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特許異議申立

2016-700037

低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物の製造方法および低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物

審判番号
2016-700037
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2015-504661
登録番号
特許第5753963号(P5753963)
請求日
2016年01月20日
審決日
2017年06月05日
公報発行日
2017年09月29日
結論
訂正認容
当事者
  • 【権利者】キユーピー株式会社
  • 【権利者代理人】永井 浩之
  • 【権利者代理人】中村 行孝
  • 【権利者代理人】反町 洋
  • 【権利者代理人】小島 一真
  • 【権利者代理人】柏 延之
  • 【権利者代理人】砂山 麗
  • 【異議申立人】日本水産 株式会社
審判長/審判官
  • 審判長 冨士 良宏
  • 審判官 原 賢一
  • 審判官 日比野 隆治
分類
P1651.536-YAA(C12P) / P1651.537-YAA(C12P) / P1651.121-YAA(C12P)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第36条第6項第2号、特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第1号、特許法第120条の5第2項、特許法第36条第4項第1号、特許法第120条の5第7項、特許法第120条の5第3項、特許法第29条
データ出所
審決公報(SGML)

事件の表示

特許第5753963号発明「低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物の製造方法および低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

【結 論】 特許第5753963号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1ないし23〕、24について訂正することを認める。 特許第5753963号の請求項1ないし3、5、7ないし20、22ないし24に係る特許を維持する。 特許第5753963号の請求項4、6、21に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。

理由

【理 由】 第1 手続の経緯等 1 本件特許異議の申立てに係る特許 本件特許異議の申立てに係る特許第5753963号は、特許権者であるキユーピー株式会社より、2014年9月26日(優先権主張 平成25年9月26日 日本国)、PCT/JP2014/075652(特願2015-504661号)として国際出願されたものであって、平成27年5月29日、発明の名称を「低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物の製造方法および低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物」、請求項の数を「24」として特許権の設定登録を受けたものである。 2 手続の経緯 これに対して、平成28年1月20日、特許異議申立人である日本水産株式会社(以下、「異議申立人」という)より特許異議の申立てがなされ、同年6月30日付けで取消理由が通知され、同年9月5日付けで特許権者より意見書及び訂正請求書が提出され、これに対し、同年10月20日付けで異議申立人より意見書が提出され、同年12月22日付けで再度、取消理由が通知され、平成29年3月13日付けで特許権者より意見書及び訂正請求書が提出され、これに対し、同年5月8日付けで異議申立人より意見書が提出されたものである。 第2 訂正の適否 1 訂正事項 上記平成29年3月13日付けの訂正請求書による訂正(以下、「本件訂正」という。)は、本件特許請求の範囲及び明細書を、上記訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲及び明細書のとおり、一群の請求項を構成する〔請求項1ないし23〕、及び一群の請求項となる関係を有する請求項のない請求項24ごとに、それぞれについて訂正することを求めるものであって、その具体的訂正事項は次のとおりである。 なお、平成28年9月5日になされた訂正の請求は、特許法第120条の5第7項の規定により、取り下げられたものとみなす。 (1)請求項1ないし23からなる一群の請求項についての訂正 ア 訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1に「リパーゼ」とあるのを、「1,3位特異リパーゼ」と訂正し、さらに、特許請求の範囲の請求項1に「前記リパーゼが固定化された固定化酵素であり、」との構成要件を付加する。 イ 訂正事項2 特許請求の範囲の請求項1に「前記原料油脂が魚油であり、」との構成要件を付加する。 ウ 訂正事項3 特許請求の範囲の請求項1に「水分含量が0.4質量%以上であり」とあるのを、「添加された水分含量が0.5質量%以上であり」と訂正する。 エ 訂正事項4 特許請求の範囲の請求項1に「前記低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物は、低級アルコール脂肪酸エステル化物を・・・質量%以下含み」とあるのを、「前記低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物は、低級アルコール脂肪酸エステル化物を低級アルコール脂肪酸エステル化物およびグリセリドの総量に対して・・・質量%以下含み」と訂正する。 オ 訂正事項5 特許請求の範囲の請求項1に「低級アルコール脂肪酸エステル化物を40質量%以上90質量%以下含み」とあるのを、「低級アルコール脂肪酸エステル化物を・・・50質量%以上90質量%以下含み」と訂正する。 カ 訂正事項6 特許請求の範囲の請求項4を削除する。 キ 訂正事項7 特許請求の範囲の請求項5に「請求項1ないし4のいずれか1項において」とあるのを、「請求項1ないし3のいずれか1項において」と訂正する。 ク 訂正事項8 特許請求の範囲の請求項6を削除する。 ケ 訂正事項9 特許請求の範囲の請求項7に「請求項1ないし6のいずれか1項において」とあるのを、「請求項1ないし3および5のいずれか1項において」と訂正する。 コ 訂正事項10 特許請求の範囲の請求項9に「前記混合物は、低級アルコール脂肪酸エステル化物を90質量%以上含み」とあるのを、「前記混合物は、低級アルコール脂肪酸エステル化物を低級アルコール脂肪酸エステル化物およびグリセリドの総量に対して90質量%以上含み」と訂正する。 サ 訂正事項11 特許請求の範囲の請求項12に「請求項7ないし11のいずれか1項において」とあるのを、「請求項7ないし9のいずれか1項において」と訂正する。 シ 訂正事項12 特許請求の範囲の請求項21を削除する。 ス 訂正事項13 特許請求の範囲の請求項22に「請求項7ないし12および18ないし20のいずれか1項に記載の製造方法」とあるのを、「請求項7ないし12、18、および19のいずれか1項に記載の製造方法」と訂正し、「請求項13ないし17および21に記載の低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物」とあるのを、「請求項13ないし17に記載の低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物」と訂正する。 セ 訂正事項14 特許請求の範囲の請求項23に「請求項7ないし12および18ないし20のいずれか1項に記載の製造方法」とあるのを、「請求項7ないし12、18、および19のいずれか1項に記載の製造方法」と訂正し、「請求項13ないし17および21に記載の低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物」とあるのを、「請求項13ないし17に記載の低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物」と訂正する。 ソ 訂正事項15 特許請求の範囲の請求項13に「EPA含有グリセリドおよびDHAグリセリドを含有する原料油脂を1,3位特異リパーゼを用いて処理して得られた、低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物であって、前記原料油脂が魚油であり、前記原料油脂の酸価が0以上2.5以下であり、前記リパーゼが固定化された固定化酵素であり、」との構成要件を付加する。 タ 訂正事項16 特許請求の範囲の請求項13に「低級アルコール脂肪酸エステル化物を・・・質量%以下含み」とあるのを、「低級アルコール脂肪酸エステル化物を低級アルコール脂肪酸エステル化物およびグリセリドの総量に対して・・・質量%以下含み」と訂正する。 チ 訂正事項17 特許請求の範囲の請求項13に「低級アルコール脂肪酸エステル化物を40質量%以上90質量%以下含み」とあるのを、「低級アルコール脂肪酸エステル化物を・・・50質量%以上90質量%以下含み」と訂正する。 ツ 訂正事項18 特許請求の範囲の請求項13に「酸価」とあるのを、「前記低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物の酸価」と訂正する。 テ 訂正事項19 特許請求の範囲の請求項15に「EPA含有グリセリドおよびDHAグリセリドを含有する原料油脂を1,3位特異リパーゼを用いて処理し、さらに蒸留して得られた、低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物であって、前記原料油脂が魚油であり、前記原料油脂の酸価が0以上2.5以下であり、前記リパーゼが固定化された固定化酵素であり、」との構成要件を付加する。 ト 訂正事項20 特許請求の範囲の請求項15に「低級アルコール脂肪酸エステル化物を90質量%以上含み」とあるのを、「低級アルコール脂肪酸エステル化物を低級アルコール脂肪酸エステル化物およびグリセリドの総量に対して90質量%以下含み」と訂正する。 ナ 訂正事項21 特許請求の範囲の請求項15に「酸価」とあるのを、「前記低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物の酸価」と訂正する。 (2)請求項24についての訂正 ア 訂正事項22 特許請求の範囲の請求項24に「リパーゼ」とあるのを、「1,3位特異リパーゼ」と訂正する。 イ 訂正事項23 特許請求の範囲の請求項24に「前記原料油脂が魚油であり、」との構成要件を付加する。 ウ 訂正事項24 特許請求の範囲の請求項24に「水分含量が0.4質量%以上であり」とあるのを、「添加された水分含量が0.5質量%以上であり」と訂正する。 エ 訂正事項25 特許請求の範囲の請求項24に「前記低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物は、低級アルコール脂肪酸エステル化物を・・・質量%以下含み」とあるのを、「前記低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物は、低級アルコール脂肪酸エステル化物を低級アルコール脂肪酸エステル化物およびグリセリドの総量に対して・・・質量%以下含み」と訂正する。 オ 訂正事項26 特許請求の範囲の請求項24に「低級アルコール脂肪酸エステル化物を40質量%以上90質量%以下含み」とあるのを、「低級アルコール脂肪酸エステル化物を・・・50質量%以上90質量%以下含み」と訂正する。 (3)明細書についての訂正 ア 訂正事項27 明細書の段落【0072】に「公益社団法人日本油化学会制定の基準油脂分析試験法(日本油化学会規格試験法委員会編、基準油脂分析試験法・・・:日本油化学会制定、2013年版、1.5 抽出油の酸価)」とあるのを、「公益社団法人日本油化学会制定の基準油脂分析試験法(日本油化学会規格試験法委員会編、基準油脂分析試験法・・・:日本油化学会制定、2013年版、1.6 抽出油の酸価)」と訂正する。 2 訂正の目的の適否、新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否 (1)請求項1ないし23からなる一群の請求項についての訂正 ア 訂正事項1について (ア)上記訂正事項1は、訂正前の請求項1において、「リパーゼ」に関し、何らの特定がなされていなかったものを、「1,3位特異リパーゼ」でありかつ「固定化された固定化酵素」であるものに限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 (イ)上記(ア)で述べたように、上記訂正事項1は、訂正前の請求項1の「リパーゼ」を下位概念に限定するものであるから、カテゴリーや対象、目的を変更するものには、該当しない。 (ウ)上記訂正事項1に係る「リパーゼ」が、「1,3位特異リパーゼ」でありかつ「固定化された固定化酵素」であることは、願書に添付した特許請求の範囲の請求項4及び6の記載に基づくものであるから、上記訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。 イ 訂正事項2について (ア)上記訂正事項2は、訂正前の請求項1において、「原料油脂」に関し、その種類が特定されていなかったものを、「魚油」に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 (イ)上記(ア)で述べたように、上記訂正事項2は、訂正前の請求項1の「原料油脂」を下位概念に限定するものであるから、カテゴリーや対象、目的を変更するものには、該当しない。 (ウ)上記訂正事項2に係る「原料油脂」が、「魚油」であることは、願書に添付した明細書(以下、「特許明細書」ということがある。)の段落【0049】の「原料油脂としては、例えば、魚油・・・が挙げられる」等の記載に基づくものであるから、上記訂正事項2は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。 ウ 訂正事項3について (ア)上記訂正事項3は、訂正前の請求項1において、「反応液中における水分」に関し、その水分の由来を「添加された水分」に限定すると共に、その水分量の数値範囲を、水分量の下限である「0.4質量%」を「0.5質量%」としてより狭い範囲に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 (イ)上記(ア)で述べたように、上記訂正事項3は、訂正前の請求項1の反応液中における「水分」を「添加された水分」に限定するものであると共に、その水分量の範囲をより狭い範囲に限定するものであるから、カテゴリーや対象、目的を変更するものには、該当しない。 (ウ)上記訂正事項3に係る「反応液中における水分」の「水分」が、「添加された水分」であることは、特許明細書の段落【0062】の「なお、水は、反応液中に逐次的に添加してもよいし、連続して添加してもよいし、または一括して添加してもよい。」等の記載に基づくものであり、水分量の数値範囲の下限が「0.5質量%」であることは、同段落【0061】の「前記酵素処理の反応液中における水分含量は、0.5質量%以上であることが好ましく・・・であることができる。」等の記載に基づくものであるから、上記訂正事項3は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。 エ 訂正事項4について (ア)上記訂正事項4は、訂正前の請求項1での「低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物」に含まれる「低級アルコール脂肪酸エステル化物」の含有量(40質量%以上90質量%以下)が、「低級アルコール脂肪酸エステル化物およびグリセリドの総量」に対するものであることを明確するものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。 (イ)上記(ア)で述べたように、上記訂正事項4は、訂正前の請求項1で特定されていた「低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物」に含まれる「低級アルコール脂肪酸エステル化物」の含有量の基準を明確にするものであって、次の(ウ)で述べるように、「低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物」に含まれる「低級アルコール脂肪酸エステル化物」の含有量が、「低級アルコール脂肪酸エステル化物およびグリセリドの総量」に対するものであることは、特許明細書の記載及び技術的な常識を考慮すれば、特許明細書に記載されているに等しい事項であるといえるから、この訂正は、発明の内容を実質的に変更するものには該当しない。 (ウ)上記訂正事項4が、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるか否かにつて、検討するに、特許明細書の段落【0084】及び【0085】には、酵素処理(リパーゼを用いた処理)で得られた「低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物」に関して、以下の記載がある。 「【0084】 <分子蒸留> 次に、本実施形態に係る製造方法では、酵素処理(リパーゼを用いた処理)(図1のステップS1)で得られた、低級アルコールEPAエステル化物を含む低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物を蒸留する工程(いわゆる、分子蒸留(一次蒸留)、図1のステップS2)をさらに含むことができる。 【0085】 分子蒸留(molecular distillation)は、高真空度下で行われる蒸留である。分子蒸留工程により、低級アルコールEPAエステル化物および低級アルコールDHAエステル化物を含む低級アルコール脂肪酸エステル化物の混合物と、該混合物以外の成分(低級アルコール脂肪酸エステル化物以外の脂肪酸モノグリセリド、脂肪酸ジグリセリドおよび脂肪酸トリグリセリド)とを分離することができる。なお、前記混合物以外の脂肪酸モノグリセリド、脂肪酸ジグリセリドおよび脂肪酸トリグリセリドを利用して、低級アルコールの存在下で再度エステル化することにより、低級アルコールDHAエステル化物を得ることもできる。」 これらの記載によれば、訂正前の請求項1の「低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物」についての記載である同段落【0084】の「低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物」は、蒸留して分離されるべき成分を含み、同段落【0085】の記載によれば、その成分は、「低級アルコールEPAエステル化物および低級アルコールDHAエステル化物を含む低級アルコール脂肪酸エステル化物の混合物」以外の成分であって、脂肪酸モノグリセリド、脂肪酸ジグリセリドおよび脂肪酸トリグリセリド(グリセリド)を主に含むものであることが理解できるから、「低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物」は、エステル化物としては、「低級アルコール脂肪酸エステル化物」と「グリセリド」とからなるものであり、これらを主成分とするものであることが理解できる。 ここで、この「低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物」は、原料油脂である魚油に水や低級アルコールを添加し酵素処理したものであるから、上記の主要な成分以外に、組成物中には、反応により生じた遊離脂肪酸、グリセリン、添加した水や低級アルコール、及び不純物等が含まれ得ることになる。 そして、訂正前の請求項1の「低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物」に含まれる低級アルコール脂肪酸エステル化物の「40質量%以上90質量%以下」という含有量に関し、この含有量が、低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物に含まれるどの成分を基準としているかであるが、上述のとおり、該組成物中に含まれるエステル化物は、「低級アルコール脂肪酸エステル化物」と「グリセリド」とであることは明らかである。 一方、上記のその他の成分であるが、任意に添加量を変えることができる「水」や「低級アルコール」、及び不純物等までを「低級アルコール脂肪酸エステル化物」の含有量の基準に加えるとすれば、その含有量の範囲は一義的なものではなくなり、技術的な合理性を欠くものとなる。 さらに、特許異議申立書で提出された甲第2号証(特許第4236128号公報)の第10頁左欄第13行~第36行に記載されるように、「魚油」を特定のリパーゼにより処理したものは、HPLC装置で、第10頁の表Iに示されるようにEE((脂肪酸の)エチルエステル)、TG(トリグリセリド)/MG(モノグリセリド)/DG(ジグリセリド)の画分として、それぞれ分離、量の同定が可能であることは技術的な常識であるといえる。 そして、上記の第10頁の表Iの記載によれば、各リパーゼによる反応において、訂正前の請求項1の低級アルコール脂肪酸エステル化物に対応する「EE」の含有量を、それぞれ量が同定された「EE」と「MG/DG/TG」の合計を100重量%として表すことも、技術的な常識であるといえる。 これらの事項を踏まえると、訂正前の請求項1の「低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物」に含まれる「低級アルコール脂肪酸エステル化物」の含有量(40質量%以上90質量%以下)が、「低級アルコール脂肪酸エステル化物およびグリセリドの総量」に対するものであることは、特許明細書に記載されていたに等しい事項であるといえる。 そうすると、上記訂正事項4は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。 オ 訂正事項5について (ア)上記訂正事項5は、訂正前の請求項1の「低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物」に含まれる「低級アルコール脂肪酸エステル化物」の含有量の範囲を、下限である「40質量%」を「50質量%」としてより狭い範囲に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 (イ)上記(ア)で述べたように、上記訂正事項5は、訂正前の請求項1の「低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物」に含まれる「低級アルコール脂肪酸エステル化物」の含有量の範囲をより狭い範囲に限定するものであるから、カテゴリーや対象、目的を変更するものには、該当しない。 (ウ)上記訂正事項5に係る「低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物」に含まれる「低級アルコール脂肪酸エステル化物」の含有量の範囲の下限が「50質量%」であることは、特許明細書の段落【0083】の「より具体的には、酵素処理で得られた低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物は、低級アルコール脂肪酸エステル化物を40質量%以上90質量%以下(より具体的には、50質量%以上80質量%以下)含み・・・のモル比率で含むことができる。」等の記載に基づくものであるから、上記訂正事項5は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。 カ 訂正事項6について 上記訂正事項6は、請求項4を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであると共に、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、かつ実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではないことは明らかである。 キ 訂正事項7について 上記訂正事項7は、請求項4の削除に伴い、請求項5が引用する請求項を、「請求項1ないし4」から「請求項1ないし3」とするものであり、請求項4が引用する請求項数を減少させるものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであると共に、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、かつ実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではないことは明らかである。 ク 訂正事項8について 上記訂正事項8は、請求項6を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであると共に、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、かつ実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではないことは明らかである。 ケ 訂正事項9について 上記訂正事項9は、請求項4及び6の削除に伴い、請求項7が引用する請求項を、「請求項1ないし6」から「請求項1ないし3および5」とするものであり、請求項7が引用する請求項数を減少させるものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであると共に、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、かつ実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではないことは明らかである。 コ 訂正事項10について (ア)上記訂正事項10は、訂正前の請求項9での「混合物」に含まれる「低級アルコール脂肪酸エステル化物」の含有量(90質量%以上)が、「低級アルコール脂肪酸エステル化物およびグリセリドの総量」に対するものであることを明確するものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。 (イ)上記(ア)で述べたように、上記訂正事項10は、訂正前の請求項9で特定されていた「混合物」に含まれる「低級アルコール脂肪酸エステル化物」の含有量の基準を明確にするものであって、次の(ウ)で述べるように、「混合物」に含まれる「低級アルコール脂肪酸エステル化物」の含有量が、「低級アルコール脂肪酸エステル化物およびグリセリドの総量」に対するものであることは、特許明細書の記載及び技術的な常識を考慮すれば、特許明細書に記載されているに等しい事項であるといえるから、これを明らかにする訂正は、発明の内容を実質的に変更するものには該当しない。 (ウ)訂正前の請求項9は、「低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物」の製造方法であるところ、この請求項9で製造されているものは「混合物」であるから、請求項9の「混合物」とは、「低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物」に相当するものである。 そうすると、「低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物」における「低級アルコール脂肪酸エステル化物」の含有量が、「低級アルコール脂肪酸エステル化物およびグリセリドの総量」に対するものであることは、上記「エ 訂正事項4について」で述べたように、特許明細書に記載されているに等しい事項であるといえるから、上記訂正事項10は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。 サ 訂正事項11について 上記訂正事項11は、請求項12が引用する請求項を、「請求項7ないし11」から「請求項7ないし9」とするものであり、請求項12が引用する請求項数を減少させるものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるといえると共に、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、かつ実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではないことは明らかである。 シ 訂正事項12について 上記訂正事項12は、請求項21を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであると共に、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、かつ実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではないことは明らかである。 ス 訂正事項13について 上記訂正事項13は、請求項22が引用する請求項を、「請求項7ないし12および18ないし20」及び「請求項13ないし17および21」から、それぞれ、「請求項7ないし12、18、および19」及び「請求項13ないし17」とするものであり、請求項22が引用する請求項数を減少させるものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるといえると共に、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、かつ実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではないことは明らかである。 セ 訂正事項14について 上記訂正事項14は、請求項23が引用する請求項を、「請求項7ないし12および18ないし20」及び「請求項13ないし17および21」から、それぞれ、「請求項7ないし12、18、および19」及び「請求項13ないし17」とするものであり、請求項23が引用する請求項数を減少させるものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるといえるとともに、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、かつ実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではないことは明らかである。 ソ 訂正事項15について (ア)上記訂正事項15は、訂正前の請求項13の「低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物」に対して、「EPA含有グリセリドおよびDHAグリセリドを含有する原料油脂を1,3位特異リパーゼを用いて処理して得られた、低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物であって、前記原料油脂が魚油であり、前記原料油脂の酸価が0以上2.5以下であり、前記リパーゼが固定化された固定化酵素であ」るものとの特定を付すものである。 上記の製造方法により製造された「物」に特定されることにより、訂正前の請求項13の「低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物」は、主要な成分であり訂正前の請求項13にて特定されていた「低級アルコール脂肪酸エステル化物」、「低級アルコールEPAエステル化物」及び「低級アルコールDHAエステル化物」に加え、多様な成分及び不純物を含む天然由来原料である魚油を酵素分解処理することにより生じる他の生成物、未反応物及び不純物等多様な成分が含まれるものに限定されることになるから、上記訂正事項15は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 (イ)上記(ア)で述べたように、上記訂正事項15は、訂正前の請求項13の「低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物」をさらに限定するものであるあるから、カテゴリーや対象、目的を変更するものには、該当しない。 (ウ)訂正前の請求項13の「低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物」が、訂正事項15に係る製造方法により製造されたものであることは、訂正前の特許請求の範囲の請求項1、4及び6の記載から導き出せる事項であるから、上記訂正事項15は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。 タ 訂正事項16について 上記訂正事項16は、訂正前の請求項13での「低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物」に含まれる「低級アルコール脂肪酸エステル化物」の含有量が、「低級アルコール脂肪酸エステル化物およびグリセリドの総量」に対するものであることを明確するものであるから、上記「エ 訂正事項4について」で述べたのと同様に、上記訂正事項16は、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであるといえると共に、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、かつ実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。 チ 訂正事項17について 上記訂正事項17は、訂正前の請求項13の「低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物」に含まれる「低級アルコール脂肪酸エステル化物」の含有量の範囲を、下限の「40質量%」を「50質量%」とするものであるから、上記「オ 訂正事項5について」で述べたのと同様に、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるといえると共に、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、かつ実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。 ツ 訂正事項18について 上記訂正事項18は、訂正前の請求項13の2以上12以下という「酸価」が、「低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物」の「酸価」であることを明らかにするものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。 また、訂正前の請求項13の「低級アルコール脂肪酸エステル化物を40質量%以上90質量%以下含み、 酸価が2以上12以下であり、 前記低級アルコール脂肪酸エステル化物は、低級アルコールEPAエステル化物および低級アルコールDHAエステル化物を以下のモル比率で含む、低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物。」との記載によれば、この2以上12以下という「酸価」が、「低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物」の酸価を意味していることは明らかであるから、上記訂正事項18は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、かつ実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。 テ 訂正事項19について (ア)上記訂正事項19は、訂正前の請求項15の「低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物」に対して、「EPA含有グリセリドおよびDHAグリセリドを含有する原料油脂を1,3位特異リパーゼを用いて処理し、さらに蒸留して得られた、低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物であって、前記原料油脂が魚油であり、前記原料油脂の酸価が0以上2.5以下であり、前記リパーゼが固定化された固定化酵素であ」るものとの特定を付すものである。 この訂正は、上記「ソ 訂正事項15」で付された特定に、さらに「蒸留して得られた」との特定を加えたものであるが、「蒸留して得られた」ものであっても、「低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物」は、主要な成分であり訂正前の請求項15にて特定されていた「低級アルコール脂肪酸エステル化物」、「低級アルコールEPAエステル化物」及び「低級アルコールDHAエステル化物」に加え、酵素分解処理することにより生じる他の生成物、未反応物及び不純物等多様な成分が含まれるものに限定されることになるから、上記訂正事項19は、上記「ソ 訂正事項15」で述べたのと同様に、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるといえると共に、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、かつ実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。 ト 訂正事項20について 上記訂正事項20は、訂正前の請求項15での「低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物」に含まれる「低級アルコール脂肪酸エステル化物」の含有量が、「低級アルコール脂肪酸エステル化物およびグリセリドの総量」に対するものであることを明確するものであるから、上記「エ 訂正事項4について」で述べたのと同様に、上記訂正事項20は、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであるといえると共に、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、かつ実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。 ナ 訂正事項21について 上記訂正事項21は、訂正前の請求項15の「酸価」が、「低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物」の「酸価」であることを明らかにするものであるから、上記「ツ 訂正事項18について」で述べたのと同様に、上記訂正事項21は、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであるといえると共に、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、かつ実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。 (2)請求項24についての訂正 ア 訂正事項22について 上記訂正事項22は、訂正前の請求項24の「リパーゼ」を、「1,3位特異リパーゼ」に限定するものであるから、上記「ア 訂正事項1について」で述べたのと同様に、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるといえると共に、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、かつ実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。 イ 訂正事項23、24、26について 上記訂正事項23、24、26は、それぞれ上記訂正事項2、3及び5と同じであるから、上記「イ 訂正事項2について」、上記「ウ 訂正事項3について」及び上記「オ 訂正事項5について」で述べたのと同様に、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるといえると共に、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、かつ実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。 ウ 訂正事項25について 上記訂正事項25は、上記訂正事項4と同じであるから、上記「エ 訂正事項4について」で述べたのと同様に、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであるといえると共に、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、かつ実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。 (3)請求項〔1ないし23〕、24についての訂正のまとめ よって、上記訂正事項1ないし3、5ないし9、11ないし15、17、19、22ないし24、26は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるといえるとともに、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、かつ実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではないから、同法同条第9項において準用する同法第126条5項及び第6項の規定に適合するものといえる。 また、上記訂正事項4、10、16、18、20、21、25は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものであるといえるとともに、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、かつ実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではないから、同法同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものといえる。 (4)明細書についての訂正 ア 訂正事項27について 訂正前の明細書の段落【0072】の「公益社団法人日本油化学会制定の基準油脂分析試験法(日本油化学会規格試験法委員会編、基準油脂分析試験法・・・:日本油化学会 制定、2013年版、1.5 抽出油の酸価)」の「1.5」との記載は、異議申立人より甲第5号証として提出された「公益社団法人日本油化学会制定の基準油脂分析試験法(日本油化学会規格試験法委員会編、基準油脂分析試験法)」の第1頁の表題に「1.6-2013 抽出油の酸価」と記載されているように、「1.6」の誤記であることは明らかであるから、上記訂正事項27は、誤記の訂正を目的とするものである。 そうすると、上記訂正事項27は、特許法第120条の5第2項ただし書第2号に掲げる誤記の訂正を目的とするものであるといえるとともに、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、かつ実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではないから、同法同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものといえる。 3 小括 上記「2」のとおり、本件訂正は、特許法第120条の5第3項及び第4項並びに同条第9項において準用する同法第126条第4項の規定に従い、一群の請求項を構成する請求項〔1ないし23〕、及び一群の請求項となる関係を有する請求項のない請求項24ごとに、それぞれについて訂正することを求めるものであり、それらの訂正事項はいずれも、特許法第120条の5第2項ただし書第1号ないし第3号に掲げる事項を目的とするものに該当し、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1ないし23〕、24について訂正することを認める。 第3 本件発明 上記「第2」のとおり、本件訂正は認容し得るものであるから、本件訂正後の請求項1ないし24に係る発明(以下、請求項1に係る発明を項番に対応して「本件発明1」、「本件発明1」に係る特許を「本件特許1」などといい、併せて「本件発明」、「本件特許」ということがある。)は、次のとおりである。 「【請求項1】 EPA含有グリセリドおよびDHAグリセリドを含有する原料油脂を、1,3位特異リパーゼを用いて処理して、低級アルコールEPAエステル化物および低級アルコールDHAエステル化物を含む低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物を得る工程を含み、 前記原料油脂が魚油であり、 前記原料油脂の酸価が0以上2.5以下であり、 前記リパーゼが固定化された固定化酵素であり、 前記処理の反応液中における添加された水分含量が0.5質量%以上であり、 前記反応液の酸価が2以上12以下であり、 前記低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物は、低級アルコール脂肪酸エステル化物を低級アルコール脂肪酸エステル化物およびグリセリドの総量に対して50質量%以上90質量%以下含み、 前記低級アルコール脂肪酸エステル化物における、前記低級アルコールDHAエステル化物に対する前記低級アルコールEPAエステル化物のモル比率(低級アルコールEPAエステル化物/低級アルコールDHAエステル化物)が3.0以上30以下である、 低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物の製造方法。 【請求項2】 請求項1において、 前記処理の反応液は、前記原料油脂9.5質量部に対して0.1質量部以上2.5質量部以下の低級アルコールをさらに含む、低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物の製造方法。 【請求項3】 請求項2において、 前記処理において、前記処理の反応液に前記低級アルコールを連続的にまたは段階的に添加する、低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物の製造方法。 【請求項4】(削除) 【請求項5】 請求項1ないし3のいずれか1項において、 前記処理において、前記固定化酵素は粒子状である、低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物の製造方法。 【請求項6】(削除) 【請求項7】 請求項1ないし3および5のいずれか1項において、 前記低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物を蒸留して、前記低級アルコールEPAエステル化物および前記低級アルコールDHAエステル化物を含む低級アルコール脂肪酸エステル化物の混合物と、該混合物以外の成分とを分離する工程をさらに含む、低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物の製造方法。 【請求項8】 請求項7において、 前記混合物のFT-IRスペクトル解析において、1736cm-1付近に現れるピークの強度に対する、966cm-1付近に現れるピークの強度の比が0.075以下である、低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物の製造方法。 【請求項9】 請求項7または8において、 前記混合物は、低級アルコール脂肪酸エステル化物を低級アルコール脂肪酸エステル化物およびグリセリドの総量に対して90質量%以上含み 前記低級アルコール脂肪酸エステル化物は、低級アルコールEPAエステル化物および低級アルコールDHAエステル化物を以下のモル比率で含む、低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物の製造方法。 3.0≦(低級アルコールEPAエステル化物/低級アルコールDHAエステル化物)≦30 【請求項10】 請求項7ないし9のいずれか1項において、 前記混合物を銀塩の水溶液と接触させる工程を含む、低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物の製造方法。 【請求項11】 請求項10において、 前記銀塩の水溶液と接触させた後の前記混合物を蒸留して、前記低級アルコールEPAエステル化物以外の低級アルコール脂肪酸エステル化物を分離することにより、前記低級アルコールEPAエステル化物を得る工程をさらに含む、低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物の製造方法。 【請求項12】 請求項7ないし9のいずれか1項において、 前記混合物を蒸留して、前記低級アルコールEPAエステル化物以外の低級アルコール脂肪酸エステル化物を分離することにより、前記低級アルコールEPAエステル化物を得る工程をさらに含む、低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物の製造方法。 【請求項13】 EPA含有グリセリドおよびDHAグリセリドを含有する原料油脂を1,3位特異リパーゼを用いて処理して得られた、低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物であって、 前記原料油脂が魚油であり、 前記原料油脂の酸価が0以上2.5以下であり、 前記リパーゼが固定化された固定化酵素であり、 低級アルコール脂肪酸エステル化物を低級アルコール脂肪酸エステル化物およびグリセリドの総量に対して50質量%以上90質量%以下含み、 前記低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物の酸価が2以上12以下であり、 前記低級アルコール脂肪酸エステル化物は、低級アルコールEPAエステル化物および低級アルコールDHAエステル化物を以下のモル比率で含む、低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物。 3.0≦(低級アルコールEPAエステル化物/低級アルコールDHAエステル化物)≦30 【請求項14】 請求項13において、 FT-IRスペクトル解析において、1736cm-1付近に現れるピークの強度に対する、966cm-1付近に現れるピークの強度の比が0.15以下である、低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物。 【請求項15】 EPA含有グリセリドおよびDHAグリセリドを含有する原料油脂を1,3位特異リパーゼを用いて処理し、さらに蒸留して得られた、低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物であって、 前記原料油脂が魚油であり、 前記原料油脂の酸価が0以上2.5以下であり、 前記リパーゼが固定化された固定化酵素であり、 低級アルコール脂肪酸エステル化物を低級アルコール脂肪酸エステル化物およびグリセリドの総量に対して90質量%以上含み、 前記低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物の酸価が2以上12以下であり、 前記低級アルコール脂肪酸エステル化物は、低級アルコールEPAエステル化物および低級アルコールDHAエステル化物を以下のモル比率で含む、低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物。 3.0≦(低級アルコールEPAエステル化物/低級アルコールDHAエステル化物)≦30 【請求項16】 請求項15において、 FT-IRスペクトル解析において、1736cm-1付近に現れるピークの強度に対する、966cm-1付近に現れるピークの強度の比が0.075以下である、低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物。 【請求項17】 請求項13ないし16のいずれか1項において、 酸価が2以上5未満である、低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物。 【請求項18】 請求項13または14に記載の低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物を蒸留して、請求項15または16に記載の低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物と、前記組成物以外の成分とを分離する工程を含む、低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物の製造方法。 【請求項19】 請求項15又は16に記載の低級アルコール脂肪酸エステル化物含有物を銀塩の水溶液で接触させる工程を含む、低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物の製造方法。 【請求項20】 請求項15ないし17のいずれか1項に記載の低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物を蒸留して、前記低級アルコールEPAエステル化物以外の低級アルコール脂肪酸エステル化物を分離することにより、前記低級アルコールEPAエステル化物を得る工程を含む、 低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物の製造方法。 【請求項21】(削除) 【請求項22】 請求項7ないし12、18、および19のいずれか1項に記載の製造方法により得られた低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物、及び請求項13ないし17に記載の低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物から選ばれる少なくとも1種を使用して食品組成物を得る工程を含む、食品組成物の製造方法。 【請求項23】 請求項7ないし12、18、および19のいずれか1項に記載の製造方法により得られた低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物、及び請求項13ないし17に記載の低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物から選ばれる少なくとも1種を使用してカプセル剤を得る工程を含む、カプセル剤の製造方法。 【請求項24】 EPA含有グリセリドを含有する原料油脂を、1,3位特異リパーゼを用いて処理して、低級アルコールEPAエステル化物を含む低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物を得る処理において、 前記原料油脂が魚油であり、 前記原料油脂の酸価が0以上2.5以下であり、 前記リパーゼが固定化された固定化酵素であり、 前記処理の反応液中における添加された水分含量が0.5質量%以上であり、 前記反応液の酸価が2以上12以下であり、 前記低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物は、低級アルコール脂肪酸エステル化物を低級アルコール脂肪酸エステル化物およびグリセリドの総量に対して50質量%以上90質量%以下含み、 前記低級アルコール脂肪酸エステル化物における、前記低級アルコールDHAエステル化物に対する前記低級アルコールEPAエステル化物のモル比率(低級アルコールEPAエステル化物/低級アルコールDHAエステル化物)が3.0以上30以下であり、 前記処理後の固定化酵素を繰り返し使用する方法。」 第4 平成28年12月22日付けで通知した取消理由、及びこの取消理由通知において採用しなかった特許異議の申立理由(以下、「申立理由」という。)の概要 1 取消理由の概要 請求項1ないし3、5、7ないし20、22ないし24(請求項1ないし3、5、7ないし20、22ないし24に係る特許)(当審注:取り下げられたものと見なされた平成28年9月5日付け訂正請求書に添付された特許請求の範囲に記載された請求項。以下、「第2」と区別して「先の請求項」という。)に対して平成28年12月22日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。 (1)特許法第36条第6項第1号 先の請求項1ないし3、5、7ないし20、22ないし24に係る発明が、発明の詳細な説明に記載したものでなく、先の請求項1ないし3、5、7ないし20、22ないし24に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである(以下、「取消理由1」という。)。 (2)特許法第36条第6項第2号 先の請求項1ないし3、5、7ないし20、22ないし24に係る発明が、明確でなく、先の請求項1ないし3、5、7ないし20、22ないし24に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである(以下、「取消理由2」という。)。 (3)特許法第29条第2項 先の請求項13ないし20、22、23に係る発明は、下記刊行物1(甲第2号証)に記載された発明及び刊行物2ないし4に記載される周知の技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、先の請求項13ないし20、22、23に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである(以下、「取消理由3」という。)。 記 刊行物1:特許第4236128号公報(特許異議申立で提出された甲第2号証) 刊行物2:特開平4-159398号公報 刊行物3:特開平4-243849号公報 刊行物4:特開2010-64974号公報 2 平成28年12月22日付けで通知した取消理由に採用しなかった申立理由の概要 (1)特許法第36条第6項第2号(特許異議申立書第7頁第26行~第9頁第6行参照。) 特許された請求項1ないし24に係る発明が、明確でなく、請求項1ないし24に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである(以下、「申立理由1」という。)。 (2)特許法第36条第4項第1号及び第6項第2号(特許異議申立書第9頁第7行~第21頁第19行参照。) 本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載には不備があり、請求項1ないし12、18ないし20、22ないし24(方法の発明)に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであると共に、特許された請求項1ないし12、18ないし20、22ないし24に係る発明が、発明の詳細な説明に記載したものでなく、請求項1ないし12、18ないし20、22ないし24に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである(以下、「申立理由2」という。)。 (3)特許異議申立てで提出された証拠 甲第1号証:Enzyme Microb.Technol.,1993,vol.15,July p601-606(部分訳文が添付されている。) 甲第2号証:特許第4236128号公報 甲第3号証:特許第5204776号公報 甲第4号証:水産ハンドブック、2012年6月10日発行、第450、451頁 甲第5号証:基準油脂分析試験法、2013年版、1.6 甲第6号証:第16改正日本薬局方、平成23年4月1日、第394、395頁 甲第7号証:Enzyme and Microbial Technology 26(2000)p516~p529 甲第8号証:Ecology of Food and Nutrition,44(2005)p23~p35 第5 当審の判断 1 取消理由1(特許法第36条第6項第1号)について (1)先の請求項1ないし3、5、7ないし12、22ないし24に係る発明に対して通知した取消理由1について 先の請求項1ないし3、5、7ないし12、22ないし24に係る発明に対して、通知した取消理由1は、要するに以下のものである。 『本件発明は、本件明細書の段落【0006】の記載によれば、「簡便な方法にて、純度が高い低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物を効率良く得ることができる低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物の製造方法および低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物を提供する」ことを発明の課題とするものである。 ここで、本件発明1は、「製造方法」の発明であるところ、本件発明1での製造方法としての具体的手段は、「固定化された固定化酵素である1,3位特異リパーゼを用いる」ということだけであるが、リパーゼを用いた処理で、本件発明1で特定されている処理後の反応液や低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物に関する条件を満たすことが、実際、確認されているのは「サーモマイセス・ラヌギノーゼ(Thermomyces lanuginose)」(段落【0153】)及び「リパーゼFAP-15」(Rhizopus sp.)(段落【0179】)のみである。 そして、単に1,3位特異リパーゼといっても、反応性や、反応特異性が異なることは、技術的な常識であり、単に1,3位特異リパーゼであるだけで、本件発明1で特定されている処理後の反応液や低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物に関する規定を満たすことができるとはいえないし、リパーゼによる反応の条件によっても、処理後の反応液や低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物の組成は変化するといえるから、本件発明は、1,3位特異リパーゼ及び本件発明1に特定される反応条件「以外」の反応条件に関し、上記の発明の課題を解決するための特定がなされていないと言わざるを得ない。 そうすると、「1,3位特異リパーゼ」及び「リパーゼによる反応の条件」に関し、本件発明1等は、本件の発明の詳細な説明に記載される発明の課題を解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものである。』 まず、1,3位特異リパーゼに関し検討するに、この理由に対し、本件訂正で、本件発明1等で、原料油脂が「魚油」であることが特定された。ここで、「1,3位特異リパーゼ」とは、本件明細書の段落【0058】の記載によれば、グリセリドの1,3位に特異的に作用するリパーゼであるといえるところ、「魚油」は、同段落【0047】の記載によれば、EPA及びDHA等の脂肪酸を構成脂肪酸とするグリセリン脂肪酸エステルを含むものであって、特許権者が、提出した乙第1号証の段落【0003】の「EPAやDHAを含有する油としては海産動物油、特にマグロ、カツオ、イワシ、サバ、サンマ、アジ、イカ、タラ、アザラシ等に含まれる油が挙げられる。マグロ油を例にとってトリアシルグリセロール(トリグリセリドと言う場合もある)の分子種分布を調べると、EPAはトリアシルグリセロールの1,2,3位にほぼ均等に存在しているのに対し、DHAは2位に多く存在する。」の記載によれば、海産動物油(魚油)では、EPAがトリアシルグリセロールの1,2,3位にほぼ均等に存在しているのに対し、DHAは2位に多く存在するものである。これにより、この魚油を、その種類に限定されることなく1,3位特異リパーゼを用いて低級アルコールでのエステル化を行えば、低級アルコールDHAエステル化物に対し低級アルコールEPAエステル化物を相対的に多く得ることができることが理解できる。 また、本件発明は、本件発明1に「反応液中における添加された水分含量が0.5質量%以上」と特定されるように酵素処理の反応液に積極的に「水」を添加することにより、同段落【0036】の記載によれば、酵素の安定性が高められる結果、酵素の繰り返し使用が可能になり、かつ、酵素反応により生じるグリセリンを水中に誘導させることで、グリセリンが油中で固まるのを防止し、酵素反応を円滑に進行させることができること、また、同段落【0076】の記載によれば、原料油脂が加水分解されて遊離脂肪酸が生成する結果、該反応液中の遊離脂肪酸の濃度が高くなる(該反応液の酸価が高くなる)ため、酵素安定性が高められるが、この作用機序は、特に、1,3位特異リパーゼの種類に限定されるものではないことが理解できる。 そして、同段落【0153】~【0170】【表1】に記載される水分含量を0.5質量%~50質量%まで変化させた条件で1,3位特異リパーゼである「サーモマイセス・ラヌギノーゼ(Thermomyces lanuginose)」(段落【0153】)を用いて酵素反応を行った実施例1~8で、本件発明1の「低級アルコール脂肪酸エステル化物」の含有量、「低級アルコールDHAエステル化物に対する低級アルコールEPAエステル化物のモル比率」が本件発明1の範囲を満足すること、実施例1では、酸価が本件発明1の範囲を満足することが示されているところ、特許権者が、提出した乙第3号証には、本件発明の実施例で用いられている1,3位特異リパーゼ以外の1,3位特異リパーゼである「Rhizomucor Miehei」等を用いても、本件発明1で特定されている処理後の反応液や低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物に関する条件を満たす低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物が得られることが示されている。 そうすると、本件発明1の「低級アルコール脂肪酸エステル化物」の含有量、「低級アルコールDHAエステル化物に対する低級アルコールEPAエステル化物のモル比率」及び「反応液の酸価」の範囲を満たす低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物を得る上で、「1,3位特異リパーゼ」が、本件明細書の実施例に記載される特定の1,3位特異リパーゼである必要があるとまではいえない。 次に、リパーゼによる反応の条件について検討するに、本件明細書の実施例を見ても、反応は、「30℃にて24時間」反応させる(段落【0154】)というもので特別な反応条件を採用しているものではないから、本件発明1に「リパーゼによる反応の条件」の詳細が特定されていないからといって、本件発明1の上記の各範囲を満たす低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物を得ることができない(本件発明の発明の課題を解決することができない)とまではいえない。 よって、本件発明1、本件発明を引用する2、3、5、7ないし12、22、23、及び本件発明1と同様の特定がなされている本件発明24が、本件明細書の発明の詳細な説明に記載される発明の課題を解決することを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものであるとはいえない。 (2)先の請求項13~20、22、23に係る発明に対して通知した取消理由1について 先の請求項13~20、22、23に係る発明に対して、通知した取消理由1は、要するに以下のアないしウの3点である。 ア 『本件発明13は、「低級アルコール脂肪酸エステル化物を50質量%以上90質量%以下含み、 酸価が2以上12以下であり、 前記低級アルコール脂肪酸エステル化物は、低級アルコールEPAエステル化物および低級アルコールDHAエステル化物を以下のモル比率で含む、低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物。 3.0≦(低級アルコールEPAエステル化物/低級アルコールDHAエステル化物)≦30」との特定がなされているところ、この特定では、この低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物が、原料油脂をリパーゼを用いて処理することで得られたものであるのか明らかでなく、また低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物中の低級アルコール脂肪酸エステル化物「以外」の物質や、低級アルコール脂肪酸エステル化物中の低級アルコールEPAエステル化物、低級アルコールDHAエステル化物「以外」の物質が任意のものを含むことになるが、本件の発明の詳細な説明に記載されるのは、あくまで、原料油脂をリパーゼを用いて処理することで得られたものであるから、低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物中の低級アルコール脂肪酸エステル化物「以外」の物質や、低級アルコール脂肪酸エステル化物中の低級アルコールEPAエステル化物、低級アルコールDHAエステル化物「以外」の物質は、原料油脂をリパーゼを用いて処理する際の「特定」の物質であるはずである。 そうすると、本件発明13は、低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物に含まれる「低級アルコール脂肪酸エステル化物」、「低級アルコールEPAエステル化物」及び「低級アルコールDHAエステル化物」以外の物質に関し、本件の発明の詳細な説明の記載に対応しないものである。 また、本件発明15についても、発明の詳細な説明の記載には、原料油脂をリパーゼを用いて処理することで得られた低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物を、さらに、蒸留して得られた低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物であることしか記載されていないから、本件発明15も、低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物に含まれる「低級アルコール脂肪酸エステル化物」、「低級アルコールEPAエステル化物」及び「低級アルコールDHAエステル化物」以外の物質に関し、本件の発明の詳細な説明の記載に対応しないものである。』 イ 『本件発明13及び15では、低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物に含まれる酸に関し、「酸価が2以上12以下であり」と特定されるのみであり、この酸価が、「EPA含有グリセリドおよびDHAグリセリドを含有する原料油脂」から生成した「遊離脂肪酸」であることが明らかでない。そして、「遊離脂肪酸」に限定されない単なる「酸」を意味するだけでは、本件の発明の詳細な説明に記載されるようにこの酸によりリパーゼが安定化することができるとはいえない。 そうすると、本件発明13及び15は、「酸価」で表される酸に関し、本件の発明の詳細な説明の記載に対応しないものである。』 ウ 『「低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物」に係る本件発明13は、酸価が2~12であることが特定されている。 一方、本件明細書には、原料油脂をリパーゼを用いて処理することで得られた「反応液」に関しては、酸価が2~12であることは記載されている(段落【0070】、【0071】)。ここで、上記「反応液」が、「低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物」と異なるものである場合には、本件明細書には、「低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物」の酸価は、「5.95」、「6.17」(段落【0155】)の記載しかないこととなり、酸価が「2~12」であることは記載されていないこととなる。 また、酸価に関し同じ特定のある本件発明15についても、明細書には、酸価が「10.1」(段落【0172】)の記載しかなく、酸価が「2~12」であることは記載されていない。 そうすると、本件発明13及び15の「酸価2~12である」ことは、本件の発明の詳細な説明に記載された事項ではない。』 エ 上記「ア」、「イ」について 上記「ア」、「イ」の取消理由に対し、本件訂正により、本件発明13の「低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物」は、「EPA含有グリセリドおよびDHAグリセリドを含有する原料油脂を1,3位特異リパーゼを用いて処理して得られた、低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物であって、前記原料油脂が魚油であり、前記原料油脂の酸価が0以上2.5以下であり、前記リパーゼが固定化された固定化酵素であ」るものに特定され、 本件発明15の「低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物」は、「EPA含有グリセリドおよびDHAグリセリドを含有する原料油脂を1,3位特異リパーゼを用いて処理し、さらに蒸留して得られた、低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物であって、前記原料油脂が魚油であり、前記原料油脂の酸価が0以上2.5以下であり、前記リパーゼが固定化された固定化酵素であ」るものに特定された。 そして、この訂正により、本件発明13及び15の低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物が、魚油を、固定化された1,3位特異リパーゼを用いて処理したものであることが明らかになり、本件発明13、15及び本件発明13又は15を引用する本件発明14、16ないし20、22、23は、低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物に含まれる「低級アルコール脂肪酸エステル化物」、「低級アルコールEPAエステル化物」及び「低級アルコールDHAエステル化物」以外の物質に関し、本件の発明の詳細な説明の記載に対応しないものであるということはいえない。 また、本件発明13及び15で、低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物の「酸価」を発生する酸に関しても、魚油を固定化された1,3位特異リパーゼを用いて処理した際に生成する「遊離脂肪酸」であることが明らかとなったから、本件発明13、15及び本件発明13又は15を引用する本件発明14、16ないし20、22、23は、「酸価」に関し、本件の発明の詳細な説明の記載に対応しないものであるということはいえない。 本件発明13及び15の上記の訂正に係る事項は、製造に関して技術的な特徴や条件が付されたものであるから、本件発明13及び15には、その物の製造方法が記載されているといえる。 ここで、物の発明に係る特許請求の範囲にその物の製造方法が記載されている場合において、当該特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号にいう「発明が明確であること」という要件に適合するといえるのは、出願時において当該物をその構造又は特性により直接特定することが不可能であるか、又はおよそ実際的でないという事情(以下「不可能・非実際的事情」という)が存在するときに限られると解するのが相当である(最高裁第二小法廷平成27年6月5日 平成24年(受)第1204号、平成24年(受)第2658号)とされている。 そこで、本件発明13及び15が明確であるか否かについて検討するに、本件発明13及び15は、低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物が、魚油を固定化された1,3位特異リパーゼを用いて処理したものであることを特定するものである。 ここで、魚油である原料油脂を1,3位特異リパーゼを用いて処理して得られた、低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物は、グリセリドの他に多様な成分さらには不純物を含む魚油を、酵素処理して得られるものであるから、主要な成分である「低級アルコール脂肪酸エステル化物」、「低級アルコールEPAエステル化物」及び「低級アルコールDHAエステル化物」の他に、酵素処理で生じる他の生成物や未反応物、さらには不純物等多種多様な成分が含まれるものである。 そして、低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物の多種多様な成分を解析して特定することは、本件優先日当時における成分分析の技術をしても可能であったとはいうことができないし、仮にそれが可能であったとしても、多くの試行錯誤を重ねて多種多様な成分を分析してそれを請求項に特定することは、およそ実際的ではないといえる。 そうすると、本件発明13及び15には、不可能・非実際的事情が存在するといえるから、本件発明13及び15に、その物の製造方法が記載されているとしても、発明が明確でないということにはならない。 オ 上記「ウ」について 本件明細書の段落【0135】の「<第1組成物> 本発明の一実施形態に係る低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物(以下、「第1組成物」ともいう。)は、低級アルコール脂肪酸エステル化物を40質量%以上90質量%以下(より具体的には、50質量%以上80質量%以下)含み、前記低級アルコール脂肪酸エステル化物は、低級アルコールEPAエステル化物および低級アルコールDHAエステル化物を以下のモル比率で含む。第1組成物は、例えば、上述の酵素処理又は上述の酵素処理とそれに続く銀処理により得ることができる。 3.0≦(低級アルコールEPAエステル化物/低級アルコールDHAエステル化物)≦30」との記載によれば、第1組成物とされる低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物が、酵素処理(又は上述の酵素処理とそれに続く銀処理)により得るものであることが理解でき、この酵素処理により得られるものは、「反応液」であるといえる。 そうすると、低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物の酸価は、反応液の酸価と同じになるから、本件発明13、15及び本件発明13又は15を引用する本件発明14、16~20、22、23の「酸価2~12である」ことは、本件の発明の詳細な説明に記載された事項ではないとはいえない。 (3)取消理由1のまとめ 上記(1)、(2)で述べたように、本件発明1ないし3、5、7ないし20、22ないし24は、発明の詳細な説明に記載したものではないとはいえないから、本件特許1ないし3、5、7ないし20、22ないし24は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものであるとすることはできない。 2 取消理由2(特許法第36条第6項第2号)について (1)先の請求項1ないし3、5、7ないし12、22ないし24に係る発明に対して通知した取消理由2について 先の請求項1ないし3、5、7ないし12、22ないし24に係る発明に対して、通知した取消理由2は、要するに以下のものである。 『本件発明で「本件発明1の「低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物」の意味が明らかでない。また、「低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物」とリパーゼ反応後の「反応液」との関係が明かでない。』 上記「1(2)オ」で述べたように、本件明細書の段落【0135】の記載によれば、本件発明では、酵素処理により得られた「反応液」が、低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物とされているし、また、酵素処理とそれに続く銀処理がなされたものも、低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物とされている。さらには、同段落【0141】及び【0142】の記載によれば、同段落【135】に記載される第1組成物とされる低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物を分子蒸留処理又は分子蒸留処理とこれに続く銀処理により得られた第2組成物も、低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物とされている。 これを踏まえると、本件において、低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物とは、低級アルコールEPAエステル化物、低級アルコールDHAエステル化物等を含む低級アルコール脂肪酸エステル化物、原料及び原料からの反応物であるグリセリドを主として含み、他に水や低級アルコール、遊離脂肪酸なども含み得るものを統括的に低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物としていることが理解できる。 そうすると、「低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物」の意味が明らかでないとはいえないし、「低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物」とリパーゼ反応後の「反応液」との関係が明かでないともいえない。 (2)先の請求項13ないし20、22、23に係る発明に対して通知した取消理由2について 先の請求項13ないし20、22、23に係る発明に対して、通知した取消理由2は、要するに以下のものである。 『本件発明13の特定では、「低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物」に含まれる「低級アルコール脂肪酸エステル化物」の含有量が100質量%に達していないが、残部が何からなるものであるのか明らかでないから、本件発明13の記載は、明確でない。 本件発明15についても、「低級アルコール脂肪酸エステル化物」の含有量が100質量%に達しない場合、残部が何からなるものであるのか明らかでないから、本件発明15の記載は、明確でない。』 本件訂正により、本件発明13及び15において、「低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物」が、EPA含有グリセリドおよびDHAグリセリドを含有する原料油脂を1,3位特異リパーゼを用いて処理して得られたものであるか、又はそれを蒸留して得られたものであると特定されることにより、「低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物」に含まれる「低級アルコール脂肪酸エステル化物」の残部が、グリセリドや酵素分解処理で生じる生成物、未反応物及び不純物等多種多様な成分であることが明らかになったから、本件発明13、15及び本件発明13又は15を引用する本件発明14、16~20、22、23は、明確でないとはいえない。 (3)先の請求項22、23に係る発明に対して通知した取消理由2について 先の請求項22、23に係る発明に対して、通知した取消理由2は、要するに以下のものである。 『本件発明22及び23は、「・・・及び請求項13ないし17および21に記載の低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物」と特定されているが、「請求項21」は、存在しないから、「請求項21」を引用する本件発明22及び23は、明確でない。』 本件訂正により、本件発明22及び23は、「・・・及び請求項13ないし17に記載の低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物」と訂正されることにより、本件発明22及び23は、「請求項21」を引用しないものとなったから、本件発明22及び23は、明確でないとはいえない。 (4)取消理由2のまとめ 上記(1)ないし(3)で述べたように、本件発明1ないし3、5、7ないし20、22ないし24は、明確でないとはいえないから、本件特許1ないし3、5、7ないし20、22ないし24は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものであるとすることはできない。 3 取消理由3(特許法第29条第2項)について (1)刊行物に記載の事項 ア 刊行物1(特許第4236128号公報)の記載事項 (ア-1)第2頁左欄第35行~右欄第6行 「【請求項12】 実質的に純粋なEPAならびに実質的に純粋なDHAを得るための、請求項7~9のいずれか1つに記載の方法であって、さらに次の工程: (i)1%未満の水含量の条件下、かつEPAのエステル交換を優先的に触媒するに活性なリパーゼの存在下に、C1~C6アルコールにより前記グリセリド画分をエステル交換する工程; (ii)得られたEPAに富むC1~C6アルコールエステル画分と残余のDHAに富むグリセリド混合物とを分離する工程; (iii)上記EPA-C1~C6アルコールエステル画分を処理し、そして該EPA画分を実質的に100%の純度にまで濃縮する工程; (iv)DHAのエステル交換を触媒するに活性なリパーゼの存在下に、C1~C6アルコールにより上記DHAに富むグリセリド混合物をエステル交換する工程;および (v)得られたDHA-C1~C6アルコールエステル画分を処理し、そして該DHA画分を実質的に100%純正なDHAにまで濃縮する工程; を含む、方法。」 (ア-2)第3頁左欄第29行~右欄第9行 「本発明は、より高い濃度の多不飽和脂肪酸を有する精製された生成物を得るために、グリセリドの形態で飽和および不飽和脂肪酸を含有する油組成物を処理する新規な方法に関する。本発明は、特に好ましい態様において、魚油組成物中のEPAおよびDHAの濃度を上昇させる方法を提供する。 ・・・(略)・・・ 広く知られているように、EPAおよびDHAは特に医薬産業および食品添加物産業においてその価値が上昇している。」 (ア-3)第6頁右欄第3~28行 「本発明の方法の重要な特徴は、リパーゼで触媒されるエステル交換が実質的に無水の反応条件下に実施されなければならないことである。好ましくは、反応系内の総水量は、海産油とリパーゼを含む全ての供給源からのものを合わせて1%(w/w)未満でなければならず、好ましくは0.5(w/w)未満であり、そして最も望ましくは0.01~0.25%(w/w)の間である。(典型的な場合において、海産油出発材料は0.1~0.2%(w/w)の水を含有し、アルコール試薬として使用される無水エタノールは0.2~0.5%(w/w)の水を含有し、そしてリパーゼ調製物は2~2.5%(w/w)の水を含有している。) しかし、少量の水、一般的にはリパーゼの重量に基づいて約1~2重量%が、活性を成立させるためには酵素系内に常に必要とされるので、完全な無水反応条件を採用することは不可能である。必要とする水の量は使用する酵素に非常に大きく依存する(例えばカンジダ・シリンドラセア(Candida cylindracea)のリパーゼは本発明の方法において最大の活性を発揮するために約10重量%の水の添加を必要とする)。後記実施例に示すとおり、これらの極少量の水は有意な加水分解を全く引き起こさず、そしてエステル交換された生成物中の遊離脂肪酸の濃度を3重量%未満に維持すること、即ち既述のズイとワードの報告の約10%だけの加水分解率を維持することが可能である。」 (ア-4)第8頁左欄第6~49行 「例えば、高度に濃縮されたEPAおよびDHAを含有するエチルエステル組成物を得ることが所望であれば、分子蒸留後に得られるグリセリド画分は、例えば、触媒量のナトリウムエトキシドまたはカリウムエトキシド等の存在下に無水エタノールを用いた化学的エステル交換によりエステル化されることができる。この方法は、次の反応式により模式的に説明される。 (単純化のために、1,2-および2,3-ジグリセリドおよび2-モノグリセリドだけが上記式中に示されている。) 次いで、製造されたグリセロールが公知の技法を用いて除去され得る。典型的には、これは、従来法に比べて非常に良好な多不飽和脂肪酸の回収による、約45~50重量%のEPA+DHA含量をもたらす。 より具体的には、本発明による高濃度EPA+DHA組成物を得るための統合方法は、さらに次の工程: (c)ナトリウムエトキシドまたはカリウムエトキシド等の塩基をエステル交換を触媒するに充分な量だけ含有するアルカリ性環境のような化学的触媒作用か、または実質的に無水である条件下でカンジダ・アンタラクチカ(Candida antarctica)のリパーゼを用いるような酵素的触媒作用を用いて、グリセリド画分を低級アルコールによりエステル交換する工程; (d)得られたアルキルエステル生成物をアルカノール中で過剰の尿素と共に55~99℃の温度に加熱する工程; (e)工程(d)の生成物を、例えば0~25℃に冷却して尿素脂肪酸アルキルエステル付加物を沈殿し、その後、該付加物を分離除去してn-3脂肪酸エステルを主に含有する溶液を残す工程; (f)工程(e)で残した溶液からn-3脂肪酸アルキルエステルを分離する工程;および (g)工程(f)で得られた混合物から全ての溶媒を除去する工程; を含む。 本発明の統合方法の特に好ましい態様において、工程(g)で得られた濃縮物が、例えば9工程の分子蒸留のような1種類またはそれ以上の手段によりさらに濃縮されて、その中に含まれるEPA+DHA濃度が85重量%またはそれ以上に上昇させられる。」 (ア-5)第9頁左欄第45行~右欄第28行 「実施例 1 本研究の目的は、多不飽和脂肪酸、特にEPAおよびDHAを、魚油組成物中の飽和および単不飽和脂肪酸から分離するための方法における種々のリパーゼの使用を試験することであった。 下記のリパーゼを試験した: 1つの試験において、上記リパーゼのそれぞれを37℃で試験し、その結果を表Iに示した。別の試験においては、2種類のシュードモナス属(Pseudomonas)のリパーゼであるPFLとPSLを20℃で試験し、その結果を表IIおよびIIIに示した。 試験に使用した手順は次の通りである: 魚油のトリグリセリドをプロノバ・バイオケア社(Pronova Biocare a.s., Norway)から調達したが、それは14.9%のEPAと9.8%のDHAを含有していた。これらは、さらなる処理をすることなく調達したままで直接使用した。全ての溶媒は分析品質のものをメルク社(Merck AG in Germany)から購入した。特に断らない限り、化学量論量、即ちトリグリセリドに基づいて3モル当量の(無水)エタノールを使用した。カンジダ・シリンドラセア(Candida cylindracea)のリパーゼを用いた場合以外は、反応系に水は全く添加しなかった。魚油出発材料およびリパーゼから生じる水の含量を約0.3~0.4重量%と計算した。カンジダ・シリンドラセア(Candida cylindracea)のリパーゼを用いた場合には、リパーゼの重量に基づき10重量%の量で水を添加し、結果として総量で約0.8重量%の水を含有する反応系とし、この場合でさえも実質的に無水である条件を維持した。」 (ア-6)第10頁左欄第13行~第36行 「典型的な手順において、リパーゼ(0.5g)を、魚油[5.0g、約5.67ミリモル(分子量約882g/モル)]と無水エタノール(0.80g、17.4ミリモル)の混合物に添加した。得られた酵素懸濁液を窒素雰囲気下に室温(表Iの研究においては37℃)で穏やかに攪拌した。適当な時間をおいた後、クロロホルムの添加および濾過による酵素の分離により反応を止めた。有機溶媒を真空下(回転蒸留器および高真空ポンプ処理)に除去して定量的収量で粗生成物混合物を得た。生成物を等量のクロロホルムに溶解し、上記の通りHPLC装置に注入した。それぞれの画分を収集して溶媒を真空下に蒸留し、計量し、そして最後にガスクロマトグラフィーにて分析した。 分取HPLCの代わりに分取TLCを用いた場合には、適当なときにパスツールピペットを用いて少量(100~200mg)の試料を反応系から取り出した。試料を第2のパスツールピペット内に設置した綿羊毛栓に通すことにより、酵素粒子を分離した。次いで、TLCプレートに導入する前に、それぞれの試料をクロロホルムに希釈した(250mg/mL)。 結果を、下記表I~IIIに示す: 最初の表である表Iは、試験したリパーゼ全てを用いて37℃で(3モル当量のエタノールを用いて)実施された研究の結果を要約している。」 (ア-7)第10頁左欄「表1」「CAL」 「 」 (ア-8)第11頁右欄第35行~第40行 「上記表I~IIIにおいて、下記略号を使用している: MG モノグリセリド DG ジグリセリド TG トリグリセリド FFA 遊離脂肪酸 EE エチルエステル」 (ア-9)第16頁【図1】 「 」 (ア-10)第16頁【図2】 「 」 イ 刊行物2(特開平4-159398号公報)の記載事項 (イ-1)第1頁左下欄第4行~15行 「2.特許請求の範囲 1.高度不飽和脂肪酸又はその誘導体を、銀塩を含有する水性媒体に接触せしめて吸収溶解し、不溶物を除去した後、水性媒体と分離可能な有機溶媒を用いて抽出する事を特徴とする高度不飽和脂肪酸又はその誘導体の取得方法。 3.発明の詳細な説明 〔産業上の利用分野〕 本発明は、サバ、イワシ等の魚油に含まれているエイコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸等の高度不飽和脂肪酸又はその誘導体の抽出分離、精製する方法に関する。」 ウ 刊行物3(特開平4-243849号公報)の記載事項 (ウ-1)【特許請求の範囲】 「【請求項1】 高度不飽和脂肪酸類の含有物に銀塩を含む水性媒体溶液を混合し、次いで混合物から水性媒体相を分離し、この水性媒体相を混合していた場合の温度より高い温度にまで加温して油脂相と水性媒体相とを形成し、この水性媒体相部分を除去することを特徴とする高度不飽和脂肪酸類の精製方法。 【請求項2】 請求項1の方法において加熱の際に脂溶性疎水溶媒を系に共存させることを特徴とする方法。」 (ウ-2)【0001】 「【産業上の利用分野】本発明は、純度の高い高度不飽和脂肪酸又はそのエステル、酸アミド更には高度不飽和アルコール等の高度不飽和脂肪族化合物(本明細書に於いて単に高度不飽和脂肪酸類と呼ぶ)を得る方法であり、サバ、イワシ等の魚油に含まれているエイコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸等の高度不飽和脂肪酸またはその誘導体、ブタ等の動物油に含まれているアラキドン酸等の高度不飽和脂肪酸またはその誘導体、植物油に含まれているα-リノレン酸、γ-リノレン酸等の高度不飽和脂肪酸またはその誘導体、更に藻類や微生物由来の高度不飽和脂肪酸またはその誘導体等の抽出分離、精製する方法に利用することができる。」 エ 刊行物4(特開2010-64974号公報)の記載事項 (エ-1)【特許請求の範囲】 「【請求項1】 高度不飽和脂肪酸誘導体を含有する脂肪酸の誘導体の混合物を銀塩の水溶液と接触せしめ、高度不飽和脂肪酸の誘導体を取得する方法において、上記銀塩水溶液を繰り返し使用するにあたり、上記銀塩水溶液中の遊離脂肪酸含量を、銀1g当り0.2meq以下とすることを特徴とする、高度不飽和脂肪酸誘導体の取得方法。 【請求項2】 銀塩水溶液を、吸着剤に接触せしめることにより遊離脂肪酸含量を銀1g当り0.2meq以下とする、請求項1に記載の高度不飽和脂肪酸の取得方法。 【請求項3】 上記銀塩水溶液に接触せしめる前の上記脂肪酸の誘導体の混合物の酸価が5以下である、請求項1又は2記載の高度不飽和脂肪酸誘導体の取得方法。 【請求項4】 銀塩水溶液に接触せしめる前の上記脂肪酸の誘導体の混合物を、吸着剤に接触せしめることにより酸価を5以下とする、請求項1乃至3のいずれかに記載の高度不飽和脂肪酸誘導体の取得方法。」 (2)刊行物1に記載の発明 上記(ア-5)の記載によれば、刊行物1の「実施例1」には、EPAとDHAを含有する魚油のトリグリセリドを、種々のリパーゼによりエタノール存在下、反応系での水の含量が約0.3~0.4重量%のもとで反応させた試験例が記載されているところ、リパーゼの「CAL」(上記(ア-5)の記載によれば、カンジダ・アンタラクチカ)について、上記(ア-6)の実験条件のもとで反応を行い、上記(ア-7)に示される結果によれば、「EE」(上記(ア-8)の記載によれば、エチルエステルである)が47.3重量%、このエチルエステル中、「EPA」が18.51重量%、「DHC」が4.33重量%含む、「エチルエステル含有組成物」が得られることが記載されている。 そうすると、刊行物1には、 「EPAとDHAを含有する魚油のトリグリセリドを、CAL(カンジダ・アンタラクチカ)によりエタノール存在下、反応液での水の含量が約0.3~0.4重量%のもとで反応させて得られた、エチルエステル(EE)が47.3重量%、エチルエステル中、EPAのエチルエステルが18.51重量%、DHAのエチルエステルが4.33重量%含む、エチルエステル含有組成物。」(以下、「刊行物1発明」という。)が記載されているといえる。 (3)対比・判断 ア 本件発明13について 本件発明13と刊行物1発明を対比すると、エチルエステルを形成するエチルアルコールが、「低級アルコール」であることは、技術的な常識であるから、刊行物1発明の「エチルエステル(EE)」、「EPAのエチルエステル」、「DHAのエチルエステル」、及び「エチルエステル含有組成物」は、それぞれ、本件発明13の「低級アルコール脂肪酸エステル化物」、「低級アルコールEPAエステル化物」、「低級アルコールDHAエステル化物」、及び「低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物」に相当する。 そして、刊行物1発明の「魚油」は、本件発明13の「魚油」である「原料油脂」に相当し、刊行物1発明の「EPAとDHAを含有する魚油のトリグリセリド」は、本件発明13の「EPA含有グリセリドおよびDHAグリセリドを含有する原料油脂」に相当し、刊行物1発明の「CAL(カンジダ・アンタラクチカ)」は、本件発明13の「1,3位特異リパーゼ」と、「リパーゼ」である点で共通するから、刊行物1発明で、「EPAとDHAを含有する魚油のトリグリセリドを、CAL(カンジダ・アンタラクチカ)によりエタノール存在下、反応液での水の含量が約0.3~0.4重量%のもとで反応させて得られた・・・エチルエステル含有組成物」は、本件発明13と、「EPA含有グリセリドおよびDHAグリセリドを含有する原料油脂をリパーゼを用いて処理して得られた、低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物であって、前記原料油脂が魚油であ」る低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物であるという点で共通する。 また、刊行物1発明の「エチルエステル(EE)」の含有量に関し、上記(ア-7)の記載によれば、エチルエステル(EE)の重量%と、モノグリセリド/ジグリセリド/トリグリセリド(MG/DG/TG)の重量%の合計が100重量%となることから、刊行物1発明の「エチルエステル(EE)」の47.3重量%は、「エチルエステル(EE)」と、本件発明13の「グリセリド」に相当する「モノグリセリド/ジグリセリド/トリグリセリド(MG/DG/TG)」の総量に対するものであると共に、「エチルエステル(EE)」を、「エチルエステル(EE)」と「モノグリセリド/ジグリセリド/トリグリセリド(MG/DG/TG)」の総量に対して、「所定量」含むという点で、本件発明13に共通するといえる。 さらに、刊行物1発明の「エチルエステル中、EPAのエチルエステルが18.51重量%、DHAのエチルエステルが4.33重量%含む」点に関し、 EPAのエチルエステルの分子量が約318、DHAのエチルエステルの分子量が約344であるから、低級アルコール脂肪酸エステル化物における、低級アルコールDHAエステル化物に対する低級アルコールEPAエステル化物のモル比率(低級アルコールEPAエステル化物/低級アルコールDHAエステル化物)は、換算すると、約「4.62」(換算式:(18.51/318)/(4.33/344))となり、本件発明13の「3.0以上30以下」の範囲に含まれるものである。 そうすると、本件発明13と刊行物1発明は、 「EPA含有グリセリドおよびDHAグリセリドを含有する原料油脂をリパーゼを用いて処理して得られた、低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物であって、 前記原料油脂が魚油であり、 低級アルコール脂肪酸エステル化物を低級アルコール脂肪酸エステル化物およびグリセリドの総量に対して所定量含み、 前記低級アルコール脂肪酸エステル化物は、低級アルコールEPAエステル化物および低級アルコールDHAエステル化物を以下のモル比率で含む、低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物。 3.0≦(低級アルコールEPAエステル化物/低級アルコールDHAエステル化物)≦30」の点で一致し、以下の点で相違しているといえる。 (相違点1) 低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物に関し、本件発明13では、酸価が2以上12以下であるのに対し、刊行物1発明では、酸価が明らかでない点。 (相違点2) 低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物が、本件発明13では、「EPA含有グリセリドおよびDHAグリセリドを含有する原料油脂を1,3位特異リパーゼを用いて処理して得られた、低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物であって、前記原料油脂が魚油であり、前記原料油脂の酸価が0以上2.5以下であり、前記リパーゼが固定化された固定化酵素である低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物」であるのに対し、刊行物1発明では、「EPAとDHAを含有する魚油のトリグリセリドを、CAL(カンジダ・アンタラクチカ)によりエタノール存在下、反応液での水の含量が約0.3~0.4重量%のもとで反応させて得られたエチルエステル含有組成物」である点。 (相違点3) 低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物に含まれる低級アルコール脂肪酸エステル化物の低級アルコール脂肪酸エステル化物およびグリセリドの総量に対する含有量に関し、本件発明13では、50質量%以上90質量%以下であるのに対し、刊行物1発明では、47.3質量%である点。 上記(相違点1)について以下検討する。 刊行物1発明は、EPAとDHAを含有する魚油のトリグリセリドを、CAL(カンジダ・アンタラクチカ)によりエタノール存在下で、反応液での水の含量が約0.3~0.4重量%のもとで反応させて得られたエチルエステル含有組成物である。そして、この水分量は、上記(ア-3)の「本発明の方法の重要な特徴は、リパーゼで触媒されるエステル交換が実質的に無水の反応条件下に実施されなければならないことである。・・・しかし、少量の水、一般的にはリパーゼの重量に基づいて約1~2重量%が、活性を成立させるためには酵素系内に常に必要とされるので、完全な無水反応条件を採用することは不可能である。・・・後記実施例に示すとおり、これらの極少量の水は有意な加水分解を全く引き起こさず、そしてエステル交換された生成物中の遊離脂肪酸の濃度を3重量%未満に維持すること、即ち既述のズイとワードの報告の約10%だけの加水分解率を維持することが可能である。」との記載によれば、刊行物1発明の反応液での水の含量が約0.3~0.4重量%とは、本来無水の反応条件下に実施されなければならないが、酵素の活性を成立させるため必要な最低限度の水分量であるといえる。 そして、上記(ア-3)には、さらに、この極少量の水(約0.3~0.4重量%)は有意な加水分解を全く引き起こさないとされているから、同記載に「エステル交換された生成物中の遊離脂肪酸の濃度を3重量%未満に維持する」と記載されているとしても、加水分解により生じる実際の「遊離脂肪酸」の濃度は、3重量%近くまで上昇することはないといえるし、異議申立人の主張(異議申立書第16頁第1、2行)によれば、酸価が2となる1重量%(概算では、酸価の数値は、%で表した遊離脂肪酸の含有量の約2倍になる)にも、「遊離脂肪酸」の濃度が上昇するとはいえない。 さらに、刊行物1発明は、有意な加水分解を全く引き起こさない、すなわち、「遊離脂肪酸」を発生させないことを志向するものであるから、「遊離脂肪酸」の濃度を上昇させて、刊行物1発明の「酸価」を、本件発明13の低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物の酸価である2以上12以下の範囲に重複するものとすることは、たとえ当業者であったとしても、容易に想到し得るとはいえない。 また、刊行物2ないし4にも、刊行物1発明の「酸価」を、本件発明13の低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物の酸価である2以上12以下の範囲に重複するものとすることを示唆する記載は見当たらない。 一方、本件発明13は、「低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物の酸価が2以上12以下」との特定に対応して、本件明細書の段落【0076】及び【0077】の記載によれば、本件発明13は、反応液中の水分量をむしろ高めるものであり、これにより、反応液中の遊離脂肪酸の濃度を高くし、この遊離脂肪酸とリパーゼとの相互作用により、反応液中の反応基質以外の物質がリパーゼに直接接触することにより引き起こされるリパーゼの失活を防ぐことができ、リパーゼの安定性を高めることができるという格別の効果を奏するものであるといえる。 そうすると、上記(相違点1)により、本件発明13は、同段落【0076】及び【0077】に記載される「リパーゼの安定性が高められる」という格別の効果を奏するものである。 よって、上記(相違点2)及び(相違点3)を検討するまでもなく、上記(相違点1)が、当業者が容易に想到し得るものであるとはいえないから、本件発明13は、刊行物1発明及び刊行物2ないし4に記載される周知の技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえず、本件特許13は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるとすることはできない。 イ 本件発明15について 本件発明15は、本件発明13が、「EPA含有グリセリドおよびDHAグリセリドを含有する原料油脂を1,3位特異リパーゼを用いて処理して得られた、低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物」であるのに対し、「EPA含有グリセリドおよびDHAグリセリドを含有する原料油脂を1,3位特異リパーゼを用いて処理し、さらに蒸留して得られた、低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物」である点、及び、本件発明13が「低級アルコール脂肪酸エステル化物を低級アルコール脂肪酸エステル化物およびグリセリドの総量に対して50質量%以上90質量%以下含」むのに対し、「低級アルコール脂肪酸エステル化物を低級アルコール脂肪酸エステル化物およびグリセリドの総量に対して90質量%以上含」む点のみで本件発明13と相違している。 そして、本件発明15と刊行物1発明との間には、上記「ア 本件発明13について」で述べた(相違点1)と同じ相違点があるから、その相違点についての判断も、本件発明13と同じとなり、本件発明15は、刊行物1発明及び刊行物2ないし4に記載される周知の技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえず、本件特許15は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるとすることはできない。 ウ 本件発明14、16ないし20、22、23について 本件発明14、16、17は、本件発明13又は15の発明特定事項をさらに限定したものであるし、本件発明18ないし20、22、23は、その発明の中に本件発明13又は15の内容を含むものであるから、本件発明13又は15と同様に、本件発明14、16ないし20、22、23は、いずれも刊行物1発明及び刊行物2ないし4に記載される周知の技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえず、本件特許14、16ないし20、22、23は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるとすることはできない。 (4)取消理由3に関するまとめ 上記(3)で述べたように、本件発明13ないし20、22、23は、刊行物1に記載された発明及び刊行物2ないし4に記載される周知の技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから、本件特許13ないし20、22、23は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるとすることはできない。 4 申立理由1(特許法第36条第6項第2号)について (1)特許された請求項1ないし24に係る発明に対して申し立てられた申立理由1について 特許された請求項1ないし24に係る発明に対して申し立てられた申立理由1は、要するに以下のものである。 『明細書の段落【0072】には、酸価を「公益社団法人日本油化学会制定の基準油脂分析試験法(日本油化学会規格試験法委員会編、基準油脂分析試験法(Standard methods for the analysis of fats,oils and related materials):日本油化学会制定、2013年版、1.6 抽出油の酸価)(甲第5号証)により測定することが記載されているが、この基準油脂分析試験法では、酸価とは試料から抽出した油分に含まれる遊離脂肪酸の量を酸価として測定するものと定義されている。 ところが、同段落【0073】の記載によれば、酸価を測定する試料は「反応終了後の反応液」であるところ、「反応終了後の反応液」とは、「グリセリド、低級アルコールエステル、遊離脂肪酸、グリセリン、未反応の水、低級アルコール、リパーゼ」等を含む組成物であるから、本件発明1の酸価は、上記「油分に含まれる遊離脂肪酸の量を酸価として測定するもの」との定義と異なるものである。 そうすると、請求項1、24の「酸価」とは、油分に含まれる遊離脂肪酸の酸価であるのか、本件明細書に記載される意味での酸価であるのか明らかでない。 請求項13及び15の「酸価」も、水等を含む組成物全体を試料として測定した酸価であるのか、油分に含まれる遊離脂肪酸の酸価であるのか明らかでない。』 本件発明1、24では、「反応液の酸価」と特定されると共に、本件発明13及び15では、「低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物の酸価」と特定されているように、本件発明1、24の酸価とは、「反応液」の酸価、本件発明13及び15の酸価とは、「低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物」の酸価を意味していることは明らかである。 そして、本件明細書段落【0072】及び【0073】の記載は、本件発明1の「反応液」、本件発明13及び15の「低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物」の「酸価」の測定を、上記の「基準油脂分析試験法」に基づいて行うことを意味していると理解すべきであるといえる。 そうすると、上記の点で、本件発明1、24、13、15及びそれらの発明を引用する本件発明2、3、5、7ないし12、14、16ないし20、22、23は、明確でないとはいえない。 (2)特許された請求項21に対して申し立てられた申立理由1について 特許された請求項21に対して申し立てられた申立理由1は、要するに以下のものである。 『請求項21は、物の発明にその物の製造方法が記載されており、物の発明として不明確である。』 本件訂正により、請求項21は、削除されたから、上記の理由はないものとなった。 (3)申立理由1に関するまとめ 上記(1)及び(2)で述べたように、本件発明1ないし3、5、7ないし20、22ないし24は、明確でないとはいえないから、本件特許1ないし3、5、7ないし20、22ないし24は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものであるとすることはできない。 5 申立理由2(特許法第36条第4項第1号及び第6項第2号)について (1)特許された請求項1ないし24に係る発明に対して申し立てられた申立理由2について 特許された請求項1ないし24に係る発明に対して申し立てられた申立理由2は、要するに以下のものである。 『訂正前の請求項1の特定を、「(A)EPA含有グリセリドおよびDHAグリセリドを含有する原料油脂を、リパーゼを用いて処理して、低級アルコールEPAエステル化物および低級アルコールDHAエステル化物を含む低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物を得る工程を含み、 (B)前記原料油脂の酸価が0以上2.5以下であり、 (C)前記処理の反応液中における水分含量が0.4質量%以上であり、 (D)前記反応液の酸価が2以上12以下であり、 (E)前記低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物は、低級アルコール脂肪酸エステル化物を40質量%以上90質量%以下含み、 (F)前記低級アルコール脂肪酸エステル化物における、前記低級アルコールDHAエステル化物に対する前記低級アルコールEPAエステル化物のモル比率 (低級アルコールEPAエステル化物/低級アルコールDHAエステル化物)が3.0以上30以下である、低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物の製造方法。」のように(A)~(F)に分節した場合、(A)~(C)は方法の構成要件であるが、(D)~(F)は目的物を限定する要件であるから、上記の(A)、(B)及び(C)の特定を満たせば、(D)、(E)及び(F)を備えた目的物が得られることになる。 ここで、甲第1号証、甲第2号証及び甲第3号証には、いずれも、上記の(A)、(B)及び(C)の各特定に合致する事項が記載されていながら、(D)、(E)及び(F)を備えた目的物が得られていない。 リパーゼ反応では、水とアルコールいずれもがリパーゼ反応の基質となるために、水が存在すれば遊離脂肪酸が生成してしまうところ、前記(D)は、目的物中の遊離脂肪酸量を規定することに対応し、前記(E)は、目的物中の低級アルコール脂肪酸エステル量を規定する。そして、これらは、油脂がリパーゼ反応により、加水分解された生成物とアルコール分解された生成物であるから、前記(D)及び前記(E)を同時に満たす目的物を、どのようにすれば得られるのか、請求項1には、何の開示もない。 実施例のみが、その根拠であるが、前記(D)及び前記(E)を同時に満たす組成物が得られるのが、用いたリパーゼ特有の効果によるものであるのか、他の反応条件などによるものであるのか明らかでない。 請求項1は、方法の発明でありながら、目的物が記載されているだけで、それを得る方法が開示されていないため、その権利範囲について、当業者が実施することができない。あるいは、請求項1は明細書記載がない範囲を含んでおり、サポート要件を欠く発明である。』 まず、本件訂正により、請求項1は訂正されたところ、上記の申し立てを踏まえ本件発明1を分節すると、「(A)EPA含有グリセリドおよびDHAグリセリドを含有する原料油脂を、1,3位特異リパーゼを用いて処理して、低級アルコールEPAエステル化物および低級アルコールDHAエステル化物を含む低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物を得る工程を含み、 (B)前記原料油脂が魚油であり、 (C)前記原料油脂の酸価が0以上2.5以下であり、 (D)前記リパーゼが固定化された固定化酵素であり、 (E)前記処理の反応液中における添加された水分含量が0.5質量%以上であり、 (F)前記反応液の酸価が2以上12以下であり、 (G)前記低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物は、低級アルコール脂肪酸エステル化物を低級アルコール脂肪酸エステル化物およびグリセリドの総量に対して50質量%以上90質量%以下含み、 (H)前記低級アルコール脂肪酸エステル化物における、前記低級アルコールDHAエステル化物に対する前記低級アルコールEPAエステル化物のモル比率(低級アルコールEPAエステル化物/低級アルコールDHAエステル化物)が3.0以上30以下である、 低級アルコール脂肪酸エステル化物含有組成物の製造方法。」となるが、 まず、発明が方法の発明だからといって、方法の特定である(A)ないし(E)の特定あれば、必ず(F)ないし(H)を満足する目的物が得られなければならないということはないし、(F)ないし(H)を満足する目的物の「具体的な」製造方法が(A)ないし(E)で開示されなければならないということもなく、(A)ないし(H)の特定全てがそれぞれ、本件発明1を特定し、全体として本件発明1の技術的範囲を特定していると見るべきである。 一方、実施可能要件としての発明の開示は、発明の詳細な説明の記載でなされれば良いところ、本件明細書の段落【0152】~【0198】に記載される「実施例」で、実際、(F)ないし(H)を満足する目的物(「酸価」及び「低級アルコール脂肪酸エステル化物の含有量」が本件発明1の範囲を共に満足している)が、得られることが客観的な根拠をもって開示され、また、その目的物を製造する具体的な製造例が開示されているのであるから、(F)ないし(H)を満足する目的物どのように製造するのかにつき、本件特許明細書における発明の詳細な説明は、当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものとはいえないということはできない。 さらに、本件発明1が、本件明細書に記載される範囲を超えるものではないことは、上記「1 取消理由1について」「(1)」で述べたとおりである。 よって、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載に不備があるとはいえないから、本件特許1ないし3、5、7ないし12、18ないし20、22ないし24は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえない。 また、本件発明1ないし3、5、7ないし12、18ないし20、22ないし24は、は、発明の詳細な説明に記載したものでないとはいえないから、本件特許1ないし3、5、7ないし12、18ないし20、22ないし24は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえない。 第6 むすび 上記「第5」で検討したとおり、本件特許1ないし3、5、7ないし20、22ないし24は、特許法第29条の規定に違反してされたものであるということはできないし、同法第36条第4項第1号又は第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるということはできず、同法第113条第2号又は第4号に該当するものではないから、上記取消理由1ないし3、並びに、上記申立理由1及び2によっては、本件特許1ないし3、5、7ないし20、22ないし24を取り消すことはできない。 また、他に本件特許1ないし3、5、7ないし20、22ないし24を取り消すべき理由を発見しない。 そして、本件特許4、6、21は、本件訂正請求により削除されたので、本件特許4、6、21に対する特許異議の申立てを却下する。 よって、結論のとおり決定する。

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2016-700037

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