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特許異議申立

2023-700109

位相差層付偏光板およびそれを用いた画像表示装置

審判番号
2023-700109
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2020-160882
登録番号
7114664
請求日
2023年02月02日
審決日
2024年04月01日
公報発行日
2024年07月26日
結論
訂正認容
当事者
  • 【権利者】日東電工株式会社
  • 【権利者代理人】籾井 孝文
  • 【異議申立人】寺澤 佳奈美
審判長/審判官
  • 審判長 里村 利光
  • 審判官 宮澤 浩
  • 審判官 神谷 健一
分類
P1651.113-YAA(G02B) / P1651.121-YAA(G02B) / P1651.536-YAA(G02B) / P1651.537-YAA(G02B)
根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
特許法120条の8第1項特許法135条
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条、特許法第120条の5第2項、特許法第36条、特許法第17条の2第3項、特許法第120条の5第7項、特許法第29条第2項、特許法第120条の8第1項
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特許第7114664号発明「位相差層付偏光板およびそれを用いた画像表示装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

結 論 特許第7114664号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-13〕について訂正することを認める。 特許第7114664号の請求項1ないし4、6ないし13に係る特許を維持する。 特許第7114664号の請求項5に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。

理由

理 由 第1 手続等の経緯 特許第7114664号(以下「本件特許」という。)の請求項1~13に係る特許についての出願は、令和2年9月25日(優先権主張 令和2年1月24日)に特許出願され、令和4年7月29日にその特許権の設定登録がされ、令和4年8月8日に特許掲載公報が発行された。 本件特許について、令和5年2月2日に、特許異議申立人 寺澤佳奈美(以下「申立人」という。)から全請求項に対して特許異議の申立がされた。その後の手続き等の概要は以下のとおりである。 令和 5年 5月30日付け:取消理由通知書 令和 5年 7月28日 :訂正請求書の提出 意見書(特許権者)の提出 令和 5年 9月20日 :意見書(申立人)の提出 令和 5年10月31日付け:取消理由通知書<決定の予告> 令和 5年12月27日 :訂正請求書(以下「本件訂正請求」 という。)の提出 意見書(特許権者)の提出 なお、申立人に対し、令和6年1月12日に提出された訂正請求書による訂正請求があった旨の通知をしたが、指定した期間内に、申立人からの意見書の提出はなかった。 また、令和5年7月28日に提出された訂正請求書は、特許法第120条の5第7項の規定により、取り下げられたものとみなす。 第2 本件訂正請求 1 訂正の趣旨及び訂正の内容 (1)訂正の趣旨 本件訂正請求の趣旨は、特許第7114664号の明細書、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正明細書、特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~13について訂正することを求める、というものである。 (2)訂正の内容 本件訂正請求において特許権者が求める訂正の内容は、以下の通りである。 ア 訂正事項1-1 特許請求の範囲の請求項1に、 「偏光子を含む偏光板と、位相差層と、粘着剤層と、を視認側からこの順に有し、 該位相差層が、該偏光子と組み合わされて円偏光機能または楕円偏光機能を奏する液晶化合物の配向固化層であり、 該偏光子はヨウ素を含有し、 該偏光子と該粘着剤層との間に、有機溶媒に溶解可能な熱可塑性樹脂から構成されているヨウ素透過抑制層(液晶化合物を配向させるための配向膜を除く)が設けられており、 該ヨウ素透過抑制層を構成する樹脂のガラス転移温度が85℃以上であり、かつ、重量平均分子量Mwが25000以上である、 位相差層付偏光板。」 と記載されているのを、 「 偏光子を含む偏光板と、位相差層と、粘着剤層と、を視認側からこの順に有し、 該位相差層が、該偏光子と組み合わされて円偏光機能または楕円偏光機能を奏する液晶化合物の配向固化層であり、 該偏光子はヨウ素を含有し、 該偏光子と該粘着剤層との間に、有機溶媒に溶解可能な熱可塑性樹脂から構成されているヨウ素透過抑制層(液晶化合物を配向させるための配向膜を除く)が設けられており、 該熱可塑性樹脂は、エポキシ系樹脂のみからなり、 該熱可塑性樹脂のガラス転移温度が110℃以上であり、かつ、重量平均分子量Mwが25000以上150000以下である、 位相差層付偏光板。」 に訂正する(請求項1の記載を引用して記載された請求項2、4、7~13についても、同様に訂正する。)。 イ 訂正事項1-2 特許請求の範囲の請求項3に、 「前記ヨウ素透過抑制層が、前記位相差層と前記粘着剤層との間に設けられている、請求項1に記載の位相差層付偏光板。」 と記載されているのを、 「 偏光子を含む偏光板と、位相差層と、粘着剤層と、を視認側からこの順に有し、 該位相差層が、該偏光子と組み合わされて円偏光機能または楕円偏光機能を奏する液晶化合物の配向固化層であり、 該偏光子はヨウ素を含有し、 該偏光子と該粘着剤層との間に、有機溶媒に溶解可能な熱可塑性樹脂から構成されているヨウ素透過抑制層(液晶化合物を配向させるための配向膜を除く)が設けられており、 該熱可塑性樹脂は、アクリル系樹脂および/またはエポキシ系樹脂を含み、 該熱可塑性樹脂のガラス転移温度が110℃以上であり、かつ、重量平均分子量Mwが25000以上150000以下であり、 該ヨウ素透過抑制層が、該位相差層と該粘着剤層との間に設けられている、位相差層付偏光板。」 に訂正する(請求項3の記載を引用して記載された請求項4、7~13についても、同様に訂正する。) ウ 訂正事項1-3 特許請求の範囲の請求項6に、 「前記ヨウ素透過抑制層を構成する樹脂が、50重量部を超える(メタ)アクリル系単量体と0重量部を超えて50重量部未満の式(1)で表される単量体とを含むモノマー混合物を重合することにより得られる共重合体を含む、請求項1から5のいずれかに記載の位相差層付偏光板:」 と記載されているのを、 「 偏光子を含む偏光板と、位相差層と、粘着剤層と、を視認側からこの順に有し、 該位相差層が、該偏光子と組み合わされて円偏光機能または楕円偏光機能を奏する液晶化合物の配向固化層であり、 該偏光子はヨウ素を含有し、 該偏光子と該粘着剤層との間に、有機溶媒に溶解可能な熱可塑性樹脂から構成されているヨウ素透過抑制層(液晶化合物を配向させるための配向膜を除く)が設けられており、 該熱可塑性樹脂は、アクリル系樹脂および/またはエポキシ系樹脂を含み、 該熱可塑性樹脂のガラス転移温度が110℃以上であり、かつ、重量平均分子量Mwが25000以上150000以下であり、 該ヨウ素透過抑制層を構成する樹脂が、50重量部を超える(メタ)アクリル系単量体と0重量部を超えて50重量部未満の式(1)で表される単量体とを含むモノマー混合物を重合することにより得られる共重合体を含む、位相差層付偏光板:」 に訂正する(請求項6の記載を引用して記載された請求項7~13についても、同様に訂正する。) エ 訂正事項1-4 特許請求の範囲の請求項5を削除する。併せて、請求項7~12において、従属関係を整える訂正を行う。 オ 訂正事項2 明細書の段落【0102】、【0119】、及び、【0120】における「実施例4」の記載を「参考例4」に訂正する。 (3)一群の請求項 本件訂正請求は、一群の請求項〔1~13〕に対して請求されたものである。 (4)訂正の適否 ア 訂正事項1-1 (ア)訂正の目的 訂正事項1-1は、「熱可塑性樹脂」について、「エポキシ系樹脂」のみからなる点を限定し、ガラス転移温度の範囲を、「85℃以上」から「110℃以上」に変更し、重量平均分子量Mwの範囲について「150000以下」であることを特定する訂正事項を含んでいる。これらの訂正事項は、いずれも、訂正前の請求項1に係る発明の構成要件である「熱可塑性樹脂」の範囲を減縮するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号の「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものといえる。 また、訂正事項1-1は、訂正前の「該ヨウ素透過抑制層を構成する樹脂」を「該熱可塑性樹脂」に変更する訂正事項を含んでいる。当該訂正事項は、ガラス転移温度等が特定される樹脂について、ヨウ素透過抑制層を構成する「熱可塑性樹脂」であることを明確にするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号の「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものといえる。 請求項1の記載を引用する各請求項についても同様である。 (イ)願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内であること 訂正事項1-1は、本件特許の願書に添付した明細書の段落【0051】及び【0052】に記載された範囲内においてしたものといえる。 (ウ)実質上特許請求の範囲の拡張し又は変更する訂正ではないこと 訂正事項1-1は、前記(ア)に記載したとおり、特許請求の範囲の減縮及び明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。そうすると、特許請求の範囲を拡張又は変更するものでないことは明らかである。 イ 訂正事項1-2 (ア)訂正の目的 訂正事項1-2は、訂正前の請求項3が、訂正前の請求項1を引用する記載であったものを、請求項間の引用関係を解消して、独立項に改める訂正事項を含んでいる。そうすると、訂正事項1-2は、特許法第120条の5第2項ただし書第4号の「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とするものといえる。 また、訂正事項1-2は、「熱可塑性樹脂」について、「アクリル系樹脂および/またはエポキシ系樹脂」を含む点を限定し、ガラス転移温度の範囲を、「85℃以上」から「110℃以上」に変更し、重量平均分子量Mwの範囲について「150000以下」であることを特定する訂正事項を含んでいる。これらの訂正事項は、いずれも、訂正前の請求項3に係る発明の構成要件である「熱可塑性樹脂」の範囲を減縮するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号の「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものといえる。 さらに、訂正事項1-2は、訂正前の「該ヨウ素透過抑制層を構成する樹脂」を「該熱可塑性樹脂」に変更する訂正事項を含んでいる。当該訂正事項は、ガラス転移温度等が特定される樹脂について、ヨウ素透過抑制層を構成する「熱可塑性樹脂」であることを明確にするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号の「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものといえる。 請求項3の記載を引用する各請求項についても同様である。 (イ)願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内であること 訂正事項1-2は、本件特許の願書に添付した明細書の段落【0051】及び【0052】に記載された範囲内においてしたものといえる。 (ウ)実質上特許請求の範囲の拡張し又は変更する訂正ではないこと 訂正事項1-2は、前記(ア)に記載したとおり、特許請求の範囲の減縮及び明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。そうすると、特許請求の範囲を拡張又は変更するものでないことは明らかである。 ウ 訂正事項1-3 (ア)訂正の目的 訂正事項1-3は、訂正前の請求項6が、訂正前の請求項1を引用する記載であったものを、請求項間の引用関係を解消して、独立項に改める訂正事項を含んでいる。そうすると、訂正事項1-3は、特許法第120条の5第2項ただし書第4号の「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とするものといえる。 また、訂正事項1-3は、「熱可塑性樹脂」について、「アクリル系樹脂および/またはエポキシ系樹脂」を含む点を限定し、ガラス転移温度の範囲を、「85℃以上」から「110℃以上」に変更し、重量平均分子量Mwの範囲について「150000以下」であることを特定する訂正事項を含んでいる。これらの訂正事項は、いずれも、訂正前の請求項6に係る発明の構成要件である「熱可塑性樹脂」の範囲を減縮するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号の「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものといえる。 さらに、訂正事項1-3は、訂正前の「該ヨウ素透過抑制層を構成する樹脂」を「該熱可塑性樹脂」に変更する訂正事項を含んでいる。当該訂正事項は、ガラス転移温度等が特定される樹脂について、ヨウ素透過抑制層を構成する「熱可塑性樹脂」であることを明確にするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号の「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものといえる。 請求項6の記載を引用する各請求項についても同様である。 (イ)願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内であること 訂正事項1-3は、本件特許の願書に添付した明細書の段落【0051】及び【0052】に記載された範囲内においてしたものといえる。 (ウ)実質上特許請求の範囲の拡張し又は変更する訂正ではないこと 訂正事項1-3は、前記(ア)に記載したとおり、特許請求の範囲の減縮及び明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。そうすると、特許請求の範囲を拡張又は変更するものでないことは明らかである。 エ 訂正事項1-4 (ア)訂正の目的 訂正事項1-4は、訂正前の特許請求の範囲の請求項5を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号の「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものといえる。また、請求項5の記載を引用していた各請求項について、請求項5が削除されたことにより、整合しなくなった従属関係を、整合させるものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号の「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものといえる。 (イ)願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項 訂正事項1-4は、請求項5を削除し、それに併せて、従属関係を整えるものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであることは明らかである。 (ウ)特許請求の範囲の拡張又は変更 訂正事項1-4は、請求項5を削除し、それに併せて、従属関係を整えるものであるから、特許請求の範囲の拡張又は変更するものでないことは明らかである。 オ 訂正事項2 (ア)訂正の目的 訂正事項2は、訂正前の特許請求の範囲の請求項5が削除されたことにより、実施例4が特許請求の範囲に含まれないことになったことに伴い、「参考例4」と変更するものである。したがって、訂正事項2は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号の「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものといえる。 (イ)願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項 訂正事項2は、前記(ア)に記載したとおり、明瞭でない記載の釈明をするものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであることは明らかである。 (ウ)特許請求の範囲の拡張又は変更 訂正事項2は、前記(ア)に記載したとおり、明細書の記載について、明瞭でない記載の釈明をするものであるから、特許請求の範囲の拡張又は変更するものでないことは明らかである。 (5)小括 以上のとおり、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書、同法同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。 よって、本件特許の明細書、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正明細書、特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~13〕について訂正することを認める。 第3 本件特許発明 前記「第2」のとおり、本件訂正請求による訂正は認められることになったから、本件特許の請求項1~4、6~13にかかる発明(以下、それぞれ「本件特許発明1」等という。)は、本件訂正請求による訂正後の特許請求の範囲1~4、6~13に記載された事項により特定される、次のとおりのものであると認める。 なお、請求項5は、訂正により削除された。 「【請求項1】 偏光子を含む偏光板と、位相差層と、粘着剤層と、を視認側からこの順に有し、 該位相差層が、該偏光子と組み合わされて円偏光機能または楕円偏光機能を奏する液晶化合物の配向固化層であり、 該偏光子はヨウ素を含有し、 該偏光子と該粘着剤層との間に、有機溶媒に溶解可能な熱可塑性樹脂から構成されているヨウ素透過抑制層(液晶化合物を配向させるための配向膜を除く)が設けられており、 該熱可塑性樹脂は、エポキシ系樹脂のみからなり、 該熱可塑性樹脂のガラス転移温度が110℃以上であり、かつ、重量平均分子量Mwが25000以上150000以下である、 位相差層付偏光板。 【請求項2】 前記ヨウ素透過抑制層が、前記偏光子と前記位相差層との間に設けられている、請求項1に記載の位相差層付偏光板。 【請求項3】 偏光子を含む偏光板と、位相差層と、粘着剤層と、を視認側からこの順に有し、 該位相差層が、該偏光子と組み合わされて円偏光機能または楕円偏光機能を奏する液晶化合物の配向固化層であり、 該偏光子はヨウ素を含有し、 該偏光子と該粘着剤層との間に、有機溶媒に溶解可能な熱可塑性樹脂から構成されているヨウ素透過抑制層(液晶化合物を配向させるための配向膜を除く)が設けられており、 該熱可塑性樹脂は、アクリル系樹脂および/またはエポキシ系樹脂を含み、 該熱可塑性樹脂のガラス転移温度が110℃以上であり、かつ、重量平均分子量Mwが25000以上150000以下であり、 該ヨウ素透過抑制層が、該位相差層と該粘着剤層との間に設けられている、位相差層付偏光板。 【請求項4】 前記ヨウ素透過抑制層の厚みが0.05μm~10μmである、請求項1から3のいずれかに記載の位相差層付偏光板。 【請求項6】 偏光子を含む偏光板と、位相差層と、粘着剤層と、を視認側からこの順に有し、 該位相差層が、該偏光子と組み合わされて円偏光機能または楕円偏光機能を奏する液晶化合物の配向固化層であり、 該偏光子はヨウ素を含有し、 該偏光子と該粘着剤層との間に、有機溶媒に溶解可能な熱可塑性樹脂から構成されているヨウ素透過抑制層(液晶化合物を配向させるための配向膜を除く)が設けられており、 該熱可塑性樹脂は、アクリル系樹脂および/またはエポキシ系樹脂を含み、 該熱可塑性樹脂のガラス転移温度が110℃以上であり、かつ、重量平均分子量Mwが25000以上150000以下であり、 該ヨウ素透過抑制層を構成する樹脂が、50重量部を超える(メタ)アクリル系単量体と0重量部を超えて50重量部未満の式(1)で表される単量体とを含むモノマー混合物を重合することにより得られる共重合体を含む、位相差層付偏光板: 【化1】 [図:0001412277000001.jpg] (式中、Xはビニル基、(メタ)アクリル基、スチリル基、(メタ)アクリルアミド基、ビニルエーテル基、エポキシ基、オキセタン基、ヒドロキシル基、アミノ基、アルデヒド基、および、カルボキシル基からなる群より選択される少なくとも1種の反応性基を含む官能基を表し、R1およびR2はそれぞれ独立して、水素原子、置換基を有していてもよい脂肪族炭化水素基、置換基を有していてもよいアリール基、または、置換基を有していてもよいヘテロ環基を表し、R1およびR2は互いに連結して環を形成してもよい)。 【請求項7】 前記位相差層が単一層であり、 該位相差層のRe(550)が100nm~190nmであり、 該位相差層の遅相軸と前記偏光子の吸収軸とのなす角度が40°~50°である、 請求項1から4および6のいずれかに記載の位相差層付偏光板。 【請求項8】 前記位相差層が、第1の液晶化合物の配向固化層と第2の液晶化合物の配向固化層との積層構造を有し、 該第1の液晶化合物の配向固化層のRe(550)が200nm~300nmであり、その遅相軸と前記偏光子の吸収軸とのなす角度が10°~20°であり、 該第2の液晶化合物の配向固化層のRe(550)が100nm~190nmであり、その遅相軸と該偏光子の吸収軸とのなす角度が70°~80°である、 請求項1から4および6のいずれかに記載の位相差層付偏光板。 【請求項9】 前記位相差層と前記粘着剤層との間に別の位相差層をさらに有し、該別の位相差層の屈折率特性がnz>nx=nyの関係を示す、請求項1から4および6から8のいずれかに記載の位相差層付偏光板。 【請求項10】 前記ヨウ素透過抑制層と前記粘着剤層との間に導電層または導電層付等方性基材をさらに有する、請求項1から4および6から9のいずれかに記載の位相差層付偏光板。 【請求項11】 総厚みが60μm以下である、請求項1から4および6から10のいずれかに記載の位相差層付偏光板。 【請求項12】 請求項1から4および6から11のいずれかに記載の位相差層付偏光板を備える、画像表示装置。 【請求項13】 有機エレクトロルミネセンス表示装置または無機エレクトロルミネセンス表示装置である、請求項12に記載の画像表示装置。」 第4 取消理由に記載した取消理由 1 取消理由の概要 (1)令和5年10月31日付け取消理由<決定の予告> 令和5年7月31日付けの訂正請求書の訂正特許請求の範囲に記載された発明に対して、令和5年10月31日付け取消理由通知書で通知した取消理由は、概略次のとおりである。 甲13発明を主引用発明とする進歩性違反 本件特許の請求項1,2,4,7~13に係る発明は、本件特許の優先権主張に係る先の出願前に、日本国内又は外国において頒布された、以下の刊行物に記載された発明又は電気通信回路を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その優先権主張の日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、当該請求項に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。 引用文献等一覧 甲13:国際公開第2007/032304号 甲7 :国際公開第2013/137464号(周知技術を示す文献) 甲8 :特開2018-17996号公報 (周知技術を示す文献) 甲9 :特開2014-123099号公報 (周知技術を示す文献) 甲11:特開2015-207377号公報 (周知技術を示す文献) (2)令和5年5月30日付け取消理由 訂正前の特許請求の範囲に記載された発明に対して、令和5年5月30日付け取消理由通知で通知した取消理由は、概略以下のとおりである 委任省令要件違反 本件特許のヨウ素透過抑制層を構成する樹脂の「ガラス転移温度」及び「重量平均分子量」について、数値範囲を特定することの技術上の意義が不明であり、当業者が発明の技術上の意義を理解するために必要な事項が発明の詳細な説明に記載されているとはいえない(委任省令要件を満たしているとはいえない。)から、発明の詳細な説明の記載が特許法36条4項1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 甲1発明を主引用発明とする進歩性違反 本件特許の請求項1~5、7~13に係る発明は、本件特許の優先権主張に係る先の出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、当該請求項に係る特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものである。 引用文献等一覧 甲1:国際公開第2014/199934号 甲2:木津巧一、「環状オレフィン系樹脂「アペル」の特徴と用途展開」 、日本画像学会誌、2016年、第55巻、第2号、第236~2 42頁 甲3:特開2007-301986号公報 (周知技術を示す文献) 甲4:特開2018-54999号公報 (周知技術を示す文献) 甲5:特開2017-68235号公報 (周知技術を示す文献) 甲6:特開2016-224307号公報 (周知技術を示す文献) 甲7:国際公開第2013/137464号(周知技術を示す文献) 甲8:特開2018-17996号公報 (周知技術を示す文献) 甲9:特開2014-123099号公報 (周知技術を示す文献) 甲10:特開2015-163938号公報(周知技術を示す文献) 甲11:特開2015-207377号公報(周知技術を示す文献) 2 甲13発明を主引用発明とする進歩性違反についての当審の判断 (1)甲13発明 甲13には、請求項1、請求項12、及び、請求項15の記載を引用する請求項16に係る発明として、次の発明(以下「甲13発明」という。)が記載されていると認められる。 「 偏光板と第1の光学補償層と第2の光学補償層とをこの順に有し、 該偏光板が、ポリビニルアルコール系樹脂から形成される偏光子の少なくとも片面に、下記一般式(1)で表される構造単位と下記一般式(2)で表される構造単位とを含んでなるアクリル樹脂を含む偏光子保護フィルムを有し、 [化1] [図:0001412277000002.jpg] (一般式(1)中、R1は、水素原子または炭素数1~5のアルキル基を表し、R2は、炭素数1~5の脂肪族または脂環式炭化水素基を表す。) [化2] [図:0001412277000003.jpg] (一般式(2)中、R3、R4は、同一または相異なる水素原子または炭素数1~5のアルキル基を表す。) 該第1の光学補償層が、λ/2板として機能し、該偏光子の吸収軸と該第1の光学補償層の遅相軸とのなす角度αが+8°~+38°または-8°~-38°であり、面内位相差Δnd1が180~300nmであり、 該第2の光学補償層が、λ/4板として機能し、該偏光子の吸収軸と該第2の光学補償層の遅相軸とのなす角度βが+61°~+121°または-31°~+29°であり、面内位相差Δnd2が90~180nmであり、 前記偏光子の両面に前記偏光子保護フィルムを有し、 最外層の少なくとも一方として粘着剤層をさらに有し、 最外層の一方にハードコート層をさらに有する、光学補償層付偏光板。」 (2)本件特許発明1について ア 対比 本件特許発明1と甲13発明とを対比する。 (ア)偏光板 甲13発明は、偏光子の少なくとも片面に、一般式(1)で表される構造単位と一般式(2)で表される構造単位とを含んでなるアクリル樹脂を含む偏光子保護フィルムを有する「偏光板」を具備しており、さらに、「前記偏光子の両面に前記偏光子保護フィルムを有」するとされている。そうすると、甲13発明は、偏光子の片面に偏光子保護フィルムを有する「偏光板」と、当該「偏光板」の偏光子側に別途設けられた「偏光子保護フィルム」を有していると理解できる。 ここで、甲13発明の、偏光子の片面に偏光子保護フィルムを有する「偏光板」は、偏光子を含んでなり、偏光機能を有する板であるといえるから、本件特許発明1の「偏光子を含む偏光板」に相当する。 (イ)位相差層 甲13発明の「第1の光学補償層」及び「第2の光学補償層」は、それぞれ、「λ/2板」及び「λ/4板」として機能するものであって、面内位相差Δnd1及びΔnd2を有するものである。そうすると、甲13発明の「第1の光学補償層」及び「第2の光学補償層」は、いずれも、位相差層として機能するものであると理解できる。したがって、甲13発明の「第1の光学補償層」及び「第2の光学補償層」は、いずれも、本件特許発明1の「位相差層」に相当する。 (ウ)位相差層付偏光板 甲13発明は「光学補償層付偏光板」である。そして、甲13発明の「光学補償層」は、上記のとおり、位相差層として機能するものである。そうすると、甲13発明の「光学補償層付偏光板」は、本件特許発明1の「位相差層付偏光板」に相当するといえる。 (エ)各層の配置順 甲13発明の「粘着剤層」及び「ハードコート層」は、いずれも、「光学補償層付偏光板」の最外層として構成されるものであるから、必然的に、「ハードコート層」と「粘着剤層」とは、それぞれ、「光学補償層付偏光板」の別の面に配置されると理解できる。 ここで、甲13発明の「粘着剤層」は、技術的にみて、本件特許発明の「粘着剤層」に相当する。 そして、「ハードコート層」は、通常、視認側に設けられるものであるから、甲13発明は、視認側から順に、「ハードコート層」、「偏光子の片面に偏光子保護フィルムを有する偏光板」、「偏光子保護フィルム」、「粘着剤層」が設けられていると理解できる。そうすると、甲13発明は、本件特許発明1の「偏光子を含む偏光板と、位相差層と、粘着剤層と、を視認側からこの順に有し、」とする要件のうち、「偏光子を含む偏光板と、粘着剤層と、を視認側からこの順に有し、」とする要件を満たす点で共通するといえる。 (オ)熱可塑性樹脂から構成されている層 甲13発明の偏光子の両面に配置された偏光子保護フィルムのうち、「ハードコート層」側の偏光子保護フィルムを「偏光板」に含まれる偏光子保護フィルムとすると、「偏光板」とは別に設けられた「偏光子保護フィルム」は、「偏光子」と「粘着剤層」との間に配置されることになる。また、甲13発明の「偏光子保護フィルム」は、一般式(1)で表される構造単位と一般式(2)で表される構造単位とを含んでなるアクリル樹脂を含むものである。当該構造単位を含むアクリル樹脂は、技術的にみて、熱可塑性樹脂であるといえる。したがって、甲13発明において、「偏光板」とは別に設けられた「偏光子保護フィルム」に含まれる「アクリル樹脂」は、本件特許発明1の「熱可塑性樹脂」に相当する。そして、当該「偏光子保護フィルム」は、技術的にみて、熱可塑性樹脂から構成される層を構成するものの、液晶化合物を配向させるための配向膜には該当しない。 そうすると、本件特許発明1の「該偏光子と該粘着剤層との間に、有機溶媒に溶解可能な熱可塑性樹脂から構成されているヨウ素透過抑制層(液晶化合物を配向させるための配向膜を除く)」と甲13発明の「偏光板」とは別に設けられた「偏光子保護フィルム」とは、「該偏光子と該粘着剤層との間に、熱可塑性樹脂から構成されている層(液晶化合物を配向させるための配向膜を除く)」である点で共通する。 (カ)一致点及び相違点 以上より、本件特許発明1と甲13発明とは、次の点で一致し、以下の点で相違する。 一致点 「偏光子を含む偏光板と、粘着剤層と、を視認側からこの順に有し、 位相差層を有し、 該偏光子と該粘着剤層との間に、熱可塑性樹脂から構成されている層(液晶化合物を配向させるための配向膜を除く)が設けられている、 位相差層付偏光板。」 [相違点13-1-1] 本件特許発明1では、偏光子を含む偏光板と、位相差層と、粘着剤層と、を視認側からこの順に有するのに対し、甲13発明では、第1の光学補償層及び第2の光学補償層が、偏光板及び粘着剤層に対し、どのような順で配置されるのかを特定していない点。 [相違点13-1-2] 本件特許発明1の位相差層が、「該偏光子と組み合わされて円偏光機能または楕円偏光機能を奏する液晶化合物の配向固化層」であるのに対し、甲13発明の「第1の光学補償層」及び「第2の光学補償層」が、偏光子と組み合わされて円偏光機能または楕円偏光機能を奏するものであること、及び、液晶化合物の配向固化層であることが、特定されていない点。 [相違点13-1-3] 偏光子について、本件特許発明1では「偏光子はヨウ素を含有」すると特定されるのに対し、甲13発明ではヨウ素を含有することが、特定されていない点。 [相違点13-1-4] 偏光子と粘着剤層との間に設けられた層について、本件特許発明1は「ヨウ素透過抑制」層であるのに対し、甲13発明の一般式(1)で表される構造単位と一般式(2)で表される構造単位とを含んでなるアクリル樹脂を含む偏光子保護フィルムであって、ヨウ素透過抑制層であるとされていない点。 [相違点13-1-5] 偏光子と粘着剤層との間に設けられた層を構成する熱可塑性樹脂について、本件特許発明1では、「有機溶媒に溶解可能」であって「エポキシ系樹脂のみ」からなり、「ガラス転移温度が110℃以上であり、かつ、重量平均分子量Mwが25000以上150000以下である」とされているのに対し、甲13発明では、有機溶媒に溶解可能であることが特定されておらず、アクリル樹脂を含むものであり、ガラス転移温度及び重量平均分子量も特定されていない点。 イ 判断 事案に鑑みて、[相違点13-1-5]について検討する。 甲13には、発明が解決しようとする課題として、段落[0004]に、「本発明は上記従来の課題を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、薄型化に寄与し、耐久性が高く、カラーシフトが小さく、色ムラが少なく、黒表示における光漏れを良好に防止してコントラストが向上し得る光学補償層付偏光板、および、そのような光学補償層付偏光板を用いた液晶パネル、画像表示装置を提供することである。」と記載されている。そして、課題を解決するための手段として、段落[0005]に、「該偏光板が、ポリビニルアルコール系?脂から形成される偏光子の少なくとも片面に、下記一般式(1)で表される構造単位と下記一般式(2)で表される構造単位とを含んでなるアクリル?脂を含む偏光子保護フィルム」(一般式(1)及び一般式(2)は、前記2(1)において認定した甲13発明の[化1]及び[化2]であり、ここでは省略する。)を有することが記載されている。 当該記載に基づけば、甲13発明は、一般式(1)で表される構造単位と一般式(2)で表される構造単位とを含んでなるアクリル樹脂を、課題解決のための必須の手段とするものである。そうすると、当業者といえども、甲13発明の熱可塑性樹脂を「エポキシ系樹脂のみ」とし、課題解決のための必須の手段とされた上記アクリル樹脂を含まないものとする動機付けがあるとはいえない。そして、甲13発明から、一般式(1)で表される構造単位と一般式(2)で表される構造単位とを含んでなるアクリル樹脂に代えて「エポキシ系樹脂のみ」を採用すると、上記課題が解決できなくなるから、そのような材料変更には阻害要因があるといえる。 したがって、甲13発明において、上記[相違点13-1-5]に係る本件特許発明1の構成を採用することは、当業者であっても容易になし得たことではないから、本件特許発明1に係る特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものとはいえない。 (3)本件特許発明1の記載を引用する本件特許発明2、4、7~13について 本件特許発明1の記載を引用する本件特許発明2、4、7~13は、いずれも、本件特許発明1に限定を付した発明に該当する。そうすると、本件特許発明2、4、7~13と甲13発明とを対比した場合、両者は少なくとも上記[相違点13-1-5]で相違し、上記のとおり、甲13発明において、上記[相違点13-1-5]に係る本件発明発明1の構成を採用することは、当業者であっても容易になし得たことではない。したがって、本件特許発明2、4、7~13に係る特許も、同じ理由により、特許法29条2項の規定に違反してされたものとはいえない。 (4)本件特許発明3について ア 対比 本件特許発明3と甲13発明とを対比する。 (ア)偏光板 前記(2)ア(ア)と同様のことがいえる。 (イ)位相差層 前記(2)ア(イ)と同様のことがいえる。 (ウ)位相差層付偏光板 前記(2)ア(ウ)と同様のことがいえる。 (エ)各層の配置順 甲13発明の「粘着剤層」及び「ハードコート層」は、いずれも、「光学補償層付偏光板」の最外層として構成されるものであるから、必然的に、「ハードコート層」と「粘着剤層」とは、それぞれ、「光学補償層付偏光板」の別の面に構成されると理解できる。 ここで、甲13発明の「粘着剤層」は、技術的にみて、本件特許発明の「粘着剤層」に相当する。 そして、「ハードコート層」は、通常、視認側に設けられるものであるから、甲13発明は、視認側から順に、「ハードコート層」、「偏光子の片面に偏光子保護フィルムを有する偏光板」、「偏光子保護フィルム」、「粘着剤層」が設けられていると理解できる。そうすると、甲13発明は、本件特許発明1の「偏光子を含む偏光板と、位相差層と、粘着剤層と、を視認側からこの順に有し、」とする要件のうち、「偏光子を含む偏光板と、粘着剤層と、を視認側からこの順に有し、」とする要件を満たす点で共通するといえる。 (オ)熱可塑性樹脂から構成されている層 甲13発明の偏光子の両面に配置された偏光子保護フィルムのうち、「ハードコート層」側の偏光子保護フィルムを「偏光板」に含まれる偏光子保護フィルムとすると、「偏光板」とは別に設けられた「偏光子保護フィルム」は、「偏光子」と「粘着剤層」との間に配置されることになる。また、甲13発明の「偏光子保護フィルム」は、一般式(1)で表される構造単位と一般式(2)で表される構造単位とを含んでなるアクリル樹脂を含むものである。当該構造単位を含むアクリル樹脂は、技術的にみて、熱可塑性樹脂であるといえる。したがって、甲13発明において、「偏光板」とは別に設けられた「偏光子保護フィルム」に含まれる「アクリル樹脂」は、本件特許発明3の「該熱可塑性樹脂は、アクリル系樹脂および/またはエポキシ系樹脂を含み、」とする要件を満たしている。そして、当該「偏光子保護フィルム」は、技術的にみて、熱可塑性樹脂から構成される層を構成するものの、液晶化合物を配向させるための配向膜には該当しない。 そうすると、本件特許発明3の「該偏光子と該粘着剤層との間に、有機溶媒に溶解可能な熱可塑性樹脂から構成されているヨウ素透過抑制層(液晶化合物を配向させるための配向膜を除く)」と甲13発明の偏光子側に別途設けられた「偏光子保護フィルム」とは、「該偏光子と該粘着剤層との間に、熱可塑性樹脂から構成されている層(液晶化合物を配向させるための配向膜を除く)」である点で共通する。 (カ)一致点及び相違点 以上より、本件特許発明3と甲13発明とは、次の点で一致し、以下の点で相違する。 [一致点] 「 偏光子を含む偏光板と、粘着剤層と、を視認側からこの順に有し、 位相差層を有し、 該偏光子と該粘着剤層との間に、熱可塑性樹脂から構成されているヨウ素透過抑制層(液晶化合物を配向させるための配向膜を除く)が設けられており、 該熱可塑性樹脂は、アクリル系樹脂および/またはエポキシ系樹脂を含む、 位相差層付偏光板。」 [相違点13-3-1] 本件特許発明3では、偏光子を含む偏光板と、位相差層と、粘着剤層と、を視認側からこの順に有し、ヨウ素透過抑制層が、該位相差層と該粘着剤層との間に設けられているのに対し、甲13発明では、第1の光学補償層及び第2の光学補償層が、偏光板、偏光子保護フィルム及び粘着剤層に対し、どのような順で配置されるのかを特定していない点。 [相違点13-3-2] 本件特許発明3の位相差層が、「該偏光子と組み合わされて円偏光機能または楕円偏光機能を奏する液晶化合物の配向固化層」であるのに対し、甲13発明の「第1の光学補償層」及び「第2の光学補償層」が、偏光子と組み合わされて円偏光機能または楕円偏光機能を奏するものであること、及び、液晶化合物の配向固化層であることが、特定されていない点。 [相違点13-3-3] 偏光子が、本件特許発明3では「ヨウ素」を含有するのに対し、甲13発明ではヨウ素を含有すると限定されていない点。 [相違点13-3-4] 偏光子と粘着剤層との間に設けられた層を構成する熱可塑性樹脂について、本件特許発明3では、「有機溶媒に溶解可能」であって、「ガラス転移温度が110℃以上であり、かつ、重量平均分子量Mwが25000以上150000以下である」とされているのに対し、甲13発明では、有機溶媒に溶解可能であることが特定されておらず、ガラス転移温度及び重量平均分子量も特定されていない点。 イ 判断 事案に鑑みて、[相違点13-3-1]について検討する。 甲13には、「本発明の光学補償層付偏光板は、各種画像表示装置(例えば、液晶表示装置、自発光型表示装置)に好適に使用され得る。」(段落[0255])との記載がある。また、液晶パネルとした実施形態における、ハードコート層を備える光学補償層付偏光板300’の層構成について、「液晶セル20側から順に、粘着剤層38’、易接着層39’、第2の光学補償層13’、第1の光学補償層12’、粘着剤層37’特定の構造単位を含んでなるポリメチルメタタリレート系?脂を含む偏光子保護フィルム34’、易接着層33’、接着剤層32’、偏光子31’、接着剤層35’、セルロース系?脂フィルム36’、ハードコート層500を備える。」(段落[0258])と記載されている。 上記記載事項に基づけば、甲13には、最外層の少なくとも一方として粘着剤層を有し、最外層の一方にハードコート層をさらに有する、光学補償層付偏光板の層構成として、ハードコート層、偏光子、特定の構造単位を含んでなるポリメチルメタタリレート系?脂を含む偏光子保護フィルム、第1の光学補償層、第2の光学補償層、粘着剤層の順に配置することが開示されている。 しかし、第2の光学補償層と粘着剤層との間に、何らかの層を設けることについて、甲13には、記載も示唆もなく、第2の光学補償層と粘着剤層との間にヨウ素の透過を抑制する層を設けることが知られていたことを示す証拠はない。 そうすると、当業者といえども、甲13発明の「第2の光学補償層」と「粘着剤層」との間に、「ヨウ素透過抑制層」を設けることが容易になし得たということができない。 したがって、本件特許発明3に係る特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものとはいえない。 (5)本件特許発明3の記載を引用する本件特許発明7~13について 本件特許発明3の記載を引用する本件特許発明7~13は、いずれも、本件特許発明3に限定を付した発明に該当する。そうすると、本件特許発明7~13と甲13発明とを対比した場合、両者は少なくとも上記[相違点13-3-1]で相違し、上記のとおり、甲13発明において、上記[相違点13-3-1]に係る本件特許発明3の構成を採用することは、当業者であっても容易になし得たことではない。したがって、本件特許発明7~13に係る特許も、同じ理由により、特許法29条2項の規定に違反してされたものとはいえない。 (6)本件特許発明6について ア 対比 本件特許発明6と甲13発明とを対比すると、前記(4)ア(カ)に記載した[一致点]で一致し、以下の点で相違する。 [相違点13-6-1] 本件特許発明6では、偏光子を含む偏光板と、位相差層と、粘着剤層と、を視認側からこの順に有するのに対し、甲13発明では、第1の光学補償層及び第2の光学補償層が、偏光板及び粘着剤層に対し、どのような順で配置されるのかを特定していない点。 [相違点13-6-2] 本件特許発明6の位相差層が、「該偏光子と組み合わされて円偏光機能または楕円偏光機能を奏する液晶化合物の配向固化層」であるのに対し、甲13発明の「第1の光学補償層」及び「第2の光学補償層」が、偏光子と組み合わされて円偏光機能または楕円偏光機能を奏するものであること、及び、液晶化合物の配向固化層であることが、特定されていない点。 [相違点13-6-3] 偏光子が、本件特許発明6では「ヨウ素」を含有するのに対し、甲13発明ではヨウ素を含有すると限定されていない点。 [相違点13-6-4] 偏光子と粘着剤層との間に設けられた層について、本件特許発明6は「ヨウ素透過抑制」層であるのに対し、甲13発明の一般式(1)で表される構造単位と一般式(2)で表される構造単位とを含んでなるアクリル樹脂を含む偏光子保護フィルムは、ヨウ素透過抑制層であるとされていない点。 [相違点13-6-5] 偏光子と粘着剤層との間に設けられた層を構成する熱可塑性樹脂について、本件特許発明6では、「有機溶媒に溶解可能」であって、「ガラス転移温度が110℃以上であり、かつ、重量平均分子量Mwが25000以上150000以下である」とされており、さらに「該ヨウ素透過抑制層を構成する樹脂が、50重量部を超える(メタ)アクリル系単量体と0重量部を超えて50重量部未満の式(1)で表される単量体とを含むモノマー混合物を重合することにより得られる共重合体」であるのに対し、甲13発明では、有機溶媒に溶解可能であることが特定されておらず、式(1)で表される単量体を含むものでなく、ガラス転移温度及び重量平均分子量も特定されていない点。 イ 判断 事案に鑑みて[相違点13-6-5]について検討する。 甲13には、偏光子保護フィルムについて、本件特許発明6の式(1)で表される単量体を含む共重合体とすることについて、記載も示唆もない。また、偏光子保護フィルムについて、本件特許発明6の式(1)で表される単量体を含む共重合体とすることが、当業者に知られていたことを示す証拠はない。 そうすると、当業者といえども、甲13発明の「偏光子保護フィルム」について、本件特許発明6の式(1)で表される単量体を含む共重合体とすることを容易になし得たということができない。 したがって、本件特許発明6に係る特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものとはいえない。 (7)本件特許発明6の記載を引用する本件特許発明7~13について 本件特許発明6の記載を引用する本件特許発明7~13は、いずれも、本件特許発明6に限定を付した発明に該当する。そうすると、本件特許発明7~13と甲13発明とを対比した場合、両者は少なくとも上記[相違点13-6-5]で相違し、上記のとおり、甲13発明において、上記[相違点13-6-5]に係る本件特許発明6の構成を採用することは、当業者であっても容易になし得たことではない。したがって、本件特許発明7~13に係る特許も、同じ理由により、特許法29条2項の規定に違反してされたものとはいえない。 3 委任省令要件違反についての当審の判断 本件特許の明細書段落【0006】には、「本発明の実施形態によれば、薄型の位相差層付偏光板の所定の位置に特定のヨウ素透過抑制層を設けることにより、当該位相差層付偏光板を画像表示装置に適用した場合に金属部材の腐食を抑制することができる。本発明の実施形態に用いられ得るヨウ素透過抑制層は、樹脂の有機溶媒溶液の塗布膜の固化物または熱硬化物であり、当該ヨウ素透過抑制層を構成する樹脂のガラス転移温度は85℃以上であり、かつ、重量平均分子量Mwは25000以上である。」と記載されている。また、段落【0016】には、「ヨウ素透過抑制層は、樹脂の有機溶媒溶液の塗布膜の固化物または熱硬化物である。さらに、ヨウ素透過抑制層を構成する樹脂のガラス転移温度(Tg)は85℃以上であり、かつ、重量平均分子量Mwは25000以上である。このようなヨウ素透過抑制層を位相差層付偏光板の所定の位置に設けることにより、位相差層付偏光板を画像表示装置に適用した場合に偏光子中のヨウ素が画像表示装置(実質的には、画像表示セル)に移行することを顕著に抑制することができる。その結果、画像表示装置の金属部材(例えば、電極、センサー、配線、金属層)の腐食を顕著に抑制することができる。…本発明者らは、薄型の位相差層付偏光板を画像表示装置に適用した場合に画像表示装置の金属部材が腐食する場合があるという問題を新たに発見し、腐食部分にヨウ素が存在することから、このような金属部材の腐食はヨウ素に起因し得ることを解明した。そして、試行錯誤の結果、ヨウ素の画像表示装置(実質的には、画像表示セル)への移行を防止する手段として、上記のようなヨウ素透過抑制層(特定のTgおよびMwを有する樹脂の有機溶媒溶液の塗布膜の固化層または熱硬化層)が有用であることを見出し、本発明を完成するに至った。」と記載されている。 これらの記載に基づけば、画像表示装置の金属部材(例えば、電極、センサー、配線、金属層)にヨウ素が移行することを抑制できる層を、位相差層付偏光板の所定の位置に設けることによって、結果として、金属部材の腐食を抑制することができるのであるから、本件特許発明1~4、6~13の発明特定事項のうち、位相差層付偏光板の所定の位置に設けられた特定の「ヨウ素透過抑制層」が課題解決手段として機能するものと理解できる。そうすると、本件特許発明1~4、6~13の技術的意義は、位相差層付偏光板の所定の位置に設けられた特定の「ヨウ素透過抑制層」にあるといえる。そして、特定のTgおよびMwを有する特定の樹脂を用いた場合に、その効果が良好であることが、実施例の記載から確認されているから、特定のTgおよびMwを有する特定の樹脂であることは、それ自体が技術的意義を有するのではなく、実際に「ヨウ素透過抑制層」として用いた場合に、良好な効果を奏することが確認できた範囲に限定するための要件であると理解できる。 したがって、本件特許発明1~4、6~13は、当業者が明細書及び図面の記載並びに出願時の技術常識に基づいて、画像表示装置に適用した場合に金属部材の腐食を抑制するという課題を、位相差層付偏光板の所定の位置に設けられた特定の「ヨウ素透過抑制層」によって解決することを理解できるものであるから、委任省令要件違反には当たらない。 申立人は、特許異議申立書の3(3-4-3)(i)(第23~24頁)において、ガラス転移温度を特定する技術上の意義が不明である旨、特許異議申立書の3(3-4-3)(ii)(第24頁)において、樹脂の重量平均]分子量を特定する技術上の意義が不明である旨、主張している。また、令和5年9月20日付けの意見書の3(3-1-1)(第1~5頁)においても同様の主張をしている。 しかし、本件特許の明細書の記載に基づけば、上記のとおり、位相差層付偏光板の所定の位置に設けられた特定の「ヨウ素透過抑制層」によって課題を解決することが理解できる。また、実施例の記載から、特定のTgおよびMwを有する特定の樹脂を用いた場合に、その効果が良好であることも確認されている。 したがって、本件特許の明細書の記載が、委任省令要件に違反しているということはできないから、申立人の当該主張は採用できない。 4 甲1発明を主引用発明とする進歩性違反についての当審の判断 (1)甲1発明 甲1には、その請求項1及び請求項3を引用する請求項8に係る製造方法により得られる請求項9に係る偏光板の実施例として、次の「偏光板5」の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。 「仮支持体上に、シクロオレフィンポリマー(アペル、三井化学製)及びシクロヘキサンからなるシクロオレフィンポリマー塗布液を塗布、乾燥させて、乾燥後の膜厚は7μmであるシクロオレフィンポリマー含有層を形成して、([0104]) シクロオレフィンポリマー含有層側表面に、アクリル層形成用塗布液を塗布、乾燥して、紫外線を照射して塗布層を硬化させて、膜厚は2.6μmのアクリルポリマー層を形成して、([0108]) アクリルポリマー層側表面に重合性液晶化合物を含む塗布液を塗布して、塗布液の溶媒の乾燥および棒状液晶化合物の配向熟成のために加熱して、その後、紫外線照射を行い、液晶化合物の配向を固定化して、厚みは1.9μmである光学異方性層を形成して、([0111]~[0114]) ポリビニルアルコールフィルムをヨウ素水溶液中で延伸し、乾燥して厚さ20μmの偏光膜(偏光子)を得て、([0119]) 接着剤を用いて液晶面と偏光膜の片側とを貼り合わせて、貼り合わせた後、仮支持体をシクロオレフィンポリマー含有層との界面で剥離した、厚みは31.5μmである、([0123]) 偏光板5。」 (2)本件特許発明1について ア 対比 本件特許発明1と甲1発明とを対比する。 (ア)偏光板 甲1発明の「偏光膜(偏光子)」は、本件特許発明1の「偏光子」に相当し、甲1発明の「偏光膜(偏光子)」(「偏光子」)及び「接着剤」は、あわせて本件特許発明1の「偏光子を含む偏光板」に相当する。また、甲1発明の「偏光膜(偏光子)」(「偏光子」)は、「ポリビニルアルコールフィルムをヨウ素水溶液中で延伸し、・・・偏光膜(偏光子)を得」るものであるから、本件特許発明1の「該偏光子はヨウ素を含有し、」との要件を満たす。 (イ)位相差層 甲1発明の「光学異方性層」は、本件特許発明1の「位相差層」に相当する。また、甲1発明の「光学異方性層」(「位相差層」)は、「液晶化合物の配向を固定化して、・・・光学異方性層を形成」するものであるから、本件特許発明1の「該位相差層が、」「液晶化合物の配向固化層であり、」との要件を満たす。 (ウ)ヨウ素透過抑制層 本件特許出願時の請求項1の記載及び本件特許明細書の【0050】の記載に基づけば、「樹脂の有機溶媒溶液の塗布膜の固化物または熱硬化物である」ことが「ヨウ素透過抑制層」の定義といえる。 ここで、甲1発明の「シクロオレフィンポリマー含有層」は、「シクロオレフィンポリマー(アペル、三井化学製)」から構成されるものであるから、その構成材料からみて、本件特許発明1の「有機溶媒に溶解可能な熱可塑性樹脂から構成されている」との要件を満たす。また、甲1発明の「シクロオレフィンポリマー含有層」が、液晶化合物を配向させるための配向膜に該当しないことは、甲1発明の偏光板5の全体構成からみて明らかである。 してみれば、上記「ヨウ素透過抑制層」の定義に鑑みて、甲1発明の「シクロオレフィンポリマー含有層」は、本件特許発明1の「ヨウ素透過抑制層(液晶化合物を配向させるための配向膜を除く)」に相当する。 (エ)位相差層付偏光板及び各層の配置順 甲1発明である「偏光板5」は、「偏光膜(偏光子)」(「偏光子」)、「接着剤」、「光学異方性層」(「位相差層」)、「アクリルポリマー層」及び「シクロオレフィンポリマー層」(「ヨウ素透過抑制層」)をこの順に有するものであるから、本件特許発明1の「位相差層付偏光板」に相当し、本件特許発明1の「偏光子を含む偏光板と、位相差層と、」「を」「この順に有し、」との要件を満たす。 (オ)一致点及び相違点 以上より、本件特許発明1と甲1発明とは、次の点で一致し、以下の点で相違する。 [一致点] 「 偏光子を含む偏光板と、位相差層と、をこの順に有し、 該位相差層が、液晶化合物の配向固化層であり、 該偏光子はヨウ素を含有し、 有機溶媒に溶解可能な熱可塑性樹脂から構成されているヨウ素透過抑制層(液晶化合物を配向させるための配向膜を除く)が設けられている、 位相差層付偏光板。」 [相違点1-1-1] 「位相差層」について、本件特許発明1は、「該偏光子と組み合わされて円偏光機能または楕円偏光機能を奏する」ものであるのに対して、甲1発明は「光学異方性層」(「位相差層」)の機能が明らかでない点。 [相違点1-1-2] 「粘着剤層」について、本件特許発明1は、「偏光子を含む偏光板と、位相差層と、粘着剤層と、を視認側からこの順に有し」、また、「該偏光子と該粘着剤層との間に、・・・ヨウ素透過抑制層・・・が設けられて」いるのに対して、甲1発明はそもそも「粘着剤層」を有していることが明らかでない点。 [相違点1-1-3] ヨウ素透過抑制層を構成する「熱可塑性樹脂」について、本件特許発明1は、「エポキシ系樹脂のみ」からなり、「ガラス転移温度が110℃以上であり、かつ、重量平均分子量Mwが25000以上150000以下である」と特定されるのに対して、甲1発明は「シクロオレフィンポリマー層」(「ヨウ素透過抑制層」)を構成する「シクロオレフィンポリマー(アペル、三井化学製)」が「エポキシ系樹脂」ではなく、「ガラス転移温度」及び「重量平均分子量」が明らかでない点。 イ 判断 事案に鑑みて、[相違点1-1-3]について検討する。 甲1には、発明が解決しようとする課題として、段落[0004]に「本発明は膜厚が小さい偏光板の提供を課題とする。本発明は、特に低複屈折性の薄膜ポリマーフィルムを保護フィルムとして有する偏光板の製造方法の提供を課題とする。」と記載されている。そして、課題を解決するための手段として、段落[0005]に「仮支持体上に塗布製膜することにより、シクロオレフィン系ポリマーフィルムが薄膜で形成可能であり、かつ、仮支持体から欠陥なく剥離可能であることを見出し、その後、さらに検討を重ね、本発明を完成させた。」と記載されている。 当該記載に基づけば、甲1発明は、シクロオレフィン系ポリマーフィルムを保護フィルムとすることを、課題解決手段とするものである。そうすると、当業者といえども、甲1発明のシクロオレフィン系ポリマーを、「エポキシ系樹脂のみ」に変更し、課題解決手段を含まないものとする動機付けがあるとはいえない。そして、甲1発明から、シクロオレフィン系ポリマーを除外すると、課題を解決できないものとなるため、阻害要因があるといえる。 したがって、甲1発明において、上記[相違点1-1-3]に係る本件特許発明1の構成を採用することは、当業者であっても容易になし得たことではないから、本件特許発明1に係る特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものとはいえない。 (3)本件特許発明1の記載を引用する本件特許発明2、4、7~13について 本件特許発明1の記載を引用する本件特許発明2、4、7~13は、いずれも、本件特許発明1に限定を付した発明に該当する。そうすると、本件特許発明2、4、7~13と甲1発明とを対比した場合、両者は少なくとも上記[相違点1-1-3]で相違し、上記のとおり、甲1発明において、上記[相違点1-1-3]に係る本件発明発明1の構成を採用することは、当業者であっても容易になし得たことではない。したがって、本件特許発明2、4、7~13に係る特許も、同じ理由により、特許法29条2項の規定に違反してされたものとはいえない。 (4)本件特許発明3について ア 対比 本件特許発明3と甲1発明とを対比すると、前記(2)ア(オ)に記載した[一致点]で一致し、以下の点で相違する。 [相違点1-3-1] 「位相差層」について、本件特許発明3は、「該偏光子と組み合わされて円偏光機能または楕円偏光機能を奏する」ものであるのに対して、甲1発明は「光学異方性層」(「位相差層」)の機能が明らかでない点。 [相違点1-3-2] 「粘着剤層」について、本件特許発明3は、「偏光子を含む偏光板と、位相差層と、粘着剤層と、を視認側からこの順に有し」、また、「該偏光子と該粘着剤層との間に、・・・ヨウ素透過抑制層・・・が設けられて」おり、さらに「該ヨウ素透過抑制層が、該位相差層と該粘着剤層との間に設けられている」のに対して、甲1発明はそもそも「粘着剤層」を有していることが明らかでない点。 [相違点1-3-3] ヨウ素透過抑制層を構成する「熱可塑性樹脂」について、本件特許発明1は、「アクリル系樹脂および/またはエポキシ系樹脂」を含み、「ガラス転移温度が110℃以上であり、かつ、重量平均分子量Mwが25000以上150000以下である」と特定されるのに対して、甲1発明は「シクロオレフィンポリマー層」(「ヨウ素透過抑制層」)を構成する「シクロオレフィンポリマー(アペル、三井化学製)」が「アクリル系樹脂」及び「エポキシ系樹脂」のいずれでもなく、「ガラス転移温度」及び「重量平均分子量」が明らかでない点。 イ 判断 事案に鑑みて、[相違点1-3-3]について検討する。 前記(2)イに記載したとおり、甲1の段落[0004]及び段落[0005]の記載に基づけば、甲1発明は、シクロオレフィン系ポリマーフィルムを保護フィルムとすることを、課題解決手段とするものである。そうすると、当業者といえども、甲1発明のシクロオレフィン系ポリマーを、「アクリル系樹脂および/またはエポキシ系樹脂」を含むものに変更する動機付けがあるとはいえない。そして、甲1発明から、シクロオレフィン系ポリマー以外のものを採用すると、課題を解決できないものとなるため、阻害要因があるといえる。 したがって、甲1発明において、上記[相違点1-3-3]に係る本件特許発明3の構成を採用することは、当業者であっても容易になし得たことではないから、本件特許発明1に係る特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものとはいえない。 (5)本件特許発明3の記載を引用する本件特許発明7~13について 本件特許発明3の記載を引用する本件特許発明7~13は、いずれも、本件特許発明3に限定を付した発明に該当する。そうすると、本件特許発明7~13と甲1発明とを対比した場合、両者は少なくとも上記[相違点1-3-3]で相違し、上記のとおり、甲1発明において、上記[相違点1-3-3]に係る本件特許発明3の構成を採用することは、当業者であっても容易になし得たことではない。したがって、本件特許発明7~13に係る特許も、同じ理由により、特許法29条2項の規定に違反してされたものとはいえない。 (6)本件特許発明6について ア 対比 本件特許発明6と甲1発明とを対比すると、前記(2)ア(オ)に記載した[一致点]で一致し、以下の点で相違する。 [相違点1-6-1] 「位相差層」について、本件特許発明6は、「該偏光子と組み合わされて円偏光機能または楕円偏光機能を奏する」ものであるのに対して、甲1発明は「光学異方性層」(「位相差層」)の機能が明らかでない点。 [相違点1-6-2] 「粘着剤層」について、本件特許発明6は、「偏光子を含む偏光板と、位相差層と、粘着剤層と、を視認側からこの順に有し」、また、「該偏光子と該粘着剤層との間に、・・・ヨウ素透過抑制層・・・が設けられて」いるのに対して、甲1発明はそもそも「粘着剤層」を有していることが明らかでない点。 [相違点1-6-3」 ヨウ素透過抑制層を構成する「熱可塑性樹脂」について、本件特許発明6は、「アクリル系樹脂および/またはエポキシ系樹脂」を含み、「ガラス転移温度が110℃以上であり、かつ、重量平均分子量Mwが25000以上150000以下である」とされており、さらに「0重量部を超えて50重量部未満の式(1)で表される単量体とを含むモノマー混合物を重合することにより得られる共重合体」であると特定されるのに対して、甲1発明は「シクロオレフィンポリマー層」(「ヨウ素透過抑制層」)を構成する「シクロオレフィンポリマー(アペル、三井化学製)」が「アクリル系樹脂および/またはエポキシ系樹脂」を含むものでも式(1)で表される単量体を含むものでもなく、「ガラス転移温度」及び「重量平均分子量」が明らかでない点。 イ 判断 事案に鑑みて、[相違点1-6-3]について検討する。 甲1号証には、偏光板の保護フィルムについて、本件特許発明6の式(1)で表される単量体を含む共重合体とすることについて、記載も示唆もない。また、偏光子保護フィルムについて、本件特許発明6の式(1)で表される単量体を含む共重合体とすることが、当業者に知られていたことを示す証拠はない。 そうすると、当業者といえども、甲1発明のシクロオレフィン系ポリマーを、本件特許発明6の式(1)で表される単量体を含む共重合体とすることを容易になし得たということができない。 したがって、本件特許発明6に係る特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものとはいえない。 (7)本件特許発明6の記載を引用する本件特許発明7~13について 本件特許発明6の記載を引用する本件特許発明7~13は、いずれも、本件特許発明6に限定を付した発明に該当する。そうすると、本件特許発明7~13と甲1発明とを対比した場合、両者は少なくとも上記[相違点1-6-3]で相違し、上記のとおり、甲1発明において、上記[相違点1-6-3]に係る本件特許発明6の構成を採用することは、当業者であっても容易になし得たことではない。したがって、本件特許発明7~13に係る特許も、同じ理由により、特許法29条2項の規定に違反してされたものとはいえない。 第5 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について 1 明確性要件(特許法36条6項2号) (1)申立人の主張の概要 申立人は、特許異議申立書の3(3-4-2)(第22~23頁)において、「ヨウ素透過抑制層」について、ヨウ素が透過する程度についてその基準が不明であり、金属腐食性試験が良好であるという結果がヨウ素の透過を抑制することによってもたらされたものであるのか不明である旨主張している。 (2)当合議体の判断 本件特許における「ヨウ素透過抑制層」は、その文言から見て、ヨウ素の透過を抑制する層であれば足りるといえる。本件特許の明細書の記載をみても、「ヨウ素透過抑制層」の範囲を、ヨウ素透過が抑制される程度によって定義する記載は存在しないため、ヨウ素が透過する程度によってその範囲が定められたものではない。ヨウ素透過の抑制が生じるものであればその要件を満たすものと理解できる。 そうすると、ヨウ素が通過する程度についての基準が不明であったとしても、そのことが直ちに「ヨウ素透過抑制層」の範囲の解釈を不明確にするものではない。また、金属腐食性試験とヨウ素透過抑制との因果関係が明らかでないとしても、そのことによって「ヨウ素透過抑制層」の意味が不明確になるものでもない。 したがって、本件特許における「ヨウ素透過抑制層」の範囲は明確であるから、本件特許発明1~4、6~13に係る特許が、特許法36条6項2号の規定に違反してなされたものということはできない。 2 サポート要件(特許法36条6項1号) (1)ヨウ素透過抑制層の厚さ ア 申立人の主張の概要 申立人は、特許異議申立書の3(3-4-4)(i)(第24~25頁)において、ヨウ素透過抑制層の厚さについての特定が不十分な点があり、ヨウ素の透過を抑制できない態様や、課題である薄型化を達成できない態様を含んでいると主張している。 イ 当合議体の判断 本件特許の明細書段落【0002】には、背景技術として、「最近、画像表示装置の薄型化への要望が強くなるに伴って、位相差層付偏光板についても薄型化の要望が強まっている。位相差層付偏光板の薄型化を目的として、厚みに対する寄与の大きい偏光子の保護層の薄型化(または省略)ならびに位相差フィルムの薄型化が進んでいる。しかし、薄型の位相差層付偏光板を画像表示装置に適用すると、画像表示装置の金属部材(例えば、電極、センサー、配線、金属層)が腐食する場合がある。このような金属部材の腐食は、高温高湿環境下で顕著である。」と記載されており、段落【0004】には、発明が解決しようとする課題として、「本発明は上記従来の課題を解決するためになされたものであり、その主たる目的は、画像表示装置に適用した場合に金属部材の腐食を抑制し得る薄型の位相差層付偏光板を提供することにある。」と記載されている。また、段落【0121】には、「さらに、参考例1から明らかなように、このような金属腐食性は、非常に薄型の位相差層付偏光板に特有の課題であることがわかる。」と記載されている。 これらの記載に基づけば、発明が解決しようとする課題における「薄型」の位相差層付偏光板との記載は、「金属部材の腐食」が発生する前提条件を説明したものであることは明らかであり、従来から進んでいたとされる薄膜化を、本件特許が課題としていると理解することはできない。そうすると、本件特許が解決しようとする課題は、画像表示装置に適用した場合に金属部材の腐食を抑制し得ることである。そして、本件特許において特定された「ヨウ素透過抑制層」を薄型の位相差層付偏光板の所定の位置に設けた場合に、金属部剤の腐食が抑制できることは、実施例によって確認されている。また、極めて薄い「ヨウ素透過抑制層」であったとしても、「ヨウ素透過抑制層」が存在しないものと比較してヨウ素透過が抑制されることは容易に理解できるから、本件特許における効果を奏すると推認できる。 したがって、本件特許発明1~4、6~13が、発明が解決しようとする課題を解決することができると理解できるから、本件特許発明1~4、6~13に係る特許が、特許法36条6項1号の規定に違反してされたものとはいえない。 (2)ヨウ素透過抑制層を設ける態様 ア 申立人の主張の概要 申立人は、特許異議申立書の3(3-4-4)(ii)(第25頁)において、ヨウ素透過抑制層は、本件特許明細書中に記載のない、Tダイによって形成されたフィルムを貼り合わせることによって形成された層も含まれるから、本件特許発明は本件特許明細書に記載された範囲を超えると主張している。 イ 当合議体の判断 本件特許発明1、本件特許発明3、及び、本件特許発明6は、「有機溶媒に溶解可能な熱可塑性樹脂から構成されているヨウ素透過抑制層(液晶化合物を配向させるための配向膜を除く)」を構成要件としている。本件特許発明1、本件特許発明3、又は、本件特許発明6の記載を引用する本件特許発明2、4、7~13についても同様である。 一方、本件特許の明細書における段落【0052】には、「ヨウ素透過抑制層を構成する樹脂としては、有機溶媒溶液の塗布膜の固化物または熱硬化物を形成可能であり、かつ上記のようなTgおよびMwを有する限りにおいて、任意の適切な熱可塑性樹脂または熱硬化性樹脂を用いることができる。」と記載されている。技術的にみて、特定のTg及びMwを有する熱可塑性樹脂からなる「ヨウ素透過抑制層」がTダイによって形成されたフィルムであったとしても、「ヨウ素透過抑制層」が存在しないものと比較してヨウ素透過が抑制されることは、塗布膜の固化物または熱硬化物からなる「ヨウ素透過抑制層」を用いた場合と同じであるから、新たな技術的事項を導入するものではなく、また、このような態様が裏付けられていないともいえない。そして、熱可塑性樹脂が有機溶媒溶液の塗布膜から形成可能であることは、熱可塑性樹脂が有機溶媒に溶解可能であることを意味することは明らかである。そうすると、本件特許の明細書には、「有機溶媒に溶解可能な熱可塑性樹脂」から「ヨウ素透過抑制層」が構成されることが開示されていたといえる。 したがって、本件特許発明1~4、6~13における「有機溶媒に溶解可能な熱可塑性樹脂から構成されているヨウ素透過抑制層(液晶化合物を配向させるための配向膜を除く)」は、発明の詳細な説明に記載された範囲のものであるから、本件特許発明1~4、6~13に係る特許は、特許法36条6項1号の規定に違反してされたものとはいえない。 なお、申立人は、特許異議申立書の3(3-4-4)(ii)(第25頁)において、「なお、このことから当該補正は、発明の範囲が広がる、いわゆる新規事項の追加に該当するとも言える。」と主張しており、令和4年7月1日付けの手続補正が、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない補正であると主張するようにも解釈できる。 そこで、当該手続補正が新規事項を追加するものであったかについて念のため検討すると、当該手続補正は、本件特許発明1~4、6~13は、位相差層付偏光板、又は、位相差層付偏光板を備える画像表示装置に係る発明の構成である「ヨウ素透過抑制層」の要件を変更するものであるが、「ヨウ素透過抑制層」の要件を変更したことにより、補正後の「ヨウ素透過抑制層」が、明細書に記載のない新たな機能や効果を備えたものとなるとはいえない(新たな技術的事項を導入するものとはいえない)。そうすると、当該手続補正による補正は、「(液晶化合物を配向させるための配向膜を除く)」とする手続補正と同様に、位相差層付偏光板、又は、位相差層付偏光板を備える画像表示装置に係る発明に、新たな技術的事項を導入したということができない。 したがって、仮に申立人の主張が、令和4年7月1日付けの手続補正が、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない補正であると主張するものであったと解釈しても、請求項1~4、6~13に係る特許が、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない補正をした特許出願に対してされたものということはできない。 第6 むすび 以上のとおり、取消理由に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件特許発明1~4、6~13に係る特許を取り消すことはできない。また、他に本件特許発明1~4、6~13に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 また、請求項5に係る特許は、訂正により削除された。これにより、申立人による特許異議の申立てのうち、請求項5に係る申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。 よって、結論のとおり決定する。

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2023-700109

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    同じ当事者: 寺澤 佳奈美、日東電工株式会社
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