特許異議申立
2022-700666
動力伝達装置
- 審判番号
- 2022-700666
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2017-235783
- 登録番号
- 7017390
- 請求日
- 2022年07月15日
- 審決日
- 2023年09月29日
- 公報発行日
- 2023年12月28日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】ジーケーエヌ オートモーティブ リミテッド
- 【権利者代理人】三好 秀和
- 【異議申立人】鈴木 満
- 審判長/審判官
- 審判長 平城 俊雅
- 審判官 小川 恭司
- 審判官 久島 弘太郎
- 分類
- P1651.121-YAA(F16H)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条、特許法第120条の5第7項、特許法第120条の5第4項、特許法第120条の5第2項、特許法第120条の8第1項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7017390号発明「動力伝達装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7017390号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~4について訂正することを認める。
特許第7017390号の請求項2ないし4に係る特許を維持する。
特許第7017390号の請求項1に対する特許異議の申立てを却下する。
理由
理 由
第1 手続の経緯の概略
特許第7017390号の請求項1~4に係る特許(以下「本件特許」という。)についての手続の経緯は、概ね、次のとおりである。
平成29年12月 8日 出願
令和 4年 1月31日 特許権の設定登録
令和 4年 2月 8日 特許掲載公報
令和 4年 7月15日 特許異議申立人鈴木満(以下「特許異議申立人」という。)による特許異議の申立て
令和 4年12月 5日付け 取消理由通知書
令和 5年 2月17日 特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
令和 5年 4月 4日 特許異議申立人による意見書の提出
令和 5年 5月 8日付け 取消理由通知書(決定の予告)
令和 5年 7月14日 特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
以下、令和5年7月14日に提出された訂正請求書に係る訂正を「本件訂正」という。なお、令和5年2月17日に提出された訂正請求書は、取り下られたものとみなす(特許法120条の5第7項)。
また、本件訂正について、特許異議申立人に、期間を指定して意見書を提出する機会を与えたが、特許異議申立人からは何らの応答もなかった。
第2 本件訂正の適否
1 本件訂正の内容
本件訂正の請求は、特許第7017390号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~4について訂正することを求めるものであって、その訂正の内容は次のとおりである(下線は訂正箇所を示す。)。
(訂正事項1)
特許請求の範囲の請求項1を削除する。
(訂正事項2)
特許請求の範囲の請求項2に
「請求項1記載の動力伝達装置であって、
前記オイルガータは、前記ギヤ機構の軸心より噛み合い部側に向けて開口して配置されていることを特徴とする動力伝達装置。」
と記載されているのを、
「複数のケース部材からなり内部に潤滑油が収容されたケーシングと、このケーシングの内部にベアリングを介して回転可能に収容されたギヤ機構とを備えた動力伝達装置であって、
隣り合う前記ケース部材には、前記ギヤ機構によって掻き上げられた潤滑油が流れるオイルガータがそれぞれ設けられ、
隣り合う前記オイルガータは、隣り合う前記ケース部材が合わせられる合わせ面で連結可能に延設され、
前記オイルガータと前記ベアリングとの間には、前記オイルガータを流れる潤滑油を前記ベアリング側に向けて流すオイル流路が設けられ、
隣り合う前記ケース部材には、前記ベアリングがそれぞれ配置され、
前記オイル流路は、前記オイルガータに対して、隣り合う前記ケース部材に配置された前記ベアリングに対応してそれぞれ設けられ、
隣り合う前記オイルガータは、前記ケース部材の壁部から前記合わせ面まで延設され、
前記オイル流路は、前記オイルガータが延在する方向における、隣り合う前記オイルガータが連結される側とは逆の、前記ケース部材の壁部に連続する側で、前記オイルガータに、前記壁部より内側で前記潤滑油が前記ベアリングに向けて流れるように開口され、
前記オイルガータは、前記ギヤ機構の軸心より噛み合い部側に向けて開口して配置されていることを特徴とする動力伝達装置。」
に訂正する。
(訂正事項3)
特許請求の範囲の請求項3に
「請求項1又は2記載の動力伝達装置であって、
前記ギヤ機構は、電動機構によって回転される電動軸を有し、
前記オイルガータは、前記電動軸を支持する前記ベアリングに対応して配置されていることを特徴とする動力伝達装置。」
と記載されているのを、
「複数のケース部材からなり内部に潤滑油が収容されたケーシングと、このケーシングの内部にベアリングを介して回転可能に収容されたギヤ機構とを備えた動力伝達装置であって、
隣り合う前記ケース部材には、前記ギヤ機構によって掻き上げられた潤滑油が流れるオイルガータがそれぞれ設けられ、
隣り合う前記オイルガータは、隣り合う前記ケース部材が合わせられる合わせ面で連結可能に延設され、
前記オイルガータと前記ベアリングとの間には、前記オイルガータを流れる潤滑油を前記ベアリング側に向けて流すオイル流路が設けられ、
隣り合う前記ケース部材には、前記ベアリングがそれぞれ配置され、
前記オイル流路は、前記オイルガータに対して、隣り合う前記ケース部材に配置された前記ベアリングに対応してそれぞれ設けられ、
前記ギヤ機構は、電動機構によって回転される電動軸を有し、
前記オイルガータは、前記電動軸を支持する前記ベアリングに対応して配置されていることを特徴とする動力伝達装置。」
に訂正する。
(訂正事項4)
特許請求の範囲の請求項4に
「請求項1乃至3のいずれか1項に記載の動力伝達装置であって、
前記ギヤ機構は、少なくともギヤ部の一部が潤滑油の静的油面より下方に配置される第1回転部材と、ギヤ部が前記オイルガータの近傍に配置される第2回転部材とを有し、
前記ケーシングには、前記第1回転部材のギヤ部が掻き上げた潤滑油を前記第2回転部材のギヤ部の噛み合い部に導く案内部が設けられていることを特徴とする動力伝達装置。」
と記載されているのを、
「複数のケース部材からなり内部に潤滑油が収容されたケーシングと、このケーシングの内部にベアリングを介して回転可能に収容されたギヤ機構とを備えた動力伝達装置であって、
隣り合う前記ケース部材には、前記ギヤ機構によって掻き上げられた潤滑油が流れるオイルガータがそれぞれ設けられ、
隣り合う前記オイルガータは、隣り合う前記ケース部材が合わせられる合わせ面で連結可能に延設され、
前記オイルガータと前記ベアリングとの間には、前記オイルガータを流れる潤滑油を前記ベアリング側に向けて流すオイル流路が設けられ、
隣り合う前記ケース部材には、前記ベアリングがそれぞれ配置され、
前記オイル流路は、前記オイルガータに対して、隣り合う前記ケース部材に配置された前記ベアリングに対応してそれぞれ設けられ、
前記ギヤ機構は、少なくともギヤ部の一部が潤滑油の静的油面より下方に配置される第1回転部材と、ギヤ部が前記オイルガータの近傍に配置される第2回転部材とを有し、
前記ケーシングには、前記第1回転部材のギヤ部が掻き上げた潤滑油を前記第2回転部材のギヤ部の噛み合い部に導く案内部が設けられ、
前記第1回転部材は、前記ギヤ機構に伝達された駆動力が伝達されるデフアレンシャル装置であり、
前記案内部は、前記第1回転部材のギヤ部の外周に位置する前記ケース部材の内壁面であることを特徴とする動力伝達装置。」
に訂正する。
2 本件訂正の適否について
(1)訂正事項1について
訂正事項1に係る本件訂正は、請求項1を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲、又は図面(以下「本件明細書等」という。)に記載した事項の範囲においてしたものであり、実質上特許請求の範囲を拡張、又は変更するものではない。
(2)訂正事項2について
ア 訂正の目的
訂正事項2に係る本件訂正は、請求項間の引用を解消するとともに、オイルガータは、「前記ケース部材の壁部から前記合わせ面まで延設され、」たものであり、オイル流路は、「前記オイルガータが延在する方向における、隣り合う前記オイルガータが連結される側とは逆の、前記ケース部材の壁部に連続する側で、前記オイルガータに、前記壁部より内側で前記潤滑油が前記ベアリングに向けて流れるように開口され」るものであることを特定することで、オイルガータ及びオイル流路をより具体的に特定するものである。
よって、訂正事項2に係る本件訂正は、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること、及び、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 新規事項の追加の有無
本件明細書等には、「ケース部材3のオイルガータ15,15は、それぞれジェネレータ支持部49とモータ支持部55との近傍に位置する壁部からケース部材3と連続する一部材でケース部材3,5との合わせ面19まで延設されている。」(【0088】)、「ケース部材5のオイルガータ17,17は、それぞれジェネレータ支持部49とモータ支持部55との近傍に位置する壁部からケース部材5と連続する一部材でケース部材3,5との合わせ面19まで延設されている。」(【0090】)と記載されているから(下線は当審にて付与した。以下同様。)、本件明細書等には、「隣り合うオイルガータは、ケース部材の壁部から合わせ面まで延設され」ていることが記載されていると認められる。
また、(1)本件明細書等には、「このオイルガータ15,15には、それぞれジェネレータ支持部49に配置されるベアリング9とモータ支持部55に配置されるベアリング9とに向けて開口され、オイルガータ15,15を流れる潤滑油をベアリング9,9に向けて流すオイル流路21,21が設けられている。」(【0089】)、「このオイルガータ17,17には、それぞれジェネレータ支持部49に配置されるベアリング11とモータ支持部55に配置されるベアリング11とに向けて開口され、オイルガータ17,17を流れる潤滑油をベアリング11,11に向けて流すオイル流路23,23が設けられている。」(【0091】)と記載されている。(2)図2、7~8、11~12からは、オイル流路は、オイルガータが延在する方向における、隣り合う前記オイルガータが連結される側とは逆の、前記ケース部材の壁部に連続する側で開口されていることが看取される。(3)図7からは、オイルガータ15上の潤滑油の流れがケース部材の壁部より内側で下向きに向きを変え、オイルガータ15より下に流れていることが看取され、図11からは、オイルガータ17を表す線のうち、図11に向かって右上の部分の線はケース部材の壁部より内側で途切れており、当該途切れる部位とケース部材の壁部との隙間がオイル流路23であると示されていることが看取されるから、オイルガータ上の潤滑油はケース部材の壁部より動力伝達装置の内側でオイル流路を介してオイルガータより下に流れると理解される。以上の(1)~(3)から、本件明細書等には、「前記オイル流路は、前記オイルガータが延在する方向における、隣り合う前記オイルガータが連結される側とは逆の、前記ケース部材の壁部に連続する側で、前記オイルガータに、前記壁部より内側で前記潤滑油が前記ベアリングに向けて流れるように開口され」ていることが記載されていると認められる。
そうすると、訂正事項2に係る本件訂正は、本件明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであって、新規事項を追加するものではないから、本件明細書等に記載した事項の範囲においてしたものである。
ウ 訂正事項2に係る本件訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張、又は変更するものではない。
【図2】 【図7】 【図11】
[図:0001404750000001.jpg]
(3)訂正事項3について
訂正事項3に係る本件訂正は、請求項1または2を引用していた訂正前の請求項3を、訂正により請求項1のみを引用するようにして独立形式としたものであるから、本件訂正は、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること、及び、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、訂正事項3に係る本件訂正は、本件明細書等に記載した事項の範囲においてしたものであり、実質上特許請求の範囲を拡張、又は変更するものではない。
(4)訂正事項4について
ア 訂正の目的
訂正事項4に係る本件訂正は、請求項1乃至3を引用していた訂正前の請求項4を、訂正により請求項1のみを引用するようにして独立形式とするとともに、第1回転部材は、「前記ギヤ機構に伝達された駆動力が伝達されるデファレンシャル装置であり」、案内部は、「前記第1回転部材のギヤ部の外周に位置する前記ケース部材の内壁面である」ことを特定することで、第1回転部材及び案内部をより具体的に特定するものである。
よって、訂正事項4に係る本件訂正は、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること、及び、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 新規事項の追加の有無
本件明細書等には、「このようなエンジン側ギヤ機構57に伝達された駆動力は、クラッチ85が接続状態であると、エンジン側ギヤ機構57で変速されてデファレンシャル装置79に伝達され、デファレンシャル装置79から出力軸63,63を介して左右車輪に出力される。」(【0019】)、「このようなモータ側ギヤ機構59に伝達された駆動力は、モータ側ギヤ機構59で変速されてデファレンシャル装置79に伝達され、デファレンシャル装置79から出力軸63,63を介して左右車輪に出力される。」(【0025】)、「なお、ここでは、ギヤAと出力軸63,63とを有するデファレンシャル装置79を第1回転部材37とする。」(【0065】)、「案内部41は、ギヤAの外周に位置するケース部材3の内壁面となっており、ギヤAに掻き上げられた潤滑油を内壁面に沿って第2回転部材39(中間軸67)側に向けて案内する。」(【0100】)と記載されているから、本件明細書等には、第1回転部材は、「前記ギヤ機構に伝達された駆動力が伝達されるデフアレンシャル装置であり」、案内部は、「前記第1回転部材のギヤ部の外周に位置する前記ケース部材の内壁面である」ことが記載されていると認められる。
そうすると、訂正事項4に係る本件訂正は、本件明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであって、新規事項を追加するものではないから、本件明細書等に記載した事項の範囲においてしたものである。
ウ 訂正事項4に係る本件訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張、又は変更するものではない。
(5)一群の請求項について
本件訂正前の請求項2~4は、請求項1を引用する関係であるから、請求項1~4は、一群の請求項である。そして、本件訂正は、請求項1~4について訂正することを求めるものであるから、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項に対してされたものである。
さらに,特許権者から,本件訂正後の請求項2、3、4については、当該請求項についての訂正が認められる場合には、一群の請求項の他の請求項とは別の訂正単位として扱われることの求めがあった。
(6)まとめ
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法120条の5第2項ただし書1号及び第4号に掲げる事項を目的とするものであって、同条9項において準用する同法126条5項~6項の規定に適合するので、訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~4について訂正することを認める。
第3 本件発明
前記第2のとおり本件訂正は認められるから、本件特許の請求項1~4に係る発明(以下「本件発明1」~「本件発明4」という。)は、特許請求の範囲の請求項1~4に記載された事項により特定される次のとおりである。
「【請求項1】
(削除)
【請求項2】
複数のケース部材からなり内部に潤滑油が収容されたケーシングと、このケーシングの内部にベアリングを介して回転可能に収容されたギヤ機構とを備えた動力伝達装置であって、
隣り合う前記ケース部材には、前記ギヤ機構によって掻き上げられた潤滑油が流れるオイルガータがそれぞれ設けられ、
隣り合う前記オイルガータは、隣り合う前記ケース部材が合わせられる合わせ面で連結可能に延設され、
前記オイルガータと前記ベアリングとの間には、前記オイルガータを流れる潤滑油を前記ベアリング側に向けて流すオイル流路が設けられ、
隣り合う前記ケース部材には、前記ベアリングがそれぞれ配置され、
前記オイル流路は、前記オイルガータに対して、隣り合う前記ケース部材に配置された前記ベアリングに対応してそれぞれ設けられ、
隣り合う前記オイルガータは、前記ケース部材の壁部から前記合わせ面まで延設され、
前記オイル流路は、前記オイルガータが延在する方向における、隣り合う前記オイルガータが連結される側とは逆の、前記ケース部材の壁部に連続する側で、前記オイルガータに、前記壁部より内側で前記潤滑油が前記ベアリングに向けて流れるように開口され、
前記オイルガータは、前記ギヤ機構の軸心より噛み合い部側に向けて開口して配置されていることを特徴とする動力伝達装置。
【請求項3】
複数のケース部材からなり内部に潤滑油が収容されたケーシングと、このケーシングの内部にベアリングを介して回転可能に収容されたギヤ機構とを備えた動力伝達装置であって、
隣り合う前記ケース部材には、前記ギヤ機構によって掻き上げられた潤滑油が流れるオイルガータがそれぞれ設けられ、
隣り合う前記オイルガータは、隣り合う前記ケース部材が合わせられる合わせ面で連結可能に延設され、
前記オイルガータと前記ベアリングとの間には、前記オイルガータを流れる潤滑油を前記ベアリング側に向けて流すオイル流路が設けられ、
隣り合う前記ケース部材には、前記ベアリングがそれぞれ配置され、
前記オイル流路は、前記オイルガータに対して、隣り合う前記ケース部材に配置された前記ベアリングに対応してそれぞれ設けられ、
前記ギヤ機構は、電動機構によって回転される電動軸を有し、
前記オイルガータは、前記電動軸を支持する前記ベアリングに対応して配置されていることを特徴とする動力伝達装置。
【請求項4】
複数のケース部材からなり内部に潤滑油が収容されたケーシングと、このケーシングの内部にベアリングを介して回転可能に収容されたギヤ機構とを備えた動力伝達装置であって、
隣り合う前記ケース部材には、前記ギヤ機構によって掻き上げられた潤滑油が流れるオイルガータがそれぞれ設けられ、
隣り合う前記オイルガータは、隣り合う前記ケース部材が合わせられる合わせ面で連結可能に延設され、
前記オイルガータと前記ベアリングとの間には、前記オイルガータを流れる潤滑油を前記ベアリング側に向けて流すオイル流路が設けられ、
隣り合う前記ケース部材には、前記ベアリングがそれぞれ配置され、
前記オイル流路は、前記オイルガータに対して、隣り合う前記ケース部材に配置された前記ベアリングに対応してそれぞれ設けられ、
前記ギヤ機構は、少なくともギヤ部の一部が潤滑油の静的油面より下方に配置される第1回転部材と、ギヤ部が前記オイルガータの近傍に配置される第2回転部材とを有し、
前記ケーシングには、前記第1回転部材のギヤ部が掻き上げた潤滑油を前記第2回転部材のギヤ部の噛み合い部に導く案内部が設けられ、
前記第1回転部材は、前記ギヤ機構に伝達された駆動力が伝達されるデフアレンシャル装置であり、
前記案内部は、前記第1回転部材のギヤ部の外周に位置する前記ケース部材の内壁面であることを特徴とする動力伝達装置。」
第4 取消理由通知の概要
本件訂正前の本件特許に対し通知した取消理由は、概ね、次のとおりである。
本件特許の請求項2に係る発明は、甲第1号証(特公平3-541号公報、以下「甲1」という。)に記載された発明及び周知技術に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、本件の請求項2に係る特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものである。
第5 取消理由について
1 甲1について
(1) 甲1には、以下の事項が記載されている(下線は当審にて付与した。)。
・「本発明は、割り型ケースを用いた変速機の潤滑構造に関する。
従来、農機具等を駆動するためにトラクタに設けられる変速機としては、例えば第1図に示すようなものが知られている。
第1図において、1,2は割り型のケースであり、ケース1,2を合せた状態で上部にエンジン回転を入力するドライブシヤフト3をベアリング4を介して軸承し、ドライブシヤフト4にはギア5が固定されている。
ケース1,2の下部には減速回転を取り出す出力シヤフト6が同じくベアリング4を介して軸承され、出力シヤフト6に固定されたギア7とドライブシヤフト4のギア5とにダブルのチエーン7を掛け回すことにより、ドライブシヤフト3の回転を減速して出力シヤフト6に伝達するようにしている。
一方、上部に設けたドライブシヤフト4のベアリング4に対し潤滑油を供給するため、ケース内にケース合せにより形成される油受け9を設け、油受け9の両側のケース内には上部よりベアリング4の部分に至る潤滑穴10が形成され、チエーン7及びギア5の回転で飛散した潤滑油を油受け9で集め、潤滑穴10を介してベアリング4の部分に供給するようにしている。」(1カラム13行~2カラム9行)
・「図面の簡単な説明
第1図は従来の減速機の一例を示した断面図、(中略)、4・・・ベアリング、5,7・・・ギア、6・・・出力シャフト、8・・・チェーン、9・・・油受け、10・・・潤滑穴、11・・・潤滑油」(5カラム16行~6カラム10行)
・「
[図:0001404750000002.jpg]
」
(2)第1図から、ギア5とギア7と前記ギア5及び前記ギア7に掛け回されたチェーン8とからなるギア・チェーン機構を備えること、前記ケース1、2のそれぞれに、油受け9とベアリング4との間に形成された潤滑穴10が配置されていること、油受け9は、ケース1、2の壁からケース合わせの合わせ面まで延びていること、前記潤滑穴10は、油受け9を形成するケース合わせの合わせ面とは逆の、前記ケース1、2の壁側で、油受け9に開口していること、ギア・チェーン機構は、下方に配置されるギア7と、ギヤ部が油受け9の近傍に配置されるギア5とを有していることが看取される。(当審注:甲1明細書において、ドライブシャフト3とドライブシャフト4という記載が混在しているが、図面の簡単な説明の欄及び第1図から、ドライブシャフト3として認定した。また、図番7に対してギアとチェーンとが割り振られていたが、図面の簡単な説明の欄及び第1図から、ギア7、チェーン8として認定した。)
また、第1図と第4図とは、パッキン12及び仕切り部18以外は同じ配置であると理解される。そして、第4図より、油受け9は、ドライブシャフト3を軸承するベアリング収納部21より上方に向けて開口されていることが看取され、第1図より、チェーン8とギア5が噛み合う部分はドライブシャフト3より上方に位置していることが看取されるから、油受け9は、ギア・チェーン機構のドライブシャフト3より噛み合い部側に向けて開口しているといえる。
(3) 上記(1)(2)から、甲1には、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
(甲1発明)
「割り型のケース1、2と、このケース1、2にベアリング4を介して軸承されるドライブシャフト3及び出力シャフト6に固定されているギア5及びギア7と、前記ギア5及びギア7に掛け回されたチェーン8とからなるギア・チェーン機構とを備えたトラクタに設けられる変速機であって、
ケース合わせされる前記ケース1、2には、前記ギア・チェーン機構の回転で飛散した潤滑油11を集める油受け9がそれぞれ設けられ、
前記油受け9は、前記ケース1、2内にケース合わせにより形成され、
前記油受け9と前記ベアリング4との間には、前記油受け9で集めた前記潤滑油11をベアリング4の部分に供給するために、前記油受け9の両側のケース内の上部より前記ベアリング4の部分に至る潤滑穴10が形成され、
ケース合わせされる前記ケース1、2には、前記ベアリング4がそれぞれ配置され、
前記潤滑穴10は、油受け9と、ケース合わせされる前記ケース1、2のそれぞれに配置されているベアリング4との間に形成され、
ケース合わせにより形成される油受け9は、前記ケース1、2の壁からケース合わせの合わせ面まで延びており、
前記潤滑穴10は、油受け9を形成するケース合わせの合わせ面とは逆の、前記ケース1、2の壁側で、前記油受け9に、前記ケース1、2内に形成された前記潤滑穴10を介して前記潤滑油11が前記ベアリング4に供給されるように開口され、
前記油受け9は、前記ギア・チェーン機構のドライブシャフト3より噛み合い部側に向けて開口している、トラクタに設けられる変速機。」
2 甲第2号証(特開平9-100899号公報、以下「甲2」という。)には、以下の事項が記載されている。
・「【0006】
【実施例】実施例について図1,2,3,4を参照して説明する。歯車箱3上部の小歯車2の上部に位置する点検蓋4の下面中央部にL字形案内板4aを歯車の巾方向に設け、該案内板の下方両端部は軸受蓋6,66に設けられているポケット6a,66aの上部にまで延びた形に形成する。歯車装置の歯車がB方向に回転すると大歯車1の歯が潤滑油7を小歯車2の上部へ潤滑油7をB方向へ運び、運ばれた潤滑油7が小歯車にふりかかり、その一部が軸受5,55にふりかかり、軸受の潤滑に寄与している。(ただし反B方向回転の場合より寄与率が小さい。)それに加え、本発明による給油装置の案内板4aは大歯車1の歯によって運ばれた潤滑油のうち従来は小歯車上のC方向を通過して軸受潤滑に寄与しなかった潤滑油を軸受蓋6,66に設けたポケット6a,66aに案内し、軸受5,55を更に確実に潤滑油を給油する。そして全体として十分な潤滑油を該軸受に供給されることになる。」
3 甲第3号証(特開2012-189176号公報、以下「甲3」という。)には、以下の事項が記載されている。
・「【0007】
ハウジングの内部に離隔して設けられる複数の潤滑必要部のそれぞれに、ギヤの回転により設けられたオイルを分配する方法が、特許文献1~3に開示されているが、これらが用いるオイル受け手段はいずれもオイルガータ(特許文献1、2)や樋部材(特許文献3)を必要とし、部品コストと取付コストが発生する。
【0008】
そこで従来、ハウジングの内壁にオイル受けリブを突設し、ギヤの回転により掻き上げられたオイルをオイル受けリブで受け、オイル受けリブで受けたオイルを複数の潤滑必要部へ分配するものがある。」
・「【0013】
特許文献1~3に記載の減速装置では、オイル受け手段としてオイルガータ等の潤滑用部品を必要とし、部品コストと取付コストが発生する。」
・「【0040】
デファレンシャル装置10は、図1~図5に示す如く、モータ付デファレンシャル装置であり、ハウジング11の内部にモータ20と減速ギヤ列30と差動装置を構成するデフケース40を配置している。」
・「【0042】
尚、本実施例では、デファレンシャル装置10が車両に搭載された状態で、鉛直上方を上、鉛直下方を下とする。また、車両前進方向を前方とし、モータ20及び減速ギヤ列30の側を前方、デフケース40の側を後方として説明する。
【0043】
モータ20は、ハウジング11のモータ室13内で、モータ軸21の左右の両端部をキャップ16と隔壁12のボス22A、32Aのそれぞれに保持した左右の軸受22、32により枢支し、このモータ軸21の外周にロータ23を備え、環状隙間を介してロータ23を囲むステータ24をハウジング11の内周に固定配置している。尚、モータ軸21の右端部は、このモータ軸21に同軸結合されている減速ギヤ列30の入力軸31を介して上述の軸受32に枢支される。
【0044】
減速ギヤ列30は、ハウジング11のギヤ室14内で、モータ軸21に同軸結合されて接続される入力軸31の左右両端部を隔壁12とカバー17のボス32A、33Aのそれぞれに保持した左右の軸受32、33により枢支し、この入力軸31の外周に入力ギヤ34を固定している。また、減速ギヤ列30は、ハウジング11のギヤ室14内で、入力軸31に平行する中間軸35の左右両端部を隔壁12とカバー17のボス36A、37Aのそれぞれに保持した左右の軸受36、37により枢支し、この中間軸35の外周に第1中間ギヤ38と第2中間ギヤ39を固定している。第1中間ギヤ38は入力ギヤ34と噛合い、第2中間ギヤ39は後述するリングギヤ44(出力ギヤ)に噛合う。」
・「【0047】
しかるに、デファレンシャル装置10では、図6に示す如く、モータ20、減速ギヤ列30、デフケース40の差動装置等の複数の潤滑系統を潤滑するためのオイルをハウジング11の内部に充填してあり、最も外径の大きいリングギヤ44の外周の下側の一部を浸漬するようにオイルを貯留する下部貯留部50(図7)がハウジング11の内部の下部に設けられている。モータ20の回転が前述の如くにしてリングギヤ44に伝達されると、このリングギヤ44及びリングギヤ44が下部貯留部50に貯留されているオイルを掻き上げる。そして、デフケース40及びリングギヤ44の回転に伴って掻き上げられてハウジング11の内部に飛散したオイルが、ハウジング11の内部に離隔して設けられている複数の上部貯留部51、52…のそれぞれに分配される。
【0048】
即ち、デファレンシャル装置10にあっては、リングギヤ44の回転に伴って上述の下部貯留部50から掻き上げられたオイルを貯留する複数の上部貯留部51、52…をハウジング11の内部の複数の潤滑必要部A、B…に近接してハウジング11の上部の複数ヶ所に設けている。」
・「【0073】
(1)第2の上部貯留部52に貯留されたオイルはオイル溜り52Dに集まり、オイル溜り52Dに集まったオイルは、図10に示す如く、カバー17の閉塞端に穿設されているオイル供給路52Eから、カバー17のボス33Aが保持している入力軸31のための軸受33の側室33Bに供給され、その一部のオイルが軸受33のボール間を通って該軸受33を潤滑し、軸受33の焼付防止と冷却を行なう。」
・「 【図3】 【図6】
[図:0001404750000003.jpg]
」
4 甲第4号証(特開2009-63050号公報、以下「甲4」という。)には、以下の事項が記載されている。
・「【0027】
また、フライホイールハウジング1cにミッションケーシング3を固定してある。このミッションケーシング3は底部に、図1に示すように潤滑油4が収容されるオイルパン3aを有している。
【0028】
図1に示すように、ミッションケーシング3内には、駆動ギヤ8と、この駆動ギヤ8に噛み合う複数の従動ギヤ、例えばオイルパン3aに臨むように下方に配置される第1従動ギヤ12aと、この第1従動ギヤ12aの上方に配置される他の従動ギヤ、すなわち第2従動ギヤ12b、第3従動ギヤ12cとを収納してある。」
・「【0031】
また、この第1実施形態は、図1に示すように、下方に配置される第1従動ギヤ12aを囲むように配置され、第1従動ギヤ12aの回転に伴ってオイルパン3aに収容された潤滑油4を、他の従動ギヤ、すなわち上方に配置される第2従動ギヤ12b及び第3従動ギヤ12c付近まで誘導可能な隔壁を備えている。この隔壁は例えば、第1従動ギヤ12aを挟むように対向して配置され、それぞれ独立して形成される板金製の第1隔壁16と第2隔壁17とから成っている。これらの第1隔壁16の下端部と第2隔壁17の下端部との間には、第1隔壁16と第2隔壁17に導かれるオイルパン3aの潤滑油4が流入する流入口18を形成してある。
【0032】
また、第1隔壁16とこの第1隔壁16に対向するミッションケーシング3の壁部3bとの間、及び第2隔壁17とこの第2隔壁17に対向するミッションケーシング3の壁部3cとの間のそれぞれに、第2従動ギヤ12b、第3従動ギヤ12cを潤滑した残りの潤滑油4をオイルパン3aに戻す戻し油路19,20を形成してある。」
・「【0035】
上述のように原動機1によって第1油圧ポンプ13、第2油圧ポンプ14、及び図示しない第3油圧ポンプが駆動する間、図1に示すように、第1従動ギヤ12aの時計回りの回転によってオイルパン3aの潤滑油4が流入口18から流入して、第1従動ギヤ12aによって掻き揚げられ、この潤滑油4は第2隔壁17によって誘導されて、第3従動ギヤ12cの下方部分に供給され、また、第1従動ギヤ12aと駆動ギヤ8との噛み合い部分から流出した潤滑油4が第1隔壁16によって誘導されて、第2従動ギヤ12bの下方部分に供給される。」
5 参考資料1(特開2016-8646号公報、以下「参考1」という。)には、以下の事項が記載されている。
・「【0033】
また、オイル受け部32は、中間歯車軸12と出力歯車軸13の間に形成されて回転する出力歯車13aが跳ね上げるオイル31を貯留可能に構成された第1受け部33と、入力歯車軸11の上方に形成されて回転する入力歯車11aが跳ね上げるオイル31を貯留可能に構成された第2受け部34を備える。そして、図2及び図3に示すように、この第1及び第2受け部33,34は、ケース本体22の側壁22aからカバー体23に向かって突出するように、その側壁22aと一体的に形成される。
【0034】
この実施の形態における入力歯車軸11の軸線と中間歯車軸12の軸線と出力歯車軸13の軸線は、車両の前後方向に延びて設けられるものであり、第1及び第2受け部33,34は、その突出端がカバー体23に接触するように構成される。これにより、この第1及び第2受け部33,34は、側壁22aからカバー体23の間の全てにオイル31を貯留可能に構成される。」
・「【0042】
また、給油手段はオイル受け部32のオイル31を入力側オイルシール27にまで導くように構成される。具体的には、図1及び図3に示すように、入力歯車軸11のモータ側を軸支するベアリング17aと第2受け部34とを連通させる油道41は、ケース本体22の側壁22aに形成された流通孔41aと、第1アダプタ24に形成された流下孔41bとにより形成される。流下孔41bの下端は、入力側オイルシール27に連通するベアリング17aが装着される装着穴24aの穴壁に開口して形成され、その流下孔41bを介して供給されたオイル31は装着穴24aから入力側貫通孔24bに達し、そこに設けられた入力側オイルシール27にまで達するように構成される。
【0043】
一方、図3に示すように、入力歯車軸11のカバー体側を軸支するベアリング17bと第2受け部34とを連通させる油道42は、カバー体23に形成された油孔42である。第2受け部34の突出端はカバー体23に接触するので、この第2受け部34に貯留されたオイル31は、その油孔42を介してベアリング17bに導かれ、そのベアリング17bを潤滑するように構成される。
【0044】
ここで、この実施の形態では、動力発生源がモータ14であって、入力歯車軸11を支持するベアリング17aとモータ14との間の歯車ケース21に入力側オイルシール27が設けられる場合を示す。このように電力で駆動するモータ14を走行用動力発生源とする、いわゆる電気自動車では、その動力発生源であるモータ14の回転速度が、内燃機関を動力発生源とする場合に比較して高い。
【0045】
しかし、給油手段が入力歯車軸11の前後方向の両側を軸支するそれぞれのベアリング17a,17bと第2受け部34とを連通させる油道41,42を備える。そして、モータ側の油道41は、その油道41を介して供給されるオイル31を入力側オイルシール27にまで導くように構成した。このため、入力側オイルシール27にまで導かれたオイルはそこから温度を吸引して更に流下することになるので、例え、動力発生源がモータ14であっても、そのモータ14の回転軸14aの高回転に基づく入力側オイルシール27の温度上昇を抑制することが可能になる。」
6 参考資料2(特開2009-74564号公報、以下「参考1」という。)には、以下の事項が記載されている。
・「【0020】
また、ケーシング2の内部には、主軸3の上方から側方(図1の例では左側)にわたって、この発明のオイル受けに相当するオイルキャッチタンク11が設けられている。そしてこのオイルキャッチタンク11には、オイルキャッチタンク11から、例えば主軸3の軸受、カウンタ軸4の軸受、ギヤ7とギヤ8との噛み合い部、ギヤ9とリングギヤ10との噛み合い部(いずれも図示せず)などのオイルの被供給部へ向けて連通された油路12が設けられている。
【0021】
上記のオイルキャッチタンク11は、従来のいわゆる掻き上げ潤滑方式によるオイルの供給の際に、オイル溜め2bから掻き上げられたオイルの飛沫を受け止めて貯留する部分である。図1に示す例では、リングギヤ10が回転することによってオイル溜め2bから掻き上げられて、図1の矢印Aで示すような方向に跳ね飛ばされたオイルを、オイルキャッチタンク11で受け止めて貯留するようになっている。そして、オイルキャッチタンク11に貯留されたオイルは、油路12を通って、上記のようなオイルの被供給部へ供給される。」
7 参考資料3(特開2012-162144号公報、以下「参考3」という。)には、以下の事項が記載されている。
・「【0028】
トランスアクスルケース2の内部には、更に差動装置40が配設されている。この差動装置40は、デフケース41の外周側に形成されたファイナルリングギヤ42と、デフケース41内に配設された差動機構43と、を有する。そのファイナルリングギヤ42は、ファイナルドライブピニオンギヤ5bと噛み合っており、ファイナルドライブピニオンギヤ5bとの間の動力伝達を可能にする。また、差動機構43は、ファイナルリングギヤ42を介して入力された動力を左右のドライブシャフト(駆動軸)44に分配する。」
「【0036】
貯留部51は、トランスアクスルケース2内の下部で且つファイナルリングギヤ42の下方に形成されている。この貯留部51は、トランスアクスルケース2の底面の一部である底部51aと、この底部51aを挟むトランスアクスルケース2の内壁と、により潤滑油の貯留空間を形成する。この例示の底部51aは、ファイナルリングギヤ42の歯面と対向する当該ファイナルリングギヤ42と同心の曲面を有している。この貯留部51の潤滑油は、ファイナルリングギヤ42により掻き上げられ、システム内の潤滑や冷却を要する各部に供給される。
【0037】
油受け部52は、トランスアクスルケース2の内部において、カウンタドリブンギヤ5a、ファイナルドライブピニオンギヤ5b、ギヤ6a、カウンタドライブギヤ21a及びファイナルリングギヤ42よりも上方に配置する。この油受け部52は、トランスアクスルケース2の内壁から各軸の軸線方向へと突設したリブ53を備えている。この油受け部52は、そのリブ53が底部となり、このリブ53と当該リブ53を囲むトランスアクスルケース2の内壁とで潤滑油の貯留空間を形成する。そのリブ53は、ギヤ6aとカウンタドリブンギヤ5aとカウンタドライブギヤ21aの夫々の歯面の上端の位置に合わせて、ギヤ6aの側が最も高く、カウンタドライブギヤ21aの側が最も低くなっている。
【0038】
この油受け部52には、ファイナルリングギヤ42に対するリブ53の位置関係の適正化により潤滑油の流入口54が形成される。ファイナルリングギヤ42により掻き上げられた貯留部51の潤滑油は、その流入口54から入り込み、油受け部52で受け止められて貯留される。この油受け部52の潤滑油は、従来と同様に、油路(図示略)を介してシステム内の潤滑や冷却を要する各部に供給される。故に、油受け部52の側壁には、その油路と油受け部52との連通部として供給口55が形成されており、この供給口55から油受け部52の潤滑油が排出される。その油路は、供給口55と各部とを繋ぐ潤滑油の通路である。その供給口55は、カウンタドリブンギヤ5aの上方に配置する。従って、この油受け部52においては、潤滑油の上面が供給口55を下回ったとしても、カウンタドライブギヤ21a側に潤滑油が残っている。」
3 対比及び判断
(1) 対比
本件発明2と甲1発明とを、その有する機能に照らして対比する。
甲1発明では、割り型ケース1、2に、ギア・チェーン機構の回転で飛散した潤滑油11を集める油受け9が設けられているから、割り型ケース1、2の内部に潤滑油11が収容されていることは明らかである。したがって、甲1発明の「割り型のケース1、2」は本件発明2の「複数のケース部材」と「複数のケース部材からなり内部に潤滑油が収容されたケーシング」に相当し、同様に、「ベアリング4」は「ベアリング」に相当する。
甲1発明の「このケース1、2にベアリング4を介して軸承されるドライブシャフト3及び出力シャフト6に固定されているギア5及びギア7と、前記ギア5及びギア7に掛け回されたチェーン8とからなるギア・チェーン機構」と本件発明2の「このケーシングの内部にベアリングを介して回転可能に収容されたギヤ機構」とは、「このケーシングの内部にベアリングを介して回転可能に収容された動力伝達機構」という点で共通する。
甲1発明の「トラクタに設けられる変速機」は本件発明2の「動力伝達装置」に相当し、同様に、「ケース合わせされる前記ケース1、2」は「隣り合う前記ケース部材」に相当する。
甲1発明の「前記ギア・チェーン機構の回転で飛散した潤滑油11を集める」という事項と本件発明2の「前記ギヤ機構によって掻き上げられた潤滑油が流れる」という事項とは、「前記動力伝達機構によって掻き上げられた潤滑油が流れる」という点で共通する。
甲1発明の「油受け9」は本件発明2の「オイルガータ」に相当し、以下同様に、
「前記油受け9は、前記ケース1、2内にケース合わせにより形成され」という事項は「隣り合う前記オイルガータは、隣り合う前記ケース部材が合わせられる合わせ面で連結可能に延設され」という事項に、
「前記油受け9で集めた潤滑油11をベアリング4の部分に供給するために、前記油受け9の両側のケース内の上部より前記ベアリング4の部分に至る」という事項は「前記オイルガータを流れる潤滑油を前記ベアリング側に向けて流す」という事項に、
「潤滑穴10」は「オイル流路」に、
「油受け9と、隣り合うケース1、2のそれぞれに配置されているベアリング4との間に形成され」という事項は「前記オイルガータに対して、隣り合う前記ケース部材に配置された前記ベアリングに対応してそれぞれ設けられ」という事項に、
「ケース合わせにより形成される油受け9」は「隣り合う前記オイルガータ」に、
「前記ケース1、2の壁からケース合わせの合わせ面まで延びており」という事項は「前記ケース部材の壁部から前記合わせ面まで延設され」という事項に、
「油受け9を形成するケース合わせの合わせ面とは逆の、前記ケース1、2の壁側」は「前記オイルガータが延在する方向における、隣り合う前記オイルガータが連結される側とは逆の、前記ケース部材の壁部に連続する側」に、それぞれ相当する。
本件発明2の「壁部より内側」とは、壁部を有するケース部材の内部という意味ではなく、上記第2・2(2)で検討したとおり、動力伝達装置の外郭となるケース部材の壁部に対して、動力伝達装置の内側という意味であるから、甲1発明の「前記ケース1、2内に形成された前記潤滑穴10を介して前記潤滑油が前記ベアリング4に供給されるように開口され」という事項と、本件発明2の「前記壁部より内側で前記潤滑油が前記ベアリングに向けて流れるように開口され」という事項は、「所定経路で前記潤滑油が前記ベアリングに向けて流れるように開口され」という点で共通する。
甲1発明の「前記油受け9は、前記ギア・チェーン機構のドライブシャフト3より噛み合い部側に向けて開口している」という事項と本件発明2の「前記オイルガータは、前記ギヤ機構の軸心より噛み合い部側に向けて開口して配置されている」という事項とは、「前記オイルガータは、前記動力伝達機構の軸心より噛み合い部側に向けて開口して配置されている」という点で共通する。
そうすると、本件発明2と甲1発明とは、以下の点で一致し、相違する。
(一致点)
「複数のケース部材からなり内部に潤滑油が収容されたケーシングと、このケーシングの内部にベアリングを介して回転可能に収容された動力伝達機構とを備えた動力伝達装置であって、
隣り合う前記ケース部材には、前記動力伝達機構によって掻き上げられた潤滑油が流れるオイルガータがそれぞれ設けられ、
隣り合う前記オイルガータは、隣り合う前記ケース部材が合わせられる合わせ面で連結可能に延設され、
前記オイルガータと前記ベアリングとの間には、前記オイルガータを流れる潤滑油を前記ベアリング側に向けて流すオイル流路が設けられ、
隣り合う前記ケース部材には、前記ベアリングがそれぞれ配置され、
前記オイル流路は、前記オイルガータに対して、隣り合う前記ケース部材に配置された前記ベアリングに対応してそれぞれ設けられ、
隣り合う前記オイルガータは、前記ケース部材の壁部から前記合わせ面まで延設され、
前記オイル流路は、前記オイルガータの、当該オイルガータが延在する方向における、隣り合う前記オイルガータが連結される側とは逆の、前記ケース部材の壁部に連続する側で、前記オイルガータに、所定経路で前記潤滑油が前記ベアリングに向けて流れるように開口され、
前記オイルガータは、前記動力伝達機構の軸心より噛み合い部側に向けて開口して配置されている動力伝達装置。」
(相違点1)
動力伝達機構に関し、本件発明2では「ギヤ機構」であるのに対し、甲1発明では「ギア・チェーン機構」である点。
(相違点2)
潤滑油がベアリングに向けて流れる所定経路に関し、本件発明2では「前記壁部より内側で」潤滑油がベアリングに向けて流れるのに対し、甲1発明では「前記ケース1、2内に形成された前記潤滑穴10を介して」潤滑油がベアリングに向けて流れる点。
(2) 判断
事案に鑑み相違点2から検討する。
オイル流路が、オイルガータに、動力伝達装置の壁部より内側で潤滑油がベアリングに向けて流れるように開口される構成は、甲2~4、参考1~3のいずれにも記載されておらず、上記構成が周知技術であるとの証拠は無いから、甲1発明及び甲2~4、参考1~3に記載された技術的事項に基いて、相違点2に係る本件発明2の構成とすることは、当業者といえども容易に想到し得たことであるとはいえない。
したがって、本件発明2は、相違点1について検討するまでもなく、甲1発明及び甲2~4、参考1~3に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
第6 取消理由通知において採用しなかった特許異議の申立ての理由について
1 取消理由通知において採用しなかった特許異議の申立ての理由は、概ね、次のとおりである。
(1)本件発明3は、甲1に記載された発明及び甲3に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明3に係る特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものである。
(2)本件発明4は、甲1に記載された発明及び甲4に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明4に係る特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものである。
2 本件特許3について
(1) 甲1について
上記第5・1から、甲1には、次の発明(以下「甲1-2発明」という。)が記載されていると認められる。
(甲1-2発明)
「前記ギア・チェーン機構は、エンジン回転を入力する前記ドライブシャフト3を有し、
前記油受け9は、前記ドライブシャフト3を軸承する前記ベアリング4に対応して配置されている、
甲1発明におけるトラクタに設けられる変速機。」
(2) 対比
本件発明3と甲1-2発明とを、その有する機能に照らして対比する。
本件発明2と本件発明3は、「複数のケース部材からなり内部に潤滑油が収容されたケーシングと、このケーシングの内部にベアリングを介して回転可能に収容されたギヤ機構とを備えた動力伝達装置であって、
隣り合う前記ケース部材には、前記ギヤ機構によって掻き上げられた潤滑油が流れるオイルガータがそれぞれ設けられ、
隣り合う前記オイルガータは、隣り合う前記ケース部材が合わせられる合わせ面で連結可能に延設され、
前記オイルガータと前記ベアリングとの間には、前記オイルガータを流れる潤滑油を前記ベアリング側に向けて流すオイル流路が設けられ、
隣り合う前記ケース部材には、前記ベアリングがそれぞれ配置され、
前記オイル流路は、前記オイルガータに対して、隣り合う前記ケース部材に配置された前記ベアリングに対応してそれぞれ設けられ、」との部分において共通するから、当該共通部分に関する本件発明3と、甲1-2発明が引用する甲1発明との対比は、上記第5・3(1)で検討したとおりである。
そして、甲1-2発明の「エンジン回転を入力するドライブシャフト3」と本件発明3の「電動機構によって回転される電動軸」とは、「動力源によって回転される軸」という点で共通する。
また、甲1-2発明の「軸賞する」という事項は本件発明3の「支持する」という事項に相当する。
そうすると、本件発明3と甲1-2発明とは、以下の点で一致し、相違する。
(一致点)
「複数のケース部材からなり内部に潤滑油が収容されたケーシングと、このケーシングの内部にベアリングを介して回転可能に収容された動力伝達機構とを備えた動力伝達装置であって、
隣り合う前記ケース部材には、前記動力伝達機構によって掻き上げられた潤滑油が流れるオイルガータがそれぞれ設けられ、
隣り合う前記オイルガータは、隣り合う前記ケース部材が合わせられる合わせ面で連結可能に延設され、
前記オイルガータと前記ベアリングとの間には、前記オイルガータを流れる潤滑油を前記ベアリング側に向けて流すオイル流路が設けられ、
隣り合う前記ケース部材には、前記ベアリングがそれぞれ配置され、
前記オイル流路は、前記オイルガータに対して、隣り合う前記ケース部材に配置された前記ベアリングに対応してそれぞれ設けられ、
前記ギヤ機構は、動力源によって回転される軸を有し、
前記オイルガータは、前記軸を支持する前記ベアリングに対応して配置されている動力伝達装置。」
(相違点1)
動力伝達機構に関し、本件発明3では「ギヤ機構」であるのに対し、甲1-3発明では「ギア・チェーン機構」である点。
(相違点3)
動力源によって回転される軸に関し、本件発明3では「電動機構によって回転される電動軸」であるのに対し、甲1-3発明では「エンジン回転を入力する前記ドライブシャフト3」である点。
(3) 判断
事案に鑑み相違点3から検討する。
甲3には車両に搭載されるモータ付きデファレンシャル装置が記載されている。しかし、甲1-2発明はエンジン駆動のトラクタに設けられる変速機であって、甲3に記載された技術的事項とは技術分野が異なるため、甲1-2発明のエンジン駆動のトラクタに設けられる変速機に、モータ付きデファレンシャル装置を適用する動機付けはない。むしろ、甲3の【0007】【0008】には、オイル受け手段としてオイルガータ等を必要とするものは部品コストと取付コストが発生するため、オイルガータ等に代えてオイル受けリブを設けることを前提としているため、甲3に記載された技術的事項を、オイルガータが設けられている甲1-2発明に適用することには阻害要因があるといえる。
また、参考1にもモータを駆動源とした車両用ギヤトレーンが記載されているが、甲1-2発明はエンジン駆動のトラクタに設けられる変速機であるため、車両用ギヤトレーンとは技術分野が同一とは言えないし、エンジン駆動のトラクタに設けられている変速機に、モータを駆動源としたギヤトレーンを適用する動機付けもない。
したがって、甲1-2発明及び甲3や参考1に記載された技術的事項に基いて、相違点3に係る本件発明3の構成とすることは、当業者といえども容易に想到し得たことであるとはいえない。
よって、本件発明3は、相違点1について検討するまでもなく、甲1-2発明及び甲3や参考1に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
3 本件特許4について
(1) 甲1について
上記第5・1から、甲1には、次の発明(以下「甲1-3発明」という。)が記載されていると認められる。
(甲1-3発明)
「前記ギア・チェーン機構は、下方に配置されるギア7と、ギヤ部が前記油受け9の近傍に配置されるギア5とを有し、
前記ギア7は、前記ギア・チェーン機構に伝達された回転を減速して取り出す出力シャフト6に固定されたギア7である、
甲1発明におけるトラクタに設けられる変速機。」
(2) 対比
本件発明4と甲1-3発明とを、その有する機能に照らして対比する。
本件発明2と本件発明4は、「複数のケース部材からなり内部に潤滑油が収容されたケーシングと、このケーシングの内部にベアリングを介して回転可能に収容されたギヤ機構とを備えた動力伝達装置であって、
隣り合う前記ケース部材には、前記ギヤ機構によって掻き上げられた潤滑油が流れるオイルガータがそれぞれ設けられ、
隣り合う前記オイルガータは、隣り合う前記ケース部材が合わせられる合わせ面で連結可能に延設され、
前記オイルガータと前記ベアリングとの間には、前記オイルガータを流れる潤滑油を前記ベアリング側に向けて流すオイル流路が設けられ、
隣り合う前記ケース部材には、前記ベアリングがそれぞれ配置され、
前記オイル流路は、前記オイルガータに対して、隣り合う前記ケース部材に配置された前記ベアリングに対応してそれぞれ設けられ、」との部分において共通するから、当該共通部分に関する本件発明4と、甲1-2発明が引用する甲1発明との対比は、上記第5・3(1)で検討したとおりである。
そして、甲1-3発明の「ギア7」と「ギア5」は、それぞれ本件発明3の「第1回転部材」と「第2回転部材」に相当する。
そうすると、本件発明4と甲1-3発明とは、以下の点で一致し、相違する。
(一致点)
「複数のケース部材からなり内部に潤滑油が収容されたケーシングと、このケーシングの内部にベアリングを介して回転可能に収容された動力伝達機構とを備えた動力伝達装置であって、
隣り合う前記ケース部材には、前記動力伝達機構によって掻き上げられた潤滑油が流れるオイルガータがそれぞれ設けられ、
隣り合う前記オイルガータは、隣り合う前記ケース部材が合わせられる合わせ面で連結可能に延設され、
前記オイルガータと前記ベアリングとの間には、前記オイルガータを流れる潤滑油を前記ベアリング側に向けて流すオイル流路が設けられ、
隣り合う前記ケース部材には、前記ベアリングがそれぞれ配置され、
前記オイル流路は、前記オイルガータに対して、隣り合う前記ケース部材に配置された前記ベアリングに対応してそれぞれ設けられ、
前記ギヤ機構は、下方に配置される第1回転部材と、ギヤ部が前記オイルガータの近傍に配置される第2回転部材とを有する、
動力伝達装置。」
(相違点1)
動力伝達機構に関し、本件発明4では「ギヤ機構」であるのに対し、甲1-3発明では「ギア・チェーン機構」である点。
(相違点4)
本件発明4では、第1回転部材が「少なくともギヤ部の一部が潤滑油の静的油面より」下方に配置され、「前記ケーシングには、前記第1回転部材のギヤ部が掻き上げた潤滑油を前記第2回転部材のギヤ部の噛み合い部に導く案内部が設けられ、」「前記案内部は、前記第1回転部材のギヤ部の外周に位置する前記ケース部材の内壁面である」のに対し、甲1-4発明では、ギア7の一部が潤滑油の静的油面より下方に配置されているか明らかではなく、ケースに案内部が設けられていない点。
(相違点5)
本件発明4の第1回転部材は、「前記ギヤ機構に伝達された駆動力が伝達されるデフアレンシャル装置」であるのに対し、甲1-4発明のギア7は、「前記ギア・チェーン機構に伝達された回転を減速して取り出す出力シャフト6に固定されたギア7」である点。
(3) 判断
事案に鑑み相違点4から検討する。
甲4(【0027】【0028】【0031】【0035】参照)には、下方に配置される第1従動ギヤ12aによって掻き上げられた潤滑油4を上方に配置される第2従動ギヤ12b及び第3従動ギヤ12cに誘導するために、潤滑油4が収容されるオイルパン3aに臨むように第1従動ギヤ12aを配置するとともに、第1従動ギヤ12aが掻き上げた潤滑油を上方のギヤに誘導可能な第1隔壁16と第2隔壁17を設ける技術的事項が記載されている。
しかし、甲4の【0032】には、第1隔壁16とミッションケーシング3の壁部3bとの間、第2隔壁17とミッションケーシング3の壁部3cとの間には、潤滑油4をオイルパン3aに戻す戻し油路19、20が形成してあることが記載されているため、上方に配置されるギヤに潤滑油を誘導する第1隔壁16と第2隔壁17を、ミッションケーシング3の壁部で兼用させた場合、潤滑油4をオイルパン3aに戻す戻し油路19、20がなくなってしまうため、第1隔壁16と第2隔壁17を、ミッションケーシング3の壁部で兼用させることには阻害要因がある。
したがって、甲1-3発明及び甲3に記載された技術的事項に基いて、第1回転部材のギヤ部が掻き上げた潤滑油を第2回転部材のギヤ部の噛み合い部に導く案内部は前記第1回転部材のギヤ部の外周に位置するケース部材の内壁面であるという構成とすることは、当業者といえども容易に想到し得たことであるとはいえない。
よって、本件発明4は、相違点1、相違点5について検討するまでもなく、甲1-3発明及び甲4に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
第7 特許異議申立人の主張について
1 特許異議申立人の主張
特許異議申立人は以下の主張をしている。
(1)オイルガータのオイル流路を、ベアリングに向けて直接開口させることは、甲2、甲3に加え、参考1、参考2に記載されているように周知の技術であるから、本件特許発明2は、甲1発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
(2)電動機構によって回転される電動軸を有し、オイルガータが、電動軸を支持するベアリングに対応して配置される構成は、参考1にも記載されているように周知の技術ともいえるから、本件特許発明3は、甲3記載事項の甲1への適用は当業者が容易に想到し得るものである。
(3)参考2の図1にはデファレンシャル軸5を中心として回転するリングギャ10(第1回転部材)で掻き上げられたオイルが、図1の矢印Aのように、リングギヤ10のギヤ部の外周に位置するケーシング2(ケース部材)の内壁面で構成された案内部に沿って、オイルキャッチタンク11 (オイルガータ)の近傍に配置されたギヤ8(第2回転部材)の噛み合い部に導かれることが記載されている。
また、参考3の図2には、デフケース41のファイナルリングギヤ42(第1回転部材)で掻き上げられた潤滑油が、図2の白抜き矢印のように、ファイナルリングギヤ42のギヤ部の外周に位置するトランスアクスルケース2(ケース部材)の内壁面で構成された案内部に沿って、油受け部52(オイルガータ)の近傍に配置されたギヤ5a、5b(第2回転部材)の噛み合い部に導かれることが記載されている。
ギヤ部が掻き上げた潤滑油をオイルガータの近傍に配置された回転部材の噛み合い部に導くようにしてケーシングに設けられる案内部を、ケース部材の内壁面で構成することは、参考2や参考3に記載されているように周知の技術であるとともに、それらの技術は本件特許発明や甲1と同じ技術分野に属する技術であって、当該周知技術の適用に動機付けはあるから、本件特許発明4は、甲1発明に参考2や参考3に記載された周知の技術を適用することで、当業者が容易に発明をすることができたものである。
2 上記主張について検討する。
(1)の主張について
オイルガータのオイル流路を、ベアリングに向けて直接開口させることが周知の技術であったとしても、上記第5・3(2)で検討したとおり、オイル流路が、オイルガータに、動力伝達装置の壁部より内側で潤滑油がベアリングに向けて流れるように開口される構成は、甲2~4、参考1~3のいずれにも記載されておらず、上記構成が周知技術であるとの証拠は無いから、本件特許発明2は、甲1発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえず、上記(1)の主張を採用することはできない。
(2)の主張について
電動機構によって回転される電動軸を有し、オイルガータが、電動軸を支持するベアリングに対応して配置される構成が参考1に記載されているとしても、上記第6・2(3)で検討したとおり、甲1-2発明はエンジン駆動のトラクタに設けられる変速機であるため、参考1の車両用ギヤトレーンとは技術分野が同一とは言えないし、エンジン駆動のトラクタに設けられている変速機に、モータを駆動源としたギヤトレーンを適用する動機付けもない。
したがって、上記(2)の主張を採用することはできない。
(3)の主張について
参考2の【0021】には、「リングギヤ10が回転することによってオイル溜め2bから掻き上げられて、図1の矢印Aで示すような方向に跳ね飛ばされたオイルを、オイルキャッチタンク11で受け止めて貯留する」と記載されており、【0020】には、「オイルキャッチタンク11には、オイルキャッチタンク11から、例えば主軸3の軸受、カウンタ軸4の軸受、ギヤ7とギヤ8との噛み合い部、ギヤ9とリングギヤ10との噛み合い部(いずれも図示せず)などのオイルの被供給部へ向けて連通された油路12が設けられている。」と記載されている。また、図1の矢印Aはギヤの噛み合い部には向いていない。これらのことから、参考2には、リングギヤ10が回転することによって跳ね飛ばされたオイルをオイルキャッチタンク11で受け止め、油路12を介してギヤとギヤとの噛み合い部へオイルを導くことは記載されているが、ギヤ部が掻き上げた潤滑油をオイルガータの近傍に配置された回転部材の噛み合い部に導くようにしてケーシングに設けられる案内部が記載されているとは認められない。
また、参考3の【0038】には「ファイナルリングギヤ42により掻き上げられた貯留部51の潤滑油は、その流入口54から入り込み、油受け部52で受け止められて貯留される。この油受け部52の潤滑油は、従来と同様に、油路(図示略)を介してシステム内の潤滑や冷却を要する各部に供給される。」と記載されている。また、図2の白抜き矢印はトランスアクスルケース2の右上を向いており、ギヤ5a、5bの噛み合い部を向いているとはいえない。したがって、ギヤ部が掻き上げた潤滑油をオイルガータの近傍に配置された回転部材の噛み合い部に導くようにしてケーシングに設けられる案内部が記載されているとは認められない。
よって、上記(3)の主張を採用することはできない。
第8 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議の申立ての理由によっては、本件の請求項2~4に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件の請求項2~4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
本件の請求項1に係る特許は、本件訂正により削除され、特許異議の申立ての対象が存在しなくなったため、当該特許に係る申立ては、特許法120条の8第1項で準用する同法135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
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2022-700666