特許無効審判
2024-800053
塗料用内容器
- 審判番号
- 2024-800053
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 無効審判(無効の審決)
- 出願番号
- 特願2017-170293外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 登録番号
- 6632584
- 請求日
- 2024年04月12日
- 審決日
- 2025年02月27日
- 公報発行日
- 2025年05月30日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】株式会社 タイホウ
- 【請求人代理人】大森 勇
- 【被請求人】株式会社 マルテー大塚
- 【被請求人代理人】弁理士法人アイリンク国際特許商標事務所
- 分類
- P1123.121-Y (B05C)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第131条の2、特許法第29条第2項、特許法第29条第1項第3号、特許法第169条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
上記当事者間の特許第6632584号発明「塗料用内容器」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
審判費用は、請求人の負担とする。
理由
理 由
第1 請求の趣旨及び答弁の趣旨
1 請求の趣旨
次を結論とする審決を求める。
(1)特許第6632584号の請求項1に係る発明についての特許を無効とする。
(2)審判費用は、被請求人の負担とする。
2 答弁の趣旨
次を結論とする審決を求める。
(1)本件審判の請求は成り立たない。
(2)審判費用は請求人の負担とする。
第2 手続の経緯
1 本件審判請求がされるまでの経緯
特許第6632584号(以下、「本件特許」という。)の請求項1~5に係る特許についての出願は、平成29年9月5日の出願であって、令和1年12月20日に特許権の設定登録がされたものである。
2 本件審判請求における主な手続の経緯
本件審判請求における主な手続の経緯は以下のとおりである。
令和 6年 4月12日 :無効審判請求(請求人)
同年 5月28日 :手続補正書提出(請求人)
同年 7月19日 :審判事件答弁書提出(被請求人)
同年 9月 2日付:審理事項通知書(特許庁審判長から請求人及
び被請求人双方に対して)
同年 同月24日 :上申書提出(請求人)
同年10月 7日 :口頭審理陳述要領書提出(請求人)
同年 同月22日 :手続補正書提出(被請求人)
同年 同月31日 :第1回口頭審理及び特許法131条の2
第2項の決定
同年 同月12日 :上申書提出(被請求人)
同年 同月22日 :上申書提出(請求人)
第3 本件特許発明
本件特許の請求項1に係る発明(以下、「本件特許発明」という。)は、願書に添付された特許請求の範囲の請求項1に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
取っ手を備えた平面多角形の外枠にはめ入れられるともに、この外枠と平面形状を同じにした内容器本体を備え、
上記内容器本体は、隣り合うコーナー間の内側面であって、少なくとも1面を塗装用ローラの軸方向長さ以上の幅を有する仕上げしごき面とし、
その他の内側面のうちの少なくとも2面を、塗装用ローラの軸方向長さ以上の幅を有する上記ローラ対応しごき面とするとともに、
上記仕上げしごき面は、平坦面、もしくは、上記ローラ対応しごき面に形成された上記突部よりも突出高さが低い突部が形成された面からなり、
上記ローラ対応しごき面には、それらローラ対応しごき面ごとに突出高さを異にした突部が形成された塗料用内容器。」
第4 請求人の主張の概要及び証拠方法
1 請求人の主張の概要
請求人は、「特許第6632584号の特許請求の範囲の請求項1に記載された発明についての特許を無効とする、審判費用は、被請求人の負担とする。」との審決を求め、その理由として、おおむね、次の無効理由(第1回口頭審理において整理されたもの)を主張している。
無効理由(第1号証を主たる証拠とする進歩性)
本件特許の請求項1に係る発明は、本願の出願前に日本又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明に基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない発明であるから、それらの特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とされるべきである。
なお、請求人は、上記口頭審理陳述要領書において、甲第1号証に基づく特許法第29条第1項第3号の無効理由がある旨主張する。しかしながら、当該主張は、審判請求書において主張する無効理由とは異なる無効理由を追加する補正であり、当該補正は請求の理由の要旨を変更するものであって、被請求人が当該請求の理由の補正に不同意であるから、令和6年10月31日に行った補正許否の決定のとおり、許可しない。
2 証拠方法
請求人は、下記甲第1~7号証を証拠方法として提出した。
甲第1号証:特開2013-99750号公報
甲第2号証:特開2016-74141号公報
甲第3号証:特開2016-22428号公報
甲第4号証:(株)佐藤産業の2006年商品カタログの表紙、毛足の長さの異なるローラの掲載されている47ページ及び48ページ、カタログ発行年の説明されている最後のページ
甲第5号証:2020年8月28日に公開された動画「ローラーの塗り方【プロでも参考になる】diyで役立つ壁を塗るコツ教えます」の中で、塗料容器の平坦な内壁面でローラをしごいて使用している画像をキャプチャした画像、リアルペインターpainterシゲ、URL:
https://www.bing.com/videos/riverview/relatedvideo?q=%e5%a1%97%e6%96%99+%e3%83%ad%e3%83%bc%e3%83%a9%e3%83%bc+%e5%a1%97%e3%82%8a%e6%96%b9&mid=5CCD72196B7CD907E3F95CCD72196B7CD907E3F9&FORM=VIRE
甲第6号証:実用新案登録第3191051号公報
甲第7号証:実用新案登録第3135494号公報
(以下、順に「甲1」のようにいう。)
第5 被請求人の主張の概要
被請求人は、「本件無効審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする。」との審決を求め、その理由として、請求人が主張する上記無効理由は理由がない旨主張している。
第6 当審の判断
当審は、無効理由について検討した結果、以下のとおり、請求人の主張する無効理由では、本件特許を無効とすることはできないものと判断する。
1 主な証拠に記載された事項等
(1) 甲1の記載事項等
ア 甲1の記載事項
本件特許の出願日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲1には、「容器」に関し、次の記載がある。
・「【背景技術】
【0002】
図4は、従来の塗料バケット500を示す外観図である。塗料バケット500は、2つの取手部501を有し、塗料バケット500の内側には、容器510が配置されている。容器510の中には、塗装用ローラに付いた塗料を調整するための網520が配置されている。この網520は、塗装用ローラが接触したときに網520の位置がずれないように塗料バケット500に固定するための2つの爪521を有している。塗料バケット500に直接塗料を入れて使用することがないため、塗料バケット500を溶剤等で洗浄する必要がない。」
・「【発明が解決しようとする課題】
【0004】
使用者が複数の色の塗料を塗装に使う場合、内側の容器510をその色の数だけそろえ、それらに塗料を入れておき、使用すべき色の塗料が入った容器510を塗料バケット500に配置することにより、塗装作業を行うことができた。このため、複数の塗料バケット500を用意する必要はなかった。しかし、網520は、塗装用ローラに付いた塗料を調整するものであり、網520には現在使用中の塗料が付着しているため、他の色の塗料が入っている容器510にそのまま網520を漬けることができなかった。このため、網520を異なる色を使うごとに洗浄するか、あるいは色の数だけ網を用意する必要があった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係る容器は、液体を入れることができる容器であって、前記容器が、開口部と前記開口部の周りにある縁部とを有する上部と、前記容器の底に位置する底部と、側部とを備え、前記側部に少なくとも1つの突起部を有し、前記開口部の面積が前記底部の面積より広い容器である。」
・「【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、図面を参照しながら本発明の一実施形態における、突起部を有する容器について説明する。
図1は、本発明の一実施形態における容器10を示す外観図である。
【0018】
塗料を入れるために使用することができる容器10は、開口部12と開口部12の周りにある縁部とを有する上部14と、容器10の底に位置する底部16と、側部18とを備えている。上部14は、容器10の強度を高めるために設けられている。本実施形態では、開口部12の周りに縁部を形成することにより、容器の強度を高めている。
【0019】
開口部12の形状は、少なくとも4つの辺を有するが、開口部12の形状が略四角形の場合それらの角は面取りがなされていてもよい。容器10を成型する場合、角がない方が成型しやすいからである。開口部12の内側の一辺の長さは200mm~250mmであってもよい。また、開口部12の内側の他の一辺の長さが150mm~190mmであってもよい。開口部12の一辺の長さが、230mm以上であれば、9インチ(229mm)の塗装用ローラを使うことができる。また、開口部12の一辺の長さが、180mm以上であれば、7インチ(178mm)の塗装用ローラを使うことができる。」
・「【0021】
なお、容器10は、取手部22を有していてもよい。塗料バケットに容器10を配置し、その後容器10を塗料バケットから引き上げるときに取手部22は使用される。また、本発明では、取手部22を設けず、取手部22を上部14で代用させることも可能である。従来の容器では、ローラについた塗料の量を調整するための網が、爪にて塗料バケットに固定されていた。しかし、本発明では、網が不要となり、網を固定する爪を考慮して容器10の上部14を設計する必要はない。このため、塗料バケットの開口部の外形より大きくなるように上部14を形成することができる。このような場合、上部14は、容器10を塗料バケットから引き上げるときに使用されてもよい。
【0022】
容器10の側部は4つの面を有し、側部18の1つの面には少なくとも1つの突起部20が設けられている。突起部20は、塗料を塗るもの、例えば塗装用ローラ、刷毛、ブラシ等に付いた塗料の量を調整するために使用される。
【0023】
具体的には、使用者は、塗料が入っている容器にローラを漬けたり転がしたりすることにより、ローラに塗料を染みこませる。ローラには、壁等に塗料を塗るのに必要以上の塗料が吸収されており、使用者がこのままの状態でローラにて壁等を塗ると、塗りむらや、ローラから塗料の落下が生じる可能性が高い。そこで、使用者は、突起部20にローラを回転させながら接触させることにより、ローラに染みこんだ塗料を調整することができる。このため、使用者は、塗りむらや、ローラから塗料が落下することを防止することができる。
【0024】
突起部20は、容器10の内側に凸となるように配置されている。突起部20は、それが延びる方向に垂直となる面における、その突起部20の断面が曲線となる部分を有していることが好ましい。突起部20が曲線部を有する形状を持っている場合、突起部20に掛かる力を分散させることができる。この曲線は、円弧、楕円の一部等、所定の区間において不連続とならない関数で表されるものであってもよい。突起部の高さ(突起部20が延びる方向に垂直となる面に、突起部20が設けられた側面18が交差する部分から前記曲線が最大となる高さ)が5mm~30mmであってもよい。」
・「【0036】
上述した容器10では、1つの面に少なくとも1つの突起部80、84が設けられているが、本発明はそれに拘泥されない。つまり、他の側面にも少なくとも1つの突起部が設けられていてもよい。
【0037】
図3は、本発明の他の実施形態における容器70を示す外観図である。
【0038】
塗料を入れるために使用することができる容器70は、開口部72と開口部72の周りにある縁部を有する上部74と、容器70の底に位置する底部76と、側部78、82とを備えている。容器70では、側部78、82の2つの面には少なくとも1つの突起部80、84が設けられている。突起部80、84は、塗料を塗るもの、例えば塗装用ローラ、刷毛、ブラシ等に付いた塗料の量を調整するために使用される。
【0039】
容器70では、突起部80と突起部84の向きが異なるが、突起部80と突起部84の向きが同じであってもよい。さらに、突起部80の形状としては、図2の(a)乃至(d)に示す形状であってもよいし、突起部82の形状としては、図2の(a)乃至(d)に示す形状であってもよい。
【0040】
本発明の別の実施形態における容器では、3つの側部にそれぞれ少なくとも1つの突起部が設けられていてもよい。また、本発明のさらに別の実施形態における容器では、4つの側部にそれぞれ少なくとも1つの突起部が設けられていてもよい。」
・「【図1】
[図:0001422355000001.jpg]
【図2】
[図:0001422355000002.jpg]
【図3】
[図:0001422355000003.jpg]
」
イ 甲1に記載された発明
甲1の記載を、特に図3及び【0018】~【0021】、【0036】~【0039】の箇所に記載された実施形態に関して整理すると、甲1には次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認める。
「塗料バケットに配置され、開口部の形状が略四角形で、開口部の一辺の長さが、230mm以上であれば、9インチ(229mm)の塗装用ローラを使うことができ、また、開口部の一辺の長さが、180mm以上であれば、7インチ(178mm)の塗装用ローラを使うことができ、塗料を入れるために使用することができる容器であり、開口部と開口部の周りにある縁部を有する上部と、容器の底に位置する底部と、4つの面を有する側部とを備えており、容器では、側部の2つの面にはそれぞれ少なくとも1つの突起部が設けられており、当該突起部は、塗料を塗るもの、例えば塗装用ローラ、刷毛、ブラシ等に付いた塗料の量を調整するために使用される容器。」
(2)甲2の記載事項
本件特許の出願日前に頒布された刊行物である甲2には、「塗装内容器」に関し、次の記載がある。
・「【発明が解決しようとする課題】
【0005】
現在では、把持部を有する塗装容器の内面側に、ポリエチレン等の合成樹脂性より成る低廉な薄肉の内容器(「塗装内容器」に該当。)を嵌め込んで、当該塗装内容器内に調合済みの塗料を入れた上で、塗装用のローラー等の用具を当該塗料に浸して当該塗料をローラーの先端部等に含ませた後に、ローラー等で塗料を塗る作業が行われている(例えば特許文献2参照。)。この場合には、塗装内容器の内面に付着した塗料の残部をシンナーで洗うことで当該塗料を溶かすことが出来、溶けた塗料を拭き取ることで、塗料の残部を容易に除去することが可能となり、当該塗装内容器は数回の使用後に使い捨てられる。
【0006】
ところが、この様な合成樹脂性の塗装内容器の厚みは、それが嵌め込まれる塗装容器本体の厚みと比較して各段に薄い(その厚みは0.5mm乃至1mm弱。)。そして、上記の洗浄時のシンナーの使用回数の増加に応じて、塗装内容器の合成樹脂より成る薄肉の底部及び側面各部は、凹凸状ないしは波打ち状を成すペラペラ状態の部分となり、塗装内容器の強度の劣化が増大される。特に塗装内容器の要部である底部が上記の波打ち状態になると、当該底部の強度の劣化の進行に伴って当該底部に於ける塗料漏れが生じるおそれもあり、そのために塗装内容器の寿命が短くなるという問題点が生じ得る。加えて、底部・側面部の各面でローラーの先端部をしごく場合に於いても、上記の波打ち状態の底部では、ローラーの先端部が底部等の各面に当接し得なくなるという問題点も生じ得る。」
・「【0009】
(本発明の目的)
本発明は、上記の問題点を克服すべく創作されたものであり、塗料を塗る用具として主にローラーが想定されている、平面視に於いて略四角形状の開口部を有する樹脂性の塗装内容器の主に底部に於ける、シンナーの使用等に伴い生じ得る波打ち状態の発生を防止して、塗装内容器の主として底部の強度の向上化を実現することを、その第1主目的としている。
【0010】
又、本発明の第2主目的は、特許文献3に例示される様な、塗装内容器の上端縁により形成される平面視に於いて略円形状の開口部を有するバケツ状の樹脂性の塗装内容器の底部に於ける、シンナーの使用等に伴い生じ得る波打ち状態の発生を防止して、当該塗装内容器の底部の強度の向上化を実現する点にある。」
・「【0019】
塗装内容器1は、既述の通り、平面視に於いて略四角形状の開口部を有する塗装容器の内面側に全体的に遊嵌される内容器であって、その内部に塗料が入れられる。
【0020】
塗装内容器1は、全体的に、例えばポリエチレン等の合成樹脂性(単に「樹脂」という。)より成る、低廉な薄肉の内容器である。塗装内容器1は、1)当該容器1の基部を成す底部1Bと、2)底部1Bと不可分一体的に繋がった4つの第1乃至第4側面部1SA,1SB,1SC,1SDより成る。そして、塗装内容器1の開口部1OPは、第1乃至第4側面部1SA,1SB,1SC,1SDの4側面の上縁部より構成される。しかも、第1乃至第4側面部1SA,1SB,1SC,1SDの各々の上縁部1Pを介して開口されている開口部1OPは、上方より眺めた平面視に於いて、略四角形状ないしは略長方形状の形状を有する。その変形例として、開口部1OPの平面視形状が略正方形となる様な開口部が配設されても良い。又、上縁部1Pは、図2の縦断面図に示される様に、下方側部分より外側へ向けて上方側へ延在した上で、その途中で、開口部1OPの内側へ向けて逆向きで延在する略Λ型の縦断面形状を有している。この上縁部1Pは、ローラーの先端部又は刷毛等の塗装用具に含まれる塗料の余剰分を、当該塗装用具を塗装内容器1より取り出す直前に、塗装内容器1内に流し落とすための当該塗装用具の「しごき部分」としての機能を呈する。そして、上縁部1Pの先端部分もまた、開口部1OPと同様な形状を有し且つ開口部1OPと重なる開口部1OPAを成す。即ち、開口部1OPAもまた、上方より眺めた平面視に於いて、略四角形状ないしは略長方形状の形状を有する。そして、開口部1OPAの縁部分より開口部1OPを介して塗装内容器1の内部が全体的に貫通されている。塗装内容器1を上方より眺めた際に、この開口部1OPに対向する面が、底部1Bの内側の表面ないしは内面1BSである。即ち、塗装内容器1は、その長手方向Xに沿って延在し且つ長手方向Xに直交する短手方向Yに沿って延在する略長方形状の平面視構造を有する開口部1OPを備えており、この開口部1OPに対して全面的に対向する底部1Bの表面1BS上に、調合済みの塗料が入られる。この様な形状を有する塗装内容器1は、主として、ローラーが塗料を塗る用具として用いられる場合に適応した塗装内容器を成している。勿論、刷毛を、塗料を塗る用具として用いる場合に、塗装内容器1が適用されても良いことは、言うまでもない。
【0021】
図1及び図2に例示される様に、塗装内容器1の底部1Bは、大要、途中で上方へ向けて線状に折れ曲がった2つの部分より成る。即ち、底部1Bの第1底部1BAは、第1側面部1SAと不可分的且つ全体的に繋がった部分から、第1傾斜角度θ1で以って上方へ傾斜しつつ、一境界線1BLを介して滑らかに折れ曲がる部分1BPまで延在する底部である。又、底部1Bの第2底部1BBは、上記の折れ曲がり交差部分1BPから、第1傾斜角度θ1よりも大きな第2傾斜角度θ2(θ2>θ1)で以って上方へ傾斜しつつ、第2側面部1SBに不可分的且つ全体的に繋がった部分に向けて延在する底部である。そして、底部1Bの内面ないしは表面1BSを成す第1底表面1BAS及び第2底表面1BBSもまた、それぞれに対応する第1底部1BA及び第2底部1BBの形状と同一の形状を有している。
【0022】
しかも、本実施の形態に於いては、第1底表面1BAS及び第2底表面1BBの両面上に、長手方向X及び短手方向Yに沿って配列した複数の第1突起部2が配設されている。尚、本実施の形態の変形例として、第1底表面1BAS及び第2底表面1BBの一方の面上にのみ、長手方向X及び短手方向Yに沿って配列した複数の第1突起部2が配設されていても良い。その場合でも、後述する底部1Bの補強効果は、部分的ではあるが、同様に得られる。ここで、第1突起部2の各々の高さ乃至は厚みは、例えば約2mmに設定される。この厚みは、従来の塗装内容器の平らな底部の厚み(0.5mm乃至1mm弱)の約2倍強に該当する。従って、これらの第1突起部2の配設によって、塗装内容器1の底部1Bの重量は、従来の塗装内容器の底部の重量よりも格段に増大化される。又、第1底表面1BAS及び第2底表面1BBの内で第1突起部2が配設されていない面の底部分の厚みは、例えば金型を用いた製造過程に於いて、従来通りの値に、或いは、従来値よりも厚い値に設定される。この点の厚み設定によっても、塗装内容器1の底部1Bの重量は更に増大化されることになる。
【0023】
本実施の形態のもう一つの特徴点として、複数の第1突起部2は、例えば鉄板の表面に滑り止めとして設けられているものと同様な、縞板模様を成す様に配列されている。この第1突起部2の縞板模様の配列構造乃至は突起部形状は、底部1Bの強度をより高めることに寄与し得る。」
・「【0026】
又、4つの側面部1SA,1SB,1SC,1SDの内の少なくとも一つの側面部の開口部1OP側の表面乃至は内面上に、第1突起部2とは別の複数の突起部を同様に縞板模様状に配設して、塗装内容器1の側面部1Sの強度の補強を図ることとしても良い。この場合には、当該別の複数の突起部にローラーの先端部・刷毛等の塗装用具を押し付けて、しごくことで、ローラーの先端部等に含まれる余剰の塗料を、当該塗装用具を塗装内容器1より取り出す前に、塗装内容器1内に流し落とすことも出来る。即ち、側面部の内面に設けられる当該別の複数の突起部及び各突起部の縞板模様もまた、塗装内容器1の強度補強としての機能を呈すると共に、ローラーの先端部等に含まれる余剰の塗料の調整機能をも呈することとなる。例えば、本実施の形態に於いては、図1及び図2に示される様に、対向し合う第1側面部1SA及び第2側面部1SBの内面(開口部1OP側の表面)1SSA,1SSB上に、縞板模様状の配列で以って、複数の第2突起部3及び複数の第3突起部4がそれぞれ配設されており、これらの突起部3,4の存在により、第1側面部1SA及び第2側面部1SBの強度が全体的に向上されている。勿論、本実施の形態に於いて、第3側面部1SC及び/又は第4側面部1SDの内面上にも、別の複数の突起部を配設することとしても良い。この場合には、塗装内容器1の側面部1Sの更なる強度補強を通じての塗装内容器1全体の強度補強がより一層に増大化される。尚、図1に於いては、図示化の便宜上、複数の第3突起部4の一部が表示されているのみであるが、実際には、第2側面部1SBの内面1SSBの全体に亘って、複数の第3突起部4が縞板模様状の配列で配設されている。」
(3)甲3の記載事項
本件特許の出願日前に頒布された刊行物である甲3には、「塗装用内容器」に関し、次の記載がある。
・「【0008】
この発明は、ローラ刷毛への塗料の付着量を適切にでき、しかも、安価で使用しやすい塗装用内容器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述の課題を解決するため、この発明の塗装用内容器は、外容器の中に取り付けて使用される使い捨ての塗装用内容器であり、合成樹脂により形成されていて、側面内側の上部にローラしごき用の凹凸が形成されている。ローラしごき用の凹凸は平行な複数の畝部で形成してもよく、さらには、側面内側の外側から中央部にかけて下がるように傾斜した複数の畝部としてもよい。」
・「【発明を実施するための形態】
【0012】
この発明を実施するための形態について、図面に基づいて説明する。図1は塗装用内容器を示す斜視図である。塗装用容器1は、外容器2と、外容器2の中に取り付けて使用される使い捨ての塗装用内容器3を備える。
【0013】
外容器2は上部が開口した概ね箱状の容器であり、底面4と、ほぼ垂直な4面の側面5a、5b、5c、5dを有する。対向する2つの側面5a、5bの上部には2本の取っ手6が回転自在に取り付けられていて、立てた状態のときは持ち手として握ることができ、倒したときは容器の外側に退避するようになっている。この外容器2の底面は水平であってもよいが、一部または全部が緩やかに傾斜していてもよく、あるいは、一部に液溜め用の凹部が形成されていてもよい。また、4面の側面5a、5b、5c、5dは完全に垂直である必要はなく、下から上へ外向きに開くような傾斜が付いていることが好ましい。外容器2の側面が外開きのテーパになっていることにより、内容器3の着脱が容易になる。この外容器2は金属や厚めの合成樹脂などで十分な強度を有するように作られ、繰り返し使用できるようになっている。
【0014】
塗装用内容器3は、ポリプロピレン(polypropylene)などの熱可塑性樹脂により作られる。外容器2に比べて薄く、柔軟性を持たせて形成する。外容器2と同様に上部が開口した概ね箱状の容器であり、底面7と、ほぼ垂直な4面の側面8a、8b、8c、8dを有する。塗装用内容器3の外形は外容器2の内壁面と実質的に同じである。
【0015】
塗装用内容器3の4面の側面8a、8b、8c、8dのうち、一対の側面8a,8bは、取っ手6が取り付けられている外容器2の側面5a,5bに接する。そして、他の2つの側面8c,8dは、取っ手6が取り付けられていない外容器2の側面5c,5dに接する。この2つの側面8c,8dの側面のうち、少なくとも一つの面8cの上部には、ローラしごき用の凹凸9が設けられている。
【0016】
凹凸9が設けられている領域の幅は、ローラ刷毛のローラの長さと同等またはそれより若干長めになっている。特に、塗料面よりも上になる部分に凹凸9を設けるようにする。側面8cの下部には凹凸9を設ける必要はない。
【0017】
図2はローラしごき用の凹凸の第1の例を示す正面図、図3は同A-A部分断面図である。図2は容器の内側より、側面8cを見た図である。本例では、ローラしごき用の凹凸9は平行な複数の畝部で形成されている。この例では、畝部の高さおよび幅はそれぞれ4mm程度であるが、ローラ表面の材質や固さ、あるいは塗料の粘度などに応じて、2~6mmの範囲内で適宜選択することができる。4本程度の畝部が平行に設けられており、その間は10mm程度の幅の谷部となっている。」
(4)甲4の記載事項
本件特許の出願日前に頒布された刊行物である甲4には、「ローラー」に関し、次の記載がある。
・「
[図:0001422355000004.jpg]
」
(5)甲5の記載事項
甲5は、動画「ローラーの塗り方【プロでも参考になる】diyで役立つ壁を塗るコツ教えます」の中の、塗料容器の平坦な内壁面でローラをしごいて使用している画像に関し、次の記載がある。
・「
[図:0001422355000005.jpg]
」
(6)甲6の記載事項
本件特許の出願日前に頒布された刊行物である甲6には、「塗装内容器」に関し、次の記載がある。
・「【0025】
段差部2の上面2TSは、側面部3の内面3ISの内の所定の一部分から内容器1の内側中心部に向けて突出している。そして、段差部2の全体的に平坦な表面2SSの一端部は、上面2TSの張り出した端部に結合しており、当該結合部分から底面部4の内面4ISに向けて垂直に切立って延在している。そのため、平坦な表面2SSは、内容器1の内側中心部から見て、即ち、正面視に於いて、底面4の内面4ISから垂直に切立った「壁面」を成している。この意味で、平坦な表面2SSは壁面2SSとも称される。
【0026】
尚、表面乃至は壁面2SSは、垂直面に代えて、全面的又は部分的に所定の角度で傾斜した傾斜面を成していても良い。又は、表面2SSは、多少の凹部又は/及び凸部がある様な、非平坦面であっても良い。」
・「【0029】
図4に拡大的に示す様に、ローラー5の先端部の円柱形状の被回転部分5Rは、内容器1内に注入された塗料溜まりPSに浸漬されて多量の塗料を含んだ状態にて、塗料溜まりPSより引き出される。そのままの状態でローラー5を内容器1より取り出したのでは、既述の通り、余剰な塗料が周囲の外部に流れ落ちて付着してしまう。この様な不具合を回避するためには、内容器1よりローラー5を取り出す前の段階に於いて、ローラー5の被回転部分5Rを回転させながら全体的にしごいて、余剰な塗料を内容器1内に流し出しておく必要性がある。即ち、ローラー5の被回転部分5Rに含まれる塗料の量の最適化の調整処理を必要とする。
【0030】
本実施の形態では、図4に示される様に、塗料溜まりPSより取り出した後のローラー5の被回転部分5Rを、段差部2の平坦な表面2SSに押し当てつつ、回転させながら、上方に移動させる。この処理により、ローラー5の被回転部分5Rは、全体的に均一にしごかれる。しかも、本例では、複数の突起部2PPが表面2SS上に配設されているので、ローラー5の被回転部分5Rは、壁面2SSに押し当てられた状態のままでの上方への移動時に、突起部2PPからの作用を受ける。そのため、ローラー5の被回転部分5Rは、摺動状態にて上方へ移動することなく、ローラー5の回転面が常に回転しながら、均一にしごかれることとなり、余剰な塗料の切り取り量が多くなり、塗料の切り取り処理はより良好となる。勿論、突起部2PPが配設されていない場合でも、表面2SSの面は、完全なツルツルの平面ではなくて、微小な凹凸のある粗面であることが多いので、ローラー5の被回転部分5Rはしごかれて、余剰な塗料が内容器1内に流れ落とされる。」
・「【図4】
[図:0001422355000006.jpg]
」
(7)甲7の記載事項
本件特許の出願日前に頒布された刊行物である甲7には、「刷毛入れ容器付ローラーバケット内容器」に関し、次の記載がある。
・「【0003】
ローラーバケット容器での塗装作業においては、ローラーバケット本体に塗料を入れ、刷毛入れ室等の装着されていないものにおいては、もう一方の手に刷毛等を持つか、又はローラーバケットの手提げと一緒に刷毛等を持つか、あるいは塗料の入ったローラーバケットの中に刷毛等を浸けて、双方を持ち運びながら塗装作業をしている。」
・「【実施例】
【0009】
以下、添付図面に従って一実施例を説明する。
1はローラーバケット本体、2はプラスチックス等適宣素材にて形成された刷毛入れ容器付ローラーバケット内容器、3は当該内容器2と固着一体化形成された、複数の空間に区分けされた刷毛入れ容器。
【0010】
内容器2の上部辺縁には、内容器2の本体側面に対して略垂直に突出した、突縁部7、いわゆるミミを備える。
【0011】
本考案の一実施例は上述の如き構成であるから、ローラーバケット本体1に、刷毛入れ付ローラーバケット内容器2を、ローラーバケット本体1にはめ込んで装着し、当該内容器2に塗料をいれる、ローラーバケット本体1の外側に出ている、固着一体化形成され、複数区分けされた刷毛入れ容器3には、ローラー刷毛、毛刷毛等を入れて持ち運びをする。」
・「【図1】
[図:0001422355000007.jpg]
」
2 対比・判断
(1) 甲1発明との対比・判断
ア 対比
甲1発明の「塗料バケット」及び「容器」は、それぞれ、本件特許発明の「外枠」及び「内容器本体」に相当し、甲1における「容器」は「塗料バケット」内に配置されて使用するものであるから(甲1の【0002】、【0021】)、本件特許発明の「外枠にはめ入れられる、内容器本体」を満たす。
また、甲1発明における「容器」の「開口部の一辺の長さ」については、「230mm以上であれば、9インチ(229mm)の塗装用ローラを使うことができ、また、開口部の一辺の長さが、180mm以上であれば、7インチ(178mm)の塗装用ローラを使うことができ」るものであるから、本件特許発明の「その他の内側面のうちの少なくとも2面を、塗装用ローラの軸方向長さ以上の幅を有する」に相当する。
さらに、甲1発明の「側部の2つの面には少なくとも1つの突起部が設けられて」おり、また、「突起部は、塗料を塗るもの、例えば塗装用ローラ、刷毛、ブラシ等に付いた塗料の量を調整するために使用される」ものであるから、甲1発明の「側部の2つの面」は、本件特許発明の「ローラ対応しごき面」に相当する。
そして、甲1発明の「塗料を入れるために使用することができる容器」は、本件特許発明の「塗料用内容器」に相当する。
そうすると、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「外枠にはめ入れられる、内容器本体を備え、
その他の内側面のうちの少なくとも2面を、塗装用ローラの軸方向長さ以上の幅を有する上記ローラ対応しごき面とする、
塗料用内容器。」
また、両者は次の点で相違する。
<相違点1>
「外枠」について、本件特許発明は、「取っ手を備えた平面多角形の外枠外枠にはめ入れられるともに、この外枠と平面形状を同じにした内容器本体」と特定するのに対し、甲1発明においては、そのような特定がない点。
<相違点2>
「仕上げしごき面」について、本件特許発明は、「内容器本体は、隣り合うコーナー間の内側面であって、少なくとも1面を塗装用ローラの軸方向長さ以上の幅を有する仕上げしごき面とし」、「上記仕上げしごき面は、平坦面、もしくは、上記ローラ対応しごき面に形成された上記突部よりも突出高さが低い突部が形成された面からなり」と特定するのに対し、甲1発明においては、そのような特定がない点。
<相違点3>
「突出高さを異にした突部」について、本件特許発明は、「上記ローラ対応しごき面には、それらローラ対応しごき面ごとに突出高さを異にした突部が形成された」と特定するのに対し、甲1発明においては、そのような特定がない点。
以下、各相違点について検討する。
イ 相違点1についての判断
甲1発明の「塗料バケット」は、「開口部の形状が略四角形」の「容器」が内側に「配置され」るものであるところ、「塗料バケット」外と「容器」内とを同様の略四角形状とすることは当然であり、四角形が多角形の一種であることは自明である。
また、甲1の【0002】及び図4等にも記載されているとおり、塗料バケットを持ち運ぶために取手部を備えることは、本件特許出願時における公知技術であると認められる。
そうすると、甲1発明の「塗料バケットに配置され、開口部の形状が略四角形」の「容器」において、上記公知技術を採用して、相違点1のようにすることは当業者が適宜なし得る程度のものである。
ウ 相違点2についての判断
甲1発明の「容器」の「開口部の一辺の長さ」については、「230mm以上であれば、9インチ(229mm)の塗装用ローラを使うことができ、また、開口部の一辺の長さが、180mm以上であれば、7インチ(178mm)の塗装用ローラを使うことができ」るものであるから、本件特許発明の「少なくとも1面を塗装用ローラの軸方向長さ以上の幅を有する」に相当する。
また、甲1の第3図に示す容器70の側部78、82にそれぞれ対向する2つの面については、突部を形成することは図示も記載もされておらず、容器70の側部78、82にそれぞれ対向する2つの面のうち少なくとも1面は平坦面である蓋然性が高い。
したがって、相違点2は実質的な相違点ではないか、仮に相違するとしても当業者が容易に想到し得るものである。
エ 相違点3についての判断
甲1には、突起部の高さについて、面ごとに異にする記載はなく、そのような構成を容易に想到できるような記載も示唆もない。
また、甲2には、底表面に「第1の突起部2」を設け、側面部に「第1突起部2とは別の複数の突起部」を設ける点が記載されているものの、各側面部に設けた複数の突起部の高さが当該側面部ごとに異なるという記載も示唆もない。
さらに、甲3においても、ローラ表面の材質や固さ、あるいは塗料の粘度などに応じて突起部の高さを設定することを記載しているのみであり、各側面部に設けた複数の突起部の高さが当該側面部ごとに異なるという記載も示唆もない。
そして、甲4は本願出願前に毛足の長さが異なる複数のローラが存在していたことを示すものであり、甲5は平坦な塗料容器内壁面を用いてローラをしごくことが出来る旨を開示するものであり、甲6は突起部が配設されていない面であっても、表面に微小な凹凸のある粗面である場合には、ローラのしごき面となり得ることを示すものであり、甲7は一の塗料容器に複数の刷毛またはローラを使用する場合があることを示すものである。しかしながら、これらの文献においても、各側面部に設けた複数の突起部の高さが当該側面部ごとに異なるという記載も示唆もない。
したがって、甲1~7の記載を参照しても、いずれの文献においても、複数の側面部に設けた複数の突起部の高さを当該側面部ごとに異なる構成は何ら記載されておらず、相違点3に係る構成を容易に想到することはできない。
オ 請求人の主張について
請求人は、審判請求書、口頭審理陳述要領書及び令和6年11月22日提出の上申書において、以下のとおり、相違点3(審判請求書中における「相違点2」に相当)は、当業者が容易に想到し得たものである旨主張する。
(ア)「前記相違点1、2について検討すると、甲第2号証には、各側面部に「別の複数の突部部」を設ける点が明記されている。
甲第3号証に示す事実に基づけば、容器の複数の内側の面に突部を設ける場合、毛足の長さの異なるローラで使えるように、内側に種々の高さの突部を設けることは、内容器を製造する当業者にとって設計事項である。
また、ローラに付いた塗料の量を調節する場合、突部又は網にローラを押さえつけて転がせば、効率よくしごけて、塗装直前にローラ表面を仕上げる場合、突部又は網でなく平坦面(例えば、塗料の入っている一斗缶の内側の平坦面)を使用する、という事実は、塗装ローラを使用する者には既知の事実である。
以上の事実を勘案すると、仕上しごき面は、本件特許発明の明細書でも第1実施例で示すように、平坦面であるのが一番好ましく、仮に、突部を有するとしても、他のローラ対応しごき面の突部よりも低い突部とすることは、内容器を製造する当業者であれば自明の設定事項である。
また、仕上しごき面、又は、ローラ対応しごき面に備える突部をそれぞれ異なる高さに設定する、という事は、突部に高低の順ができることを意味する。即ち、この場合、最も低い突部を有している面が本件特許発明の仕上しごき面となる。
以上説明したように、甲第2号証に記載されている事項を甲1発明に適用し、甲第3号証に記載されている技術常識を考慮すれば、本件特許発明は、発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に想到し得る。」(審判請求書第9頁第27行~第10頁第17行)
(イ)「マルテー大塚の特許出願時、マルテー大塚だけでなく、タイホウ等他の会社もローラを製造及び販売していました。この事実は毛足の長さが異なる複数のローラが存在していたことを意味します。証拠としてマルテー大塚の特許出願日前の2006年にタイホウ豊川が購入していた佐藤産業の2006年10月のカタグを甲第4号証として示す。
内容器に係るアイデアを想起する当業者には、製造メーカーの他、現場でローラを使用して塗装する者も、当然に含まれています。とすると、当業者は、容器のメーカーに寄らず、使用するローラを自由に選び、使用することができることは、当然に知っています。2人で作業をする場合等、1容器に異なるメーカーの毛足の長さの異なるローラ、または、同一メーカーであっても毛足の長さの異なるローラが、使用されることは当然に想定されます。この場合、容器の突起の高さが一方のローラには都度良くても、他方のローラには合わない、という課題が生じます。この課題は、前記佐藤産業のカタログがある事実を考慮すれば、遅くとも2006年の時点で、当業者にとって自明な課題で「当業者共通の課題」です。
即ち、マルテー大塚の特許出願以前から、前記「当業者共通の課題」に対処するため、内容器に使用を想定するローラの毛足の長さに応じて異なる高さの突起部を有する面を複数設けることは、当業者にとって極めて容易に想到し得るものです。」(口頭審理陳述要領書第5頁第1行~第18行)
(ウ)「(2)被請求人の提出した上申書には、「これにより、本件特許発明の明細書の段落[0032]の「毛足が極端に短い塗装用ローラを用いる場合には、上記仕上げしごき面11をローラ対応しごき面とし、塗料の量を調節するために使用しても良い。」との記載は、「ローラ対応しごき面」の形状の一例の記載であり、「ローラ対応しごき面」の意味内容の定義の記載では無い」旨主張し、「ローラ対応しごき面は、平坦面を含まず、突部が必須である」かのような記載があるが、この記載は誤りである。
「ローラ対応しごき面」を文字通りに解釈すると、「ローラをしごくのに使える面」と解される。口頭審理で陳述したが、ローラは、平坦面及び突部のある面でしごくことができる。例えば、突部のある内容器が知られた後であっても、しごき用のネット網や凸部の設けられていない塗料容器で使用する場合は、平坦な内壁面でローラをしごいて使用する、という事実は、当業者にとって自明の事実である。
・・・
以上の事実から、「ローラ対応しごき面」は平坦面及び突部のある面のことを一般に意味する。
とすると、マルテー大塚の明細書段落番号[0032]の記載は、突部を形成していない平坦面からなる仕上げしごき面11は、ローラ対応しごき面となり得ることを確認する記載である。」(上申書第1頁4(2)欄第1行~第2頁第18行)
(エ)「特許審査基準第III 部第2章第2節進歩性の3.1.1 欄には、(注2)で「技術分野は、適用される製品等に着目したり、原理、機構、作用、機能等に着目したりすることにより把握される」と定義されている。甲第1号証~3号証は、何れも、内壁面に突部を有し、ローラーに付着した塗料の量を調節して使用するための塗料容器の改良に関するもので、技術分野は明確に共通し関連している。また、甲第1号証の明細書及び図面に記載の発明に、甲第2号証、第3号証に記載の発明を適用し、更に、前記マルテー大塚自ら是認する当業者の前提知識に基づいて、本件発明を想起することについて技術的阻害要因となるものは無い。
また、マルテー大塚の請求項1に係る内容器は、出願時の公知技術で製造できる。仮に、出願時の技術で製造できない程の困難性があるとすると、その製造方法について開示されていない本件特許発明は、未完成発明である。
以上説明するように、マルテー大塚の答弁書及び上申書の記載によらず、甲第1号証乃至甲第3号証には技術分野の関連性が認められ、第1号証に記載の発明に第2号証、第3号証に記載の発明を適用して本件特許発明をすることは、技術常識を有している当業者の通常の創作能力の発揮の範囲を超えておらず、進歩性は否定される。仮に、ローラしごき面が突部があるものに限定されるとしても、突部の無い場合に比して、突部を設けて得られる既知の効果を越える特別顕著な効果又は異なる効果を奏さないので、同じ結論に至る。」(上申書第3頁第17行~第4頁第7行)
上記主張について、以下に検討する。
(ア)及び(エ)について
上記エで述べたとおり、甲1~7のいずれの文献においても、1つの容器内の複数の側面部に設けた複数の突起部の高さを当該側面部ごとに異なるものとする構成は記載されていない。
また、甲3に記載されているとおり、ローラ表面の材質や固さ、あるいは塗料の粘度などに応じて突起部の高さを設定することが本願出願時における技術常識であるとしても、内容器での使用を想定する複数の異なるローラの毛足の長さに応じて一容器内に異なる高さの突起部を有する面を複数設けることまでは、当業者にとって容易に想到し得るものではない。
そうすると、甲1~3の技術分野が関連していたとしても、甲1発明に甲2及び甲3に記載されている事項を適用して本件特許発明とすることは、当業者にとって容易に想到し得るものではないし、また、本件特許発明は「塗料を換えなければ、ローラの種類が換わっても、1つの内容器のローラ対応しごき面を使い分けて対応することができる。したがって、ローラの種類が換わっても内容器を交換する必要がなくなる。」という効果を奏するものであるが(【0014】)、そのような効果は、甲1及び他の証拠にも何ら記載されていない。
したがって、請求人の上記主張(ア)及び(エ)は採用できない。
(イ)について
甲4には、毛足の長さが異なる複数のローラが存在していたことが示されているに過ぎず、「1容器に異なるメーカーの毛足の長さの異なるローラ、または、同一メーカーであっても毛足の長さの異なるローラが、使用されることは当然に想定されます。この場合、容器の突起の高さが一方のローラには都度良くても、他方のローラには合わない、という課題が生じます。この課題は、前記佐藤産業のカタログがある事実を考慮すれば、遅くとも2006年の時点で、当業者にとって自明な課題で「当業者共通の課題」です。」という主張は、何ら証拠を示したものではない。
また、仮に、当該課題が当業者にとって周知の課題であったとしても、どのようにして課題を解決するかは、様々な手法を検討し得る中で、「内容器に使用を想定するローラの毛足の長さに応じて異なる高さの突起部を有する面を複数設けることは、当業者にとって極めて容易に想到し得る」との請求人の主張は、複数の異なるローラの毛足の長さに応じて一容器内に異なる高さの突起部を有する面を複数設けることを記載した証拠も示されておらず、本件発明をみたうえでなければ想到し得ない後知恵であるといわざるを得ない。
したがって、請求人の上記主張(イ)は採用できない。
(ウ)について
令和6年11月12日提出の上申書において、被請求人は、「本件特許発明の「ローラ対応しごき面」が、「突部を形成していない平坦面」を含まず、実際に「突部が形成された面」であること」を主張しており、当該主張は、本件特許発明の「上記ローラ対応しごき面には、…突部が形成された」との特定とも整合し、また、本願の当初明細書の【0022】等の記載に基づいたものである。
そうすると、本件特許発明において、「ローラ対応しごき面」は平坦面を含まず、突部のある面のみを特定するものであることは明確である。
したがって、請求人の上記主張(ウ)は採用できない。
カ まとめ
本件特許発明は、甲1発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
第7 結語
以上のとおり、本件特許発明に関して、無効理由は理由がなく、請求人の主張及び証拠方法によっては、本件特許発明についての特許を無効とすることはできない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人の負担とすべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
審決本文(J-PlatPat)
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2024-800053