特許異議申立
2024-700823
位相差層付き偏光板および有機EL表示装置
- 審判番号
- 2024-700823
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2019-061379
- 登録番号
- 7441610
- 請求日
- 2024年09月02日
- 審決日
- 2024年12月03日
- 公報発行日
- 2025年01月31日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】日東電工株式会社
- 【権利者代理人】籾井 孝文
- 【異議申立人】寺澤 佳奈美
- 審判長/審判官
- 審判長 神谷 健一
- 審判官 関根 洋之
- 審判官 西岡 貴央
- 分類
- P1651.121-Y (G02B) / P1651.537-Y (G02B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条、特許法第113条、特許法第29条
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7441610号発明「位相差層付き偏光板および有機EL表示装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7441610号の請求項1ないし3に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続等の経緯
特許第7441610号(以下「本件特許」という。)の請求項1~3に係る特許についての出願(特願2019-61379号)は、平成31年3月27日(優先権主張 平成30年4月20日)の出願であって、令和6年2月21日にその特許権の設定登録がされ、令和6年3月1日に特許掲載公報が発行された。
本件特許について、特許掲載公報の発行の日から6月以内である令和6年9月2日に特許異議申立人 寺澤 佳奈美(以下「特許異議申立人」という。)から請求項1~3に対して特許異議の申立てがされた。
第2 本件特許発明
本件特許の請求項1~3に係る発明(以下、請求項に付す番号を使って、それぞれ、「本件特許発明1」などという。)は、特許請求の範囲の請求項1~3に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。
「【請求項1】
偏光板と、第1の位相差層と、第1の粘着剤層と、第2の位相差層と、第2の粘着剤層とをこの順に有し、
前記偏光板と前記第1の位相差層とは、紫外線硬化型接着剤を介して貼り合わされており、
前記第1の位相差層および前記第2の位相差層が液晶化合物を含み、
前記第1の粘着剤層は、厚みが8μm以下であり、25℃における弾性率が105Pa~106Paであり、
前記第2の粘着剤層は、ベースポリマー中にアルキル(メタ)アクリレートを70重量%以上含む粘着剤で構成され、25℃における弾性率が5.0×105Pa以下である、
位相差層付き偏光板。
【請求項2】
前記偏光板の視認側に表面保護フィルムをさらに有し、該表面保護フィルムの厚みが40μm~90μmである、請求項1に記載の位相差層付き偏光板。
【請求項3】
請求項1または2に記載の位相差層付き偏光板を有する、有機EL表示装置。」
第3 申立理由の概要及び証拠方法
特許異議申立人が主張する特許異議の申立理由、及び、特許異議申立人が提出した証拠方法は、概略以下のとおりである。
1 進歩性欠如
本件特許発明1~3は、下記甲第1号証~甲第3号証に記載された発明に基づいて、先の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1~3に係る特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものである。
したがって、請求項1~3に係る特許は、特許法113条2号に該当し、取り消されるべきものである。
2 サポート要件違反
本件特許の特許請求の範囲の請求項1~3に係る発明は発明の詳細な説明に記載したものでないから、本件特許は、特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものである。
したがって、本件特許は、特許法113条4号に該当し、取り消されるべきものである
3 明確性要件違反
本件特許の特許請求の範囲の請求項1~3に係る発明は明確でないから、本件特許は、特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものである。
したがって、本件特許は、特許法113条4号に該当し、取り消されるべきものである
4 特許異議申立人が提出した証拠方法
甲第1号証:特開2017-54093号公報
甲第2号証:特開2017-142293号公報
甲第3号証:特開2016-118771号公報
甲第4号証:特開2018-22163号公報
甲第5-1号証:“プラスチック-動的機械特性の試験方法-第6部:せん断振動-非共振法 JIS K 7244-6:1999” 日本規格協会 平成11年10月20日制定
甲第5-2号証:“プラスチック-動的機械特性の試験方法-第1部:通則 JIS K 7244-1:1998” 日本規格協会 平成10年11月20日制定
甲第6号証:特開2006-47741号公報
甲第7号証:特開2011-8195号公報
甲第8号証:特開2014-213488号公報
甲第9号証:国際公開第2006/009250号
以下、甲号証に付された番号を使って、それぞれ、「甲1」などという。
甲1~甲3の立証趣旨は、本件特許発明が進歩性を有しないこと、甲4の立証趣旨は、本件特許の特許請求の範囲の記載がサポート要件を満たさないこと、甲5-1~甲9の立証趣旨は、本件特許の特許請求の範囲の記載が明確性要件を満たさないことである。
第4 当合議体の判断
1 進歩性欠如について
(1)甲1に記載された発明
甲1には、実施例3に係る以下の位相差層付偏光板の発明(甲1の【実施例】【0095】~【0115】、特に【0112】[実施例3]を参照のこと。以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
「偏光子1と該偏光子1の両側に第1の保護層と第2の保護層とを含む偏光板1と、液晶化合物を含む位相差層2と、偏光板1と位相差層2とを接着する厚み1.0μm程度の活性エネルギー線硬化型接着剤の層(接着層D)と、液晶化合物を含む位相差層3と、位相差層2と位相差層3とを接着する厚み1.0μm程度の活性エネルギー線硬化型接着剤の層(接着層D)と、最外層として位相差層3に設けられた接着層Aと、を有し、
前記活性エネルギー線硬化型接着剤は、ピーク照度は1600mW/cm2であり、積算照射量は1000mJ/cm2(波長380~440nm)の可視光線により硬化され、
周囲温度を-150℃から20℃まで変化させた際の該接着層Aの平均線膨張係数が41.1(10-5/℃)であり、かつ、周囲温度を-150℃から20℃まで変化させた際の該接着層Dの平均線膨張係数4.9(10-5/℃)よりも大きい、
位相差層付偏光板5。」
(2)本件特許発明1について
ア 対比
本件特許発明1と甲1発明を対比する。
(ア)甲1発明の構成、及び、活性エネルギー線硬化型接着剤の硬化に使用される光線の波長範囲からみて、甲1発明の「偏光子1と該偏光子1の両側に第1の保護層と第2の保護層とを含む偏光板1」、「液晶化合物を含む位相差層2」、「液晶化合物を含む位相差層3」、「位相差層付偏光板5」及び「活性エネルギー線硬化型接着剤」は、それぞれ、本件特許発明1の「偏光板」、「第1の位相差層」、「第2の位相差層」、「位相差層付き偏光板」及び「紫外線硬化型接着剤」に相当する。
(イ)甲1の【0104】に記載された接着層A形成用溶液の作製方法は、本件特許明細書の【0061】に記載された、第2の粘着剤層形成用の粘着剤B組成物溶液の作製方法と同じであるから、甲1発明の「最外層として位相差層3に設けられた接着層A」は粘着剤層であるといえる。
そうすると、甲1発明の「最外層として位相差層3に設けられた接着層A」は、本件特許発明1の「第2粘着剤層」に相当し、本件特許発明1の「前記第2の粘着剤層は、ベースポリマー中にアルキル(メタ)アクリレートを70重量%以上含む粘着剤で構成され、25℃における弾性率が5.0×105Pa以下である」という要件を満たしている。
(ウ)上記(ア)及び(イ)を踏まえると、甲1発明と本件特許発明1とは、「偏光板と、第1の位相差層と、」「第2の位相差層と、第2の粘着剤層とをこの順に有[する]」点で共通する。
(エ)上記(ア)及び(イ)を踏まえると、甲1発明は、本件特許発明1の「前記偏光板と前記第1の位相差層とは、紫外線硬化型接着剤を介して貼り合わされており、前記第1の位相差層および前記第2の位相差層が液晶化合物を含[む]」という要件を満たしている。
イ 一致点・相違点
上記アによると、本件特許発明1と甲1発明は、下記(ア)の点において一致し、また、下記(イ)の点で相違する。
(ア)一致点
「偏光板と、第1の位相差層と、第2の位相差層と、第2の粘着剤層とをこの順に有し、
前記偏光板と前記第1の位相差層とは、紫外線硬化型接着剤を介して貼り合わされており、
前記第1の位相差層および前記第2の位相差層が液晶化合物を含み、
前記第2の粘着剤層は、ベースポリマー中にアルキル(メタ)アクリレートを70重量%以上含む粘着剤で構成され、25℃における弾性率が5.0×105Pa以下である、
位相差層付き偏光板。」
(イ)相違点
本件特許発明1は、「第1の位相差層と、第1の粘着剤層と、第2の位相差層と」「をこの順に有し、」「前記第1の粘着剤層は、厚みが8μm以下であり、25℃における弾性率が105Pa~106Paであ[る]」のに対し、甲1発明は、液晶化合物を含む位相差層2と、位相差層2と位相差層3とを接着する厚み1.0μm程度の活性エネルギー線硬化型接着剤の層(接着層D)と、液晶化合物を含む位相差層3とをこの順に有し、位相差層2と位相差層3とを接着する活性エネルギー線硬化型接着剤の層(接着層D)は、厚みが1.0μm程度で、25℃における弾性率が不明である点。
ウ 判断
上記相違点について検討する。
甲1発明の「位相差層2と位相差層3とを接着する厚み1.0μm程度の活性エネルギー線硬化型接着剤の層(接着層D)」を別の接着剤を用いた層に置き換える動機付けは、甲1に記載されていない。なお、甲1の【0084】には「D-2.その他の接着層 本発明の位相差層付偏光板を構成する各層の積層に用いられる他の接着層(図示せず)は、任意の適切な接着剤または粘着剤で構成され得る。好ましくは、他の接着層の平均線膨張係数は、第2の接着層の平均線膨張係数よりも小さい」と記載されているが、この記載は、甲1発明のような、完成後の「位相差層付き偏光板」の一部の接着層を別の接着剤又は粘着剤を用いた層に置き換えることを意味していない。
また、上記相違点に係る構成(甲1発明のような位相差層付偏光板において、第1の位相差層と、厚みが8μm以下であり、25℃における弾性率が105Pa~106Paである第1の粘着剤層と、第2の位相差層とをこの順に設けること)は、特許異議申立人が提出した甲1~甲3のいずれにも記載も示唆もされていないし、同構成が公知の技術、周知慣用技術又は技術常識であることを示す他の証拠を発見することもできない。
したがって、甲1発明において、相違点に係る本件特許発明1の構成とすることは、当業者が容易になし得たことであるとはいえない。
また、甲2~甲3の記載内容を検討しても上記判断を左右するものはない。
エ 小括
本件特許発明1は、甲1~甲3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(3)本件特許発明2~3について
本件特許の特許請求の範囲の請求項2~3は、いずれも、請求項1を直接的又は間接的に引用するものであって、本件特許発明2~3は、本件特許発明1の構成を全て具備し、これに限定を加えたものに該当する。そうすると、上記(2)のとおり、本件特許発明1が、甲1~甲3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない以上、本件特許発明2~3も、甲1~甲3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(4)まとめ
以上のとおりであるから、請求項1~3に係る特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものではない。
2 サポート要件違反について
(1)サポート要件の判断基準
特許請求の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載を対比し、特許請求の範囲で特定された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきである。
(2)サポート要件についての判断
本件特許明細書の【0004】の記載からみて、本件特許発明(上記「第2」参照)が解決しようとする課題は、「耐熱性に優れ、キズが入りにくく、カールしにくい位相差層付き偏光板、および、そのような位相差層付き偏光板を用いた有機EL表示装置を提供する」ことであると認められる。
そして、本件特許明細書の【実施例】【0054】~【0083】に記載された実施例、参考例及び比較例の評価結果に関する記載(【0081】、【0082】【表2】、【0083】等)に基づけば、当業者は、請求項1~3に記載された発明特定事項を備える本件特許発明が、耐熱性に優れ(ヒートショック試験及び加熱試験の結果が「○」)、キズが入りにくく(キズ試験で生じたキズの数が相対的に少ない)、カールしにくい(カール試験の結果が「○」)ものであると認識することができるというべきである。そうすると、本件特許発明は、当業者が上記課題を解決できると認識できる範囲のものであり、発明の詳細な説明に記載された発明であると認められる。
したがって、本件特許の特許請求の範囲の記載は明細書のサポート要件に適合する。
(3)まとめ
本件特許は、特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものではない。
3 明確性要件違反について
(1)明確性要件の判断基準
特許法36条6項2号の定める要件を充足するか否かは、すなわち、発明が明確であるか否かは、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願当時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。
(2)明確性要件についての判断
本件特許の本件特許の特許請求の範囲及び明細書には、「25℃における弾性率」を測定する周波数についての記載はない。
しかしながら、本件特許についての出願の審査手続における、令和6年1月26日提出の意見書には、追加実験(「本願の製造例4で得られた粘着剤A、および、製造例5で得られた粘着剤Bのそれぞれについて、動的粘弾性測定装置(商品名:ARES)により、周波数1Hzかつ下記表に示す昇温速度で貯蔵弾性率G’の温度依存性を測定し、25℃における測定値G’(25℃)を弾性率とした」)及びその結果が記載されているところ、当該結果によれば、本件特許発明における「25℃における弾性率」は「周波数1Hz」で測定されていることは、当業者にとって明らかである。
したがって、本件特許の特許請求の範囲の記載が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるとはいえない。
(3)まとめ
本件特許は、特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものではない。
第5 むすび
請求項1~3に係る特許は、いずれも、特許異議申立書に記載した特許異議申立理由及び証拠によっては取り消すことはできない。
また、他に請求項1~3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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