特許拒絶査定不服審判
2021-009426
2,3-ジクロロ-1,1,1-トリフルオロプロパン、2-クロロ-1,1,1-トリフルオロプロペン、2-クロロ-1,1,1,2-テトラフルオロプロパンまたは2,3,3,3-テトラフルオロプロペンを含む組成物
- 審判番号
- 2021-009426
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2020-081750
- 請求日
- 2021年07月15日
- 審決日
- 2026年02月26日
- 公報発行日
- 2026年08月28日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】ザ ケマーズ カンパニー エフシー リミテッド ライアビリティ カンパニー
- 【請求人代理人】大野 聖二
- 【請求人代理人】大野 浩之
- 審判長/審判官
- 審判長 光本 美奈子
- 審判官 村守 宏文
- 審判官 関根 裕
- 分類
- P18 .55 -WZ (C09K) / P18 .537-WZ (C09K)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法17条の2第3項特許法36条6項1号
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第6項第1号、特許法第44条第1項、特許法第17条の2第3項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2020- 81750「2,3-ジクロロ-1,1,1-トリフルオロプロパン、2-クロロ-1,1,1-トリフルオロプロペン、2-クロロ-1,1,1,2-テトラフルオロプロパンまたは2,3,3,3-テトラフルオロプロペンを含む組成物」拒絶査定不服審判事件〔令和 2年 9月24日出願公開、特開2020-152913〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、令和2年5月7日にされた特許法44条第1項の規定による特許出願であって、2009年(平成21年)5月7日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2008年5月7日 アメリカ合衆国(US))を国際出願日(以下「出願日」という。)とする特願2011-508656号を最先の出願とする、いわゆる第4世代の分割出願であるところ、出願の分割の経緯は次のとおりである。なお、括弧内は各出願の現実の出願日を示す。
最先の出願 :特願2011-508656号(平成21年 5月 7日)
第1世代 :特願2015- 28960号(平成27年 2月17日)
第2世代 :特願2017- 23243号(平成29年 2月10日)
第3世代 :特願2018-176306号(平成30年 9月20日)
本願 :特願2020- 81750号(令和 2年 5月 7日)
また、本願の手続の経緯は以下のとおりである。
令和2年 6月 5日 :上申書、手続補正書
同年 8月13日 :手続補正書
同年 9月 2日付け:拒絶理由通知書
同年12月 4日 :意見書、手続補正書
同年 同月15日付け:拒絶理由通知書(最後)
令和3年 2月24日 :意見書、手続補正書
同年 4月 7日付け:拒絶査定
同年 7月15日 :審判請求書、手続補正書
同年 9月29日 :上申書
令和4年10月27日付け:拒絶理由通知書
令和5年 4月27日 :意見書、手続補正書
令和6年 2月 8日付け:拒絶理由通知書(最後)
同年 5月10日 :意見書
令和7年 6月18日付け:拒絶理由通知書
同年10月22日 :意見書、手続補正書
第2 本願発明及び当初明細書等の記載
1 本願発明
本願の特許請求の範囲に記載された発明は、令和7年10月22日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1、2に記載されたとおりのものであるところ、そのうちの請求項1に係る発明(以下「本願発明」ともいう。)は、次のとおりのものである。
「【請求項1】
82.5モルパーセント以上のHFO-1234yfと、
0.2モルパーセント以下のHFC-143aと、
1.4モルパーセント以下のHFC-254ebと、を含有する、組成物。」
以下「HFO-1234yf」等について、「-」以前の表示を省略し、「1234yf」等と表記することがある。
2 本願の当初明細書等の記載
本願の願書に最初に添付された特許請求の範囲、明細書及び図面(「当初明細書等」ともいう。)には、次の記載がある。
(1)特許請求の範囲
「【請求項1】「HFO-1234yfと、HCFO-1233xf及びHCFO-244bbを含む組成物であって、HCFO-1233xf及びHCFO-244bbの合計量は2重量%未満である組成物。」
(2)明細書
「【0001】
本開示内容は、熱伝達組成物、エアロゾル噴霧剤、発泡剤、ブロー剤、溶媒、クリーニング剤、キャリア流体、置換乾燥剤、バフ研磨剤、重合媒体、ポリオレフィンおよびポリウレタンの膨張剤、ガス状誘電体、消火剤および液体またはガス状形態にある消火剤として有用な組成物の分野に関する。特に、本開示内容は、2,3,3,3,-テトラフルオロプロペン(HFO-1234yfまたは1234yf)または2,3-ジクロロ-1,1,1-トリフルオロプロパン(HCFC-243dbまたは243db)、2-クロロ-1,1,1-トリフルオロプロペン(HCFO-1233xfまたは1233xf)または2-クロロ-1,1,1,2-テトラフルオロプロパン(HCFC-244bb)を含む組成物等の熱伝達組成物として有用な組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
新たな環境規制によって、冷蔵、空調およびヒートポンプ装置に用いる新たな組成物が必要とされてきた。低地球温暖化係数の化合物が特に着目されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
出願人は、1234yf等の新たな低地球温暖化係数の化合物を調製する際に、特定の追加の化合物が少量で存在することを見出した。
【課題を解決するための手段】
【0004】
従って、本発明によれば、HFO-1234yfと、HFO-1234ze、HFO-1243zf、HCFC-243db、HCFC-244db、HFC-245cb、HFC-245fa、HCFO-1233xf、HCFO-1233zd、HCFC-253fb、HCFC-234ab、HCFC-243fa、エチレン、HFC-23、CFC-13、HFC-143a、HFC-152a、HFO-1243zf、HFC-236fa、HCO-1130、HCO-1130a、HFO-1336、HCFC-133a、HCFC-254fb、HCFC-1131、HFC-1141、HCFO-1242zf、HCFO-1223xd、HCFC-233ab、HCFC-226baおよびHFC-227caからなる群から選択される少なくとも1つの追加の化合物とを含む組成物が提供される。組成物は、少なくとも1つの追加の化合物の約1重量パーセント未満を含有する。」
「【0009】
【図1】 HFO-1234yfを243dbから製造する反応を示す概略図である。」
「【0010】
HFO-1234yfには、いくつかある用途の中で特に、冷蔵、熱伝達流体、エアロゾル噴霧剤、発泡膨張剤としての用途が示唆されてきた。また、HFO-1234yfは、V.C.Papadimitriouらにより、Physical Chemistry Chemical Physics、2007、9巻、1-13頁に記録されているとおり、低地球温暖化係数(GWP)を有することも分かっており有利である。このように、HFO-1234yfは、高GWP飽和HFC冷媒に替わる良い候補である。
【0011】
一実施形態において、本開示内容は、HFO-1234yfと、HFO-1234ze、HFO-1243zf、HCFC-243db、HCFC-244db、HFC-245cb、HFC-245fa、HCFO-1233xf、HCFO-1233zd、HCFC-253fb、HCFC-234ab、HCFC-243fa、エチレン、HFC-23、CFC-13、HFC-143a、HFC-152a、HFC-236fa、HCO-1130、HCO-1130a、HFO-1336、HCFC-133a、HCFC-254fb、HCFC-1131、HFO-1141、HCFO-1242zf、HCFO-1223xd、HCFC-233ab、HCFC-226ba、HFC-227caからなる群から選択される少なくとも1つの追加の化合物とを含む組成物を提供する。
【0012】
一実施形態において、HFO-1234yfを含む組成物中の追加の化合物の合計量は、ゼロ重量パーセントを超え、1重量パーセント未満までの範囲である。
【0013】
ある実施形態において、HCFC-243db、HCFO-1233xfおよびHCFC-244bb中に存在する不純物は、HFO-1234yfを作製する反応中そのままであるため、追加の化合物に含まれる。」
「【0016】
ある実施形態において、HCFC-243dbに対する特定の前駆体化合物は、HCFC-243dbに現れる不純物を含有する。他の実施形態において、追加の化合物は、これらの前駆体不純物の反応により形成される。他の実施形態において、HCFC-243dbを生成する反応条件では副生成物も生成され、これは、HCFC-243dbを生成する特定の条件に応じて、別の反応経路で追加の化合物を生成できることを意味する。」
「【0019】
ある実施形態において、HCFO-1233xfに対する特定の前駆体化合物は、HCFO-1233xfに現れる不純物を含有する。他の実施形態において、追加の化合物は、これらの前駆体不純物の反応により形成される。他の実施形態において、HCFO-1233xfを生成する反応条件では副生成物も生成され、これは、HCFO-1233xfを生成する特定の条件に応じて、別の反応経路で追加の化合物を生成できることを意味する。」
「【0022】
ある実施形態において、HCFC-244bbに対する特定の前駆体化合物は、HCFC-244bbに現れる不純物を含有する。他の実施形態において、追加の化合物は、これらの前駆体不純物の反応により形成される。他の実施形態において、HCFC-244bbを生成する反応条件では副生成物も生成され、HCFC-243dbに現れ、これは、HCFC-244bbを生成する特定の条件に応じて、別の反応経路で追加の化合物を生成できることを意味する。」
「【0027】
開示された組成物を作製する化合物を表1に示す。
【0028】
【表1】
[図:0001437615000001.jpg]
【0029】
HCFC-243db、HCFO-1233xfおよびHCFC-244bbは、SynQuest Laboratories,Inc.(Alachua,FL,U.S.A.)をはじめとする特殊化学メーカーより入手可能である、または本明細書に記載したとおりにして作成することができる。例えば、HCFC-243db、HCFO-1233xfおよびHCFC-244bbは、2008年5月8日公開の国際公開第2008/054782号パンフレットに記載されたとおりにして、HFO-1243zfの非触媒塩素化により調製することができる。同じく、HCFO-1233xfおよびHCFC-244bbは、2008年5月8日公開の国際公開第2008/054781号パンフレットに記載されたとおりにして、243dbの触媒フッ素化により調製することができる。各開示された組成物に存在する追加の化合物は、製造方法に応じて異なる。
【0030】
ある実施形態において、HCFC-243db、HCFO-1233xfまたはHCFC-244bbに対する特定の前駆体化合物は、記載した組成物において追加の化合物として現れる不純物を含有する。他の実施形態において、これらの前駆体化合物自体を、243db形成中反応して、HCFC-243db組成物に現れる追加の化合物を形成してもよい。他の実施形態において、HCFC-243db、HCFO-1233xfまたはHCFC-244bbが生成される反応条件では副生成物も生成される。これは、付随的な反応経路が、同時に生じて、HCFC-243db、HCFO-1233xfまたはHCFC-244bb以外の化合物を生成されることを意味する。これらの追加の化合物の量および識別は、HCFC-243db、HCFO-1233xfまたはHCFC-244bbが生成される特定の条件に応じて異なる。」
「【0062】
本発明のプロセスにより生成される生成物混合物が、(i)生成物化合物HFC-245cb、HFC-245fa、HFO-1234yf、HFO-1234ze、HCFO-1233zdおよびHCFO-1233xf、(ii)HF、HClおよびCl2、(iii)高沸点副生成物、例えば、CF3CHClCH2Cl(HCFC-243db)、CF3CHClCH2F(HCFC-244bb)および(iv)塩素化副生成物、例えば、C3HCl3F4、C3HCl2F5、C3HClF6、C3Cl3F5およびC3Cl2F6を含む場合には、分離プロセス、例えば、蒸留を用いて、かかる生成物混合物から生成物化合物を回収することができる。」
「【0117】
実施例14
HCFC-244bbへのHCFO-1233xfのフッ素化
・・・
【0120】
粗材料のGC/MSによれば、大半がHCFC-244bbであったことが示された。他の成分は、0.11%HFC-245cb、0.10%HFC-245eb、0.26%HCFO-1233xfおよび合計9.7%のその他副生成物であった。
【0121】
実施例15
実施例15は、HCFC-244bb(2-クロロ-1,1,1,2-テトラフルオロプロパン)のHFO-1234yf(2,3,3,3-テトラフルオロプロペン)への触媒なしでの変換を示すものである。
【0122】
加熱ゾーンが約12インチの空のInconel(登録商標)管(1/2インチOD)を、500℃~626℃の温度まで加熱し、HFC-244bbを、0.52mL/時で、40℃に設定された気化器を通して、2.4sccm(4.0×10-8m3)のN2スイープを用いて供給した。リアクタ流出物を、オンラインGSMSで分析した。結果をモルパーセントで記録してある。
【0123】
【表6】
[図:0001437615000002.jpg]
【0124】
実施例16
実施例16は、HCFC-244bb(2-クロロ-1,1,1,2-テトラフルオロプロパン)のHFO-1234yf(2,3,3,3-テトラフルオロプロパン)への触媒なしでの変換を示すものである。
【0125】
加熱ゾーンが約12インチの空のInconel(登録商標)管(1/2インチOD)を、575℃まで加熱し、HFC-244bbを、0.35mL/時で、40℃に設定された気化器を通して、3.6sccm(6.0×10-8m3)のN2スイープを用いて供給した。リアクタを連続で合計19時間操作し、試料を周期的に採取して、分析し、HFC-244bbの%変換率およびHFO-1234yfへの選択性を求めた。リアクタ流出物を、オンラインGCMSを用いて分析した。以下の表6のデータは、与えられた条件での少なくとも2つのオンライン注入の平均であり、パーセンテージはモルパーセントである。
【0126】
【表7】
[図:0001437615000003.jpg]
【0127】
実施例17
実施例17は、HCFC-244bb(2-クロロ-1,1,1,2-テトラフルオロプロパン)の活性カーボン触媒を存在させた脱塩化水素化を示すものである。
【0128】
Inconel(登録商標)管(1/2インチOD)を、4cc(1.99gm)の酸で洗ったCalgon(6-10メッシュ)製PCB Polynesianヤシ殻系カーボンで満たした。HFC-244bbを、1.04mL/時で、40℃に設定された気化器を通して、2.4sccm(4.0×10-8m3)のN2スイープを用いて供給し、リアクタ温度を400℃に制御しつつ、合計接触時間は約32秒とした。
【0129】
表7のデータによれば、7時間の操作期間にわたって、HCl排除を介してHFC-1234yfを作製するのに活性カーボン触媒で行った、このプロセスについてのモルパーセントでのリアクタ流出物組成物を示す。・・・」
「【0130】
【表8】
[図:0001437615000004.jpg]
」
(3)図面
「【図1】
[図:0001437615000005.jpg]
」
第3 令和7年6月18日付けの拒絶理由の概要
1 新規事項
令和5年4月27日提出の手続補正書による補正後の請求項1に記載された「82.5モルパーセント以上のHFO-1234yfと、0.2モルパーセント以下のHFC-143aと、1.4モルパーセント以下のHFC-254ebと、を含有し、HFC-143aを含む化合物であって、HFO-1234yf及びHFC-254eb以外の化合物が1重量%未満である、組成物。」は、当初明細書等に記載されていたものとはいえないから、当該補正は、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術事項を導入するものであって、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものでない。
2 サポート要件
本願の請求項1に記載された組成物に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されておらず、当該組成物に関して本願明細書等の記載から把握できる事項は、実施例に記載されるような特定の原料を特定の条件で反応させた場合に検出された具体的な組成物、すなわち、各表に示される特定の化合物とその組成比の組合せからなる組成物に限られるものであるし、出願時の技術常識に照らしても、当該表の記載から把握できない組成比の範囲まで概念を拡張できるものではないから、本願明細書の発明の詳細な説明には、「82.5モルパーセント以上のHFO-1234yfと、0.2モルパーセント以下のHFC-143aと、1.4モルパーセント以下のHFC-254ebと、を含有し、HFC-143aを含む化合物であって、HFO-1234yf及びHFC-254eb以外の化合物が1重量%未満である、組成物。」が記載されていたとはいえず、そうすると、本願の特許請求の範囲の請求項1の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たすものではない。
第4 当審の判断
1 新規事項について
令和7年10月22日付けの手続補正書でした補正は、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものでない。
(1)請求項1の記載
当初明細書等には、補正後の請求項1である「82.5モルパーセント以上のHFO-1234yfと、0.2モルパーセント以下のHFC-143aと、1.4モルパーセント以下のHFC-254ebと、を含有する、組成物。」との記載はない。
(2)254ebについて
補正後の請求項1が特定する254ebに着目すると、254ebは、当初明細書等の【0044】や【0011】に多数列挙された追加の化合物に含まれておらず、また、段落【0028】の【表1】に列挙された「開示された組成物を作製する化合物」にも示されておらず、追加の化合物としての記載が皆無である。
そこで、当初明細書等において、254ebが記載されている部分を探すと、当初明細書等の【0121】~【0123】には、244bbの1234yfへの触媒なしでの変換についての「実施例15」が記載されており、そのリアクタ流出物のオンラインGSMS分析結果を示した表5(【表6】)には、次のとおり254ebを含む組成について記載がある。
[図:0001437615000006.jpg]
また、当初明細書等の【0124】~【0126】には、244bbの1234yfへの触媒なしでの変換についての「実施例16」が記載されており、そのリアクタ流出物のオンラインGSMS分析結果を示した表6(【表7】)には、次のとおり254ebを含む組成について記載がある。
[図:0001437615000007.jpg]
しかしながら、これらの表は、244bbの1234yfへの変換の過程で、各表の横一列に示された化合物がそれぞれのモルパーセント検出されたことを示すにとどまり、244bb及び1234yf以外の23、1141等の化合物は、当初明細書等の【0022】等に記載される不純物や副生成物にすぎず、254ebを含め、それらの技術的意義については何ら記載されていない。ましてや、本願発明の組成物として、数多ある追加の化合物の中から特に143aに着目し、また、当初明細書等に追加の化合物としての記載すらない254ebにも着目し、これら特定の2種類の化合物が特定の範囲のモルパーセント量で1234yfとともに組成物に含まれることを示唆するような記載はない。さらに、前記表5(【表6】)及び表6(【表7】)には、1234yf等を調製する際に、85.0モルパーセントを超える1234yfを含む組成物が生成したことも記載されていない。
加えて、1234yfが85.0モルパーセントを超える反応条件が当業者の技術常識から明らかであるともいえない。
(3)1234yfの回収
1234yf等の生成物化合物の回収方法について、本願の当初明細書等の【0062】に「本発明のプロセスにより生成される生成物混合物が、(i)生成物化合物HFC-245cb、HFC-245fa、HFO-1234yf、HFO-1234ze、HCFO-1233zdおよびHCFO-1233xf、(ii)HF、HClおよびCl2、(iii)高沸点副生成物、例えば、CF3CHClCH2Cl(HCFC-243db)、CF3CHClCH2F(HCFC-244bb)および(iv)塩素化副生成物、例えば、C3HCl3F4、C3HCl2F5、C3HClF6、C3Cl3F5およびC3Cl2F6を含む場合には、分離プロセス、例えば、蒸留を用いて、かかる生成物混合物から生成物化合物を回収することができる。」と記載されている。また、143a等の追加の化合物の含有量について、同【0004】に「・・・組成物は、少なくとも1つの追加の化合物の約1重量パーセント未満を含有する。」と記載され、同【0012】に「一実施形態において、HFO-1234yfを含む組成物中の追加の化合物の合計量は、ゼロ重量パーセントを超え、1重量パーセント未満までの範囲である。」と記載されている。
しかしながら、いずれも形式的な記載であって、1234yfを85.0モルパーセント以上とした場合に、数多ある化合物の中から143aと254ebという特定の2種類の化合物を特定のモルパーセント量で含む組成物とすることや、そのための具体的なプロトコルや条件が開示されているわけではなく、そのようなプロトコルや条件が技術常識から明らかということもできない。
(4)当初明細書等の記載から把握できること
当初明細書等全体の記載から把握される事項は、目的の化合物(例えば1234yf)を得るために、特定の追加の化合物を含む原料化合物を、特定の条件で反応させた場合に、その具体的な条件毎に、目的の化合物(例えば1234yf)と特定の追加の化合物(原料化合物、原料化合物に含まれる不純物、及び反応によりそれらから生成した副生成物)が特定の比率で含まれる組成であったことを開示するという程度のものであって、その組成比を、当該表の記載から把握できない範囲まで概念として拡張できるような類いのものとは認められない。
(5)小括
そうすると、補正後の請求項1で特定される「82.5モルパーセント以上のHFO-1234yfと、0.2モルパーセント以下のHFC-143aと、1.4モルパーセント以下のHFC-254ebと、を含有する、組成物。」は、当初明細書等に記載されていたものではない。
また、当初明細書等には、143a及び254ebという特定の2種類の化合物を含むことによる技術的意義については何ら記載されておらず、仮に、当該2種類の化合物を特定量で含むことにより何らかの技術的意義が生じるというのであれば、それは、新たな技術事項を導入するものに他ならない。
したがって、令和7年10月22日の手続補正書による補正は、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものでない。
また、令和5年4月27日の手続補正書による補正も、同様の理由で、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものでない。
2 サポート要件について
(1)前提
特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件(いわゆる「サポート要件」)に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できるものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものとされている。
(2)本願発明が発明の詳細な説明に記載された発明であるか否か
本願の明細書及び図面は、当初明細書等から補正されていない。そうすると、前記1で検討したとおり、本願発明は、発明の詳細な説明に記載された発明とはいえない。
したがって、本願発明は、発明の課題等について検討するまでもなく、サポート要件を満たしていない。
(3)本願発明が発明の課題を解決できると認識できるものであるか否か
本願発明が解決しようとする課題について、本願の願書に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「本願明細書等」ともいう。」の【0003】の「発明が解決しようとする課題」の欄には、「出願人は、1234yf等の新たな低地球温暖化係数の化合物を調製する際に、特定の追加の化合物が少量で存在することを見出した。」と記載されている。
そして、1234yfについては、同【0010】に、1234yfが、低地球温暖化係数(GWP)を有し、高GWP飽和HFC冷媒に替わる良い候補であることが記載され、追加の化合物については、同【0013】に、原料組成物に含まれる不純物は、1234yfを作製する反応中そのままであるため、追加の化合物に含まれること、同【0016】に、追加の化合物は、原料化合物に現れる前駆体不純物の反応により形成されるものであったり、原料化合物の反応により生成される副生成物であったりすることが記載されている。
しかしながら、1234yf自体が、低地球温暖化係数(GWP)を有する化合物として有用であることは、同【0010】の「1234yfは・・・Physical Chemistry Chemical Physics、2007、9巻、1-13頁に記録されているとおり、低地球温暖化係数(GWP)を有することも分かっており有利である」との記載からも明らかなように、出願人自ら出願時に認識していたことであって、本願発明が、新たな低地球温暖化係数(GWP)の化合物を提供することを課題とし、本願発明が1234yfの提供により当該課題を解決したものとは認められない。
また、追加の化合物の存在意義について、追加の化合物が少量存在することにより、どのような技術的意義があるのか、いかなる作用効果があり、これによりどのような課題が解決されることになるのかといった点については、本願明細書等に何ら記載がない。
そうすると、本願明細書等の【0003】の「出願人は、1234yf等の新たな低地球温暖化係数の化合物を調製する際に、特定の追加の化合物が少量で存在することを見出した。」との記載及びその他の本願明細書等の記載をもって、「組成物」という物に係る本願発明が解決しようとする課題を明確に把握することはできない(すなわち、「本願の明細書等に形式的に記載された「発明が解決しようとする課題」は、本願発明の課題の記載としては不十分であり、本願明細書等には本願発明の課題が記載されていないというほかない」)。そうである以上、当業者が、本願明細書等の記載により本願発明の課題を解決することができると認識することができるとはいえない。
(4)小括
前記(2)及び(3)のとおり、本願の請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明に記載された発明ではなく、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できるものでもなく、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし、当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものでもないから、本願の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たすものではない。
3 請求人の主張について
(1)請求人の主張
請求人は、令和7年10月22日提出の意見書の7頁3行~8頁12行において、概略次の主張をしている。
ア 本願明細書では、1234yf以外の追加の化合物の合計量が1重量%未満となってもよいことが示されております。この例として、以下で示す[0011]及び[0012]が存在しています。(7頁3~5行)
イ 1234yfを生成する工程が本願明細書で示されている上、実施例17では、触媒を用いることで低温でも244bbから1234yfへの変換効率が高まっていることが示されていることからすると、触媒を用いることで、実施例15のように温度調整を行うことで、244bbから1234yfへの変換効率をより高めることができることを当業者は容易に認識できます。
ウ 本願明細書[0096]では「さらに他の実施形態において、反応容器の温度は、HCFC-244bbのHFO-1234yfへの熱分解が、85%以上の選択性でなされるのに十分に高い温度に維持される。」ことも明記されております。(7頁6行~7頁下4行)
エ 本願明細書[0062]では「・・・分離プロセス、例えば、蒸留を用いて、かかる生成物混合物から生成物化合物を回収することができる。」ことも記載され、生成物化合物である1234yfを蒸留によって、その他の(ii)HF、HClおよびCl2、(iii)高沸点副生成物及び(iv)塩素化副生成物から分離できることも明確に記載されている以上、当業者であれば蒸留を用いて生成物化合物である1234yfを分離回収することは困難なものでもありません。(7頁下3行~8頁12行)
(2)検討
請求人の主張は、新規事項とサポート要件の双方に対するものと解されるので、以下、本願明細書と本願の願書に最初に添付された明細書を総称して「本願明細書」という。
ア 前記(1)アについて、本願明細書の【0004】及び【0011】の記載における「追加の化合物」とは、同【0016】、【0019】及び【0022】の記載によれば、前駆体に含まれる不純物、当該不純物の反応により形成されたもの、及び、前記反応の副生成物等とされていることを踏まえると、本願明細書の記載は、【0004】及び【0011】等に列挙される「追加の化合物」を1234yfに配合して組成物を調製することを記載ないし示唆するものではない。
そもそも、本願発明の「254eb」は、本願明細書の【0004】及び【0011】に多数列挙された追加の化合物に含まれておらず、また、段落【0028】の【表1】に列挙された「開示された組成物を作製する化合物」にも示されていない。
また、本願明細書の実施例15~17に記載の1234yfを製造する具体的な製造方法において、表5~表7(【表6】~【表8】)に示された数値は、条件毎にどのような追加の化合物がどの程度ずつ含まれるか、その組成(プロファイル)をGCMSにより確認したことを開示するものにすぎず、数多ある化合物のうちの特定の化合物のみを分離したり濃度を上昇または低下させたりすることを開示するものでもない。
さらに、本願明細書は、実施例15~実施例17に対応する表5~表7(【表6】~【表8】)で確認された追加の化合物の各々が、どのような作用効果を有し、冷媒等としての機能に影響をもたらすか等という点について何ら記載するものでもない。
本願明細書には、143aと254ebという2つの化合物を、あまた列挙されたその他の追加の化合物と区別することを開示ないしは示唆する記載は見当たらないから、特に143aと254ebの2種類を特定のモルパーセント以下含むことが特定された本願発明が、本願明細書の発明の詳細な説明に記載されていたとはいえない。
イ 前記(1)イについて、本願明細書等には「一実施形態において、気相脱塩化水素化は、触媒を存在させて実施する。」(【0093】~【0094】)等の触媒に関する記載はなされているものの、触媒を用いて温度調整を行うことにより、反応生成物中の1234yfが85.0モルパーセントを大幅に超える割合で生成することが記載されていたとはいえない。
具体的には、活性カーボン触媒を用いた400℃での反応の実施例17(表7【表8】)においても、未知の化合物が14.9モルパーセント以上生成したことが記載されており、また、一般に温度が高くなるほど副反応の活性が高まるところ、同じ触媒を用いれば、より高温の条件でも、目的とする生成物の選択性が必ず維持されるという技術常識があるとはいえないから、実施例17の記載を含む触媒に関する本願明細書の記載に接した当業者であっても、400℃よりも高い温度で同様の触媒反応を進行させた場合に、未知の化合物の割合が増加することなく、1234yfの割合が85.0モルパーセントを大きく超えることが必然であると認識することはない。
ウ 前記(1)ウについて、本願明細書の【0096】には「反応容器の温度は、HCFC-244bbのHFO-1234yfへの熱分解が、85%以上の選択性でなされるのに十分高い温度に維持される」と記載されている。
しかしながら、244bbから1234yfへの変換における選択性については、本願明細書の実施例15(【表6】)に、最高値として、603℃で85.0モルパーセントの1234yfが生成したことが記載されるにすぎず、温度を高くするほど、244bbから1234yfへの熱分解の選択性が高まること理解することはできないから、【0096】の記載をもって、本願明細書に85.0モルパーセントを大きく超える任意の割合で1234yfを含む組成物が記載されていたとはいえない。
エ 前記(1)エについて、本願明細書の【0062】の記載は、次のとおりである。
「本発明のプロセスにより生成される生成物混合物が、(i)生成物化合物HFC-245cb、HFC-245fa、HFO-1234yf、HFO-1234ze、HCFO-1233zdおよびHCFO-1233xf、(ii)HF、HClおよびCl2、(iii)高沸点副生成物、例えば、CF3CHClCH2Cl(HCFC-243db)、CF3CHClCH2F(HCFC-244bb)および(iv)塩素化副生成物、例えば、C3HCl3F4、C3HCl2F5、C3HClF6、C3Cl3F5およびC3Cl2F6を含む場合には、分離プロセス、例えば、蒸留を用いて、かかる生成物混合物から生成物化合物を回収することができる。」
この記載から明らかなように、本願明細書の【0062】には、特定の化合物に言及して「分離プロセス、例えば、蒸留を用いて、かかる生成物混合物から生成物化合物を回収することができる」との記載はあるものの、本願発明で特定する「143a」及び「254eb」についての記載はなく、1234yfと実施例15等において確認された254eb等の個々の追加の化合物をどのような条件で分離するか等について何ら具体的に記載するものではなく、加えて、そのような分離条件が技術常識から明らかということもできない。
オ したがって、請求人の主張は採用できない。
第5 むすび
以上のとおり、令和7年10月22日にされた手続補正は特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしておらず、本願の請求項1に係る発明は特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2021-009426