特許異議申立
2015-700319
ガラス微粒子堆積体及びガラス母材の製造方法
- 審判番号
- 2015-700319
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2012-175012外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2015年12月17日
- 審決日
- 2017年01月17日
- 公報発行日
- 2017年04月28日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】住友電気工業株式会社
- 【権利者代理人】特許業務法人 信栄特許事務所
- 【異議申立人】一條 淳
- 分類
- P1651.121-YAA(C03B) / P1651.113-YAA(C03B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第2項、特許法第120条の5第9項、特許法第29条第2項、特許法第120条の5第7項、特許法第120条の5第4項、特許法第29条第1項第3号
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第5737241号「ガラス微粒子堆積体及びガラス母材の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
【結 論】
特許第5737241号の明細書及び特許請求の範囲を、平成28年10月21日に提出された訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~5〕について訂正することを認める。
特許第5737241号の請求項1~5に係る特許を維持する。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
特許第5737241号の請求項1~5に係る特許についての出願は、平成24年8月7日(優先権主張平成23年9月29日、日本国 平成24年1月18日、日本国)を出願日とする出願であって、登録後の経緯は以下のとおりである。
平成27年 5月 1日 :特許権の設定登録
同年12月17日 :特許異議申立人 一條 淳による特許異議の申立て
平成28年 3月16日付け:取消理由の通知
同年 5月20日 :訂正の請求、意見書の提出
同年 7月 7日付け:特許異議申立人からの意見書の提出
同年 8月18日付け:取消理由(決定の予告)の通知
同年10月21日 :訂正の請求、意見書の提出
同年12月21日付け:特許異議申立人からの意見書の提出
第2 訂正請求について
1.訂正の内容
平成28年10月21日に訂正請求書が提出されたので、特許法第120条の5第7項の規定により、同年5月20日にされた訂正請求は取り下げたものとみなされる。
そして、平成28年10月21日にされた訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)による訂正の内容は、訂正請求書に記載された訂正事項1、3及び訂正事項2、4をそれぞれ1つの訂正事項としてまとめると、下記(1)、(2)のように整理される。
なお、下線部は訂正箇所である。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に、「前記堆積工程における前記原料容器から前記ガラス微粒子生成用バーナーまでの前記配管の少なくとも一部を発熱体により100℃以上の温度に制御すると共に」と記載されているのを、「前記堆積工程における前記原料容器から前記ガラス微粒子生成用バーナーまでの前記配管の少なくとも一部を発熱体により150℃以上の温度に制御すると共に、前記ガラス微粒子生成用バーナー側が高温となり5℃/m以上の温度勾配になるように温度制御し」と訂正する。
(2)訂正事項2
明細書の【0010】に、「前記堆積工程における前記原料容器から前記ガラス微粒子生成用バーナーまでの前記配管の少なくとも一部を発熱体により100℃以上の温度に制御すると共に」と記載されているのを、「前記堆積工程における前記原料容器から前記ガラス微粒子生成用バーナーまでの前記配管の少なくとも一部を発熱体により150℃以上の温度に制御すると共に、前記ガラス微粒子生成用バーナー側が高温となり5℃/m以上の温度勾配になるように温度制御し」と訂正する。
2.訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否、及び一群の請求項について
(1)訂正事項1について
ア 訂正の目的について
訂正事項1は、まず、訂正前の請求項1に係る発明における、配管の少なくとも一部を発熱体により制御する温度を、「100℃以上」から「150℃以上」に限定し、これに加えて、「前記ガラス微粒子生成用バーナー側が高温となり5℃/m以上の温度勾配になるように温度制御」することを直列的に付加するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 新規事項の有無について
本件明細書【0044】には、「配管温度:100℃、150℃、260℃、270℃」に制御したことが記載されており、同【0048】には、「実施例4はガス供給配管温度が150℃」としたことが記載されている。
また、本件明細書【0031】には、ガス供給配管の長手方向における温度分布を、原料容器側からクラッド用バーナー側に向かって温度が高くなるように制御することにより、ガラス微粒子の付着効率をさらに向上させることが記載され、具体的には、ガス供給配管の温度勾配を5℃/m以上とすることも記載されている。
したがって、訂正事項1は、新たな技術的事項を導入するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項に適合する。
ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否について
訂正事項1は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、発明の対象や目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合する。
(2)訂正事項2について
訂正事項2は、訂正事項1に係る請求項1の訂正に伴い、明細書【0010】の記載を請求項1と同様に訂正しようとするものである。
したがって、訂正事項2は、特許法第120条の5第2項ただし書き第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、また、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項、第6項に適合する。
(3)一群の請求項について
訂正事項1、2に係る訂正前の請求項1~5について、請求項2~5は直接又は間接的に請求項1を引用しているから、訂正前の請求項1~5に対応する訂正後の請求項1~5は、特許法120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
3.訂正の適否についてのむすび
以上のとおり、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項各号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び同条第9項において準用する同法第126条第4項から第6項までの規定に適合するので、訂正後の請求項〔1~5〕について訂正を認める。
第3 特許異議の申立てについて
1.本件特許発明
上記のとおり訂正が認められるので、本件訂正請求により訂正された訂正請求項1~5に係る発明(以下「本件特許発明1~5」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1~5に記載された次の事項により特定されるとおりのものと認める。
【請求項1】
原料容器内に容れられた液体のガラス原料を加熱し気化させてガラス原料ガスとし、
該ガラス原料ガスを前記原料容器から配管によりガラス微粒子生成用バーナーまで導き、該ガラス微粒子生成用バーナーから前記ガラス原料ガスを噴出させ、
該ガラス原料ガスの火炎分解反応により生成したガラス微粒子を反応容器内の出発ロッドに堆積させてガラス微粒子堆積体とする堆積工程を含むガラス微粒子堆積体の製造方法において、
前記堆積工程における前記原料容器から前記ガラス微粒子生成用バーナーまでの前記配管の少なくとも一部を発熱体により150℃以上の温度に制御すると共に、前記ガラス微粒子生成用バーナー側が高温となり5℃/m以上の温度勾配になるように温度制御し、
前記原料容器から前記ガラス微粒子生成用バーナーまでの前記配管内を流れるガラス原料ガスのレイノルズ数を2000以上とすることを特徴とするガラス微粒子堆積体の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載のガラス微粒子堆積体の製造方法において、
前記堆積工程における前記原料容器から前記ガラス微粒子生成用バーナーまでの前記配管内を流れる前記ガラス原料ガスのレイノルズ数を4000以上とすることを特徴とするガラス微粒子堆積体の製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載のガラス微粒子堆積体の製造方法において、
前記堆積工程における前記原料容器から前記ガラス微粒子生成用バーナーまでの前記配管内を流れる前記ガラス原料ガスのレイノルズ数を8000以上とすることを特徴とするガラス微粒子堆積体の製造方法。
【請求項4】
請求項1から3の何れか一項に記載のガラス微粒子堆積体の製造方法において製造したガラス微粒子堆積体を、加熱して透明化する透明化工程を経てガラス母材にすることを特徴とするガラス母材の製造方法。
【請求項5】
請求項4に記載のガラス母材の製造方法において、
前記堆積工程におけるガラス微粒子堆積方法が、VAD法、OVD法、MMD法のいずれかであることを特徴とするガラス母材の製造方法。
2.証拠方法
甲第1号証:特開2001-294429号公報
甲第2号証:特開2003-252635号公報
甲第3号証:特開平2-102146号公報
甲第4号証:黒崎晏夫ほか1名、『伝熱工学』、株式会社コロナ社、2009年5月7日、第57~58ページ
甲第5号証:特開平4-270130号公報
甲第6号証:特開2003-165737号公報
3.当審において通知した取消理由の概要
(1)平成28年5月20日にされた訂正請求書の訂正特許請求の範囲に記載された請求項1~5に係る特許に対して、同年8月18日付けで特許権者に通知した取消理由(決定の予告)の要旨は、次のとおりである。
請求項1~5に係る本件特許発明は、甲第1号証に記載された発明と、甲第2、3、6号証に記載された技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、請求項1~5に係る本件特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。
(2)特許第5737241号の特許請求の範囲に記載された請求項1~5に係る特許に対して、平成28年3月16日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。
請求項1~5に係る本件特許発明は、甲第1号証に記載された発明であるか、甲第1号証に記載された発明と、甲第2、3、5、6号証に記載された技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、請求項1~5に係る本件特許は、特許法第29条第1項第3号に該当するものであるか、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。
4.当審の判断
(1)平成28年8月18日付け取消理由(決定の予告)に対する当審の判断
ア 甲第1号証の記載事項
a 「【0002】
【従来の技術】高純度石英ガラスや光ファイバ用ガラス母材を製造する方法として、火炎加水分解法により生成したガラス微粒子を回転するターゲット棒に堆積させて多孔質ガラス母材を合成し、これを約1500℃のHe雰囲気中で透明・ガラス化する方法がある。」
b 「【0009】この同心多重管バーナ1は石英製5重管構造を有し、バーナの中心流路(第1管)に、ガラス微粒子原料としてSiCl4を、搬送ガスとしてO2を流した。・・・なお、第1管に流すガスはSiCl4の凝縮を防ぐため、100℃に加熱した。
【0010】第1管のSiCl4およびO2流量を種々に変化させ、そのときのガラス微粒子堆積体(多孔質ガラス母材)への付着効率ηと第1管のレイノルズ数Reの関係を、多孔質ガラス母材の径(ターゲット径)Ds毎にプロットすると、図3に示す直線関係が得られ、・・・」
c 「【0013】・・・以上、OVD法を例に説明したが、本発明は、多重管バーナを用いて行なわれるVAD法などの他の火炎加水分解法による多孔質ガラス母材の製造にも適用することができる。」
d 「【図3】
」
イ 甲1発明
上記摘示箇所a~dより、甲第1号証には、以下の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
「ガラス微粒子原料としてSiCl4を、搬送ガスとしてO2を、バーナの中心流路(第1管)に流し、火炎加水分解法により生成したガラス微粒子を回転するターゲット棒に堆積させるOVD法により、多孔質ガラス母材を合成する方法において、
第1管に流すガスはSiCl4の凝縮を防ぐため、100℃に加熱し、
第1管のレイノルズ数Reを5000~20000とする、
多孔質ガラス母材の合成方法。」
ウ 対比
(ア)甲1発明の「ガラス微粒子原料としてSiCl4」は、「凝縮を防ぐため」に「100℃に加熱」されているものであるから、その状態は「ガス」であるということができ、本件特許発明1の「ガラス原料ガス」に相当する。
(イ)甲1発明の「バーナ」、「火炎加水分解法」、「ターゲット棒」は、それぞれ本件特許発明1の「ガラス微粒子生成用バーナー」、「火炎分解反応」、「反応容器内の出発ロッド」に相当する。
(ウ)甲1発明の「火炎加水分解法により生成したガラス微粒子を回転するターゲット棒に堆積させるOVD法」が、本件特許発明1の「ガラス微粒子生成用バーナからガラス原料ガスを噴出させ」る「堆積工程」を含むことは、当業者の技術常識であり、甲1発明の「多孔質ガラス母材を合成する方法」は、本件特許発明1の「ガラス微粒子堆積体の製造方法」に相当する。
(エ)甲1発明の「バーナの中心流路(第1管)」は、本件特許発明1の「配管」に相当し、「ガラス微粒子原料としてSiCl4」が流れる「第1管のレイノルズ数Re」は「5000~20000」であるから、本件特許発明の「配管内を流れるガラス原料ガスのレイノルズ数を2000以上とすること」に相当する。
以上のことから、本件特許発明1と甲1発明とは、下記の点で一致し、下記の点で相違する。
・一致点
「ガラス原料ガスを配管によりガラス微粒子生成用バーナーまで導き、該ガラス微粒子生成用バーナーから前記ガラス原料ガスを噴出させ、
該ガラス原料ガスの火炎分解反応により生成したガラス微粒子を反応容器内の出発ロッドに堆積させてガラス微粒子堆積体とする堆積工程を含むガラス微粒子堆積体の製造方法において、
前記配管内を流れるガラス原料ガスのレイノルズ数を2000以上とすることを特徴とするガラス微粒子堆積体の製造方法。」
・相違点
[相違点1]
本件特許発明1は、「原料容器内に容れられた液体のガラス原料を加熱し気化させてガラス原料ガスと」するのに対し、甲1発明は、「ガラス微粒子原料としてSiCl4」が、「原料容器内に容れられた液体のガラス原料を加熱し」たものか不明である点。
[相違点2]
本件特許発明1は、「配管」が、「前記原料容器から前記ガラス微粒子生成用バーナーまで」のものであるのに対し、甲1発明は一端が「バーナ」であるものの、もう一端が「原料容器」であるかは不明である点。
[相違点3]
本件特許発明1は、「配管」の「少なくとも一部を発熱体により150℃以上の温度に制御する」のに対し、甲1発明は、「第1管」の少なくとも一部を発熱体により150℃以上の温度に制御するものではない点。
[相違点4]
本件特許発明1は、「配管」を「前記ガラス微粒子生成用バーナー側が高温となり5℃/m以上の温度勾配になるように温度制御」するものであるのに対し、甲1発明は、「第1管」に温度勾配を設けるものではない点。
エ 判断
以下、上記相違点3、4について検討する。
(ア)相違点3について
甲1発明は、SiCl4の凝縮を防ぐため、第1管に流すガスを100℃に加熱するものである。
すると、原料ガスの再凝集、再液化を防止するため、原料ガスの配管をヒータ(本件特許発明1の「発熱体」に相当。)によって加熱することが、甲第2、3、6号証の記載から当業者の技術常識であるとしても、SiCl4の沸点が57.6℃であることを考慮すれば、SiCl4の凝縮を防ぐことを課題とする甲1発明において、配管の温度を100℃をはるかに超える「150℃以上」に制御しようとすることは、当業者が容易になし得ることではない。
また、本件特許発明1は当該構成により、付着効率(原料収率)が向上するという効果を奏するものである。
(イ)相違点4について
甲第1~3、6号証には、原料容器からガラス微粒子生成用バーナーまでの配管に温度勾配をつけることについて記載も示唆もなく、当業者が容易になし得ることではない。
また、本件特許発明1は当該構成により、配管内を流れる原料ガスの流速が加速し、火炎内で生成されるガラス微粒子が乱流拡散により凝集(粒子間結合)し、結合した粒子群は火炎ガスの流れから離脱しやすくなり、付着効率をさらに向上させることができるという効果を奏するものである。
(ウ)まとめ
したがって、相違点1、2について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲1発明及び甲第2、3、6号証に記載された技術事項から当業者が容易に発明をすることができたものではない。
そして、本件特許発明2~5は、本件特許発明1を更に限定したものであるから、上記本件特許発明1についての判断と同様の理由により、甲1発明及び甲第2、3、6号証に記載された技術事項から当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(2)平成28年3月16日付け取消理由に対する当審の判断
甲第5号証にも、配管の少なくとも一部を発熱体により150℃以上の温度に制御すること、及び、原料容器からガラス微粒子生成用バーナーまでの配管に温度勾配をつけることについて記載も示唆もない。
したがって、上記(1)に記載した理由と同様の理由により、本件特許発明1~5は甲1発明ではなく、本件特許発明1~5は、甲1発明及び甲第2、3、5、6号証に記載された技術事項から当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
(3)取消理由に採用しなかった特許異議申立理由に対する当審の判断
特許異議申立人は、甲第2号証を主たる引用例とし、甲第2号証に記載された発明と、甲第1号証に記載された技術事項又は甲第4号証に代表される周知技術から、当業者が容易に発明をすることができたものであると主張する。
しかしながら、甲第2号証に記載された発明も、配管の温度は高々120℃である。(【0022】)
また、甲第4号証はレイノルズ数と層流、乱流との関係を示す文献にすぎない。
したがって、上記(1)に記載した理由と同様の理由により、本件特許発明1~5は、甲第2号証に記載の発明と、甲第1号証に記載された技術事項及び甲第4号証に代表される周知技術から、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
5.むすび
以上のとおりであるから、平成28年8月18日付け取消理由(決定の予告)に記載した取消理由、同年3月16日付け取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件特許発明1~5を取り消すことはできない。
また、他に本件特許発明1~5を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
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2015-700319