特許拒絶査定不服審判
2021-009370
2,3,3,3-テトラフルオロプロペン、1,1,2,3-テトラクロロプロペン、2-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン、または2-クロロ-1,1,1,2-テトラフルオロプロパンを含む組成物
- 審判番号
- 2021-009370
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2019-042114
- 請求日
- 2021年07月14日
- 審決日
- 2025年07月29日
- 公報発行日
- 2026年01月30日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】ザ ケマーズ カンパニー エフシー リミテッド ライアビリティ カンパニー
- 【請求人代理人】大野 聖二
- 【請求人代理人】大野 浩之
- 審判長/審判官
- 審判長 光本 美奈子
- 審判官 村守 宏文
- 審判官 関根 裕
- 分類
- P18 .537-WZ (C09K) / P18 .121-WZ (C09K)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項特許法36条6項1号
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第6項第1号、特許法第29条第2項、特許法第29条
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2019- 42114「2,3,3,3-テトラフルオロプロペン、1,1,2,3-テトラクロロプロペン、2-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン、または2-クロロ-1,1,1,2-テトラフルオロプロパンを含む組成物」拒絶査定不服審判事件〔令和元年7月11日出願公開、特開2019-112648〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、2010年(平成22年)12月22日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2009年12月22日 (US)アメリカ合衆国)を国際出願日とする特願2012-546178号の一部を、平成29年9月21日に特願2017-180827号として新たな出願とした一部を、さらに平成31年3月8日に新たな出願としたものであって、その手続の経緯は以下のとおりである。
令和2年 1月30日付け 拒絶理由通知
同年 7月22日 意見書、手続補正書
同年12月28日付け 拒絶理由通知
令和3年 3月18日 意見書、手続補正書
同年 3月30日付け 拒絶査定
同年 7月14日 審判請求書、手続補正書
令和4年10月27日付け 拒絶理由通知
令和5年 4月28日 意見書、手続補正書
令和6年 2月 8日付け 拒絶理由通知(最後)
同年 5月 9日 意見書
第2 本願発明及び本願の明細書等の記載
1 本願発明
本願の特許請求の範囲の請求項1~9に係る発明は、令和5年4月28日の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1~9に記載されたとおりのものであって、それらのうちの請求項1に係る発明(以下「本願発明」ともいう。)は、次のとおりのものである。
「 HFO-1234yfと、
1ppm~300ppmのHFC-245cbと、
HCFC-244bbと、
HCFO-1233xfと、
HCO-1230xaと、
を含有する組成物。」
2 本願の明細書等の記載
本願の明細書及び図面には、次の記載がある。以下、下線は合議体による。
「【技術分野】
【0001】
本開示は、熱伝達組成物、エアロゾル噴射剤、発泡剤(foaming agent(blowing agent))、溶剤、洗浄剤、キャリア流体、置換乾燥剤、バフ研磨剤、重合媒体、ポリオレフィンおよびポリウレタン用発泡剤、ガス状誘電体、消火剤、および液体またはガス状形態の火災抑制剤として有用であり得る組成物の分野に関する。特に、本開示は、熱伝達組成物として有用であり得る組成物、例えば、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234yf、または1234yf)、またはHFO-1234yfを製造するプロセスにおいて有用である1,1,1,2,3-ペンタフルオロプロパン(HFC-245eb、または245eb)を含む組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
新しい環境規制は、冷蔵、空調およびヒートポンプ装置で用いる新規な組成物に対する必要性をもたらした。低地球温暖化係数の化合物は、特に重要である。
【課題を解決するための手段】
【0003】
本出願人らは、このような新規な低地球温暖化係数の化合物、例えば、HFO-1234yfを調製する際に、ある種の追加の化合物が少量で存在することを見出した。」
「【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の組成物の形成に有用な反応順序を示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
組成物
HFO-1234yf(2,3,3,3-テトラフルオロプロペン)は、他の用途の中でも、冷媒、熱伝達流体、エアロゾル噴射剤、フォーム発泡剤(foam expansion agent)としての用途について提案されてきた。それはまた、有利には、HFO-1234yfが、Physical Chemistry Chemical Physics,2007,volume 9,pages 1-13において、V.C.Papadimitriouらにより報告されたとおりの低地球温暖化係数(GWP)を有することもわかった。したがって、HFO-1234yfは、より高いGWP飽和HFC冷媒を置き換えるための良い候補である。
【0010】
1つの実施形態において、本開示は、HFO-1234yfと、HCO-1250xf、HCC-260da、HCC-260db、HCC-240aa、HCO-1230xa、HCFO-1233xf、HCFO-1233zd、HCFC-244bb、HCFC-244db、HFO-1234ze、HFC-245cb、HFO-1243zf、HCFO-1223za、HCFO-1224zb、HFO-1225zc、HCFC-241db、HCFC-242dc、HCFO-1232xf、HCFO-1231xf、およびHCFO-1233yfからなる群から選択される少なくとも1種の追加の化合物とを含む組成物を提供する。
【0011】
本発明の組成物は、HFO-1234yfと、1種の追加の化合物、または2種の追加の化合物、または3種以上の追加の化合物とを含み得る。
【0012】
別の実施形態において、本発明の組成物は、HFO-1234yfとHCFO-1232xfとを含む。
【0013】
別の実施形態において、本発明の組成物は、HFO-1234yfと、HCFC-243db、HCFO-1233xf、HCFO-1231xf、HCFC-242dcおよびHCFC-241dbから選択される少なくとも1種の化合物とを含む。
【0014】
別の実施形態において、本発明の組成物は、HCFC-243dbおよびHFC-245faからなる群から選択される少なくとも1種の化合物を含む。」
【0015】
1つの実施形態において、HFO-1234yfを含む本組成物における追加の化合物の全量は、組成物の全量に基づいて、ゼロ重量パーセント超~1重量パーセント未満の範囲である。別の実施形態において、追加の化合物の全量は、組成物の全量に基づいて、ゼロ重量パーセント~0.5重量パーセント未満の範囲である。
【0016】
1つの実施形態において、HFO-1234yfおよび他の化合物を含む組成物は、特定のトレーサ化合物、例えば、HFC-245cbをさらに含み得る。この実施形態において、HFC-245cbトレーサは、組成物中の百万部当たり約1部数(ppm)~約1000ppmの濃度で存在し得る。別の実施形態において、HFC-245cbトレーサは、約1ppm~約500ppmの濃度で存在し得る。代替として、HFC-245cbトレーサは、約10ppm~約300ppmの濃度で存在し得る。」
「【0023】
HCFO-1233xf、HCFC-244bb、および表1に列挙されたとおりの多くの他の化合物は、SynQuest Laboratories,Inc.(Alachua,FL,U.S.A)を含むスペシャルティー化学製造業者から入手できるか、または当技術分野で知られた方法で作製され得る。例えば、HCFO-1233xf、およびHCFC-244bbは、2008年5月8日に公開された国際出願第2008/054782号パンフレットに記載されたとおりに、HFO-1243zfの非接触塩素化によって調製され得る。また、HCFO-1233xfおよびHCFC-244bbは、2008年5月8日に公開された国際出願第2008/054781号パンフレットに記載されたとおりに、HCFC-243dbの接触フッ素化によって調製され得る。それぞれの開示される組成物中に存在する追加の化合物は、その製造方法に依存する。」
「【0032】
本発明の組成物を形成し得る一連の反応は、図1に示される。工程の順序は、塩素、Cl2との反応によるプロピレンの塩素化で開始して、塩化アリル、すなわちHCO-1260zf(CH2=CHCH2Cl)を形成する。次の工程は、Cl2の存在下でさらに塩素化して、HCC-260db(CH2ClCHClCH2Cl)を生成する工程を含む。HCC-260dbとNaOH水溶液(または他の苛性アルカリ溶液)との反応により、HCO-1250xf(CH2=CClCH2Cl)が形成する。そして、HCO-1250xfと塩素、Cl2との反応により、HCC-250aa(CH2ClCCl2CH2Cl、すなわち1,2,2,3-テトラクロロプロパン)が生成する。Cl2によるさらなる塩素化により、HCC-240da(CHCl2CCl2CH2Cl)を生成する。HCC-240daとNaOH水溶液(または他のアルカリ溶液)との反応により、HCO-1230xa(CCl2=CClCH2Cl)を形成する。」
「【0035】
HCO-1230xaのフッ素化
HCO-1230xaは、触媒の存在下でフッ化水素(HF)との反応によりフッ素化されて、HCFO-1233xfを生成し得る。この反応は、図1に示される。」
「【0053】
HCFO-1233xfのフッ素化
一部の実施形態において、HCFO-1233xfは、フッ素化によってHCFC-HCFC-244bb、および/またはHFO-1234yfを作製するために使用され得る。
・・・
【0060】
HCFC-244bbの脱水素塩素化
一部の実施形態において、HCFC-244bbの脱水素塩素化は、HFO-1234yfを調製するために用いられる。」
「【0089】
HCO-1230xa、HCFO-1233xf、およびHCFC-244bbを含む本明細書で開示される組成物は、本明細書で前に記載されたとおりにHFO-1234yfを調製する方法で有用である。」
「【実施例】
【0091】
生成物分析のための一般手順
・・・
【0092】
実施例1
HCFO-1233xfのHCFC-244bbへのフッ素化
・・・
【0095】
粗物質のGC/MSは、それが大部分HCFC-244bbであることを示した。他の成分は、0.16%の1233xf、および合計で12.2%の他の副生成物を含んだ。
【0096】
実施例2
HCFO-1233xfのHCFC-244bbへのフッ素化
・・・
【0099】
粗物質のGC/MSは、それが大部分HCFC-244bbであることを示した。他の成分は、0.11%のHFC-245cb、0.10%のHFC-245eb、0.26%のHCFO-1233xf、および合計で9.7%の他の副生成物を含んだ。
【0100】
実施例3
実施例3は、触媒の不存在下でのHCFC-244bb(2-クロロ-1,1,1,2-テトラフルオロプロパン)のHFO-1234yf(2,3,3,3-テトラフルオロプロペン)への転化を実証する。
・・・
【0103】
実施例4
実施例4は、触媒の不存在下でのHCFC-244bb(2-クロロ-1,1,1,2-テトラフルオロプロパン)のHFO-1234yf(2,3,3,3-テトラフルオロプロパン)への転化を実証する。
・・・
【0106】
実施例5
実施例5は、活性炭触媒の存在下でのHCFC-244bb(2-クロロ-1,1,1,2-テトラフルオロプロパン)の脱水素塩素化を実証する。」
「【図1】
[図:0001430332000001.jpg]
」
第3 当審による拒絶理由及び引用例
1 令和6年2月8日付けの拒絶理由の概要
(1)理由1(サポート要件)
この出願は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
本願明細書等の記載から本願発明が解決しようとする課題を理解することはできず、仮に、その課題が、本願明細書等全体の記載から見て、HFO-1234yfと、少なくとも1種の追加の化合物とを含む、熱伝達組成物として有用である組成物を提供することであったとしても、本願明細書等において本願発明の組成物は明示されておらず、本願発明の組成物が熱伝達組成物として有用であることについて実証されていないから、本願発明の組成物が、前記課題を解決できると認識することはできない。
(2)理由2(進歩性)
本願発明1~9は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった後記2の引用例1又は引用例2に記載された発明と引用例3に記載された事項に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
2 引用例
引用例1:国際公開第2007/079431号
引用例2:米国特許公開第2009/0240090号明細書
引用例3:国際公開第2006/094303号
第4 判断
1 理由1(サポート要件)について
(1)前提
特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件(いわゆる「サポート要件」)に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できるものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものとされている。
(2)検討
本願の願書に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「本願明細書等」という。)には、発明の課題についての明示的な記載はない。
そして、同【0003】には【課題を解決するための手段】として、「本出願人らは、このような新規な低地球温暖化係数の化合物、例えば、HFO-1234yfを調製する際に、ある種の追加の化合物が少量で存在することを見出した。」との記載があり、同【0009】、【0010】、【0015】、【0023】等の記載を総合すると、本願の明細書には、HFO-1234yf(以下「HFO-1234yf」等の表記について、「-」以前の表示を省略し、「1234yf」等と表記することがある。)が低地球温暖化係数(GWP)を有することが知られており、高いGWP飽和HFC冷媒を置き換えるための良い候補であること、組成物は、1234yfと追加の化合物とを含むものであること、追加の化合物の全量は、組成物の全量に基づいて、ゼロ重量パーセント~0.5重量パーセント未満の範囲であること、及び、追加の化合物は、その製造方法に依存すること等が記載されているということができる。
しかしながら、【0009】の記載等からも明らかなように、HFO-1234yfは、本願の出願時において、既に低地球温暖化係数(GWP)を有する化合物として有用であることが知られていたことを考慮すれば、本願発明が、新たな低地球温暖化係数(GWP)の化合物を提供することを課題とし、1234yfの提供により当該課題を解決したものとは認められない。
本願の明細書の【0001】には、「技術分野」として、「本開示は、熱伝達組成物、エアロゾル噴射剤、発泡剤(foaming agent(blowing agent))、溶剤、洗浄剤、キャリア流体、置換乾燥剤、バフ研磨剤、重合媒体、ポリオレフィンおよびポリウレタン用発泡剤、ガス状誘電体、消火剤、および液体またはガス状形態の火災抑制剤として有用であり得る組成物の分野に関する。特に、本開示は、熱伝達組成物として有用であり得る組成物、例えば、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234yf、または1234yf)、またはHFO-1234yfを製造するプロセスにおいて有用である1,1,1,2,3-ペンタフルオロプロパン(HFC-245eb、または245eb)を含む組成物に関する。」との記載があるが、この記載は、本願発明が属する技術分野の説明にすぎない。
また、追加の化合物の存在意義について、追加の化合物が少量存在することにより、どのような技術的意義があるのか、いかなる作用効果があり、これによりどのような課題が解決されることになるのかといった点については、本願明細書等に何ら記載がない。
そうすると、これらの本願明細書等の記載から、「組成物」という物に係る本願発明が解決しようとする課題を正確に把握することはできないから、本願の明細書には「発明が解決しようとする課題」が記載されておらず、本願の明細書の記載により、当業者が本願発明の課題を解決できると認識することはできない。
仮に、本願発明の課題が、1234yfと、少なくとも1種の追加の化合物とを含む、熱伝達組成物として有用である組成物を提供すること(特に、前記第2の2の【0001】及び【0009】等参照。)であったとしても、本願の明細書の記載をもって、当業者が当該課題を解決することができると認識することができるとは認められない。
すなわち、本願明細書等の【0024】及び【図1】には、1230xaから1233xf、244bbを経て1234yfが生成されるまでの反応工程が記載されているものの、【0092】~【0109】に記載される実施例において、「1234yf」、「244bb」及び「1233xf」を含む組成物が「245cb」と「1230xa」を含むことは明示されておらず、【0089】の「HCO-1230xa、HCFO-1233xf、およびHCFC-244bbを含む本明細書で開示される組成物は、本明細書で前に記載されたとおりにHFO-1234yfを調製する方法で有用である。」との記載も、1230xa、1233xf及び244bbは、1234yfを調製する方法において有用であるとの趣旨のものであって、組成物自体が有用であること説明するものではないから、本願明細書等には、「1230xa、1233xf、244bb及び1234yfを含有する組成物」及び「その有用性」に関する直接的な記載はない。
そうすると、本願明細書等には、1230xa、1233xf、244bb及び1234yfのそれぞれをあらゆる割合で含む本願発明に係る組成物が記載されていたとはいえないし、当該組成物が熱伝達組成物として有用であることが記載されていたとも、当業者が出願時の技術常識に照らしその有用性を認識できたともいえない。
したがって、この出願は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
(3)請求人の主張について
ア 請求人の主張
請求人は、令和6年5月9日の意見書(以下「意見書」という。)において、概略次の主張をしている。
合議体による「「技術分野」・・・の記載は、本願発明が属する技術分野の説明にすぎないから、この記載から本願発明が解決しようとする課題を理解することはできない。」との判断は、形式的な項目をとらえて「本願発明が解決しようとする課題を理解することはできない」とするものであり、妥当性を欠いている。
本願発明が解決しようとする課題が、HFO-1234yfを含む、熱伝達組成物等として有用である組成物を提供することにあることからすると、上記記載のある本願明細書によれば、サポート要件を満たしている。また、本願の図1では、HCO-1230xaから、HCFO-1233xf及びHCFC-244bbを経て、最終的にHFO-1234yfが生成されることが示されていることに加え、表4では、HCFO-1233xf、HCFC-244bb及びHFO-1234yf並びに「その他」を含む組成物が示されており、上記図1のフローからすると、「その他」にHCO-1230xaが含まれると考えることが自然であり、さらにHFC-245cbはトレーサ化合物として開示されているのだから、HCFO-1233xf、HCFC-244bb、HFO-1234yf及びHCO-1230xaを含む組成物に対して、HFC-245cbをさらに含有させることは本願明細書で開示されていると言える。(意見書3頁7行~32行)
イ 判断
本願発明は、1234yf、244bb、1233xf及び1230xaの含有量を特定するものではなく、また、含まれる化合物の種類も列挙したものに限られないから、列挙された化合物をあらゆる含有量で含有し、列挙された化合物以外の化合物を含有する組成物を、その態様として包含するものである。
請求人が主張するように、当業者が図1のフローやトレーサ化合物の技術的意義について理解でき、仮に本願発明が解決しようとする課題が「1234yfを含む、熱伝達組成物等として有用である組成物を提供すること」であるとしても、本願発明は、組成物中の1234yfの含有量が特定されたものではなく、また、前記(2)のとおり、本願明細書等には、1230xa、1233xf、244bb及び1234yfのそれぞれをあらゆる割合で含む本願発明に係る組成物が熱伝達組成物として有用であることが記載されていたとも、当業者が出願時の技術常識に照らし熱伝達組成物としての有用性を認識できたともいえない以上、請求人の前記主張をもって、本願がサポート要件を満たすとはいえない。
2 理由2(進歩性)について
(1)引用例の記載
ア 引用例1には、次の記載がある。引用例1は英語のため、対応する公表公報(特表2009-522365号公報)の記載を、当審において一部修正した訳を追記した。
(ア)要約
「
[図:0001430332000002.jpg]
」
(訳)(57)要約:好ましくは、CF3CF=CH2(1234yf)の商業化に適合されるフッ化オレフィンの製造方法が開示される。3つの工程が好ましい実施形態において使用されてもよく、そこにおいて、CCl2=CClCH2Cl(購入されてもよく、または1,2,3-トリクロロプロパンから合成されてもよい)等の供給原料が(好ましくはHFで、気相で、触媒の存在下で)フッ化されて、CF3CCl=CH2等の化合物を、好ましくは、80~96%の選択率で合成する。CF3CCl=CH2は、好ましくは、触媒としてSbCl5を使用してCF3CFClCH3(244異性体)に転換され、次いで、1234yfへ、好ましくは、触媒として活性炭を使用する気相触媒反応で選択的に変換される。第1工程に対しては、Cr2O3およびFeCl3/Cの混合物が、CF3CCl=CH2に対する高選択率(96%)を達成するための触媒として好ましくは使用される。第2工程では、SbCl5/Cが、1233xfを244異性体、CF3CFClCH3へ変換するための選択的触媒として好ましくは使用される。中間体は好ましくは単離され、蒸留で精製され、好ましくは約95%を超える純度水準への更なる精製なしで次工程で使用される。
(イ)1頁6行~19行
「
[図:0001430332000003.jpg]
」
(訳)(1)発明の分野
本発明は、フッ化有機化合物の新規な調製方法に関し、更に具体的に言えば、フッ化オレフィンの製造方法に関する。
(2)関連技術の説明
ハイドロフルオロカーボン(HFC)、特に、(テトラフルオロプロペン(2,3,3,3-テトラフルオロ-1-プロペン(HFO-1234yf)および1,3,3,3-テトラフルオロ-1-プロペン(HFO-1234ze)を含む)テトラフルオロプロペンのようなハイドロフルオロアルケンは、有効な、冷却剤、消火剤、熱伝導媒体、推進薬、起泡剤、発泡剤、気体誘電体、滅菌剤担体、重合媒体、粒子除去液、担体液、バフ掛け研磨剤、置換乾燥剤および強力循環作動液であることが開示されている。地球のオゾン層を損なう可能性のあるクロロフルオロカーボン(CFC)およびハイドロクロロフルオロカーボン(HCFC)とは違って、HFCは、塩素を含まず、したがって、オゾン層に対して何の脅威にもならない。
(ウ)13頁30行~20頁5行
「
[図:0001430332000004.jpg]
[図:0001430332000005.jpg]
[図:0001430332000006.jpg]
[図:0001430332000007.jpg]
[図:0001430332000008.jpg]
[図:0001430332000009.jpg]
[図:0001430332000010.jpg]
[図:0001430332000011.jpg]
[図:0001430332000012.jpg]
[図:0001430332000013.jpg]
[図:0001430332000014.jpg]
[図:0001430332000015.jpg]
」
(訳)実施例4
気相におけるCCl2=CClCH2ClのCF3CCl=CH2(HFO-1233xf)への選択的触媒変換
長さ558.8mm(22インチ)および直径12.7mm(1/2インチ)のモネル管気相反応器へ、約120ccの触媒または2つの触媒の混合物を充填する。混合物の場合では、Cr2O3触媒を、約270℃~500℃の一定温度で反応器の底部帯域に保持し、他方の触媒、例えば、FeCl3/C等を、約120℃~220℃の一定温度で反応器の中央および上部帯域に保持する。反応器を、3つの帯域(上部、中央および底部)を持つヒーターの内側に載置する。反応器温度を、反応器の中央部の内側で保持された特注の5点熱電対で読取る。反応器の底部を、電気的加熱により300℃に保持されている予熱器へ接続する。液体HFを、1時間当たり約1~約1000g(g/時間)の一定流量で、ニードルバルブ、液体質量流量計、およびリサーチ制御バルブを通してシリンダーから予熱器中へ供給する。該HFシリンダーを、シリンダー頭部空間中へ無水N2ガス圧を適用することにより310.2kPa(45psig)の一定圧力に保つ。約10~約1000g/時間の流量のCCl2=CClCH2Clを、310.2kPa(約45psig)のN2圧力下でシリンダーから浸漬管を通して、液体として供給する。該有機体を、1~1000g/時間の一定流量で、ニードルバルブ、液体質量流量計、およびリサーチ制御バルブを通して浸漬管から予熱器(約250℃に保持されている)へ流す。該有機体を、また、有機体を含むシリンダーを約220℃に加熱しながら、気体として供給する。該シリンダーを出る気体を、ニードルバルブおよび質量流量調節弁を介して予熱器中へ通す。シリンダーから予熱器への有機体ラインを、一定温度のヒートトレースでの包装および電気的加熱要素により約200℃に保持する。全ての供給物シリンダーを、差によるこれらの重量を監視するために秤の上に載置する。触媒を、約8時間にわたり反応温度で乾燥し、次いで、CCl2=CClCH2Clを含む有機体供給物と接触させる前に、約6時間にわたり大気圧下で、約50g/時間のHFで、次いで、更に6時間にわたり344.7kPa(50psig)のHF加圧下で前処理する。別のリサーチ制御バルブで反応器出口ガスの流量を制御することにより、反応を、0~1034.2kPa(約0~約150psig)の一定反応器圧力で行う。反応器を出るガスを、凝縮を防ぐためのホットボックスバルブ(hotbox valve)配列を介して接続されたオンラインGCおよびGC/MSにより分析する。それぞれに、CCl2=CClCH2Clの転換率は約70~約100%であり、1233xfに対する選択率は約80%~約95%である。水においてKOHを約20重量%~約60重量%含む洗浄溶液を通して反応器出口ガスを流し、次いで、スクラバーから、ドライアイスまたは液体N2中に保持されたシリンダー中へ出口ガスを捕捉することにより生成物を収集する。次いで、生成物、1233xfを蒸留により実質的に単離する。結果は表1で表にされる。
[図:0001430332000016.jpg]
実施例5Aおよび5B
HFでのCF3CCl=CH2(1233xf)のCF3CFClCH3(244bb)への液相触媒的フッ化
実施例5A
約327gのHF、約50gの1233xf、および約75gのSbCl5を、1Lのオートクレーブに充填した。反応混合物を約80℃で、約3時間、4274.7kPa(約620psig)の圧力下で撹拌した。反応後に、反応器を約0℃まで冷却し、次いで、約300mlの水を、オートクレーブ中へ、約45分間にわたってゆっくりと添加した。撹拌下での水の添加が完了後、反応器を室温まで冷却し、次いで、頭上ガスを別の収集シリンダーへ移した。CF3CFClCH3の収率は、約98%の1233xf転換率水準で約90%であった。その他の主たる副生成物は、CF3CF2CH3(2%)、および一般式、C4H3Cl3F4(8%)のC4化合物の不確定異性体であった。
実施例5B
約327gのHF、約50gの1233xf、および約75gのSbCl5を、1Lのオートクレーブに充填した。反応混合物を約80℃で、約3時間、4309.2kPa(約625psig)の圧力下で撹拌した。反応後に、反応器を約45℃まで冷却し、次いで、頭上ガス混合物を、ガス流からHFを除去するために、約80℃に保持された、十分に乾燥されたKF、NaF、またはAl2O3(350g)を充填したカラムを通した。カラムを出るガスを、ドライアイス(-70℃)浴中に保持されたシリンダーに収集した。CF3CFClCH3の収率は、93%の1233xf転換率水準で87%であった。その他の主たる副生成物は、CF3CF2CH3(1%)、および一般式、C4H3Cl3F4(7%)のC4化合物の不確定異性体であった。生成物、CF3CFClCH3は、98%純度で蒸留により単離された。
実施例6
HFでのCF3CCl=CH2(1233xf)のCF3CFClCH3(244bb)への気相触媒的フッ化
558.8mm(22インチ)(直径12.7mm(1/2インチ))モネル管気相反応器へ、約120ccの触媒を充填した。反応器を、3つの帯域(上部、中央および底部)を持つヒーターの内側に載置した。反応器温度を、反応器の内側中央で保持された特注の5点熱電対で読取った。反応器の入口を、電気的加熱により約300℃に保持されている予熱器へ接続した。有機体(1233xf)を、調整弁、ニードルバルブ、および気体質量流量計を通して、70℃に保持されたシリンダーから供給した。予熱器への有機体ラインをヒートトレースし、凝縮を避けるために、電気的加熱により約73℃の一定温度で保持した。N2を、幾つかの場合に希釈剤として使用し、シリンダーから調整弁および質量流量調節弁を通して予熱器中へ供給した。全ての供給物シリンダーを、差によるこれらの重量を監視するために秤の上に載置した。別のリサーチ制御バルブで反応器出口ガスの流量を制御することにより、反応を、0~689.4kPa(約0~約100psig)の一定反応器圧力で行った。反応器を出るガス混合物を、凝縮を防ぐためのホットボックスバルブ配列を介して接続されたオンラインGCおよびGC/MSにより分析した。約65℃~約-85℃で触媒として120ccの50重量%SbCl5/Cを使用し、約50g/時間のHF流量で、約15g/時間の有機体流量での反応条件により、1233xfの転換率は約50%~約65%であり、244異性体(CF3CFClCH3)に対する選択率は約90%~約93%であった。CF3CF2CH3は、この反応条件下では観察されなかった。触媒は、初めに、50g/時間のHFで約65℃で約2時間、次いで、約50g/時間のHFおよび約0.338Pam3/S(200sccm)のCl2で、約65℃で約4時間前処理される。前処理後、約0.0845Pam3/S(50sccm)のN2を、有機体供給物(1233xf)との相互作用前に、触媒表面から遊離塩素を一掃するために、触媒床を通して約40分にわたって流す。前処理は、本発明の多数の実施形態にとって重要であると考える。20~60重量%水性KOH洗浄溶液を通して反応器出口ガスを流し、次いで、スクラバーから、ドライアイスまたは液体N2中に保持されたシリンダー中へ出口ガスを捕捉することにより生成物を収集した。次いで、生成物を蒸留により単離した。4種類の異なる活性炭、例えば、Shiro saga、Calgon、Norit、およびAldrichを使用する、約50重量%SbCl5/C、約3~約6重量%FeCl3/C、20重量%SnCl4/C、および約23重量%TiCl4/Cを、約60~約150℃で触媒として使用した。この反応のために使用された全ての触媒の中で、Cl2およびHF前処理されたSbCl5/Cは、活性に関して全体的に好ましいことが分かった。触媒としてSbCl5を使用する結果は表2で示される。
[図:0001430332000017.jpg]
実施例7
気相におけるCF3CFClCH3のCF3CF=CH2への転換
558.8mm(22インチ)(直径12.7mm(1/2インチ))モネル管気相反応器へ、120ccの触媒を充填した。反応器を、3つの帯域(上部、中央および底部)を持つヒーターの内側に載置した。反応器温度を、反応器の内側中央で保持された特注の5点熱電対で読取った。反応器の入口を、電気的加熱により約300℃に保持されている予熱器へ接続した。有機体(CF3CFClCH3)を、調整弁、ニードルバルブ、および気体質量流量計を通して、約65℃に保持されたシリンダーから供給した。予熱器への有機体ラインをヒートトレースし、凝縮を避けるために、電気的加熱により約65℃~約70℃の一定温度で保持した。供給物シリンダーを、差によるこれらの重量を監視するために秤の上に載置した。別のリサーチ制御バルブで反応器出口ガスの流量を制御することにより、反応を、0~689.4kPa(約0~約100psig)の一定反応器圧力で行った。反応器を出るガス混合物を、凝縮を防ぐためのホットボックスバルブ配列を介して接続されたオンラインGCおよびGC/MSにより分析した。反応条件によって、CF3CFClCH3の転換率は大体98%であり、HFO-1234yfに対する選択率は約69%~約86%であった。約20重量%~約60重量%の水性KOH洗浄溶液を通して反応器出口ガスを流し、次いで、スクラバーから、ドライアイスまたは液体N2中に保持されたシリンダー中へ出口ガスを捕捉することにより生成物を収集した。次いで、生成物を蒸留により単離した。結果は表3で表にされる。
[図:0001430332000018.jpg]
イ 引用例2には、次の記載がある。
引用例2は英語のため、当審の訳を記載した。
(ア)「[0004]Hydrofluoroolefins (HFOs), such as tetrafluoropropenes (including 2,3,3,3-tetrafluoroprop-1-ene (HFO-1234yf)), are known to be effective refrigerants, fire extinguishants, heat transfer media, propellants, foaming agents, blowing agents, gaseous dielectrics, sterilant carriers, polymerization media, particulate removal fluids, carrier fluids, buffing abrasive agents, displacement drying agents and power cycle working fluids. Unlike chlorofluorocarbons (CFCs) and hydrochlorofluorocarbons (HCFCs), both of which potentially damage the Earth's ozone layer, HFOs do not contain chlorine and, thus, pose no threat to the ozone layer. In addition, HFO-1234yf is a low global warming compound with low toxicity and hence can meet increasingly stringent requirements for refrigerants in mobile air conditioning.」
(訳)[0004]テトラフルオロプロペン(2,3,3,3-テトラフルオロプロパ-1-エン(HFO-1234yf)を含む)などのハイドロフルオロオレフィン(HFO)は、効果的な冷媒、消火剤、熱伝達媒体、噴射剤、発泡剤、ガス状誘電体、滅菌剤キャリア、重合媒体、微粒子除去液、キャリア液、バフ研磨剤、置換乾燥剤およびパワーサイクル作動液であることが知られている。地球のオゾン層にダメージを与える可能性があるクロロフルオロカーボン(CFC)やハイドロクロロフルオロカーボン(HCFC)とは異なり、HFOは塩素を含まないため、オゾン層に脅威を与えない。さらに、HFO-1234yfは毒性が低く地球温暖化が低い化合物であるため、移動式空調用冷媒に対するますます厳しくなる要件を満たすことができる。
(イ)「[0023]Preferably, the method generally comprises at least three reaction steps. In the first step, a starting composition, preferably comprising 1,1,2,3-tetrachloropropene (TCP) and/or 1,1,1,2,3-pentachloropropane (HCC-240db), reacts with anhydrous HF in a first vapor phase reactor (fluorination reactor) to produce a mixture of HCFO-1233xf (2-chloro-3,3,3-trifluoropropene) and HCl.・・・」
(訳)[0023]好ましくは、この方法は一般に少なくとも3つの反応工程を含む。第1のステップでは、好ましくは1,1,2,3-テトラクロロプロペン(TCP)および/または1,1,1,2,3-ペンタクロロプロパン(HCC-240db)を含む出発組成物が、第1の気相反応器(フッ素化反応器)内で無水HFと反応して、HCFO-1233xf(2-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン)とHClの混合物を生成する。・・・
(ウ)「[0025]In the second step, the HCFO-1233xf is converted to HCFC-244bb in a liquid phase reactor, preferably TFE or PFA-lined. Preferably, the process is performed at about 70-120 C. and about 50-120 psig.」
(訳)[0025]第2のステップでは、HCFO-1233xfを、好ましくはTFEまたはPFAで裏打ちされた液相反応器内でHCFC-244bbに変換する。好ましくは、このプロセスは約70~120℃および約50~120psigで実行される。
(エ)「[0028]In the third step, the HCFC-244bb is fed to a second vapor phase reactor (dehydrochlorination reactor) to be dehydrochlorinated to make the desired product HFO-1234yf (2,3,3,3-tetrafluoroprop-1-ene). This reactor contains a catalyst that can catalytically dehydrochlorinate HCFC-244bb to make HFO-1234yf.」
(訳)第3のステップでは、HCFC-244bbを第2気相反応器(脱塩化水素反応器)に供給して脱塩化水素して、所望の生成物HFO-1234yf(2,3,3,3-テトラフルオロプロパ-1-エン)を製造する。この反応器には、HCFC-244bbを接触脱塩化水素してHFO-1234yfを製造できる触媒が含まれている。
(オ)「[0032]The general reaction path is provided below:
[図:0001430332000019.jpg]
[図:0001430332000020.jpg]
」
ウ 引用例3には、次の記載がある。
引用例3は英語のため、対応する公表公報(特表2008-531836号公報)の記載を、当審において一部修正した訳を追記した。
(ア)第1頁第11行~同頁第17行
「
[図:0001430332000021.jpg]
」
(訳)1.技術分野
本発明は、フルオロオレフィンと少なくとも1つの他の成分とを含む、冷凍、エアコン、およびヒートポンプシステムでの使用のための組成物に関する。本発明の組成物は、伝熱流体、発泡剤、エアゾール噴射剤、ならびに火抑制剤および消火剤として、冷却を行うまたは熱を産生させるためのプロセスで有用である。
(イ)第35頁第33行~第37頁最終行
「
[図:0001430332000022.jpg]
[図:0001430332000023.jpg]
[図:0001430332000024.jpg]
」
(訳) 本発明の組成物は、ハイドロフルオロカーボン(HFC)、重水素化炭化水素、重水素化ハイドロフルオロカーボン、パーフルオロカーボン、フルオロエーテル、臭素化化合物、ヨウ素化化合物、アルコール、アルデヒド、ケトン、亜酸化窒素(N2O)およびそれらの組み合わせからなる群から選択されたトレーサーをさらに含んでもよい。トレーサー化合物は、2005年2月18日出願の米国特許出願11/062044に記載されているように、組成物の任意の希釈、汚染または他の変更の検出を可能にするための前もって測定された量で組成物に加えられる。
本発明組成物での使用のための典型的なトレーサー化合物は表7にリストされる。
[図:0001430332000025.jpg]
[図:0001430332000026.jpg]
(ウ)第40頁第4行~同頁第23行
「
[図:0001430332000027.jpg]
」
(訳) 単一トレーサー化合物が本発明の組成物で冷媒/加熱流体と組み合わせて使用されてもよく、または多数のトレーサー化合物がトレーサーブレンドとして役立つための任意の割合で組み合わせられてもよい。トレーサーブレンドは同じクラスの化合物からの多数のトレーサー化合物かまたは異なるクラスの化合物からの多数のトレーサー化合物を含有してもよい。例えば、トレーサーブレンドは、2つ以上の重水素化ハイドロフルオロカーボン、または1つまたは複数のパーフルオロカーボンと組み合わせた1つの重水素化ハイドロフルオロカーボンを含有してもよい。
さらに、表7の化合物の幾つかは、多数の構造または光学異性体として存在する。同じ化合物の単一異性体または多数異性体がトレーサー化合物を調製するために任意の割合で使用されてもよい。さらに、所与の化合物の単一または多数異性体がトレーサーブレンドとして役立つために任意の数の他の化合物と任意の割合で組み合わせられてもよい。
トレーサー化合物またはトレーサーブレンドは百万重量部当たり約50重量部(ppm)~約1000ppmの総濃度で組成物中に存在してもよい。好ましくは、トレーサー化合物またはトレーサーブレンドは約50ppm~約500ppmの総濃度で存在し、最も好ましくは、トレーサー化合物またはトレーサーブレンドは約100ppm~約300ppmの総濃度で存在する。
(2)本願発明と引用例1に記載された発明との対比・判断
ア 引用例1に記載された発明
引用例1(前記(1)ア参照。)の実施例7の表3に示された#5の例に着目すれば、引用例1には、次の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。
(引用発明1)
「CF3CFClCH3(244bb)のCF3CF=CH2(1234yf)への触媒変換により得られた組成物であって、244bbの転換率が92%で、1234yfの選択率が89%である組成物。」
イ 対比
本願発明と引用発明1を対比すると、引用発明1の「CF3CF=CH2(1234yf)」は、本願発明の「HFO-1234yf」に相当する。
また、引用発明1は、244bbの転換率が92%であるから、8%の244bbを含むものといえる。
してみれば、両者の一致点及び相違点は次のとおりである。
<一致点>
「HFO-1234yfと、
HCFC-244bbと、
を含有する組成物。」
<相違点1>
本願発明は「1ppm~300ppmのHFC-245cbと」、「HCFO-1233xfと、HCO-1230xaと、を含有する」のに対し、引用発明1は、それらの成分を含むことが特定されていない点。
ウ 判断
前記相違点1について検討する。
(ア)1233xfと、1230xaを含有する点について
前記アで引用発明1を認定した引用例1には、実施例4として、気相におけるCCl2=CClCH2Cl(1230xa)のCF3CCl=CH2(1233xf)への選択的触媒化変換が記載され、実施例5A及び5Bとして、HFでのCF3CCl=CH2(1233xf)のCF3CFClCH3(244bb)への液相触媒的フッ化が記載され、実施例6として、HFでのCF3CCl=CH2(1233xf)のCF3CFClCH3(244bb)への気相触媒的フッ化が記載され、実施例7には、気相におけるCF3CFClCH3(244bb)のCF3CF=CH2(1234yf)への転換が記載されている。
この一連の転換の流れは、引用例1の要約(前記(1)ア(ア)参照)に、CCl2=CClCH2Cl(1230xa)等の供給原料がフッ化されて、CF3CCl=CH2(1233xf)等の化合物を、好ましくは、80~96%の選択率で合成し、CF3CCl=CH2(1233xf)は、CF3CFClCH3(244異性体)に転換され、次いで、1234yfへ、選択的に変換されるとの趣旨の記載とも整合している。
すると、引用例1の記載に接した当業者は、引用発明1を実施するにあたり、CF3CFClCH3(244bb)として、引用例1の要約及び実施例4~6の記載等に基づいて、1230xaから製造した1233xfを含む組成物をHFと反応させることにより得られたCF3CFClCH3(244bb)を含む組成物を用いることを容易に想起するといえる。
また、引用例1には、中間体は好ましくは単離され、蒸留で精製され、好ましくは約95%を超える純度水準への更なる精製なしで次工程で使用される(前記(1)ア(ア)参照)と記載され、中間体を100%純度で次の工程に使用することが想定されていないことに加え、引用例1に記載された各化合物の転換率や反応工程を踏まえると、上記244bbを含む組成物を原料として製造された1234yfを含有する組成物は、244bbのみならず、244bbの原料である1233xf及びさらなる原料である1230xaが完全に消失していないものと認められる。
したがって、このようにして得られた組成物は、本願発明の「組成物」と、「1230xa」「1233xf」「244bb」及び「1234yf」を含むという点で相違するものではない。
(イ)1ppm~300ppmの245cbを含有する点について
フルオロオレフィンと少なくとも1つの他の成分とを含む、冷凍、エアコン、およびヒートポンプシステムでの使用のための組成物に関する引用例3(前記(1)ウ(ア)参照。)には、245cbを含むトレーサー化合物が列挙されており、トレーサー化合物は、組成物の任意の希釈、汚染または他の変更の検出を可能にするための前もって測定された量で組成物に加えられるものであり(前記(1)ウ(イ)参照)、最も好ましくは、約100~300ppmの濃度で使用されることも記載されている(前記(1)ウ(ウ)参照)。
そうすると、引用例3と同様の用途に用いられる引用発明1においても、トレーサー化合物として、245cbを約100~300ppm程度添加することは、当業者が必要に応じて適宜なし得たことである。
(ウ)効果について
本願発明は、1~300ppmの245cbと、1234yf、244bb、1234xf及び1230xaのそれぞれをあらゆる割合で含有する組成物に係る発明である。
前記1のとおり、本願明細書等には、1230xaから1233xf、244bbを経て1234yfが形成されるまでの反応工程が記載されているものの、「1~300ppmの245cb、1230xa、1233xf、244bb及び1234yfを含有する組成物」の具体的な有用性に関する記載はなされていない(本願明細書等の段落【0089】の記載も、1230xa、1233xf及び244bbを含む組成物は、1234yfを調製する方法で有用であると記載するにとどまるものである。)。
本願明細書等の段落【0003】の「新規な低地球温暖化係数の化合物、例えば、HFO-1234yfを調製する際に、ある種の追加の化合物が少量で存在することを見出した。」との記載からも明らかなように、本願明細書等は、1234yfを製造する過程で得られた粗物質のGC/MS分析の結果として同定された化合物を開示するものであり、1230xa、1234xf、244bb及び1234yfを混合して組成物を調製することは記載されていない。
このように、そもそも本願明細書等には、「1230xa、1234xf、244bb及び1234yfを含有する組成物」について、具体的な記載がされていないのであるから、さらに「1ppm~300ppmのHFC-245cbを含有する」組成物を含有する本願発明について具体的な記載がされているはずもなく、本願発明の構成により奏される効果が予測しえない顕著なものということもできない。
エ 小括
したがって、本願発明は、引用発明1及び引用文献3に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
(3)本願発明と引用例2に記載された発明との対比・判断
ア 引用例2に記載された発明
引用例2(前記(1)イ参照。)の[0023]、[0025]及び[0028]の説明を参酌しつつ、[0032]のフローチャートに着目すれば、引用例2には、次の発明(以下「引用発明2」という。)が記載されていると認められる。
(引用発明2)
「CCl2=CClCH2Cl(1,1,2,3テトラクロロプロペン)をCF3CCl=CH2(HCFO-1233xf)に変換し、CF3CCl=CH2(HCFO-1233xf)をCF3CFClCH3(HCFC-244bb)に変換し、CF3CFClCH3(HCFC-244bb)をCF3CF=CH2(HFO-1234fy)に変換して得られた組成物。」
イ 対比
本願発明と引用発明2を対比すると、引用発明2の「CF3CF=CH2(HFO-1234fy)」は、本願発明の「HFO-1234yf」に相当する。
してみれば、両者の一致点及び相違点は次のとおりである。
<一致点>
「HFO-1234yfを含有する組成物。」
<相違点2>
本願発明は「1ppm~300ppmのHFC-245cbと、HCFC-244bbと、HCFO-1233xfと、HCO-1230xaと、を含有する」のに対し、引用発明2は、それらの成分を含むことが特定されていない点。
ウ 判断
前記相違点2について検討する。
引用発明2の組成物は、CCl2=CClCH2Cl(1,1,2,3テトラクロロプロペン)(1230xaと同義)をCF3CCl=CH2(1233xf)に変換し、CF3CCl=CH2(1233xf)をCF3CFClCH3(244bb)に変換し、CF3CFClCH3(244bb)をCF3CF=CH2(1234fy)に変換して得られたものであるから、前記(2)ウ(ア)のような事情も考慮すれば、引用発明2の組成物は、その変換過程で用いられた、原料となる化合物ないしは中間段階で生成した化合物に該当する244bb、244bbの原料である1233xf、及びさらなる原料である1230xaが完全に消失していないものと認められる。
したがって、引用発明2の組成物は、本願発明の「組成物」と、「1230xa」「1233xf」「244bb」及び「1234yf」を含むという点で相違するものではない。
そして、引用例3には、前記(2)ウ(イ)で検討したとおり、245cbを含むトレーサー化合物が列挙されており、トレーサー化合物は、組成物の任意の希釈、汚染または他の変更の検出を可能にするために前もって測定された量で組成物に加えられるものであり、最も好ましくは、約100~300ppmの濃度で使用されるものである。
そうすると、引用例3と同様の用途に用いられる引用発明2においても、トレーサー化合物として、245cbを約100~300ppm程度添加することは、当業者が容易になし得たことである。
エ 小括
したがって、本願発明は、引用発明2及び引用例3に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
(4)請求人の主張について
ア 請求人の主張
請求人は、意見書の4頁3行~5頁3行において、概略、次の主張をしている。
(ア)合議体は、相違点を認定しつつも、「HCO-1230xa、HCFO-1233xf及びHCFC-244bbを多少は含んでいる蓋然性が高い。」「さらに、引用文献3(前記1(3)イ参照。)には、HFC-245cbを含むトレーサー化合物が列挙され、同(前記1(3)ウ参照。)には、トレーサー化合物は約100~300ppmの濃度で組成物に存在することも記載されている。」と述べて、進歩性を否定しているが、「多少は含んでいる蓋然性が高い」として相違点が存在しないとする認定は、特許法第29条1項3号の「刊行物に記載された発明」については「当該刊行物の記載から抽出し得る具体的な技術的思想でなければならない」(平成28年(行ケ)10182)との説示内容と異なるから、妥当性を欠く。
(イ)引用文献1では、HCFC-244bbを形成し、最終的にHFO-1234yfを形成する際の中間体であるHCFO-1233xfを形成するために、本願とは異なる反応スキームが実施されているだけでなく、異なる触媒も使用されていることが明らかであるから、合議体の認定には承服しかねる。
イ 判断
(ア)について、進歩性の判断の前提となる本願発明の組成物が、本願明細書等に具体的な記載がなされていない点は、前記2(2)ウ(ウ)のとおりである。
一方、前記1(3)ア(イ)のとおり、意見書の3頁23行~32行において請求人は、「本願の図1では、HCO-1230xaから、HCFO-1233xf及びHCFC-244bbを経て、最終的にHFO-1234yfが生成されることが示されていることに加え、表4では、HCFO-1233xf、HCFC-244bb及びHFO-1234yf並びに「その他」を含む組成物が示されております。そして、上記図1のフローからすると、「その他」にHCO-1230xaが含まれると考えることが自然であります。」と主張しており、このような多段階の反応を経て最終的に生成されるHFO-1234yfを含む組成物には当然その原料の組成物が含まれると考えることが妥当であると主張するものと理解される。そうであれば、引用例1においてもHCO-1230xaから、HCFO-1233xf及びHCFC-244bbを経て、最終的に生成されるHFO-1234yfを含む組成物には、HCO-1230xa、HCFO-1233xf及びHCFC-244bbが含まれると考えることが妥当であるといえる。
したがって、請求人の当該主張をもって、本願発明が進歩性を有するとはいえない。
(イ)について、本願発明と、引用発明1又は2とは、反応スキームや触媒が異なったとしても、1234yfを生成する原料や中間生成物として、1230xa、1233xf及び244bbが用いられている点で共通している。合議体による認定や判断は、これらの原料や中間生成物に着目したものであって、引用例1又は引用例2に記載される反応スキームや触媒が本願明細書等の記載と同じであることを前提とするものではないから、請求人の主張は採用できない。
第5 むすび
以上のとおり、本願は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしておらず、また、本願発明は、同法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
審決本文(J-PlatPat)
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2021-009370