特許異議申立
2017-700978
化学強化用フロートガラス
- 審判番号
- 2017-700978
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2014-554596
- 登録番号
- 特許第6112122号(P6112122)
- 請求日
- 2017年10月11日
- 審決日
- 2018年05月17日
- 公報発行日
- 2018年08月31日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】旭硝子株式会社
- 【権利者代理人】特許業務法人栄光特許事務所
- 【異議申立人】松村 朋子
- 審判長/審判官
- 審判長 大橋 賢一
- 審判官 山崎 直也
- 審判官 宮澤 尚之
- 分類
- P1651.113-YAA(C03B) / P1651.121-YAA(C03B) / P1651.536-YAA(C03B) / P1651.537-YAA(C03B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第2項、特許法第36条第4項第1号、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項、特許法第120条の5第4項、特許法第36条第6項第2号
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第6112122号発明「化学強化用フロートガラス」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
【結 論】
特許第6112122号の明細書、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-13〕について訂正することを認める。
特許第6112122号の請求項1ないし7、9ないし13に係る特許を維持する。
特許第6112122号の請求項8に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
理由
【理 由】
第1.手続の経緯
特許第6112122号は、平成25年12月27日(優先権主張 2012年12月27日 日本国)を国際出願日とする特願2014-554596号について、平成29年 3月24日に設定登録がされたものであり、その後、その請求項1~13に係る特許に対し、平成29年10月11日付けで特許異議申立人 松村 朋子により特許異議の申立てがされ、平成29年12月18日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である平成30年 2月20日付けで意見書の提出及び訂正の請求がされ、平成30年 3月26日付けで特許異議申立人より意見書の提出がなされたものである。
第2.訂正の適否についての判断
1.訂正の内容
平成30年 2月20日付け訂正請求書による訂正(以下「本件訂正」という。)の内容は、次の訂正事項1~22よりなる。
(ア)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1の「成形時に溶融金属と接するボトム面と、該ボトム面に対向するトップ面とを有する化学強化用フロートガラスであって」を、「100%硝酸カリウムにより425℃にて2.5時間化学強化したときの表面圧縮応力が470MPa以上かつ圧縮応力層深さが18μm以下である、化学強化用フロートガラスであって、成形時に溶融金属と接するボトム面と、該ボトム面に対向するトップ面とを有し」に訂正する。
(イ)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2の「成形時に溶融金属と接するボトム面と、該ボトム面に対向するトップ面とを有する化学強化用フロートガラスであって」を、「100%硝酸カリウムにより425℃にて2.5時間化学強化したときの表面圧縮応力が470MPa以上かつ圧縮応力層深さが18μm以下である、化学強化用フロートガラスであって、成形時に溶融金属と接するボトム面と、該ボトム面に対向するトップ面とを有し」に訂正する。
(ウ)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3の「成形時に溶融金属と接するボトム面と、該ボトム面に対向するトップ面とを有する化学強化用フロートガラスであって」を、「100%硝酸カリウムにより425℃にて2.5時間化学強化したときの表面圧縮応力が470MPa以上かつ圧縮応力層深さが18μm以下である、化学強化用フロートガラスであって、成形時に溶融金属と接するボトム面と、該ボトム面に対向するトップ面とを有し」に訂正する。
(エ)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項4の「成形時に溶融金属と接するボトム面と、該ボトム面に対向するトップ面とを有する化学強化用フロートガラスであって」を、「100%硝酸カリウムにより425℃にて2.5時間化学強化したときの表面圧縮応力が470MPa以上かつ圧縮応力層深さが18μm以下である、化学強化用フロートガラスであって、成形時に溶融金属と接するボトム面と、該ボトム面に対向するトップ面とを有し」に訂正する。
(オ)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項5の「成形時に溶融金属と接するボトム面と、該ボトム面に対向するトップ面とを有する化学強化用フロートガラスであって」を、「100%硝酸カリウムにより425℃にて2.5時間化学強化したときの表面圧縮応力が470MPa以上かつ圧縮応力層深さが18μm以下である、化学強化用フロートガラスであって、成形時に溶融金属と接するボトム面と、該ボトム面に対向するトップ面とを有し」に訂正する。
(カ)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項6の「成形時に溶融金属と接するボトム面と、該ボトム面に対向するトップ面とを有する化学強化用フロートガラスであって」を、「100%硝酸カリウムにより425℃にて2.5時間化学強化したときの表面圧縮応力が470MPa以上かつ圧縮応力層深さが18μm以下である、化学強化用フロートガラスであって、成形時に溶融金属と接するボトム面と、該ボトム面に対向するトップ面とを有し」に訂正する。
(キ)訂正事項7
特許請求の範囲の請求項7の「成形時に溶融金属と接するボトム面と、該ボトム面に対向するトップ面とを有する化学強化用フロートガラスであって」を、「100%硝酸カリウムにより425℃にて2.5時間化学強化したときの表面圧縮応力が470MPa以上かつ圧縮応力層深さが18μm以下である、化学強化用フロートガラスであって、成形時に溶融金属と接するボトム面と、該ボトム面に対向するトップ面とを有し」に訂正する。
(ク)訂正事項8
特許請求の範囲の請求項8を削除する。
(ケ)訂正事項9
特許請求の範囲の請求項9の「請求項1~8のいずれか1項に記載の化学強化用フロートガラス」を、「請求項1~7のいずれか1項に記載の化学強化用フロートガラス」に訂正する。
(コ)訂正事項10
特許請求の範囲の請求項10の「請求項1~9のいずれか1項に記載の化学強化用フロートガラス」を、「請求項1~7、9のいずれか1項に記載の化学強化用フロートガラス」に訂正する。
(サ)訂正事項11
特許請求の範囲の請求項13の「請求項1~12のいずれか1項に記載の化学強化用ガラス」を、「請求項1~7、9~12のいずれか1項に記載の化学強化用ガラス」に訂正する。
(シ)訂正事項12
願書に添付した明細書の段落【0016】の「1.」において、「成形時に溶融金属と接するボトム面と、該ボトム面に対向するトップ面とを有する化学強化用フロートガラスであって」を、「100%硝酸カリウムにより425℃にて2.5時間化学強化したときの表面圧縮応力が470MPa以上かつ圧縮応力層深さが18μm以下である、化学強化用フロートガラスであって、
成形時に溶融金属と接するボトム面と、該ボトム面に対向するトップ面とを有し」に訂正する。
(ス)訂正事項13
願書に添付した明細書の段落【0016】の「2.」において、「成形時に溶融金属と接するボトム面と、該ボトム面に対向するトップ面とを有する化学強化用フロートガラスであって」を、「100%硝酸カリウムにより425℃にて2.5時間化学強化したときの表面圧縮応力が470MPa以上かつ圧縮応力層深さが18μm以下である、化学強化用フロートガラスであって、
成形時に溶融金属と接するボトム面と、該ボトム面に対向するトップ面とを有し」に訂正する。
(セ)訂正事項14
願書に添付した明細書の段落【0016】の「3.」において、「成形時に溶融金属と接するボトム面と、該ボトム面に対向するトップ面とを有する化学強化用フロートガラスであって」を、「100%硝酸カリウムにより425℃にて2.5時間化学強化したときの表面圧縮応力が470MPa以上かつ圧縮応力層深さが18μm以下である、化学強化用フロートガラスであって、
成形時に溶融金属と接するボトム面と、該ボトム面に対向するトップ面とを有し」に訂正する。
(ソ)訂正事項15
願書に添付した明細書の段落【0016】の「4.」において、「成形時に溶融金属と接するボトム面と、該ボトム面に対向するトップ面とを有する化学強化用フロートガラスであって」を、「100%硝酸カリウムにより425℃にて2.5時間化学強化したときの表面圧縮応力が470MPa以上かつ圧縮応力層深さが18μm以下である、化学強化用フロートガラスであって、
成形時に溶融金属と接するボトム面と、該ボトム面に対向するトップ面とを有し」に訂正する。
(タ)訂正事項16
願書に添付した明細書の段落【0016】の「5.」において、「成形時に溶融金属と接するボトム面と、該ボトム面に対向するトップ面とを有する化学強化用フロートガラスであって」を、「100%硝酸カリウムにより425℃にて2.5時間化学強化したときの表面圧縮応力が470MPa以上かつ圧縮応力層深さが18μm以下である、化学強化用フロートガラスであって、
成形時に溶融金属と接するボトム面と、該ボトム面に対向するトップ面とを有し」に訂正する。
(チ)訂正事項17
願書に添付した明細書の段落【0016】の「6.」において、「成形時に溶融金属と接するボトム面と、該ボトム面に対向するトップ面とを有する化学強化用フロートガラスであって」を、「100%硝酸カリウムにより425℃にて2.5時間化学強化したときの表面圧縮応力が470MPa以上かつ圧縮応力層深さが18μm以下である、化学強化用フロートガラスであって、
成形時に溶融金属と接するボトム面と、該ボトム面に対向するトップ面とを有し」に訂正する。
(ツ)訂正事項18
願書に添付した明細書の段落【0016】の「7.」において、「成形時に溶融金属と接するボトム面と、該ボトム面に対向するトップ面とを有する化学強化用フロートガラスであって」を、「100%硝酸カリウムにより425℃にて2.5時間化学強化したときの表面圧縮応力が470MPa以上かつ圧縮応力層深さが18μm以下である、化学強化用フロートガラスであって、
成形時に溶融金属と接するボトム面と、該ボトム面に対向するトップ面とを有し」に訂正する。
(テ)訂正事項19
願書に添付した明細書の段落【0016】の「8.」を削除する。
(ト)訂正事項20
願書に添付した明細書の段落【0016】の「9.」において、「前項1~8のいずれか1項に記載の化学強化用フロートガラス」を、「前項1~7のいずれか1項に記載の化学強化用フロートガラス」に訂正する。
(ナ)訂正事項21
願書に添付した明細書の段落【0016】の「10.」において、「前項1~9のいずれか1項に記載の化学強化用フロートガラス」を、「前項1~7、9のいずれか1項に記載の化学強化用フロートガラス」に訂正する。
(ニ)訂正事項22
願書に添付した明細書の段落【0016】の「13.」において、「前項1~12のいずれか1項に記載の化学強化用ガラス」を、「前項1~7、9~12のいずれか1項に記載の化学強化用ガラス」に訂正する。
2.訂正の適否
(ア)訂正事項1~7について
訂正事項1~7は、請求項1~7に記載された化学強化用フロートガラスについて、「成形時に溶融金属と接するボトム面と、該ボトム面に対向するトップ面とを有する化学強化用フロートガラスであって」を、「100%硝酸カリウムにより425℃にて2.5時間化学強化したときの表面圧縮応力が470MPa以上かつ圧縮応力層深さが18μm以下である、化学強化用フロートガラスであって、成形時に溶融金属と接するボトム面と、該ボトム面に対向するトップ面とを有し」にそれぞれ訂正するものであり、訂正前の請求項1~7では、100%硝酸カリウムにより425℃にて2.5時間化学強化したときの表面圧縮応力及び圧縮応力層深さについて特定されていないのに対し、訂正後の請求項1~7は、100%硝酸カリウムにより425℃にて2.5時間化学強化したときの表面圧縮応力が470MPa以上かつ圧縮応力層深さが18μm以下であることを特定することで、特許請求の範囲を減縮しようとするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定されている特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、当該訂正事項1~7は、本件特許明細書の段落【0058】の「本発明の化学強化用フロートガラスは化学強化したガラスの表面圧縮応力が650MPa以上であることが好ましく、圧縮応力層の深さは20μm以下であるところに用いるのに特に好適である。」との記載及び【表10】の実施例「G13」に関する記載に基づくものであり、本件特許明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであるから、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項の規定に適合するものである。
さらに、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないから、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項の規定に適合するものである。
(イ)訂正事項8について
訂正事項8は、特許請求の範囲の請求項8を削除する訂正である。
すなわち、当該訂正事項8は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定されている特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、訂正事項8は、請求項を削除する訂正であり、本件特許明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであるから、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項の規定に適合するものである。
さらに、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないから、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項の規定に適合するものである。
(ウ)訂正事項9~11について
訂正事項9~11は、請求項9,10,13において、請求項8を引用しない記載にそれぞれ訂正するものである。
すなわち、当該訂正事項9~11は、選択的引用請求項の一部を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定されている特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、訂正事項9~11は、本件特許明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないから、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。
(エ)訂正事項12~18について
訂正事項12~18は、上記訂正事項1~7に係る訂正に伴い、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との整合を図るため、願書に添付した明細書の段落【0016】の「1.」~「7.」において、「成形時に溶融金属と接するボトム面と、該ボトム面に対向するトップ面とを有する化学強化用フロートガラスであって」を、「100%硝酸カリウムにより425℃にて2.5時間化学強化したときの表面圧縮応力が470MPa以上かつ圧縮応力深さが18μm以下である、化学強化用フロートガラスであって、成形時に溶融金属と接するボトム面と、該ボトム面に対向するトップ面とを有し」に訂正するものである。
したがって、当該訂正事項12~18は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
そして、訂正事項12~18は、訂正事項1~7と同様に、本件特許明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであるから、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項の規定に適合するものである。
さらに、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないから、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項の規定に適合するものである。
(オ)訂正事項19について
訂正事項19は、上記訂正事項8に係る訂正に伴い、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との整合を図るため、願書に添付した明細書の段落【0016】の「8.化学強化温度がT(単位:K)、化学強化時間がt(単位:時間)である化学強化に用いられ、且つSiO2を含有し、SiO2、Al2O3、MgO、CaO、SrO、BaO、ZrO2、Na2OおよびK2Oの各質量百分率表示含有量を用いて次式で求められるdolが20以下である前項1~7のいずれか1に記載の化学強化用フロートガラス。
dol=-0.13×Al2O3-1.88×MgO-2.41×CaO-1.85×SrO-1.35×BaO-1.59×ZrO2+1.50×Na2O+2.42×K2O-129359/T+9.28×t0.5+182.88
なお、Al2O3、MgO、CaO、SrO、BaO、ZrO2、Na2OおよびK2Oは必須成分ではない。化学強化に用いられる塩はKNO3濃度が95~100質量%であるものが典型的である。」を削除するものである。
したがって、当該訂正事項19は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
そして、訂正事項19は、訂正事項8と同様に、本件特許明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであるから、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項の規定に適合するものである。
さらに、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないから、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項の規定に適合するものである。
(カ)訂正事項20~22について
訂正事項20~22は、上記訂正事項9~11に係る訂正に伴い、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との整合を図るため、願書に添付した明細書の段落【0016】の「9.」において、「前項1~8のいずれか1項に記載の化学強化用フロートガラス」を、「前項1~7のいずれか1項に記載の化学強化用フロートガラス」に訂正し、
「10.」において、「前項1~9のいずれか1に記載の化学強化用フロートガラス」を、「前項1~7および9のいずれか1に記載の化学強化用フロートガラス」に訂正し、
「13.」において、「前項1~12のいずれか1に記載の化学強化用ガラス」を「前項1~7、9~12のいずれか1に記載の化学強化用ガラス」に訂正するものである。
したがって、当該訂正事項20~22は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
そして、訂正事項20~22は、訂正事項9~11と同様に、本件特許明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであるから、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項の規定に適合するものである。
さらに、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないから、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項の規定に適合するものである。
3.一群の請求項について
訂正事項1~8に係る訂正前の請求項1~8を訂正事項9~11に係る訂正前の請求項9~13が直接または間接的に引用していることから、訂正前の請求項1~13は、一群の請求項である。
したがって、訂正事項1~11は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項について請求するものである。
そして、本件特許明細書に係る訂正事項12~22は、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第4項に規定するこの一群の請求項の全てについて請求するものである。
4.むすび
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とし、同条第4項及び第9項の規定によって準用する第126条第4項乃至第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1-13〕について訂正を認める。
第3.特許異議の申立てについて
1.本件発明
上記「第2.」のとおり、本件訂正請求による訂正が認められるから、本件訂正請求により訂正された訂正請求項1~7,9~13に係る発明(以下「本件発明1」~「本件発明7」、「本件発明9」~「本件発明13」という。)は、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1~7,9~13に記載された事項により特定される次のとおりのものと認められる。
「【請求項1】
100%硝酸カリウムにより425℃にて2.5時間化学強化したときの表面圧縮応力が470MPa以上かつ圧縮応力層深さが18μm以下である、化学強化用フロートガラスであって、
成形時に溶融金属と接するボトム面と、該ボトム面に対向するトップ面とを有し、該トップ面におけるNa2O濃度をその深さ100μm位置のNa2O濃度で除した値であるトップ面の規格化Na2O表面濃度の2乗から該ボトム面におけるNa2O濃度をその深さ100μm位置のNa2O濃度で除した値であるボトム面の規格化Na2O表面濃度の2乗を減じた差Δ(N-Na2O2)が0.040以下である化学強化用フロートガラス。
ここで、それぞれのNa2O濃度はNa-Kα線を用いる蛍光X線分析により測定した値である。
【請求項2】
100%硝酸カリウムにより425℃にて2.5時間化学強化したときの表面圧縮応力が470MPa以上かつ圧縮応力層深さが18μm以下である、化学強化用フロートガラスであって、
成形時に溶融金属と接するボトム面と、該ボトム面に対向するトップ面とを有し、該トップ面におけるイオン交換量1から該ボトム面におけるイオン交換量1を減じた値であるΔイオン交換量1が0.32以下である化学強化用フロートガラス。
ここで、イオン交換量1は下記式(2-1)により求められる値である。
イオン交換量1=5.51×(規格化Na2O表面濃度)-0.038×(Sn濃度)…式(2-1)
式(2-1)において、規格化Na2O表面濃度は表面のNa2O濃度をその深さ100μm位置のNa2O濃度で除した値である。ここで、Na2O濃度はNa-Kα線を用いる蛍光X線分析による測定値である。
また、Sn濃度はトップ面およびボトム面単位面積当たりのSn付着量(単位:μg/cm2)であり、単位面積当たりのSn付着量はSnがSnO2の形で存在するとしたときの1cm2あたりのSnO2換算付着質量である。
【請求項3】
100%硝酸カリウムにより425℃にて2.5時間化学強化したときの表面圧縮応力が470MPa以上かつ圧縮応力層深さが18μm以下である、化学強化用フロートガラスであって、
成形時に溶融金属と接するボトム面と、該ボトム面に対向するトップ面とを有し、下記式(3-1)により求められるW1が56以下である化学強化用フロートガラス。
W1=-16×(ΔH/Si)-6.47×(Sn濃度差)-43.8×(Δイオン交換量1)…式(3-1)
式(3-1)において、ΔH/Siは、トップ面における規格化水素濃度からボトム面における規格化水素濃度を減じた値である。規格化水素濃度とは、深さ0~10μmにおける平均水素濃度を深さ105~110μmにおける平均水素濃度で除した値であり、深さ0~10μmにおける平均水素濃度および深さ105~110μmにおける平均水素濃度は、以下の分析条件下で測定した値である。
(分析条件)
測定装置:四重極型質量分析器を有する二次イオン質量分析装置
一次イオン種:Cs+
一次加速電圧:5.0kV
一次イオンカレント:1μA
一次イオン入射角(試料面垂直方向からの角度):60°
ラスターサイズ:200×200μm2
検出領域:40×40μm2
二次イオン極性:マイナス
中和用の電子銃使用有
式(3-1)において、Sn濃度差はボトム面単位面積当たりのSn付着量(単位:μg/cm2)からトップ面単位面積当たりのSn付着量(単位:μg/cm2)を減じた差であり、単位面積当たりのSn付着量はSnがSnO2の形で存在するとしたときの1cm2あたりのSnO2換算付着質量である。
式(3-1)において、Δイオン交換量1はトップ面におけるイオン交換量1から該ボトム面におけるイオン交換量1を減じた値である。イオン交換量1は下記式により求められる。
イオン交換量1=5.51×(規格化Na2O表面濃度)-0.038×(Sn濃度)
前記式において、規格化Na2O表面濃度は、表面のNa2O濃度をその深さ100μm位置のNa2O濃度で除した値である。ここで、Na2O濃度はNa-Kα線を用いる蛍光X線分析による測定値である。
【請求項4】
100%硝酸カリウムにより425℃にて2.5時間化学強化したときの表面圧縮応力が470MPa以上かつ圧縮応力層深さが18μm以下である、化学強化用フロートガラスであって、
成形時に溶融金属と接するボトム面と、該ボトム面に対向するトップ面とを有し、下記式(4-1)により求められるW2の絶対値が56以下である化学強化用フロートガラス。
W2=9.18×Δ[(イオン交換量1)/(H/Si)]+49…式(4-1)
式(4-1)において、Δ[(イオン交換量1)/(H/Si)]は、トップ面におけるイオン交換量1を同面における規格化水素濃度H/Siで除した値からボトム面におけるイオン交換量1を同面における規格化水素濃度H/Siで除した値を減じた値である。
ここで、イオン交換量1は下記式により求められる。
イオン交換量1=5.51×(規格化Na2O表面濃度)-0.038×(Sn濃度)
前記式において、規格化Na2O表面濃度は、表面のNa2O濃度をその深さ100μm位置のNa2O濃度で除した値である。ここで、Na2O濃度はNa-Kα線を用いる
蛍光X線分析による測定値である。また、Sn濃度はトップ面およびボトム面単位面積当たりのSn付着量(単位:μg/cm2)であり、単位面積当たりのSn付着量はSnがSnO2の形で存在するとしたときの1cm2あたりのSnO2換算付着質量である。
規格化水素濃度とは、深さ0~10μmにおける平均水素濃度を深さ105~110μmにおける平均水素濃度で除した値であり、深さ0~10μmにおける平均水素濃度および深さ105~110μmにおける平均水素濃度は、以下の分析条件下で測定した値である。
(分析条件)
測定装置:四重極型質量分析器を有する二次イオン質量分析装置
一次イオン種:Cs+
一次加速電圧:5.0kV
一次イオンカレント:1μA
一次イオン入射角(試料面垂直方向からの角度):60°
ラスターサイズ:200×200μm2
検出領域:40×40μm2
二次イオン極性:マイナス
中和用の電子銃使用有
【請求項5】
100%硝酸カリウムにより425℃にて2.5時間化学強化したときの表面圧縮応力が470MPa以上かつ圧縮応力層深さが18μm以下である、化学強化用フロートガラスであって、
成形時に溶融金属と接するボトム面と、該ボトム面に対向するトップ面とを有し、下記式(5-1)により求められるW3が58以下である化学強化用フロートガラス。
W3=744×[(ΔN-Na2O)+0.01×(Sn濃度差)]…式(5-1)
式(5-1)において、ΔN-Na2Oは、トップ面における表面のNa2O濃度をその深さ100μm位置のNa2O濃度で除した値であるトップ面の規格化Na2O表面濃度からボトム面における表面のNa2O濃度をその深さ100μm位置のNa2O濃度で除した値であるボトム面の規格化Na2O表面濃度を減じた値である。ここで、それぞれのNa2O濃度はNa-Kα線を用いる蛍光X線分析による測定値である。
式(5-1)において、Sn濃度差は、ボトム面単位面積当たりのSn付着量(単位:μg/cm2)からトップ面単位面積当たりのSn付着量(単位:μg/cm2)を減じた差であり、単位面積当たりのSn付着量はSnがSnO2の形で存在するとしたときの1cm2あたりのSnO2換算付着質量である。
【請求項6】
100%硝酸カリウムにより425℃にて2.5時間化学強化したときの表面圧縮応力が470MPa以上かつ圧縮応力層深さが18μm以下である、化学強化用フロートガラスであって、
成形時に溶融金属と接するボトム面と、該ボトム面に対向するトップ面とを有し、該トップ面におけるイオン交換量2から該ボトム面におけるイオン交換量2を減じた値であるΔイオン交換量2が0.33以下である化学強化用フロートガラス。
ここで、イオン交換量2は下記式(6-1)により求められる値である。
イオン交換量2=-0.02×(H/Si)+5.54×(N-Na2O濃度)-0.037×(Sn濃度)…式(6-1)
式(6-1)において、H/Siは規格化水素濃度であり、規格化水素濃度とは深さ0~10μmにおける平均水素濃度を深さ105~110μmにおける平均水素濃度で除した値であり、深さ0~10μmにおける平均水素濃度および深さ105~110μmにおける平均水素濃度は、以下の分析条件下で測定した値である。
(分析条件)
測定装置:四重極型質量分析器を有する二次イオン質量分析装置
一次イオン種:Cs+
一次加速電圧:5.0kV
一次イオンカレント:1μA
一次イオン入射角(試料面垂直方向からの角度):60°
ラスターサイズ:200×200μm2
検出領域:40×40μm2
二次イオン極性:マイナス
中和用の電子銃使用有
式(6-1)においてN-Na2O濃度は表面Na2O濃度を深さ100μm位置のNa2O濃度で除した値である規格化Na2O表面濃度である。ここで、Na2O濃度はNa-Kα線を用いる蛍光X線分析による測定値である。
Sn濃度は、単位面積当たりのSn付着量(単位:μg/cm2)であり、Sn付着量はSnがSnO2の形で存在するとしたときのSnO2換算付着質量である。
【請求項7】
100%硝酸カリウムにより425℃にて2.5時間化学強化したときの表面圧縮応力が470MPa以上かつ圧縮応力層深さが18μm以下である、化学強化用フロートガラスであって、
成形時に溶融金属と接するボトム面と、該ボトム面に対向するトップ面とを有し、該トップ面におけるNa2O濃度をその深さ100μm位置のNa2O濃度で除した値であるトップ面の規格化Na2O表面濃度から該ボトム面におけるNa2O濃度をその深さ100μm位置のNa2O濃度で除した値であるボトム面の規格化Na2O表面濃度を減じた差ΔN-Na2Oの2乗(ΔN-Na2O)2が5.0×10-4以下である化学強化用フロートガラス。それぞれのNa2O濃度はNa-Kα線を用いる蛍光X線分析により測定した値である。
【請求項9】
質量百分率表示で、SiO2を60~80%、Al2O3を0~8%、Na2Oを8~22%、K2Oを0~7%、MgOを0~17%、CaOを0~22%、SrOを0~8%、BaOを0~8%、ZrO2を0~5%含有する請求項1~7のいずれか1項に記載の化学強化用フロートガラス。
【請求項10】
請求項1~7、9のいずれか1項に記載の化学強化用フロートガラスであって、質量百分率表示で、SiO2を60~80%、Al2O3を0.01~8%、Na2Oを8~22%、K2Oを0~7%、ZrO2を0~5%含有し、MgO、CaO、SrOまたはBaOを含有する場合MgO、CaO、SrOおよびBaOの含有量の合計が5~25%であり、Na2OおよびAl2O3の含有量の比Na2O/Al2O3が1.5以上である化学強化用フロートガラス。
【請求項11】
請求項10に記載の化学強化用フロートガラスであって、Na2O/Al2O3が6以下である化学強化用フロートガラス。
【請求項12】
請求項9、10または11に記載の化学強化用フロートガラスであって、CaO、SrOまたはBaOを含有しCaO、SrOおよびBaOの含有量の合計が1~7%である化学強化用フロートガラス。
【請求項13】
圧縮応力層深さが20μm以下である化学強化ガラスを製造する方法であって、請求項1~7、9~12のいずれか1項に記載の化学強化用ガラスを化学強化することを特徴とする化学強化ガラスの製造方法。」
2.取消理由について
(1)訂正前の請求項1~13に係る特許に対して、平成29年12月18日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。
1)本件請求項8及びこれを引用する請求項9~13に係る特許は、明細書及び特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条第4項第1号及び第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
2)本件特許の請求項1~7に係る発明は、甲第3号証~甲第5号証(以下、「甲3」~「甲5」という。)の記載を考慮すると、本件特許の優先日前日本国内または外国において頒布された甲第1号証または甲第2号証(以下、「甲1」、「甲2」という。)に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。
3)本件特許の請求項9~13に係る発明は、甲3~5の記載を考慮すると、本件特許の優先日前日本国内または外国において頒布された甲1または甲2に記載された発明と甲第6号証~甲第8号証((以下、「甲6」~「甲8」という。)に記載された事項に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。
甲1:特公平5-3420号公報
甲2:特公平6-51580号公報
甲3:国際公開第2013/005588号
甲4:国際公開第2013/146438号
甲5:国際公開第2013/146439号
甲6:山根正之他編、ガラス工学ハンドブック、株式会社朝倉書店、1999年7月5日、358~362頁、414~417頁
甲7:特開2010-275126号公報
甲8:特開昭61-101433号公報
(2)取消理由1)について
請求項8に対して通知した取消理由に対し、平成30年 2月20日付けで行われた訂正の請求により、請求項8は削除された。
(3)取消理由1)についてのまとめ
以上のとおりであるから、本件特許は、特許法第36条第4項第1号及び第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものでない。
(4)取消理由2)、3)について
(a)甲1の記載事項及び甲1に記載された発明
甲1には、次の記載がある。
(ア)「〔産業上の利用分野〕
本発明は薄板で大面積の建築用および車輌用窓ガラス、料理用ガラス成型品、その他各種成型品はもとより、ことに光ディスク、磁気ディスクなどの電子材料として好適なガラス基体をフロート法ガラスとくにソーダ石灰系フロートガラスでうるための化学強化方法に関する。」
(イ)「〔発明が解決しようとする問題点〕
本発明は表面平滑性、平坦性に優れた薄板フロートガラスの化学強化処理に際して、研磨工程を要することなく、反りの発生を可及的小さく抑える新規な方法を提供することを目的とする。
〔問題点を解決するための手段〕
本発明は溶融ガラスを溶融金属浴上に供給し、成形されたフロート法ガラスを化学強化する方法において、予め前記溶融金属との非接触面(以下トツプ面という)を接触面(以下ボトム面という)・・・」
(ウ)「〔実施例〕
実施例 1・・・フロート法により製板された板ガラスに化学強化するに際してはまず前記の装置によりまず加熱処理を行う。すなわち加熱炉1内の雰囲気温度を600℃にした状態で、まず直径300mmφ、厚さ1mmの円盤形状のフロートガラス6をトップ面を上にして載せた回転台5を架台13を介し、低速で走行しているネツトコンベア3の炉外部において、位置規制部材15に係合するよう載置する。・・・フロートガラスは回転しながら、むらがないように加熱され、ネツトコンベア3の進行に伴い温度が上昇する。やがてガラス6のトツプ面は輻射伝熱と対流伝熱により炉内雰囲気温度迄上昇する。この時ガラス6のボトム面は、輻射熱がフアイバーウール14で被覆された載置台7により遮断され、ほとんど対流伝熱のみとなりトツプ面より低い温度に迄しか上昇しない。この状態をほぼ8分間維持した後フロートガラスは回転台5とともに炉外に搬出され同時に載置台7は、ラツク4との歯合が外れ回転をやめ、前処理が完了する。次いで、前処理されたフロートガラスを通常の化学強化方法、例えば、フロートガラスを490℃の硝酸カリウム溶液に2.5時間浸漬してガラス表層のNa+イオンをK+イオンでイオン交換せしめて化学強化する。このようにして得られた5枚のガラスの特性値を表1に掲載する。
実施例 2
実施例1と同一のガラスを用い、加熱条件を温度500℃、加熱時間13分にして、その他の条件は実施例1と同じ条件で化学強化する。このようにして得られたフロートガラスの特性値を表1に掲載する。
実施例 3
実施例1と同一のガラスを用い、ガラスを回転させずに、加熱温度、時間、化学強化処理条件は実施例1と同じ条件で化学強化する。このようにして得られたフロートガラスの特性値を表1に掲載する。」
(エ)「
」
(オ)「また本発明によるガラスは表面圧縮応力が2500~3500kg/cm2、曲げ破壊強度が4500~6000kg/cm2で充分な強度を有し建築用、車輌用などの各種の用途にも好適なものである。」(第6欄第39-42行)
記載事項(オ)によれば、甲1に記載された発明は、表面圧縮応力が2500~3500kg/cm2、曲げ破壊強度が4500~6000kg/cm2程度である化学強化ガラスを得ることを目的としているものであるから、記載事項(エ)の実施例1~3の化学強化処理されたガラスは、表面圧縮応力が2500~3500kg/cm2(245~343MPaに相当)である化学強化フロートガラスといえる。
してみれば、記載事項(イ)~(オ)によれば、甲1の実施例1~3には、
「化学強化用フロートガラスであって、成形時に溶融金属と接するボトム面と、該ボトム面に対向するトップ面とを有し、
硝酸カリウム溶液により490℃にて2.5時間化学強化したときの反り量が、-0.05~0.15mm/300mm径、-0.10~0.12mm/300mm径、または-0.10~0.4mm/300mm径であり、表面圧縮応力が2500~3500kg/cm2(245~343MPa)である化学強化用フロートガラス」が記載されていると認められる。
(b)甲2の記載事項及び甲2に記載された発明
甲2には、次の記載がある。
(ア)「〔産業上の利用分野〕
本発明は薄板で大面積の建築用、車輌用ガラス、什器等各種成形品に利用されるソーダー石灰フロートガラスとりわけ光デイスク等の電子材料分野に利用されるフロートガラスの化学強化方法に関する。」
(イ)「本発明はフロートガラスをアルカリイオン置換によつて強化するに際して反りの発生を抑制する新規な方法を提供するものである。」(第3欄第24-26行)
(ウ)「フロート成形時において溶融ガラスは溶融金属(通常Sn)面に沿つてその上を延展して平滑面(以下ボトム面という)を形成し、他方その上面は雰囲気に接して平滑な自由表面(以下トツプ面という)を形成する。」(第3欄第36-39行)
(エ)「以上のようにしてフロートガラスのトツプ面のソーダー濃度を減ずる処理を施して後、フロートガラス全面にわたりイオン半径の大きいアルカリイオン、通例カリウムによりイオン置換しガラスに表面圧縮層を形成させるべく処理する。
この処理は従来公知の方法を採用し得る。すなわち硝酸カリや硫酸カリ等のカリウムを含有する塩の浴中、ガラスの歪点ないし徐冷点の温度範囲で30分~数時間フロートガラスを浸漬したり、あるいはフロートガラスの全面をカリウムを含有する塩でスプレー、塗布等の操作により被覆し、徐冷点以下の温度に加熱することにより20~50μmのカリウム置換層を形成させる。」(第4欄第43行-第5欄第4行)
(オ)「実施例1
フロートガラスとしてサイズが300mmφ、厚みが1mmのものを5枚準備した。
加熱炉には抵抗加熱式電気炉を用い、炉の側壁の一ケ所には炉外からガスを導くべくガス導入管を貫通しかつ炉内においてはガス導入管より分岐した複数のガスノズルをガラスを炉内に配置したときにそのトツプ面に対面するように配設しておく。
予め加熱炉内を550℃に熱し、次いでガラスをスチール製枠体に立架けたものを炉内に導き、その後100℃に予熱したエアーに10VOl%CBrF3ガスを混入した混合ガスを43l/分の割合で3分間ガラスのトツプ面に吹付けた。
その後ガラスを取出して放冷、水洗しアルカリイオン置換処理に付した。
アルカリイオン置換処理は従来公知の方法に基づき490℃に加熱した硝酸カリ浴中にスチール製支持具に懸吊したガラスを浸漬し、150分保持後ガラスを取出して放冷、水洗した。
・・・
結果を第1表実施例1に示す。
実施例2
実施例1と同様のフロートガラス5枚についてソーダー低減処理条件だけ変え、あとは実施例1と同様に処理し試験に供した。
ソーダー低減処理においては、100℃に予熱したエアーに5vol%HFガスを混入したものを52l/分の割合で3分間予め500℃に加熱したガラスのトツプ面に吹付けた。
結果を第1表実施例2に示す。
実施例3
実施例1と同様のフロートガラス5枚についてそのトツプ面に10wt%濃度のNH4Cl水溶液約12ccを塗布して乾燥の後、550℃に加熱した実施例1と同一の加熱炉(ただしガス吹付は行わない)に導入し10分間保持した。以降はガラスを取出し放冷、水洗して後実施例1と同様の条件でアルカリイオン置換処理し試験に供した。
結果を第1表実施例3に示す。」
(カ)「
」
記載事項(ウ)、(オ)、(カ)によれば、甲2の実施例1~3には、
「化学強化用フロートガラスであって、成形時に溶融金属と接するボトム面と、該ボトム面に対向するトップ面とを有し、
硝酸カリ浴により490℃にて150分間化学強化したときの反り量が、0.06~0.15mm/300mm径であり、曲げ破壊強度が4300~6100kg/cm2である化学強化用フロートガラス」(以下、「甲2発明」という。)が記載されていると認められる。
(c)本件発明1と、甲1に記載された発明との対比、判断
(i)対比
本件発明1と甲1発明を対比する。
甲1発明の硝酸カリウム溶液は、本件発明1の100%硝酸カリウムに相当する。
そうすると、本件発明1と、甲1発明とは、
「100%硝酸カリウムによる化学強化用フロートガラスであって、成形時に溶融金属と接するボトム面と、該ボトム面に対向するトップ面とを有する化学強化用フロートガラス」である点で一致し、下記(相違点1-1)、(相違点1-2)で相違する。
(相違点1-1)
本件発明1は、425℃にて2.5時間化学強化したときの表面圧縮応力が470MPa以上かつ圧縮応力深さが18μm以下であるのに対し、甲1発明では、490℃にて2.5時間化学強化したときの表面圧縮応力が2500~3500kg/cm2(245~343MPa)であり圧縮応力深さが明らかでない点。
(相違点1-2)
本件発明1は、トップ面におけるNa2O濃度をその深さ100μm位置のNa2O濃度で除した値であるトップ面の規格化Na2O表面濃度の2乗から該ボトム面におけるNa2O濃度をその深さ100μm位置のNa2O濃度で除した値であるボトム面の規格化Na2O表面濃度の2乗を減じた差Δ(N-Na2O2)が0.040以下であるのに対し、甲1発明では、この点が明らかでない点。
(ii)判断
相違点1-1について検討する。
申立人が意見書と共に提出した甲第10号証(作花済夫編、ガラスの辞典、株式会社朝倉書店、1985年9月20日、第306~309頁)には、以下の記載がある。
(A)「イオン交換は拡散律速反応であるため交換量は処理時間の平方根に比例する。また、処理温度は高いほど交換速度は速まるがあまり高すぎるとガラスの粘性流動による応力緩和が生じ強度は逆に低下する」(第307頁下から第4行~第308頁第2行)
(B)「
」
記載事項(A)によると、イオン交換による交換速度について、処理温度が高いほど交換速度が早まるが、あまり処理温度が高すぎるとガラスの粘性流動による応力緩和が生じ、強度が逆に低下することが記載されているから、この記載だけによれば、甲1発明において、化学強化処理する際の温度を490℃から425℃に下げた場合には、表面圧縮応力が高まることが予想される。
しかしながら、記載事項(B)のSiO2-Al2O3-Na2O系ガラスの処理時間と曲げ強度の関係を示すグラフを見てみると、SiO2-Al2O3-Na2O系ガラスを2.5時間化学強化した際の曲げ強度は、処理温度が500℃を超える例については、処理温度が高いほど、曲げ強度が低下することが見て取れるものの、処理温度が500℃までの例では、反対に、処理温度が高いほど曲げ強度が高まることが見て取れる。
そうすると、処理温度が高ければ圧縮応力が低下すると一概にはいえない。
してみれば、甲1発明において、化学強化する際の温度を490℃から425℃に下げた場合に、表面圧縮応力が470MPaよりも高くなるものとはいえない。
したがって、相違点1-2について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1に記載された発明とはいえない。
また、記載事項(イ)より、甲1発明は、反りの発生を小さくすることを目的とするものであるところ、甲1発明において、表面圧縮応力を2500~3500kg/cm2から上げた場合には、強化応力による反りの発生が大きくなることが当然に予想されるから、甲1発明において、425℃にて2.5時間化学強化したときの表面圧縮応力を470MPa以上にあげることには阻害要因がある。
したがって、本件発明1は、甲1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。
(d)本件発明1と、甲2に記載された発明との対比、判断
(i)対比
本件発明1と甲2発明を対比する。
甲2発明の硝酸カリ浴は、本件発明1の100%硝酸カリウムに相当し、甲2発明の150分間は、本件発明1の2.5時間に相当する。
また、記載事項(エ)によれば、甲2発明は、カリウム置換層が20~50μmである化学強化ガラスを得ることを目的としているものであるから、化学強化された際のカリウム置換層が20~50μmである化学強化用フロートガラスと認められる。
そうすると、本件発明1と、甲2発明とは、
「100%硝酸カリウムによる化学強化用フロートガラスであって、成形時に溶融金属と接するボトム面と、該ボトム面に対向するトップ面とを有する化学強化用フロートガラス」である点で一致し、下記(相違点2-1)、(相違点2-2)で相違する。
(相違点2-1)
本件発明1は、425℃にて2.5時間化学強化したときの表面圧縮応力が470MPa以上かつ圧縮応力深さが18μm以下であるのに対し、甲2発明では、490℃にて150分間化学強化したときのカリウム置換層が20~50μmであり、曲げ破壊強度が4300~6100kg/cm2であり、表面圧縮応力が明らかでない点。
(相違点2-2)
本件発明1は、トップ面におけるNa2O濃度をその深さ100μm位置のNa2O濃度で除した値であるトップ面の規格化Na2O表面濃度の2乗から該ボトム面におけるNa2O濃度をその深さ100μm位置のNa2O濃度で除した値であるボトム面の規格化Na2O表面濃度の2乗を減じた差Δ(N-Na2O2)が0.040以下であるのに対し、甲2発明では、この点が明らかでない点。
(ii)判断
相違点2-1について検討する。
甲2発明は、表面圧縮応力が明らかではないものの、曲げ破壊強度が4300~6100kg/cm2程度であり、この数値は、甲1記載事項(オ)より、甲1発明と同様であることから、甲2発明も甲1発明と同程度、すなわち、2500~3500kg/cm2(245~343MPaに相当)程度の表面圧縮応力を有するものと認められる。
そうすると、(c)(ii)での判断と同様のことが甲2発明についてもいえるから、甲2発明において、化学強化する際の温度を490℃から425℃に下げた場合に、表面圧縮応力値が470MPaよりも高くなるものとはいえない。
したがって、相違点2-2について検討するまでもなく、本件発明1は、甲2に記載された発明とはいえない。
また、記載事項(イ)より、甲2発明も、反りの発生を小さくすることを目的とするものであるから、容易性についても、(c)(ii)での判断と同様のことが甲2発明についてもいえる。
したがって、本件発明1は、甲2に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(e)本件発明2~7,9~13について
本件発明2~7は、本件発明1と同様に、「100%硝酸カリウムにより425℃にて2.5時間化学強化したときの表面圧縮応力が470MPa以上かつ圧縮応力深さが18μm以下である、化学強化用フロートガラス」であるから、上記(c)、(d)と同様に、甲1に記載された発明または甲2に記載された発明とはいえないし、甲1または甲2に記載された発明及び甲6~8に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。
また、本件発明9~13は、本件発明1~7のいずれかを引用し、本件発明1~7をさらに限定する発明であるから、甲1または甲2に記載された発明及び甲6~8に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。
(5)取消理由2)、3)についてのまとめ
以上のとおりであるから、請求項1~7に係る特許は、特許法第29条第1項第3号に該当せず、請求項1~7,9~13に係る特許は、特許法第29条第2項に規定する要件を満たすものである。
3.取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
(1)申立理由の概要
申立人は、上記取消理由の他に、訂正前の請求項8に係る発明は、不明瞭であることから、訂正前の請求項8に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである旨主張している。
(2)申立理由について
本件訂正請求により、訂正前の請求項8は削除された。
したがって、この申立理由には理由がない。
第6.むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1~7,9~13に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1~7,9~13に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
さらに、請求項8は削除されたため、本件特許の請求項8に対する特許異議の申立てについては、対象となる請求項が存在しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2017-700978