特許拒絶査定不服審判
2024-020882
物品の製造方法
- 審判番号
- 2024-020882
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2020-137575
- 請求日
- 2024年12月26日
- 審決日
- 2025年11月11日
- 公報発行日
- 2026年01月30日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】株式会社レゾナック
- 【請求人代理人】長谷川 芳樹
- 【請求人代理人】清水 義憲
- 【請求人代理人】中塚 岳
- 【請求人代理人】吉住 和之
- 【請求人代理人】平野 裕之
- 審判長/審判官
- 審判長 土居 仁士
- 審判官 丸山 高政
- 審判官 鈴木 圭一郎
- 分類
- P18 .121-Z (H05K) / P18 .575-Z (H05K)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条、特許法第17条の2第6項、特許法第17条の2第5項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2020-137575「物品の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔令和4年3月2日出願公開、特開2022-33596〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、令和2年8月17日の出願であって、その手続の経緯の概要は以下のとおりである。
令和 6年 2月26日付け 拒絶理由通知書
4月30日 意見書・手続補正書
6月18日付け 拒絶理由通知書(最後)
8月13日 意見書
9月27日付け 拒絶査定
12月26日 審判請求書・手続補正書
令和 7年 2月27日 手続補正書(方式)
3月25日 前置報告書
以下では、令和6年8月13日の意見書を単に「意見書」といい、同年9月27日付け拒絶査定を「原査定」といい、同年12月26日の手続補正書による補正を「本件補正」という。
なお、令和7年2月27日の手続補正書(方式)による補正は、審判請求書を対象とし、請求の理由を補充するものである。
第2 補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
本件補正を却下する。
[理由]
1 本件補正の内容
本件補正は請求項1に対して補正するものである。本件補正の内容を示すために、以下の(1)及び(2)にそれぞれ本件補正前後の請求項1の記載を示す。
(1)本件補正前の請求項1の記載
本件補正前の令和6年4月30日の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである。
【請求項1】
基材の表面の一部に選択的に粗化処理を施し、前記粗化処理が施された粗化部と前記粗化処理が施されていない非粗化部とを有する加工基材を得る工程と、
前記加工基材において、前記粗化部の少なくとも一部を覆うように、金属粒子を含有する組成物を用いて金属粒子含有層を形成する工程と、
ギ酸を含む還元雰囲気で前記金属粒子含有層における前記金属粒子を焼結させて焼結体層を形成する工程と、
を備える、物品の製造方法。
(2)本件補正後の請求項1の記載
本件補正後の特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおりである。なお、下線は補正箇所を示すために請求人が付したものである。
【請求項1】
基材の表面の一部に選択的に粗化処理を施し、前記粗化処理が施された、表面粗さが0.05~10.0μmである粗化部と前記粗化処理が施されていない非粗化部とを有する加工基材を得る工程と、
前記加工基材において、前記粗化部の少なくとも一部を覆うように、金属粒子を含有する組成物を用いて金属粒子含有層を形成する工程と、
ギ酸を含む還元雰囲気で前記金属粒子含有層における前記金属粒子を焼結させて、焼結体層における有機物の含有量が3質量%以下である焼結体層を形成する工程と、
を備える、物品の製造方法。
2 補正の目的
本件補正は、本件補正前の請求項1に係る発明を特定するために必要な事項である「粗化部」について「表面粗さが0.05~10.0μmである」との限定を付加し、さらに、本件補正前の請求項1に係る発明を特定するために必要な事項である「焼結体層」について「焼結体層における有機物の含有量が3質量%以下である」との限定を付加するものであって、本件補正前の請求項1に係る発明と本件補正後の請求項1に係る発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法17条の2第5項2号の特許請求の範囲の減縮(いわゆる限定的減縮)を目的とするものに該当する。
3 補正の適否
本件補正の目的が限定的減縮に該当するので、本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本件補正発明」という。)が特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項に規定する要件(いわゆる独立特許要件)に適合するかについて、以下、検討する。
(1)本件補正発明の認定
本件補正発明は、前記1(2)に記載したとおりのものと認める。
なお、後の参照の便宜のため、請求項1を以下のA~Dに分説し、「発明特定事項A」のようにして参照する。
【請求項1】
A 基材の表面の一部に選択的に粗化処理を施し、前記粗化処理が施された、表面粗さが0.05~10.0μmである粗化部と前記粗化処理が施されていない非粗化部とを有する加工基材を得る工程と、
B 前記加工基材において、前記粗化部の少なくとも一部を覆うように、金属粒子を含有する組成物を用いて金属粒子含有層を形成する工程と、
C ギ酸を含む還元雰囲気で前記金属粒子含有層における前記金属粒子を焼結させて、焼結体層における有機物の含有量が3質量%以下である焼結体層を形成する工程と、
D を備える、物品の製造方法。
(2)引用文献1の記載
原査定の拒絶の理由で引用された特開2004-207599号公報(以下「引用文献1」という。)には、以下の記載がある。なお、下線は強調のために当審で付した。
ア 「【0009】
【発明の実施の形態】
図1は、本発明に係る電子回路基板(以下、「基板」という)の製造手順を示す図であり、(a1)~(c1)は加工例を、(a2)~(c2)は基板の表面を示す図である。
【0010】
(1)第1の工程(粗化工程)
同図(a1)に示すように、絶縁材料からなる基板1の表面を粗化する。この場合、凹凸3の高さとしては5μm前後が好ましい。
粗化する手段としては、例えばCO2レーザやYAGレーザを照射することによる熱的作用を利用すると、表面を軽石状にすることができる。また、基板1が有機材料の場合はエキシマレーザを照射することによりその化学的作用(樹脂繊維の切断作用)を利用してもよい。
【0011】
また、表面を粗化する範囲としては、同図(a2)に示すように、レーザ光のビーム径を数μmから数10μmに微細化して回路パターンを形成しようとする部分あるいは回路パターンを形成しようとする部分とその周辺部だけを粗化しても良いし、ビーム径を大径にして基板表面全体を粗化するようにしても良い。
【0012】
なお、回路パターンを形成しようとする部分だけを粗化する場合、基板1への入熱量が小さくなるので、基板1に与える熱的影響を少なくできる。
【0013】
(2)第2の工程(敷線工程)
同図(b1)に示すように、導電性粒子(図示を省略する)が混入された流動体4を、回路パターンに合わせて付着させる。
付着させる手段としては、例えば、インクジェット方式により吐出ノズル5から導電性粒子が混入された揮発性成分を含む流動体の液滴4aを吐出させてもよいし、万年筆のペン先部と同様に、スリットを介して流すようにしてもよい。
【0014】
なお、回路パターンの線幅を数μm~数10μmにする場合、液滴4aの直径を2μm前後、液滴4aに混入する導電性粒子大きさを数nm~50nm前後にすると、良い結果を得ることができる。
【0015】
また、線幅10μmの回路パターンを形成する場合、液滴4aの直径を2μmとすると、1個の液滴4aが基板1表面上で直径5~7μm程度に広がるので、液滴4aの基板1上での広がりが例えば50%程度重なるようにするとよい。
【0016】
また、導電性粒子が混入した流動体4としては、例えばハリマ化成株式会社の商品名「ナノペースト」を用いることができる。
【0017】
(3)第3の工程(乾燥、固化工程)
上記第2の工程後、流動体中の揮発性成分が揮発するのを待っても良いが、ここでは、導電性粒子を積極的に固化させる。
すなわち、同図(c1)に示すように、回路パターンに合わせて付着された流動体4に、例えばレーザを照射して加熱する。このようにすると、自然乾燥よりも遥かに乾燥時間を短くでき、作業能率を向上させることができる。また、例えば、流動体4として上記ナノペーストを採用すると、200℃前後の加熱で銀成分の超微粒子が量子サイズ効果による低温焼結現象により金属粒子同士が結合するので、回路パターンに沿った導体4bを容易に形成することができる。
【0018】
さらに、流動体4中に溶媒として熱硬化性樹脂を含有させておくと、熱硬化性樹脂が固化することにより、導電性粒子を基板1表面により強固に固定することができる。
【0019】
なお、レーザにより回路パターン上の流動体4を加熱する場合、レーザを回路パターンに沿って照射させても良いし、基板1表面全体を照射するようにしても良い。
以上説明したように、本発明では、基板1表面を粗化させるので、導電性粒子を強力に基板1表面に固定することができる。」
イ 図1
[図:0001430895000001.jpg]
(3)引用発明の認定
前記(1)の記載によれば、引用文献1には、以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。なお、後の参照の便宜のため、引用発明にa1~dの記号を付して分説し、「a1」のようにして参照する。
〈引用発明〉
a1 基板1の表面を粗化する粗化工程であって、(【0010】)
a2 この場合、凹凸3の高さとしては5μm前後が好ましく、(【0010】)
a3 回路パターンを形成しようとする部分だけを粗化する粗化工程と、(【0011】)
b 導電性粒子が混入された流動体4を、回路パターンに合わせて付着させる敷線工程と、(【0013】)
c1 回路パターンに合わせて付着された流動体4にレーザを照射して加熱する固化工程であって、(【0017】)
c2 低温焼結現象により金属粒子同士が結合し、回路パターンに沿った導体4bを形成する固化工程と、(【0017】)
d を備える電子回路基板の製造手順。(【0009】)
(4)対比
本件補正発明と引用発明とを対比する。
ア 発明特定事項Aについて
発明特定事項Aは「基材の表面の一部に選択的に粗化処理を施し、前記粗化処理が施された、表面粗さが0.05~10.0μmである粗化部と前記粗化処理が施されていない非粗化部とを有する加工基材を得る工程と、」というものである。
引用発明の「基板1」(a1)は、本件補正発明の「基材」に相当する。
また、引用発明の「回路パターンを形成しようとする部分」(構成a3)は、「基板1の表面」(構成a1)の一部分であると解されるから、本件補正発明の「基材の表面の一部」に相当する。
そして、引用発明の「回路パターンを形成しようとする部分だけを粗化する」こと(構成a3)は、当該部分だけを選択的に粗化処理を施すことに相当し、当該部分は粗化部となり、それ以外の部分は非粗化部として残されると解される。このように粗化部及び非粗化部を有するようになった引用発明の「基板1」は、本件補正発明の「加工基材」に相当し、引用発明の「粗化工程」(構成a1、a3)は、本件補正発明の「加工基材を得る工程」に相当する。
以上によれば、本件補正発明と引用発明とは、「基材の表面の一部に選択的に粗化処理を施し、前記粗化処理が施された」「粗化部と前記粗化処理が施されていない非粗化部とを有する加工基材を得る工程」を備える点で共通するものの、本件補正発明の「粗化部」は「表面粗さが0.05~10.0μmである」のに対し、引用発明の「回路パターンを形成しようとする部分」の表面粗さは特定されていない点で相違する。
イ 発明特定事項Bについて
発明特定事項Bは「前記加工基材において、前記粗化部の少なくとも一部を覆うように、金属粒子を含有する組成物を用いて金属粒子含有層を形成する工程と、」というものである。
引用発明における「導電性粒子が混入された流動体4」(構成b)は、「流動体4にレーザを照射して加熱する」こと(構成c1)により「低温焼結現象により金属粒子同士が結合」する(構成c2)のだから、「導電性粒子」(構成b)は「金属粒子」(構成c2)であると解される。よって、引用発明の「導電性粒子」(構成b)すなわち「金属粒子」(構成c2)は、本件補正発明の「金属粒子」に相当し、引用発明の「導電性粒子が混入された流動体4」(構成b)は、本件補正発明の「金属粒子を含有する組成物」に相当する。
引用発明では、「導電性粒子が混入された流動体4を、回路パターンに合わせて付着させる敷線工程」(構成b)を備え、当該工程により、回路パターンに合わせて付着した流動体4の層が基板1の表面上に形成されると解される。引用発明の「流動体4」には、前述のとおり金属粒子が混入されているから、引用発明の前記工程により回路パターンに合わせて付着した流動体4の層は、本件補正発明の「金属粒子含有層」に相当する。よって、引用発明の「導電性粒子が混入された流動体4を、回路パターンに合わせて付着させる敷線工程」(構成b)は、本件補正発明の「金属粒子を含有する組成物を用いて金属粒子含有層を形成する工程」に相当する。
引用発明の「回路パターン」が「基板1の表面」にあることは、構成a1及びa3から明らかであり、構成bによれば、引用発明の回路パターンに合わせて付着した流動体4の層は、「回路パターン」の少なくとも一部を覆うように形成されることも明らかである。
そうすると、本件補正発明と引用発明とは、「前記加工基材において、前記粗化部の少なくとも一部を覆うように、金属粒子を含有する組成物を用いて金属粒子含有層を形成する工程」を備える点で一致する。
ウ 発明特定事項Cについて
発明特定事項Cは「ギ酸を含む還元雰囲気で前記金属粒子含有層における前記金属粒子を焼結させて、焼結体層における有機物の含有量が3質量%以下である焼結体層を形成する工程と、」というものである。
引用発明の「回路パターンに沿った導体4b」は、「低温焼結現象により金属粒子同士が結合し」て「形成」されたものである(構成c2)から、本件補正発明の「前記金属粒子を焼結させ」た「焼結体層」に相当し、引用発明の「導体4bを形成する固化工程」(構成c2)は、本件補正発明の「焼結体層を形成する工程」に相当する。
引用発明の「焼結体層」を形成するのは「固化工程」であり(構成c2)、「固化工程」は、「回路パターンに合わせて付着された流動体4にレーザを照射して加熱する」「工程」である(構成c1)から、「低温焼結現象により」「結合」する「金属粒子」(構成c2)は、「回路パターンに合わせて付着された流動体4」(構成c1)における金属粒子であると解される。
そうすると、本件補正発明と引用発明とは、「前記金属粒子含有層における前記金属粒子を焼結させて」「焼結体層を形成する工程」を備える点で共通するものの、本件補正発明は、焼結を「ギ酸を含む還元雰囲気で」行うのに対し、引用発明の「低温焼結」の雰囲気は特定されていない点で相違するとともに、本件補正発明は、「焼結体層における有機物の含有量が3質量%以下である」のに対し、引用発明の「導体4b」における有機物の含有量は特定されていない点で相違する。
エ 発明特定事項Dについて
発明特定事項Dは「を備える、物品の製造方法。」というものであり、「物品の製造方法」が発明特定事項A~Cを備えることを特定するものである。
引用発明の「電子回路基板」は、明らかに物品であるから、本件補正発明の「物品」に相当する。
引用発明は「電子回路基板の製造手順」(構成d)であって、前記ア~ウのとおり「粗化工程」(構成a1、a3)、「敷線工程」(構成b)及び「固化工程」(構成c1、c2)を備えるから、製造方法であると解される。
そうすると、本件補正発明と引用発明とは、加工基材を得る工程、金属粒子含有層を形成する工程及び焼結体層を形成する工程「を備える、物品の製造方法」である点で一致する。
オ 一致点及び相違点
前記ア~エによれば、本件補正発明と引用発明との一致点及び相違点は以下のとおりである。
〈一致点〉
「基材の表面の一部に選択的に粗化処理を施し、前記粗化処理が施された粗化部と前記粗化処理が施されていない非粗化部とを有する加工基材を得る工程と、
前記加工基材において、前記粗化部の少なくとも一部を覆うように、金属粒子を含有する組成物を用いて金属粒子含有層を形成する工程と、
前記金属粒子含有層における前記金属粒子を焼結させて焼結体層を形成する工程と、
を備える、物品の製造方法。」である点。
〈相違点1〉
本件補正発明の「粗化部」は「表面粗さが0.05~10.0μmである」のに対し、引用発明の「回路パターンを形成しようとする部分」の表面粗さは特定されていない点。
〈相違点2〉
本件補正発明は、焼結を「ギ酸を含む還元雰囲気で」行うのに対し、引用発明の「低温焼結」の雰囲気は特定されていない点。
〈相違点3〉
本件補正発明は、「焼結体層における有機物の含有量が3質量%以下である」のに対し、引用発明の「導体4b」における有機物の含有量は特定されていない点。
(5)相違点1についての判断
相違点1についての判断は、以下のア~ウのとおりである。
ア 金属配線を形成するにあたり、基材との密着性を高めるために、基材の表面粗さを0.05~10.0μmとすることは、文献を挙げるまでもない周知技術である。例えば、当審で新たに引用する特開2018-32783号公報(以下「文献A」という。)には、「樹脂層の凹凸面の算術平均粗さ(Ra)は、めっきピール強度を高めやすい観点から、0.1μm以上が好ましく、0.2μm以上がより好ましく、0.3μm以上が更に好ましい。樹脂層の凹凸面の算術平均粗さ(Ra)は、微細配線を形成しやすい観点から、2.5μm以下が好ましく、2.0μm以下がより好ましく、1.5μm以下が更に好ましく、1.0μm以下が特に好ましく、0.5μm以下が極めて好ましい。」(【0017】)との記載がある。
基材の表面粗さを0.05~10.0μmとすることは、引用発明とも整合する。引用発明の「粗化工程」の「凹凸3の高さ」は「5μm前後が好まし」い(構成a2)のだから、引用発明の粗化工程における算術平均粗さは5μm未満であると見積もることができ、かつ、ある程度の粗さがなければならないので、0.05~10.0μmの範囲にあることと矛盾しない。
よって、相違点1に係る構成は、当業者が容易になし得たと認められる。
イ 前記アについて、請求人は、概略、以下の主張1を主張する。
〈主張1〉
引用文献1には、粗化部の表面粗さについての記載がなく、粗化部の表
面粗さを所定の範囲にすることの動機となる記載がない。
また、原査定の拒絶の理由で引用された文献3及び4においても、粗化部の表面粗さについての記載がない。
したがって、当業者が、引用発明から出発して、仮に文献3及び4(さらには原査定の拒絶の理由で引用された文献2)の記載を参酌し得たとしても、相違点1に係る構成を採用したはずであるということはできない。
(手続補正書(方式)4頁38行~5頁3行)
ウ 主張1について検討する。
前記アで触れたように、引用発明には「粗化工程」の「凹凸3の高さ」が「5μm前後が好まし」い(構成a2)とされているのだから、引用発明は、「粗化工程」によって表面粗さを所定の範囲にすることが示唆されているといえ、その範囲の具体的な値は、文献を挙げるまでもない周知技術であるから、請求人の主張は採用できない。
(6)相違点2についての判断
相違点2についての判断は、以下のア~ウのとおりである。
ア 金属粒子の焼結を、ギ酸を含む還元雰囲気で行うことは、文献を示すまでもない周知技術である。例えば、原査定の拒絶の理由で引用された特開2006-287217号公報(文献3)には、「導電性配線を形成するため還元性雰囲気中で焼成することが要求されるが、ここで、還元性雰囲気には、酢酸、ギ酸または塩酸などが使われることができる。」(【0070】)との記載があり、原査定の拒絶の理由で引用された国際公開第2020/054581号(文献4)には、「焼結時の雰囲気は、焼結体の酸化抑制の観点から、無酸素雰囲気であってよく、銅ペースト層2中の銅粒子の表面酸化物を除去するという観点から、還元雰囲気であってもよい。…(略)…還元雰囲気としては、例えば、純水素ガス中、フォーミングガスに代表される水素及び窒素の混合ガス中、ギ酸ガスを含む窒素中、水素及び希ガスの混合ガス中、ギ酸ガスを含む希ガス中等が挙げられる。」([0060])との記載がある。
よって、相違点2に係る構成は、当業者が容易になし得たと認められる。
イ 前記アについて、請求人は、概略、以下の主張2を主張する。
〈主張2〉
引用文献1には、ギ酸を含む還元雰囲気で金属粒子を焼結させることについての記載がなく、文献3及び4には、焼結時の雰囲気として、ギ酸を含む還元雰囲気が例示されているものの、実際にギ酸を含む還元雰囲気で焼結を行ったものではない。
(意見書2頁35、36、40~44行)
ウ 主張2について検討する。
前記アで触れたように、金属粒子の焼結を、ギ酸を含む還元雰囲気で行うことは、文献を挙げるまでもない周知技術であり、文献3及び4に例示されているとおりである。このことは、文献3及び4にギ酸雰囲気下で焼結を行った実施例が記載されていないことに左右されない。
よって、請求人の主張は採用できない。
(7)相違点3についての判断
相違点3についての判断は、以下のア~ウのとおりである。
ア 原査定の拒絶の理由で引用された特開2020-1255号公報(文献2)には、「優れた導電性を達成する観点から、焼結体層3には有機物は残存していないことが好ましく、焼結体層3における有機物の含有量は好ましくは3質量%以下であり、より好ましくは1質量%以下である。」(【0031】)との記載がある。
配線パターンを形成する上で優れた導電性を達成することは当然に追求されるべき課題であり、さらに、引用発明も、文献2に記載された技術も、ともに基材に粗化部と非粗化部とを形成し、粗化部上に金属粒子を含有する組成物の層を形成し、金属粒子を焼成して焼結体層を形成することにより基材上に密着した配線パターンを製造する方法である(文献2については【0007】及び【0011】等を参照。)から、文献2に記載された技術における「焼結体層3」を、優れた導電性を達成する目的で、引用発明の「導体4b」に適用し、「焼結体層3における有機物の含有量」を「3質量%以下」とすることは、当業者が容易に想到し得たと認められる。
イ 前記アについて、請求人は、概略、以下の主張3を主張する。
〈主張3〉
引用文献1には、「さらに、流動体4中に溶媒として熱硬化性樹脂を含有させておくと、熱硬化性樹脂が固化することにより、導電性粒子を基板1表面により強固に固定することができる。」(【0018】)との記載がある。
このように引用文献1には、「基材に対する焼結体層の密着性」の観点から、熱硬化性樹脂を使用することが記載されており、これは、焼結体層における有機物の含有量が3質量%以下であるという要件とは反対方向への示唆といえる。
したがって、当業者が、引用発明から出発して、仮に文献3及び4(さらには文献2)の記載を参酌し得たとしても、本願発明の特徴点に到達するために、相違点3に係る構成を採用したはずであるということはできない。
(手続補正書(方式)4頁13~19行及び25~28行)
ウ 主張3について検討する。
引用文献1には、「以上説明したように、本発明では、基板1表面を粗化させるので、導電性粒子を強力に基板1表面に固定することができる。」(【0019】)との記載があり、当該記載によれば、「基板1表面を粗化させる」という手法により、「導電性粒子を強力に基板1表面に固定すること」は十分に達成できると解される。
そうすると、「熱硬化性樹脂が固化することにより、導電性粒子を基板1表面により強固に固定することができる。」(【0018】)という固定の手法は、「基板1表面を粗化させる」という手法とは別に、選択的に採用され得る手法であると解され、これを必須の固定の手法と解するのは妥当な解釈とはいえない。
そうすると、熱硬化性樹脂の固化による固定の手法を引用発明が必須とすることを前提とする請求人の主張は、前提において失当であり、採用できない。
(8)効果についての判断
本件補正発明の効果についての判断は、以下のア~オのとおりである。
ア 本件補正発明の効果は、「基材と、その表面上に形成された焼結体層とを備える物品において、焼結体層の導電性、基材に対する焼結体層の密着性、及び配線間の絶縁信頼性を高水準で満たす物品の製造方法が提供される。」(【0012】)というものである。
基材に別の物質を接するように設けるにあたり、基材の表面を粗化することにより、別の物質の食い付きを良くし、これにより密着性を向上することは、文献を挙げるまでもない周知技術であることに鑑みれば、引用発明が「回路パターンを形成しようとする部分だけを粗化する」こと(構成a3)を備える以上、回路パターンでの密着性が向上し、それ以外の部分での密着性が低下した結果、回路パターン以外の部分に金属が付着することはなく、回路パターンの密着性と配線間の絶縁信頼性を高水準で満たせることは、明らかである。
また、文献2には、「優れた導電性を達成する観点から、焼結体層3には有機物は残存していないことが好まし」いことが記載されている(前記(7)ア)以上、引用発明に対して文献2に記載の技術を適用した結果、優れた導電性を達成できることも明らかである。
そうすると、引用発明に文献2に記載の技術を適用したものは、本件補正発明と同等の効果を奏すると認められ、本件補正発明の効果は格別とは認められない。
イ 前記アについて、請求人は、概略、以下の主張4~6を主張する。
〈主張4〉
引用文献1には、焼結体層の密着性及び配線間の絶縁信頼性を高水準で満たすという効果を示唆する記載がなく、文献3及び文献4には、ギ酸を含む還元雰囲気で金属粒子を焼結させることによって、金属粒子とギ酸との反応物である金属含有成分が昇華して塗布部分以外に拡散し、焼結後に配線間の絶縁信頼性が低下するという問題が生じることがあるという本願発明の課題の前提となる点を傍証する記載もない。
(意見書2頁37~39、43~47行)
〈主張5〉
焼結体層における有機物の含有量と焼結体層の導電性との関係に関する記載がない引用文献1から、「焼結体層の導電性」と「基材に対する焼結体層の密着性」とを両立できるという効果は決して予測し得たものではない。
(手続補正書(方式)4頁20~22行)
〈主張6〉
本願発明において、粗化部の表面粗さが0.05~10.0μmであることの効果は、良好な密着強度の点にある。
(手続補正書(方式)4頁30、31行)
ウ 主張4について検討する。
前記(6)アで触れたように、金属粒子の焼結を、ギ酸を含む還元雰囲気で行うことは、文献を挙げるまでもない周知技術である。
また、引用発明における回路パターン間の絶縁信頼性を高める効果は、前記アで触れたように、「回路パターンを形成しようとする部分だけを粗化する」ことにより奏されるものであって、この効果は、焼結を行う雰囲気に左右されない。
よって、請求人の主張は採用できない。
エ 主張5について検討する。
文献2に、焼結体層における有機物の含有量を3.0質量%以下にすることにより優れた導電性が得られることが記載されている以上、請求人の主張は採用できない。
オ 主張6について検討する。
前記アで触れたように、基材に別の物質を接するように設けるにあたり、基材の表面を粗化することにより、別の物質の食い付きを良くし、これにより密着性を向上することは、文献を挙げるまでもない周知技術である。
また、前記(5)アで触れたように、金属配線を形成するにあたり、基材との密着性を高めるために、基材の表面粗さを0.05~10.0μmとすることは、文献を挙げるまでもない周知技術である。
これらに鑑みれば、基材の表面粗さを0.05~10.0μmとすることにより得られる密着性を高める効果は、格別のものとは認められない。
よって、請求人の主張は採用できない。
(9)小括
以上によれば、本件補正発明は、当業者が引用発明、文献2に記載された技術、並びに、文献A、文献3及び文献4に示される周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
よって、本件補正発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではない。
4 本件補正についてのむすび
前記3によれば、本件補正は、特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反するので、同法159条1項の規定において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。
よって、前記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。
第3 本願発明
本件補正は上述のとおり却下されたため、本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、前記第2[理由]1(1)の記載のとおりのものと認める。
第4 原査定の拒絶の理由の概要
原査定の拒絶の理由の概要は、以下のとおりである。
(進歩性)この出願の請求項1、2及び4に係る発明は、以下の文献1に記載された発明並びに文献3及び4に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
この出願の請求項3及び5に係る発明は、文献1に記載された発明、文献2~4に示される周知技術に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
文献1.特開2004-207599号公報
文献2.特開2020-1255号公報
文献3.特開2006-287217号公報
文献4.国際公開第2020/054581号
第5 文献1の記載事項
原査定の拒絶の理由で引用された文献1(この審決における引用文献1に対応)の記載及び当該記載から認定される引用発明は、前記第2[理由]3(2)及び(3)に示したとおりである。
第6 本願発明と引用発明との対比・判断
本願発明は、前記第2[理由]3で検討した本件補正発明の発明特定事項である「粗化部」について「表面粗さが0.05~10.0μmである」との限定を削除し、さらに、本件補正発明の発明特定事項である「焼結体層」について「焼結体層における有機物の含有量が3質量%以下である」との限定を削除したものである(前記第2[理由]2を参照)。
そして、「粗化部」について「表面粗さが0.05~10.0μmである」とする発明特定事項は、相違点1に係るものであり、「焼結体層における有機物の含有量が3質量%以下である」とする発明特定事項は、相違点3に係るものである。
本件補正発明は、前記第2[理由]3に示したとおり、引用発明との間に相違点1~相違点3があるものの、相違点1に係る構成は、文献Aに示される周知技術により容易になし得、相違点2に係る構成は、文献3及び文献4に示される周知技術により容易になし得、相違点3に係る構成は、文献2に記載された技術により容易に想到し得たものであるから、本件補正発明から相違点1及び相違点3に係る発明特定事項が除かれた本願発明は、引用発明並びに文献3及び文献4に示される周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
第7 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明並びに文献3及び文献4に示される周知技術に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2024-020882