特許異議申立
2025-700295
二次電池
- 審判番号
- 2025-700295
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2023-505434
- 登録番号
- 7550956
- 請求日
- 2025年03月12日
- 審決日
- 2025年10月16日
- 公報発行日
- 2026年08月28日
- 結論
- 請求成立(取消)
- 当事者
- 【権利者】エルジー エナジー ソリューション リミテッド
- 【権利者代理人】飯田 雅人
- 【権利者代理人】実広 信哉
- 【異議申立人】中村 絵美
- 審判長/審判官
- 審判長 井上 信一
- 審判官 涌井 智則
- 審判官 畑中 博幸
- 分類
- P1651.121-ZC (H01M) / P1651.536-ZC (H01M) / P1651.537-ZC (H01M)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法36条6項2号特許法113条4号
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第6項第2号、特許法第29条第2項、特許法第113条第1項第4号、特許法第113条第1項第2号、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第4項第1号、特許法第113条第4号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7550956号発明「二次電池」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7550956号の請求項6および7に係る特許を取り消す。
同請求項1ないし5、8ないし17に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7550956号の請求項1ないし17に係る特許についての出願は、2022年4月14日(優先権主張2021年4月14日、韓国)を国際出願日とする出願であって、令和6年9月5日にその特許権が設定登録され、令和6年9月13日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許に対し、令和7年3月12日に特許異議申立人中村絵美(以下、「申立人」という。)により、請求項1ないし17に係る特許に対する特許異議の申立てがされた。当審は、令和7年5月28日付けで取消理由を通知し、期間を指定して意見書を提出する機会を与えたが、特許権者から何らの応答もなかった。
第2 本件発明
特許第7550956号の請求項1ないし17の特許に係る発明(以下、「本件発明1」ないし「本件発明17」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1ないし17に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
電極組立体と、
前記電極組立体に取り付けられた電極リードと、
内部に前記電極組立体を収納するケースと、
前記電極リードの外面の一部を覆い包むように形成され、前記電極リードと前記ケースとの間に介在されるリードフィルムと、
前記ケースの少なくとも一部に形成されたベント領域と、
前記ベント領域に挿入され、炭素数6以上のコモノマーを有する直鎖状低密度ポリエチレンを含むベント部材と、を含み、
前記ケースは、前記電極組立体を密封するために形成されたシーリング部を備え、
前記シーリング部は、シーラント樹脂を含み、
前記ベント部材の直鎖状低密度ポリエチレンは、前記シーラント樹脂よりも融点が低く、
前記ベント領域が前記シーリング部に位置しており、
前記ベント部材の厚さが50μm以上200μm未満であり、
前記ベント部材の100℃以上における最大シーリング強度が6kgf/15mm未満であり、常温~60℃における最大シーリング強度が6kgf/15mm以上である、二次電池。
【請求項2】
前記ベント部材の厚さが50μm~100μmである、請求項1に記載の二次電池。
【請求項3】
前記ベント部材が炭素数6~8のコモノマーを有する直鎖状低密度ポリエチレンを含む、請求項1に記載の二次電池。
【請求項4】
前記ベント部材がガスを排出するために100℃~120℃で溶融する、請求項1に記載の二次電池。
【請求項5】
前記ベント部材が1.5atm以上の圧力でベンティングする、請求項4に記載の二次電池。
【請求項6】
前記ベント部材の100℃以上における平均シーリング強度が4.5kgf/15mm未満である、請求項1に記載の二次電池。
【請求項7】
前記ベント部材の常温~60℃における平均シーリング強度が4.5kgf/15mm以上である、請求項1に記載の二次電池。
【請求項8】
前記直鎖状低密度ポリエチレン100重量%を基準にして炭素数6以上のコモノマーの含量が15重量%以下である、請求項1に記載の二次電池。
【請求項9】
前記直鎖状低密度ポリエチレンが4以下の多分散性指数を有する、請求項1に記載の二次電池。
【請求項10】
前記シーラント樹脂の結晶化温度と前記直鎖状低密度ポリエチレンの結晶化温度との差が10℃以下である、請求項1に記載の二次電池。
【請求項11】
前記直鎖状低密度ポリエチレンの結晶化温度が90℃~115℃である、請求項 10に記載の二次電池。
【請求項12】
前記直鎖状低密度ポリエチレンが100℃~130℃の融点を有する、請求項1に記載の二次電池。
【請求項13】
前記直鎖状低密度ポリエチレンの重量平均分子量が100,000g/mol~400,000g/molである、請求項1に記載の二次電池。
【請求項14】
前記ベント部材の幅が電極リードの突出方向に沿って狭くなる、請求項1に記載の二次電池。
【請求項15】
前記ベント部材が円形、楕円形、段差形、三角形、及び台形のうちのいずれか一つの形状を有する、請求項1に記載の二次電池。
【請求項16】
前記ベント領域が前記ケースの角側のシーリング部に位置している、請求項1に記載の二次電池。
【請求項17】
前記二次電池がパウチ型二次電池である、請求項1に記載の二次電池。」
第3 取消理由通知に記載した取消理由について
1 取消理由の概要
請求項6および7に係る特許に対し、当審が令和7年5月28日付けで特許権者に通知した取消理由は、次のとおりである。
(明確性)本件特許は,特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため,特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
記
●理由1(明確性)について
・請求項6ないし7について
請求項6には「平均シーリング強度が4.5kgf/15mm未満」との記載があり、請求項7には「平均シーリング強度が4.5kgf/15mm以上」との記載がある。
これら記載に関し、本件明細書段落【0098】及び【0120】には、「このとき、最大シーリング強度は、ケース13が破断するときの最大値を意味する。また、平均シーリング強度は、最大シーリング強度が4.5kgf/15mm以上である場合は、4.5kgf/15mmでケース13が8mmだけ延伸したときの平均値を意味し、最大シーリング強度が4.5kgf/15mm未満である場合は、最大シーリング強度でケース13が8mmだけ延伸したときの平均値を意味する。」と記載されている。
かかる明細書の記載によれば、シーリング強度の測定のために印加される力は、4.5kgf/15mmの一定値、もしくは、4.5kgf/15mm未満の最大シーリング強度(ケースが破断するときの最大値)に対応する一定値のいずれかと解されるところ、測定結果である表1には、測定のために印可される力を超える4.5kgf/15mm以上の測定値が多く示されており、これら測定値をどのようにして得たのかは明らかでない。
そうすると、請求項6および7に記載の「平均シーリング強度」は、その値をどのようにして得るのかが、明細書の記載を参酌しても明らかでないから、当該請求項の記載は、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確である。
したがって、本願の請求項6および7に係る発明は明確でない。
2 当審の判断
当審は令和7年5月28日付けで特許権者に取消理由を通知し、期間を指定して意見書を提出する機会を与えたが、特許権者は応答しなかった。
そして、上記の取消理由は妥当なものと認められるので、本件請求項6および7に係る特許は、この取消理由によって取り消すべきものである。
第4 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
1 特許異議申立理由の概要
取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由の概要は、次のとおりである。
(1)申立理由1(進歩性欠如)
本件請求項1ないし17に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の甲第1ないし7号証に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。このため、本件請求項1ないし17に係る発明の特許は特許法第113条第1項第2号の規定により取り消されるべきである。
[証拠]
甲第1号証:特開2003-242952号公報
甲第2号証:特表2016-529272号公報
甲第3号証:特開2001-93489号公報
甲第4号証:特開2015-32574号公報
甲第5号証:特開2008-293992号公報
甲第6号証:特開2010-229348号公報
甲第7号証:特開2006-185713号公報
(2)申立理由2(サポート要件)
本件は、特許請求の範囲の請求項1の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。このため、本件請求項1ないし17に係る発明の特許は特許法第113条第1項第4号の規定により取り消されるべきである。
(3)申立理由3(明確性)
本件は、特許請求の範囲の請求項1の記載が特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。このため、本件請求項1ないし17に係る発明の特許は特許法第113条第1項第4号の規定により取り消されるべきである。
(4)申立理由4(実施可能要件)
本件は、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。このため、本件請求項1ないし17に係る発明の特許は特許法第113条第1項第4号の規定により取り消されるべきである。
2 甲第1号証の記載
(1)記載事項
甲第1号証の明細書には、「2次電池」に関して、図面と共に以下の事項が記載されている。なお、下線は当審で付与した。
「【請求項1】 2つの電極タブを有する電極組立て体と、
可撓性外装フィルムよりなって前記電極タブが突出されるように電極組立て体を包むものであり、融着により接合されるシーリング部を有した外装フィルム容器と、
前記シーリング部に電池から発生した熱によって溶融されることにより破損される安全手段と、を備えてなることを特徴とする2次電池。
【請求項2】 前記安全手段は、低融点の合成樹脂材よりなるテープであることを特徴とする請求項1に記載の2次電池。
【請求項3】 前記テープは、エチレンビニールアセテートと直鎖状の低密度ポリエチレンとポリプロピレンとからなる群から選択された少なくとも一からなることを特徴とする請求項2に記載の2次電池。」
「【0021】
【発明の実施の形態】図1及び図3には、本発明による2次電池の一実施の形態が示してある。
【0022】図面を参照すれば、本発明による2次電池は、各々の集電体に活物質及び添加剤よりなる活物質層が形成された正極板31と、負極板32、及びこれらの間に挟まれて正極板31と負極板32とを絶縁させるセパレータ33が所定の広さに切り取られて交互に積層されるかロール状に巻かれてなる。また、2次電池は、前記各正極板31に電気的に接続された正極タブ34と、前記各負極板32に電気的に接続された負極タブ35とを有する電極組立て体30を備える。
【0023】そして、電極組立て体30は、可撓性素材よりなる外装フィルム容器40に包まれて密封されるが、前記正極タブ34及び負極タブ35は外装フィルム容器40の外部に露出されて電池端子としての役割を果たす。前記外装フィルム容器40は、アルミニウム箔にナイロン、EAA、ポリエチレンフィルムなどがコーティングされてなる。前記容器の材料は前述した実施の形態により限定されず、所定の引張り力を有して前記電極組立て体30と絶縁可能な可撓性材質であれば、いかなるものも採用可能である。
【0024】前記電極組立て体30を包む外装フィルム容器40は、電極組立て体30が安着する安着部42aを有して縁部に第1の接合部41を有した本体部42と、前記本体部42から延び、その縁部に第2の接合部43が設けられて前記第1の接合部41と接合されることにより電極組立て体30が安着する安着部42aを密封するカバー部44とを備える。前記第1及び第2の接合部41及び43は互いに融着されてシーリング部45をなす。
【0025】前記本体部42の第1の接合部41とカバー部44の第2の接合部43との間には、これらと共に融着されるものであり、図4に示されたように、前記外装フィルム容器40より溶融点が相対的に低い材質よりなり、所定の長さを有した安全手段としてのテープ50が挟まれる。前記テープ50は低融点の合成樹脂材よりなるが、この合成樹脂材は、溶融点が60ないし100℃であるエチレンビニールアセテート、溶融点が90ないし120℃である直鎖状の低密度ポリエチレン、溶融点が110ないし180℃であるポリプロピレンよりなる。」
「【0027】そして、電極組立て体30の電極タブ34、35はシーリング部45、すなわち、第1及び第2の接合部41及び43に間に挟まれて電極組立て体30が安着する安着部42aの内部と外部との気密を保持するが、電極タブ34、35と第1及び第2の接合部41及び43との間には気密部材60が挟まれる。前記気密部材60は、前述の如きテープ50よりなる。気密部材60が前述の如きテープ50よりなる場合、テープはその厚み方向の中心部の溶融点が低い必要はない。」
「【0032】
【発明の効果】上述したように、本発明による2次電池は、第1及び第2の接合部の間に溶融点が低いテープを挟んだ状態で融着してシーリング部を形成することにより、電池の異常作動により発生する熱により外装フィルム容器より早く溶融せしめて内部のガスを放出して電池が爆発することを防止できる。」
「【図1】
[図:0001438273000001.jpg]
」
(2)記載された技術事項
上記摘記事項の記載より、甲第1号証には次の技術的事項が記載されているといえる。
ア 段落【0022】の記載によれば、甲第1号証には図1に示された2次電池として、「各々の集電体に活物質及び添加剤よりなる活物質層が形成された正極板31と、負極板32、及びこれらの間に挟まれて正極板31と負極板32とを絶縁させるセパレータ33が所定の広さに切り取られて交互に積層されるかロール状に巻かれてな」り、「前記各正極板31に電気的に接続された正極タブ34と、前記各負極板32に電気的に接続された負極タブ35とを有する電極組立て体30を備える」「2次電池」が記載されている。
イ 段落【0023】の記載によれば、「電極組立て体30は、可撓性素材よりなる外装フィルム容器40に包まれて密封されるが、前記正極タブ34及び負極タブ35は外装フィルム容器40の外部に露出されて電池端子としての役割を果た」し、「外装フィルム容器40は、アルミニウム箔にナイロン、EAA、ポリエチレンフィルムなどがコーティングされてなる」。
ウ 段落【0024】の記載によれば、「外装フィルム容器40は、電極組立て体30が安着する安着部42aを有して縁部に第1の接合部41を有した本体部42と、前記本体部42から延び、その縁部に第2の接合部43が設けられて前記第1の接合部41と接合されることにより電極組立て体30が安着する安着部42aを密封するカバー部44とを備え」、「第1及び第2の接合部41及び43は互いに融着されてシーリング部45をなす」。
エ 段落【0025】の記載によれば、「本体部42の第1の接合部41とカバー部44の第2の接合部43との間には、これらと共に融着される」「外装フィルム容器40より溶融点が相対的に低い材質よりなり、所定の長さを有した安全手段としてのテープ50が挟まれる」。
また、請求項2、3の記載を考慮すれば、段落【0025】には、「テープ50は低融点の合成樹脂材よりな」り、「合成樹脂材は、」「溶融点が90ないし120℃である直鎖状の低密度ポリエチレン」「よりなる」。
オ 段落【0027】の記載によれば、「電極組立て体30の電極タブ34、35はシーリング部45、すなわち、第1及び第2の接合部41及び43に間に挟まれて電極組立て体30が安着する安着部42aの内部と外部との気密を保持するが、電極タブ34、35と第1及び第2の接合部41及び43との間には気密部材60が挟まれ」、「気密部材60は、」「テープ50よりなる」。
カ 段落【0032】の記載によれば、「2次電池」は、「第1及び第2の接合部の間に溶融点が低いテープを挟んだ状態で融着してシーリング部を形成することにより、電池の異常作動により発生する熱により外装フィルム容器より早く溶融せしめて内部のガスを放出して電池が爆発することを防止できる」。
(3)記載された発明
上記「(2)ア」ないし「(2)カ」の技術的事項を総合勘案すると、甲第1号証には、図1に示された2次電池として次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
「各々の集電体に活物質及び添加剤よりなる活物質層が形成された正極板と、負極板、及びこれらの間に挟まれて正極板と負極板とを絶縁させるセパレータが所定の広さに切り取られて交互に積層されるかロール状に巻かれてなり、前記各正極板に電気的に接続された正極タブと、前記各負極板に電気的に接続された負極タブとを有する電極組立て体を備える2次電池において、
電極組立て体は、可撓性素材よりなる外装フィルム容器に包まれて密封されるが、前記正極タブ及び負極タブは外装フィルム容器の外部に露出されて電池端子としての役割を果たし、
外装フィルム容器は、アルミニウム箔にナイロン、EAA、ポリエチレンフィルムなどがコーティングされてなり、電極組立て体が安着する安着部を有して縁部に第1の接合部を有した本体部と、前記本体部から延び、その縁部に第2の接合部が設けられて前記第1の接合部と接合されることにより電極組立て体が安着する安着部を密封するカバー部とを備え、第1及び第2の接合部は互いに融着されてシーリング部をなし、
本体部の第1の接合部とカバー部の第2の接合部との間には、これらと共に融着される外装フィルム容器より溶融点が相対的に低い材質よりなり、所定の長さを有した安全手段としてのテープが挟まれ、
テープは低融点の合成樹脂材よりなり、合成樹脂材は、溶融点が90ないし120℃である直鎖状の低密度ポリエチレンよりなり、
電極組立て体の電極タブはシーリング部、すなわち、第1及び第2の接合部に間に挟まれて電極組立て体が安着する安着部の内部と外部との気密を保持するが、電極タブと第1及び第2の接合部との間には気密部材が挟まれ、気密部材は、前記の如きテープよりなり、
第1及び第2の接合部の間に溶融点が低いテープを挟んだ状態で融着してシーリング部を形成することにより、電池の異常作動により発生する熱により外装フィルム容器より早く溶融せしめて内部のガスを放出して電池が爆発することを防止できる、
2次電池。」
3 当審の判断
(1)申立理由1(進歩性欠如)について
ア 本件発明1について
(ア)対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。
a 本件明細書段落【0041】の記載によれば、本件発明1の「電極組立体」は正極板、負極板、及び分離膜を含み、分離膜を介して正極板と負極板とが順次に積層されるものである。
してみると、甲1発明の「電極組立て体」のうち「各々の集電体に活物質及び添加剤よりなる活物質層が形成された正極板と、負極板、及びこれらの間に挟まれて正極板と負極板とを絶縁させるセパレータが所定の広さに切り取られて交互に積層されるかロール状に巻かれてな」る構成は、本件発明1の「電極組立体」に相当する。
b 甲1発明の「電極組立て体」のうち「前記各正極板に電気的に接続された正極タブと、前記各負極板に電気的に接続された負極タブ」は、本件発明1の「前記電極組立体に取り付けられた電極リード」に相当する。
c 甲1発明は「電極組立て体は、可撓性素材よりなる外装フィルム容器に包まれて密封される」ものであるから、甲1発明の「外装フィルム容器」は電極組立て体を収納しているといえ、本件発明1の「内部に前記電極組立体を収納するケース」に相当する。
d 甲1発明は「外装フィルム容器は、」「電極組立て体が安着する安着部を有して縁部に第1の接合部を有した本体部と、前記本体部から延び、その縁部に第2の接合部が設けられて前記第1の接合部と接合されることにより電極組立て体が安着する安着部を密封するカバー部とを備え、第1及び第2の接合部は互いに融着されてシーリング部をなし」、「電極組立て体の電極タブはシーリング部、すなわち、第1及び第2の接合部に間に挟まれて電極組立て体が安着する安着部の内部と外部との気密を保持するが、電極タブと第1及び第2の接合部との間には気密部材が挟まれ、前記気密部材は、前記の如きテープよりな」るから、甲1発明の「気密部材」は、電極タブの両外面の一部を覆うように形成され、電極タブと外装フィルム容器の一部である第1及び第2の接合部との間に介在されるテープといえる。
してみると、甲1発明の「気密部材」は、本件発明1の「前記電極リードの外面の一部を覆い包むように形成され、前記電極リードと前記ケースとの間に介在されるリードフィルム」に相当する。
e 本件明細書段落【0062】の記載によれば、本件発明1の「ベント領域」はケースの少なくとも一部に形成され、ベント部材が挿入され、熱暴走現象が発生したとき、ベント部材は、特定の方向へのガス排出を誘導して電池の安全性を向上させるものである。
これに対して、甲1発明は「本体部の第1の接合部とカバー部の第2の接合部との間には、これらと共に融着される外装フィルム容器より溶融点が相対的に低い材質よりなり、所定の長さを有した安全手段としてのテープが挟まれ、」「第1及び第2の接合部の間に溶融点が低いテープを挟んだ状態で融着してシーリング部を形成することにより、電池の異常作動により発生する熱により外装フィルム容器より早く溶融せしめて内部のガスを放出して電池が爆発することを防止できる」ものであるから、甲1発明の「安全手段としてのテープ」は、外装フィルム容器の一部である第1及び第2の接合部との間に挟まれる。
してみると、甲1発明の「安全手段としてのテープ」は本件発明1の「ベント部材」に相当し、甲1発明の外装フィルム容器の一部である「第1及び第2の接合部」の安全手段としてのテープが挟まれる部分は、本件発明1の「前記ケースの少なくとも一部に形成されたベント領域」に相当する。
f 甲1発明の「安全手段としてのテープ」は「低融点の合成樹脂材よりなり、合成樹脂材は、溶融点が90ないし120℃である直鎖状の低密度ポリエチレンよりな」るから、上記eの対比を考慮すると、本件発明1の「ベント部材」と「前記ベント領域に挿入され、」「直鎖状低密度ポリエチレンを含むベント部材」である点で一致する。
ただし、直鎖状低密度ポリエチレンが、本件発明1では「炭素数6以上のコモノマーを有する」ものであるのに対して、甲1発明ではその旨特定されていない点で相違する。
g 甲1発明は「外装フィルム容器は、」「電極組立て体が安着する安着部を有して縁部に第1の接合部を有した本体部と、前記本体部から延び、その縁部に第2の接合部が設けられて前記第1の接合部と接合されることにより電極組立て体が安着する安着部を密封するカバー部とを備え、第1及び第2の接合部は互いに融着されてシーリング部をな」すものであるから、甲1発明の「外装フィルム容器」は電極組立て体を密封する第1及び第2の接合部が融着したシーリング部を備えたものであり、本件発明1の「前記ケースは、前記電極組立体を密封するために形成されたシーリング部を備え」ることに相当する構成を有する。
h 甲1発明は「外装フィルム容器は、アルミニウム箔にナイロン、EAA、ポリエチレンフィルムなどがコーティングされてなり、」「第1及び第2の接合部は互いに融着されてシーリング部をなし、本体部の第1の接合部とカバー部の第2の接合部との間には、これらと共に融着される外装フィルム容器より溶融点が相対的に低い材質よりなり、所定の長さを有した安全手段としてのテープが挟まれ」るから、「外装フィルム容器」の「第1及び第2の接合部」が樹脂を含み、「安全手段としてのテープ」は前記樹脂よりも溶融点が低いことは明らかであり、上記e、fの対比を考慮すると、甲1発明は本件発明1の「前記シーリング部は、シーラント樹脂を含み、前記ベント部材の直鎖状低密度ポリエチレンは、前記シーラント樹脂よりも融点が低」いことに相当する構成を有する。
i 上記eに記載したように、甲1発明の「安全手段としてのテープ」は外装フィルム容器の一部である第1及び第2の接合部との間に挟まれる。また、甲1発明は「第1及び第2の接合部の間に溶融点が低いテープを挟んだ状態で融着してシーリング部を形成する」ものである。
してみると、甲1発明の「安全手段としてのテープ」が挟まれる部分はシーリング部に位置しているといえ、甲1発明は本件発明1の「前記ベント領域が前記シーリング部に位置して」いることに相当する構成を有する。
j 本件発明1は「前記ベント部材の厚さが50μm以上200μm未満であ」るのに対して、甲1発明の「安全手段としてのテープ」の厚みは特定されていない点で相違する。
k 本件発明1は「前記ベント部材の100℃以上における最大シーリング強度が6kgf/15mm未満であり、常温~60℃における最大シーリング強度が6kgf/15mm以上である」のに対して、甲1発明の「安全手段としてのテープ」のシーリング強度は特定されていない点で相違する。
l 甲1発明の「2次電池」は電極タブを有する電極組立て体、外装フィルム容器、気密部材、安全手段としてのテープを有するものであり、本件発明1の「二次電池」に相当する。
m 上記aないしlより、本件発明1と甲1発明とは、
「電極組立体と、
前記電極組立体に取り付けられた電極リードと、
内部に前記電極組立体を収納するケースと、
前記電極リードの外面の一部を覆い包むように形成され、前記電極リードと前記ケースとの間に介在されるリードフィルムと、
前記ケースの少なくとも一部に形成されたベント領域と、
前記ベント領域に挿入され、直鎖状低密度ポリエチレンを含むベント部材と、を含み、
前記ケースは、前記電極組立体を密封するために形成されたシーリング部を備え、
前記シーリング部は、シーラント樹脂を含み、
前記ベント部材の直鎖状低密度ポリエチレンは、前記シーラント樹脂よりも融点が低く、
前記ベント領域が前記シーリング部に位置している、二次電池。」
である点で一致し、次の点で相違する。
〈相違点1〉
直鎖状低密度ポリエチレンが、本件発明1では「炭素数6以上のコモノマーを有する」ものであるのに対して、甲1発明ではその旨特定されていない点。
〈相違点2〉
本件発明1は「前記ベント部材の厚さが50μm以上200μm未満であ」るのに対して、甲1発明の「安全手段としてのテープ」の厚みは特定されていない点。
〈相違点3〉
本件発明1は「前記ベント部材の100℃以上における最大シーリング強度が6kgf/15mm未満であり、常温~60℃における最大シーリング強度が6kgf/15mm以上である」のに対して、甲1発明の「安全手段としてのテープ」のシーリング強度は特定されていない点。
(イ)判断
事案に鑑み、相違点3について検討する。
甲第4号証は電池内の圧力や温度の上昇がある一定の水準になるまでは電池素子を密封した状態を維持でき、電池内の圧力や温度の上昇が持続的に進行した状態になった時点で迅速且つ穏やかに開封する電池用包装材料に関する(段落【0001】)ものであり、その実施例6にはシーラント層同士を対向させてヒートシールした部分のシール強度が25℃で120N/15mm(12.2kgf/15mm)、125℃で12N/15mm(1.22kgf/15mm)(段落【0116】、【0119】の【表2】)であることが記載されている。
しかしながら、甲第4号証は加熱されると金属層とシーラント層の外側表面(最内層側表面)との間のいずれかの箇所において剥離が生じ内袋が形成され、その後、内袋が開裂し、迅速かつ速やかに電池用包装材料が開封され(段落【0120】)てなるものであり、甲第4号証の上記実施例6のシール強度は、シーラント層同士を対向させてヒートシールした部分のシール強度であって、シーリング部にシーラント樹脂とは別に設けられたベント部材のシーリング強度ではない。
そして、甲第4号証のその他の記載もみても、シーリング部にシーラント樹脂とは別に設けられたベント部材のシーリング強度に関しては記載も示唆もされていない。
また、甲第2,3,5ないし7号証にも、シーリング部にシーラント樹脂とは別に設けられたベント部材のシーリング強度に関しては記載も示唆もされていない。
したがって、甲1発明に甲第2ないし7号証に記載された技術を適用して本件発明1の相違点3に係る構成を得ることは、当業者が容易になし得たこととはいえない。
よって、その他の相違点について検討するまでもなく、本件の請求項1に係る発明は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2ないし7号証に記載された技術より当業者が容易に発明できなものではなく、本件の請求項1に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではない。
イ 本件発明2ないし17について
本件の請求項2ないし17は、請求項1を直接又は間接的に引用する請求項であり、本件発明2ないし17は、本件発明1の発明特定事項をすべて含みさらに他の発明特定事項を追加して限定したものであるから、上記本件発明1についての判断と同様の理由により、本件の請求項2ないし17に係る発明は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2ないし7号証に記載された技術より当業者が容易に発明できなものではない。
したがって、本件の請求項2ないし17に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではない。
(2)申立理由2(サポート要件)について
ア 申立人の主張
申立人は特許異議申立書において、概略次のように主張している。
「本件発明1には、『前記ベント部材の100℃以上における最大シーリング強度が6kgf/15mm未満であり、常温~60℃における最大シーリング強度が6kgf/15mm以上である』なる記載がある。
しかしながら、本件発明1の記載からは、『常温~60℃』について、『常温』の具体的な温度は不明である。
本件明細書の【0064】の記載より、本件発明1の『常温~60℃』なる記載は、優れたケース13の密封性を有する『正常湿度の範囲』と理解することができるが、『正常温度の範囲』の具体的な温度範囲は不明である。
また、本件明細書の【0009】の記載より、『常温~60℃』(すなわち、正常温度の範囲)とは、『電池の正常作動時』の温度と理解することができる。
ここで、『電池の正常作動時』の温度については、電池の種類によって様々である。
例えば、本件明細書【0003】の記載より、本件発明の二次電池は、携帯用機器だけではなく、電気自動車、ハイブリッド電気自動車への使用も想定されていると解される。
・・・自動車に使用される二次電池については、『電池の正常作動時』の温度は、-30℃~60℃という温度も想定されることは技術常識である。
一方、本件明細書の実施例では、『常温』の具体的な温度が開示されておらず、例えば電気自動車、ハイブリッド電気自動車などにおける常温である-30℃から60℃の範囲での最大シーリング強度について測定されていると理解することはできない。
本件発明1に規定されたベント部材は、炭素数6以上のコモノマーを有する直鎖状低密度ポリエチレンを含む、厚さが50μm以上200μm未満の部材(樹脂)であり、樹脂は低温で脆くなることについても技術常識である。
例えば-30℃といった低温環境において、ベント部材が脆くなると、電池の正常作動時に密封性を確保できるとは考えられない。
そうすると、本件発明1に係る発明は、電気自動車、ハイブリッド電気自動車などの『常温』において、電池の正常作動時には密封性を確保する(最大シーリング強度が6kgf/15mm以上)という課題を解決できるとはいえない。
従って、本件発明1及び及びこれを引用する本件発明2-17に係る発明は、本件明細書の発明の詳細な説明に記載したものではなく、サポート要件を満たしていない。」(第43頁下から7行目ないし第45頁第13行)
イ 判断
「常温」とは一般に15~25℃程度の温度を指すことは技術常識である。
また、本件明細書段落【0118】には評価例1に関して「このときのケースのシーリング強度を下記の表1、図7及び図8に示した」と記載されると共に、段落【0121】の【表1】に常温、60℃、120℃でのシーリング強度が示され、図7、図8に25℃、60℃、120℃のシーリング強度のグラフが示されていることから、本件における「常温」は25℃を指すと理解できる。
してみると、本件発明1の「常温~60℃」なる記載は、「25℃~60℃」の範囲を指すと当業者は理解し得るものと認められる。
そして、本件明細書には評価例1として常温(25℃)、60℃、120℃におけるシーリング強度が記載されているのであるから、本件発明1は発明の詳細な説明に記載されたものである。
また、本件発明1を引用する本件発明2ないし17も発明の詳細な説明に記載されたものである。
よって、本件の請求項1ないし17に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものであり、申立人の意見は採用できない、
(3)申立理由3(明確性)について
ア 申立人の主張
申立人は特許異議申立書において、概略次のように主張している。
「サポート要件について指摘したとおり、本件発明1の記載からは、『常温』について、具体的な温度は不明である。
また、前記の通り、『電池の正常作動時』の温度については、電池の種類によって様々であり、・・・自動車に使用される二次電池については、『電池の正常作動時』の温度は、-30℃~60℃という温度も想定されることは技術常識である。
本件発明1には、『常温』について、具体的な温度が記載されておらず、当業者は、具体的にどの温度までを想定して、最大シーリング強度が6kgf/15mm以上であれば本件発明1の技術的範囲にを満たすといえるのか、判断することができない。
そうすると、本件発明1及びこれを引用する本件発明2-17の記載は、第三者に不測の不利益を与える程度に不明確である。」(第45頁第15ないし29行)
イ 判断
上記「(2)イ」で検討したとおり、本件発明1の「常温~60℃」とは「25℃~60℃」を指すものと認められる。
したがって、本件の請求項1ないし17の記載は、第三者に不測の不利益を与える程度に不明確であるとはいえず、申立人の意見は採用できない。
(4)申立理由5(実施可能要件)について
ア 申立人の主張
申立人は特許異議申立書において、概略次のように主張している。
「本件発明1の記載からは、『常温』について、具体的な温度は不明である。
また、前記の通り、『電池の正常作動時』の温度については、電池の種類によって様々であり、・・・自動車に使用される二次電池については、『電池の正常作動時』の温度は、-30℃~60℃という温度も想定されることは技術常識である。
一方、本件明細書の実施例では、『常温』の具体的な温度が開示されておらず、例えば電気自動車、ハイブリッド電気自動車などにおける常温である-30℃から60℃の範囲での最大シーリング強度について測定されていると理解することはできない。
そうすると、本件発明1に包含されるあらゆる用途の二次電池に係る発明について、本件明細書の発明の詳細な説明は、本件発明1に係る発明を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されたものではなく、実施可能要件を満たしていない。本件発明1を引用する本件発明2-17に係る発明についても同様である。」(第46頁下から6行ないし第47頁第11行)
イ 判断
上記「(2)イ」で検討したとおり、本件発明1の「常温~60℃」とは「25℃~60℃」を指すものと認められる。
そして、本件明細書には評価例1として実施例1、2の常温(25℃)、60℃、120℃におけるシーリング強度が記載されている。
してみると、本件の発明の詳細な説明には、本件発明1を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されているといえる。
したがって、本件の発明の詳細な説明は、本件の請求項1ないし17に記載された発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載されたものであるといえ、申立人の意見は採用できない。
第5 むすび
以上のとおり、請求項6および7に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、特許法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。
請求項1ないし5、8ないし17に係る特許については、特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、特許を取り消すことはできない。
また、他に本件の請求項1ないし5、8ないし17に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。
J-PlatPat 審決検索を開く
2025-700295