特許異議申立
2023-700462
保持パッド
- 審判番号
- 2023-700462
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2019-062221
- 登録番号
- 7181140
- 請求日
- 2023年05月02日
- 審決日
- 2024年02月28日
- 公報発行日
- 2024年05月31日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】富士紡ホールディングス株式会社
- 【権利者代理人】稲葉 良幸
- 【権利者代理人】赤堀 龍吾
- 【権利者代理人】北澤 誠
- 【異議申立人】芳野 理之
- 審判長/審判官
- 審判長 刈間 宏信
- 審判官 鈴木 貴雄
- 審判官 田々井 正吾
- 分類
- P1651.537-YAA(B24B) / P1651.536-YAA(B24B) / P1651.121-YAA(B24B)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法120条の8第1項特許法135条
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第2項、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第4項第1号、特許法第120条の5第5項、特許法第120条の5第4項、特許法第29条第2項、特許法第120条の8第1項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7181140号発明「保持パッド」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7181140号の特許請求の範囲を、令和5年12月4日に提出の訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~5〕について訂正することを認める。
特許第7181140号の請求項1に係る特許を維持する。
特許第7181140号の請求項2~5に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
1 特許掲載公報の発行までの経緯
特許第7181140号(以下「本件特許」という。)の請求項1~5に係る特許についての出願は、平成31年3月28日の出願であって、令和4年11月21日にその特許権の設定登録がされ、令和4年11月30日に特許掲載公報が発行された。
2 特許異議の申立ての経緯
本件特許異議の申立ての審理の経緯は、次のとおりである。
(1)令和5年 5月 2日
特許異議申立人 芳野 理之(以下「申立人」という。)による、本件特許の請求項1~5に係る特許に対する特許異議の申立て(申立てのために提出された特許異議申立書を、以下単に「申立書」という。)
(2)令和5年10月 4日付け
特許の取消しの理由の通知(送付された取消理由通知書を、以下単に「取消理由通知」という。)
(3)令和5年11月24~29日(同月29日付け応対記録)
特許権者 富士紡ホールディングス株式会社(以下単に「特許権者」という。)代理人と当審との電話及び電子メールによる応対
(4)令和5年12月4日
特許権者による、意見書の提出、及び、訂正の請求(請求のために提出された訂正請求書を、以下単に「訂正請求書」という。また、請求された訂正を、以下単に「本件訂正」という。)
(5)令和5年12月19日付け
訂正請求があった旨の通知(特許法第120条の5第5項)
なお、期間を指定して意見書を提出する機会を与えたが、申立人は応答しなかった。
第2 本件訂正
1 本件訂正の内容について
特許権者は、訂正請求書において、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~5について訂正することを求めているところ、本件訂正の内容は、以下のとおりである(訂正箇所に下線を付して示す。)。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に
「三次元表面粗さ解析により得られる、前記保持面の突出谷部とコア部を分離する負荷面積率Smr2が、80%以上95%以下である、保持パッド。」
と記載されているのを、
「三次元表面粗さ解析により得られる、前記保持面の突出谷部とコア部を分離する負荷面積率Smr2が、89.5%以上90.1%以下であり、
前記樹脂シートの厚みが、0.82以上0.83以下であり、
前記樹脂シートのショアA硬度が、10.9以上11.2以下であり、
前記樹脂シートの圧縮率が、49.6以上50.5以下であり、
前記樹脂シートの圧縮弾性率が、94.6%以上96.0%以下であり、
前記樹脂シートが、ポリエステル系ポリウレタン樹脂を含む、保持パッド。」
に訂正する。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2を削除する。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3を削除する。
(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項4を削除する。
(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項5を削除する。
2 一群の請求項について
本件訂正前の請求項1~5は、請求項2~5が本件訂正前の請求項1の記載を引用する関係にあって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である請求項〔1~5〕について請求されたものである。
3 独立特許要件について
本件特許異議の申立ては、訂正前の請求項1~5に対してされているので、本件訂正においては、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項に規定する独立特許要件は課されない。
4 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び、特許請求の範囲の拡張・変更の存否について
(1)訂正事項1
ア 訂正の目的の適否
訂正事項1は、特許請求の範囲の請求項1について、保持面の「負荷面積率Smr2」の数値範囲を「89.5%以上90.1%以下」に限定するとともに、樹脂シートの「厚み」が「0.82以上0.83以下」であり、「ショアA硬度」が「10.9以上11.2以下」であり、「圧縮率」が「49.6以上50.5以下」であり、「圧縮弾性率」が「94.6%以上96.0%以下」であること、及び、樹脂シートが「ポリエステル系ポリウレタン樹脂を含む」ことを追加して限定するものである。
したがって、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
イ 新規事項の有無
本件特許の明細書の段落【0048】~【0062】には、本件特許の実施例1及び実施例2に係る保持パッドが記載されるところ、訂正事項1のうち、樹脂シートが「ポリエステル系ポリウレタン樹脂を含む」ことについては、段落【0048】~【0049】に、実施例1及び実施例2に係る保持パッドの、マトリックス樹脂となる原料樹脂がポリエステル系ポリウレタン樹脂であることが記載される。また、訂正事項のうち、樹脂シートの「負荷面積率Smr2」、「厚み」、「ショアA硬度」、「圧縮率」及び「圧縮弾性率」の各数値の上限値及び下限値については、段落【0061】の【表1】に、実施例1及び実施例2のそれぞれの値として記載されている。
したがって、訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「本件明細書等」という。)に記載された事項の範囲内で行われたものであるから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項に適合するものである。
ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項1は、上記アのとおり、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1を減縮するものであって、カテゴリーや対象、目的を変更するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合するものである。
(2)訂正事項2~5
ア 訂正の目的の適否
訂正事項2~5は、特許請求の範囲の請求項2~5を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
イ 新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項2~5は、特許請求の範囲の請求項2~5を削除するものであって、本件明細書等に記載された事項の範囲内で行われたものであり、また、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項に適合するものである。
5 小括
上記4(1)及び(2)のとおり、訂正事項1~5に係る本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、本件訂正後の請求項〔1~5〕について訂正することを認める。
第3 本件発明
上記第2のとおりであるから、本件特許の請求項1~5に係る発明(以下「本件発明1」等といい、また、総称して「本件発明」ともいう。)は、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1~5に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
被研磨物を保持するための保持面を有する樹脂シートを備える、保持パッドであって、
三次元表面粗さ解析により得られる、前記保持面の突出谷部とコア部を分離する負荷面積率Smr2が、89.5%以上90.1%以下であり、
前記樹脂シートの厚みが、0.82以上0.83以下であり、
前記樹脂シートのショアA硬度が、10.9以上11.2以下であり、
前記樹脂シートの圧縮率が、49.6以上50.5以下であり、
前記樹脂シートの圧縮弾性率が、94.6%以上96.0%以下であり、
前記樹脂シートが、ポリエステル系ポリウレタン樹脂を含む、保持パッド。
【請求項2】
(削除)
【請求項3】
(削除)
【請求項4】
(削除)
【請求項5】
(削除)」
第4 取消理由通知における取消しの理由の概要
本件訂正前の請求項1~5に係る本件特許に対し、当審合議体による取消理由通知における取消しの理由の概要は、以下のとおりである。
<取消理由:サポート要件>
本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記1~3のとおり不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
1 本件訂正前の請求項1について
(1)請求項1において、「保持面の突出谷部とコア部を分離する負荷面積率Smr2が、80%以上95%以下である」と発明を特定している。
しかしながら、発明の詳細な説明においては、保持面の負荷面積率Smr2が90.1%の実施例1と、保持面の負荷面積率Smr2が89.5%の実施例2が記載されるのみであって、例えば、保持面の負荷面積率Smr2が80%や95%である場合を含む、請求項1に特定される全ての数値範囲において、ガラス基板の平坦度及び剥がれ状況が良好であるとの作用効果を奏するのか、出願時の技術常識に照らしても不明であり、当該数値範囲にまで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。
(2)請求項1において、保持面の「負荷面積率Smr2」の数値範囲のみを特定しているものの、当該数値範囲であれば、保持面を有する樹脂シートの材質や物性が如何なる場合であっても、ガラス基板の平坦度及び剥がれ状況が良好な保持パッドになる、とまではいえない。
発明の詳細な説明においては、ガラス基板の平坦度及び剥がれ状況が良好である実施の形態として、実施例1及び2が示されるのみであり、保持面の「負荷面積率Smr2」が「89.5%以上90.1%以下」であるのみならず、材質がポリエステル系ポリウレタン樹脂であり、かつ物性(厚み、ショアA硬度、圧縮率、及び、圧縮弾性率)が【表1】の数値を全て満たす場合に、上記(1)の作用効果を奏するといえ、出願時の技術常識に照らしても、請求項1に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。
2 本件訂正前の請求項2~5について
請求項2~5についても、上記1(1)~(2)と同様の理由により、出願時の技術常識に照らしても、請求項2~5に係る発明の範囲まで発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。
3 小括
したがって、本件訂正前の請求項1~5に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものでない。
第5 本件特許に対する当審合議体の判断
当審合議体は、以下のとおり、請求項1(本件訂正後の請求項1)に係る本件特許は、取消理由通知に示した取消理由によっては、取り消すことはできないと判断する。
1 請求項1について
(1)上記第4の1(1)について
本件訂正により、本件発明1は、
「三次元表面粗さ解析により得られる、前記保持面の突出谷部とコア部を分離する負荷面積率Smr2が、89.5%以上90.1%以下であり、」
と特定されたから、発明の詳細な説明に記載したものであり、上記第4の1(1)の作用効果を奏するといえる。
(2)上記第4の2(2)について
本件訂正により、本件発明1は、
「前記樹脂シートの厚みが、0.82以上0.83以下であり、
前記樹脂シートのショアA硬度が、10.9以上11.2以下であり、
前記樹脂シートの圧縮率が、49.6以上50.5以下であり、
前記樹脂シートの圧縮弾性率が、94.6%以上96.0%以下であり、
前記樹脂シートが、ポリエステル系ポリウレタン樹脂を含む、」
と特定されたから、発明の詳細な説明に記載したものであり、上記第4の1(1)の作用効果を奏するといえる。
2 本件訂正後の請求項2~5について
本件訂正により、請求項2~5は削除された。
3 小括
したがって、本件訂正により、特許請求の範囲の記載の不備は解消されたから、本件特許は、取消理由通知に示した取消理由によっては、取り消すことはできない。
第6 取消理由通知にて採用しなかった申立ての理由について
1 申立書に記載の申立ての理由の概要
(1)申立ての理由1(進歩性、申立書2~3、9~25ページ)
本件特許の本件訂正前の請求項1~5に係る発明は、甲第1号証に記載された発明又は甲第2号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件訂正前の請求項1~5に係る本件特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
<証拠方法>
甲第1号証:特開2011-212784号公報
甲第2号証:特開2013-107137号公報
(以下単に「甲1」及び「甲2」という。)
(2)申立ての理由2(実施可能要件、申立書4、25~28ページ)
本件特許の発明の詳細な説明は、当業者が本件訂正前の請求項1~5に係る発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものでないから、本件訂正前の請求項1~5に係る本件特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
(3)申立ての理由3(サポート要件、申立書4、28~35ページ)
本件特許の出願時の技術常識に照らしても、本件訂正前の請求項1~5に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえず、本件訂正前の請求項1~5に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものでないから、本件訂正前の請求項1~5に係る本件特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
2 本件発明1に対する申立人の意見
本件訂正に対し、当審より訂正請求があった旨の通知(上記第1の2(5))をし、期間を指定して意見書を提出する機会を与えたものの、申立人から意見書の提出はなかった。
3 本件発明1についての当審の判断
(1)申立ての理由1(進歩性)について
ア 甲1発明の認定
甲1の、例えば特許請求の範囲の記載、明細書の段落【0008】、【0015】~【0016】、【0018】、【0021】、【0026】の記載、図1から、甲1には、以下の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されている、といえる(申立書12ページ)。
「被研磨物を保持するための保持面Sを形成する樹脂シートとしてのウレタンシート2を備えた保持材10であって、
樹脂シートの厚みが、200~2000μmであり(【0018】)、
樹脂シートが、ポリエステル系ポリウレタン樹脂を含む(【0021】)、保持材。」
イ 甲2発明の認定
甲2の、例えば特許請求の範囲の記載、明細書の段落【0022】、【0034】、【0029】、【0037】、【0046】、【0062】、【0077】の記載、から、甲2には、以下の発明(以下「甲2発明」という。)が記載されている、といえる(申立書14~15ページ)。
「発泡層と緻密な発泡による表面部分を有する樹脂シートを湿式成膜法により製造(【0029】)された片面研磨用保持材であって、
樹脂シートの厚みが、約1mm(【0077】)であり、
樹脂シートが、ポリエステル系ポリウレタン樹脂を含む(【0037】)、保持材。」
ウ 対比
本件発明1と甲1発明又は甲2発明とを対比すると、以下の一致点で一致するものの、少なくとも以下の相違点1~2で相違する。
<一致点>
「被研磨物を保持するための保持面を有する樹脂シートを備える、保持パッドであって、
樹脂シートが、ポリエステル系ポリウレタン樹脂を含む、保持材。」
<相違点1>
保持面に関し、
本件発明1においては、
「三次元表面粗さ解析により得られる、保持面の突出谷部とコア部を分離する負荷面積率Smr2が、89.5%以上90.1%以下」であるのに対し、
甲1発明、甲2発明においては、保持面の負荷面積率Smr2がどの程度であるか、不明である点。
<相違点2>
樹脂シートに関し、
本件発明1においては、
「前記樹脂シートの厚みが、0.82以上0.83以下であり、
前記樹脂シートのショアA硬度が、10.9以上11.2以下であり、
前記樹脂シートの圧縮率が、49.6以上50.5以下であり、
前記樹脂シートの圧縮弾性率が、94.6%以上96.0%以下であり、」であるのに対し、
甲1発明、甲2発明においては、厚みが当該数値範囲内にあるとはいえず、また、ショアA硬度、圧縮率、圧縮弾性率がどの程度であるか、不明である点。
エ 判断
事案に鑑み、相違点1のみ検討する。
甲1及び甲2には、ガラス基板の平坦度及び剥がれ状況を良好とするために「保持面の負荷面積率Smr2」に着目する技術思想が記載も示唆もされていないことから、甲1発明及び甲2発明に触れた当業者が、当該「保持面の負荷面積率Smr2」の数値を最適化させることを、容易に想到し得たといえない。
また、甲1発明又は甲2発明の「保持パット」において、保持面の「負荷面積率Smr2」が「89.5%以上90.1%以下」の数値範囲内にあるとの合理的な理由も見いだせない。
してみると、当業者が甲1発明又は甲2発明に基づいて相違点1に係る本件発明1を想到することは、容易であるといえないから、相違点2を検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明又は甲2発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
オ 小括
したがって、本件発明1は、甲1発明又は甲2発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、申立ての理由1(進歩性)により請求項1に係る本件特許を取り消すことはできない。
(2)申立ての理由2(実施可能要件)について
ア 申立人は、申立書において、発明の詳細な説明には、実施例1と実施例2が示されるのみで、以下のパラメータの、特許請求の範囲において特定される数値範囲の上限値又は下限値を境界として顕著な差異があるとは認められず、実験等により裏付けられたものであるのか判然としない旨を主張する。
(ア)本件訂正前の請求項1に特定される、保持面の「負荷面積率Smr2」
(イ)本件訂正前の請求項2に特定される、樹脂シートの「A硬度及びショアD硬度」
(ウ)本件訂正前の請求項3に特定される、樹脂シートの「圧縮率」
(エ)本件訂正前の請求項4に特定される、樹脂シートの「圧縮弾性率」
(オ)本件訂正前の請求項5に特定される、樹脂シートの「厚さ」
イ 本件訂正により、本件発明1の上記ア(ア)~(オ)の数値範囲は、実施例1及び実施例2に対応するものとなった(上記第2の4(1)イを参照)。
ウ したがって、本件特許の発明の詳細な説明は、当業者が本件発明1の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであって、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしているから、申立ての理由2(実施可能要件)により請求項1に係る本件特許を取り消すことはできない。
(3)申立ての理由3(サポート要件)について
申立書28~32ページにおける「(イ-1)本件特許発明1ないし5 その1」及び「(イ-2)本件特許発明1ないし5 その2」については、取消理由として通知したから、以下、「(イ-3)本件特許発明1ないし5 その3」及び「(イ-4)本件特許発明1ないし5 その4」について検討する。
ア 「(イ-3)本件特許発明1ないし5 その3」(申立書32~33ページ)について
(ア)申立人は、本件特許の出願時の技術常識に照らせば、樹脂シートについて表面の凹凸の具体的な形状に関する規定が含まれていない請求項1に記載の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない旨、主張する。
(イ)しかしながら、本件発明は、保持面の「負荷面積率Smr2」等に着目した発明であって、発明の詳細な説明を参酌しても、樹脂シートについて表面の凹凸の具体的な形状が記載されたものではないから、当該事項にて発明を特定することが求められるとはいうことができない。
イ 「(イ-4)本件特許発明1ないし5 その4」(申立書33~35ページ)について
(ア)申立人は、発明特定事項が樹脂シートの表面形状パラメータのみからなる本件発明1は、製造方法などに起因する凹凸形状と変形しやすさとの関係を発明特定事項として有しないため、保持性と取り外し容易性とのバランスに優れる、という課題を解決できない保持パットまで技術的範囲に含んでいる旨、主張する。
(イ)しかしながら、上記アに説示するとおり、本件発明は、樹脂シートの表面の凹凸の具体的な形状にて発明を特定することが求められるものではないから、凹凸形状に影響を与える製造方法を発明特定事項として求められることはない。
そして、本件発明1は、「負荷面積率Smr2」を含むパラメータが、発明の詳細な説明に記載された実施例1及び実施例2に対応した数値範囲にて特定されている。
ウ したがって、本件発明1は、発明の詳細な説明に記載したものであって、本件特許の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしているから、申立ての理由3(サポート要件)により請求項1に係る本件特許を取り消すことはできない。
4 取消理由通知にて採用しなかった申立ての理由のまとめ
上記3のとおり、上記1の申立ての理由によって、本件訂正後の請求項1に係る特許を取り消すことができない。
第7 むすび
以上のとおり、本件訂正後の請求項1に係る本件特許は、取消理由通知に示した取消理由(上記第5)、又は、申立書に記載された申立ての理由(上記第6)によっては、取り消すことはできない。また、本件訂正後の請求項1に係る特許を取り消すべき他の理由も発見しない。
そして、本件特許の請求項2~5は、上記第2及び第3のとおり、本件訂正により削除された。これにより、申立人による請求項2~5に係る本件特許に対する特許異議の申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
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2023-700462