特許拒絶査定不服審判
2016-002514
太陽電池封止シート、並びに太陽電池モジュール及びその製造方法
- 審判番号
- 2016-002514
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2014-522654外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2016年02月19日
- 審決日
- 2017年03月13日
- 公報発行日
- 2017年06月30日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】三井化学東セロ株式会社
- 【請求人代理人】宮崎 昭夫
- 【請求人代理人】泉 佐和
- 【請求人代理人】緒方 雅昭
- 分類
- P18 .121-WZ (H01L)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特願2014-522654「太陽電池封止シート、並びに太陽電池モジュール及びその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 1月 3日国際公開、WO2014/003046〕について、次のとおり審決する。
結論
【結 論】
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
【理 由】
1 手続の経緯
本願は、2013年(平成25年)6月26日(優先権主張 2012年6月26日 日本国)を国際出願日とする出願であって、平成27年4月17日付けで拒絶の理由が通知され、これに対して、同年6月19日に意見書及び手続補正書が提出されたが、同年11月18日付けで拒絶査定がなされ、同査定の謄本は同月24日に請求人に送達された。これに対して、平成28年2月19日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、同時に手続補正がなされ、当審において、同年10月13日付けで拒絶理由を通知し、応答期間内である同年12月15日に意見書及び手続補正書が提出されたところである。
2 本願発明
この出願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成28年12月15日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものと認める。
「【請求項1】
太陽電池モジュールの発電素子に対する受光面側封止シートと裏面側封止シートとからなる一対の太陽電池封止シートであって、
前記裏面側封止シートの示差走査型熱量測定(DSC)に基づく融解ピーク温度が、前記受光面側封止シートの示差走査型熱量測定(DSC)に基づく融解ピーク温度よりも高く、
前記裏面側封止シートが、ASTM D1505に準拠して測定される密度が900~940kg/m3、DSCに基づく融解ピーク温度が90~125℃であるエチレン・α-オレフィン共重合体をエチレン性不飽和シラン化合物で変性したエチレン系重合体と、着色剤とを含み、
前記エチレン・α-オレフィン共重合体のエチレンに由来する構成単位の含有割合が90~98mol%であり、α-オレフィンに由来する構成単位の含有割合が2~10mol%であり、
前記受光面側封止シートが、酢酸ビニル含量が10~47質量%であり、DSCに基づく融解ピーク温度が90℃未満であり、ASTM D1238に準拠し、190℃、2.16kg荷重の条件で測定されるメルトフローレート(MFR)が、10~35g/10分である、エチレン-酢酸ビニル共重合体を含み、
前記太陽電池封止シートは、さらに、架橋剤を含有し、該架橋剤の配合量は、樹脂成分である重合体100質量部に対して、0.1~1.6質量部である事を特徴とする太陽電池封止シート。」
3 引用文献
(1)引用文献1
ア 当審において通知した拒絶の理由に引用された特開2006-210405号公報(以下、「引用文献1」という。)には,次の事項が図面とともに記載されている。なお、下線は当審で付与したものである。
a「【0019】
1.第1態様
本態様の太陽電池モジュールは、透明前面基板と、表面充填材層と、配線電極および取り出し電極が配置された太陽電池素子と、エチレン性不飽和シラン化合物および重合用ポリエチレンを重合させてなるシラン変性樹脂を含有する裏面充填材層と、がこの順に積層されてなる太陽電池モジュールであって、上記裏面充填材層の融点が、上記表面充填材層の融点よりも高いことを特徴とするものである。
【0020】
本態様においては、上記裏面充填材層の融点が、上記表面充填材層の融点よりも高いため、モジュール作製における圧着の際に、裏面充填材層よりも先に表面充填材層の軟化が起こる。そのため、太陽電池素子が、より表面充填材層側に埋め込まれた太陽電池モジュールを得ることができ、その結果、モジュール背面側の電気絶縁性を充分に確保することができる。さらに、太陽電池素子の配線電極、取り出し電極等のリード線がモジュール背面側に露出することも防止することもできる。また、上記圧着の際に、太陽電池素子が、軟化した表面充填材層を押出すように埋め込まれていくので、表面充填材層と太陽電池素子との間に裏面充填材層が侵入することを抑制することができ、裏面充填材層が白色着色剤等を含有する場合であっても、白色着色剤等のまわりこみを防止することができる。その結果、白色着色剤等が太陽電池素子の前面側(入射光側)の一部を覆うことによる発電効率の低下を防止することができるという利点を有する。また、上記シラン変性樹脂は、水蒸気バリア性が良好なため、背面保護シートを有さない太陽電池モジュールの作製が可能になる。また、上記裏面充填材層は、上記シラン変性樹脂を有しているため、太陽電池素子との密着性に優れ、かつ主鎖がポリエチレンからなるものであることから有害なガスを発生させず、作業環境を悪化させないという利点を有する。
【0021】
次に、本発明の太陽電池モジュールについて図を用いて詳細に説明する。本発明の太陽電池モジュールは、例えば図1に示すように、透明前面基板1と、表面充填材層2と、配線電極3および取り出し電極4が配置された太陽電池素子5と、エチレン性不飽和シラン化合物および重合用ポリエチレンを重合させてなるシラン変性樹脂を含有する裏面充填材層6と、がこの順に積層されてなるものである。本態様においては、上記裏面充填材層6の融点が、上記表面充填材層2の融点よりも高いことから、太陽電池素子3が、より表面充填材層2側に埋め込まれた太陽電池モジュールを得ることができる。その結果、裏面充填材層6側の電気絶縁性を確保することができ、さらに、配線電極3および取り出し電極4の裏面充填材層側部分(配線電極3´、取り出し電極4´)が、太陽電池モジュールの背面側に露出することを防止することができる。
以下、本態様の太陽電池モジュールの各構成について説明する。
【0022】
(1)裏面充填材層
まず、本態様に用いられる裏面充填材層について説明する。本態様に用いられる裏面充填材層は、太陽電池素子の裏面側に配置され、後述する表面充填材層よりも融点が高く、エチレン性不飽和シラン化合物と重合用ポリエチレンとを重合させてなるシラン変性樹脂を含有することを特徴とするものである。
【0023】
本態様においては、上記裏面充填材層の融点が、後述する表面充填材層よりも高いことから、モジュール作製における圧着の際に、裏面充填材層よりも先に表面充填材層の軟化が起き、太陽電池素子が、より表面充填材層側に埋め込まれた太陽電池モジュールとすることができる。
【0024】
なお、本態様における融点とは、裏面充填材層等を構成する樹脂が融解し始める温度であり、プラスチックの転移温度測定方法(JISK7121)に準拠した示差走査熱量分析(DSC)により求めることができる。なお、その際、融点ピークが2つ以上存在する場合は高い温度の方を融点とする。また、本態様においては、上記裏面充填材層の融点が、表面充填材層の融点よりも高いものであれば、特に限定されるものではないが、中でも両融点の差が5℃以上であることが好ましく、特に10℃~35℃の範囲内であることがより好ましい。
【0025】
また、このような裏面充填材層の融点としては、表面充填材層の融点よりも高いものであれば、特に限定されるものではないが、具体的には、135℃以下であることが好ましく、65℃~135℃の範囲内であることがより好ましく、70℃~130℃の範囲内であることがさらに好ましい。上記範囲内であれば、太陽電池モジュール製造時における加工性等に優れるからである。
【0026】
(a)シラン変性樹脂
本態様に用いられるシラン変性樹脂は、エチレン性不飽和シラン化合物と重合用ポリエチレンとを重合させてなるものである。このようなシラン変性樹脂は、エチレン性不飽和シラン化合物と重合用ポリエチレンとラジカル発生剤とを混合し、高温で溶融撹拌し、エチレン性不飽和シラン化合物を重合用ポリエチレンにグラフト重合させることにより得ることができる。
【0027】
上記重合用ポリエチレンとしては、ポリエチレン系のポリマーであれば特に限定されないが、具体的には、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、超低密度ポリエチレン、極超低密度ポリエチレン、または直鎖状低密度ポリエチレンが好ましい。また、これらを1種ないし2種以上を用いることもできる。
【0028】
さらに、上記重合用ポリエチレンとしては、側鎖の多いポリエチレンが好ましい。ここで通常、側鎖の多いポリエチレンは、密度が低く、側鎖の少ないポリエチレンは、密度が高いものである。したがって、密度の低いポリエチレンが好ましいといえる。本態様における重合用ポリエチレンの密度としては、0.850~0.960g/cm3の範囲内が好ましく、より好ましくは0.865~0.930g/cm3の範囲内である。重合用ポリエチレンが側鎖の多いポリエチレン、すなわち密度の低いポリエチレンであれば、エチレン性不飽和シラン化合物が重合用ポリエチレンにグラフト重合しやすくなるからである。」
b「【0042】
(d)裏面充填材層
本態様に用いられる裏面充填材層は、無機化合物からなる白色着色剤を含有することが好ましい。上記白色着色剤が入射光を反射し、発電効率の向上を図ることができるからである。このような白色着色剤としては、特に限定されるものではないが、例えば、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化アンチモン等が挙げられ、中でも汎用性の観点から酸化チタンを使用することが好ましい。このような白色着色剤は、後述するように、充填材層用材料を調製する際に添加される。」
【0047】
また、上記裏面充填材層は、太陽電池モジュールに用いた場合、ゲル分率が低いことが好ましい。このため、シラン変性樹脂が架橋構造を形成する必要がない。したがって、架橋剤またはシラノール基の縮合反応を促進させる触媒等は特に必要ないものである。具体的には、ジブチル錫ジアセテート、ジブチル錫ジラウレート、ジブチル錫ジオクテート、ジオクチル錫ジラウレートといったシリコーンのシラノール間の脱水縮合反応を促進するシラノール縮合触媒が、実質的に含まれていないことが好ましい。ここで、実質的に含まれていないとは、裏面充填材層を構成する樹脂100重量部に対して、0.05重量部以下である場合をいう。
c「【0057】
(2)表面充填材層
次に、本態様の太陽電池モジュールに用いられる表面充填材層について説明する。本態様に用いられる表面充填材層は、後述する透明前面基板と太陽電池素子との間に配置され、上述した裏面充填材層よりも融点が低いことを特徴とするものである。本態様においては、上記表面充填材層の融点が、上述した裏面充填材層よりも低いことから、モジュール作製における圧着の際に、裏面充填材層よりも先に軟化し、太陽電池素子が、より表面充填材層側に埋め込まれた太陽電池モジュールとすることができる。なお、上記表面充填材層の融点の測定方法は、上述した方法と同様であるので、ここでの説明は省略する。
【0058】
また、本態様に用いられる表面充填材層の融点としては、上述した裏面充填材層の融点よりも低いものであれば、特に限定されるものではないが、具体的には、130℃以下であることが好ましく、60℃~130℃の範囲内であることがより好ましく、65℃~125℃の範囲内であることがさらに好ましい。上記範囲内であれば、太陽電池モジュール製造時における加工性等に優れるからである。
【0059】
また、上記表面充填材層に用いられる材料としては、本発明の目的に適う太陽電池モジュールを得ることができるものであれば、特に限定されるものではないが、中でも、上述した裏面充填材層と同様の材料を使用することが好ましい。また、上記表面充填材層に用いられる材料として、一般的な太陽電池モジュールに用いられるエチレン-酢酸ビニル共重合体樹脂等を使用することもできる。」
d「【0063】
(5)太陽電池モジュール
本態様の太陽電池モジュールは、透明前面基板と、表面充填材層と、太陽電池素子と、裏面充填材層と、がこの順に積層されてなるものである。本態様の太陽電池モジュールは、上記部材に加えて、上記裏面充填材層に積層された背面保護シートを有していても良い。このような背面保護シートを有する太陽電池モジュールとしては、例えば、図2に示すように、透明前面基板1と、表面充填材層2と、配線電極3および取り出し電極4が配置された太陽電池素子5と、裏面充填材層6と、背面保護シート7と、がこの順に積層されたものを挙げることができる。本発明においては、背面保護シートを設けることで、機械強度、電気絶縁性、水蒸気バリア性等が向上するからである。このような背面保護シートとしては、特に限定されるものではないが、アルミニウム等の金属板もしくは金属箔、フッ素系樹脂シート、環状ポリオレフィン系樹脂シート、ポリカーボネート系樹脂シート、ポリ(メタ)アクリル系樹脂シート、ポリアミド系樹脂シート、ポリエステル系樹脂シート、または耐候性フィルムとバリアフィルムとをラミネート積層した複合シート等が挙げられる。また、本態様の太陽電池モジュールは、背面保護シートを有さない場合において良好な電気絶縁性を有することが好ましい。
【0064】
(6)太陽電池モジュールの製造方法
次に、本態様の太陽電池モジュールの製造方法について説明する。本態様の太陽電池モジュールの製造方法としては、例えば、透明前面基板、表面充填材層、太陽電池素子、本裏面充填材層等を順次に積層し、次いで、これらを一体として、真空吸引して加熱圧着するラミネーション法等の通常の成形方法等を挙げることができる。」
e「【0076】
[実施例1]
(1)シラン変性樹脂の調整
密度0.898g/cm3、融点90℃の直鎖状低密度ポリエチレン(以下、LLDPEと称する)100重量部に対し、ビニルトリメトキシシラン2.5重量部、ラジカル発生剤(反応触媒)としてジクミルパーオキサイド0.1重量部を混合し、200℃で加熱溶融攪拌し、シラン変性樹脂を得た。
【0077】
(2)裏面充填材層の形成
上記シラン変性樹脂20重量部、及び、密度0.918g/cm3、融点116℃のLLDPE80重量部に対して、あらかじめ作成した耐候剤マスターバッチ5重量部(LDPE100重量部に対して、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤3.75重量部、ヒンダードアミン系光安定化剤3.75重量部、リン系熱安定化剤0.5重量部を混合して溶融、加工しペレット化したもの)及び、酸化チタンを70重量%含有する白色マスターバッチ7重量部(東洋インキ社製TET1KA861)を混合したものを裏面充填材層材料とした。φ25mm押出し機、300mm幅のTダイスを有するフィルム成形機を用いて、押出し温度230℃、引き取り速度1.8m/minで総厚600μmの裏面充填材層を得た。得られた充填材層の融点は、94℃であった。
【0078】
(3)表面充填材層の形成
一方、上記シラン変性樹脂20重量部、及び、密度0.898g/cm3、融点97℃のLLDPE80重量部に対して、上記同様の耐候剤マスターバッチ5重量部を混合し、上記成膜装置にて引き取り速度1.5m/minで厚さ800μmの表面充填材層を得た。得られた充填材層の融点は、80℃であった。」
イ 以上のことから、引用文献1には、以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「透明前面基板と、表面充填材層と、配線電極および取り出し電極が配置された太陽電池素子と、エチレン性不飽和シラン化合物および重合用ポリエチレンを重合させてなるシラン変性樹脂を含有する裏面充填材層と、がこの順に積層されてなる太陽電池モジュールであって、上記裏面充填材層の融点が、上記表面充填材層の融点よりも高く、
融点は、プラスチックの転移温度測定方法(JISK7121)に準拠した示差走査熱量分析(DSC)により求めることができ、
裏面充填材層の融点としては、70℃~130℃の範囲内であり、表面充填材層の融点としては、65℃~125℃の範囲内であり、
重合用ポリエチレンの密度としては、0.865~0.930g/cm3の範囲内であり、
裏面充填材層は、白色着色剤を含有し、
架橋剤またはシラノール基の縮合反応を促進させる触媒等は、裏面充填材層を構成する樹脂100重量部に対して、0.05重量部以下であり、
表面充填材層に用いられる材料は、エチレン-酢酸ビニル共重合体樹脂である、
太陽電池モジュール。」
(2)引用文献2
ア 当審において通知した拒絶の理由に引用された国際公開第2010/140384号(以下「引用文献2」という。)には、次の記載がある。なお、下線は当審で付与したものである。
a「[0012] 具体的には、
[1]シラン化合物および/またはシラン変性樹脂を含む太陽電池封止膜と、前記太陽電池封止膜を包装する包装袋と、を含んでなる包装体であって、前記包装体の内部の絶対湿度が1~15g/m3である、太陽電池封止膜の保存用または運搬用の包装体。
[2]前記太陽電池封止膜の主たる構成成分がエチレン・α-オレフィン共重合体である、前記[1]に記載の太陽電池封止膜の保存用または運搬用の包装体。
[3]前記エチレン・α-オレフィン共重合体が下記a)~e)の要件を全て満たす、前記[2]に記載の太陽電池封止膜の保存用または運搬用の包装体。
a)密度が900~940kg/m3である。
b)示差走査熱量測定(DSC)に基づく融解ピーク温度が90~125℃である。
c)JIS K-6721に準拠し、190℃、2.16kg荷重にて測定されるメルトフローレート(MFR2)が0.1~100g/10分である。
d)Mw/Mnの値が1.2~3.5である。
e)金属残渣が50重量ppm以下である。」
b「[0042] エチレン・α-オレフィン共重合体の密度は、α-オレフィン等の共重合成分の割合に依存する。共重合成分の割合が少ないほど、得られるエチレン・α-オレフィン共重合体の密度は高くなる。一方、共重合成分の割合が多いほど、得られるエチレン・α-オレフィン共重合体の密度は低くなる。また、エチレン・α-オレフィン共重合体中の共重合成分の割合は、重合系内における共重合成分とエチレンとの組成比(共重合成分/エチレン)により決定されることが知られている(例えばWalter Kaminsky,Makromol.Chem.193,p.606(1992))。このため、「共重合成分/エチレン」の比の値を増減させることで、得られるエチレン・α-オレフィン共重合体の密度を増減させることが可能である。
・・・(途中省略)・・・
[0044] エチレン・α-オレフィン共重合体の融解ピーク温度も、密度と同様にα-オレフィン等の共重合成分の割合に依存する。共重合成分の割合が少ないほど、得られるエチレン・α-オレフィン共重合体の融解ピーク温度は高くなる。一方、共重合成分の割合が多いほど、得られるエチレン・α-オレフィン共重合体の融解ピーク温度は低くなる。また、エチレン・α-オレフィン共重合体中の共重合成分の割合は、重合系内における共重合成分とエチレンとの組成比(共重合成分/エチレン)により決定されることが知られている(例えばWalter Kaminsky,Makromol.Chem.193,p.606(1992))。このため、「共重合成分/エチレン」の比の値を増減させることで、得られるエチレン・α-オレフィン共重合体の融解ピーク温度を変化させることが可能である。」
イ 上記aの記載から、引用文献2には、
「シラン変性樹脂を含む太陽電池封止膜の主たる構成成分がエチレン・α-オレフィン共重合体において、エチレン・α-オレフィン共重合体は、密度が900~940kg/m3であり、示差走査熱量測定(DSC)に基づく融解ピーク温度が90~125℃である。」との技術事項が記載されていると認められる。
ウ 上記b記載から、引用文献2には、
「「共重合成分/エチレン」の比の値を増減させることで、得られるエチレン・α-オレフィン共重合体の密度を増減させることが可能であり、また、得られるエチレン・α-オレフィン共重合体の融解ピーク温度を変化させることが可能である。」との技術事項が記載されていると認められる。
(3)引用文献3
当審において通知した拒絶の理由に引用された国際公開第2006/085603号(以下「引用文献3」という。)には、次の記載がある。なお、下線は当審で付与したものである。
「[0044]以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。尚、実施例及び比較例で用 いる原料及び評価方法を以下に示す。
1.原料
(1)EVA:エチレン・酢酸ビニル共重合体(酢酸ビニル含量:28重量%、MFR:15g/10分)
(2)有機過酸化物A:2,5ジメチル-2,5ビス(第3ブチルパーオキシ)へキサン 、商品名:ルバゾール101、アトケム吉富 (株)製、1時間半減期温度:140℃
(3)有機過酸化物B:第3ブチルパーオキシ-2-エチルへキシルカーボネート、商 品名:ルパゾールTBEC、アトケム吉富 (株)製、 1時間半減期温度:121℃
(4)架橋助剤:トリアリルイソシアヌレート(TAIC)
(5)シランカップリング剤:γ―メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、商品名:KBM503、信越化学工業 (株)製 」
「[0047][実施例1]
上記したEVAのペレット5000g、架橋助剤TAIC100g及びシランカップリング剤25gを混合し、含浸のため1昼夜放置した。得られた含浸ペレットを、40mmφシート 成形機にて厚み0.5mmに成形した。このシート100gに対して、液状有機過酸化物A1.5gをバーコ一ターにて均一に塗布した後、2週間エージングした。得られたシートサンプルを膨れ性及び架橋速度の評価に用いた。結果を表1に示す。 」
4 対比
(1)以下、本願発明と引用発明とを対比する。
ア 引用発明の「太陽電池素子」、「表面充填材層」及び「裏面充填材層」は、それぞれ本願発明の「発電素子」、「受光面側封止シート」及び「裏面側封止シート」に相当し、引用発明の「『表面充填材層』及び『裏面充填材層』」は、本願発明の「受光面側封止シートと裏面側封止シートとからなる一対の太陽電池封止シート」に相当する。
イ 引用発明の「上記裏面充填材層の融点が、上記表面充填材層の融点よりも高」いことは、「融点は、プラスチックの転移温度測定方法(JISK7121)に準拠した示差走査熱量分析(DSC)により求めることができ」ることに鑑みれば、本願発明の「前記裏面側封止シートの示差走査型熱量測定(DSC)に基づく融解ピーク温度が、前記受光面側封止シートの示差走査型熱量測定(DSC)に基づく融解ピーク温度よりも高」いことに相当する。
ウ 引用発明の「エチレン性不飽和シラン化合物および重合用ポリエチレンを重合させてなるシラン変性樹脂を含有する裏面充填材層」は、「白色着色剤を含有」することと、本願発明の「前記裏面側封止シートが、ASTM D1505に準拠して測定される密度が900~940kg/m3、DSCに基づく融解ピーク温度が90~125℃であるエチレン・α-オレフィン共重合体をエチレン性不飽和シラン化合物により変性して得られるエチレン系重合体と、着色剤とを含」むことは、共に「前記裏面側封止シートが、エチレン系の重合体をエチレン性不飽和シラン化合物により変性して得られるエチレン系重合体と、着色剤とを含」む点で共通する。
エ 引用発明の「表面充填材層に用いられる材料は、エチレン-酢酸ビニル共重合体樹脂である」ことと、本願発明の「前記受光面側封止シートが、酢酸ビニル含量が10~47質量%であり、DSCに基づく融解ピーク温度が90℃未満であり、ASTM D1238に準拠し、190℃、2.16kg荷重の条件で測定されるメルトフローレート(MFR)が、10~35g/10分である、エチレン-酢酸ビニル共重合体を含む」ことは、共に「前記受光面側封止シートが、エチレン-酢酸ビニル共重合体を含む」点で共通する。
(2)一致点
本願発明と引用発明とは、以下の点で一致する。
「太陽電池モジュールの発電素子に対する受光面側封止シートと裏面側封止シートとからなる一対の太陽電池封止シートであって、
前記裏面側封止シートの示差走査型熱量測定(DSC)に基づく融解ピーク温度が、前記受光面側封止シートの示差走査型熱量測定(DSC)に基づく融解ピーク温度よりも高く、
前記裏面側封止シートが、エチレン系の重合体をエチレン性不飽和シラン化合物により変性して得られるエチレン系重合体と、着色剤とを含み、
前記受光面側封止シートが、エチレン-酢酸ビニル共重合体を含む太陽電池封止シート。」
(3)相違点
本願発明と引用発明とは、以下の点で相違する。
ア 相違点1
エチレン系の重合体が、本願発明は、「ASTM D1505に準拠して測定される密度が900~940kg/m3、DSCに基づく融解ピーク温度が90~125℃であるエチレン・α-オレフィン共重合体」であり、「前記エチレン・α-オレフィン共重合体のエチレンに由来する構成単位の含有割合が90~98mol%であり、α-オレフィンに由来する構成単位の含有割合が2~10mol%であ」るのに対し、引用発明は、「重合用ポリエチレンの密度としては、0.865~0.930g/cm3の範囲内であり、裏面充填材層の融点としては、70℃~130℃の範囲内であ」り、材料の由来成分比について具体的な特定がない点。
イ 相違点2
「受光面側封止シート」の「エチレン-酢酸ビニル共重合体」が、本願発明は、「酢酸ビニル含量が10~47質量%であり、DSCに基づく融解ピーク温度が90℃未満であり、ASTM D1238に準拠し、190℃、2.16kg荷重の条件で測定されるメルトフローレート(MFR)が、10~35g/10分である」のに対し、引用発明は、そのような特定がない点。
ウ 相違点3
本願発明の「受光面側封止シートと裏面側封止シートとからなる一対の太陽電池封止シート」は、「さらに、架橋剤を含有し、該架橋剤の配合量は、樹脂成分である重合体100質量部に対して、0.1~1.6質量部である」のに対し、引用発明の「表面充填材層及び裏面充填材層」について、表面充填材層は架橋剤についての特定がなく、裏面充填材層は「架橋剤またはシラノール基の縮合反応を促進させる触媒等は、裏面充填材層を構成する樹脂100重量部に対して、0.05重量部以下であ」る点。
5 当審の判断
(1)相違点1について
引用発明に用いられる「重合用ポリエチレン」について、引用文献1には、段落【0027】に「上記重合用ポリエチレンとしては、ポリエチレン系のポリマーであれば特に限定されない」との記載があることから、具体的に何と(共)重合させるかは、当業者が必要に応じて適宜選択し得るところであり、また、例えば、国際公開第2012/057292号に太陽電池の封止樹脂層に用いられる「ポリエチレン系重合体」として、エチレン-α-オレフィン共重合体が記載されている(段落[0072]~[0076]参照。)ように、太陽電池の封止樹脂層に用いられる「ポリエチレン系重合体」にエチレン-α-オレフィン共重合体が含まれることは明らかであるから、引用発明の「重合用ポリエチレン」として、エチレン-α-オレフィン共重合体を採用することに困難性は見いだせない。
また、引用文献2に、「シラン変性樹脂を含む太陽電池封止膜の主たる構成成分がエチレン・α-オレフィン共重合体において、エチレン・α-オレフィン共重合体は、密度が900~940kg/m3であり、示差走査熱量測定(DSC)に基づく融解ピーク温度が90~125℃である。」との技術事項、及び「「共重合成分/エチレン」の比の値を増減させることで、得られるエチレン・α-オレフィン共重合体の密度を増減させることが可能であり、また、得られるエチレン・α-オレフィン共重合体の融解ピーク温度を変化させることが可能である。」との技術事項が記載されているように、引用発明に用いられる「重合用ポリエチレン」としてエチレン・α-オレフィン共重合体を選択した際に、密度を900~940kg/m3に、融解ピーク温度を90~125℃にすることは、それぞれの範囲内に引用文献1に記載された実施例の密度(0.918g/cm3)、融点(116℃)が入ることからすると(段落【0077】参照。)、当業者が適宜採用し得る範囲であるといえ、「共重合成分/エチレン」の比の値、言い換えると「エチレン・α-オレフィン共重合体のエチレンに由来する構成単位の含有割合」と「α-オレフィンに由来する構成単位の含有割合」をどのように設定するかは、得ようとする密度や融解ピーク温度に応じて、当業者が適宜設定し得る事項といえる。
したがって、引用発明の「重合用ポリエチレン」について、相違点1に係る構成とすることは、当業者が容易に想到し得ることである。
(2)相違点2について
引用文献1に実施例として、
「【0078】
(3)表面充填材層の形成
・・・表面充填材層を得た。得られた充填材層の融点は、80℃であった。」
との記載があること、及び引用文献3の段落[0044]に、太陽電池封止材に用いられるエチレン・酢酸ビニル共重合体について、「EVA:エチレン・酢酸ビニル共重合体(酢酸ビニル含量:28重量%、MFR:15g/10分)」と記載されていることに鑑みるに、引用発明の「表面充填材層」の「エチレン-酢酸ビニル共重合体」において、相違点2に係る酢酸ビニル含量、DSCに基づく融解ピーク温度、MFRの範囲内の値を採用することは、当業者が適宜選択し得る設計事項であるといえる。
(3)相違点3について
引用発明の裏面充填材層では、架橋剤は、裏面充填材層を構成する樹脂100重量部に対して、0.05重量部以下であるが、表面充填材層では、架橋剤は特に必要ないものとはされていない。
表面充填材層に用いられる材料については、段落【0059】に以下の記載がある。
「【0059】
また、上記表面充填材層に用いられる材料としては、本発明の目的に適う太陽電池モジュールを得ることができるものであれば、特に限定されるものではないが、中でも、上述した裏面充填材層と同様の材料を使用することが好ましい。また、上記表面充填材層に用いられる材料として、一般的な太陽電池モジュールに用いられるエチレン-酢酸ビニル共重合体樹脂等を使用することもできる。」(なお、下線は当審で付与した。)
一般的な太陽電池モジュールに用いられるエチレン-酢酸ビニル共重合体樹脂において、架橋剤を添加することは一般的なことであり(例えば、引用文献3の「[0047][実施例1]上記したEVAのペレット5000g・・・このシート100gに対して、液状有機過酸化物A1.5gをバーコ一ターにて均一に塗布した」)との記載の「有機過酸化物A」は、「2,5ジメチル-2,5ビス(第3ブチルパーオキシ)へキサン」(段落[0044])であり、本願明細書に架橋剤の具体例(段落【0025】)として挙げられている材料と同じものである。)、どの程度の架橋剤を添加するかは、当業者が適宜決定し得る設計事項である。
してみると、引用発明において、「エチレン性不飽和シラン化合物および重合用ポリエチレンを重合させてなるシラン変性樹脂を含有する裏面充填材層」には、架橋剤を裏面充填材層を構成する樹脂100重量部に対して、0.05重量部以下添加し、「エチレン-酢酸ビニル共重合体樹脂である」表面充填材層に必要とされる適宜の量の架橋剤を添加し、「表面充填材層」及び「裏面充填材層」全体として、相違点3に係る構成とすることは、当業者が容易になし得ることである。
(4)効果について
引用文献1には、「【0020】本態様においては、上記裏面充填材層の融点が、上記表面充填材層の融点よりも高いため、モジュール作製における圧着の際に、裏面充填材層よりも先に表面充填材層の軟化が起こる。そのため、太陽電池素子が、より表面充填材層側に埋め込まれた太陽電池モジュールを得ることができ、その結果、モジュール背面側の電気絶縁性を充分に確保することができる。さらに、太陽電池素子の配線電極、取り出し電極等のリード線がモジュール背面側に露出することも防止することもできる。また、上記圧着の際に、太陽電池素子が、軟化した表面充填材層を押出すように埋め込まれていくので、表面充填材層と太陽電池素子との間に裏面充填材層が侵入することを抑制することができ、裏面充填材層が白色着色剤等を含有する場合であっても、白色着色剤等のまわりこみを防止することができる。その結果、白色着色剤等が太陽電池素子の前面側(入射光側)の一部を覆うことによる発電効率の低下を防止することができるという利点を有する。また、上記シラン変性樹脂は、水蒸気バリア性が良好なため、背面保護シートを有さない太陽電池モジュールの作製が可能になる。また、上記裏面充填材層は、上記シラン変性樹脂を有しているため、太陽電池素子との密着性に優れ、かつ主鎖がポリエチレンからなるものであることから有害なガスを発生させず、作業環境を悪化させないという利点を有する。」との記載があるように、本願発明の奏する効果は、引用発明の奏する効果に比べ格別のものとは言えない。
(5)小活
したがって、本願発明は、引用発明及び引用文献2、3に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
6 むすび
以上のとおりであるから、本願発明は、引用発明及び引用文献2、3に記載された技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その余の請求項に係る発明において検討するまでもなく、本願は、拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2016-002514