特許拒絶査定不服審判
2023-002470
量子ドット組成物、波長変換材料、波長変換フィルム、バックライトユニット及び画像表示装置
- 審判番号
- 2023-002470
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2019-098395外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2023年02月13日
- 審決日
- 2025年06月30日
- 公報発行日
- 2025年09月26日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】信越化学工業株式会社
- 【請求人代理人】好宮 幹夫
- 【請求人代理人】小林 俊弘
- 【請求人代理人】大塚 徹
- 分類
- P18 .121-WZ (C09K)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2019- 98395「量子ドット組成物、波長変換材料、波長変換フィルム、バックライトユニット及び画像表示装置」拒絶査定不服審判事件〔令和 2年12月 3日出願公開、特開2020-193249〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、令和元年5月27日を出願日とする出願であって、その手続の経緯の概略は次のとおりである。
令和 4年 5月19日付け:拒絶理由通知書
同年 7月22日 :意見書、手続補正書の提出
同年11月16日付け:拒絶査定
(同月22日 :拒絶査定の謄本の送達)
令和 5年 2月13日 :審判請求書、手続補正書の提出
令和 7年 2月17日付け:拒絶理由通知書(以下「当審拒絶理由
通知書」という。)
同年 4月11日 :意見書、手続補正書の提出
第2 本願発明の認定
本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、令和7年4月11日に提出された手続補正書により補正(以下「本件補正」という。)された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものであって、その請求項1の記載は以下のとおりである。
「結晶性ナノ粒子蛍光体である量子ドットと含フッ素樹脂とを含み、前記含フッ素樹脂中に前記量子ドットが分散した量子ドット組成物であって、
前記量子ドットは、表面がフッ素を含有するリガンドで修飾されたものであり、
前記フッ素を含有するリガンドが、フッ素含有シロキサンポリマー及び含フッ素アクリレートから選ばれる少なくとも1つの化合物を含むものであり、
前記含フッ素樹脂が、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルコキシエチレン共重合体、フルオロエチレン・ビニルエーテル共重合体、又は、これらの誘導体から選ばれるポリマーであることを特徴とする量子ドット組成物。」
第3 当審拒絶理由通知書における拒絶の理由
本願発明は本件補正前の請求項1に係る発明を補正したものであるところ、当審拒絶理由通知書で本件補正前の請求項1に係る発明に対して通知した拒絶の理由は、以下の概要の理由を含むものである。
(進歩性)本件補正前の請求項1に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明である下記の引用文献1に記載された発明及び引用文献2及び3に例示される周知技術に基いて、出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
<引用文献等一覧>
1.特表2006-513458号公報
2.国際公開第2014/103932号
3.特開2016-146460号公報
第4 引用文献1の記載事項及び引用発明の認定
1 引用文献1の記載事項
当審拒絶理由通知書で引用された引用文献1(特表2006-513458号公報)には、次の事項が記載されている(下線は、当合議体が付した。以下同じ。)。
「【0001】
本発明は、一般には量子ドットに関する。より詳しくは、本発明は、量子ドット、量子ドットを持つナノ複合(nanocomposite)材料、量子ドットを持つ光学デバイス、および関連した製造方法に関する。」
「【0019】
革新的な一態様において、本発明は量子ドットに関する。一実施形態では、量子ドットは、SiおよびGeからなるグループから選択された半導体材料Yを含むコアを備える。量子ドットはまた、コアを包囲するシェルを備える。量子ドットは、実質的に欠陥フリーであり、10%より大きな量子効率を持つフォトルミネセンスを示すようになる。」
「【0024】
他の実施形態では、光学デバイスは、ナノ複合材料で形成された部分を含む導波コアを備える。ナノ複合材料は、マトリクス材料と、マトリクス材料に分散した複数の量子ドットとを備える。複数の量子ドットのうちのある量子ドットは、SiおよびGeからなるグループから選択された半導体材料を含むコアを含む。該量子ドットは、実質的に欠陥フリーであり、10%より大きな量子効率を持つフォトルミネセンスを示す。」
「【0042】
量子ドットは、量子ドットのコアを包囲する1つ又はそれ以上の表面配位子(例えば、有機分子)を備える「配位子層」を任意に備えてもよい。配位子層を備える量子ドットは、シェルを備えても、あるいは備えていなくてもよい。それ自体、配位子層の表面配位子は、コアまたはシェル材料と、あるいはその両方(不完全シェルの場合)と共有結合または非共有結合していてもよい。配位子層は、単一タイプの表面配位子(例えば、単一の分子種)、あるいは2つ又はそれ以上のタイプの表面配位子の混合(例えば、2つ又はそれ以上の異なる分子種)を備えてもよい。表面配位子は、量子ドットのコア、シェルまたは両方に対して親和性(affinity)を有することができ、あるいは表面配位子の少なくとも1点で選択的に結合することができる。表面配位子は、表面配位子に沿った複数の点で任意に結合してもよい。表面配位子は、量子ドットの表面とは特異的に相互作用しない、1つ又はそれ以上の追加の活性基を任意に含んでもよい。表面配位子は、実質的に親水性、実質的に疎水性、または実質的に両親媒性であってもよい。表面配位子の例は、単離した有機分子、ポリマー(または重合反応用のモノマー)、無機複合体(complex)、延長した結晶構造を非限定的に含む。」
「【0080】
量子ドットは、典型的には、直径で約1nmと約1000nmの間、あるいはこれらの間にある何れかの整数や整数からなる分数のサイズ範囲になろう。好ましくは、サイズは約1nmと約100nmの間であり、より好ましくは約1nmと約50nmの間、または約1nmと約20nmの間(例えば、約2,3.4,5,6,7,8,9,10,11,12,13,14,15,16,17,18,19または20nm、あるいはこれらの間にある何れかの整数からなる分数)、より好ましくは約1nmと約10nmの間である。」
「【0083】
図1(c)、図1(d)に示すように、量子ドットは、本発明の幾つかの実施形態に従って、コアを包囲する1つ又はそれ以上の表面配位子(例えば、有機分子)を備える配位子層を任意に備えてもよい。図1(c)では、量子ドット110は、コア112と、コア112を包囲する配位子層114とを備える。図1(d)では、量子ドット116は、コア118と、コア118を包囲する配位子層122とを備える。ここで、量子ドット116はまた、コア118を包囲するシェル120を備え、シェル120は、コア118と配位子層122との間に位置決めされる。」
「【図1】
[図:0001426167000001.jpg]
」
「(化学特性)
(化学的に制御可能な表面)
【0117】
本発明の幾つかの実施形態によれば、量子ドットのユニークな物理特性は、コアは結晶性半導体材料を備えることができるが、その表面は、種々の異なる有機及び/又は無機の材料でコート可能である点である。これらの表面コーティング(例えば、シェルまたは配位子層)は、量子ドット表面での電気的、光学的に活性な欠陥箇所の皮膜保護とともに、安定性および化学活性を付与することができる。これらの表面コーティングは、無機コアとは化学的性質が実質的に異なっていてもよい。その結果、量子ドットは、主として高い非線形半導体材料を備え得るが、これらは実質上、周囲の材料にとって表面配位子のように見える。それ自体、この高い非線形性で同調可能な光学材料についての処理可能性および化学安定性は、主として表面層の機能であって、光学特性の大部分を提供する材料の機能ではない。
【0118】
表面配位子は、二官能性(bifunctional)であることが好ましい。二官能性によって、表面配位子の少なくとも2つの部分が存在し、1つの部分は主に量子ドット表面と相互作用し、第2の部分は主に周囲の環境(例えば、溶媒及び/又はマトリクス材料)と相互作用することを意味する。表面配位子のこれらの少なくとも2つの部分は、同一でも別々でもよく、連続していても不連続でもよく、配位子層を形成するために互いに相互作用する、2つ又はそれ以上の異なる分子種内に含まれていてもよい。少なくとも2つの部分は、親水性基、疎水性基または両親媒性基からなるグループから選択できる。少なくとも2つの部分と量子ドットや周囲環境との相互作用は、共有結合でも非共有結合でもよく、強い相互作用でも弱い相互作用でもよく、不安定(labile)なものでも非不安定なものでもよい。少なくとも2つの部分は、独立してまたは一緒に選択することができる。
【0119】
本発明の幾つかの実施形態では、表面配位子は、量子ドットと相互作用する部分が表面欠陥を皮膜保護して、表面が実質的に欠陥フリーとなるように、選択される。同時に、環境と相互作用する部分は、特定の応用について選択されたマトリクス材料内での量子ドットの安定性および相溶性(例えば、化学的な相溶性または親和性)を付与するように、具体的に選択される。これら両方の条件を同時に満足することは、人工非線形ナノ複合材料の開発に関して、本発明のある実施形態の重要な態様である。これらの条件を達成する別の方法は、例えば、1)配位子層とは独立して、量子ドット表面を皮膜保護すること(例えば、シェルを用いたり、本質的に欠陥フリーの表面を作成する)、一方、環境相溶性は、表面配位子によつて付与される。または、2)配位子層とは独立して、皮膜保護および環境相溶性の両方を付与すること、などを含む。量子ドット表面の皮膜保護を達成することは、代わりの手法に対して、コロイド状量子ドットを用いる1つの利点となる。
【0120】
表面配位子の適切な選択によって、量子ドットは、例えば、液体、ガラス、ポリマー、結晶性固体、および最密充填した規則または不規則量子ドットアレイなどの種々のマトリクス材料内に組み込むことが可能になる。得られるナノ複合材料は、量子ドットからなる均質で高品質の光学フィルムに形成できる。その代替として、マトリクス材料への量子ドットの分散を制御可能な集合度で実現できるように、化学現象が選択可能であり、ミクロンまたはサブミクロンのサイズのクラスターを形成できる。その結果、本発明の実施形態のナノ複合材料の非線形応答をさらに増加させる、局所的な充填比の増加および局所電界効果の増強が得られる。」
「d)コアの結晶構造
【0163】
形状について上述したものと同様な理由で、本発明の幾つかの実施形態に係る好ましい量子ドットは、球対称の、より好ましくは立方晶またはダイヤモンド結晶構造の結晶構造を持つコアを有することである。その代替として、結晶構造は、非球対称でもよく、好ましくは円柱対称でもよく、より好ましくはウルツ鉱(wurtzite)結晶構造でもよい。」
「(好ましい表面配位子および分子鎖)
【0236】
前セクションで説明したように、配位子層は、量子ドットの表面を皮膜保護して表面欠陥を除去するように機能できる。それは、マトリクス材料との相溶性も促進する。これは、以下のように説明される。フッ素ポリマー(fluoropolymer)は、これらの独特な特性のため、光学応用に望ましい材料のグループである。フッ素ポリマーは、一般に、低い屈折率(例えば、通常の炭化水素ポリマーと比べて)を有し、低い固有の散乱損失を有する。これらはまた、典型的には炭素-水素結合がほとんど無いか皆無であるため、一般に、低い吸収損失を示す。これらは、疎水性で、水分吸収が低い。これらは、一般に、化学的、熱的に不活性であり、デバイス製造において要求する環境および極端なプロセス条件に適合している。これらの不活性のため、フッ素ポリマーは、従来の量子ドットなどの多くの材料とほぼ混合不可能である。本発明の実施形態は、フッ化表面配位子を量子ドット表面に導入することによって(例えば、前述の例11、例12のように)、相溶性の問題を迂回する新規な手法を提供する。量子ドットは、フッ化表面配位子の配位子層で終端され、例えば、溶媒ビヒクル,アサヒ(Asahi)社のCT-SOLV180を用いて製造された、例えば、サイトップ(Cytop)(登録商標)ポリマー(アサヒ(Asahi)社のパーフルオロ化ポリマー)に組み込み可能である。
【0237】
下記のものは、本発明の幾つかの実施形態に係る、好ましい表面配位子の配位子層である。このリストは、徹底することを意図していないが、SiQDまたはGeQDの配位子層を形成するのに使用可能な望ましい物理的特性を有する多くの表面配位子を記載している。下記において、Yは、SiまたはGeであり、T-C,Y-O,Y-S,Y-Si,Y-Nは、SiまたはGeとC原子、O原子、S原子、Si原子、N原子との間の共有結合をそれぞれ示す。他の好ましい表面配位子は、以下に挙げていないが、SiまたはGeと共有結合するP原子またはSe原子を含むことができる。
(T-C)
A)アルキル
a.簡単な脂肪族アルキル基(例えば、メチル、エチル、プロピル、等)
b.分岐環状アルキル基(例えば、イソプロピル、tert-ブチル、シクロヘキシル、等)
c.置換アルキル基(例えば、4-シアノブチル、3-エトキシ-3-オキソプロピル、等)
d.パーフルオロアルキル基(例えば、直鎖、分岐、または環状)
B)アルケニル
a.簡単な孤立した二重結合(例えば、1-ヘキセニル、1-ドデセニル、等)
b.置換アルケン(例えば、6-ヘプテンニトリル、等)
c.共役ポリエン(例えば、ペンタジエニル、等)
d.重合可能なアルケン(例えば、アリル、3-ブテニル、2-ブテニル、等)
C)アルキニル
a.簡単な孤立したアルキン(例えば、ヘキシニル、オクチニル、等)
b.置換アルキン(例えば、フェニルエチニル、等)
c.重合可能なアルキニル
d.パーフルオロアルキニル
D)芳香環および芳香族複素環(heterocycles)
a.フェニル、ピリジル、チエニル、等
b.置換芳香環および芳香族複素環
i.電子求引基(ニトロ、ニトリル、フルオロ、パーフルオロ、カルボキシレート、例えば、4-シアノフェニル、等)
ii.電子供与基(アミノ、アルコキシル、例えば、4-メトキシフェニル、等)
E)共役芳香環、芳香族複素環およびポリエン(ポリは、明確に定義されたオリゴマーと称される)
a.ポリエン
b.ポリ(p-フェニレン)
c.ポリ(ジアセチレン)
d.ポリ(トリアセチレン)
e.ポリ(p-フェニレンビニレン)
f.ポリ(p-フェニレンエチニレン(ethynylene))
g.ポリチオフェン
h.ポリピロール
i.ポリアニリン
j.ポリ(フェニレンスルフィド)
F)シアニド
(Y-O)
A)ヒドロキシ、アルコキシル、等
a.ジオール、トリオール、ポリオール、等
b.コレステリル基
c.三置換シロキシ
B)カルボキシレート
C)フェノキシ
D)シロキシ
E)シアネート
F)無機酸化物
(Y-S)
A)チオアルキル
B)チオアリール
C)チオシアネート
D)シリルチオ
(Y-Si)
A)置換シリル基
B)1以上の官能基を持つ、三置換シリル基
(Y-N)
A)アミノ基(例えば、直鎖、分岐、芳香族または環状)
B)モノおよびジ置換アミン
C)イミノ基(例えば、直鎖、分岐、芳香族または環状)
D)シリルアミノ」
「(好ましいマトリクス材料)
【0245】
本発明の幾つかの実施形態によれば、量子ドットを受け入れるために用いられるマトリクス材料は、上述したような多目的な表面終端の大きな部分に起因する広範囲の材料から選択可能である。これらのマトリクス材料は、例えば、機械的強度、光学的透明性、光波透過率、熱安定性、寸法安定性、低温度可撓性、水分吸収、化学不活性を含む異なる特性を持つ有機および無機のポリマーまたはガラスを含むことができる。
【0246】
本発明の幾つかの実施形態でのマトリクス材料は、600nmから2μmまでの波長範囲でとても透明で低い吸収であることが好ましい。また、所望の量の量子ドットが、光学的および機械的特性を劣化させないで、結果として得られるナノ複合材料へ容易に組み込み可能なように、これらは量子ドットと高い相溶性を有することが好ましい。特殊な官能基を持つポリマーは、溶解性の相互作用を促進し、量子ドットとの相溶性を増強するように選択してもよい。これは下記のように更に説明する。ルイス酸(塩基)官能基を持つポリマーは、例えば、ルイス酸(塩基)の表面配位子で表面に機能付与された量子ドットを受け入れるように選択可能である。他の例は、水素結合する相互作用を利用することである。水素結合するドナー(アクセプタ)のポリマーは、水素結合するアクセプタ(ドナー)で表面に機能付与された量子ドットにとって、好ましいマトリクス材料である。さらに、強い双極性の基を持つポリマーは、強い双極性の表面配位子を用いて設計された量子ドットにとって、好ましいマトリクス材料である。上述した強い分子間相互作用は、量子ドットとマトリクス材料との間の相溶性を大きく増強する。それ故、高い含有量の量子ドットは、所望の均一性および均質性を維持しつつ、マトリクス材料へ容易に組み込み可能である(例えば、量子ドットが、マトリクス材料全体に実質的に均一に分散するのを可能にする)。さらに、ブロックコポリマーは、モノマー単位およびブロック長の巧みな選択によって、相溶性をさらに増強するために使用可能である。その結果、量子ドットおよびマトリクス材料を備えるナノ複合材料は、高い光学品質および低い散乱損失となるように設計可能である。より重要には、線形および非線形の屈折率は、本発明の幾つかの実施形態に従って、主として量子ドットの含有量を調整し、マトリクス材料を選択することによって、いろいろな応用のために同調可能である。
【0247】
光学特性および量子ドットとの相溶性に加えて、好ましいマトリクス材料は、特定の応用についての他の要件を満たすべきことが望ましい。こうしてマトリクス材料の選択において、他の特性を考慮することができる。
【0248】
1つの好ましいマトリクス材料は、高いガラス転移点Tgを持つポリマーのグループから選択され、熱安定性が重要な応用について、例えば、ポリイミド、フルオロポリマー(例えば、デュポン(DuPont)社から入手可能なテフロン(Teflon) AF(登録商標)フルオロポリマー)、B-ステージのビスベンゾシクロブテンモノマーから誘導されるポリマー(例えば、ダウケミカル(Dow Chemical)社から入手可能なシクロテン(Cyclotene)(登録商標)樹脂およびフッ化樹脂)、フェノール樹脂、フッ化ポリ(アリールエーテル硫化物)、等がある。
【0249】
他の好ましいマトリクス材料は、低いTgを持つポリマーのグループから選択され、低温度可撓性および低い複屈折が望ましい応用について、例えば、ポリ(イソブチレン)、ポリ(ジフェノキシホスファゼン)、フッ化アクリレート(ゼン・フォトニクス(Zen Photonics)社からのZPUシリーズ)、等がある。
【0250】
他の好ましいマトリクス材料は、感光性ポリマーから選択でき、例えば、フルオロポリマー(例えば、アサヒ(Asahi)社から入手可能なサイトップ(Cytop)(登録商標)フルオロポリマー)、ポリ(メチルメタクリレート)、デバイスのリソグラフ製造を容易にするフォトレジスト、等がある。
【0251】
他の好ましいマトリクス材料は、等方的同質性や寸法安定性が必要になる有用について、架橋(cross-link)可能なポリマーのグループから選択される。
【0252】
他の好ましいマトリクス材料は、光学的および機械的特性、熱的および化学的安定性を調整するために設計された、2つ又はそれ以上のポリマーのブレンドである。
【0253】
他の好ましいマトリクス材料は、ランダムおよびブロックのコポリマーを含むコポリマーである。
【0254】
他の好ましいマトリクス材料は、ホモポリマーであり、下記のものを非限定的に含む。
a.ポリ(ビニルアルコール)
b.ポリ(ビニルブチラール)-他
c.ポリ(ビニルカルバゾール)
d.ポリ(フッ化ビニル)
e.ポリメチルビニルエーテル
f.ポリエチレン
g.ポリプロピレン
h.ポリスチレン
i.ポリ(ビニルピリジン)
j.ポリイミド
k.ポリ(エチレンオキサイド)
l.フォトレジスト(正または負)
m.シクロテン(Cyclotene)(登録商標)
n.フッ化シクロテン(Cyclotene)(登録商標)
o.サイトップ(Cytop)(登録商標)
p.PMMA
q.フッ化アクリレート
r.ポリ(シロキサン)
s.ポリ(シラン)
t.ポリ(ジフェノキシホスファゼン)
u.ポリ(ビニルフェロセン)
v.ポリカーボネート
w.ポリスチレン
x.ポリ(環状オレフィン)、例えば、ゼノール(Zenor)(登録商標)、ゼネックス(Zenex)(登録商標)
y.テフロン(Teflon) AF(登録商標)
【0255】
他の好ましいマトリクス材料は、ガラスであり、下記のものを非限定的に含む。
a.ゾルゲル誘導ガラス
b.有機改質ガラス
c.スピンオン(spin-on)ガラス
d.フローガラス
e.誘電体、例えば、トリコン・インダストリー(Trikon Industries)社のローケーフローフィル(Low K FlowFill)(登録商標)誘電体
f.誘電体、例えば、アプライド・マテリアル(Applied Materials)社のブラックダイヤモンド(Black Diamond)(登録商標)誘電体」
2 引用発明の認定
引用文献1には、マトリクス材料と、マトリクス材料に分散した複数の量子ドットとを備えるナノ複合材料に関して、次の発明(以下「引用発明」という。)
が記載されていると認められる(引用発明の認定に根拠とした箇所等を参考までに括弧内に付してある。以下同じ。)。
<引用発明>
「マトリクス材料と、マトリクス材料に分散した複数の量子ドットとを備えるナノ複合材料であって、複数の量子ドットのうちのある量子ドットは、SiおよびGeからなるグループから選択された半導体材料を含むコアを含み、該量子ドットは、実質的に欠陥フリーであり、10%より大きな量子効率を持つフォトルミネセンスを示し、(【0024】)
量子ドットは、量子ドットのコアを包囲する1つ又はそれ以上の表面配位子(例えば、有機分子)を備える「配位子層」を備え、【0042】
量子ドットは、直径で約1nmと約1000nmの間のサイズ範囲であり、(【0080】)
表面配位子は、環境と相互作用する部分は、特定の応用について選択されたマトリクス材料内での量子ドットの安定性および相溶性(例えば、化学的な相溶性または親和性)を付与するように、具体的に選択され、(【0119】)
表面配位子の適切な選択によって、量子ドットは、例えば、液体、ガラス、ポリマー、結晶性固体、および最密充填した規則または不規則量子ドットアレイなどの種々のマトリクス材料内に組み込むことが可能になり、(【0120】)
量子ドットは、球対称の、より好ましくは立方晶またはダイヤモンド結晶構造の結晶構造を持つコアを有し、(【0163】)
配位子層は、マトリクス材料との相溶性も促進し、フッ素ポリマー(fluoropolymer)は、これらの独特な特性のため、光学応用に望ましい材料のグループであり、フッ素ポリマーは、従来の量子ドットなどの多くの材料とほぼ混合不可能であるため、フッ化表面配位子を量子ドット表面に導入することによって、相溶性の問題を迂回し、量子ドットは、フッ化表面配位子の配位子層で終端され、例えば、サイトップ(Cytop)(登録商標)ポリマー(アサヒ(Asahi)社のパーフルオロ化ポリマー)に組み込み可能であり、(【0236】)
量子ドットを受け入れるために用いられるマトリクス材料は、多目的な表面終端の大きな部分に起因する広範囲の材料から選択可能であり、これらのマトリクス材料は、例えば、機械的強度、光学的透明性、光波透過率、熱安定性、寸法安定性、低温度可撓性、水分吸収、化学不活性を含む異なる特性を持つ有機および無機のポリマーまたはガラスを含むことができ、(【0245】)
マトリクス材料は、量子ドットと高い相溶性を有することが好ましく、ブロックコポリマーは、モノマー単位およびブロック長の巧みな選択によって、相溶性をさらに増強するために使用可能である、(【0246】)
ナノ複合材料。」
第5 本願発明と引用発明の対比・判断
1 対比
(1) 対比分析
ア 本願発明の「結晶性ナノ粒子蛍光体である量子ドットと含フッ素樹脂とを含み、前記含フッ素樹脂中に前記量子ドットが分散した量子ドット組成物であって、」の発明特定事項について
引用発明の「量子ドット」は、本願発明の「量子ドット」に、
引用発明の「パーフルオロ化ポリマー」に例示される「フッ素ポリマー」は、本願発明の「含フッ素樹脂」に、
引用発明の「ナノ複合材料」は、本願発明の「量子ドット組成物」に、
にそれぞれ相当する。
そして、引用発明の「量子ドット」が備える「配位子層」は、「マトリクス材料との相溶性も促進[する]」ものであるところ、「フッ素ポリマーは、従来の量子ドットなどの多くの材料とほぼ混合不可能であるため、フッ化表面配位子を量子ドット表面に導入することによって、相溶性の問題を迂回[する]」ことも勘案すれば、引用発明の「フッ素ポリマー」は「マトリックス材料」であることが理解できる。そうすると、引用発明が「マトリクス材料と、マトリクス材料に分散した複数の量子ドットとを備える」ものであることは、本願発明でいう「前記含フッ素樹脂中に前記量子ドットが分散した」ものであることを意味している。
また、引用発明の「量子ドット」は、「直径で約1nmと約1000nmの間のサイズ範囲であり、」「量子ドットは、球対称の、より好ましくは立方晶またはダイヤモンド結晶構造の結晶構造を持つコアを有[する]」ことから、本願発明でいう「結晶性ナノ粒子である」といえ、さらに、「10%より大きな量子効率を持つフォトルミネセンスを示[す]」ものであるから、本願発明でいう「蛍光体」であるともいえる。
したがって、引用発明は、上記発明特定事項を備える。
イ 本願発明の「前記量子ドットは、表面がフッ素を含有するリガンドで修飾されたものであり、」の発明特定事項について
引用発明の「フッ化表面配位子」は、配位子とリガンドは同義語であるから、本願発明の「フッ素を含有するリガンド」に相当する。
そして、引用発明は、「フッ化表面配位子を量子ドット表面に導入する」ものであるから、引用発明の「量子ドット」は、本願発明でいう「表面がフッ素を含有するリガンドで修飾されたもの」であるといえる。
したがって、引用発明は、上記発明特定事項を備える。
(2) 一致点及び相違点
以上のことから、本願発明と引用発明の一致点及び相違点は、次のとおりである。
【一致点】
「結晶性ナノ粒子蛍光体である量子ドットと含フッ素樹脂とを含み、前記含フッ素樹脂中に前記量子ドットが分散した量子ドット組成物であって、
前記量子ドットは、表面がフッ素を含有するリガンドで修飾されたものである量子ドット組成物」である点。
【相違点1】
フッ素を含有するリガンドが、本願発明では、「フッ素含有シロキサンポリマー及び含フッ素アクリレートから選ばれる少なくとも1つの化合物を含むもの」であるのに対し、引用発明では、そのようなものか明らかでない点。
【相違点2】
含フッ素樹脂が、本願発明では、「テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルコキシエチレン共重合体、フルオロエチレン・ビニルエーテル共重合体、又は、これらの誘導体から選ばれるポリマーである」るものであるのに対し、引用発明では、例えば、サイトップ(Cytop)(登録商標)ポリマー(アサヒ(Asahi)社のパーフルオロ化ポリマー)であるが、広範囲の材料から選択可能であり、量子ドットと高い相溶性を有することが好ましく、ブロックコポリマーは、モノマー単位およびブロック長の巧みな選択によって、相溶性をさらに増強するために使用可能である点。
2 判断
(1) 相違点1について
引用発明は、フッ化表面配位子を備え、当業者は、具体的なフッ化表面配位子を選択する動機を有するところ、引用発明を開示する引用文献1には、表面配位子として、フッ化表面配位子であるパーフルオロアルキル基を含む様々なものが挙げられている(【0237】)。
そして、蛍光体のフッ素を含有する表面処理剤として、フッ素含有シロキサンポリマー及び含フッ素アクリレートは、周知(必要であれば、特表2017-524156号公報(特に、【0010】、【0014】及び【0025】の量子ドットの配位子としてのフルオロカーボンを有するシロキサン参照。)、特開2007-112945号公報(特に、【0024】、【0035】、【0036】及び【0040】の蛍光体粒子の表面を被覆するフッ素変性シリコーン、フルオロシリコーン、パーフルオロアルキル基を有するアクリレート又はメタクリレートの単独重合体又は共重合体参照。)及び当審拒絶理由通知書で引用された引用文献2である国際公開第2014/103932号(特に、[0009]及び[0045]の蛍光体粒子の表面に付着するポリ(アクリル酸フルオロアルキル)参照。)を参照されたい。)である。
また、引用発明は、「フッ化表面配位子を量子ドット表面に導入する」ものであるところ、引用発明を開示する引用文献1には、好ましい表面配位子の配位子層として、シロキシ(【0237】)が記載されていることから、シロキシを有するフッ化表面配位子が示唆されているといえる。
そして、本願の明細書の記載をみても、フッ素を含有するリガンドとして、フッ素含有シロキサンポリマー及び含フッ素アクリレートを用いることには、格別の技術上の意義は認められない。
そうすると、引用発明のフッ化表面配位子の具体的構成として、フッ素を含有する蛍光体の表面処理剤として周知のフッ素含有シロキサンポリマー及び含フッ素アクリレート、特に、引用発明を開示する引用文献1に示唆されてもいるフッ素含有シロキサンポリマーを採用して、相違点1に係る本願発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。
(2) 相違点2について
引用発明は、パーフルオロ化ポリマーに例示されるフッ素ポリマーを備え、引用発明のマトリクス材料は、「多目的な表面終端の大きな部分に起因する広範囲の材料から選択可能であり」、「ブロックコポリマーは、モノマー単位およびブロック長の巧みな選択によって、相溶性をさらに増強するために使用可能である」ところ、当業者は、例示されるパーフルオロ化ポリマー以外のフッ素ポリマーを選択する動機を有する。
そして、蛍光体を分散させるフッ素ポリマーとして、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルコキシエチレン共重合体、フルオロエチレン・ビニルエーテル共重合体、又は、これらの誘導体から選ばれるポリマーは、周知(必要であれば、特開2014-145012号公報(特に、【0008】、【0030】及び【0033】の蛍光体を含有する熱可塑性樹脂としてのETFE(エチレン・テトラフルオロエチレン共重合体)、PFA(ペルフルオロアルコキシフッ素樹脂)、テトラフルオロエチレンとパーフルオロアルキルビニルエーテルの共重合体参照。)、特開2017-155087号公報(特に、【0015】及び【0016】のフッ素系樹脂を含む樹脂成分と、蓄光性蛍光体と、を含有するフッ素系樹脂シートのフッ素系樹脂を含む樹脂成分としてのエチレン-テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)系樹脂、四フッ化エチレン-パーフルオロアルコキシエチレン共重合体(PFA)参照。)及び特開2015-8171号公報(特に、【0008】、【0010】及び【0017】のフッ素樹脂、蛍光体及び無機フィラーを含有する樹脂組成物のフッ素樹脂としてのETFE(エチレン・テトラフルオロエチレン共重合体)、PFA(ペルフルオロアルコキシフッ素樹脂)参照。)を参照されたい。)であり、特に、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルコキシエチレン共重合体は耐久性と成形性に優れたものである参照。)を参照されたい。)。
そして、引用発明は、「マトリックス材料」として、「ブロックコポリマーは、モノマー単位およびブロック長の巧みな選択によって、相溶性をさらに増強するために使用可能である」ものであり、さらに、引用発明の「量子ドット」は、「例えば、サイトップ(Cytop)(登録商標)ポリマー(アサヒ(Asahi)社のパーフルオロ化ポリマー)に組み込み可能であ[る]」ことから、マトリクス材料として、フルオロポリマーを含む共重合体が示唆されているといえ、また、引用発明の「マトリクス材料」は、「機械的強度」の「特性」を持つものである。
そうすると、引用発明の「フッ素ポリマー」の具体的構成として、蛍光体を分散させるフッ素ポリマーとして周知のテトラフルオロエチレン・エチレン共重合体、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルコキシエチレン共重合体、フルオロエチレン・ビニルエーテル共重合体、又は、これらの誘導体から選ばれるポリマー、特に、耐久性と成形性に優れたテトラフルオロエチレン・エチレン共重合体又はテトラフルオロエチレン・パーフルオロアルコキシエチレン共重合体を採用して、相違点2に係る本願発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。
(3) 総合検討
そして、相違点1~2を総合的に勘案しても、本願発明の作用効果は、本願発明の構成が奏するものとして、引用発明及び周知技術の奏する作用効果から予測される範囲のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。
(4) 審判請求人の主張について
ア 審判請求人の主張内容
審判請求人は、相違点1及び2に係る本願発明の構成は、引用文献2、3に記載も示唆もされておらず、引用文献1に記載の発明に周知技術(引用文献2、3)を適用しても、本願発明にならない旨主張している。
イ 審判請求人の主張についての検討
上記主張について検討する。
前記(1)で説示したように、蛍光体のフッ素を含有する表面処理剤として、フッ素含有シロキサンポリマー及び含フッ素アクリレートは周知であるし、前記(2)で説示したように、蛍光体を分散させるフッ素ポリマーとして、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルコキシエチレン共重合体、フルオロエチレン・ビニルエーテル共重合体、又は、これらの誘導体から選ばれるポリマーは、周知であり、引用発明においてこれらの周知技術を採用することは当業者が容易になし得たことである。
したがって、審判請求人の上記主張は、前記(1)及び(2)の判断を左右するものではない。
(4) 小括
以上によれば、本願発明は、引用発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
第6 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2023-002470