熱伝達組成物、エアロゾル噴射剤、発泡剤(foaming agent)、発泡剤(blowing agent)、溶剤、洗浄剤、キャリア流体、置換乾燥剤、バフ研磨剤、重合媒体、ポリオレフィンおよびポリウレタン用発泡剤(expansion agent)、ガス状誘電体、消火剤、および液体またはガス状形態の火災抑制剤として有用である。この開示される組成物は、熱源からヒートシンクへ熱を運ぶために用いられる作業流体として作用し得る。このような熱伝達組成物は、流体が相変化を受ける;すなわち、液体から気体へ、そして戻る、または逆もまた同様のサイクルで冷媒としても有用であり得る。」。
また、[0070]~[0089]にも、HFO-1234yfを含む組成物の有用性についての一般的な記載がある。
しかし、上記された組成物の用途や有用性は、例えば引用文献1にも、「テトラフルオロプロペン(2,3,3,3-テトラフルオロプロパ-1-エン(HFO-1234yf)を含む)などのハイドロフルオロオレフィン類(HFO類)は、有効な冷媒、消火剤、伝熱媒体、推進剤、起泡剤、発泡剤、ガス誘電体、滅菌担体、重合媒体、微粒子除去液、分散媒、バフ研磨剤、排水乾燥剤、動力サイクル作動流体として知られている。」と記載されているように(摘記1-1)、HFO-1234yfを含む組成物の用途、有用性としていずれも周知のものにすぎない。
(2) また、本願明細書には、実施例として、「実施例1 HCFO-1233xfのHCFC-244bbへのフッ素化」([0092]~[0095])、「実施例2 HCFO-1233xfのHCFC-244bbへのフッ素化」([0096]~[0099])、「実施例3 ・・・触媒の不存在下でのHCFC-244bb(2-クロロ-1,1,1,2-テトラフルオロプロパン)のHFO-1234yf(2,3,3,3-テトラフルオロプロペン)への転化を実証」([0100]~[0102])、「実施例4 ・・・触媒の不存在下でのHCFC-244bb(2-クロロ-1,1,1,2-テトラフルオロプロパン)のHFO-1234yf(2,3,3,3-テトラフルオロプロパン)への転化を実証」([0103]~[0105])及び「実施例5 ・・・活性炭触媒の存在下でのHCFC-244bb(2-クロロ-1,1,1,2-テトラフルオロプロパン)の脱水素塩素化を実証」([0106]~「0109])が記載されており、得られた組成物の構成成分の分析結果は記載されているものの、いずれの実施例においても、HFO-1234yfの他に、本願発明1において必須とされている「HCFO-1232xf及びHCFO-1231xfからなる群から選択される少なくとも1種の追加の化合物」が含まれた組成物が得られたことは明示的に記載されていないし、当該追加の化合物が本願発明1において特定されているような「組成物の全質量に基づいて、1質量パーセント未満」の量であるかどうかも、明示的に記載されていない。
さらに、実施例1~5には、得られた組成物の物理的、化学的な性質は何ら記載されていないし、それら組成物を上記された冷媒、熱媒体等の用途に実際に適用したり、有用性を確認したりしたことを示す実験データも記載されていない。
(3) そうすると、本願明細書の記載を検討しても、HFO-1234yfとともに、「組成物の全質量に基づいて、1質量パーセント未満のHCFO-1232xfおよびHCFO-1231xfからなる群から選択される少なくとも1種の追加の化合物」を含む本願発明1の組成物により、引用文献1の記載からは予測し得ないような格別顕著ないし異質の効果が得られるものとは認められない。
9.請求人の主張について
(1) 請求人は、平成29年9月21日に提出した意見書において、「本願発明者らは、HFO-1234yfを含む組成物中にHCFO-1232xfおよびHCFO-1231xfから選択される少なくとも1種の追加の化合物が含まれることによって、COPまたは性能係数により測定される組成物のエネルギー効率が改善されると共に、これらの追加化合物中に塩素が存在するためシステムからの漏出の検出がより容易になるという二重の利点が存在することを見出しました。このようなHFO-1234yfに対するHCFO-1232xfおよびHCFO-1231xfの効果は、本願出願日以前に報告されていませんでした。」と主張している。
しかし、本願明細書には、HFO-1234yfと、「HCFO-1232xfおよびHCFO-1231xfから選択される少なくとも1種の追加の化合物」との組合せに基づいて、格別の効果が得られることは記載されていないし、HFO-1234yfとその他の追加的な化合物との組合せにより、一般的に「COPまたは性能係数により測定される組成物のエネルギー効率が改善される」という効果や、「これらの追加化合物中に塩素が存在するためシステムからの漏出の検出がより容易になる」という効果が得られることも記載されていないし、そのような効果の存在を裏付ける実験データも、本願明細書に記載されていないから、請求人が上記意見書において主張する効果は、本願明細書に当初から記載されていた効果ということができず、したがって、本願発明の進歩性の判断において参酌することができないものである。
(2) また、請求人は、上記意見書において、「引用文献1(特開2009-227675号公報)には、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234yf)の製法が記載されています。引用文献1にはまた、引用文献1発明の方法の第1工程で副産物としてHCFO-1232xfおよびHCFO-1231xfが生成することが示されています(実施例1)。しかし引用文献1には、最終組成物にこれらの副産物を残すという着想が存在しません。実際、引用文献1では、引用文献1発明の最終工程である第三工程の後に得られる実施例9の組成物(すなわち、引用発明b)にこれらの副産物が含まれているかどうかは明示されていません。また、引用文献1には、最終組成物にこれらの副産物を残すという着想自体が存在しませんから、当然、そのようにすることによって、COPまたは性能係数により測定される組成物のエネルギー効率が改善されると共に、これらの追加化合物中に塩素が存在するためシステムからの漏出の検出がより容易になるという利点が示唆されていると言うこともできません。
したがって、HFO-1234yfと、1wt%未満のHCFO-1232xfおよびHCFO-1231xfからなる群より選択される少なくとも1種の追加の化合物を含む組成物が、引用文献1に示唆されていると言うことはできないと考えます。」と主張している。
しかし、上記7.「相違点1について」において検討したとおり、第一~第三工程における反応生成物(後の工程への供給原料)の精製の程度は、所望する反応中間体の再利用の効率や、所望するHFO-1234yfの純度、さらには、当該精製にかかるコスト等に応じて、後の工程の反応や組成物の用途に影響しない範囲で当業者が適宜に設計し得る事項であると認められるから、引用文献1に記載された第一工程~第三工程における各反応生成物(供給原料)の精製に際して、第一工程の反応生成物に含まれていたHCFO-1232xf及びHCFO-1231xfが最終製品まで引き継がれて残留する程度の精製を行うことにより、本願発明1に相当する組成物を得ることは、当業者が容易に想到し得たことといえる。また、既に述べたとおり、本願明細書には、HFO-1234yfと、「HCFO-1232xfおよびHCFO-1231xfから選択される少なくとも1種の追加の化合物」との組合せに基づいて、格別の効果が得られることは記載されておらず、請求人が主張するような「COPまたは性能係数により測定される組成物のエネルギー効率が改善される」及び「これらの追加化合物中に塩素が存在するためシステムからの漏出の検出がより容易になる」という効果の説明や、そのような効果の存在を裏付ける実験データは、出願当初の明細書に記載されていなかった事項であるから、これらの効果を進歩性の判断において参酌することはできない。さらに、本願発明1においては、HFO-1234yfとともに組成物に含まれる「HCFO-1232xfおよびHCFO-1231xfからなる群より選択される少なくとも1種の追加の化合物」の割合は、「組成物の全質量に基づいて、1質量パーセント未満」と特定されているものの、「1質量パーセント」という上限値に格別の臨界的意義は見出せないし、下限値も特段特定されていないし、「HFO-1234yf」と「HCFO-1232xfおよびHCFO-1231xfからなる群より選択される少なくとも1種の追加の化合物」との組合せに基づく相乗効果の存在も認められないから、仮に引用文献1に、最終生成物に積極的に副産物を残そうという着想が存在しないとしても、本願発明1の組成物と、引用文献1から導かれる反応中間物が少量残留した組成物とが、成分上実質的に異なるということはできないし、作用効果の点で格別の差異があるものとすることもできない。
(3) よって、上記意見書における請求人の主張はいずれも採用することができない。
(4) なお、請求人は、平成27年6月9日に提出した意見書において、
「<理由1:第36条第6項第1号>
実施例3、4、5の表には、名前が列挙されている化合物(すなわち、1234yf、244bb、1233xf、1223)に加えて、『その他』の項目があります。1232xfと1231xfはこの『その他』に含まれる成分です。実施例5では1232xfと1231xfの両方を含む組成物が製造されました。
これらの表から1232xfと1231xfがそれぞれ何%含まれるのかを直接的に知ることはできませんが、実施例3、4、5にはこれらの組成物を製造する方法が明記されていますので、当業者は自らそれらを再現することができますし、そのように再現された組成物に『その他』の成分として1232xfおよび/または1231xfが含まれることを周知技術に基づき確認することができると考えます。
したがって、本願の発明の詳細な説明は完璧なものではないかもしれませんが、少なくとも当業者が請求項1に記載の組成物の実施可能性を理解し検証することができる程度に十分な情報を開示していると考えます。」と主張しているが、上記の主張を裏付ける具体的な構成成分の実験データは開示されていないから、本願明細書に記載された実施例3、4及び5の組成物が、本願発明1に相当する「組成物の全質量に基づいて、1質量パーセント未満のHCFO-1232xfおよびHCFO-1231xfからなる群から選択される少なくとも1種の追加の化合物」を含むものであることは、確認できない。
また、請求人は、平成28年6月22日に提出した審判請求書の手続補正書(方式)において、
「[本願発明が特許されるべき理由]
出願人は以下の表に示される追加データを提出します。これは、本願の実施例5にしたがい得られた(実施例5の例よりも244bbの変換率が高い)生産物のガスクロマトグラフィー分析結果を表しています。同データは、本願の方法にしたがい得られる生産物が、HFO-1234yfに加えて、HCFO-1232xfおよびHCFO-1231xfから選択される少なくとも1種の追加の化合物を含むことを明確に示しています。
平成27年6月9日付の意見書でご説明しましたように、本願請求項1に記載される組成物を製造する方法は、本願の実施例3~5に具体的に記載されています。したがいまして当業者は、本願発明の組成物を実際に製造することが可能です。そしてそのようにして得られた生産物が、請求項1に記載されているように・・・の追加の化合物を含むかどうかは、当該分野の周知技術(例えば、上記のようなガスクロマトグラフィー)によって確認することができます。」と主張しているが、上記の成分表は、本願明細書には記載されていなかった「実施例5の例よりも244bbの変換率が高い」という新たな実験結果を提示したものと解される。実際、本願明細書に記載されていた実施例5では、1234yfの割合は最大でも52.2モルパーセントであったことが記載されており、1234yfの割合を99.8577%という高い割合まで高めることができる反応条件(244bbの変換条件)を本願明細書の実施例5([0106]~[0109])の延長として理解することはできないから、上記意見書に記載された分析結果が、請求人が主張するような「実施例5にしたがい得られた(実施例5の例よりも244bbの変換率が高い)」ものであるとはいえない。また、実施例3及び4を参酌しても、1234yfの割合は最大でも85.0モルパーセント(実施例3の温度603℃の場合)であり、本願明細書の他の記載を参酌しても、1234yfの割合を99.8577%という高い割合まで高めることができる反応条件を理解することはできず、そのような条件が本願明細書に記載されていたということはできないから、上記新たに追加された分析結果が、本願明細書に当初から記載されていた事項の範囲内の事項であるとは認められない。
さらに、請求人は、上記審判請求書の手続補正書(方式)において、
「本願発明者らは、HFO-1234yfを含む組成物中にHCFO-1232xfおよびHCFO-1231xfから選択される少なくとも1種の追加の化合物が含まれることによって、COPまたは性能係数により測定される組成物のエネルギー効率が改善されると共に、これらの追加化合物中に塩素が存在するためシステムからの漏出の検出がより容易になるという二重の利点が存在することを見出しました。
そのような利点は、組成物中にHCFO-1232xfが『不純物』として入っているかもしれない引用文献1~3に記載の発明からみて予想外の効果であり、したがって本願発明は引用文献1~3から容易に想到し得た発明ではないと考えます。」と主張しているが、「COPまたは性能係数により測定される組成物のエネルギー効率が改善される」こと、及び「追加化合物中に塩素が存在するためシステムからの漏出の検出がより容易になる」ことは、本願明細書には記載されていなかった効果の主張であるし、具体的な実験データにより裏付けられているものでもなく、特に、HFO-1234yfと「HCFO-1232xfおよびHCFO-1231xfからなる群から選択される少なくとも1種の追加の化合物」を組み合わせることにより、予想外の相乗効果や異質の効果が得られるものとも認められないから、請求人の主張は採用できない。
よって、上記意見書及び審判請求書の手続補正書(方式)における請求人の主張も、いずれも採用することができないものである。
10.小活
以上のとおりであるから、本願発明1は引用文献1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
11.むすび
上記のとおり、本願発明1は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2016-006489