特許異議申立
2025-700108
火災受信機
- 審判番号
- 2025-700108
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2022-132872
- 登録番号
- 7526232
- 請求日
- 2025年01月23日
- 審決日
- 2025年03月24日
- 公報発行日
- 2025年05月30日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】能美防災株式会社
- 【権利者代理人】曾我 道治
- 【権利者代理人】上田 俊一
- 【異議申立人】六條 直樹
- 審判長/審判官
- 審判長 土居 仁士
- 審判官 寺谷 大亮
- 審判官 衣鳩 文彦
- 分類
- P1651.121-Y (G08B) / P1651.537-Y (G08B) / P1651.55 -Y (G08B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第2号、特許法第17条の2第3項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7526232号発明「火災受信機」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7526232号の請求項1~3に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7526232号(以下「本件特許」という。)の請求項1~3に係る特許についての出願は、平成30年8月29日に出願した特願2018-160429号の一部を令和4年8月24日に新たな特許出願としたものであって、令和5年11月29日に補正がされ、令和6年4月18日に補正がされ、令和6年7月23日にその特許権の設定登録がされ、同年7月31日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許に対し、令和7年1月23日に特許異議申立人 六條 直樹(以下「特許異議申立人」という。)は、特許異議の申立てをした。
第2 本件発明
本件特許の請求項1~3の特許に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」~「本件発明3」といい、これらを総称して「本件発明」という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1~3に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。なお、請求項1~3の符号1A~1F、2A~2F及び3A~3Bは、請求項1~3をそれぞれ分説するために当審で付与したものであり、分説した発明特定事項を、以下では「発明特定事項1A」のように参照する。
「【請求項1】
1A 保守電話と接続可能な構成を備えた火災受信機であって、
1B 外部機器に接続された非常電話子機との間で通話を行うための非常電話親機と、
1C 前記保守電話と前記非常電話子機の着信識別を行う制御部と
1D をさらに備え、
1E 前記制御部は、前記保守電話からの着信音と前記非常電話子機からの着信音を異なる警報音を用いて報知することで前記着信識別を行う
1F 火災受信機。
【請求項2】
2A 保守電話と接続可能な構成を備えた火災受信機であって、
2B 外部機器に接続された非常電話子機との間で通話を行うための非常電話親機と、
2C 前記保守電話と前記非常電話子機の着信識別を行う制御部と
2D をさらに備え、
2E 前記制御部は、前記保守電話からの着信と前記非常電話子機からの着信を文字色あるいは背景色を異ならせて識別表示することで前記着信識別を行う
2F 火災受信機。
【請求項3】
3A 前記制御部は、前記保守電話からの着信と前記非常電話子機からの着信を文字色あるいは背景色を異ならせて識別表示することで前記着信識別を行う
3B 請求項1に記載の火災受信機。」
第3 特許異議申立理由の概要
1 申立理由
特許異議申立人が主張する特許異議申立理由の概要は、次のとおりであると認められる。
(1)申立理由1(進歩性)
請求項1に係る発明は、甲第1号証に記載された発明並びに甲第2号証及び甲第3号証に記載された周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、請求項2に係る発明は、甲第1号証に記載された発明及び甲第4号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、請求項3に係る発明は、甲第1号証に記載された発明、甲第2号証及び甲第3号証に記載された周知技術並びに甲第4号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1~3に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。(同法第113条第2号)
(2)申立理由2(明確性)
本件特許の特許請求の範囲の記載は、次の点で、請求項2及び3に係る発明が明確でないから、請求項2及び3に係る特許は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。(同法第113条第4号)
請求項2及び3の「前記制御部は、前記保守電話からの着信と前記非常電話子機からの着信を文字色あるいは背景色を異ならせて識別表示することで前記着信識別を行う」との発明特定事項は、「背景」の範囲が不明であるから不明確である。
(3)申立理由3(新規事項)
本件特許の特許請求の範囲について令和6年4月18日付けでした補正(以下「本件補正」という。)は、次の点で、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「当初明細書等」という。)に記載した事項の範囲内においてしたものではないから、本件発明1~3に係る特許は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない補正をした特許出願に対してされたものである。(同法第113条第1号)
請求項2及び3の「前記制御部は、前記保守電話からの着信と前記非常電話子機からの着信を文字色あるいは背景色を異ならせて識別表示することで前記着信識別を行う」との発明特定事項は、当初明細書等に記載されておらず、当初明細書等から自明のものでもない。
なお、申立理由3について、特許異議申立人は、前記発明特定事項を初めて導入した令和5年11月29日付けの補正(以下「1回目補正」という。)が、当初明細書等に記載された事項の範囲内においてしたものではない旨主張している(特許異議申立書21~24頁)。この点に関し、本件特許についての特許出願は、1回目補正の後、令和6年4月18日付けで、1回目補正により導入された前記発明特定事項を含み、1回目補正で補正した特許請求の範囲及び【0007】を再度補正する本件補正をしており、本件特許は、本件補正をした特許出願に対してされたものである。そして、特許異議申立人の1回目補正についての前記主張は、本件補正についても妥当するから、申立理由3を、前記のとおりのものと認める。
2 証拠方法
特許異議申立人が特許異議申立書に添付した証拠方法は、以下のとおりである(以下、甲第1号証~甲第7号証を、「甲1」等という。)。
甲1:特開2004-64709号公報
甲2:特開平11-55495号公報
甲3:特表2003-527803号公報
甲4:特開2010-26545号公報
甲5:特許第5491130号公報
甲6:特開2011-120717号公報
甲7:特開2016-140583号公報
第4 甲号証の記載
甲1~甲4の記載は、以下のとおりである。
1 甲1
(1)甲1の記載事項
甲1には、次の事項が記載されている。なお、下線は、強調のために当審で付したものである(以下、同じ。)。
ア 「【請求項1】
複数の子機が接続される非常電話装置において、子機の情報を記憶する記憶部を設け、子機からの呼出は前記当該子機の情報に従って処理されることを特徴とする非常電話装置。」
イ 「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は防災システムにおいて使用される非常電話装置に関する。」
ウ 「【0005】
そこで本発明は、非常通話とそれ以外の通話を行う非常電話装置において、通話の種別を明確に識別できるようにする。
また本発明では接続されている子機の状態を確認できるようにする。」
エ 「【0012】
【発明の実施の形態】
発明の実施の形態を実施例に基づき図面を参照して説明する。
本発明の第1実施例の非常電話装置のシステム構成図を図1に示す。
非常電話装置1には複数個の子機2(2-1~2-n)が回線lにより接続されている。また非常電話装置1には表示灯、表示器、操作ボタン等が設けられた操作表示パネル3、子機2との通話を行う送受話器4が設けられている。
【0013】
本発明の非常電話装置のブロック図を図2に示す。
非常電話装置1ではCPUからなる制御部11が、ROM、RAMからなる記憶部12に記憶された処理プログラムやデータに基づき装置全体の制御を行う。
また非常電話装置1には操作表示パネル3に設けられた表示灯や表示器からなり、各種情報や警報の表示を行う表示部13、操作表示パネル3に設けられた操作ボタンやスイッチからなる操作部14、送受話器4からなる通話部15、子機2と送受話器4との通話を行うための通話接続部16、オフフック検出部17、回線lにより子機2が接続される子機接続部18が設けられている。
【0014】
さらに記憶部12には図3に示すような子機情報テーブルが記憶されている。子機情報テーブルには子機番号、内線番号、回線種別が記憶されている。回線種別としては火災発生などの非常時に使用される火災回線と業務で使用される業務回線との2種類が記憶されている。また内線番号とは非常電話装置装置1の操作表示パネル3を操作して直接子機2を呼び出すときに使用する番号である。
【0015】
本発明の非常電話装置1の動作を説明する。
火災発生などの通報により子機2-1~2-nのいずれかがオフフック状態になったことをオフフック検出部17が検出すると、オフフックとなった子機番号を制御部11に送信する。子機番号を受信した制御部11は記憶部12に記憶された子機情報テーブルを検索し、当該子機が火災回線が(当審注:「火災回線か」の誤記と認める。)業務回線かを判断する。
【0016】
例えば子機2-1から呼出があると、子機情報テーブル内の情報から火災回線と判断されるので、表示部13に火災発生の警報表示を行うとともに、通話接続部16との接続を許可し、通話部15を呼び出す。通話部15の送受信器4がオフフックとなると、呼出を開始した子機2-1との間で通話が可能となる。
【0017】
また子機2-2から呼出があると、子機情報テーブル内の情報からから業務回線と判断されるので、表示部13に警報表示を行わず、通話接続部16との接続を許可し、通話部15を呼び出す。通話部15の送受信器がオフフックとなると、呼出を開始した子機2-2との間で通話が可能となる。」
オ 「【図1】
[図:0001422492000001.jpg]
」
カ 「【図3】
[図:0001422492000002.jpg]
」
(2)甲1発明
前記(1)の下線部に着目すると、甲1には、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。なお、後の参照の便宜のため、甲1発明をa~iに分説し、「構成a」のように参照する。
「a 非常電話装置1であって、(【0012】)
b 複数個の子機2(2-1~2-n)が回線lにより接続され、(【0012】)
c 制御部11が、記憶部12に記憶された処理プログラムやデータに基づき装置全体の制御を行い、(【0013】)
d 表示部13、操作部14、送受話器4からなる通話部15、子機2と送受話器4との通話を行うための通話接続部16、オフフック検出部17、回線lにより子機2が接続される子機接続部18が設けられ、(【0013】)
e 記憶部12には子機情報テーブルが記憶され、子機情報テーブルには子機番号、内線番号、回線種別が記憶され、回線種別としては火災発生などの非常時に使用される火災回線と業務で使用される業務回線との2種類が記憶され、(【0014】)
f 火災発生などの通報により子機2-1~2-nのいずれかがオフフック状態になったことをオフフック検出部17が検出すると、オフフックとなった子機番号を制御部11に送信し、子機番号を受信した制御部11は記憶部12に記憶された子機情報テーブルを検索し、当該子機が火災回線か業務回線かを判断し、(【0015】)
g 例えば子機2-1から呼出があると、子機情報テーブル内の情報から火災回線と判断されるので、表示部13に火災発生の警報表示を行うとともに、通話接続部16との接続を許可し、通話部15を呼び出し、(【0016】)
h 子機2-2から呼出があると、子機情報テーブル内の情報からから業務回線と判断されるので、表示部13に警報表示を行わず、通話接続部16との接続を許可し、通話部15を呼び出す(【0017】)
i 非常電話装置1」
2 甲2
甲2には、次の事項が記載されている。
「【0002】
【従来の技術】電話回線を利用した通信網において、受信側の1つの回線に複数の呼び出し番号を割り付けてそれぞれの呼び出しパターンを変えて呼び出すサービス方式がある。このサービス方式は例えばアメリカではリングマスターサービス方式、香港ではデュプレックスリングサービス方式と呼ばれている。一方、日本では割り当てられた受信側の一つの電話番号とそれ以外の電話番号とにより呼び出し音を変える鳴り分けサービスがある。このようなサービスにおいては被呼側では、呼び出し音を聞いて、その有音、無音のパターンからどの電話番号から電話がかかってきたかを識別することができる。」
3 甲3
甲3には、次の事項が記載されている。
「【0039】
本発明の別の実施形態において、発信者識別技術を用いるとさらに、呼出音の区別(distinctive ringing)(すなわち、特定の所定の電話番号からの電話が通常の電話とは異なるように鳴り、建物における発信者識別に特定者が電話をかけていることを警告する機能)を提供することが可能になる。複数の異なる呼出音の区別パターンが提供され得、これらのパターンはそれぞれ、1つの特定の所定の番号、または番号のグループに割り当てられ得る。したがって、特定の友人または親戚に、彼らに固有の呼び出し信号を割り当てたり、または、知人の特定グループ(例えば、すべての同僚)に共通の呼び出し信号を割り当て得る。」
4 甲4
甲4には、次の事項が記載されている。
「【0010】
又、請求項3に記載の発明によれば、試験的に災害情報を報知する際の表示背景色と、実際に災害情報を受信し災害情報を報知する際の表示背景色とを異ならせる為、ユーザは、試験的に災害情報の報知を行っている際に、本当の災害情報が到来しても、試験報知と混同することがなく、即座に地震に対する準備を行うことができる。」
「【0044】
S02ステップでは、制御部11はテストモードを実行する。具体的には、フラッシュメモリ20に格納されているテストモード用の表示(図6の(A))データを読み込み、表示部13に表示する。尚、図6(A)の表示データは、震度を示す文字の色は黒色であり背景の色は緑色としている。又、この表示データは震度を示す文字だけではなく、揺れが来るまでのカウントダウン表示(例えは、揺れが来るまであと5秒です)でも良い。
・・・(略)・・・
【0046】
S03ステップにおいて、制御部11は、通信制御部15が緊急地震速報を受信したと判定すると、S04ステップに処理を進める。
【0047】
S04ステップでは、制御部11は、受信した震源地の経度緯度、震源の深さ、地震の強さといった情報と、予めメモリに格納された自機の経度緯度情報から、自機の存在する地点での地震の大きさと揺れが来るまでの時間を計算する。続いて、計算した地震の大きさや揺れが来るまでの時間を報知する。具体的には、制御部11は、図6(B)に示すように表示部13に地震の大きさを示す文字を白色で、背景を赤色で表示する。又、地震報知の音声メッセージ(例えば、「緊急地震速報を受信しました。震度5の地震がきます。」や、「緊急地震速報を受信しました。震度5の地震があと5秒できます。」等)をスピーカ18から出力する。」
第5 当審の判断
1 申立理由1(進歩性)について
(1)本件発明の「火災受信機」の解釈について
ア 本件発明の「火災受信機」(発明特定事項1F、2F、3B)は、「外部機器に接続された非常電話子機との間で通話を行うための非常電話親機」「をさらに備え」る(発明特定事項1B及び1D、2B及び2D、3B)と特定されるものである。
前記発明特定事項によれば、「火災受信機」は、「非常電話親機」を「さらに備え」るのであるから、本件発明の「火災受信機」は、「非常電話親機」そのものでないことは明らかであり、「非常電話親機」を「さらに備え」なくとも「火災受信機」である。換言すると、該「非常電話親機」以外の部分において「火災受信機」といえる(火災受信機として機能する)ものと解される。これは、本件特許明細書の「従来技術では、非常電話による通話機能を実現するためには、非常電話盤と火災受信機とを別々に用意する必要があった。このため、その分コストアップするとともに、設置スペースもそれぞれの分を用意する必要があった。」(【0005】)、「本発明は、前記のような課題を解決するためになされたものであり、非常電話盤の機能を兼ね備え、コストアップおよび設置スペースの増加を抑制することのできる火災受信機を得ることを目的とする。」(【0006】)との課題、目的の記載とも整合する。
イ 本件特許明細書又は図面には、本件特許における「火災受信機」の用語についての明示の定義はない。他方で、「火災受信機」について、【背景技術】欄に「火災の要因となる煙の発生、温度上昇、ガス漏れ等を監視する火災報知設備に用いられる火災受信機は、防災センター、管理室などに設置されている。火災受信機は、火災監視区域ごとに設置されている1以上の端末機器から信号を受信することで、火災発生の有無を判断している。」(【0002】)との説明があり、その内容は、一般的な火災受信機である、感知器や発信機等からの信号を受信して火災を報知する装置について述べたものと理解することができる。そして、本件特許明細書又は図面には、本件特許における「火災受信機」の用語を、一般的な火災受信機と異なるものを意味すると解すべき記載は存在しない。そのため、本件特許における「火災受信機」の用語は、一般的な、感知器や発信機等からの信号を受信して火災を報知する装置を意味するものと解するのが妥当である。
ウ 前記ア及びイによれば、本件発明の「火災受信機」は、「非常電話親機」そのものではなく、「非常電話親機」以外の部分において、感知器や発信機等からの信号を受信して火災を報知する装置として機能するものと解釈される。
(2)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。
(ア)発明特定事項1A、1B、1Dについて
a 甲1発明における「複数個の子機2」(構成b)のうち、「回線種別」が「火災発生などの非常時に使用される火災回線」(構成e)の「子機2」(以下「甲1火災回線子機」という。)は、本件発明1の「非常電話子機」に相当する。他方、甲1発明における甲1火災回線子機は、外部機器に接続されたものかは明らかでない。
b 甲1発明の「非常電話装置1」(構成a、i)は、甲1火災回線子機を含む「子機2」と自装置の「送受話器4」の間で「通話を行う」(構成d)ものであるから、非常電話親機といえる。そうすると、本件発明1の「非常電話親機」と甲1発明の「非常電話装置1」とは、「非常電話子機との間で通話を行うための非常電話親機」である点で共通する。
c 甲1発明の「非常電話装置1」は、「甲1火災回線子機」から呼出があると、「表示部13に火災発生の警報表示を行う」(構成g)が、これは、技術常識に照らすと、前記bの非常電話親機の通常の機能であると解される。そして、該非常電話親機の機能とは別に、「非常電話装置1」が、感知器や発信機等からの信号を受信して火災を報知する装置(火災受信機)としての機能を備えることは特定されていない。そうすると、甲1発明の「非常電話装置1」は、非常電話親機そのものであるから、本件発明1の「火災受信機」には相当せず、本件発明1の「火災受信機」と甲1発明の「非常電話装置1」とは、「装置」である点で共通するといえるに留まる。
d 甲1発明の「非常電話装置1」は、「回線種別」が「業務で使用される業務回線」(構成e)の「子機2」(以下「甲1業務回線子機」という。)と「回線lにより接続され」る(構成b)から、「甲1業務回線子機」と接続可能な構成を備えているといえる。他方で、前記「甲1業務回線子機」は、「業務で使用」されるものであって、本件発明1の「保守電話」、すなわち「施工時およびメンテナンス時に作業員が使用する」(本件特許明細書【0048】)電話であるかは明らかでない。そのため、本件発明1の「保守電話」と甲1発明の「甲1業務回線子機」とは、「非常電話子機以外の電話」である点で共通するといえる。
e 以上によれば、本件発明1と甲1発明とは、「非常電話子機以外の電話と接続可能な構成を備えた装置であって、非常電話子機との間で通話を行うための非常電話親機を備え」る点で共通するものの、「装置」が、本件発明1は「火災受信機」であって、「非常電話親機」を「さらに備え」るものであるのに対し、甲1発明は、非常電話親機そのものであり、「火災受信機」ではない点で相違し、「非常電話子機以外の電話」が、本件発明1は「保守電話」であるのに対し、甲1発明は「甲1業務回線子機」であって、施工時およびメンテナンス時に作業員が使用するものか明らかでない点で相違し、「非常電話子機」が、本件発明1は「外部機器に接続された」ものであるのに対し、甲1発明では「外部機器に接続された」ものであるか明らかでない点で相違する。
(イ)発明特定事項1A、1C、1Dについて
甲1発明の「非常電話装置1」の「制御部11」は、「オフフックとなった子機番号」を「受信」し、「子機情報テーブルを検索し、当該子機が火災回線か業務回線かを判断し」(構成f)、「子機」が「火災回線と判断」すると、「表示部13に火災発生の警報表示を行うとともに」、「通話部15」を「呼び出し」(構成g)、「子機」が「業務回線と判断」すると、「表示部13に警報表示を行わず」、「通話部14を呼び出す」(構成h)ものである。前記「制御部11」は、「オフフック」となった「子機」が「火災回線」か「業務回線」か、すなわち「甲1非常回線子機」からの着信か「甲1業務回線子機」からの着信かを、「警報表示」の有無によって識別しているといえるから、前記(ア)dを踏まえると、本件発明1の「制御部」と甲1発明の「制御部11」とは、「前記非常電話子機以外の電話と前記非常電話子機の着信識別を行う制御部」である点で共通する。
そして、発明特定事項1Aについては、前記(ア)のとおりであるから、本件発明1と甲1発明とは、「非常電話子機以外の電話と接続可能な構成を備えた装置であって、前記非常電話子機以外の電話と前記非常電話子機の着信識別を行う制御部をさらに備え」る点で共通するものの、「装置」、「非常電話子機以外の電話」に関する相違点は、前記(ア)のとおりである。
(ウ)発明特定事項1Eについて
甲1発明の「非常電話装置1」の「制御部11」は、前記(イ)のとおり、「甲1非常回線子機」からの着信と「甲1業務回線子機」からの着信とを「警報表示」の有無により着信識別を行うものであり、発明特定事項1Eのように、「着信音」を「異なる警報音を用いて報知する」ことで着信識別を行うことは特定されていない。
(エ)発明特定事項1Fについて
前記(ア)のとおり、本件発明1の「火災受信機」と甲1発明の「非常電話装置1」とは、「装置」である点で共通する。
(オ)一致点、相違点
前記(ア)~(エ)によれば、本件発明1と甲1発明とは、次の点で一致し、相違する。
[一致点]
非常電話子機以外の電話と接続可能な構成を備えた装置であって、
非常電話子機との間で通話を行うための非常電話親機を備え、
前記非常電話子機以外の電話と前記非常電話子機の着信識別を行う制御部をさらに備える
装置。
[相違点]
(相違点1)「装置」が、本件発明1は「火災受信機」であって、「非常電話親機」を「さらに備え」るものであるのに対し、甲1発明の「非常電話装置1」は、非常電話親機そのものであり、「火災受信機」ではない点。
(相違点2)「非常電話子機以外の電話」が、本件発明1は「保守電話」であるのに対し、甲1発明は「甲1業務回線子機」であって、施工時およびメンテナンス時に作業員が使用するものか明らかでない点。
(相違点3)「非常電話子機」が、本件発明1は「外部機器に接続された」ものであるのに対し、甲1発明では「外部機器に接続された」ものであるか明らかでない点。
(相違点4)本件発明1の「制御部」は、「前記保守電話からの着信音と前記非常電話子機からの着信音を異なる警報音を用いて報知することで前記着信識別を行う」のに対し、甲1発明の「制御部11」は、「甲1非常回線子機」からの着信と「甲1業務回線子機」からの着信を「警報表示」の有無により着信識別を行うものであり、「着信音」を「異なる警報音を用いて報知する」ことで着信識別を行うことは特定されていない点。
イ 相違点についての判断
相違点1について検討する。
甲1発明の非常電話装置1は、前記ア(ア)のとおり、非常電話親機そのものであり、該非常電話装置1を、火災受信機が「さらに備え」るものにすることは、甲1には記載も示唆もない。
甲2及び甲3は、呼出音を異ならせることで発信元を識別可能にする技術について記載していると認められるが、非常電話親機を火災受信機に(さらに)備えさせることについて、記載も示唆もしない。さらに、甲4~7にも、非常電話親機を火災受信機に備えさせることについて記載も示唆もない。
よって、甲1発明の非常電話装置1を、火災受信機がさらに備えたものとして、相違点1に係る構成とすることは、当業者といえども容易に想到し得たことではない。
また、本件発明1は、相違点1に係る構成によって、「非常電話盤の機能を兼ね備え、コストアップおよび設置スペースの増加を抑制することのできる火災受信機を得ることができる」(本件特許明細書【0008】)という顕著な効果を奏すると認められる。
したがって、その余の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明及び甲1~甲7に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
ウ 特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、特許異議申立書14~16頁において、本件発明1と甲1発明の対比を行っているが、そこでは、前記相違点1に関して、「甲1発明の非常電話装置1は、火災発生などの通報を受けるので本件特許発明の火災受信機に該当する。」(15頁)、「甲1発明の「回線1に接続された火災回線の子機2-1との間で通話を行う送受話器4」は、本件発明1の「外部機器に接続された非常電話子機との間で通話を行うための非常電話親機」に該当する。」(15頁)と主張して、前記相違点1を相違点とはしていない。
しかしながら、甲1発明において、前記主張する火災発生などの通報は、甲1非常回線子機からのものであるから、該通報を受けるのは非常電話装置1そのものの機能であり、これをもって本件発明1の火災受信機に相当するとはいえない。そして、甲1には、非常電話装置1が、前記通報以外の、例えば、感知器等からの信号を受信することは記載されていないから、前記ア(ア)cのとおり、甲1発明の非常電話装置1は、本件発明1の火災受信機に相当するものではない。また、甲1発明の非常電話装置1は、子機2との接続や通話を制御部11、通話接続部16、子機接続部18等により制御しているため、送受話器4は放音、集音のための音響部品に過ぎないものと解されるから、送受話器4は非常電話親機とはいえない。加えて、送受話器4は、非常電話装置1に本来的に備わる部品であって、非常電話装置1が「さらに備え」たものということもできない。
したがって、特許異議申立人の前記主張は採用することができず、相違点1は、実質的な相違点である。そして、該相違点1に係る構成が、甲1発明及び甲1~甲7に記載された事項から容易に想到し得ないことは、前記イのとおりである。
エ 小括
以上のとおり、本件発明1は、甲1に記載された発明及び甲1~甲7に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(3)本件発明2について
本件発明2の発明特定事項2A~2D、2Fは、本件発明1の発明特定事項1A~1D、1Fと同じである。そうすると、本件発明2の発明特定事項2A~2D、2Fについて、前記(2)ア(ア)、(イ)及び(エ)と同様のことがいえるから、本件発明2と甲1発明とは、少なくとも前記(2)ア(オ)の相違点1で相違する。
そして、相違点1については、前記(2)イのとおりであるから(なお、甲4は、表示する文字色あるいは背景色を異ならせる技術について記載したものである。)、本件発明2は、甲1発明及び甲1~甲7に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(4)本件発明3について
本件発明3は、本件発明1の発明特定事項を全て備え、さらに別の発明特定事項を備えるものであるから、甲1発明とは少なくとも前記(2)ア(オ)の相違点1で相違する。
そして、相違点1については、前記(2)イのとおりであるから、本件発明3は、甲1発明及び甲1~甲7に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(5)申立理由1についてのまとめ
以上のとおり、本件発明1~3は、甲1発明及び甲1~甲7に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではないから、申立理由1は、理由がない。
2 申立理由2(明確性)について
(1)申立理由2の概要
申立理由2は、請求項2及び3の「前記制御部は、前記保守電話からの着信と前記非常電話子機からの着信を文字色あるいは背景色を異ならせて識別表示することで前記着信識別を行う」との発明特定事項(発明特定事項2E、3A)は、「背景」の範囲が不明であるから不明確である、というものである。
(2)検討
ア 本件発明の「背景」の意味について
「背景」とは、一般には「絵画・写真などで、その主要題材の背後の光景。後景。」(広辞苑)を意味する用語であるところ、本件発明2及び3における「背景」は、保守電話または非常電話子機からの着信表示についてのものであるから、該表示において着信を示す文字やマーク等の主要な表示要素の後景にあたる部分、を意味するものと解され、本件特許の明細書又は図面に、その意味に反するような記載はない。そして、本件発明2及び3における「背景」を前記のとおりに解した場合に、本件発明2及び3が第三者に不測の利益を招くほどに不明確になるということはできない。
イ 特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、申立理由2の根拠として、本件特許の図6の「非常電話を着信しました」の文字の右横の受話器の模様が、情報表示エリア110の背景の一部であるか不明であり、また、背景とは、ディスプレイの全域のことであるのかディスプレイの一部のことであるのかも不明である旨主張する。(特許異議申立書19~21頁)
しかしながら、図6左側の情報表示エリア110は、非常電話子機400aから着信があったときの表示の一例を示したものであり、「文字色あるいは背景色を異ならせて識別表示する」ことを説明するためのものではないから、仮に、図6に示された受話器の模様が背景であるかどうか不明であるからといって、それが、ただちに本件発明2及び3の「背景」が不明確であることにはならない。また、本件発明2及び3の「背景」は、前記アのとおりの意味であると解されるから、「背景」に該当するかどうかは、ディスプレイの全域であるかどうかには依らない。
したがって、特許異議申立人の主張は採用することができない。
(3)申立理由2についてのまとめ
以上のとおり、本件発明2及び3の「前記制御部は、前記保守電話からの着信と前記非常電話子機からの着信を文字色あるいは背景色を異ならせて識別表示することで前記着信識別を行う」との発明特定事項は不明確とはいえないから、本件発明2及び3は不明確ではない。
よって、申立理由2は、理由がない。
3 申立理由3(新規事項)について
(1)申立理由3の概要
申立理由3は、本件補正後の「前記制御部は、前記保守電話からの着信と前記非常電話子機からの着信を文字色あるいは背景色を異ならせて識別表示することで前記着信識別を行う」との発明特定事項(発明特定事項2E、3A)は、当初明細書等に記載されておらず、当初明細書等から自明のものでもないから、本件補正は、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものではない、というものである。
(2)検討
ア 当初明細書等の記載
本件特許の当初明細書等には、次の記載がある。
「【0038】
なお、表示制御部14は、重複して発生した複数のイベントを表示する際に、第1イベント111と、第2イベント112と、第3イベント113とを、文字色あるいは背景色を異ならせることで識別表示させることもできる。単に複数のイベントを同時に表示させるだけではなく、個々のイベントを色識別表示させることで、複数のイベントが重複して発生した場合にも、オペレータがいずれかのイベントを見落とすおそれをさらに抑制することができる。
【0039】
また、イベントの種類に応じて、文字色あるいは背景色をあらかじめ特定しておくことも可能である。例えば、第1イベントのように、火災が発生した旨を示すイベントは、背景色を赤色とし、第2イベントのように、端末装置が作動した旨を示すイベントは、背景色を青色とし、第3イベントのように、ガス漏れ警報が発生した旨を示すイベントは、背景色を黄色とする、といったように、各イベントの属性に応じて背景色パターンを特定しておくことが考えられる。これにより、複数のイベントが重複して発生した場合にも、オペレータがいずれかのイベントを見落とすおそれを抑制することができるとともに、オペレータは、背景色パターンに基づいて、イベントの属性を容易に識別することが可能となる。」
「【0048】
火災受信機10には、施工時およびメンテナンス時に作業員が使用する保守電話も接続可能な構成となっている。・・・(後略)・・・」
「【0050】
<具体例1:非常電話と保守電話との着信識別について>
火災受信機10は、非常電話子機400aからの着信音と、保守電話からの着信音を異なる音として、報知部17から報知させることで、両者の着信識別を行うことができる。例えば、保守電話から着信があった場合には「プルルル」といった警報音を出力し、非常電話子機400aから着信があった場合には「ピロリロ」といった警報音を出力することが一例として挙げられる。」
「【0052】
例えば、優先順位が高い順に、以下の3つのイベント1~イベント3が重複して発生した場合を考える。
イベント1:火災確定
警報音を用いた報知 「ピー」
音声を用いた報知 「火災が発生しました。現場を確認してください。」
イベント2:非常電話着信
警報音を用いた報知 「ピロリロ」
音声を用いた報知 「非常電話を着信しました。」
イベント3:ガス漏れ
警報音を用いた報知 「ピピピピ」
音声を用いた報知 「ガス漏れが発生しました。現場を確認してください。」
イ 「文字色あるいは背景色」の識別表示について
当初明細書等の【0038】の記載によれば、表示制御部14は、重複して発生した複数のイベントを表示する際に、該複数のイベントの文字色あるいは背景色を異ならせることで、個々のイベントを色識別表示させることが理解される。
また、【0039】は、「背景色パターン」が「文字色あるいは背景色」の例であることを踏まえると、イベントの属性(種類)に応じて「文字色あるいは背景色」をあらかじめ特定しておき、複数のイベントが重複して発生した場合、該複数のイベントそれぞれの属性に応じてあらかじめ特定しておいた「文字色あるいは背景色」の表示に基づいて、「イベントの属性を容易に識別」可能にすることを記載したものと理解される。そして、「イベントの属性を容易に識別」可能にするための「文字色あるいは背景色」の表示は、直前の【0038】の「文字色あるいは背景色」を「異ならせる」ことによる色識別表示と同様と解するのが自然であり、これは、火災が発生した旨を示すイベント、端末装置が作動した旨を示すイベント、ガス漏れ警報が発生した旨を示すイベントを、それぞれ赤色、青色、黄色の異なる「背景色」で特定する旨の記載とも整合する。そうすると、【0039】の記載によれば、イベントの属性に応じて「文字色あるいは背景色」を「異ならせて」あらかじめ特定しておき、イベントが発生した場合、該イベントの属性に応じて「文字色あるいは背景色」を「異ならせて」色識別表示することが把握できる。
ウ 「保守電話からの着信」と「非常電話子機からの着信」について
当初明細書等の【0050】に記載された、火災受信機10における「保守電話から着信があった」こと、「非常電話子機400aから着信があった」ことは、いずれも火災受信機10に発生した「イベント」といえる。これは、【0052】で「非常電話着信」を「イベント2」と記載していることからも裏付けられる。そして、「保守電話」は「施工時およびメンテナンス時に作業員が使用する」(【0048】)ものであるのに対し、「非常電話子機」は、火災等の非常通報時に使用されるものであり、両者の用途等が異なることを踏まえると、保守電話からの着信と非常電話子機からの着信とは、その属性(種類)が異なるイベントであるといえる。
エ 「保守電話からの着信」と「非常電話子機からの着信」の識別表示について
当初明細書等からは、前記ウのとおり、保守電話からの着信と非常電話子機からの着信とは、その属性が異なるイベントであることが把握され、また、前記イのとおり、イベントの属性に応じて文字色あるいは背景色を異ならせてあらかじめ特定しておき、イベントが発生した場合、該イベントの種類に応じて文字色あるいは背景色を異ならせて識別表示することが把握されるから、属性の異なるイベントである保守電話からの着信と非常電話子機からの着信を、文字色あるいは背景色を異ならせて識別表示するという事項は、当初明細書等の全ての記載を総合することにより導かれる事項といえる。
したがって、本件補正後の「前記制御部は、前記保守電話からの着信と前記非常電話子機からの着信を文字色あるいは背景色を異ならせて識別表示することで前記着信識別を行う」との発明特定事項2E、3Aは、当初明細書等に記載した事項である。
オ 特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、当初明細書等の【0038】~【0039】及び【0029】の記載を挙げ、その他の箇所も含め、当初明細書等には、保守電話からの着信と非常電話子機からの着信とを文字色あるいは背景色を異ならせて識別表示することは記載されていないと主張する。(特許異議申立書21~23頁)
しかしながら、保守電話からの着信と非常電話子機からの着信のときに、文字色あるいは背景色を異ならせて識別表示することが、当初明細書等に記載した事項であることは、前記ア~エのとおりである。
(3)申立理由3についてのまとめ
以上のとおり、本件補正後の「前記制御部は、前記保守電話からの着信と前記非常電話子機からの着信を文字色あるいは背景色を異ならせて識別表示することで前記着信識別を行う」との発明特定事項は、当初明細書等に記載した事項であるから、本件補正は、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものである。
よって、申立理由3は、理由がない。
第6 むすび
したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1~3に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に上記請求項に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2025-700108