特許拒絶査定不服審判
2015-007455
高分子量シリコーン樹脂の製造
- 審判番号
- 2015-007455
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2012-255022外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2015年04月21日
- 審決日
- 2016年10月24日
- 公報発行日
- 2017年04月28日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】ワッカー ケミー アクチエンゲゼルシャフト
- 【請求人代理人】特許業務法人川口國際特許事務所
- 分類
- P18 .121-Z (C08G)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特願2012-255022「高分子量シリコーン樹脂の製造」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 6月17日出願公開、特開2013-119626〕について、次のとおり審決する。
結論
【結 論】
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
本件審判請求に係る出願(以下「本願」という。)は、2012年11月21日(パリ条約による優先権主張2011年12月7日、ドイツ国)を出願日とする特許出願であって、以降の主な手続の経緯は以下のとおりである。
平成25年 1月17日 翻訳文提出書
平成25年11月20日付け 拒絶理由通知
平成26年 5月23日 意見書
平成26年12月16日付け 拒絶査定
平成27年 4月21日 審判請求書、手続補正書
平成27年 8月24日付け 前置報告書
第2 本願発明の認定
本願の特許請求の範囲の請求項1ないし3に係る発明は、平成27年4月21日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲及び翻訳文提出書により提出された明細書の翻訳文の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりである。
「【請求項1】
重量平均Mwで表したモル質量が少なくとも5000g/molおよび多分散度が65以下のシリコーン樹脂の製造方法であって、
(A)ケイ素結合アルコキシル化シリコーン樹脂中間体もしくはケイ素結合アルコキシル化およびヒドロキシル化シリコーン樹脂中間体、またはこれらの混合物を、
(C)塩基性度もしくは酸性度を混合物に付与する塩基性もしくは酸性触媒、または完全に自己中和性ではない前記触媒の混合物、および
(D)水、および
(E)単独プロセス溶媒としての脂肪族カルボン酸エステル
により加水分解および縮合するステップを含む、
ただし、
I)得られたアルコールが、蒸留により反応混合物から除去されること、
II)触媒(C)が、熱処理によりまたは当量の酸もしくは塩基の添加を経て中和により不活性化されること、
III)(E)の一部分が、粘度調整用に最終生成物に残留し、シリコーン樹脂の溶液が形成すること
を条件とする、前記シリコーン樹脂の製造方法。」
第3 原査定の拒絶の理由の概要
原査定の拒絶の理由は、要するに、「本願発明は、その優先日前に日本国内において頒布された刊行物である下記引用文献1ないし引用文献4に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。」
引用文献1:特開昭64-009231号公報
引用文献2:特開平05-125187号公報
引用文献3:特開2010-202731号公報
引用文献4:特開2010-112966号公報
というものを含むものである。
第4 引用文献の記載事項及び引用文献に記載された発明
(1)引用文献1の記載等
ア 引用文献1の記載
引用文献1には、「絶縁膜形成用シロキサン系ポリマ-の製造方法」に関して、次の記載(以下、順に「記載1a」ないし「記載1h」という。)がある。なお、下線は、他の文献も含め、当審で付したものである。
1a 「(1)アルコキシシランを水と触媒及び必要に応じ溶剤の存在下に加水分解縮重合してシロキサン系ポリマーを製造する方法において、アルコキシシランとして一般式(a):Si(OR1)4で示されるテトラアルコキシシラン(b):R2Si(OR3)3で示されるトリアルコキシシラン及び(c):R4R5Si(OR6)2で示されるジアルコキシシラン(式中R1~R6は炭素数1~6のアルキル基又は炭素数6~10のアリール基であり、同一でも異なっていてもよい。)を用いて縮重合し、次いで生成するアルコール及び必要に応じて加えた溶剤を60℃以下で溜去することにより、三次元化することを特徴とする絶縁膜形成用シロキサン系ポリマーの製造方法。」(請求項1)
1b 「これら反応で得られる反応混合物は通常その製造工程中に使用した触媒を含有したまま基板上に塗布させるが、使用目的によっては製品の特性をそこなったり、塗布液の製造に際しては必ずしも反応が完全に行われず未反応部分が多く残ったまま使用に供されることがある。このような塗布液では得られた製品の品質が一定せず、品質管理が困難になるという欠点がある。更に焼成時の減量が大きく収縮も大きいため、段差部に使用した際クラックを生じ易いという欠点を有している。」(第2ページ左上欄第18行ないし右上欄第8行)
1c 「これら一般式(a)、(b)、(c)において夫々の低縮合物(オリゴマー)も用いることが出来る。」(第3ページ右上欄第10行ないし第12行)
1d 「(4) 又、縮重合反応において溶剤を使用しない無溶媒縮重合でもよく、溶剤を使用した溶液縮重合でもよい。
溶剤を使用する場合、溶剤としてはメタノール、エタノール、イソプ-パノ-ル等のアルコール類、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類、エチレングリコール、グリセリン、ジエチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングルコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル等の多価アルコール及びそのエーテル類等のいずれでもよい。」(第3ページ右下欄第11行ないし第4ページ左上欄第3行)
1e 「反応方法は2段階で行われる。先ず、テトラアルコキシシラン(a)、トリアルコキシシラン(b)、ジアルコキシシラン(c)と触媒を仕込み、撹拌下に水を添加して150℃以下、好ましくは0~100℃の温度で縮重合する。触媒は先に加えてもよく、水と一緒に添加しても良い。又必要に応じ溶剤を使用することもできる。反応時間は反応温度、触媒量等により適宜選択されるが通常は30分~2時間である。
アルコキシシランはテトラアルコキシシラン(a)、トリアルコキシシラン(b)、ジアルコキシシラン(c)を同時に添加してランダム縮重合させる方法、又はジアルコキシシラン(c)を予め縮重合して2~10重量体、好ましくは3~9重量体が主成分のオリゴマーとした後、テトラアルコキシシラン(a)とトリアルコキシシラン(b)を同時に若しくは順次水と共に添加して共縮重合し、該ポリマー中に少なくともジアルコキシシラン(c)をブロック構造として導入する方法等が採用される。
次いで生成するアルコール及び必要に応じて加えた溶剤を常圧、又は減圧下に60℃以下の温度で留去し、シロキサン系ポリマーの高濃度溶液を形成する。高濃度にすることにより、三次元化反応が促進され高度に三次元化されたポリマーが短時間で形成できる。ポリマーの分子量が所望の値に達したら、直ちに溶剤を加えて希釈する。留去濃度が60℃以上ではゲル化反応が進行し易いので望ましくない。」(第4ページ左上欄第8行ないし右上欄第15行)
1f 「また、ポリマーの分散度Qは20以下が好ましい。更に好ましくは10以下である。」(第4ページ左下欄第9行ないし10行)
1g 「(2) 分散度(Q)の測定
常法により、次の式より求めた。
Q=Mw/Mn
ここに、Mw、Mnは次のものを表す。
Mw:重量平均分子量
Mn:数平均分子量」(第5ページ左上欄第12行ないし第17行)
1h 「実施例2
DMDES 105g、イソプロパノール 40g及び30%濃塩酸 0.2mlを撹拌機付 500ml丸底フラスコに入れ、純水 10gを室温下で約1分間で滴下し、30分間撹拌を続けた。イソプロパノールと生成エタノールを減圧下で溜去した後、MTES 100g、TEOS 150g及び30%濃塩酸 0.1mlを添加し、10分間混合した。純水 40gを約2時間かけて滴下し縮重合反応を行った。反応温度は35℃以上にならないように氷で冷却しながら反応させた。水滴下後、10分後に真空度を25mmHgとし30℃の水浴下で生成エタノールを充分に留去させた後、室温で撹拌を続け、24Hr後に重量平均分子量20,000になったところでイソプロパノール180gと水20gを加えた。更に180gのトルエンを加え、上記シロキサンポリマーを33重量%を含む塗布液を作成し、0.2μmのメンブレンフィルターで濾過した。」(第5ページ左下欄第19行ないし右下欄第15行)
イ 引用文献1の記載事項
記載1eないし1hの記載から、引用文献1には、次の事項が記載されていると認める。
記載1hには、「DMDES 105g、イソプロパノール 40g及び30%濃塩酸 0.2mlを撹拌機付 500ml丸底フラスコに入れ、純水 10gを室温下で約1分間で滴下し、30分間撹拌を続けた」ことが記載されるが、記載1eの「ジアルコキシシラン(c)を予め縮重合して2~10重量体、好ましくは3~9重量体が主成分のオリゴマーとした後、テトラアルコキシシラン(a)とトリアルコキシシラン(b)を同時に若しくは順次水と共に添加して共縮重合し、該ポリマー中に少なくともジアルコキシシラン(c)をブロック構造として導入する方法」という縮重合方法の記載を参酌すると、上記記載1hのDMDESは縮重合が進行してオリゴマーになったと認められる。
また、記載1hには、「水滴下後、10分後に真空度を25mmHgとし30℃の水浴下で生成エタノールを充分に留去させた後、室温で撹拌を続け、24Hr後に重量平均分子量20,000になったところでイソプロパノール180gと水20gを加えた」ことが記載されることから、最終的に「重量平均分子量20,000」のシロキサンポリマーが製造されたと考えられる。
そして、記載1fには、「ポリマーの分散度Qは20以下が好ましい」点が記載されていることから、上記「重量平均分子量20,000」のシロキサンポリマーも、当然、分散度Qは20以下であるといえる。
なお、記載1hの「DMDES」、「MTES」、及び「TEOS」は、それぞれ「ジメチルジエトキシシラン」、「メチルトリエトキシシラン」、及び「テトラエトキシシラン」の略語と認められる(引用文献1の第5ページ右上欄第6行ないし第8行参照)。
ウ 引用発明
したがって、引用文献1には、上記記載1aないし1hを整理すると、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認める。
「重量平均分子量が20,000及び分散度Qが20以下のシロキサンポリマーの製造方法であって、
DMDES(ジメチルジエトキシシラン)のオリゴマーを得て、
MTES(メチルトリエトキシシラン)、TEOS(テトラエトキシシラン)を加え、
濃塩酸を添加し、混合した後、
純水を滴下し縮重合反応を行い、反応温度は35℃以上にならないように氷で冷却しながら反応させ、
水滴下後、真空度を25mmHgとし30℃の水浴下で生成エタノールを充分に留去させた後、
室温で24Hr、撹拌を続けることによる、シロキサンポリマーの製造方法。」
(2)引用文献2の記載
引用文献2には、「ポリオルガノシルセスキオキサン及びその製造方法」に関して次の記載(以下、「引用文献2の記載」という。)がある。
・「【0035】(実施例2)1リットルの4つ口フラスコに、メチルトリエトキシシラン320.9g(1.8モル)、プロピルトリエトキシシラン247.6g(1.2モル)、塩酸0.0004モル、水108g(6モル)を仕込んだ後、フラスコ内の温度を50℃まで昇温し、撹拌しながら30分間保持した。続いて70℃に昇温し、2時間反応させた後、エバポレーターを用いて水及びアルコールを除いたところ、反応物約270gを得た。次にこれを酢酸ブチルに固形分濃度が5重量%になるよう溶解し、エタノールアミン0.0082モルを滴下し、70℃で5時間反応せしめた後、酢酸0.0087モルを加えて中和した。この反応物の分子量をGPCにより求めたところ、数平均分子量は1,150,000であった。実施例1と同様にこれをシリコンウェハー上にスピンコートし、溶剤を完全に除去したところ、鉛筆硬度Fの比較的硬い被膜が得られた。さらにこの被膜に300℃で1時間熱処理を行ったが、何ら異常は見られず鉛筆硬度は2Hに向上した。」(段落【0035】)
(3)引用文献3の記載
引用文献3には、「紫外線遮蔽性シリコーンコーティング組成物及び被覆物品」に関して次の記載(以下、「引用文献3の記載」という。)がある。
・「【0060】
(B)成分のシリコーンレジンを得るには、前記の加水分解に続いて、縮合させることが必要である。縮合は、加水分解に続いて連続的に行えばよく、通常、液温が常温又は100℃以下の加熱下で行われる。100℃より高い温度ではゲル化する場合がある。更に80℃以上、常圧又は減圧下にて、加水分解で生成したアルコールを留去することにより、縮合を促進させることができる。更に、縮合を促進させる目的で、塩基性化合物、酸性化合物、金属キレート化合物等の縮合触媒を添加してもよい。縮合工程の前又は最中に、縮合の進行度及び濃度を調整する目的で有機溶剤を添加してもよく、またシリカゾル等の金属酸化物微粒子を水もしくは有機溶剤中に分散させたものや、本発明の(A)成分である(表面被覆)複合酸化亜鉛微粒子分散体を添加してもよい。一般的にシリコーンレジンは縮合が進行すると共に、高分子量化し、水や生成アルコールへの溶解性が低下していくため、添加する有機溶剤としては、シリコーンレジンをよく溶解し、沸点が80℃以上の比較的極性の高い有機溶剤が好ましい。このような有機溶剤の具体例としてはイソプロピルアルコール、n-ブタノール、イソブタノール、t-ブタノール、ジアセトンアルコール等のアルコール類;メチルプロピルケトン、ジエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、ジアセトンアルコール等のケトン類;ジプロピルエーテル、ジブチルエーテル、アニソール、ジオキサン、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のエーテル類;酢酸プロピル、酢酸ブチル、酢酸シクロヘキシル等のエステル類などを挙げることができる。」(段落【0060】)
・「【0099】
[合成例2]
2Lのフラスコに、メチルトリメトキシシラン321g(2.36Siモル)、3,3,3-トリフルオロプロピルトリメトキシシラン21g(0.13Siモル)、シリケート35(多摩化学工業(株)製:テトラエトキシシランの部分加水分解縮合物、平均2量体)56g(0.33Siモル)を仕込み、よく混合させた。次いで、液温が約10℃になるよう冷却後、0.25Nの酢酸水溶液308gを滴下し、内温が40℃を超えないように冷却しながら加水分解を行った。滴下終了後、40℃以下で1時間、次いで、60℃にて3時間撹拌し、加水分解を完結させた。
その後、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート300gを投入し、加水分解で生成したメタノール及びエタノールを、常圧にて液温が92℃になるまで留去すると共に、加熱縮合させた後、希釈剤としてイソブタノール400g及びレベリング剤としてKP-341(信越化学工業(株)製)0.5g及び0.25%テトラブチルアンモニウムヒドロキシド(TBAH)134gを加え、濾紙濾過を行い、不揮発分濃度19.5%、標準ポリスチレンを基準とするGPC分析による重量平均分子量3180、分散度1.96の無色透明のシリコーンレジン溶液(B-2)を得た。」(段落【0099】)
(4)引用文献4の記載
引用文献4には、「被膜形成用塗布液及びその製造方法並びに半導体装置の製造方法」に関して次の記載(以下、「引用文献4の記載」という。)がある。
・「【0029】
上記式R3OHで表される化合物は、上記式R2mSi(OR3)4-mで表される少なくとも1種の化合物を加水分解することによる副生成物である。式R3OHで表される化合物をエバポレーションにより除去する際、さらに水、第1の有機溶媒、上記酸などの触媒のうち少なくとも1種を除去するのが好ましい。酸などの触媒と水の一方又は両方を除去することによって、加水分解及び/又は縮合反応が抑制される効果が期待できる。第1の有機溶媒及び上記酸などの触媒として、沸点又は共沸点が101.3kPaで例えば120℃以下のものを用いると、減圧でのエバポレーションにより除去されやすく好ましい。」(段落【0029】)
・「【0035】
(合成例1)
本合成例では、式R2mSi(OR3)4-m(R2は有機基を示し、R3は炭素数が1乃至4のアルキル基を示し、mは0、1又は2を示す)で表される化合物として、テトラエトキシシランを用いる。
【0036】
テトラエトキシシラン84.63g及びエタノール84.63gを300mlのフラスコ中で混合し、得られた混合溶液をマグネチックスターラーにて撹拌しながら加温し、還流させる。次にイオン交換水29.26gに塩酸1.48gを溶解させた水溶液を混合溶液に添加し、1時間反応させた後、得られた反応溶液を室温まで冷却する。塩酸にかえて、反応を促進させる触媒として作用する他の酸、例えば硝酸、リン酸を用いてもよい。反応後、副生成物としてエタノールが生成する。
【0037】
その後、反応溶液にプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート200gを加え、エタノール、水、及び塩酸を減圧留去し、加水分解縮合物(ポリマー)を含む溶液が得られる。得られた溶液の溶媒には、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートが100%に近い重量比で含まれる。本合成例によるポリマーのGPCによる分子量は、ポリスチレン換算で重量平均分子量Mwが6200である。」(段落【0035】ないし段落【0037】)
第5 本願発明と引用発明との対比・判断
1 対比
本願発明と引用発明とを対比する。
引用発明における「重量平均分子量20,000」は、単位が不明であるが、分子量の単位としてモル質量g/molは一般的であり、引用発明における重量平均分子量の単位にも採用されているといえ、重量平均分子量20,000g/molと考えられることから、本願発明における「重量平均Mwで表したモル質量が少なくとも5000g/mol」に相当する。
引用発明における「分散度Qが20以下」は、記載1gには「Q=Mw/Mn」と記載され、本願発明の「多分散度」と定義が同じであることから、本願発明における「多分散度が65以下」に相当する。
引用発明における「シロキサンポリマー」は、本願発明における「シリコーン樹脂」に相当する。
引用発明における「DMDES(ジメチルジエトキシシラン)のオリゴマー」は、記載1eの「ジアルコキシシラン(c)を予め縮重合して2~10重量体、好ましくは3~9重量体が主成分のオリゴマーとした後、テトラアルコキシシラン(a)とトリアルコキシシラン(b)を同時に若しくは順次水と共に添加して共縮重合」との記載によれば、最終生成物であるシリコーン樹脂を製造する為の中間体として機能しており、また上記(a)及び(b)と反応する点において、反応基であるケイ素結合アルコキシル基もしくはヒドロキシル基を当然に有しているものであるから、本願発明における「(A)ケイ素結合アルコキシル化シリコーン樹脂中間体もしくはケイ素結合アルコキシル化およびヒドロキシル化シリコーン樹脂中間体、またはこれらの混合物」に相当する。
引用発明における「濃塩酸」は、本願発明における「(C)塩基性度もしくは酸性度を混合物に付与する塩基性もしくは酸性触媒、または完全に自己中和性ではない前記触媒の混合物」に相当する。
引用発明における「真空度を25mmHgとし30℃の水浴下で生成エタノールを充分に留去」は、本願発明における「I)得られたアルコールが、蒸留により反応混合物から除去」に相当する。
したがって、本願発明と引用発明は、以下の点で一致し、相違点1及び2の点で相違する。
「重量平均Mwで表したモル質量が少なくとも5000g/molおよび多分散度が65以下のシリコーン樹脂の製造方法であって、
(A)ケイ素結合アルコキシル化シリコーン樹脂中間体もしくはケイ素結合アルコキシル化およびヒドロキシル化シリコーン樹脂中間体、またはこれらの混合物を、
(C)塩基性度もしくは酸性度を混合物に付与する塩基性もしくは酸性触媒、または完全に自己中和性ではない前記触媒の混合物、および
(D)水
により加水分解および縮合するステップを含む、
ただし、
I)得られたアルコールが、蒸留により反応混合物から除去されること、を条件とする、前記シリコーン樹脂の製造方法。」
<相違点1>
本願発明においては、「II)触媒(C)が、熱処理によりまたは当量の酸もしくは塩基の添加を経て中和により不活性化」されるのに対して、引用発明においては、添加される濃塩酸が不活化されることが明らかではない点。
<相違点2>
本願発明においては、
「(A)ケイ素結合アルコキシル化シリコーン樹脂中間体もしくはケイ素結合アルコキシル化およびヒドロキシル化シリコーン樹脂中間体、またはこれらの混合物」を、
「(C)塩基性度もしくは酸性度を混合物に付与する塩基性もしくは酸性触媒、または完全に自己中和性ではない前記触媒の混合物、および
(D)水、および
(E)単独プロセス溶媒としての脂肪族カルボン酸エステル」
により加水分解および縮合するステップを含み、
「III)(E)の一部分が、粘度調整用に最終生成物に残留し、シリコーン樹脂の溶液が形成すること」を条件としているのに対して、引用発明においては、
(1)更に「MTES(メチルトリエトキシシラン)、TEOS(テトラエトキシシラン)を加え」るステップを含む点、及び
(2)脂肪族カルボン酸エステルを用いることが明らかではなく、脂肪族カルボン酸エステルの一部分が、粘度調整用に最終生成物に残留し、シリコーン樹脂の溶液が形成することが不明である点。
2 相違点についての判断
そこで、相違点1及び2について、以下に検討する。
ア 相違点1について
引用発明は、触媒(C)として濃塩酸を添加・混合した後、「真空度を25mmHgとし30℃の水浴下で生成エタノールを充分に留去」するものである。この生成エタノールの留去工程に関連して、引用文献4の記載の段落【0029】には、「上記酸などの触媒として、沸点又は共沸点が101.3kPaで例えば120℃以下のものを用いると、減圧でのエバポレーションにより除去されやすく好ましい」とあり、具体的には段落【0037】には、「エタノール、水、及び塩酸を減圧留去」することが記載され、また塩酸水溶液の共沸点は110℃であることが知られており(必要ならば、日本化学会編、“化学便覧 基礎編 改訂4版”、丸善株式会社、平成13年6月15日、第137ページの「11」欄を参照されたい)、120℃以下を満たすことから、反応溶液に含まれるエタノール、水、及び塩酸は減圧留去により除去可能であると理解できる。してみると、引用発明における、「真空度を25mmHgとし30℃の水浴下で生成エタノールを充分に留去」する工程は、減圧留去と考えられるところ、生成エタノールが充分に留去されていることを踏まえると、併せて塩酸もエバポレーションされて留去されているものと認められる。
よって、引用発明の「真空度を25mmHgとし30℃の水浴下で生成エタノールを充分に留去」において、「30℃」は、本願発明における「熱処理」に相当し、「留去」は、反応系中から塩酸を除外し、結果的に塩酸の機能を不活性なものとしているのであるから、本願発明における触媒の「不活性化」に相当する。したがって、上記相違点1は実質的な相違点とは認められない。
なお、仮に、引用発明における「真空度を25mmHgとし30℃の水浴下で生成エタノールを充分に留去」が、本願発明における「熱処理」による「不活性化」に相当しなかった場合について検討をする。引用文献1には、触媒を不活性化することについて明示的には記載されていないが、記載1eには「反応時間は反応温度、触媒量等により適宜選択されるが通常は30分~2時間である」ことが示され、触媒の存在下で適切な時間を設定して縮重合を進めることが示されており、当該作業終了後に改めて触媒を要することまでは記載されていない。更に、記載1bには「反応混合物は通常その製造工程中に使用した触媒を含有したまま基板上に塗布させるが、使用目的によっては製品の特性をそこなったり、塗布液の製造に際しては必ずしも反応が完全に行われず未反応部分が多く残ったまま使用に供されることがある。このような塗布液では得られた製品の品質が一定せず、品質管理が困難になるという欠点がある」ことが示され、触媒を反応混合物に存在させている塗布液はその品質管理の点で問題があった点も指摘しており、不必要な触媒の存在は得られるシリコーン樹脂の性能に悪影響を及ぼし得るものでもある。これら状況に鑑みると、引用発明において上記品質管理の改善の一環で不必要な触媒を排除するために、縮重合終了後に触媒の不活性化を試みることは当業者であれば容易に想到し得ることであり、また用いられる酸触媒である塩酸の触媒機能を失わせしめる方法として、中和による不活性化方法も周知の技術事項であるから(必要ならば、特開2010-85912号公報の段落【0084】、特開2009-191130号公報の段落【0012】、国際公開第2010/047138号の段落【0053】を参照されたい)、不活性化の方法として当量の塩基を添加して、塩酸を中和させる方法を採用することも、当業者であれば適宜選択なし得る事項に過ぎない。
イ 相違点2について
まず相違点2の(1)について検討する。
本願発明は、(A)を(C)、(D)及び(E)により加水分解及び縮合するステップを含むものであり、加水分解及び縮合の為の必須のステップとして、(A)、(C)、(D)及び(E)が挙げられていると理解できる。してみると、加水分解及び縮合するステップには他の任意の工程を有することを許容するものであるから、本願発明は、引用発明における「MTES(メチルトリエトキシシラン)、TEOS(テトラエトキシシラン)を加え」るステップを有する加水分解及び縮合する場合も包含するものといえ、この点において当該相違点2の(1)は実質的な相違点とは認められない。
なお、仮に、本願発明における上記加水分解及び縮合するステップが、(A)、(C)、(D)及び(E)のみから構成されるとした場合について検討する。記載1cには「これら一般式(a)、(b)、(c)において夫々の低縮合物(オリゴマー)も用いることが出来る」点が挙げられ、記載1aによれば一般式(a)はTEOS(テトラエトキシシラン)に相当し、一般式(b)はMTES(メチルトリエトキシシラン)に相当する。してみると、引用発明における「MTES(メチルトリエトキシシラン)、TEOS(テトラエトキシシラン)を加え」るステップについて、それぞれをオリゴマーとして加えることについては、当業者であれば容易に想到し得たことである。
また、その場合、「第5 本願発明と引用発明との対比・判断」の「1 対比」において、「DMDES(ジメチルジエトキシシラン)のオリゴマー」がシリコーン樹脂中間体に相当すると説示したとおり、上記「MTES(メチルトリエトキシシラン)、TEOS(テトラエトキシシラン)」をオリゴマーとして用いた場合には、同様に、最終生成物であるシリコーン樹脂を製造する為の中間体と機能するものといえ、またオリゴマーである点でケイ素結合アルコキシル基もしくはヒドロキシル基を有することに鑑みると、上記「MTES(メチルトリエトキシシラン)、TEOS(テトラエトキシシラン)」のオリゴマーも、「ケイ素結合アルコキシル化シリコーン樹脂中間体もしくはケイ素結合アルコキシル化およびヒドロキシル化シリコーン樹脂中間体」に相当すると認められる。してみると、「MTES(メチルトリエトキシシラン)、TEOS(テトラエトキシシラン)」をオリゴマーとして加えることは、本願発明の(A)に包含されるものであり、加水分解及び縮合するステップが、(A)、(C)、(D)及び(E)のみから構成されるとした場合についても満足するといえる。
次に、相違点2の(2)について検討する。
引用文献1の記載1dには、シリコーン樹脂の製造方法として、「溶剤を使用した溶液縮重合」を採用することができ、その具体的な溶剤として、「酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類」が利用可能であることが示唆されている。
ここで、シリコーン樹脂の製造における溶剤の役割については、引用文献3に記載の段落【0060】には、「縮合工程の前又は最中に、縮合の進行度及び濃度を調整する目的で有機溶剤を添加」する点、及び「一般的にシリコーンレジンは縮合が進行すると共に、高分子量化し、水や生成アルコールへの溶解性が低下していくため、添加する有機溶剤としては、シリコーンレジンをよく溶解し、沸点が80℃以上の比較的極性の高い有機溶剤が好ましい」点が示され、溶剤として、「プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のエーテル類;酢酸プロピル、酢酸ブチル、酢酸シクロヘキシル等のエステル類」が利用可能であることが記載されている。ここで挙げられる「プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート」は、「アセテート」部分を有する点で脂肪族カルボン酸エステルの一種でもあり、また「酢酸プロピル、酢酸ブチル、酢酸シクロヘキシル」もまた脂肪族カルボン酸エステルに含まれるものである。これら、脂肪族カルボン酸エステルを溶剤として用いることで、シリコーンレジンの溶解性の低下を防止できることは、ゲル化を防止できるものと考えられ、実際に、引用文献3に記載の合成例2では、「プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート」を用いた結果、ゲル化が発生することなく、「分散度1.96の無色透明のシリコーンレジン溶液」が得られる点が示されている。なお、他のシリコーン樹脂の製造例として、引用文献2に記載の「実施例2」では「酢酸ブチル」を用いることが示され、引用文献4に記載の「合成例1」には「プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート」を用いることが記載されており、溶剤として、これら脂肪族カルボン酸エステルが、シリコーン樹脂の製造に一般的に用いられているものである。
よって、引用発明におけるシリコーン樹脂の製造方法において、溶解性が低下することなく、ゲル化などが発生せず、縮合反応がより円滑に進むようにすべく、引用文献1に記載の「酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類」として、脂肪族カルボン酸エステルを選択して、シリコーン樹脂を得ようとすることは、当業者であれば容易に想到し得たことである。
また、製造されるシリコーン樹脂について、分子量が高くなるにつれ粘性が高まることは周知の技術事項であるから、利用時の作業性を考えて、上記エステル類を粘度調製用に残留させて、シリコーン樹脂の溶液を形成させてみることは、当業者であれば適宜なし得たことである。
そして、本願発明により得られる作用効果について検討すると、引用文献3に記載されるとおり、エステル類はシリコーン樹脂をよく溶解し、ゲル化を避けるのに好適な溶剤であるといえ、ゲル化に伴う粘度変化も防止できる点で貯蔵安定性にも優れたものになると理解できることから、本願発明の作用効果は、引用発明、及び引用文献2ないし4に記載の技術事項から予測し得る範囲のものであり、格別なものとはいえない。
第6 むすび
上記第5のとおり、本願発明は、引用文献1に記載された発明及び引用文献2ないし4に記載の技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2015-007455