特許拒絶査定不服審判
2016-001584
太陽電池封止シート、並びに太陽電池モジュール及びその製造方法
- 審判番号
- 2016-001584
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2012-136833外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2016年02月03日
- 審決日
- 2017年03月06日
- 公報発行日
- 2017年06月30日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】三井化学東セロ株式会社
- 【請求人代理人】宮崎 昭夫
- 【請求人代理人】鈴木 雄太
- 【請求人代理人】緒方 雅昭
- 分類
- P18 .121-WZ (H01L)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特願2012-136833「太陽電池封止シート、並びに太陽電池モジュール及びその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 1月 9日出願公開、特開2014- 3118〕について、次のとおり審決する。
結論
【結 論】
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
【理 由】
第1手続の経緯
この審判事件に関する出願(以下、「本願」という。)は、平成24年6月18日の出願であって、平成27年4月14日付け(発送:同年同月21日)で拒絶理由を通知したところ、同年6月19日付けで意見書が提出されるとともに、特許請求の範囲及び明細書についての補正がなされ、同年11月16日(送達:同年同月24日)で拒絶査定がなされ、これに対し、平成28年2月3日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。
その後、当審より平成28年10月5日付け(発送:同年同月11日)で拒絶理由(以下、「当審拒絶理由」という。)を通知したところ、同年12月9日付けで意見書が提出されたものである。
第2 本願発明
本願の請求項1~6に係る発明は、平成27年6月19日付け補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1~6に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりである。
「太陽電池モジュールの発電素子に対する受光面側封止シートと裏面側封止シートとからなる一対の太陽電池封止シートであって、
前記受光面側封止シートはエチレン共重合体(A)及び架橋剤(D1)を含んでなり、前記裏面側封止シートはエチレン共重合体(B)、着色剤(C)及び架橋剤(D2)を含んでなり、
150℃で時間T1加熱した前記受光面側封止シートのゲル分率が40~60%の範囲内となるとき、150℃で時間T1加熱した前記裏面側封止シートのゲル分率が5%以下(時間T1は任意の加熱時間を表し、前記受光面側封止シートのゲル分率が40~60%の範囲内となるように定める)である事を特徴とする太陽電池封止シート。」
第3 引用文献に記載の事項・引用発明
1 当審拒絶理由に引用された特開2011-176231号公報(以下、「引用文献1」という。)には、図面とともに次の記載がある。なお、下線は当審で付与したものである。
「【0028】
《第1の実施形態》
図1は、本実施形態に係る太陽電池モジュールの略図的断面図である。
【0029】
図1に示すように、太陽電池モジュール1aは、保護体10と、シート11と、充填剤層13と、太陽電池12とを備えている。
・・・(途中省略)・・・
【0034】
充填剤層13は、保護体10とシート11との間に充填されている。充填剤層13は、太陽電池12を封止するための部材である。このため、充填剤層13は、封止層とも呼ばれる。この充填剤層13の構成については、後に詳述する。
・・・(途中省略)・・・
【0037】
本実施形態においては、複数の太陽電池12のそれぞれは、受光面12aが保護体10側を向き、裏面12bがシート11側を向くように配置されている。すなわち、本実施形態においては、複数の太陽電池12のそれぞれは、保護体10側からの光を受光する。但し、本発明は、この構成に限定されない。太陽電池は、例えば、受光面がシート側を向き、裏面が保護体側を向くように配置されていてもよい。また、太陽電池の両主面のそれぞれが受光面であってもよい。」
・・・(途中省略)・・・
【0041】
(充填剤層13)
次に、本実施形態における充填剤層13の構成について詳細に説明する。
【0042】
充填剤層13は、第1の充填剤層13aと、第2の充填剤層13bとを有する。
【0043】
第1の充填剤層13aは、シート11に接するように設けられている。本実施形態では、具体的には、シート11と保護体10との間に、第1の充填剤層13aと、第2の充填剤層13bとが、シート11側からこの順番で積層されている。シート11と第1の充填剤層13aとは接着されている。第1及び第2の充填剤層13a、13b間も接着されている。第2の充填剤層13bと保護体10とも接着されている。
【0044】
太陽電池12は、第1の充填剤層13aと第2の充填剤層13bとの間の境界に配置されている。よって、第1の充填剤層13aは、太陽電池12に接している。なお、図1では、描画の便宜上、第1の充填剤層13aと第2の充填剤層13bとの間の境界は、積層方向zにおいて、太陽電池12が設けられた領域内に位置しているように描画しているが、例えば、積層方向zにおいて、太陽電池12の受光面12aや裏面12bと略面一であってもよい。
【0045】
第1の充填剤層13aと第2の充填剤層13bとのそれぞれの積層方向zに沿った厚みは、特に限定されない。第1の充填剤層13aの積層方向zに沿った厚みは、例えば、0.3mm~0.8mm程度であることが好ましい。第2の充填剤層13bの積層方向zに沿った厚みは、例えば、0.3mm~0.8,mm程度であることが好ましい。充填剤層13全体の積層方向zに沿った厚みは、例えば、0.6mm~2.0mm程度であることが好ましい。第1の充填剤層13aの積層方向zに沿った厚みと、第2の充填剤層13bの積層方向zに沿った厚みとの比は、1:2~2:1の範囲内であることが好ましい。
【0046】
第1の充填剤層13aと第2の充填剤層13bとのそれぞれは、樹脂により形成されている。第1の充填剤層13aと第2の充填剤層13bとのそれぞれは、樹脂のみからなるものであってもよいし、樹脂の他に、例えば、架橋剤やカップリング剤などの残留物などが含まれているものであってもよい。
【0047】
第1及び第2の充填剤層13a、13bのそれぞれを形成している樹脂は、特に限定されないが、例えば、光透過性が高く、耐候性及び耐熱性に優れているエチレン・酢酸ビニル共重合体(EVA)やポリエチレンであることが好ましい。
【0048】
第1の充填剤層13aを形成している樹脂と、第2の充填剤層13bを形成している樹脂とのそれぞれのゲル分率は、0%より大きい。第2の充填剤層13bを形成している樹脂のゲル分率は、第1の充填剤層13aを形成している樹脂のゲル分率未満である。
・・・(途中省略)・・・
【0052】
なお、樹脂のゲル分率は、樹脂の架橋密度に相関するパラメータである。樹脂の架橋密度が高いほど、樹脂のゲル分率が高くなり、樹脂の架橋密度が低いほど、樹脂のゲル分率は低くなる傾向にある。このため、樹脂のゲル分率は、樹脂の架橋密度を変化させることによって調整することができる。樹脂の架橋密度は、例えば、架橋構造を形成するための架橋剤の添加量や、キュア時間を変化させることによって調整することができる。なお、架橋剤の種類は、樹脂の種類に応じて適宜選択することができる。架橋剤の具体例としては、有機過酸化物やシランカップリング剤などが挙げられる。有機過酸化物の具体例としては、ベンゾイルペルオキシド、ジクミルペルオキシド、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルペルオキシ)ヘキサンなどが挙げられる。シランカップリング剤の具体例としては、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、ポリシロキサンをベースとしてメトキシ基、エトキシ基などを導入した化合物などが挙げられる。
【0053】
以上説明したように、本実施形態では、第2の充填剤層13bを形成している樹脂のゲル分率が、0%より高く、第1の充填剤層13aを形成している樹脂のゲル分率未満である。すなわち、第1及び第2の充填剤層13a、13bのそれぞれのゲル分率が0%より高く、シート11に接している第1の充填剤層13aを形成している樹脂のゲル分率が相対的に高く、第2の充填剤層13bを形成している樹脂のゲル分率が相対的に低い。このため、本実施形態の太陽電池モジュール1aでは、優れた耐候性と優れた耐熱性とを両立させることができる。
【0054】
なお、本実施形態において、優れた耐熱性を実現できたのは、第1の充填剤層13aを形成している樹脂のゲル分率が高いため、第1の充填剤層13aを形成している樹脂の架橋密度が高く、可撓性の高いシート11に接している第1の充填剤層13aの高温時における流動性が低いためであると考えられる。また、優れた耐候性を実現できたのは、充填剤層13中に、ゲル分率が低く、水分透過性の低い第2の充填剤層13bを設けたためであると考えられる。但し、本実施形態において、充填剤層13の全体をゲル分率が高い樹脂により形成した場合とほぼ同等の耐熱性と、充填剤層13の全体をゲル分率が低い樹脂により形成した場合とほぼ同等の耐候性とを両立できた理由は、定かではない。
・・・(途中省略)・・・
【0062】
なお、本実施形態に係る太陽電池モジュール1aは、例えば、以下に例示する製造方法により製造することができる。
【0063】
まず、シート11の上に、第2の充填剤層13bを形成するための樹脂シートを1または複数枚配置する。その上に、配線材14により電気的に接続された複数の太陽電池12を配置し、さらにその上に、第1の充填剤層13aを形成するための樹脂シートを1または複数枚配置する。最後に、保護体10を積層する。形成された積層体を、減圧雰囲気中において、加熱圧着することにより、太陽電池モジュール1aを完成させることができる。」
「【0098】
《実施例》
(実施例1~3、比較例1~3)
実施例1~3,比較例1~3では、上記第1の実施形態に係る太陽電池モジュール1aと同様の構成を有する太陽電池モジュールA1~A3(実施例1~3)、B1~B3(比較例1~3)を以下の要領で作製した。
【0099】
まず、ガラス板からなる保護体10の上に、充填剤として、架橋剤を含み、厚みが0.6mmであるEVAシートと、配線材14により電気的に接続された複数の太陽電池12と、充填剤として、架橋剤を含み、厚みが0.6mmであるEVAシートと、シート11とをこの順番で積層した。
・・・(途中省略)・・・
【0103】
次に、得られた積層体をラミネート法を用いて一体化し、アルミニウムからなるフレーム内に収納することにより太陽電池モジュールを作製した。なお、ラミネート法による一体化は、減圧ポンプを用いて、5分間減圧した後、5分間圧着することにより行った。
【0104】
次に、150℃で加熱することにより、キュア工程を行った。添加した架橋剤の量及びキュア時間と、充填剤層13a、13bのゲル分率との関係を下記の表2に示す。この表2より、表1に示す各実施例及び比較例におけるゲル分率が得られる。
【0105】【表1】
」
「
」
2 引用発明
表1には、実施例における太陽電池モジュールA3において、第1の充填剤層13aは、架橋剤の量100%でゲル分率が55%、第2の充填層13bは、架橋剤の量0%でのゲル分率が2%となることが記載されている。
以上のことから、引用文献1には、以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「太陽電池モジュール1aは、保護体10と、シート11と、充填剤層13と、太陽電池12とを備え、
充填剤層13は、封止層とも呼ばれ、
充填剤層13は、第1の充填剤層13aと、第2の充填剤層13bとを有し、
シート11と保護体10との間に、第1の充填剤層13aと、第2の充填剤層13bとが、シート11側からこの順番で積層され、
太陽電池12は、第1の充填剤層13aと第2の充填剤層13bとの間の境界に、受光面がシート側を向き、裏面が保護体側を向くように配置され、
第1及び第2の充填剤層13a、13bのそれぞれを形成している樹脂はエチレン・酢酸ビニル共重合体(EVA)であり、
積層体をラミネート法を用いて一体化し、次に、150℃で加熱することにより、キュア時間の間キュア工程を行い、
第1の充填剤層13aは、架橋剤の量100%でゲル分率が55%、第2の充填層13bは、架橋剤の量0%でゲル分率が2%である
太陽電池モジュール。」
第4 対比、判断
1 本願発明と引用発明を対比する。
引用発明の「充填剤層13」は、「封止層とも呼ばれ」、「第1の充填剤層13aと、第2の充填剤層13bとを有」するから、本願発明の「一対の太陽電池封止シート」に相当する。
引用発明は、「シート11と保護体10との間に、第1の充填剤層13aと、第2の充填剤層13bとが、シート11側からこの順番で積層され、太陽電池12は、第1の充填剤層13aと第2の充填剤層13bとの間の境界に、受光面がシート側を向き、裏面が保護体側を向くように配置され」ており、太陽電池12の受光面がシート側の第1の充填剤層13aに向き、太陽電池12の裏面が保護体側の第2の充填剤層13bに向くから、引用発明の「第1の充填剤層13a」、「第2の充填剤層13b」は、それぞれ本願発明の「受光面側封止シート」、「裏面側封止シート」に相当する。
引用発明の「第1及び第2の充填剤層13a、13bのそれぞれを形成している樹脂はエチレン・酢酸ビニル共重合体(EVA)であり」、「第1の充填剤層13aは、架橋剤の量100%でゲル分率が55%、第2の充填層13bは、架橋剤の量0%でゲル分率が2%である」ことと、本願発明の「前記受光面側封止シートはエチレン共重合体(A)及び架橋剤(D1)を含んでなり、前記裏面側封止シートはエチレン共重合体(B)、着色剤(C)及び架橋剤(D2)を含んでな」ることとは、共に「前記受光面側封止シートはエチレン共重合体(A)及び架橋剤(D1)を含んでなり、前記裏面側封止シートはエチレン共重合体(B)を含んでな」る点で共通する。
引用発明の「150℃で加熱することにより、キュア時間の間キュア工程を行」うことは、本願発明の「150℃で時間T1加熱した」ことに相当し、また、引用発明において「積層体をラミネート法を用いて一体化し、次に、150℃で加熱することにより、キュア時間の間キュア工程を行い、第1の充填剤層13aは、架橋剤の量100%でゲル分率が55%、第2の充填層13bは、架橋剤の量0%でゲル分率が2%である」ことは、本願発明の「150℃で時間T1加熱した前記受光面側封止シートのゲル分率が40~60%の範囲内となるとき、150℃で時間T1加熱した前記裏面側封止シートのゲル分率が5%以下(時間T1は任意の加熱時間を表し、前記受光面側封止シートのゲル分率が40~60%の範囲内となるように定める)」に相当する。
よって、本願発明と引用発明とは、
「太陽電池モジュールの発電素子に対する受光面側封止シートと裏面側封止シートとからなる一対の太陽電池封止シートであって、
前記受光面側封止シートはエチレン共重合体(A)及び架橋剤(D1)を含んでなり、前記裏面側封止シートはエチレン共重合体(B)を含んでなり、
150℃で時間T1加熱した前記受光面側封止シートのゲル分率が40~60%の範囲内となるとき、150℃で時間T1加熱した前記裏面側封止シートのゲル分率が5%以下(時間T1は任意の加熱時間を表し、前記受光面側封止シートのゲル分率が40~60%の範囲内となるように定める)である太陽電池封止シート。」において一致している。
そして、本願発明の「裏面側封止シートは」、「着色剤(C)及び架橋剤(D2)」を含むのに対し、引用発明の「第2の充填剤層13b」は、着色剤及び架橋剤を含むとの特定がない点で相違する。
2 判断
太陽電池の裏面側に位置する封止シートに着色剤を含み光を反射させてその利用効率を高めるようにすることは、周知慣用の技術事項であるから、太陽電池の裏面側に位置する引用発明の「第2の充填剤層13b」において、その利用効率を高めるために着色剤を含むようにすることは、当業者が適宜なし得ることである。
また、引用文献1に「【0046】第1の充填剤層13aと第2の充填剤層13bとのそれぞれは、樹脂により形成されている。第1の充填剤層13aと第2の充填剤層13bとのそれぞれは、樹脂のみからなるものであってもよいし、樹脂の他に、例えば、架橋剤やカップリング剤などの残留物などが含まれているものであってもよい。」、「【0052】なお、樹脂のゲル分率は、樹脂の架橋密度に相関するパラメータである。樹脂の架橋密度が高いほど、樹脂のゲル分率が高くなり、樹脂の架橋密度が低いほど、樹脂のゲル分率は低くなる傾向にある。このため、樹脂のゲル分率は、樹脂の架橋密度を変化させることによって調整することができる。樹脂の架橋密度は、例えば、架橋構造を形成するための架橋剤の添加量や、キュア時間を変化させることによって調整することができる。」と記載されており(なお、下線は当審で付与した。)、また、第2の充填剤層のゲル分率を51%とするために架橋剤の量として50%を添加する実施例1(表1中の太陽電池モジュールA1)が記載されている。
してみると、引用発明において、第2の充填層13bのゲル分率の調整のためにどの程度の架橋剤を添加するかは、材料や温度、時間などとともに当業者が適宜決定し得る設計事項である。
したがって、引用発明の「第2の充填剤層13b」に、着色剤及び架橋剤を含むようにし、本願発明とすることは、引用発明及び周知慣用の技術事項に基づいて当業者が容易に想到することができたものである。
3 平成28年12月9日付け意見書(以下、「意見書」という。)の主張について
(1)意見書において審判請求人は以下の主張をしている。
「・・・ ここで、審判長殿がご指摘されている引用文献1の図1では、太陽電池の受光面12aが保護体10側に向き、太陽電池の裏面12bがシート11側に向くように配置されていますが、引用文献1の段落[0037]において、『太陽電池は、例えば、受光面がシート側を向き、裏面が保護体側を向くように配置されていてもよい。』と記載されているため、審判長殿は前述いたしましたように引用発明をご認定されたと考えられます。
しかしながら、引用文献1の段落[0030]には、『…保護体10は、ガラス板により構成されていることが好ましい。ガラス板は、剛性及び光透過率が高く、かつ耐候性に優れているからである。』と記載されています。また、引用文献1の段落[0032]には、『…シート11を構成する樹脂シートの内部には、例えば、アルミニウム箔などの遮光箔や、水分透過性が低い無機バリア層等が設けられていてもよい。無機バリア層は、例えば、シリコン酸化物やアルミナなどの無機物により形成することができる。』と記載されています。すなわち、引用文献1には、保護体10には光透過率が高い部材、シート11には遮光性のある部材が好ましいことが記載されています。これらの記載に基づけば、当業者であれば保護体10が受光面側、シート11が裏面側にそれぞれ配置されると考えるため、仮に引用文献1の段落[0037]の記載を参照したとしても、敢えて太陽電池の受光面12aがシート11側に、裏面12bが保護体10側に向くように配置することは、前記記載と矛盾するためいたしません。従いまして、引用発明の「第1の充填剤層13a」は本願発明の「裏面側封止シート」に、引用発明の「第2の充填剤層13b」は本願発明の「受光面側封止シート」にそれぞれ相当すると認定されるべきと考えます。
また、引用文献1の段落[0008]には、『具体的には、本発明者らは、保護体とシートとの間に設けられている充填剤層のうち、シートに接している部分のうちの少なくとも一部のゲル分率を高くすると共に、その他の部分に、ゲル分率が0%より高く、当該シートに接している部分よりもゲル分率が低い部分を設けることにより、優れた耐候性と優れた耐熱性との両立を図ることができることを見出した。』と記載されています。従いまして、引用発明では、充填剤層のうち、シート11に接している部分の少なくとも一部のゲル分率を高くして、かつ、シート11に接している部分よりもゲル分率が低い部分を別途設けることが求められるため、シート11に接しているのは第1の充填剤層13aである必要があると考えられます。すなわち、引用発明の「第1の充填剤層13a」は、本願発明の「裏面側封止シート」に相当すると考えられます。
さらに、審判請求時の請求の理由においても主張いたしましたように、引用文献1の段落[0054]には、『…本実施形態において、優れた耐熱性を実現できたのは、第1の充填剤層13aを形成している樹脂のゲル分率が高いため、第1の充填剤層13aを形成している樹脂の架橋密度が高く、可撓性の高いシート11に接している第1の充填剤層13aの高温時における流動性が低いためであると考えられる。』と記載されています。従いまして、引用発明では、シート11に第1の充填剤層13aが接していることに意味があります。すなわち、引用発明の「第1の充填剤層13a」は、本願発明の「裏面側封止シート」に相当すると考えられます。
また、審判請求時の請求の理由においても主張いたしましたように、引用文献1の段落[0061]には、『…太陽電池12の受光面12a側に、ゲル分率が低く、水分透過性の低い第2の充填剤層13bが配置されており、水分透過性の高い第1の充填剤層13aは配置されていない。このため、太陽電池12の受光面12aに到達する水分をより少なくすることができる。よって、太陽電池12の受光面12aの劣化がより効果的に抑制されている。従って、太陽電池モジュール1aの耐候性をさらに改善することができる。』と記載されています。したがって、受光面12a側に第2の充填剤層13bが接していることに意味があります。すなわち、引用発明の「第2の充填剤層13b」は、本願発明の「受光面側封止シート」に相当すると考えられます。
一方、本願発明では、本願発明に係る太陽電池封止シートを備える太陽電池モジュールを作製する際に、受光面側封止シートが先に架橋することによって裏面側封止シートの回り込みを防止することができ、これにより、発電効率の低下や外観不良を防止できる顕著な効果を奏します。
以上の理由から、仮に当業者が引用文献1および2の記載に基づいたとしても、本願発明の特徴およびそれによる顕著な効果に容易に想到し得たものではないため、本願請求項に係る発明は進歩性を有すると思料いたします。」
(2)引用文献1についての記載の検討
ア 引用文献1には、課題に関連し、以下の記載がある。
「【0007】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的は、耐候性及び耐熱性の両方に優れた太陽電池モジュールを提供することにある。」
イ また、課題と課題の解決手段の関係について、以下の記載がある。
「【0053】
以上説明したように、本実施形態では、第2の充填剤層13bを形成している樹脂のゲル分率が、0%より高く、第1の充填剤層13aを形成している樹脂のゲル分率未満である。すなわち、第1及び第2の充填剤層13a、13bのそれぞれのゲル分率が0%より高く、シート11に接している第1の充填剤層13aを形成している樹脂のゲル分率が相対的に高く、第2の充填剤層13bを形成している樹脂のゲル分率が相対的に低い。このため、本実施形態の太陽電池モジュール1aでは、優れた耐候性と優れた耐熱性とを両立させることができる。
【0054】
なお、本実施形態において、優れた耐熱性を実現できたのは、第1の充填剤層13aを形成している樹脂のゲル分率が高いため、第1の充填剤層13aを形成している樹脂の架橋密度が高く、可撓性の高いシート11に接している第1の充填剤層13aの高温時における流動性が低いためであると考えられる。また、優れた耐候性を実現できたのは、充填剤層13中に、ゲル分率が低く、水分透過性の低い第2の充填剤層13bを設けたためであると考えられる。」
ウ さらに、受光面の向きについて以下の記載がある。
「【0030】
(保護体10及びシート11)
保護体10と、シート11とは、太陽電池12の保護部材としての機能を有する。保護体10は、太陽電池モジュール1aの機械的強度を担保する部材である。保護体10は、剛性を有する部材である限りにおいて特に限定されない。保護体10は、ガラス板や樹脂板などにより構成することができる。なかでも、保護体10は、ガラス板により構成されていることが好ましい。ガラス板は、剛性及び光透過率が高く、かつ耐候性に優れているからである。」
「【0032】
シート11は、保護体10と対向している。シート11は、可撓性を有する部材である限りにおいて特に限定されない。シート11は、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)などからなる樹脂シートなどにより構成することができる。なお、シート11を構成する樹脂シートの内部には、例えば、アルミニウム箔などの遮光箔や、水分透過性が低い無機バリア層等が設けられていてもよい。無機バリア層は、例えば、シリコン酸化物やアルミナなどの無機物により形成することができる。」
「【0037】
本実施形態においては、複数の太陽電池12のそれぞれは、受光面12aが保護体10側を向き、裏面12bがシート11側を向くように配置されている。すなわち、本実施形態においては、複数の太陽電池12のそれぞれは、保護体10側からの光を受光する。但し、本発明は、この構成に限定されない。太陽電池は、例えば、受光面がシート側を向き、裏面が保護体側を向くように配置されていてもよい。また、太陽電池の両主面のそれぞれが受光面であってもよい。」
エ 上記ア、イに記載されているように、引用文献1には、耐候性及び耐熱性の両方に優れた太陽電池モジュールを提供することを課題とし、その課題に対応した解決手段は、「第1及び第2の充填剤層13a、13bのそれぞれのゲル分率が0%より高く、シート11に接している第1の充填剤層13aを形成している樹脂のゲル分率が相対的に高く、第2の充填剤層13bを形成している樹脂のゲル分率が相対的に低い。」ものとすることであると解される。
また、上記ウに記載されているように、受光面と裏面の向きは、「受光面12aが保護体10側を向き、裏面12bがシート11側を向くように配置され」る実施形態(以下、「受光面保護体側実施形態」という。)だけに限定されるのではなく、「受光面がシート側を向き、裏面が保護体側を向くように配置されていてもよい。」とする実施形態(以下、「受光面シート側実施形態」という。)もあると解される。
そして、課題に対応した解決手段の「シート11に接している第1の充填剤層13aを形成している樹脂のゲル分率が相対的に高く、第2の充填剤層13bを形成している樹脂のゲル分率が相対的に低い。」との構成と、受光面シート側実施形態から、引用文献1には、「受光面がシート側を向き、」「シート11に接して」「樹脂のゲル分率が相対的に高」い「第1の充填剤層13aを形成し」、「裏面が保護体側を向」き「第2の充填剤層13bを形成している樹脂のゲル分率が相対的に低い。」構成が記載されていることは、明らかである。
(3)意見書における審判請求人の主張についての当審の判断
審判請求人は、引用文献1の段落[0030]、[0032]の記載から、「引用文献1には、保護体10には光透過率が高い部材、シート11には遮光性のある部材が好ましいことが記載されています。これらの記載に基づけば、当業者であれば保護体10が受光面側、シート11が裏面側にそれぞれ配置されるため、仮に引用文献1の段落[0037]の記載を参照したとしても、敢えて太陽電池の受光面12aがシート11側に、裏面12bが保護体10側に向くように配置することは、前記記載と矛盾するためいたしません。」と、主張している。
しかしながら、引用文献1の段落[0030]の「保護体10は、剛性を有する部材である限りにおいて特に限定されない。保護体10は、ガラス板や樹脂板などにより構成することができる。なかでも、保護体10は、ガラス板により構成されていることが好ましい。」との記載は、審判請求人が主張する「保護体10には光透過率が高い部材」であるとの形態に限定しているものではなく、また、段落[0032]の「シート11は、保護体10と対向している。シート11は、可撓性を有する部材である限りにおいて特に限定されない。シート11は、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)などからなる樹脂シートなどにより構成することができる。なお、シート11を構成する樹脂シートの内部には、例えば、アルミニウム箔などの遮光箔や、水分透過性が低い無機バリア層等が設けられていてもよい。無機バリア層は、例えば、シリコン酸化物やアルミナなどの無機物により形成することができる。」との記載は、審判請求人が主張する「シート11には遮光性のある部材」であるとの形態に限定しているものではない(なお、下線は当審で付与した。)。
よって、段落[0037]の「本実施形態においては、複数の太陽電池12のそれぞれは、保護体10側からの光を受光する。但し、本発明は、この構成に限定されない。太陽電池は、例えば、受光面がシート側を向き、裏面が保護体側を向くように配置されていてもよい。」との記載、つまり「保護体10側からの光を受光する」形態(受光面保護体側実施形態)だけでなく、「受光面がシート側を向き、裏面が保護体側を向くように配置され」る形態(受光面シート側実施形態)があることは、段落[0030]、[0032]の記載と矛盾するものではない。
上記(1)の意見書における審判請求人の主張は、引用文献1には、受光面保護体側実施形態しか記載されていないとすることに基づくものであるが、上記のとおり、引用文献1には受光面シート側実施形態についても記載されていることは明らかであるから、上記(1)の意見書における審判請求人の主張は、採用することができない。
第5 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び周知慣用の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願の他の請求項に係る発明について審理するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2016-001584