特許異議申立
2024-701135
ハードコートフィルム
- 審判番号
- 2024-701135
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2022-154151
- 登録番号
- 7488863
- 請求日
- 2024年11月21日
- 審決日
- 2025年03月28日
- 公報発行日
- 2025年04月25日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】日本製紙株式会社
- 【権利者代理人】大塚 武史
- 【異議申立人】渡辺 陽子
- 審判長/審判官
- 審判長 神谷 健一
- 審判官 清水 康司
- 審判官 井口 猶二
- 分類
- P1651.113-Y (G02B) / P1651.121-Y (G02B) / P1651.536-Y (G02B) / P1651.537-Y (G02B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条、特許法第36条
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7488863号発明「ハードコートフィルム」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7488863号の請求項1~4に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7488863号(以下「本件特許」という。)の請求項1~4に係る特許についての出願(特願2022-154151号)は、令和4年9月27日の出願であって、令和6年5月14日にその特許権の設定登録がされ、令和6年5月22日に特許掲載公報が発行された。
本件特許について、特許掲載公報発行の日から6月以内である令和6年11月21日に特許異議申立人 渡辺 陽子(以下「異議申立人」という。)から全請求項に対して特許異議の申立てがされた。
第2 本件特許発明
本件特許の特許請求の範囲の請求項1~4に係る発明(以下、それぞれ、「本件特許発明1」などといい、また、これらを総称して「本件特許発明」という。)は、本件特許の特許請求の範囲の請求項1~4に記載された事項により特定される、次のものである。
「【請求項1】
透明基材の少なくとも片面に、重量平均分子量が15000~35000の範囲内であるセサモール型ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤を含有する紫外線硬化型樹脂からなるハードコート層が積層され、
前記透明基材は、シクロオレフィンポリマーフィルムであり、
波長365nmの光線透過率が1%未満であり、かつ波長405nmの光線透過率が10%未満であり、かつ波長436nmの光線透過率が81%以上であることを特徴とするハードコートフィルム。
【請求項2】
前記ハードコートフィルムに対し、JIS-K-5600-7-7に準拠した促進耐光性試験を100時間行った後の、波長365nmの光線透過率が1%未満であり、かつ波長405nmの光線透過率が10%未満であり、かつ波長436nmの光線透過率が81%以上であることを特徴とする請求項1に記載のハードコートフィルム。
【請求項3】
前記ハードコート層の厚みが2.0μmを超え6.0μm未満であることを特徴とする請求項1又は2に記載のハードコートフィルム。
【請求項4】
前記セサモール型ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤の配合量は、前記ハードコート層の紫外線硬化型樹脂100質量部に対して20質量部~60質量部であることを特徴とする請求項1又は2に記載のハードコートフィルム。」
第3 異議申立ての理由の概要
異議申立人が主張する申立ての理由は、概略、以下のとおりである。
1 特許法29条1項3号(新規性)
本件特許の請求項1~4に係る発明は、本件出願前に、日本国内又は外国において電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、請求項1~4に係る特許は、特許法29条1項の規定に違反してなされたものである。
2 特許法29条2項(進歩性)
本件特許の請求項1~4に係る発明は、本件出願前に、日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基づいて、本件出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1~4に係る特許は、特許法29条2項の規定に違反してなされたものである。
3 特許法36条4項1号(実施可能要件)
本件特許明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本件特許の請求項1~4に係る特許を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものではないから、本件特許は、特許法36条4項1号に規定する要件を満たしていない出願に対してなされたものである。
4 特許法36条6項1号(サポート要件)
本件特許は、特許請求の範囲の請求項1~4の記載が、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載したものでないから、本件特許は、特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない出願に対してなされたものである。
5 異議申立人が提出した証拠方法は以下のとおりである。
甲第1号証:特開2020-129107号公報(以下「甲1」という。)
甲第2号証:国際公開第2018/143167号(以下「甲2」という。)
甲第3号証:特開2012-25680号公報(以下「甲3」という。)
甲第4号証:本件特許に係る拒絶査定不服審判事件の審判請求書(以下「甲4」という。)
(当合議体注:甲1は、主引用例であり、甲2~3は、副引用例、周知技術を示す文献又は技術常識を示す文献であり、甲4は審査の経緯を示す資料である。)
第4 当合議体の判断
1 特許法29条1項3号(新規性)及び特許法29条2項(進歩性)について
(1)甲号証の記載、甲1発明
ア 甲1の記載
甲1には、次の記載がある。なお、下線は、当合議体が付与したもので、甲1発明の認定や判断等に活用した箇所を示す。
(ア)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
光透過性基材、第1機能層、および第2機能層をこの順に備える光学フィルムであって、
前記光透過性基材が、アセチルセルロース系樹脂、シクロオレフィンポリマー系樹脂、および(メタ)アクリル系樹脂の少なくともいずれかを含み、
前記第1機能層および前記第2機能層の少なくともいずれかが、紫外線吸収剤を含み、
前記第1機能層と前記第2機能層の間に設けられ、前記第1機能層および前記第2機能層に隣接し、かつ前記第1機能層の成分および前記第2機能層の成分を含む混合層をさらに備え、
前記第1機能層、前記第2機能層および前記混合層の合計膜厚が、1μm以上10μm以下であり、
前記第1機能層、前記第2機能層および前記混合層の合計膜厚に対する前記混合層の膜厚の割合が、0.6%以上40%以下である、光学フィルム。
・・・省略・・・
【請求項4】
前記第1機能層および前記第2機能層が、いずれも前記紫外線吸収剤を含む、請求項1ないし3のいずれか一項に記載の光学フィルム。」
(イ)「【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学フィルム、偏光板、および画像表示装置に関する。
・・・省略・・・
【発明の効果】
【0027】
本発明の一の態様によれば、薄型化を図ることができ、かつ第1機能層と第2機能層の密着性を向上させることができる光学フィルム、このような光学フィルムを備える偏光板および画像表示装置を提供することができる。
【0028】
本発明の他の態様によれば、薄型化を図ることができ、かつ良好な表面硬度、良好な耐擦傷性および良好な耐久性を有する光学フィルム、このような光学フィルムを備える偏光板および画像表示装置を提供することができる。」
(ウ)「【発明を実施するための形態】
【0030】
[第1実施形態]
以下、本発明の第1実施形態に係る光学フィルムおよび画像表示装置について、図面を参照しながら説明する。本明細書において、「フィルム」、「シート」等の用語は、呼称の違いのみに基づいて、互いから区別されるものではない。したがって、例えば、「フィルム」はシートとも呼ばれるような部材も含む意味で用いられる。図1は、本実施形態に係る光学フィルムの概略構成図であり、図2(A)~図2(C)は、折り畳み試験の様子を模式的に示した図であり、図3は、折り畳み試験に用いるサンプルの平面図である。図4および図5は、本実施形態に係る光学フィルムの製造工程を模式的に示した図である。
【0031】
<<<<光学フィルム>>>>
図1に示される光学フィルム10は、光透過性基材11、第1機能層12および第2機能層13をこの順で備えている。光学フィルム10は、第1機能層12と第2機能層13の間に形成された混合層14をさらに備えている。本明細書における「機能層」とは、光学フィルムにおいて、何らかの機能を発揮することを意図された層である。具体的には、機能層としては、例えば、光透過性基材との密着性を向上させるための下地層、ハードコート層、分光透過率調整層、防眩層、不可視化層、屈折率調整層、防汚層またはこれらの組み合わせ等が挙げられる。本実施形態における「機能層」は、単層構造のものである。
・・・省略・・・
【0037】
光学フィルム10においては、波長380nmにおける分光透過率が10%未満となっていることが好ましい。光学フィルム10の波長380nmにおける分光透過率が、10%未満であれば、偏光子の光劣化を抑制できる。上記波長380nmにおける分光透過率は、偏光子の光劣化をより抑制する観点から、8%以下、5%以下、または1%以下であることがより好ましい。
【0038】
光学フィルム10においては、波長410nmにおける分光透過率が20%以下となっていることが好ましい。光学フィルム10の波長410nmにおける分光透過率が、20%以下であれば、表示素子、例えばOLED素子の光劣化をより抑制できる。上記波長410nmにおける分光透過率は、表示素子の光劣化を抑制する観点から、18%以下、15%以下、または10%以下であることがより好ましい。
【0039】
光学フィルム10においては、波長440nmにおける分光透過率が75%以上となっていることが好ましい。光学フィルム10の波長440nmにおける分光透過率が、75%以上であれば、着色による視認性低下を抑制できる。上記波長440nmにおける分光透過率は、着色による視認性低下をより抑制する観点から、78%以上、80%以上、または85%以上であることがより好ましい。
・・・省略・・・
【0064】
<<<光透過性基材>>>
光透過性基材11は、光透過性を有する基材である。光透過性基材11は、アセチルセルロース系樹脂、シクロオレフィンポリマー系樹脂、および(メタ)アクリル系樹脂の少なくともいずれかを含むものである。屋外等ではサングラスを装着して、画像表示装置の表示画像を観察することがあるが、サングラスが偏光サングラスである場合、偏光サングラス越しに表示画像を観察すると、虹むらが発生して、視認性が低下するおそれがある。これは、光透過性基材の面内位相差(面内リタデーション、Re)が高いからであると考えられる。したがって、現在、偏光サングラス越しに表示画像を観察した場合であっても視認性の低下を抑制できることが求められている。これに対し、アセチルセルロース系樹脂や(メタ)アクリル系基材を含む基材であれば、面内位相差は、10nm以下である。シクロオレフィンポリマー系樹脂を含む光透過性基材には、位相差を調整していない基材と、例えばλ/4となるように位相差を調整した基材とがあるが、位相差を調整していない基材の面内位相差は10nm以下であり、また位相差を調整した基材であっても面内位相差は150nm以下である。したがって、アセチルセルロース系樹脂、シクロオレフィンポリマー系樹脂、または(メタ)アクリル系樹脂を含む光透過性基材11はいずれも面内位相差が低いので、偏光サングラス越しに表示画像を観察したときの視認性低下を抑制することができる。上記面内位相差は、波長589nmで測定したときの値である。
・・・省略・・・
【0081】
<<<第1機能層>>>
第1機能層12は、光透過性基材11と第2機能層の密着性を向上させる下地層となっている。ただし、第1機能層12は、他の機能を有する層であってもよい。特に、光透過性基材11がシクロオレフィンポリマー系樹脂を含んでいる場合には、光透過性基材11は、第2機能層13と密着しにくいので、第1機能層12を光透過性基材11と第2機能層13の間に配置することが好ましい。第1機能層12は、光透過性基材11に密着している。また、第1機能層12は、光透過性を有している。
・・・省略・・・
【0096】
<紫外線吸収剤>
紫外線吸収剤は、少なくとも紫外線(波長10nm~400nm)を吸収するものである。紫外線吸収剤は、紫外線を吸収するものであれば、可視光域に最大吸収波長を有していてもよい。紫外線吸収剤においては、波長360nm以上430nm以下の波長域内での最大吸光度は、0.5以上であることが好ましい。紫外線吸収剤としては、例えば、ベンゾトリアゾール系化合物、インドール系化合物、ベンゾフェノン系化合物、トリアジン系化合物等が挙げられる。これらの中でも、着色による視認性低下を抑制する観点から、ベンゾトリアゾール系化合物やインドール系化合物が好ましい。
・・・省略・・・
【0098】
ベンゾトリアゾール系化合物としては、例えば、下記一般式(A)で表されるセサモール型ベンゾトリアゾール系単量体、2-[2-ヒドロキシ-3,5-ビス(α,α-ジメチルベンジル)フェニル]-2H-ベンゾトリアゾール(製品名「Tinuvin234」、BASF社製)、2-(5-クロロ-2-ベンゾトリアゾリル)-6-tert-ブチル-p-クレゾール(製品名「Tinuvin326」、BASF社製)等が挙げられる。これらの中でも、分光スペクトルの傾きが大きく、より選択的に紫外線を吸収することができることから、下記一般式(A)で表されるセサモール型ベンゾトリアゾール系単量体が好ましい。
【化1】
[図:0001421394000001.jpg]
式中、R1は水素原子またはメチル基を表す。R2は炭素数1~6の直鎖状または分岐鎖状のアルキレン基、あるいは炭素数1~6の直鎖状または分岐鎖状のオキシアルキレン基を表す。
・・・省略・・・
【0100】
上記セサモール型ベンゾトリアゾール系単量体としては特に制限されないが、具体的な物質名としては、2-[2-(6-ヒドロキシベンゾ[1,3]ジオキソール-5-イル)-2H-ベンゾトリアゾール-5-イル]エチルメタクリレート、2-[2-(6-ヒドロキシベンゾ[1,3]ジオキソール-5-イル)-2H-ベンゾトリアゾール-5-イル]エチルアクリレート、3-[2-(6-ヒドロキシベンゾ[1,3]ジオキソール-5-イル)-2H-ベンゾトリアゾール-5-イル]プロピルメタクリレート、3-[2-(6-ヒドロキシベンゾ[1,3]ジオキソール-5-イル)-2H-ベンゾトリアゾール-5-イル]プロピルアクリレート、4-[2-(6-ヒドロキシベンゾ[1,3]ジオキソール-5-イル)-2H-ベンゾトリアゾール-5-イル]ブチルメタクリレート、4-[2-(6-ヒドロキシベンゾ[1,3]ジオキソール-5-イル)-2H-ベンゾトリアゾール-5-イル]ブチルアクリレート、2-[2-(6-ヒドロキシベンゾ[1,3]ジオキソール-5-イル)-2H-ベンゾトリアゾール-5-イルオキシ]エチルメタクリレート、2-[2-(6-ヒドロキシベンゾ[1,3]ジオキソール-5-イル)-2H-ベンゾトリアゾール-5-イルオキシ]エチルアクリレート、2-[3-{2-(6-ヒドロキシベンゾ[1,3]ジオキソール-5-イル)-2H-ベンゾトリアゾール-5-イル}プロパノイルオキシ]エチルメタクリレート、2-[3-{2-(6-ヒドロキシベンゾ[1,3]ジオキソール-5-イル)-2H-ベンゾトリアゾール-5-イル}プロパノイルオキシ]エチルアクリレート、4-[3-{2-(6-ヒドロキシベンゾ[1,3]ジオキソール-5-イル)-2H-ベンゾトリアゾール-5-イル}プロパノイルオキシ]ブチルメタクリレート、4-[3-{2-(6-ヒドロキシベンゾ[1,3]ジオキソール-5-イル)-2H-ベンゾトリアゾール-5-イル}プロパノイルオキシ]ブチルアクリレート、2-[3-{2-(6-ヒドロキシベンゾ[1,3]ジオキソール-5-イル)-2H-ベンゾトリアゾール-5-イル}プロパノイルオキシ]エチルメタクリレート、2-[3-{2-(6-ヒドロキシベンゾ[1,3]ジオキソール-5-イル)-2H-ベンゾトリアゾール-5-イル}プロパノイルオキシ]エチルアクリレート、2-(メタクリロイルオキシ)エチル2-(6-ヒドロキシベンゾ[1,3]ジオキソール-5-イル)-2H-ベンゾトリアゾール-5カルボキシレート、2-(アクリロイルオキシ)エチル2-(6-ヒドロキシベンゾ[1,3]ジオキソール-5-イル)-2H-ベンゾトリアゾール-5-カルボキシレート、4-(メタクリロイルオキシ)ブチル2-(6-ヒドロキシベンゾ[1,3]ジオキソール-5-イル)-2H-ベンゾトリアゾール-5-カルボキシレート、4-(アクリロイルオキシ)ブチル2-(6-ヒドロキシベンゾ[1,3]ジオキソール-5-イル)-2H-ベンゾトリアゾール-5-カルボキシレート等を挙げることができる。また、これらセサモール型ベンゾトリアゾール系単量体は1種類で用いることもできるし、2種類以上を用いることもできる。
・・・省略・・・
【0118】
<<第2機能層>>
第2機能層13は、ハードコート層となっている。ただし、第2機能層13は、他の機能を有する層であってもよい。本実施形態における「ハードコート層」とは、インデンテーション硬さが、第1機能層のインデンテーション硬さよりも大きい層を意味する。第2機能層のインデンテーション硬さも、第1機能層のインデンテーション硬さと同様に求める。
・・・省略・・・
【0131】
<<混合層>>
混合層14は、第1機能層12の成分と第2機能層13の成分を含み、第1機能層12および第2機能層13に隣接している。このような混合層14を形成することにより、第1機能層12と第2機能層13との間の密着性を向上させることができる。混合層14が第1機能層12の成分と第2機能層13の成分を含むか否かは、飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF-SIMS)によって確認することができる。」
(エ)「【実施例】
【0221】
本発明を詳細に説明するために、以下に実施例を挙げて説明するが、本発明はこれらの記載に限定されない。なお、文中、「部」または「%」とあるのは特に断りのない限り、質量基準とする。
【0222】
<<実施例Aおよび比較例A>>
<実施例A1>
(下地層用組成物1の調製)
200mLの4つ口フラスコに玉付きコンデンサー、水銀温度計、撹拌装置を取り付け、6-[5-(2-ヒドロキシエチル)-2H-ベンゾトリアゾール-2-イル]ベンゾ[1,3]ジオキソール-5-オール4.0g(0.013モル)、トルエン40mL、メタクリル酸1.8g(0.021モル)、メタンスルホン酸0.4g(0.004モル)を入れて、110~115℃で4時間還流脱水した。次いで、水30mL、炭酸ナトリウム0.6g(0.006モル)を加え、静置して下層部の水層を分離して除去し、活性炭0.2gを加え、還流撹拌して脱色させた。そして、ろ過した後に、ろ液からトルエン40mLを減圧することによって回収し、イソプロピルアルコール100mLを加え、析出した結晶をろ過し、イソプロピルアルコール40mLで洗浄した。その後、減圧下40℃で乾燥し、黄色結晶を4.2g得た。この黄色結晶4.2gをイソプロピルアルコールでリパルプ洗浄して、減圧下40℃で乾燥した。これにより、セサモール型ベンゾトリアゾール系化合物として、3.4gの2-[2-(6-ヒドロキシベンゾ[1,3]ジオキソール-5-イル)-2H-ベンゾトリアゾール-5-イル]エチルメタクリレートを得た。
【0223】
次いで、四つ口フラスコにジムロート冷却器、水銀温時計、窒素ガス吹き込み管、攪拌装置を取り付け、合成した2-[2-(6-ヒドロキシベンゾ[1,3]ジオキソール-5-イル)-2H-ベンゾトリアゾール-5-イル]エチルメタクリレート16質量部、他の単量体としてのメチルメタクリレート(MMA)24質量部、溶剤としてのトルエン20質量部、メチルエチルケトン20質量部、および、重合開始剤としての1,1’-アゾビス(シクロヘキサン-1-カルボニトリル)0.6質量部を入れて、攪拌しながら窒素ガス流量10mL/minで1時間フラスコ内を窒素置換後に、反応液温度90~96℃で10時間還流状態にて重合反応を行った。
【0224】
重合反応終了後、トルエン10質量部、メチルエチルケトン(MEK)10質量部を追加し、セサモール型ベンゾトリアゾール系化合物がMMAに反応結合されたアクリルポリマー1(紫外線吸収剤1)を含む溶液100.6質量部を得た。
【0225】
上記アクリルポリマー1をトリシクロデカンジメタノールジアクリレート(製品名「A-DCP」、新中村化学工業株式会社製)と固形分質量比60:40で混合し、これに重合開始剤(IGM Resins B.V.社製のOmnirad184およびBASFジャパン社製のIRGACURE(登録商標)OXE01の質量比50:50)4質量部と、レベリング剤(製品名「F-568」、DIC株式会社製)0.2質量部とを添加し、よく攪拌して、下地層用組成物1を調製した。
【0226】
(ハードコート層用組成物1の調製)
上記アクリルポリマー1をジペンタエリスリトールヘキサアクリレートとジペンタエリスリトールペンタアクリレートの混合物(製品名「KAYARAD DPHA」、日本化薬株式会社製)と固形分質量比45:55で混合し、これに重合開始剤(IGM Resins B.V.社製のOmnirad184およびDKSHジャパン社製のESACURE ONEの質量比50:50)4質量部と、レベリング剤(製品名「F-568」、DIC株式会社製)0.2質量部とを添加し、よく攪拌して、ハードコート層用組成物1を調製した。
【0227】
(光学フィルムの作製)
得られた下地層用組成物1を、ミヤバーにて大きさが210mm×297mm(A4サイズ)および厚みが50μmのシクロオレフィンポリマー系基材(製品名「ゼオノアフィルム(登録商標)ZF14-050」、日本ゼオン株式会社製)の表面に塗布して、第1塗膜を形成した。次いで、形成した第1塗膜に対して、0.5m/sの流速で50℃の乾燥空気を30秒間流通させることにより第1塗膜中の溶剤を蒸発させ、紫外線を積算光量が120mJ/cm2になるように照射して第1塗膜を半硬化させた。
【0228】
半硬化させた第1塗膜を形成した後、ミヤバーにて第1塗膜の表面にハードコート層用組成物1を塗布して、第2塗膜を形成した。次いで、形成した第2塗膜に対して、0.5m/sの流速で70℃の乾燥空気を30秒間流通させることにより第2塗膜中の溶剤を蒸発させ、紫外線を窒素雰囲気(酸素濃度200ppm以下)にて積算光量が200mJ/cm2になるように照射して第1塗膜および第2塗膜を硬化させることにより、第1機能層としての膜厚が1μmの下地層、膜厚が0.4μmの混合層、第2機能層としての膜厚が3μmのハードコート層を形成した。これにより、シクロオレフィンポリマー系基材上に下地層、混合層、およびハードコート層をこの順に備える光学フィルムを得た。
・・・省略・・・
【0230】
<実施例A2>
実施例A2においては、窒素雰囲気(酸素濃度200ppm以下)にて積算光量が200mJ/cm2になるように紫外線を第1塗膜に照射して第1塗膜を半硬化させて、膜厚が0.04μmの混合層を形成したこと以外は、実施例A1と同様にして光学フィルムを得た。
【0231】
<実施例A3>
実施例A3においては、積算光量が200mJ/cm2になるように紫外線を第1塗膜に照射して第1塗膜を半硬化させて、膜厚が0.2μmの混合層を形成したこと以外は、実施例A1と同様にして光学フィルムを得た。
【0232】
<実施例A4>
実施例A4においては、下地層の膜厚を1.2μmとしたこと、積算光量が70mJ/
cm2になるように紫外線を第1塗膜に照射して第1塗膜を半硬化させて、混合層の膜厚を1μmとしたこと、およびハードコート層の膜厚を3.1μmとしたこと以外は、実施例A1と同様にして光学フィルムを得た。
【0233】
<実施例A5>
実施例A5においては、紫外線を積算光量が100mJ/cm2になるように第1塗膜に照射して第1塗膜を半硬化させて、混合層の膜厚を0.5μmとしたこと、およびハードコート層の膜厚を8μmとしたこと以外は、実施例A1と同様にして光学フィルムを得た。
【0234】
<実施例A6>
実施例A6においては、紫外線を積算光量が70mJ/cm2になるように第1塗膜に照射して第1塗膜を半硬化させて、混合層の膜厚を1μmとしたこと、およびハードコート層の膜厚を0.5μmとしたこと以外は、実施例A1と同様にして光学フィルムを得た。
【0235】
<実施例A7>
実施例A7においては、下地層用組成物1の代わりに、下地層用組成物2を用い、またハードコート層用組成物1の代わりに、ハードコート層用組成物2を用いたこと以外は、実施例A1と同様にして光学フィルムを得た。下地層用組成物2およびハードコート層用組成物2は、以下のようにして調製された。
(下地層用組成物2の調製)
上記アクリルポリマー1をジシクロペンテニルアクリレート(製品名「FA-511AS」、日立化成株式会社製)と固形分質量比60:40で混合し、これに重合開始剤(IGM Resins B.V.社製のOmnirad184およびOmnirad819の質量比50:50)4質量部と、レベリング剤(製品名「F-568」、DIC株式会社製)0.2質量部とを添加し、よく攪拌して、下地層用組成物2を調製した。
【0236】
(ハードコート層用組成物2の調製)
上記アクリルポリマー1をウレタンアクリレート(製品名「ビームセット577」、荒川化学工業株式会社製)と固形分質量比45:55で混合し、これに重合開始剤(IGM Resins B.V.社製のOmnirad184およびOmnirad819の質量比50:50)4質量部と、レベリング剤(製品名「F-568」、DIC株式会社製)0.2質量部とを添加し、よく攪拌して、ハードコート層用組成物2を調製した。
【0237】
<実施例A8>
実施例A8においては、下地層用組成物1の代わりに、下地層用組成物2を用い、またハードコート層用組成物1の代わりに、ハードコート層用組成物2を用いて、膜厚が0.04μmの混合層を形成したこと以外は、実施例A2と同様にして光学フィルムを得た。
【0238】
<実施例A9>
実施例A9においては、下地層用組成物1の代わりに、下地層用組成物2を用い、またハードコート層用組成物1の代わりに、ハードコート層用組成物2を用いて、膜厚が0.2μmの混合層を形成したこと以外は、実施例A3と同様にして光学フィルムを得た。
・・・省略・・・
【0241】
<実施例A12>
実施例A12においては、厚み50μmのシクロオレフィンポリマー系基材(製品名「ゼオノアフィルム(登録商標)ZF14-050」、日本ゼオン株式会社製)の代わりに、厚み50μmのシクロオレフィンポリマー系基材(製品名「ゼオノアフィルム(登録商標)ZF14-050」、日本ゼオン株式会社製)を、面内位相差が100nmとなるよう150℃で延伸することにより作製された厚み25μmのシクロオレフィンポリマー系基材を用いたこと以外は、実施例A1と同様にして光学フィルムを得た。
・・・省略・・・
【0253】
<最大吸収波長および波長380nm~500nmの吸光度>
紫外線吸収剤1(アクリルポリマー1)の最大吸収波長λmaxおよび波長380nm~500nmの吸光度を、分光光度計(製品名「UV-2450」、株式会社島津製作所製、光源:タングステンランプおよび重水素ランプ)を用いて測定した。紫外線吸収剤1の最大吸収波長λmaxおよび吸光度の測定は、得られた紫外線吸収剤1を含む溶液を減圧乾燥にて脱溶剤した後に、濃度40ppmのクロロホルム溶液とした状態で行った。紫外線吸収剤2、3の最大吸収波長λmaxおよび吸光度の測定は、紫外線吸収剤2、3を濃度40ppmのクロロホルム溶液とした状態で行われた。結果は以下の通りであった。
【表1】
[図:0001421394000002.jpg]
・・・省略・・・
【0258】
<分光透過率>
実施例A1~A11、A13、A15に係る光学フィルムにおいて、温度23℃および相対湿度50%の環境下で、波長380nm、400nm、410nm、および440nmにおける分光透過率を測定した。具体的には、50mm×50mmの大きさに切り出した光学フィルムを、透過率を0.5nm刻みにて測定可能の分光光度計(製品名「UV-2450」、株式会社島津製作所製、光源:タングステンランプおよび重水素ランプ)内に光学フィルムの基材側が光源側となるように配置した。上記光学フィルムは、欠点(異物の混入)がなく、クラックがなく、皺がなく、汚れがないものであり、また、カールのない平坦な状態で分光光度計に保持された。この状態で、以下の測定条件で、波長380nm、400nm、410nm、および440nmにおいてそれぞれ前後1nmの間で最低5ポイント分の透過率を測定し、その平均値を算出することによって波長380nm、400nm、410nm、および440nmにおける分光透過率を求めた。波長380nm、400nm、410nm、および440nmにおける分光透過率は、3回測定して得られた値の算術平均値とした。
(測定条件)
・波長域:300nm~780nm
・スキャン速度:高速
・スリット幅:2.0
・サンプリング間隔:オート(0.5nm間隔)
・照明:C
・光源:D2およびWI
・視野:2°
・光源切替波長:360nm
・S/R切替:標準
・検出器:PM
・オートゼロ:ベースラインのスキャン後550nmにて実施
・・・省略・・・
【0263】
<耐光性試験>
実施例A1~A11、A13、A15に係る光学フィルムを、OLED表示装置に粘着層を介して貼り付けた状態で、耐光性試験を行い、耐光性試験前後の輝度を測定することによって、OLED表示装置が劣化しているか否かを確認した。まず、50mm×50mmの大きさに切り出した光学フィルムを、粘着層(製品名「パナクリーン(登録商標)PD-S1」、パナック株式会社製)を介して、OLED表示装置(製品名「Galaxy SII」、Samsung社製)に貼り付けた。なお、光学フィルムはハードコート層が光透過性基材よりも観察者側となるように貼り付けられた。これにより、観察者側に向けて、OLED表示装置、粘着層、および光学フィルムをこの順で積層した画像表示装置を得た。
【0264】
そして、OLED表示装置を点灯させて、耐光性試験前の輝度を測定した。輝度は、画像表示装置の表面(光学フィルムの表面)から出射する光の輝度を、画像表示装置の厚み方向から、分光放射輝度計(製品名「CS2000」、コニカミノルタ株式会社製)を用いて、測定角1°の条件で、測定した。次いで、耐光性試験機(製品名「紫外線フェードメータU48AU」、スガ試験機株式会社製)を用いて、42℃、相対湿度50%の環境下でカーボンアークランプからの光を画像表示装置に50時間照射する耐光性試験を行った。そして、耐光性試験後の画像表示装置を点灯させて、耐光性試験前の画像表示装置の輝度測定と同様の条件で、輝度を測定した。また、同様に、耐光性試験機(製品名「紫外線フェードメータU48AU」、スガ試験機株式会社製)を用いて、42℃、相対湿度50%の環境下でカーボンアークランプからの光を画像表示装置に100時間照射する耐光性試験を行い、耐光性試験後の画像表示装置を点灯させて、耐光性試験前の画像表示装置の輝度測定と同様の条件で、輝度を測定した。
・・・省略・・・
【0274】
以下、結果を表2~表5に示す。
【表2】
[図:0001421394000003.jpg]
【0275】
【表3】
[図:0001421394000004.jpg]
・・・省略・・・
【0278】
表2に示されたように、比較例A1、A2、A5に係る光学フィルムにおいては、耐久試験前であっても、下地層とハードコート層の界面で剥離したので、耐久試験前の密着性(初期密着性)が不良であった。また、比較例A3に係る光学フィルムにおいては、初期密着性は良好であったが、耐久試験後の密着性が不良であった。さらに比較例A4に係る光学フィルムにおいては、鉛筆硬度が劣っており、比較例A6に係る光学フィルムにおいては、視認性評価に劣っていた。これに対し、実施例A1~A16に係る光学フィルムにおいては、耐久試験前においては、耐久試験前の密着性(初期密着性)が良好であった。これは、下地層とハードコート層の間に下地層の成分とハードコート層の成分を含む混合層が形成されているとともに、下地層、混合層およびハードコート層の合計膜厚に対する混合層の膜厚の割合が、0.6%以上であったからであると考えられる。また、実施例A1、A3~A7、A9~A16に係る光学フィルムにおいては、耐久試験前のみならず、耐久試験後の密着性も良好であった。これは、下地層、混合層およびハードコート層の合計膜厚に対する混合層の膜厚の割合が、1%以上であったからであると考えられる。また、実施例A1~A16に係る光学フィルムにおいては、鉛筆硬度に優れていた。これは、下地層、混合層およびハードコート層の合計膜厚に対する混合層の膜厚の割合が、40%以下であったからであると考えられる。また、実施例A1~A16に係る光学フィルムにおいては、視認性評価に優れていた。これは、光透過性基材として、シクロオレフィンポリマー系基材、トリアセチルセルロース基材、またはアクリル樹脂基材を用いていたからであると考えられる。」
イ 甲1発明
甲1には、実施例A1として作製された「光学フィルム」の次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されている。
「下地層用組成物1を厚みが50μmのシクロオレフィンポリマー系基材の表面に塗布して、第1塗膜を形成し、次いで、形成した第1塗膜に対して、第1塗膜中の溶剤を蒸発させ、紫外線を照射して第1塗膜を半硬化させ、半硬化させた第1塗膜を形成した後、ハードコート層用組成物1を塗布して、第2塗膜を形成し、次いで、形成した第2塗膜に対して、第2塗膜中の溶剤を蒸発させ、紫外線を照射して第1塗膜および第2塗膜を硬化させることにより、第1機能層としての膜厚が1μmの下地層、膜厚が0.4μmの混合層、第2機能層としての膜厚が3μmのハードコート層を形成し、これにより、シクロオレフィンポリマー系基材上に下地層、混合層、およびハードコート層をこの順に備え、
380nm、400nm、410nm及び440nmにおける分光透過率は、それぞれ、0.0%、0.2%、5.1%、86.9%である、光学フィルム。
ここで、アクリルポリマー1(紫外線吸収剤1)は、2-[2-(6-ヒドロキシベンゾ[1,3]ジオキソール-5-イル)-2H-ベンゾトリアゾール-5-イル]エチルメタクリレート16質量部、他の単量体としてのメチルメタクリレート(MMA)24質量部、溶剤としてのトルエン20質量部、メチルエチルケトン20質量部、および、重合開始剤0.6質量部を入れて、重合反応を行、セサモール型ベンゾトリアゾール系化合物がMMAに反応結合されたものであり、
下地層用組成物1は、アクリルポリマー1をトリシクロデカンジメタノールジアクリレートと固形分質量比60:40で混合し、これに重合開始剤4質量部と、レベリング剤0.2質量部とを添加し、よく攪拌して、を調製したものであり、
ハードコート層用組成物1は、アクリルポリマー1をジペンタエリスリトールヘキサアクリレートとジペンタエリスリトールペンタアクリレートの混合物と固形分質量比45:55で混合し、これに重合開始剤4質量部と、レベリング剤0.2質量部とを添加し、よく攪拌して、調製したものである。」
(2)本件特許発明1
ア 対比
本件特許発明1と甲1発明とを対比する。
(ア)透明基材
甲1発明は、「シクロオレフィンポリマー系基材上に下地層、混合層、およびハードコート層をこの順に備え、380nm、400nm、410nm及び440nmにおける分光透過率は、それぞれ、0.0%、0.2%、5.1%、86.9%である」。
上記構成からみて、甲1発明の「シクロオレフィンポリマー系基材」が透明であることは明らかである。
そうしてみると、甲1発明の「シクロオレフィンポリマー系基材」は、本件特許発明1の「透明基材」に相当する。また、甲1発明の「シクロオレフィンポリマー系基材」は、本件特許発明1の「透明基材」の「シクロオレフィンポリマーフィルムであり」との要件を満たす。
(イ)ハードコート層
甲1発明の「ハードコート層」は、その文言どおり、本件特許発明1の「ハードコート層」に相当する。
(ウ)紫外線硬化型樹脂
甲1発明は、「ハードコート層用組成物1を塗布して、第2塗膜を形成し、次いで、形成した第2塗膜に対して、第2塗膜中の溶剤を蒸発させ、紫外線を照射して」「第2塗膜を硬化させることにより」、「第2機能層としての膜厚が3μmのハードコート層を形成し」たものであって、「ハードコート層用組成物1は、アクリルポリマー1をジペンタエリスリトールヘキサアクリレートとジペンタエリスリトールペンタアクリレートの混合物と固形分質量比45:55で混合し、これに重合開始剤4質量部と、レベリング剤0.2質量部とを添加し、よく攪拌して、調製したものであ」り、「アクリルポリマー1(紫外線吸収剤1)」は、「セサモール型ベンゾトリアゾール系化合物がMMAに反応結合されたものである」。
上記工程並びに上記「ハードコート層用組成物1」及び「アクリルポリマー1(紫外線吸収剤1)」の組成からみて、甲1発明の「アクリルポリマー1(紫外線吸収剤1)」は、本件特許発明1の「セサモール型ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤」に相当する。また、甲1発明の「ハードコート層用組成物1」中の「アクリルポリマー1」と「ジペンタエリスリトールヘキサアクリレートとジペンタエリスリトールペンタアクリレートの混合物」は、本件特許発明1の「紫外線硬化型樹脂」に相当する。さらに、甲1発明の「ハードコート層用組成物1」中の「アクリルポリマー1」と「ジペンタエリスリトールヘキサアクリレートとジペンタエリスリトールペンタアクリレートの混合物」は、本件特許発明1の「紫外線硬化型樹脂」の「セサモール型ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤を含有する」との要件を満たす。
(エ)ハードコートフィルム
上記(ア)~(ウ)を総合すると、甲1発明の「光学フィルム」は、本件特許発明1の「ハードコートフィルム」に相当する。また、甲1発明の「光学フィルム」は、「シクロオレフィンポリマー系基材」の少なくとも片面に「ハードコート層」が積層されているといえる。
そうしてみると、甲1発明の「光学フィルム」は、本件特許発明1の「ハードコートフィルム」の「透明基材の少なくとも片面に」「ハードコート層を積層する」との要件を満たす。
イ 一致点・相違点
(ア)一致点
上記アの対比結果からみて、本件特許発明1と甲1発明は、次の点で一致する。
「透明基材の少なくとも片面に、セサモール型ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤を含有する紫外線硬化型樹脂からなるハードコート層が積層され、
前記透明基材は、シクロオレフィンポリマーフィルムであるハードコートフィルム。」
(イ)相違点
上記アの対比結果からみて、本件特許発明1と甲1発明は、次の点で相違する。
<相違点1>
「紫外線硬化型樹脂」について、本件特許発明1は、「重量平均分子量が15000~35000の範囲内であるセサモール型ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤を含有する」のに対して、甲1発明の「アクリルポリマー1(紫外線吸収剤1)」の重量平均分子量は、明らかでない点。
<相違点2>
本件特許発明1は、「波長365nmの光線透過率が1%未満であり、かつ波長405nmの光線透過率が10%未満であり、かつ波長436nmの光線透過率が81%以上である」のに対して、甲1発明は、「380nm、400nm、410nm及び440nmにおける分光透過率は、それぞれ、0.0%、0.2%、5.1%、86.9%である」点。
ウ 判断
事案に鑑み、上記相違点1について検討する。
甲1には、甲1発明において、上記相違点1に係る重量平均分子量の数値範囲を採用する動機付けとなり得る記載はない。甲2は、光学フィルムの分光透過率を示したにすぎない。甲3は、【0052】に実施例7として上記相違点1に係るセサモール型ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤重量平均分子量が30500であることが示されている。しかしながら、甲3においては樹脂用の紫外線吸収剤として好適に利用される光学フィルムが例示の1つとして示されているにすぎず、甲3には、甲1発明において甲3に記載された事項を採用する動機付けとなる記載はない。さらに、甲1発明において、上記相違点1に係る構成を採用することが周知技術であるともいえない。
そうしてみると、当業者であっても、上記相違点1に係る本件特許発明1の構成とすることが容易に想到し得たということができない。
なお、甲1の他の実施例や比較例から主甲1発明を認定したとしても判断は同様である。
エ 効果についての検討
本件特許明細書の【0015】には、発明の効果として、「本発明によれば、有機ELディスプレイ表面の保護フィルムとして使用する場合、有機ELディスプレイの表示の色や輝度に悪影響を与えることなく、かつ有機ELディスプレイの発光素子の耐久性(耐光性)を向上させることができ、有機ELディスプレイの表示の劣化を抑制できるハードコートフィルムを提供することができる。また、本発明によれば、ハードコートフィルムに対する耐光性試験後も上記の性能を維持できるハードコートフィルムを提供することができる。」と記載されている。そして、本件特許明細書の【0077】の【表1】からも耐久性(耐光性)の向上が確認できる。
そうしてみると、本件特許発明1は、本件特許明細書に記載された作用効果を奏するものである。
オ 異議申立人の主張についての検討
(ア)異議申立人の主張の概要
異議申立人は、異議申立書の41~42頁において「甲1発明は、構成要件1Cに係る分光特性を満たすものであるから、甲1発明のフィルムに配合されたセサモール型ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤について、相違点1に係る事項を満たす蓋然性が高いことは明らかである。よって相違点1に係る構成要件1Aは、実質的な相違でない。」(以下「主張1」という。)と主張している。また、異議申立書の42頁において「甲3の記載によれば、相違点1に係る重量平均分子量は、当業者が適宜なし得る設計事項にすぎない。」(以下「主張2」という。)と主張している。
なお、上記構成要件1A及び構成要件1Cは、それぞれ、本件特許発明1に係る、「透明基材の少なくとも片面に、重量平均分子量が15000~35000の範囲内であるセサモール型ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤を含有する紫外線硬化型樹脂からなるハードコート層が積層され」る構成、及び、「波長365nmの光線透過率が1%未満であり、かつ波長405nmの光線透過率が10%未満であり、かつ波長436nmの光線透過率が81%以上である」構成を示す(異議申立書の2頁)。
(イ)異議申立人の主張についての判断
a 上記主張1について、甲1発明の分光透過率により、甲1発明は上記相違点2に係る透過率の範囲内にある蓋然性が高いといえる。しかしながら、甲1発明は、「第1機能層としての膜厚が1μmの下地層、膜厚が0.4μmの混合層、第2機能層としての膜厚が3μmのハードコート層を形成し、これにより、シクロオレフィンポリマー系基材上に下地層、混合層、およびハードコート層をこの順に備え」るものである。そして、下地層、混合層及びハードコート層について、これらの製造工程及び組成からみて、甲1発明の「下地層」、「混合層」及び「ハードコート層」のいずれの層にも「アクリルポリマー1(紫外線吸収剤1)」が含有されている。
これに対して、本件特許明細書の実施例においては、例えば、実施例6は、厚さ13μmのシクロオレフィンポリマーフィルム(【0062】)上に厚さ3μmのハードコート層(【0077】)を積層したものである。
本件特許明細書の実施例6の「ハードコートフィルム」と甲1発明の「光学フィルム」とは、前者の透明基材が厚さ13μmのシクロオレフィンポリマーフィルムであるのに対して、後者の透明基材は厚みが50μmのシクロオレフィンポリマー系基材である。また、透明基材上にある層について、前者は厚さ3μmのハードコート層であるのに対して、後者は膜厚が1μmの下地層、膜厚が0.4μmの混合層、3μmのハードコート層である。
そうしてみると、両者の構成が異なるものであるから、甲1発明の分光透過率が相違点1に係る透過率の数値範囲内にあるからといって、甲1発明の「アクリルポリマー1(紫外線吸収剤1)」の重量平均分子量が、上記相違点2に係る重量平均分子量の数値範囲内にあるとまではいえない。
b 上記主張2について、上記ウで述べたとおりである。
c したがって、異議申立人の主張は、いずれも採用できない。
カ 本件特許発明1についての小括
以上のことから、本件特許発明1は、当業者であっても、甲1に記載された発明及び甲2~3に記載された事項に基づいて容易に発明をすることができたとはいえない。
(3)本件特許発明2~4
本件特許発明2~4は、本件特許発明1の構成を全て具備するものであるから、本件特許発明2~4も、本件特許発明1と同じ理由により、当業者であっても、甲1に記載された発明及び甲2~3に記載された事項に基づいて容易に発明をすることができたとはいえない。
(4)小括
本件特許発明1~4は、甲1に記載された発明ではなく、当業者であっても、甲1に記載された発明及び甲2~3に記載された事項に基づいて容易に発明をすることができたとはいえない。
2 特許法36条4項1号(実施可能要件)について
(1)異議申立人の主張の概要
異議申立人は、異議申立書の47~48頁、50頁及び51頁において、それぞれ、「本件特許明細書の実施例には、本件特許発明に係る「重量平均分子量が15000~35000」について、この数値範囲の大部分が裏付ける具体例が何ら開示されていない。そのため、透明基材がシクロオレフィンポリマーであって、セサモール型ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤の重量平均分子量が22000でない実施態様には、実験結果による裏付けがあるとはいえない。・・・本件特許明細書の記載に基づいて本件特許発明に係るハードコートフィルムを実施できると認識することも困難である。」(以下「主張1」という。)、「本件特許明細書は、セサモール型ベンゾトリアゾール系単量体の含有量を特定していない本件特許発明を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されたものではない。」(以下「主張2」という。)、及び、「本件特許明細書は、ハードコート層の紫外線吸収剤の配合量が規定されていない本件特許発明を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されたものではない。」(以下「主張3」という。)と主張している。
(2)異議申立人の主張についての判断
ア 主張1について
本件特許明細書の【0056】~【0060】には、実施例1~4に用いられるセサモール型ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤の重量平均分子量について、15000、22000、27000及び35000が記載されている。実施例1~4における透明基材はシクロオレフィンポリマーフィルムではないものの、本件特許明細書の【0077】に記載された各実施例の光線透過率についての記載から、透明基材がシクロオレフィンポリマーフィルムであっても、本件特許発明に係る光線透過率を満たした上でセサモール型ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤の重量平均分子量を15000、22000、27000及び35000のいずれかとすることは、当業者にとって実施可能である。
そうしてみると、本件特許明細書の上記記載に接した当業者であれば、本件特許発明に係る「重量平均分子量が15000~35000」とすることは可能である。
イ 主張2~3について
本件特許明細書の【0056】、【0058】~【0060】、【0066】及び【0068】には、実施例及び比較例に用いられるセサモール型ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤を含有するアクリレート系紫外線硬化型樹脂塗料として、商品名「HFC-UVA-13:ハリマ化成(株)」が記載されていることにとどまる。
しかしながら、重量分子量や含有量が不明であっても、例えば、甲1に実施例1として記載されている(【0222】~【0228】)のように、セサモール型ベンゾトリアゾール系化合物とアクリレートとを特定の混合比で調製するなどすることで重量分子量や含有量を調整することができる。そして、本件特許明細書には、セサモール型ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤を含有するアクリレート系紫外線硬化型樹脂塗料として、商品名が記載されている上に、重量平均分子量や光線透過率が記載されていることから、これらの指針を基にハードコート層形成用塗工液を調整するなどして本件特許発明の要件を満たすようにハードコートフィルムを作製することは可能であり、過度の試行錯誤を強いられることはない。
ウ 小括
したがって、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、本件特許発明について、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載したものである。
3 特許法36条6項1号(サポート要件)について
(1)異議申立人の主張の概要
異議申立人は、異議申立書の48頁及び50頁において、それぞれ、「本件出願時の技術常識に照らしても、「22000」の重量平均分子量を本件特許発明に係る「重量平均分子量が15000~35000」の範囲まで拡張ないし一般化できるといえない。」(以下「主張1」という。)、及び「本件特許発明は、紫外線吸収剤にセサモール型ベンゾトリアゾール系単量体をどの程度で含有しているのかを特定していない。そのため、本件特許発明は、セサモール型ベンゾトリアゾール系単量体をわずかに含むような実施態様が含まれるところ、そのような実施態様によるハードコートフィルムは、紫外線をほとんど吸収できないから、所定の効果を奏しないことは明らかである。この点で、本件特許明細書には、本件特許発明の課題を解決できると当業者が認識できる程度に具体例又は説明が記載されておらず、サポート要件を充足しない。」(以下「主張2」という。)と主張している。
(2)異議申立人の主張についての判断
ア 主張1について
本件特許明細書の【0056】~【0060】には、実施例1~4に用いられるセサモール型ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤の重量平均分子量について、15000、22000、27000及び35000が記載されている。実施例1~4における透明基材はシクロオレフィンポリマーフィルムではないものの、本件特許明細書の【0077】に記載された各実施例の光線透過率についての記載から、透明基材がシクロオレフィンポリマーフィルムであっても、本件特許発明に係る光線透過率を満たした上でセサモール型ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤の重量平均分子量を15000、22000、27000及び35000のいずれかとすることは、当業者にとって可能である。
そうしてみると、本件特許明細書の上記記載に接した当業者であれば、本件特許発明に係る「重量平均分子量が15000~35000」の範囲にまで拡張ないし一般化することは可能である。
イ 主張2について
本件特許明細書の【0008】には、発明が解決しようとする課題として、「本発明の目的は、第1に、有機ELディスプレイ表面の保護フィルムとして使用する場合、有機ELディスプレイの表示の色や輝度に悪影響を与えることなく、かつ有機ELディスプレイの発光素子の耐久性(耐光性)を向上させることができ、有機ELディスプレイの表示の劣化を抑制できるハードコートフィルムを提供することであり、第2に、ハードコートフィルムに対する耐光性試験後も上記の性能を維持できるハードコートフィルムを提供することであり、第3に、薄膜化を可能とするハードコートフィルムを提供することである。」と記載されている。また、同【0077】には、各波長における光線透過率及び耐光試験後の各波長における光線透過率が記載されている。
そして、本件特許発明は、セサモール型ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤を含有するものであるから、上記各波長における光線透過率及び耐光試験後の各波長における光線透過率を満たすようなものであるならば、セサモール型ベンゾトリアゾール系単量体をわずかに含むような実施態様が含まれないことは明らかである。
そうしてみると、紫外線吸収剤にセサモール型ベンゾトリアゾール系単量体をどの程度で含有しているのかを特定していなくても、本件特許発明は、上記第1及び第2の課題を解決する手段が請求項に反映されているといえる。
ウ 小括
したがって、本件特許発明は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載したものである。
第5 むすび
請求項1~4に係る特許は、異議申立書に記載された異議の申立ての理由によっては、取り消すことができない。また、他に請求項1~4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2024-701135