特許異議申立
2024-700609
球状シリカ粉末充填剤の調製方法、これによって得られた粉末充填剤およびその使用
- 審判番号
- 2024-700609
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2022-547703
- 登録番号
- 7406854
- 請求日
- 2024年06月26日
- 審決日
- 2025年12月09日
- 公報発行日
- 2026年03月27日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】浙江三時紀新材科技有限公司
- 【権利者代理人】須原 誠
- 【権利者代理人】弁理士法人後藤特許事務所
- 【異議申立人】伊藤 幸子
- 審判長/審判官
- 審判長 原 賢一
- 審判官 増山 淳子
- 審判官 塩谷 領大
- 分類
- P1651.121-YAA(C01B) / P1651.536-YAA(C01B) / P1651.537-YAA(C01B)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法120条の8第1項特許法135条
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第2項、特許法第29条第2項、特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第6項第2号、特許法第120条の8第1項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7406854号発明「球状シリカ粉末充填剤の調製方法、これによって得られた粉末充填剤およびその使用」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7406854号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~6〕について訂正することを認める。
特許第7406854号の請求項1、3~6に係る特許を維持する。
特許第7406854号の請求項2に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7406854号(以下、「本件特許」という。)の請求項1~6に係る特許についての出願は、令和2年2月17日を国際出願日とする出願であって、令和5年12月20日にその特許権の設定登録がされ、同年同月28日に特許掲載公報が発行された。
その後、その請求項1~6に係る特許に対して、令和6年6月26日に特許異議申立人伊藤幸子(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、同年11月19日付けで取消理由が通知され、令和7年2月18日に特許権者により意見書の提出がされ、令和7年5月29日付けで取消理由(決定の予告)が通知され、令和7年8月25日に特許権者により意見書の提出及び訂正の請求がされ、令和7年10月7日に申立人により意見書の提出がされた。
第2 訂正の適否の判断
令和7年8月25日に特許権者より請求された訂正(以下、「本件訂正」といい、この訂正の請求を「本件訂正請求」という。)は、適法になされたものと判断する。
以下、その理由につき詳述する。
1 訂正の内容
本件訂正請求は、本件特許請求の範囲を訂正することを求めるものであって、その内容は、次の訂正事項1~9からなる(下線部は訂正箇所を示す。)。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1の「R1SiX3の加水分解凝縮反応によって」及び「加水分解凝縮反応における水とR1SiX3との重量比」との記載を、それぞれ、「メチルトリメトキシシランまたはプロピルトリメトキシシランの加水分解凝縮反応によって」及び「加水分解凝縮反応における水とメチルトリメトキシシランまたはプロピルトリメトキシシランとの重量比」に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項3~6も同様に訂正する。)。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1の「重量比は、624~2557:80であり」との記載を、「重量比は、624:80または1124~1524:80」に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項3~6も同様に訂正する。)。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項1の「前記球状ポリシロキサンは、Q単位、D単位、および/またはM単位をさらに含み」との記載を、「前記球状ポリシロキサンは、Q単位をさらに含み」に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項3~6も同様に訂正する。)。
(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項1の「ここで、R1は、水素原子または炭素原子が1乃至18である独立して選択可能な有機基であり、Xは、加水分解性基であり、T単位は」との記載を、「ここで、T単位は」に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項3~6も同様に訂正する。)。
(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項1の「T単位は、R1SiO3-であり」との記載を、「T単位は、R1SiO3-であって、R1はメチル基又はプロピル基であり」に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項3~6も同様に訂正する。)。
(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項1の「Q単位=SiO4-であり、D単位=R2R3SiO2-であり、M単位=R4R5R6SiO-であり、R2、R3、R4、R5およびR6は、それぞれ、水素原子または炭素原子が1乃至18である独立して選択可能な炭化水素基である」との記載を、「Q単位=SiO4-である」に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項3~6も同様に訂正する。)。
(7)訂正事項7
特許請求の範囲の請求項1の「調整方法」との記載を、「調製方法」に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項3~6も同様に訂正する。)。
(8)訂正事項8
特許請求の範囲の請求項1の「特徴とする、調整方法。」との記載を、「特徴とする、調製方法(ただし、界面活性剤を使用する調製方法を除く。)。」に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項3~6も同様に訂正する。)。
(9)訂正事項9
特許請求の範囲の請求項2を削除する。
2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1について
本件訂正前の請求項1には「R1SiX3の加水分解縮合反応によって、T単位を含む球状ポリシロキサン(polysiloxane)を提供し、・・・・ここで、R1は、水素原子または炭素原子が1乃至18である独立して選択可能な有機基であり、Xは、加水分解性基であり」と記載され、発明の詳細な説明の【0008】には、「好ましい実施例において、メチルトリメトキシシラン(methyltrimethoxysilane)またはプロピルトリメトキシシラン(propyltrimethoxysilane)を・・・加水分解して・・・凝縮して球状ポリシロキサンを得る。」と記載されている。
そうすると、訂正事項1は、上記【0008】の記載に基づいて、加水分解凝縮反応によって球状ポリシロキサンを得る原料であるR1SiX3を、R1を炭素原子が1である有機基のメチル基、又は、炭素原子が3である有機基のプロピル基とし、Xを加水分解性基であるメトキシ基とした「メチルトリメトキシシランまたはプロピルトリメトキシシラン」に限定するものであるから、これにより新たな技術的事項が導入されるものとはいえない。
したがって、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであって、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された事項の範囲内においてされたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(2)訂正事項2について
【0025】の実施例1において、脱イオン水1500重量部に対してメチルトリメトキシシランを80重量部加え、25重量部の5%アンモニア(24重量部(=25×0.95)の水を含有する)を加えて加水分解凝縮反応を行っていることから、その水とメチルトリメトキシシランの重量比は1524(=1500+24):80となる。同様に、実施例2では脱イオン水1100重量部に対してプロピルトリメトキシシランを80重量部加え、25重量部の5%アンモニア(24重量部(=25×0.95)の水を含有する)を加えて加水分解凝縮反応を行っていることから、その水とメチルトリメトキシシランの重量比は1124(=1100+24):80となり、実施例4では、脱イオン水600重量部に対してメチルトリメトキシシランを80重量部加え、25重量部の5%アンモニア(24重量部(=25×0.95)の水を含有する)を加えて加水分解凝縮反応を行っていることから、その水とメチルトリメトキシシランの重量比は624(=600+24):80となる。
そうすると、訂正事項2は、本件訂正前に「重量比は、624~2557:80」であったのを、上記実施例の重量比に基づいて「624~2557:80」の範囲内の数値の「重量比は、624:80または1124~1524:80」に限定するものであるから、これにより新たな技術的事項が導入されるものとはいえない。
したがって、訂正事項2は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであって、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された事項の範囲内においてされたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(3)訂正事項3、6について
訂正事項3は、球状ポリシロキサンが含みうる単位としての「Q単位、D単位、および/またはM単位」の選択肢から、「D単位」「M単位」を有する選択肢を削除するものであり、訂正事項6は、これに整合させるように、「D単位」「M単位」の定義を削除するものである。
したがって、訂正事項3、6は、それぞれ、特許請求の範囲の減縮及び明瞭でない記載の釈明を目的とするものであるから、これにより新たな技術的事項が導入されるものとはいえない。
したがって、訂正事項3、6は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」及び「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものであって、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された事項の範囲内においてされたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(4)訂正事項4、5について
訂正事項4、5は、両方の訂正をあわせると、特許請求の範囲の請求項1の「ここで、R1は、水素原子または炭素原子が1乃至18である独立して選択可能な有機基であり、Xは、加水分解性基であり、T単位はR1SiO3-であり」との記載を、「ここで、T単位はR1SiO3-であって、R1はメチル基又はプロピル基であり」に訂正するものである。
そうすると、訂正事項4、5は、R1は、水素原子または炭素原子が1乃至18である独立して選択可能な有機基からメチル基又はプロピル基に訂正するものであるといえる。
そして、発明の詳細な説明の【0025】~【0031】には、メチルトリメトキシシラン又はプロピルトリメトキシシランを原料として、シリカ粒子を作成する実施例が記載されているから、訂正事項4、5は、上記の実施例の記載に基づいて、加水分解凝縮反応によって球状ポリシロキサンを得る原料であるR1SiX3を、R1が炭素原子が1である有機基のメチル基、又は、炭素原子が3である有機基のプロピル基であって、Xがメトキシ基である、「メチルトリメトキシシランまたはプロピルトリメトキシシラン」に限定するものであるから、これにより新たな技術的事項が導入されるものではなく、これにより新たな技術的事項が導入されるものとはいえない。
したがって、訂正事項4、5は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであって、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された事項の範囲内においてされたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(5)訂正事項7について
訂正事項7は、訂正前の請求項1の「調整方法」を「調製方法」と訂正するものである。
この点について、願書に最初に添付した特許請求の範囲の請求項1の「粉末シリカ粉末充填剤の調製方法であって」との記載や、請求項2~6の「・・・請求項1に記載の調製方法。」との記載から、「調整方法」は、「調製方法」の誤記であることが理解できる。
したがって、訂正事項7は、訂正前の請求項1において「調製方法」と記載すべきところを、「調整方法」と記載していたという誤記を訂正するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第2号に掲げる「誤記の訂正」を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(6)訂正事項8について
訂正事項8は、本件訂正前の請求項1に係る「調整方法」について、令和7年5月29日付けの取消理由通知の甲第1号証に記載された「界面活性剤を使用する調製方法」を除くものに限定するものであるとともに、これにより新たな技術的事項が付加されるものでもないから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された事項の範囲内においてされたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(7)訂正事項9について
訂正事項9は、本件訂正前の請求項2を削除するものであるから、当該訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであって、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された事項の範囲内においてされたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
3 小括
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号、第2号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~6〕について訂正することを認める。
第3 本件特許請求の範囲の記載(本件発明)
上記第2のとおり本件訂正請求は適法になされたものであると認められるので、本件特許の特許請求の範囲の請求項1~6に係る発明(以下、項番にしたがって「本件発明1」などといい、まとめて「本件発明」ということがある。)は、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1~6に記載された事項により特定される、次のとおりのものである(下線は訂正箇所)。
「【請求項1】
球状シリカ粉末充填剤の調製方法であって、
当該調製方法は、次のような段階を含み、
メチルトリメトキシシランまたはプロピルトリメトキシシランの加水分解凝縮反応によって、T単位を含む球状ポリシロキサン(polysiloxane)を提供し、加水分解凝縮反応における水とメチルトリメトキシシランまたはプロピルトリメトキシシランとの重量比は、624:80または1124~1524:80であり、前記球状ポリシロキサンは、Q単位をさらに含み、ここで、T単位は、R1SiO3-であって、R1はメチル基またはプロピル基であり、Q単位=SiO4-である段階S1と、および
乾燥酸化ガス雰囲気条件下で前記球状ポリシロキサンをか焼し、か焼温度は、850度~1200度の間であり、直径50nm未満のシリカ(silica)粒子を含まない球状シリカ粉末充填剤を得る段階S2とを含む
ことを特徴とする、調製方法(ただし、界面活性剤を使用する調製方法を除く)。
【請求項2】
(削除)
【請求項3】
前記加水分解凝縮反応の速度を制御することにより、50nm以下のポリシロキサン粒子の生成を防止することを特徴とする
請求項1に記載の調製方法。
【請求項4】
酸化ガスには酸素ガスが含まれて、ポリシロキサン中の有機物を完全に酸化することを特徴とする
請求項1に記載の調製方法。
【請求項5】
前記か焼温度は、850度~1100度の間であり、か焼時間は、6時間~12時間の間であることを特徴とする
請求項1に記載の調製方法。
【請求項6】
当該調製方法は、処理剤を加えて球状シリカ粉末充填剤に対して表面処理を実行する段階をさらに含み、当該処理剤は、シランカップリング剤(Silane coupling agent)および/またはジシラザン(Disilazane)を含み、当該シランカップリング剤は、(R7)a(R8)bSi(M)4-a-bであり、R7およびR8は、炭素原子が1乃至18である独立して選択可能な炭化水素基、水素原子、または官能基によって置換された炭素原子が1乃至18である炭化水素基であり、当該官能基は、ビニル基(vinyl group)、アリル基(allyl group)、スチリル基(styryl group)、エポキシ基(epoxy group)、脂肪族アミノ基(aliphatic amino group)、芳香族アミノ基(aromatic amino group)、メタクリロキシプロピル基(methacryloxypropyl group)、アクリロキシプロピル基(acryloxypropyl group)、ウレイドプロピル基(ureidopropyl group)、クロロプロピル基(chloropropyl group)、メルカプトプロピル基(mercaptopropyl group)、ポリスルフィド基(Polysulfide group)およびイソシアナートプロピル基(isocyanate propyl group)のような有機官能基からなる群から少なくとも一つが選択され、Mは、炭素原子が1乃至18であるアルコキシ基またはハロゲン原子であり、a=0、1、2または3であり、b=0、1、2または3であり、a+b=1、2または3であり、当該ジシラザンは、(R9R10R11)SiNHSi(R12R13R14)であり、R9、R10、R11、R12、R13およびR14は、炭素原子が1乃至18である独立して選択可能な炭化水素基または水素原子であることを特徴とする
請求項1に記載の調製方法。」
第4 取消理由通知書に記載した取消理由及び特許異議申立理由について
1 特許異議申立の概要
申立人が主張する特許異議申立理由は、概略、以下のとおりである。
ここで、申立人が提出した証拠方法は、次のものである。
甲第1号証:特開2002-37620号公報
甲第2号証:特開2011-6592号公報
甲第3号証:国際公開第2010/150861号
甲第4号証:特開2012-227448号公報
甲第5号証:特開2008-88430号公報
甲第6号証:特開2010-260881号公報
甲第7号証:特開2010-42984号公報
甲第8号証:特開2001-302227号公報
甲第9号証:特開2002-80598号公報
甲第10号証:特開2016-52953号公報
参考文献1:特開2004-339297号公報
参考文献2:特開2004-35293号公報
参考文献3:特開2008-88430号公報
なお、参考文献1~3は、令和7年10月7日に提出された意見書に添付して提出された。
以下、甲第1号証等を「甲1」等という。
なお、主たる証拠は、甲1であり、甲2及び甲5は、有機ケイ素化合物を加水分解凝縮反応させる際に有機ケイ素化合物と水の量比を特定の比率とすることに関するものであり、甲3は、RnSiX4-nからポリシロキサンを得ることに関するものであり、甲4は、シリコンアルコキシドを加水分解縮合反応させてシリカ粒子を生じさせることに関するものであり、甲6は、アルコキシドの加水分解によって製造されるポリオルガノシロキサン粒子の粒径を大きくすることに関するものであり、甲7~甲9は、シリカ粒子の焼成条件に関するものであり、甲10はシリカ粒子の表面処理に関するものである。
(1)申立理由1(甲1を主たる証拠とした進歩性欠如)
設定登録時の請求項1に係る発明は甲1に記載された発明及び甲2、5に記載された事項及び周知技術に基づいて、設定登録時の請求項2に係る発明は甲1に記載された発明及び甲2~5に記載された事項及び周知技術に基づいて、設定登録時の請求項3に係る発明は甲1に記載された発明及び甲2、5、6に記載された事項及び周知技術に基づいて、設定登録時の請求項4に係る発明は甲1に記載された発明及び甲2、4、5、7~9に記載された事項及び周知技術に基づいて、設定登録時の請求項5に係る発明は甲1に記載された発明及び甲2、4、5、7に記載された事項及び周知技術に基づいて、設定登録時の請求項6に係る発明は甲1に記載された発明及び甲2、4、5、10に記載された事項及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
(2)申立理由2(実施可能要件違反)
本件特許は、発明の詳細な説明の記載が下記第5の4(1)の点で不備のため、その特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
(3)申立理由3(サポート要件違反)
本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記第5の5(1)の点で不備のため、その特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
(4)申立理由4(明確性要件違反)
本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記第5の6(1)の点で不備のため、その特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
2 取消理由通知書(決定の予告)に記載した取消理由
(1)取消理由1(甲1を主たる証拠とした進歩性欠如)
設定登録時の請求項1~5に係る発明は、甲1に記載された発明に基づいて、設定登録時の請求項6に係る発明は甲1に記載された発明及び甲10に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
(2)取消理由2(サポート要件違反)
本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記第5の5(2)の点で不備のため、その特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
(3)取消理由3(実施可能要件違反)
本件特許は、発明の詳細な説明の記載が下記第5の4(2)の点で不備のため、その特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
第5 当審の判断
事案に鑑み、特許異議申立理由及び取消理由をまとめて検討する。
1 甲1に記載の事項
甲1には、以下の事項が記載されている(下線は当審で付した。)。
(1)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、真球状シリカ粒子集合体、その製造方法およびそれを用いた樹脂組成物に関する。さらに詳しくは、本発明は、非合着・非凝集性真球状シリカ粒子からなり、粒径の分布幅が広く、半導体封止材用シリカフィラー、特にフリップチップ用アンダーフィル材料に適したシリカフィラーなどとして好適な真球状シリカ粒子集合体、このものを、粒度分布の分散度(CV値)が制御可能に効率よく製造する方法、および上記真球状シリカ粒子集合体を含み、半導体封止材用などとして用いられる樹脂組成物に関するものである。
・・・
【0012】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、このような事情のもとで、非合着・非凝集性真球状シリカ粒子からなり、粒径の分布幅が広く、半導体封止材用シリカフィラー、特にフリップチップ用アンダーフィル材料に適したシリカフィラーなどとして好適な真球状シリカ粒子集合体、このものを、CV値が制御可能に効率よく製造する方法、および上記真球状シリカ粒子集合体を含み、半導体封止材用などとして用いられる樹脂組成物を提供することを目的とするものである。
【0013】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、前記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、ある値以下の合着率を有すると共に、平均粒径および粒径の分布幅が特定の範囲にあり、かつCV値がある値以上の真球状シリカ粒子集合体が、半導体封止材用シリカフィラーとして、その目的に適合し得ることを見出した。
【0014】さらに、ノニオン性界面活性剤やアニオン性界面活性剤の濃度および加水分解触媒であるアンモニア濃度を制御して、アルコキシシラン化合物やその部分加水分解縮合物を加水分解、縮合させてポリオルガノシロキサン粒子を作製したのち、洗浄処理、乾燥処理および酸素存在下で特定の温度で焼成処理することにより、CV値の制御が容易であって、所望の性状を有する真球状シリカ粒子集合体が容易に得られることを見出した。」
(2)「【0015】本発明は、かかる知見に基づいて完成したものである。すなわち、本発明は、(1)合着率が0.1%以下の非合着・非凝集性真球状シリカ粒子の集合体であって、平均粒径が0.6~6μm、粒径の分布幅が0.3~10μmおよび粒度分布の分散度(CV値)が10%以上であることを特徴とする真球状シリカ粒子集合体、
【0016】(2)(A)ノニオン性界面活性剤またはアニオン性界面活性剤1×10-2~1×10-4重量%を含む水性溶液に、一般式(I)
R1nSi(OR2)4-n ・・・(I)
(式中、R1は非加水分解性基であって、炭素数1~20のアルキル基、(メタ)アクリロイルオキシ基若しくはエポキシ基を有する炭素数1~20のアルキル基、炭素数2~20のアルケニル基、炭素数6~20のアリール基または炭素数7~20のアラルキル基、R2は炭素数1~6のアルキル基、nは1~3の整数を示し、R1が複数ある場合、各R1はたがいに同一であっても異なっていてもよく、OR2が複数ある場合、各OR2はたがいに同一であっても異なっていてもよい。)で表される有機ケイ素化合物および/またはその部分加水分解縮合物を加え、溶解させたのち、アンモニア濃度が0.25×10-3~150×10-3モル/リットルになるようにアンモニア水を添加し、該有機ケイ素化合物および/またはその部分加水分解縮合物を加水分解、縮合させ、次いで析出した粒子を粒子成長させたのち、アンモニアおよび/またはアミンを添加して熟成させるポリオルガノシロキサン粒子の製造工程、(B)上記(A)工程で得られた粒子を洗浄処理する工程、(C)上記(B)工程で得られた粒子を乾燥処理する工程、および(D)上記(C)工程で得られた粒子を、酸素存在下で、350~1100℃の温度において焼成処理する工程、を含むことを特徴とする真球状シリカ粒子集合体の製造方法、および
【0017】(3)上記(1)の真球状シリカ粒子集合体10~90重量%を含むことを特徴とする樹脂組成物、を提供するものである。
・・・
【0029】次に、各工程について説明する。
(A)工程
この(A)工程は、前記一般式(I)で表される有機ケイ素化合物および/またはその加水分解縮合物を、界面活性剤を含む水性溶液中において、アンモニアの存在下に加水分解、縮合させ、ポリオルガノシロキサン粒子を製造する工程である。
・・・
【0036】次いで、この透明溶液に、好ましくは0.5~2モル/リットル濃度のアンモニア水を、NH3濃度が0.25×10-3~150×10-3モル/リットルになるように添加し、ゆっくり撹拌して該有機ケイ素化合物やその加水分解縮合物を加水分解、縮合させる。この際、NH3濃度が0.25×10-3モル/リットル未満では加水分解、縮合反応が進行しにくく、粒子が析出しないおそれがあるし、150×10-3モル/リットルを超えると合着粒子や凝集粒子が生成し、本発明の目的が達せられない。すなわち、この濃度範囲内で合成を行うことにより真球状粒子を得ることができる。
【0037】この際の反応温度は、原料の有機ケイ素化合物やその加水分解縮合物の種類などに左右されるが、一般的には0~60℃の範囲で選ばれる。加水分解、縮合反応の進行に伴い、粒子が析出し、さらにこの析出粒子が成長する。この粒子成長終了後に、アンモニアおよび/またはアミンを添加して熟成させる。この際、アミンとしては、例えばモノメチルアミン、ジメチルアミン、モノエチルアミン、ジエチルアミン、エチレンジアミンなどを好ましく挙げることができる。
【0038】アンモニアやアミンの添加量は特に制限はないが、反応系のpHが9.0~12.0の範囲になるように選ぶのが望ましい。熟成温度は上記の反応の際と同じ温度で行ってもよいし、若干昇温して行ってもよい。また、熟成時間は反応温度やpHなどによって左右され、一概に定めることはできないが、通常は1~20時間程度で充分である。このようにして、非合着・非凝集性であって、粒度分布の分散度(CV値)が大きな真球状ポリオルガノシロキサン粒子が得られる。
・・・
【0041】(D)工程
この(D)工程は、上記(C)工程で乾燥処理されたポリオルガノシロキサン粒子を、酸素存在下で焼成する工程である。この焼成処理は酸素存在下で実施されるが、経済性の面から空気中で焼成するのが有利である。焼成温度は350~1100℃の範囲である。この温度が350℃未満では焼成が不十分であるし、また、1100℃より高い温度で焼成する必要はなく、1100℃以下の温度で、十分に焼成することができるが、特に上記温度範囲内で、有機成分を完全に分解、除去する温度で焼成処理するのが好ましい。また、焼成装置については特に制限はなく、電気炉やロータリーキルンなどを用いることができる。このようにして、前述の性状を有する本発明の真球状シリカ粒子集合体を、効率よく製造することができる。」
(3)「【0049】実施例1
30℃の恒温槽中にセットした300ミリリットルのプラスチック容器中にて、表1に示す各種の濃度に調整したノニオン性界面活性剤であるポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル「ノイゲンEA-157(HLB15)」(第一工業製薬社製)イオン交換水溶液200ミリリットルにメチルトリメトキシシラン(MTMS)20gを添加し、透明な均一溶液になるまで、マグネチックスターラーにて撹拌した。
・・・
【0050】反応終了後、撹拌を止め、遠心分離器で粒子と溶媒を分離した後、上澄みを捨て、さらにメタノールを添加して、再び粒子を分散させた。再度遠心分離器による粒子分離及びメタノール添加による粒子洗浄を3回繰り返した。最後にメタノールを取り除き、オーブン中で120℃にて1時間乾燥処理し、ポリメチルシルセスキオキサン(PMSO)粒子を得た。
・・・
【0057】実施例4
30℃の恒温槽中にセットした5000ミリリットルのセパラブルフラスコ中にて、1×10-3重量%濃度に調整したEA-157イオン交換水溶液5000ミリリットルにMTMSを500g添加し、透明な均一溶液になるまで、撹拌羽根により撹拌した。次いで、これに1モル/リットルアンモニア水を、イオン交換水に対する該アンモニア水の濃度が1.0ミリリットル/リットルになるように添加して、30rpmで撹拌した。粒子が析出、成長して溶液が白濁化してから、光学顕微鏡にて粒子成長を観察し、成長が止まった約1.5時間後に、25重量%アンモニア水10ミリリットルを添加し、一夜熟成した。
【0058】反応終了後、撹拌を止め、遠心分離器で粒子と溶媒を分離した後、上澄みを捨て、さらにメタノールを添加して、再び粒子を分散させた。再度遠心分離器による粒子分離及びメタノール添加による粒子洗浄を3回繰り返した。最後にメタノールを取り除き、オーブン中で120℃にて1時間乾燥処理し、PMSO粒子を得た。
【0059】得られた乾燥後の白色粉末をコールターカウンターで50000個の測定を行い、平均粒径及びそのCV値を測定した。得られた粒子の粒径分布はピーク全体を測定範囲とし測定した結果、平均粒径が1.64μm、CV値が13.1%のブロードなピークを有するPMSO粒子が得られた。
【0060】また、同時に走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した結果、真球状で、合着、凝集のない単分散な粒子であった。また、0.3μm未満の微小粒子や10μmを超える粗大粒子も存在しなかった。得られた白色粉末について、4ミリリットル/分の流量にて空気を送り込みながら、400℃にていったん24時間保持した後、800℃で、9時間の条件で焼成を行った。
【0061】焼成後に得られた粉末は、水に容易に分散する、流動性に優れ、凝集塊の無い白色粉末であった。コールターカウンターにて50000個の測定を行った結果、平均粒径が、1.37μmでCV値が13.4%のブロードなピークを有するPMSO粒子が得られた。同時に走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した結果、真球状で、合着、凝集のない単分散な粒子であった。また、0.3μm未満の微小粒子や10μmを超える粗大粒子も存在しなかった。
【0062】焼成後粒子をIRにて測定した結果、有機成分であるメチル基が完全に分解されていることが分かった。」
2 甲1に記載された発明
上記1(3)によれば、MTMSとは、メチルトリメトキシシランのことである(【0049】)。
また、同(3)によれば、PMSOとはポリメチルシルセスキオキサンである(【0050】)ところ、実施例4によって焼成後に得られるのはPMSO、すなわち、ポリメチルシルセスキオキサンであって、「IRにて測定した結果、有機成分であるメチル基が完全に分解されたもの」である(【0062】)こと、同(1)によれば、甲1は「シリカ粒子」に関するものである(【0001】)ことから、同(3)において製造された「IRにて測定した結果、有機成分であるメチル基が完全に分解された」「PMSO」とはシリカであるといえる。そして、同(3)には、得られた「PMSO」粒子は、「真球状」の「粒子」であった(【0061】)ことも記載されているから、得られたのは「真球状」「シリカ」「粒子」であったことが記載されているといえる。
また、同(1)によれば、シリカ粒子は「シリカフィラー」として好適に用いられるものである(【0012】)。
そうすると、同(3)の実施例4に着目すると、甲1には、以下の発明が記載されているといえる(以下、「甲1発明」という。)。
「シリカフィラーとして用いられる真球状シリカ粒子の製造方法であって、1×10-3重量%濃度に調整したノニオン性界面活性剤であるポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル「ノイゲンEA-157(HLB15)」イオン交換水溶液5000ミリリットルにメチルトリメトキシシランを500g添加し、そこに1モル/リットルアンモニア水を、イオン交換水に対する該アンモニア水の濃度が1.0ミリリットル/リットルになるように添加して粒子を析出、成長させた後、洗浄し、120℃で1時間乾燥処理して真球状ポリメチルシルセスキオキサン粒子を得て、
さらに空気を送り込みながら400℃で24時間保持し、800℃で9時間焼成することによって、0.3μm未満の微小粒子が存在しない、有機成分が完全に分解された真球状シリカ粒子の製造方法。」
3 申立理由1及び取消理由1(甲1を主たる証拠とした進歩性欠如)について
(1)本件発明1について
ア 対比
(ア)甲1発明の「シリカフィラーとして用いられる」「真球状シリカ粒子」は本件発明1の「球状シリカ粉末充填剤」に相当する。
(イ)甲1発明の「製造方法」は、本件発明1の「調製方法」に相当する。
(ウ)甲1発明の「メチルトリメトキシシラン」を、「1×10-3重量%濃度に調整したEA-157イオン交換水溶液」及び「アンモニア水」の添加によって「ポリメチルシルセスキオキサン」にすることは、本件発明1の「メチルトリメトキシシラン」「の加水分解凝縮反応によって」、「球状ポリシロキサン(polysiloxane)を提供」する「段階S1」に相当する。
(エ)甲1発明の、「1×10-3重量%濃度に調整したノニオン性界面活性剤であるポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル「ノイゲンEA-157(HLB15)」イオン交換水溶液5000ミリリットル」には、水が4999g(=5000g×(1-10-3))含有されている。そこに添加されるアンモニア水は、5ミリリットル、即ち、約5gであるから、500gのメチルトリメトキシシランに対し、水が5004g(=4999g+5g)となる。そうすると、甲1発明の、水とメチルトリメトキシシランの重量比は、5004:500=800.64:80である。
(オ)甲1発明の「焼成」は、本件発明1の「か焼」に相当する。
また、本件の発明の詳細な説明には、か焼において用いる酸化ガスとして空気が好ましいことが記載されているから(【0007】)、甲1発明の「空気を送り込みながら」「焼成」することは、本件発明1の「乾燥酸化ガス雰囲気条件下で」「か焼」する「段階S2」に相当する。
(カ)甲1発明の「0.3μm未満の微小粒子が存在しない」は、本件発明1の「直径50nm未満のシリカ(Silica)粒子を含まない」に相当する。
そうすると、本件発明1と甲1発明は、
「球状シリカ粉末充填剤の調製方法であって、
当該調製方法は、次のような段階を含み、
メチルトリメトキシシランの加水分解凝縮反応によって、球状ポリシロキサン(polysiloxane)を提供する段階S1と、および、
乾燥酸化ガス雰囲気下で前記球状ポリシロキサンをか焼し、直径50nm未満のシリカ(Silica)粒子を含まない球状シリカ粒子を得る段階S2とを含む
調製方法。」の点で一致し、以下の点で相違する。
<相違点1>
本件発明1では、メチルトリメトキシシランまたはプロピルトリメトキシシランの加水分解凝縮反応によって「T単位を含む球状ポリシロキサン」を提供し、「前記球状ポリシロキサンは、Q単位をさらに含み、ここで、T単位は、R1SiO3-であって、R1はメチル基またはプロピル基であり、Q単位=SiO4-である」とされているのに対し、甲1発明では、そのような特定がない点。
<相違点2>
本件発明1では、「加水分解凝縮反応における水とメチルトリメトキシシランまたはプロピルトリメトキシシランとの重量比は、624:80または1124~1524:80」であるのに対し、甲1発明では、水とメチルトリメトキシシランの重量比は、800.64:80である点。
<相違点3>
本件発明1では、か焼温度が「850度~1200度の間」であるのに対し、甲1発明では800℃で焼成している点。
<相違点4>
本件発明1では「(ただし、界面活性剤を使用する調製方法を除く)」とされているのに対し、甲1発明では、「1×10-3重量%濃度に調整したノニオン性界面活性剤であるポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル「ノイゲンEA-157(HLB15)」イオン交換水溶液」が用いられている点。
イ 相違点について
事案に鑑み、相違点4について検討する。
上記1(1)の【0012】によれば、甲1発明は、粒径の分布幅が広い真球状シリカ粒子集合体をCV値制御可能に効率よく製造する方法を提供することを課題とするものであるところ、「ノニオン性界面活性剤やアニオン性界面活性剤の濃度および加水分解触媒であるアンモニア濃度を制御して、アルコキシシラン化合物やその部分加水分解縮合物を加水分解、縮合させてポリオルガノシロキサン粒子を作製したのち、洗浄処理、乾燥処理および酸素存在下で特定の温度で焼成処理すること」(【0014】)により、上記課題を解決するものである。
これによれば、甲1発明は「ノニオン性界面活性剤やアニオン性界面活性剤」の濃度を制御することで上記課題を解決する発明であるから、そのような甲1発明において、「ノニオン性界面活性剤やアニオン性界面活性剤」の添加は必須であり、「ノニオン性界面活性剤やアニオン性界面活性剤」を添加しないものとすることには、阻害要因があるというべきである。
そうすると、甲2~10の記載にかかわらず、甲1発明において、本件発明1の相違点4に関する構成を採用することは、当業者が容易に想到しうるものとはいえない。
ウ 小括
したがって、相違点1~3について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明及び甲2~10に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(2)本件発明3~6について
本件発明3~6は、本件発明1の特定事項を全て含むものであるから、前記(1)で検討したのと同様の理由により、甲1発明及び甲2~10に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(3)申立人の主張について
申立人は、令和7年10月7日に参考資料1~3を提出するとともに、意見書において、参考資料1~3には、水とメチルトリメトキシシランを本件発明1で特定された比率で用いる例が記載されており、本件発明1の水とメチルトリメトキシシランの比率は周知技術の域を出ない旨主張している。
上記主張が
・本件発明1は、甲1発明と参考資料1~3に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明することができたものである(以下、「主張1」という。)
・本件発明1は、参考資料1~3にそれぞれ記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものである(以下、「主張2」という。)
のいずれを主張するものであるのか、明確ではないので、以下、両方について検討する。
ア 主張1について
上記(1)イにおいて検討したとおり、甲1発明は「ノニオン性界面活性剤やアニオン性界面活性剤」の添加を必須とするものであるから、参考資料1~3の記載事項にかかわらず、甲1発明において界面活性剤を使用しないようにすることは当業者が容易に想到し得ることではないため、本件発明1は、甲1発明及び甲2~10及び参考資料1~3に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
イ 主張2について
参考資料1~3には、水とメチルトリメトキシシランを特定の比率で用いてシリカ粒子を作成することは記載されているが、参考資料1~3のいずれにも「直径50nm未満のシリカ(silica)粒子を含まない球状シリカ粉末充填剤」が得られることは記載も示唆もされていない。また、参考資料1~3に記載されたシリカ粒子の製造方法は、本件発明の製造方法と同じであるともいえないため、参考資料1~3において、本件発明同様に「直径50nm未満のシリカ(silica)粒子を含まない球状シリカ粉末充填剤」が得られる蓋然性が高いともいえないし、「直径50nm未満のシリカ(silica)粒子を含まない球状シリカ粉末充填剤」を得ることを当業者が容易に想到しうるともいえない。
したがって、本件発明1は、参考資料1~3に記載された発明に基づいて容易に発明することができたとはいえない。
以上のとおりであるから、上記主張は採用することができず、上記主張によって上記(1)、(2)の判断が変わることはない。
(4)申立理由1及び取消理由1についてのまとめ
以上のとおり、申立理由1及び取消理由1には理由がない。
4 申立理由2及び取消理由3(実施可能要件違反)について
(1)申立理由2の具体的内容
本件明細書の段落0025の「例1」及び段落0029の「例3」は「メチルトリメトキシシラン」を使用し、段落0027の「例2」は「プロピルトリメトキシシラン」を使用する開示であるところ、この開示から、設定登録時の請求項1の「T単位は、R1SiO3-であり、Q単位=SiO4-であり、D単位=R2R3SiO2-であり、M単位=R4R5R6SiO-であり、R2、R3、R4、R5およびR6は、それぞれ、水素原子または炭素原子が1乃至18である独立して選択可能な炭化水素基」とする構成を自明に導き出すことは困難であり、本件明細書は、その請求項1~6に記載された発明を、当業者が実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されたものではない。
(2)取消理由3の具体的内容
設定登録時の請求項1には、R1SiX3の加水分解凝縮反応によってD単位、M単位が生じることが特定されているが、どのようにすればD単位、M単位が含まれるポリシロキサンを作成しうるのか、当業者が実施可能な程度に、発明の詳細な説明が記載されているとはいえない。
(3)当審の判断
ア 本件訂正によって、「T単位は、R1SiO3-であり、Q単位=SiO4-であり、D単位=R2R3SiO2-であり、M単位=R4R5R6SiO-であり、R2、R3、R4、R5およびR6は、それぞれ、水素原子または炭素原子が1乃至18である独立して選択可能な炭化水素基」は、「T単位は、R1SiO3-であって、R1はメチル基又はプロピル基であり、Q単位=SiO4-」に訂正された。
そうすると、本件発明1は、例1~3で開示されている、R1がメチル基又はプロピル基であるものに限定されたものとなっているから、上記例1~3の記載から、R1がメチル基又はプロピル基であることは自明に導き出すことができる。
したがって、申立理由2は理由がない。
イ 本件訂正によって、R1SiX3の加水分解凝縮反応によってD単位、M単位が生じるとの記載は削除された。
したがって、取消理由3は理由がない。
5 申立理由3及び取消理由2(サポート要件違反)について
(1)申立理由3の具体的内容
ア 「T単位は、R1SiO3-であり、Q単位=SiO4-であり、D単位=R2R3SiO2-であり、M単位=R4R5R6SiO-であり、R2、R3、R4、R5およびR6は、それぞれ、水素原子または炭素原子が1乃至18である独立して選択可能な炭化水素基」とすることは、本件明細書に明確かつ十分に開示されているとはいえない。
イ 「加水分解凝縮反応における水とR1SiX3との重量比は、624~2557:80」とすることは、明細書の記載から具体的に特定できない。
(2)取消理由2の具体的内容
R1SiX3がメチルトリメトキシシラン又はプロピルトリメトキシシランであることは特定されていないため、設定登録時の請求項1~6に係る発明は、発明の課題を解決しない範囲を包含するものである。
(3)当審の判断
ア サポート要件の判断手法
特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明であって、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも、当業者が本件特許の出願時の技術常識に照らして当該発明の課題を解決できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。以下、この観点により検討する。
イ 本件発明の課題と当該課題に対応する発明の詳細な説明の記載
(ア)本件発明は、【0004】によれば、「直径50nm未満のシリカ粒子が含まれる」問題を解決すること、すなわち、「直径50nm未満のシリカ粒子」が含まれないシリカ粒子を得ることを課題としているといえる。
(イ)そして、【0007】によれば、本件発明は、「加水分解および凝縮反応の速度を制御することにより、50nm以下のポリシロキサン粒子の生成を防止」することで、上記課題を解決するものである。
(ウ)ここで、上記第2の2(2)に記載した計算方法によれば、実施例1~4、6において、水とメチルトリメトキシシランの重量比は1524:80(実施例1)、1124:80(実施例2)、824:80(実施例3)、624:80(実施例4)、2524:80(実施例6)であり、実施例5において、水とプロピルトリメトキシシランの重量比は1124:80である。そして、これらの実施例において、所望の、50nm以下のポリシロキサンを含まないシリカが得られている。
そうすると、水とメチルトリメトキシシランの重量比が624~2524:80である場合に、本件発明の課題が解決されることが理解される。
(エ)水とメチルトリメトキシシラン又はプロピルトリメトキシシランとの加水分解凝縮反応は化学量論的な反応であるから、その反応速度において影響が大きいのは「モル比」であることは広く知られている。(例えば、特許権者が令和7年2月18日の意見書に添付して提出した、乙第1号証(Douglas A. Loy et al.,"Substituent Effects on the Sol-Gel Chemistry of Organotrialkoxysilanes", Chem. Mater., 2000, vol.12, p.3624-3)にも、「While most of the monomers were polymerized with 1.5 equivalents of water, it is known that the ratio of monomer to water can have pronounced effects on the sol-gel chemistry of tetraalkoxysilanes.」(p.3628左欄8-12行)(仮訳:ほとんどのモノマーは1.5当量の水で重合するが、モノマーと水の比率はテトラアルコキシシランのゾルゲル化学に顕著な影響を及ぼすことが知られている。)と記載されており、水と加水分解される化合物の「重量比」ではなく「当量」のようなモル比に基づく比率が重要であることが記載されている。)
(オ)メチルトリメトキシシランは分子量が136であり、プロピルトリメトキシシランは分子量は164である。
そうすると、「水:メチルトリメトキシシラン」が重量基準で「624~2524:80」である場合と、「水:プロピルトリメトキシシラン」が重量基準で「520(=624×136/164)~2103(=2524×136/164):80」である場合において、「水:メチルトリメトキシシラン」と「水:プロピルトリメトキシシラン」のモル比に基づく比率は同じとなり、加水分解凝縮反応の速度も同程度のものとなるといえる。
そして、「水:メチルトリメトキシシラン」が重量基準で「624~2524:80」である場合に「加水分解および凝縮反応の速度を制御することにより、50nm以下のポリシロキサン粒子の生成を防止」されるのであるから、同様のモル比となる、「水:プロピルトリメトキシシラン」が重量基準で「520~2103:80」である場合にも「加水分解および凝縮反応の速度を制御することにより、50nm以下のポリシロキサン粒子の生成を防止」されるといえる。
(カ)してみれば、「水とメチルトリメトキシシランまたはプロピルトリメトキシシランとの重量比は、624:80または1124~1524:80」である場合に、「加水分解および凝縮反応の速度を制御することにより、50nm以下のポリシロキサン粒子の生成を防止」され、本件発明の課題は解決されるといえる。
(キ)そして、本件発明には、上記(カ)で、本件発明の課題を解決することができるとされた、「水とメチルトリメトキシシランまたはプロピルトリメトキシシランとの重量比は、624:80または1124~1524:80」であることが特定されているから、特許請求の範囲に記載された発明は、発明の詳細な説明に記載された発明であって、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものである。
(ク)以上のとおり、本件発明は、サポート要件を満たすものであるが、上記申立理由3及び取消理由2についても念のため検討する。
a 申立理由3について
本件訂正によって、「T単位は、R1SiO3-であって、R1はメチル基又はプロピル基」とされており、上記(ア)~(キ)で検討したとおり、メチルトリメトキシシラン(R1はメチル基)及びプロピルトリメトキシシラン(R1はプロピル基)である場合については本件明細書に記載されているため、上記(1)アの申立理由3は理由がない。
また、本件訂正によって、「水分解凝縮反応における水とメチルトリメトキシシランまたはプロピルトリメトキシシランとの重量比は、624:80または1124~1524:80」とされており、上記(ア)~(キ)で検討したとおり、水とメチルトリメトキシシランまたはプロピルトリメトキシシランとの重量比は、624:80または1124~1524:80であることは本件明細書に記載されているため、上記(1)イの申立理由3も理由がない。
b 取消理由2について
本件訂正によって、R1SiX3はメチルトリメトキシシラン又はプロピルトリメトキシシランであることとされたので、上記(2)の取消理由2は理由がない。
6 申立理由4(明確性要件違反)について
(1)申立理由4の具体的内容
本件明細書には、直径50nm未満の微細粒子を除去することの開示、示唆はないが、当業者の技術常識として、統計的に粒子径には分散が存在し、或る範囲のみ存在しないということは生じ得ない。そのため、「直径50nm未満のシリカ粒子を含まない球状シリカ粉末充填剤を得る」との記載は不明確である。
(2)当審の判断
本件明細書の【0021】に、「50nm以下のシリカ粒子の有無は、電界放出型走査電子顕微鏡(FE-SEM)で直接観察され、2万倍の写真を10枚任意に選択し、実質的に50nm以下の球状シリカ粒子が観察されないことを、50nmの粒子を含まないとされる。」と記載されている。
そうすると、本件発明において、「直径50nm未満のシリカ粒子を含まない」とは、電界放出型走査電子顕微鏡(FE-SEM)で直接観察され、2万倍の写真を10枚任意に選択し、実質的に50nm以下の球状シリカ粒子が観察されないことを意味するものであり、その意味するところは明確であるし、統計学的に或る範囲に粒子が存在するかどうかを意味するものではない。
したがって、申立理由4は理由がない。
第6 むすび
以上のとおりであるから、請求項1、3~6に係る特許は、特許異議申立書に記載された特許異議申立理由、及び、取消理由通知書に記載した取消理由によっては、取り消すことができない。また、他に請求項1、3~6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
請求項2に係る発明は、訂正により削除された。これにより、請求項2に係る特許に対する特許異議の申立てについては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
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2024-700609