特許拒絶査定不服審判
2016-004878
電磁波シールド性に優れた樹脂塗装金属板
- 審判番号
- 2016-004878
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2012-083074外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2016年04月04日
- 審決日
- 2017年03月13日
- 公報発行日
- 2017年04月28日
- 結論
- 原査定取消(特許/登録すべき)
- 分類
- P18 .121-WY (H05K) / P18 .575-WY (H05K)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法17条の2第3項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第17条の2第3項、特許法第17条の2第6項、特許法第17条の2第5項第2号
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特願2012-83074「電磁波シールド性に優れた樹脂塗装金属板」拒絶査定不服審判事件〔平成25年10月17日出願公開、特開2013-214567、請求項の数(5)〕について、次のとおり審決する。
結論
【結 論】
原査定を取り消す。
本願の発明は、特許すべきものとする。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
本願は、平成24年3月30日の出願であって、平成27年5月18日付けで拒絶理由が通知され、同年7月24日付けで手続補正がなされたが、同年12月22日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、平成28年4月4日に拒絶査定不服の審判が請求され、同時に手続補正がなされたものである。
第2 平成28年4月4日付けの手続補正の適否
1.補正の内容
平成28年4月4日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)は、下記(1)に示す補正前の特許請求の範囲の記載を下記(2)に示す特許請求の範囲の記載へ補正するものである。なお、下記(2)における下線は、審判請求人が補正箇所を明示するために付したものである。
(1)本件補正前の特許請求の範囲
「 【請求項1】
金属板の表面に、樹脂皮膜が被覆された樹脂塗装金属板であって、
前記樹脂皮膜は、長径の平均粒子長さが5μm以上あって、且つ平均アスペクト比が5以上である扁平状の金属粉、およびチタン酸バリウムを含有していることを特徴とする電磁波シールド性に優れた樹脂塗装金属板。
【請求項2】
前記樹脂皮膜中の前記扁平状の金属粉の含有量は20質量%以上、60質量%以下である請求項1に記載の樹脂塗装金属板。
【請求項3】
前記樹脂皮膜は、さらに導電性微粒子を含むものである請求項1または2に記載の樹脂塗装金属板。
【請求項4】
前記導電性微粒子はチタンカーバイド、チタンナイトライド、およびチタンカーボナイトライドよりなる群から選択される少なくとも一種である請求項3に記載の樹脂塗装金属板。
【請求項5】
前記樹脂皮膜の膜厚は、10~20μmである請求項1~4のいずれかに記載の樹脂塗装金属板。」
(2)本件補正後の特許請求の範囲
「 【請求項1】
金属板の表面に、樹脂皮膜が被覆された樹脂塗装金属板であって、
前記樹脂皮膜は、長径の平均粒子長さが5μm以上、10μm以下であり、且つ平均アスペクト比が5以上である扁平状の金属粉、およびチタン酸バリウムを含有していることを特徴とする電磁波シールド性に優れた樹脂塗装金属板。
【請求項2】
前記樹脂皮膜中の前記扁平状の金属粉の含有量は20質量%以上、60質量%以下である請求項1に記載の樹脂塗装金属板。
【請求項3】
前記樹脂皮膜は、さらに導電性微粒子を含むものである請求項1または2に記載の樹脂塗装金属板。
【請求項4】
前記導電性微粒子はチタンカーバイド、チタンナイトライド、およびチタンカーボナイトライドよりなる群から選択される少なくとも一種である請求項3に記載の樹脂塗装金属板。
【請求項5】
前記樹脂皮膜の膜厚は、10~20μmである請求項1~4のいずれかに記載の樹脂塗装金属板。」
2.補正の適否
(1)補正の目的要件、新規事項の有無、特別な技術的特徴の変更の有無について
本件補正による請求項1についての補正は、請求項1に記載された「樹脂皮膜」の「長径の平均粒子長さ」について、その上限を「10μm以下」に限定するものであって、補正前の請求項1に係る発明と補正後の請求項1に係る発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、特許法第17条の2第3項及び第4項に違反するところはない。
(2)独立特許要件について
本件補正による請求項1についての補正は特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、本件補正後の請求項1に係る発明及び当該請求項1の従属請求項である請求項2ないし5に係る発明が、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について以下に検討する。
ア.本件補正後の請求項1に係る発明
本件補正後の請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)は、本件補正後の請求項1に記載されたとおりのものである(上記1.(2)参照。)。
イ.引用発明
原査定の拒絶の理由に引用された特開2008-288279号公報(以下、「引用文献1」という。)には、「表面処理金属板」について、図面とともに以下の事項が記載されている(なお、下線は当審で付与した。)。
(ア)「【0001】
本発明は、電子機器の筐体に好適に用いることができ、接合部の電磁波シールド性及び耐食性に優れた表面処理金属板及び該金属板を少なくとも一部に用いて製造された電子機器用筐体に関する。特に、数MHzから数GHzまでの放射ノイズによる電子機器の誤動作を効果的に抑制可能な金属板及び筐体に関する。」
(イ)「【0025】
本発明は、以下の(1)~(11)を要旨とする。
(1) 金属板表面の少なくとも一部に、有機樹脂を含む平均厚みが0.5μm以上10μm以下の有機樹脂層が形成されており、該有機樹脂層中に高誘電率粒子を含有することを特徴とする、表面処理金属板。」
(ウ)「【0032】
以上を基に、本発明の内容について説明する。
前記(1)は、誘電容量を高めた有機樹脂層の皮膜構造を規定したものである。有機樹脂層の単位面積当たりの誘電容量を高めるためには、a)膜厚を薄くする、b)比誘電率を高くする、の2つの方法が考えられるが、a)の方法を採ると耐食性が低下するため、b)の方法が好ましい。具体的には、b-1)有機樹脂層に比誘電率の高い樹脂を用いる、b-2)有機樹脂層に高誘電率粒子を分散させる、の2つの方法が考えられる。汎用される樹脂の比誘電率は2~4程度であり、樹脂の変更による誘電容量の増加は高々2倍である。これに対して、ペロブスカイト型化合物に代表される高誘電率材料は、比誘電率が低いものでも10~100、高いものでは数千あり、これらの微粒子を有機樹脂層中に分散させることで、誘電容量をより高くすることができる。そこで、本発明ではb-2)の方法を採る。
【0033】
本発明で適用可能な高誘電率粒子としては、有機樹脂層中に分散可能であって、適量分散させることにより有機樹脂層の比誘電率を少なくとも5倍以上に高める効果を有するものであれば、特に制限はない。例えば、強誘電体であるチタン酸バリウム、チタン酸鉛、ニオブ酸カリウム、ニオブ酸リチウム、ニオブ酸鉛、ニオブ酸ストロンチウムバリウム、タンタル酸リチウム、酒石酸ナトリウムカリウム(ロッシェル塩)、リン酸二水素カリウム、三硫化グリシン等が例示できる。これらの構成元素の一部を、キュリー温度をシフトさせる効果を有する元素(シフター)により置換したもの、例えば、チタン酸バリウムのBa2+をSr2+、Ca2+等で、Ti4+をSn4+、Zr4+等で置換してキュリー温度を常温付近にシフトさせたものや、さらにはCaTiO3、MgTiO3等のデプレッサーを添加したものも含む。強誘電体では比誘電率が数百~数千に及び、有機樹脂層の誘電容量を著しく増加させることができ、この結果、優れた接合部電磁波シールド性が得られる。」
(エ)「【0035】
本発明の金属板としては、電子機器の筐体もしくは筐体内の部材に適する形状、寸法、強度、加工性を備えたものであれば、特にその種類は制限されず、鋼やアルミニウム、マグネシウム、銅、亜鉛、ニッケル、チタン等の金属板及び合金板、さらには、これらの金属板を異種金属で被覆しためっき金属板等が例示できる。筐体を構成する金属板は通常、板厚3mm以下である。金属板を筐体の構造部材として用いる場合の板厚の下限値は通常0.1mmである。
【0036】
本発明に用いる有機樹脂としては、高誘電率粒子のバインダーとして有機樹脂層を形成し得るものであれば、特に制限が無く、水溶性有機樹脂、エマルジョン型有機樹脂、溶剤系有機樹脂のいずれもが使用可能である。例えば、オレフィン系樹脂、アクリル系樹脂、アイオノマー系樹脂、エポキシ系樹脂、ウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂、フェノール系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、ポリテトラフルオロエチレンやポリフッ化ビニリデン等のフッ素系樹脂あるいはポリスチレン、ポリエーテルサルホン、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニルスルフィド、ポリアミドイミド、シクロオレフィンポリマー、液晶ポリマー等が例示される。これらを単独で用いても良いし、2種類以上を混合して用いたり、共重合体を用いたり(例えば、エチレン-(メタ)アクリル酸共重合体、(メタ)アクリル酸-(メタ)アクリル酸エステル共重合体、等)、互いに変性したり(例えば、エポキシ変性ウレタン樹脂、アクリル変性アイオノマー樹脂、等)、あるいは別の有機物で変性したもの(例えば、アミン変性エポキシ樹脂、等)を用いても良い。」
(オ)「【0039】
有機樹脂層中には、有機樹脂、高誘電率粒子以外の構成成分があっても良い。例えば、シリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア等の酸化物添加剤、ポリエチレン、フッ素樹脂等からなるワックスや界面活性剤等の有機添加剤、シランカップリング剤、チタネート系カップリング剤等の有機-無機複合添加剤、着色顔料、腐食抑制剤等が例示される。なお、金属粉末、カーボンブラック、グラファイト等の導電性添加剤を添加しても構わないが、耐食性確保の観点から少量に抑制すべきであり、最大でも20vol%である。」
(カ)「【0065】
(7) 塗布、乾燥
有機樹脂、高誘電率粒子とその他の添加剤を混合し、ロールコーターで金属板に塗布し、直火型の乾燥炉で乾燥した。乾燥条件(温度、時間)は、樹脂の種類と膜厚に応じて、それぞれ適切に調整した。高誘電率粒子としてロッシェル塩を用いた場合には、結晶の溶融を防ぐため、乾燥条件は板温100℃以下、時間30秒以下とし、樹脂には水溶性樹脂を用いた。」
したがって、上記(ア)ないし(カ)の記載事項を総合勘案すると、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。
「金属板の表面に、有機樹脂層が塗布、乾燥により形成された表面処理金属板であって、
前記有機樹脂層は、金属粉末、およびチタン酸バリウムを含有する電磁波シールド性に優れた表面処理金属板。」
ウ.対比
本願補正発明と引用発明とを対比する。
(ア)引用発明における「有機樹脂層」は、本願補正発明における「樹脂皮膜」に相当する。
(イ)引用発明における「金属粉末」は、本願補正発明における「金属粉」に相当するが、本願補正発明の「金属粉」は「長径の平均粒子長さが5μm以上、10μm以下であり、且つ平均アスペクト比が5以上である扁平状の」ものであるのに対して、引用発明における「金属粉末」はその形状・寸法について何ら特定されていない。
(ウ)引用発明における「表面処理金属板」は、その表面に有機樹脂層が塗布されたものであるから、「樹脂塗装金属板」であるということができる。
そうすると、本願補正発明と引用発明とは、
「金属板の表面に、樹脂皮膜が被覆された樹脂塗装金属板であって、
前記樹脂皮膜は、金属粉、およびチタン酸バリウムを含有している電磁波シールド性に優れた樹脂塗装金属板。」
である点で一致し、次の点で相違する。
<相違点>
樹脂皮膜に含有される金属粉が、本願補正発明においては、「長径の平均粒子長さが5μm以上、10μm以下であり、且つ平均アスペクト比が5以上である扁平状の」ものであるのに対して、引用発明においては、そのような特定がされていない点。
エ.判断
上記相違点について検討する。
原査定の拒絶の理由に引用された特開平7-212079号公報(以下、「引用文献2」という。)には、透過減衰を大きく確保することができる電磁波干渉抑制体について、当該電磁波干渉抑制体は、導電性支持体の少なくとも一方面に設けられた絶縁性軟磁性体層を有し、上記絶縁性軟磁性体層は偏平状または/および針状の軟磁性体粉末と有機結合剤とを含むことが記載されており(【0023】、【0033】、【0056】、図1)、さらに、次の検証例も記載されている(【0047】、【0048】)。
「[検証例6]
導電性支持体1として、24メッシュのステンレス網を用い、この両面に乾燥、硬化後の全厚が1.2mmとなるように以下の<組成5>からなる誘電体粉末含有軟磁性体ペーストをドクターブレード法により塗工し、85℃にて24時間キュアリングを行い評価用試料6を得た。
<組成5>
偏平状軟磁性体微粉末 …… 70重量部
組 成:Fe-Al-Si合金
平均粒径:10μm
アスペクト比:>5
チタン酸バリウム粉末 …… 20重量部
平均粒径:7μm
有機結合剤
ポリウレタン樹脂 …… 8重量部
硬化剤(イソシアネート化合物) …… 2重量部
溶剤(シクロヘキサノンとトルエンとの混合物) …… 45重量部」(なお、上記「評価用試料6」の「6」は丸囲み数字。)
そして、上記組成5の記載内容からみて、引用文献2には、絶縁性軟磁性体層に、チタン酸バリウム粉末とともに、平均粒径が10μmであり、かつ、アスペクト比が5より大きい偏平状軟磁性体微粉末を含めることが記載されている。
しかしながら、上記平均粒径は、本願補正発明における「長径の平均粒子長さ」を意味するものではなく、引用文献2の記載から上記偏平状軟磁性体微粉末の「長径の平均粒子長さ」を特定することはできないから、引用文献2には、樹脂皮膜に、チタン酸バリウムとともに、長径の平均粒子長さが5μm以上、10μm以下であり、且つ平均アスペクト比が5以上である扁平状の金属粉を含有させるという技術事項が記載されているということはできない。
なお、原査定において周知技術を示す文献として引用された特開2004-172200号公報及び特開2003-60382号公報にも、樹脂皮膜に、チタン酸バリウムとともに、長径の平均粒子長さが5μm以上、10μm以下であり、且つ平均アスペクト比が5以上である扁平状の金属粉を含有させることは記載も示唆もされていない。
また、前置報告書で提示された特開2002-93608号公報及び特開2002-198683号公報にも、樹脂皮膜に、チタン酸バリウムとともに、長径の平均粒子長さが5μm以上、10μm以下であり、且つ平均アスペクト比が5以上である扁平状の金属粉を含有させることは記載も示唆もされていない。
そして、本願補正発明は、樹脂皮膜が、「長径の平均粒子長さが5μm以上、10μm以下であり、且つ平均アスペクト比が5以上である扁平状の金属粉、およびチタン酸バリウム」の両方を含有していることによって、電磁波吸収性が高くなり、電磁波シールド性に優れた樹脂塗装金属板を提供できるという効果を奏するものである。
したがって、本願補正発明は、引用文献1及び2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
また、本願の請求項2ないし5に係る発明は、本願補正発明をさらに限定したものであるので、本願補正発明と同様に、引用文献1及び2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
よって、本件補正による請求項1についての補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合する。
3.むすび
以上のとおりであるから、本件補正は、特許法第17条の2第3項ないし第6項の規定に適合する。
第3 本願発明
本件補正は上記のとおり、特許法第17条の2第3項ないし第6項の規定に適合するから、本願の請求項1に係る発明は、本件補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものである。
そして、本件補正後の請求項1に係る発明である本願補正発明は、上記「第2」の「2.」の「(2)独立特許要件について」で説示したとおり、原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1及び2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
また、本願の請求項1に係る発明を直接又は間接的に引用する請求項2ないし5に係る発明は、請求項1に係る発明を更に限定したものであるから、引用文献1及び2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
したがって、本願については、原査定の拒絶理由を検討してもその理由によって拒絶すべきものとすることはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
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