特許異議申立
2025-700013
セルロース繊維乾燥体及びその製造方法、並びに樹脂複合体の製造方法
- 審判番号
- 2025-700013
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2020-073660
- 登録番号
- 7504650
- 請求日
- 2024年12月24日
- 審決日
- 2025年03月17日
- 公報発行日
- 2025年06月27日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】旭化成株式会社
- 【権利者代理人】青木 篤
- 【権利者代理人】三橋 真二
- 【権利者代理人】中村 和広
- 【権利者代理人】齋藤 都子
- 【権利者代理人】三間 俊介
- 【異議申立人】山本 真優子
- 審判長/審判官
- 審判長 阪野 誠司
- 審判官 野田 定文
- 審判官 木村 敏康
- 分類
- P1652.121-Y (C08B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7504650号発明「セルロース繊維乾燥体及びその製造方法、並びに樹脂複合体の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7504650号の請求項1~11に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7504650号(以下「本件特許」という。)の請求項1~14に係る特許についての出願は、令和2年4月16日に特願2020-73660号として出願され、令和6年6月14日にその請求項1~14に係る特許権の設定登録がなされ、令和6年6月24日に特許掲載公報が発行され、その請求項1~11に係る特許に対し、令和6年12月24日(差出日)に山本真優子(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがなされたものである。
第2 本件特許発明
特許異議の申立てがなされた本件特許の請求項1~11に係る発明は、その特許請求の範囲の請求項1~11に記載された次の事項により特定されるとおりのものである(以下、本件特許の請求項1~11に係る発明を「本1発明」~「本11発明」と略記する場合がある。)。
「【請求項1】
セルロース繊維と分散剤とを含むセルロース繊維乾燥体であって、
前記セルロース繊維が、数平均繊維径2nm~1000nmを有し、
前記セルロース繊維乾燥体が、圧縮度5~23%を有し、
安息角45°未満、差角10°超、ゆるめ嵩密度0.35~0.85g/cm3、及びあつめ嵩密度0.6~0.9g/cm3からなる群から選ばれる1つ以上を有する、セルロース繊維乾燥体。
【請求項2】
前記セルロース繊維が、エステル化されているセルロース繊維である、請求項1に記載のセルロース繊維乾燥体。
【請求項3】
前記エステル化が、アセチル化である、請求項2に記載のセルロース繊維乾燥体。
【請求項4】
前記セルロース繊維の平均置換度(DS)が0.1~1.2である、請求項2又は3に記載のセルロース繊維乾燥体。
【請求項5】
前記分散剤が、HLB値0.1以上、8.0未満、融点80℃以下、及び数平均分子量1000~50000を有する化合物である、請求項1~4のいずれか一項に記載のセルロース繊維乾燥体。
【請求項6】
ゆるめ嵩密度0.35~0.85g/cm3、及びあつめ嵩密度0.6~0.9g/cm3を有する、請求項1~5のいずれか一項に記載のセルロース繊維乾燥体。
【請求項7】
前記セルロース繊維の平均繊維長(L)/繊維径(D)比が30~5000である、請求項1~6のいずれか一項に記載のセルロース繊維乾燥体。
【請求項8】
前記セルロース繊維が、重量平均分子量(Mw)100000以上、及び重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn)比6以下を有する、請求項1~7のいずれか一項に記載のセルロース繊維乾燥体。
【請求項9】
前記セルロース繊維の結晶化度が60%以上である、請求項1~8のいずれか一項に記載のセルロース繊維乾燥体。
【請求項10】
前記セルロース繊維のアルカリ可溶多糖類含有率が、20質量%以下である、請求項1~9のいずれか一項に記載のセルロース繊維乾燥体。
【請求項11】
水分率が30質量%以下である、請求項1~10のいずれか一項に記載のセルロース繊維乾燥体。」
第3 特許異議申立理由の概要
1.申立理由(進歩性)
申立人が主張する申立理由の概要は、次のとおりである。
本件特許発明1、6及び11は、甲1発明及び甲第2号証から甲第8号証に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
本件特許発明2~4は、甲1発明及び甲第2号証から甲第9号証に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
本件特許発明5は、甲1発明及び甲第2号証から甲第10号証に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
本件特許発明7~10は、甲1発明及び甲第2号証から甲第11号証に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
よって、請求項1~11に係る本件特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである(申立書の第35~36頁)。
2.甲第1~11号証
申立人が提示する甲第1~11号証(以下「甲1」~「甲11」のように略記する場合がある。)は、次のとおりである。
甲第1号証:特開2014-162880号公報
甲第2号証:特開2019-14838号公報
甲第3号証:特開2018-104702号公報
甲第4号証:特開2018-204147号公報
甲第5号証:国際公開第2020/054810号
甲第6号証:特開2017-057285号公報
甲第7号証:特開2017-057284号公報
甲第8号証:国際公開第2020/059859号
甲第9号証:特開2019-156868号公報
甲第10号証:国際公開第2019/208313号
甲第11号証:国際公開第2020/050286号
なお、申立人が甲第5号証として添付した書証それ自体は、特許庁が発行した再公表特許公報(発行日:令和3年8月30日)であって、世界知的所有権機関(WIPO)国際事務局が発行する国際公開(国際公開日:2020年3月19日)ではないが、甲第5号証については、本件特許の特許出願前に日本国内又は外国において電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった「国際公開第2020/054810号」を証拠として提示しているものと解する。また、甲第8、10及び11号証についても対応する国際公開を証拠として提示しているものと解する。
第4 当審の判断
1.申立人の申立理由(進歩性)について
(1)甲1の記載事項
甲1には、次の記載がある。
摘記1a:請求項1
「【請求項1】
セルロースと、分散剤とを含む組成物であって、
該分散剤が樹脂親和性セグメントAとセルロース親和性セグメントBとを有し、ブロック共重合体構造又はグラジエント共重合体構造を有するものであることを特徴とする、組成物。」
摘記1b:段落0009、0059及び0149
「【0009】
本発明は、樹脂に対し、セルロースの分散性を向上させることができる、セルロースと、分散剤とを含む組成物を提供することを目的とする。…
【0054】
本発明では、セルロース繊維として、ナノセルロースを用いることが好ましい。本発明において、「ナノセルロース」とは、セルロース繊維を含む材料(例えば、木材パルプ等)を、その繊維をナノサイズレベルまで解きほぐした(解繊処理した)セルロースナノファイバー(CNF)及びセルロースナノクリスタル(CNC)である。…
【0149】
セルロース(パルプ、CNF、CNC等)と樹脂(PP、PE等)とを混ぜると、セルロースと樹脂とが相分離し、セルロース繊維が沈殿する。セルロースと樹脂とを混合する前に、分散剤を水/N-メチルピロリドン(NMP)エマルションとして添加することで、セルロースの凝集を抑制することができる。分散剤エマルジョンの共存下、セルロースの解繊工程により、樹脂組成物(成型材料、成型体)の強度を高めることができる。」
摘記1c:段落0207~0210
「【0207】
実施例
1.分散剤(ブロック共重合体)
(1)ブロック共重合体P001
樹脂親和性セグメント(A鎖)になるモノマー(DCPOEMA)を両親媒性な溶媒(例えばプロピレングリコール、モノプロピルエーテル)に溶解させ、触媒存在下、リビングラジカル重合に供した。所定時間後に、セルロース繊維親和性セグメント(B鎖)になるモノマー(HEMA)を添加してブロック共重合体を合成した。調製したブロック共重合体を含水メタノールに滴下し、固体として析出させた。触媒及び残存モノマーを除去した。
【0208】
2.セルロース(ナノセルロース(CNF))の調製
針葉樹漂白クラフトパルプ(NBKP)(リファイナー処理済み、王子製紙(株)製、固形分25%)を600g、水19.94kg添加し、水懸濁液を調製した(パルプスラリー濃度0.75重量%の水懸濁液)。得られたスラリーはビーズミル(NVM-2、アイメックス(株)製)を用いて機械的解繊処理を行った(ジルコニアビーズ直径1mm、ビーズ充填量70%、回転数2000rpm、処理回数2回)。解繊処理を行った後、フィルタープレスで脱水した。
【0209】
3.分散剤(ブロック共重合体)を用いたセルロース繊維-樹脂成型体の製造
(1)CNF/P001/NMP分散液の調製方法(図12)
含水CNFに、NMP(N-メチルピロリドン)を、最適な水/NMP比(P001の場合は1/1の比率)となるように添加した後、ブロック共重合体(分散剤)エマルション(水/NMP比は分散剤に依存:P001の場合は1/1の比率)を添加(前添加)し、混合した。所定時間後に、加温(80℃)及び減圧条件により水を留去し、或いはろ過及びプレスにより水及びNMPを除去することで、CNF/P001/NMP及びCNF/P001/NMP/水を調製した。
【0210】
(2)PE/CNF/P001樹脂組成物の調製方法(図13)
前記(1)で得たCNF/P001/NMPを、プロトン性有機溶媒(エタノール(EtOH))に分散させ、ろ過した。未吸着の分散剤をゲルパーミエーションクロマトグラフ等で定量した。プロトン性有機溶媒に再分散させてポリエチレン(PE)樹脂(HE3040及びJ320)を添加し、混合した。ろ過により溶媒を除いたのち、ブロック共重合体(分散剤)P001のTHF溶液を添加した(後添加)。混合した後、減圧乾燥により有機溶媒を除去した。PE/CNF/P001の樹脂組成物を得た。」
(2)甲1発明
摘記1aの「【請求項1】セルロースと、分散剤とを含む組成物であって、該分散剤が樹脂親和性セグメントAとセルロース親和性セグメントBとを有し、ブロック共重合体構造又はグラジエント共重合体構造を有するものであることを特徴とする、組成物。」との記載(下線は当審合議体による。以下同じ。)、
摘記1bの「本発明は、樹脂に対し、セルロースの分散性を向上させることができる、セルロースと、分散剤とを含む組成物を提供することを目的とする。…本発明では、セルロース繊維として、ナノセルロースを用いることが好ましい。本発明において、「ナノセルロース」とは、セルロース繊維を含む材料(例えば、木材パルプ等)を、その繊維をナノサイズレベルまで解きほぐした(解繊処理した)セルロースナノファイバー(CNF)及びセルロースナノクリスタル(CNC)である。…セルロースと樹脂とを混合する前に、分散剤を水/N-メチルピロリドン(NMP)エマルションとして添加することで、セルロースの凝集を抑制することができる。」との記載、及び
摘記1cの「実施例…分散剤(ブロック共重合体)…ブロック共重合体P001…セルロース(ナノセルロース(CNF))の調製…(1)CNF/P001/NMP分散液の調製方法(図12)…含水CNFに、NMP(N-メチルピロリドン)を…添加した後、ブロック共重合体(分散剤)エマルション…を添加(前添加)し、混合した。所定時間後に、加温(80℃)及び減圧条件により水を留去し、或いはろ過及びプレスにより水及びNMPを除去することで、CNF/P001/NMP及びCNF/P001/NMP/水を調製した。」との記載からみて、甲1には、(1)の「CNF/P001/NMP分散液」の具体例として、
『セルロース繊維をナノサイズレベルまで解砕処理したセルロースナノファイバー(CNF)と、分散剤(ブロック共重合体P001)と、N-メチルピロリドン(NMP)とを含む分散液(組成物)。』についての発明(以下「甲1発明」という。)が記載されているといえる。
(3)対比
本1発明と甲1発明とを対比する。
甲1発明の「セルロース繊維をナノサイズレベルまで解砕処理したセルロースナノファイバー(CNF)」は、ナノサイズレベルにまで解砕処理されたCNFであるから、本1発明の「セルロース繊維」及び「前記セルロース繊維が、数平均繊維径2nm~1000nmを有し」に相当する。
甲1発明の「分散剤(ブロック共重合体P001)」は、本1発明の「分散剤」に相当する。
甲1発明のCNFを含む「分散液(組成物)」と、本1発明の「セルロース繊維乾燥体」は、両者とも「組成物」という点において共通する。
してみると、本1発明と甲1発明は、両者とも『セルロース繊維と分散剤とを含む組成物であって、前記セルロース繊維が、数平均繊維径2nm~1000nmを有する、組成物。』という点において一致し、次の(α)及び(β)の点において相違する。
(α)組成物が、本1発明は「乾燥体」であるのに対して、甲1発明は「分散液」である点
(β)本1発明は「前記セルロース繊維乾燥体が、圧縮度5~23%を有し、安息角45°未満、差角10°超、ゆるめ嵩密度0.35~0.85g/cm3、及びあつめ嵩密度0.6~0.9g/cm3からなる群から選ばれる1つ以上を有する」のに対して、甲1発明は、分散液であって、乾燥体に関するものでなく、乾燥体の場合に特定することが可能なパラメータを有するものではない点
(4)判断
ア 上記(α)の相違点について
(ア)甲1発明の分散液を乾燥体にする動機付け
甲1発明は、甲1の段落0009(摘記1b)の「本発明は、樹脂に対し、セルロースの分散性を向上させることができる、セルロースと、分散剤とを含む組成物を提供することを目的とする。」との記載にあることを目的とした発明であって、同段落0149(摘記1b)の「セルロース(…)と樹脂(…)とを混ぜると、セルロースと樹脂とが相分離し、セルロース繊維が沈殿する。セルロースと樹脂とを混合する前に、分散剤を水/N-メチルピロリドン(NMP)エマルションとして添加することで、セルロースの凝集を抑制することができる。」との記載にあるように、セルロースと樹脂とを「混合する前」の段階で、分散剤を水/NMPのエマルションとして添加することで、セルロースの凝集・沈殿・相分離を抑制しているものである。
してみると、甲1発明の「N-メチルピロリドン(NMP)とを含む分散液(組成物)」について、樹脂と混合前に「分散液」の形態から「乾燥体」の形態にすることに、動機付けがあると認めることはできないし、むしろ阻害要因があるものと認められる。
(イ)甲1に関する申立人の主張
申立人は、甲1に『A セルロースと B 分散剤とを含む組成物であって、 C 前記セルロース繊維が、数平均繊維径2nm~200nmを有する、 F 組成物』についての発明が記載されていると主張し、甲1発明の「F 組成物」は、本1発明の「F セルロース繊維乾燥体」に相当すると主張する(申立書の第9、23頁)。
しかしながら、甲1発明の組成物は「分散液」の形態であって、これが「乾燥体」の形態に相当するとすべき理由が示されていないので、甲1発明の「組成物」が、本1発明の「セルロース繊維乾燥体」に相当する旨の申立人の主張は採用できない。
なお、甲1の段落0210(摘記1c)には「減圧乾燥により有機溶媒を除去した。PE/CNF/P001の樹脂組成物を得た。」との記載があるが、当該記載は、(1)で得たCNF/P001/NMPに、ポリエチレン(PE)樹脂を混合した後に「減圧乾燥」したものであるから、セルロースと樹脂とを「混合する前」において「乾燥」させることを意味するものではない。
(ウ)本1発明の補助引例(甲2~甲8)と申立人の主張
申立人は「甲第2号証から甲第5号証において、本件特許発明1に記載の乾燥工程において用いられている機会撹拌式混合造粒機を用いて、セルロース繊維乾燥体が得られている。…甲6号証から甲第8号証において、相違点1及び相違点2に規定の範囲内のセルロース繊維組成物が開示されている。」と主張する(申立書の第28頁)。
また、甲2には、セルロースナノファイバー強化樹脂の製造方法(発明の名称)に関する発明が記載されており、その段落0010~0012等には、パルプを解砕する際に、レーディゲミキサーを使用することが記載されていると申立人は主張する(申立書の第10頁)。
また、甲3には、樹脂組成物(発明の名称)に関する発明が記載されており、その段落0074~0075等には、チップ状のセルロース含有原料を、2軸横型攪拌乾燥機を用いて乾燥したことが記載されていると申立人は主張する(申立書の第10頁)。
また、甲4には、合成パルプとセルロースナノファイバーとの複合体、及びその製造方法(発明の名称)に関する発明が記載されており、その段落0064~0067等には、ミクロフィブリル樹脂または合成パルプとCNFとをミキサーなどで混合する場合に、FMミキサーを用いる方法が記載されていると申立人は主張する(申立書の第12頁)。
また、甲5には、機能性複合多糖粒子(発明の名称)に関する発明が記載されており、その段落0029~0033等には、セルロースナノファイバーの分散液を、マイクロミストスプレードライヤーを用いて噴霧乾燥することにより、セルロースナノファイバーを含む粒子が得られることが記載されていると申立人は主張する(申立書の第13頁)。
また、甲6には、微細繊維状セルロース含有物の製造方法(発明の名称)に関する発明が記載されており、その段落0014、0082~0083、0093~0096等には、微細繊維状セルロースと金属成分とを含むスラリーを、噴霧乾燥させて微細繊維状セルロース含有物を製造できること並びに、金属成分の他に他の成分を含んでいてもよく、他の成分として、水溶性高分子や界面活性剤が例示されていること、さらに、微細繊維状セルロース含有物の安息角、及び嵩密度の好ましい範囲が記載されていると申立人は主張する(申立書の第13~15頁)。
また、甲7には、微細繊維状セルロース含有組成物(発明の名称)に関する発明が記載されており、その段落0128、0132、0145、0147等には、含水率が5.7%である微細繊維状セルロース含有組成物の安息角が5°及び嵩密度が0.68g/mlであることが記載されていると申立人は主張する(申立書の第15~18頁)。
また、甲8には、セルロースファイバーボールおよびこれを含有する紙(発明の名称)に関する発明が記載されており、その段落0011、0075~0085、0088、0090~0092等には、含水率が7.0%であるCFB(セルロースナノボール)の安息角が36.8°、差角が11.9°、ゆるめ嵩密度が0.768g/ml、固め嵩密度が0.864g/ml及び圧縮度が11.1%であることが記載されていると申立人は主張する(申立書の第18~21頁)。
しかしながら、これらの主張を参酌しても、甲1発明の「分散液」の形態を「乾燥体」の形態にすることを動機付ける記載は、甲2~甲8に示唆を含めて記載が見当たらない。
(エ)本2~本11発明の補助引例(甲8~甲11)と申立人の主張
申立人は、本件特許発明2~4について、甲第9号証の段落0042と0043等には、植物繊維の化学変性の態様として「エステル化処理」等が例示されているから、エステル化されているセルロース繊維を用いることは容易であり、
本件特許発明5について、甲第10号証の段落0050、0052、0118等には、HLB値が0.1以上8.0未満である表面処理剤が記載されているから、甲第10号証に記載の分散剤を用いることは当業者が適宜なし得ることであり、
本件特許発明7~10について、甲第11号証の段落0028、0044、0039、0056等には、セルロースのL/D比、重量平均分子量、結晶化度、アルカリ可溶多糖類の平均含有率が記載されているから、セルロースを甲第11号証のようにすることは当業者が適宜なし得ることであり、
本件特許発明6及び11について、甲第8号証の表6の実施例B3において、セルロースナノファイバーボールの含水率が7.0重量%、圧縮度11.1%、安息角36.8°、差角11.9°、ゆるめ嵩密度0.768g/ml及び固め嵩密度0.864g/mlが記載されているから「水分率が30質量%以下」等にすることが容易である旨を主張する(申立書の第29~35頁)。
また、甲9には、ミクロフィブリル化植物繊維・ゴム複合体の製造方法(発明の名称)に関する発明が記載されており、その段落0009、0022等には、ゴムとミクロフィブリル化植物繊維との相溶作用を高めるためには、疎水性基及び親水性基を有する陰イオン界面活性剤を使用することが開示されていると申立人は主張する(申立書の第21~22頁)。
また、甲10には、セルロースナノファイバー含水分散液(発明の名称)に関する発明が記載されており、その段落0017には、当該発明の課題が記載され、係る課題を解決するために、分散剤の特性として、「分散剤のHLB,融点及び数平均分子量」が特定の範囲にあるものを使用することが開示されていると申立人は主張する(申立書の第22頁)。
また、甲11には、複合粒子及び樹脂組成物(発明の名称)に関する発明が記載されており、その段落0015には、当該発明の課題が記載され、係る課題を解決するためのセルロース繊維の特性として、「セルロース繊維の平均繊維長(L)/繊維径(D)比」、「セルロース繊維の重量平均分子量(Mw)及び重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn)比」、「セルロース繊維の結晶化度」、「セルロース繊維のアルカリ可溶多糖類」が特定の範囲にあるものを使用することが開示されていると申立人は主張する(申立書の第22頁)。
しかしながら、これらの主張を参酌しても、甲1発明の「分散液」の形態を「乾燥体」の形態にすることを動機付ける記載は、甲8~甲11に示唆を含めて記載が見当たらない。
(オ)甲10に記載の「乾燥体」について
甲10の請求項19には「セルロースナノファイバー含水分散液の乾燥物である、セルロースナノファイバー乾燥体」についての発明が記載され、その段落0275、0293、0303、0313、及び0322等には、結晶化度80%、平均繊維径90nm、L/D450、重合度450のセルロースナノファイバー(a-1)と、分子量(全体)2000、HLB6.5、融点(ペースト)の表面処理剤(b-22)とを含む実施例2-15の「セルロースナノファイバー乾燥体」が「再分散性-2」の評価で「A:均一に分散している」であることが記載され、同段落0007等には、樹脂中にCNF(セルロースナノファイバー)を配合するためには、CNFを乾燥し粉末化する必要があることが記載されている。
しかしながら、同段落0007等には「CNFは水と分離する過程で微分散状態から、強固な凝集体となり、再分散しにくいといった課題がある」ことが記載されており、CNF含水分散液を乾燥物にすることは、技術的に不可能ないし極めて困難であると認識せざるを得ないので、甲10に記載の技術事項を補助引例として参酌しても、甲1発明の「分散液」に関する発明を主引例として、これを「乾燥体」に形態変更することに、動機付けがあるとは認められない。
(カ)本1発明が「乾燥体」であることの技術上の意義
本1発明は、一旦乾燥されたセルロースナノファイバーの再分散性が十分でない等の課題ついて(段落0005)、例えば、圧縮度を、好ましくは5%以上、好ましくは23%以下とすることで、取扱い性に優れる(具体的には、飛散、浮遊、粉塵形成が生じ難い)という格別の効果を得るに至ったものと認められる(段落0012)。
してみると、本1発明の「乾燥体」という発明特定事項は、解決しようとする課題の前提となる重要な技術事項であって、上記(α)の相違点は技術的に無意味な差異ではない。
(キ)小括
以上のことから、申立人の主張を精査し、甲1~甲11の記載を精査しても、甲1~甲11には、甲1発明の「分散液」の形態を「乾燥体」の形態にすることを動機付ける記載が、示唆を含めて見当たらない。
したがって、上記(α)の相違点に係る「乾燥体」の構成を導き出すことが、当業者にとって容易であるとすることはできない。
イ 上記(β)の相違点について
例えば、特表2004-524390号公報(参考例A)の段落0069の「乾燥粉末の流動特性の評価には、(1)安息角、(2)スパチュラ角、(3)圧縮度、および(4)凝集度の4つの性質が使用される。当業者には公知であるが、上記4つのパラメータは「Carrの指数」と呼ばれる場合がある。」との記載や、甲8の段落0006の「取扱性に優れたセルロース系材料を得る…比較的高い含水率においてもパウダー(粉体)として存在するセルロースファイバーボールを提供する」との記載、及び同段落0016の「安息角が58.0°以上である場合、パウダーとしての取扱が困難となり固体としての取扱性が悪化する。」との記載にあるように、圧縮度や安息角や嵩密度などのパラメータ(Carrの指数)は、パウダー(乾燥粉末)の取扱性の観点から好適化すべきパラメータとして知られている。
してみると、甲1発明の「分散液」という液状の組成物について、その圧縮度を5~23%とし、その安息角、差角、ゆるめ嵩密度及びあつめ嵩密度から選ばれるパラメータを特定することに、動機付けがあると認めることはできないし、甲1発明の分散液(液状の組成物)について、乾燥体(パウダー等の固形物)を前提にした圧縮度や安息角などのパラメータ(Carrの指数)を設定することが技術的に可能であるとも認められない。
そして、本1発明は、一旦乾燥されたセルロースナノファイバーの再分散性が十分でない等の課題について(段落0005)、例えば、圧縮度を、好ましくは5%以上、好ましくは23%以下とすることで、取扱い性に優れる(具体的には、飛散、浮遊、粉塵形成が生じ難い)という格別の効果を得るに至ったものであるから(段落0012)、本1発明の「圧縮度」等のパラメータに関する発明特定事項は、本1発明の課題解決に必要不可欠な技術事項であって、上記(β)の相違点は技術的に無意味な差異ではない。
したがって、上記(β)の相違点に係る「圧縮度」等のパラメータに関する構成を導き出すことが、当業者にとって容易であるとすることはできない。
ウ 進歩性のまとめ
以上総括するに、本1発明は、甲1発明及び甲1~甲11に記載の技術事項をどのように組み合わせたとしても、当業者が容易に想到することができたとはいえないから、申立人の主張及び証拠によっては、本1発明に係る特許が、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものとはいえない。
また、本2~本11発明は、本1発明を直接又は間接的に引用し、さらに限定したものであるから、本1発明の進歩性を否定し得ない以上、本2~本11発明に係る特許が、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものとはいえない。
第5 まとめ
以上のとおり、申立人が申し立てた理由及び証拠によっては、本1~本11発明の特許を取り消すことができない。
また、他に本1~本11発明の特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2025-700013