特許異議申立
2025-700019
透明導電性フィルム
- 審判番号
- 2025-700019
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2022-180615外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 登録番号
- 7509852
- 請求日
- 2024年12月24日
- 審決日
- 2025年08月18日
- 公報発行日
- 2025年11月28日
- 結論
- 訂正認容
- 分類
- P1651.113-YAA(B32B) / P1651.121-YAA(B32B) / P1651.537-YAA(B32B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第113条、特許法第36条、特許法第120条の5第2項、特許法第29条
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7509852号発明「透明導電性フィルム」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7509852号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~2について訂正することを認める。
特許第7509852号の請求項1ないし2に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続等の経緯
特許第7509852号(以下「本件特許」という。)の請求項1~2に係る特許についての出願(特願2022-180615号)は、令和4年11月10日の出願であって、令和6年6月24日にその特許権の設定登録がされ、令和6年7月2日に特許掲載公報が発行された。
本件特許について、特許掲載公報の発行の日から6月以内である令和6年12月24日に特許異議申立人 平居 博美(以下「特許異議申立人」という。)から請求項1~2(全請求項)に対して特許異議の申立てがされた。その後の手続等の経緯の概要は、以下のとおりである。
令和7年 3月26日付け:取消理由通知書
同年 5月22日 :意見書(特許権者)の提出
同日 :訂正請求書(この訂正請求書による訂正の
請求を、以下「本件訂正請求」という。)
の提出
同年 6月 2日付け:訂正請求があった旨の通知書
なお、当合議体が令和7年6月2日付け通知書でした訂正請求があった旨の通知に対し、特許異議申立人は意見書を提出しなかった。
第2 本件訂正請求について
1 訂正の趣旨
本件訂正請求の趣旨は、特許第7509852号の特許請求の範囲を、本件補正後の訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~2について訂正することを求める、というものである。
2 訂正の内容
本件訂正請求において特許権者が求める請求項1~2についての訂正は、以下のとおりである。なお、下線は当合議体が付したものであり、訂正箇所を示す。
(1)訂正事項1-1
特許請求の範囲の請求項1に、
「前記透明導電層が、2.0×1020cm-3以上の水素原子を含有し、」
と記載されているのを、
「前記透明導電層が、2.0×1020cm-3以上30×1020cm-3以下の水素原子を含有し、」
に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2についても、同様に訂正する。)。
(2)訂正事項1-2
特許請求の範囲の請求項1に、
「以上の比抵抗を有する」
と記載されているのを、
「以上6.5×10-4Ω・cm以下の比抵抗を有する」
に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2についても、同様に訂正する。)。
(3)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1に
「4.1×10?4Ω・cm」
と記載されているのを、
「4.1×10-4Ω・cm」
に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2についても、同様に訂正する。)。
3 訂正の適否
(1)訂正事項1-1について
訂正事項1-1に係る訂正は、請求項1において、透明導電層の水素原子含有量の値の範囲を限定する訂正である。そして、この点は、請求項1の記載を引用して記載された請求項2についてみても、同じである。
そうすると、訂正事項1-1に係る訂正は、「特許請求の範囲の減縮」を目的とする訂正に該当する。
また、訂正事項1-1に係る訂正によって、訂正前の特許請求の範囲には含まれないこととされた発明が訂正後の特許請求の範囲に含まれることとならないことは明らかである。
そうすると、訂正事項1-1に係る訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正に該当しない。
さらに、訂正事項1-1に係る訂正は、本件特許の明細書の【0024】の記載から導き出すことができる事項であり、当業者によって、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものである。
そうすると、訂正事項1-1に係る訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてした訂正である。
(2)訂正事項1-2について
訂正事項1-2に係る訂正は、請求項1において、透明導電層の比抵抗の値の範囲を限定する訂正である。そして、この点は、請求項1の記載を引用して記載された請求項2についてみても、同じである。
そうすると、訂正事項1-2に係る訂正は、「特許請求の範囲の減縮」を目的とする訂正に該当する。
また、訂正事項1-2に係る訂正によって、訂正前の特許請求の範囲には含まれないこととされた発明が訂正後の特許請求の範囲に含まれることとならないことは明らかである。
そうすると、訂正事項1-2に係る訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正に該当しない。
さらに、訂正事項1-2に係る訂正は、本件特許の明細書の【0025】の記載から導き出すことができる事項であり、当業者によって、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものである。
そうすると、訂正事項1-2に係る訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてした訂正である。
(3)訂正事項2について
訂正事項2に係る訂正は、請求項1において、透明導電層の比抵抗の値である「4.1×10?4Ω・cm」を「4.1×10-4Ω・cm」とする訂正である。そして、この点は、請求項1の記載を引用して記載された請求項2についてみても、同じである。
ここで、本件特許の明細書の【0081】【表1】に記載された「比抵抗」の値からみて、「4.1×10?4Ω・cm」が「4.1×10-4Ω・cm」の誤記であることは明らかである。
そうすると、訂正事項2に係る訂正は、「誤記又は誤訳の訂正」を目的とする訂正に該当する。
また、訂正事項2に係る訂正によって、訂正前の特許請求の範囲には含まれないこととされた発明が訂正後の特許請求の範囲に含まれることとならないことは明らかである。
そうすると、訂正事項2に係る訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正に該当しない。
さらに、訂正事項2に係る訂正は、本件特許の明細書の【0081】【表1】の記載から導き出すことができる事項であり、当業者によって、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものである。
そうすると、訂正事項2に係る訂正は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてした訂正である。
(3)小括
以上のとおりであるから、本件訂正請求による請求項1~2についての訂正(訂正事項1-1、1-2及び2に係る訂正)は、特許法120条の5第2項ただし書、同法同条9項において準用する同法126条5項及び6項の規定に適合する。
よって、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~2について訂正することを認める。
第3 本件特許発明
上記「第2」のとおり、本件訂正請求による訂正は認められることとなったから、本件特許の請求項1~2に係る発明(以下、請求項の番号とともに「本件特許発明1」などという。)は、特許請求の範囲の請求項1~2に記載された事項によって特定されるとおりの、以下のものである。
「【請求項1】
透明基材と透明導電層とを厚さ方向にこの順で備える透明導電性フィルムであって、
前記透明基材が、厚さ1μm以上500μm以下である樹脂フィルムであり、
前記透明導電層が非晶領域と結晶粒とを含み、
前記透明導電層が、インジウムスズ複合酸化物からなり、
前記透明導電層が、2.0×1020cm-3以上30×1020cm-3以下の水素原子を含有し、
前記透明導電層が、4.1×10-4Ω・cm以上6.5×10-4Ω・cm以下の比抵抗を有する、透明導電性フィルム。
【請求項2】
前記透明導電層が、140℃および30分間の加熱後に非晶領域と結晶粒とを含む、請求項1に記載の透明導電性フィルム。」
第4 取消しの理由の概要
令和7年3月26日付け取消理由通知書により特許権者に通知した取消しの理由は、概略、次のとおりのものである。
理由1(新規性欠如):本件特許の請求項1及び2に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった、下記甲第1号証に記載された発明であって、特許法29条1項3号に掲げる発明に該当するから、請求項1及び2に係る特許は、同条の規定に違反してされたものである。
理由2(サポート要件違反):本件特許の請求項1及び2に係る発明は発明の詳細な説明に記載したものでないから、請求項1及び2に係る特許は、特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
理由3(明確性要件違反):本件特許の請求項1及び2に係る発明は明確でないから、請求項1及び2に係る特許は、特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
引用文献
甲第1号証:国際公開第2020/031632号(以下「甲1」という。)
第5 取消理由通知書で通知した取消しの理由についての当合議体の判断
1 理由1(新規性欠如)について
(1)甲1発明
甲1に記載された実施例1の光透過性導電フィルム([0096]~[0098]、[0101]~[0110][表1])の発明を、甲1発明とする。
(2)本件特許発明1について
ア 対比・判断
(ア)対比
本件特許発明1と甲1発明を対比すると、両者は以下の点で相違する。
(相違点1)
本件特許発明1は、「透明導電層が、2.0×1020cm-3以上30×1020cm-3以下の水素原子を含有」するのに対し、甲1発明は、光透過性導電層の水素原子含有量が特定されていない点。
(イ)判断
本件特許明細書の【0024】、【0036】、【0061】~【0069】、【0071】~【0074】及び【0081】【表1】の記載からみて、本件特許明細書に記載された実施例1~4の透明導電性フィルムの透明導電層が2.0×1020cm-3以上30×1020cm-3以下の水素原子を含有するためには、スパッタ成膜装置の成膜室内の水分圧を1.4×10-4Pa以上3.8×10-4Pa以下程度とすることが必要であり、また、スパッタ成膜装置の成膜室内の水分圧が大きいほど透明導電層の水素原子含有量が大きくなると推測される(特許異議申立書12~14ページ「(e)構成要件E」の記載及び令和7年5月22日提出の意見書2~6ページ「(3)取消理由1について」の記載も参照のこと。)。そして、甲1発明を製造する際の成膜室内の水分圧は120×10-4Pa(スパッタリング条件:真空雰囲気(気圧0.2Pa)、真空雰囲気の水分圧比(H2O/全圧)0.06)であり、上記の必要とされる水分圧の上限値3.8×10-4Paを大幅に超えているから、甲1発明の光透過性導電層の水素原子含有量が30×1020cm-3以下である蓋然性は極めて低い。
そうすると、相違点1は実質的な相違点である。
したがって、本件特許発明1は、甲1に記載された発明ではない。
イ 甲1に記載された実施例2の光透過性導電フィルム([0096]~[0099]、[0101]~[0110][表1])の発明を引用発明とした場合も、上記アと同様である。
ウ 小括
以上のとおりであるから、請求項1に係る特許は、特許法113条2号に該当せず、取り消すべきものでない。
(3)本件特許発明2について
請求項2は請求項1を引用するものであって、本件特許発明2は本件特許発明1の構成を全て具備し、これに限定を加えたものに該当する。
そうすると、上記(2)と同様の理由により、本件特許発明2は、甲1に記載された発明ではなく、請求項2に係る特許は、特許法113条2号に該当せず、取り消すべきものでない。
2 理由2(サポート要件違反)について
本件特許の特許請求の範囲の請求項1における透明導電層の「比抵抗」の値の範囲が、上記「第2」のように訂正されたことにより、請求項1及び請求項1を引用する請求項2の記載はサポート要件を満たすことになった。
したがって、請求項1~2に係る特許は、特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものではないから、特許法113条4号に該当せず、取り消すべきものでない。
3 理由3(明確性要件違反)について
本件特許の特許請求の範囲の請求項1における誤記が、上記「第2」のように訂正されたことにより、請求項1及び請求項1を引用する請求項2の記載は明確性要件を満たすことになった。
したがって、請求項1~2に係る特許は、特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものではないから、特許法113条4号に該当せず、取り消すべきものでない。
第6 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
1 進歩性欠如について
ア 本件特許発明1について
(ア)本件特許発明1と甲1発明を対比すると、両者は上記相違点1で相違する。
上記相違点1について検討する。
甲1には光透過性導電層の水素原子含有量に関する開示が一切ないから、甲1発明において、光透過性導電層の水素原子含有量を特定の範囲の値とする動機付けはない。
そうすると、甲1発明において、相違点1に係る構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことではない。
したがって、本件特許発明1は、甲1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではないから、請求項1に係る特許は、特許法113条2号に該当せず、取り消すべきものでない。
(イ)甲1に記載された実施例2の光透過性導電フィルム([0096]~[0099]、[0101]~[0110][表1])の発明を引用発明とした場合も、上記(ア)と同様である。
イ 本件特許発明2について
請求項2は請求項1を引用するものであって、本件特許発明2は本件特許発明1の構成を全て具備し、これに限定を加えたものに該当する。
そうすると、上記アと同様の理由により、請求項2に係る特許は、特許法113条2号に該当せず、取り消すべきものでない。
2 サポート要件違反について
非晶質透明導電層は高抵抗(結晶質透明導電層は低抵抗)であるから、透明導電層の「比抵抗」の値の範囲が定まれば、「非晶領域と結晶領域の構成比率」の値の範囲もおのずと定まると認められる。
そうすると、上記「第2」のように透明導電層の「比抵抗」の値の範囲が訂正された本件特許の特許請求の範囲の請求項1に、「非晶領域と結晶領域の構成比率」に関する記載がなくても、請求項1及び請求項1を引用する請求項2の記載はサポート要件を満たしている。
したがって、請求項1~2に係る特許は、特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものではないから、特許法113条4号に該当せず、取り消すべきものでない。
3 明確性要件違反について
上記「第2」のように透明導電層の「比抵抗」の値の範囲が訂正された本件特許の特許請求の範囲の請求項1に係る発明の場合には、本件特許の明細書の【0074】及び【0075】の記載された手順に従えば、当業者は透明導電層が結晶粒を含むか否かを判断できると認められるから、請求項1の「前記透明導電層が非晶領域と結晶粒とを含み」という記載は明確である。
したがって、請求項1~2に係る特許は、特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものではないから、特許法113条4号に該当せず、取り消すべきものでない。
第7 むすび
請求項1~2に係る特許は、いずれも、取消理由通知書によって通知した取消しの理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては取り消すことはできない。また、他に請求項1~2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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