特許異議申立
2023-700205
多層構造石英ガラス材およびその製造方法
- 審判番号
- 2023-700205
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2019-027719
- 登録番号
- 7123827
- 請求日
- 2023年02月22日
- 審決日
- 2024年08月27日
- 公報発行日
- 2024年12月27日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】東ソ-・エスジ-エム株式会社
- 【権利者代理人】弁理士法人特許事務所サイクス
- 【異議申立人】杉山 恵子
- 審判長/審判官
- 審判長 宮澤 尚之
- 審判官 増山 淳子
- 審判官 後藤 政博
- 分類
- P1652.113-YAA(C03B) / P1652.121-YAA(C03B) / P1652.536-YAA(C03B) / P1652.537-YAA(C03B) / P1652.853-YAA(C03B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第6項第1号、特許法第120条の5第2項、特許法第36条第6項第2号、特許法第29条第1項、特許法第120条の5第4項、特許法第120条の5第7項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7123827号発明「多層構造石英ガラス材およびその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7123827号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~6〕について訂正することを認める。
特許第7123827号の請求項1~6に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7123827号(以下、「本件特許」という。)の請求項1~12に係る特許についての出願は、平成31年2月19日に出願され、令和4年8月15日にその特許権の設定登録がされ、同年同月23日に特許掲載公報が発行された。
その後、その請求項1~6に係る特許に対して、令和5年2月22日に特許異議申立人杉山恵子(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、同年6月21日付けで取消理由が通知され、同年8月2日に特許権者により意見書の提出及び訂正の請求がされ、同年10月6日に申立人により意見書の提出がされ、同年11月29日付けで取消理由(決定の予告)が通知され、令和6年1月24日に特許権者により意見書の提出及び訂正の請求がされ、同年3月7日に申立人により意見書の提出がされ、同年4月15日付けで訂正拒絶理由が通知され、同年5月15日に特許権者により意見書の提出がされたものである。
第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
令和6年1月24日にされた訂正の請求(以下、「本件訂正請求」といい、本件訂正請求による訂正を「本件訂正」という。)は、特許法第120条の5第4項の規定に従い、一群の請求項を構成する請求項1~6を訂正の単位として訂正することを求めるものであり、その内容(訂正事項)は、次のとおりである(訂正箇所に下線を付した。)。
なお、本件訂正請求により、令和5年8月2日にされた訂正の請求(以下、「先の訂正請求」といい、先の訂正請求による訂正を「先の訂正」という。)は、特許法第120条の5第7項の規定により取り下げられたものとみなす。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「透明石英ガラス層と不透明石英ガラス層の接合境界部の平坦度が、100mm角の大きさで0.2mm以下である」と記載されていたのを、「100mm角の多層構造石英ガラス材の中心部と各コーナー部の厚さを測定して得た最大値と最小値との差が、0.2mm以下である」に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2~6も同様に訂正する)。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項4に「500℃における熱伝導率」と記載されていたのを、「不透明石英ガラス層の500℃における熱伝導率」に訂正する(請求項4の記載を引用する請求項6も同様に訂正する。)。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項5に「500℃における熱伝導率」と記載されていたのを、「不透明石英ガラス層の500℃における熱伝導率」に訂正する(請求項5の記載を引用する請求項6も同様に訂正する。)。
2 訂正要件(訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否について)の判断
(1)訂正事項1について
ア 訂正事項1は、請求項1の「透明石英ガラス層と不透明石英ガラス層の接合境界部の平坦度が、100mm角の大きさで0.2mm以下である」とは、どのようにして測定されたどのような値であるのか不明であったため、その意味するところを明確にするために行ったものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
本件訂正前の「透明石英ガラス層と不透明石英ガラス層の接合境界部の平坦度が、100mm角の大きさで0.2mm以下である」とは、「透明石英ガラス層」、「不透明石英ガラス層」、「透明ガラス層」を、この順に有する多層構造石英ガラス材において、「透明石英ガラス層」と「不透明石英ガラス層」の層間である「接合境界部」における「平坦度」が100mm角の大きさで0.2mm以下であることを特定するものである。
これに対し、訂正事項1の「100mm角の多層構造石英ガラス材の中心部と各コーナー部の厚さを測定して得た最大値と最小値との差が、0.2mm以下である」は、「透明石英ガラス層」、「不透明石英ガラス層」、「透明ガラス層」をこの順に積層した後の積層材である「多層構造石英ガラス材」の中心部と各コーナー部の「厚さ」の最大値と最小値の差を特定するものである。
そうしてみると、本件訂正前の「透明石英ガラス層と不透明石英ガラス層の接合境界部の平坦度が、100mm角の大きさで0.2mm以下である」ことと、訂正事項1の「100mm角の多層構造石英ガラス材の中心部と各コーナー部の厚さを測定して得た最大値と最小値との差が、0.2mm以下である」ことは、一見すると異なる概念を示していると解されるかもしれない。
そこで、この点を改めて検討すると、本件特許の願書に添付された明細書(以下、「本件明細書」といい、明細書、特許請求の範囲又は図面をまとめて、「本件明細書等」という。)には、「平坦度」の評価方法に関して、次の記載があるのみである(下線は、当審が付した。以下同様。)。
「【0042】
[評価方法]
(平坦度)
ノギスを用いて、得られた100mm角の多層材の中心部と各コーナー部の厚さを測定し、最大値と最小値との差を平坦度とした。」
また、本件明細書には、「多層構造石英ガラス材の製造方法」に関して、次の記載がある。
「【0019】
工程(1)
第1の透明石英ガラス板と第2の透明石英ガラス板とを対向する面が所定間隔で略平行になるように成型用鋳型内に支持する。
【0020】
成型用鋳型は、少なくとも下型と上型からなる。成型用鋳型の平面形状は特に制限はなく、多層構造石英ガラス材の形状に応じて適宜決定することができる。限定する意図ではないが、成型用鋳型の平面形状は、例えば、方形、円形、不定形などであることができる。下型は一定の厚みの平板部材であり、少なくとも上面は第1の透明石英ガラス板を支持するために用いられるので、平坦であり、好ましくは平滑である。上型は、少なくとも下面が、第2の透明石英ガラス板を支持するために用いられるために、平坦であり、好ましくは平滑である。上型は、平板部と平板部の少なくとも一部の周縁に立設された側壁部とからなり、側壁部は下方(下型方向)に延在する。側壁部の内周面は、下型の外側面と相対し、かつ略等しい寸法を有し、下型の外側面に側壁部の内周面が沿って、上型が上下に移動できる構造および寸法(スライド機能)を有する。成型用鋳型の材質は、特に制限はないが、耐熱性に優れると言う観点からは炭素材料が用いられる。但し、炭素材料に限定される意図ではない。」
「【0023】
工程(2)
工程(2)では、第1の透明石英ガラス板と第2の透明石英ガラス板との間の空間にシリカ粉末および窒化ケイ素粉末の混合粉末である不透明層用の原料粉末を充填する。成型用鋳型内において、第1の透明石英ガラス板と第2の透明石英ガラス板との対向面が所定間隔で平行になるように支持されており、この2つ透明石英ガラス板の間の空隙に不透明層用の原料粉末を投入する。不透明層用の原料粉末の充填は、スペーサーを設けることなく形成した孔および上型の側壁部の切欠きまたは孔である、不透明層用の原料粉末充填用孔から行うことができる。」
「【0028】
工程(3)
工程(3)では、原料粉末を充填した後、成型用鋳型と共に電気炉内で加熱して、原料粉末を溶融および発泡させる。その際、上型の重量により、第1の透明石英ガラス板と第2の透明石英ガラス板の外側から対向する向きに荷重を掛ける。これにより、大きな泡の形成を抑制して泡の大きさをコントロールしつつスペーサーの高さに応じた厚さの不透明層を形成することができる。上型の重量により加えられる荷重は、例えば、1~10g/cm2の範囲とすることができる。但し、この範囲に限定される意図ではない。上型側壁部の内周面は、下型の外側面と相対し、かつ略等しい寸法を有し、下型の外側面に側壁部の内周面が沿って、上型が上限に移動できる構造および寸法を有するので、溶融および発泡の際に、上型が上下に移動することができ、上型の重量と原料粉末の充填量や組成に応じた容量(厚み)の不透明層を容易に形成することができる。」
「【0030】
加熱溶融、発泡が終了した後に、成型用鋳型を冷却し、冷却後に多層構造石英ガラス材を成型用鋳型から取り出す。」
これらの記載によれば、多層構造石英ガラス材は、平坦であり、好ましくは平滑な上型、下型によって、対向面が所定間隔で略平行になるように第1及び第2の透明ガラス板を鋳型内で支持し、第1及び第2の透明ガラスの間に不透明層用の原料粉末を充填し、第1及び第2の透明ガラスに荷重をかけながら不透明層の原料粉末を溶融及び発泡させ、溶融発泡が終了した後に取り出すことによって製造されるものであるといえる。
そして、第1及び第2の透明ガラスは、通常、厚さが一定の平板であるものが用いられるため、多層構造石英ガラス材のうち、第1及び第2の透明ガラスの層厚は一定である。
そうすると、層厚の一定な透明石英ガラス層を除いた不透明石英ガラス層の厚さ分布が、透明ガラス層と不透明ガラス層の接合境界部の平坦性に反映されるため、接合境界部の平坦性は、層厚の一定な透明石英ガラス層を介して、そのまま、多層構造石英ガラス材表面の平坦性として現れることとなる。
以上を踏まえると、【0042】に記載された「得られた100mm角の多層材の中心部と各コーナー部の厚さを測定し、最大値と最小値との差」である「平坦度」は、「透明石英ガラス層と不透明石英ガラス層の接合境界部」の100mm角の大きさにおける平坦度を示しているといえるから、本件訂正前の「透明石英ガラス層と不透明石英ガラス層の接合境界部の平坦度が、100mm角の大きさで0.2mm以下である」ことと、訂正事項1の「100mm角の多層構造石英ガラス材の中心部と各コーナー部の厚さを測定して得た最大値と最小値との差が、0.2mm以下である」ことは、同一の概念を示していることを理解できる。
したがって、訂正事項1により、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更されるものではない。また、これにより新たな技術的事項が導入されるものともいえず、訂正事項1は、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてされたものである。
イ 申立人の主張について
申立人は、令和6年3月7日に提出した意見書において、本件明細書の【0042】には、「多層材」の中心部と各コーナー部の厚さを測定することは記載されているが、「多層構造石英ガラス材」の中心部と各コーナー部の厚さを測定することは記載されていない旨主張している(第2頁の(2-1)参照)。
しかし、本件明細書において、「多層材」も「多層構造石英ガラス材」も、「透明石英ガラス層、不透明石英ガラス層及び透明石英ガラス層をこの順に有する」ものを示しており、「多層材」と「多層構造石英ガラス材」が同一の意味であることは明らかである。そうすると、「多層材」の中心部と各コーナー部の厚さが測定されていれば、「多層構造石英ガラス材」の中心部と各コーナー部の厚さを測定することは記載されているといえる。
したがって、上記申立人の主張は採用されない。
(2)訂正事項2、3について
訂正事項2は、請求項4に記載された「500℃における熱伝導率が、1.2 W/(m・K)以下である」ことの対象が、第2層である不透明石英ガラス層であることを明確にするために行ったものであり、訂正事項5は、請求項5に記載された「500℃における熱伝導率が、0.2 W/(m・K)以上、1.1 W/(m・K)以下である」ことの対象が、第2層である不透明石英ガラス層であることを明確にするために行ったものであるから、いずれも、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
そして、本件明細書の【0015】には、「不透明石英ガラス層の熱伝導率を所望の低い値(例えば、500℃において1.2 W/(m・K)以下)にすることができる。」、「500℃における熱伝導率は、好ましくは0.2以上1.1 W/(m・K)以下である。」と記載されているから、訂正事項2、3は、これにより新たな技術的事項が導入されるものとはいえず、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてされたものである。
3 小括
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~6〕について訂正することを認める。
第3 本件特許請求の範囲の記載(本件発明)
前記第2のとおり、本件訂正請求は適法にされたものであるから、本件特許請求の範囲の請求項1~12に係る発明は、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1~12に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、特許異議の申立てがされた請求項1~6に係る特許の発明は、次のとおりのものである(以下、各請求項に係る発明を、項番号に合わせて「本件発明1」などといい、まとめて「本件発明」という。)。
「【請求項1】
透明石英ガラス層、不透明石英ガラス層及び透明石英ガラス層をこの順に有する多層石英ガラス材において、不透明石英ガラス層の見掛け密度が、2.0g/cm3以下であり、かつ100mm角の多層構造石英ガラス材の中心部と各コーナー部の厚さを測定して得た最大値と最小値との差が、0.2mm以下である、多層構造石英ガラス材。
【請求項2】
不透明石英ガラス層の見掛け密度が、0.5g/cm3以上、1.9g/cm3以下である、請求項1に記載の多層構造石英ガラス材。
【請求項3】
不透明石英ガラス層の見掛け密度が、0.7g/cm3以上、1.7g/cm3以下である、請求項1に記載の多層構造石英ガラス材。
【請求項4】
不透明石英ガラス層の500℃における熱伝導率が、1.2 W/(m・K)以下である、請求項1~3のいずれかに記載の多層構造石英ガラス材。
【請求項5】
不透明石英ガラス層の500℃における熱伝導率が、0.2 W/(m・K)以上、1.1 W/(m・K)以下である、請求項1~3のいずれかに記載の多層構造石英ガラス材。
【請求項6】
不透明石英ガラス層が、直径1mm以上の泡を含まない、請求項1~5のいずれかに記載の多層構造石英ガラス材。」
第4 特許異議申立理由、取消理由の概要
1 特許異議申立理由の概要
申立人が主張する特許異議申立理由は、概略、以下の(1)~(4)のとおりである。
ここで、申立人が提出した証拠方法は、次のものである。
甲第1号証:特開2004-91314号公報
甲第2号証:特開平7-300327号公報
甲第3号証:特開2007-45699号公報
甲第4号証:特開2007-145641号公報
甲第5号証:須賀唯知、「ガラスの常温接合」、NEW GLASS、2010年、Vol.25、No.3、p.26-30
甲第6号証:特開2004-307269号公報
甲第7号証:特開平4-323601号公報
甲第8号証:特開平4-353802号公報
甲第9号証:特開平5-60909号公報
甲第10号証:特開平8-152507号公報
甲第11号証:ノギスの種類、構造と名称が記載された頁の精度の箇所の抜粋、[令和5年2月20日検索]、株式会社Catallaxy作製ページ、インターネット<URL:https://mitsu-ri.net/articles/caliper>
(以下、甲第1号証等を「甲1」等という。)
(1)申立理由1(甲1を主たる証拠とした新規性・進歩性欠如)
設定登録時の請求項1~6に係る発明は、甲1に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3項に該当する、又は、甲1に記載された発明及び甲2~6に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は、特許法第29条第1項及び第2項の規定に違反してされたものである。
(2)申立理由2(明確性要件違反)
設定登録時の請求項1~6には、透明石英ガラス層と不透明石英ガラス層の「接合境界部の平坦度」と記載されている。他方で、本件明細書には、「(平坦度) ノギスを用いて、得られた100mm角の多層材の中心部と各コーナー部の厚さを測定し、最大値と最小値との差を平坦度とした」と記載されているが(【0042】)、この方法で測定されるのは「多層材の厚さのばらつき」である。
そして、「接合境界部の平坦度」と「多層材の厚さのばらつき」は異なる概念であるため、「接合境界部の平坦度」をどのように測定するのか、本件明細書を参酌しても不明である。
また、本件明細書の【0042】に記載された評価方法では、「多層材の中心部と各コーナー部という厚さの測定部位がどの位置であるか不明確であるし、甲11に示されているとおり、ノギスにはいくつかの種類があるところ、本件明細書には、ノギスの定義が記載されておらず、ノギスによる測定方法が明確でない。
よって、当該請求項に係る発明は明確ではなく、当該請求項に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
(3)申立理由3(サポート要件違反)
設定登録時の請求項1~6に記載された、透明石英ガラス層と不透明石英ガラス層の「接合境界部の平坦度」について、発明の詳細な説明には「多層材としての厚さのばらつき」を測定し評価することは記載されている。しかし、「接合境界部の平坦度」や、測定に用いるノギスの定義は記載されておらず、ノギスによる測定方法も明確ではないため、当該請求項に係る発明は、発明の詳細な説明に記載された発明でない。
よって、当該請求項に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
(4)申立理由4(サポート要件違反)
設定登録時の請求項4、5には、それぞれ、「500℃における熱伝導率が、1.2 W/(m・K)以下である・・・多層構造石英ガラス材」、「500℃における熱伝導率が、0.2 W/(m・K)以上、1.1 W/(m・K)以下である・・・多層構造石英ガラス材」と記載されている。しかし、発明の詳細な説明には、多層構造ガラス材中の「不透明層」の熱伝導率を測定することは記載されているが、「多層構造石英ガラス材」の熱伝導率を測定することも、「多層構造石英ガラス材」の熱伝導率も記載されていないため、当該請求項に係る発明は、発明の詳細な説明に記載された発明ではない。
更に、実施例7では、平坦度が請求項1の範囲外の0.5mmとなってるが、熱伝導率は、本件特許の発明の範囲である実施例1~6よりも良好な結果となっており、熱伝導率が低い多層構造石英ガラス材を提供するという、本件発明の課題と矛盾する。
よって、当該請求項に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
2 取消理由の概要
令和5年6月21日付けで通知した取消理由は、要するに、以下の(1)、(2)に示した取消理由であり、また、令和5年11月29日付けで通知した取消理由(決定の予告)は、要するに、以下の(3)に示した取消理由である。
(1)取消理由1(明確性要件違反)、取消理由2(サポート要件違反)
設定登録時の請求項1~6における「透明石英ガラス層と不透明石英ガラス層の接合境界部の平坦度が、100mm角の大きさで0.2mm以下である」とは、どのような測定によって得られたどのような値を意味しているのか明確ではないし、透明石英ガラス層と不透明石英ガラス層の「接合境界部の平坦度」が、100mm角の大きさで0.2mm以下である多層構造石英ガラス材は、本件明細書に記載されているとはいえない。
したがって、当該請求項に係る特許は、特許法第36条第6項第1号及び第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
(2)取消理由3(サポート要件違反)
設定登録時の請求項4には、「500℃における熱伝導率が、1.2 W/(m・K)以下である」「多層構造石英ガラス材」が、設定登録時の請求項5には、「500℃における熱伝導率が、0.2 W/(m・K)以上、1.1 W/(m・K)以下である」「多層構造石英ガラス材」が記載されている。他方で、発明の詳細な説明には、多層構造石英ガラス材の「不透明石英ガラス層」部分の熱伝導率については記載されているものの、「多層構造石英ガラス材」の熱伝導率についての記載はない。
そうすると、当該請求項に記載された熱伝導率を有する「多層構造石英ガラス材」は、発明の詳細な説明に記載されたものでない。
したがって、当該請求項に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
(3)取消理由4(明確性要件違反)
先の訂正による請求項1~6には「透明石英ガラス層と不透明石英ガラス層の接合境界部の平坦度」との記載があり、これは、積層された第1層である透明石英ガラス層と第2層の不透明石英ガラス層間の平坦度、あるいは第3層である不透明石英ガラス層と第2層の透明石英ガラス層間の平坦度を意味するものであると理解される。他方で、先の訂正による請求項1~6には「ただし、平坦度は、100mm角の多層構造石英ガラス材の中心部と各コーナー部の厚さを測定して得た最大値と最小値との差である。」との記載もある。
そして、「100mm角の多層構造石英ガラス材の中心部と各コーナー部の厚さを測定して得た最大値と最小値との差」である「平坦度」は、「積層された第1層である透明石英ガラス層と第2層の不透明石英ガラス層間の平坦度、あるいは第3層である透明石英ガラス層と第2層の不透明石英ガラス層間の平坦度」を意味しないし、「100mm角の多層材の中心部と各コーナー部の厚さの最大値と最小値との差」が測定できれば「積層された第1層である透明石英ガラス層と第2層の不透明石英ガラス層間の平坦度、あるいは第3層である不透明石英ガラス層と第2層の透明石英ガラス層間の平坦度」が導出できるとの技術常識も存在しない。
よって、当該請求項に係る発明は明確ではなく、当該請求項に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
第5 各証拠について
1 甲1について
甲1には、以下のことが記載されている(下線は当審で付した。以下、同様。)。
(1)「【請求項2】
不透明石英ガラス材料の表裏両面に実質的に気泡のない透明石英ガラス材料を設けることにより、表裏両面に実質的に気泡のない透明石英ガラス層を有し、該透明石英ガラス層の中間に不透明石英ガラス層を介在させて多層構造としてなることを特徴とする多層石英ガラス板。
・・・
【請求項4】
前記不透明石英ガラス層が、1.50~2.20g/cm3の密度、単位体積当たり0.5~2.5%の気孔含有量、10μm未満の最大気孔寸法、及び1mmの壁厚において、λ=200~5000nmの波長範囲で5%未満の直接分光透過率を有し、不純物含有量をNa≦0.5ppm、K≦0.8ppm、Al≦25ppm、Fe≦0.5ppm、Cu≦0.3ppm、Mg≦0.3ppmに制御した不透明石英ガラス材料によって形成されていることを特徴とする請求項2又は3記載の多層石英ガラス板。」
(2)「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、熱遮蔽性に優れかつパーティクルの発生を解消した多層石英ガラス板、及びこの多層石英ガラス板を用いて製造されかつ半導体基板を熱処理する際等に用いられる熱処理装置において好適に用いられる石英ガラス製治具に関する。
・・・
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記した問題点に鑑みなされたもので、石英ガラス材料の品種毎の短所を補うために異種又は同種の石英ガラス材料を複合して製造されかつ熱遮蔽性に優れるとともにパーティクルの発生を解消した多層石英ガラス板、並びにこの多層石英ガラス板を用いて製造されかつ従来の熱遮蔽用の石英ガラス製治具に比べて熱遮蔽効果が格段に向上しかつ半導体基板の熱処理を行う熱処理装置等において好適に用いられる石英ガラス製治具を提供することを目的とする。
【0011】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するために、本発明の多層石英ガラス板の第1の態様は異種又は同種の複数枚の石英ガラス材料を重ね合わせることによって多層構造としてなることを特徴とする。」
2 甲2について
甲2には、以下のことが記載されている。
「【0014】
【実施例】以下に、本発明を実施例に従って説明する。
実施例1
平研によって約100μmの平坦な表面をもち、比重2.08~2.18、気泡直径10~160μm、気泡総体積~10%、気泡面積800~1500cm2、ナトリウム元素濃度0.2ppm以下、カリウム元素濃度0.2ppm以下、OH基濃度10ppm以下の不透明石英ガラスを外径330mmφ×厚さ30mmの板材に形成し、それをを8rpmで回転する台に載せ、回転させながら、粒度、及び元素濃度が表1の天然石英結晶粉を、板材の外周部より40mm内側地点の上方に中心点を定めたバーナーの火炎中(ガス条件;H2:400l/min、O2;200l/min)に4g/minの速度で通過させながら溶融落下させた。この溶融落下を3時間連続して行い不透明石英ガラス板の平坦な面上に透明石英ガラス層を形成した。該透明石英ガラス層2の厚さ分布は、最高5mmであった。厚さが2mm以上の部分の幅は、図2に示すように外周部より5mm内側の部位から80mm内側の部位までであった。このようにして作成された透明石英ガラス層付不透明石英ガラス板材を外径320mmφ×内径180mmφに加工し、さらに表面研削を行った。前記表面研削で堆積透明石英ガラスを約1.5mmに均一の層とした。次いで前記透明石英ガラス層を焼き上げ仕上した。その結果、前記透明石英ガラス層の表面粗さは±2μm以内であった。」
3 甲3について
甲3には、以下のことが記載されている。
「【0023】
・・・
また、前記ノンドープ石英ガラス部材の所定部位に、前記ドープ石英ガラス材料を用いて作製されたドープ石英ガラス部材を貼付け処理する方法において、貼り付ける表面を研磨する方法がある。研磨によって、接着はより強固になる。」
4 甲4について
甲4には、以下の事項が記載されている。
「【0021】
シリカガラスどうしの熱融着は、一般的には、1000℃以上で所定時間保持することにより行うことができるが、その条件は、融着面の粗さや含有不純物等によって変化する。したがって、熱融着処理S4の処理条件は、接合するガラス部材の熱的特性および融着面の性状を考慮して、適宜、決定する必要がある。例えば、シリカガラスの、市販のサブミクロンから数ミクロンの酸化セリウム等による研磨面どうしの熱融着であれば、通常、1000℃で2時間保持することにより行うことができるが、その処理条件を1300℃以上、10分以上とすることにより、より強固な接合を行うことができる。」
5 甲5について
甲5には、以下の事項が記載されている。
「接合の必要条件は,1)接合面の密着,2)化学結合の形成である。かつて某TV番組で常温接合が紹介されたなかで,接合の必要条件として接合面の密着が取り上げられ,究極の平坦な表面での接触によって常温接合が可能であること,そして実際の凹凸のある表面に対しては,その隙間を埋める接着剤の存在が有効であることが分かりやすく解説された[i]。」(26頁左欄2~9行)
6 甲6について
甲6には、以下の事項が記載されている。
「【0037】
・・・
前記シリカガラスインゴットは、白色で、気泡を含有していた。その密度は0.78g/cm3であった。
・・・
【0039】
・・・
得られたシリカガラスインゴットは、白色で、気泡を含有していた。その密度は0.9g/cm3であった。」
第6 当審の判断
1 取消理由1、4、申立理由2(明確性要件違反)について
(1)明確性要件の判断手法
特許を受けようとする発明が明確であるか否かは、特許請求の範囲の記載のみならず、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願当時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるかという観点から判断されるべきである。
(2)明確性要件適合性の判断
取消理由1で指摘した、設定登録時の請求項1に記載の「透明石英ガラス層と不透明石英ガラス層の接合境界部の平坦度」との特定事項、あるいは、取消理由4で指摘した、先の訂正による請求項1に記載の「透明石英ガラス層と不透明石英ガラス層の接合境界部の平坦度」、「ただし、平坦度は、100mm角の多層構造石英ガラス材の中心部と各コーナー部の厚さを測定して得た最大値と最小値との差である。」との特定事項は、本件訂正により訂正され、本件発明1は、前記第3のとおりであって、「透明石英ガラス層、不透明石英ガラス層及び透明石英ガラス層をこの順に有する」こと、「不透明石英ガラス層の見掛け密度」及び「100mm角の多層構造石英ガラス材の中心部と各コーナー部の厚さを測定して得た最大値と最小値との差」の数値範囲を特定した「多層構造石英ガラス材」の発明となった。
そして、本件発明1において、「多層構造石英ガラス材」の多層構造は、「透明石英ガラス層、不透明石英ガラス層及び透明石英ガラス層をこの順に有する」ことが特定されているし、また、「不透明石英ガラス層の見掛け密度」及び「100mm角の多層構造石英ガラス材の中心部と各コーナー部の厚さを測定して得た最大値と最小値との差」については、これらの評価方法が本件明細書の【0042】~【0043】に具体的に記載され、これらの数値範囲の意義も明らかであるから、本件発明1は、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるといえない。
本件発明1に係る請求項1の記載の引用する本件発明2~6についても同様である。
したがって、上記(1)の判断手法に従えば、本件発明は、特許法第36条第6項第2号の規定に適合する。
(3)申立人の主張について
ア 申立理由2における指摘事項について
申立理由2における申立人の指摘事項は、前記第4の1(2)のとおりであるところ、当該指摘事項は、(i)設定登録時の請求項1に記載された「透明石英ガラス層と不透明石英ガラス層の接合境界部の平坦度」の評価方法が不明であること、及び、(ii)本件明細書の【0042】に記載された評価方法では、中心部と各コーナー部という厚さの測定部位がどの位置であるか、また、どのような種類のノギスで測定するのかが不明確であることを論拠にして、設定登録時の請求項1~6の記載が明確性要件を満足していない旨を主張するものである。
そこで改めて検討すると、設定登録時の請求項1に記載された「透明石英ガラス層と不透明石英ガラス層の接合境界部の平坦度」は、上記第2の2(1)イで検討したとおり、本件明細書の【0042】に記載された「ノギスを用いて、得られた100mm角の多層材の中心部と各コーナー部の厚さを測定し、最大値と最小値との差」を示しているといえ、そもそも、その評価方法は明確であった。加えて、前記(2)での検討のとおり、設定登録時の請求項1に記載の「透明石英ガラス層と不透明石英ガラス層の接合境界部の平坦度」は、本件訂正により、「100mm角の多層構造石英ガラス材の中心部と各コーナー部の厚さを測定して得た最大値と最小値との差」に訂正されたため、評価方法との関係がより明確になった。
また、100mm角の多層材の中心部は、対向する2つの角から対角線を引いた時の交点付近を示し、また、100mm角の多層材のコーナー部は、それぞれの角の頂部付近を意味することは明らかであるし、ノギスは、本件発明1の数値範囲(0.2mm以下)の有効数字を踏まえて、必要な精度を有するものを適宜選択すればよいことも明らかである。
したがって、申立人の上記主張はいずれも採用できない。
イ 意見書における主張について
申立人は、令和6年3月7日に提出した意見書において、本件発明1において、「多層石英ガラス材」という用語と、「多層構造石英ガラス材」という用語との関係が不明であるから、本件発明1~6は不明確である旨を主張している(2頁の(2-2-1)参照)。
しかしながら、上記第2の2(1)ウでの検討と同様に、「多層石英ガラス材」という用語と、「多層構造石英ガラス材」という用語が同一の意味であることは明らかであるから、当該主張も採用できない。
(4)小括
以上のとおりであるから、取消理由1、4、申立理由2に理由はない。
2 取消理由2、3、申立理由3、4(サポート要件違反)について
(1)サポート要件の判断手法
特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載を対比し、特許請求の範囲で特定された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきである。
(2)サポート要件適合性の判断
ア 本件発明の課題について
本件発明の課題は、本件明細書の発明の詳細な説明の【0003】~【0009】の記載からして、「見掛け密度が低い不透明層を有し、多層石英ガラス板の熱伝導率も低く、その結果、加熱炉からの輻射や伝導による熱を十分に遮断できる多層構造石英ガラス材を提供する」ことといえる。
イ 本件特許請求の範囲の記載
取消理由2で指摘した、設定登録時の請求項1に記載の「透明石英ガラス層と不透明石英ガラス層の接合境界部の平坦度」との特定事項、あるいは、取消理由3で指摘した、設定登録時の請求項4に記載の「500℃における熱伝導率が、1.2 W/(m・K)以下である」との特定事項、同請求項5に記載の「500℃における熱伝導率が、0.2 W/(m・K)以上、1.1 W/(m・K)以下である」との特定事項は、本件訂正により訂正され、本件発明1~6に係る請求項1~6の記載は、前記第3のとおりになった。
ウ 本件明細書の発明の詳細な説明の記載
(ア)まず、実施例に係る具体例に目を向けると、発明の詳細な説明の実施例(【0035】~【0054】)には、「表面層(第1層、第3層)が透明石英ガラス層であり、中間層(第2層)が不透明石英ガラス層で構成される」「本発明の多層構造石英ガラス材」(【0014】)について、「ノギスを用いて、得られた100mm角の多層材の中心部と各コーナー部の厚さを測定し、最大値と最小値との差」である「平坦度」が、<0.1mm~0.2mm、「不透明層の見掛け密度」が、0.7g/cm3~1.7g/cm3、「不透明層の気泡」が0個、「不透明層の熱伝導率」が0.3 W/(m・K)~1.1 W/(m・K)の範囲内である多層構造石英ガラス材(実施例1~6)が記載され、実施例1~6の多層構造石英ガラス材は、比較例1の多層構造石英ガラス材(平坦度0.3mm、熱伝導率1.4 W/(m・K))と比べて、平坦度が高く、不透明層の熱伝導率が小さいことから、本件発明の課題を解決できることを理解できる。
(イ)次に、発明の詳細な説明の発明を実施するための形態をみてみると、発明の詳細な説明には、「多層構造石英ガラス材」に関して、「本発明の多層構造石英ガラス材は、透明石英ガラス層、不透明石英ガラス層及び透明石英ガラス層をこの順に有する多層石英ガラス材」であること(【0013】)、「不透明石英ガラス層は、見掛け密度が、2.0g/cm3以下」であり、「見掛け密度が、2.0g/cm3以下であることで、不透明石英ガラス層の熱伝導率を所望の低い値(例えば、500℃において1.2 W/(m・K)以下)にすることができる」こと(【0015】)、及び、透明石英ガラス層と不透明石英ガラス層の接合境界部の平坦度が、100mm角の大きさで0.2mm以下であることが、全面に渡って均一な熱伝導率を有すると言う観点から好ましい」こと(【0017】)が記載されている。そして、前記「平坦度」は、上記第2の2(1)イで検討したとおり、「ノギスを用いて、得られた100mm角の多層材の中心部と各コーナー部の厚さを測定し、最大値と最小値との差」(【0042】)を示すものである。
これらの記載を併せ考えれば、透明石英ガラス層、不透明石英ガラス層及び透明石英ガラス層をこの順に有する多層構造石英ガラス材であって、不透明石英ガラス層の見掛け密度が、2.0g/cm3以下であり、100mm角の多層材の中心部と各コーナー部の厚さを測定して得た最大値と最小値との差が0.2mm以下である、多層構造石英ガラス材であれば、実施例1~6と同様に、本件発明の課題を解決できると認識できる。
(ウ)また、発明の詳細な説明には、「不透明石英ガラス層の見掛け密度は、より低い熱伝導率を得るという観点からは0.7以上、1.7g/cm3以下であることが好ましい」こと(【0015】)、「不透明石英ガラス層」の「500℃における熱伝導率は、好ましくは0.2以上1.1 W/(m・K)以下である」こと(【0015】)、「不透明石英ガラス層の熱伝導率を所望の低い値(例えば、500℃において1.1 W/(m・K)以下)にすることができるという観点からは、不透明石英ガラス層は、直径1mm以上の泡を含まないことが好ましい」こと(【0016】)が記載されている。
エ 特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との対比・検討
本件特許請求の範囲の請求項1~6の記載は、前記第3に示したとおりであるところ、本件発明1の「多層構造石英ガラス材」は、前記ウ(イ)で検討した多層構造石英ガラス材であるから、本件発明1は、当業者において、発明の詳細な説明の記載及び技術常識に照らして、前記イに示した本件発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであり、発明の詳細な説明に記載された発明といえる。
また、本件発明2~6に係る請求項2~6に記載された特定事項は、前記ウ(イ)、(ウ)で検討したとおり、発明の詳細な説明に記載されているから、本件発明2~6は、本件発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであり、発明の詳細な説明に記載された発明といえる。
したがって、前記アの判断手法を本件に当てはめると、本件特許請求の範囲の請求項1~6の記載は、サポート要件を満足する。
(3)申立人の意見について
ア 申立理由3における指摘事項について
申立理由3における申立人の指摘事項は、前記第4の1(3)のとおりであるところ、当該指摘事項は、(i)設定登録時の請求項1に記載された「透明石英ガラス層と不透明石英ガラス層の接合境界部の平坦度」の評価方法が不明であること、及び、(ii)本件明細書の【0042】に記載された評価方法では、中心部と各コーナー部という厚さの測定部位がどの位置であるか、また、どのような種類のノギスで測定するのかが不明確であることを論拠にして、設定登録時の請求項1~6の記載がサポート要件を満足していない旨を主張するものである。
しかしながら、前記1(3)アで検討したとおり、本件発明1における「100mm角の多層材の中心部と各コーナー部の厚さを測定して得た最大値と最小値との差」の評価方法は、発明の詳細な説明に記載されたものであって、明確といえるから、申立人の主張は採用できない。
イ 申立理由4における指摘事項について
申立理由4における申立人の指摘事項は、前記第4の1(3)のとおりであるところ、当該指摘事項は、設定登録時の請求項4、5における「500℃における熱伝導率」について、発明の詳細な説明に、多層構造石英ガラス材の熱伝導率が記載されていないことを論拠に、設定登録時の請求項4、5の記載がサポート要件を満足していない旨を主張するものである。
しかしながら、本件訂正によって、本件発明4の「500℃における熱伝導率が、1.2 W/(m・K)以下である」もの、本件発明5の「500℃における熱伝導率が、0.2 W/(m・K)以上、1.1 W/(m・K)以下である」ものは、「不透明石英ガラス層」とされ、本件発明4、5は、前記(2)エのとおり、発明の詳細な説明に記載されたものとなった。
したがって、申立人の上記主張は採用できない。
ウ 意見書における主張について
(ア)申立人は、令和6年3月7日に提出した意見書において、本件明細書の【0006】に「近年、このような半導体装置で用いられる不透明石英ガラス材途に対して、省エネルギー、加熱炉の温度分布の均一性の点から・・・性能改善の要求がある」と記載されているから、加熱炉の温度分布の均一性をもたらすことが本件発明の課題であるが、本件発明の多層構造石英ガラス材が全面に渡って均一な熱伝導率を有するか不明であるため、本件発明は発明の課題を解決せず、詳細な説明に記載されたものではない旨主張している(3頁の(2-2-2)参照)。
しかし、本件発明の課題は、「加熱炉からの輻射や伝導による熱を十分に遮断できる多層構造石英ガラス材を提供すること」(【0009】)であって、加熱炉の温度分布の均一性をもたらすことではない。したがって、申立人の上記主張は採用できない。
(イ)また、申立人は、令和6年3月7日に提出した意見書において、本件明細書では、多層石英ガラス板の熱伝導率が低い多層構造石英ガラス板を提供することを課題としておきながら、多層構造石英ガラス材の熱伝導率は記載されておらず、本件発明は、本件発明の課題を解決していない旨主張している(5頁の(2-2-3)参照)。
しかし、本件明細書に「不透明石英ガラス層は、見掛け密度が、2.0g/cm3以下である。見掛け密度が、2.0g/cm3以下であることで、不透明石英ガラス層の熱伝導率を所望の低い値(例えば、500℃において1.2 W/(m・K)以下)にすることができる。」(【0015】)と記載されているとおり、本件発明の多層構造石英ガラス材において、低い熱伝導率をもたらしているのは不透明石英ガラス層であるため、不透明石英ガラス層が低い熱伝導率を有していれば、多層構造石英ガラス板は低い熱伝導率を呈するといえる。
したがって、見掛け密度が、2.0g/cm3以下である不透明石英ガラス層を有する多層構造石英ガラス材である本件発明は、発明の課題を解決するものであり、上記申立人の主張は採用できない。
(4)小括
以上のとおりであるから、取消理由2、3、申立理由3、4には理由がない。
3 申立理由1(甲1を主たる証拠とした新規性・進歩性欠如)について
(1)甲1に記載された発明
甲1には、上記第5の1(1)によれば、以下の発明が記載されている。
「表裏両面に透明石英ガラス層を有し、該透明石英ガラス層の中間に不透明石英ガラス層を介在させて多層構造としてなる多層石英ガラス板において、不透明石英ガラス層は1.50~2.20g/cm3の密度である、多層石英ガラス板。」(以下、「甲1発明」という。)
(2)本件発明1について
ア 対比
甲1発明の「多層石英ガラス板」は、本件発明1の「多層石英ガラス材」、「多層構造石英ガラス材」に相当し、甲1発明の「表裏両面に透明石英ガラス層を有し、該透明石英ガラス層の中間に不透明石英ガラス層を介在させて多層構造としてなる多層石英ガラス板」は、本件発明1の「透明石英ガラス層、不透明石英ガラス層及び透明石英ガラス層をこの順に有する多層石英ガラス材(多層構造石英ガラス材)」に相当する。
そうすると、本件発明1と甲1発明は、
「透明石英ガラス層、不透明石英ガラス層及び透明石英ガラス層をこの順に有する多層石英ガラス材(多層構造石英ガラス材)」である点で一致し、以下の点で相違する。
<相違点1>
本件発明1は「不透明石英ガラス層の見掛け密度が、2.0g/cm3以下」であるのに対し、甲1発明では「不透明石英ガラス層は1.50~2.20g/cm3の密度」である点。
<相違点2>
本件発明1は「100mm角の多層構造石英ガラス材の中心部と各コーナー部の厚さを測定して得た最大値と最小値との差が、0.2mm以下」であるのに対し、甲1発明にはそのような特定がない点。
イ 相違点について
事案に鑑み、相違点2について検討する。
甲1発明において、相違点2に係る本件発明の構成を満足していることを示す根拠はないから、相違点2は、実質的なものである。
次に、甲1発明において、相違点2に係る本件発明の構成とすることの容易想到性を検討する。
甲1発明は、「熱遮蔽性に優れるとともにパーティクルの発生を解消した多層石英ガラス板、並びにこの多層石英ガラス板を用いて製造されかつ従来の熱遮蔽用の石英ガラス製治具に比べて熱遮蔽効果が格段に向上しかつ半導体基板の熱処理を行う熱処理装置等において好適に用いられる石英ガラス製治具を提供すること」(第5の1(2)の【0010】)を課題とするものであるところ、この課題は、「100mm角の多層構造石英ガラス材の中心部と各コーナー部の厚さを測定して得た最大値と最小値との差」と関連する課題とはいえない。そして、甲1発明では、上記課題は、「異種又は同種の複数枚の石英ガラス材料を重ね合わせることによって多層構造」(第5の1(2)の【0011】)とすることによって解決されている。
また、甲2には、約100μmの平坦な表面をもつ不透明石英ガラスの平坦な面上に透明石英ガラス層を形成したものであって、該透明石英ガラス層2の厚さ分布は、最高5mmであったものが記載されており(第5の2)、甲3には、ノンドープ石英ガラス部材に、ドープ石英ガラス部材を貼付け処理する方法において、貼り付ける表面を研磨することによって、接着がより強固になることが記載されており(第5の3)、甲4には、サブミクロンから数ミクロンの酸化セリウム等による研磨面を有するシリカガラスどうしの熱融着を行うことが記載されており(第5の4)、甲5には、究極の平坦な表面での接触によって常温接合が可能であることが記載されており(第5の5)、甲7~10には鏡面研磨と面粗さに関する周知技術が記載されている。しかし、甲2~6のいずれにも、「100mm角の多層構造石英ガラス材の中心部と各コーナー部の厚さを測定して得た最大値と最小値との差が、0.2mm以下」である「多層構造石英ガラス材」を得る動機付けとなる記載があるとはいえないし、甲7~10に記載された周知技術を参酌しても依然としてその動機付けがあるとはいえない。
そうすると、甲1発明において、相違点2に係る本件発明1の構成とすることは、甲2~6の記載や周知技術から容易に想到しうるものではない。
したがって、その他の相違点を検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明ではないし、甲1発明及び甲2~6に記載の事項に基づいて当業者が容易に発明できたものでもない。
ウ 申立人の主張について
申立人は、令和6年3月7日に提出した意見書において、甲2の実施例1に、約100μmの平坦な表面を持つ不透明ガラス層と、その不透明ガラス層上に形成されてなる、表面粗さが±2μm以内の透明ガラスが開示されているとおり、100mm角の大きさで平坦度が0.2mm以下である不透明石英ガラス層や透明ガラス層は、当業界において一般的に知られた技術常識であり、新しい技術思想ではない旨主張している(7頁の(2-3)参照)。
しかし、甲2では、上記実施例について「該透明石英ガラス層2の厚さ分布は、最高5mmであった。」(【0014】)と記載されており、透明ガラス層の厚さは最大5mmの差を有することが記載されているといえるため、甲2から、「100mm角の多層構造石英ガラス材の中心部と各コーナー部の厚さを測定して得た最大値と最小値との差が、0.2mm以下」であることは導き出せない。
したがって、申立人の上記主張は採用できない。
(3)本件発明2~6について
本件発明2~6は、本件発明1の全ての特定事項を含むものであるから、上記(2)で検討したのと同様の理由により、本件発明2、3及び6は甲1発明であるとはいえないし、また、本件発明2~6は甲1発明及び甲2~6に記載の事項に基づいて当業者が容易に発明することができたものともいえない。
(4)小括
以上のとおりであるから、申立理由1は理由がない。
4 申立人が主張する新たな理由(実施可能要件違反)について
申立人は、令和6年3月7日に提出した意見書において、本件明細書の【0042】には、「多層材」の中心部と各コーナー部の厚さを測定することは記載されているが、「多層構造石英ガラス材」の中心部と各コーナー部の厚さを測定することは記載されておらず、「多層材」と「多層構造石英ガラス材」の異同が不明であるため、当業者が当該発明を実施可能な程度に発明の詳細な説明に記載されているとはいえない旨主張している(3頁の(2-2-2)参照)。
しかし、上記第2の2(1)イで記載したとおり、本件明細書において、「多層材」も「多層構造石英ガラス材」も、「透明石英ガラス層、不透明石英ガラス層及び透明石英ガラス層をこの順に有する」ものを意味しており、「多層材」と「多層構造石英ガラス材」が同一の意味であることは明らかであるから、申立人の上記主張は採用できない。
第7 むすび
以上のとおりであるから、本件請求項1~6に係る特許は、特許異議申立書に記載された特許異議申立理由、及び、取消理由通知書に記載した取消理由によっては、取り消すことができない。
また、他に本件請求項1~6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2023-700205