特許異議申立
2024-700810
窒化アルミニウム基板、電子装置及び電子モジュール
- 審判番号
- 2024-700810
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2020-025505
- 登録番号
- 7441070
- 請求日
- 2024年08月27日
- 審決日
- 2025年04月08日
- 公報発行日
- 2025年07月25日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】京セラ株式会社
- 【権利者代理人】荒船 博司
- 【権利者代理人】荒船 良男
- 【異議申立人】茂木 早苗
- 審判長/審判官
- 審判長 宮澤 尚之
- 審判官 増山 淳子
- 審判官 小野 久子
- 分類
- P1651.55 -YAA(C04B) / P1651.536-YAA(C04B) / P1651.537-YAA(C04B) / P1651.851-YAA(C04B)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法120条の8第1項特許法135条
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第6項第2号、特許法第120条の5第4項、特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第2項、特許法第17条の2第3項、特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第1号、特許法第120条の8第1項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7441070号発明「窒化アルミニウム基板、電子装置及び電子モジュール」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7441070号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔5~8〕について訂正することを認める。
特許第7441070号の請求項1~4、6~8に係る特許を維持する。
特許第7441070号の請求項5に係る特許についての特許異議の申立を却下する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7441070号の請求項1~8に係る特許(以下、それぞれ「本件特許1」などといい、まとめて「本件特許」という。)についての出願は、令和2年2月18日の出願であって、令和6年2月20日にその特許権の設定登録がされ、同年同月29日に特許掲載公報が発行された。
その後、本件特許1~8に対して、令和6年8月27日に特許異議申立人 茂木早苗(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、同年11月12日付けで取消理由が通知され、令和7年1月14日に特許権者により意見書の提出及び訂正の請求がされ、同年2月17日に申立人により意見書(以下、「申立人意見書」という。)の提出がされた。
第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
令和7年1月14日にされた訂正の請求(以下、「本件訂正請求」といい、本件訂正請求による訂正を「本件訂正」という。)は、特許法第120条の5第4項の規定に従い、一群の請求項を構成する請求項〔5~8〕を訂正の単位として訂正することを求めるものであり、その内容(訂正事項)は、次のとおりである(訂正箇所に下線を付した。)。
(1) 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項5を削除する。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項6に、「請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の窒化アルミニウム基板と、前記窒化アルミニウム基板の前記第1面に搭載された電子部品と、を備える電子装置。」とあるのを、「請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の窒化アルミニウム基板と、前記窒化アルミニウム基板の前記第1面に搭載された電子部品と、を備える電子装置。」に訂正する(請求項6の記載を直接的又は間接的に引用する請求項7及び8も同様に訂正する。)。
2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否、独立特許要件について
(1)訂正事項1について
訂正事項1は、訂正前の請求項5を削除するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、本件特許の願書に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてされたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(2)訂正事項2について
訂正事項2は、訂正事項1による請求項5の削除に伴い、請求項6における選択的引用請求項の一部を削除するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、本件特許の願書に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてされたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(3)独立特許要件について
本件特許異議の申立ては本件訂正前の全ての請求項についてされているので、訂正事項1、2に関して、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項の規定は適用されない。
3 訂正の適否についての結論
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔5~8〕について訂正することを認める。
第3 本件特許について
1 特許請求の範囲の記載(本件発明)
前記第2のとおり、本件訂正請求は適法にされたものであるから、本件特許の請求項1~8に係る発明(以下、各請求項に係る発明を、項番号に合わせて「本件発明1」などといい、まとめて「本件発明」ということがある。)は、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1~8に記載された次の事項により特定されるとおりのものである(下線部は、訂正箇所を示す。)。
「【請求項1】
第1面と前記第1面の反対側に位置する第2面とを有し、複数の窒化アルミニウム粒子と粒界相とを含む基板であり、
前記第1面に近く、厚さが前記基板の厚さの1/4以上2/3以下である第1領域に位置する前記粒界相の質量比は、前記第2面に近く、厚さが前記基板の厚さの1/8以上1/3以下である第2領域に位置する前記粒界相の質量比よりも小さく、
複数の窒化アルミニウム粒子のうち、前記第1領域および前記第2領域において、互いに隣接する窒化アルミニウム粒子同士は、面と面との間に熱伝導の経路を形成している、
窒化アルミニウム基板。
【請求項2】
前記第1領域と前記第2領域との間に位置する第3領域に、前記粒界相の質量比が前記第2領域に向かって漸増する領域が含まれる、
請求項1記載の窒化アルミニウム基板。
【請求項3】
前記第2領域に位置する前記粒界相には、前記第2領域に位置する前記窒化アルミニウム粒子の平均粒径の3倍以上の長手方向の幅を有する第1粒界相が含まれる、
請求項1又は請求項2記載の窒化アルミニウム基板。
【請求項4】
前記第2領域に位置する前記粒界相、並びに、前記第3領域に位置する前記粒界相には、前記第2領域及び前記第3領域に位置する前記窒化アルミニウム粒子の平均粒径の3倍以上の長手方向の幅を有する第1粒界相が含まれ、
前記第2領域に含まれる前記第1粒界相の単位面積当たりの個数が、前記第3領域に含まれる前記第1粒界相の単位面積当たりの個数よりも大きい、
請求項2記載の窒化アルミニウム基板。
【請求項5】(削除)
【請求項6】
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の窒化アルミニウム基板と、
前記窒化アルミニウム基板の前記第1面に搭載された電子部品と、
を備える電子装置。
【請求項7】
前記複数の窒化アルミニウム粒子は、前記第1領域と前記第2領域のいずれにおいても、前記第1面から前記第2面に向かって前記熱伝導の経路を連続的に形成している請求項6記載の電子装置。
【請求項8】
請求項6又は請求項7に記載の電子装置と、
前記電子装置が搭載されたモジュール用基板と、
を備え、
前記モジュール用基板は、前記窒化アルミニウム基板の前記第2面に取り付けられている電子モジュール。」
2 発明の詳細な説明の記載
本件特許の願書に添付した明細書の発明の詳細な説明(以下、「発明の詳細な説明」という。)には、次の事項が記載されている(下線は当審において付した。以下同様である。)。
(1)「【発明が解決しようとする課題】
【0004】
窒化アルミニウム焼結体に生じる分子振動は、粒界相において散乱しやすい。分子振動の散乱が多いと、窒化アルミニウム焼結体の熱伝導率が低下する。
【0005】
本開示は、熱伝導率の高い窒化アルミニウム基板、並びに、このような窒化アルミニウム基板を備えた電子装置及び電子モジュールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の窒化アルミニウム基板は、
第1面と前記第1面の反対側に位置する第2面とを有し、複数の窒化アルミニウム粒子と粒界相とを含む基板であり、
前記第1面に近く、厚さが前記基板の厚さの1/4以上2/3以下である第1領域に位置する前記粒界相の質量比は、前記第2面に近く、厚さが前記基板の厚さの1/8以上1/3以下である第2領域に位置する前記粒界相の質量比よりも小さく、
複数の窒化アルミニウム粒子のうち、前記第1領域および前記第2領域において、互いに隣接する窒化アルミニウム粒子同士は、面と面との間に熱伝導の経路を形成している。」
(2)「【0015】
窒化アルミニウム基板1は、粒界相4の質量比率が、第1面に近い第1領域A1の方が、第2面に近い第2領域A2よりも、小さい。
【0016】
第1面11に近い第1領域A1とは、第1面11から厚さが基板厚さの1/4以上、2/3以下の領域である。第2面12に近い第2領域A2とは、第2面12から厚さが基板厚さの1/4以上、2/3以下の領域である。研磨前であるなど基板の表面に変則的な部分が残っている場合には、表面から元の基板厚さの1/50の層を除外し、除外された層の境界面から上記の厚みの範囲を第1領域A1、第2領域A2とする。この場合、表面から元の基板厚さの1/50の層を除外した基板の厚みを基板厚さとして、第1領域A1、第2領域A2の厚みが定義される。両面に変則的な部分が残っている場合には、両面とも除外する層を設ける。
・・・
【0018】
比較対象として、粒界相4の総量が実施形態の窒化アルミニウム基板1と同じで、粒界相4の分布が一様な比較基板を想定する。実施形態の窒化アルミニウム基板1は、前述の通り、第1領域A1の粒界相4の質量比率が、第2領域A2の粒界相4の質量比率よりも、小さい。この構成は、粒界相4が第1領域A1よりも第2領域A2に多く分布していることを意味する。したがって、第1領域A1の粒界相4の質量比率は、第2領域A2との比較で相対的に小さいだけでなく、比較基板の粒界相4の質量比率と比べて絶対的に小さくなる。このように、粒界相4の質量比率が絶対的に小さくなる第1領域A1があることで、第1領域A1において高い熱伝導率が得られる。したがって、例えば第1領域A1を介して発熱部品の熱引きを行うなど、第1領域A1を有効活用することで、高い吸熱性又は高い放熱性を実現することができる。
・・・
【0022】
仮に、小さな粒界相4が均一に多く分布していると、分子振動を散乱する作用が多く生じ、熱伝導率を低下させる。粒界相4の質量比率が大きい第2領域A2において、上記のように粒界相4が分布していると、粒界相4の質量比率が大きい分、より熱伝導率が低下する。しかし、本実施形態の窒化アルミニウム基板1の第2領域A2は、大径の第1粒界相4Aを含む。したがって、粒界相4の質量比率が大きくても、粒界相4の一部は第1粒界相4Aに集合しているため、その分、小さな粒界相4が均一に多く分布する領域の割合は小さく、粒界相4の分布が少ない領域の割合が大きくなる。粒界相4の分布が少ない部分があることで、当該部分により、熱を高い伝導率で導くことのできる経路が太くなる。したがって、粒界相4の質量比率が大きい第2領域A2においても、高い熱伝導率が得られる。」
(3)「【0025】
<製造方法>
実施形態の窒化アルミニウム基板1の製造工程は、例えば、AlN原料に、イットリア(Y2O3)、エルビア(Er2O3)、酸化ガドリニウム(Gd2O3)等の焼結助剤を質量比0.3%~8.5%、ポリビニルブチラール、ポリメチルメタクリレート等のバインダを質量比10%~20%含有させ、0.6μm~2.0μm厚のグリーンシートに成形する工程と、成形されたグリーンシートを積層して基板の厚さの成形体を形成する工程と、成形体を酸素を含む雰囲気内で加熱し脱脂する工程と、カーボンバッチ炉で焼成する工程とを含む。製造工程には、焼成された基板の表面をジェットスクラブ等で研磨する工程が含まれてもよい。膜形状の材料に成形した段階で、基板の厚みに至っていれば、膜形状の材料を積層する工程は省かれる。
【0026】
焼成する工程では、成形体に対して第1面11側の雰囲気のカーボン比率を低く、第2面12側の雰囲気のカーボン比率を高くする。このような雰囲気での焼成により、上述した粒界相4の分布が得られ、上記の製造工程により、実施形態の窒化アルミニウム基板1を製造できる。
【0027】
<実施例と比較例>
実施例の窒化アルミニウム基板1は上述した製造方法により製造される。実施例の窒化アルミニウム基板1について、図1(B)に示すように第1領域A1、第2領域A2、第3領域A3を設定し、各領域A1~A3から複数の区域Q1~Q9を抽出し、各区域Q1~Q9における粒界相4の質量比率、径及び厚みを計測すると、次の計測結果1が得られた。ここで、粒界相4の径及び厚みは、それぞれ、上記のコンピュータソフトウェア「ImageJ」により取得された最大Feret長さ(Feret(max))と最小Feret長さ(Feret(min))とに相当する。最大Feret長さと最小Feret長さとは、平行な2直線で測定対象を様々な角度から挟んだときに最大となる幅と最小となる幅を意味する。
【表1】
[図:0001424596000001.jpg]
【0028】
実施例の窒化アルミニウム基板1においては、第1領域A1における粒界相の質量比率(平均値)は、第2領域A2における粒界相の質量比率(平均値)よりも、誤差3σを上回るレベルで小さかった。さらに、実施例の窒化アルミニウム基板1においては、基板の中央高さから上方を第1領域A1とした場合に、いずれの高さにおいても、第1領域A1における粒界相の質量比率は、第2領域A2における粒界相の質量比率よりも、誤差3σを上回るレベルで小さかった。
・・・
【0030】
図3は、比較例の窒化アルミニウム基板の一部断面(A)と各領域の拡大断面(B)、(C)を示す概略図である。比較例の窒化アルミニウム基板8は、焼成工程において、雰囲気のカーボン比率を一様にしたカーボンバッチ炉で焼成される。その他の工程は、上述した実施形態と同様である。比較例の窒化アルミニウム基板8について、図3(A)に示すように第1領域B1、第2領域B2を設定し、各領域B1、B2から複数の区域Q11~Q16を抽出し、各区域Q11~Q16における粒界相4の質量比率、径及び厚みを計測すると、次の計測結果2が得られた。径及び厚みの計測は上記と同様とした。
【表2】
[図:0001424596000002.jpg]
【0031】
比較例においては、第1領域B1における粒界相の質量比率(平均値)と、第2領域B2における粒界相の質量比率(平均値)との差は、誤差程度(3σ以内)であった。
・・・
【0035】
実施例の窒化アルミニウム基板1、並びに、比較例の窒化アルミニウム基板8について、基板面(第1面11又は第2面12)に沿った方向における外縁部と中央とで、粒界相の総量を計測すると、次の計測結果3が得られた。計測結果3の粒界相の総量は、上下方向に一様に分散するように抽出された複数区域で計測した値の総和から求められた。
【表3】
[図:0001424596000003.jpg]
【0036】
計測結果3からは、基板面に沿った方向においては、粒界相の分布の差は誤差程度であり、かつ、実施例と比較例との窒化アルミニウム基板1、8では粒界相の総量の差が誤差程度であることが示された。
【0037】
実施例と比較例の窒化アルミニウム基板1、8で、一方の基板面(第1面11)から他方の基板面(第2面12)にかけた熱伝導率を、基板面に沿った方向における外縁部と中央とで計測すると、次の計測結果4が得られた。
【表4】
[図:0001424596000004.jpg]
【0038】
計測結果4及び計測結果3から、粒界相の総量が同一であっても、実施例の窒化アルミニウム基板1が比較例よりも高い熱伝導率を有することが示された。」
(4)「【図3】
[図:0001424596000005.jpg]
」
第4 甲号証及び乙号証について
1 証拠方法一覧
(1)申立人が提出した証拠方法は、次のものである。
甲第1号証:特開平5-330924号公報
甲第2号証:新村出 編、「広辞苑」、第七版、岩波書店、2018年1月12日、p.2613
(2)特許権者が令和7年1月14日付けの意見書に添付して提出した証拠方法は、次のものである。
乙第1号証:特開平11-92229号公報
乙第2号証:堀口昭宏ら、「高熱伝導性窒化アルミニウムセラミックスの開発」、東芝レビュー、1989年、44巻8号
乙第3号証:水谷惟恭、「粒界層排出機構によるセラミックスの高機能化(課題番号01470069)」、平成元年,2年度文部省科学研究費補助金一般研究(B)研究成果報告書、平成3年3月、Y151-H、p.82~88
乙第4号証:横井誠ら、「高熱伝導性AlN基板および各種形状焼結体の開発」、川崎炉材技報、平成4年12月1日、No.23、p.58~65
2 甲号証及び乙号証の記載事項
(1)甲第1号証の記載事項
甲第1号証には、「窒化アルミニウム基板の製造方法および焼成容器」(発明の名称)に関して、次の事項が記載されている。
ア「【0007】上記焼結操作は、一般に図2に示すように、黒鉛(グラファイト)等の炉材を貼設した焼成炉1の炉床2上に箱状の焼成容器(焼成用匣)3を配置し、この焼成容器3内に1個または複数個の脱脂した基板成形体4を収容した状態で1600~2000℃の高温度に加熱して実施される。
【0008】上記基板成形体4を収容保持する焼成容器3や炉床2は、高温焼結時に成形体と反応して焼結体の特性を低下させることを防止するために、成形体と同一材料である窒化アルミニウム(AlN)焼結体や窒化硼素(BN)焼結体で形成される。上記焼成容器3は、円筒状または角筒状の容器本体3aと、容器本体3aの上端開口および下端開口それぞれ封止するために被せられる蓋体3b,3bとから成る。また複数の基板成形体4を焼成容器3内に積層配置して同時に焼成する場合には、隣接する基板成形体4,4の間にそれぞれ粒径1μm程度のBN粉末5をしき粉(離型剤)として介在させている。」
イ「【0032】次に脱脂処理された基板成形体は、図1に示すように窒化アルミニウム焼結体製の容器本体6aと、その容器本体6aの上下面に被せられた窒化硼素焼結体製の蓋体6b,6bとから成る焼成容器6内にAlNの焼結体粉末7を介して多段に積層される。
【0033】ここで上記焼結体粉末7は、隣接する基板成形体4が焼結時の高熱で融着することを防止するしき粉(離型剤)として作用するものである。本発明方法で使用されるしき粉としては平均粒径を50~200μmの範囲に設定した粗大なAlN焼結粉末を使用する。平均粒径が50μm未満と微細な場合には基板成形体4間に雰囲気ガスが充分に流通せず、また脱ガスも阻害されるため基板焼結体の組成が不均一になり易く、基板表面に付着残留する焼結粉末量が増大し、表面の仕上げ加工に多大な工数が必要となる。一方、平均粒径が200μmを超える粗大な場合にも基板表面にむらが生じ易くなる。上記焼結粉末は、市販の窒化アルミニウム原料粉末の造粒粉を脱脂焼結して製造される。」
ウ「【図1】
[図:0001424596000006.jpg]
」
エ「【図2】
[図:0001424596000007.jpg]
」
(2)乙第1号証の記載事項
乙第1号証には、「高熱伝導性窒化アルミニウム焼結体の製造方法」(発明の名称)に関して、次の事項が記載されている。
「【0017】焼成容器に関しては、窒化アルミニウム、アルミナ、Mo製等でも可能である(特開昭61-146769号等)。しかし、これらの容器を用いたものでは、焼結体中に、(希土類元素)-Al-O化合物相などが存在したままの状態となり、高熱伝導性は得られない。本発明では、焼成中にカーボンガス雰囲気をつくり出す容器を用いることが好ましい。この様な焼成容器としては容器全体がカーボン成形体で試料を設置する箇所にAlN板、BN板、W板等を敷いたもの、窒化アルミニウム製の容器で上部蓋がカーボン製の物等を用いることができる。本発明でいうカーボンガス雰囲気とは、1550~2050℃の焼結温度範囲で蒸気圧が1×10-6~5×10-2Pa程度生成するガスをさす。このカーボンガスが、焼成中のAlNを還元するという作用が得られ、さらに具体的には(希土類元素)-Al-O三元系化合物等の粒界相を焼結体中より除去する作用が働き、窒化アルミニウム焼結体はAlN単相となり、高熱伝導性の焼結体に変化していく。
【0018】この容器の内容積は、その内容積と窒化アルミニウム成形体との体積の比(内容積/成形体の体積)が1.1×100~1×107が良い。これ以上大きな容積を用いた場合、試料近傍におけるカーボン蒸気圧が低く、カーボンによる粒界相除去効果が小さくなる。この容積比は5×100~1×105が好ましい。
【0019】焼結時間については、従来種々の助剤を用い1~3時間の短時間で行なわれているが、この程度の時間では上記焼成容器中で焼成したとしても、窒化アルミニウム焼結体の緻密化、そして原料粉末表面の酸素を粒界相に固定することは可能であるが、AlN粒間の陵および三重点に粒界相が存在し、AlN単相の焼結体は得られない。また前述の如くのカーボンガス雰囲気が得られない場合は、長時間の焼成によっても粒界相の除去の効果は現われない。AlN単相にするためには焼結温度および助剤添加量にもよるが、24時間を越える時間が必要である。
【0020】焼成温度については、1550~2050℃程度であるが1700~2050℃が好ましい。低温で焼成すると、原料粉末の粒経、酸素量にもよるが緻密な焼結体が得にくく、またカーボンガスの発生が少なくなり、粒界相を残したままとなる。また2050℃より高温で焼成すると、AlN自体の蒸気圧が高くなり、緻密化が困難になると共に、アルミニウムとカーボンとの反応によりアルミニウムの炭化物(Al4C3)を生ずる可能性があり、また(希土類元素)-O化合物が還元窒化され窒化物と推定される相が生じる。焼成温度はより好ましくは1800~2000℃である。さらには1800~1950℃が好ましい。」
(3)乙第2号証の記載事項
乙第2号証には、「高熱伝導性窒化アルミニウムセラミックスの開発」(タイトル)に関して、次の事項が記載されている。
ア「[4] 還元雰囲気焼成によるAlNの高純度化
このようにして得られた焼結体には,当然のことながら粒界相が観察される。焼結助剤の添加は,ち密な焼結体を得るうえでも,また焼結体の熱伝導率を向上させるためにも必要であるが,焼結中に残存する粒界相は熱伝導の妨げになると推定される。粒界相の酸化物(Al5Y3O12,AlYO3,Al2Y4O9,Y2O3)は高温でカーボンと窒素が共存していると,式(3)のように,還元窒化されてAlNと窒化イットリウム(YN)になる。
AlxYyO3(x+y)/2+3(x+y)/2C+(x+y)/2N2→
xAlN+yYN+3(x+y)/2CO (3)
したがって,図2に示すように,還元窒化反応が焼結体の表面だけで起きても,焼結体内での物質拡散が速やかに起これば,焼結体から粒界相を除去できる可能性がある。そこで,Y2O3を5重量%添加した窒化アルミニウムを1,900℃で,2,6,12,24,96時間焼成した焼結体の破面を走査型電子顕微鏡で観察してみた(図3)。時間とともに酸化物の粒界相が消失して,最終的には粒界相も気孔もない焼結体が得られる。これに伴い,焼結体中のイットリウム,酸素の量がともに100ppmのレベルにまで減少していき,熱伝導率も260W/(m・K)にまで向上した(図3)。すなわち,焼結体(固体)の中から粒界相だけが消失したことになる(9),(10)。」(2ページ左欄下から6行~3ページ左欄3行)
イ「
[図:0001424596000008.jpg]
」(2ページ)
ウ「
[図:0001424596000009.jpg]
」(2ページ)
(4)乙第3号証の記載事項
乙第3号証には、「粒界層排出機構によるセラミックスの高機能化(課題番号01470069)」(タイトル)に関して、次の事項が記載されている。
ア「4. 粒界相制御による窒化アルミニウムの高熱伝導化
本節ではプロセスを制御して高性能を達成した一例として,窒化アルミニウム(AlN)の高熱伝導化を紹介する.
AlNは本質的に高熱伝導性の物質であるにもかかわらず,セラミックス化すると結晶転移粒界や粒内の異相,気孔,クラック等が熱伝導を阻害して,熱伝導率が大幅に低下しやすい.・・・
このようにして得た粒界相を含むAlN焼結体を更に還元雰囲気中で熱処理すると,粒界相が焼結体外に排出される.この様子を模式的に示すと図3のようになる.すなわち,粒界相は高温で焼結体内を高速で移動し,表面付近の還元雰囲気の影響でY2O3とAl2O3に分解し,更に窒化して表面層を形成する.粒界相を含む常圧焼結体と粒界相を含まないホットプレス焼結体を接合し,還元雰囲気中,1900℃で熱処理する(図4)と粒界相は30分間で厚さ1.2mmのホットプレス体中を表面まで移動する.粒界相排出のスピードは試料サイズだけでなく,カーボン容器の容積,試料と器壁の距離等の装置パラメータに大きく依存することが知られている.これは,還元性のカーボンガスが容器内で不均一に存在するためと考えられ,厳密な意味でこの過程を設計するためには,焼成中の容器内の雰囲気のシミュレートが必要となろう.」(85ページ右欄11行~86ページ右欄2行)
イ「
[図:0001424596000010.jpg]
」(86ページ)
第5 取消理由について
1 取消理由の概要
当審が特許権者に通知した、令和6年11月12日付けの取消理由の概要は、次のとおりである。
(1)取消理由1(新規事項の追加)
令和5年11月2日にした手続補正は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものでないため、設定登録時の請求項5~8に係る特許は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない補正をした特許出願に対してされたものである。
(2)取消理由2(実施可能要件違反)
設定登録時の請求項1~8に係る特許は、発明の詳細な説明の記載が、下記3(1)の点で不備のため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件(実施可能要件)を満たしていない特許出願に対してされたものである。
2 取消理由1(新規事項の追加)に対する当審の判断
訂正事項1によって、取消理由1の対象であった訂正前の請求項5は削除されたから、取消理由1は存在しないものとなった。
3 取消理由2(実施可能要件違反)に対する当審の判断
(1)具体的な指摘事項
取消理由2は、要するに、発明の詳細な説明には、カーボンバッチ炉で焼成する工程において、どのような方法で、成形体に対して第1面側の雰囲気のカーボン比率を低く、第2面側の雰囲気のカーボン比率を高くするのか、並びに、第1面側の雰囲気のカーボン比率と、第2面側の雰囲気のカーボン比率をそれぞれどの程度の値に設定するのか、及びこれらをどの程度の差に設定するのかについて具体的な記載がないため、発明の詳細な説明の記載は実施可能要件を満たさない、というものである。
(2)取消理由2についての検討
ア 実施可能要件の判断手法
物の発明について実施可能要件を充足するためには、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願当時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その物を製造し、使用することができる程度の記載があることを要する。
以下、この観点に立って検討する。
イ 実施可能要件の判断
(ア)まず、上記第3の2(3)の【0026】の「第1面11側の雰囲気のカーボン比率を低く、第2面12側の雰囲気のカーボン比率を高く」との記載の解釈について検討する。
発明の詳細な説明には、上記第3の2(3)の【0026】のとおり、「焼成する工程では、成形体に対して第1面11側の雰囲気のカーボン比率を低く、第2面12側の雰囲気のカーボン比率を高くする」ことにより、上記第3の2(2)の【0015】のとおり、「粒界相4の質量比率が、第1面に近い第1領域A1の方が、第2面に近い第2領域A2よりも、小さい」、「窒化アルミニウム基板1」が得られることが記載されている。
ここで、乙第1号証の上記第4の2(2)の【0017】、乙第2号証の同(3)、乙第3号証の同(4)の記載によれば、カーボンガス雰囲気中で焼成することで、窒化アルミニウム焼結体中の粒界相を除去できることは、本件出願時の技術常識であるから、カーボン比率が高い雰囲気に面する領域では粒界相の質量比が小さくなり、カーボン比率が低い雰囲気に面する領域では粒界相の質量比が大きくなると推察される。すなわち、成形体に対して第1面11側の雰囲気のカーボン比率を高く、第2面12側の雰囲気のカーボン比率を低くすることにより、粒界相4の質量比率が、第1面に近い第1領域A1の方が、第2面に近い第2領域A2よりも、小さい窒化アルミニウム基板1が得られるといえる。
してみると、発明の詳細な説明の上記第3の2(3)の【0026】の「第1面11側の雰囲気のカーボン比率を低く、第2面12側の雰囲気のカーボン比率を高く」との記載は、「第1面11側の雰囲気のカーボン比率を高く、第2面12側の雰囲気のカーボン比率を低くする」との誤記であると解するのが相当である。
以上を踏まえて、同【0026】の記載は、「焼成する工程では、成形体に対して第1面11側の雰囲気のカーボン比率を高く、第2面12側の雰囲気のカーボン比率を低くする」ことを意味すると解釈して、以下の検討を行う。
(イ)発明の詳細な説明には、上記第3の2(3)の【0026】、【0027】のとおり、成形体をカーボンバッチ炉で焼成する工程において、どのような方法及び条件で、成形体に対して第1面11側の雰囲気のカーボン比率を高く、第2面12側の雰囲気のカーボン比率を低くするのかについて具体的に記載されていない。
しかしながら、乙第1号証の上記第4の2(2)の【0017】には、焼成中にカーボンガス雰囲気をつくり出すために、容器全体がカーボン成形体で試料を設置する箇所にAlN板、BN板、W板等を敷いたものを用いること、及び、窒化アルミニウム製の容器で上部蓋がカーボン製の物等を用いることが記載されており、このような方法によれば、処理空間にカーボンガスの濃度勾配を形成することができるといえる。そして、この処理空間を仕切るように成形体を配置する等の手段により、成形体の上部側の雰囲気のカーボン比率を高くすることが可能であるといえる。そうすると、本件出願時公知の方法から、成形体に対して第1面11側の雰囲気のカーボン比率を高く、第2面12側の雰囲気のカーボン比率を低くする具体的な方法を、当業者が想起し得るから、本件発明を実施するために、過度の試行錯誤が必要であるとまではいえない。
また、乙第2号証の上記第4の2(3)、及び乙第3号証の同(4)の記載のとおり、カーボンと粒界相の反応式、及びカーボンガス雰囲気での粒界相除去の機序は、本件出願時周知の技術事項であるから、当業者が、カーボン比率を制御することで、粒界相の質量比率を制御することは可能であるといえ、第1面側のカーボン比率と第2面側のカーボン比率の具体的な条件を見出すことに、過度の試行錯誤が必要であるとまではいえない。
よって、発明の詳細な説明は、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び本件出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、本件発明の窒化アルミニウム基板を製造することができる程度に記載されているというべきであるから、取消理由2に理由はない。
(ウ)申立人の主張について
a 申立人の主張は、概略、以下のとおりである。
(a)令和7年1月14日付けで特許権者から提出された意見書、乙第2号証、及び乙第3号証に記載された事項から、「カーボン比率が低い雰囲気に面する領域では粒界相の質量比が大きくなり、カーボン比率が高い雰囲気に面する領域では粒界相の質量比が小さくなる」現象が生じるものと推察され、本件明細書の【0026】に記載された条件とは矛盾する(申立人意見書1ページ9行~4ページ最終行)。
(b)甲第1号証の上記第4の2(1)ウの図1、エの図2に記載されるように、一般的なバッチ炉での焼成中において、多くの成形体は、両面が他の成形体(又はしき粉)と接しており、成形体の両面がそれぞれ雰囲気と接することはないことからすると、第1面と第2面の両方をどのようにカーボンの雰囲気に晒すか、出願時の技術常識を踏まえても理解できない。また、発明の詳細な説明に記載されたような0.6μm~2.0μm厚の成形体の両面をカーボンを含む気体に晒しつつ、それぞれの面へのカーボン比率を異ならせる方法が、出願時の技術常識であったともいえない(特許異議申立書8ページ下から3行~10ページ13行、申立人意見書5ページ1行~第6ページ4行)。
(c)発明の詳細な説明には、第1面と第2面でカーボン比率をどの程度異ならせればよいか、具体的な条件が何ら記載されていないし、第1領域A1における粒界相4の質量比率と、第2領域A2における粒界相4の質量比率と、の差を誤差の3倍以上とするためには、第1面側の雰囲気のカーボン比率と、第2面側の雰囲気のカーボン比率と、の間には相当の差を設ける必要があると推察されるが、そのようなカーボン比率の差を形成する方法は、公知の手段でもなく、技術常識でもない。また、どの程度の雰囲気のカーボン比率で粒界相が減少するかは当業者であれば十分な知識を有しているということであれば、そのことを示す証拠も提出されるべきである(特許異議申立書10ページ14~20行、申立人意見書6ページ5行~7ページ16行)。
b 上記主張について検討する。
(a)上記a(a)の主張について
上記(ア)で述べたとおり、上記【0026】の記載は誤記であることは明らかであり、「第1面11側の雰囲気のカーボン比率を高く、第2面12側の雰囲気のカーボン比率を低くする」の意味であると解釈することができるから、上記主張は採用できない。
(b)上記a(b)の主張について
発明の詳細な説明には、上記第3の2(3)の【0025】のとおり、0.6μm~2.0μm厚のグリーンシートに成形されたグリーンシートを積層して基板の厚さの成形体としたものを、脱脂し、カーボンバッチ炉で焼成することが記載されており、前記成形体の両面が他の成形体(又はしき粉)と接することは何ら記載されていないし、同【0026】に記載されるとおり、前記成形体をカーボンを含む気体に晒しているのであるから、少なくとも前記成形体の第1面側はカーボンガス雰囲気と接するといえ、上記(b)の「成形体の両面がそれぞれ雰囲気と接することはない」との主張は、発明の詳細な説明の記載に基づくものではない。
また、同【0025】には、本件発明の成形体は、「0.6μm~2.0μm厚のグリーンシートに成形されたグリーンシートを積層して基板の厚さの成形体としたもの」であることが記載され、上記主張の「0.6μm~2.0μm厚の成形体」については何ら記載されていない。仮に、上記主張の「0.6μm~2.0μm厚の成形体」が、「0.6μm~2.0μm厚のグリーンシート」を意味するものとしても、発明の詳細な説明には、「0.6μm~2.0μm厚のグリーンシート」の両面をカーボンを含む気体に晒すことは何ら記載されていないから、上記(b)の「0.6μm~2.0μm厚の成形体の両面をカーボンを含む気体に晒」すとの主張も、発明の詳細な説明の記載に基づくものではない。
(c)上記a(c)の主張について
カーボン比率をどの程度異ならせればよいかの具体的な条件については、上記(イ)で述べたとおり、カーボンと粒界相の反応式、及びカーボンガス雰囲気での粒界相除去の機序が本件出願時周知の技術事項である以上、当業者がカーボン比率の具体的な条件を見出すことに、過度の試行錯誤が必要であるとまではいえない。
c よって、申立人の上記主張は、いずれも採用できない。
第6 取消理由において採用しなかった特許異議申立理由について
1 標記の特許異議申立理由の概要
申立人が主張する特許異議申立理由のうち、前記第5の取消理由において採用しなかった特許異議申立理由は、概略、以下のとおりである。
(1)申立理由1(サポート要件違反)
設定登録時の請求項1~8に係る特許は、特許請求の範囲の記載が下記2(1)アの点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
(2)申立理由2(明確性要件違反)
設定登録時の請求項1~8に係る特許は、特許請求の範囲の記載が下記2(2)アの点で不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
2 申立理由に対する当審の判断
(1)申立理由1(サポート要件違反)について
ア 具体的な指摘事項
(ア)第2領域の厚さについて
本件発明1では、第2領域の厚さが「基板の厚さの1/8以上1/3以下」であることが特定されている。一方、発明の詳細な説明には、上記第3の2(2)の【0016】のとおり、第2領域の厚さが「基板厚さの1/4以上、2/3以下」であることが記載されており、本件発明1の「基板の厚さの1/8以上1/3以下」であることは記載されていない。
また、発明の詳細な説明には、同(1)の【0006】のとおり、「厚さが前記基板の厚さの1/8以上1/3以下である第2領域」と記載されているが、この記載は、本件発明1の記載を転記したものであり、本件発明1の第2領域に関する実質的な説明ではない。
さらに、同(3)の【0030】には、第2領域に関して、「図3(A)に示すように第1領域B1、第2領域B2を設定し」と記載されており、図3(A)を参照すると、第2領域B2の厚さは、窒化アルミニウム基板8の厚みの1/3を超え、1/2に近いことが看取できる。すなわち、第2領域B2の厚さは、基板の厚さの1/8以上1/3以下の範囲には含まれていない。
換言すると、【発明を実施するための形態】に記載された発明は、上記【0006】に記載された第2領域の厚さが「基板の厚さの1/8以上1/3以下」と整合せず、上記【0016】に記載された「基板厚さの1/4以上、2/3以下」と整合する。
してみると、【発明を実施するための形態】には、第2領域の厚さは、基板の厚さの1/4以上、2/3以下であることが記載され、基板の厚さの1/8以上1/3以下であることは実質的に記載されていないといえる。
したがって、本件発明1及びこれを引用する本件発明1~4、6~8は、発明の詳細な説明に記載されたものではない。
(イ)粒子径について
設定登録時の請求項5では、第1~第3領域に含まれる窒化アルミニウム粒子の粒子径に関する特定が記載されており、「平均粒径」について何ら特定されていないから、前記請求項5及びこれを引用する請求項6~8に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものではない。
イ サポート要件の判断
(ア)本件発明の課題について
本件発明の課題は、上記第3の2(1)の【0005】のとおり、「熱伝導率の高い窒化アルミニウム基板、並びに、このような窒化アルミニウム基板を備えた電子装置及び電子モジュールを提供すること」である。
(イ)発明の詳細な説明には、上記第3の2(2)のとおり、「窒化アルミニウム基板1は、粒界相4の質量比率が、第1面に近い第1領域A1の方が、第2面に近い第2領域A2よりも、小さい」こと(【0015】)、「第1面11に近い第1領域A1とは、第1面11から厚さが基板厚さの1/4以上、2/3以下の領域であ」り(【0016】)、「粒界相4の質量比率が絶対的に小さくなる第1領域A1があることで、第1領域A1において高い熱伝導率が得られる」こと(【0018】)が記載されており、このような第1領域A1を備える窒化アルミニウム基板は、高い熱伝導率を有することが理解でき、本件発明の課題を解決できると認識できる。
これは、上記第3の2(3)のとおり、発明の詳細な説明に記載された実施例(【0027】~【0038】)でも裏付けられている。すなわち、実施例の窒化アルミニウム基板1においては、第1領域A1における粒界相の質量比率(平均値)は、第2領域A2における粒界相の質量比率(平均値)よりも、誤差3σを上回るレベルで小さかったのに対して、比較例の窒化アルミニウム基板8においては、第1領域B1における粒界相の質量比率(平均値)と、第2領域B2における粒界相の質量比率(平均値)との差は、誤差程度(3σ以内)であったことが記載され(【0027】、【0028】、【0030】、【0031】)、実施例と比較例の窒化アルミニウム基板1、8について、粒界相の総量が同一であっても、実施例の窒化アルミニウム基板1が比較例よりも高い熱伝導率を有することが示されている(【0035】~【0038】)。
(ウ)これに対して、本件発明1に係る請求項1の記載は、上記第3の1のとおりであって、本件発明1の窒化アルミニウム基板は、上記(イ)で検討した第1領域A1を備える窒化アルミニウム基板であるから、本件発明1は、当業者において、発明の詳細な説明の記載及び技術常識に照らして、本件発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであり、発明の詳細な説明に記載された発明といえる。
また、本件発明1に係る請求項1の記載を引用する本件発明2~4、6~8について検討しても事情は同じである。
(エ)ここで、上記ア(ア)の第2領域の厚さについて検討すると、上記(ウ)で述べたとおり、そもそも、本件発明1の窒化アルミニウム基板は、本件発明の課題を解決できると認識できるものである。また、上記第3の2(1)の【0006】には、第2領域の厚さが基板の厚さの1/8以上1/3以下であることが記載されているのであるから、本件発明1の第2領域の厚さの範囲についての根拠となる記載があるといえる。そして、同(3)の【0030】の記載及び同(4)の図3(A)は、比較例に関するものであるから、第2領域の厚さの範囲についての根拠となるものではない。
(オ)また、上記ア(イ)の粒子径については、訂正事項1によって、訂正前の請求項5は削除されたから、この指摘事項は解消している。
ウ 小括
したがって、申立理由1に理由はない。
(2)申立理由2(明確性要件違反)について
ア 具体的な指摘事項
本件特許の審査過程で令和5年11月2日に提出された意見書における特許権者の主張からすると、本件発明1では、粒子同士が面接触しているために、熱を高い熱伝導率で導く経路が得られる、と解される。
一方、本件発明1では、「互いに隣接する窒化アルミニウム粒子同士は、面と面との間に熱伝導の経路を形成している」ことが特定されている。
ここで、面と面が粒界相を介して連なっている場合でも、面と面との間には、粒界相を介した熱伝導の経路が形成されることからすると、「面と面との間に熱伝導の経路を形成している」とは、粒子同士が面接触している場合だけではなく、粒子同士が粒界相を挟んで点接触している場合も含むと解することができる。
そうすると、本件発明1に記載された「面と面との間に熱伝導の経路を形成している」とは、どのような状態を特定しているのか、明らかでない。
イ 明確性要件の判断
本件特許明細書には、上記第3の2(2)の【0022】のとおり、「小さな粒界相4が均一に多く分布していると、分子振動を散乱する作用が多く生じ、熱伝導率を低下させる」こと、及び「粒界相4の分布が少ない部分があることで、当該部分により、熱を高い伝導率で導くことのできる経路が太くなる」ことが記載されている。
上記本件特許明細書の記載に照らすと、互いに隣接する窒化アルミニウム粒子同士が、面と面との間に粒界相を介して連なっている場合には、熱を高い伝導率で導くことのできる経路が形成されないといえるから、「互いに隣接する窒化アルミニウム粒子同士は、面と面との間に熱伝導の経路を形成している」とは、互いに隣接する窒化アルミニウム粒子同士の面と面が粒界相を介さずに連なることを意味していることは明らかである。
そうすると、上記ア(ア)の「面と面が粒界相を介して連なっている場合でも、面と面との間には、粒界相を介した熱伝導の経路が形成される」との指摘事項は、本件特許明細書の記載に基づくものではない。
よって、本件発明1の上記発明特定事項が、第三者に不測の不利益を生じさせるほどに不明確であるとはいえない。
そして、本件発明1~4、6~8に係る請求項1~4、6~8のその余の記載をみても、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確な記載は見当たらない。
したがって、本件発明1~4、6~8に係る請求項1~4、6~8の記載は、特許法第36条第6項第2号に規定された要件に適合する。
ウ 小括
したがって、申立理由2に理由はない。
第7 むすび
以上のとおり、取消理由通知書に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、本件発明1~4、6~8に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1~4、6~8に係る特許を取り消すべき理由も発見しない。
さらに、請求項5は、前記第2のとおり、訂正により削除された。これにより、この請求項に係る本件特許5に対する特許異議の申立てについては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
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2024-700810