特許拒絶査定不服審判
2025-006027
組成物、冷媒を保存する方法、及び冷媒の重合を抑制する方法
- 審判番号
- 2025-006027
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2022-132345
- 請求日
- 2025年04月18日
- 審決日
- 2026年06月23日
- 公報発行日
- 2026年09月25日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】ダイキン工業株式会社
- 【請求人代理人】弁理士法人三枝国際特許事務所
- 審判長/審判官
- 審判長 光本 美奈子
- 審判官 渡辺 陽子
- 審判官 瀬下 浩一
- 分類
- P18 .121-Z (C09K)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第17条の2第5項第2号、特許法第29条第2項、特許法第17条の2第1項第4号、特許法第17条の2第5項、特許法第36条第6項第2号、特許法第36条第6項第1号、特許法第17条の2第6項
- データ出所
- 審決公報(XML)
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特願2022-132345「組成物、冷媒を保存する方法、及び冷媒の重合を抑制する方法」拒絶査定不服審判事件〔令和 4年11月 1日出願公開、特開2022-166272〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、令和2年10月9日の出願である特願2020-171566号の一部を令和4年8月23日に新たな特許出願としたものであって、令和5年9月4日に手続補正書が提出され、令和6年8月19日付けで拒絶理由が通知され、その指定期間内(1月延長)の同年11月15日に意見書が提出され、令和7年2月7日付けで拒絶査定がなされ(謄本送達は同月18日)、これに対して、同年4月18日に拒絶査定不服の審判が請求されると同時に手続補正書が提出され、同年8月21日に上申書が提出されたものである。
第2 令和7年4月18日付け手続補正についての補正の却下の決定
[補正却下の決定の結論]
令和7年4月18日付け手続補正を却下する。
[理由]
1 本件補正の内容
特許法第17条の2第1項第4号に該当する手続補正である、令和7年4月18日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)は、特許請求の範囲についてする補正であって、そのうち請求項3についての補正は以下のとおりである。
(1)本件補正前の請求項3(すなわち、令和5年9月4日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項3)の記載
「 【請求項3】
密閉容器内で、気相と液相とを有する気液状態で、(1)冷媒を保存する方法であって、
前記(1)冷媒は、
(1-1)シス-1,2-ジフルオロエチレン(HFO-1132(Z))、1,1-ジフルオロエチレン(HFO-1132a)、トリフルオロエチレン(HFO-1123)、及びテトラフルオロエチレン(FO-1114)からなる群から選ばれる少なくとも一種以上の成分と、
(1-2)一般式(1):
【化2】
[図:0001438963000001.jpg]
(式中、
Xa、Xb、及びXcは、水素原子、又はフッ素原子を示し、
Raは、-CH3、-CHF2、-CH2F、-CF3、-CXd=CXeXf(前記Xd、Xe、Xfは、水素原子、又はフッ素原子を示す)、又は-ORb(前記Rbは、炭素数1~3の、置換基として水素原子、又はフッ素原子を有する炭化水素基を示す)を示す。)
で表される化合物、並びに、トリフルオロヨードメタン(CF3I)からなる群から選ばれる少なくとも一種以上の成分とを含み、
前記気相において、(2)酸素を、体積基準で、温度25℃で、濃度1ppm以上、10,000ppm以下にする、ことを特徴とする方法。」
(2)本件補正後の請求項3の記載
下線は補正箇所を表す。
「 【請求項3】
密閉容器内で、気相と液相とを有する気液状態で、(1)冷媒を保存する方法であって、
前記(1)冷媒は、
(1-1)シス-1,2-ジフルオロエチレン(HFO-1132(Z))、1,1-ジフルオロエチレン(HFO-1132a)、トリフルオロエチレン(HFO-1123)、及びテトラフルオロエチレン(FO-1114)からなる群から選ばれる少なくとも一種以上の成分と、
(1-2)一般式(1):
【化2】
[図:0001438963000002.jpg]
(式中、
Xa、Xb、及びXcは、水素原子、又はフッ素原子を示し、
Raは、-CH3、-CHF2、-CH2F、-CF3、-CXd=CXeXf(前記Xd、Xe、Xfは、水素原子、又はフッ素原子を示す)、又は-ORb(前記Rbは、炭素数1~3の、置換基として水素原子、又はフッ素原子を有する炭化水素基を示す)を示す。)
で表される化合物、並びに、トリフルオロヨードメタン(CF3I)からなる群から選ばれる少なくとも一種以上の成分とを含み、
前記気相において、(2)酸素を、体積基準で、温度25℃で、濃度1ppm以上、10,000ppm以下にし、
前記(1-1)の成分に、前記(1-2)の成分を共存させる事に依り、
前記(1-1)の成分を保存する、方法。」
2 補正の適否
(1)補正の目的について
本件補正により、「前記(1-1)の成分に、前記(1-2)の成分を共存させる事に依り、
前記(1-1)の成分を保存する」との記載が追加された。
本件補正前及び本件補正後の請求項3は、いずれも、「(1-1)の成分に、(1-2)の成分を共存」させた状態である、「(1-1)・・・の成分と、(1-2)・・・の成分とを含」む「冷媒」を、「密閉容器内で、気相と液相とを有する気液状態で、」「保存する方法」であって、気相において、「酸素を、体積基準で、温度25℃で、濃度1ppm以上、10,000ppm以下に」することを特定事項とするものである。
本件補正により追加された「前記(1-1)の成分に、前記(1-2)の成分を共存させる事に依り、前記(1-1)の成分を保存する」との記載は、前記「(1-1)の成分と、(1-2)の成分とを含む冷媒の保存方法」というの「方法の発明」について、その工程や条件等の特定事項を何ら限定するものではない。
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮に該当しない。
また、本件補正が、同法第17条の2第5項第1、3及び4号にそれぞれ掲げる請求項の削除、誤記の訂正及び明りょうでない記載の釈明のいずれにも該当しないことは明らかである。
よって、本件補正は、特許法第17条の2第5項の各号に掲げるいずれの事項を目的とするものにも該当しないから、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
(2)審判請求人の主張について
審判請求人は、審判請求書において本件補正は「特許請求の範囲を減縮するものである。」と主張することから、仮に、本件補正が特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるとして、本件補正後の特許請求の範囲の請求項3に係る発明(以下「本件補正発明」という。)が同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。
本件補正発明の「前記(1-1)の成分に、前記(1-2)の成分を共存させる事に依り、
前記(1-1)の成分を保存する」との記載は、
「冷媒を保存する方法であって、
前記(1)冷媒は、
(1-1)・・・からなる群から選ばれる少なくとも一種以上の成分と、
(1-2)・・・からなる群から選ばれる少なくとも一種以上の成分とを含み」との本件発明の特定事項との関係で不明りょうな記載のため、本件補正発明は、特許法第36条第6項第2号の規定を満たすものではない。
仮に、本件補正発明の「前記(1-1)の成分に、前記(1-2)の成分を共存させる事に依り、前記(1-1)の成分を保存する」との記載が、審判請求書において請求人が主張する「(1-1)成分に、(1-2)成分を共存させる事に依り、(1-1)成分の安定性」の「向上」を意図するものであると解したとしても、本件補正発明は「酸素を、体積基準で、温度25℃で、濃度1ppm以上」という極めて低い酸素濃度下での冷媒の保存方法を包含する発明であるところ、本願明細書の発明の詳細な説明には後記第3 5(3)で検討する記載がなされるにすぎず、本願出願時の技術常識を勘案しても、このような極めて低い酸素濃度下で「(1-1)成分に、(1-2)成分を共存させる事に依り、(1-1)成分の安定性」が「向上」することが、本願明細書の発明の詳細な説明に記載されていたとはいえない。
したがって、本件補正発明は、特許法第36条第6項第1号の規定を満たすものでもない。
以上のとおりであるから、本件補正後の請求項3に係る発明は特許出願の際独立して特許を受けることができないものであり、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法126条第7項の規定に違反するから、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものでもある。
3.むすび
以上のとおりであるから、本件補正は、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
第3 本願発明について
1 本願発明
上記第2のとおり、本件補正は却下されたので、本願の請求項1~4に係る発明は、令和5年9月4日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1~4に記載された事項により特定されるとおりのものであって、その請求項3に係る発明は前記第2 1(1)とおりである。
2 原査定の拒絶理由
原査定の拒絶の理由は、令和6年8月19日付け拒絶理由通知書に記載した理由であって、この出願の請求項3に係る発明(以下「本願発明」という。)は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1に記載された発明、並びに、下記の引用文献1、3及び4に記載された事項に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、という理由を含むものである。
引用文献1.特開2020-100844号公報
引用文献3.国際公開第2015/008695号
引用文献4.特開2017-210489号公報
3 引用文献の記載
以下、下線は合議体による。
また、「トリフルオロエチレン(HFO-1123)」を「トリフルオロエチレン」や「HFO-1123」とも記載し、「テトラフルオロプロペン」を「HFO-1234yf」とも記載する。
(1)引用文献1
前記引用文献1には、以下の事項が記載されている。
「【請求項1】
トリフルオロエチレンと2,3,3,3-テトラフルオロプロペンを含む熱サイクル用作動媒体であって、前記作動媒体全量に対するトリフルオロエチレンと2,3,3,3-テトラフルオロプロペンの合計量の割合が70~100質量%であり、トリフルオロエチレンと2,3,3,3-テトラフルオロプロペンの合計量に対するトリフルオロエチレンの割合が35~95質量%であり、
前記作動媒体は、飽和のヒドロフルオロカーボンおよび炭素-炭素二重結合を有するヒドロフルオロカーボン(ただし、トリフルオロエチレンおよび2,3,3,3-テトラフルオロプロペンを除く)から選ばれる少なくとも1種を、前記作動媒体全量に対して0~30質量%含むことを特徴とする熱サイクル用作動媒体と、
二酸化炭素、炭化水素、クロロフルオロオレフィン(CFO)、ヒドロクロロフルオロオレフィン(HCFO)からなる群の少なくとも1種と、を含む熱サイクルシステム用組成物。
・・・
【0006】
2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234yf)は地球温暖化係数(GWP)の低い作動媒体として知られている。しかしHFO-1234yfはその成績係数は高いものの、冷凍能力がR410Aに比較して低く、いわゆるパッケージエアコンやルームエアコンと言われる通常の空調機器等、これまでR410Aが用いられてきた機器において用いることができないという欠点がある。
【0007】
HFOを用いた作動媒体として、例えば、特許文献1には上記特性を有するとともに、優れたサイクル性能が得られるトリフルオロエチレン(HFO-1123)を用いた作動媒体に係る技術が開示されている。特許文献1においては、さらに、該作動媒体の不燃性、サイクル性能等を高める目的で、HFO-1123に、各種HFCを組み合わせて作動媒体とする試みもされている。
・・・
【0091】
(安定剤)
安定剤は、熱および酸化に対する作動媒体の安定性を向上させる成分である。安定剤としては、従来からハロゲン化炭化水素からなる作動媒体とともに、熱サイクルシステムに用いられる公知の安定剤、例えば、耐酸化性向上剤、耐熱性向上剤、金属不活性剤等が特に制限なく採用できる。
・・・
【0121】
なお、熱サイクルシステムの稼働に際しては、水分の混入や、酸素等の不凝縮性気体の混入による不具合の発生を避けるために、これらの混入を抑制する手段を設けることが好ましい。
・・・
【0131】
さらに、熱サイクルシステム内に不凝縮性気体が混入すると、凝縮器や蒸発器における熱伝達の不良、作動圧力の上昇という悪影響をおよぼすため、極力混入を抑制する必要がある。特に、不凝縮性気体の一つである酸素は、作動媒体や潤滑油と反応し、分解を促進する。
【0132】
不凝縮性気体濃度は、作動媒体の気相部において、作動媒体に対する容積割合で1.5体積%以下が好ましく、0.5体積%以下が特に好ましい。
・・・
【0134】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されない。例1~8、例14~51が実施例であり、例9~13、例52~55が比較例である。例56は、以下の各実施例、比較例において、相対評価に用いたR410A(HFC-32とHFC-125の質量比1:1の混合媒体)の例であり、参考例である。
【0135】
[例1~13]
例1~13において、HFO-1123およびHFO-1234yfを表5に示す割合で混合した作動媒体を作製し、以下の方法で、温度勾配および冷凍サイクル性能(冷凍能力Qおよび成績係数COP)を測定した。
・・・
【0144】
【表5】
[図:0001438963000003.jpg]
・・・
【0175】
本発明の作動媒体は、冷凍・冷蔵機器(内蔵型ショーケース、別置型ショーケース、業務用冷凍・冷蔵庫、自動販売機、製氷機等)用冷媒、空調機器(ルームエアコン、店舗用パッケージエアコン、ビル用パッケージエアコン、設備用パッケージエアコン、ガスエンジンヒートポンプ、列車用空調装置、自動車用空調装置等)用冷媒、発電システム(廃熱回収発電等)用作動流体、熱輸送装置(ヒートパイプ等)用作動媒体、二次冷却機用媒体として有用である。・・・」
(2)引用文献3
前記引用文献3には、以下の事項が記載されている。
「[0001] 本発明は、トリフルオロエチレンの保存方法および保存容器に係り、特に、貯蔵および輸送等のためにトリフルオロエチレンを安定に保存する方法、およびトリフルオロエチレンが安定に保存された容器に関する。
[0002] トリフルオロエチレン(CF2=CHF)は、オゾン層を破壊するクロロフルオロカーボン類(CFC)、ハイドロクロロフルオロカーボン類(HCFC)や、温室効果ガスであるハイドロフルオロカーボン類(HFC)に代わる新しい冷媒として期待されている。
[0003] このようなトリフルオロエチレンは、密閉容器に常温以下の温度で加圧充填され、あるいは冷却下に加圧液化充填されて、貯蔵や輸送がなされている。こうして密閉容器に充填されたトリフルオロエチレンは、気相と液相とを有する気液状態を呈している。そして、気液状態のトリフルオロエチレンは、冷媒としての品質の維持や、容器内での不純物(固体)の付着防止などのために、重合等の反応を生じさせることなく安定に保持することが求められている。
[0004] フルオロオレフィンは、酸素が存在すると、酸素がラジカル源になって重合反応が生起することが知られている。・・・
トリフルオロエチレンが、酸素存在下で自己重合反応に対してどの程度安定であるかについては、不明な点が多い。冷媒としての品質を保持し、安価で、安全かつ安定的に貯蔵および輸送を行うために、トリフルオロエチレンに重合反応を生じさせることなく保存する方法が求められている。
・・・
[0009] 本発明のトリフルオロエチレンの保存方法は、トリフルオロエチレンを密閉容器内で保存する方法であって、前記密閉容器内でトリフルオロエチレンを気相と液相とが共存する状態で保存し、前記気相の、温度25℃における酸素の濃度を、1000体積ppm以下に保持することを特徴とする。
[0010] 本発明のトリフルオロエチレンの保存方法において、前記酸素の濃度を、1~1000体積ppmにすることが好ましく、さらに3~1000体積ppmにすることが好ましく、さらに3~300体積ppmにすることが好ましく、3~50体積ppmにすることが最も好ましい。」
「[0025]
[例1~10]
内容積200ccのSUS316製耐圧容器(最高使用温度300℃、最高使用圧力20MPa)内に、予め重量を計測したパイレックス(登録商標)製の内挿管を挿入し、耐圧容器を密閉した後、容器内の真空排気を行った。なお、内挿管は耐圧試験容器内での重合物の生成の有無を確認するために挿入した。
[0026]
次に、前記耐圧容器内に所定量の酸素を封入した後、液化された純度99.5%以上のトリフルオロエチレン100gを充填し、気相の酸素濃度が25℃で表1に示す値となるようにした。
次いで、このように所定濃度の酸素とともにトリフルオロエチレンが封入された耐圧容器を、熱風循環型恒温槽内に設置し、60℃の恒温状態で20日間放置した。
[0027]
20日間経過後、恒温槽から耐圧容器を取り出し、トリフルオロエチレンを放出した。そして、内挿管内の固形物質生成の有無を肉眼で調べるとともに、固形物の生成量を内挿管の試験前後における重量変化として調べた。結果を表1に示す。表1において、◎は「固形物質生成量が3mg未満」を、○は「固形物質生成量が3~30mgであるが実用上問題なし」を、△は「固形物質生成量が31~500mgであるが実用上問題なし」を、×は「固形物質生成量が501mg以上」をそれぞれ示す。
[0028]
次に、肉眼で固形物質が観察された例8~10において、内挿管内の固形物質を採取し、重水素化アセトンに溶解して1H-NMR、13C-NMRおよび19F-NMRの各スペクトルを測定した。測定されたNMRスペクトルのピーク帰属により固形物質を同定したところ、トリフルオロエチレンのホモポリマーであった。これは、トリフルオロエチレンの重合により生成したものであると推測される。
[0029]
[表1]
[図:0001438963000004.jpg]
」
(3)引用文献4
前記引用文献4には、以下の事項が記載されている。
「【0001】
本発明は、テトラフルオロプロペンの保存方法および保存容器に係り、特に、貯蔵および輸送等のためにテトラフルオロプロペンを安定に保存する方法、およびテトラフルオロプロペンが安定に保存された容器に関する。
【背景技術】
【0002】
テトラフルオロプロペンの異性体の一つである2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(CF3CF=CH2で表される。以下、HFO-1234yfとも記す。)は、オゾン層を破壊する温室効果ガスであるクロロフルオロカーボン類(CFC)、ハイドロクロロフルオロカーボン類(HCFC)、およびハイドロフルオロカーボン類(HFC)に代わる新しい冷媒として、近年使用が期待されている。
【0003】
このようなHFO-1234yfは、密閉容器に常温以下の温度で加圧充填され、あるいは冷却下に加圧液化充填されて、貯蔵や輸送がなされている。こうして密閉容器に充填されたHFO-1234yfは、気相と液相とを有する気液状態を呈している。そして、気液状態のHFO-1234yfは、冷媒としての品質の維持や、容器内での不純物(固体)の付着防止などのために、重合等の反応を生じさせることなく安定に保持することが求められている。
【0004】
フルオロオレフィンは、酸素が存在すると、酸素がラジカル源になって重合反応が生起することが知られている。・・・
HFO-1234yf等のテトラフルオロプロペンが、酸素存在下で自己重合反応に対してどの程度安定であるかについては、不明な点が多い。冷媒としての品質を保持し、安価で、安全かつ安定的に貯蔵および輸送を行うために、HFO-1234yf等のテトラフルオロプロペンに重合反応を生じさせることなく保存する方法が求められている。
・・・
【0009】
本発明のテトラフルオロプロペンの保存方法は、HFO-1234yfを密閉容器内で、気相と液相とを有する気液状態で保存する方法であって、前記気相における酸素の濃度を、温度25℃で3体積ppm以上1000体積ppm未満にすることを特徴とする。
【0010】
本発明のテトラフルオロプロペンの保存方法においては、前記気相における酸素の濃度を、温度25℃で5体積ppm以上1000体積ppm未満にすることが好ましい。また、前記気相における酸素の濃度を、温度25℃で6体積ppm以上500体積ppm以下にすることが好ましい。」
「【0024】
[例1~10]
内容積200ccのSUS316製耐圧容器(最高使用温度300℃、最高使用圧力20MPa)内に、予め重量を計測したパイレックス(登録商標)製の内挿管を挿入し、耐圧容器を密閉した後、容器内の真空排気を行った。なお、内挿管は耐圧試験容器内での重合物の生成の有無を確認するために挿入した。
【0025】
次に、前記耐圧容器内に所定量の酸素を封入した後、液化された純度99.5%以上のテトラフルオロプロペン100gを充填し、気相の酸素濃度が25℃で表1に示す値となるようにした。なお、テトラフルオロプロペンとしては、HFO-1234yfを使用した。
【0026】
次いで、このように所定濃度の酸素とともにHFO-1234yfが封入された耐圧容器を、熱風循環型恒温槽内に設置し、60℃の恒温状態で20日間放置した。
【0027】
20日間経過後、恒温槽から耐圧容器を取り出し、HFO-1234yfを放出した。そして、内挿管内の固形物質生成の有無を肉眼で調べるとともに、固形物の生成量を内挿管の試験前後における重量変化として調べた。結果を表1に示す。表1において、◎は「固形物質なし」を、○は「若干固形物質生成が認められるが実用上問題なし」を、×は「固形物質あり」をそれぞれ示す。
【0028】
次に、肉眼で固形物質が観察された例7~10において、内挿管内の固形物質を採取し、重水素化アセトンに溶解して1H-NMR、13C-NMRおよび19F-NMRの各スペクトルを測定した。測定されたNMRスペクトルのピーク帰属により固形物質を同定したところ、テトラフルオロプロペンのホモポリマーであった。これは、HFO-1234yfの重合により生成したものであると推測される。
【0029】
【表1】
[図:0001438963000005.jpg]
」
4 引用文献1に記載された発明
前記3(1)の引用文献1の請求項1、【0135】、【0144】の【表5】(例1~13)、及び、【0175】の記載から、引用文献1には、「HFO-1123およびHFO-1234yfを混合した、冷凍・冷蔵機器用冷媒や空調機器用冷媒として有用な作動媒体」の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
5 対比・判断
(1)対比
本願発明と引用発明を対比する。
引用発明の「HFO-1123」及び「HFO-1234yf」は、それぞれ、本願発明の「(1-1)・・・トリフルオロエチレン(HFO-1123)」、及び、「一般式(1)」において、Xa及びXbが水素原子、Xcがフッ素原子、Raが-CF3の場合」である「(1-2)一般式(1):・・・で表される化合物」に相当する。
引用発明の「冷凍・冷蔵機器用冷媒や空調機器用冷媒として有用な作動媒体」は、冷凍能力を有するものであり(引用文献1の【0144】【表5】参照。)、引用発明の「HFO-1123」及び「HFO-1234yf」は、いずれも冷媒であるとの技術常識(要すれば、引用文献3の[0002]及び引用文献4の【0002】等参照。)からも、本願発明の「冷媒」に相当するものである。
そうすると、本願発明と引用発明の一致点及び相違点は、以下のとおりである。
<一致点>
「(1-1)シス-1,2-ジフルオロエチレン(HFO-1132(Z))、1,1-ジフルオロエチレン(HFO-1132a)、トリフルオロエチレン(HFO-1123)、及びテトラフルオロエチレン(FO-1114)からなる群から選ばれる少なくとも一種以上の成分と、
(1-2)一般式(1):
【化2】
[図:0001438963000006.jpg]
(式中、
Xa、Xb、及びXcは、水素原子、又はフッ素原子を示し、
Raは、-CH3、-CHF2、-CH2F、-CF3、-CXd=CXeXf(前記Xd、Xe、Xfは、水素原子、又はフッ素原子を示す)、又は-ORb(前記Rbは、炭素数1~3の、置換基として水素原子、又はフッ素原子を有する炭化水素基を示す)を示す。)
で表される化合物、並びに、トリフルオロヨードメタン(CF3I)からなる群から選ばれる少なくとも一種以上の成分とを含」む「冷媒」に係る発明。
<相違点>
本願発明は、「密閉容器内で、気相と液相とを有する気液状態で、(1)冷媒を保存する方法であって、」「前記気相において、(2)酸素を、体積基準で、温度25℃で、濃度1ppm以上、10,000ppm以下にする、ことを特徴とする方法」に係る発明であるのに対し、引用発明は、「冷媒」そのものに係る発明である点。
(2)相違点についての検討
引用文献1、3及び4は、冷媒として機能する作動媒体に関するという点で共通の技術分野に属するものである。
引用文献3及び4には、引用文献1の作動媒体に含まれるトリフルオロエチレン及びHFO-1234yfについて、密閉容器へ充填された際には、気相と液相とを有する気液状態を呈しており、冷媒としての品質の維持や、容器内での不純物(固体)の付着防止などのために、重合等の反応を生じさせることなく安定に保持することが求められており(前記3(2)[0003][0004]及び前記3(3)【0003】【0004】参照)、その具体的な方法として、引用文献3には、密閉容器内にトリフルオロエチレンを気相と液相とが共存する状態で保存し、前記気相の温度25℃における酸素の濃度を、1000体積ppm以下に保持すること、及び、3~50体積ppmにすることが最も好ましいことが(前記3(2)[0009][0010])、引用文献4には、HFO-1234yfを密閉容器内で、気相と液相とを有する気液状態で保存し、前記気相の温度25℃における酸素の濃度を、3体積ppm以上1000体積ppm未満にすること、及び、6~500体積ppm以下にすることが好ましいことが(前記3(3)【0009】【0010】)記載されている。そして、引用文献3の[0024]~[0029][表1]及び引用文献4の【0024】~【0029】【表1】の記載に接した当業者は、密閉容器内の気相の酸素濃度が3~50体積ppm程度であれば、液化された冷媒を100g充填し60℃で20日間放置後でも、肉眼で観察されるような固形物質は生成しないことを理解するといえる。
そうすると、引用発明の作動媒体の品質を維持し、容器内で安定に保持するために、引用文献3及び4に記載されるように、密閉容器へ充填し、気相と液相を有する気液状態で気相の酸素濃度を25℃で3~50体積ppm程度とすることは、当業者が容易に想到し得るものである。
(3)本願発明の効果について
本願明細書の【0108】以降には「実施例」との記載があるものの、本願発明の特定事項を満たす方法を具体的に示す実施例の記載はない。
本願明細書の【0109】~【0118】には、(1-1)及び(1-2)の組み合わせの一種であるHFO-1123とHFO-1234yfの混合物(13.2~15.9g)に重合開始剤を入れて25℃で2時間重合させた後に、容器から得られた固形物の重量を測定したことが記載されている。また、本願明細書の【0125】には、(1-1)及び(1-2)の組み合わせの一種である「HFO-1123とHFO-1234yf重量比90/10」(HFO-1123は8.4g)について、容器内の25℃での体積あたりの酸素濃度を14,000ppmとし、50℃で240時間経過に目視により内部に固形物の付着がないことを確認したことが記載されている。
しかしながら、本願発明は、前記第1 1(1)のとおり、「気相において、(2)酸素を、体積基準で、温度25℃で、濃度1ppm以上、10,000ppm以下にすることを、特徴とする」方法に係る発明である。前記3(2)の引用文献3の[0024]~[0029][表1]及び前記3(3)の引用文献4の【0024】~【0029】【表1】のとおり、引用文献3及び4には、HFO-1123又はHFO-1234yfを、前記実施例(8.4g)の10倍以上の量である100g充填した密閉容器において、気相の酸素濃度が3~50体積ppm程度という本願発明に包含される態様において、60℃で20日間放置後に、肉眼で観察できるような固形物質がないことが記載されていることからも、本願発明により、本願発明の構成から当業者が予測しえない顕著な効果が奏されたとはいえない。
(4)請求人の主張について
ア 令和7年4月18日提出の審判請求書及び同年8月21日提出の上申書における請求人の主張
(ア)引用文献1は、HFO-1123とHFO-1234yfとを含む混合冷媒について、HFO-1123の含有量を調整することでHFO-1123の自己分解性を抑える技術を開示するものであり、混合冷媒に酸素が存在する態様を開示ないし示唆するものではない。
引用文献3と4は、HFO-1123またはHFO-1234yfの保存方法において酸素濃度を調整することを開示するのみで、HFO-1123とHFO-1234yfの組み合わせを開示も示唆もしないから、引用文献1に引用文献3及び4を適用する動機づけはない。
(イ)「HFO-1123とHFO-1234yfとを混合した場合、本明細書の実施例1-1~1-8で説明する通り、見かけの重合速度の低下に由り分子量が小さいポリマー生成に至ります。また、混合冷媒では、HFO-1123の存在に由り酸素との反応の結果が分解反応(非重合)が優勢と成り、ラジカルの生成量が少なく成る為、分子量の小ささと相俟って、生成ポリマ―の重量は極めて小さく成ります。この為、本発明の混合冷媒では、酸素存在下においても、ポリマ―生成(重合)を強力に抑制する結果と成ります。この様に、本発明は、引用発明と比較して、異質な効果を有し、この効果は、本願出願時の技術水準から当業者が予測する事は出来ず、この点でも、進歩性を有しています。」
イ 請求人の主張について
(ア)主張ア(ア)について
引用文献1の【0121】、【0131】及び【0132】には、熱サイクルシステムの稼働に際し、酸素等の不凝集性気体の混入による不具合の発生を避けるため、混入を抑制する手段を設けることが好ましいこと、酸素は作動媒体と反応して分解を促進すること、及び、作動媒体に対する不凝縮性気体の濃度は容積割合で0.5%体積以下が特に好ましいことが記載されており、引用文献1は、混合冷媒への酸素の影響をも開示するものと認められる。また、引用文献1の【0091】には作動媒体に安定剤を添加することが記載されるように、作動媒体を安定な状態で保とうとすること当該技術分野における自明の課題であり、引用発明の作動媒体に、引用文献3及び4に記載される保存方法を適用することを妨げる阻害要因等があるともいえない。
したがって、請求人の主張ア(ア)は採用できない。
(イ)請求人の前記ア(イ)の主張は、「密閉容器内で、気相と液相とを有する気液状態で、」「気相において、(2)酸素を、体積基準で、温度25℃で、濃度1ppm以上」との本願発明の条件下で、ポリマー生成を促進する酸素由来のラジカルが大量に発生することを前提とするものと認められる。しかしながら、本願明細書の【0123】には、「HFO-1123」について「低酸素濃度」では「目視により内部に固形物の付着がないことを確認した」と記載されており、引用文献3の[0024]~[0029][表1]及び引用文献4の【0024】~【0029】【表1】の記載からも、1ppm以上という酸素濃度下で、請求人がその主張の前提とする事象が生じることが明らかとはいえない。
そして、1ppm以上という酸素濃度条件をも包含する本願発明によりその構成から予測し得ない顕著な効果が奏されたとはいえないことは、前記(3)で検討したとおりである。
したがって、請求人の主張ア(イ)も採用できない。
第4 むすび
以上のとおり、本願の請求項3に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2025-006027