特許異議申立
2025-700167
接着剤組成物、積層体、積層体の製造方法、及び電子部品の製造方法
- 審判番号
- 2025-700167
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2020-110426
- 登録番号
- 7531328
- 請求日
- 2025年02月06日
- 審決日
- 2025年06月10日
- 公報発行日
- 2025年07月25日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】東京応化工業株式会社
- 【権利者代理人】棚井 澄雄
- 【権利者代理人】松本 将尚
- 【権利者代理人】宮本 龍
- 【権利者代理人】飯田 雅人
- 【異議申立人】浅川 哲
- 審判長/審判官
- 審判長 里村 利光
- 審判官 本田 博幸
- 審判官 川村 大輔
- 分類
- P1651.121-Y (C09J) / P1651.537-Y (C09J)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条、特許法第29条
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7531328号発明「接着剤組成物、積層体、積層体の製造方法、及び電子部品の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7531328号の請求項1~8に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7531328号の請求項1~8に係る特許(以下「本件特許」という。)についての出願(特願2020-110426号)は、令和2年(2020年)6月26日に特許出願したものであって、令和6年8月1日にその特許権の設定登録がされ、令和6年8月9日に特許掲載公報が発行された。
本件特許について、特許掲載公報の発行の日から6月以内である令和7年2月6日に、特許異議申立人 浅川 哲(以下「特許異議申立人」という。)から、全請求項に対して特許異議の申立てがされた。
第2 本件特許発明
本件特許の請求項1~8に係る発明(以下、それぞれ「本件特許発明1」~「本件特許発明8」という。また、それらを総称して「本件特許発明」という。)は、特許請求の範囲の請求項1~8に記載された事項によって特定されるとおりの、以下のものである。
【請求項1】
半導体基板又は電子デバイスと、光を透過する支持体とを仮接着する接着層を形成するために用いられる接着剤組成物であって、
重合性炭素-炭素不飽和結合を含むウレタン樹脂(P1)、波長300~800nmの範囲内の少なくとも一部の光を吸収し、且つ重合性炭素-炭素不飽和結合を含む化合物(B)(但し、前記ウレタン樹脂(P1)に該当するものを除く。)、及び重合開始剤(A)を含有し、
前記化合物(B)が、以下の一般式(b)で表される、
接着剤組成物。
【化1】
[図:0001424611000001.jpg]
[式中、Wは重合性炭素-炭素不飽和結合を含む1価の基であり、Yは単結合又は-O-、-CO-、-COO-、及び-CONH-からなる群から選択される2価の基である。nは1~6の整数であり、Xは、アントラセン骨格、フェナントレン骨格、ベンゾフェノン骨格、ジベンゾイルメタン骨格、ジベンゾイルベンゼン骨格、又はベンゾトリアゾール骨格、を有するn価の原子団であり、nが2以上の場合、複数存在するW及びYは互いに同一であっても異なっていてもよい。]
【請求項2】
前記一般式(b)中のXが、ベンゾトリアゾール骨格を有するn価の原子団である、請求項1に記載の接着剤組成物。
【請求項3】
前記ウレタン樹脂(P1)が、ポリオールとポリイソシアネートとの反応生成物であって、
前記ポリオール及び前記ポリイソシアネートの少なくとも一方が、前記重合性炭素-炭素不飽和結合を含む、
請求項1又は2に記載の接着剤組成物。
【請求項4】
前記電子デバイスとして、金属又は半導体により構成される部材と、前記部材を封止又は絶縁する樹脂と、の複合体が、前記接着層を介して前記支持体に積層されることを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載の接着剤組成物。
【請求項5】
光を透過する支持体、接着層、及び半導体基板若しくは電子デバイスがこの順に積層した積層体であって、
前記接着層は、請求項1~4のいずれか一項に記載の接着剤組成物の硬化体である、
積層体。
【請求項6】
光を透過する支持体、接着層及び半導体基板がこの順に積層した積層体の製造方法であって、
前記支持体又は半導体基板に、請求項1~4のいずれか一項に記載の接着剤組成物を塗布して接着剤組成物層を形成する工程と、
前記支持体上に、前記半導体基板を、前記接着剤組成物層を介して載置する工程と、
前記接着剤組成物層を硬化させて前記接着層を形成する工程と、
を有する、積層体の製造方法。
【請求項7】
請求項6に記載の積層体の製造方法により積層体を得た後、金属又は半導体により構成される部材と、前記部材を封止又は絶縁する樹脂と、の複合体である、電子デバイスを形成する工程をさらに有する、
光を透過する支持体、接着層及び電子デバイスがこの順に積層した積層体の製造方法。
【請求項8】
請求項7に記載の積層体の製造方法により積層体を得た後、
前記支持体を介して前記接着層に光を照射して、前記接着層を変質させることにより、前記電子デバイスと、前記支持体とを分離する工程と、
前記接着層中のウレタン結合を酸又はアルカリで分解することにより、前記電子デバイスに付着する前記接着層を除去する工程と、
を有する、電子部品の製造方法。
第3 特許異議の申立ての概要
1 証拠方法
特許異議申立人が提出した証拠方法は、以下のとおりである。
甲第1号証:特開2014-105216号公報
甲第2号証:河野和浩,「反応型紫外線吸収剤の開発」,日本化学会中国四国支部 第29回化学懇談会,平成10年11月13日,p.52~55
甲第3号証:特開2013-256610号公報
甲第4号証:特開2007-187836号公報
以下、「甲第1号証」~「甲第4号証」をそれぞれ「甲1」~「甲4」という。
2 申立理由の概要
特許異議申立人が主張する特許異議の申立て理由は、概略、以下のとおりである。
(1) 申立理由1:特許法29条2項(同法113条2号)
本件特許発明1~8は、甲1及び甲2の組み合わせ、及び必要に応じて周知技術に基づいて容易に想到できた発明である。
(2) 申立理由2:特許法36条6項1号(同法113条4号)
本件特許発明1~8の範囲まで発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。
(申立理由1において、甲1は主引例である。また、甲2は副引例であり、甲3及び甲4は周知技術を示す文献である。)
第4 当合議体の判断
1 申立理由1(本件特許発明1~8に対する甲1を主引例とした場合の進歩性)
(1) 甲1に記載された発明
甲1には、実施例6として、次の「仮固定用接着剤組成物」の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる(甲1の【0073】、【0074】、【0085】【表1】及び【0090】【表6】参照)。
「下記の組成で各使用材料を混合して調製した、一剤の仮固定用接着剤組成物。
(1)成分:UV-3000B(化学式(A)(当合議体注:化学式(A)の摘記は省略)で表される構造を含有し、分子の末端又は側鎖に2個以上のアクリロイル基を有し、分子量が18000であるポリエステル系ウレタンアクリレートオリゴマー) 40質量部
(2)成分:M-101A(フェノールエチレンオキサイド2モル変性アクリレート) 30質量部
(4)成分:MBX-100(架橋ポリメタクリル酸メチル粒子 平均粒径100μm) 1質量部
(5)成分:F-36D(ブタンを内包し、アクリル酸メチルとメタクリル酸メチルとアクリロニトリルの共重合体からなる熱可塑性樹脂で包み込んだ熱膨張性マイクロカプセル) 10質量部
(6)成分:APG-200(トリプロピレングリコールジアクリレート) 30質量部
(3-2)成分:BDK(ベンジルジメチルケタール) 10質量部
重合禁止剤:In-D(2,2’-メチレンビス(4-メチル-6-t-ブチルフェノール) 0.1質量部」
(2) 甲2に記載された技術的事項
甲2(52~53頁を参照)には、後記アに示す化学構造及び後記イに示す特性を備えた、紫外線吸収剤に関する技術的事項が開示されていると認められる。以下、当該反応型紫外線吸収剤(RUVA-93)を、「甲2吸収剤」という。
また、甲2の52頁4行~21行、53頁下から3行~54頁1行の記載によれば、甲2吸収剤の従来の材料(低分子量の紫外線吸収剤)と比較した利点は、下記ウに示すとおりのものである。
ア 甲2吸収剤(RUVA-93)の化学構造(52頁)
甲2吸収剤は、下記化学構造を有する。
[図:0001424611000002.jpg]
イ 甲2吸収剤の特性
甲2吸収剤は、以下の特性を有する。(53頁)
・ラジカル重合し、その結果、紫外線吸収性官能基を共有結合によりポリマー主鎖に固定できること。
・反応性はメタクリル酸メチルと類似すること。
・290~400μmの紫外線域を効果的に吸収し、この性質は重合後も完全に保持されること。
ウ 甲2吸収剤の従来の材料と比較した場合の利点
甲2吸収剤は、従来市販の紫外線吸収剤を添加した材料と比較して、樹脂表面からブリードアウトしないことから長期耐候性及び安全性において利点がある。(53頁下から3行~54頁1行)
(3)本件特許発明1について
ア 対比
本件特許発明1と甲1発明とを対比する。
(ア)ウレタン樹脂(P1)
甲1発明の「UV-3000B」は、分子の末端又は側鎖に2個以上のアクリロイル基を有し、分子量が18000であるポリエステル系ウレタンアクリレートオリゴマーであるから、本件特許発明1の「ウレタン樹脂(P1)」に相当し、かつ、本件特許発明1の「重合性炭素-炭素不飽和結合を含む」という要件を満たす。
(イ)重合開始剤(A)
甲1発明の「BDK」は、「(3-2)光ラジカル重合開始剤」である(甲1の【0045】参照)から、本件特許発明1の「重合開始剤(A)」に相当することは明らかである。
(ウ)接着剤組成物
本件特許発明1の「接着剤組成物」と甲1発明の「仮固定用接着剤組成物」は、「接着剤組成物である点で共通する。
(エ) 一致点及び相違点
上記(ア)~(ウ)によれば、本件特許発明1と甲1発明とは、
「接着剤組成物であって、
重合性炭素-炭素不飽和結合を含むウレタン樹脂(P1)、及び重合開始剤(A)を含有する、
接着剤組成物。」である点で一致し、以下の点で相違する。
(相違点1)
本件特許発明1は、波長300~800nmの範囲内の少なくとも一部の光を吸収し、且つ重合性炭素-炭素不飽和結合を含む化合物(B)(但し、前記ウレタン樹脂(P1)に該当するものを除く。)を含有し、前記化合物(B)が、以下の一般式(b)で表される
[図:0001424611000003.jpg]
[式中、Wは重合性炭素-炭素不飽和結合を含む1価の基であり、Yは単結合又は-O、-CO-、-COO-、及び-CONH-からなる群から選択される2価の基である。nは1~6の整数であり、Xは、アントラセン骨格、フェナントレン骨格、ベンゾフェノン骨格、ジベンゾイルメタン骨格、ジベンゾイルベンゼン骨格、又はベンゾトリアゾール骨格、を有するn価の原子団であり、nが2以上の場合、複数存在するW及びYは互いに同一であっても異なっていてもよい。]のに対し、甲1発明は、上記化合物Bを含有していない点。
(相違点2)
接着剤組成物が、本件特許発明1では、半導体基板又は電子デバイスと、光を透過する支持体とを仮接着する接着層を形成するために用いられるのに対し、甲1発明では、そのような用途は特定されていない点。
イ 判断
上記相違点1について検討する。
(ア)甲2吸収剤は、上記(2)アに示す化学構造を有することから、本件特許発明1の「化合物(B)」の一般式(b)において、Wが「重合性炭素-炭素不飽和結合を含む1価の基」であり、Yが「単結合」であり、nが「1」であり、Xが「ベンゾトリアゾール骨格を有する1価の原子団」である化合物に該当する。
したがって、甲2吸収剤は、本件特許発明1の「一般式(b)で表される」「化合物(B)」に相当する。
(イ)しかしながら、甲1には、甲1発明の「仮固定用接着剤組成物」が紫外線吸収剤を含有してもよいことは記載も示唆もされていない。また、仮固定用接着剤組成物に紫外線吸収剤を含有させることが、本件特許出願前の技術常識であったとも認められない。そして、上記(2)ウのとおり、甲2吸収剤は、長期耐候性及び安全性において利点があることから、「仮固定用接着剤組成物」の発明である甲1発明において、当業者が甲2吸収剤を採用しようと動機づけられることはない。
(ウ)また、甲1発明の「仮固定」における剥離が、硬化物を水に浸ける又は加熱することによって行われるのであって、光(紫外線又は可視光)を照射することによって行われるものではないことから、甲2吸収剤が本件特許出願時において公知であったとしても、甲1発明において、当業者が甲2吸収剤を添加剤として採用する動機づけはないというべきである。すなわち、甲1には、甲1発明に係る仮固定用接着剤組成物を使用した仮固定方法として、光エネルギーによる仮固定方法を用いた後、水に接着体を浸漬することにより、仮固定用接着剤組成物の硬化体が軟化し、それにより容易にブタン及び/又はイソブタンを内包する有機系熱膨張性粒子が膨張し、硬化体(接着基材)と仮固定用接着剤組成物との界面に水が侵入し、硬化体をより容易に剥離できること(甲1の【0050】参照)、及び、光エネルギーによる仮固定方法を用いた後、100~200℃に接着体を加熱することにより、仮固定用接着剤組成物の硬化体が軟化し、それにより容易にブタン及び/又はイソブタンを内包する有機系熱膨張性粒子が膨張し、硬化体(接着基材)と仮固定用接着剤組成物との界面に空隙が生じ、硬化体をより容易に剥離できること(甲1の【0051】参照)が記載されている。
(エ)そして、本件特許発明1に係る接着剤組成物を硬化させた接着層にレーザ光等の光を照射すると、接着層中の化合物(B)が光を吸収し、接着層が変質することにより、接着層の接着力が低下して、半導体基板等と支持体とを分離することができる(本件特許明細書の【0163】参照)ところ、部材同士を分離するために、化合物(B)が光を吸収して接着層が変質することによる接着層の接着力の低下を利用する本件特許発明1と、ブタン及び/又はイソブタンを内包する有機系熱膨張性粒子の膨張(甲1の【0050】及び【0051】参照)を利用する甲1発明とは、部材同士の分離を可能にする作用機序が異なっており、しかも、甲1発明は、部材同士を分離する際に、光の照射を行わないものである。
(オ)したがって、甲2吸収剤を甲1発明における添加剤として採用する動機付けはない。
(カ)なお、甲1の「実施例1~5」の第一剤と第二剤からなり、熱硬化性である仮固定用接着剤組成物を「甲1発明」とした場合や、「実施例7~9」の一剤からなり、光硬化性の仮固定用接着剤組成物を「甲1発明」とした場合も、同様の理由により、本件特許発明1は、甲1発明に基づいて、当業者が上記相違点1に係る構成を想到することが容易であったとはいえない。
ウ 特許異議申立人の主張について
(ア)特許異議申立人は、特許異議申立書(15~21頁)において、甲1の【0052】、「実施例1」の記載等に基づいて、甲1には、「甲1発明1」として、以下の発明が記載されていると主張している。
「半導体基板と支持体とを仮接着する接着層を形成するために用いられる接着剤組成物であって、
ポリオールとポリイソシアネートと(メタ)アクリレートとの反応生成物であるウレタン樹脂であって、具体的には分子の末端又は側鎖に2個以上のアクリロイル基を有するウレタン樹脂(UV-3000B)、及び
熱ラジカル重合開始剤(パークミルH)を含み、
可視光線又は紫外線を照射することにより硬化体を取り外すことができる、接着剤組成物。」
しかしながら、甲1の【0052】には、「仮固定用接着剤組成物の硬化体を取り外す際は、仮固定用接着剤組成物に可視光線又は紫外線を波長365nmにおいて好ましくは40000mJ/cm2以下のエネルギーを照射することにより、未反応の(3-2)からラジカルが発生し、大きな効果歪みが発生し、硬化体自体が大きくうねりを生じ、接着面積が減少し、接着強度が低下するので、容易に硬化体を取り外すことができる。」と記載されており、甲1の【0032】の「(3-2)光ラジカル重合開始剤」との記載も併せて考慮すると、可視光線又は紫外線を照射することにより硬化体を取り外すためには、仮固定用接着剤組成物が、光ラジカル重合開始剤を含んでいる必要があると認められるところ、甲1の【0073】~【0087】によると、甲1の「実施例1」の仮固定用接着剤組成物は、第1剤、第2剤共に「(3-2)成分」を含んでおらず、また、硬化体を取り外すために、温水(95℃)への浸漬や160℃への加熱は行っているものの、可視光線又は紫外線の照射は行っていない。
したがって、甲1には、上記「甲1発明1」が記載されているとは認められない。
(イ)また、特許異議申立人は、特許異議申立書(28~31頁)において、上記相違点1について、次のように主張している。
「 甲第2号証には、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤として、以下で示される化合物(RUVA-93)が記載されている。
[図:0001424611000004.jpg]
RUVA-93
上記構造は、本件発明1の構成Eにおける一般式(b)を満たす。この化合物は、290-400nmの紫外線域を効果的に吸収し、この性質は重合後も完全に保持されるという優れた特性を有する(p.53)。
ここで、甲第1号証には、以下の記載がある。
「仮固定用接着剤組成物の硬化体を取り外す際は、仮固定用接着剤組成物に可視光線又は紫外線を波長365nmにおいて好ましくは40000mJ/cm2以下のエネルギーを照射することにより、未反応の(3-2)からラジカルが発生し、大きな硬化歪みが発生し、硬化体自体が大きくうねりを生じ、接着面積が減少し、接着強度が低下するので、容易に硬化体を取り外すことができる。」(【0052】)
すなわち、甲1発明1において、波長365nmの紫外線を照射することにより、未反応の光ラジカル重合開始剤(3-2)から発生するラジカルによって、容易に硬化体を取り外すことができる。
甲第1号証では、接着剤の取り外しに末反応の重合開始剤を利用するものではあるが、硬化体の取り外しをより容易にするために、別途、290-400nmの紫外線域を効果的に吸収し、その性質が重合後も完全に保持されるという特徴を有する甲第2号証に記載の化合物(RUVA-93)を接着剤の組成の1つとして採用することは、当業者が容易に想到することである。
したがって、本件発明1は、甲第1号証と甲第2号証との組み合わせに基づいて当業者が容易に想到できたものである。
また、相違点1による効果について検討する。
本件明細書には、(B)成分は、重合性炭素-炭素不飽和結合を含むため、重合性炭素-炭素不飽和結合を含むウレタン樹脂(P1)と反応して硬化し、(P1)成分とともに接着層を形成することができること、及び波長300~800nmの範囲の光を接着層に照射することにより(B)成分が光を吸収すること、が記載されている(【0025】)。本件明細書の実施例では、RUVA-93と同じ構造を有する化合物の含有の有無のみが異なる実施例と比較例において、実施例で得られた接着層がレーザ反応性に優れていることが示されている。
これに対して、上記のように、RUVA-93は、本件特許出願時にラジカル重合することができる紫外線吸収剤として知られており、従来の紫外線吸収剤と比べて、重合後も紫外線吸収効果を維持できる等の優れた特徴を有している。
したがって、ウレタン樹脂と反応して硬化し接着層を形成でき、重合後に紫外線を吸収するという相違点1による効果は、甲第1号証、及び甲第2号証から予測可能なものであり、格別顕著な効果とはいえない。」
(ウ)しかしながら、上記イ(ア)~(ウ)のとおり、甲1には、仮固定用接着剤組成物が紫外線吸収剤を含有してもよいことは、記載も示唆もされておらず、また、仮固定用接着剤組成物に紫外線吸収剤を含有させることが、本件特許出願前の技術常識であったとも認められないから、甲2に記載された反応型紫外線吸収剤である「RUVA-93」を甲1発明に含有させる動機付けを見出すことができない。
(エ)仮に、特許異議申立人が主張するように、硬化体の取り外しをより容易にするために、甲2に記載の「RUVA-93」を接着剤の組成の1つとして採用した場合には、本来、未反応の「(3-2)光ラジカル重合開始剤」に照射され、ラジカルを発生させるための光を「RUVA-93」が吸収してしまい、ラジカルの発生が不十分となるため、大きな硬化歪みを発生させることができず、接着強度が十分に低下せず、容易に硬化体を取り外すことができない、あるいは、かえって取り外しにくくなることが想定される。
(オ)したがって、硬化体の取り外しをより容易にするために、甲2に記載の「RUVA-93」を甲1発明に係る仮固定用接着剤組成物の組成の1つとして採用することには、阻害要因が存在し、当業者が容易に想到することであるとは認められない。
したがって、上記主張を採用することはできない。
エ 小括
以上のとおりであるから、本件特許発明1は、甲1発明及び特許異議申立人が提出したいずれの証拠の記載に基づいても当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(4)本件特許発明2~8について
本件特許発明2~8は、いずれも、請求項1を直接又は間接的に引用して特定するものであって、本件特許発明1の構成を全て具備するものである。
そうすると、上記(3)のとおり、本件特許発明1が、甲1発明及び特許異議申立人が提出したいずれの証拠の記載に基づいても当業者が容易に発明をすることができたものでない以上、本件特許発明2~8も、甲1発明及び特許異議申人が提出したいずれの証拠の記載に基づいても当業者が容易に発明をすることができたものではない。
2 申立て理由2(本件特許発明1~8に対するサポート要件違反)
(1)本件特許発明1について
ア 判断基準
特許請求の範囲の記載が、特許法36条6項1号に記載する要件(いわゆる、サポート要件)に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものと解される。
これを本件特許発明についてみると、以下のとおりとなる。
イ 本件特許発明の課題
本件特許明細書の【0008】の記載によれば、本件特許発明が解決しようとする課題は、「分離層が不要で、且つ耐熱性が高く、接着層の除去が容易な接着剤組成物、当該接着剤組成物を用いて製造された積層体、当該積層体の製造方法、並びに当該接着剤組成物を用いた電子部品の製造方法を提供すること」(以下「本件課題」という。)と認められる。
ウ 本件特許発明における課題解決手段について
本件特許明細書の【0025】、【0026】、【0080】、【0163】、【0186】~【0189】、【0209】~【0218】、【0221】~【0234】等の記載からみて、本件特許発明は、次のとおり、本件課題を解決することに技術的意義を有する発明であると認められる。
【本件特許発明における課題解決手段と技術的意義】
(ア)半導体基板等と支持体とを仮接着する際に、接着層は、ウレタン樹脂(P1)と化合物(B)とが架橋構造により硬化しているため、耐熱性が高く、高温でも弾性率が低下しない一方、接着層にレーザ光等の光を照射すると、接着層中の化合物(B)が光を吸収し、接着層が変質することにより、接着層の接着力が低下して、半導体基板等と支持体とを分離することができるため、分離層を設ける必要がないこと。
(イ)さらに、接着層はウレタン樹脂を含むため、酸又はアルカリによりウレタン結合を分解することにより、接着層を分解することができるため、支持体から分離した半導体基板等に接着層の残渣が付着する場合でも、酸又はアルカリで洗浄することにより、接着層の残渣を容易に除去することができること。
したがって、これらの観点から、本件特許発明が本件課題を解決することができる範囲のものと当業者が認識することができるかについて、以下検討する。
エ 判断
(ア)本件特許発明1は、「重合性炭素-炭素不飽和結合を含むウレタン樹脂(P1)、波長300~800nmの範囲内の少なくとも一部の光を吸収し、且つ重合性炭素-炭素不飽和結合を含む化合物(B)(但し、前記ウレタン樹脂(P1)に該当するものを除く。)、及び重合開始剤(A)を含有し、
前記化合物(B)が、以下の一般式(b)で表される
【化1】
[図:0001424611000005.jpg]
[式中、Wは重合性炭素-炭素不飽和結合を含む1価の基であり、Yは単結合又は-O-、-CO-、-COO-、及び-CONH-からなる群から選択される2価の基である。nは1~6の整数であり、Xは、アントラセン骨格、フェナントレン骨格、ベンゾフェノン骨格、ジベンゾイルメタン骨格、ジベンゾイルベンゼン骨格、又はベンゾトリアゾール骨格、を有するn価の原子団であり、nが2以上の場合、複数存在するW及びYは互いに同一であっても異なっていてもよい。]」ことを発明特定事項としており、「ウレタン樹脂(P1)」は、「重合性炭素-炭素不飽和結合を含む」ことが特定されているのみであり、重合性炭素-炭素不飽和結合の当量については特定されていないから、あらゆる当量の重合性炭素-炭素不飽和結合を含む「ウレタン樹脂(P1)」が含まれるものと認められる。
(イ)ここで、本件特許明細書の【0081】には、「(P1)成分が含む重合性炭素-炭素不飽和結合の当量は、200~2000g/eq.以上が好ましく、300~1500g/eq.以上がより好ましく、400~1200g/eq.以上がさらに好ましく、500~1000g/eq.が特に好ましい。重合性炭素-炭素不飽和結合当量が、前記好ましい範囲の下限値以上であると、接着層の弾性率、耐熱性等がより向上する。重合性炭素-炭素不飽和結合当量が、前記好ましい範囲の上限値以下であると、接着層が硬くなりすぎず、洗浄性が良好となる。」と記載されており、また、【0221】~【0234】には、重合性炭素-炭素不飽和結合当量が600g/eq.であるウレタン樹脂(P1)-1を含有する実施例1~3及び比較例1のみが記載されている。
しかしながら、上記された「ウレタン樹脂(P1)」が含む重合性炭素-炭素不飽和結合の当量の範囲は、あくまで「好ましい」ものにすぎず、いかなる当量のものであれ、「ウレタン樹脂(P1)」及び「化合物(B)」が重合性炭素-炭素不飽和結合を含むことにより、接着層が架橋構造により硬化するため、従来、仮接着用の接着剤組成物として使用されていた熱可塑系接着剤と比べて、耐熱性が高くなることは明らかである。
(ウ)また、本件特許発明1は、「化合物(B)」を含むことにより、接着層中の「化合物(B)」が光を吸収し、接着層が変質することにより、接着層の接着力が低下して、半導体基板等と支持体とを分離することができるため、分離層を設ける必要がなく、さらに、本件特許発明1は、「ウレタン樹脂(P1)」を含むため、酸又はアルカリによりウレタン結合を分解することにより、接着層を分解することができるため、支持体から分離した半導体基板等に接着層の残渣が付着する場合でも、酸又はアルカリで洗浄することにより、接着層の残渣を容易に除去することができるものと認められる。
(エ)したがって、本件特許発明1は、当業者が本件課題を解決することができると認識できるものといえるから、本件特許発明1は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載された発明である。
オ 特許異議申立人の主張について
(ア)特許異議申立人は、特許異議申立書(38~40頁)において、「本件特許において、接着層は架橋構造によって耐熱性が高まるほど強固に結合しているため、ウレタン結合が酸又はアルカリにより分解される性質を有することのみで、接着層が酸又はアルカリを含む処理液により容易に除去されるとは、当業者であっても理解できない。」こと、及び、「ポリオール(又はポリイソシアネート)が重合性炭素-炭素不飽和結合を有すること、及び重合性炭素-炭素不飽和結合を有するポリオール(又はポリイソシアネート)と重合性炭素-炭素不飽和結合を有しないポリオール(又はポリイソシアネート)が特定の配合比で組み合わされることが特定されていないウレタン樹脂(P1)を含む本件発明1の全範囲において、「耐熱性が高く、接着層の除去が容易な接着剤組成物を得る」との課題が解決できるということはできない。」と主張している。
(イ)しかしながら、例え接着層が架橋構造によって耐熱性が高まるほど強固に結合していたとしても、「ウレタン樹脂(P1)」が有するウレタン結合が酸又はアルカリにより分解されることにより、接着層の樹脂成分の平均分子量が小さくなって、除去が容易になることは明らかであり、また、上記(4)イのとおり、いかなる当量のものであれ、「ウレタン樹脂(P1)」及び「化合物(B)」が重合性炭素-炭素不飽和結合を含むことにより、これらのうち一方を全く含まない場合と比較して、接着層における架橋構造により耐熱性が高くなり、酸又はアルカリによる分解により除去が容易になることは当業者には十分認識可能なことである。
したがって、上記主張を採用することはできない。
カ 小括
以上のとおりであるから、本件特許発明1は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載された発明である。
(2) 本件特許発明2~8について
本件特許発明2~8は、いずれも、請求項1を直接又は間接的に引用して特定するものであって、本件特許発明1の構成を全て具備するものである。
そうすると、上記(4)ア~エのとおり、本件特許発明1は、本件明細書の発明の詳細な説明に記載された発明である以上、本件特許発明2~8も、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載された発明である。
第5 むすび
したがって、請求項1~8に係る特許は、特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、取り消すことができない。
また、他に請求項1~8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2025-700167