特許異議申立
2025-700447
水性ポリマーエマルション、メークアップ化粧料及び水性ポリマーエマルションの製造方法
- 審判番号
- 2025-700447
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2020-064323
- 登録番号
- 7572705
- 請求日
- 2025年04月22日
- 審決日
- 2026年03月03日
- 公報発行日
- 2026年06月26日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】互応化学工業株式会社
- 【権利者代理人】弁理士法人北斗特許事務所
- 【異議申立人】染谷 信
- 審判長/審判官
- 審判長 阪野 誠司
- 審判官 江間 正起
- 審判官 小石 真弓
- 分類
- P1651.113-YAA(A61K) / P1651.121-YAA(A61K) / P1651.537-YAA(A61K)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第2項、特許法第29条第1項第3号、特許法第120条の5第4項、特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第1号、特許法第120条の5第7項、特許法第120条の5第5項、特許法第120条の5第9項、特許法第126条第7項、特許法第120条の8
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7572705号発明「水性ポリマーエマルション、メークアップ化粧料及び水性ポリマーエマルションの製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7572705号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された、特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~14〕、15、16について訂正することを認める。
特許第7572705号の請求項1、2、4、5、7~15及び16に係る特許を維持する。
特許第7572705号の請求項3及び6に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7572705号(以下「本件特許」という。)の請求項1~16に係る特許についての出願は、令和2年3月31日に出願され、令和6年10月16日に特許権の設定登録がされ、同年同月24日に特許掲載公報が発行され、その請求項1~16に係る発明の特許に対し、令和7年4月22日に、染谷 信(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。^
その後の主な手続の経緯は次のとおりである。
令和7年 6月27日付け 取消理由通知書
同年 9月 1日 意見書・訂正請求書の提出(特許権者)
同年 9月 9日付け 訂正請求があった旨の通知
同年11月25日付け 取消理由通知書(決定の予告)
令和8年 1月13日 意見書・訂正請求書の提出(特許権者)
令和7年9月1日提出の訂正請求書による訂正の請求は、令和8年1月13日提出の訂正請求書による訂正の請求がされたので、特許法第120条の5第7項の規定により取り下げられたものとみなす。
申立人は、令和7年9月9日付けの訂正請求があった旨の通知に対して、指定した期間内に何ら応答をしていない。
また、令和8年1月13日提出の訂正請求書による訂正の請求に関し、すでに申立人には意見書の提出の機会が与えられており、そして、下記第2以降で説示するとおり、当該訂正の請求によって特許請求の範囲が相当程度減縮され、これまで提出された全ての証拠や意見等を踏まえて更に審理を進めたとしても特許を維持すべきとの結論となることから、特許法第120条の5第5項ただし書の規定により、申立人には更なる意見書を提出する機会を与える必要がないと判断した。
第2 訂正請求について
1 訂正の趣旨
令和8年1月13日に提出された訂正請求書による訂正(以下「本件訂正」という。)の「請求の趣旨」は、
「特許第7572705号の特許請求の範囲を、本訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~16について訂正することを求める。」
というものである。
2 訂正の内容
本件訂正の内容は、訂正請求書の記載及び訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲の記載からみて、次の訂正事項1~13からなるものであると認められる。下線は、訂正による記載の変更箇所を、「・・・」は記載の省略を示す。
(1)訂正事項1
ア 訂正事項1-1
特許請求の範囲の請求項1に、
「ポリマー粒子(A)、高分子乳化剤(B)、及び水(C)を含有し、」
と記載されているのを、
「ポリマー粒子(A)、高分子乳化剤(B)、及び水(C)を含有し、
前記ポリマー粒子(A)と前記高分子乳化剤(B)とが、前記ポリマー粒子(A)を前記高分子乳化剤(B)が覆うことで、コアシェル構造のエマルション粒子を構成し、」
に訂正する。
イ 訂正事項1-2
特許請求の範囲の請求項1に、
「前記高分子乳化剤(B)は、エチレン性不飽和単量体(b)の重合体であり、」
と記載されているのを、
「前記高分子乳化剤(B)は、エチレン性不飽和単量体(b)(ただし、スチレン及び/又はα-メチルスチレンを除く)の重合体(ただし、アクリル・ウレタン複合樹脂を除く)であり、」
に訂正する。
ウ 訂正事項1-3
「前記エチレン性不飽和単量体(a)と前記エチレン性不飽和単量体(b)とのうち少なくとも一方は、屈折率1.50以上のエチレン性不飽和単量体(c)を含有し、」
と記載されているのを、
「前記エチレン性不飽和単量体(a)と前記エチレン性不飽和単量体(b)とのうち少なくとも一方は、屈折率1.50以上のエチレン性不飽和単量体(c)を含有し、
前記エチレン性不飽和単量体(c)が、m-フェノキシベンジル(メタ)アクリレートと2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピル(メタ)アクリレートとのうち少なくとも一方を含有し、」
に訂正する。
エ 請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項3~14も同様に訂正する。
(2)訂正事項2
ア 訂正事項2-1
特許請求の範囲の請求項2に、
「ポリマー粒子(A)、高分子乳化剤(B)、及び水(C)を含有し、」
と記載されているのを、
「ポリマー粒子(A)、高分子乳化剤(B)、及び水(C)を含有し、
前記ポリマー粒子(A)と前記高分子乳化剤(B)とが、前記ポリマー粒子(A)を前記高分子乳化剤(B)が覆うことで、コアシェル構造のエマルション粒子を構成し、」
に訂正する。
イ 訂正事項2-2
特許請求の範囲の請求項2に、
「前記高分子乳化剤(B)は、エチレン性不飽和単量体(b)の重合体であり、」
と記載されているのを、
「前記高分子乳化剤(B)は、エチレン性不飽和単量体(b)の重合体(ただし、アクリル・ウレタン複合樹脂を除く)であり、」
に訂正する。
ウ 訂正事項2-3
特許請求の範囲の請求項2に、
「前記エチレン性不飽和単量体(a)と前記エチレン性不飽和単量体(b)とのうち少なくとも一方は、屈折率1.50以上のエチレン性不飽和単量体(c)を含有し、」
と記載されているのを、
「前記エチレン性不飽和単量体(a)と前記エチレン性不飽和単量体(b)とのうち少なくとも一方は、屈折率1.50以上のエチレン性不飽和単量体(c)を含有し、
前記エチレン性不飽和単量体(c)が、m-フェノキシベンジル(メタ)アクリレートと2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピル(メタ)アクリレートとのうち少なくとも一方を含有し、」
に訂正する。
エ 請求項2の記載を直接的又は間接的に引用する請求項4~14も同様に訂正する。
(3) 訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3を削除する。
(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項4に、
「請求項1から3のいずれか一項に記載の水性ポリマーエマルション。」
と記載されているのを、
「請求項1又は2に記載の水性ポリマーエマルション。」
に訂正する。
請求項4の記載を直接的又は間接的に引用する請求項5~14も同様に訂正する。
(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項5に、
「請求項1から4のいずれか一項に記載の水性ポリマーエマルション。」
と記載されているのを、
「請求項1、2及び4のいずれか一項に記載の水性ポリマーエマルション。」
に訂正する。
請求項5の記載を直接的又は間接的に引用する請求項6~14も同様に訂正する。
(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項6を削除する。
(7)訂正事項7
特許請求の範囲の請求項7に、
「請求項1から6のいずれか一項に記載の水性ポリマーエマルション。」
と記載されているのを、
「請求項1、2及び4から5のいずれか一項に記載の水性ポリマーエマルション。」
に訂正する。
請求項7の記載を直接的又は間接的に引用する請求項8~14も同様に訂正する。
(8)訂正事項8
特許請求の範囲の請求項8に、
「請求項1から7のいずれか一項に記載の水性ポリマーエマルション。」
と記載されているのを、
「請求項1、2、4、5及び7のいずれか一項に記載の水性ポリマーエマルション。」に訂正する。
請求項8の記載を直接的又は間接的に引用する請求項9~14も同様に訂正する。
(9)訂正事項9
特許請求の範囲の請求項9に、
「請求項1から8のいずれか一項に記載の水性ポリマーエマルション。」
と記載されているのを、
「請求項1、2、4、5、7及び8のいずれか一項に記載の水性ポリマーエマルション。」
に訂正する。
請求項9の記載を直接的又は間接的に引用する請求項10~14も同様に訂正する。
(10)訂正事項10
特許請求の範囲の請求項10に、
「請求項1から9のいずれか一項に記載の水性ポリマーエマルション。」
と記載されているのを、
「請求項1、2、4、5及び7から9のいずれか一項に記載の水性ポリマーエマルション。」
に訂正する。
請求項10の記載を直接的又は間接的に引用する請求項11~14も同様に訂正する。
(11)訂正事項11
特許請求の範囲の請求項12に、
「請求項1から11のいずれか一項に記載の水性ポリマーエマルション。」
と記載されているのを、
「請求項1、2、4、5及び7から11のいずれか一項に記載の水性ポリマーエマルション。」
に訂正する。
請求項12の記載を直接的又は間接的に引用する請求項13及び14も同様に訂正する。
(12)訂正事項12
ア 訂正事項12-1
特許請求の範囲の請求項15に、
「ポリマー粒子(A)、高分子乳化剤(B)、及び水(C)を含有する水性ポリマーエマルションの製造方法であり、」
と記載されているのを、
「ポリマー粒子(A)、高分子乳化剤(B)、及び水(C)を含有し、前記ポリマー粒子(A)と前記高分子乳化剤(B)とが、前記ポリマー粒子(A)を前記高分子乳化剤(B)が覆うことで、コアシェル構造のエマルション粒子を構成する水性ポリマーエマルションの製造方法であり、」
に訂正する。
イ 訂正事項12-2
特許請求の範囲の請求項15に、
「前記高分子乳化剤(B)は、エチレン性不飽和単量体(b)の重合体であり、」
と記載されているのを、
「前記高分子乳化剤(B)は、エチレン性不飽和単量体(b)(ただし、スチレン及び/又はα-メチルスチレンを除く)の重合体(ただし、アクリル・ウレタン複合樹脂を除く)であり、」
に訂正する。
ウ 訂正事項12-3
特許請求の範囲の請求項15に、
「前記エチレン性不飽和単量体(a)と前記エチレン性不飽和単量体(b)とのうち少なくとも一方は、屈折率1.50以上のエチレン性不飽和単量体(c)を含有し、」
と記載されているのを、
「前記エチレン性不飽和単量体(a)と前記エチレン性不飽和単量体(b)とのうち少なくとも一方は、屈折率1.50以上のエチレン性不飽和単量体(c)を含有し、
前記エチレン性不飽和単量体(c)が、m-フェノキシベンジル(メタ)アクリレートと2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピル(メタ)アクリレートとのうち少なくとも一方を含有し、」
に訂正する。
(13)訂正事項13
ア 訂正事項13-1
特許請求の範囲の請求項16に、
「ポリマー粒子(A)、高分子乳化剤(B)、及び水(C)を含有する水性ポリマーエマルションの製造方法であり、」
と記載されているのを、
「ポリマー粒子(A)、高分子乳化剤(B)、及び水(C)を含有し、
前記ポリマー粒子(A)と前記高分子乳化剤(B)とが、前記ポリマー粒子(A)を前記高分子乳化剤(B)が覆うことで、コアシェル構造のエマルション粒子を構成する水性ポリマーエマルションの製造方法であり、」
に訂正する。
イ 訂正事項13-2
特許請求の範囲の請求項16に、
「前記高分子乳化剤(B)は、エチレン性不飽和単量体(b)の重合体であり、」
と記載されているのを、
「前記高分子乳化剤(B)は、エチレン性不飽和単量体(b)の重合体(ただし、アクリル・ウレタン複合樹脂を除く)であり、」
に訂正する。
ウ 訂正事項13-3
特許請求の範囲の請求項16に、
「前記エチレン性不飽和単量体(a)と前記エチレン性不飽和単量体(b)とのうち少なくとも一方は、屈折率1.50以上のエチレン性不飽和単量体(c)を含有し、」
と記載されているのを、
「前記エチレン性不飽和単量体(a)と前記エチレン性不飽和単量体(b)とのうち少なくとも一方は、屈折率1.50以上のエチレン性不飽和単量体(c)を含有し、
前記エチレン性不飽和単量体(c)が、m-フェノキシベンジル(メタ)アクリレートと2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピル(メタ)アクリレートとのうち少なくとも一方を含有し、」
に訂正する。
3 本件訂正による訂正の適否
(1)訂正事項1について
ア 訂正事項1-1について
訂正事項1-1は、訂正前の請求項1に、「前記ポリマー粒子(A)と前記高分子乳化剤(B)とが、前記ポリマー粒子(A)を前記高分子乳化剤(B)が覆うことで、コアシェル構造のエマルション粒子を構成し、」との記載を追加することにより、「ポリマー粒子(A)」と「高分子乳化剤(B)」の関係を特定し、限定するものである。
したがって、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とする訂正である。
また、訂正事項1-1は、本件特許の願書に添付した明細書又は特許請求の範囲(以下「特許明細書等」という。)の【0017】に記載された「ポリマー粒子(A)を高分子乳化剤(B)が覆うことで、コアシェル構造のエマルション粒子を構成できる。」との記載に基づくものであり、特許明細書等に記載した事項の範囲内においてする訂正に該当することは明らかである。さらに、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。
イ 訂正事項1-2について
訂正事項1-2は、訂正前の請求項1において、「(ただし、スチレン及び/又はα-メチルスチレンを除く)」との記載、及び「(ただし、アクリル・ウレタン複合樹脂を除く)」との記載を追加することにより、「エチレン性不飽和単量体(b)」の選択肢から「スチレン」及び「α-メチルスチレン」を除くとともに、「高分子乳化剤(B)」から「アクリル・ウレタン複合樹脂」を除いて、当該事項の範囲をそれぞれ限定するものである。
したがって、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とする訂正である。
また、訂正事項1-2は、「エチレン性不飽和単量体(b)」及び「高分子乳化剤(B)」から、包含される一部の事項を除くものであるから、特許明細書等に記載した事項の範囲内においてする訂正に該当することは明らかであり、さらに、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。
ウ 訂正事項1-3について
訂正事項1-3は、訂正前の請求項1に、「前記エチレン性不飽和単量体(c)は、m-フェノキシベンジル(メタ)アクリレートと2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピル(メタ)アクリレートとのうち少なくとも一方を含有し、」との記載を追加することにより、「エチレン性不飽和単量体(c)」の範囲を限定するものである。
したがって、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とする訂正である。
また、特許明細書等の【0023】の「エチレン性不飽和単量体(c)がm-フェノキシベンジルアクリレート(mPBA)及び2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピルアクリレート(HPPA)のうち、少なくとも一方を含有すれば、より好ましい。」との記載に基づくものであり、特許明細書等に記載した事項の範囲内においてする訂正に該当し、さらに、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。
(2)訂正事項2について
ア 訂正事項2-1について
訂正事項2-1は、訂正事項1-1と同様の訂正である。
よって、上記(1)アで述べたものと同様の理由により、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とする訂正である。
また、上記(1)アで述べたものと同様の理由により、特許明細書等に記載した事項の範囲内においてする訂正に該当し、さらに、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。
イ 訂正事項2-2について
訂正事項2-2は、訂正前の請求項2において、「(ただし、アクリル・ウレタン複合樹脂を除く)」との記載を追加することにより、「高分子乳化剤(B)」から「アクリル・ウレタン複合樹脂」を除いて、当該事項の範囲を限定するものである。
したがって、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とする訂正である。
また、「高分子乳化剤(B)」から、包含される一部の事項を除くものであるから、特許明細書等に記載した事項の範囲内においてする訂正に該当することは明らかであり、さらに、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。
ウ 訂正事項2-3について
訂正事項2-3は、訂正事項1-3と同様の訂正である。
よって、上記(1)ウで述べたものと同様の理由により、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とする訂正である。
また、上記(1)ウで述べたものと同様の理由により、特許明細書等に記載した事項の範囲内においてする訂正に該当し、さらに、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。
(3)訂正事項3及び6について
訂正事項3及び6は、請求項3及び6を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とする訂正である。
また、請求項を削除するものであるから、特許明細書等に記載した事項の範囲内においてする訂正に該当し、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。
(4)訂正事項4、5及び7~11について
訂正事項4、5及び7~11は、訂正前の請求項4、5、7~10及び12において、引用する請求項のうち一部の請求項を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とする訂正である。
また、引用する請求項のうち一部の請求項を削除するものであるから、特許明細書等に記載した事項の範囲内においてする訂正に該当し、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。
(5)訂正事項12について
ア 訂正事項12-1について
訂正事項12-1は、訂正事項1-1と同様の訂正である。
よって、上記(1)アで述べたものと同様の理由により、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とする訂正である。
また、上記(1)アで述べたものと同様の理由により、特許明細書等に記載した事項の範囲内においてする訂正に該当し、さらに、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。
イ 訂正事項12-2について
訂正事項12-2は、訂正事項1-2と同様の訂正である。
よって、上記(1)イで述べたものと同様の理由により、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とする訂正である。
また、上記(1)イで述べたものと同様の理由により、特許明細書等に記載した事項の範囲内においてする訂正に該当し、さらに、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。
ウ 訂正事項12-3について
訂正事項12-3は、訂正事項1-3と同様の訂正である。
よって、上記(1)ウで述べたものと同様の理由により、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とする訂正である。
また、上記(1)ウで述べたものと同様の理由により、特許明細書等に記載した事項の範囲内においてする訂正に該当し、さらに、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。
(6)訂正事項13について
ア 訂正事項13-1について
訂正事項13-1は、訂正事項1-1と同様の訂正である。
よって、上記(1)アで述べたものと同様の理由により、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とする訂正である。
また、上記(1)アで述べたものと同様の理由により、特許明細書等に記載した事項の範囲内においてする訂正に該当し、さらに、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。
イ 訂正事項13-2について
訂正事項13-2は、訂正事項2-2と同様の訂正である。
よって、上記(2)イで述べたものと同様の理由により、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とする訂正である。
また、上記(2)イで述べたものと同様の理由により、特許明細書等に記載した事項の範囲内においてする訂正に該当し、さらに、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。
ウ 訂正事項13-3について
訂正事項13-3は、訂正事項1-3と同様の訂正である。
よって、上記(1)ウで述べたものと同様の理由により、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とする訂正である。
また、上記(1)ウで述べたものと同様の理由により、特許明細書等に記載した事項の範囲内においてする訂正に該当し、さらに、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。
(7)独立特許要件について
本件特許異議申立においては、訂正前の全ての請求項1~16について特許異議の申立てがされているので、訂正前の請求項1~16について、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項に規定する要件(いわゆる「独立特許要件」)は課されない。
(8)一群の請求項について
訂正前の請求項3~14は訂正前の請求項1を直接又は間接に引用しているものであって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。したがって、訂正前の請求項1、3~14に対応する訂正後の請求項1、3~14は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
訂正前の請求項4~14は訂正前の請求項2を直接又は間接に引用しているものであって、訂正事項2によって記載が訂正される請求項2に連動して訂正されるものである。したがって、訂正前の請求項2、4~14に対応する訂正後の請求項2、4~14は、一群の請求項である。
これら二つの一群の請求項は、共通する請求項4~14を有しているため、組み合わされ、訂正前の請求項1~14に対応する訂正後の請求項1~14が、一つの一群の請求項になっている。
したがって、本件訂正は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項に対してなされたものである。
4 まとめ
以上のとおり、訂正事項1~13による本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、訂正後の請求項〔1~14〕、15、16について訂正することを認める。
第3 本件訂正発明
本件訂正により訂正された請求項1~16に係る発明(以下「本件訂正発明1」等といい、まとめて「本件訂正発明」ということがある。)は、その特許請求の範囲の請求項1~16に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
ポリマー粒子(A)、高分子乳化剤(B)、及び水(C)を含有し、
前記ポリマー粒子(A)と前記高分子乳化剤(B)とが、前記ポリマー粒子(A)を前記高分子乳化剤(B)が覆うことで、コアシェル構造のエマルション粒子を構成し、
前記ポリマー粒子(A)は、エチレン性不飽和単量体(a)の重合体であり、
前記高分子乳化剤(B)は、エチレン性不飽和単量体(b)(ただし、スチレン及び/又はα-メチルスチレンを除く)の重合体(ただし、アクリル・ウレタン複合樹脂を除く)であり、
前記エチレン性不飽和単量体(a)と前記エチレン性不飽和単量体(b)とのうち少なくとも一方は、屈折率1.50以上のエチレン性不飽和単量体(c)を含有し、
前記エチレン性不飽和単量体(c)は、m-フェノキシベンジル(メタ)アクリレートと2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピル(メタ)アクリレートとのうち少なくとも一方を含有し、
前記エチレン性不飽和単量体(a)が、スチレンを含有せず、又はスチレンを10質量%以下の割合で含有する、
水性ポリマーエマルション。
【請求項2】
ポリマー粒子(A)、高分子乳化剤(B)、及び水(C)を含有し、
前記ポリマー粒子(A)と前記高分子乳化剤(B)とが、前記ポリマー粒子(A)を前記高分子乳化剤(B)が覆うことで、コアシェル構造のエマルション粒子を構成し、
前記ポリマー粒子(A)は、エチレン性不飽和単量体(a)の重合体であり、
前記高分子乳化剤(B)は、エチレン性不飽和単量体(b)の重合体(ただし、アクリル・ウレタン複合樹脂を除く)であり、
前記エチレン性不飽和単量体(a)と前記エチレン性不飽和単量体(b)とのうち少なくとも一方は、屈折率1.50以上のエチレン性不飽和単量体(c)を含有し、
前記エチレン性不飽和単量体(c)が、m-フェノキシベンジル(メタ)アクリレートと2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピル(メタ)アクリレートとのうち少なくとも一方を含有し、
前記エチレン性不飽和単量体(b)が、スチレンを含有しない、
水性ポリマーエマルション。
【請求項3】
(削除)
【請求項4】
前記エチレン性不飽和単量体(a)が前記エチレン性不飽和単量体(c)を含有し、前記エチレン性不飽和単量体(a)に対する、前記エチレン性不飽和単量体(a)中の前記エチレン性不飽和単量体(c)の割合は、1質量%以上80質量%以下である、
請求項1又は2に記載の水性ポリマーエマルション。
【請求項5】
前記エチレン性不飽和単量体(b)が前記エチレン性不飽和単量体(c)を含有し、前記エチレン性不飽和単量体(b)に対する、前記エチレン性不飽和単量体(b)中の前記エチレン性不飽和単量体(c)の割合は、1質量%以上80質量%以下である、
請求項1、2及び4のいずれか一項に記載の水性ポリマーエマルション。
【請求項6】
(削除)
【請求項7】
前記エチレン性不飽和単量体(a)に対する前記高分子乳化剤(B)の割合は、15質量%以上60質量%以下である、
請求項1、2及び4から5のいずれか一項に記載の水性ポリマーエマルション。
【請求項8】
前記ポリマー粒子(A)のガラス転移温度は、10℃以上60℃以下である、
請求項1、2、4、5及び7のいずれか一項に記載の水性ポリマーエマルション。
【請求項9】
前記高分子乳化剤(B)の酸価は、70mgKOH/g以上250mgKOH/g以下である、
請求項1、2、4、5、7及び8のいずれか一項に記載の水性ポリマーエマルション。
【請求項10】
前記エチレン性不飽和単量体(b)は、炭素数8以上18以下のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステル(b2)を含有する、
請求項1、2、4、5及び7から9のいずれか一項に記載の水性ポリマーエマルション。
【請求項11】
前記(メタ)アクリル酸エステル(b2)の割合は、前記エチレン性不飽和単量体(b)に対して5質量%以上60質量%以下である、
請求項10に記載の水性ポリマーエマルション。
【請求項12】
メークアップ化粧料用である、
請求項1、2、4、5及び7から11のいずれか一項に記載の水性ポリマーエマルション。
【請求項13】
請求項12に記載の水性ポリマーエマルションを含有する、
メークアップ化粧料。
【請求項14】
爪用化粧料である、
請求項13に記載のメークアップ化粧料。
【請求項15】
ポリマー粒子(A)、高分子乳化剤(B)、及び水(C)を含有し、前記ポリマー粒子(A)と前記高分子乳化剤(B)とが、前記ポリマー粒子(A)を前記高分子乳化剤(B)が覆うことで、コアシェル構造のエマルション粒子を構成する水性ポリマーエマルションの製造方法であり、
水性溶媒中で前記高分子乳化剤(B)の存在下でエチレン性不飽和単量体(a)を乳化重合することで前記ポリマー粒子(A)を合成することを含み、
前記高分子乳化剤(B)は、エチレン性不飽和単量体(b)(ただし、スチレン及び/又はα-メチルスチレンを除く)の重合体(ただし、アクリル・ウレタン複合樹脂を除く)であり、
前記エチレン性不飽和単量体(a)と前記エチレン性不飽和単量体(b)とのうち少なくとも一方は、屈折率1.50以上のエチレン性不飽和単量体(c)を含有し、
前記エチレン性不飽和単量体(c)は、m-フェノキシベンジル(メタ)アクリレートと2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピル(メタ)アクリレートとのうち少なくとも一方を含有し、
前記エチレン性不飽和単量体(a)が、スチレンを含有せず、又はスチレンを10質量%以下の割合で含有する、
水性ポリマーエマルションの製造方法。
【請求項16】
ポリマー粒子(A)、高分子乳化剤(B)、及び水(C)を含有し、前記ポリマー粒子(A)と前記高分子乳化剤(B)とが、前記ポリマー粒子(A)を前記高分子乳化剤(B)が覆うことで、コアシェル構造のエマルション粒子を構成する水性ポリマーエマルションの製造方法であり、
水性溶媒中で前記高分子乳化剤(B)の存在下でエチレン性不飽和単量体(a)を乳化重合することで前記ポリマー粒子(A)を合成することを含み、
前記高分子乳化剤(B)は、エチレン性不飽和単量体(b)の重合体(ただし、アクリル・ウレタン複合樹脂を除く)であり、
前記エチレン性不飽和単量体(a)と前記エチレン性不飽和単量体(b)とのうち少なくとも一方は、屈折率1.50以上のエチレン性不飽和単量体(c)を含有し、
前記エチレン性不飽和単量体(c)が、m-フェノキシベンジル(メタ)アクリレートと2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピル(メタ)アクリレートとのうち少なくとも一方を含有し、
前記エチレン性不飽和単量体(b)が、スチレンを含有しない、
水性ポリマーエマルションの製造方法。」
第4 特許異議申立理由及び取消理由の概要
1 特許異議申立理由の概要
申立人は、証拠方法として、特許異議申立書(以下「申立書」という。)に添付して下記(3)に示す甲第1号証(以下「甲1」ということがある。)を提出し、本件訂正前の請求項1~16に係る特許を取り消すべき理由として、下記(1)及び(2)に示す特許異議の申立ての理由(以下「申立理由」という。)を主張している。
申立理由の概要は、申立書の記載全体からみて、以下のとおりであると認められる。
(1)申立理由1(甲1に基づく新規性欠如)
本件特許の請求項1、5、12、13及び15に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において頒布された、甲1に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当するから、これらの請求項に係る特許は、同法同条同項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(2)申立理由2(甲1に基づく進歩性欠如)
本件特許の請求項1~16に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において頒布された、甲1に記載された発明に基いて、本件特許の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、これらの請求項に係る特許は、同法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(3)異議申立書に添付された証拠
甲第1号証:特開平6-239718号公報
2 当審合議体が通知した取消理由の概要
本件訂正前の請求項1~16に係る特許について、当審合議体が特許権者に通知した取消理由1~5の概要は、次のとおりである。
取消理由1~3は、令和7年6月27日付けで通知したものであり、取消理由4及び5は令和7年11月25日付けで通知したものである。
また、取消理由1及び取消理由2のうち、甲1に基づく理由は、申立理由1及び2を採用したものである。
[取消理由1](新規性欠如)
本件特許の請求項1~16に係る発明は、下記の甲1及び文献A~Eに記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当するから、上記請求項1~16に係る特許は、同法同条同項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
[取消理由2](進歩性欠如)
本件特許の請求項1~16に係る発明は、下記の甲1及び文献A~Eに記載された発明に基いて、本件特許の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、上記請求項1~16に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
[取消理由3](サポート要件違反)
本件特許の特許請求の範囲の記載は、水性ポリマーエマルションが、「ポリマー粒子(A)」がコアとなり「高分子乳化剤(B)」がシェルとなって、コアシェル構造を有する粒子を形成している以外のものについては、本件特許の請求項1~16に係る発明の、「O/W型エマルションを実現でき、凍結してから常温に戻しても流動性が損なわれにくく、かつ膜を作製した場合に膜がつやを有しやすい水性ポリマーエマルションを提供する」という課題を解決するとは解されないので、特許法第36条第6項第1号に適合するものでないから、本件特許の請求項1~16に係る特許は、同法同条同項に規定する要件を満たしていない特許に対してされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。
[取消理由4](新規性欠如)
本件特許の請求項1、4、5、7及び9~15に係る発明は、下記の文献I~Kに記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当するから、これらの請求項に係る特許は、同法同条同項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
[取消理由5](進歩性欠如)
本件特許の請求項1、4、5及び7~15に係る発明は、下記の文献I~Kに記載された発明に基いて、本件特許の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、これらの請求項に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
そして、取消理由1及び2において、提示した証拠は次のとおりである。(甲1は、申立人が提出した甲第1号証と同じ文献である。)
甲1:特開平6-239718号公報
文献A:特開2002-114641号公報
文献B:特開2005-132785号公報
文献C:特開平8-40832号公報
文献D:特開2018-80312号公報
文献E:特開2019-84465号公報
文献F:油化学,1985年,第34巻第11号,p973-978
文献G:Cosmetic-Info.jp,YODOSOL GH800F,[令和7年6月20日検索],<https://www.cosmetic-info.jp/mate/detail.php?id=18395>
文献H:特開2017-48361号公報
文献I:特開2014-205816号公報
文献J:特開2015-210931号公報
文献K:特開平5-148122号公報
取消理由1、2、4及び5(新規性・進歩性欠如)について、取消理由を通知した請求項と文献との対応は、以下のとおりである。
(以下の表において、「○」は、新規性又は進歩性なしと判断したことを意味する。)
[図:0001436181000001.jpg]
第5 当審合議体の判断
当審合議体は、本件訂正後の請求項1、2、4、5及び7~16に係る特許は、取消理由通知で通知した取消理由及び申立人が申し立てた申立理由によっては、取り消すことはできないものと判断する。その理由は以下のとおりである。
なお、本件訂正後の請求項3及び6は、削除されている。また、以下の記載事項の摘記において、下線は特に注釈がない限り当審合議体が付したものであり、「・・・」は摘記の省略を示す。
1 取消理由通知で通知された取消理由について
(1)取消理由1及び4(新規性欠如)並びに取消理2及び5(進歩性欠如)について
ア 引用文献の記載事項
(ア)甲1の記載事項
甲1には、次の事項が記載されている。
摘記1a:
「【請求項1】 アクリル酸エステル及び/又はメタアクリル酸エステルを主成分モノマーとする共重合体からなるコア部と、このコア部を被覆し、スチレン及び/又はα-メチルスチレンと、アクリル酸、メタアクリル酸及びこれらのエステルから選ばれる1種又は2種以上とを主成分モノマーとする共重合体からなり、且つコア部よりガラス転移点が高いシェル部とを有する樹脂を配合したメークアップ化粧料。
【請求項2】 前記樹脂のシェル部において、スチレン及び/又はα-メチルスチレンの重量と、アクリル酸、メタアクリル酸及びこれらのエステルから選ばれる1種又は2種以上の重量の比が30:70~80:20であることを特徴とする請求項1記載のメークアップ化粧料。
【請求項3】 前記樹脂のシェル部の酸価が60~350であり、コア部とシェル部を合わせた樹脂全体の酸価が10~350であることを特徴とする請求項1又は2記載のメークアップ化粧料。
【請求項4】 記樹脂のガラス転移点が-10~100℃であり、平均分子量が1万~100万であることを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載のメークアップ化粧料。
【請求項5】 前記樹脂の配合量が、化粧料全量に対して1~60重量%であることを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載のメークアップ化粧料。」
摘記1b:
「【0016】上記樹脂を化粧料に配合した場合の被膜特性は、樹脂のコア部とシェル部を合わせた樹脂全体の平均分子量と、コア部、シェル部及び樹脂全体のガラス転移点と、シェル部のモノマー組成との相互作用により左右される。適度な被膜特性を有し、使用感の良い化粧被膜を得るためには、コア部とシェル部を合わせた樹脂全体の平均分子量は、1万~100万であることが好ましく、またシェル部のガラス転移点がコア部より高く、且つ樹脂全体のガラス転移点は-10~100℃であることが好ましく、更に好ましくは-10~50℃であり、一方、シェル部のスチレン系モノマーの重量と、アクリル系モノマー及び/又はメタアクリル系モノマーの重量の比は、30:70~80:20の範囲にあることが好ましい。
【0017】樹脂全体の平均分子量が1万未満、あるいはガラス転移点が-10℃未満では、化粧料が柔らかくなりすぎ、被膜強度が弱く、耐摩擦性が悪くなる、また使用感においてべたつきを生じ、好ましくない。また、樹脂全体の平均分子量が100万を越え、かつ、ガラス転移点が100℃越えると化粧被膜はポロポロになり、皮膚に密着し難く、又密着しても被膜が固く、使用感においてつっぱりや被膜感を生じ、かつ耐摩擦性も悪くなる。更に、コア部のガラス転移点がシェル部のそれより高くなると、耐摩擦性が悪くなり、対物付着性が増し、化粧もちも低下する。
【0018】一方、シェル部のスチレン系モノマーと、アクリル系モノマー及び/又はメタアクリル系モノマーとの重量比が30/70より小さくなると、適度な被膜強度を有しながら使用感も良い化粧被膜を作るという作用が低下し、反対に重量比が80/20を越えると、化粧被膜はポロポロとなり、皮膚に密着し難く、また密着しても被膜が固く、使用感においてつっぱり感を生じやすくなる。
【0019】次に、シェル部の樹脂とコア部の樹脂との重量比は、好ましくは99:1~1:99、さらに好ましくは10:90~50:50である。また、シェル部の樹脂の酸価は60~350であることが好ましく、且つコア部とシェル部を合わせた樹脂の総酸価は、好ましくは10~350、さらに好ましくは10~150である。シェル部の樹脂の酸価が60未満、あるいは樹脂の総酸化が10未満であると、この樹脂を含む化粧料を石鹸で洗い落とすことが困難になる。また、シェル部の酸価、あるいは樹脂の総酸価が350を越えると耐水性が悪くなる。
【0020】この酸価決定が、石鹸による化粧被膜の落としやすさを左右する。上記範囲を満足する樹脂は、従来、化粧もちを良くするために用いられている樹脂に比べ、耐水性、耐摩擦性に優れ、特殊なレンジング料を用いなくても容易にアニオン性洗浄料、例えば一般的なアルカリ石鹸で洗い落とせるメークアップ化粧料が得られる。」
摘記1c:
「【0031】
【実施例】以下に、本発明の実施例を説明する。なお、以下に用いる配合量は、全て重量%である。
【0032】はじめに、本発明の実施例に用いる樹脂エマルジョンの製造例を以下に示す。
【0033】【製造例】シェル部の原料モノマーであるスチレン30g、α-メチルスチレン10g、メタアクリル酸40g、メタアクリル酸メチル20g、イソプロピルアルコール100g、ベンゾイルパーオキサイド1gを80℃に保ちながら3時間混合し重合反応させた。これを熟成、冷却後、濾過し共重合体を取り出した。この共重合体に、25%アンモニア水溶液16gと水200gを加え、中和後、更に90℃で2時間撹拌混合した。これを冷却して、シェル部の水溶液とした。
【0034】上記シェル部の水溶液に、コア部の原料モノマーであるアクリル酸メチル50g、メタアクリル酸ブチル50gと過硫酸アンモニウム1gと水200gを加え、90℃で10時間撹拌して重合反応させた。これを熟成、冷却後、濾過し、コア-シェル構造の樹脂エマルジョンを得る。
【0035】こうして得られた樹脂は、平均分子量30万、総酸価130、ガラス転移点はコア部で7℃、シェル部では20℃であった。これを以下の評価及び実施例に用いた。
・・・
【0050】
【実施例1】 水系ファンデーション
表2に示す成分を用いて以下の方法で水系ファンデーションを製造した。精製水にモノオレイン酸ポリエチレングリコール(10E.O.)を溶解し、これに顔料を分散混合し、コロイドミルを用いて均一に粉砕、分散させた。これに1,3-ブチレングリコール、グリセリン及び増粘剤を添加し、撹拌混合しながら製造例の樹脂エマルジョン、防腐剤、香料を添加し、均一になるまで混合した。
・・・
【0052】【表2】
[図:0001436181000002.jpg]
」
(イ)文献Aの記載事項
文献Aには、次の事項が記載されている。
摘記Aa:
「【請求項1】 水溶性高分子分散剤および水とともに顔料を湿式粉砕して分散せしめた顔料分散液を着色剤として含有させることを特徴とする水系美爪料。
【請求項2】 上記水溶性高分子分散剤が、疎水性基を持つモノマーと親水性基を持つモノマーとの共重合体または疎水性基と親水性基を分子構造中に併せ持ったモノマーからなる重合体である請求項1に記載の水系美爪料。
【請求項3】 上記水溶性高分子分散剤の疎水性基にスチレンを持つ請求項2に記載の水系美爪料。」
摘記Ab:
「【0020】
【実施例】[顔料分散液の製造]
【0021】 製造例 1
アクリル系高分子共重合体[高分子分散剤](商品名“サンサイザーSA709”三洋化成(株)製、スチレン-マレイン酸系、重量平均分子量20000、不揮発分30%)6.7重量部、イオン交換水73.3重量部を混合撹拌し、得られた水溶液に、赤色226号[顔料]20.0重量部を加え粗分散を行った後、ガラスビーズ(直径0.5mm)を100部添加し、ビーズミル分散機を用いて1時間湿式粉砕処理および分散処理を行った。この分散液を5μmのメンブレンフィルタで粗大粒子および塵を除去して顔料分散液を得た。この分散液中の顔料の平均粒径を測定したところ0.14μmであった。
・・・
【0028】[実施例1~3、比較例1~4]製造例1~3で得られた顔料分散液1~3を、表1の処方に従って、イオン交換水に分散させた後、これにアクリル系ポリマーエマルジョン[皮膜形成剤](商品名“ヨドゾールGH800”日本エヌエスシー(株)製)を添加し、次いでベントナイト[増粘剤]、香料、シリコーン系消泡剤を添加して均一に攪拌混合し、実施例1~3の水系美爪料を調製した。なお、表1中の配合量は重量%で示している。
・・・
【0036】
【表1】
[図:0001436181000003.jpg]
」
(ウ)文献Bの記載事項
文献Bには、次の事項が記載されている。
摘記Ba:
「【請求項1】
樹脂を含み、且つ、樹脂以外に油性成分を含有する化粧料に於いて、アクリル系水溶性ポリマーを外殻に有し、内核に非水溶性ポリマーを有するコアシェル型エマルション樹脂を被覆してなる粉体を含有することを特徴とする、乳化型化粧料。
【請求項2】
前記被覆粉体に於ける、外殻のアクリル系水溶性ポリマーが、アクリル酸及びその塩、メタクリル酸及びその塩、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、スチレン及びα-アルキルスチレンから選ばれる1種乃至は2種以上を構成モノマーとして含有するものであることを特徴とする、請求項1に記載の乳化型化粧料。
【請求項3】
前記被覆粉体に於ける、外殻のアクリル系水溶性ポリマーが、アクリル酸及びその塩、メタクリル酸及びその塩、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、スチレン及びα-アルキルスチレンから選ばれる1種乃至は2種以上の重合物及び/又は共重合物であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の乳化型化粧料。
【請求項4】
前記被覆粉体に於ける、内核の非水溶性ポリマーがスチレン、α-アルキルスチレン、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステルから選ばれる1種乃至は2種以上を構成モノマーとして含有する請求項1~3の何れか一項に記載の乳化型化粧料。
【請求項5】
前記被覆粉体に於ける、内核の非水溶性ポリマーがスチレン、α-アルキルスチレン、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステルから選ばれる1種乃至は2種以上の重合物及び/又は共重合物であることを特徴とする、請求項1~4の何れか一項に記載の乳化型化粧料。
・・・
【請求項10】
美爪化粧料であることを特徴とする、請求項1~9何れか1項に記載の乳化型化粧料。」
摘記Bb:
「【0009】
かかるコーティング粉体の被覆に用いるポリマーは、アクリル系水溶性ポリマーを外殻に有し、内核に非水溶性ポリマーを有するコアシェル型エマルション樹脂であることを特徴とする。勿論、この様なポリマー以外に、本発明の効果を損ねない範囲に於いて、可塑剤や他のポリマーなどを任意に被覆することも可能で、この様な被覆粉体も本発明の技術的範囲に属する。この様な樹脂は、水溶性のアクリル系樹脂の水溶液中に、界面活性剤の存在下、非水溶性ポリマーを構成するモノマーとアゾビスイソブチロニトリル、クメンハイドロパーオキサイド、過硫酸カリウムなどの重合開始剤を加え重合させることにより、製造することができる。水溶性のアクリル樹脂としては、アクリル酸、メタクリル酸及びその塩並びにビニルアルコール等を構成モノマーに含有するポリマーが好ましく例示でき、具体的にはアクリル酸及びその塩、メタクリル酸及びその塩、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、スチレン及びα-アルキルスチレンから選ばれる1種乃至は2種以上の重合物及び/又は共重合物が好ましく例示できる。中でも好ましいものは、この様な構成モノマーのみを重合したポリマーである。又、コア部の非水溶性ポリマーとしては、スチレン、α-アルキルスチレン、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステルから選ばれる1種乃至は2種以上を構成モノマーとして含有する重合体及び/又は共重合体が好ましく例示でき、中でもこれらのみを構成モノマーとする重合体及び/又は共重合体が特に好ましい。ここで、コア:シェルの割合は、20:80~80:20が好ましく、30:70~70:30が更に好ましい。
【0010】
かかる被覆粉体の於ける、粉体とコアシェル型エマルションポリマーの割合は、95.5:0.5~50:50が好ましく、99:1~70:30が更に好ましい。これは、ポリマーの量が少なすぎると被覆効果が得られない場合があり、ポリマーが多すぎると粉体の特性が得られない場合があるからである。本発明のコーティング粉体は、これら粉体とコアシェル型エマルションポリマーと水性媒体とをサンドグラインドミルやダイノミルと言った、メディアを用いた分散装置を用いて処理を行うことにより製造することができる。この様な装置を用いて製造する場合、メディアとしては、ジルコニアビーズを用いるのが、分散性と耐久性の面で特に好ましい。
【0011】
以下に製造例を示す。
<参考例>窒素気流下、メチルエチルケトン200質量部を加熱還流し、これにα-メチルスチレン62質量部、アクリル酸-2-エチルヘキシル10質量部、アクリル酸28質量部、アゾビスイソブチロニトリル0.5質量部を滴下し、4時間反応させた。これをアンモニア水で中和し、減圧濃縮してメチルエチルケトンを除去した。この液にスチレン188質量部とアクリル酸-2-エチルヘキシル15質量部を滴下し、水15質量部に過硫酸カリウム0.1質量部を溶かしたものを加え4時間反応させた。更に、90℃で加熱し、冷却し、コアシェル型エマルション液(コアシェル液1)を得た。このものの乾燥残分は72質量%であり、これを樹脂含量とした。又、このもののコア:シェル=67:33の質量比の樹脂であった。
【0012】
<製造例1>下記に示す処方の液を30質量部のジルコニアビーズとともに、サンドグラインドミルに仕込み、サンドグラインドミルで分散させ、樹脂コーティング粉体分散液1を得た。
参考例のコアシェル液1 10 質量部
シリコーン焼き付け二酸化チタン 50 質量部
水 40 質量部
【0013】
<製造例2>下記に示す処方の液を30質量部のジルコニアビーズとともに、サンドグラインドミルに仕込み、サンドグラインドミルで分散させ、樹脂コーティング粉体分散液2を得た。この液中における粉体の分散状態は極めて良好であった。
参考例のコアシェル液1 10 質量部
シリコーン焼き付け黄酸化鉄 50 質量部
水 40 質量部
・・・
【実施例】
【0021】
以下に、実施例を挙げて、本発明について更に詳細に説明を加えるが、本発明が、かかる実施例にのみ限定されないことは言うまでもない。
【0022】
<実施例1>
以下に示す処方に従って、本発明の乳化化粧料である、美爪化粧料を作成した。即ち、イ、ロ、ハの成分をそれぞれ75℃に加熱し、ロにハの成分を加え分散させ、これをイの成分に、攪拌しながら徐々に加え乳化し、乳化粒子をホモジナイザーで整えた後、攪拌冷却して、本発明の乳化型美爪化粧料1を得た。このものは40℃で1ヶ月の保存で安定であった。
イ
ジメチコン(10パスカル秒) 1 質量部
シクロメチコン 20 質量部
架橋型ポリエーテル変性メチルポリシロキサン 3.5 質量部
ソルビタンセスキラウレート 0.5 質量部
有機変性ベントナイト 0.3 質量部
ブチルパラベン 0.1 質量部
ロ
1,3-ブタンジオール 5 質量部
メチルパラベン 0.1 質量部
マルメロ1,3-ブタンジオール抽出物 0.1 質量部
水 19.7 質量部
ハ
アルキルアクリレート樹脂粉体 5 質量部
微粒子二酸化チタン 5 質量部
微粒子酸化亜鉛 10 質量部
製造例1の樹脂コーティング粉体分散液1 25 質量部
製造例2の樹脂コーティング粉体分散液2 4.3 質量部
製造例3の樹脂コーティング粉体分散液3 0.1 質量部
製造例4の樹脂コーティング粉体分散液4 0.3 質量部」
(エ)文献Cの記載事項
文献Cには、次の事項が記載されている。
摘記Ca:
「【請求項1】 HLB が12~20の範囲の界面活性剤及び/又は酸価が 100~1,000の範囲のα,β-モノエチレン性不飽和酸を含むエチレン性不飽和分子の付加重合体を分散剤として含む水性顔料分散液を水性樹脂エマルジョンに配合することを特徴とする水性マニキュア剤の製造方法。
・・・
【請求項6】 請求項1ないし5のいずれか1項に記載の方法により製造された水性マニキュア剤。
【請求項7】 耐水性が改善された請求項5記載の水性マニキュア剤。」
摘記Cb:
「【0025】本発明のマニキュア剤の製造方法に好適に用いられる他の水性樹脂エマルジョンとして、分子内に水酸基を有するエチレン性不飽和モノマー(a)0.1~50重量部とエチレン性不飽和モノマー(b)50 ~99.9重量部とを含むモノマー混合液100 重量部を、コロイダルシリカ(c)0.5~100 重量部(固形分換算)の共存下に水分散媒中で重合して得られる水性樹脂エマルジョンを挙げることができる。」
摘記Cc:
「【0060】
【実施例】以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されることはない。
(1) 下記の表1に示される配合量で本発明の方法に従う水性顔料分散液を製造した。処理装置としてホモミキサーを用い、室温で30分の処理を行い平均粒径 0.2μm の分散液を製造した。
【0061】【表1】
[図:0001436181000004.jpg]
【0062】
(注1) ソルビタン ラウリン酸モノエステル EO 4 モル付加物 (HLB 13.3)
(注2) オレイルアルコール EO 20モル付加物 (HLB 15.3)
(注3) オレイン酸カリウム (HLB 20.0)
(注4) ソルビタンオレイン酸モノエステル (HLB 4.3)
(注5) ノニルフェノール EO 5.5 モル付加物 (HLB 10.5)
(注6) 重合体A: 攪拌器、還流冷却器月の4ツ口フラスコ中でアクリル酸の溶液重合を行い、重合完了後、熱を加えて溶剤を揮発させ、水酸化カリウム水溶液中に加えて中和させた。この重合水溶液は固形分40重量%、pH 7.2であり、重合物の平均分子量は 4,800であった。
(注7) 重合体B: (注6)中のアクリル酸のかわりに、アクリル酸とマレイン酸の溶液重合を行った以外は (注6)と同様の操作を行った。重合水溶液は固形分30重量%、pH 7.5であり、重合物の平均分子量は 8,200であった。
【0063】(2) 上記の水性分散液1~7を用いて、下記表2の配合に従ってマニキュア剤1~7を製造した。各マニキュア剤に用いた水性樹脂エマルジョンの製造方法は以下のとおりであり、水性樹脂エマルジョンに対して所定量の上記水性分散液を添加して室温で手攪拌することによりマニキュア剤を製造した。
(A) 水性アクリル樹脂エマルジョンAの製造
以下のモノマー組成:メタアクリル酸 3 %、エチルアクリレート40 %、メチルメタクリレート 37%、スチレン 20%を用いて、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムを用いる常法の乳化重合法を行った。中和剤としてアンモニア水を添加してpHを 7.5に調整し、酸価20、有効成分40% のスチレン-アクリル樹脂エマルジョンを製造した。
・・・
【0069】
【表2】
[図:0001436181000005.jpg]
【0070】(3) 上記のマニキュア剤1~9の性能評価を行った結果を以下の表3に示す。なお、各性能評価の方法は、それぞれ以下のとおりである。」
(オ)文献Dの記載事項
文献Dには、次の事項が記載されている。
摘記Da:
「【請求項1】
アクリル・ウレタン複合樹脂(A)を高分子乳化剤として、水媒体中でエチレン性不飽和単量体(B)を重合してなる水性複合樹脂分散体であって、
アクリル・ウレタン複合樹脂(A)が、
ポリオール(C)とポリイソシアネート(D)とを反応させてなるウレタンプレポリマー(E-1)に、一般式(1)で表される化合物(F)を反応させてなる両末端メルカプト基含有ウレタンウレア樹脂(E-2)を連鎖移動剤として、エチレン性不飽和単量体(G)を重合したものである水性複合樹脂分散体。
一般式(1)【化1】
[図:0001436181000006.jpg]
(一般式(1)中、Xは-OH、-NH2、-NHR1、および-SHからなる群より選ばれる少なくとも一種であり、R1はアルキル基である。
Rはアルキレン基、アリーレン基、およびアルキレンオキサイド基からなる群より選ばれる少なくとも一種の2価の基である。)
・・・
【請求項4】
エチレン性不飽和単量体(B)の配合量が、アクリル・ウレタン複合樹脂(A)100重量部に対して10~120重量部の範囲である請求項1~3いずれか記載の水性複合樹脂分散体。
【請求項5】
前記水性複合樹脂の酸価が、15~150mgKOH/gの範囲である請求項1~4いずれか記載の水性複合樹脂分散体。
・・・
【請求項8】
ポリオール(C)とポリイソシアネート(D)とを反応させてなるウレタンプレポリマー(E-1)に、一般式(1)で表される化合物(F)を反応させてなる両末端メルカプト基含有ウレタンウレア樹脂(E-2)を連鎖移動剤として、エチレン性不飽和単量体(G)を重合し、
得られたアクリル・ウレタン複合樹脂(A)を高分子乳化剤として、水媒体中でエチレン性不飽和単量体(B)を重合する、水性複合樹脂分散体の製造方法。
一般式(1)
【化1】
[図:0001436181000007.jpg]
(一般式(1)中、Xは-OH、-NH2、-NHR1、および-SHからなる群より選ばれる少なくとも一種であり、R1はアルキル基である。
Rはアルキレン基、アリーレン基、およびアルキレンオキサイド基からなる群より選ばれる少なくとも一種の2価の基である。)」
摘記Db:
「【0052】
<エチレン性不飽和単量体(B)>
続いて、アクリル・ウレタン複合樹脂(A)を高分子乳化剤として、エチレン性不飽和単量体(B)を重合する工程について説明する。上記で得られたアクリル・ウレタン複合樹脂(A)の水溶液を反応槽に仕込み、昇温する。そこに、窒素雰囲気下でエチレン性不飽和単量体(B)を滴下しながら、ラジカル重合開始剤を添加する。エチレン性不飽和単量体(B)はそのまま反応槽に滴下しても良いし、水性媒体中であらかじめ乳化液にしてから滴下しても構わない。アクリル・ウレタン樹脂(A)は、水性媒体中で保護コロイド(シェル成分)として働き、エチレン性不飽和単量体(B)の重合体からなる粒子核成分(コア成分)を安定化させる。これにより、目的のコアシェル型複合樹脂の水分散体を得る事ができる。」
摘記Dc:
「【実施例】
【0080】
以下に、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、以下の実施例は本発明の権利範囲を何ら制限するものではない。なお、実施例における「部」は「重量部」、「%」は「重量%」を表す。
【0081】
<両末端メルカプト基含有ウレタンウレア樹脂の製造>
・・・
【0088】
<アクリル・ウレタン複合樹脂(A)の製造>
[製造例13]
攪拌器、温度計、滴下ロート、還流器を備えた反応容器に、製造例1で得られた両末端メルカプト基含有ウレタンウレア樹脂溶液142.9部(不揮発成分は100.0部)、メチルメタクリレート40.0部、n-ブチルメタクリレート40.0部、メタクリル酸13.0部、3-メタクリロキシプロピルシラン2.0部、イソプロピルアルコール37.0部を加え、窒素雰囲気下で攪拌しながら70℃まで昇温させた。滴下ロートに、メチルエチルケトン20.0部、開始剤として2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)を0.35部仕込み、5時間かけて反応槽に滴下した。70℃で8時間反応させ、アクリル樹脂部分のグラフト反応を終了した。反応後、イオン交換水670.0部、25%アンモニア水10.3部を加え、中和した後、脱溶剤処理して水性アクリル・ウレタン複合樹脂の水分散体を得た。イオン交換水により、複合樹脂水分散体の最終固形分を25.0%に調製した。得られた水性アクリル・ウレタン複合樹脂の酸価は42.4mgKOH/g、分子量は39600であった。
[製造例14~27]
表2に示す配合組成で、製造例13同様の方法でアクリル・ウレタン複合樹脂(A)の水分散体を調製した。
【0089】【表2】
[図:0001436181000008.jpg]
【0090】
表2中の略語を下記に示す。
・PME-400:日油製メトキシポリエチレングリコールメタクリレート(エチレンオキサイド付加モル数9)
・・・
【0094】
<コアシェル型水性複合樹脂分散体の製造>
[実施例1]攪拌器、温度計、2つの滴下ロート、還流器を備えた別の反応容器に、製造例13で調製したアクリル・ウレタン複合樹脂溶液(A)333.3部(不揮発成分は100部)、を仕込み、攪拌しながら、窒素還流下で温度を80℃まで昇温した。昇温後、2つの滴下ロートにおいて、一方からは、メチルメタクリレート30.0部、スチレン10.0部、n-ブチルアクリレート60.0部の混合溶液を2時間かけて滴下した。もう一方からは、過硫酸アンモニウム20%水溶液4.0部を2時間かけて滴下した。滴下完了後、更に6時間反応させてコアシェル型水性複合樹脂分散体を得た。反応後、イオン交換水により、最終固形分を25.0%に調整した。得られた分散体について、重量平均分子量、酸価を測定した。得られた樹脂の重量平均分子量は125000、酸価は21.2mgKOH/gであった。
【0095】
[実施例2~17]
表3に示す配合組成で、実施例1と同様の方法で複合樹脂を合成した。反応後、実施例1と同様に、脱溶剤処理をおこない、目的の水性複合樹脂の水分散体を得た。得られた複合樹脂の水分散体の最終固形分は25.0%に調製した。得られた樹脂について、実施例1と同様に酸価を測定した。
【0096】【表3】
[図:0001436181000009.jpg]
【0097】
表3中の略語を下記に示す。
・PME-400:日油製メトキシポリエチレングリコールメタクリレート(エチレンオキサイド付加モル数9)」
(カ)文献Eの記載事項
文献Eには、次の事項が記載されている。
摘記Ea:
「【特許請求の範囲】
【請求項1】
可塑剤含有樹脂の上に、塗料組成物(A)を塗布し、当該塗料組成物(A)の塗膜を形成する工程を含む塗装工法であって、
前記塗料組成物(A)がアルコキシシリル基含有(メタ)アクリル樹脂を含み、当該塗料組成物(A)の塗膜のガラス転移温度(Tg)が30~100℃であることを特徴とする塗装工法。
・・・
【請求項7】
前記塗料組成物(A)の塗膜の上に、塗料組成物(B)を塗布し、当該塗料組成物(B)の塗膜を形成する工程を含み、
当該塗料組成物(B)が、アクリルゴム又はアクリル樹脂が水性媒体中に分散されてなるエマルション組成物と、無機充填材とを含む、塗料組成物(B1)である、請求項1~6のいずれか1項に記載の塗装工法。」
摘記Eb:
「【0199】
2.塗料組成物(B1)の製造
(1)エマルション組成物及び塗料組成物(α類、β類及びγ類)の製造
・・・
【0200】
1)塗料組成物α類の製造例
エマルション組成物α類の製造
3Lのフラスコに、撹拌機、還流冷却器、滴下ロート、温度計及び窒素導入管を取付け、その後、イオン交換水30部を投入し、窒素ガスを吹き込みながら内温を80℃に昇温させた。次いで、イオン交換水37部、単量体(2-エチルヘキシルアクリレート(以下、「HA」という。)90部、アクリロニトリル(以下、「AN」という。)8部及びアクリル酸(以下、「AA」という。)2部)、並びに乳化剤(ポリオキシエチレンアルキル硫酸ナトリウム、有効成分26%、花王社製、商品名「ラテムルE-118B」)10部からなる混合液と、5%濃度の過硫酸アンモニウム水溶液10部とを、撹拌下、別々の滴下ロートから同時に、かつ連続的に5時間かけて滴下し、乳化重合させた。その後、反応液に25%濃度のアンモニア水を添加、混合してpHを5~7に調整し、固形分55%のエマルション組成物α1を製造した。
前記の単量体組成を表3のようにした他は、前記と同様にして乳化重合させ、pHを調整し、固形分55%のエマルション組成物α2及びα3を製造した。
・・・
【0204】
2)塗料組成物β類の製造例
エマルション組成物β類の製造
3Lのフラスコに、撹拌機、還流冷却器、滴下ロート、温度計及び窒素導入管を取付け、その後、イオン交換水30部を投入し、窒素ガスを吹き込みながら内温を80℃に昇温させた。次いで、イオン交換水37部、単量体(HA37部、n-ブチルアクリレート(以下、「BA」という。)37部、AN12部、AA3部及び2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピルアクリレート(以下、「HPPA」という。)11部)、並びに乳化剤(ポリオキシエチレンアルキル硫酸ナトリウム、有効成分26%、花王社製、商品名「ラテムルE-118B」)10部からなる混合液と、5%濃度の過硫酸アンモニウム水溶液10部とを、撹拌下、別々の滴下ロートから同時に、かつ連続的に5時間かけて滴下し、乳化重合させた。その後、反応液に25%濃度のアンモニア水を添加、混合してpHを5~7に調整し、固形分55%のエマルション組成物β1を製造した。
前記の単量体組成を表3のようにした他は、前記と同様にして乳化重合させ、pHを調整し、固形分55%のエマルション組成物β2及びβ3を製造した。
【0205】
塗料組成物β1の製造
エマルション組成物β1;100部に、無機充填剤として比重2.7の重質炭酸カルシウム粉末60部、分散剤として20%濃度のポリアクリル酸ソーダ水溶液(ポリアクリル酸ソーダの分子量;約20000)5部、消泡剤としてシリコーン系消泡剤(サンノプコ社製、商品名「SNデフォーマー325」)1.2部、増粘剤としてヒドロキシエチルメチルセルロース(信越化学工業社製、商品名「HiメトローズSEB-04T」)の5%濃度の含水ゲル1部を配合し、混合して塗料組成物β1を製造した。
・・・
【0215】【表3】
[図:0001436181000010.jpg]
」
(キ)文献Fの記載事項
文献Fには、次の事項が記載されている。
摘記Fa:
「高 分 子 界 面 活 性 剤
・・・
1 高分子界面活性剤とは何か
これまでの講座で紹介されて来た界面活性剤は,分子量が数百程度の低分子量のものがほとんどであるが,分子量が数千以上で界面活性的機能を有するものを,一般に高分子界面活性と呼んでいる。しかし,高分子界面活性剤についての厳密な規定はなく,高分子化合物の中でも特に水溶性のものは,界面活性能を有するものが多い1)。
・・・
[図:0001436181000011.jpg]
」
摘記Fb:
「3 アニオン高分子界面活性剤
3・1 水溶液の牲質
各種のアニオン高分子界面活性剤が文献等で報告されているが,通常の用途に使用されているものとして,表-1 に示す合成系の(メタ)アクリル酸やマレイン酸の共重合物がある。・・・
高分子電解質を水に溶解すると,液性によりイオンの解離状態は異なり,溶解度と水溶液粘度が変化する。図-3は,ポリアクリル酸ナトリウムの水溶液のpHによる粘度変化と分子の広がりの状態を模式的に示すが,pHが低い状態では,カルボキシル基の解離が不充分なため,水に対する溶解性も劣り分子は縮まっているが,pHが高くなるにしたがって,イオンの解離も増し陰イオンの相互の反発が強まり,分子は広がり粘度は上昇する。pHがさらに高くなりアルカリ性となるとポリマー部分の陰イオンの周辺を陽イオンが取り巻き,遮へいされるため陰イオン間の反発も弱まり分子は縮まり粘度は低下する7)。
3・2 分散剤としての作用
一般に,高分子界面活性剤は濃度によって挙動が異なり,低濃度では次の図に示すように粒子表面に吸着され粒子間に橋渡しができるため凝集剤として作用し,高濃度では粒子表面を高分子が取り囲み立体障害が生じ,粒子間の会合による凝集が防止されるので,分散剤として効果を発揮する。
(高分子界面活性剤の作用)
[図:0001436181000012.jpg]
水水溶液中で疎水性の固体粒子を分散する揚合,アニオン界面活性剤が特に効果があり,固体表面に吸着,配向し親水化するとともに分散粒子に荷電を与え電気二重層の形成を助長するため,安定な分散体が得られる。」
(ク)文献Gの記載事項
文献Gには、次の事項が記載されている。
摘記Ga:
「
[図:0001436181000013.jpg]
」
摘記Gb:
「
[図:0001436181000014.jpg]
」
(ケ)文献Hの記載事項
文献Hには、次の事項が記載されている。
摘記Ha:
「【0034】
屈折率が1.50以上のモノマーとしては、例えば、スチレン、メチルスチレン、ジメチルスチレン、トリメチルスチレン、エチルスチレン、ジエチルスチレン、トリエチルスチレン、プロピルスチレン、ブチルスチレン、ヘキシルスチレン、ヘプチルスチレン、オクチルスチレン、メトキシスチレン、フルオロスチレン、クロロスチレン、ジクロロスチレン、クロルメチルスチレン、ブロモスチレン、ジブロモスチレン、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸フェノキシエチル、(メタ)アクリル酸フェノキシジエチレングリコール、(メタ)アクリル酸フェノキシポリエチレングリコール、(メタ)アクリル酸ペンタブロモフェニル、(メタ)アクリル酸ペンタブロモベンジル、ジビニルベンゼン等が挙げられる。本発明では、屈折率が1.50以上のモノマーとしてスチレンを有することが好ましく、スチレンをモノマー成分として10重量%以上、90重量%以下有することがさらに好ましく、10重量%以上、80重量%以下有することがさらに好ましい。」
(コ)文献Iの記載事項
文献Iには、次の事項が記載されている。
摘記Ia:
「【請求項1】
水溶性樹脂(A)の存在下、水性媒体中でエチレン性不飽和単量体(B)を重合してなる水性インキ用コアシェル型樹脂微粒子分散体であって、下記の(1)~(4)であることを特徴とする水性インキ用コアシェル型樹脂微粒子分散体。
(1)水溶性樹脂(A)が、
芳香族エチレン性不飽和単量体(a-1)と
カルボキシル基含有エチレン性不飽和単量体(a-2)とを含むエチレン性不飽和単量体(a)を重合してなる水溶性樹脂であり、
エチレン性不飽和単量体(a)100重量%中、
芳香族エチレン性不飽和単量体(a-1)を20~70重量%、
カルボキシル基含有エチレン性不飽和単量体(a-2)を30~40重量%
含有する。
(2)エチレン性不飽和単量体(B)が、
芳香族エチレン性不飽和単量体(b-1)と、
一般式(1)からなるエチレン性不飽和単量体(b-2)とを必須成分とするエチレン性不飽和単量体であって、
エチレン性不飽和単量体(B)100重量%中、
芳香族エチレン性不飽和単量体(b-1)を15~40重量%、
エチレン性不飽和単量体(b-2)を60~85重量%
含有する。
(3)エチレン性不飽和単量体(B)の合計100重量部に対し、水溶性樹脂(A)の量が40~60重量部である。
(4)水性インキ用コアシェル型樹脂微粒子分散体の平均粒子径が45~90nm、ガラス転移温度が-10~30℃である。
一般式(1)
【化1】
[図:0001436181000015.jpg]
Rは炭素数1~4のアルキル基を示す。
【請求項2】
コアシェル型樹脂微粒子分散体の重量平均分子量が200000~500000である事を特徴とする請求項1記載の水性インキ用コアシェル型樹脂微粒子分散体。
【請求項3】
エチレン性不飽和単量体(B)の合計100重量%中、ケト基含有エチレン性不飽和単量体を1~3重量%含有する事を特徴とする請求項1または2記載の水性インキ用コアシェル型樹脂微粒子分散体。
【請求項4】
顔料(C)、顔料分散樹脂(D)、水、親水性溶剤(E)及び請求項1~3いずれか記載の水性インキ用コアシェル型樹脂微粒子分散体を含有することを特徴とする水性インキ組成物。」
摘記Ib:
「【0019】
本発明で使用する樹脂微粒子分散体は水溶性樹脂(A)の存在下、水性媒体中でエチレン性不飽和単量体(B)を、ラジカル重合開始剤を用いて乳化重合する事によって得ることができる。
具体的に樹脂微粒子分散体の製造方法について説明する。まず、反応槽に水性媒体と塩基性化合物、水溶性樹脂(A)を仕込み、昇温して溶解させる。その後、窒素雰囲気下でエチレン性不飽和単量体(B)を滴下しながら、ラジカル重合開始剤を添加する。反応開始後、反応槽の溶液の色が青白くなるので、粒子核の形成が確認できる。エチレン性不飽和単量体の滴下完了後、更に数時間反応させる事で目的の樹脂微粒子分散体を得る事ができる。エチレン性不飽和単量体(B)はそのまま反応槽に滴下しても良いし、水性媒体であらかじめ乳化液にしてから滴下しても構わない。水溶性樹脂(A)は水性媒体中で保護コロイド(シェル成分)として働き、生成する粒子核(コア成分)を安定化する。この方法により得られる樹脂微粒子分散体は、ニュート二アンに近い粘性を有するため印刷適性に大変優れている。
【0020】
樹脂微粒子分散体を合成する際に使用する水溶性樹脂(A)は、粒子核への吸着ならびに分散安定性に優れ、顔料分散樹脂との相溶性が良好である事から、芳香族骨格を有し、カルボキシル基を有するものが好ましい。水溶性樹脂(A)は、芳香族エチレン性不飽和単量体(a-1)、カルボキシル基含有エチレン性不飽和単量体(a-2)を含むエチレン性不飽和単量体(a)をラジカル開始剤により、溶液重合もしくは塊状重合し、樹脂中のカルボキシル基を塩基性化合物で中和する事で得る事ができる。
【0021】
芳香族エチレン性不飽和単量体(a-1)としては、例えば、スチレン、α-メチルスチレン、o-メチルスチレン、p-メチルスチレン、m-メチルスチレン、ビニルナフタレン、ベンジルアクリレート、ベンジルメタクリレート、フェノキシエチルアクリレート、フェノキシエチルメタクリレート、フェノキシジエチレングリコールアクリレート、フェノキシジエチレングリコールメタクリレート、フェノキシテトラエチレングリコールアクリレート、フェノキシテトラエチレングリコールメタクリレート、フェノキシヘキサエチレングリコールアクリレート、フェノキシヘキサエチレングリコールメタクリレート、フェニルアクリレート、フェニルメタクリレート等があげられる。
【0022】
カルボキシル基含有エチレン性不飽和単量体(a-2)としては、例えば、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸、または、これらのアルキルもしくはアルケニルモノエステル、ヘキサヒドロフタル酸β-(メタ)アクリロキシエチルモノエステル、コハク酸β-(メタ)アクリロキシエチルモノエステル、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、けい皮酸等があげられる。
エチレン性不飽和単量体(a)は、上記で定めた芳香族エチレン性不飽和単量体(a-1)、ならびにエチレン性不飽和単量体(a-2)の含有量を逸脱しない範囲で、それらと共重合可能なエチレン性不飽和単量体(a-3)を併用する事ができる。
【0023】
共重合可能なエチレン性不飽和単量体(a-3)としては、例えば、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、プロピルメタクリレート、n-ブチルメタクリレート、tーブチルメタクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、ヘプチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ウンデシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、テトラデシル(メタ)アクリレート等の直鎖または分岐アルキル基含有エチレン性不飽和単量体;」
摘記Ic:
「【0032】
次に本発明で使用するエチレン性不飽和単量体(B)について説明する。エチレン性不飽和単量体は、芳香族エチレン性不飽和単量体(b-1)と、一般式(1)からなるエチレン性不飽和単量体(b-2)を必須成分とする。コア部分を形成するエチレン性不飽和単量体(B)において、この2種類のエチレン性不飽和単量体を、規定した量ほど含有する事により、乾燥時のシェル成分とコア成分の相溶が劇的に向上し、均質な塗膜を形成する。したがってオレフィンのような非極性フィルム基材に対しても、低温乾燥条件下で、優れた塗膜物性(基材密着性、耐水摩擦性)を発現する事ができる。逆に定めた量を外れた場合には見かけ上造膜していてもその膜は不均質な塗膜であり、フィルム基材上で十分な塗膜物性を発現する事はできない。
【0033】
エチレン性不飽和単量体(B)100重量%中、芳香族エチレン性不飽和単量体(b-1)は15~40重量%である事が好ましい。15重量%未満であると粒子核形成が不安定化して粒子径制御に悪影響を及ぼす上、シェル成分とコア成分の相溶が悪化して不均質な塗膜を形成するため、塗膜物性(基材密着性、耐水摩擦性)が悪化してしまう。一方、40重量%を超えた場合にもシェル成分とコア成分の相溶が悪化するため塗膜物性(基材密着性、耐水摩擦性)が低下する。
【0034】
芳香族エチレン性不飽和単量体(b-1)としては、例えば、スチレン、α-メチルスチレン、o-メチルスチレン、p-メチルスチレン、m-メチルスチレン、ビニルナフタレン、ベンジルアクリレート、ベンジルメタクリレート、フェノキシエチルアクリレート、フェノキシエチルメタクリレート、フェノキシジエチレングリコールアクリレート、フェノキシジエチレングリコールメタクリレート、フェノキシテトラエチレングリコールアクリレート、フェノキシテトラエチレングリコールメタクリレート、フェノキシヘキサエチレングリコールアクリレート、フェノキシヘキサエチレングリコールメタクリレート、フェニルアクリレート、フェニルメタクリレート等があげられる。
【0035】
エチレン性不飽和単量体(B)100重量%中、エチレン性不飽和単量体(b-2)は60~85重量%である事が好ましい。60重量%未満であるとシェル成分とコア成分の相溶が悪化して不均質な塗膜が形成されるため、塗膜物性(基材密着性、耐水摩擦性)が低下してしまう。一方、85重量%を超えた場合にもシェル成分とコア成分の相溶が悪くなり塗膜物性(基材密着性、耐水摩擦性)が低下する。
【0036】
エチレン性不飽和単量体(b-2)としては、メチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、イソプロピルアクリレート、ブチルアクリレート、イソブチルアクリレート等が挙げられ、中でも優れた塗膜物性を発現する観点からブチルアクリレートがさらに好ましい。」
摘記Id:
「【0047】
コアシェル型樹脂微粒子分散体のガラス転移温度(Tg)は-10~30℃の範囲である事が好ましい。ガラス温度が-10℃未満であると、塗膜強度が低下して塗膜物性(基材密着性、耐水摩擦性、耐ブロッキング性)が悪化する。一方でガラス転移温度が30℃を超えた場合にも、低温乾燥下における分子鎖の運動が阻害されるため、造膜やコア成分とシェル成分の相溶が不十分となり、塗膜物性(基材密着性、耐水摩擦性)が悪化する。
【0048】
上記のガラス転移温度とは下のFOXの式より計算した理論値の事をさす。
<FOX式>1/Tg=W1/Tg1+W2/Tg2+…+Wi/Tgi+…+Wn/Tgn
〔上記FOX式は、n種の単量体からなる重合体を構成する各モノマーのホモポリマーのガラス転移温度をTgi(K)とし、各モノマーの質量分率を、Wiとしており、(W1+W2+…+Wi+…Wn=1)である。〕」
摘記Ie:
「【実施例】
【0090】
以下に、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、以下の実施例は本発明の権利範囲を何ら制限するものではない。なお、実施例における「部」は「重量部」、「%」は「重量%」を表す。
【0091】
<水溶性樹脂(A)の製造>
[製造例1]
攪拌器、温度計、2つの滴下ロート、還流器を備えた別の反応容器に、メチルイソブチルケトン94.0部を仕込み、攪拌しながら、窒素還流下で温度100℃まで昇温した。次に、2つの滴下ロートにおいて、一方からは、スチレン55.0部、アクリル酸30.0部、ラウリルメタクリレート15.0部を3時間かけて滴下した。もう一方からは、ジメチル2,2‘-アゾビスイソブチレート6.0部をメチルイソブチルケトン12.0部に溶解させ、4時間かけてそれを滴下した。滴下完了後、更に10時間反応させて反応を完了した。冷却後、得られた水溶性樹脂(A)溶液に25%アンモニア水23.3部を加えて中和した。更にイオン交換水を加えて、加熱しながら溶剤置換をおこない、水溶性樹脂(A)の水溶液を得た。最後にイオン交換水により、水溶性樹脂(A)溶液の固形分を35.0%に調整した。水溶性樹脂(A)の酸価は220、重量平均分子量は12800であった。
[製造例2~11]
表1に示す配合組成で、製造例1と同様の方法で水溶性樹脂(A)溶液を調製した。中和剤である25%アンモニア水は、水溶性樹脂(A)のカルボキシル基とアンモニアが等モルになるように添加した。さらに製造例1と同様の操作をおこない、固形分35%の水溶樹脂(A)水溶液を調製した。水溶性樹脂(A)については、酸価ならびに重量平均分子量を評価した。
【0092】
[酸価]
樹脂1g中に含まれる酸性成分を中和するのに要する水酸化カリウム
のミリグラム数。乾燥させた水溶性樹脂(A)について、JIS K2501に記載の方法に従い、水酸化カリウム・エタノール溶液で電位差滴定をおこない算出した。
【0093】
[重量平均分子量]
重量平均分子量は、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)測定によるポリスチレン換算の値。乾燥させた水溶性樹脂(A)をテトラヒドロフランに溶解させ、0.1%の溶液を調製し、東ソー製HLC-8320-GPC(カラム番号M-0053 分子量測定範囲約2千~約400万)により重量平均分子量を測定した。
【0094】
【表1】
[図:0001436181000016.jpg]
【0095】
<コアシェル型樹脂微粒子分散体の製造>
[実施例1]
攪拌器、温度計、2つの滴下ロート、還流器を備えた別の反応容器に、イオン交換水91.8部と製造例1で調製した水溶性樹脂(A)溶液114.3部仕込み、攪拌しながら、窒素還流下で温度80℃まで昇温した。次に、2つの滴下ロートにおいて、一方からは、スチレン20.0部、ベンジルメタクリレート18.0部、n-ブチルアクリレート62.0部を2時間かけて滴下した。もう一方からは、過硫酸アンモニウム20%水溶液5.0部を2時間かけて滴下した。滴下完了後、更に4時間反応させて樹脂微粒子分散体を得た。イオン交換水により、樹脂微粒子分散体の固形分を45%に調整した。得られた樹脂微粒子分散体の平均粒子径は84nm、重量平均分子量は470000、酸価は63、ガラス転移温度は2.0℃であった。樹脂微粒子分散体の酸価は、水溶性樹脂(A)の酸価と仕込み量から計算して算出した。ガラス転移温度(Tg)についてはエチレン性不飽和単量体の組成から、先述のFOXの式により算出した。樹脂微粒子分散体1kg当たりの合成時における凝集物の発生量は0.05gであった。
【0096】
[実施例2~15および比較例1~17]
表2、表3に示す配合組成で、実施例1と同様の方法でコアシェル型樹脂微粒子分散体を調製した。実施例10、12、13、14については、合成後、架橋剤のアジピン酸ジヒドラジドを、樹脂微粒子分散体中におけるケト基に対してヒドラジド基が等モルになるように添加した。樹脂微粒子分散体の固形分は全て45.0%に調整した。得られた樹脂微粒子分散体について、実施例1と同様の方法で酸価、ガラス転移温度(Tg)を算出し、平均粒子径、重量平均分子量、凝集物の有無について評価した。
【0097】
[平均粒子径]
樹脂微粒子分散体を500倍に水希釈し、該希釈液約5mlを動的光散乱測定法(測定装置はマイクロトラック(株)日機装製)により測定をおこなった。この時得られた体積粒子径分布データ(ヒストグラム)のピークを平均粒子径とした。
【0098】
[凝集物の有無]
樹脂微粒子分散体を180メッシュ(100μm)のろ布で濾過し、合成時に発生する樹脂微粒子分散体1kg当たりの凝集物量を測定した。評価基準は以下の通りである。
○:0.1g未満である
△:0.1g以上、0.5g未満である
×:0.5g以上である
【0099】【表2】
[図:0001436181000017.jpg]
【0100】
【表3】
[図:0001436181000018.jpg]
」
(サ)文献Jの記載事項
文献Jには、次の事項が記載されている。
摘記Ja:
「【請求項1】
粒子状をなすコア-シェル型のポリマーであって、四員環以上の環構造部を複数個含むコア部と、該コア部の該環構造部からそれぞれ延びる直鎖部を含むシェル部と、よりなり、該直鎖部はカルボキシル基を有する酸モノマーの重合体であるポリマーを含むことを特徴とする二次電池の負極用バインダ。
・・・
【請求項3】
前記ポリマーの前記コア部はジビニルベンゼン由来のベンゼン環を含む請求項1又は請求項2に記載の二次電池の負極用バインダ。」
摘記Jb:
「【0031】
シェル部はコア部を覆うように形成され、環構造部からそれぞれ延びる複数の直鎖部の集合体からなる。直接に顕微鏡観察することは現時点では不可能であるが、無数の直鎖部がコア部から外方へ四方八方に延びてシェル部を構成している構造と考えられる。
・・・
【0034】
RAFT法にて本発明のポリマーを合成する本発明の製造方法は、溶媒中にてRAFT剤の存在下で酸モノマーを重合してポリカルボン酸型マクロRAFT剤を形成する第一工程と、乳化重合にてポリカルボン酸型マクロRAFT剤の存在下で四員環以上の環構造部を有するモノマー又はオリゴマーを重合する第二工程と、を含む。
【0035】
第一工程では、溶媒中にて酸モノマーのRAFT重合が行われる。酸モノマーとしてはアクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、フマル酸、(無水)マレイン酸、酢酸ビニルなどが例示され、これらのうちの一種のみを用いてもよいし、これらから選択された複数種を用いることもできる。酸モノマーの一部を、スチレン、スチレンスルホン酸のアルカリ金属塩などのスチレン誘導体、ブチレン、イソブチレン、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、アクリロニトリルなどのモノマーに置き換えて用いてもよい。本発明のポリマーを二次電池の電極用バインダとして用いる場合には、少なくともアクリル酸を用いるのが好ましい。またアクリル酸とイタコン酸の両方を用いることも好ましい。」
摘記Jc:
「【0043】
第一工程で得られるポリカルボン酸型マクロRAFT剤は、合成に用いたRAFT剤由来の基が片末端に導入されていると考えられ、化1~化4式に示した(R)の部位にポリカルボン酸ブロックが形成されている。第一工程に用いる酸モノマーに対するRAFT剤の組成比を小さくするほど、ポリカルボン酸ブロックの分子量を大きくすることができ、この組成比を調整することで任意の分子量のポリカルボン酸型マクロRAFT剤を精密に合成することができる。
【0044】
得られたポリカルボン酸型マクロRAFT剤は、片末端に導入されたRAFT部位が疎水性であり、ポリカルボン酸ブロックが親水性であるので、乳化剤としても機能する。そこで第二工程では、ポリカルボン酸型マクロRAFT剤と四員環以上の環構造部を有するモノマー又はオリゴマーとを、乳化重合にて重合する。乳化剤が不要となるため、合成後の洗浄工程を不要とすることができる。
【0045】
四員環以上の環構造部を有するモノマー又はオリゴマーとしては、炭素のみからなる単素環式化合物から派生したもの、あるいは炭素以外の元素を含む複素環式化合物から派生したものを用いることができる。入手が容易なベンゼン環を有するものとしては、スチレン、エチルビニルベンゼン、ビニルナフタレン、トリフルオロビニルナフタレン、2-ヒドロキシ-6-ビニルナフタレン、5,8-ジブロモ-2-ビニルナフタレン、ビニルアントラセン、ジビニルベンゼン、1,2‐ビス(トリフルオロビニル)ナフタレン、ジビニルアントラセン、2,6-ジビニル-9,10-ジヒドロアントラセン、9,10-ジビニル-9,10-ジヒドロ-9,10-ジビスマスアントラセン、トリビニルベンゼンなどから選ばれる一種又は複数種のモノマー、あるいはこれらモノマーが一部重合したオリゴマーなどを用いることができる。」
摘記Jd:
「【実施例1】
【0068】
<第一工程>
100mlのナスフラスコに、RAFT剤としてのS-(チオベンゾイル)チオグリコール酸556mgと、重合開始剤としての4,4'-アゾビスシアノ吉草酸(純度98.0%)223mgと、酢酸52.0gとを入れて溶解した。そこへ蒸留精製されたアクリル酸13.0gを加え、10分間窒素で置換した。脱気した後、系を閉じ80℃で6時間加熱して反応させた。
【0069】
反応後、反応液に約200mlのアセトンを加えてポリマーを沈殿させ、これを約100mlのアセトンで2回洗浄して残留するRAFT剤、重合開始剤及び酢酸を除去した。得られた精製ポリマーを真空オーブンにて乾燥させ、淡赤色のポリアクリル酸型マクロRAFT剤を得た。化5に反応式を示す。
【0070】
【化5】
[図:0001436181000019.jpg]
・・・
【0073】
<第二工程>
100mlナスフラスコに第一工程で得られたアクリル酸マクロRAFT剤6.0gを秤量し、ジビニルベンゼン0.061gと1-ブタノール6.0mlを添加した。これを撹拌しながら、イオン交換水60mlを少量ずつ滴下し、50kHzの超音波を照射して乳化させた後、9.3Paの減圧雰囲気にて100℃に加熱して8時間反応させた。反応前に乳化していた溶液は、加熱によって透明になり、反応後も透明な状態で安定していた。
【0074】
化6に反応途中までの反応式を示す。化6における未反応のジビニルベンゼンの二重結合がさらに反応することで、コポリマーが形成され、粒子が形成される。
【0075】【化6】
[図:0001436181000020.jpg]
」
(シ)文献Kの記載事項
文献Kには、次の事項が記載されている。
摘記Ka:
「【請求項1】 ポリマーエマルジョンを構成するポリマー粒子が化学組成の異なる少なくとも二層から成る多層構造を有し、かつ内層がフッ素系重合体である水性複合ポリマーエマルジョンを固形分換算で5~60重量%含有することを特徴とする水系美爪料。
【請求項2】 水性複合ポリマーエマルジョンの製造方法がソープフリー重合法である事を特徴とする請求項1記載の水系美爪料。
【請求項3】 水性複合ポリマーエマルジョンが、塩生成基を有し重合可能な二重結合を有する単量体 0.5~15重量%と、それと共重合し得る重合可能な二重結合を有する単量体85~99.5重量%とを共重合して得られる共重合体の有機溶剤溶液に水を加えた後、有機溶剤を留去して得られる水性ビニル樹脂(A) の存在下で、重合可能な二重結合を有するフッ素系単量体5~100 重量%を含有する単量体(B) を重合して得られる水性複合ポリマーエマルジョンであることを特徴とする請求項1記載の水系美爪料。」
摘記Kb:
「【0007】本発明の美爪料は、内層がフッ素系重合体である水性複合ポリマーエマルジョンを固形分換算で5~60重量%含有することを特徴とする。このようにすることにより、粒子内の層構造がより明瞭になり易く、また塗膜化した際、空気面側にフッ素基が多く分布するため、耐汚れ性と良好な成膜性及び高い塗膜硬度の両立が容易になる。本発明においては、外層のポリマーの軟化温度はできるだけ低い方が成膜性の面で有利である。内層のポリマーをフッ素系重合体とすることにより、外層のポリマーの軟化温度を0℃以下としても塗膜のべとつきは生じない。但し-30℃以下になると若干べたつきは生じるが、内層のポリマーとしてフッ素系重合体を用いない場合に比べ大きく異なる。内層部と外層部のポリマーの重量比について述べると、外層部のポリマーは内層部のポリマに対して、 0.1~20重量倍が好ましく、より好ましくは 0.5~5重量倍である。 0.1重量倍未満及び20重量倍を越えた場合は、内層部もしくは外層部のポリマーの性質がより支配的になるため、上記のような複合ポリマーエマルジョンとしての効果は期待できない。尚、シード重合を1段階行えば内層と外層の二層からなる複合ポリマーエマルジョンが得られるが、更にシード重合を繰り返して行い、更に多層構造の複合ポリマーエマルジョンを得ることも可能である。その場合は内層のうちの一層もしくは内層全てがフッ素系重合体であっても構わない。
【0008】本発明において、外層を構成するポリマーは、重合可能な二重結合を有するモノマーを重合することによって得られる。用いられる単量体としては特に制限はなく、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n
-ブチル、アクリル酸ラウリル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n-ブチル等の(メタ)アクリル酸エステル類;スチレン、クロルスチレンなどのスチレン系単量体;t-ブチルアクリルアミドなどの N-置換(メタ)アクリルアミド;並びにアクリロニトリル、メタクリロニトリルなどが挙げられ、これらの一種または二種以上から選択することができる。
【0009】また内層は重合可能な二重結合を有するフッ素系単量体単独またはそれと共重合し得る重合可能な二重結合を有する単量体とを重合することにより得られる。用いられるフッ素系単量体としては、トリフルオロエチルメタクリレート、2,2,3,3 -テトラフルオロプロピルメタクリレート、2,2,3,3,4,4 -ヘキサフルオロブチルメタクリレート、パーフルオロオクチルメタクリレート、パーフルオロオクチルアクリレート等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。フッ素系単量体と共重合させる単量体としては外層用のポリマーとして用いる上記単量体と同様の単量体が挙げられるが、目的とする多層構造エマルジョンを得るためには疎水性の高い単量体を用いる方が好ましい。
【0010】従って、重合して得られるポリマーの親水性/疎水性、及び軟化温度の高/低を考慮して用いる単量体を選択すればよい。これらを適宜組み合わせて乳化剤を用いた乳化重合、シード乳化重合、乳化剤を用いないソープフリー重合等、公知の手法により多層構造を有する水性複合ポリマーエマルジョンを作製することができるが、これらのうち乳化剤を用いないソープフリー重合が好ましい。
【0011】本発明において用いられる特に好ましい水性複合ポリマーエマルジョンは、塩生成基を有し重合可能な二重結合を有する単量体 0.5~15重量%と、それと共重合し得る重合可能な二重結合を有する単量体85~99.5重量%とを共重合して得られる共重合体の有機溶剤溶液に水を加えた後、有機溶剤を留去して得られる水性ビニル樹脂(A)の存在下で、重合可能な二重結合を有するフッ素系単量体5~100重量%と、それと共重合し得る単量体0~95重量%とからなる単量体(B) を重合して得られた水性複合ポリマーエマルジョンである。
【0012】本発明において、水性ビニル樹脂(A) の製造に用いられる塩生成基を有し重合可能な二重結合を有する単量体としては、アニオン性単量体、カチオン性単量体、両性単量体等が挙げられる。アニオン性単量体としては、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸等の不飽和カルボン酸モノマー又はそれらの無水物あるいは塩;スチレンスルホン酸、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸等の不飽和スルホン酸モノマーまたはそれらの塩;ビニルホスホン酸、アシッドホスホキシエチル(メタ)アクリレート等の不飽和リン酸モノマー等が挙げられる。 カチオン性単量体としては、 N,N-ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N -ジメチルアミノプロピルアクリルアミド等のジアルキルアミノ基を有する(メタ)アクリル酸エステルまたは(メタ)アクリルアミド類; N,N-ジメチルアミノスチレン、 N,N-ジメチルアミノメチルスチレンの如きジアルキルアミノ基を有するスチレン類;4-ビニルピリジン、2-ビニルピリジンの如きビニルピリジン類;或いはこれらをハロゲン化アルキル、ハロゲン化ベンジル、アルキルまたはアリールスルホン酸、または硫酸ジアルキルの如き公知の四級化剤で四級化したもの等が挙げられる。両性単量体としては、 N-(3-スルホプロピル)-N -メタクリロイルオキシエチル-N,N -ジメチルアンモニウムベタイン、 N-カルボキシメチル-N -メタクリロイルオキシエチル-N,N -ジメチルアンモニウムベタイン等が挙げられる。
【0013】これら塩生成基を有し重合可能な二重結合を有する単量体と共重合し得る重合可能な二重結合を有する単量体としては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸ラウリル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n-ブチル等の(メタ)アクリル酸エステル類;スチレン、クロルスチレンなどのスチレン系単量体;t-ブチルアクリルアミドなどの N-置換(メタ)アクリルアミド;並びにアクリロニトリル、メタクリロニトリルなどが挙げられ、これらの一種又は二種以上から選択することができる。
・・・
【0019】上記水性ビニル樹脂(A) の存在下で重合させる単量体(B) 中の重合可能な二重結合を有するフッ素系単量体としては、トリフルオロエチルメタクリレート、2,2,3,3 -テトラフルオロプロピルメタクリレート、2,2,3,3,4,4 -ヘキサフルオロブチルメタクリレート、パーフルオロオクチルメタクリレート、パーフルオロオクチルアクリレート等が挙げられ、これらの一種または二種以上から選択することができる。またこれらのフッ素系単量体と共重合し得る単量体としては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸ラウリル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n-ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸t-ブチル等の(メタ)アクリル酸エステル類;スチレン、クロルスチレンなどのスチレン系単量体;t-ブチルアクリルアミドなどの N-置換(メタ)アクリルアミド;並びにアクリロニトリル、メタクリロニトリルなどが挙げられ、これらの一種または二種以上から選択することができる。」
摘記Kc:
「【0022】得られた水性複合ポリマーエマルジョン粒子の微細構造は未だ明らかではないが、第二段階の重合、即ち、水系に転相して得られた水性ビニル樹脂(A) の存在下で単量体(B) の重合を行う際に、水性ビニル樹脂(A) が単量体(B) の液滴及び生成ポリマー粒子の分散安定剤として働いているのか、あるいは水性ビニル樹脂(A) がシードとして働き、単量体(B) を吸収して重合が行われるかのいずれかと思われる。いずれにせよ、出来上がったポリマーエマルジョンにおいて水性ビニル樹脂(A) はイオン基を有し、比較的親水性であるので粒子の表面近傍もしくは外層部に存在し、単量体(B) の重合体は粒子の中心部もしくは内層を形成すると思われる。
【0023】水性ビニル樹脂(A) 、及び単量体(B) の重合体の物性はモノマーを適宜選択することにより任意に設計可能であるが、水性ビニル樹脂(A) 中の樹脂分の軟化温度は-30℃以上が好ましく、より好ましくは-10℃以上である。軟化温度が-30℃未満では塗膜が若干べとつき、光沢保持性に欠ける。尚、本発明において、軟化温度は熱応力歪測定装置(TMA)を用いて 0.1~0.2 mm×3mm×20mmの試料片の熱変形開始点の温度を測定した値である(昇温速度5℃/min)。」
摘記Kd:
「【実施例】次に水性複合ポリマーエマルジョンの合成例、水性ネイルエナメルの実施例及び比較例を掲げて本発明を具体的に説明するが、本発明がこれらに限定されないことは勿論である。
なお、例中の部及び%は特記しない限り全て重量基準である。
・・・
【0031】合成例4
撹拌器、還流冷却器、滴下ロート、温度計、窒素導入管のついた反応器に水500 部、ラウリルメタクリレート40部、ベンジルメタクリレート48部、ジメチルアミノエチルメタクリレート12部、グリコール酸70%水溶液 8.3部、過硫酸カリウム
2.0部を仕込み、窒素ガスを流し溶存酸素を除去した。撹拌下、反応器内を70℃まで昇温し、同じ温度で5時間反応を続け、その後水を留去することにより濃縮し、固形分25%の水性ビニル樹脂を得た。得られた水性ビニル樹脂の一部を乾燥して樹脂を取り出し、樹脂の軟化温度を測定したところ、-9℃であった。
【0032】合成例1と同様な反応器に上記水性ビニル樹脂を 200部、水27部を仕込み、窒素ガスを流し、溶存酸素を除去した。一方、滴下ロートに2,2,3,3 -テトラフルオロプロピルメタクリレート25部、t-ブチルメタクリレート25部、エタノール 100部、2,2'-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル) 0.2部を仕込んだ。撹拌下、滴下ロートより上記モノマー及びラジカル開始剤のエタノール溶液を1時間かけて上記反応器内に滴下した。反応器内を60℃まで昇温し、6時間同じ温度で熟成して、重合反応を終了した。合成例1と同様な方法でエタノール及び水を留去し、固形分35%の水性複合ポリマーエマルジョンを得た。得られた水性複合ポリマーエマルジョン中の樹脂の軟化温度は-11℃と75℃であった。
【0033】実施例1~4
下記に示す処方で水性ネイルエナメルを製造した。尚、実施例1~4においては、それぞれ合成例1~4で得られた水性複合ポリマーエマルジョンを用いた。製法はイオン交換水に成膜助剤及び可塑剤を加え、これに顔料を分散させた後、水性複合ポリマーエマルジョン、その他の成分を添加し、均一に撹拌混合を行い最後に脱気した。
尚、成膜助剤と可塑剤の使用量は、水性ネイルエナメルの成膜温度がほぼ一定となるように調整した。」
イ 甲1を主引用例とした場合について
(ア)甲1に記載された発明
甲1には、甲1の請求項1(摘記1a)及び【製造例】(【0033】~【0035】)(摘記1c)の記載からみて、以下の発明が記載されているといえる。
「以下のシェル部の原料モノマーを重合させて共重合体を製造し、水を加えて中和して得られたシェル部の水溶液に、以下のコア部の原料モノマー、過硫酸アンモニウム及び水を加えて乳化重合して得られた、総酸価が130であり、ガラス転移点がコア部で7℃であるコア-シェル構造の樹脂エマルジョン。
コア部の原料モノマー
アクリル酸メチル 50g
メタアクリル酸ブチル 50g
シェル部の原料モノマー
スチレン 30g
α-メチルスチレン 10g
メタアクリル酸 40g
メタアクリル酸メチル 20g」
(以下「甲1発明」という。)
また、同様に甲1には以下の発明も記載されているといえる。
「以下のシェル部の原料モノマーを重合させて共重合体を製造し、水を加えて中和して得られたシェル部の水溶液に、以下のコア部の原料モノマー、過硫酸アンモニウム及び水を加えて乳化重合することを含む、総酸価が130であり、ガラス転移点がコア部で7℃であるコア-シェル構造の樹脂エマルジョンの製造方法。
コア部の原料モノマー
アクリル酸メチル 50g
メタアクリル酸ブチル 50g
シェル部の原料モノマー
スチレン 30g
α-メチルスチレン 10g
メタアクリル酸 40g
メタアクリル酸メチル 20g」
(以下「甲1方法発明」という。)
(イ)本件訂正発明1について
a 対比
本件訂正発明1と甲1発明を対比する。
甲1発明における「コア部」は、ポリマーであり、エマルジョン中で粒子を形成することは明らかなので、本件訂正発明1における「ポリマー粒子(A)」に相当する。
甲1発明における「コア部の原料モノマー」である「アクリル酸メチル」及び「メタアクリル酸ブチル」は本件訂正発明1における「エチレン性不飽和単量体(a)」に相当する。
甲1発明における「シェル部」は「共重合体」であるので、本件訂正発明1における「高分子乳化剤(B)」と高分子成分である点で共通する。また、アクリル・ウレタン複合樹脂ではないから、本件訂正発明1における「アクリル・ウレタン複合樹脂を除く」ものに相当する。
甲1発明における「シェル部の原料モノマー」である「メタアクリル酸」及び「メタアクリル酸メチル」は、本件訂正発明1における「エチレン性不飽和単量体(b)」に相当する。
「スチレン」は、本件明細書【表1】には、屈折率が1.59であることが記載されているので、甲1発明におけるシェル部の原料モノマーにスチレンを含むことは、本件訂正発明1における「前記エチレン性不飽和単量体(a)と前記エチレン性不飽和単量体(b)とのうち少なくとも一方は、屈折率1.50以上のエチレン性不飽和単量体(c)を含有」することに相当する。
甲1発明のコア部の原料モノマーがスチレンを含有しないことは、本件訂正発明1における「エチレン性不飽和単量体(a)が、スチレンを含有せず、又はスチレンを10質量%以下の割合で含有する」ことに相当する。
甲1発明における「水」は、本件訂正発明1における「水(C)」に相当する。
甲1発明における「コア-シェル構造の樹脂エマルジョン」は、本件訂正発明1における「水性ポリマーエマルション」に相当し、また、「前記ポリマー粒子(A)と前記高分子乳化剤(B)とが、前記ポリマー粒子(A)を前記高分子乳化剤(B)が覆うことで、コアシェル構造のエマルション粒子を構成」することに、「前記ポリマー粒子(A)と高分子成分とが、前記ポリマー粒子(A)を前記高分子乳化剤(B)が覆うことで、コアシェル構造のエマルション粒子を構成」する点で共通する。
そうすると、本件訂正発明1と甲1発明は、
「ポリマー粒子(A)、高分子成分、及び水(C)を含有し、
前記ポリマー粒子(A)と高分子成分とが、前記ポリマー粒子(A)を前記高分子成分が覆うことで、コアシェル構造のエマルション粒子を構成し、
前記ポリマー粒子(A)は、エチレン性不飽和単量体(a)の重合体であり、
前記高分子成分は、エチレン性不飽和単量体(b)の重合体(ただし、アクリル・ウレタン複合樹脂を除く)であり、
前記エチレン性不飽和単量体(a)と前記エチレン性不飽和単量体(b)とのうち少なくとも一方は、屈折率1.50以上のエチレン性不飽和単量体(c)を含有し、
前記エチレン性不飽和単量体(a)が、スチレンを含有せず、又はスチレンを10質量
%以下の割合で含有する、
水性ポリマーエマルション。」
である点で一致し、次の点で相違する。
相違点1
高分子成分が、本件訂正発明1においては「高分子乳化剤(B)」であるのに対し、甲1発明においては「シェル部」である点。
相違点2
エチレン性不飽和単量体(b)が、本件訂正発明1では「スチレン及び/又はα-メチルスチレンを除く」ものであるのに対し、甲1発明では、「スチレン」及び「α-メチルスチレン」を含む点。
相違点3
屈折率1.50以上のエチレン性不飽和単量体(c)が、本件訂正発明1では「m-フェノキシベンジル(メタ)アクリレートと2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピル(メタ)アクリレートとのうち少なくとも一方を含有」するのに対し、甲1発明では「スチレン」及び「α-メチルスチレン」であり、当該アクリレートを含有するものではない点。
b 相違点の判断
事案に鑑み、相違点2及び3について検討する。
相違点2及び3は、実質的な相違点である。
そして、甲1発明において、エチレン性不飽和単量体(b)に相当するシェル部の原料モノマーから、「スチレン及び/又はα-メチルスチレン」を除くこと、及びコア部又はシェル部の原料モノマーにおいて「m-フェノキシベンジル(メタ)アクリレートと2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピル(メタ)アクリレートとのうち少なくとも一方」を含有させることは、甲1において記載も示唆もないから、その動機付けがなく、当業者が容易になし得たことであるとはいえない。
c 小括
したがって、相違点1について検討するまでもなく、本件訂正発明1は甲1に記載された発明ではなく、また、甲1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(ウ)本件訂正発明5、7~9、12及13について
本件訂正発明5、7~9、12及び13は、本件訂正発明1又は2の水性ポリマーエマルションについて、さらに限定した発明である。
上述のとおり、本件訂正発明1が甲1に記載された発明であるとはいえず、また、甲1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから、本件訂正発明1又は2がより限定された本件訂正発明5、12及び13も、甲1に記載された発明であるとはいえず、また、本件訂正発明5、7~9、12及び13も、甲1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(エ)本件訂正発明15について
a 対比
本件訂正発明15は、本件訂正発明1の「水性ポリマーエマルション」の製造方法であって、「水性溶媒中で前記高分子乳化剤(B)の存在下でエチレン性不飽和単量体(a)を乳化重合することで前記ポリマー粒子(A)を合成することを含む」ことを特定した発明であると解される。
そこで、本件訂正発明15と甲1方法発明を対比すると、上記(イ)aで述べたとおり、甲1方法発明における「コア部」及び「コア部のモノマー」は、それぞれ、本件訂正発明15の「ポリマー粒子(A)」及び「エチレン性不飽和単量体(a)」に相当し、甲1方法発明における「シェル部」は、本件訂正発明15における「高分子乳化剤(B)」に高分子成分である点で共通する。
また、本件訂正発明15の「水性ポリマーエマルション」と甲1方法発明の「コア-シェル構造の樹脂エマルジョン」とは、上記(イ)aで述べたとおりの点で一致する。
よって、甲1方法発明において、「シェル部の水溶液」に「コア部の原料モノマー・・・を加えて乳化重合する」ことは、本件訂正発明15における「水性溶媒中で前記高分子乳化剤(B)の存在下でエチレン性不飽和単量体(a)を乳化重合することで前記ポリマー粒子(A)を合成する」ことと、「水性溶媒中で高分子成分の存在下でエチレン性不飽和単量体(a)を乳化重合することで前記ポリマー粒子(A)を合成する」点で共通する。
そうすると本件訂正発明15と甲1方法発明の相違点は以下のとおりであると認められる。
相違点1’
高分子成分が、本件訂正発明15においては「高分子乳化剤(B)」であるのに対し、甲1方法発明においては「シェル部」である点。
相違点2’
エチレン性不飽和単量体(b)が、本件訂正発明15では「スチレン及び/又はα-メチルスチレンを除く」ものであるのに対し、甲1方法発明では、「スチレン」及び「α-メチルスチレン」を含む点。
相違点3’
屈折率1.50以上のエチレン性不飽和単量体(c)が、本件訂正発明15では「m-フェノキシベンジル(メタ)アクリレートと2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピル(メタ)アクリレートとのうち少なくとも一方を含有」するのに対し、甲1方法発明では「スチレン」及び「α-メチルスチレン」であり、当該アクリレートを含有するものではない点。
b 相違点の判断
事案に鑑み相違点2’及び相違点3’について検討する。
相違点2’及び相違点3’は実質的な相違点である。
そして、上記(イ)bで述べたものと同様の理由により、甲1方法発明において、エチレン性不飽和単量体(b)に相当するシェル部の原料モノマーから、「スチレン及び/又はα-メチルスチレン」を除き、さらに、コア部又はシェル部の原料モノマーとして「m-フェノキシベンジル(メタ)アクリレートと2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピル(メタ)アクリレートとのうち少なくとも一方」を含有させることは、当業者が容易になし得たことであるとはいえない。
c 小括
したがって、相違点1’について検討するまでもなく、本件訂正発明15は甲1に記載された発明ではなく、また、甲1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(オ)まとめ
以上のとおり、本件訂正発明1、5、12、13及び15は、甲1に記載された発明ではなく、また、本件訂正発明1、5、7~9、12、13及び15は、甲1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
ウ 文献Aを主引用例とした場合について
(ア)文献Aに記載された発明
文献Aには、請求項1(摘記Aa)及び【実施例】(摘記Ab)の記載があり、【実施例】には、「製造例 1」の「アクリル系高分子共重合体[高分子分散剤](商品名“サンサイザーSA709”三洋化成(株)製、スチレン-マレイン酸系、重量平均分子量20000、不揮発分30%)」、「イオン交換水」及び顔料を混合して「顔料分散液」を製造した旨の記載、【0028】における「製造例1~3で得られた顔料分散液1~3を、表1の処方に従って、イオン交換水に分散させた後、これにアクリル系ポリマーエマルジョン[皮膜形成剤](商品名“ヨドゾールGH800”日本エヌエスシー(株)製)を添加し、・・・実施例1~3の水系美爪料を調製した。」との記載、並びに表1の記載がある。
これらの記載からみて、文献Aには、以下の発明が記載されているといえる。
「顔料を、スチレン-マレイン酸系アクリル系高分子共重合体である分散剤及び水とともに分散せしめた顔料分散液、並びにアクリル系ポリマーエマルジョン(商品名「ヨドゾールGH800」)を混合して得られた、水系美爪料。」
(以下「文献A発明」という。)
(イ)本件訂正発明1について
a 対比
本件訂正発明1と文献A発明を対比する。
文献A発明における「アクリル系ポリマーエマルジョン」は、ポリマーであり、エマルジョン中で粒子を形成することは明らかなので、本件訂正発明1における「ポリマー粒子(A)」に相当する。
文献A発明における「ヨドゾールGH800」は、文献G(摘記Ga及びGb)の記載からみて、アクリル酸アルキル、メタクリル酸アルキル、アクリル酸又はメタクリル酸の中の2種以上のモノマーからなる共重合体のエマルジョンであると認められる。
よって、「アクリル系ポリマーエマルジョン(商品名「ヨドゾールGH800」)」の重合成分である「アクリル酸アルキル」、「メタクリル酸アルキル」、「アクリル酸又はメタクリル酸」は、「エチレン性不飽和単量体(a)」に相当する。
文献A発明における「スチレン-マレイン酸系アクリル系高分子共重合体である分散剤」は「高分子」であるので、本件訂正発明1における「高分子乳化剤(B)」と高分子成分である点で共通する。また、「アクリル・ウレタン複合樹脂」ではないから、本件訂正発明1における「アクリル・ウレタン複合樹脂を除く」ものに相当する。
文献A発明の「スチレン-マレイン酸系アクリル系高分子共重合体である分散剤」の重合成分である「スチレン」及び「マレイン酸」は、本件訂正発明1における、「エチレン性不飽和単量体(b)」に相当する。また、「α-メチルスチレン」含むものでないから、「スチレン及び/又はα-メチルスチレンを除く」ことにも相当する。
「スチレン」は、本件明細書【表1】には、屈折率が1.59であることが記載されているから、文献A発明におけるアクリル系高分子共重合体がスチレン-マレイン酸系である、すなわちスチレンを含むことは、本件訂正発明1における「前記エチレン性不飽和単量体(a)と前記エチレン性不飽和単量体(b)とのうち少なくとも一方は、屈折率1.50以上のエチレン性不飽和単量体(c)を含有」することに相当する。
文献A発明における「ヨドゾールGH800」を構成するモノマーは、上記で述べたとおりであるので、文献A発明における「アクリル系ポリマーエマルジョン(商品名「ヨドゾールGH800」)」は、本件訂正発明1における「エチレン性不飽和単量体(a)が、スチレンを含有せず、又はスチレンを10質量%以下の割合で含有する」ことに相当する。
文献A発明における「水」は、本件訂正発明1における「水(C)」に相当する。
文献A発明における「水系美爪料」は、上記「スチレン-マレイン酸系アクリル系高分子共重合体である分散剤」と「アクリル系ポリマーエマルジョン」を含むので本件訂正発明1における「水性ポリマーエマルション」に相当する。
そうすると、本件訂正発明1と文献A発明は、
「ポリマー粒子(A)、高分子成分、及び水(C)を含有し、
前記ポリマー粒子(A)は、エチレン性不飽和単量体(a)の重合体であり、
前記高分子成分は、エチレン性不飽和単量体(b)(スチレン及び/又はα-メチルスチレンを除く)の重合体(ただし、アクリル・ウレタン複合樹脂を除く)であり、
前記エチレン性不飽和単量体(a)と前記エチレン性不飽和単量体(b)とのうち少なくとも一方は、屈折率1.50以上のエチレン性不飽和単量体(c)を含有し、
前記エチレン性不飽和単量体(a)が、スチレンを含有せず、又はスチレンを10質量%以下の割合で含有する、
水性ポリマーエマルション。」
である点で一致し、次の点で相違する。
相違点1A
高分子成分が、本件訂正発明1においては「高分子乳化剤(B)」であるのに対し、文献A発明においては「スチレン-マレイン酸系アクリル系高分子共重合体である分散剤」である点。
相違点2A
本件訂正発明1では「前記ポリマー粒子(A)と前記高分子乳化剤(B)とが、前記ポリマー粒子(A)を前記高分子乳化剤(B)が覆うことで、コアシェル構造のエマルション粒子を構成」しているのに対し、文献A発明では、そのような特定はされていない点。
相違点3A
屈折率1.50以上のエチレン性不飽和単量体(c)が、本件訂正発明1では「m-フェノキシベンジル(メタ)アクリレートと2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピル(メタ)アクリレートとのうち少なくとも一方を含有」するのに対し、文献A発明では、「スチレン」であり、当該アクリレートを含有するものではない点。
b 相違点の判断
事案に鑑み、相違点3Aについて検討する。
相違点3Aは、実質的な相違点である。
そして、文献A発明の「ヨドゾールGH800」及び「スチレン-マレイン酸系アクリル系高分子共重合体である分散剤」において、構成モノマーとして「m-フェノキシベンジル(メタ)アクリレートと2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピル(メタ)アクリレートとのうち少なくとも一方」を含むものとすることは、文献Aにおいて記載も示唆もなく、その動機付けがないから、当業者が容易になし得たことであるとはいえない。
c 小括
したがって、相違点1A及び2Aについて検討するまでもなく、本件訂正発明1は文献Aに記載された発明ではなく、また、文献Aに記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(ウ)本件訂正発明12~14について
本件訂正発明12~14は、本件訂正発明1又は2の水性ポリマーエマルジョンについて、さらに限定した発明である。
上述のとおり、本件訂正発明1が文献Aに記載された発明であるとはいえず、また、文献Aに記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから、本件訂正発明1又は2がより限定された本件訂正発明12~14も、文献Aに記載された発明であるとはいえず、また、文献Aに記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない
(エ)まとめ
以上のとおり、本件訂正発明1及び12~14は、文献Aに記載された発明ではなく、また、文献Aに記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
エ 文献Bを主引用例とした場合について
(ア)文献Bに記載された発明
文献Bには、「樹脂を含み、且つ、樹脂以外に油性成分を含有する化粧料に於いて、アクリル系水溶性ポリマーを外殻に有し、内核に非水溶性ポリマーを有するコアシェル型エマルション樹脂を被覆してなる粉体を含有することを特徴とする、乳化型化粧料」が記載されている(請求項1(摘記Ba))。また、同【0011】<参考例>の「コアシェル型エマルション液(コアシェル液1)」の製造方法の記載(摘記Bb)中、
「窒素気流下、メチルエチルケトン200質量部を加熱還流し、これにα-メチルスチレン62質量部、アクリル酸-2-エチルヘキシル10質量部、アクリル酸28質量部、アゾビスイソブチロニトリル0.5質量部を滴下し、4時間反応させた。これをアンモニア水で中和し、減圧濃縮してメチルエチルケトンを除去した」
との記載は、水性モノマーであるアクリル酸を含むことから請求項1に記載の「外殻」の製造工程に該当すると認められ、同じく
「この液にスチレン188質量部とアクリル酸-2-エチルヘキシル15質量部を滴下し、水15質量部に過硫酸カリウム0.1質量部を溶かしたものを加え4時間反応させた」
との記載は、非水溶性モノマーを含むことから請求項1に記載の「内核」の製造工程に該当すると認められる。そうすると、文献Bには、以下の発明が記載されているといえる。
「以下の外殻の原料モノマーを反応させてアンモニア水を加えて中和して得られたアクリル系水溶性ポリマーからなる外殻を含む液に、以下の内核の原料モノマー及び水に過硫酸カリウムを加えて反応させて非水溶性ポリマーからなる内核を形成して得られた、コア:シェル=67:33の、内核と外殻からなるコアシェル型エマルション液。
内核の原料モノマー
スチレン 188質量部
アクリル酸-2-エチルヘキシル 15質量部
外殻の原料モノマー
α-メチルスチレン 62質量部
アクリル酸-2-エチルヘキシル 10質量部
アクリル酸 28質量部」
(以下「文献B発明」という。)
また、同様に文献Bには以下の発明も記載されているといえる。
「以下の外殻の原料モノマーを反応させてアンモニア水を加えて中和して得られたアクリル系水溶性ポリマーからなる外殻を含む液に、以下の内核の原料モノマー及び水に過硫酸カリウムを加えて反応させて非水溶性ポリマーからなる内核を形成することを含む、コア:シェル=67:33の内核と外殻からなるコアシェル型エマルション液の製造方法。
内核の原料モノマー
スチレン 188質量部
アクリル酸-2-エチルヘキシル 15質量部
外殻の原料モノマー
α-メチルスチレン 62質量部
アクリル酸-2-エチルヘキシ 10質量部
アクリル酸 28質量部」
(以下「文献B方法発明」という。)
(イ)本件訂正発明2について
a 対比
本件訂正発明2と文献B発明を対比する。
文献B発明における「内核」は、ポリマーであり、エマルション中で粒子を形成することは明らかなので、本件訂正発明2における「ポリマー粒子(A)」に相当する。
文献B発明における「内核の原料モノマー」である「スチレン」及び「アクリル酸-2-エチルヘキシル」は、本件訂正発明2における「エチレン性不飽和単量体(a)」に相当する。
文献B発明における「外殻」は、「アクリル系水溶性ポリマー」であるので、本件訂正発明2における「高分子乳化剤(B)」と高分子成分である点で共通する。アクリル・ウレタン複合樹脂」ではないから、本件訂正発明2における「アクリル・ウレタン複合樹脂を除く」ものであることに相当する。
文献B発明における「外殻の原料モノマー」である「α-メチルスチレン」、「アクリル酸-2-エチルヘキシル」及び「アクリル酸」は、本件訂正発明2における「エチレン性不飽和単量体(b)」に相当する。
「スチレン」は、本件明細書【表1】には、屈折率が1.59であることが記載されており、また、文献H(摘記Ha)の記載からみて、「α-メチルスチレン」も屈折率1.5以上であると認められる。
よって、文献B発明における「内核」の原料モノマーに「スチレン」を含み、「外殻」の原料モノマーに「α-メチルスチレン」を含むことは、本件訂正発明2における「前記エチレン性不飽和単量体(a)と前記エチレン性不飽和単量体(b)とのうち少なくとも一方は、屈折率1.50以上のエチレン性不飽和単量体(c)を含有」することに相当する。
文献B発明の外殼の原料モノマーがスチレンを含有しないことは、本件訂正発明2における「エチレン性不飽和単量体(b)が、スチレンを含有しない」ことに相当する。
文献B発明における「水」は、本件訂正発明2における「水(C)」に相当する。
文献B発明における「内核と外殻からなるコアシェル型エマルション液」は、本件訂正発明2における「水性ポリマーエマルション」に相当し、「前記ポリマー粒子(A)と前記高分子乳化剤(B)とが、前記ポリマー粒子(A)を前記高分子乳化剤(B)が覆うことで、コアシェル構造のエマルション粒子を構成」することに「前記ポリマー粒子(A)と高分子成分とが、前記ポリマー粒子(A)を前記高分子成分が覆うことで、コアシェル構造のエマルション粒子を構成」する点で共通する。
そうすると、本件訂正発明2と文献B発明は、
「ポリマー粒子(A)、高分子成分、及び水(C)を含有し、
前記ポリマー粒子(A)と高分子成分とが、前記ポリマー粒子(A)を高分子成分が覆うことで、コアシェル構造のエマルション粒子を構成し、
前記ポリマー粒子(A)は、エチレン性不飽和単量体(a)の重合体であり、
前記高分子成分は、エチレン性不飽和単量体(b)の重合体(ただし、アクリル・ウレタン複合樹脂を除く)であり、
前記エチレン性不飽和単量体(a)と前記エチレン性不飽和単量体(b)とのうち少なくとも一方は、屈折率1.50以上のエチレン性不飽和単量体(c)を含有し、
前記エチレン性不飽和単量体(b)が、スチレンを含有しない、
水性ポリマーエマルション。」
である点で一致し、次の点で相違する。
相違点1B
高分子成分が、本件訂正発明2においては「高分子乳化剤(B)」であるのに対し、文献B発明においては「外殻」である点。
相違点2B
屈折率1.50以上のエチレン性不飽和単量体(c)が、本件訂正発明2では「m-フェノキシベンジル(メタ)アクリレートと2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピル(メタ)アクリレートとのうち少なくとも一方を含有」するのに対し、文献B発明では、「スチレン」及び「α-メチルスチレン」であり、当該アクリレートを含有するものではない点。
b 相違点の判断
事案に鑑み、相違点2Bについて検討する。
相違点2Bは、実質的な相違点である。
そして、文献B発明の内核及び外殻のモノマーにおいて、「m-フェノキシベンジル(メタ)アクリレートと2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピル(メタ)アクリレートとのうち少なくとも一方」を含有させることは、文献Bには記載も示唆もなく、その動機付けがないから、当業者が容易になし得たことであるとはいえない。
c 小括
したがって、相違点1Bについて検討するまでもなく、本件訂正発明2は文献Bに記載された発明ではなく、また、文献Bに記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(ウ)本件訂正発明4、5、7及び9~14について
本件訂正発明4、5、7及び9~14は、本件訂正発明1又は2の水性ポリマーエマルジョンについて、さらに限定した発明である。
上述のとおり、本件訂正発明2が文献Bに記載された発明であるとはいえず、また、文献Bに記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから、本件訂正発明1又は2がより限定された本件訂正発明5、7及び9~14も、文献Bに記載された発明であるとはいえず、また、本件訂正発明4、5、7及び9~14も、文献Bに記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(エ)本件訂正発明16について
a 対比
本件訂正発明16は、本件訂正発明2の「水性ポリマーエマルション」の製造方法であって、「水性溶媒中で前記高分子乳化剤(B)の存在下でエチレン性不飽和単量体(a)を乳化重合することで前記ポリマー粒子(A)を合成することを含む」ことを特定した発明であると解される。
そこで、本件訂正発明16と文献B方法発明を対比すると、上記(イ)aで述べたとおり、文献B方法発明における「内核」及び「内核の原料モノマー」は、それぞれ、本件訂正発明16の「ポリマー粒子(A)」及び「エチレン性不飽和単量体(a)」に相当し、文献B方法発明における「外殻」は、本件訂正発明16における「高分子乳化剤(B)」に高分子成分である点で共通する。
また、本件訂正発明16の「水性ポリマーエマルション」と文献B方法発明の「コアシェル型エマルション液」とは、上記(イ)aで述べたとおりの点で一致する。
よって、文献B方法発明において「外殻を含む液」に「内核の原料モノマー・・・を加えて反応させ」ることは、本件訂正発明16における「水性溶媒中で前記高分子乳化剤(B)の存在下でエチレン性不飽和単量体(a)を乳化重合することで前記ポリマー粒子(A)を合成する」ことと、
「水性溶媒中で高分子成分の存在下でエチレン性不飽和単量体(a)を乳化重合することで前記ポリマー粒子(A)を合成する」
点で共通する。
そうすると本件訂正発明16と文献B方法発明の相違点は以下のとおりであると認められる。
相違点1B’
高分子成分が、本件訂正発明16においては「高分子乳化剤(B)」であるのに対し、文献B方法発明においては「外殻」である点。
相違点2B’
屈折率1.50以上のエチレン性不飽和単量体(c)が、本件訂正発明16では「m-フェノキシベンジル(メタ)アクリレートと2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピル(メタ)アクリレートとのうち少なくとも一方を含有」するのに対し、文献B方法発明では、「スチレン」及び「α-メチルスチレン」であり、当該アクリレートを含有するものではない点。
b 相違点の判断
事案に鑑み、相違点2B’について検討する。
相違点2B’は実質的な相違点である。
そして、上記(イ)bで述べたものと同様の理由により、文献B発明の内核及び外殻のモノマーにおいて、「m-フェノキシベンジル(メタ)アクリレートと2-ヒドロキシ-4-フェノキシプロピル(メタ)アクリレートとのうち少なくとも一方」を含有させることは、当業者が容易になし得たことであるとはいえない。
c 小括
したがって、相違点1B’について検討するまでもなく、本件訂正発明16は文献Bに記載された発明ではなく、また、文献Bに記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(オ)まとめ
以上のとおり、本件訂正発明2、5、7、9~14及び16は、文献Bに記載された発明ではなく、また、本件訂正発明2、4、5、7、9~14及び16は、文献Bに記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
オ 文献Cを主引用例とした場合について
(ア)文献Cに記載された発明
文献Cには、「α,β-モノエチレン性不飽和酸を含むエチレン性不飽和分子の付加重合体を分散剤として含む水性顔料分散液を水性樹脂エマルジョンに配合」した「水性マニキュア剤」が記載され(請求項1(摘記Ca))、実施例(摘記Cc)には、【表1】に示される配合量で製造したアクリル酸の重合体である「重合体A」を「分散剤」として、顔料を配合した「水性顔料分散液1」を、「水性アクリル樹脂エマルジョンA」に【表2】本発明組成物1に示される配合量で配合した「マニュキア剤1」を調整したことが記載されている。これらの記載からみて、文献Cには、以下の発明が記載されているといえる。
(「水性アクリル樹脂エマルジョンA」の製造における「%」は、文献C【0025】(摘記Cb)において、水性樹脂エマルションのモノマーを重量部で特定していることからみて重量%であると認められる。)
「メタアクリル酸3重量%、エチルアクリレート40重量%、メチルメタクリレート37重量%、スチレン20重量%を用いて、乳化重合法を行い、中和して得られたスチレン-アクリル樹脂エマルジョンである水性樹脂エマルジョンA、
アクリル酸を重合させて中和して得られた重合体Aを分散剤として含む水性顔料分散液1、及び水を配合した水性マニキュア剤。」
(以下「文献C発明」という。)
(イ)本件訂正発明2について
a 対比
本件訂正発明2と文献C発明を対比する。
文献C発明における「水性樹脂エマルジョンA」は、ポリマーであり、エマルション中で粒子を形成することは明らかなので、本件訂正発明2における「ポリマー粒子(A)」に相当する。
文献C発明における「水性樹脂エマルジョンA」の形成に用いられた「メタアクリル酸」、「エチルアクリレート」、「メチルメタクリレート」及び「スチレン」は、「エチレン性不飽和単量体(a)」に相当する。
文献C発明における「重合体A」は高分子であるので、本件訂正発明2における「高分子乳化剤(B)」と高分子成分である点で共通する。また、「アクリル・ウレタン複合樹脂」ではないから、本件訂正発明2における「アクリル・ウレタン複合樹脂を除く」ものであることに相当する。
文献C発明の「重合体A」の重合成分である「アクリル酸」は、本件訂正発明2における、「エチレン性不飽和単量体(b)」に相当する。
「スチレン」は、本件明細書【表1】には、屈折率が1.59であることが記載されているから、文献C発明における「水性樹脂エマルジョンA」の原料モノマーにスチレンを含むことは、本件訂正発明2における「前記エチレン性不飽和単量体(a)と前記エチレン性不飽和単量体(b)とのうち少なくとも一方は、屈折率1.50以上のエチレン性不飽和単量体(c)を含有」することに相当する。
文献C発明における重合体Aを構成するモノマーはアクリル酸のみであるので、本件訂正発明2における「エチレン性不飽和単量体(b)が、スチレンを含有しない」ことに相当する。
文献C発明における「水」は、本件訂正発明2における「水(C)」に相当する。
文献C発明における「水性マニキュア剤」は、上記「水性樹脂エマルジョンA」を含むので本件訂正発明2における「水性ポリマーエマルション」に相当する。
そうすると、本件訂正発明2と文献C発明は、
「ポリマー粒子(A)、高分子成分、及び水(C)を含有し、
前記ポリマー粒子(A)は、エチレン性不飽和単量体(a)の重合体であり、
前記高分子成分は、エチレン性不飽和単量体(b)の重合体(ただし、アクリル・ウレタン複合樹脂を除く)であり、
前記エチレン性不飽和単量体(a)と前記エチレン性不飽和単量体(b)とのうち少なくとも一方は、屈折率1.50以上のエチレン性不飽和単量体(c)を含有し、
前記エチレン性不飽和単量体(b)が、スチレンを含有しない、
水性ポリマーエマルション。」
である点で一致し、次の点で相違する。
相違点1C
高分子成分が、本件訂正発明2においては「高分子乳化剤(B)」であるのに対し、文献C発明においては「アクリル酸を重合させて中和して得られた重合体A」である点。
相違点2C
本件訂正発明2では、「前記ポリマー粒子(A)と前記高分子乳化剤(B)とが、前記ポリマー粒子(A)を前記高分子乳化剤(B)が覆うことで、コアシェル構造のエマルション粒子を構成」しているのに対し、文献C発明では、そのような特定がされていない点。
相違点3C
屈折率1.50以上のエチレン性不飽和単量体(c)が、本件訂正発明2では「m-フェノキシベンジル(メタ)アクリレートと2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピル(メタ)アクリレートとのうち少なくとも一方を含有」するのに対し、文献C発明では「スチレン」であり、当該アクリレートを含有するものではない点。
b 相違点の判断
事案に鑑み、相違点3Cについて検討する。
相違点3Cは、実質的な相違点である。
そして、文献C発明の「水性樹脂エマルジョンA」及び「重合体A」において、原料モノマーとして「m-フェノキシベンジル(メタ)アクリレートと2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピル(メタ)アクリレートとのうち少なくとも一方」を含有させることは、文献Cに記載も示唆もなく、その動機付けがないから、当業者が容易になし得たことであるとはいえない。
c 小括
したがって、相違点1C及び2Cについて検討するまでもなく、本件訂正発明2は文献Cに記載された発明ではなく、また、文献Cに記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(ウ)本件訂正発明4、8及び12~14について
本件訂正発明4、8及び12~14は、本件訂正発明1又は2の水性ポリマーエマルジョンについて、さらに限定した発明である。
上述のとおり、本件訂正発明2が文献Cに記載された発明であるとはいえず、また、文献Cに記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから、本件訂正発明1又は2がより限定された本件訂正発明4、8及び12~14も、文献Cに記載された発明であるとはいえず、また、文献Cに記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(エ)まとめ
以上のとおり、本件訂正発明2、4、8及び12~14は、文献Cに記載された発明ではなく、また、文献Cに記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
カ 文献Dを主引用例とした場合について
(ア)文献Dに記載された発明
文献Dには、請求項1(摘記Da)の記載、実施例(摘記Dc)における、【表2】の製造例14に示されるモノマー組成にてアクリル・ウレタン複合樹脂を製造し、さらにこのアクリル・ウレタン樹脂溶液の存在下で、【表3】実施例2に示されるエチレン性不飽和単量体(B)に記載のモノマーを滴下してコアシェル型水性複合樹脂分散体を得た旨の記載、及びエチレン性不飽和単量体(B)は「コア成分」である旨の記載(【0052】摘記Db)からみて、以下の発明が記載されているといえる。
「アクリル・ウレタン複合樹脂(A)を高分子乳化剤として、水媒体中で下記のエチレン性不飽和単量体(B)を重合してなるコア成分を含む水性複合樹脂分散体であって、
アクリル・ウレタン複合樹脂(A)が、
両末端メルカプト基含有ウレタンウレア樹脂(E-2)を連鎖移動剤として、下記のエチレン性不飽和単量体(G)を重合したものである水性複合樹脂分散体。
エチレン性不飽和単量体(B) (部)
n-ブチルメタクリレート 20.0
ベンジルメタクリレート 10.0
エチレン性不飽和単量体(G) (部)
メタクリル酸 12.0
PME-400 5.0
ジメチルアミノエチルメタクリレート 3.0
メチルメタクリレート 50.0
シクロヘキシルメタクリレート 10.0
ベンジルメタクリレート 5.0
ラウリルメタアクリレート 10.0
メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン 5.0 」
(以下「文献D発明」という。)
また、同様に文献Dには以下の発明も記載されているといえる。
「アクリル・ウレタン複合樹脂(A)を高分子乳化剤として、水媒体中で下記のエチレン性不飽和単量体(B)を重合してなるコア成分を含む水性複合樹脂分散体の製造方法であって、
アクリル・ウレタン複合樹脂(A)が、
両末端メルカプト基含有ウレタンウレア樹脂(E-2)を連鎖移動剤として、下記のエチレン性不飽和単量体(G)を重合したものである水性複合樹脂分散体の製造方法。
エチレン性不飽和単量体(B) (部)
n-ブチルメタクリレート 20.0
ベンジルメタクリレート 10.0
エチレン性不飽和単量体(G) (部)
メタクリル酸 12.0
PME-400 5.0
ジメチルアミノエチルメタクリレート 3.0
メチルメタクリレート 50.0
シクロヘキシルメタクリレート 10.0
ベンジルメタクリレート 5.0
ラウリルメタアクリレート 10.0
メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン 5.0 」
(以下「文献D方法発明」という。)
(イ)本件訂正発明1について
a 対比
本件訂正発明1と文献D発明を対比する。
文献D発明における「エチレン性不飽和単量体(B)を重合してなるコア成分」は、ポリマーであり、粒子を形成することは明らかなので、本件訂正発明1における「ポリマー粒子(A)」に相当する。
文献D発明における「エチレン性不飽和単量体(B)」は、本件訂正発明1における「エチレン性不飽和単量体(a)」に相当する。
文献D発明における「高分子乳化剤」である「アクリル・ウレタン複合樹脂(A)」は、本件訂正発明1における「高分子乳化剤(B)」に相当する。
文献D発明における「エチレン性不飽和単量体(G)」は、本件訂正発明1における「エチレン性不飽和単量体(b)」に相当する。
「ベンジルメタクリレート」は、文献H(摘記Ha)の記載からみて、屈折率が1.5以上であると認められる。
よって、文献D発明において「エチレン性不飽和単量体(B)」及び「エチレン性不飽和単量体(G)」が「ベンジルメタクリレート」を含むことは、本件訂正発明1における「前記エチレン性不飽和単量体(a)と前記エチレン性不飽和単量体(b)とのうち少なくとも一方は、屈折率1.50以上のエチレン性不飽和単量体(c)を含有」することに相当する。
文献D発明の「エチレン性不飽和単量体(B)」がスチレンを含有しないことは、本件訂正発明1における「エチレン性不飽和単量体(a)が、スチレンを含有せず、又はスチレンを10質量%以下の割合で含有する」ことに相当する。
文献D発明における「水媒体」は、本件訂正発明1における「水(C)」に相当する。
文献D発明における「高分子乳化剤として、水媒体中で下記のエチレン性不飽和単量体(B)を重合してなるコア成分を含む水性複合樹脂分散体」は、本件訂正発明1における「前記ポリマー粒子(A)と前記高分子乳化剤(B)とが、前記ポリマー粒子(A)を前記高分子乳化剤(B)が覆うことで、コアシェル構造のエマルション粒子を構成」すること及び「水性ポリマーエマルション」に相当する。
そうすると、本件訂正発明1と文献D発明は、
「ポリマー粒子(A)、高分子乳化剤(B)、及び水(C)を含有し、
前記ポリマー粒子(A)と前記高分子乳化剤(B)とが、前記ポリマー粒子(A)を前記高分子乳化剤(B)が覆うことで、コアシェル構造のエマルション粒子を構成し、
前記ポリマー粒子(A)は、エチレン性不飽和単量体(a)の重合体であり、
前記高分子乳化剤(B)は、エチレン性不飽和単量体(b)(ただし、スチレン及び/又はα-メチルスチレンを除く)の重合体であり、
前記エチレン性不飽和単量体(a)と前記エチレン性不飽和単量体(b)とのうち少なくとも一方は、屈折率1.50以上のエチレン性不飽和単量体(c)を含有し、
前記エチレン性不飽和単量体(a)が、スチレンを含有せず、又はスチレンを10質量%以下の割合で含有する、
水性ポリマーエマルション。」
である点で一致し、次の点で相違する。
相違点1D
高分子乳化剤(B)が、本件訂正発明1においては「アクリル・ウレタン複合樹脂を除く」ものであるのに対し、文献D発明においては「アクリル・ウレタン複合樹脂」である点。
相違点2D
屈折率1.50以上のエチレン性不飽和単量体(c)が、本件訂正発明1では「m-フェノキシベンジル(メタ)アクリレートと2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピル(メタ)アクリレートとのうち少なくとも一方を含有」するのに対し、文献D発明では「ベンジルメタクリレート」であり、当該アクリレートを含有するものではない点。
b 相違点の判断
(a)相違点1Dについて
相違点1Dは、実質的な相違点である。
そして、文献D発明は、アクリル・ウレタン複合樹脂(A)を高分子乳化剤とすることを特徴とする発明であるから、文献D発明において、高分子乳化剤をアクリル・ウレタン樹脂としないことは、当業者が容易になし得たことであるとはいえない。
(b)相違点2Dについて
相違点2Dは、実質的な相違点である。
そして、文献D発明のエチレン性不飽和単量体(B)及び(G)において、「m-フェノキシベンジル(メタ)アクリレートと2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピル(メタ)アクリレートとのうち少なくとも一方」を含有させることは、文献Dにおいて記載も示唆もなく、その動機付けがないから、当業者が容易になし得たことであるとはいえない。
c 小括
したがって、本件訂正発明1は文献Dに記載された発明ではなく、また、文献Dに記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(ウ)本件訂正発明2について
a 対比
本件訂正発明2は、本件訂正発明1と以下のa及びbの点でのみ異なる発明である。
a 「エチレン性不飽和単量体(b)」について、本件訂正発明1では、「スチレン及び/又はα-メチルスチレンを除く」としているのを、本件訂正発明2では、「スチレンを含有しない」としている点。
b 本件訂正発明1では、「前記エチレン性不飽和単量体(a)が、スチレンを含有せず、又はスチレンを10質量%以下の割合で含有する」という特定があるが、本件訂正発明2では、そのような特定がない点。
そこで、本件訂正発明2と文献D発明を対比すると、文献D発明におけるエチレン性不飽和単量体(G)がスチレンを含まないことは、本件訂正発明2及び3における「エチレン性不飽和単量体(b)」が「スチレンを含有しない」ことに相当する。
また、上記以外の事項については、上記(イ)aで述べた本件訂正発明1と文献D発明と同様の点で一致し、相違点1D及び2Dにおいて相違する。
b 相違点の判断
上記(イ)bで述べたものと同様の理由により、文献D発明において、相違点1D及び2Dに係る発明特定事項とすることは当業者が容易になし得たことであるとはいえない。
c 小括
したがって、本件訂正発明2は文献Dに記載された発明ではなく、また、文献Dに記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(エ)本件訂正発明4、5及び8~11について
本件訂正発明4、5及び8~11は、本件訂正発明1又は2の水性ポリマーエマルジョンについて、さらに限定した発明である。
上述のとおり、本件訂正発明1及び2が文献Dに記載された発明であるとはいえず、また、文献Dに記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから、本件訂正発明1又は2がより限定された本件訂正発明4、5、10及び11も、文献Dに記載された発明であるとはいえず、また、本件訂正発明4、5及び8~11も、文献Dに記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(オ)本件訂正発明15及び16について
a 対比
本件訂正発明15及び16と文献D方法発明を対比すると、上記(イ)(ウ)のaで述べたとおり文献D方法発明における「コア成分」、「エチレン性不飽和単量体(B)」及び「アクリル・ウレタン複合樹脂(A)」は、それぞれ、本件訂正発明15及び16の「ポリマー粒子(A)」、「エチレン性不飽和単量体(a)」及び「高分子乳化剤(B)」に相当する。
よって、本件訂正発明15及び16の「水性ポリマーエマルション」と文献D方法発明の「水性複合樹脂分散体」とは、上記(イ)(ウ)のaで述べたとおりの点で一致し、いずれの発明も、次の点で相違する。
相違点1D’
高分子乳化剤(B)が、本件訂正発明15及び16においては「ただし、アクリル・ウレタン複合樹脂を除く」ものであるのに対し、文献D方法発明においては「アクリル・ウレタン複合樹脂」である点。
相違点2D’
屈折率1.50以上のエチレン性不飽和単量体(c)が、本件訂正発明15及び16では「m-フェノキシベンジル(メタ)アクリレートと2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピル(メタ)アクリレートとのうち少なくとも一方を含有」するのに対し、文献D方法発明では「ベンジルメタクリレート」であり、当該アクリレートを含有するものではない点。
b 相違点の判断
事案に鑑み、相違点2D’について検討する。
相違点2D’は実質的な相違点である。
そして、上記(イ)及び(ウ)のbで述べたものと同様の理由により、文献D方法発明のエチレン性不飽和単量体(B)及び(G)において、「m-フェノキシベンジル(メタ)アクリレートと2-ヒドロキシ-4-フェノキシプロピル(メタ)アクリレートとのうち少なくとも一方」を含有させることは、当業者が容易になし得たことであるとはいえない。
c 小括
したがって、相違点1D’について検討するまでもなく、本件訂正発明15及び16は文献Dに記載された発明ではなく、また、文献Dに記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(カ)まとめ
以上のとおり、本件訂正発明1、2、4、5、10、11、15及び16は、文献Dに記載された発明ではなく、また、本件訂正発明1、2、4、5、8~11、15及び16は、文献Dに記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
キ 文献Eを主引用例とした場合について
(ア)文献Eに記載された発明
文献Eには、請求項1(摘記Ea)の記載、及び【0204】【0205】【表2】(摘記Eb)の記載からみて、以下の発明が記載されているといえる。(なお、【0200】の記載からみて、「HA」は「2-エチルヘキシルアクリレート」であり、「AN」は「アクリロニトリル」であると解される。)
「イオン交換水37部、単量体(2-エチルヘキシルアクリレート37部、n-ブチルアクリレート37部、アクリロニトリル12部、アクリル酸3部及び2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピルアクリレート11部)、並びに乳化剤10部からなる混合液と、過硫酸アンモニウム水溶液とを、滴下し、乳化重合させ得られたエマルション組成物β1;100部に、
無機充填剤として比重2.7の重質炭酸カルシウム粉末60部、
分散剤として20%濃度のポリアクリル酸ソーダ水溶液(ポリアクリル酸ソーダの分子量;約20000)5部、
シリコーン系消泡剤1.2部、
増粘剤としてヒドロキシエチルメチルセルロースの5%濃度の含水ゲル1部を配合し、
混合して得られた塗料組成物β1。」
(以下「文献E発明」という。)
(イ)本件訂正発明1について
a 対比
本件訂正発明1と文献E発明を対比する。
文献E発明における「エマルション組成物β1」は、ポリマーであり、エマルション中で粒子を形成することは明らかなので、本件訂正発明1における「ポリマー粒子(A)」に相当する。
文献E発明におけるエマルション組成物β1の原料モノマーである「2-エチルヘキシルアクリレート」、「n-ブチルアクリレート」、「アクリロニトリル」、「アクリル酸」及び「2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピルアクリレート」は、「エチレン性不飽和単量体(a)」に相当する。
文献E発明における「ポリアクリル酸ソーダ」は「高分子」であるので、本件訂正発明1における「高分子乳化剤(B)」と高分子成分である点で共通する。また、「アクリル・ウレタン複合樹脂」ではないから、本件訂正発明1における「アクリル・ウレタン複合樹脂を除く」ものであることに相当する。
文献E発明の「ポリアクリル酸ソーダ」の重合成分である「アクリル酸ソーダ」は、本件訂正発明1における、「エチレン性不飽和単量体(b)」に相当する。
「2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピルアクリレート」は、本件明細書【表1】には、屈折率が1.53であることが記載されているので、文献E発明におけるエマルション組成物β1の原料モノマーに当該成分を含むことは、本件訂正発明1における「前記エチレン性不飽和単量体(a)と前記エチレン性不飽和単量体(b)とのうち少なくとも一方は、屈折率1.50以上のエチレン性不飽和単量体(c)を含有」することに相当する。
文献E発明における「エマルション組成物β1」の原料モノマーは、上記で述べたとおりであり、スチレンを含有しないので、本件訂正発明1における「エチレン性不飽和単量体(a)が、スチレンを含有せず、又はスチレンを10質量%以下の割合で含有する」ことに相当する。
文献E発明における「イオン交換水」は、本件訂正発明1における「水(C)」に相当する。
文献E発明における「塗料組成物β1」は、「エマルション組成物β1」を含むので本件訂正発明1における「水性ポリマーエマルション」に相当する。
そうすると、本件訂正発明1と文献E発明は、
「ポリマー粒子(A)、高分子成分、及び水(C)を含有し、
前記ポリマー粒子(A)は、エチレン性不飽和単量体(a)の重合体であり、
前記高分子成分は、エチレン性不飽和単量体(b)(ただし、スチレン及び/又はα-メチルスチレンを除く)の重合体(ただし、アクリル・ウレタン複合樹脂を除く)であり、
前記エチレン性不飽和単量体(a)と前記エチレン性不飽和単量体(b)とのうち少なくとも一方は、屈折率1.50以上のエチレン性不飽和単量体(c)を含有し、
前記エチレン性不飽和単量体(a)が、スチレンを含有せず、又はスチレンを10質量%以下の割合で含有する、
水性ポリマーエマルション。」
である点で一致し、次の点で相違する。
相違点1E
高分子成分が、本件訂正発明1においては「高分子乳化剤(B)」であるのに対し、文献E発明においては「ポリアクリル酸ソーダ」である点。
相違点2E
本件訂正発明1では、「前記ポリマー粒子(A)と前記高分子乳化剤(B)とが、前記ポリマー粒子(A)を前記高分子乳化剤(B)が覆うことで、コアシェル構造のエマルション粒子を構成」するのに対し、文献E発明においては、そのような特定がされていない点。
b 相違点の判断
事案に鑑み、相違点2Eから検討する。
そして、文献E発明において、ポリアクリル酸ソーダは、すでにエマルションとなっている「エマルション組成物β1」に対して添加されているから、新たにコアシェル構造と形成するとは解されない。
また、エマルション組成物β100部(固形分含量73部)に対して、ポリアクリル酸ソーダの添加量は5部(固形分含量1部)程度であるから、その量比からみても、エマルション組成物β1の粒子を覆うとは解されない。
よって、相違点2Eは、実質的な相違点である。
そして、文献E発明において、ポリアクリル酸ソーダとエマルション組成物β1の粒子をコアシェル構造とすることは、その動機付けがなく、当業者が容易になし得たことであるとはいえない。
c 小括
したがって、相違点1Eについて検討するまでもなく、本件訂正発明1は文献Eに記載された発明ではなく、また、文献Eに記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(ウ)本件訂正発明2について
a 対比
本件訂正発明2は、本件訂正発明1と上記カ(ウ)aで述べたとおりの点で異なる発明である。
そこで、本件訂正発明2と文献E発明を対比すると、文献E発明における文献E発明の「ポリアクリル酸ソーダ」は、スチレンを含まないことから、本件訂正発明2における「エチレン性不飽和単量体(b)」が「スチレンを含有しない」ことに相当する。
また、上記以外の事項については、上記(イ)aで述べた本件訂正発明1と文献D発明と同様の点で一致し、相違点1D及び2Dにおいて相違する。
b 相違点の判断
上記(イ)bで述べたものと同様の理由により、文献E発明において、相違点2Eに係る発明特定事項とすることは当業者が容易になし得たことであるとはいえない。
c 小括
したがって、本件訂正発明2は文献Eに記載された発明ではなく、また、文献Eに記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(エ)本件訂正発明4について
本件訂正発明4は、本件訂正発明1又は2の水性ポリマーエマルジョンについて、さらに限定した発明である。
上述のとおり、本件訂正発明1及び2が文献Eに記載された発明であるとはいえず、また、文献Eに記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから、本件訂正発明1又は2がより限定された本件訂正発明4も、文献Eに記載された発明であるとはいえず、また、文献Eに記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(オ)まとめ
以上のとおり、本件訂正発明1、2及び4は、文献Eに記載された発明ではなく、また、文献Eに記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
ク 文献Iを主引用例とした場合について
(ア)文献Iに記載された発明
文献Iには、文献Iの請求項1(摘記Ia)、【実施例】の【製造例1】、【実施例1】、【表1】の製造例6、【表2】の実施例14(摘記Ie)、【0019】(摘記Ib)の「水溶性樹脂(A)は水性媒体中で保護コロイド(シェル成分)として働き、生成する粒子核(コア成分)を安定化する。」との記載からみて、以下の発明が記載されているといえる。
「水性媒体中で保護コロイド(シェル成分)として働き、生成する粒子核(コア成分)を安定化する、酸価227mgKOH/gである水溶性樹脂(A)の存在下、イオン交換水中で、コア部分を形成するエチレン性不飽和単量体(B)を重合して得られる、
水溶性樹脂(A)/エチレン性不飽和単量体(B)の固形分重量比が58/100である、水性インキ用コアシェル型樹脂微粒子分散体であって、下記の(1)~(2)である、インキ用コアシェル型樹脂微粒子分散体。
(1)水溶性樹脂(A)が、下記のエチレン性不飽和単量体(a)を重合してなる水溶性樹脂である。
(部)
ベンジルメタクリレート 23
アクリル酸 30
エチルアクリレート 37
シクロヘキシルメタクリレート 10
(2)エチレン性不飽和単量体(B)が、下記の単量体である。
(部)
ベンジルメタクリレート 8.0
フェノキシエチルアクリレート 15.0
エチルアクリレート 5.0
n-ブチルアクリレート 63.5
2-エチルヘキシルアクリレート 5.0
ダイアセトンアクリルアミド 3.5 」
(以下「文献I発明」という。)
また、文献Iには、次の発明も記載されているといえる。
「水性媒体中で保護コロイド(シェル成分)として働き、生成する粒子核(コア成分)を安定化する、酸価227mgKOH/gである水溶性樹脂(A)の存在下、イオン交換水中で、コア部分を形成するエチレン性不飽和単量体(B)を重合する、
水溶性樹脂(A)/エチレン性不飽和単量体(B)の固形分重量比が58/100であり、下記の(1)~(2)である、水性インキ用コアシェル型樹脂微粒子分散体の製造方法。
(1)水溶性樹脂(A)が、下記のエチレン性不飽和単量体(a)を重合してなる水溶性樹脂である。
(部)
ベンジルメタクリレート 23
アクリル酸 30
エチルアクリレート 37
シクロヘキシルメタクリレート 10
(2)エチレン性不飽和単量体(B)が、下記の単量体である。
(部)
ベンジルメタクリレート 8.0
フェノキシエチルアクリレート 15.0
エチルアクリレート 5.0
n-ブチルアクリレート 63.5
2-エチルヘキシルアクリレート 5.0
ダイアセトンアクリルアミド 3.5 」
(以下「文献I方法発明」という。)
(イ)本件訂正発明1について
a 対比
本件訂正発明1と文献I発明を対比する。
文献I発明におけるコアシェル型樹脂微粒子中の「コア」は、「エチレン性不飽和単量体(B)」を重合して形成されているので、本件訂正発明1における「ポリマー粒子(A)」に相当する。
そして、「エチレン性不飽和単量体(B)」は、本件訂正発明1の「エチレン性不飽和単量体(a)」に相当し、また、スチレンを含まないので本件訂正発明1の「エチレン性不飽和単量体(a)が、スチレンを含有せず、又はスチレンを10質量%以下の割合で含有する」ことにも相当する。
文献I発明の「水溶性樹脂(A)」は、本件訂正発明1の「高分子乳化剤(B)」に、高分子成分である点で共通する。また、「アクリル・ウレタン複合樹脂」でもないので、本件訂正発明1における「高分子乳化剤(B)」の「重合体」が「アクリル・ウレタン複合樹脂を除く」ものであることにも相当する。
文献I発明の「エチレン性不飽和単量体(a)」は、本件訂正発明1の「エチレン性不飽和単量体(b)」に相当し、また、「スチレン及び/又はα-メチルスチレン」を含まないので、本件訂正発明1における「エチレン性不飽和単量体(b)」が「スチレン及び/又はα-メチルスチレンを除く」ものであることに相当する。
文献I発明の「水溶性樹脂(A)」は、「水性媒体中で保護コロイド(シェル成分)として働き、生成する粒子核(コア成分)を安定化」するものであるから、文献I発明の「コアシェル型樹脂微粒子分散体」は、本件訂正発明1の「前記ポリマー粒子(A)と前記高分子乳化剤(B)とが、前記ポリマー粒子(A)を前記高分子乳化剤(B)が覆うことで、コアシェル構造のエマルション粒子を構成」することに相当することは明らかである。
文献I発明の「イオン交換水」は本件訂正発明1の「水(C)」に相当する。
「ベンジルメタクリレート」及び「フェノキシエチルアクリレート」は、文献H【0034】(摘記Ha)において、屈折率が1.5以上であるモノマーとして記載されているので、文献I発明の「エチレン性不飽和単量体(a)」が「ベンジルメタクリレート」を含むこと、及び「エチレン性不飽和単量体(B)」が「ベンジルメタクリレート」及び「フェノキシエチルアクリレート」を含むことは、本件訂正発明1における「前記エチレン性不飽和単量体(a)と前記エチレン性不飽和単量体(b)とのうち少なくとも一方は、屈折率1.50以上のエチレン性不飽和単量体(c)を含有」することに相当する。
文献I発明における「水性インキ用コアシェル型樹脂微粒子分散体」は、本件訂正発明1における「水性ポリマーエマルション」に相当する。
そうすると、本件訂正発明1と文献I発明は、
「ポリマー粒子(A)、高分子成分、及び水(C)を含有し、
前記ポリマー粒子(A)と前記高分子成分とが、前記ポリマー粒子(A)を前記高分子成分が覆うことで、コアシェル構造のエマルション粒子を構成し、
前記ポリマー粒子(A)は、エチレン性不飽和単量体(a)の重合体であり、
前記高分子成分は、エチレン性不飽和単量体(b)(ただし、スチレン及び/又はα-メチルスチレンを除く)の重合体(ただし、アクリル・ウレタン複合樹脂を除く)であり、
前記エチレン性不飽和単量体(a)と前記エチレン性不飽和単量体(b)とのうち少なくとも一方は、屈折率1.50以上のエチレン性不飽和単量体(c)を含有し、
前記エチレン性不飽和単量体(a)が、スチレンを含有せず、又はスチレンを10質量%以下の割合で含有する、
水性ポリマーエマルション。」
である点で一致し、次の点で相違する。
相違点1I
高分子成分が、本件訂正発明1においては「高分子乳化剤(B)」であるのに対し、文献I発明においては「水溶性樹脂(A)」である点。
相違点2I
屈折率1.50以上のエチレン性不飽和単量体(c)が、本件訂正発明1では「m-フェノキシベンジル(メタ)アクリレートと2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピル(メタ)アクリレートとのうち少なくとも一方を含有」するのに対し、文献I発明では、「ベンジルメタクリレート」及び「フェノキシエチルアクリレート」であり、当該アクリレートを含有するものではない点。
b 相違点の判断
事案に鑑み、相違点2Iについて検討する。
相違点2Iは、実質的な相違点である。
そして、文献I発明の「エチレン性不飽和単量体(a)」及び「エチレン性不飽和単量体(B)」において、「m-フェノキシベンジル(メタ)アクリレートと2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピル(メタ)アクリレートとのうち少なくとも一方」を含有させることは、文献Iには記載も示唆もなく、その動機付けはないから、当業者が容易になし得たことであるとはいえない。
c 小括
したがって、相違点1Iについて検討するまでもなく、本件訂正発明1は文献Iに記載された発明ではなく、また、文献Iに記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(ウ)本件訂正発明4、5及び7~11について
本件訂正発明4、5及び7~11は、本件訂正発明1又は2の水性ポリマーエマルジョンについて、さらに限定した発明である。
上述のとおり、本件訂正発明1が文献Iに記載された発明であるとはいえず、また、文献Iに記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから、本件訂正発明1又は2がより限定された本件訂正発明4、5、7及び9も、文献Iに記載された発明であるとはいえず、また、本件訂正発明4、5及び7~11も、文献Iに記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(エ)本件訂正発明15について
本件訂正発明15と文献I方法発明を対比すると、上記(イ)aで述べたとおり、文献I方法発明における「コア」、「エチレン性不飽和単量体(B)」、「エチレン性不飽和単量体(a)」は、それぞれ、本件訂正発明15の「ポリマー粒子(A)」及び「エチレン性不飽和単量体(a)」及び「エチレン性不飽和単量体(b)」に相当し、文献I方法発明における「水溶性樹脂(A)」は、本件訂正発明15における「高分子乳化剤(B)」に高分子成分である点で共通する。
そうすると、文献I方法発明において、「水溶性樹脂(A)の存在下、イオン交換水中で、コア部分を形成するエチレン性不飽和単量体(B)を重合してなる」ことは、本件訂正発明15における「水性溶媒中で前記高分子乳化剤(B)の存在下でエチレン性不飽和単量体(a)を乳化重合することで前記ポリマー粒子(A)を合成する」ことと、「水性溶媒中で高分子成分の存在下でエチレン性不飽和単量体(a)を乳化重合することで前記ポリマー粒子(A)を合成する」点で共通する。
文献I方法発明における「水性インキ用コアシェル型樹脂微粒子分散体」は、本件訂正発明15の「水性ポリマーエマルション」に相当する。また、上記(イ)aで述べたものと同様の理由により、本件訂正発明15の「前記ポリマー粒子(A)と前記高分子乳化剤(B)とが、前記ポリマー粒子(A)を前記高分子乳化剤(B)が覆うことで、コアシェル構造のエマルション粒子を構成する」ことと、「前記ポリマー粒子(A)と高分子成分とが、前記ポリマー粒子(A)を前記高分子乳化剤(B)が覆うことで、コアシェル構造のエマルション粒子を構成する」点で共通する。
文献I方法発明における「ベンジルメタクリレート」及び「フェノキシエチルアクリレート」は、本件訂正発明15における「屈折率1.50以上のエチレン性不飽和単量体(c)」に相当する。
そうすると本件訂正発明15と文献I方法発明の相違点は以下のとおりであると認められる。
相違点1I'
高分子成分が、本件訂正発明15においては「高分子乳化剤(B)」であるのに対し、文献I方法発明においては「水溶性樹脂(A)」である点。
相違点2I'
屈折率1.50以上のエチレン性不飽和単量体(c)が、本件訂正発明15では「m-フェノキシベンジル(メタ)アクリレートと2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピル(メタ)アクリレートとのうち少なくとも一方を含有」するのに対し、文献I方法発明では、「ベンジルメタクリレート」及び「フェノキシエチルアクリレート」であり、当該アクリレートを含有するものではない点。
b 相違点の判断
事案に鑑み、相違点2I'について検討する。
相違点2I'は、実質的な相違点である。
そして、上記(イ)bで述べたものと同様の理由により、文献I方法発明の「エチレン性不飽和単量体(a)」及び「エチレン性不飽和単量体(B)」において、「m-フェノキシベンジル(メタ)アクリレートと2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピル(メタ)アクリレートとのうち少なくとも一方」を含有させることは、当業者が容易になし得たことであるとはいえない。
(オ)まとめ
以上のとおり、本件訂正発明1、4、5、7、9及び15は、文献Iに記載された発明ではなく、また、本件訂正発明1、4、5、7~11及び15は、文献Iに記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
ケ 文献Jを主引用例とした場合について
(ア)文献Jに記載された発明
文献Jには、文献Jの請求項1及び3(摘記Ja)、【実施例1】(【0069】~【0074】:摘記Jd)の記載からみて、以下の発明が記載されているといえる。(なお、【0073】における「第一工程で得られたアクリル酸マクロRAFT剤」との記載中の「アクリル酸マクロRAFT剤」は、第一工程では、「ポリアクリル酸型マクロRAFT剤が得られた」と記載されているので、「ポリアクリル酸型マクロRAFT剤」であると認定した。
「ジビニルベンゼン由来のベンゼン環を含むコア部と、該コア部の該環構造部からそれぞれ延びる直鎖部を含むシェル部と、よりなり、該直鎖部はカルボキシル基を有する酸モノマーの重合体であるポリマーを含み、
ポリアクリル酸型マクロRAFT剤6.0gを秤量し、ジビニルベンゼン0.061gと1-ブタノール6.0mlを添加し、これを撹拌しながら、イオン交換水60mlを少量ずつ滴下し、50kHzの超音波を照射して乳化させた後、9.3Paの減圧雰囲気にて100℃に加熱して8時間重合反応させて得られた、粒子状をなすコア-シェル型のポリマー。」
(以下「文献J発明」という。)
また、文献Jには、次の発明も記載されているといえる。
「ジビニルベンゼン由来のベンゼン環を含むコア部と、該コア部の該環構造部からそれぞれ延びる直鎖部を含むシェル部と、よりなり、該直鎖部はカルボキシル基を有する酸モノマーの重合体である、粒子状をなすコア-シェル型のポリマーを製造する方法であって、
ポリアクリル酸型マクロRAFT剤6.0gを秤量し、ジビニルベンゼン0.061gと1-ブタノール6.0mlを添加し、これを撹拌しながら、イオン交換水60mlを少量ずつ滴下し、50kHzの超音波を照射して乳化させた後、9.3Paの減圧雰囲気にて100℃に加熱して8時間重合反応させる、粒子状をなすコア-シェル型のポリマーの製造方法。」
(以下「文献J方法発明」という。)
(イ)本件訂正発明1について
a 対比
本件訂正発明1と文献J発明を対比する。
文献J発明における「コア-シェル型のポリマー」中の「コア部」は、「ポリマー」であって、粒子を形成していると認められるので、本件訂正発明1における「ポリマー粒子(A)」に相当する。
そして、「コア部」の原料モノマーである「ジビニルベンゼン」は、本件訂正発明1の「エチレン性不飽和単量体(a)」に相当する。また、「コア部」は、原料モノマーにスチレンを含まないので、本件訂正発明1の「エチレン性不飽和単量体(a)が、スチレンを含有せず、又はスチレンを10質量%以下の割合で含有する」ことにも相当する。
文献J発明の「ポリアクリル酸型マクロRAFT剤」は、文献Jの【0044】(摘記Jc)には、「ポリカルボン酸型マクロRAFT剤は、・・・ポリカルボン酸ブロックが親水性であるので、乳化剤としても機能する。」との記載があることから乳化剤であると認められるので、本件訂正発明1の「高分子乳化剤(B)」に相当する。
そして、文献J発明の「ポリアクリル酸型マクロRAFT剤」の原料モノマーである「アクリル酸」は、本件訂正発明1の「エチレン性不飽和単量体(b)」に相当する。
文献J発明の「ポリアクリル酸型マクロRAFT剤」は、原料モノマーに「スチレン及び/又はα-メチルスチレン」を含まず、「アクリル・ウレタン複合樹脂」でもないので、本件訂正発明1における「エチレン性不飽和単量体(b)」が「スチレン及び/又はα-メチルスチレンを除く」ものであることに相当し、また、本件訂正発明1における「高分子乳化剤(B)」の「重合体」が「アクリル・ウレタン複合樹脂を除く」ものであることにも相当する。
文献J発明の「コア-シェル型のポリマー」は、その製法からみて、「ポリアクリル酸型マクロRAFT剤」から形成された「シェル部」が「コア部」を覆ってコアシェル構造を形成することは明らかであり、また、イオン交換水を含む媒体中で乳化しているので、本件訂正発明1の「前記ポリマー粒子(A)と前記高分子乳化剤(B)とが、前記ポリマー粒子(A)を前記高分子乳化剤(B)が覆うことで、コアシェル構造のエマルション粒子を構成」することに相当する。
文献J発明における「イオン交換水」は本件訂正発明1における「水(C)」に相当する。
文献J発明の「ジビニルベンゼン」は、文献Hの【0034】において、屈折率が1.5以上であるモノマーとして記載されているので、本件訂正発明1における「屈折率1.50以上のエチレン性不飽和単量体(c)」に相当する。
文献J発明における「コア-シェル型のポリマー」は、イオン交換水を含む媒体中で乳化しているので、本件訂正発明1における「水性ポリマーエマルション」に相当する。
そうすると、本件訂正発明1と文献J発明は、
「ポリマー粒子(A)、高分子乳化剤(B)、及び水(C)を含有し、
前記ポリマー粒子(A)と前記高分子乳化剤(B)とが、前記ポリマー粒子(A)を前記高分子乳化剤(B)が覆うことで、コアシェル構造のエマルション粒子を構成し、
前記ポリマー粒子(A)は、エチレン性不飽和単量体(a)の重合体であり、
前記高分子乳化剤(B)は、エチレン性不飽和単量体(b)(ただし、スチレン及び/又はα-メチルスチレンを除く)の重合体(ただし、アクリル・ウレタン複合樹脂を除く)であり、
前記エチレン性不飽和単量体(a)と前記エチレン性不飽和単量体(b)とのうち少なくとも一方は、屈折率1.50以上のエチレン性不飽和単量体(c)を含有し、
前記エチレン性不飽和単量体(a)が、スチレンを含有せず、又はスチレンを10質量%以下の割合で含有する、
水性ポリマーエマルション。」
である点で一致し、次の点で相違点する。
相違点1J
屈折率1.50以上のエチレン性不飽和単量体(c)が、本件訂正発明1では「m-フェノキシベンジル(メタ)アクリレートと2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピル(メタ)アクリレートとのうち少なくとも一方を含有」するのに対し、文献J発明では、「ジビニルベンゼン」であり、当該アクリレートを含有するものではない点。
b 相違点の判断
相違点1Jは、実質的な相違点である。
そして、文献J発明のコア部とシェル部(ポリアクリル酸型マクロRAFT剤)の原料モノマーとして「m-フェノキシベンジル(メタ)アクリレートと2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピル(メタ)アクリレートとのうち少なくとも一方」を含むものとすることは、文献Jに記載も示唆もなく、その動機付けはないから、当業者が容易になし得たことであるとはいえない。
c 小括
したがって、本件訂正発明1は文献Jに記載された発明ではなく、また、文献Jに記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(ウ)本件訂正発明7について
本件訂正発明7は、本件訂正発明1又は2の水性ポリマーエマルジョンについて、さらに限定した発明である。
上述のとおり、本件訂正発明1が文献Jに記載された発明であるとはいえず、また、文献Jに記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから、本件訂正発明1又は2がより限定された本件訂正発明7も、文献Jに記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(エ)本件訂正発明15について
本件訂正発明15と文献J方法発明を対比すると、上記(イ)aで述べたものと同様の理由により、文献J方法発明における「コア部」、「ジビニルベンゼン」、「ポリアクリル酸型マクロRAFT剤」、「アクリル酸」及び「コア-シェル型のポリマー」は、それぞれ、本件訂正発明15の「ポリマー粒子(A)」、「エチレン性不飽和単量体(a)」、「高分子乳化剤(B)」、「エチレン性不飽和単量体(b)」、「前記ポリマー粒子(A)と前記高分子乳化剤(B)とが、前記ポリマー粒子(A)を前記高分子乳化剤(B)が覆うことで、コアシェル構造のエマルション粒子を構成」することに相当する。
また、文献J方法発明における「ジビニルベンゼン」は、本件訂正発明15における「屈折率1.50以上のエチレン性不飽和単量体(c)」に相当する。
よって、文献J方法発明において、「ポリアクリル酸型マクロRAFT剤」及び「イオン交換水」の存在下で「ジビニルベンゼン」を「乳化」させて「重合反応」させることは、本件訂正発明15における「水性溶媒中で前記高分子乳化剤(B)の存在下でエチレン性不飽和単量体(a)を乳化重合することで前記ポリマー粒子(A)を合成する」ことに相当すると認められる。
よって、本件訂正発明15と文献J方法発明は、次の点で相違する。
相違点J’
屈折率1.50以上のエチレン性不飽和単量体(c)が、本件訂正発明15では「m-フェノキシベンジル(メタ)アクリレートと2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピル(メタ)アクリレートとのうち少なくとも一方を含有」するのに対し、文献J方法発明では、「ジビニルベンゼン」であり、当該アクリレートを含有するものではない点。
b 相違点の判断
上記相違点J’は、実質的な相違点である。
そして、上記(イ)bで述べたものと同様の理由により、文献J方法発明のコア部とシェル部(ポリアクリル酸型マクロRAFT剤)の原料モノマーとして「m-フェノキシベンジル(メタ)アクリレートと2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピル(メタ)アクリレートとのうち少なくとも一方」を含むものとすることは、その動機付けはなく、当業者が容易になし得たことであるとはいえない。
c 小括
したがって、本件訂正発明15は文献Jに記載された発明ではなく、また、文献Jに記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(オ)まとめ
以上のとおり、本件訂正発明1及び15は、文献Jに記載された発明ではなく、また、本件訂正発明1、7及び15は、文献Jに記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない
コ 文献Kを主引用例とした場合について
(ア)文献Kに記載された発明
文献Kには、文献Kの請求項1及び3(摘記Ka)、【合成例4】(摘記Kd)、及び【0022】(摘記Kc)の「出来上がったポリマーエマルジョンにおいて水性ビニル樹脂(A) はイオン基を有し、比較的親水性であるので粒子の表面近傍もしくは外層部に存在し、単量体(B) の重合体は粒子の中心部もしくは内層を形成すると思われる。」との記載からみて、以下の発明が記載されているといえる。
「ポリマーエマルジョンを構成するポリマー粒子が化学組成の異なる少なくとも二層から成る多層構造を有し、かつ内層がフッ素系重合体である水性複合ポリマーエマルジョンであって、
水性ビニル樹脂(A)は外層を形成し、単量体(B)の重合体は、内層を形成しており、
軟化温度が-11℃と75℃であり、
ラウリルメタクリレート40部、ベンジルメタクリレート48部、ジメチルアミノエチルメタクリレート12部とを共重合させて得られた共重合体の有機溶剤溶液に水を加えた後、有機溶剤を留去して得られる軟化温度-9℃の水性ビニル樹脂(A)200部(固形分25%)の存在下で、
2,2,3,3-テトラフルオロプロピルメタクリレート25部、t-ブチルメタクリレート25部を含有する単量体(B)を重合して得られた、
水性複合ポリマーエマルジョン。」
以下「文献K発明」という。)
また、文献Kには、次の発明も記載されているといえる。
「ポリマーエマルジョンを構成するポリマー粒子が化学組成の異なる少なくとも二層から成る多層構造を有し、かつ内層がフッ素系重合体である水性複合ポリマーエマルジョンを製造する方法であって、
水性ビニル樹脂(A)は外層を形成し、単量体(B)の重合体は、内層を形成しており、
軟化温度が-11℃と75℃であり、
ラウリルメタクリレート40部、ベンジルメタクリレート48部、ジメチルアミノエチルメタクリレート12部とを共重合させて得られた共重合体の有機溶剤溶液に水を加えた後、有機溶剤を留去して得られる軟化温度-9℃の水性ビニル樹脂(A)200部(固形分25%)の存在下で、
2,2,3,3-テトラフルオロプロピルメタクリレート25部、t-ブチルメタクリレート25部を含有する単量体(B)を重合する、水性複合ポリマーエマルジョンを製造する方法。」
以下「文献K方法発明」という。)
(イ)本件訂正発明1について
a 対比
本件訂正発明1と文献K発明を対比する。
文献K発明におけるポリマー粒子中の「内層」は、「単量体(B)」を重合して形成されているので、本件訂正発明1における「ポリマー粒子(A)」に相当する。
そして、「単量体(B)」は、本件訂正発明1の「エチレン性不飽和単量体(a)」に相当し、また、スチレンを含まないので「エチレン性不飽和単量体(a)が、スチレンを含有せず、又はスチレンを10質量%以下の割合で含有する」ことにも相当する。
文献K発明の「水性ビニル樹脂(A)」は、本件訂正発明1の「高分子乳化剤(B)」に、高分子成分である点で共通する。また、「アクリル・ウレタン複合樹脂」でもないので、本件訂正発明1における「高分子乳化剤(B)」の「重合体」が「アクリル・ウレタン複合樹脂を除く」ものであることにも相当する。
文献K発明における「水性ビニル樹脂(A)」の原料モノマーである「ラウリルメタクリレート」、「ベンジルメタクリレート」及び「ジメチルアミノエチルメタクリレート」は、本件訂正発明1の「エチレン性不飽和単量体(b)」に相当し、また、「水性ビニル樹脂(A)」の原料モノマーには「スチレン及び/又はα-メチルスチレン」は含まれないので、本件訂正発明1における「エチレン性不飽和単量体(b)」が「スチレン及び/又はα-メチルスチレンを除く」ものであることに相当する。
文献K発明の「水性ビニル樹脂(A)は外層を形成し、単量体(B)の重合体は、内層を形成している」「多層構造」は、「コアシェル構造」であると認められるので、本件訂正発明1の「前記ポリマー粒子(A)と前記高分子乳化剤(B)とが、前記ポリマー粒子(A)を前記高分子乳化剤(B)が覆うことで、コアシェル構造のエマルション粒子を構成」することに相当することは明らかである。
文献K発明の「水」は本件訂正発明1の「水(C)」に相当する。
「ベンジルメタクリレート」は、文献Hの【0034】(摘記Ha)において、屈折率が1.5以上であるモノマーとして記載されているので、文献K発明の「水性ビニル樹脂(A) 」が「ベンジルメタクリレート」を共重合させて得られたことは、本件訂正発明1における「前記エチレン性不飽和単量体(a)と前記エチレン性不飽和単量体(b)とのうち少なくとも一方は、屈折率1.50以上のエチレン性不飽和単量体(c)を含有」することに相当する。
文献K発明における「水性複合ポリマーエマルジョン」は、本件訂正発明1における「水性ポリマーエマルション」に相当する。
そうすると、本件訂正発明1と文献K発明は、
「ポリマー粒子(A)、高分子成分、及び水(C)を含有し、
前記ポリマー粒子(A)と前記高分子成分とが、前記ポリマー粒子(A)を前記高分子成分が覆うことで、コアシェル構造のエマルション粒子を構成し、
前記ポリマー粒子(A)は、エチレン性不飽和単量体(a)の重合体であり、
前記高分子成分は、エチレン性不飽和単量体(b)(ただし、スチレン及び/又はα-メチルスチレンを除く)の重合体(ただし、アクリル・ウレタン複合樹脂を除く)であり、
前記エチレン性不飽和単量体(a)と前記エチレン性不飽和単量体(b)とのうち少なくとも一方は、屈折率1.50以上のエチレン性不飽和単量体(c)を含有し、
前記エチレン性不飽和単量体(a)が、スチレンを含有せず、又はスチレンを10質量%以下の割合で含有する、
水性ポリマーエマルション。」
である点で一致し、次の点で一応相違する。
相違点1K
高分子成分が、本件訂正発明1においては「高分子乳化剤(B)」であるのに対し、文献K発明においては「水性ビニル樹脂(A)」である点。
相違点2K
屈折率1.50以上のエチレン性不飽和単量体(c)が、本件訂正発明1では「m-フェノキシベンジル(メタ)アクリレートと2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピル(メタ)アクリレートとのうち少なくとも一方を含有」するのに対し、文献K発明では、「ベンジルメタクリレート」であり、当該アクリレートを含有するものではない点。
b 相違点の判断
事案に鑑み、相違点2Kについて検討する。
相違点2Kは、実質的な相違点である。
そして、文献K発明の単量体(B)及び「水性ビニル樹脂(A)」の原料モノマーとして「m-フェノキシベンジル(メタ)アクリレートと2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピル(メタ)アクリレートとのうち少なくとも一方」を含むものとすることは、文献Kに記載も示唆もなく、その動機付けはないから、当業者が容易になし得たことであるとはいえない。
c 小括
したがって、相違点1Kについて検討するまでもなく、本件訂正発明1は文献Kに記載された発明ではなく、また、文献Kに記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(ウ)本件訂正発明4、5、7、8及び10~14について
本件訂正発明4、5、7、8及び10~14は、本件訂正発明1又は2の水性ポリマーエマルジョンについて、さらに限定した発明である。
上述のとおり、本件訂正発明1が文献Kに記載された発明であるとはいえず、また、文献Kに記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから、本件訂正発明1又は2がより限定された本件訂正発明5及び10~14も、文献Kに記載された発明であるとはいえず、また、本件訂正発明4、5、7、8及び10~14も、文献Kに記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(エ)本件訂正発明15について
本件訂正発明15は、本件訂正発明1の「水性ポリマーエマルション」の製造方法であって、「水性溶媒中で前記高分子乳化剤(B)の存在下でエチレン性不飽和単量体(a)を乳化重合することで前記ポリマー粒子(A)を合成することを含む」ことを特定した発明であると解される。
そこで、本件訂正発明15と文献K方法発明を対比すると、上記(イ)aで述べたものと同様の理由により、文献K方法発明における「内層」及び「単量体(B)」は、それぞれ、本件訂正発明15の「ポリマー粒子(A)」及び「エチレン性不飽和単量体(a)」に相当し、文献K方法発明における「水性ビニル樹脂(A)」は、本件訂正発明15における「高分子乳化剤(B)」に高分子成分である点で共通する。
文献K方法発明の「多層構造を有する」「水性複合ポリマーエマルジョン」は、本件訂正発明15の「水性ポリマーエマルション」に相当し、また、「前記ポリマー粒子(A)と前記高分子乳化剤(B)とが、前記ポリマー粒子(A)を前記高分子乳化剤(B)が覆うことで、コアシェル構造のエマルション粒子を構成する」ことと、「前記ポリマー粒子(A)と高分子成分とが、前記ポリマー粒子(A)を前記高分子成分が覆うことで、コアシェル構造のエマルション粒子を構成する」点で共通する。
よって、文献K方法発明において、「水性ビニル樹脂(A)・・・の存在下で、
・・・イオン交換水・・・を含有する単量体(B)を重合」することは、本件訂正発明15における「水性溶媒中で前記高分子乳化剤(B)の存在下でエチレン性不飽和単量体(a)を乳化重合することで前記ポリマー粒子(A)を合成する」ことと、「水性溶媒中で高分子成分の存在下でエチレン性不飽和単量体(a)を乳化重合することで前記ポリマー粒子(A)を合成する」点で共通する。
そうすると本件訂正発明15と文献K方法発明の相違点は以下のとおりであると認められる。
相違点1K'
高分子成分が、本件訂正発明15においては「高分子乳化剤(B)」であるのに対し、文献K方法発明においては「水性ビニル樹脂(A)」である点。
相違点2K’
屈折率1.50以上のエチレン性不飽和単量体(c)が、本件訂正発明15では「m-フェノキシベンジル(メタ)アクリレートと2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピル(メタ)アクリレートとのうち少なくとも一方を含有」するのに対し、文献K方法発明では、「ベンジルメタクリレート」であり、当該アクリレートを含有するものではない点。
b 相違点の判断
事案に鑑み相違点2K’について検討する。
相違点2K’は実質的な相違点である。
そして、上記(イ)bで述べたものと同様の理由により、文献K方法発明の単量体(B)及び「水性ビニル樹脂(A)」の原料モノマーとして「m-フェノキシベンジル(メタ)アクリレートと2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピル(メタ)アクリレートとのうち少なくとも一方」を含むものとすることは、その動機付けはないから、当業者が容易になし得たことであるとはいえない。
c 小括
したがって、本件訂正発明15は文献Kに記載された発明ではなく、また、文献Kに記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(オ)まとめ
以上のとおり、本件訂正発明1、5及び10~15は、文献Kに記載された発明ではなく、また、本件訂正発明1、4、5、7、8及び10~15は、文献Kに記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(2)取消理由3(サポート要件違反)について
ア サポート要件の判断の前提
特許請求の範囲の記載が、明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、その記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
イ 課題
本件訂正発明の課題は、本件明細書の発明の詳細な説明(特に【0010】)の記載からみて、「O/W型エマルションを実現でき、凍結してから常温に戻しても流動性が損なわれにくく、かつ膜を作製した場合に膜がつやを有しやすい水性ポリマーエマルション、この水性ポリマーエマルションを含有するメークアップ化粧料及び水性ポリマーエマルションの製造方法を提供すること」
であると認められる。
ウ 取消理由通知における指摘
本件明細書の発明の詳細な説明の【0017】には、
「本実施形態では、ポリマー粒子(A)と高分子乳化剤(B)とは、ポリマー粒子(A)を高分子乳化剤(B)が覆うことで、コアシェル構造のエマルション粒子を構成できる。すなわち、エマルション粒子は、コアであるポリマー粒子(A)と、シェルである高分子乳化剤(B)とを備えている。このため、水性ポリマーエマルション(X)は、O/W型エマルションを実現でき、この水性ポリマーエマルション(X)中ではエマルション粒子が安定して分散しやすい。また、水性ポリマーエマルション(X)が凍結してから常温に戻してもエマルション粒子の凝集及び破壊が生じにくい。すなわち、水性ポリマーエマルション(X)は、良好な凍結復元性を有しやすい。」
と記載されている。
上記記載からみると、本件特許登録時の請求項1~16に係る発明(以下「本件発明」という。)は、高分子乳化剤(B)がポリマー粒子(A)を被覆して、コアシェル構造のエマルション粒子を構成することにより、エマルションが安定して分散しやすくなり、凍結してから常温に戻してもエマルション粒子の凝集及び破壊が生じにくくなり、本件発明の課題を解決するものであると解される。
しかしながら、本件発明における水性エマルションは、ポリマー粒子(A)、高分子乳化剤(B)、及び水(C)を含有すること及びそのモノマーやそれぞれの物性が特定されているのみで、「ポリマー粒子(A)」がコアとなり「高分子乳化剤(B)」がシェルとなって、コアシェル構造を有することは特定されていない。
そして、例えば高分子乳化剤(B)がポリマー粒子(A)とは別に存在する場合などは、技術常識からみると、高分子乳化剤(B)によるポリマー粒子(A)への分散安定性への寄与度は低くなり、分散性は低くなるので、そのようなエマルションは、「ポリマー粒子(A)」と「高分子乳化剤(B)」がコアシェル構造を形成しているものと同様の凍結復元性を有するとは解されない。
そうすると、本件発明のうち、「ポリマー粒子(A)」がコアとなり「高分子乳化剤(B)」がシェルとなって、コアシェル構造を有する粒子を形成している以外のものについては、本件発明の課題を解決するとは解されない。
また、ポリマー粒子と高分子乳化剤が別々に存在している水性エマルションについて、上記課題を解決できると認識できるという出願時の技術常識もない。
よって、本件出願時の技術常識を参酌しても、本件発明の全体にわたって、発明の詳細な説明から、上記課題を解決できることを当業者が認識できるとは認められない、旨を指摘していた。
エ 判断
本件訂正により、本件訂正発明は、「ポリマー粒子(A)」と「高分子乳化剤(B)」が、「前記ポリマー粒子(A)を前記高分子乳化剤(B)が覆うことで、コアシェル構造のエマルション粒子を構成」するものに限定された。
よって、本件訂正発明は、本件訂正発明の課題を解決できると当業者が認識できる範囲のものであると認められる。
オ まとめ
以上のとおりであるから、この出願の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしている。
(4)まとめ
以上のとりであるから、取消理由1~5には理由がない。
2 取消理由で採用しなかった申立理由について
(1)申立理由2(甲1に基づく進歩性欠如)のうち、請求項2、4、10、11、14及び16に対する申立理由について
ア 本件訂正発明1を引用する本件訂正発明4、10、11及び14について
甲1には、上記1(1)イ(ア)で述べたとおりの、甲1発明及び甲1方法発明が記載されている。
そして、上記1(1)イ(イ)で述べたとおり、本件訂正発明1は、甲1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
また、本件訂正発明4、10、11及び14は、本件訂正発明1の水性ポリマーエマルジョンについて、さらに限定した発明である。
上述のとおり、本件訂正発明1が甲1に記載された発明であるとはいえず、また、甲1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから、本件訂正発明1がより限定された本件訂正発明4、10、11及び14も、甲1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
イ 本件訂正発明2、本件訂正発明2を引用する本件訂正発明4、10、11及び14、並びに本件訂正発明16について
(ア)本件訂正発明2について
a 対比
本件訂正発明2は、本件訂正発明1と上記1(1)カ(ウ)aで述べたとおりの点で異なる発明である。
そこで、本件訂正発明2と甲1発明を対比すると、上記1(1)イ(イ)aで述べたものと同様の点で一致し、上記1(1)イ(イ)aで述べた相違点1、3及び以下の相違点4で相違する。
相違点4:
エチレン性不飽和単量体(b)が、本件訂正発明1では「スチレンを除く」ものであるのに対し、甲1発明では、「スチレン」を含む点。
b 相違点の判断
上記1(1)イ(イ)bで述べたものと同様の理由により、甲1発明において、相違点3及び4に係る発明特定事項とすることは当業者が容易になし得たことであるとはいえない。
c 小括
したがって、本件訂正発明2は、甲1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(イ)本件訂正発明4、10、11及び14について
上述のとおり、本件訂正発明2が、甲1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから、本件訂正発明2がより限定された本件訂正発明4、10、11及び14も、甲1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(ウ)本件訂正発明16について
a 対比
本件訂正発明16と甲1方法発明を対比すると、本件訂正発明16は、実質的に本件訂正発明2の製造方法である点でのみ本件発明15と異なるものであるから、上記1(1)イ(エ)で述べたもの、及び上記(ア)aで述べたものと同様の理由により、以下の相違点1’、3’及び4’で相違する。
相違点1’
高分子成分が、本件訂正発明16においては「高分子乳化剤(B)」であるのに対し、甲1方法発明においては「シェル部」である点。
相違点3’
屈折率1.50以上のエチレン性不飽和単量体(c)が、本件訂正発明16では「m-フェノキシベンジル(メタ)アクリレートと2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピル(メタ)アクリレートとのうち少なくとも一方を含有」するのに対し、甲1方法発明では「スチレン」及び「α-メチルスチレン」であり、当該アクリレートを含有するものではない点。
相違点4’
エチレン性不飽和単量体(b)が、本件訂正発明16では「スチレンを除く」ものであるのに対し、甲1方法発明では、「スチレン」を含む点。
b 相違点の判断
事案に鑑み、相違点3’及び4’について検討する。
相違点3’及び4’は、実質的な相違点である。
そして、上記1(1)イ(イ)bで述べたものと同様の理由により、甲1方法発明において、エチレン性不飽和単量体(b)に相当するシェル部の原料モノマーから、「スチレン」を除き、さらに、コア部又はシェル部の原料モノマーとして「m-フェノキシベンジル(メタ)アクリレートと2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピル(メタ)アクリレートとのうち少なくとも一方」を含有させることは、当業者が容易になし得たことであるとはいえない。
c 小括
したがって、相違点1’について検討するまでもなく、本件訂正発明16は甲1に記載された発明ではなく、また、甲1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(2)まとめ
以上のとりであるから、申立理由2には理由がない。
第6 むすび
以上のとおり、取消理由通知書に記載した取消理由、及び、申立人の特許異議の申立ての理由によっては、請求項1、2、4、5及び7~16に係る特許を取り消すことはできない。
また、ほかに請求項1、2、4、5及び7~16に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
さらに、本件訂正により、請求項3及び6は削除されたため、申立人の請求項3及び6に係る特許に対する特許異議の申立てについては、対象となる請求項が存在しないものとなったので、請求項3及び6に係る特許についての特許異議の申立ては不適法であって、その補正をすることができないものであるから、特許法第120条の8において準用する同法第135条の規定により、却下すべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
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2025-700447