特許拒絶査定不服審判
2023-018946
フルオロエチレンを含む組成物及び該組成物の安定化方法
- 審判番号
- 2023-018946
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2022-035171外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2023年11月08日
- 審決日
- 2025年04月15日
- 公報発行日
- 2025年07月25日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】ダイキン工業株式会社
- 【請求人代理人】弁理士法人三枝国際特許事務所
- 分類
- P18 .121-Z (C09K)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条1項3号特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第29条第1項第3号、特許法第17条の2第5項第2号、特許法第17条の2第6項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2022- 35171「フルオロエチレンを含む組成物及び該組成物の安定化方法」拒絶査定不服審判事件〔令和 5年 9月21日出願公開、特開2023-130724〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、令和4年3月8日の出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
令和5年 4月11日付け:拒絶理由通知書
同年 6月19日 :意見書の提出
同年 8月 2日付け:拒絶査定(謄本発送は、8月8日)
同年11月 8日 :審判請求書、手続補正書の提出
令和6年 4月 2日 :上申書の提出
第2 令和5年11月8日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和5年11月8日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
1 本件補正について(補正の内容)
(1)本件補正後の特許請求の範囲の記載
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおり補正された。(下線部は、補正箇所である。)
「冷媒及び酸化防止剤を含み、
前記冷媒はフルオロエチレンを含み、
前記酸化防止剤の含有量は、前記フルオロエチレンの質量を基準として1~2000質量ppmであり、前記冷媒と前記酸化防止剤との合計質量が、組成物全体100質量%中の95質量%以上である、組成物。」
(2)本件補正前の特許請求の範囲
本件補正前の特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおりである。
「冷媒及び酸化防止剤を含み、
前記冷媒はフルオロエチレンを含み、
前記酸化防止剤の含有量は、前記フルオロエチレンの質量を基準として1~20000質量ppmであり、前記冷媒と前記酸化防止剤との合計質量が、組成物全体100質量%中の95質量%以上である、組成物。」
2 補正の適否
本件補正は、本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「酸化防止剤の含有量」の数値範囲の上限が20000質量ppmであったものを2000質量ppmに限定するものである。
そして、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に記載される発明(以下「本件補正発明」という。)が同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。
(1)本件補正発明及び本願明細書の記載事項
ア 本件補正発明は、上記1(1)に記載したとおりのものである。
イ 本願明細書には、次の記載がある。
「【0015】
本開示の組成物中における冷凍機油の含有量は、フルオロエチレンの質量を基準として30000質量ppm以下であることが好ましく、10000質量ppm以下であることがより好ましく、5000質量ppm以下であることがさらに好ましく、全く含まない(0質量ppm)であることが最も好ましい。冷凍機油の含有量が、フルオロエチレンの質量を基準として30000質量ppm以下であることにより、組成物中のフッ化水素が生成しにくくなり、組成物の酸性化に伴う劣化を抑制できる。」
「【0017】
酸化防止剤の含有量は、フルオロエチレンの質量を基準として、1質量ppm以上であり、10質量ppm以上とすることが好ましく、100質量ppm以上とすることがより好ましい。酸化防止剤がフルオロエチレンの質量を基準として1質量ppm以上とすることにより、フルオロエチレンの分解及び酸の発生を抑制することができる。
【0018】
また、酸化防止剤の含有量は、フルオロエチレンの質量を基準として、20000質量ppm以下であり、10000質量ppm以下とすることが好ましく、2000質量ppm以下とすることがより好ましい。酸化防止剤がフルオロエチレンの質量を基準として20000質量ppm以下とすることにより、不必要な量の酸化防止剤の添加を避けることができる。」
「【実施例】
【0048】
以下、実施例に基づき、本開示の実施形態をより具体的に説明するが、本開示がこれらに限定されるものではない。
【0049】
(実施例1)
片側を溶封済みのガラス製チューブ(ID8mmΦ×OD12mmΦ×L300mm)に、BHTを0.466μmol入れ、さらに1,2-ジフルオロエチレンの添加量が8.9mmolとなるように加えた。次いで1,2-ジフルオロエチレンに対し酸素100質量ppmを加えた。その後チューブを溶封により密閉状態とした。このチューブを175℃の雰囲気下の恒温槽内に静置させ、この状態で2週間保持した。その後、恒温槽からチューブを取り出し、液体窒素を用いて、チューブ内に滞留するガスを完全に凝固させた。その後、チューブを開封し、徐々に解凍してガスをテドラーバッグに回収した。このテドラーバッグに純水5gを注入し、回収ガスとよく接触させながら酸分を純水に抽出するようにした。抽出液をイオンクロマトグラフィーにて検出して、フッ化物イオン(F-)の含有量(質量ppm)を測定して得られたフッ化物イオンの量を生成したフッ化水素の量とした。その結果、フッ化水素の生成量は1ppm以下であった。
【0050】
(比較例1)
BHTを入れなかった他は実施例1と同様にして評価をおこなった。試験後、チューブ内のガスの分析を行ったところ、フッ化水素の生成量は67ppmであった。
【0051】
(比較例2)
片側を溶封済みのガラス製チューブ(ID8mmΦ×OD12mmΦ×L300mm)に、BHTを約2質量%含むポリオールエステル系冷凍機油を1.2g入れた。さらに1,2-ジフルオロエチレンの添加量が8.9mmolとなるように加えた。次いで1,2-ジフルオロエチレンに対し酸素100質量ppmを加えた。ここにはBHTが109μmol存在しており、1,2-ジフルオロエチレンに対する冷凍機油は210質量%存在していることになる。その後チューブを溶封により密閉状態とした。このチューブを175℃の雰囲気下の恒温槽内に静置させ、この状態で2週間保持した。その後、恒温槽からチューブを取り出して実施例1と同様の手法にてガスの分析を行ったところ、BHTが過剰に存在するにもかかわらず、フッ化水素の生成量は11ppmであった。」
(2)引用文献の記載事項
原査定の拒絶の理由で引用された、本件出願前に頒布され又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった国際公開第2015/125878号(以下、「引用文献1」という。)には、次の記載がある(当審注:下線は、当審が付した。)。
「請求の範囲
[請求項1]トリフルオロエチレンを含む熱サイクル用作動媒体と、前記熱サイクル用作動媒体の劣化を抑制する安定剤と、を含む熱サイクルシステム用組成物。
[請求項2]前記安定剤が、耐酸化性向上剤、耐熱性向上剤および金属不活性剤から選ばれる少なくとも1種の安定剤である、請求項1に記載の熱サイクルシステム用組成物。
[請求項3]前記安定剤が、フェノール系化合物、不飽和炭化水素基含有芳香族化合物、芳香族アミン化合物、芳香族チアジン化合物、テルペン化合物、キノン化合物、ニトロ化合物、エポキシ化合物、ラクトン化合物、オルトエステル化合物、フタル酸のモノまたはジアルカリ金属塩化合物、水酸化チオジフェニルエーテル化合物、からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物である、請求項2に記載の熱サイクルシステム用組成物。
[請求項4]前記安定剤を1質量ppm以上含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の熱サイクルシステム用組成物。」
「[0010] 本発明は、上記観点からなされたものであって、トリフルオロエチレン(HFO-1123)を含む熱サイクルシステム用組成物において、HFO-1123の有する低い地球温暖化係数および優れたサイクル性能を充分に活かしながら、HFO-1123をより安定化させた熱サイクルシステム用組成物、および該組成物を用いた、地球温暖化への影響が少なく、かつ高いサイクル性能を兼ね備え、さらに熱サイクル用作動媒体の使用寿命を長命化させた熱サイクルシステムの提供を目的とする。」
「[0017] 以下、本発明の実施の形態について説明する。
[熱サイクルシステム用組成物]
熱サイクルシステム用組成物は、HFO-1123を含む熱サイクル用作動媒体と、熱サイクル用作動媒体の劣化を抑制する安定剤とを含む。
[0018] 本発明の熱サイクルシステム用組成物が適用される熱サイクルシステムとしては、凝縮器や蒸発器等の熱交換器による熱サイクルシステムが特に制限なく用いられる。熱サイクルシステム、例えば、冷凍サイクルにおいては、気体の作動媒体を圧縮機で圧縮し、凝縮器で冷却して圧力が高い液体をつくり、膨張弁で圧力を下げ、蒸発器で低温気化させて気化熱で熱を奪う機構を有する。
[0019] このような熱サイクルシステムにHFO-1123を作動媒体として用いると、温度条件、圧力条件によって、HFO-1123が不安定化し、自己分解が生じて熱サイクル用作動媒体の機能が低下する場合がある。本発明の熱サイクルシステム用組成物においては、安定剤を共存させることで、HFO-1123の分解を抑制し、安定化させ、熱サイクル作動媒体としての寿命を長くすることが可能となる。
以下、本発明の熱サイクルシステム用組成物が含有する各成分を説明する。
[0020]<作動媒体>
本発明の熱サイクルシステム用組成物は作動媒体として、HFO-1123を含有する。本発明に係る作動媒体は、HFO-1123に加えて、必要に応じて、後述する任意成分を含んでいてもよい。作動媒体の100質量%に対するHFO-1123の含有量は、10質量%以上が好ましく、20~80質量%がより好ましく、40~80質量%が一層好ましく、40~60質量%がさらに好ましい。
・・・
[0082]<安定剤>
本発明の熱サイクルシステム用組成物は、上記HFO-1123を含有する作動媒体と共に安定剤を含有する。この安定剤は、作動媒体、特に上記したHFO-1123、の劣化を防止できるものであればよく、特に限定されずに使用できる。このような安定剤としては、耐酸化性向上剤、耐熱性向上剤、金属不活性剤等が挙げられる。
[0083] この安定剤の含有量は、本発明の効果を著しく低下させない範囲であればよく、熱サイクル用組成物(100質量%)中、1質量ppm~10質量%であり、好ましくは5質量ppm~5質量%である。
[0084] 耐酸化性向上剤および耐熱性向上剤としては、フェノール系化合物、不飽和炭化水素基含有芳香族化合物、芳香族アミン化合物、芳香族チアジン化合物、テルペン化合物、キノン化合物、ニトロ化合物、エポキシ化合物、ラクトン化合物、オルトエステル化合物、フタル酸のモノまたはジアルカリ金属塩化合物、水酸化チオジフェニルエーテル化合物等が挙げられる。
[0085]
具体的には、フェノール系化合物としては、フェノール、・・・2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノール、・・・が挙げられる。
・・・
[0092] これらの安定剤は、冷媒が冷凍サイクルにおいて繰り返し圧縮・加熱される条件において、熱や酸素による冷媒の分解抑制だけでなく、冷凍機油の安定化、さらに冷凍機油の分解により発生した酸による冷媒の分解抑制や熱サイクルシステムの金属材料を保護する作用がある。
[0093] これらの安定剤のうち、上記作用の観点から、2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノール、2,6-ジ-(tert-ブチル)フェノール、ニトロメタン、1,4-ベンゾキノン、3-メトキシフェノール等が好ましい化合物として挙げられる。
耐酸化性向上剤および耐熱性向上剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
・・・
[0178] なお、熱サイクルシステムの稼働に際しては、水分の混入や、酸素等の不凝縮性気体の混入による不具合の発生を避けるために、これらの混入を抑制する手段を設けることが好ましい。
・・・
[0187] さらに、熱サイクルシステム内に不凝縮性気体が混入すると、凝縮器や蒸発器における熱伝達の不良、作動圧力の上昇という悪影響をおよぼすため、極力混入を抑制する必要がある。特に、不凝縮性気体の一つである酸素は、作動媒体や冷凍機油と反応し、分解を促進する。」
「[0190] 以下、本発明について、実施例(例1~43、例64~103、例124~163、例184~207、例220~262、例284~326、例347~377、例392~434、例455~497、例518~537)および比較例(例44~63、例104~123、例164~183、例208~219、例263~283、例327~346、例378~391、例435~454、例498~517、例538~546)を参照しながらさらに詳細に説明する。各例においては、表4~39に示した配合(質量%)で混合して熱サイクルシステム用組成物を製造した。
[0191] ここで、作動媒体、安定剤、冷凍機油としては、以下に示すものを使用した。なお、作動媒体については、それを構成する作動媒体について表2、表3にまとめて示した。
[0192]
[表2]
[図:0001424114000001.jpg]
・・・
[0194] 安定剤1:2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノール
安定剤2:1,4-ベンゾキノン
安定剤3:フェノチアジン
安定剤4:3-メトキシフェノール
[0195] 冷凍機油1:ペンタエリスリトールオクタン酸ノナン酸エステル、炭素/酸素のモル比が4.8
冷凍機油2:エチルビニルエーテルとイソブチルビニルエーテルの共重合体でエチルビニルエーテルとイソブチルビニルエーテルのモル比が7/1で、炭素/酸素のモル比が4.3
冷凍機油3:ポリプロピレングリコール両末端をメチルエーテル化した化合物、炭素/酸素のモル比が2.7
冷凍機油4:アルキルベンゼン(炭素数が10~13のアルキルベンゼンと、炭素数が14~30のアルキルベンゼンの混合物で、動粘度が40℃で20mm2/sのもの)
[0196] [安定性試験]
例1~391で得られた熱サイクルシステム用組成物を、内部に150mlのガラス筒を入れた200mlのステンレス製の耐圧容器にそれぞれ入れた。ここで、作動媒体の配合量は50g、安定剤の配合量は0.5g(作動媒体に対して1質量%)であり、冷凍機油を配合する場合は、50gを加える。さらに、酸素濃度を18体積%になるように調整した空気を入れて密閉した。次いで、密閉した耐圧容器を恒温槽(パーフェクトオーブンPHH-202、エスペック株式会社製)中に175℃で14日間保存し、次のように作動媒体の酸分量および冷凍機油の全酸価分析を行った。
[0197](酸分量の測定)
上記試験後の耐圧容器を室温になるまで静置した。
吸収瓶4本にそれぞれ純水を100ml入れ、導管で直列に連結したものを準備した。
室温になった耐圧容器に、純水を加えた吸収瓶を連結したものをつなぎ、徐々に耐圧容器の弁を開放して、冷媒ガスを吸収瓶の水中に導入し、冷媒ガスに含まれる酸分を抽出した。
抽出後の吸収瓶の水は、1本目と2本目を合わせて指示薬(BTB:ブロモチモールブルー)を1滴加え、1/100N-NaOHアルカリ標準液を用いて滴定した。同時に、吸収瓶の3本目および4本目の水を合わせて同様に滴定し、測定ブランクとした。これら測定値と測定ブランクの値から、試験後の冷媒に含まれる酸分をHCl濃度として求めた。
[0198](冷凍機油の全酸価分析)
JIS-K2211(冷凍機油)の全酸価分析方法に準拠した方法で、作動媒体ガス回収後の冷凍機油全酸価値の測定を次のように行った。上記試験後の耐圧容器内に残った冷凍機油を秤りとり、トルエン/イソプロパノール/水混合溶液に溶解させ、指示薬としてp-ナフトールベンゼインを用いて、1/100N-KOH・エタノール溶液にて中和滴定し、滴定量から冷凍機油の全酸価値(mg・KOH/g)を測定した。
[0199]
[表4]
[図:0001424114000002.jpg]
」
(3)引用文献1に記載された発明
引用文献1の段落[0199]の[表4]に記載された「作動媒体1」及び「安定剤1」を用いた「例1」の熱サイクルシステム用組成物に着目し、同段落[0006]、[0190]~[0192]、[0194]~[0199]、[表2]、[表4]の記載に基づいて記載を整理すると、引用文献1には、以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
(引用発明)
「HFO-1123(トリフルオロエチレン)の含有量が100質量%である作動媒体1を99質量%含み、2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノールである安定剤1を1質量%含む、熱サイクルシステム用組成物。」
(4)対比・判断
ア 対比
本件補正発明と引用発明とを対比する。
引用発明の「HFO-1123(トリフルオロエチレン)」、「HFO-1123(トリフルオロエチレン)の含有量が100質量%である作動媒体1」はそれぞれ、本件補正発明の「フルオロエチレン」、「冷媒」に相当する。
また、引用発明の「2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノールである安定剤1」は、引用文献1の[0082]~[0085]の記載によれば、耐酸化性向上剤および耐熱性向上剤として例示されているものであるから、本件補正発明の「酸化防止剤」に相当する。
さらに、引用発明の「熱サイクルシステム用組成物」は、本件補正発明の「組成物」に相当する。
そして、引用発明の組成物は、「冷媒」に相当する99質量%の作動媒体1と、「酸化防止剤」に相当する1質量%とからなるものであるから、冷媒と酸化防止剤の含有率は100質量%であり、本件補正発明の「前記冷媒と前記酸化防止剤との合計質量が、組成物全体100質量%中の95質量%以上である」という発明特定事項を充足する。
そうすると、本件補正発明と引用発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。
(一致点)
「冷媒及び酸化防止剤を含み、
前記冷媒はフルオロエチレンを含み、
前記冷媒と前記酸化防止剤との合計質量が、組成物全体100質量%中の95質量%以上である、組成物。」
(相違点)
本件補正発明は、酸化防止剤の含有量が、フルオロエチレンの質量を基準として1~2000質量ppmであるのに対して、引用発明は、その含有量が、約10000(≒1/99×1000000)質量ppmである点。
イ 相違点の検討
以下、上記相違点について検討する。
引用発明の「安定剤1」について、引用文献1の段落[0083]には、「この安定剤の含有量は、本発明の効果を著しく低下させない範囲であればよく、熱サイクル用組成物(100質量%)中、1質量ppm~10質量%であり、好ましくは5質量ppm~5質量%である」と記載されている。
そして、安定剤を含有させる効果は、同段落[0019]によると、HFO-1123の分解を抑制して、安定化させることと認められるところ、同段落[0083]の記載に接した当業者であれば、このような効果は、好ましいとされる範囲である、5質量ppm~5質量%の範囲で安定剤を添加すれば奏されるものと理解すると認められる。また、引用発明において、安定剤の添加量を5~2000質量ppm程度に調整することを妨げるような特段の事情は存在しない。
してみれば、本件補正発明において、安定剤の添加量を、上記好ましいとされる範囲で調整した結果、本件補正発明と同程度の含有量にすることは当業者にとって格別困難なこととは認められない。
ウ 本件補正発明の効果の検討
(ア)本願明細書から読み取れる効果
酸化防止剤の含有量について、本願明細書の段落【0017】には、「酸化防止剤の含有量は、フルオロエチレンの質量を基準として、1質量ppm以上であり、10質量ppm以上とすることが好ましく、100質量ppm以上とすることがより好ましい。1質量ppm以上とすることにより、フルオロエチレンの分解及び酸の発生を抑制することができる。」(下線は合議体が付した。以下同様。)と記載され、同段落【0018】には、「酸化防止剤の含有量は、フルオロエチレンの質量を基準として、20000質量ppm以下であり、10000質量ppm以下とすることが好ましく、2000質量ppm以下とすることがより好ましい。酸化防止剤がフルオロエチレンの質量を基準として20000質量ppm以下とすることにより、不必要な量の酸化防止剤の添加を避けることができる。」と記載されており、当該記載からは、フルオロエチレンの分解及び酸の発生を抑制の観点から、1質量ppm以上、好ましくは10質量ppm以上の酸化防止剤を含有させる必要があり、不必要な量の酸化防止剤の添加を避ける観点から、酸化防止剤の含有量の上限を20000質量ppm、好ましくは2000質量ppm以下にする必要があることが理解される。
そして、同段落【0049】には、実施例1として、酸化防止剤であるBHTを0.466μmol含み、1,2-ジフルオロエチレンを8.9mmol含む組成物(BHTのフルオロエチレンに対する含有量は、約180(≒(220×0.466×10-6)/(64×8.9×10-3)×106)質量ppm)について、175℃で2週間保持した後のフッ化水素の生成量は1ppm以下であったことが示されているところ、当該実施例1からは、酸化防止剤を約180質量ppm添加することで、フルオロエチレンの分解及び酸の発生を抑制と、不必要な量の酸化防止剤の添加を避けられるという効果が読み取れる。
さらに、同段落【0050】には、比較例1として、酸化防止剤を全く含まないこと以外は、実施例1と同じである組成物について、175℃で2週間保持した後のフッ化水素の生成量は67ppmであったことが示されているところ、実施例1と比較例1からは、酸化防止剤を全く添加しないものよりも、酸化防止剤を添加した方が、フルオロエチレンの分解及び酸の発生を抑制できるという効果が読み取れる。
一方、同段落【0051】には、比較例2として、酸化防止剤であるBHTを109μmol含み、1,2-ジフルオロエチレン8.9mmol含み、冷凍機油を210質量%含む組成物(酸化防止剤のフルオロエチレンに対する含有量は、約42000(≒(220×109×10-6)/(64×8.9×10-3)×106)質量ppm)について、175℃で2週間保持した後のフッ化水素の生成量は11ppmであったことが示されているところ、比較例2は、同段落【0015】の記載より、フッ化水素の生成に寄与すると認められる冷凍機油を含んでいるから、冷凍機油を含まない実施例1とは、酸化防止剤の含有量と、フルオロエチレンの分解及び酸の発生を抑制できるという効果との関係を適切に比較することはできず、比較例2から読み取れることは、冷凍機油を多く含む場合(冷媒と酸化防止剤の合計質量が、組成物全体100質量%中の95質量%という請求項1の発明特定事項を満たさない場合)、酸化防止剤を多く含んでいても、フルオロエチレンの分解及び酸の発生を抑制する効果が少ないという程度のことである。
そうすると、実施例1、比較例1、2を参酌しても、酸化防止剤のフルオロエチレンに対する含有量が1~2000質量ppmの範囲内において、添加量の下限値については、フルオロエチレンの分解及び酸の発生を抑制できるという効果があることは認められるにせよ、添加量の上限値については、不必要な量の酸化防止剤の添加を避けるという程度のものであって、2000質量ppmという上限値に、臨界的意義があるとまでは認められない。
(イ)引用発明と比較した検討
引用文献1の段落[0196]には、酸素濃度が18体積%になるように空気が混合された容器内で、175℃で14日間保存した後の作動媒体の酸分量を測定することで、熱サイクルシステム用組成物の安定性試験を行うことが記載されているところ、同段落[0199]の[表4]には、引用発明を認定した例1の組成物の酸分量は、1ppmより少なかったこと、すなわち、フッ酸を含む酸の発生を抑制できたことが具体的に示されている。また、上記イでも検討したとおり、引用文献1の段落[0083]の記載からすると、好ましいとされる安定剤の濃度である5質量ppm~5質量%の範囲であれば、HFO-1123の分解を抑制して、組成物を安定化させる効果を奏すると認められる。
加えて、過剰な安定剤の濃度を減らすことで、不必要な量の酸化防止剤の添加を避けられることは当業者にとっての自明の効果といえる。
してみれば、フルオロエチレンを含む組成物において、酸化防止剤を本件補正発明の含有量程度としたものが、フルオロエチレンの分解及び酸の発生を抑制でき、不必要な量の酸化防止剤の添加を避けられるという効果を奏することは、当業者が予測し得る範囲内の事項である。
したがって、本件補正発明により奏される効果は、当業者が出願当時に本件補正発明の構成が奏するであろうと予測できた効果と比較して、顕著で予測できないものとはいえない。
エ 審判請求人の主張について
審判請求人は、審判請求書及び令和6年4月2日提出の上申書において、以下のとおり主張する。
「既述の如く、補正後の本願発明では、酸化防止剤の含有量はフルオロエチレンを基準として1~2000質量ppmと、少量に設定されています。
・・・
安定剤が存在することにより、作動媒体の劣化を抑制できることは、当該技術分野における技術常識とも言えるものです。しかしながら、本発明者らは、フルオロエチレンに関しては、引用文献1、3の実施例にあるような一般的な量の安定剤を使用するとかえってその存在が酸の生成抑制に対して悪影響を及ぼすことを見出しました。そこで、安定剤に関してはより少ない量の使用にとどめることにより、より効果的に酸の生成を抑えることができることを見出しました。
このように、安定剤の使用量をフルオロエチレンを基準として1~2000質量ppmにとどめる等の補正後の本願発明の構成を採用することにより、酸の生成を抑えることができるという予想外の効果を得られることに関して、上記引用文献1~3には記載も示唆もなく、補正後の本願発明は引用文献1~3に基づき容易に為し得るものではありません。」
以下、上記主張について検討する。
上記ウ(イ)で検討したように、引用文献1の段落[0083]には、[表4]の例1には、安定剤を、HFO-1123(フルオロエチレン)からなる作動媒体に対して、約10000質量ppm添加された組成物が記載されているところ、引用発明を認定した例1の組成物の酸分量は、1ppmより少なかったこと、すなわち、安定剤を約10000質量ppm添加してもフッ酸を含む酸の生成が抑制できたことが具体的に示されている。
また、上記ウ(ア)で検討したとおり、本願明細書には、「フルオロエチレンに関しては、引用文献1、3の実施例にあるような一般的な量の安定剤を使用するとかえってその存在が酸の生成抑制に対して悪影響を及ぼす」、「安定剤に関してはより少ない量の使用にとどめることにより、より効果的に酸の生成を抑えることができる」ことについては、何ら示されていない。
さらに、引用文献1の段落[0083]には、「この安定剤の含有量は、本発明の効果を著しく低下させない範囲であればよく、熱サイクル用組成物(100質量%)中、1質量ppm~10質量%であり、好ましくは5質量ppm~5質量%である」と記載されていることからすれば、このような数値範囲内であれば、HFO-1123の分解を抑制して、組成物を安定化できると認められるし、そうではないという合理的な根拠もない。例えば、特表2017-512848号公報の請求項1、5、段落【0001】、【0003】、【0010】に、熱伝達流体等に用いられる化学的不安定性のあるフルオロオレフィン材料であるヒドロクロロフルオロオレフィン組成物において、安定剤を、約100~1000ppmの含有量で添加することが記載されているように、引用文献1に記載された上記安定剤の好ましい添加量の範囲であれば、フルオロオレフィン材料の分解や酸の生成を抑制といった安定化の効果が得られることは技術常識でもある。
してみれば、上記したような審判請求人の主張は、採用できない。
(5)まとめ
以上のとおり、本件補正発明は、引用文献1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
(6)付記
原査定で引用した引用文献3(国際公開第2015/186670号)の段落【0159】~【0166】、【0170】、【表2】、【表3】、【表7】には、HFO-1132、HFO-1132(E)等のフルオロエチレンを99質量%、安定剤を1質量%含む組成物において、それぞれ酸生成を抑制できることが具体的に示されており、同段落【0053】には、好ましい安定剤の含有量の範囲は、5質量ppm~5質量%であることが記載されているから、引用文献3から主引例を認定した場合についても、本件補正発明は、上記(1)~(4)で検討したのと同様の理由で、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
また、令和6年4月2日提出の上申書には、本件補正発明において、「フルオロエチレン」を「トランス-1,2-フルオロエチレン」に限定し、組成物が、「酸素を含み・・・前記酸素の含有量は、前記トランス-1,2-フルオロエチレンの質量を基準として3000ppm以下である」と補正することを検討している旨記載されているが、引用文献3には、上記のとおり、「トランス-1,2-フルオロエチレン」である「HFO-1132(E)」を含む作動媒体を99質量%、安定剤を1質量%含む組成物が記載され(段落【0159】~【0166】、【0170】、【表2】、【表7】)、引用文献1の段落[0187]には、「不凝縮性気体の一つである酸素は、作動媒体や冷凍機油と反応し、分解を促進する。」ことが記載されていることを踏まえると、組成物の酸素の混入を極力少なくして3000ppm以下とすることは当業者が適宜行い得ることといえるから、本件補正発明に対して、上記のような補正をしても拒絶理由は解消しない。
3 本件補正についてのむすび
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。
第3 本願発明について
1 本願発明
令和5年11月8日にされた手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項に係る発明は、願書に最初に添付した特許請求の範囲の請求項1~6に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、その請求項1に記載された事項により特定される、上記第2[理由]1(2)に記載のとおりのものである。
2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、以下の理由1、2を含むのである。
理由1 この出願の請求項1に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された、又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
理由2 この出願の請求項1に係る発明は、本件出願前に日本国内又は外国において、頒布された、又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
記
引用文献1:国際公開第2015/125878号
3 引用文献
原査定の拒絶の理由でも引用された前記引用文献1の記載事項は、上記第2の[理由]2(2)に記載したとおりである。
4 対比・判断
本願発明は、上記第2の[理由]2で検討した本件補正発明の「酸化防止剤の含有量」が「フルオロエチレンの質量を基準として1~20000質量ppm」であることが特定されたものである。
本願発明と引用発明とを対比すると、引用発明において、本願発明の「フルオロエチレン」に相当する「HFO-1123」に対する、本願発明の「酸化防止剤」に相当する「2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノールである安定剤1」の含有量は、約10000質量ppmであるから、引用発明は、本願発明の上記発明特定事項を充足する。
また、その余の相当関係は、上記第2の[理由]2(4)アで検討したのと同様であるから、本願発明と引用発明との間に差異はない。
第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用文献1に記載された発明であり、引用文献1の記載に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2023-018946