2025-700043
ラミネートフィルム
- 審判番号
- 2025-700043
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2020-061145外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 登録番号
- 7508252
- 請求日
- 2024年12月27日
- 審決日
- 2025年07月01日
- 公報発行日
- 2025年08月29日
- 結論
- 維持
- 分類
- P1651.113-Y (B32B) / P1651.121-Y (B32B) / P1651.537-Y (B32B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項、特許法第36条
- データ出所
- 審決公報(XML)
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結論
理由
目次 ▾ 10項目
第1 手続の経緯
特許第7508252号(以下「本件特許」という。)の請求項1~5に係る特許についての出願は、令和2年3月30日の出願であって、令和6年6月21日にその特許権の設定登録がされ、令和6年7月1日に特許掲載公報が発行された。その後、令和6年12月27日に特許異議申立人平尾帆波(以下「申立人」という。)により、その請求項1~5に係る特許に対して本件特許異議の申立てがされたものである。
第2 本件特許
本件特許の請求項1~5に係る発明(以下「本件発明1」等という。まとめて「本件発明」ともいう。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1~5に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】延伸フィルムとシーラントフィルムとが貼合されたラミネートフィルムであって、前記延伸フィルムが、MD方向及びTD方向の熱水収縮率が共に-10%~10%であって、密度が940~955kg/m3のポリエチレンを主成分とする表層と、エチレン-ビニルアルコール共重合体を主成分とするバリア層とを備え、前記シーラントフィルムが、ポリエチレン系樹脂を主成分とし、続きを表示(全15行)前記ラミネートフィルムに占める前記エチレン-ビニルアルコール共重合体の重量割合が0.1重量%以上10.0重量%以下、前記ラミネートフィルムに占めるエチレンモノマー成分の重合割合が80.0重量%以上99.9重量%以下であり、前記エチレン-ビニルアルコール共重合体に占めるエチレンモノマー成分の重合割合が30.0重量%以上50.0重量%以下であり、前記延伸フィルムが一体となり一軸あるいは二軸に延伸されていることを特徴とするラミネートフィルム。【請求項2】前記シーラントフィルムにおける主成分であるポリエチレン系樹脂が、低密度ポリエチレン系樹脂及び/又は直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂であることを特徴とする請求項1記載のラミネートフィルム。【請求項3】前記表層と前記バリア層との間に、変性されたポリエチレン系樹脂を主成分とする接着層を備えることを特徴とする請求項1または2記載のラミネートフィルム。【請求項4】前記延伸フィルムが、前記表層、前記接着層、前記バリア層、前記接着層、前記表層を順に備えることを特徴とする請求項3記載のラミネートフィルム。【請求項5】前記表層上に、ガスバリア性コーティング層を備えることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載のラミネートフィルム。」
第3 申立理由の概要
申立人は、本件特許異議申立書に添付して、以下の甲第1号証~甲第4号証(以下「甲1」等という。)を提出して、大要、次の取消理由を主張している。
1 証拠方法
取得先<https://web.archive.org/web/20190405092618/https://www.kuraray.co.jp/products/eval>
2 申立理由
ア 申立理由1-1(甲1を引用例とする新規性)
本件特許の請求項1~5に係る特許は、甲1に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、同条の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
イ 申立理由1-2(甲2を引用例とする新規性)
本件特許の請求項1~5に係る特許は、甲2に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、同条の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
ウ 申立理由2-1(甲1を主引用例とする進歩性)
本件特許の請求項1~5に係る特許は、甲1に記載された発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項に該当し、同条の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
エ 申立理由2-2(甲2を主引用例とする進歩性)
本件特許の請求項1~5に係る特許は、甲2に記載された発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項に該当し、同条の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
オ 申立理由3(明確性)
本件発明は、請求項1における「前記ラミネートフィルムに占めるエチレンモノマー成分の重合割合が80.0重量%以上99.9重量%以下であり」との記載中の「重合割合」との記載が明確ではなく、本件発明に係る特許は、特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
第4 当審の判断
以下に述べるように、特許異議申立書に記載した特許異議の申立ての理由によっては、本件特許の請求項1~5に係る特許を取り消すことはできない。
1 申立理由1-1、申立理由2-1(甲1を主引例とする新規性・進歩性)について
(1)甲1に記載された事項・発明
ア 甲1(ただし、当審において、甲1のパテントファミリーである特表2020-519487号公報を翻訳文として採用した。また、甲1の記載箇所の特定は、当該翻訳文の段落番号等で行う。)には、次の事項が記載されている。なお、下線は当審において付与し、「・・・」は記載の省略を表す。以下同様。
「【請求項8】第一のラミネート層(2)と第二のラミネート層(3)とを有する包装用積層材であって、前記第一のラミネート層(2)は、少なくとも60体積%のHDPE含有率を有する基材層(4)と、接合層(5)と、バリアポリマーから、好ましくはポリアミドまたはエチレン-ビニルアルコールコポリマーからなり、前記第一のラミネート層の全厚の最大20%の厚さを有するバリア層(6)とからなる、共押出されかつ機械方向に延伸された複合体であり、ここで、前記接合層(5)は、前記基材層(4)と前記バリア層(6)との間に配置され、そして前記第一のラミネート層(2)は、それのバリア層(6)で前記第二のラミネート層(3)と接合されていることを特徴とする、前記包装用積層材。・・・【請求項10】前記第一のラミネート層(2)が、それの基材層(4)で、少なくとも80体積%のポリエチレン含有率を有する更なる一層または多層型ラミネート層(10)と接合されていることを特徴とする、請求項8または9に記載の包装用積層材。【請求項11】前記更なるラミネート層(10)の少なくとも一つの層が印刷、金属被覆またはコーティングされていることを特徴とする、請求項10に記載の包装用積層材。」
「【0002】包装材工業では、用途に応じて様々な特性を有するべき包装用積層材が使用されている。このような包装用積層材は、通常は多層型プラスチックフィルムであり、これは、押出方法、共押出方法(これらの両方の場合では、フラットフィルム方法でもブローフィルム方法でも可)または積層方法(ラミネート接着剤を用いた個々の層の接合)、並びにこれらの組み合わせで製造される。包装用積層材では、プラスチックからなるものではない層、例えばアルミニウムまたは紙からなる層も組み込まれていることができる。この包装用積層材は、通常は、これを熱シーリングによって所望の包装材、例えばバッグ、サック、紙袋等々に加工するために、外側のシーリング層も有する。他の用途の一つでは、包装用積層材は、収縮フィルムとしても構成でき、これは、用途に応じて、(例えば比較的大きな肉片の包装のための)シーリング可能ではあるが、印刷されていない設計でも製造できる。」
「【0015】・・・それ故、該第一のラミネート層は、バリアフィルムとしても有利に使用できる。・・・【0023】続きを表示(全21行)該包装用積層材1中の第一のラミネート層2は、機械方向に延伸されており(MDO)、そして接合層5によって互いに接合された基材層4とバリア層6とを備える非対称な層構造を有する。第一のラミネート層2の厚さは、好ましくは10~40μmである。【0024】基材層4は、少なくとも60体積%、好ましくは少なくとも70体積%、非常に特に好ましくは少なくとも80体積%の高密度(HDPE)のポリエチレン(PE)の含有率を有する。この際、このHDPE含有率は100体積%に近づくことができ、ここで、100体積%は、一般的に、通常の添加剤(例えば、潤滑剤、ブロッキング防止添加剤、充填剤など)に基づいては達成されない。HDPEとは、0.94と0.97g/cm3との間の密度を有するPEのことと理解される。・・・【0026】該バリア層6は、バリアポリマー、すなわち(特に酸素、水素及び/または芳香物質に対して)十分なバリア特性を持つポリマーからなる。該バリアポリマーは、好ましくはポリアミド(PA)またはエチレン-ビニルアルコールコポリマー(EVOH)である。バリアポリマーとしては、EVOHが好ましい。バリア層6は、第一のラミネート層2の全厚の最大20%、好ましくは5~10%の厚さ、すなわち最大2~8μmの厚さを有する。該バリア層6の薄い厚さのために、リサイクル適合性はそれによって損なわれない。【0027】前記接合層5は、バリア層6と基材層4との接合のために使用される。この場合、特に第一のシーリング層2の望ましくない層間剥離を確実に防ぐために、十分な接着が達成されるべきである。適当な接合層5は、好ましくは、高められた極性を持つポリマー、例えば無水マレイン酸で変性されたポリオレフィン(例えばPEまたはPP)、エチレン-酢酸ビニルコポリマー(EVA)、エチレン/アクリル酸コポリマー(EAA)、エチレン-アクリル酸ブチルコポリマー(EBA)または類似のポリオレフィンコポリマーをベースとするポリマーからなる。接合層5の厚さは、第一のラミネート層2の全厚の最大10%、典型的には1~5μmである。【0028】第二のラミネート層3は、主にPEからなり、この際、第二のラミネート層3の全ポリマー量中のPE含有率は、場合により加えられる鉱物性もしくは他の充填材は含めずに少なくとも80体積%であるのがよい。ここで、様々なPEタイプ、すなわちLDPE、LLDPE、MDPE、HDPEを、単独でまたは混合物としても、あるいはコポリマーの形でまたは多層状で、使用することができる。第二のラミネート層3の厚さは、包装用積層材1の用途に応じて、典型的には20μmと200μmとの間である。・・・【0032】第一のラミネート層2は、共押出の後に、機械方向(一般的に、長手もしくは押出方向)のみに延伸される。この際、延伸比は、機械方向で好ましくは少なくとも4:1である。この際、延伸は、インラインで(すなわち、共押出後に直接)またはオフラインで(すなわち、共押出からより後の時点で)行うことができる。一方向延伸は、二方向延伸よりも、本質的に比較的簡単かつコスト安に行うことができ、それにより製造コストを減少できる。・・・【0048】包装用積層材1を製造するためには、延伸した第一のラミネート層2及び第二のラミネート層3を、好ましくは押出積層法、押出コーティング法または接着積層法によって互いに接合し、ここで前記第二のラミネート層3は、第一のラミネート層2のバリア層6と接合されている。・・・【0050】この際、第二のラミネート層3は、好ましくはシーリング層7を形成し、これは、該包装用積層材1からなる包装材では、通常は包装された製品の方を向いている。・・・」
イ 甲1に記載された発明
以上より、特に翻訳文の【請求項8】、【請求項10】、【0015】、【0023】、【0024】、【0028】、【0032】、【0048】、【0050】に着目すると、甲1には以下の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
「第一のラミネート層2と第二のラミネート層3とを有する包装用積層材であって、前記第一のラミネート層2は、機械方向に延伸されており(MDO)、そして接合層5によって互いに接合された基材層4とバリア層6とを備え、バリアフィルムとして使用でき、前記基材層4は少なくとも60体積%の0.94と0.97g/cm3との間の密度を有するPEであるHDPE含有率を有し、前記バリア層6は、バリアポリマーから、好ましくはポリアミドまたはエチレンービニルアルコールコポリマーからなり、前記第一のラミネート層の全厚の最大20%の厚さを有し、ここで、前記接合層5は、前記基材層4と前記バリア層6との間に配置され、そして前記第一のラミネート層2は、それのバリア層6で前記第二のラミネート層3と接着積層法によって接合されており、第二のラミネート層3は、主にPEからなり、この際、第二のラミネート層3の全ポリマー量中のPE含有率は、場合により加えられる鉱物性もしくは他の充填材は含めずに少なくとも80体積%であるのがよく、シーリング層7を形成している、前記包装用積層材。」
ウ 本件発明1について
(ア) 対比
本件発明1と甲1発明とを、その機能、構造又は技術的意義を考慮して対比する。
甲1発明の「基材層4」、「バリア層6」は、本件発明1の「表層」、「バリア層」にそれぞれ相当する。
甲1発明の「第一のラミネート層2」は、「機械方向に延伸されており(MDO)」、「バリアフィルムとして使用でき」るから、本件発明1の「延伸フィルム」に相当し、「延伸フィルムが一体となり一軸あるいは二軸に延伸されている」構成を備える。
甲1発明の「第二のラミネート層3」は、「主にPEからなり」、「シーリング層7を形成している」から、本件発明1の「シーラントフィルム」に相当し、「シーラントフィルムが、ポリエチレン系樹脂を主成分とし」の構成を備える。
甲1発明の「包装用積層材」は、第一のラミネート層2と第二のラミネート層3とを有するので、本件発明1の「ラミネートフィルム」に相当する。
甲1発明の「第一のラミネート層2」は、「第二のラミネート層3と接着積層法によって接合され」ているから、本件発明1の「延伸フィルムとシーラントフィルムとが貼合された」構成を備える。
甲1発明の「少なくとも60体積%の0.94と0.97g/cm3との間の密度を有するPEであるHDPE含有率を有」することと、本件発明1の「密度が940~955kg/m3のポリエチレンを主成分とする」こととは、「ポリエチレンを主成分とする」限りにおいて一致する。
甲1発明の「バリア層6」は、「バリアポリマーから、好ましくはポリアミドまたはエチレンービニルアルコールコポリマーからな」るから、本件発明1の「エチレン-ビニルアルコール共重合体を主成分とするバリア層とを備え」の構成を備える。
以上のことから、本件発明1と、甲1発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。
[一致点A]
「延伸フィルムとシーラントフィルムとが貼合されたラミネートフィルムであって、前記延伸フィルムがポリエチレンを主成分とする表層と、エチレン-ビニルアルコール共重合体を主成分とするバリア層とを備え、前記シーラントフィルムが、ポリエチレン系樹脂を主成分とし、前記延伸フィルムが一体となり一軸あるいは二軸に延伸されている、ラミネートフィルム。」
[相違点1-1]
熱水収縮率について、本件発明1が「延伸フィルムが、MD方向及びTD方向の熱水収縮率が共に-10%~10%であ」るのに対し、甲1発明は、そのような特定がなされていない点。
[相違点1-2]
表層について、本件発明1が「密度が940~955kg/m3のポリエチレンを主成分とする表層」であるのに対し、甲1発明は、「基材層4は少なくとも60体積%の0.94と0.97g/cm3との間の密度を有するPEであるHDPE含有率を有」する点。
[相違点1-3]
本件発明1が「ラミネートフィルムに占める前記エチレン-ビニルアルコール共重合体の重量割合が0.1重量%以上10.0重量%以下、前記ラミネートフィルムに占めるエチレンモノマー成分の重合割合が80.0重量%以上99.9重量%以下であり、前記エチレン-ビニルアルコール共重合体に占めるエチレンモノマー成分の重合割合が30.0重量%以上50.0重量%以下であ」るのに対し、甲1発明は、そのような特定がなされていない点。
(イ) 判断
相違点1-1について検討する。
甲1には、第一のラミネート層2が、MD方向及びTD方向の熱水収縮率が共に-10%~10%であることは記載されていない。甲1の翻訳文の【0023】には、「該包装用積層材1中の第一のラミネート層2は、機械方向に延伸されており(MDO)」と記載されている。しかしながら、「第一のラミネート層2は、機械方向に延伸されて」いても、「熱水収縮率」に関しては何ら記載されておらず、「第一のラミネート層2」について「MD方向及びTD方向の熱水収縮率が共に-10%~10%である」とは認められない。また、本件特許明細書の【0020】に「本発明のラミネートフィルムにおいて用いられる延伸フィルムとは、延伸処理後、熱処理などにより収縮応力が緩和されたフィルムであって、熱により収縮させて使用する「熱収縮性フィルム」とは異なる。具体的には、フィルムのMD方向(=長さ方向)の熱水収縮率、TD方向(=幅方向)の熱水収縮率が、共に-10%~10%のフィルムである。」と記載されているところ、甲1の「第一のラミネート層2」は「熱収縮性フィルム」とは異なるものであったとしても、それが直ちに「MD方向及びTD方向の熱水収縮率が共に-10%~10%であること」を特定するとはいえない。
そうすると、甲1に記載されている事項、又は、記載されているに等しい事項から、本件発明1の前記相違点1-1に係る構成について、何ら把握することはできない。
したがって、前記相違点1-1は、実質的な相違点であるといえる。
さらに、甲1発明の「第一のラミネート層2」について、「MD方向及びTD方向の熱水収縮率が共に-10%~10%であること」とする動機付けもなく、甲1発明において、前記相違点1-1に係る本件発明1の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たものであるとはいえない。
よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明であるとはいえず、また、甲1発明に基づいて当業者が容易に想到し得たものであるともいえない。
(ウ) 申立人の主張について
申立人は、特許異議申立書の第23ページ等において、本件明細書の【0020】(審判注:「【0019】」は「【0020】」の誤記と認められる。)の「本発明のラミネートフィルムにおいて用いられる延伸フィルムとは、延伸処理後、熱処理などにより収縮応力が緩和されたフィルムであって、熱により収縮させて使用する「熱収縮性フィルム」とは異なる。具体的には、フィルムのMD方向(=長さ方向)の熱水収縮率、TD方向(=幅方向)の熱水収縮率が、共にー10%~10%のフィルムである。」との記載によると、「延伸処理後、熱処理などにより収縮応力が緩和されたフィルムであって、熱により収縮させて使用する「熱収縮性フィルム」とは異なるものであれば、構成要件A(審判注:「構成要件B」の誤記と認められる。)を満たすと認められる。」、甲1の【0023】の「該包装用積層材1中の第一のラミネート層2は、機械方向に延伸されており(MDO)」との記載によると「本件特許発明の属する技術分野において、MDO-PEは、熱収縮性フィルムとは異なるものとして認識されていることは明らかである。MDO-PEは印刷層などに使用されることを意図しており低収縮性が求められる一方で、熱収縮性フィルムは熱をかけた際に収縮することを目的とするものである。よって、甲1に記載の第一のラミネート層(2)は、熱収縮性フィルムとは異なるものであるといえる。よって、甲1に記載の第一のラミネート層(2)は、構成要件Bを満たす蓋然性が極めて高いといえる。」と主張する。
しかしながら、申立人が主張する「「熱収縮性フィルム」とは異なるものであれば、構成要件A(審判注:「構成要件B」の誤記と認められる。)を満たすと認められる。」等に関しては、上記(イ)で説示したとおりである。
よって、申立人の上記主張は採用できない。
(エ) 小括
以上によれば、相違点1-2及び1-3について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明ではなく、また、甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(2)本件発明2~5について
本件発明2~5は、本件発明1の発明特定事項をすべて含み、さらに限定を付加したものである。
そして、本件発明1が、甲1発明ではなく、また、甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない以上、本件発明2~5も、甲1発明ではなく、また、甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(3)新規性・進歩性についてのまとめ
したがって、本件発明1~5は、甲1発明ではなく、また、甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
2 申立理由1-2、申立理由2-2(甲2を主引例とする新規性・進歩性)について
(1)甲2に記載された事項・発明
ア 甲2には、次の事項が記載されている。
「【請求項1】ガスバリア性樹脂層と、ポリオレフィン樹脂層とを備え、ガスバリア性樹脂層およびポリオレフィン樹脂層が共押延伸樹脂フィルムであることを特徴とする、ガスバリア性積層体。【請求項2】続きを表示(全11行)前記ガスバリア性樹脂層と、前記ポリオレフィン樹脂層との間に、接着性樹脂層を備える、請求項1に記載のガスバリア性積層体。・・・【請求項4】基材と、請求項1~3のいずれか一項に記載のガスバリア性積層体と、ヒートシール層とを備え、前記基材が、ポリオレフィンにより構成される延伸樹脂フィルムであり、前記ヒートシール層がポリオレフィンにより構成され、前記基材を構成するポリオレフィンと、前記ガスバリア性積層体のポリオレフィン樹脂層を構成するポリオレフィンと、前記ヒートシール層を構成するポリオレフィンとが同一のポリオレフィンであることを特徴とする、包装材料用積層体。」
「【0020】(ガスバリア性積層体)本発明のガスバリア性積層体10は、図1に示すように、ガスバリア性樹脂層11と、ポリオレフィン樹脂層12とを備える。【0021】続きを表示(全16行)また、一実施形態において、ガスバリア性積層体10は、図2に示すように、ガスバリア性樹脂層11と、ポリオレフィン樹脂層12との間に、接着性樹脂層13を備えることができる。ガスバリア性樹脂層と、ポリオレフィン樹脂層との間に、接着性樹脂層をさらに備えることにより、これら層間の密着性をより向上することができる。・・・【0023】ガスバリア性積層体は、延伸樹脂フィルムから構成され、延伸樹脂フィルムは、一軸延伸樹脂フィルムであっても、二軸延伸樹脂フィルムであってもよい。・・・【0026】(ガスバリア性樹脂層)本発明のガスバリア性積層体を構成するガスバリア性樹脂層は、少なくとも1種のガスバリア性樹脂を含み、例えば、エチレン-ビニルアルコール共重合体(EVOH)、ポリビニルアルコール、ポリアクリロニトリル、ナイロン6、ナイロン6,6およびポリメタキシリレンアジパミド(MXD6)などのポリアミド、ポリエステル、ポリウレタン、並びに(メタ)アクリル樹脂などが挙げられ、これらの中でも、酸素バリア性および水蒸気バリア性という観点からは、EVOHが好ましい。【0027】EVOHにおけるエチレン含有量は、20質量%以上60質量%以下であることが好ましく、27質量%以上48質量%以下であることがより好ましい。EVOHにおけるエチレン含有量を20質量%以上とすることにより、本発明のガスバリア性積層体の加工適性を向上することができる。EVOHにおけるエチレン含有量は、60質量%以下とすることにより、本発明のガスバリア性積層体の酸素バリア性および水蒸気バリア性を向上することができる。」
「【0168】<<印刷適性評価>>上記実施例および比較例において、基材に形成した画像を目視により観察し、その印刷適性を以下の評価基準に基づいて、評価した。評価結果を表1にまとめた。(評価基準)○:印刷時の寸法安定性が良好であり、擦れ、滲みなどが生じていない良好な画像を形成することができていた。×:印刷時にフィルムの伸びまたは縮みが発生し、形成した画像に擦れや滲みが生じていた。」
イ 甲2に記載された発明
以上より、特に【請求項1】、【請求項4】、【0023】、【0026】、【0027】に着目すると、甲2には以下の発明(以下「甲2発明」という。)が記載されていると認められる。
「基材と、ガスバリア性積層体と、ヒートシール層とを備え、前記基材が、ポリオレフィンにより構成される延伸樹脂フィルムであり、前記ガスバリア性積層体が、ガスバリア性樹脂層と、ポリオレフィン樹脂層とを備え、ガスバリア性樹脂層およびポリオレフィン樹脂層が共押延伸樹脂フィルムであり、前記ヒートシール層がポリオレフィンにより構成され、前記基材を構成するポリオレフィンと、前記ガスバリア性積層体のポリオレフィン樹脂層を構成するポリオレフィンと、前記ヒートシール層を構成するポリオレフィンとが同一のポリオレフィンであり、前記ガスバリア性樹脂層は、少なくとも1種のガスバリア性樹脂を含み、酸素バリア性および水蒸気バリア性という観点からは、EVOHが好ましく、EVOHにおけるエチレン含有量は、27質量%以上48質量%以下であり、前記ガスバリア性積層体は、延伸樹脂フィルムから構成され、延伸樹脂フィルムは、一軸延伸樹脂フィルムであっても、二軸延伸樹脂フィルムであってもよい、包装材料用積層体。」
ウ 本件発明1について
(ア) 対比
本件発明1と甲2発明とを、その機能、構造又は技術的意義を考慮して対比する。
甲2発明の「ガスバリア性積層体」は、「ガスバリア性樹脂層と、ポリオレフィン樹脂層とを備え、ガスバリア性樹脂層およびポリオレフィン樹脂層が共押延伸樹脂フィルム」であるから、本件発明1の「延伸フィルム」に相当する。
甲2発明の「ヒートシール層」は、本件発明1の「シーラントフィルム」に相当する。
甲2発明の「包装材料用積層体」は、「ガスバリア性樹脂層と、ポリオレフィン樹脂層とを備え、ガスバリア性樹脂層およびポリオレフィン樹脂層が共押延伸樹脂フィルム」である「ガスバリア性積層体」と「ヒートシール層とを備え」るので、本件発明1の「ラミネートフィルム」に相当する。
甲2発明の「基材と、ガスバリア性積層体と、ヒートシール層とを備え」は、本件発明1の「延伸フィルムとシーラントフィルムとが貼合された」と、「延伸フィルムとシーラントフィルムとを備え」る限りにおいて相当する。
甲2発明の「ポリオレフィン樹脂層」、「ガスバリア性樹脂層」は、それぞれ本件発明1の「表層」、「バリア層」に相当する。
甲2発明の「前記ガスバリア性樹脂層は、少なくとも1種のガスバリア性樹脂を含み、酸素バリア性および水蒸気バリア性という観点からは、EVOHが好ましく、EVOHにおけるエチレン含有量は、27質量%以上48質量%以下であり」は、本件発明1の「エチレン-ビニルアルコール共重合体を主成分とするバリア層とを備え」る構成を備える。
甲2発明の「ガスバリア性積層体は、延伸樹脂フィルムから構成され、延伸樹脂フィルムは、一軸延伸樹脂フィルムであっても、二軸延伸樹脂フィルムであってもよい」ことは、本件発明1の「延伸フィルムが一体となり一軸あるいは二軸に延伸されていること」に相当する。
以上のことから、本件発明1と、甲2発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。
[一致点B]
「延伸フィルムとシーラントフィルムとを備えたラミネートフィルムであって、前記延伸フィルムが、表層と、エチレン-ビニルアルコール共重合体を主成分とするバリア層とを備え、前記延伸フィルムが一体となり一軸あるいは二軸に延伸されている、ラミネートフィルム。」
[相違点2-1]
熱水収縮率について、本件発明1が「延伸フィルムが、MD方向及びTD方向の熱水収縮率が共に-10%~10%であ」るのに対し、甲2発明は、そのような特定がなされていない点。
[相違点2-2]
表層について、本件発明1が「密度が940~955kg/m3のポリエチレンを主成分とする表層」であるのに対し、甲2発明は、「ポリオレフィン樹脂層」に関して、そのような特定がなされていない点。
[相違点2-3]
本件発明1が「ラミネートフィルムに占める前記エチレン-ビニルアルコール共重合体の重量割合が0.1重量%以上10.0重量%以下、前記ラミネートフィルムに占めるエチレンモノマー成分の重合割合が80.0重量%以上99.9重量%以下であり、前記エチレン-ビニルアルコール共重合体に占めるエチレンモノマー成分の重合割合が30.0重量%以上50.0重量%以下であ」るのに対し、甲2発明は、そのような特定がなされていない点。
[相違点2-4]
シーラントフィルムについて、本件発明1が「ポリエチレン系樹脂を主成分とし」ているのに対し、甲2発明は、「ヒートシール層がポリオレフィンにより構成され」、「ポリエチレン系樹脂を主成分とし」ているか不明な点。
[相違点2-5]
延伸フィルムとシーラントフィルムを備える態様に関し、本件発明1が「延伸フィルムとシーラントフィルムとが貼合され」ているのに対し、甲2発明は、ガスバリア性積層体とヒートシール層とが貼合されているのか不明である点。
(イ) 判断
相違点2-1について検討する。
甲2には、ガスバリア性積層体が、MD方向及びTD方向の熱水収縮率が共に-10%~10%であることは記載されていない。甲2の【0023】には、「本発明者らは、従来ヒートシール層として使用していたポリオレフィンを、延伸樹脂フィルムにすることで基材として使用でき、当該基材を、同一のポリオレフィンから構成されるヒートシール層と積層して使用することで、包装材料として十分な強度や耐熱性を有し、かつ高いリサイクル性を有する包装材料とすることができるとの知見を得た。」、【0168】には「<<印刷適性評価>>
上記実施例および比較例において、基材に形成した画像を目視により観察し、その印刷適性を以下の評価基準に基づいて、評価した。評価結果を表1にまとめた。
(評価基準)
○:印刷時の寸法安定性が良好であり、擦れ、滲みなどが生じていない良好な画像を形成することができていた。」と記載され、【0173】の【表1】における「実施例1~3」及び「比較例2~3」の「印刷適性評価」が「○」であることが記載されている。
しかしながら、甲2発明の「包装材料用積層体」の印刷時の寸法安定性が良好であったとしても「熱水収縮率」に関しては何ら記載されておらず、「ガスバリア性積層体」について「MD方向及びTD方向の熱水収縮率が共に-10%~10%である」とは認められない。また、本件特許明細書の【0020】に「本発明のラミネートフィルムにおいて用いられる延伸フィルムとは、延伸処理後、熱処理などにより収縮応力が緩和されたフィルムであって、熱により収縮させて使用する「熱収縮性フィルム」とは異なる。具体的には、フィルムのMD方向(=長さ方向)の熱水収縮率、TD方向(=幅方向)の熱水収縮率が、共に-10%~10%のフィルムである。」と記載されているところ、甲2の「ガスバリア性積層体」は「熱収縮性フィルム」とは異なるものであったとしても、それが直ちに「MD方向及びTD方向の熱水収縮率が共に-10%~10%であること」を特定するとはいえない。
そうすると、甲2に記載されている事項、又は、記載されているに等しい事項から、本件発明1の前記相違点2-1に係る構成について、何ら把握することはできない。
したがって、前記相違点2-1は、実質的な相違点であるといえる。
さらに、甲2の「ガスバリア性積層体」について、「MD方向及びTD方向の熱水収縮率が共に-10%~10%であること」とする動機付けもなく、甲2発明において、前記相違点2-1に係る本件発明1の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たものであるとはいえない。
よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲2発明であるとはいえず、また、甲2発明に基づいて当業者が容易に想到し得たものであるともいえない。
(ウ) 申立人の主張について
申立人は、特許異議申立書の第27~28ページ等において、本件明細書の【0020】(審判注:「【0019】」は「【0020】」の誤記と認められる。)の上記記載によると、「延伸処理後、熱処理などにより収縮応力が緩和されたフィルムであって、熱により収縮させて使用する「熱収縮性フィルム」とは異なるものであれば、構成要件Bを満たすと認められる。」、甲2の【0038】、【0168】の上記記載によると「通常、熱収縮フィルムは熱をかけて収縮させることを意図しており、収縮するということは寸法安定性がないということであるため、甲2に記載のガスバリア性積層体は、熱収縮性フィルムとは異なるものであるといえる。よって、甲2に記載のガスバリア性積層体は、構成要件Bを満たす蓋然性が極めて高いといえる。」と主張する。
しかしながら、申立人が主張する「「熱収縮性フィルム」とは異なるものであれば、構成要件Bを満たすと認められる。」等に関しては、上記(イ)で説示したとおりである。申立人の上記主張は採用できない。
(エ) 小括
以上によれば、相違点2-2~2-5について検討するまでもなく、本件発明1は、甲2発明ではなく、また、甲2発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(2)本件発明2~5について
本件発明2~5は、本件発明1の発明特定事項をすべて含み、さらに限定を付加したものである。
そして、本件発明1が、甲2発明ではなく、また、甲2発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない以上、本件発明2~5も、甲2発明ではなく、また、甲2発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(3)新規性・進歩性についてのまとめ
したがって、本件発明1~5は、甲2発明ではなく、また、甲2発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
3 申立理由3(明確性)について
(1)判断手法
特許法36条6項2号は、特許請求の範囲の記載に関し、特許を受けようとする発明が明確でなければならない旨規定するところ、この趣旨は、特許請求の範囲に記載された発明が明確でない場合には、特許の付与された発明の技術的範囲が不明確となり、第三者に不測の不利益を及ぼすことがあり得るため、そのような不都合な結果を防止することにある。そして、特許を受けようとする発明が明確であるか否かは、特許請求の範囲の記載のみならず、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願時における技術的常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。
(2)「重合割合」について
ア 判断
本件発明1は、「前記ラミネートフィルムに占めるエチレンモノマー成分の重合割合が80.0重量%以上99.9重量%以下であ」ることを特定するものである。すなわち、「前記ラミネートフィルムに占めるエチレンモノマー成分の」「割合」について、「80.0重量%以上99.9重量%以下」と特定しており、その「割合」の単位が「重量%」により特定しているから、「重合割合」は「重量割合」の誤記であることが理解できる。
しかも、本件特許明細書の【0011】には、「前記ラミネートフィルムに占める前記エチレン-ビニルアルコール共重合体の重量割合が0.1重量%以上10.0重量%以下、前記ラミネートフィルムに占めるエチレンモノマー成分の重量割合が80.0重量%以上99.9重量%以下であること」、【0019】には、「本発明のラミネートフィルムは、多層構成ではあるが、該フィルムに占めるエチレンモノマー成分の重量割合が80.0重量%以上である為、上位還元することが可能である。エチレンモノマー成分の重量割合は85.0重量%以上であることが好ましく、特に90.0重量%以上、更には95.0重量%以上であることが好ましい。エチレンモノマー成分の重量割合が80.0重量%未満であると、・・・」等と記載されており、「重合割合」は「重量割合」の誤記であるとの理解と整合する。
そうすると、請求項1における「前記ラミネートフィルムに占めるエチレンモノマー成分の重合割合が80.0重量%以上99.9重量%以下であり」との記載中の「重合割合」は、「重量割合」の誤記であることは明らかであるから、本件発明1が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるとはいえない。
また、本件発明1を引用する本件発明2~5についても同様である。
イ 申立人の主張について
申立人は、特許異議申立書の第29ページ等において、「本件特許の請求項1における「前記ラミネートフィルムに占めるエチレンモノマー成分の重合割合が80.0重量%以上99.9重量%以下であり」との記載中の「重合割合」との記載が明確ではない。本件特許明細書には「重合割合」の定義の記載がなく、その意味するところが判然としない。」と主張する。
しかしながら、前記「重合割合」は「重量割合」の誤記であると理解できることは、上記アで述べたとおりである。
よって、上記申立人の主張は採用できない。
第5 むすび
以上のとおり、請求項1~5に係る特許は、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、取り消すことができない。
また、他に請求項1~5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2025-700043