特許拒絶査定不服審判
2015-009941
HIV阻害性2(4-シアノフェニルアミノ)ピリミジン誘導体
- 審判番号
- 2015-009941
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2012-274674外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2015年05月28日
- 審決日
- 2017年01月24日
- 公報発行日
- 2017年07月28日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】ヤンセン・サイエンシズ・アイルランド・ユーシー
- 【請求人代理人】特許業務法人小田島特許事務所
- 分類
- P18 .121-WZ (C07D)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特願2012-274674「HIV阻害性2(4-シアノフェニルアミノ)ピリミジン誘導体」拒絶査定不服審判事件〔平成25年5月9日出願公開、特開2013-82722〕について、次のとおり審決する。
結論
【結 論】
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
この出願は、2006年1月17日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2005年1月27日(EP)欧州特許庁)を国際出願日とする特願2007-552651号の一部を平成24年12月17日に新たな特許出願としたものであって、平成24年12月17日に上申書が提出され、平成26年3月27日付けで拒絶理由が通知され、同年7月2日に意見書が提出されたが、平成27年1月21日付けで拒絶査定がされ、同年5月28日に拒絶査定不服審判が請求され、その後、平成28年6月10日付けで拒絶理由が通知され、同年12月15日に意見書及び手続補正書が提出され、平成29年1月4日付けで審理の終結が通知され、同年1月17日に審理再開申立書が提出されたものである。
なお、審判長は、審理再開申立書の内容を検討したが審理再開の必要を認めなかった。したがって、審理の終結が通知された後に生じた事情はこの審決に反映されていない。
第2 請求項に係る発明
この出願の請求項1~8に係る発明は、平成28年12月15日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1~8に記載された事項により特定されるとおりのものであり、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は以下のとおりである。
「式
[式中、XはS又はSOである。]
の化合物、又はその製薬学的に許容され得る付加塩若しくは立体化学的異性体。」
第3 当審が通知した拒絶の理由
平成28年6月10日付けで当審が通知した拒絶理由は理由1~3からなり、そのうち理由3の概要は、「この出願の請求項1~4に係る発明は、その優先日前に頒布された以下の刊行物1に記載された発明並びに刊行物1の記載及び技術常識に基づいて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない」というものである。
刊行物1:Donald W. Ludovici et al.,Evolution of Anti-HIV Drug Candidates. Part3: Diarylpyrimidine(DAPY)Analogues,Bioorganic & Medicinal Chemistry Letters,vol.11(2001),p.2235-2239
刊行物2:末永俊朗,コンビナトリアルケミストリー,Journal of the Mass Spectrometry Society of Japan,Vol.45,No.3(1997),p.265-288(技術常識を提示するために示した文献である。)
そして、本願発明は、理由3の対象となった請求項1に係る発明に対応するものであって、この請求項1に係る発明の「式中、XはS、SO又はSO2である。」という発明特定事項を、平成28年12月15日付けの手続補正により「式中、XはS又はSOである。」としたものである。
第4 当審の判断
当審は、平成28年6月10日付けで当審が通知した拒絶理由の理由3のとおり、本願発明は、刊行物1に記載された発明並びに刊行物1の記載及び技術常識に基づいて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないと判断する。
その理由は以下のとおりである。
1 刊行物の記載
(1)刊行物1の記載(図表を除き訳文で示す。)
(1a)
「抗HIV薬候補の進展 第3部:ジアリルピリミジン(DAPY)類似体」(2235頁題名)
(1b)
「ある種のジアリールピリミジン類(DAPYs)の合成及び抗HIV-1活性について述べる。この新規な非ヌクレオシド逆転写酵素阻害剤(NNRTIs)のいくつかは、HIV-1の野生のものと臨床的に重要な単一及び二重突然変異株の一群との双方に対して非常に強力であった。」(2235頁要約)
(1c)
「ごく最近承認されたNNRTIであるSustiva(商標)(efavirenz)は、delavirdineやnevirapineに耐性を有するようになった多くのウイルス株に対して活性であり、直ちに併用療法に取り入れられるとともに、最優先に使用されるものとなった。」(2235頁左欄8行~12行)
(1d)
「
」(2237頁左欄スキーム3)
(1e)
「
」(2237頁下部表2)
(1f)
「
」(2238頁上部表3)
(1g)
「
」(2238頁左欄スキーム4)
(1h)
「化合物25は、この類の他の合成された化合物よりもかなり強力であることを示した。実際に、25は、Sustiva(商標)では効果がない100I+103N突然変異を含め、試験したすべてのHIV-1突然変異株をIC50値20nM以下で阻害した。」(2238頁左欄1行~5行)
(2)刊行物2の記載
(2a)
「最近になってコンピュータの急激な高速化・低価格化と歩調を合わせコンピュータを使った薬物設計分野の分野が急速に発達し、作用機作、構造などに基づいた分子設計が実用レベルに達しつつあり、評価すべき化合物すなわち合成しなければならない誘導体の数を絞り込むことができるようになった。とは言え、最後には実際に合成または単離し評価した化合物とその数がものをいうわけであり、どうしてもマンパワーに頼らざるを得ない部分は依然として残っていた。」(265頁10行~14行)
2 刊行物に記載された発明
刊行物1には、「
」という構造を有する化合物25が、100I+103N突然変異株も含め、HIV-1の野生のものと臨床的に重要な単一及び二重突然変異株の一群との双方、具体的には、LAI並びに100I、103N、181C、188L、100I+103N及び103N+181Cに対して強力な阻害活性を有することが示されている(摘記(1a)~(1c)、(1f)~(1h))。
したがって、刊行物1には、
「HIV-1のLAI並びに100I、103N、181C、188L、100I+103N及び103N+181Cに対して強力な阻害活性を有する、
で表される化合物」
の発明(以下「引用発明」といい、この化合物それ自体を「引用発明に係る化合物」という。)が記載されているといえる。
3 本願発明と引用発明との対比及びそれに基づく判断
(1)対比
請求項1に係る発明と引用発明とを対比すると、両者は、
「式
の化合物」という点で一致し、
(相違点)前者は式中のXがS又はSOであるのに対し、後者は式中のXがOである点
で相違する。
(2)相違点についての検討
ア 引用発明に係る化合物においてOに代えてSを導入することの示唆について
刊行物1には、その表2に、ピリミジン環の2位にNHを介して4-シアノフェニル基が結合し、4位にN、O又はSを介して置換フェニル基が結合したジアリールピリミジン類であるという点で引用発明に係る化合物と軌を一にする15種類の化合物について、HIV-1のLAI並びに100I、103N、181C、188L、100I+103N及び103N+181Cに対する阻害活性を検討した結果が示されている(摘記(1e))。
また、この表2には、これら15種類の化合物のうち、13eと13dとは、構造はYがSかOかという点のみで異なり、効果は188Lに対してはYがSである場合の方が優れその他に対してはYがOである場合の方が優れること、13gと13hとは、構造はYがSかOかという点のみで異なり、効果は181C、188L及び100I+103Nに対してはYがSである場合の方が優れその他に対してはYがOである場合の方が優れること、も示されている(摘記(1e))。
イ 引用発明に係る化合物においてOに代えてSを導入する方法の示唆について
刊行物1には、そのスキーム4に、引用発明に係る化合物の前駆体である化合物28にsodium 4-cyano-2,6-dimethylphenolateとアンモニアとを反応させることにより、化合物28のピリミジン環の4位及び6位の塩素原子の一方を4-シアノ-2,6-ジメチルフェノキシ基に、他方をアミノ基に置換して引用発明に係る化合物とする方法が示されている(摘記(1g))。
また、刊行物1には、そのスキーム3に、ピリミジン環の2位にNHを介してアリール基が結合し、4位に塩素原子が結合した化合物である化合物14にAr-NH2、Ar-O-Na+又はAr-S-Na+を反応させることにより、この塩素原子をAr-NH-、Ar-O-又はAr-S-に置換して、ピリミジン環の2位にNHを介して4-シアノフェニル基が結合し、4位にN、O又はSを介して置換フェニル基が結合した化合物15を合成することが示されている(摘記(1d))。
そして、上記スキーム4におけるsodium 4-cyano-2,6-dimethylphenolateが上記スキーム3におけるAr-O-Na+に対応する化合物であることは当業者に明らかである。
ウ 優先日当時の技術常識について
新たな医薬公報化合物を見いだすために、一定の方針を持ちつつもある程度網羅的に化合物を実際に合成し評価することは当業者の通常の創作能力の発揮である(摘記(2a))。
エ 判断
上記ア~ウから、引用発明に係る化合物のOに代えてSを導入することにより、HIV-1のLAI並びに100I、103N、181C、188L、100I+103N及び103N+181Cのうちのひとつ又は複数に対する活性阻害の向上が見られるかもしれないとの方針の下、刊行物1のスキーム4において、刊行物1のスキーム3を参考にしてsodium 4-cyano-2,6-dimethylphenolateに代えてsodium 4-cyano-2,6-dimethylphenythiolateを用いることにより、引用発明に係る化合物のOに代えてSが導入された化合物を得ることは、当業者が容易になし得たことであるといえる。
なお、請求人は平成28年12月15日に提出した意見書の2.2において、「刊行物1では、ビスアリール置換ピリミジンであって、記載されている式中のYがSである化合物は13e及び13gの2種のみであり、また、前記YがSOである化合物は刊行物1には全く記載されていない。」と主張する。
しかし、上述の判断は、刊行物1においてYがSである化合物が2種類示されていることを踏まえて、引用発明に係る化合物のOに代えてSが導入された化合物を得ることは当業者が容易になし得たことであるとしたものである。
したがって、請求人の主張は上述の判断を左右するものではない。
(3)発明の効果について
発明の詳細な説明の【0102】及び【0113】~【0115】には、本願発明に係る化合物(請求項1においてXとしてSを選択した場合に相当する化合物)であり、かつ、上記(2)において当業者が容易に想到し合成することができたと判断した化合物(引用発明に係る化合物のOに代えてSが導入された化合物)でもある「
」という構造を有する化合物2について、株IIIB及びA~Fに対するpEC50が7.7~8.5であったことが示されている。
一方、刊行物1には、その表3及び2238頁1行~5行に、引用発明に係る化合物である化合物25が、刊行物1に合成されたことが示されている他のジアリールピリミジン類よりもHIV-1のLAI並びに100I、103N、181C、188L、100I+103N及び103N+181Cに対してかなり強力な活性阻害を有するものであることが示されている(摘記(1b)、(1f)、(1h))。
そして、本願発明に係る化合物である化合物2が引用発明に係る化合物と比較してどのような点でどの程度優れた効果を有するのかは不明である。
この点、この出願の原出願である特願2007-552651号についての平成24年7月17日に提出された意見書及び平成24年12月17日に提出された審判請求書には化合物2と引用発明とを比較したデータが記載されているが、これらのデータは、株IIIBに対するpEC50が異なるという点で正確性に信用がおけないから、職権をもって参酌するに適切なものではない。
また、仮に、化合物2が引用発明に係る化合物と対比して格別であることを示すのに有利な方である、上記審判請求書に記載されたデータを参酌したとしても、化合物2は、引用発明に対して株IIIB及びEに対するpEC50がそれぞれ0.4及び0.1大きい一方で株A、B、C、D及びFに対するpEC50は却ってそれぞれ0.3、0.4、0.8、約0.2及び0.3小さい上、EC50としての相違も100.1~100.8=約1.26倍~約6.3倍というものであって、刊行物1におけるY原子の相違によるIC50の相違(摘記(1e)、(1f))とそう異なるものではないから、これらの具体的な株に対する化合物2の具体的なpEC50又はEC50が当業者に予測可能であったか否かにかかわらず、これを格別の効果ということはできない。
したがって、発明の詳細な説明に示された化合物2の効果が引用発明に係る化合物の効果と比較して格別のものであるということはできない。
なお、請求人は平成28年12月15日に提出した意見書の2.2において、「本願明細書において・・・開示されているpEC50値について、・・・化合物2(X=S)については、・・・すべての株に対して8に近いか、8を十分に超えている。刊行物1に記載の阻害効力を前記p値に換算すると、3のpIC50を超えずほとんどより低い効力である。仮に、EC50値とIC50値とが直接比較できないとしても、前記相違点は大きすぎて無視することはできない。両ケースについて(又は両ケースにおいて)、刊行物1のIC50のような値はある効能を達成するために必要な濃度水準を指し示すものである。この水準は、刊行物1のものに比べて本願発明では遙かに低い。すなわち、本発明は遙かに高い効能を有する。してみると、当業者は化合物2(X=S)・・・について本願明細書に開示された高い効力を間違いなく予測できたものではないというべきである。」と主張する。
しかし、発明の詳細な説明に記載されたpEC50を導出するためのEC50の測定方法が不明であるうえ、そもそもpIC50をpEC50と直接比較しても不適切ではないという技術常識は見あたらないから、発明の詳細な説明に示された化合物2のpEC50と刊行物1に示された引用発明に係る化合物(化合物25)のIC50から導出されるpIC50とを直接比較して引用発明に係る化合物に対する化合物2の進歩性の有無を論じることは相当でない。
また、刊行物1の表3における化合物25の各IC50の単位はμMすなわち10-6Mであり(摘記(1f))、この「10-6」を評価するかしないかで各pIC50は6異なることとなるが、請求人はpIC50の導出方法やその導出方法が適切であるか否かについて何ら述べていない。この点においても、両者を直接比較して引用発明に係る化合物に対する化合物2の進歩性を有無を論じることはできない。
そして、適切な対比実験の結果などの請求人の主張を裏付ける具体的な根拠は何ら示されていない。
したがって、発明の詳細な説明に示された化合物2の効果が引用発明に係る化合物の効果と比較して格別のものであるということはできない。
4 まとめ
よって、本願発明に係るその余の化合物について検討するまでもなく、本願発明は、刊行物1に記載された発明並びに刊行物1の記載及び技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
第5 むすび
以上のとおり、本願発明は、刊行物1に記載された発明並びに刊行物1の記載及び技術常識に基づいて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、その余について検討するまでもなく、この出願は拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
審決本文(J-PlatPat)
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