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特許異議申立

2022-700193

ポリアリーレンサルファイド系樹脂組成物及びインサート成形品

審判番号
2022-700193
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2018-547776
登録番号
6937315
請求日
2022年03月07日
審決日
2023年09月14日
公報発行日
2023年12月28日
結論
訂正認容
当事者
  • 【権利者】ポリプラスチックス株式会社
  • 【権利者代理人】園田・小林弁理士法人
  • 【異議申立人】山内 慶子
審判長/審判官
  • 審判長 近野 光知
  • 審判官 海老原 えい子
  • 審判官 小出 直也
分類
P1651.113-YAA(C08L) / P1651.121-YAA(C08L)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条第2項、特許法第120条の5第2項、特許法第29条第1項第3号
データ出所
審決公報(XML)

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特許第6937315号発明「ポリアリーレンサルファイド系樹脂組成物及びインサート成形品」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

結 論 特許第6937315号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-4〕について訂正することを認める。 特許第6937315号の請求項1~4に係る特許を維持する。

理由

理 由 第1 手続の経緯 本件特許(特許第6937315号)についての出願は、平成29年10月27日(優先日:平成28年10月31日)を国際出願日とする国際出願であり、令和3年9月1日にその特許権の設定登録がされ、同年9月22日に特許掲載公報が発行された。 その後、その特許について、令和4年3月7日に、特許異議申立人山内 慶子(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされた。 その後の経緯は、次のとおりである。 令和4年 9月 5日付け 取消理由通知書 同年11月 9日 訂正の請求、意見書の提出(特許権者) 同年 同月21日付け 訂正請求があった旨の通知(申立人宛) 同年12月23日 意見書の提出(申立人) 令和5年 3月27日付け 取消理由通知書(決定の予告) 同年 5月18日 応対記録 同年 5月30日 訂正の請求、意見書の提出(特許権者) 同年 6月 6日付け 訂正請求があった旨の通知(申立人宛) 令和5年6月6日付け通知に対する申立人の応答はなかった。 第2 訂正の請求について 1 訂正の内容 令和5年5月30日になされた訂正(以下、「本件訂正」という。)の請求の趣旨は、本件特許の特許請求の範囲を訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~4について訂正することを求めるものであり、その訂正の内容は次のとおりである(本件特許の願書に添付した明細書を「本件明細書」という。)。 (1)訂正事項1 ア 本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1に「ポリアリーレンサルファイド系樹脂A、無機充填剤B、及びα-オレフィン由来の構成単位とα,β-不飽和酸のグリシジルエステル由来の構成単位とを含有するオレフィン系共重合体Cを含有し」とあったのを、「ポリアリーレンサルファイド系樹脂A、無機充填剤B、及びα-オレフィン由来の構成単位とα,β-不飽和酸のグリシジルエステル由来の構成単位とを含有するオレフィン系共重合体Cからなり(但し、バリ抑制剤、離型剤、潤滑剤、可塑剤、難燃剤、着色剤、結晶化促進剤、結晶核剤、酸化防止剤、熱安定剤、耐候性安定剤、及び腐食防止剤から選択される1以上の添加剤を全樹脂組成物中5質量%以下の含有量で含んでいてよく、芳香族ポリエステル、ポリアミド、ポリカーボネート、ABS、ポリフェニレンオキサイド、ポリアルキルアクリレート、ポリサルホン、ポリエーテルサルホン、ポリエーテルイミド、ポリエーテルケトン、及びフッ素樹脂から選択される1以上の熱可塑性樹脂を全樹脂組成物中20質量%以下含んでいてよい)」とする。 イ 本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1に「質量比B1/Aとして0.20以上0.85以下であり」とあるのを、「質量比B1/Aとして0.20以上0.67以下であり」とする。 ウ 本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1に「質量比B2/Aとして0.30以上1.1以下であり」とあるのを、「質量比B2/Aとして0.53以上1.1以下であり」とする。 請求項1の記載を引用する請求項2~4も同様に訂正する。 (2)一群の請求項 訂正事項1に係る本件訂正前の請求項1について、請求項2~4は請求項1を直接又は間接的に引用するものであって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。 よって、本件訂正は一群の請求項に対してされたものである。 2 訂正の適否 (1)訂正事項1のうち上記アの訂正は、「ポリアリーレンサルファイド系樹脂組成物」に関し、「ポリアリーレンサルファイド系樹脂A、無機充填剤B、及びα-オレフィン由来の構成単位とα,β-不飽和酸のグリシジルエステル由来の構成単位とを含有するオレフィン系共重合体Cを含有」するものであったのを、「ポリアリーレンサルファイド系樹脂A、無機充填剤B、及びα-オレフィン由来の構成単位とα,β-不飽和酸のグリシジルエステル由来の構成単位とを含有するオレフィン系共重合体Cからな」ることを特定し、ただし、「バリ抑制剤、離型剤、潤滑剤、可塑剤、難燃剤、着色剤、結晶化促進剤、結晶核剤、酸化防止剤、熱安定剤、耐候性安定剤、及び腐食防止剤から選択される1以上の添加剤を全樹脂組成物中5質量%以下の含有量で含んでいてよく、芳香族ポリエステル、ポリアミド、ポリカーボネート、ABS、ポリフェニレンオキサイド、ポリアルキルアクリレート、ポリサルホン、ポリエーテルサルホン、ポリエーテルイミド、ポリエーテルケトン、及びフッ素樹脂から選択される1以上の熱可塑性樹脂を全樹脂組成物中20質量%以下含んでいてよい」ことを特定したものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に規定する、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 次に、本件明細書には、「ポリアリーレンサルファイド系樹脂組成物」に関し、「ポリアリーレンサルファイド系樹脂A、無機充填剤B、及びα-オレフィン由来の構成単位とα,β-不飽和酸のグリシジルエステル由来の構成単位とを含有するオレフィン系共重合体Cを含有」すること(請求項1)、「その他の添加剤等」として、バリ抑制剤、離型剤、潤滑剤、可塑剤、難燃剤、染料や顔料等の着色剤、結晶化促進剤、結晶核剤、各種酸化防止剤、熱安定剤、耐候性安定剤、腐食防止剤等を要求性能に応じ配合することが可能であること、添加剤の含有量は、例えば、全樹脂組成物中5質量%以下にすることができること、他の熱可塑性樹脂成分を補助的に少量併用することも可能であり他の熱可塑性樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等の芳香族ジカルボン酸とジオール或いはオキシカルボン酸等からなる芳香族ポリエステル、ポリアミド、ポリカーボネート、ABS、ポリフェニレンオキサイド、ポリアルキルアクリレート、ポリサルホン、ポリエーテルサルホン、ポリエーテルイミド、ポリエーテルケトン、フッ素樹脂等を挙げることができること、他の熱可塑性樹脂成分の含有量は、例えば、全樹脂組成物中20質量%以下、15質量%以下、又は10質量%以下にすることができることが記載されていた(【0045】、【0046】)から、当該訂正は、本件明細書に記載した事項の範囲内の訂正である。 (2)訂正事項1のうち上記イ及びウの訂正は、「板状無機充填剤B1」と「ポリアリーレンサルファイド系樹脂A」の「質量比B1/A」が「0.20以上0.85以下であり」とあったのを「質量比B1/Aとして0.20以上0.67以下であり」と特定したもの及び「繊維状無機充填剤B2」と「ポリアリーレンサルファイド系樹脂A」の「質量比B2/A」が「0.30以上1.1以下であり」とあったのを、「質量比B2/Aとして0.53以上1.1以下であり」と特定したものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。 次に、本件明細書の実施例1~4には「質量比B1/A」が0.29~0.67であり、「質量比B2/A」が0.53~1.0であることが記載されていたから、「質量比B1/A」の上限値を「0.67以下」とする上記訂正イ及び「質量比B2/A」の下限値を「0.53以上」とする上記訂正ウはいずれも本件明細書に記載した事項の範囲内の訂正である。 (3)よって、訂正事項1による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。 したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~4について訂正することを認める。 第3 本件発明 上記第2のとおり、本件訂正は認められるから、本件特許に係る発明は、訂正特許請求の範囲の請求項1~4に記載された事項により特定される次のとおりのものである。 「【請求項1】 ポリアリーレンサルファイド系樹脂A、無機充填剤B、及びα-オレフィン由来の構成単位とα,β-不飽和酸のグリシジルエステル由来の構成単位とを含有するオレフィン系共重合体Cからなり(但し、バリ抑制剤、離型剤、潤滑剤、可塑剤、難燃剤、着色剤、結晶化促進剤、結晶核剤、酸化防止剤、熱安定剤、耐候性安定剤、及び腐食防止剤から選択される1以上の添加剤を全樹脂組成物中5質量%以下の含有量で含んでいてよく、芳香族ポリエステル、ポリアミド、ポリカーボネート、ABS、ポリフェニレンオキサイド、ポリアルキルアクリレート、ポリサルホン、ポリエーテルサルホン、ポリエーテルイミド、ポリエーテルケトン、及びフッ素樹脂から選択される1以上の熱可塑性樹脂を全樹脂組成物中20質量%以下含んでいてよい)、 無機充填剤Bが、板状無機充填剤B1、繊維状無機充填剤B2、及び粉粒状無機充填剤B3を含有し、 板状無機充填剤B1の含有量が、ポリアリーレンサルファイド系樹脂Aとの質量比B1/Aとして0.20以上0.67以下であり、 繊維状無機充填剤B2の含有量が、ポリアリーレンサルファイド系樹脂Aとの質量比B2/Aとして0.53以上1.1以下であり、 粉粒状無機充填剤B3の含有量が、ポリアリーレンサルファイド系樹脂Aとの質量比B3/Aとして0.20を超え0.80以下であり、 粉粒状無機充填剤B3の平均粒子径が10μm以上である、ポリアリーレンサルファイド系樹脂組成物。 【請求項2】 金属、合金又は無機固体物を用いて形成されたインサート部材と、インサート部材の表面の少なくとも一部を覆う樹脂部材とを有し、樹脂部材が請求項1に記載のポリアリーレンサルファイド系樹脂組成物を用いて形成されたことを特徴とするインサート成形品。 【請求項3】 樹脂部材が、前記樹脂組成物の流動末端同士が接合したウェルド部、及び膨張収縮により発生する応力が集中する応力集中部をそれぞれ一以上有し、少なくとも一つのウェルド部及び応力集中部が、少なくとも一部の領域で一致している、請求項2に記載のインサート成形品。 【請求項4】 樹脂部材の少なくとも一つの応力集中部を含む表面の反対側の表面上にゲート痕が形成されている、請求項3に記載のインサート成形品。 (以下、請求項1~4に係る発明を、順に「本件発明1」~「本件発明4」といい、これらをまとめて「本件発明」という。) 第4 特許異議申立書に記載した申立ての理由・証拠及び取消理由の概要 1 特許異議申立書に記載した申立ての理由の概要 令和4年3月7日に申立人が提出した特許異議申立書(以下、「申立書」という。)に記載した申立ての理由の概要は次のとおりである。 (1)申立理由1(甲第1号証を主引例とする新規性・進歩性) 本件訂正前の請求項1ないし4に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明及び甲第1号証に記載された事項に基づいて、その出願前に発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、これらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 (2)申立理由2(甲第5号証を主引例とする進歩性) 本件訂正前の請求項1ないし4に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第5号証に記載された発明及び甲第2号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、これらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 (3)申立理由3(甲第6号証を主引例とする進歩性) 本件訂正前の請求項1ないし4に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第6号証に記載された発明及び甲第7号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、これらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 2 証拠方法 (1)申立書に添付された証拠方法 甲第1号証:特開2010-53350号公報 甲第2号証:特開2000-263586号公報 甲第3号証:本間精一著「射出成形特性を活かすプラスチック製品設計法」(2011年)、日刊工業新聞社、p62-65、72-73、102-103、108-111 甲第4号証:国際公開第2012/073694号 甲第5号証:特開2012-77164号公報 甲第6号証:特開2005-306926号公報 甲第7号証:国際公開第2015/146718号 (2)令和4年12月23日申立人提出の意見書に添付された証拠方法 甲第8号証:特開2002-129014号公報 甲第9号証:特開2009-155419号公報 甲第10号証:特開2011-12139号公報 (以下、「甲第1号証」~「甲第10号証」を、それぞれ、「甲1」~「甲10」という。) 3 令和4年9月5日付けの取消理由の概要 令和4年9月5日付けで通知した取消理由(以下、「取消理由」という。)の概要は次のとおりである。 (1)取消理由1(甲1を主引例とする進歩性) 本件訂正前の請求項1及び2に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲1に記載された発明及び甲1に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、本件訂正前の請求項3及び4に係る発明は、甲1に記載された発明並びに甲1及び4に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、これらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 (2)取消理由2(甲6を主引例とする進歩性) 本件訂正前の請求項1及び2に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲6に記載された発明及び甲7に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、本件訂正前の請求項3及び4に係る発明は、同甲6に記載された発明並びに甲7及び4に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、これらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 4 令和5年3月27日付けの取消理由通知(決定の予告)の概要 (1)取消理由3(甲1を主引例とする進歩性) 令和4年11月9日提出の訂正請求書に添付した特許請求の範囲に記載された請求項1及び2に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲1に記載された発明及び甲1に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、同請求項3及び4に係る発明は、同甲1に記載された発明並びに甲1及び4に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、これらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 (2)取消理由4(甲6を主引例とする進歩性) 令和4年11月9日提出の訂正請求書に添付した特許請求の範囲に記載された請求項1及び2に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲6に記載された発明及び甲7に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、同請求項3及び4に係る発明は、同甲6に記載された発明並びに甲7及び4に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、これらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 第5 当審の判断 以下の判断では、申立理由1、取消理由1及び取消理由3は甲1を主引例とするのでまとめて検討し(後記1)、申立理由3、取消理由2及び取消理由4は甲6を主引例とするのでまとめて検討する(後記2)。その後、甲5を主引例とする申立理由2を検討する(後記3)。 1 甲1を主引例とする新規性、進歩性について (1)本件発明1について ア 甲1に記載された発明 甲1の実施例2及び3に着目すると、甲1には、以下の発明が記載されていると認められる。 (ア)実施例2に着目した場合 「40重量%の(A)ポリアリーレンスルフィド樹脂、 (B)無機充填材として 32重量%の(B1)板状充填材であるGFT(黒鉛):CFW-50A(中越黒鉛社製)平均粒子径(D50)48μm、モース硬度1、 16重量%の(B2)粒状充填材であるSI(シリカ):FB-74(電気化学工業社製)平均粒子径(D50)30μm、熱伝導率2W/m・K、 12重量%の(B3)繊維状充填材であるGF(ガラス繊維):JAFT523(オーウェンス・コーニング社製)チョップドストランドガラス繊維、繊維径10μm、平均繊維長3000μm、 をブレンドし溶融混練して得られたペレット。」(以下、「甲1発明1」という。) (イ)実施例3に着目した場合 「40重量%の(A)ポリアリーレンスルフィド樹脂、 (B)無機充填材として 28.4重量%の(B1)板状充填材であるGFT(黒鉛):CFW-50A(中越黒鉛社製)平均粒子径(D50)48μm、モース硬度1、 14.2重量%の(B2)粒状充填材であるSI(シリカ):FB-74(電気化学工業社製)平均粒子径(D50)30μm、熱伝導率2W/m・K、 17.4重量%の(B3)繊維状充填材であるGF(ガラス繊維):JAFT523(オーウェンス・コーニング社製)チョップドストランドガラス繊維、繊維径10μm、平均繊維長3000μm、 をブレンドし溶融混練して得られたペレット。」(以下、「甲1発明2」という。) イ 対比 (ア)本件発明1と甲1発明1を対比する。 a 甲1発明1の「(A)ポリアリーレンスルフィド樹脂」は、本件発明1の「ポリアリーレンサルファイド系樹脂A」に相当する。 b 甲1発明1の「(B1)板状充填材であるGFT(黒鉛):CFW-50A(中越黒鉛社製)平均粒子径(D50)48μm、モース硬度1」は、本件発明1の「板状無機充填剤B1」に相当する。 c 甲1発明1の「(B3)繊維状充填材であるGF(ガラス繊維):JAFT523(オーウェンス・コーニング社製)チョップドストランドガラス繊維、繊維径10μm、平均繊維長3000μm」は、本件発明1の「繊維状無機充填剤B2」に相当する。 d 甲1発明1の「(B2)粒状充填材であるSI(シリカ):FB-74(電気化学工業社製)平均粒子径(D50)30μm、熱伝導率2W/m・K」は、本件発明1の「粉粒状無機充填剤B3」であって「平均粒子径が10μm以上である」ものに相当する。 そして、甲1発明1において、「(A)ポリアリーレンスルフィド樹脂」が「40重量%」、「(B2)粒状充填材」が「16重量%」であることから、(B2)/Aは0.4(=16/40)と算出され、この値は、本件発明1の「粉粒状無機充填剤B3の含有量が、ポリアリーレンサルファイド系樹脂Aとの質量比B3/Aとして0.20を超え0.80以下」の範囲に包含される。 e 甲1発明1の「ペレット」は、(A)ポリアリーレンスルフィド樹脂、(B)無機充填材としての、(B1)板状充填材、(B2)粒状充填材、(B3)繊維状充填材を含むから、「ポリアリーレンサルファイド系樹脂組成物」であるといえる。 f 上記a~eより、本件発明1と甲1発明1とは、 「ポリアリーレンサルファイド系樹脂A及び無機充填剤Bを含有し、 無機充填剤Bが、板状無機充填剤B1、繊維状無機充填剤B2、及び粉粒状無機充填剤B3を含有し、 粉粒状無機充填剤B3の含有量が、ポリアリーレンサルファイド系樹脂Aとの質量比B3/Aとして0.20を超え0.80以下であり、 粉粒状無機充填剤B3の平均粒子径が10μm以上である、ポリアリーレンサルファイド系樹脂組成物。」 である点で一致し、以下の点で相違する。 <相違点1> ポリアリーレンサルファイド系樹脂組成物に関し、本件発明1では、「ポリアリーレンサルファイド系樹脂A、無機充填剤B、及びα-オレフィン由来の構成単位とα,β-不飽和酸のグリシジルエステル由来の構成単位とを含有するオレフィン系共重合体Cからなり(但し、バリ抑制剤、離型剤、潤滑剤、可塑剤、難燃剤、着色剤、結晶化促進剤、結晶核剤、酸化防止剤、熱安定剤、耐候性安定剤、及び腐食防止剤から選択される1以上の添加剤を全樹脂組成物中5質量%以下の含有量で含んでいてよく、芳香族ポリエステル、ポリアミド、ポリカーボネート、ABS、ポリフェニレンオキサイド、ポリアルキルアクリレート、ポリサルホン、ポリエーテルサルホン、ポリエーテルイミド、ポリエーテルケトン、及びフッ素樹脂から選択される1以上の熱可塑性樹脂を全樹脂組成物中20質量%以下含んでいてよい)」のに対して、甲1発明1では、「(A)ポリアリーレンスルフィド樹脂」、(B)無機充填材としての「(B1)板状充填材」、「(B2)粒状充填材」及び「(B3)繊維状充填材」を含むが、「α-オレフィン由来の構成単位とα,β-不飽和酸のグリシジルエステル由来の構成単位とを含有するオレフィン系共重合体C」を含有していない点 <相違点2> 本件発明1では、「板状無機充填剤B1の含有量が、ポリアリーレンサルファイド系樹脂Aとの質量比B1/Aとして0.20以上0.67以下であり、繊維状無機充填剤B2の含有量が、ポリアリーレンサルファイド系樹脂Aとの質量比B2/Aとして0.53以上1.1以下であ」るのに対して、甲1発明1ではこのような記載はない点。 (イ)次に、本件発明1と甲1発明2とを対比すると、上記(ア)と同様にして両者は上記相違点1及び2において相違する。 ウ 判断 上記相違点について検討する。事案に鑑み、相違点2から検討する。 (ア)甲1発明1では、「(A)ポリアリーレンスルフィド樹脂」が「40重量%」、「(B1)板状充填材であるGFT(黒鉛):CFW-50A(中越黒鉛社製)平均粒子径(D50)48μm、モース硬度1」が「32重量%」であることから、(B1)/(A)は0.8(=32/40)と算出され、「0.20以上0.67以下」の範囲にはない。 また、甲1発明1において、「(A)ポリアリーレンスルフィド樹脂」が「40重量%」、「(B3)繊維状充填材であるGF(ガラス繊維):JAFT523(オーウェンス・コーニング社製)チョップドストランドガラス繊維、繊維径10μm、平均繊維長3000μm」が「12重量%」であることから、(B3)/Aは0.3(=12/40)と算出され、「0.53以上1.1以下」の範囲にはない。 (イ)甲1発明2では、「(A)ポリアリーレンスルフィド樹脂」が「40重量%」、「(B1)板状充填材であるGFT(黒鉛):CFW-50A(中越黒鉛社製)平均粒子径(D50)48μm、モース硬度1」が「28.4重量%」であることから、(B1)/(A)は0.71(=28.4/40)と算出され、「0.20以上0.67以下」の範囲にはない。 また、甲1発明2において、「(A)ポリアリーレンスルフィド樹脂」が「40重量%」、「(B3)繊維状充填材であるGF(ガラス繊維):JAFT523(オーウェンス・コーニング社製)チョップドストランドガラス繊維、繊維径10μm、平均繊維長3000μm」が「17.4重量%」であることから、(B3)/Aは0.44(=17.4/40)と算出され、「0.53以上1.1以下」の範囲にはない。 そうすると、相違点2は実質的な相違点である。 (イ)次に、相違点2に係る事項を当業者が容易に想到し得たかについて検討する。 甲1には、(B)無機充填材として(B1)板状充填材と(B2)粒状充填材もしくは(B3)繊維状充填材が挙げられること、(A)ポリアリーレンスルフィド樹脂と(B)無機充填材との比率は(A)ポリアリーレンスルフィド樹脂と(B)無機充填材の合計量100重量%に対して(A)ポリアリーレンスルフィド樹脂20~40重量%、(B)無機充填材60~80重量%であること、(B1)成分、(B2)成分及び(B3)成分の合計に対する(B1)成分及び(B2)成分が70重量%超であること、(B)無機充填材の(B1)板状充填材及び(B2)粒状充填材の配合比率が0.7/1~8/1であることについては記載されているが(【0031】、【0043】、【0044】)、(B1)成分(板状充填材)と(A)ポリアリーレンスルフィド樹脂の量比や(B3)成分(繊維状充填材)と(A)ポリアリーレンスルフィド樹脂の量比を個々に調整することについては記載も示唆もされておらず、ましてやこれらの値をそれぞれ「0.20以上0.67以下」、「0.53以上1.1以下」とすることは記載も示唆もされていない。 そうすると、甲1発明1又は2において、(B1)成分(板状充填材)と(A)ポリアリーレンスルフィド樹脂の量比及び(B3)成分(繊維状充填材)と(A)ポリアリーレンスルフィド樹脂の量比を本件発明の特定のように特定することの動機付けはない。 また、甲2~10をみても、甲1発明1又は2において、上記量比を本件発明の特定のように特定することが動機付けられると認めるに足りる根拠はない。 そうすると、相違点2に係る事項は当業者が容易に想到し得たものではない。 エ 小括 したがって、相違点1について検討するまでもなく本件発明1は甲1に記載された発明ではなく、また、甲1に記載された及び甲1~10の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (2)本件発明2~4について 本件発明2~4は本件発明1を直接又は間接的に引用するものであり、上記(1)と同様の理由により、本件発明2~4は、甲1に記載された発明ではなく、また、甲1に記載された発明に甲1~甲10の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 2 甲6を主引例とする進歩性について (1)本件発明1について ア 甲6に記載された発明 甲6の実施例6に着目すると甲6には以下の発明が記載されている。 「100重量部の(A)PPS樹脂:PPS-1、 75重量部の(B)ガラス繊維:無アルカリガラス、繊維径13μm、カップリング剤付着量0.32重量%。旭ファイバーグラス(株)製:CS 03 MA FT523、 10重量部の(C)変性オレフィン系重合体 変性-2:エチレン/メチルアクリレート/グリシジルメタクリレート=64/30/6(重量%)共重合体。住友化学工業(株)製:BF-7M 5重量部の(D)エポキシ樹脂 エポキシ-1:ビスフェノールA型エポキシ樹脂。ジャパンエポキシレジン(株)製:エピコート1009 25重量部の(E1)ガラスフレーク GFL-1:無アルカリガラス、厚さ5μm、数平均粒径600μm、カップリング剤付着量0.4重量%。日本板硝子(株)製:REFG-112 40重量部の(E2)炭酸カルシウム 重炭-1:重質炭酸カルシウム、平均粒径2.0μm、(株)同和カルファイン製:KSS-1000 0.8重量部の(G)添加剤 添加剤-1:エチレンジアミン・ステアリン酸・セバシン酸重縮合物。共栄社化学(株)製:ライトアマイドWH-255をドライブレンドした後、溶融混練後ペレタイズして得られたペレット。」(以下、「甲6発明1」という。) イ 対比 本件発明1と甲6発明1とを対比する。 (ア)甲6発明1の「(A)PPS樹脂:PPS-1」は、本件発明1の「ポリアリーレンサルファイド系樹脂A」に相当する。 (イ)甲6発明1の「(E1)ガラスフレーク GFL-1:無アルカリガラス、厚さ5μm、数平均粒径600μm、カップリング剤付着量0.4重量%。日本板硝子(株)製:REFG-112」は、本件発明1の「板状無機充填剤B1」に相当する。 そして、甲6発明1において、「(A)PPS樹脂:PPS-1」が「100重量部」、「(E1)ガラスフレーク GFL-1:無アルカリガラス、厚さ5μm、数平均粒径600μm、カップリング剤付着量0.4重量%。日本板硝子(株)製:REFG-112」が「25重量部」であることから、(E1)/(A)は0.25(=25/100)と算出され、この値は、本件発明1の「板状無機充填剤B1の含有量が、ポリアリーレンサルファイド系樹脂Aとの質量比B1/Aとして0.20以上0.67以下」の範囲に包含される。 (ウ)甲6発明1の「(B)ガラス繊維:無アルカリガラス、繊維径13μm、カップリング剤付着量0.32重量%。旭ファイバーグラス(株)製:CS 03 MA FT523」は、本件発明1の「繊維状無機充填剤B2」に相当する。 そして、甲6発明1において、「(A)PPS樹脂:PPS-1」が「100重量部」、「(B)ガラス繊維:無アルカリガラス、繊維径13μm、カップリング剤付着量0.32重量%。旭ファイバーグラス(株)製:CS 03 MA FT523」が「75重量部」であることから、(B)/(A)は0.75(=75/100)と算出され、この値は、本件発明1の「繊維状無機充填剤B2の含有量が、ポリアリーレンサルファイド系樹脂Aとの質量比B2/Aとして0.53以上1.1以下」の範囲に包含される。 (エ)甲6発明1の「(E2)炭酸カルシウム 重炭-1:重質炭酸カルシウム、平均粒径2.0μm、(株)同和カルファイン製:KSS-1000」は、「粒径2.0μm」とあることから、粉粒状であると解するのが合理的であって、本件発明1の「粉粒状無機充填剤B3」に、粒状無機充填剤である限りにおいて一致する。 そして、甲6発明1において、「(A)PPS樹脂:PPS-1」が「100重量部」、「(E2)炭酸カルシウム 重炭-1:重質炭酸カルシウム、平均粒径2.0μm、(株)同和カルファイン製:KSS-1000」が「40重量部」であることから、(E2)/(A)は0.4(=40/100)と算出され、この値は、本件発明1の「粉粒状無機充填剤B3の含有量が、ポリアリーレンサルファイド系樹脂Aとの質量比B3/Aとして0.20を超え0.80以下」の範囲に包含される。 (オ)甲6発明1の「(C)変性オレフィン系重合体 変性2:エチレン/メチルアクリレート/グリシジルメタクリレート=64/30/6(重量%)共重合体。住友化学工業(株)製:BF-7M」は、本件発明1の「α-オレフィン由来の構成単位と、α、β-不飽和酸のグリシジルエステル由来の構成単位とを含有するオレフィン系共重合体C」に相当する。 (カ)甲6発明1の「ペレット」は、(A)PPS樹脂、(B)ガラス繊維、(C)変性オレフィン系重合体、(D)エポキシ樹脂、(E1)ガラスフレーク、(E2)炭酸カルシウム、(G)添加剤(エチレンジアミン・ステアリン酸・セバシン酸重縮合物)を含む組成物であるから、「ポリアリーレンサルファイド系樹脂組成物」であるといえる。 (キ)上記(ア)~(カ)より、本件発明1と甲6発明1とは、 「ポリアリーレンサルファイド系樹脂A、無機充填剤B、及びα-オレフィン由来の構成単位とα,β-不飽和酸のグリシジルエステル由来の構成単位とを含有するオレフィン系共重合体Cを含み、無機充填剤Bが、板状無機充填剤B1、繊維状無機充填剤B2、及び粉粒状無機充填剤B3を含有し、 板状無機充填剤B1の含有量が、ポリアリーレンサルファイド系樹脂Aとの質量比B1/Aとして0.20以上0.67以下であり、 繊維状無機充填剤B2の含有量が、ポリアリーレンサルファイド系樹脂Aとの質量比B2/Aとして0.53以上1.1以下であり、 粉粒状無機充填剤B3の含有量が、ポリアリーレンサルファイド系樹脂Aとの質量比B3/Aとして0.20を超え0.80以下である、 ポリアリーレンサルファイド系樹脂組成物。」 の点で一致し、以下の点で相違する。 <相違点3> 「ポリアリーレンサルファイド系樹脂組成物」に関し、本件発明1では、「ポリアリーレンサルファイド系樹脂A、無機充填剤B、及びα-オレフィン由来の構成単位とα,β-不飽和酸のグリシジルエステル由来の構成単位とを含有するオレフィン系共重合体Cからな」る、「(但し、バリ抑制剤、離型剤、潤滑剤、可塑剤、難燃剤、着色剤、結晶化促進剤、結晶核剤、酸化防止剤、熱安定剤、耐候性安定剤、及び腐食防止剤から選択される1以上の添加剤を全樹脂組成物中5質量%以下の含有量で含んでいてよく、芳香族ポリエステル、ポリアミド、ポリカーボネート、ABS、ポリフェニレンオキサイド、ポリアルキルアクリレート、ポリサルホン、ポリエーテルサルホン、ポリエーテルイミド、ポリエーテルケトン、及びフッ素樹脂から選択される1以上の熱可塑性樹脂を全樹脂組成物中20質量%以下含んでいてよい)」ものであり、エポキシ樹脂を含有しないのに対して、甲6発明1では、(A)PPS樹脂、(B)ガラス繊維、(C)変性オレフィン系重合体、(D)エポキシ樹脂、(E1)ガラスフレーク、(E2)炭酸カルシウム、(G)添加剤を含むものであり、(D)エポキシ樹脂を含有する点。 <相違点4> 「粉粒状無機充填剤B3」の平均粒子径に関し、本件発明1では「平均粒子径が10μm以上」であるのに対して、甲6発明1では「平均粒径2.0μm」である点。 ウ 判断 相違点3について検討する。 甲6は、「(A)ポリフェニレンスルフィド樹脂100重量部に対し、(B)ガラス繊維10~350重量部、(C)エポキシ基、酸無水物基から選ばれる少なくとも1種の官能基を含有するオレフィン系重合体0.5~100重量部、(D)エポキシ樹脂0.5~100重量部、(E)(E1)ガラスフレークおよび/または(E2)炭酸カルシウム1~300重量部を配合してなるポリフェニレンスルフィド樹脂組成物。」(【請求項1】)を開示する文献であり、甲6発明1はその具体例である。そして、甲6は、ポリフェニレンスルフィド樹脂のエポキシ樹脂との接着強度が比較的低いという従来技術の問題点を記載した上で(【0003】)、冷熱性、低ソリ性、エポキシ樹脂との接着性が均衡して優れるポリフェニレンスルフィド樹脂を提供することを課題として記載する(【0008】)。そして、(D)エポキシ樹脂を用いることは、他の必須成分の配合と相俟ってエポキシ樹脂との接着性を高め得ること、(D)エポキシ樹脂の配合量が少なすぎるとエポキシ樹脂との接着性が不十分の傾向があることが記載され(【0042】、【0044】)、具体的な実験データとして(D)エポキシ樹脂を含有しない場合はエポキシ樹脂との接着密度が劣っていたことが記載されている(比較例3、6)。 そうすると、甲6発明1の「ペレット」において「(D)エポキシ樹脂」は、冷熱性、低ソリ性、エポキシ樹脂との接着性が均衡して優れるポリフェニレンスルフィド樹脂を提供するという課題を解決する上で必須の成分であると理解されるのであって、甲6発明1において「(D)エポキシ樹脂」を含有させないようにすることは何ら動機付けられるものではなく、むしろ阻害要因があるといえる。 さらに、甲7及びその他の証拠をみても、甲6発明1において「(D)エポキシ樹脂」を含有させないようにすることが動機付けられるとはいえない。 よって、相違点3に係る事項は当業者が容易に想到し得たものではない。 エ 小括 したがって、相違点4について検討するまでもなく、本件発明1は甲6に記載された発明及び甲1~10の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (2)本件発明2~4について 本件発明2~4は本件発明1を直接又は間接的に引用するものであり、(1)と同様の理由により、本件発明2~4は甲6に記載された発明及び甲1~10の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 3 甲5を主引例とする進歩性について (1)本件発明1について ア 甲5に記載された発明 甲5の実施例13に着目すると、甲5には以下の発明が記載されていると認められる。 「ポリフェニレンスルフィド(PPS(A-1)を30重量%、板状充填剤であるマイカ(B2-1)を20重量%、平均粒子径17μmの不定形上粉末である金属ケイ素(C-1)を20重量%、ガラス繊維(D-1)を30重量%含むポリアリーレンスルフィド組成物。」(以下「甲5発明」という。) イ 対比 本件発明1と甲5発明とを対比する。 (ア)甲5発明の「ポリフェニレンスルフィド(PPS(A-1)」は、本件発明1の「ポリアリーレンサルファイド系樹脂A」に相当する。 (イ)甲5発明の「板状充填剤であるマイカ(B2-1)」は、本件発明1の「板状無機充填剤B1」に相当する。 そして、甲5発明において、「ポリフェニレンスルフィド(PPS(A-1)」が30重量%、「板状充填剤であるマイカ(B2-1)」が20重量%であるから、(B2-1)/(A-1)は0.67(=20/30)と算出され、この値は、本件発明1の「板状無機充填剤B1の含有量が、ポリアリーレンサルファイド系樹脂Aとの質量比B1/Aとして0.20以上0.67以下」の範囲に包含される。 (ウ)甲5発明の「ガラス繊維(D-1)」は、本件発明1の「繊維状無機充填剤B2」に相当する。 そして、甲5発明において「ポリフェニレンスルフィド(PPS(A-1)」が30重量%、「ガラス繊維(D-1)」が30重量%であるから、(D-1)/(A-1)は1(=30/30)と算出され、この値は、本件発明1の「繊維状無機充填剤B2の含有量が、ポリアリーレンサルファイド系樹脂Aとの質量比B2/Aとして0.53以上1.1以下」の範囲に包含される。 (エ)甲5発明の「平均粒子径17μmの不定形上粉末である金属ケイ素(C-1)」は、本件発明1の「平均粒子径が10μm以上である」「粉粒状無機充填剤B3」に相当する。 そして、甲5発明において「ポリフェニレンスルフィド(PPS(A-1)」が30重量%、「不定形上粉末である金属ケイ素(C-1)」が20重量%であるから、(C-1)/(A-1)は0.67(=20/30)と算出され、この値は、本件発明1の「粉粒状無機充填剤B3の含有量が、ポリアリーレンサルファイド系樹脂Aとの質量比B3/Aとして0.20以上0.80以下」の範囲に包含される。 (オ)上記(ア)~(エ)によれば、本件発明1と甲5発明とは、 「ポリアリーレンサルファイド系樹脂A、無機充填剤Bを含み、 無機充填剤Bが、板状無機充填剤B1、繊維状無機充填剤B2、及び粉粒状無機充填剤B3を含有し、 板状無機充填剤B1の含有量が、ポリアリーレンサルファイド系樹脂Aとの質量比B1/Aとして0.20以上0.67以下であり、 繊維状無機充填剤B2の含有量が、ポリアリーレンサルファイド系樹脂Aとの質量比B2/Aとして0.53以上1.1以下であり、 粉粒状無機充填剤B3の含有量が、ポリアリーレンサルファイド系樹脂Aとの質量比B3/Aとして0.20を超え0.80以下であり、 粉粒状無機充填剤B3の平均粒子径が10μm以上である、ポリアリーレンサルファイド系樹脂組成物。」 である点で一致し、以下の点で相違する。 <相違点5> 「ポリアリーレンサルファイド系樹脂組成物」に関し、本件発明1では「ポリアリーレンサルファイド系樹脂A、無機充填剤B、及びα-オレフィン由来の構成単位とα,β-不飽和酸のグリシジルエステル由来の構成単位とを含有するオレフィン系共重合体Cからな」るのに対して、甲5発明では「α-オレフィン由来の構成単位とα,β-不飽和酸のグリシジルエステル由来の構成単位とを含有するオレフィン系共重合体C」を含まない点。 ウ 検討 上記相違点5について検討する。 (ア)甲5は、「ポリアリーレンスルフィド(A)20~50重量%、タルク、マイカ、鱗片状ガラスより選択される1種以上の板状充填剤(B)10~50重量%、金属ケイ素粉末(C)10~50重量%、及び、電気絶縁性を有する繊維状充填剤(D)10~30重量%からなり、金属ケイ素粉末(C)/(板状充填剤(B)+金属ケイ素粉末(C))=0.25~0.75(wt/wt)の範囲であることを特徴とするポリアリーレンスルフィド組成物。」(請求項1)を開示し、甲5発明である実施例13はその具体例であるところ、甲5には「ポリアリーレンスルフィド組成物」が「α-オレフィン由来の構成単位とα,β-不飽和酸のグリシジルエステル由来の構成単位とを含有するオレフィン系共重合体」を含有することについて、記載も示唆もされていない。 (イ)この点について、甲2には、「(A)ポリアリーレンサルファイド樹脂30~89重量%と、(B)α-オレフィンとα,β-不飽和酸のグリシジルエステルを主成分とするオレフィン系共重合体1~10重量%(C)粉粒状充填剤5~45重量%(D)繊維状充填剤5~50重量%を配合した樹脂組成物と金属又は無機固体とをインサート成形してなるインサート成形品。」(請求項1)が記載されている。 上記「(B)α-オレフィンとα,β-不飽和酸のグリシジルエステルを主成分とするオレフィン系共重合体」(以下「オレフィン系共重合体(B)」)という。)は本件発明1の「α-オレフィン由来の構成単位とα,β-不飽和酸のグリシジルエステル由来の構成単位とを含有するオレフィン系共重合体C」である。 そこで、甲5発明のポリアリーレンスルフィド組成物に甲2に記載されたオレフィン系共重合体(B)を配合することが容易であったかについて検討する。 甲2は上記のとおり「インサート成形品」に係るものであり、インサート成形品の長期間の高低温度変化に耐える信頼性が低いという欠点があったこと、高低温衝撃特性に優れたインサート成形品を得るべく検討をおこなったことを記載する(【0002】、【0003】)。そして、オレフィン系共重合体(B)の配合量が少ないと高低温衝撃性の改良効果が得られないことが記載され(【0009】)、実際、当該オレフィン系共重合体(B)を含まない樹脂組成物を用いたインサート成形品は高低温衝撃性が劣っていたことが実験データとして記載されている(比較例1、2、6)。 そうすると、甲2の記載に接した当業者は、甲2においてオレフィン系共重合体(B)はインサート成形品の高低温衝撃特性の向上に寄与するものであると理解する。 これに対して甲5は、ウェルド強度、曲げ強度等の機械的強度、耐熱性はもとより、熱伝導性、電気絶縁性にも優れるポリアリーレンスルフィド組成物を提供することを目的とし、さらに詳しくは、電気・電子部品又は自動車電装部品などの電気部品用途に特に有用なポリアリーレンスルフィド組成物を提供すること(【0008】)を課題としており、ポリアリーレンスルフィド組成物の成型方法にしても、「射出成形機、押出成形機、トランスファー成型機、圧縮成形機等を用いて任意の形状に成形することができる。」と記載されるにとどまり、インサート成型に関しては記載も示唆もされていないし、ましてや、インサート成形時における高低温衝撃性衝撃特性を改良することについては何ら記載も示唆もされていない。 そうであれば、甲5発明に接した当業者が甲2の記載をみても、上記のとおりインサート成形品の高低温衝撃特性の向上に寄与すると理解される甲2に開示されたオレフィン系共重合体(B)を、甲5発明のポリアリーレンスルフィド系樹脂配合することが動機付けられるとはいえない。 (ウ)さらに、その他の証拠をみても、甲5発明のポリアリーレンスルフィド組成物にα-オレフィン由来の構成単位とα,β-不飽和酸のグリシジルエステル由来の構成単位とを含有するオレフィン系共重合体を配合することが容易であったと認めるに足りる記載は見当たらない。 よって、相違点5に係る事項は当業者が容易に想到し得たものではない。 エ 申立人の主張について (ア)申立人は、甲5発明は「ウェルド強度、曲げ強度等の機械的強度、耐熱性はもとより、熱伝導性、電気絶縁性にも優れるポリアリーレンスルフィド組成物を提供する」(【0008】)ことを発明の解決課題とするものであり、甲5には、甲5発明のポリアリーレンスルフィド組成物に対して、本発明の目的を逸脱しない範囲で、ポリオレフィンを混合して使用することができると記載されている(【0033】)のに対して、甲2には、ウェルド部の靱性向上を含めた高低温衝撃性の改善のために、無機充填剤を含むポリアリーレンスルフィドに対してα-オレフィンとα,β-不飽和酸のグリシジルエステルを主成分とするオレフィン系共重合を配合することが記載されている(【0009】、【0014】)から、当業者であれば、甲5発明の樹脂組成物のウェルド強度をさらに向上させるべく、甲5発明に係る樹脂組成物に対して甲2記載のα-オレフィンとα,β-不飽和酸のグリシジルエステルを主成分とするオレフィン系共重合体を加えることを動機付けられると主張する(申立書27頁11行~28頁3行)。 しかしながら、甲5発明のポリアリーレンスルフィド組成物に甲2に記載されたオレフィン系共重合体(B)を配合することが動機付けられたといえないことは上記ウ(イ)のとおりであり、このことは、甲5に申立人の指摘する「目的を逸脱しない範囲で、ポリオレフィンを混合して使用することができる」という甲5の記載によっても何ら左右されない。 (イ)なお、申立人は、本件発明2の進歩性に関してではあるが、甲5の「本発明のポリアリーレンスルフィド組成物は、発熱性の高い半導体素子、抵抗などの封止用樹脂に特に好適である」(【0036】)なる記載の半導体素子をポリアリーレンスルフィド組成物で封止したものはインサート成形品であること、及び、甲5の【0036】には甲5発明のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物を種々の分野における種々の部品に対して用いることが記載されており、この中には当然インサート成形品も含まれると理解されることを主張する(申立書28頁7~18行)。 しかしながら、インサート成形は、金型に金具を装着した後に溶融樹脂を射出して金型周囲を被覆成形し一体化する方法(甲3の72頁参照)と理解されるのであって、半導体素子をポリアリーレンスルフィド組成物で封止したものはインサート成形品であるとの申立人の主張には根拠がない。また、甲5に、ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物を種々の分野における種々の部品に対して用いることが記載されているとしても、この中に当然インサート成形品も含まれるとの主張に何ら根拠を見いだせない。 よって、上記主張は採用できない。 オ 小括 以上のとおりであるから、本件発明1は、甲5発明及び甲1~甲10に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (2)本件発明2~4について 本件発明2~4は本件発明1を直接又は間接的に引用するものであり、(1)と同様の理由により、本件発明2~4は甲5及び甲1~10に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 第6 結び 以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1~4に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件請求項1~4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。

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2022-700193

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