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意匠無効審判

2024-880006

カメラ用アクセサリ

審判番号
2024-880006
法域
意匠
審判種別
無効審判(無効の審決)
出願番号
意願2021-003710外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
登録番号
1738504
請求日
2024年08月30日
審決日
2025年12月23日
公報発行日
2026年03月27日
結論
請求不成立
当事者
審判長/審判官
分類
D1113.113-Y (J3-2) / D1113.121-Y (J3-2)
根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
意匠法52条特許法169条2項民事訴訟法61条
条文(本文から自動抽出・参考)
意匠法第3条第2項、意匠法第3条第1項第3号、特許法第29条、意匠法第3条第1項第1号、意匠法第52条、意匠法第14条、特許法第29条第2項、意匠法第2条、特許法第2条、意匠法第3条、特許法第131条の2第2項第2号、特許法第169条第2項
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

上記当事者間の意匠登録第1738504号「カメラ用アクセサリ」の意匠登録無効審判事件について、次のとおり審決する。

結論

結 論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。

理由

理 由 第1 事案の概要 本件は、請求人の安藤淑一が、被請求人のソニーグループ株式会社が意匠権者である意匠登録第1738504号の意匠(以下「本件登録意匠」という。別紙第1参照)についての登録を無効とすることを求める事案である。 1 手続の経緯 本件登録意匠は、意匠法14条1項の規定により秘密にすることを請求する期間を3年とする令和3年(2021年)2月22日に出願された、物品の部分について意匠登録を受けようとする意匠登録出願(意願2021-003710)であり、審査を経て令和4年(2022年)7月27日付けで登録査定がなされ、同年8月8日に秘密意匠の期間を0月に変更する秘密意匠期間変更請求書が提出され、令和5年(2023年)2月28日に意匠権の設定の登録がなされ、同年3月8日に意匠公報が発行されたものである。 本件無効審判における手続の概略は、以下のとおりである。 令和6年(2024年) 8月30日受け付け 審判請求書の提出 同 年 12月 9日付け 審判事件答弁書の提出 令和7年(2025年) 2月17日付け 審判事件弁駁書の提出 同 年 6月11日付け 審理事項通知 同 年 6月25日付け 口頭審理陳述要領書の提出(被請求人) 同 年 7月 9日差し出し 口頭審理陳述要領書の提出(請求人) 同 年 7月23日 口頭審理、書面審理通知(口頭) 同 年 8月 6日付け 上申書の提出(被請求人) 同 年 9月 2日差し出し 上申書の提出(請求人) 2 請求の趣旨と答弁の趣旨 (1) 請求の趣旨 請求人は、請求の趣旨として、「登録第1738504号意匠の登録を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求める。」と主張した。 (2) 答弁の趣旨 被請求人は、答弁の趣旨として、「本件審判請求は成り立たない。審判請求費用は請求人の負担とするとの審決を求める。」と主張した。 3 本件登録意匠 本件登録意匠は、願書及び願書に添付した図面(以下、単に「図面」とい う。)の記載によれば、意匠に係る物品が「カメラ用アクセサリ」であり、願書の意匠に係る物品の説明の欄には、「本願意匠に係る物品は、使用方法を示す参考図に表すように、カメラのアクセサリーシューに嵌合可能なアクセサリである。」と記載されている。 また、本件登録意匠の形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合(以下「 形状等」という。)は、願書及び図面に記載されたとおりのものであって、 図面には、「A部分の拡大斜視図」、「A部分の拡大正面図」、「A部分の拡大底面図」、「A部分の拡大左側面図」、「正面図」、「背面図」、「右側面図」、「左側面図」「平面図」、「底面図」、「使用方法を示す参考図」の各図が表され、願書の意匠の説明の欄には、「実線で表した部分(カメラへの固定に用いるネジ部及びアクセサリーシューと電気接続する端子部)が意匠登録を受けようとする部分である。」と記載されている。 第2 請求人が主張する無効理由 1 無効理由1(新規性の欠如) 「本件登録意匠は、その出願日前にヤフーオークションのサイトに掲載された甲第1号証の意匠(以下、「甲1号意匠」という。)と類似するから、意匠法第3条第1項第3号の規定により意匠登録を受けることができないものであり、同法第48条第1項第1号により、無効とすべきである。」 2 無効理由2(創作非容易性の欠如) 「本件登録意匠は、その出願日前にその意匠の属する分野における通常の知識を有する者が、甲1号意匠、同5号証、同8号証から同17号証等の各意匠に基づいて容易に創作をすることができたものであるから、意匠法第3条第2項の規定により意匠登録を受けることができないものであり、同法第48条第1項第1号により、無効とすべきである。」 第3 当事者の主張及び証拠方法 (当審注:下線は省略した。当事者が提出した文書の証拠につき、甲第1号証を、以下、「甲1号証」といい、その他の甲号証や乙号証も同様とする。また、甲1号意匠と同様に、甲2号証の意匠も、以下、「甲2号意匠」といい、その他の甲号証の意匠や、乙号証の意匠も同様とする。) 1 無効理由1(新規性の欠如) (1)請求人の主張 (1-1)審判請求書 請求人は、おおむね以下のとおりの主張をした。 ア 本件登録意匠 本件登録意匠は、意匠に係る物品を「カメラ用アクセサリ」とするもので、意匠に係る物品の説明の欄において、「本願意匠に係る物品は、使用方法を示す参考図に表すように、カメラのアクセサリーシューに嵌合可能なアクセサリである。」と記載されているように、カメラに固定して使用されるアクセサリであり、実線で表した部分(カメラヘの固定に用いるネジ部及びアクセサリーシューと電気接続する端子部)が意匠登録を受けようとする部分であって、その構成は別紙意匠公報に掲載のとおり下記構成態様からなる。 (ア)基本的構成態様 [1]カメラと接する底面側にカメラのアクセサリーシューと電気接続する端子部と、カメラヘ固定する2本のネジ部とが設けられ、 [2]底面視、カメラと接する底面側の略中央に端子部が設けられ、端子部の左右外側にネジ部が設けられてなる。 (イ)具体的構成態様 [3]端子部は、複数本の端子を左右方向に並設し、各端子の底面側の正面側略半分が底面方向へ略台形状に突出形成され、 [4]ネジ部は、底面外側のフラット面に形成され、 [5]端子部がネジ部同士を結ぶライン上に設けられてなる。 本件登録意匠は、上記[1]から[5]の構成態様からなる「カメラ用アクセサリ」である。 イ 先行周辺意匠の摘示 (ア)甲1号意匠 甲1号意匠は、ヤフーオークションのウェブサイトで2016年9月20日21時15分にオークションが開始されたハンドルユニットの意匠である。当該ウェブサイトによれば、「Canon ハンドルユニット HDU-1 XA10 XA20XA30 キャノン/7563の落札情報」の記載がある。 甲1号意匠を本件登録意匠の向きに合わせて、本件登録意匠の意匠登録を受けようとする部分に相当する部分の構成を特定すると、下記構成態様からなる。 なお、甲1号意匠は、本件登録意匠と同じようにカメラに取付けて使用されるものである(甲2号証、同3号証参照)。 (ア-1)基本的構成態様 [a]カメラと接する底面側にカメラのアクセサリーシューと電気接続する端子部と、カメラヘ固定する2本のネジ部とが設けられ、 [b]底面視、カメラと接する底面側の略中央に端子部が設けられ、端子部の左右外側にネジ部が設けられてなる。 (ア-2)具体的構成態様 [c]端子部は、複数本の端子を左右方向に並設し、各端子の底面側の正面側略半分がフラット状に形成され、 [d]ネジ部は、底面外側の傾斜面に形成され、 [e]端子部がネジ部同士を結ぶライン上から正面側に位置ずれした位置に設けられてなる。 甲1号意匠は、上記[a]から[e]の構成態様からなる「ハンドルユニット」である。 (イ)その他の先行周辺意匠 (イー1)甲2号証 甲2号意匠は、ヤフーオークションのウェブサイトで2020年4月19日21時37分にオークションが開始されたハンドルユニットの意匠(ビデオカメラレコーダーに装着された状態の「ハンドルユニット」の意匠)であり、当該ウェブサイトによれば、「CanonキヤノンXA20ハンドルユニット HDU-1 #4267の落札情報」の記載がある。 (イ-2)甲3号証 甲3号意匠は、ヤフーオークションのウェブサイトで2020年9月18日3時58分にオークションが開始されたハンドルユニット付きのビデオカメラレコーダーの意匠であり、当該ウェブサイトによれば、「Canon(キヤノン)FHDビデオカメラXA20+ハンドルユニット HDU-1の落札情報」の記載がある。 (イー3)甲5号証 甲5号意匠は、2012年7月12日に公開となった公開特許公報(特開2012-134815号)に掲載された、【図1】から【図9】によって開示された映像装置のうち、110と番号付けられたハンドルの意匠である。 (イー4)甲8号証 甲8号意匠は、2012年5月14日に発行した意匠公報(意匠登録第1440044号)に掲載されたストロボの意匠である。 (イー5)甲9号証 甲9号意匠は、2012年5月28日に発行した意匠公報(意匠登録第1442161号)に掲載されたカメラ用マイクロフォンの意匠である。 (イー6)甲10号証 甲10号意匠は、2012年5月14日に発行した意匠公報(意匠登録第1440044号)に掲載されたストロボの意匠である。 (イー7)甲11号証(枝番含む) 甲11号意匠は2019年9月6日に公開された価格.comのホームページに掲載されたマイクロフォンの意匠である。(当審注:証拠説明書において、甲11号証の2の立証趣旨の欄、「甲10号証の1の赤枠」は「甲11号証の1の赤枠」の誤記と思われる。) (イー8)甲12号証(枝番含む) 甲12号意匠は、2019年9月6日に公開されたされた価格.comのホームページに掲載されたマイクロフォンの意匠である。(当審注:証拠説明書において、甲12号証の2の立証趣旨の欄、「甲11号証の1の赤枠」は「甲12号証の1の赤枠」の誤記と思われる。) (イー9)甲13号証(枝番含む) 甲13号意匠は、2013年2月28日に公開されたされた価格.comのホームページに掲載されたステレオマイクロフォンの意匠である。(当審注:証拠説明書において、甲13号証の2の立証趣旨の欄、「甲12号証の1の赤枠」は「甲13号証の1の赤枠」の誤記と思われる。) (イー10)甲14号証 甲14号意匠は、インターネットアーカイブ、Wayback Machineが2020年10月25日に保存、格納したウェブサイトに掲載された業務用ビデオカメラの意匠である。 (イー11)甲15号証 甲15号意匠は、インターネットアーカイブ、Wayback Machineが2020年8月7日に保存、格納したウェブサイトに掲載されたハンドルユニットの意匠である。 (イー12)甲16号証 甲16号意匠は、インターネットアーカイブ、Wayback Machineが2020年9月27日に保存、格納したウェブサイトに掲載されたハンドルユニットの意匠である。 (イー13)甲17号証 甲17号意匠は、2018年2月2日に公開された動画配信サイト(YouTube)の動画に掲載されたカメラ用附属品の意匠である。 ウ 本件登録意匠と甲1号意匠との対比 (ア)両意匠に係る物品 本件登録意匠の意匠に係る物品が「カメラ用アクセサリ」であるのに対し、甲1号意匠の意匠に係る物品は「ハンドルユニット」であるが、いずれも用途機能を共通にする類似物品である。 本件登録意匠の拒絶理由通知書に対して提出した意見書(甲4号証)(当審注:書類は省略。)では、「正面視左上に現れる筒状部の機能は常識に照らして明らかと存じますが、ここにマイクロフォンを取り付ける」(7頁目)、『本願の「その他の部分」は、マイクホルダ一部分、ハンドル部分、大型の端子を複数接続するためのハブ部分、ネジを固定する台座部分、ネジの頭部分、接続端子を覆うハウジング部分等々であり』(9頁目)と主張している。 これに対して甲5号証では、「ハンドル部110は、外部マイクを保持する外部マイクホルダ部115と、ハンドル部110を本体部100に取り付けるためのハンドル前方固定部材116及びハンドル後方固定部材120(第1の固定部材)を備えている。」(【0012】)と上記主張と重複した説明がされている。 さらに、甲6号証では、外部マイクの取付け方法として、ハンドルユニットである甲1号意匠にマイクホルダーを取付け、マイクホルダーに外部マイクを取付ける説明がされている。 しからば、上記の主張と各説明とが重複していることや、本件登録意匠の権利者のグループ会社が甲1号意匠と同種物品である「ハンドルユニット」をアクセサリーとして紹介していること(甲7号証)、意匠に係る物品を「ストロボ」とする登録第1440044号意匠(甲8号証)と「カメラ用マイクロホン」とする同第1442161号意匠(甲9号証)とが類似すると判断されていること等に鑑みれば、本件登録意匠の意匠に係る物品と甲1号意匠の意匠に係る物品とが類似する物品であることは明らかである。 (イ) 両意匠の構成対比 (A)共通点 本件登録意匠と甲1号意匠とは、カメラと接する底面側の略中央にカメラのアクセサリーシューと電気接続する端子部が設けられ、端子部の左右外側にカメラヘ固定する2本のネジ部が設けられてなる基本的構成態様([1]と[a]、[2]と[b])において共通する。 また、本件登録意匠と甲1号意匠とは、複数本の端子を左右方向に並設して端子部が形成されてなる点で、具体的構成態様の一部([3]と[c])においても共通する。 (B)相違点 (B-1)端子部形状の相違 本件登録意匠と甲1号意匠とは、具体的構成態様である端子部の形状([3]と[c])において、本件登録意匠は、各端子の底面側の正面側略半分が底面方向へ略台形状に突出形成されてなるのに対し、甲1号意匠は、各端子の底面側の正面側略半分がフラット状に形成されてなる点で相違する。 (B―2)ネジ部形成位置の相違 本件登録意匠と甲1号意匠とは、具体的構成態様であるネジ部の形成位置([4]と[d])において、本件登録意匠は底面外側のフラット面に形成されてなるのに対し、甲1号意匠は底面外側の傾斜面に形成されてなる点で相違する。 (B-3)端子部とネジ部の配置の相違 本件登録意匠と甲1号意匠とは、具体的構成態様である端子部とネジ部の配置([5]と[e])において、本件登録意匠は、端子部がネジ部同士を結ぶライン上に設けられてなるのに対し、甲1号意匠は、端子部がネジ部同士を結ぶライン上から正面側に位置ずれした位置に設けられてなる点で相違する。 エ 本件登録意匠と甲1号意匠との類否判断 本件登録意匠と甲1号意匠とは、上記のように主要な構成態様において共通するものであるが、下記点において相違するため該相違点について評価する。 (ア)端子部形状についての評価([3]と[c]) 本件登録意匠と甲1号意匠とは、各端子の底面側形状について、正面側略半分が底面方向へ略台形状に突出形成されてなるか、正面側略半分がフラット状に形成されてなるかで、端子部形状を相違する。 しかし、この種カメラのアクセサリに設けられた端子部形状について、各端子の底面側の正面側略半分が底面方向へ略台形状に突出形成されてなる構成は、例えば、甲8号証から同13号証等に示すように、本件登録意匠の出願日前から広く知られた周知ないしは公知な形状である。また、各端子の底面側の正面側略半分がフラット状に形成されてなる構成は、例えば、甲14号証や同15号証等に示すように、本件登録意匠の出願日前から広く知られた周知ないしは公知な形状である。 したがって、本件登録意匠と甲1号意匠の端子部に接した需要者は、いずれも従来からごく一般的に採用されている端子部形状であると認識し、別異の印象を与えるものではないため、端子部形状の相違が本件登録意匠と甲1号意匠との類否判断に影響を与えるものではない。 (イ)ネジ部の形成位置についての評価([4]と[d]) 本件登録意匠と甲1号意匠とは、ネジ部が底面外側のフラット面に形成されてなるか、底面外側の傾斜面に形成されてなるかで、ネジ部の形成位置を相違する。 しかし、いずれのネジ部の形成位置も甲5号証の図7及び図8、同14号証から同17号証等に示すように、この種カメラのアクセサリに設けられたネジ部の形成位置として周知ないしは公知な態様である。また、例示するまでもないが甲18号証から同21号証等に示すように、カメラの上面は種々の形状に形成されてなるため、カメラと接するアクセサリの底面側形状がカメラの上面形状に合わせて形成されるのは当然であり、それに応じてネジ部が底面外側のフラット面に形成されてなるか、底面外側の傾斜面に形成されてなるかは必然的に決まるため、係る実情も踏まえれば、ネジ部の形成位置の相違はこの種意匠の特徴とはなり得ず、本件登録意匠と甲1号意匠との類否判断に影響を与えるものではない。 (ウ)端子部とネジ部の配置についての評価([5]と[e]) 本件登録意匠と甲1号意匠とは、ネジ部同士を結ぶライン上に端子部が設けられてなるか、ライン上から正面側に位置ずれして設けられてなるかで、端子部とネジ部の配置について相違する。 しかし、いずれの配置も甲5号証の図7及び図8、甲14号証から甲17号証等に示すように、この種カメラのアクセサリに設けられた端子部とネジ部の配置は周知ないしは公知な態様である。とりわけ、甲5号証では、本件登録意匠のようにネジ部同士を結ぶライン上に端子部が設けられた態様(図8)が、甲1号意匠のようにネジ部同士を結ぶライン上から正面側に位置ずれして端子部が設けられた態様(図7)の別の実施形態とされてなることからすれば、本件登録意匠と甲1号意匠における端子部とネジ部の配置の相違は、ごく一般的に変更を行う程度の微差でしかないため、係る相違もこの種意匠の特徴とはなり得ず、本件登録意匠と甲1号意匠との類否判断に影響を与えるものではない。 オ 小括 よって、本件登録意匠と甲1号意匠とは、共通した印象を与える主要な構成態様において共通し、両意匠の相違点はいずれも類否判断を左右する相違にはなり得ないため、本件登録意匠は甲1号意匠と類似するものであり、意匠法第3条第1項第3号の規定に違反して登録されたことは明白である以上、同項第48条第1項第1号により無効にされるべきものである。 (1-2)審判事件弁駁書 請求人は、おおむね以下のとおりの主張をした。 ア はじめに 被請求人は令和6年12月9日付けの審判事件答弁書において、甲1号意匠は、2つのネジ部が逆ハの字状に配設されていることを強調して、本件登録意匠は、甲1号意匠とは類似しないと主張しているが、被請求人の答弁理由は失当であって本件登録意匠の無効理由1を覆す答弁でないことを以下詳述する。 イ 甲1号意匠の内容が特定できないことについて 被請求人は、答弁書の2頁において、引用部分の正面視の態様が具体的に確認できないと主張するため、甲1号意匠の現物を入手して撮影した写真を甲22号証として提出する。これによって引用部分の正面視の態様が具体的に確認できるため、甲1号意匠に基づき本件登録意匠には登録無効理由があるとする請求人の主張は何ら失当なものではない。 ウ 意匠法第3条第1項第3号に基づく登録無効理由について(無効理由1について) (ア)公知意匠群との対比について [1]被請求人は、答弁書の3頁から8頁において、カメラ用アクセサリの分野及びその周辺分野において、甲1号意匠の公開前(甲1号意匠の創作が完了していたと推する2010年末頃以前、以下同じ)については、乙3号証から同13号証を例示して、「端子部を2つのネジ部その他の固定部材で挟み込むように配設した電気接続用のコネクタ部分を含む意匠は、そのほとんどが2つの固定部材を平行に配したものであり、甲1号意匠のように逆ハの字状に配したものは見当たりません」などと主張し、甲1号意匠の公開後現在に至るまでについては、乙14号証、同15号証(答弁書では乙13号証から同14号証としているが誤記と思われる)を例示して、「2つの固定部材を平行に配置する例はみられるものの、これらが逆ハの字状に配設されているものは見当たりません」などと主張して、「この種物品において、逆ハの字状のネジ部の配設態様が、公開当時においてごく斬新であり、そしてその後も顕著な特徴であり続けていることを、むしろ物語っています。」(7頁)、「甲1号意匠においては、先行意匠群との対比において(更には後行意匠群との対比においてすらも)逆ハの字状のネジ部の配置態様が斬新でありかつ顕著な特徴であって、他に類例を見ないものであるからこそ、その配置態様は需要者の注意を強く惹くとするのが相当と思われる。」などと主張している。 [2]まず、甲1号意匠の公開前についてであるが、被請求人が甲1号意匠の公開前の公知意匠として例示した乙3号証から同13号証のうち、乙10号証を除く乙3号証から同12号証は、カメラ用アクセサリでもその周辺分野の物品でもなく、乙10号証は意匠に係る物品をカメラとするものであるため、いずれも甲1号意匠とは非類似物品である。また、乙13号証は、被請求人が甲1号意匠の創作が完了したと推する2010年末頃以降の公開であるため、甲1号意匠の公開前を前提とする主張にはなっていないため、乙3号証から同13号証は甲1号意匠と対比する対象にはならない。 [3]次に、甲1号意匠の公開後についてであるが、甲1号意匠の引用部分に意匠登録がされていない状況下では、2つの固定部材(ネジ部)が逆ハの字状に配設されたカメラ用アクセサリを第三者は自由に実施できることになるが、それにもかかわらず第三者の実施が見当たらないことからすれば、逆ハの字状のネジ部の配設態様が斬新でも顕著な特徴でもないことが裏付けできる。そもそもこのような配設態様が甲1号意匠の公開後に見当たらないことが斬新である、顕著な特徴であるということに必ずしも直結するものでもないため、乙14号証、同15号証を例示し、甲1号意匠の公開後の実施状況についての被請求人の主張には理由がない。 [4]よって、乙3号証から同13号証が甲1号意匠と対比する対象にはならず、乙14号証、同15号証を例示して甲1号意匠の公開後の実施状況についての主張に理由がない以上、甲1号意匠の公開前後の状況を踏まえた被請求人の主張は失当なものである。 仮に、乙3号証から同15号証を甲1号意匠の対比対象にするとしたとしても、甲1号意匠の公開前から上面がハの字状とされたカメラが存在する実情、本件登録意匠の出願日前にハの字状とされたカメラの上面に逆ハの字状からなるカメラ用アクセサリをネジによって取付ける実情にあることも踏まえれば(甲23号証から甲27号証)、本件登録意匠の出願日の時点において、カメラと接するアクセサリ部分の形状が逆ハの字状であるものも平行であるものもありふれた形状であるといえ、ネジ部の配設態様が逆ハの字状か平行かの形状差は、単にバリエーションとして見られる程度の相違であると需要者に認識せしめると考えるのが相当である。 [5]上記の考えは、「本件部分及び引用部分のように、接続する相手方が存在して初めて機能する部分については、その形状等に係る創作過程において、当然に、相手方形状への影響が創作者の念頭に置かれる。むしろ両者は一体的に創作されるものである」、「これら部分の創作内容の実質は、相手方の形状等に与える影響を踏まえて評価されるべき」(答弁書の12頁)とする被請求人の主張からも明らかである。(当審注:ここで請求人が摘記した被請求人の主張は、無効理由2((創作非容易性の欠如))に関するもの。)つまり、本件部分や引用部分のようなカメラと接する部分のアクセサリ形状がカメラの上面形状に依存する(被請求人が例示する乙3号証等であれば接続先となる機器の端子部及びその周辺形状に依存する(甲28号証等))ことになるため、「逆ハの字状のネジ部の配置態様が斬新でありかつ顕著な特徴であって、他に類例を見ないものであるからこそ、その配置態様は需要者の注意を強く惹く」などとする被請求人の主張は明らかに失当である。 [6]いずれにしても、甲1号意匠の引用部分が本件登録意匠のように意匠登録されているのであればまだしも、実製品である甲1号意匠の引用部分が斬新であるかどうか等を検討する必要はなく、乙3号証等と対比することを踏まえるとしたとしても、直ちに引用部分が斬新でありかつ顕著な特徴であるということにはならない。 すなわち、甲1号証、同5号証、同14号証、同15号証、乙1号証、同2号証が同一企業によって公開されたものであっても、被請求人が認めるように少なくとも甲1号証、同5号証、同15号証、乙1号証は同一ではない。乙3号証等と対比することを踏まえるとしたとしても、本件登録意匠の出願時点において、カメラと接する部分のアクセサリ形状が逆ハの字状のものも平行のものもありふれた形状(周知ないしは少なくとも公知)である。よって、カメラ用アクセサリの創作過程なども踏まえれば、本件部分が斬新であるとか顕著な特徴であるということにはならず、甲1号意匠のネジ部の配設態様が需要者の注意を強く惹くことにはならないことは明白である。 (イ)物品の性質ないし使用態様等との関係について [1]被請求人は、答弁書の8頁において、甲1号意匠及び本件登録意匠に係る物品の需要者はビデオ撮影のプロであり、その需要者は、購買を予定している物品が目的のカメラに装着可能であって適切に電気接続が機能するかといった点に、強い関心を持つことは当然である、と主張するが、この点については請求人も異論はない。 [2]一方、被請求人は、「引用部分のようにネジ部が逆ハの字状であるか、それとも本件部分のように平行であるかの差異は、このような観点において、需要者の注意を強く惹くことになる。」と主張する。しかしながら、被請求人が主張している「適切に電気接続が機能するか」どうかは、ネジ部の配設態様(ネジ部が逆ハの字状か、平行であるか)に影響を受けるのではなく、カメラ本体に配設されたアクセサリーシューとこのアクセサリーシューに嵌合して電気接続するカメラ用アクセサリの端子部に大きく左右される(影響を受ける)ため、需要者の注意を強く惹くのはネジ部が逆ハの字状であるか、平行であるかの差異では決してない。 [3]すなわち、被請求人を含めたカメラメーカーが提供するカメラのアクセサリーシューとカメラ用アクセサリの端子部は、それぞれ各社の独自仕様とされており、自社製同士でなければ互換性がないため適切に電気接続が機能せず、(甲29号証から同30号証)、互換性を担保するために互換アダプターが適用されているなどといった実情にもあり(甲31号証から同33号証)、このような実情にあることをビデオ撮影のプロないしはセミプロである需要者は一般認識している。 [4]また、本件登録意匠を接続する被請求人のカメラ(乙17号証)には、ネジ部があるアクセサリだけでなく(甲34号証)、ネジ部がないアクセサリも使用できる実情にある(甲35号証)(甲34号証は、甲7号証と同じハンドルユニットと位置付けされるアクセサリであり、甲35号証とともに同じカメラに使用できるアクセサリとされている)。このことは、実際にネジ部がないアクセサリを被請求人のカメラに取付けて展示販売されている実情からも裏付けられる(甲36号証)。 [5]以上のような実情にあることなどからも明らかなように、適切に電気接続が機能するかどうかは、カメラのアクセサリーシューとカメラ用アクセサリの端子部に影響されることが自明である。そのため、電気接続とは直接関係しないネジ部が逆ハの字状であるか、平行であるかの差異だけが、ビデオ撮影のプロないしはセミプロである需要者の注意を強く惹くことにはならず、本件登録意匠と甲1号意匠に共通する基本的構成態様が需要者の注意を強く惹くことになると考えるのが相当である。『当然に避けたい「装着することができない」といった事態の発生を回避するために、この種物品の需要者は、物品の性質上、また、その使用態様に照らして、ネジ部の傾斜の如何に強い関心を寄せることになる。』との被請求人の主張は、需要者の実際の認識と大きく食い違っており、明らかに失当である。 (ウ)類否判断について [1]被請求人は、答弁書の9頁において同書8頁までの主張を根拠として、すなわち、公知意匠群との対比において、甲1号意匠の2つのネジが逆ハの字状に配設された態様が斬新あるいは顕著な特徴であって需要者の注意を強く惹くとすべきものといえる」旨主張する。また、「適切に電気接続できるか否かが購買時における需要者の重大な関心事であり、ネジ部が平行か逆ハの字状かの差異は、装着の可否を見極める上での指標となる差異であるため、当該差異に対しては需要者の注意が強く惹かれることになる」旨主張する。その上で被請求人は、ネジ部の配設態様が適切な電気接続の指標となる差異であるなどと、ネジ部の配設態様の相違について繰り返し主張している。(当審注:「ネジ部の」が2つ連続した記載は誤記と思われるので、1つを削除。) [2]しかし、上記したように、本件登録意匠の出願時点において、カメラと接する部分のアクセサリ形状が逆ハの字状のものも平行のものもありふれた形状であり、カメラ用アクセサリの創作過程なども踏まえれば、本件部分が斬新であるとか顕著な特徴であるということにはならず、甲1号意匠のネジ部の配設態様が需要者の注意を強く惹くことにはならない。 [3]また、購入対象の物品が接続を予定している相手方に適切に接続するか否かは、上記したように、カメラ本体に配設されたアクセサリーシューとこのアクセサリーシューに嵌合して電気接続するカメラ用アクセサリの端子部に大きく左右され、ネジ部が平行か逆ハの字状かの差異は、汎用されているアクセサリの形状を平行型か逆ハの字型のいずれを使うかというだけの問題であって適切に電気接続が機能するかどうかに直接的には影響しない。そのため、ネジ部が平行か逆ハの字状かの差異が、装着の可否を見極める上での指標(適切に電気接続が機能するかどうか)となる差異にはならず、当該差異に対して需要者の注意が強く惹かれることには決してならない。 [4]したがって、安定的な電気接続を実現するという観点並びに目的の接続が可能かといった観点からすれば、両意匠のネジの配設態様が平行か逆ハの字状かの差異に比して、安定的な電気接続の実現(適切な電気接続の実現)に影響するカメラ側のアクセサリーシューとカメラ用アクセサリの端子部の接続が需要者の注意を惹く程度が高い部分になると考えるべきである。 よって、逆ハの字状のネジで締結することが予定されたカメラにネジ部が平行に配されたアクセサリの電気接続が可能である点、現にネジ部がないアクセサリを被請求人のカメラに取付けて展示販売がされている実情にあることなどにも鑑みれば、両意匠のネジの配設態様に係る差異(平行か逆ハの字状か)だけが両意匠の類否判断に大きく影響することにはならない。むしろ、本件登録意匠と甲1号意匠とは、共通した印象を与える基本的構成態様が需要者の注意を強く惹くことになるため、本件登録意匠は甲1号意匠に類似するのであり、本願意匠について意匠法第3条第1項第3号に基づく登録無効理由があるとする請求人主張は失当とする被請求人の主張こそが失当である。 (エ)小結 以上のとおり、被請求人の主張には理由がなく、本件登録意匠は甲1号意匠に類似する。よって、本件登録意匠は、意匠法第3条第1項第3号の規定に違反して登録されたことが明白であるため、同項第48条第1項第1号により無効にされるべきものである。 (1-3)口頭審理陳述要領書(請求人) 請求人は、おおむね以下のとおりの主張をした。 甲22号証の1及び同22号証の2について 請求人は、被請求人が本件部分と引用部分の対比が不能と主張してきたために、甲22号証の1及び甲22号証の2を提出したにすぎない。そもそも、請求人は、甲22号証の1及び2により、甲1号証の引用部分の正面視の態様が初めて特定できるとは一切主張していない。すなわち、甲1号証のみで正面視の態様を含めた甲1号意匠の構成が特定できるが、甲1号証の正確な理解を得るために甲22号証を提出したにすぎない。 甲1号証が示す先行意匠(ハンドルユニット HDU-1)は、本件登録意匠の出願前に日本国内又は外国において公然知られた意匠(意匠法第3条第1項第1号)であるが、その形状等は、甲22号証の1及び2が示す内容(意匠)を含めて認定されるべきものであり、甲22号証の1及び同22号証の2を補強証拠として扱うことは、許される。 甲22号証の1及び2は、甲1号証に記載された甲1号証意匠を正確に理解するための証拠であり甲1号証の間接証拠であるとともに、甲22号意匠(の存在)は、甲1号意匠の信用性を支える補助事実である。 (1-4)上申書(請求人) 請求人は、令和7年9月2日に上申書を差し出し、おおむね以下のとおりの反論をした。 ア 甲22号証の1及び同22号証の2並びにこれに基づく主張を許可しないとの決定について (当審注:当該書証に基づく主張等に関する当審の判断は、後段の第6に記載。) イ ネジ部の配置態様に関する差異について (ア)被請求人は、『本件登録意匠並びに甲1号意匠は、「カメラ本体の重さ等々に耐えられない場合や他に衝突したような場合にアクセサリーシューが壊れてしまう」事態を想定して、単に端子部を接触させるだけではなく、併せて螺合することによって、カメラ本体との安定的な接合ひいては適切な電気接続の維持の実現を図っている』、『カメラ本体との接合を強固にして端子部の接触を維持するといった意味を含めた「安定的な電気接続」の実現という観点からすれば、需要者が、カメラ本体装着時の強固な接合を実現するネジ部の構成における逆ハの字状か平行かといった差異に、強く注意を惹かれることは明らか』などと意見している。 (イ)しかし、弁駁書でも主張したように、本件登録意匠を接続する被請求人のカメラ(乙17号証)には、ネジ部があるアクセサリだけでなく(甲34号証)、ネジ部がないアクセサリも使用できる実情もあり(甲35号証)、実際にネジ部がないアクセサリを被請求人のカメラに取付けて展示販売されている実情も認められる(甲36号証)。これらの事情に鑑みれば、本件登録意匠については被請求人が意見する事態だけを想定しているとは到底考えられない。仮に想定していたとしても、既に請求人が主張したように、接触不良などが無く安定的な電気接続の実現(適切な電気接続の実現)ができるか否かは、本件登録意匠及び甲1号意匠のネジ部の配設態様が平行か逆ハの字状かで決まるのではない。むしろ、カメラ側のアクセサリーシューとカメラ用アクセサリの端子部の接続(接触)によって決まるのであり、強固な接合であっても、適合しない端子部同士による電気接続による場合など、「安定的な電気接続」が実現できないことは、多分にある。 (ウ)そもそも、カメラ本体との接合を強固にできるのは、ネジ部の構成が逆ハの字状か平行かの差異に基づくものではなく、カメラ本体にネジを螺合することによるものである。カメラ本体部にネジを螺合する点で本件登録意匠と甲1号意匠とで何ら変わりがない以上(いずれも接合は強固にできる)、被請求人の意見には一切理由はなく、需要者(プロないしセミプロのカメラマンであればなおさら)は、カメラやカメラ用アクセサリの分野では、ネジを螺合すれば固定が強固になること(甲14号証から同17号証、乙14号証、同15号証など)、「安定的な電気接続」はネジ部の構成が逆ハの字状か平行かの差異によるのではなく、カメラ側のアクセサリーシューとカメラ用アクセサリの端子部の接続(接触)によって決まることを一般常識として認識している。そのため、需要者が、ネジ部の構成における逆ハの字状か平行かの差異に強く注意を惹かれることは明らかとする被請求人の意見にも一切理由がない。 (エ)また、被請求人は、「底面方向にまっすぐネジが伸びているか、斜めにネジが伸びているか」の点こそが、両意匠における重要な差異であると意見しているが、被請求人の意見こそが当を得ないものでる。 (オ)すなわち、本件登録意匠の出願日前において、ネジがまっすぐに伸びている構成はありふれた構成である(甲16号証、同17号証、同44号証、被請求人が提出した乙3号証から同13号証等)。そもそも、甲16号証、同17号証、同44号証に示すように、カメラ用アクセサリの構成としてもありふれた構成であること、カメラと接する部分のアクセサリ形状がカメラの上面形状に依存する(被請求人が例示する乙3号証等であれば接続先となる機器の端子部及びその周辺形状に依存する(甲28号証等))ことは、需要者が当然のこととして認識している(プロないしセミプロのカメラマンであればなおさら)。 (カ)したがって、被請求人が意見するように、カメラ本体と強固に接合できるのがネジの螺合によるとするのであればより一層、強固な接合は、ネジ部の構成が逆ハの字状か平行かの差異に基づくものではない。カメラ本体にネジを螺合することによると需要者は瞬時に認識するため、甲1号意匠と本件登録意匠に接した需要者は、単にネジの向きが相違していると認識するにとどまる。そして、ネジ部の構成における逆ハの字状か平行かの差異に比して、2本のネジが端子部の左右外側に設けられた両意匠に共通する基本的構成態様の方が需要者の注意を惹く構成になると考えるのが妥当である。 (2)被請求人の主張 (2-1)審判事件答弁書 被請求人は、おおむね以下のとおりの反論をした。 ア はじめに 本件無効審判請求に係る被請求人名義の登録第1738504号意匠(以下、この意匠を「本件登録意匠」とし、また、その意匠登録を「本件意匠登録」と称する。)は、請求人が引用する甲1号意匠とは非類似のものであるから、本件意匠登録について意匠法第3条第1項第3号に基づく登録無効理由は存在しない。 イ 甲1号意匠の内容が特定できないことについて (ア)本件登録意匠 本件登録意匠は、物品「カメラ用アクセサリ」の意匠であって、願書添付の各図において実線で表した部分、すなわち「カメラへの固定に用いるネジ部」(より正確には、ネジの頭部を除く、ネジ部中程から先端にかけての部分)と「アクセサリーシューと電気接続する端子部」の2つの部分を意匠登録を受けようとする部分としているものである(以下、同部分を適宜「本件部分」と称する。)。 本件部分は、各拡大図にその具体的態様が表されており、特に下記「A部分の拡大正面図」において、その正面視の態様、特にネジ部と端子部の縦方向の位置関係が、明確に特定されている。 【本件登録意匠のA部分の拡大正面図】 (当審注:図の省略) (イ)甲1号意匠 一方、甲1号意匠の本件部分に相当する部分(以下、「引用部分」と称するます。)は、甲1号証記載の以下の写真群によってその態様が特定される。 【甲1号証記載の写真】 (当審注:図の省略) しかしながら、これらの写真では、その正面側の態様が具体的に確認できない。甲2号証においては、同部分がカメラに装着された状態のみが現れており、やはり正面から観察した場合にネジ部と端子部がどのように現れるのかが不明である。このことは甲3号証においても同様である。 そのため、本件部分と引用部分との対比において、これらを正面視した際にネジ部と端子部が縦方向においてどのような位置関係にあるのかについて、その異同が特定できない。 異同が特定できない以上両部分の対比は不能であって、これら意匠についての類否判断はなしえない。また、甲1号意匠に対して請求人が主張する改変を加えたとしても、それによって本件登録意匠が創作されるのかも不明である。 したがって、甲1号意匠に基づき本件意匠登録には登録無効理由があるとする請求人の主張は、いずれの点においても、そもそも失当である。 ウ 意匠法第3条第1項第3号に基づく登録無効理由について 以上のとおり、本件部分と引用部分とは対比ができないものであって、本件登録意匠は甲1号意匠に基づいて新規性を欠くとする請求人主張は当を得ないものであるが、たとえ正面視した際のネジ部と端子部の縦方向の位置関係の異同を仮に無視するとしても、これら意匠は非類似とすべきである。 甲1号意匠においては、正面視した際に2つのネジ部が逆ハの字状に現れている(このこと自体は、引用部分の正面視の態様が直接的には特定できなくとも、甲1号証の各写真から十分に推測可能であり、また、請求人主張とも一致する。)。この引用部分における逆ハの字状の態様は、他の公知意匠との対比において極めて特徴的であり、また物品の使用態様等の観点においても、需要者の注意を強く惹くものであって、本件登録意匠との類否判断に強い影響を及ぼすからである。 (ア)公知意匠群との対比 [1]甲1号意匠の公開 甲1号証から同3号証の記載から、甲1号意匠は、具体的にはキヤノン株式会社が販売する業務用フルHDビデオカメラ「XA20」に取付けられるハンドルユニット「HDU-1」であることが分かる。 この「HDU-1」を装着した状態の「XA20」とほぼ同様の外観を備えたデジタルビデオカメラの意匠が、同社によって2010年12年22日に出願され、意匠登録された後に翌9月12日に意匠公報が発行されている(意匠登録第1422743号。乙1号証)。また、甲5号証として提出されている公開特許公報記載の発明も、同様に、2010年12年22日に特許出願され、同特許出願の願書に添付された図面が、同公報の発行によって2012年7月12日に公開されている。さらに、同社業務用フルHDビデオカメラ「XA20」は、同社のニュースリリースによって2013年4月頃に公開がされている(乙2号証)。 これらの事実から推して、ハンドルユニット「HDU-1」の意匠である甲1号意匠は、遅くとも2010年末頃にはその創作が完成しており、意匠公報、公開特許公報、更には前記ニュースリリース等によって、2011年から2013年に掛けて、順次公開がされた意匠と推測される(ちなみに、いずれの資料によっても、引用部分の正面視の態様は不明である。)。 [2]甲1号意匠の公開前の公知意匠 前述の甲1号意匠の公開よりも前に、端子部を2つのネジ部その他の固定部材で挟み込むように配設した電気接続用のコネクタ部分を含む意匠は、カメラ用アクセサリの分野及びその周辺分野を含め、多く存在していた。 しかしながら、これら先行する公知意匠群は、以下のように、そのほとんどが2つの固定部材を平行に配したものであり(例えば、乙3号証から同第13号証)、甲1号意匠のように逆ハの字状に配したものは見当たらない。 (当審注:図の省略) これらの先行意匠は、具体的な固定部材の態様並びに具体的な端子部の態様において相互に、また、本件部分におけるこれらの具体的な態様とも、それぞれ顕著に異なる点を有しているが、平行に配置された固定部材のほぼ中間位置に端子部が現れるといった基本的な態様においては概括的に共通しているものであり、このような先行意匠群との対比において、甲1号意匠のネジ部の逆ハの字状の態様は、少なくともその公開時点において、極めて斬新であったというべきである。 [3]甲1号意匠の公開後の公知意匠 この逆ハの字状の態様が斬新であることは、その公開後においても、なお維持されている。すなわち、甲1号意匠の公開後現在に至るまで、カメラ用アクセサリの分野及びその周辺分野において2つの固定部材を平行に配置する例はみられるものの(例えば、乙13号証から同14号証)、これらが逆ハの字に配設されているものは見当たらない。実際、請求人が提出する甲16号証及び同17号証記載の意匠も、同様に2つのネジないし固定部材が平行に現れるもののようである。 (当審注:図の省略) [4]逆ハの字は周知又は公知であるとの請求人の主張に関して ところで、請求人は、両意匠のネジ部の傾きの差違に関して「いずれのネジ部の形成位置も甲5号証の図7及び図8、同14号証から同17号証等に示すように(中略)周知ないしは公知の態様である」と主張している。 このうち、甲16号証と同17号証は、前述の通り固定部材が平行に現れている例を示すものであるから、請求人が上記主張の根拠とする逆ハの字状に配置されたネジ部を備えるこの種意匠の例は、甲5号証の図に現れたもの、同14号証及び同15号証に現れたものの3つのみということになる。 しかしながら、そもそも甲5号証の各図は、キヤノン社の特許出願の願書に添付された図面であって、これら図面に表されたハンドルの意匠は、甲1号意匠とほぼ同等のものである。 同14号証も、キヤノン社の業務用フルHDビデオカメラ「XA35」を紹介する記事であり、同社のオンラインショップの記載によれば、「XA35」にも「HUD-1」は装着可能とのことので(乙16号証)、同書証に現れているハンドルユニットの意匠は、甲1号意匠と同じものである。 甲15号証も、キヤノン社のビデオカメラ「XA10」を紹介する記事である。同社のオンラインショップの記載からすると(同上)、「HUD-1」は「XA10」に装着できないようにも見えるが(とはいえ、甲1号証には、出品商品の説明として「Canon ハンドルユニットHUD-1 XA10 XA20 XA30」と記載されているので、実際には「XA10」にも装着可能なのかもしれないが)、いずれにしても同書証記載の写真から見て、少なくとも同ハンドルユニットの外観は、ほぼ甲1号意匠と同等であって、一見しただけではどこが異なるのかの区別もできない。 【甲1号意匠と甲15号意匠の対比】 [図:0001433144000001.jpg] つまり、請求人は、逆ハの字状のネジ部の配設態様は周知又は公知であると述べるものの、当該主張の根拠となる各書証は、いずれもキヤノン社の同一のハンドルユニットを示すものであって、もし仮に細かい差違を有するバリエーションがあるとしても、その種類は(上掲の甲1号意匠と甲15号証記載の意匠の)僅か2つしかない。同一企業が販売する同じ種類のハンドルユニットの意匠しか証拠として提出できないことは、この種物品において、逆ハの字状のネジ部の配設態様が、公開当時においてごく斬新であり、そしてその後も顕著な特徴であり続けていることを、むしろ物語っている。 [5]小括 以上の理由から、甲1号意匠においては、先行意匠群との対比において(更には後行意匠群との対比においてすらも)逆ハの字状のネジ部の配置態様が斬新でありかつ顕著な特徴であって、他に類例を見ないものであるからこそ、その配置態様は需要者の注意を強く惹くとするのが相当と思われる。 (イ)物品の性質ないし使用態様等との関係 [1]需要者 甲1号意匠に係る物品「HUD-1」は、甲1号証から同3号証等の記載から明らかなように、キヤノン社のビデオカメラに装着して使用する物品であって、引用部分はビデオカメラ本体との電気接続に用いる部分である。 本件登録意匠に係る物品も、願書記載の通り、同様にカメラに装着して用いる物品であり、また、やはり引用部分と同様に、カメラ本体に配設されたアクセサリーシューに嵌合して電気接続をする部分に係る。 したがって、この種物品の需要者は、ビデオカメラを使用する者ということになるが、特に「HUD-1」を装着するカメラは業務用フルHDビデオカメラであって(乙2号証)、これはプロ仕様の製品である。したがって、「HUD-1」それ自体の需要者も、同様に具体的にはビデオ撮影のプロであるということができます(ちなみに、願書には直接的には記載していないが、図面においてマイクホルダーが描かれている以上本件登録意匠に係る物品も動画撮影用のビデオカメラに装着することが予定されており、そして「使用方法を示す参考図」記載の現に販売されている被請求人のカメラは、やはりプロ仕様のカメラであって、その需要者も基本的にはプロないしセミプロのカメラマンである。乙17号証)。 [2]需要者の関心 需要者が「プロ」であるかはひとまずおくとしても、これら物品が、カメラに装着して用いる物品である以上、その需要者が、購買を予定している物品が目的のカメラに装着可能であって適切に電気接続が機能するのかといった点に、強い関心を持つことは当然である。せっかく購入したにもかかわらず、目的のカメラに接続することができず、結局使用することができないといった事態の発生は、この種物品の需要者において当然に避けたいことであり、それがこの種機器の専門家とも言い得るプロのカメラマンであれば、なおさらその見極めに細心の注意を払うであろう。 この点、引用部分のようにネジ部が逆ハの字状であるか、それとも本件部分のように平行であるかの差違は、このような観点において、需要者の注意を強く惹くことになる。逆ハの字状のネジで締結することが予定されたカメラに、ネジ部が平行に配されたアクセサリが装着できないことは、一見して明白であるからである。逆も同様であり、ネジ部が平行であるアクセサリは、逆ハの字状のネジで締結することが予定された相手方カメラに装着できないことも自明である。 なわち、当然に避けたい「装着することができない」といった事態の発生を回避するために、この種物品の需要者は、物品の性質上、また、その使用態様に照らして、ネジ部の傾斜の如何に強い関心を寄せることになる。 (ウ)類否判断 [1]差異点 本件登録意匠と甲1号意匠には、少なくとも、(差異点1)端子形状それ自体の差違、(差異点2)底面視における端子部とネジ部の位置関係(端子部がネジ部同士を結ぶライン上に設けられているか、同ライン上から正面側に位置がズレているか)の差違、そして、(差異点3)フラット面に形成されているか傾斜面に形成されているかの違いによって生じる、2つのネジが平行の位置関係にあるか逆ハの字状の位置関係にあるかの差違がある。それらの点に差違があるとしていることに関しては、請求人主張も同様と思われる(なお、前述のとおり、これら意匠には、(差異点4)正面視した際のネジ部と端子部の縦方向の位置関係にも差違がある可能性があるが、ここではひとまずおく。)。 [2]平行か逆ハの字かの差違の評価 これら差異点のうち、(差異点1)端子部の形状それ自体の差違、及び、(差異点2)底面視した際の端子部とネジ部との位置関係の差違については、仮に請求人主張のとおり類否判断に与える影響が小さいと評価するとしても、(差異点3)2つのネジが平行の位置関係にあるか逆ハの字状の位置関係にあるかの差違がこれらの類否判断に与える影響は、非常に大きいと評価すべきである。 上述のとおり、甲1号意匠公開の前後を通じて、カメラ用アクセサリ及びその周辺の分野における電気接続のための構成において、2つのネジが逆ハの字状に配設されている例は、甲1号意匠を含むキヤノン社の製品との関係におけるものが唯一である。すなわち、公知意匠群との対比において、同態様は斬新あるいは顕著な特徴であって需要者の注意を強く惹くとすべきものといえる。 また、電気接続のための構成においては、購入対象の物品が接続を予定している相手方に適切に接続するか否かが購買時における需要者の重大な関心事であるところ、ネジ部が平行か逆ハの字かの差違は、装着の可否を見極める上での指標となる差異であって、当該差違に対しては需要者の注意が強く惹かれることになる。 意匠の類否判断は、一般に、対比する意匠の各構成について、a.その形状等を対比観察した場合に注意を引く部分か否かの認定及びその注意を引く程度の評価と、b.先行意匠群との対比に基づく注意を引く程度の評価を通じてされるものである(例えば意匠審査基準第III部第2章第1節2.2.2.6)。 本件登録意匠と甲1号意匠の差異点に係る「ネジ部」は、その機能上当然に需要者の注意を惹く部分であり、また、安定的な電気接続を実現するという観点並びに目的の接続が可能かといった観点から当然に需要者の注意を惹く程度が高い部分である。更に、当該差違に係る甲1号意匠の逆ハの字の態様は、先行意匠群との対比において斬新であり、他のものとは異なっているという強い印象を与えるといった観点においても、需要者の注意を強く惹くことになる。 以上の諸点に照らして、両意匠のネジの配設態様に係る平行か逆ハの字かの差違は、類否判断に与える影響が大きいとすべきものであって、これに加えてその他の構成においても複数の差違があることを踏まえれば、単なるそのルックスによってもたらされる印象といったものに留まらず、いわば使い勝手といった物品の性質や使用目的等との関係をも含む概念と理解される需要者に起こさせる美感が、これら意匠においては決定的に異なるとすべきものと思われる。 よって、これら意匠は類似するとし、本願意匠について意匠法第3条第1項第3号に基づく登録無効理由があるとする請求人主張は失当である。 (2-2)口頭審理陳述要領書(被請求人) 被請求人は、令和7年6月25日に口頭審理陳述要領書を提出し、おおむね以下のとおりの主張と反論をした。 ア 甲22号証の1及び同22号証の2について 被請求人は、新たに提出された甲22号証の1及び同22号証の2を証拠として扱うことに同意しない。(当審注:当該書証については、後段の「第6 請求人の主張」参照。) イ 両意匠のネジの配設態様に関する差異、及び端子部の形状に関する差異について 請求人は、本願意匠と甲1号意匠の類否判断に関し、両意匠のネジの配設態様が平行か逆ハの字状かの差異に比して、カメラ側のアクセサリーシューとカメラ用アクセサリの端子部の接続が、需要者の注意を惹く程度が高いと説明し、両意匠におけるネジ部の逆ハの字状か平行かの差異は、これらの類否判断に大きく影響することはないと主張した。 しかしながら、「カメラ用アクセサリ」である本願意匠に係る物品において、アクセサリーシューによる係合と、カメラ本体との螺合とが組み合わさっているのは、アクセサリーシューによる係合のみでは接合状態が維持できないほどの強度が必要な使用態様が想定されているからであって、カメラ本体の重さ等々に耐えられない場合や他に衝突したような場合にアクセサリーシューが壊れてしまい、ひいては端子部が破壊され、適切な電気接続が保(当審注:保(たも))てないといった事態の発生を防ぐために、本件登録意匠並びに甲1号意匠は、併せて螺合することによってカメラ本体との安定的な接合ひいては適切な電気接続の実現を図っているものである。このことは、これら意匠に接する需要者においても自明の事実と思われる。ネジの配設態様に関する差異、すなわち、逆ハの字状か平行かの差異は、商品選択の際に需要者において極めて重要な指標の一つとなるものであって、ネジの配設態様において顕著に異なる両意匠は、類似しないと判断されるべきである。 また、仮に、「カメラ側のアクセサリーシューとカメラ用アクセサリの端子部の接続」に対する需要者の注意が惹かれる程度が高いのであるならば、審判請求書等において請求人も認めるとおり、本願部分の端子形状と引用部分の端子形状は異なっているから、これらは非類似と結論されるべきである。 (2-3)上申書(被請求人) 被請求人は、おおむね以下のとおりの反論をした。 恐らく請求人は、アクセサリーシュー側の端子部とアクセサリ側の端子部が正しく接触するといったことのみをもって「安定的な電気接続」が実現されているとしているもののようであるが、一般に「安定的」とは、激しい変化がなく一定の状態が保たれていることを表現し、したがって、仮に両端子部が接触して通電が実現したとしても、その状態が保たれなければ「安定的な電気接続」が実現されているとはいえないし、少なくとも、被請求人は、答弁書等において、そのような意味において「安定的な電気接続」という表現を用いている。 この点、口頭審理陳述要領書に基づき陳述したとおり、本件登録意匠並びに甲1号意匠は、「カメラ本体の重さ等々に耐えられない場合や他に衝突したような場合にアクセサリーシューが壊れてしまう」事態を想定して、単に端子部を接触させるだけではなく、併せて螺合することによって、カメラ本体との安定的な結合ひいては適切な電気接続の維持の実現を図っているものである。カメラ本体との接合を強固にして端子部の接触を維持するといった意味を含めた「安定的な電気接続」の実現という観点からすれば、需要者が、カメラ本体装着時の強固な接合を実現するネジ部の構成における逆ハの字状か平行かといった差異に、強く注意を惹かれることは明らかと思われる。 請求人は、これら意匠のネジ部の差異は「逆ハの字状か平行か」といったものではなく、「底面方向にまっすぐネジが伸びているか、斜めにネジが伸びているかだけの相違でしかない」などと主張しているが、被請求人は、正にこの「底面方向にまっすぐネジが伸びているか、斜めにネジが伸びているか」の点こそが、両意匠における重要な差異であると述べている。 全体として、ネジ部の構成における逆ハの字状か平行かの差異に、需要者が注意を惹かれる程度は低いとする請求人主張は、当を得ない。 2 無効理由2(創作非容易性の欠如) (1)請求人の主張 (1-1)審判請求書 請求人は、おおむね以下のとおりの主張をした。 ア はじめに 本件登録意匠は、前記のように無効理由1によって明白な無効理由が存在するものである。しかしながら、万一、甲1号意匠と本件登録意匠とが非類似であると判断されたとしても、少なくとも本件登録意匠は、無効理由2によって無効にされるべきである。 イ 本件登録意匠の構成態様の評価 (ア)基本的構成態様の評価 本件登録意匠のように、カメラと接するアクセサリの底面側にカメラのアクセサリーシューと電気接続する端子部とカメラヘ固定するネジ部を設けるとのデザインコンセプトやその形態は、上記のように周知ないし少なくとも公知のデザイン思想であると同時に周知ないしは公知の形態である。 すなわち、本件登録意匠の基本的構成態様である、「カメラと接する底面側にカメラのアクセサリーシューと電気接続する端子部と、カメラヘ固定する2本のネジ部が設けられてなる構成」((ア)-1)、「底面視、カメラと接する底面側の略中央に端子部が設けられ、端子部の左右外側にネジ部が設けられてなる構成」((ア)-2)は、この種カメラの分野若しくはカメラ用アクセサリーの分野において上記で詳述したとおり、甲1号意匠、甲5号証の図7及び図8、同14から同17証等によって周知ないし公然知られた構成である。 (イ)具体的構成態様の評価 本件登録意匠の端子部の具体的構成態様である「端子部が複数本の端子を左右方向に並設し、各端子の底面側の正面側略半分が底面方向へ略台形状に突出形成されてなる構成」((イ)-1)も、この種カメラの分野若しくはカメラ用アクセサリの分野において甲1号意匠、同8号証から同13号証等によって周知ないし公然知られた構成である。 また、本件登録意匠のネジ部形成位置の具体的構成態様である「ネジ部が底面外側のフラット面に形成されてなる構成」((イ)-2)も、甲16号、同17号証等によって周知ないしは公然知られた構成である。 さらに、本件登録意匠の端子部とネジ部の配置についての具体的構成態様である「端子部がネジ部同士を結ぶライン上設けられてなる構成」((イ)-3)も、甲5号証の図8、同16号証、同17等によって周知ないしは公然知られた構成である。 (ウ)創作性 以上より、本件登録意匠は、その出願当時において公然知られていた甲1号意匠の底面外側を甲16号証、同17号証等に示すようにフラット面に形成し、甲1号意匠の端子部を甲8号証から同13号証等に示すように、各端子の底面側の正面側略半分を底面方向へ略台形状に突出形成してなるとともに、甲5号証の図8、同16号証、同17号証等に示すように、ネジ部同士を結ぶライン上に配置して構成したにすぎない意匠である。 すなわち、上記したように、底面外側のフラット面にネジ部が形成されてなる構成は周知ないしは公知であるため、甲1号意匠の底面外側を傾斜面からフラット面とすることは、当業者にとってありふれた手法にすぎない。 また、上記したように、左右方向に複数本並設した端子の底面側の正面側略半分を底面方向へ略台形状に突出形成した端子部の構成も周知ないしは公知であるため、甲1号意匠の端子部の底面側の正面側略半分を底面方向へ略台形状に突出形成することも当業者にとってありふれた手法にすぎない。 さらに、上記したように、端子部がネジ部同士を結ぶライン上設けられてなる構成も周知ないしは公知であるため、甲1号意匠の端子部をネジ部同士が結ぶライン上に配置することも当業者にとってありふれた手法にすぎない。 よって、本件登録意匠は、当業者にとってありふれた手法により、甲16号証、同17号証等のように甲1号意匠の底面外側をフラット面に改変する等し、甲1号意匠の端子部を甲8号証から同13号証等に示す端子部に置き換えるとともに、甲5号証の図8、同16号証、同17号証等のようにネジ部同士を結ぶライン上に置き換える等して構成したにすぎない意匠に他ならない。 そのため、本件登録意匠は、当業者であれば容易に創作することができたものであるため、意匠法第3条第2項の規定によって本件登録意匠は意匠登録を受けることができない意匠であることは明白である。 ウ 先行周辺意匠の摘示 先行周辺意匠の摘示については、前記、第3 当事者の主張及び証拠方法、1 無効理由1(新規性の欠如)、(1)請求人の主張、(1-1)審判請求書、イ 先行周辺意匠の摘示参照。 エ 小括 よって、本件登録意匠が仮に意匠法第3条第1項第3号の無効理由に該当しないとしても、本件登録意匠はこの種物品分野における当業者であれば、容易に創作できたものであるため、意匠法第3条第2項の規定に違反して登録されたことは明白である以上、同項第48条第1項第1号により無効にされるべきものである。 (1-2)審判事件弁駁書 請求人は、おおむね以下のとおりの主張をした。 ア はじめに 被請求人は令和6年12月9日付けの審判事件答弁書において、甲1号意匠は、2つのネジ部が逆ハの字状に配設されていることを強調して、本件登録意匠は、甲1号意匠その他の公知意匠に基づいて容易に創作をすることができるものでもないと主張しているが、被請求人の答弁理由は失当であって本件登録意匠の無効理由2を覆す答弁でないことを以下詳述する。 イ 正面視における端子部とネジ部との位置関係について (ア)被請求人は、答弁書の10頁において、甲1号意匠の正面視において端子部とネジ部が縦方向にどのような位置関係にあるのかが不明であり、この位置関係がカメラとの接続に用いる部位に係るものである以上、軽視できる要素ではないと主張するが、位置関係が不明とする点については、上記でも触れたように甲22号証を提出したことで解消されたものと思われる。 (イ)被請求人は、端子部とネジ部の縦方向における位置関係は軽視できる要素ではないとしているが、フラットなカメラ上面に設けられたアクセサリシューは、カメラ上面から段落ちさせたり上方に突出させて設けられており(甲40号証から同43号証等)、その深さや高さは種々の態様とされてなる状況にある。 (ウ)そのため、本件登録意匠のようなアクセサリに端子部とネジ部を設ける場合、端子部をカメラのアクセサリーシューに接続でき、かつ、ネジ部が形成されたアクセサリ部分(底面側)をカメラ上面にフィットするような端子部とネジ部の縦方向の位置関係は必然的に決まるため、ネジ部と端子部の縦方向の位置関係には創作的価値(創作性)は一切ない。 ウ 重畳的な改変について (ア)被請求人は、本件部分は、頭部を除く一対のネジ部と、複数の棒状体を並べた端子部の2つの要素のみで成るもので、ネジという部品そのものはもとより公知である、電気接続のための端子部が複数の棒状体を並べて成るものも公知である、すなわち、この種意匠は、いわば公知の意匠の組合せによって成るものであるため、その配置態様(レイアウト)に対してこそ、創作者の知的労働が投下され、そこの特徴が現れる、と主張している(答弁書の10頁)。 (イ)すなわち、被請求人主張は、公知のネジ部と端子部を組合せて本件登録意匠のような配置とすることが当業者にとってありふれた手法によって創作できないとするもののようである。 しかしながら、本件登録意匠の出願時点においては、審判請求書で既に主張したように、ネジ部が底面外側のフラット面に形成されてなる構成(2つのネジを平行に配した態様)、端子部がネジ部同士を結ぶライン上に設けられてなる構成(被請求人が主張するレイアウト)は、甲5号証(当審注:特開2012-134815号)の図8、同16号証、同17号証、甲44号証によって周知ないしは公然知られている。また、前記構成が周知ないしは公然知られていることは、被請求人が提出した証拠である乙3号証から同12号証からも裏付けできる。 (ウ)よって、本件登録意匠のネジ部と端子部の配置態様(レイアウト)とすることに創作者の知的労働が投下されているとは到底考えられず、正に公知な意匠を単に組合せただけであり、前記配置態様に特徴が現れているものでないことは明らかである。 (エ)被請求人は上記主張に続けて、このような意匠分野において(恐くカメラ用アクセサリの分野及びその周辺分野と思われる)、或(あ)る既知の意匠に対し、a(当審注:底面外側をフラット面に形成したもの)のようにネジの向きを変え、これにc(当審注:端子部を、ネジ部同士を結ぶライン上に配置したもの)のように底面視した際の端子部の位置を変更するといった、当該創作の核心部分たるレイアウト上の変更を、複数重畳的に施す必要のある創作は(しかも、本件においては更には正面視縦方向の位置関係についてまでをも変更しなければならない可能性のある創作は)、到底「容易」と評価し得るものではないと主張している。 (オ)しかし、aのようにネジの向きを変えることについては、上記したように、カメラと接する部分のアクセサリ形状はカメラの上面形状に依存することとなる。しかも、本件登録意匠の出願時点において、請求人も多くの裏付け資料を提出しているが、甲16号証、同17号証、甲44号証、乙3号証から同13号証から明らかなように、2つのネジや固定部材を平行に配したものがありふれた構成である。ネジの向きを甲1号意匠から本件登録意匠のように変えることは極めて容易であると評価できる。なお、被請求人が主張するように、仮に甲1号意匠について逆ハの字状のネジ部の配設態様が斬新というのであれば、斬新な逆ハの字状をありふれた平行にすることは創作が後退していると評価すべきである。すなわち、ネジの向きを甲1号意匠から本件登録意匠のように変えることは、当業者にとって極めて容易に想定されうる、あきらかにありふれた手法であると言わざるを得ない。 (カ)また、cのように底面視した際の端子部の位置を変更する(甲1号意匠の端子部をネジ部同士が結ぶライン上に配置変更する)ことについても同様の議論が妥当する。すなわち、本件登録意匠の出願時点において、甲16号証、同17号証、甲44号証、乙3号証から同12号証から明らかなように、端子部をネジ部同士が結ぶライン上に配置したものがありふれた構成であるだけでなく、乙13号証のようにネジ部(固定部材)同士を結ぶライン上から位置ずれさせて端子部を設けるといった創作の実態が認められる。そのため、甲5号証(当審注:特開2012-134815号)に示すように、本件登録意匠のようにネジ部同士を結ぶライン上に端子部が設けられた態様(図8)が、甲1号意匠のようにネジ部同士を結ぶライン上から正面側に位置ずれして端子部が設けられた態様(図7)の別の実施形態とされてなることなどにも鑑みれば、底面視した際の端子部の位置を甲1号意匠から本件登録意匠に変更することも、また、当業者にとって極めて容易に想定されうる、あきらかにありふれた手法であると言わざるを得ない。 (キ)したがって、本件登録意匠のようにネジの向きを変えることもネジ部同士を結ぶライン上に端子部を設けることも何ら有意な創作の核心部分ではなく、単純なレイアウトの変更にとどまり、複数重畳的に変更を施すといったレベルのものではない。すなわち、ネジの向きを単純に変えて端子部の位置を僅かに改変する程度、若しくは、端子部の位置を単純に変更してネジの向きを僅かに改変した程度のものであり、いわば、必然的・不可避的な変更といえ、そこに、具体的な創作行為は介在しない以上、本件登録意匠を創作することは(極めて)「容易」と評価し得る。 (ク)また、被請求人は、括弧書きで正面視縦方向の位置関係について触れているが、上記したように位置関係には創作的価値はなく、正面視縦方向の位置関係を少しだけ変更することは正にわずかな改変にすぎないため、正面視縦方向の位置関係を考慮するとしたとしても「容易」と評価し得ることに変わりはない。 (ケ)そして、ネジ部同士を結ぶライン上に端子部を設けることも何ら有意な創作活動ではなく、単純なレイアウトの変更にとどまり、複数重畳的に変更を施すといったレベルのものであり、容易に創作しうると認定すべきことは、以下の2つの裁判例の判旨からも、強く裏付けられる。 [1] 知財高判平成30年3月12日(平29(行ケ)10188号)(甲45号証) 裁判所は、以下の通り、アクセサリーケースのあらゆる使用形態に適するよう撮像部の位置を変更する動機付けが認められるから、撮像部を上蓋部から収納部に変更することは、当業者が容易に創作することができたものである旨判示し、また、カメラの撮像部の形態を円形とすることは、ごく普通にみられる広く知られた形状であり、多少の改変にすぎないと結論付けた。よって、この判例判旨に従えば、甲1号意匠の構成からネジ部が底面外側のフラット面に形成された構成(2つのネジを平行に配した態様)、及び端子部がネジ部同士を結ぶライン上に設けられてなる構成に変更することは、ごく普通にみられる広く知られた形状への多少の改変行為にすぎない。 (当審注:判例の抜粋は省略) [2] 知財高判平成24年7月4日(判例時報2169号80頁))(甲46号証) 上記裁判例においては、楕円柱状容器の周面に内容物の確認のための観察窓を設けた場合において、ありふれた態様である内容物観察のための垂直に細長い観察窓を設けることは、当業者が容易に創作できる旨判示している。 よって、この判例判旨に従えば、甲1号意匠の構成からネジ部が底面外側のフラット面に形成された構成(2つのネジを平行に配した態様)、及び端子部がネジ部同士を結ぶライン上に設けられてなる構成に変更することは、ごく普通にみられる広く知られた形状への多少の改変行為にすぎない。 したがって、本件においても、カメラアクセサリの形態に合わせて、甲1意匠の構成から、ありふれた態様というべき、「ネジ部が底面外側のフラット面に形成された構成(2つのネジを平行に配した態様)」及び「端子部がネジ部同士を結ぶライン上に設けられてなる構成」に変更することは、当業者にとって極めて容易というべきである。 (コ)なお、被請求人はbについて何ら主張していないため、甲1号意匠の端子部を甲8号証から同13号証等に示すように、各端子の底面側の正面側略半分を底面方向へ略台形状に突出形成することは当業者にとってありふれた手法にすぎないと認めたものと思われるが、本件登録意匠の出願日前において、例えば、甲47号証、同48号証などのように、この種アクセサリの端子部を種々の形状とすることが一般的な実「青にあることからしても、当業者にとってありふれた手法であることは裏付けできる。 エ 着想ないしは要点が異なることについて (ア)被請求人は、本件部分と引用部分では、そもそもその創作の着想ないしは要点が異なるとして、図を用いて本件部分と引用部分はレイアウトが異なっていることについて触れ、引用部分の創作には、接続の相手であるカメラ本体の筐体形状についてその複雑さを最小化するといった着想は見いだせない、本件部分の創作には、装着対象のカメラ本体の筐体形状を単純化して、接合部周辺の構造のコンパクト化を実現することが意図されている、などと主張している(当審注:後段の(2)被請求人の主張、(2-1)審判事件答弁書、(ウ)着想ないしは要点が異なること、参照。請求人が提出した答弁書では、10頁から13頁参照)。 (イ)続けて被請求人は、本件部分及び引用部分のように、接続する相手方が存在して初めて機能する部分については、その形状等に係る創作過程において、当然に、相手方形状への影響が創作者の念頭に置かれる。むしろ両者は一体的に創作されるものであって、接続する一方のみを独立して創作することで、その創作が完結するといったことはあり得ない。したがって、これらの部分の創作内容の実質は、相手方の形状等に与える影響を踏まえて評価されるべきと、と主張する。 (ウ)しかしながら、図を用いて本件部分と引用部分はレイアウトが異なっているなどとする被請求人の主張は、ネジの向きを甲1号意匠から本件登録意匠のように変えることは容易ではないとの主張を単に言い方を変えて繰り返しているにすぎない。ネジの向きを甲1号意匠から本件登録意匠のように変えることは「容易」と評価できる点は、上記したとおりである。 (エ)(引用部分の創作と本件部分の創作についての主張は、カメラ本体の筐体形状ありきとするものであると思われるが)本件では、甲1号意匠とその他の公知意匠等から本件登録意匠がその出願時点で容易に創作できたかを評価すれば足りるのである。そして、上記したように、ネジで締結することが予定されたカメラにネジ部がないアクセサリの電気接続が可能であることなども踏まえれば、カメラ本体の筐体形状を強調した被請求人の主張はその前提において失当である。そもそも引用部分は登録意匠ではないため、その創作性を評価していること自体、無意味である。 (オ)仮に、被請求人が主張するように、創作内容の実質を相手方の形状等に与える影響を踏まえて評価するのであれば、本件登録意匠の出願時点において、フラットなカメラ上面にアクセサリーシューが設けられたカメラや接合部周辺の構造がコンパクトなカメラ(甲40証から同43号証等)、ネジ部同士を結ぶライン上に端子部が設けられたカメラ用アクセサリ等(甲16号証、同17号証、同44号証、乙3号証から同12号証)が公知である以上、本件登録意匠の創作には独自の着想ないし独創があるとは到底想定しがたい。本件登録意匠は、甲1号意匠等に基づいて、当業者にとってありふれた手法によって創作された意匠に他ならないと評価すべきであり、被請求人の論理構成こそ誤りである。 (カ)なお、被請求人は、答弁書12頁の下から3行目以降で、「逆ハの字状のネジ部を平行のネジ部に置き換え等することは、このような技術的な観点においても、本体的に容易なものではあり得ません。」と主張する。(当審注:「本来的に」の誤記と思われる。)しかしながら、創作容易かどうかは、技術的観点と異なり物品にかかる形態を問題とする意匠的観点から考えれば済むため、係る主張には理由がない。また、そもそも、甲1号意匠からありふれた従来のありふれた態様というべき、「ネジ部が底面外側のフラット面に形成された構成(2つのネジを平行に配した態様)」及び「端子部がネジ部同士を結ぶライン上に設けられてなる構成」に変更していることに鑑みれば、技術的に極めて容易想到な構成である。 よって、かかる点からも、本件登録意匠は、甲1号意匠と周知意匠に極めて容易に創作しうる意匠であることが強く裏付けられる。 オ 小結 以上のとおり、被請求人の主張には理由がなく、本件登録意匠が仮に意匠法第3条第1項第3号の無効理由に該当しないとしても、本件登録意匠はこの種物品分野における当業者であれば、容易に創作できたものであることは、明らかである。そのため、意匠法第3条第2項の規定に違反して登録されたことは明白である以上、同項第48条第1項第1号により無効にされるべきものである。 (1-3)口頭審理陳述要領書(請求人) 請求人は、おおむね以下のとおりの主張をした。 ア 正面視における端子部とネジ部との位置関係について (ア)ここでも被請求人は、甲22号証の1及び同22号証の2の提出が、請求の理由についてした要旨を変更する補正に相当するものであるため、証拠として扱うことに同意しないことを前提として、「本件部分と引用部分において、正面視における端子部とネジ部との位置関係は、対比することができません。」と陳述している。 (イ)しかし、上記したように、甲22号証の1及び同22号証の2の提出は請求の理由について要旨を変更する補正ではなく、甲1号証の補充として提出したものであり、甲1号証によって正面視の態様を含めた甲1号意匠の構成が特定できる以上、請求人の陳述には理由がない。 (当審注:当該書証に基づく主張等に関する当審の判断は、後段の第6に記載。) イ 重畳的な改変について (ア)コロンブスの卵(後知恵)について [1]被請求人は、意匠法第3条第2項と特許法29条2項を比較するとともに、特許・実用新案審査基準の規定を持ち出して、「コロンブスの卵」なる表現を用いて進歩性の判断について説明し、意匠法第3条第2項も特許法第29条第2項と同様の規定であるなどと縷々(当審注:縷々(るる))主張して、「甲1号意匠に基づいて容易に本件登録意匠の創作をすることができたかを判断するにあたっては、そのような後知恵を排除するために、きちんとした論理付けがなされる必要があり、そのことは特許要件である進歩性判断と同様であることに、議論の余地はないものと存じます。」と持論を展開した陳述を行っている。 [2]しかしまず前提として、被請求人も認めているように、本件審判は意匠法の事件であり、容易に意匠の創作をすることができたかを判断する意匠法第3条第2項の適用と、特許要件である進歩性を判断する特許法29条2項の適用とは、直接的かどうかに関係なく全く無関係である。 [3]被請求人が陳述しているように、意匠法第3条第2項は「公然知られた意匠等に基づいて、容易に意匠の創作をすることができた」か否を、特許法29条2項は「公然知られた発明等に基づいて、容易に発明をすることができた」か否かを問題とするものであり、言うまでもないことであるが、意匠法では、『「意匠」とは、物品(物品の部分を含む。以下同じ。)の形状、模様若しくは色彩若しくはこれらの結合(以下「形状等」という。)、建築物(建築物の部分を含む。以下同じ。)の形状等又は画像(機器の操作の用に供されるもの又は機器がその機能を発揮した結果として表示されるものに限り、画像の部分を含む。次条第二項、第三十七条第二項、第三十八条第七号及び第八号、第四十四条の三第二項第六号並びに第五十五条第二項第六号を除き、以下同じ。)であって、視覚を通じて美感を起こさせるものをいう。』(意匠法2条1項)と規定され、特許法では、『「発明」とは、自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のものをいう。』(特許法2条1項)と規定されている。 [4]すなわち、保護する対象、その対象を創作するか発明するか完成するまでの過程などが異なるため、それ故保護するか否かの判断手法等が異なることは周知の事実であり、被請求人が陳述するように意匠法第3条第2項の判断が特許要件である進歩性判断と同様であるとするのであれば、被請求人が陳述している特許・実用新案基準の規定と同様の規定がなぜ意匠審査基準に規定されていないのか説明が付かない。わざわざ意匠審査基準に規定されていない特許・実用新案審査基準の規定を持ち出しているのは、請求人の主張に正面から反論できないと考えざるを得ず、被請求人のこれまでの主張及び今回の陳述こそきちんとした理論づけがなされておらず、失当な主張・陳述であると言わざるを得ない。 [5]また被請求人は、「請求人の審判請求書及び弁駁書において、単にaを改変することは容易である、あるいはcを改変することは容易である等々と、個々の要素の改変について述べるものであって、甲1号意匠に基づいて容易に本件登録意匠を創作することができたかについて十分な論理付けをしていない。」と陳述している。 [6]しかし請求人は、審判請求書では8頁において、本件登録意匠は当業者であれば容易に創作することができたものであること、審判事件弁駁書では7頁以降において、請求人の主張に対して的確に反論するとともに、本件登録意匠はこの種物品分野における当業者であれば容易に創作できたものであることを詳細に主張して、十分な論理付けを行っている以上、被請求人の陳述に理由がないことは明らかである。 [7]一方で、被請求人の審判事件答弁書及び口頭審理陳述書での主張・陳述、特に、口頭審理陳述書では上記したように特許法、特許・実用新案審査基準に基づく陳述を行っており、自ら提出した乙3号証等に対する請求人の主張に対しては一切陳述を行っていない以上、被請求人こそ十分に論理付けをしていない、意見等を述べていないと言わざるを得ない。 (イ)阻害要因について [1]被請求人は、甲1号意匠の造形について縷々主張しているが、いずれも被請求人の憶測ないしは勝手な決め付けであり、審判事件弁駁書でも主張したように、引用部分(甲1号意匠)は登録意匠ではないため、その創作性を評価していること自体が無意味である、すなわち、甲1号意匠とその他の公知意匠等から本件登録意匠がその出願時点で容易に創作できたかを評価すれば良く、被請求人が陳述するように、本件部分の配設態様は甲1号意匠から後退していると評価できるのであればなおさら、当業者が甲1号意匠とその他の公知意匠等に基づいて容易に本件登録意匠を創作することができたと評価するのが自然である。 [2]すなわち、本件登録意匠の創作が容易かどうかは技術的観点と異なり、物品に係る形態を問題とする意匠的観点から考えれば済む問題である、つまり、本件登録意匠の出願時点において、これまで請求人が提出した甲号証(甲8号証等)、被請求人が提出した乙号証(乙3号証等)の形状等に基づいて、カメラ用アクセサリ及びその周辺の分野における通常の知識を有する者(当業者)であれば本件登録意匠を容易に創作できたかどうかを検討・評価すれば足りるのであり、阻害要因という特許・実用新案審査基準で規定されている判断手法を持ち出している被請求人の陳述は、やはり請求人の主張に正面から反論できないと考えざるを得ず、失当な主張・陳述であると言わざるを得ない。 [3]なお、被請求人は、「本件登録意匠は、目視によって、とりわけ左右方向に関して慎重に端子部の位置をアクセサリーシューに合わさなければ適切な嵌入ができません。」と陳述しているが、不合理であり失当である。すなわち、被請求人が審判事件答弁書で主張するように、本件登録意匠及び甲1号意匠の需要者がプロないしセミプロのカメラマンになるのであれば、カメラのアクセサリーシューに本件登録意匠及び甲1号意匠の端子部を嵌入する使用者もプロないしセミプロのカメラマンである。そのため、当該需要者は、カメラのアクセサリーシューに端子部を嵌入することに慣れているため、ことさら慎重に端子部の位置をアクセサリーシューに合わせなくても簡単に嵌入することができると考えるのが自然である。仮に、カメラのアクセサリーシューに本件登録意匠の端子部を嵌入することに慣れている使用者であっても慎重を期するのであれば、端子部を損傷させないようにするなどの観点から、カメラのアクセサリーシューに甲1号意匠の端子部を嵌入する際も本件登録意匠と同じように慎重を期すると考えるのが妥当であり、被請求人の陳述には理由はない。 (ウ)意匠の創作について [1]被請求人は、甲40号証記載のカメラに本件登録意匠に係る物品を仮に装着してみるとして図を用い、甲40号証記載のカメラに本件登録意匠に係る物品を装着するには、カメラの軍艦部の構造そのものから設計をし直す必要が生じるなどとして、「甲1号意匠の逆ハの字状を単に平行にしさえすれば、それによってデザインが成立するというものではない。」などと陳述している。 [2]しかし、甲41号証記載のカメラに本件登録意匠に係る物品を仮に装着してみるとすると、カメラ本体側に対応するネジ孔を設けるための余地があるため、カメラ上面をフラットに改変する必要はなく、ボタン類の存在も邪魔することはないため、被請求人が陳述するようなカメラの軍艦部の構造そのものから設計をし直す必要は生じず(甲50号証)、被請求人の陳述は、場当たり的で根拠のないものであると言わざるを得ないため、前提において理由がない。 [3]なお、被請求人は、『意匠法3条2項は、「容易に意匠の創作をすることができた」か否かを問題としている。引用意匠との関係で認定される個々の差異点のそれぞれが、個々に容易に改変可能であったかを問題としているものはない。本件のように、引用意匠とのあいだに複数の差異点が存在している場合において、その個々の差異点の改変が容易であることのみでは、本件登録意匠の創作が当業者において容易であったことの論理付けにはならない。」と陳述している。 [4]しかし、例えば、先行意匠に基づけば、ある意匠の寸法を変更(改変)するとともに色付けや色彩変更をする(改変)などといったように、個々の差異点の改変が容易であるとともに全体として容易想到であると判断し得る場合は多分にある。特に、本件登録意匠は、被請求人が審判事件答弁書で主張するように(当審注:後段の(2)被請求人の主張、(2-1)審判事件答弁書、(イ)重畳的な改変、参照。審判事件答弁書では、10頁、第四、(2)参照)、頭部を除く一対のネジ部と複数の棒状体を並べた端子部の2つの要素のみで成るシンプルな構成である。そのために、本件登録意匠の出願時点において周知ないしは公知である多岐に亘る先行意匠の存在や、この種の意匠はいわば公知の意匠の組合せによって成るものであるとする被請求人の主張(同(2))などにも鑑みれば、甲1号意匠の底面外側をフラット面に形成すること、甲1号意匠の各端子底面側の正面側略半分を底面方向へ略台形状に突出形成すること、端子部をネジ部同士が結ぶライン上に配置することが容易であるとともに全体として容易想到である。すなわち、本件登録意匠は、甲1号意匠その他の公知意匠に基づいて容易に創作をすることができた(当業者にとってありふれた手法によって創作された)意匠に他ならないと判断(評価)するのが妥当である。 [5]なお、被請求人は、「意匠審査基準には、引用意匠に対して複数のありふれた手法を適用した場合にも創作容易とする例の掲載がない。」などと陳述しているが、意匠審査基準の例示は限定列挙ではなく、意匠審査基準に例示がないことだけで、本件登録意匠の創作が当業者において容易であったものでないとするのは早計である。また、審判事件弁駁書において引用した知財高判30年3月12日(平成29(行ケ)10188号)(甲45号証)においても、3つの相違点(A、B及びC)のいずれについても、当業者が容易に創作することができたとして、全体として創作容易であるとして意匠法第3条第2項違反の事実を認定している。各相違点が着想の新しさや独創性があるといえるか否かが創作容易性判断の分水嶺になるのであって、相違点の個数で決まるものではない(1個の相違点であれば、創作容易であり、2個ないし3個の相違点があるから、創作非容易となるものではない。)。 [6]いずれにしても、無効理由2に対する被請求人の陳述(反論)は、いずれも理由のない失当なものである。 ウ 小結 以上のとおり被請求人の陳述には理由がなく、本件登録意匠が仮に意匠法第3条第1項第3号の無効理由に該当しないとしても、本件登録意匠はカメラ用アクセサリ及びその周辺の分野における当業者であれば、容易に創作できたものであることは明らかである。そのため、本件登録意匠は、意匠法第3条第2項の規定に違反して登録されたことは明白である以上、同項第48条第1項第1号により無効にされるべきものである。 (1-4)上申書(請求人) 請求人は、おおむね以下のとおりの反論をした。 ア コロンブスの卵について (ア)被請求人は、請求人の主張に対して、『法3条2項の判断が、創作の結果(本件登録意匠)を見た上で、出願時に遡って、その意匠の創作が容易であったか否かを判断するものである以上、それが(出願時ではなく、現時点でのいわゆる『後知恵』に基づく)コロブスの卵的な判断に陥ってはならないことは、一般論として、当然のことである。このこと自体は、発明の進歩性の評価においてだけでなく、同じく創作の容易性を判断するものである以上、意匠の創作非容易性の強化においても同様と思われる』と意見している。 (イ)しかし、請求人は、本件登録意匠の出願日前に公知になっていた意匠に基づいて、本件登録意匠は、当業者であれば容易に創作することができたものであると審判請求書(7頁以降)などで主張してきたとおり、何ら後知恵に基づくものでないことは明らかである。 このことは、本件登録意匠の出願日前に甲16号証や同17号証に示すようなカメラと接する部分のアクセサリ形状が平行(フラット面)で、端子部の左右にネジ部が配設されたシンプルな構成が種々存在していた(公知である)だけでなく、「甲1号意匠の公開よりも前に、端子部を2つのネジ部その他の固定部材で挟み込むように配設した電気接続用のコネクタ部分を含む意匠は、カメラ用アクセサリの分野及びその周辺分野を含め、多く存在していた。」「しかしながら、これらの成功する公知意匠群は、以下のように、そのほとんどが2つの固定部材を平行に配したものであり、・・・甲1号証のように逆ハの字状に配したものはない。」などといった被請求人の主張(答弁書の4頁)からも強く裏付けられる。下記の通り、本件登録意匠の出願日以前の実情からしても、本件登録意匠の創作が容易であったことが後知恵に基づくものでないことは明白である。 (答弁書4頁)本件登録意匠の出願日以前の公知意匠 (当審注:図は省略。) (答弁書5頁)本件登録意匠の出願日以前の公知意匠 (当審注:図は省略。) (ウ)また、被請求人は、本件登録意匠に比して甲1号意匠の方が左右方向の位置合わせが容易である、嵌入がし易い、誤接続を防止する上で優位性があるといったことを理由に、「引用意匠とは用途及び機能といった観点などにおいて造形の目的が異なる本件登録意匠のような構成と成すことを、当業者が容易に相当し得たものと論理付けもなく直ちに評価することが、果たして妥当なのか」などと問題提起し、口頭審理陳述要領書で主張した発明の進歩性の判断手法を持ち出す正当性について意見すると共に、甲1号意匠の評価を繰り返し意見して、「本件登録意匠の創作が容易であったかと評価し得るのかについて、論理付けしていない」としている。 (エ)しかし、すでに主張したように本件では甲1号意匠の評価は問題ではなく、甲1号意匠とその他甲号証や乙3号証などといった公知意匠に基づいて、本件登録意匠がその出願時点において容易に創作をすることができたかどうかを評価すれば足りることである。請求人は、審判請求書、弁駁書、口頭審理陳述要領書において、本件登録意匠の出願時点において前記公知意匠の形状等に基づけば、カメラ用アクセサリ及びその周辺の分野における通常の知識を有する者(当業者)であれば本件登録意匠を容易に創作できた(当業者が容易に想到し得た)ことについて論理付けしているのである。そのため、被請求人の意見は当を全く得ていないとしかいいようがない。そもそも問題提起を行っている時点で被請求人の意見は、単なる持論を展開しているに過ぎず、本件登録意匠に比して甲1号意匠の方が左右方向の位置合わせが容易である、嵌入がし易い、誤接続を防止する上で優位性があるとするのであれば、この点で劣後している本件登録意匠の創作は容易であったと言わざるを得ない。 (オ)いずれにしても、論理付けをしていないとする被請求人の意見には理由がなく、発明の進歩性の判断手法を持ちしているのは、本件登録意匠の創作が容易であることについて、真正面から十分な反論ができない証左である。よって、被請求人こそ本件登録意匠の創作が容易ではないとの理論付けをしていないと言わざるを得ない。 イ 全体として容易か否かについて (ア)被請求人は、請求人の主張に対して、「シンプルな構成であるか、公知意匠の組み合わせであるかといった点は、単にそれだけでは、本件登録意匠の創作が全体としても容易であることの理由にはなりません。むしろシンプルな構成であるからこそ、各要素のレイアウトの如何が、所望の用途及び機能を発揮させるという観点において決定的に重要になり得ます。」などと意見している。 (イ)しかし、本件登録意匠の出願日の時点において、カメラ上面がフラット(平行)とされた構成、カメラ側のアクセサリーシューが種々の構成とされていたことは周知ないしは少なくとも公知であり(甲18号証 から同21号証、同40号証から同43号証等)、平行に配置された固定部材のほぼ中間位置に端子部が現れる基本的な構成(乙3号証から同13号証)だけでなく、カメラと接する部分のアクセサリ形状が平行(フラット面)で、端子部の左右にネジ部が配設されたシンプルな構成が種々存在していた以上(甲16号証、同17号証、甲44号証)、カメラと接する部分のアクセサリ形状がカメラの上面形状に依存するとカメラ分野では常識であることなども踏まえれば(甲23号証から甲27号証)、本件登録意匠の創作は全体として容易であることは明らかである。 (ウ)したがって、アクセサリ側の都合だけでレイアウトが決まるものでないことを当業者であれば当然のことと認識しているため、シンプルな構成であればより一層、「直ちにどのようなレイアウトも容易になし得るとはいえない」とするには無理がある、すなわち、本件登録意匠を創作することが容易に成し得ないとするのには到底無理があると言わざるを得ず、本件登録意匠は、当業者にとってありふれた手法により、甲16号証、同17号証等のように甲1号意匠の底面外側をフラット面に改変する等し、甲1号意匠の端子部を甲8号証から同13号証等に示す端子部に置き換えると共に、甲5号証の図8、同16号証、同17号証等のようにネジ部同士を結ぶライン上に置き換える等して構成したにすぎない意匠に他ならない。 (エ)なお、被請求人は、本件登録意匠が甲41号証記載のカメラ(以下、甲41カメラ、という)には載り得ないことについて詳述しているが、確かに、甲41カメラに本件登録意匠をそのまま実装(装着)することは、被請求人が指摘するように難しい。しかし、被請求人も意見しているように、請求人は、本件登録意匠の装着が直ちに可能かどうか(実際にカメラに装着可能かどうか)を争う趣旨ではなく、複雑な上面形状である甲40号証記載のカメラを例示して、本件登録意匠を逆ハの字状とすることが当業者において容易ではない(本件登録意匠の創作が当業者において容易ではない)などと被請求人が争うため反論したにすぎない。 (オ)すなわち、本件登録意匠の創作性を評価するに際し、カメラと接する部分のアクセサリ形状がカメラの上面形状に依存することは、カメラ用アクセサリ及びその周辺の分野における通常の知識を有する者(当業者)も当然のことと認識しているため、甲41カメラのようなフラットなカメラ上面に甲1号意匠を載せるには、本件登録意匠を逆ハの字状から平行にする着想頃リ作)は当然のように思い付く(ありふれた手法である)。また、当業者は、カメラ内部が複雑な構成となっているため、ネジ孔などを形成するにはそれ相当の変更が必要になることも当然のことと認識しているため、甲41カメラに本件登録意匠をそのまま実装(装着)するのが難しいことは常識の範疇である。請求人は、既に提出していた証拠の範囲内で、本件登録意匠のカメラと接する部分のアクセサリ形状を逆ハの字状から平行とする着想愴リ作)がありふれていることを指摘したまでにすぎない(甲42号証などのようなカメラであれば、甲41カ メラに対するような設計変更は不要である)。 (カ)いずれにしても、本件登録意匠が甲41カメラに載らないことが直ちに本件登録意匠の登録性を左右する、すなわち、甲1号意匠その他の公知意匠に基づいて、本件登録意匠を容易に創作することができるものではないとの結論に結びつくものではない。 (2)被請求人の主張 (2-1)審判事件答弁書 被請求人は、おおむね以下のとおりの反論をした。 意匠法第3条第2項に基づく登録無効理由について 請求人は、本件登録意匠は、甲1号意匠を基にして、a.その底面外側を甲16号証及び同17号証に示すようにフラット面に形成し、b.同端子部を甲8号証から同13号証等に示すように略台形状に突出するよう成形し、併せて、c.同端子部を甲5号証の図8、同16号証及び同17号証に示すようにネジ部同士を結ぶライン上に配置したものであり、これら甲1号意匠に対するaからcの改変は、いずれも当業者にとってありふれた手法によるものであるから、当業者であれば容易に創作することができたものであると主張した。 しかしながら、請求人の当該主張は失当である。 ア 正面視における端子部とネジ部との位置関係 前述の通り、甲1号意匠においては、その正面視において端子部とネジ部が縦方向にどのような位置関係にあるのかが不明である。 したがって、甲1号意匠に対して上記aからcの改変を加えた場合において、実際に本件登録意匠が創作されるのかは不明と言わざるを得ない。 ネジ部と端子部とが縦方向においてどのような位置関係にあるのかは、これがカメラとの接続に用いる部位に係るものである以上、軽視できる要素ではない。 甲1号意匠に対して上記aからcの改変を加えれば本件登録意匠が創作されるとする請求人主張は、この点においてまず失当である。 イ 重畳的な改変 本件部分は、頭部を除く一対のネジ部と、複数の棒状体を並べた端子部の、2つの要素のみで成るものである。 このうちのネジという部品そのものは、もとより公知である。電気接続のための端子部が複数の棒状体を並べて成るものであることも、公知である。そして、この種物品の電気接続に係る部位の創作は、一般的に、このような条件下で行われるものである。すなわち、この種意匠は、いわば公知の意匠の組合せによって成るものであり、したがって、その配置態様(レイアウト)に対してこそ、創作者の知的労働が投下され、そこに特徴が現れる。 このような意匠分野において、或る既知の意匠に対し、aのようにネジの向きを変え、これにcのように底面視した際の端子部の位置を変更するといった、当該創作の核心部分たるレイアウト上の変更を、複数重畳的に施す必要のある創作は(しかも、本件においては更には正面視縦方向の位置関係についてまでをも変更しなければならない可能性のある創作は)、到底「容易」と評価し得るものではない。 この点においても、請求人主張は失当である。 ウ 着想ないしは要点が異なること 更に、本件部分と引用部分では、そもそもその創作の着想ないしは要点が異なる。引用部分においては、ネジ部が逆ハの字の配置されている、すなわち傾斜面に取付けられているため、2つのネジ部と端子部とは、おそらく正面視において、これら要素を各頂点とする三角形状にレイアウトされていると推測される。具体的態様が不明であるためにそれがどの程度の面積かは分からないが、一つはっきりしていることは、その三角形の面積の分、これを装着するカメラ本体の構造に、大きな影響を与えるということである。 本件部分と対比すれば、このことはより明確である。 本件部分のネジ部と端子部とは、以下の図に看て取れるように、ほぼ水平の配置となっている。 【本件登録意匠のA部分の拡大正面図】 [図:0001433144000002.jpg] このレイアウトにおいて、カメラ本体側の構造に影響を与える範囲は、概ね赤丸で囲った範囲にすぎない。 これに対して引用部分の構成は、具体的には不明であるのでポンチ絵で表すと、そのレイアウトは概ね以下のようなものと推測され、そして同じく赤丸で囲った範囲で、カメラ本体の構造に影響を与えている。 【想像図1】 [図:0001433144000003.jpg] 具体的には、例えば下の図において緑色の破線で表したような台形状の構造をカメラ側に必要とするということであり、現に甲2号証及び同3号証等記載のキヤノン社のビデオカメラにおいては、「HDU-1」との接合部に、このような構造が設けられている。 【想像図2】 [図:0001433144000004.jpg] このように、「HDU-1」においては、そのレイアウトによってカメラ本体の筐体形状に特殊な構造を必要とします。類例のないこの特殊なレイアウトが採用された理由の詳細は明らかではないが、そのレイアウトから、カメラ本体に「HDU-1」と接続するための凸構造が必要とされ、かつ、現に実機においてそれが備わっている以上、少なくとも引用部分の創作において、接続の相手方であるカメラ本体の筐体形状についてその複雑さを最小化するといった着想は見いだせない。 一方で、本件部分のそれは、各要素を敢えてほぼ水平の配置となるよう慎重に調整し、カメラ本体の筐体形状に影響を与える範囲を極く小さくしている。つまり、本件部分の創作においては端子部を挿入するための必要最小の構造(アクセサリーシュー)を設けること以外にカメラ用アクセサリと接合するための特殊な構造を要しないという点で、装着対象のカメラ本体の筐体形状を単純化して、接合部周辺の構造のコンパクト化を実現することが意図されている。 実際、願書に添付した「使用方法を示す参考図」に表された現に本件登録意匠と接合する被請求人のカメラにおいて、その軍艦部(カメラ本体の天面とそれに付随する部品)は、その構成がごくシンプルであり、そしてコンパクトである(乙17号証)。 【使用方法を示す参考図】(当審注:図の省略) 本件部分及び引用部分のように、接続する相手方が存在して初めて機能する部分については、その形状等に係る創作過程において、当然に、相手方形状への影響が創作者の念頭に置かれます。むしろ両者は一体的に創作されるものであって、接続する一方のみを独立して創作することで、その創作が完結するといったことはあり得ない。したがって、これら部分の創作内容の実質は、相手方の形状等に与える影響を踏まえて評価がされるべきと思われる。 この点、本件部分の創作には、接続する相手方の筐体形状に特殊な構造の存在を求めず、当該相手方筐体の形状の複雑さを最小限に留めるといった創作の意図があり、そしてこれが創作の要点である。一方の引用部分には、前記のような特別な構造を必要とします。すなわち、筐体形状の複雑化を最小限に留めるといった意図を欠く甲1号意匠との対比において、本件登録意匠の創作には独自の着想ないし独創があるとすべきであり、その創作を容易とする請求人の論理構成には、この点において誤りがある(なお、甲1号意匠の場合には、電気接続に必要な内部部品をすべて接続のために用意した凸構造の中に収納すれば足りるのに対して、本件登録意匠のように接続に必要な内部部品を収納するための特別な空間が存在しない場合の筐体内の設計は、むしろ難易度が上がる。逆ハの字状のネジ部を平行のネジ部に置き換え等することは、このような技術的な観点においても、本来的に容易なものではあり得ない。)。 甲1号意匠に基づいて本件登録意匠が容易に創作されたとする請求人主張は、失当である。 (2-2)口頭審理陳述要領書(被請求人) 被請求人は、令和7年6月25日に口頭審理陳述要領書を提出し、おおむね以下のとおりの主張と反論をした。 ア 正面視における端子部とネジ部との位置関係 (中略)本件部分と引用部分において、正面視における端子部とネジ部との位置関係は、対比することができない。 甲1号意匠に基づいて容易に本件登録意匠の創作をすることができたとする請求人主張は、この点においてそもそも失当である。 イ 重畳的な改変について 請求人は、審判請求書において、甲1号意匠を基にして、a.その底面外側を甲16号証及び同17号証に示すようにフラット面に形成し、b.同端子部を甲8号証から同13号証等に示すように略台形状に突出するよう成形し、併せて、c.同端子部を甲5号証の図8、同16号証及び同17号証に示すようにネジ部同士を結ぶライン上に配置したものであり、これら甲1号意匠に対するaからcの改変は、いずれも当業者にとってありふれた手法によるものであるから、当業者であれば容易に創作することができたものであると主張している。 弁駁書においても、(bの改変については言及がされていないが)上記a及びcの改変のそれぞれについて、改めて「ネジの向きを単純に変えて端子部の位置を僅かに改変した程度」あるいは「端子部の位置を単純に変更してネジの向きを僅かに改変した程度のもの」にすぎないと主張しているので、以下念のため、これら主張に反論をする。 (ア)コロンブスの卵(後知恵) 意匠法第3条第2項は、同項の適用を検討する対象となる意匠の出願前に、いわゆる当業者が、公然知られた意匠等に基づいて「容易に意匠の創作をすることができた」か否かを問題としている。 これと同様の趣旨から出た規定が、同じ創作法である特許法にも存在します。すなわち、特許法29条2項のいわゆる進歩性要件に係る規定であり、同項も、対象となる発明の出願前に、いわゆる当業者が、公然知られた発明等に基づいて「容易に発明をすることができた」か否かを問題としている。 特許法の同項の適用にあたっては、例えば特許・実用新案審査基準において、その第III部特許要件、第2章新規性・進歩性、第2節進歩性3.3に、次のような「進歩性の判断における留意事項」が掲げられている。 「(1)請求項に係る発明の知識を得た上で、進歩性の判断をするために、以下の(i)又は(ii)のような後知恵に陥ることがないように、審査官は留意しなければならない。 (i) 当業者が請求項に係る発明に容易に想到できたように見えてしまうこと。 (ii) 引用発明の認定の際に、請求項に係る発明に引きずられてしまうこと。」 これは、進歩性の判断にあたって、判断主体がいわゆる「コロンブスの卵」のような思考、つまり本来困難であったことであっても結果だけみると誰でもできそうに見えてしまうといった思考に陥ることを戒めるものである。 そして、進歩性要件の判断においては、このような後知恵に陥ることがないように、その判断にあたっての手順が定められている。具体的には、「先行技術の中から、論理付けに最も適した一の引用発明を選んで主引用発明とし、以下の〈1〉から〈4〉までの手順により、主引用発明から出発して、当業者が請求項に係る発明に容易に到達する論理付けができるか否かを判断する」とされ(同3)(当審注:「同3」とは、「同3.進歩性の具体的な判断」を示す意図と思われる。)、その論理付けのために、例えば引用発明に公知技術を適用することについて阻害要因が存在しないかといったことが吟味される(同上)。 もとより本件審判は意匠法の事件であり、特許法29条2項の適用とは、直接的には無関係である。とはいえ、ここで適用の適否が問われている意匠法第3条第2項も、特許法29条2項と同様に、公知の意匠に基づいて当業者が「容易」にその意匠を想到し得たのかを問題とした規定であって、進歩性判断と同様に、そこに後知恵が入り込む余地が多分に存在している。 すなわち、甲1号意匠に基づいて容易に本件登録意匠の創作をすることができたかを判断するにあたっては、そのような後知恵を排除するために、きちんとした論理付けがなされる必要があり、そのことは特許要件である進歩性判断と同様であることに、議論の余地はないものと思われる。 この点請求人は、審判請求書及び弁駁書において、単にaを改変することは容易である、あるいはcを改変することは容易である等々と、個々の要素の改変について述べるものであって、甲1号意匠に基づいて容易に本件登録意匠の創作をすることができたかについて十分な論理付けをしていない。 この点において、請求人主張は失当である。 具体的には以下の通りである。 (イ)阻害要因 甲1号意匠において、ネジ部の配置態様が逆ハの字状になっていることに関しては、客観的にみて、以下のような造形上の理由があるものと思われる。 甲1号意匠は、底面視において、端子の先端部がその正面方向を向く配置態様となっている。したがって、これをアクセサリーシューに嵌入しよう(差し込もう)とする場合には、甲1号意匠に係る物品全体をカメラ本体の上面に沿わせてスライドさせることによって、端子部を嵌入させる必要がある。その際、カメラ本体側がハの字状の構成となっていれば(甲1号意匠を装着する対象である業務用フルHDビデオカメラ「XA20」は、実際にそのような態様となっているが)、ネジ部の逆ハの字状の配置態様がいわば嵌入位置を示すガイドとなり、安定的かつ容易に、端子の抜き差しをすることができる。 加えて、逆ハの字状の配置態様は、誤嵌合を防止するための、いわば排他的な構造でもある。例えば逆ハの字の角度が少し異なれば、装着ができなくなる。また、いささか牽強付会な主張だとは思うが確かに請求人が述べるとおり(接合の強度や螺合の必要性をまったく考えないという前提であれば)「逆ハの字状のネジで締結することが予定されたカメラにネジ部が平行に配されたアクセサリの電気接続」は無理矢理とは謂え可能であるのに対して、(ネジによる螺合の要否にかかわらず)逆ハの字状では天面がフラットなカメラにはもとより取付けようがない。しかも、ネジ部が逆ハの字状の配置態様であれば、接続の相手方がハの字状であることは容易に理解できるから、視覚的にも、誤ったカメラへの誤接続が生じないようにユーザを誘導することが可能となる。 更に、ネジ部を逆ハの字状の配置態様とすることによって、カメラ本体側には、アクセサリを取付けるための独立した凸部(端子及びネジの取付け部位。甲2号証から抜粋した下記写真において、被請求人が追記した赤丸で示す凸部)を設ければ足りることになる。 【甲2号証掲載の写真】 [図:0001433144000005.jpg] このような凸部に装着する意匠としない場合には、同凸部に埋設すべき接合用の構造をすべてカメラ本体側に収納する等の必要が生じるから、カメラ本体そのものの体積が自ずと増す。すなわち甲1号意匠の逆ハの字状の配置態様に係る造形は、カメラ本体とは独立した接続部への接続を想定しているものであり、このように接続部を敢えてカメラ本体部と切り離す態様を選択することによって、カメラ本体そのものの意匠をシンプル化してサイズを小型化するなどの意図が存在すると看て取れる。 甲1号意匠の引用部分は、このように、なんの意図もなく単にたまたま、あるいはただ漫然と、ネジ部が逆ハの字状にされているものではないはずである。たとえばユーザを目的の行動に誘導する、あるいは、複雑な構造をシンプル化するといったデザインの根源的な役割を踏まえつつこれを客観的に観察した場合には、引用部分の造形には以上のような意図があるものと理解するのが、合理的である。 このような意図の下での造形であるはずの甲1号意匠の引用部分を、仮に本件部分のような平行の配置態様に改変するとした場合、そのような改変にあたっては、上記のような種々のメリット(効果)の放擲(当審注:放てき)を必要とする。 実際のところ、本件登録意匠は、目視によって、とりわけ左右方向に関して慎重に端子部の位置をアクセサリーシューに合わせなければ適切な嵌入ができない。例えばこの点にのみ着目するとすれば、本件部分の配置態様は甲1号意匠のそれから後退しているとも評価でき、引用部分の造形の方がデザイン的に有利であるともいえる。甲1号意匠は、たとえ目で見て合わせなくても、カメラ本体側の構造に沿わせてスライドさせれば自ずと端子部の嵌入が実現できるからである。 このように、甲1号意匠の引用部分を本件登録意匠の本件部分のように改変しては、そもそも甲1号意匠が備えていた使い勝手といった観点を含む当該デザインの価値が滅するか、あるいは減ずることになる。このような点において、甲1号意匠の逆ハの字状の配置態様を平行のものに改変することに関して当業者であれば容易に想到することができると論理付けすることには、重大な阻害要因が存在する。 請求人の主張には、このような阻害要因が存在するにもかかわらず、どうしてそのような阻害要因を乗り越えてなおネジ部を平行に改変した意匠に当業者が容易に想到し得るのかについての論理付けが無い。容易想到か否かの判断においては後知恵を排斥する必要があるといった観点からして、そのような主張は失当である。 (ウ)意匠の創作 請求人による審判請求書及び弁駁書における主張は、本件部分の創作は「ネジの向きを単純に変えて端子部の位置を僅かに改変した程度」あるいは「端子部の位置を単純に変更してネジの向きを僅かに改変した程度のもの」にすぎないと主張しているものであるから、要するに、引用部分と本件部分の複数の差異点の個々について、それぞれその改変は容易であるとするに留まる。 しかしながら、意匠の創作というものは、そのようなものではない。 意匠の創作即ちデザインとは、造形対象たる物品の用途や機能を十全に発揮させることを前提として、様々な条件や要素を調整して統合する造形であることは、どのようなデザイン教科書にも記載されていることであって、当業者における常識である。すなわち、aを押せばbが出っ張り、bを引っ込めればcが動かなくなり、そうであればとcを動かせばaが引っ込むといった状況を調整して、それらが十全に機能するように統合するのが、デザインであることに議論の余地はない。 例えば、請求人が新たに提出した甲40号証記載のカメラに本件登録意匠に係る物品を仮に装着してみる。 【甲40号証のカメラに載せた場合】 [図:0001433144000006.jpg] 左の平面図及び右の正面図のそれぞれにおいて赤色の線で表しているのが、本件登録意匠である(具体的には、願書に添付した「A部分の拡大底面図」と「A部分の拡大正面図」である。)。 このカメラの軍艦部分には、フラッシュやマイク更には操作系のボタン等々が配置される。ここに単純に本件登録意匠を載せると、先ずフラッシュが機能しなくなる。たとえ無理に載せるにしても、カメラ本体側には、対応するネジ孔を設けるための余地がない。そもそも黄色で着色した領域は斜面である。ここにネジ孔を設けるのであれば同斜面を先ずフラットに改変する必要があるが、アクセサリーシューに挿入するためには青色で示す矢印方向にアクセサリをスライドさせる必要があるから、仮に同斜面をフラットにしたとしても、今度はそこにあるボタン類の存在がアクセサリのスライドを邪魔することになる。とはいえ、仮にボタン類をどけるにしても、もはや移設する場所は無い。そうなると、カメラの軍艦部の構造そのものから設計をし直す必要が生じる。正に、aを押せばbが出っ張り、bを引っ込めればcが動かなくなり、そうであればとcを動かせばaが引っ込むといった状況が生じることになる。 このように甲1号意匠の逆ハの字状を単に平行にしさえすれば、それによってデザインが成立するというものではない。あるいは、端子部の位置を調整しさえすればデザインが成立するというのでもない。装着対象となるカメラ側を含めて、その仕様を全体的に見直さなければ、軍艦部がフラットであるカメラに、螺合と併せて接合するアクセサリのデザインは完成しない。 意匠法第3条第2項は、「容易に意匠の創作をすることができた」か否かを問題としている。引用意匠との関係で認定される個々の差異点のそれぞれが、個々に容易に改変可能であったかを問題としているものではない。 本件のように、引用意匠とのあいだに複数の差異点が存在している場合において、その個々の差異点の改変が容易であることのみでは、本件登録意匠の創作が当業者において容易であったことの論理付けにはならない。 現に、例えば意匠審査基準には、引用意匠に対して複数のありふれた手法を適用した場合にも創作容易とする例の掲載が無い(意匠審査基準第III部第2章第2節6.創作容易な意匠の事例)。これは、引用意匠との複数の差異点それぞれについて、仮に個々にありふれた手法が適用し得るとしても、それら複数のありふれた手法の適用全体までもが、ありふれた手法の適用によるものとは論理的には言い得ない、つまり全体として容易想到であるとの適切な論理付けがなしえないがためと理解される。 このことは被請求人の主張が正当であることの一つの証左たり得るものと思われる。 請求人主張はこの点においても失当である。 (2-3)上申書(被請求人) 被請求人は、おおむね以下のとおりの反論をした。 (中略)請求人は「個々の差異点の改変が容易であるとともに全体として容易想到であると判断し得る場合は多分にある」などとした上で、本件登録意匠はシンプルな構成であり、公知意匠の組合せであることに鑑みれば、本件登録意匠の創作は、全体としても容易であると主張している。 しかし、シンプルな構成であるか、公知意匠の組合せであるかといった点は、単にそれだけでは、本件登録意匠の創作が全体としても容易であることの理由にはらなない。むしろシンプルな構成であるからこそ、各要素のレイアウトの如何が、所望の用途及び機能を発揮させるという観点において決定的に重要となり得ます。とりわけ接合等の相手方のある意匠においては、アクセサリ側の都合だけでレイアウトが決まるわけではないから、たとえシンプルな構成でかつ公知意匠の組合せであるとしても、直ちにどのようなレイアウトも容易になし得るとはいえない。 この点に関連して、請求人は、本件登録意匠は甲41号証記載のカメラにも装着可能などと主張しているが、失当である。本件登録意匠は甲41号証記載のカメラには載らない。 【甲41号証の部分名称を示す参考斜視図1】 [図:0001433144000007.jpg] 上の図は、甲41号証の「部分名称を示す参考斜視図1」である。軍艦部の正面視右上端に「ポップアップストロボ」を備えると説明されている。使用時にカバーが持ち上がって現れる内蔵型のストロボ(フラッシュ)のことである。請求人が提出した甲50号証に記載されているように、もし仮に本件登録意匠を同軍艦部に装着しようとすれば、ポップアップストロボの上部カバーそのものにネジ孔を設ける必要が生じる。それでは、内蔵ストロボが機能しなくなる。 また、甲41号証の「部分名称を示す参考斜視図1」には記載されていませんが、カメラ分野の常識に照らして、下記正面図において赤色の矢印で示す部品が「AF窓」(自動でピントを合わせる機能を発揮するために必要な部位)であることは自明である。 【甲41号証の正面図】 [図:0001433144000008.jpg] 甲41号証のカメラは、緑色で示す矢印の表示等に照らしてリコー社の「GR DIGITAL」という機種であることが分かるが、同カメラの使用説明書にも、同部分は「AF窓」であるとの説明がされている(乙18号証)。仮に甲50号証に記載されているように本件登録意匠を同軍艦部にそのまま装着しようとすれば、ネジが「AF窓」の構造を貫通することになる。つまり、オートフォーカスは機能しなくなります。 以上の理由で、本件登録意匠を甲41号証のカメラに装着するためには、請求人が必要はないと主張する「カメラの軍艦部の構造そのものから設計をし直す必要」が生じます。そして、本件登録意匠がそのままでは装着できない以上、甲41号証のカメラが存在しているから甲1号意匠を本件登録意匠のように諸々改変することは容易であるとは、論理的にはいえないのである。このことは、口頭審理陳述要領書に基づく「甲1号意匠の逆ハの字状を単に平行にしさえすれば、それによってデザインが成立するというものではない。あるいは、端子部の位置を調整しさえすればデザインが成立するというのでもない。装着対象となるカメラ側を含めて、その仕様を全体的に見直さなければ、軍艦部がフラットであるカメラに、螺合と併せて接合するアクセサリのデザインは完成しない」との被請求人の陳述が正当であることの証左足り得るものと思われる。 なお、被請求人が口頭審理陳述要領書において甲40号証記載のカメラとの関係で述べていること、及び、本書面において同41号証記載のカメラとの関係で述べていることは、なんらの調整も要せずに本件登録意匠を直ちに装着することが可能なカメラは過去存在していないといった事実を証明する趣旨ではない。これらカメラとの関係で被請求人が述べているのは、口頭審理陳述要領書にて主張したとおり、「意匠の創作即ちデザインとは、造形対象たる物品の用途や機能を十全に発揮させることを前提として、様々な条件や要素を調整して統合する造形である」という事実であり、そして意匠法第3条第2項は「容易に意匠の創作をすることができた」か否かを問題としているものであるから、同項適用の如何を判断するにあたっては「引用意匠との関係で認定される個々の差異点のそれぞれが、個々に容易に改変可能であったか」ではなく、その意匠を成すにあたって「様々な条件や要素を調整して統合する」点に困難性があったかを評価すべきであるという点である。ここにおいて、甲40号証や同41号証記載のカメラを含む過去のカメラの中に本件登録意匠の装着が直ちに可能なものが存在していたかを直接的に争う趣旨ではないので、この点、念のため申し添える。 3 証拠方法 (1)請求人 請求人は、甲1号証から甲21号証、甲22号証から甲48号証、甲49号証から甲50号証を、それぞれ、審判請求書、審判事件弁駁書、口頭審理陳述要領書に添付して提出した。甲1号証から甲50号証(枝番を含む)は、すべて写しである。 甲1号証: Aucfreeの落札情報 甲2号証: Aucfreeの落札情報 甲3号証: Aucfreeの落札情報 甲4号証: 意見書(本件登録意匠が審査に付されていたときのもの) 甲5号証: 公開特許公報(特開2012-134815号) 甲6号証: 外部マイクの取付け方法 甲7号証: アクセサリー一覧 甲8号証: 意匠公報(意匠登録第1440044号) 甲9号証: 意匠公報(意匠登録第1442161号) 甲10号証: 意匠公報(意匠登録第1456460号) 甲11号証の1: 価格.comのホームページ 甲11号証の2: 価格.comのホームページ 甲12号証の1: 価格.comのホームページ 甲12号証の2: 価格.comのホームページ 甲13号証: 価格.comのホームページ 甲14号証: Wayback Machineで保存されたページ 甲15号証: Wayback Machineで保存されたページ 甲16号証: Wayback Machineで保存されたページ 甲17号証: 動画配信サイト(YouTube)で公開された動画 甲18号証: デジカメ比較レビューのページ 甲19号証: デジカメWatchのページ 甲20号証: デジカメWatchのページ 甲21号証: 動画配信サイト(YouTube)で公開された動画 甲22号証の1: 甲1号証に示すHUD-1の現物写真 甲22号証の2: 甲1号証の梱包状態の写真 甲23号証: 2009年2月13日付けのカメラのキタムラのホームページ 甲24号証: 往年のオリンパスカメラ図鑑 甲25号証: オリンパスOM-Iのホットシュー取り外し方法を紹介しているホームページ 甲26号証: 「出張撮影専門スタジオたいとう」のホームページ 甲27号証: 「ニックネーム:mimopowerOM-1」のブログ 甲28号証: WorkXITのホームページ 甲29号証: 価格.comのホームページ 甲30号証: デジカメwatchのホームページ 甲31号証: Rakutenのホームページ 甲32号証: アマゾンのホームページ 甲33号証: ヨドバシのホームページ 甲34号証: 被請求人のグループ会社のホームページ 甲35号証: 被請求人のグループ会社のホームページ 甲36号証: 被請求人のカメラの展示販売状況画像 甲37号証: 意匠公報(意匠登録第1366089号) 甲38号証: 意匠公報(意匠登録第1278422号) 甲39号証: 意匠公報(意匠登録第1361090号) 甲40号証: 意匠公報(意匠登録第1232029号) 甲41号証: 意匠公報(意匠登録第1322701号) 甲42号証: 意匠公報(意匠登録第1607302号) 甲43号証: 意匠公報(意匠登録第1615612号) 甲44号証: 動画配信サイト(YouTube)のチャンネル「TURNON」で「Eurof証eineKamera?! Das kann die RED Epic-W -TURN ON Tech」として公開された動画のスクリーンショット 甲45号証: Westlaw Japan(知財高判平成30年3月12日) 甲46号証: Westlaw Japan(知財高判平成24年7月4日) 甲47号証: 意匠公報(意匠登録第1440044号) 甲48号証: 意匠公報(意匠登録第1456046号) 甲49号証の1: 甲1号意匠の画像と甲1号意匠の現物を撮影した写真の写しの対比1 甲49号証の2: 甲1号意匠の画像と甲1号意匠の現物を撮影した写真の写しの対比2 甲49号証の3: 甲1号意匠の画像と甲1号意匠の現物を撮影した写真の写しの対比3 甲49号証の4: 甲1号意匠の画像と甲1号意匠の現物を撮影した写真の写しの対比4 甲49号証の5: 甲1号意匠の画像と甲1号意匠の現物を撮影した写真の写しの対比5 甲49号証の6: 甲1号意匠の画像と甲1号意匠の現物を撮影した写真の写しの対比6 甲49号証の7: 甲1号意匠の梱包の画像と甲1号意匠の梱包状態を撮影した写真の写しの対比 甲50号証: 甲41号証のカメラに本件登録意匠に係る物品を載せた場合 (2)被請求人 被請求人は、乙1号証から乙17号証、並びに乙18号証を、それぞれ、審判事件答弁書と上申書に添付して提出した。乙1号証から乙18号証(枝番を含む)は、すべて写しである。 乙1号証: 意匠公報(意匠登録第1422743号) 乙2号証: キヤノン株式会社の2013年4月4日付ニュースリリース(https://canon.jp/corporate/newsrelease/2013/2013-04/prxa25) 乙3号証: 意匠公報(意匠登録第949287号) 乙4号証: 意匠公報(意匠登録第1063717号) 乙5号証: 意匠公報(意匠登録第1078000号) 乙6号証: 意匠公報(意匠登録第1230674号) 乙7号証: 米国特許公報(特許第Des.382,857号) 乙8号証: 米国特許公報(特許第D483,373号) 乙9号証: 意匠公報(意匠登録第1102011号) 乙10号証: 意匠公報(意匠登録第1277281号) 乙11号証: 意匠公報(意匠登録第1288233号) 乙12号証: 意匠公報(意匠登録第1311105号) 乙13号証: 意匠公報(意匠登録第1429038号) 乙14号証の1: ソニー株式会社の2014年9月12日付ニュースリリース(https://www.sony.com/ja/SonyInfo/News/Press/201409/14-086/) 乙14号証の2: ソニー株式会社のカムコーダー「PXWFS7」の取扱説明書(一部抜粋) 乙14号証の3: eBay のホームページ(https://www.ebay.com/itm/116085183757)(一部抜粋) 乙15号証: EUIPN が提供する「Design VIEW」から取得した中国特許意匠のデータ(意匠特許202030735924.2号) 乙16号証: キヤノン株式会社のオンラインショップにおいてハンドルユニットHDU-1を販売するページ(https://store.canon.jp/online/g/g8646B001/) 乙17号証: ソニーマーケティング株式会社のオンラインショップにおいてプロフェッショナルカムコーダーFX3を販売するページ(https://www.sony.jp/pro-cam/products/ILME-FX3/)(一部抜粋) 乙18号証: 株式会社リコーのカメラ「GR DIGITAL」の使用説明書(表紙、第14頁及び奥付を抜粋) 第4 口頭審理 1 審理事項通知書 本件審判事件について、当審は、令和7年6月11日付で、次の事項に係る追加説明を求める旨等を記載した審理事項通知書を、請求人及び被請求人に送付した。 (1)被請求人に対して (1-1)審判事件弁駁書、第2項、第2 甲1号意匠の内容が特定できないことについて、の段落の記載及び同書第9頁、(8)、「(前略)正面視縦方向の位置関係を少しだけ変更することはまさにわずかな改変に過ぎないため、正面視縦方向の位置関係を考慮するとしたとしても「容易」と評価し得ることに変わりはない。」の記載。 (1-2) 甲第1号証が示す先行意匠(ハンドルユニット HDU-1)を認定する際、弁駁書と共に提出された甲22号証の1及び甲22号証の2を証拠として扱う点。換言すると、先行意匠(ハンドルユニット HDU-1)は、本件登録意匠の出願前に日本国内又は外国において公然知られた意匠(意匠法第3条第1項第1号)であり、その形状等は、甲22号証の1及び甲22号証の2が示す内容を含めて認定されることとなる点。 (2) 請求人に対して 被請求人の主張に対する更なる意見等。 2 口頭審理 当審は、本件審判について、令和7年(2025年)7月23日に口頭審理を行った。 審判長は、補正許否の決定につき、甲22号証の1及び甲22号証の2の書証の提出に伴う「請求の理由」の補正は、許可することができないとした。また、甲第1号証~甲第50号証(枝番を含む)及び乙第1号証~乙第17号証について取り調べた。 本件は、以後、書面審理とした。(令和7年7月23日の「第1回口頭審理調書」) 第5 当審の判断 1 補正許否の決定 請求人が令和7年2月17日付けの「審判事件弁駁書」に添付する形で提出した甲22号証の1及び甲22号証の2について、これらの書証に基づく主張は、意匠登録を無効とする枢要な根拠である甲1号意匠の要部の一部、すなわち、主要事実の変更に該当し、審判請求書における「請求の理由」の要旨を変更するものである。 そして、この「請求の理由」の補正に対しては、令和7年6月25日付けで被請求人が提出した口頭審理陳述要領書において、被請求人は同意しない旨の意向を示しているため、意匠法第52条で準用する特許法第131条の2第2項第2号に該当せず、当該補正は許可することができない。 したがって、甲22号証の1及び甲22号証の2並びにこれに基づく主張の追加は、許可することができないものである。 なお、甲22号証の1及び甲22号証の2は補助事実であるとの請求人の主張については、後段の第6で付記する。 (参考) 「審判便覧51-16「請求の理由」の要旨変更 3.請求理由の要旨変更となる例 (2)主要事実の差し替えや追加 当初請求書に記載した「権利を無効にする根拠となる事実」それ自体を差し替え・追加・変更する補正は、通常は要旨変更となる。」 2 本件登録意匠 願書及び図面の記載によれば、本件登録意匠は、意匠に係る物品及びその形状等を次のとおりとしたものである。 (1)意匠に係る物品 本件登録意匠の意匠に係る物品(以下「本件物品」という。)は、カメラに外付けする附属品である「カメラ用アクセサリ」であって、その下方に、カメラ本体と接続するための取付座を備えている。当該取付座は、カメラ本体のアクセサリーシュー(ホットシュー)の嵌合相手となる嵌合部を有し、その嵌合部の内側に電気接続用端子部を有し、両外側に左右一対の固定用ネジ部を有している。 (2)意匠登録を受けようとする部分の用途及び機能 本件登録意匠の意匠登録を受けようとする部分(以下「本件登録意匠部分」という。)は、本件物品がカメラと接する取付座の底面側に設けた電気接続用端子部及び固定用ネジ部の部分であり、本件物品をカメラに装着する際に、電気接続用端子部は、主に電源供給、固定用ネジ部は、より強固な固定についての用途及び機能を有するものと認められる。 (3)本件登録意匠部分の位置、大きさ及び範囲 ア 位置について、本件登録意匠部分は、本物品の下方の取付座の底面側に位置している。 (ア)電気接続用端子部は、底面視において、ホットシューの嵌合相手である嵌合部の内側、すなわち、取付座の略中央に位置し、また、正面視において、厚みのある嵌合部の表面(正面図及びA部分の拡大正面図参照)に位置している。 (イ)固定用ネジ部は、底面視において、取付座を構成する薄板状の基盤パネルの左右、すなわち、電気接続用端子部の左右に位置している。 (ウ)電気接続用端子部と固定用ネジ部の正面視における位置関係につき、固定用ネジ部の根元の縦方向の位置は、電気接続用端子部の嵌合部との接地面の縦方向の位置よりも、やや上である(A部分の拡大正面図参照)。 イ 大きさ及び範囲について、底面視、当該部分のうち、電気接続用端子部は、物品全体の約125分の1の面積、取付座全体(A部分の拡大底面図参照)の約40分の1の面積を占め、固定用ネジ部は、左右の2つを合わせて物品全体の約80分の1の面積、取付座全体の約15分の1の面積を占めている。 (4)本件登録意匠部分の形状等 当該部分の基本的構成態様として、 ア 全体の構成は、全体の下方にカメラの本体と接する取付座を有し、その取付座の底面視の略中央、略横長長方形状の領域に、電気接続用端子部を設け、その外側に左右一対の固定用ネジ部を設けて成り、 具体的態様として、 イ 取付座における電気接続用端子部と固定用ネジ部の並びにつき、底面視において、電気接続用端子部は、左右の固定用ネジ部同士を結ぶ直線上に配し、 ウ 取付座における電気接続用端子部と固定用ネジ部の配置面につき、正面視において、電気接続用端子部は、左右の固定用ネジ部と略同一面上に配し、 エ 電気接続用端子部につき、全体が略横長長方形状の領域に表れ、複数本の端子を左右方向に並設し、 オ 各端子は、底面視において長手方向の全長の上寄り略3分の2が、略角丸三角形状に手前側に突出形成し、その先端は、角が面取を形成している。 カ 固定用ネジ部は、ねじ切り部の突出幅(長さ)が直径の約8分の5であり、電気接続用端子部の突出幅は、固定用ネジ部の直径の約10分の1である。 キ また、色彩は施していない。 3 無効理由1(新規性欠如)について 請求人は、本件登録意匠は、その出願日前にヤフーオークションのサイトに掲載された甲1号意匠と類似するから、意匠法第3条第1項第3号の規定により意匠登録を受けることができないものである旨主張しているから、以下、本件登録意匠が、甲1号意匠と類似する意匠であるかについて検討し、判断する。 甲1号意匠の向きについては、本件登録意匠と同じ向きとなるよう想定して認定する。 (1)引用意匠 引用意匠は、甲1号証に記載された甲1号意匠であって、本件登録意匠の意匠登録出願前である2016年9月20日に、ヤフーオークションのウェブサイトで公開されたと認められる「ハンドルユニット」の意匠である(別紙第2参照)。 ア 甲1号意匠の意匠に係る物品 甲1号意匠の意匠に係る物品は、甲1号証のウェブサイトの記載内容及び本件登録意匠の意匠登録出願前である2020年4月19日と2020年9月18日に公開されたと認められる甲2号証と甲3号証のウェブサイトの記載内容を踏まえると、ビデオカメラレコーダー用の「ハンドルユニット」であると推認できる。 イ 本件登録意匠部分に相当する部分の用途及び機能 甲1号意匠の本件登録意匠部分に相当する部分(以下「甲1号意匠部分」という。)は、甲1号意匠の物品であるハンドルユニットがビデオカメラレコーダーの本体と接する取付座の底面側に設けた電気接続用端子部及び固定用ネジ部の部分であり、電気接続用端子部は、主に電源供給、固定用ネジ部は、より強固な固定についての用途及び機能を有するものと認められる。 ウ 甲1号意匠部分の位置、大きさ及び範囲 (ア)位置について、甲1号意匠部分は、本件物品の下方の取付座の底面側に位置している(別紙第2、2-5(上側の写真)参照)。 [1]電気接続用端子部は、底面視において、ホットシューの嵌合相手である嵌合部の内側、すなわち、取付座の略中央に位置し、また、正面視において、開示された電気接続用端子部が不鮮明であるため、嵌合部との接地面の位置は特定できない。 [2]固定用ネジ部は、底面視において、取付座を構成する薄板状の基盤パネルの左右、すなわち、電気接続用端子部の左右に位置している。 [3]電気接続用端子部と固定用ネジ部の正面視における位置関係につき、電気接続用端子部は、不鮮明に表れ、嵌合部との接地面の位置できないから、固定用ネジ部の縦方向の位置と比較することができず、両者の位置関係は、不明である。 (イ)大きさ及び範囲について、底面視、甲1号意匠部分のうち、電気接続用端子部は、物品全体の約260分の1の面積、取付座全体の約45分の1の面積を占め、固定用ネジ部は、左右2つ合わせて物品全体の約100分の1の面積、取付座全体の約20分の1の面積を占めている。 エ 甲1号意匠部分の形状等 (ア)全体の構成は、全体の下方にビデオカメラレコーダーの本体と接する取付座を有し、その取付座の底面視の略中央、略横長長方形状の領域に、電気接続用端子部を設け、その外側に左右一対の固定用ネジ部を設けて成り、 具体的態様として、 (イ)取付座における電気接続用端子部と固定用ネジ部の並びにつき、底面視、電気接続用端子部は、左右の固定用ネジ部同士を結ぶ直線上から、上方向に固定用ネジ部の直径の概略二つ分ずらして配し、 (ウ)取付座における電気接続用端子部と固定用ネジ部の配置面につき、電気接続用端子部を正面から見て水平に、左右の固定用ネジ部を40度程度の斜面に配し、 (エ)電気接続用端子部につき、全体が略横長長方形状の領域に表れ、複数本の端子を左右方向に並設し、 (オ)各端子は、不鮮明であって、突出した形状は看取できず、平滑に表れている。 (カ)固定用ネジ部は、ねじ切り部の突出幅(長さ)が直径の約2倍程度であり、電気接続用端子部の突出幅は、確認できない。 (キ)また、色彩については、電気接続用端子部は赤みを帯びた金色に、固定用ネジ部は、銀色に表れる。 (2)本件登録意匠と甲1号意匠の対比 ア 意匠に係る物品の対比 本件登録意匠と甲1号意匠(以下「両意匠」という。)の意匠に係る物品は、それぞれ、カメラ用の「カメラ用アクセサリ」とビデオカメラレコーダー用の「ハンドルユニット」であって、文言上の記載が異なっているが、両意匠の意匠に係る物品(以下「両物品」という。)は、静止画のみならず動画の撮影を可能とするカメラが本件登録意匠の出願前よりごく普通にみられる状況を考慮すると、共に、カメラ等の外付けの附属品を装着すための附属品であって、下方の取付座を介してカメラ等の本体に接続することができる用途及び機能が共通している。 イ 本件登録意匠部分と甲1号意匠部分の用途及び機能の対比 本件登録意匠部分と甲1号意匠部分(以下、これらを合わせて「両意匠部分」という。)の用途及び機能は、電気接続用端子部は、主に電源供給、固定用ネジ部は、より強固な固定についての用途及び機能を有する点で共通する。 ウ 両意匠部分の位置の対比 (ア)両意匠部分の位置は、下方の取付座の底面である点で共通している。また、電気接続用端子部は、底面視において中央に、固定用ネジ部は、その左右に位置している点で共通している。 (イ)両意匠部分の電気接続用端子部の位置は、厚みのある嵌合部の内側、すなわち、取付座の略中央に位置している点で共通している。 (ウ)両意匠部分の固定用ネジ部の位置は、取付座を構成する薄板状の基盤パネルの左右、すなわち、電気接続用端子部の左右に位置している点で共通している。 (エ)両意匠部分の電気接続用端子部と固定用ネジ部の正面視における位置関係については、甲1号意匠部分の電気接続用端子部が不鮮明に表れ、嵌合部との接地面の位置が不明であって、固定用ネジ部との位置関係も不明であるから、共通しているとはいえない。 エ 両意匠部分の大きさ及び範囲の対比 物品全体や取付座全体に対する電気接続用端子部の面積比につき、底面視、本件登録意匠部分は、それぞれ、約125:1と約40:1であるのに対し、甲1号意匠部分は、約260:1と約45:1である。 物品全体や取付座全体に対する固定用ネジ部の面積比は、それぞれ、約80:1、約15:1であるのに対し、甲1号意匠部分は、約100:1、約20:1である。 そうすると、両部分の大きさ及び範囲は、概ね共通している。 オ 両意匠部分の形状等の対比 両意匠部分の形状等を対比すると、主として以下の共通点と相違点が認められる。 (ア)共通点 基本的構成態様につき、 (共通点A)全体の構成は、カメラと接する取付座の底面視の略中央に、電気接続用端子部を設け、その外側に左右一対の固定用ネジ部を設けた点、 具体的態様として、 (共通点B)電気接続用端子部につき、全体が略横長長方形状の領域に表れ、複数本の端子を左右方向に並設した点、 が共通している。 (イ)相違点 両意匠部分は、基本的構成態様における相違点はない。 具体的態様として、 (相違点a)電気接続用端子部と固定用ネジ部の並びにつき、本件登録意匠部分は、電気接続用端子部と左右の固定用ネジ部を直線上に配しているのに対し、甲1号意匠部分は、電気接続用端子部が左右の固定用ネジ部同士を結ぶ直線上から、底面視、上方向に固定用ネジ部の直径の概略二つ分ずらして配している点、 (相違点b)取付座における電気接続用端子部と固定用ネジ部の配置面につき、本件登録意匠部分は、電気接続用端子部及び左右一対の固定用ネジ部を略同一面上に配しているのに対し、甲1号意匠部分は、電気接続用端子部が正面から見て水平に、左右の固定用ネジ部を40度程度の斜面に配している点、 (相違点c)電気接続用端子部の各端子は、底面視において、本件登録意匠部分は、長手方向の全長の上寄り略3分の2が、略角丸三角形状に手前側に突出形成し、その先端は、角が面取を形成しているのに対し、甲1号意匠部分は、そのような突出した形状を看取できず、平滑に表れる点、 (相違点d)固定用ネジ部のねじ切り部の突出幅(長さ)は、本件登録意匠部分は、底面から見た固定用ネジ部の直径の約8分の5であるのに対し、甲1号意匠部分は、固定用ネジ部の直径の約2倍程度である点、また、電気接続用端子部の突出幅は、本件登録意匠部分は、固定用ネジ部の直径の約10分の1であるが、甲1号意匠部分は、不鮮明である点。 (相違点e)色彩につき、本件登録意匠部分は色彩を施していないのに対し、甲1号意匠部分は、電気接続用端子部は赤みを帯びた金色に、固定用ネジ部は、銀色に表れている点、 が相違している。 (3)本件登録意匠が甲1号意匠に類似するか否かの判断 以上の共通点及び相違点を評価し、本件登録意匠が甲1号意匠に類似するか否かについて判断する。 ア 意匠に係る物品 本件登録意匠と甲1号意匠は、用途及び機能が共通しているから、意匠に係る物品が同一である。 イ 両意匠部分の用途及び機能 両意匠部分は、用途及び機能が共通する。 ウ 両意匠部分の位置、大きさ及び範囲 両意匠部分は、意匠に係る物品全体に占める位置が共通している。大きさ及び範囲につき、両意匠部分は、底面からみた面積比が概ね共通している。 エ 両意匠部分の形状等 (ア)両意匠の需要者 両意匠を含む物品である「カメラ用アクセサリ」は、業務用又は家庭用(又は、その両用)のものであって、一般的に製造メーカーから卸売を経て販売されるものであるから、両意匠の需要者は、取引者、及び、一般消費者である。 意匠に係る物品である「カメラ用アクセサリ」は、電気接続用端子部と固定用ネジ部を備えた取付座を有するものであって、カメラ等の附属品をカメラ本体に接続する際に使用するものであるから、需要者にとって、取付座における電気接続用端子部と固定用ネジ部当該部分は、カメラ等の本体への着脱のしやすさ、固定した際の強度、そして、電気的接続に接触不良を生じさせないか等の点で注意を払う部位である。また、需要者は、「カメラ用アクセサリ」を介してフラッシュやマイクロフォン等の附属品を装着した状態でカメラ等を使用する際に、物理的に妨げとならない配置等であるかについても注目することから、取付座における電気接続用端子部と固定用ネジ部の形状等のみならず、それらの配置等についても関心を持って観察する者と認められる。 したがって、両意匠部分の類否判断においては、これらを前提とし、需要者の視点から、前述した共通点及び相違点が及ぼす影響を評価、総合し、両部分の形状等が類似するか否かについて判断する。 (イ)共通点の評価 (共通点A)につき、これは、全体の構成における両意匠部分の基幹を示すものであるが、この態様は、例えば、甲5号証(特開2012-134815号)(別紙第3参照)に表れたハンドルの意匠に見受けられるように、本件登録意匠独自のものではないことから、類否判断に及ぼす影響は限定的である。 (共通点B)につき、電気接続用端子部が略横長長方形状の領域に表れ、複数本の端子を左右方向に並設したものは、例えば、甲5号証から甲15号証及び甲17号証に開示された、カメラ等の附属品の取付座に設けた電気接続用端子部の形状等に表れているように、ありふれたものであるから、類否判断に及ぼす影響は小さい。 (ウ)相違点の評価 (相違点a)につき、これは、電気接続用端子部と固定用ネジ部の並びが、底面視、直線上に配しているのか、固定用ネジ部が並びから外れ、位置ずれして配しているのかに関する相違であるが、本件登録意匠部分のように、電気接続用端子部と固定用ネジ部とが直線上に配したものは、甲5号証の図8にのみ確認できるにすぎず、これをもって、電気接続用端子部と固定用ネジ部を直線上に配した態様をありふれたものと単純に評価することができないから、(相違点a)は、類否判断に一定の影響を及ぼす。(当審注:請求人が当該相違点で言及した甲17号については、端子部の外側のネジ部を確認することができないので参酌できない。) (相違点b)につき、これは、取付座における電気接続用端子部とその外側の左右一対の固定用ネジ部とを、略同一面上に、すなわちフラットな面に配しているのか、略台形状の面に配しているのかに関する相違であるが、この配置は、両意匠部分の中で極めて視認しやすい特徴に係るものであることから、(相違点b)が類否判断に及ぼす影響は極めて大きい。 なお、両意匠が属する、カメラ等のホットシューに嵌合させて固定するアクセサリーの物品分野において、本件登録意匠部分のように、電気接続用端子部とその外側に左右一対の固定用ネジ部を配し、同時に、それらを略同一面上に配置したものは、請求人が提出した、甲1号意匠を含め、各甲号証の中のいずれにも示されておらず、また、当審による公知資料の調査によっても発見することができない。 (相違点c)につき、電気接続用端子部の各端子の形状については、電気接続に関心を払う需要者が注意を向ける部位であると認められるから、端子は意匠の要部の一つである。甲1号意匠部分は、電気接続用端子部の部位が不鮮明であり、端子の形状を本件登録部分の端子と比較することができない。 そうすると、この(相違点c)が類否判断に及ぼす影響は大きいといわざるを得ない。 (相違点d)につき、固定用ネジ部のねじ切り部の突出幅(長さ)や電気接続用端子部の突出幅に対しては、固定した際の強度に関心のある需要者は関心を払うところ、両意匠部分は、固定用ネジ部のねじ切り部の突出幅の比率が約2倍異なっており、また、甲1号意匠部分の電気接続用端子部の突出幅は、これを看守できず、不明確であるから、(相違点d)は一定の差異感を生じさせている。 (相違点e)につき、電気接続用端子部が赤みを帯びた金色に表れ、固定用ネジ部が銀色に表れたものは、例えば、甲15号意匠に表れているように、周知の色彩であることから、相違点eが類否判断に及ぼす影響は小さい。 (エ)両意匠部分の形状等の類否 共通点については、(共通点A)が示すように、類否判断に及ぼす影響が限定的なものである一方で、(相違点b)の取付座における電気接続用端子部とその外側の左右一対の固定用ネジ部を配した配置面は、類否判断に極めて大きな影響を与えており、(相違点c)および(相違点d)と相まって、需要者に別異の美感を与えているといわざるをえない。 したがって、上記共通点及び相違点を総合すると、両意匠部分の形状等は類似するとは認められない。 (オ)請求人の主張について 請求人は、第3、1、(1)、(1-1)、エ、(イ)、第2段落(当審注:請求人が提出した審判請求書では、第6頁、第2、3.、(4)、ロ.、第2段落)において、甲18号証から同21号(当審注:図の省略)を用いて「カメラの上面は種々の形状に形成されてなるため、カメラと接するアクセサリの底面側形状がカメラの上面形状に合わせて形成されるのは当然であり、それに応じてネジ部が底面外側のフラット面に形成されてなるか、底面外側の傾斜面に形成されてなるかは必然的に決まる」と主張する。 しかしながら、カメラの上面形状が概括的にフラット面に形成したものが本件登録意匠の出願前に存在していたとしても、本件登録意匠部分のように、電気接続用端子部とその外側に左右一対の固定用ネジ部を兼ね備えたものを略同一面上に配したものは、甲18号証から甲21号証の内容からは見いだせず、また、当審の調査によっても発見することができない。 したがって、請求人のこの主張を採用することはできない。 オ 両意匠の類否 以上のとおり、本件登録意匠と甲1号意匠は、意匠に係る物品は共通するが、形状等においては、共通点が類否判断に及ぼす影響は限定的、又は小さいのに対して、相違点は総じて類否判断に及ぼす影響が大きく、本件登録意匠と甲1号意匠を別異のものと印象付けるものであるから、本件登録意匠は、甲1号意匠に類似するということはできない。 (4)小活 したがって、本件登録意匠は、甲1号意匠とは類似せず、意匠法第3条第1項第3号に掲げる意匠には該当しないから、請求人が主張する無効理由1には理由がない。 4 無効理由2(創作非容易性の欠如)について 本件登録意匠が、甲1号意匠、甲5号証、甲8号証から甲17号証等の各意匠に基づいて、その出願日前にその意匠の属する分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が、その形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合について容易に創作することができたものであるか否かについて検討し、判断する。 (1)無効理由2の要点 請求人が主張する無効理由2の具体的な内容は、おおむね以下のとおりである。 基本的構成態様につき、 本件登録意匠の「カメラと接する底面側にカメラのアクセサリーシューと電気接続する端子部と、カメラヘ固定する2本のネジ部が設けられてなる構成」(当審注:以下、「構成1」という。構成2以降も同様。)、「底面視、カメラと接する底面側の略中央に端子部が設けられ、端子部の左右外側にネジ部が設けられてなる構成」(構成2)は、この種カメラの分野若しくはカメラ用アクセサリーの分野において詳述したとおり、甲1号意匠、甲5号証の図7及び図8、甲14号証から甲17号証等によって周知ないし公然知られた構成である。 具体的構成態様につき、 本件登録意匠の「端子部が複数本の端子を左右方向に並設し、各端子の底面側の正面側略半分が底面方向へ略台形状に突出形成されてなる構成」(構成3)も、この種カメラの分野若しくはカメラ用アクセサリの分野において甲1号意匠、同8号証から同13号証等によって周知ないし公然知られた構成である。 また、本件登録意匠のネジ部形成位置の具体的構成態様である「ネジ部が底面外側のフラット面に形成されてなる構成」(構成4)も、甲16号、同17号証等によって周知ないしは公然知られた構成である。 さらに、本件登録意匠の端子部とネジ部の配置についての具体的構成態様である「端子部がネジ部同士を結ぶライン上設けられてなる構成」(構成5)も、甲5号証の図8、同16号証、同17等によって周知ないしは公然知られた構成である。 (2)先行公知意匠 ア 甲1号意匠 甲1号意匠(別紙第2)は、前記第5、3(2)において認定したとおりである。 イ 甲5号意匠 甲5号意匠(別紙第3)は、2012年7月12日に公開となった公開特許公報(特開2012-134815号)に掲載された映像装置のうち、110と番号付けられたハンドルの意匠である。 【図7】及び【図8】に示すように、カメラ等本体と接する底面側の略中央に電気接続用端子部が設けられ、端子部の左右外側にネジ部が設けられてなる構成を有している。 【図7】と【図8】には、それぞれ、電気接続用端子部がネジ部同士を結ぶライン上に配された態様と、電気接続用端子部ネジ部同士を結ぶライン上から外れた態様が、開示されている。 ウ 甲8号証(別紙第4参照) 甲8号意匠は、特許庁が2012年5月14日に発行した意匠公報(意匠登録第1440044号)に掲載されたストロボの意匠である。端子部は、複数本の端子を左右方向に並設し、各端子の底面側の正面側略半分が底面方向へ略台形状に突出形成されてなる構成を有している。各端子は、底面視において、長手方向の全長の上寄り略3分の1の長さが、略角丸三角形状に手前側に突出形成されてなる。 エ 甲9号証(別紙第5参照) 甲9号意匠は、特許庁が2012年5月28日に発行した意匠公報(意匠登録第1442161号)に掲載されたカメラ用マイクロフォンの意匠である。その端子部が複数本の端子を左右方向に並設し、各端子の底面側の正面側略半分が底面方向へ略台形状に突出形成されてなる構成を有している。各端子は、底面視において、長手方向の上寄り全長の略3分の1の長さが、略角丸三角形状に手前側に突出形成されてなる。 オ 甲10号証(別紙第6参照) 甲10号意匠は、特許庁が2012年5月14日に発行した意匠公報(意匠登録第1440044号)に掲載されたストロボの意匠である。端子部は、複数本の端子を左右方向に並設し、各端子の底面側の正面側略半分が底面方向へ略台形状に突出形成されてなる構成を有している。各端子は、長短交互に配列し、長さの長い端子は、底面視において、長手方向の全長の上寄り略3分の1が、長さの短い端子は、全長の上寄り略2分の1、略角丸三角形状に手前側に突出形成されてなる。 カ 甲11号証(枝番含む)(別紙第7参照)(当審注:イメージは、抜粋。) 甲11号意匠は、2019年9月6日に公開された価格.comのホームページに掲載されたマイクロフォンの意匠である。物品の端部に略横長四角形状の端子部を設けたものであって、複数本の端子を左右方向に並設し、各端子は、不鮮明に表れる。 キ 甲12号証(枝番含む)(別紙第8参照)(当審注:イメージは、抜粋。) 甲12号意匠は、2019年9月6日に公開されたされた価格.comのホームページに掲載されたマイクロフォンの意匠である。物品の端部に略横長四角形状の端子部を設けたものであって、複数本の端子が左右方向に並設し、各端子は、不鮮明に表れる。 ク 甲13号証(枝番含む)(別紙第9参照) 甲13号意匠は、2013年2月28日に公開されたされた価格.comのホームページに掲載されたステレオマイクロフォンの意匠である。物品の端部に略横長四角形状の端子部を設けたものであって、複数本の端子が左右方向に並設し、各端子は、不鮮明に表れる。 ケ 甲14号証(別紙第10参照) 甲14号意匠は、インターネットアーカイブ、Wayback Machineが2020年10月25日に保存、格納したウェブサイトに掲載された業務用ビデオカメラの意匠である。カメラ等本体と接する底面側の略中央に略横長四角形状の電気接続用端子部が設けられ、端子部の外側に左右一対のネジ部が設けられてなる構成を有している。各端子は、不鮮明に表れ、具体的な形状を認定できない。 コ 甲15号証(別紙第11参照) 甲15号意匠は、インターネットアーカイブ、Wayback Machineが2020年8月7日に保存、格納したウェブサイトに掲載されたハンドルユニットの意匠である。カメラ等本体と接する底面側の略中央に略横長四角形状の電気接続用端子部が設けられ、端子部の外側に左右一対のネジ部が設けられてなる構成を有している。各端子は、不鮮明に表れ、具体的な形状を認定できない。 サ 甲16号証(別紙第12参照) 甲16号意匠は、インターネットアーカイブ、Wayback Machineが2020年9月27日に保存、格納したウェブサイトに掲載されたハンドルユニットの意匠である。カメラ等本体と接する底面側の略中央に略円形状の電気接続用端子部を有している。 シ 甲17号証(別紙第13参照) 甲17号意匠は、2018年2月2日に公開された動画配信サイト(YouTube)の動画に掲載されたカメラ用附属品の意匠である。物品の底面側の略中央に略横長四角形状の電気接続用端子部が設けられ、端子部の外側に左右一対のネジ部が設けられてなる構成を有している。 (3)創作非容易性の判断 カメラ等のホットシューについては、近年、既存の標準規格(例えば、日本産業規格 B7101-1975)から逸脱した多様な製品が多く流通しており、この点を考慮すると、両物品が属するカメラ本体のアクセサリーシュー(ホットシュー)の嵌合相手となる嵌合部を有し、その嵌合部の内側に電気接続用端子部を配し、また固定用ネジ部も配した物品について、その当業者は、電気接続用端子部並びにこれを構成する端子及び固定ネジ部の形状について、格別の知識を持つ者であることが想定される。 請求人の主張につき、 ア 請求人は、「カメラと接する底面側にカメラのアクセサリーシューと電気接続する端子部と、カメラヘ固定する2本のネジ部が設けられてなる構成(構成1)」と「底面視、カメラと接する底面側の略中央に端子部が設けられ、端子部の左右外側にネジ部が設けられてなる構成(構成2)」は、甲1号意匠の外、甲5号証の図7並びに図8及び甲14号意匠によれば、公然知られた構成であると主張するが、これは、当該構成の造形を抽象的に捉え、かつ、要素を分断した上での評価である。 本件登録意匠は、願書の意匠に係る物品の説明の欄に「本願意匠に係る物品は、使用方法を示す参考図に表すように、カメラのアクセサリーシューに嵌合可能なアクセサリである。」と記載され、「使用状態を示す参考図」によると、カメラの平滑な平面部に据えて使用するものであって、本件登録意匠部分は、(構成1)と(構成2)に加えて、「ネジ部が底面外側のフラット面に形成されてなる構成(構成4)」を前提としたものである。 カメラの平滑な平面に固定用ネジを嵌着するアクセサリーシューを創作する際、端子やネジの位置や差し込み幅は、この種物品の機能等からみて多種多様に創作可能であって、容易に行われるとはいえず、むしろ、当業者が独自に創意・工夫をした点であると認められることから、この(構成4)を除外して単純に(構成1)と(構成2)のみ評価することは、この種物品分野の創作の実態に沿うものとはいえない。 よって、(構成1)と(構成2)については、それぞれ、公然知られた構成といえるが、(構成4)の造形要素を同時に備えたものは、従前の公知意匠にはみられないから、容易に創作することができたとはいえない。 イ 「電気接続用端子部が複数本の端子を左右方向に並設し、各端子の底面側の正面側略半分が底面方向へ略台形状に突出形成されてなる構成(構成3)」について、請求人は、この種カメラ等の分野若しくはカメラ用アクセサリの分野において甲1号意匠、甲8号証から甲13号証等によって周知ないし公然知られた構成である旨を主張するが、(構成3)は、電気接続用端子部の形状等を極めて概括的に捉えた構成態様の認定であり、この点を踏まえて本件登録部分の電気接続用端子部を評価すると、「電気接続用端子部を複数本の端子を左右方向に並設し、各端子は、長手方向の全長の上寄り略3分の2が、略角丸三角形状に手前側に突出形成され、その先端は、角を面取りして形成した態様」、及び「電気接続用端子部の突出幅は、平面視において、固定用ネジ部の直径の約10分の1である態様」については、甲1号意匠、甲8号証から甲13号証に基づいて容易に創作することができたとはいえない。 ウ 「ネジ部が底面外側のフラット面に形成されてなる構成(構成4)」について、甲16号意匠と甲17号意匠は、写真が不鮮明でネジ部の態様を認定しがたいが、少なくとも、本件登録部分の固定ネジ部とは、その形状等や配置に関し、同等あるいは同種の造形をみいだせず、本件登録部分は、これらの公知意匠に基づいて容易に創作することができたとはいえない。 エ 「端子部がネジ部同士を結ぶライン上設けられてなる構成(構成5)」については、確かに、甲5号証の【図8】に示されているものの、甲16号意匠は、本件登録部分のように電気接続用端子部と、その両外側の固定ネジ部が略同一面に配置しておらず、甲17号意匠は、少なくとも、本件登録部分の固定ネジ部のように、ネジのらせんが突出したものではない。そうすると、(構成5)を有するものは、甲5号証の【図8】のみであり、公知資料が1件のみでは、ありふれたものと評価することはできない。また、(構成5)が甲5号証の【図8】によって公知であったとしても、前記、アからウで説明したとおり、いずれも容易に創作したとはいえないことから、(構成5)の要素のみをもってして本件登録部分の形状等が容易に創作できたとはいえない。 したがって、本件登録部分は、無効理由2の各甲号証の各意匠に基づいて、当業者が容易に本件登録意匠の創作をすることができたということはできない。 (4)小括 以上のとおり、本件登録意匠は、甲1号意匠、甲5号意匠、甲8号意匠から甲17号意匠等の形状等に基づいて、当業者が容易に創作をすることができたということはできないので、意匠法第3条第2項が規定する意匠には該当せず、本件登録意匠について意匠登録を受けることができないとすることはできない。 したがって、請求人が主張する無効理由2には、理由がない。 第6 請求人の主張について 請求人は、補正許否の決定に対し、令和7年9月2日差出の上申書、第1、において、甲22号証の1及び甲22号証の2は、間接証拠であり、主要事実ではなく、補助事実である旨主張する。 そこで検討するに、当該甲22号証の1及び甲22号証の2に基づけば、審判請求時に提出された一連の証拠からは特定し得なかった、電気接続用端子部の正面視における突出幅、嵌合部との接地面の縦方向の位置及び各端子の具体的な形状が特定可能であるが、これら電気接続用端子部の具体的な形状は、本件登録意匠の需要者あるいは当業者が関心を持って注意を向ける部位であるから、意匠の認定の際の意匠の要部の一つである。意匠の要部に関する内容は、補助事実とはいえず、主要事実であるといわざるを得ない。 したがって、請求人のこの主張を採用することはできない。 なお、本件審判請求書と共に提出した無効理由の根拠となる証拠が、仮に、意匠法第3条第1項第1号の「公然知られた意匠」として提出したものであったとしても、同一製品である「ハンドルユニット HDU-1」の実売商品を撮影した写真を証拠として後から追加したり、検証物を後から追加したりする場合、それらの証拠が、審判請求時に提出した証拠とは、証拠が異なるだけでなく、当初明らかでなかった形状等を明らかにする写真を追加するなどして内容も実質的に同一ではないことになれば、意匠の類否判断や創作の判断において、判断の範囲を実質的に変更することとなる。よって、本件事件の場合、甲1号証が意匠法第3条第1項第1号の「公然知られた意匠」として提出した証拠であっても、これに関する証拠として後から追加した甲22号証の1及び甲22号証の2並びにこれに基づく主張の追加は、「請求の理由」の要旨を変更するものであるから、許可することはできない。 第7 むすび 以上のとおりであるから、請求人の主張する無効理由1及び無効理由2には理由がなく、請求人の主張及び証拠方法によっては、本件登録意匠の登録は、無効とすることはできない。 審判に関する費用については、意匠法第52条で準用する特許法第169条第2項で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人の負担とする。 よって、結論のとおり審決する。 [図:0001433144000009.jpg] [図:0001433144000010.jpg] [図:0001433144000011.jpg] [図:0001433144000012.jpg] [図:0001433144000013.jpg] [図:0001433144000014.jpg] [図:0001433144000015.jpg] [図:0001433144000016.jpg] [図:0001433144000017.jpg] [図:0001433144000018.jpg] [図:0001433144000019.jpg] [図:0001433144000020.jpg] [図:0001433144000021.jpg] [図:0001433144000022.jpg] [図:0001433144000023.jpg] [図:0001433144000024.jpg] [図:0001433144000025.jpg] [図:0001433144000026.jpg] [図:0001433144000027.jpg] [図:0001433144000028.jpg] [図:0001433144000029.jpg]

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2024-880006

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