特許異議申立
2023-700235
研磨パッド
- 審判番号
- 2023-700235
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2019-060133
- 登録番号
- 7137503
- 請求日
- 2023年03月01日
- 審決日
- 2024年09月19日
- 公報発行日
- 2025年01月31日
- 結論
- 請求成立(取消)
- 当事者
- 【権利者】富士紡ホールディングス株式会社
- 【権利者代理人】山本 修
- 【権利者代理人】宮前 徹
- 【権利者代理人】松尾 淳一
- 【権利者代理人】松田 豊治
- 【権利者代理人】鈴木 雄太
- 【異議申立人】芳野 理之
- 審判長/審判官
- 審判長 刈間 宏信
- 審判官 田々井 正吾
- 審判官 菊地 牧子
- 分類
- P1651.537-ZDA(B24B) / P1651.536-ZDA(B24B)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法36条4項1号特許法113条4号
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第9項、特許法第36条第4項第1号、特許法第120条の5第2項、特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第1号、特許法第120条の5第4項、特許法第126条第7項、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第1項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7137503号発明「研磨パッド」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7137503号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~4〕、〔5~6〕について訂正することを認める。
特許第7137503号の請求項1~4に係る特許を取り消す。
特許第7137503号の請求項5~6に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7137503号の請求項1~6に係る特許(以下「本件特許」という。)についての出願は、平成31年3月27日に出願され、令和4年9月6日にその特許権の設定登録がされ、令和4年9月14日に特許掲載公報が発行された。本件特許異議の申立ての主な経緯は、次のとおりである。
・令和5年3月1日
特許異議申立人芳野理之(以下「申立人」という。)による請求項1~6に係る特許に対する特許異議の申立て
・令和5年6月27日付け
取消理由を通知
・令和5年8月14~21日
特許権者富士紡ホールディングス株式会社(以下「特許権者」という。)との電話及び電子メールでの応対
・令和5年8月28日
特許権者による訂正請求(以下「本件訂正請求」という。)と意見書の提出
・令和5年11月14日
申立人による意見書の提出
・令和6年1月11日
特許権者との面接審理を実施
・令和6年2月22日付け
取消理由を通知(決定の予告)
・令和6年3月6~7日
特許権者との電話での応対
・令和6年3月22日
特許権者との電話での応対
第2 本件訂正請求による訂正の適否
本件訂正請求による訂正(以下「本件訂正」という。)の適否について検討する。
1 請求の趣旨
本件訂正請求の趣旨は、本件特許の特許請求の範囲を本件訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~6について訂正することを求めるものである。
2 一群の請求項についての説明
(1)請求項1~4
訂正前の請求項1~4について、請求項2~4は、請求項1を直接的又は間接的に引用しているものであって、本件訂正によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。したがって、訂正前の請求項1~4に対応する訂正後の請求項1~4は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
(2)請求項5~6
訂正前の請求項5~6について、請求項6は、請求項5を引用しているものであって、本件訂正によって記載が訂正される請求項5に連動して訂正されるものである。したがって、訂正前の請求項5~6に対応する訂正後の請求項5~6は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
3 独立特許要件
本件特許異議申立てにおいては、本件訂正前の全ての請求項1~6について特許異議申立てがされているので、本件訂正に関して、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の独立特許要件は課されない。
4 請求項1~4に係る訂正
(1)訂正事項
ア 訂正事項1(下線は訂正箇所に付与。以下、第2において同じ。)
(ア)訂正前の請求項1における
「20℃及び40℃における非晶相成分の存在比が50~90%であり、かつ、20℃及び40℃における非晶相成分の緩和時間が200~600μsである」の記載を、
「20℃及び40℃における非晶相成分の存在比がそれぞれ57.6~65.8%及び70.7~80.4%であり、かつ、20℃及び40℃における非晶相成分の緩和時間がそれぞれ261.1~266.4μs及び308.8~369.3μsである」に訂正する。(請求項1を引用する請求項2~4も同様に訂正する。)
(イ)訂正前の請求項1における
「研磨パッド。」の記載を、
「研磨パッドであって、
前記ポリウレタン樹脂が、脂肪族ジカルボン酸と脂肪族ジオールとで構成されるポリエステルジオールと、芳香族ジイソシアネートと、脂肪族ポリオール化合物からなる鎖延長剤とに由来する構造単位を含むポリエステル系ポリウレタン樹脂であり、
前記ポリエステルジオールを構成する脂肪族ジオールが炭素数2以上3以下の脂肪族ジオールを含む、又は、前記芳香族ジイソシアネートがトルエンジイソシアネート(TDI)を含む、前記研磨パッド。」に訂正する。(請求項1を引用する請求項2~4も同様に訂正する。)
イ 訂正事項2
訂正前の請求項2における
「前記パルスNMR測定において、40℃における前記界面相成分の存在比が10%以下である」の記載を、
「前記パルスNMR測定において、40℃における前記界面相成分の存在比が9.8%以下である」に訂正する。(請求項2を引用する請求項3~4も同様に訂正する。)
(2)一群の請求項の訂正であること
訂正事項1~2は、上記2(1)の一群の請求項である請求項1~4を訂正するものである。
(3)訂正要件の検討
ア 訂正事項1
(ア)訂正の目的
訂正事項1の上記(1)ア(ア)の訂正は、「20℃及び40℃における非晶相成分の存在比」について、訂正前の「50~90%」の数値範囲を「57.6~65.8%及び70.7~80.4%」に縮小し、「20℃及び40℃における非晶相成分の緩和時間」について、訂正前の「200~600μs」の数値範囲を「261.1~266.4μs及び308.8~369.3μs」に縮小するものである。
訂正事項1の上記(1)ア(イ)の訂正は、訂正前の「研磨パッド」が研磨層として有するポリウレタン樹脂がポリエステル系ポリウレタン樹脂であること、及びその成分に関する事項を限定するものである。
したがって、訂正事項1の上記(1)ア(ア)~(イ)の訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
(イ)実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
訂正事項1の訂正は、上記(ア)のとおり数値範囲の縮小とポリウレタン樹脂の成分に関する事項を限定するものであり、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しないから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合するものである。
(ウ)願書に添付した明細書、特許請求の範囲、又は図面(以下「本件明細書等」という。)に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項1の上記(1)ア(ア)における「20℃及び40℃における非晶相成分の存在比」の「57.6~65.8%及び70.7~80.4%」の数値範囲、及び「20℃及び40℃における非晶相成分の緩和時間」の「261.1~266.4μs及び308.8~369.3μs」の数値範囲は、上限値及び下限値が、いずれも本件明細書の段落【0054】~【0055】に記載された「実施例1」、及び「実施例2」に対して行われたパルスNMR測定の結果として段落【0064】(表2)に記載された数値であって、上記数値範囲はこれらの数値から導き出されるものである。
そして、訂正事項1の(1)ア(イ)における「研磨パッド」が研磨層として有するポリウレタン樹脂がポリエステル系ポリウレタン樹脂であること、及びその成分に関する事項は、「実施例1」、及び「実施例2」に関する本件明細書の段落【0054】~【0055】の記載から導き出されるものである。
したがって、訂正事項1の訂正は、本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であり、訂正事項1は特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合するものである。
イ 訂正事項2
(ア)訂正の目的
訂正事項2は、「40℃における前記界面相成分の存在比」について、訂正前の「10%以下」の数値範囲を、「9.8%以下」と縮小するものである。
したがって、訂正事項2の訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
(イ)実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
訂正事項2の訂正は、上記(ア)のとおり、数値範囲を縮小するものであり、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しないから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合するものである。
(ウ)本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項2における「40℃における前記界面相成分の存在比」の「9.8%以下」の数値範囲は、上限値が本件明細書の段落【0054】~【0055】に記載された「実施例2」に対して行われたパルスNMR測定の結果として段落【0064】(表2)に記載された数値であって、上記数値範囲はこの数値から導き出されるものである。
したがって、訂正事項2の訂正は、本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合するものである。
5 請求項5~6に係る訂正
(1)訂正事項
ア 訂正事項3
訂正前の請求項5における
「20℃及び40℃における非晶相成分の存在比が50~90%であり、かつ、20℃及び40℃における非晶相成分の緩和時間が200~600μsであるか否か」の記載を、
「20℃及び40℃における非晶相成分の存在比がそれぞれ57.6~65.8%及び70.7~80.4%であり、かつ、20℃及び40℃における非晶相成分の緩和時間がそれぞれ261.1~266.4μs及び308.8~369.3μsであるか否か」に訂正する。(請求項5を引用する請求項6も同様に訂正する。)
イ 訂正事項4
訂正前の請求項6における
「前記パルスNMR測定において、40℃における前記界面相成分の存在比が10%以下であるか否か」の記載を、
「前記パルスNMR測定において、40℃における前記界面相成分の存在比が9.8%以下であるか否か」に訂正する。
(2)一群の請求項の訂正であること
訂正事項3~4は、上記2(2)の一群の請求項である請求項5~6を訂正するものである。
(3)訂正要件の検討
ア 訂正事項3
訂正事項3は研磨パッドの評価方法の発明に係る請求項5を、訂正事項1は研磨パッドの発明に係る請求項1を、それぞれ訂正するものであるが、訂正事項3は、パルスNMRで測定した結果に関する事項について、訂正事項1の上記4(1)ア(ア)と同じ内容の訂正を行うものである。
よって、訂正事項3の訂正は、訂正事項1と同様に、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではなく、本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であるから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項、及び第5項の規定に適合するものである。
イ 訂正事項4
訂正事項4は研磨パッドの評価方法の発明に係る請求項6を、訂正事項2は研磨パッドの発明に係る請求項2を、それぞれ訂正するものであるが、訂正事項4は、パルスNMRで測定した結果に関する事項について、訂正事項2と同じ内容の訂正を行うものである。
よって、訂正事項4の訂正は、訂正事項2と同様に、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではなく、本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であるから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項、及び第5項の規定に適合するものである。
6 小括
以上のとおりであるから、本件訂正は、いずれも特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、同法同条第9項で準用する同法第126条第5~6項の規定に適合するものである。
したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~4〕、〔5~6〕について訂正することを認める。
第3 本件特許発明
上記第2のとおり、本件訂正は認められたから、本件特許の請求項1~6に係る発明(以下、請求項1の特許に係る発明を「本件特許発明1」、他の請求項○に係る発明を同様に「本件特許発明○」といい、まとめて「本件特許発明」ということがある。)は、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲の請求項1~6に記載した以下の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
ポリウレタン樹脂を研磨層として有し、パルスNMRで得られる自由誘導減衰信号(FID)を最小二乗法によってスピン-スピン緩和時間T2の長い成分から順に差し引き、波形分離することにより、スピン-スピン緩和時間T2の長い方から順に当該ポリウレタン樹脂の非晶相、界面相、結晶相の3成分に分けた場合において、20℃及び40℃における非晶相成分の存在比がそれぞれ57.6~65.8%及び70.7~80.4%であり、かつ、20℃及び40℃における非晶相成分の緩和時間がそれぞれ261.1~266.4μs及び308.8~369.3μsであることを特徴とする研磨パッドであって、
前記ポリウレタン樹脂が、脂肪族ジカルボン酸と脂肪族ジオールとで構成されるポリエステルジオールと、芳香族ジイソシアネートと、脂肪族ポリオール化合物からなる鎖延長剤とに由来する構造単位を含むポリエステル系ポリウレタン樹脂であり、
前記ポリエステルジオールを構成する脂肪族ジオールが炭素数2以上3以下の脂肪族ジオールを含む、又は、前記芳香族ジイソシアネートがトルエンジイソシアネート(TDI)を含む、前記研磨パッド。
【請求項2】
前記パルスNMR測定において、40℃における前記界面相成分の存在比が9.8%以下である、請求項1に記載の研磨パッド。
【請求項3】
光学材料又は半導体材料の表面を研磨する方法であって、請求項1又は2に記載の研磨パッドを使用することを特徴とする方法。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の研磨パッドの製造方法であって、湿式成膜法を使用することを特徴とする方法。
【請求項5】
ポリウレタン樹脂を研磨層として有する研磨パッドの評価方法であって、パルスNMRで得られる自由誘導減衰信号(FID)を最小二乗法によってスピン-スピン緩和時間T2の長い成分から順に差し引き、波形分離することにより、スピン-スピン緩和時間T2の長い方から順に当該ポリウレタン樹脂の非晶相、界面相、結晶相の3成分に分けた場合において、20℃及び40℃における非晶相成分の存在比がそれぞれ57.6~65.8%及び70.7~80.4%であり、かつ、20℃及び40℃における非晶相成分の緩和時間がそれぞれ261.1~266.4μs及び308.8~369.3μsであるか否かを確認する工程を含むことを特徴とする研磨パッドの評価方法。
【請求項6】
前記パルスNMR測定において、40℃における前記界面相成分の存在比が9.8%以下であるか否かをさらに確認する、請求項5に記載の研磨パッドの評価方法。」
第4 特許権者に通知した取消理由について
1 令和5年6月27日付け取消理由通知の概要
当審が令和5年6月27日付けで、特許権者に通知した取消理由の概要は、次のとおりであった。
(1)(実施可能要件)本件訂正前の請求項1~4に係る特許は、発明の詳細な説明の記載が不備のため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
(2)(サポート要件)本件訂正前の請求項1~6に係る特許は、特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
2 令和6年2月22日付け取消理由通知(決定の予告)について
上記1の取消理由通知に対して、上記第2のとおり本件訂正請求がされた請求項1~4について、上記1(1)の実施可能要件のみについて、理由が解消していない旨の取消理由を再度通知した。
3 取消理由の検討
(1)サポート要件について
まず、上記1(2)のサポート要件について検討すると、本件訂正請求に係る訂正により、特許請求の範囲の請求項1~6に記載した非晶相成分の存在比と緩和時間、及び界面相成分の存在比が、発明の詳細な説明において本件の課題を解決する発明として記載された実施例1~2に対応した値となったため、請求項1~6に係る発明は、発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものとはいえない。
したがって、上記1(2)のサポート要件に係る取消理由により、本件請求項1~6に係る特許を取り消すことはできない。
(2)実施可能要件について
次に、上記1(1)の実施可能要件について検討すると、上記2の決定の予告のとおり、本件訂正請求による訂正、及び同時に提出された特許権者の意見書による主張の内容を検討しても、どのようにして実施例1~2に係る研磨パッドを再現して製造するかを依然として把握することができない。
すなわち、本件の発明の詳細な説明の段落【0054】~【0055】の記載からは、研磨パッドの非晶相成分、界面相成分、及び結晶相成分の存在比及び緩和時間を決めるハードセグメントとソフトセグメントの由来となる各化合物の配合量や配合比をどのように調整するかを具体的に把握できず、当業者に期待し得る程度の試行錯誤で、実施例1~2を作れるように記載しているとはいえないものであるから、本件請求項1~4に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件(実施可能要件)を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
なお、上記2の取消理由(決定の予告)に対して、特許権者は、指定した期間内に意見書の提出、及び訂正請求のいずれも行わなかった。
第5 取消理由通知(決定の予告)において採用しなかった特許異議申立理由について
1 特許異議申立理由で引用された甲号証(以下、甲第○号証を「甲○」という。)
(1)甲1:特許第5733497号公報
(2)甲2:特開2010-240777号公報
(3)甲3:特開2010-82719号公報
(4)甲4:特開2006-235585号公報
(5)甲5:特開2010-85630号公報
(6)甲6:特開2020-157431号公報
(7)甲7:特開2020-157432号公報
(8)甲8:特開2020-157435号公報
2 特許異議申立理由の概要
申立人が主張する特許異議申立理由の概要は、次のとおりである。
(1)特許法第29条第1項第3号(新規性)に係る理由
本件訂正前の請求項1~4に係る発明は、甲1に記載された発明であるから、本件訂正前の請求項1~4に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
(2)特許法第29条第2項(進歩性)に係る理由
本件訂正前の請求項1~4に係る発明は、甲1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
本件訂正前の請求項5~6に係る発明は、甲2に記載された発明、甲1記載事項及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
したがって、本件訂正前の請求項1~6に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
(3)特許法第36条第4項第1号(実施可能要件)に係る理由
本件訂正前の請求項1~6に係る特許は、明細書の記載が不備のため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
(4)特許法第36条第6項第1号(サポート要件)に係る理由
本件訂正前の請求項1~6に係る特許は、特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
3 取消理由通知で採用しなかった特許異議申立理由について
(1)特許異議申立理由の整理
上記第4に示すとおり、本件請求項1~4に係る特許は、取り消されるべきものであるから、本件請求項1~4に係る特許についての他の特許異議申立理由は、検討するまでもない。
また、上記2(4)のサポート要件に係る特許異議申立理由は、上記第4の3(1)で検討したサポート要件の取消理由と同趣旨のものである。
したがって、以下では、本件請求項5~6に対する上記2(2)の進歩性及び上記2(3)の実施可能要件の特許異議申立理由を検討する。
(2)本件特許発明5~6に係る特許に対する特許法第29条第2項(進歩性)違反の申立理由について
ア 甲2について
(ア)甲2の記載事項(下線は当審で付した。)
「【技術分野】
【0001】
本発明は、研磨パッドに関し、更に詳しくは、シリコンウェハなどの半導体ウェハの研磨に好適なポリウレタン系の研磨パッドに関する。
・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
近年、シリコンウェハ等の被研磨物の平坦度の要求が益々厳しくなっており、かかる平坦度を向上させるには、高硬度の研磨パッドを用いるのが有効である。
【0008】
研磨パッドでは、研磨工程に先立って、あるいは、研磨工程中に、ダイヤモンドドレッサーによって、その表面のドレッシングを行なうのであるが、高硬度の研磨パッドを使用すると、硬いために、ドレスがかかりにくく、ドッシングに長時間を要し、あるいは、局所的にドレッシングされてむらが生じ、研磨レートが安定しないといった難点がある。
【0009】
本発明は、上述のような点に鑑みて為されたものであって、高硬度であって、しかも、ドレス性が良好な研磨パッドを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の研磨パッドは、ハードセグメントとソフトセグメントとを含む発泡ポリウレタンからなる研磨層を有する研磨パッドであって、パルスNMR測定による前記発泡ポリウレタン中の前記ハードセグメントの存在比が、55%以上70%以下である。
・・・
【0014】
本発明の研磨パッドでは、発泡ポリウレタン中のハードセグメントの存在比を、55%以上70%以下と高くしているので、発泡ポリウレタンの硬度を高く維持したままで、モジュラスを低減させることができ、これは、発泡ポリウレタンの伸び率が低下し、引っ張り破断しやすくなることを意味し、発泡ポリウレタンの磨耗量を増やすことができることを意味する。
【0015】
したがって、本発明の研磨パッドによると、高硬度を維持しながら、ドレッシングの際の当該研磨パッドの単位時間当たりの磨耗量、すなわち、カットレートを増やしてドレス性を高めることが可能となり、これによって、ドレッシングに長時間を要することなく、また、ドレッシングが局所的に行われてむらが生じることがなく、研磨レートが安定する。
・・・
【実施例】
・・・
【0040】
各種特性を評価するために、表1に示す配合で、実施例1,2および従来例の発泡ポリウレタンの成型品を製造した。・・・
・・・
【0050】
実施例1,2は、従来例に比べて研磨レートが向上しており、また、従来例では、研磨レートのばらつきが大きいことが分かる。
【0051】
以上のように実施例では、従来例に比べてカットレートが高く、ドレス性が向上するので、従来例のように局所的にドレッシングされることなく、全面に均一にドレッシングされ、これによって、研磨レートが安定する。
【0052】
また、実施例1,2および従来例の研磨パッドについては、パルスNMR(核磁気共鳴)測定法を用いて、次の条件でハードセグメントの存在比を求めた。
【0053】
測定方法:パルスNMR測定によりSolid Echo法
測定装置:JEOL社製 JNM-MU25
測定条件:
1H90 Pulse:3.5μs
繰り返し時間:4s
積算回数:16回
測定温度:室温(24℃)、40℃
24℃および40℃の測定よって求めたハードセグメント、ソフトセグメントおよび中間層の存在比(%)並びに緩和時間T2(μs)を、表2および表3にそれぞれ示す。
【0054】
【表2】
[図:0001418190000001.jpg]
【0055】
【表3】
[図:0001418190000002.jpg]
」
(イ)甲2の記載事項の整理
段落【0001】、【0010】、【0052】~【0054】の記載からみて、甲2には、ポリウレタン樹脂を含む研磨層を有する研磨パッドのハードセグメント、ソフトセグメント、及び中間層の存在比を測定する方法について、記載されている。
そして、段落【0052】~【0054】の記載からみて、甲2の実施例においては、パルスNMR(核磁気共鳴)測定法を用いた24℃における測定によって、研磨パッドの研磨層のソフトセグメントの存在比が3.2%(表2における実施例1)、1.6%(同実施例2)であり、40℃におけるソフトセグメントの存在比が2.9%(表3における実施例1)、2.1%(同実施例2)であることが、記載されている。
また、段落【0052】~【0054】の記載からみて、甲2の実施例においては、パルスNMR(核磁気共鳴)測定法を用いた24℃における測定によって、研磨パッドの研磨層のソフトセグメントの緩和時間が1671μs(表2における実施例1)、2312μs(同実施例2)であり、40℃におけるソフトセグメントの緩和時間が2288μs(表3における実施例1)、1467μs(同実施例2)であること、が記載されている。
(ウ)甲2発明
上記(ア)及び(イ)より甲2には次の発明(以下「甲2発明」という。)が記載されている。
「ポリウレタン樹脂を研磨層として有する研磨パッドのハードセグメント、ソフトセグメント、及び中間層の存在比を測定する方法であって、パルスNMR(核磁気共鳴)測定法を用いて、24℃及び40℃におけるソフトセグメントの存在比がそれぞれ3.2%(24℃における実施例1)、1.6%(同実施例2)、2.9%(40℃における実施例1)、2.1%(同実施例2)であり、24℃及び40℃におけるソフトセグメントの緩和時間がそれぞれ1671μs(24℃における実施例1)、2312μs(同実施例2)、2288μs(40℃における実施例1)、1467μs(同実施例2)であることを測定する方法。」
イ 本件特許発明5と甲2発明の対比
甲2発明における「パルスNMR(核磁気共鳴)測定法」は本件特許発明5における「パルスNMR」と同じ測定法である。そして、甲2発明の「ハードセグメント」、「ソフトセグメント」、及び「中間層」は、本件特許発明5の「結晶相」、「非晶相」、及び「界面相」にそれぞれ相当し、甲2発明の「存在比」は本件特許発明5の「存在比」に相当する。
また、甲2発明は、ポリウレタン樹脂を含む研磨層を有する研磨パッドのハードセグメント、ソフトセグメント、及び中間層の存在比を測定するのに、本件特許発明5と同じパルスNMRの測定法を用いているから、甲2発明において「パルスNMR(核磁気共鳴)測定法を用い」ることは、本件特許発明5において「パルスNMRで得られる自由誘導減衰信号(FID)を最小二乗法によってスピン-スピン緩和時間T2の長い成分から順に差し引き、波形分離することにより、スピン-スピン緩和時間T2の長い方から順にポリウレタン樹脂の非晶相、界面相、結晶相の3成分に分け」ることに相当する。そして、甲2発明において「測定する」ことは、本件特許発明5において「ポリウレタン樹脂を研磨層として有する研磨パッドの評価」をすることに相当する。
ウ 本件特許発明5と甲2発明の一致点及び相違点
上記ア~イより、本件特許発明5と甲2発明は、以下の一致点で一致し、相違点で相違する。
<一致点>
両発明は、
「ポリウレタン樹脂を研磨層として有する研磨パッドの評価方法であって、パルスNMRで得られる自由誘導減衰信号(FID)を最小二乗法によってスピン-スピン緩和時間T2の長い成分から順に差し引き、波形分離することにより、スピン-スピン緩和時間T2の長い方から順に当該ポリウレタン樹脂の非晶相、界面相、結晶相の3成分に分けることで、非晶相成分の存在比と非晶相成分の緩和時間を確認する工程を含む、前記評価方法。」
である点。
<相違点>
評価方法において、本件特許発明5においては、「20℃及び40℃における非晶相成分の存在比がそれぞれ57.6~65.8%及び70.7~80.4%であり、かつ、20℃及び40℃における非晶相成分の緩和時間がそれぞれ261.1~266.4μs及び308.8~369.3μsであるか否か」を確認するのに対して、甲2発明においては、24℃及び40℃における非晶相成分の存在比が3.2%(24℃における実施例1)、1.6%(同実施例2)、2.9%(40℃における実施例1)、2.1%(同実施例2)であり、かつ、24℃及び40℃における非晶相成分の緩和時間が1671μs(24℃における実施例1)、2312μs(同実施例2)、2288μs(40℃における実施例1)、1467μs(同実施例2)であることを確認する点。
エ 相違点の検討
本件特許発明5は、本件の明細書の段落【0006】に記載のとおり、「研磨レート向上とスクラッチ抑制の両立が可能な研磨パッドを提供すること」を課題とし、また、段落【0016】~【0017】には以下の記載がある。
「【0016】
(作用)
ウレタンシートは、ポリウレタン樹脂のハードセグメントで形成される結晶相と、ソフトセグメントで形成される非晶相と、結晶相および非晶相の間の界面相とを有している。すなわち、ウレタンシートは結晶相および非晶相で形成される相分離構造を有している。ハードセグメントでは、ウレタン結合間に形成される水素結合により分子間凝集力が強くなり、高結晶性となるため、上述したように結晶相を形成する。これに対して、ソフトセグメントでは、水素結合が形成されにくく分子間凝集力が弱くなり、低結晶性のため、非晶相を形成する。また、結晶相では分子間凝集力が強くなることで分子の運動性が小さくなり、非晶相では分子間凝集力が弱くなることで分子の運動性が大きくなる。結晶相と非晶相との中間に形成される界面相は、結晶相、非晶相のいずれとも異なり、結晶相および非晶相の相分離構造を乱すように形成される。
【0017】
本発明では、20℃及び40℃において非晶相成分の存在比が50~90%であり、半分以上が非晶相領域を占め、且つ、その緩和時間が200~600μsの範囲にある。非晶相領域が半分以上を占めるため、ソフトセグメントの割合が高く、スクラッチが抑制される。一方、緩和時間は分子の運動性を表すため、本発明ではソフトセグメントの分子運動性が比較的低い。このため、ソフトセグメントの弾性を向上させることができ、研磨レートを向上させることができる。20℃及び40℃における非晶相成分の存在比は55~85%であることが好ましい。また、20℃及び40℃における非晶相成分の緩和時間は250~500μsであることが好ましい。」
上記段落【0016】~【0017】の記載からみて、本件特許発明5は、上記課題を解決するための技術的手段として、20℃及び40℃において非晶相成分の存在比を高くして、非晶相領域が半分以上を占めるようにして、ソフトセグメントの割合を高くし、スクラッチを抑制する一方で、緩和時間を短くして、ソフトセグメントの分子運動性を比較的低くすることで、ソフトセグメントの弾性を向上させて、研磨レートを向上させることが欠かせない要素であることから、20℃及び40℃における非晶相成分の存在比をそれぞれ57.6~65.8%及び70.7~80.4%とし、かつ、20℃及び40℃における非晶相成分の緩和時間をそれぞれ261.1~266.4μs及び308.8~369.3μsとしていることが理解される。
これに対して甲2発明は、「高硬度であって、しかも、ドレス性が良好な研磨パッドを提供すること」を課題とし(甲2の段落【0009】)、実施例1~2の24℃及び40℃におけるハードセグメントの成分の含有割合を50%以上に高めたことに伴い、24℃及び40℃における非晶相(ソフトセグメント)成分の存在比が3.2%(24℃における実施例1)、1.6%(24℃における実施例2)、2.9%(40℃における実施例1)、2.1%(40℃における実施例2)と本件特許発明5と比較して著しく小さな値となっている。
また、甲2発明の24℃及び40℃における非晶相成分の緩和時間は、1671μs(24℃における実施例1)、2312μs(24℃における実施例2)、2288μs(40℃における実施例1)、1467μs(40℃における実施例2)であり、本件特許発明5と比較して著しく長い時間となっている。
そうすると、評価方法の発明としてみたときに、両発明は、方法を使用する対象である研磨パッドに関して、研磨レートを改善させる点で共通するとしても、甲2発明は硬度が高くソフトセグメントの運動性が高いか否かを評価するのに対して、本件特許発明5は研磨パッドの硬度が低く(スクラッチが抑制でき)ソフトセグメントの運動性が低い(弾性が高い)か否かを評価するものであって、両発明の評価の観点は相互に反するものといわざるを得ない。
そして、両発明の評価の観点が相互に反する以上、甲2の記載に接した当業者が、本件特許発明5のように「研磨レート向上とスクラッチ抑制の両立が可能な」研磨パッドを評価するために、上記相違点に係る本件特許発明5の非晶相成分の存在比と非晶相成分の緩和時間の数値を選択する動機があるとはいえない。
さらに、他の甲1、3~8についてみても、「研磨レート向上とスクラッチ抑制の両立が可能な」研磨パッドを評価するために、上記相違点に係る非晶相成分の存在比と非晶相成分の緩和時間とすることが記載あるいは示唆されているものではない。
よって、甲1、3~8は、いずれも上記相違点に係る本件特許発明5の構成について記載あるいは示唆するものではなく、甲2発明に甲1、3~8記載の技術的事項を適用して、本件特許発明5に容易に想到し得たものとはいえない。
したがって、本件特許発明5は、甲2発明に基づいて、又は甲2発明、及び甲1、3~8記載の技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
オ 本件特許発明6
本件特許発明6は、本件特許発明5に対して、さらに技術的事項を追加したものである。
したがって、本件特許発明6は、本件特許発明5と同様に、甲2発明に基づいて、又は甲2発明、及び甲1、3~8記載の技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
カ 小括
したがって、取消理由通知において採用しなかった特許法第29条第2項(進歩性)に係る特許異議申立理由により、本件請求項5~6に係る特許を取り消すことはできない。
(3)本件請求項5~6に係る特許に対する特許法第36条第4項第1号((実施可能要件)の申立理由について
ア 理由の要旨
特許異議申立書に記載された上記2(3)の申立理由は、本件の発明の詳細な説明には、物の発明(研磨パッド)に関し、請求項に記載した数値範囲を満たす研磨パッドを作ることができるように記載されていないことを要旨とする(特許異議申立書第72~100ページ)。
イ 理由に対する判断
しかしながら、本件請求項5~6に係る発明は、物の発明や製造方法の発明ではなく、研磨パッドの評価方法の発明であって、パルスNMRを用いた解析で得られる数値が特定の範囲であるか否かを確認する工程を含むものであるから、請求項5~6に係る発明に関する実施可能要件は、研磨パッドを作ることができるように記載することを課すものではない。そして、パルスNMRを用いた解析については、発明の詳細な説明の段落【0061】~【0063】において十分に開示されているから、当業者が請求項5~6に係る評価方法を過度の試行錯誤を要することなく実施できるといえる。
したがって、本件請求項5~6に係る特許は、発明の詳細な説明の記載が、実施可能要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえない。
ウ 小括
よって、取消理由通知において採用しなかった特許法第36条第4項第1号(実施可能要件)に係る特許異議申立理由により、本件請求項5~6に係る特許を取り消すことはできない。
第6 むすび
したがって、上記第4のとおり、本件請求項1~4に係る特許は、発明の詳細な説明の記載が不備のため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件(実施可能要件)を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
そして、本件請求項5~6に係る特許については、通知した取消理由、又は特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては取り消すことができない。
さらに、他に本件請求項5~6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2023-700235