特許異議申立
2022-701310
水硬性石灰を用いた成形体およびその製造方法
- 審判番号
- 2022-701310
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2019-510165
- 登録番号
- 7095896
- 請求日
- 2022年12月27日
- 審決日
- 2023年09月26日
- 公報発行日
- 2023年12月28日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】クスノキ石灰株式会社
- 【権利者代理人】園田・小林弁理士法人
- 【異議申立人】鈴木 利之
- 審判長/審判官
- 審判長 三崎 仁
- 審判官 増山 淳子
- 審判官 金 公彦
- 分類
- P1651.113-YAA(B28B) / P1651.121-YAA(B28B) / P1651.537-YAA(B28B) / P1651.851-YAA(B28B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項第3号、特許法第120条の5第2項、特許法第120条の5第4項、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7095896号発明「水硬性石灰を用いた成形体およびその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7095896号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1、7〕、〔2-6〕について訂正することを認める。
特許第7095896号の請求項1ないし7に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7095896号(以下「本件特許」という。)に係る出願は、2018年(平成30年)3月29日(優先権主張 平成29年3月29日)を国際出願日とする出願であって、令和4年6月27日にその特許権の設定登録がされ、同年7月5日に特許掲載公報が発行された。
その後、本件特許の請求項1~7に係る特許に対し、特許異議申立人である鈴木利之(以下、「申立人」という。)より、令和4年12月27日に特許異議の申立てがされた。
以降の手続の経緯は、次のとおりである。
令和5年 3月14日付け:取消理由通知
同年 5月12日 :意見書の提出及び訂正の請求(特許権者)
同年 7月13日 :意見書の提出(申立人)
第2 訂正の適否についての判断
令和5年5月12日に特許権者より請求された訂正は適法になされたものと判断する。
以下、その理由につき詳述する。
1 訂正の内容
令和5年4月12日に提出された訂正請求書における訂正請求(以下、「本件訂正請求」といい、本件訂正請求による訂正を「本件訂正」という。)の趣旨は、特許請求の範囲を本件訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり訂正することを求めるものであり、その内容は、次の訂正事項1~2からなる(下線部は訂正箇所を示す。)。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「水硬性石灰を含む」と記載されているのを、「天然水硬性石灰を含む」に訂正する。
(請求項1を直接的に引用する請求項7についても同様に訂正する。)
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2に「(a)水硬性石灰及び水を含む混合物を5N/mm2以上の圧力でプレス成形する工程、及び(b)(a)で得られたプレス成形体を炭酸ガス養生に供する工程を含む、水硬性石灰を含む成形体の製造方法。」と記載されているのを、「(a)天然水硬性石灰及び水を含む混合物を5N/mm2以上の圧力でプレス成形する工程、及び(b)(a)で得られたプレス成形体を炭酸ガス養生に供する工程を含む、天然水硬性石灰を含む成形体の製造方法。」に訂正し、請求項5に「骨材が水硬性石灰に対して、水硬性石灰:骨材として」と記載されているのを「骨材が天然水硬性石灰に対して、天然水硬性石灰:骨材として」に訂正し、請求項6に「水硬性石灰のセメント係数が」と記載されているのを「天然水硬性石灰のセメント係数が」と訂正する。
(請求項2を直接的又は間接的に引用する請求項3~6、請求項5を直接的に引用する請求項6についても同様に訂正する。)
2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1について
訂正事項1は、水硬性石灰を「天然」水硬性石灰に限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、そして、上記限定は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。また、「天然」水硬性石灰は、願書に添付した明細書の【0013】の「本実施形態における水硬性石灰には、天然水硬性石灰(NHL、Natural Hydraulic Lime)、及び消石灰にポラゾン物質や水硬性を発現する材料を混合した人工水硬性石灰(HL、Hydraulic Lime)が含まれる。」と記載されているから、新たな技術的事項が導入されるものとはいえない。
(2)訂正事項2について
訂正事項2は、水硬性石灰を「天然」水硬性石灰に限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、そして、上記限定は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。また、「天然」水硬性石灰は、願書に添付した明細書の【0013】の「本実施形態における水硬性石灰には、天然水硬性石灰(NHL、Natural Hydraulic Lime)、及び消石灰にポラゾン物質や水硬性を発現する材料を混合した人工水硬性石灰(HL、Hydraulic Lime)が含まれる。」と記載されているから、新たな技術的事項が導入されるものとはいえない。
(3)一群の請求項について
訂正前の請求項7は請求項1を直接的に引用するものであり、訂正前の請求項3~6は請求項2を直接的又は間接的に引用するものであるから、請求項1及び7、請求項2~6は、各々一群の請求項である。そして、上記訂正事項1は前者の群において、上記訂正事項2は後者の群において、それぞれなされたものであるから、特許法第120条の5第4項で規定する当該一群の請求項ごとに請求されているものである。
3 小括
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1、7〕、〔2~6〕について訂正することを認める。
第3 本件特許請求の範囲の記載(本件発明)
上記第2のとおり本件訂正請求は適法になされたものであると認められるので、本件特許の特許請求の範囲の請求項1~7に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」~「本件発明7」といい、まとめて「本件発明」ということがある。)は、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1~7に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。
「【請求項1】
7.5N/mm2以上の曲げ強さを有する、炭酸カルシウム結晶化された天然水硬性石灰を含む成形体。
【請求項2】
(a)天然水硬性石灰及び水を含む混合物を5N/mm2以上の圧力でプレス成形する工程、及び(b)(a)で得られたプレス成形体を炭酸ガス養生に供する工程を含む、天然水硬性石灰を含む成形体の製造方法。
【請求項3】
15N/mm2以上の圧力でプレス成形する、請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
炭酸ガス養生が、炭酸ガス濃度1容積%以上で2日間以上の炭酸ガス養生である、請求項2又は3に記載の製造方法。
【請求項5】
骨材が天然水硬性石灰に対して、天然水硬性石灰:骨材として1:4未満の質量比で混合物中に配合される、請求項2から4の何れか一項に記載の製造方法。
【請求項6】
天然水硬性石灰のセメント係数が0.45~0.9である、請求項2から5の何れか一項に記載の製造方法。
【請求項7】
請求項1に記載の成形体を加工してなる部材。」
第4 取消理由通知書に記載した取消理由
1 取消理由の概要
当審が特許権者に通知した、令和5年3月14日付けの取消理由の概要は、以下のとおりである。
(1)新規性欠如
訂正前の請求項1、7に係る発明は、甲第2号証に記載された発明であって特許法第29条第1項第3号に該当し、請求項1~3、5に係る発明は、甲第4号証に記載された発明であって特許法第29条第1項第3号に該当するものであるから、その特許は、同法第29条第1項の規定に違反してされたものある。
(2)進歩性欠如
訂正前の請求項1、7に係る発明は、甲第2号証に記載された発明に基づいて、訂正前の請求項1~3、5、7に係る発明は甲第4号証に記載された発明に基づいて、訂正前の請求項4、6に係る発明は、甲第4号証に記載された発明及び甲第5号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は、同法第29条第2項の規定に違反してされたものある。
(3)サポート要件違反
訂正前の請求項1~7に係る発明は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
要すれば、訂正前の請求項1~7に係る発明において、水硬性石灰は、水硬性を有する任意の石灰を含みうるとも解釈できるものであるが、本件発明の詳細な説明の実施例では水硬性石灰として天然水硬性石灰を用いたものしか示されておらず、天然水硬性石灰以外の任意の水硬性石灰を用いた場合に、所望の成形体を製造できることを、本件発明の詳細な説明の記載から当業者が認識できるとはいえない。
したがって、水硬性石灰が「天然水硬性石灰」に特定されていない本件発明1~7はサポート要件に適合しない。
2 証拠一覧
(甲第2号証)特開2014-138878号公報
(甲第4号証)特開2005-145808号公報
(甲第5号証)特許第5175165号公報
以下、「甲第○号証」は、以下「甲○」という。
なお、主たる証拠は甲2、甲4であり、甲5は水硬性石灰の炭酸ガス養生に関するものである。
第5 取消理由通知書で提示した各証拠について
1 甲2について
(1)甲2の記載事項(以下の摘記における下線は当審で付与した。以下同様。)
ア 「【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、珪藻土を固めてパネルとした足拭きマットは、吸水性能の点ではタオル生地に比べ優れるが、表面が硬いため、足を拭くと皮膚がこすれ、感触が悪い点で問題があった。また、無機物であるため、塗れた足を置いた際、冷たい感触があり、不快感を伴い、またヒートショックにより急激な血圧上昇が発生する恐れがあった。
そこで、本発明は、ぬれた足を置いても滑り難く、冷たい感触もせず、また吸水性能も優れた足拭きマットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者等は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、特定の細孔構造を有し、また、構成水和物として珪酸カルシウム水和物を含んだものとすることにより、上記課題を解決することを見出し、本発明を完成するに至った。」
イ 「【0015】
<足拭きマットの製造方法>
次に、本発明の足拭きマットの製造方法について説明する。
まず、水とパルプをパルパーで混合し固形分濃度が0.2~5質量%、好ましくは0.5~4質量%、特に好ましくは1.0~3.0質量%のスラリーを調製する。この範囲であれば、ダマが発生することなく、十分にパルプが分散する。
次に、この懸濁液と、珪砂、珪藻土、石膏、消石灰、セピオライト及びパーライトとを混合機で混合し、原料スラリーを調製する。次いで、原料スラリーに凝集剤を添加した後、抄造機に移送し、丸網で抄き上げて2~6層に重ね、さらにこの層を3~10回積層して1枚のシートにする。
次に、シートを10~30MPaのプレス圧力で搾水し、所定の枚数をパレット上に積上げた後、養生シートで製品を覆い、オートクレーブに入れ、温度150~250℃、好ましくは160~200℃、圧力800~1200kPa、好ましくは900~1100kPa、特に好ましくは950~1050kPaで養生する。養生後、乾燥ラインにて含水率を調整する。これらの工程を経て所定の厚さ、嵩比重の足拭きマットを製造する。
厚みは4~20mm、好ましくは5~15mm、更に好ましくは5.5~12mm、特に好ましくは8~11mmである。嵩比重は、0.3~1.0、好ましくは0.4~0.9、更に好ましくは0.5~0.8である。これらの範囲であれば足拭きマットとして持ち運びやすく、また、適度な自重があるため設置しても動き難い。
【実施例】
【0016】
以下に実施例及び比較例を挙げ、本発明を更に詳しく説明する。
【0017】
(1)原料組成及びスラリーの調製
水に、叩解木材バージンパルプ、叩解木材回収パルプ及び未叩解木材バージンパルプのパルプ類と、長さ3mmのレーヨン繊維を加え、パルパー(混合機)で固形分濃度2質量%の懸濁液とした。パルプの叩解にはリファイナーを使用した。
次にこの懸濁液に、珪砂、珪藻土、石膏、消石灰,セピオライト、パーライト及び研削ダストを添加した後,撹拌・混合して、抄造用のスラリーを得た。抄造用のスラリーの配合を表1に示す。なお、表の単位は質量%である。この時、Ca4・(5SiO15)・(OH)2・(H2O)5の形成を考慮し、珪砂、珪藻土及び消石灰の総量中のCaO/SiO2の質量比を0.85に設定した。
【0018】
【表1】
[図:0001404794000001.jpg]
【0019】
(2)無機質成型体の製造
上記スラリーを丸網抄造機を使用して抄造を行い、得られたシートをプレスし、厚み約15mmの成型体原板を得た。この成型体原板を、長さ2420mmに切断し、更にプレスすることにより厚さ約11.5mmの無機質成型体を得た。
【0020】
(3)養生及び研削
上記無機質成型体を、オートクレーブ中で180℃、1003kPa(10気圧)の条件下で6時間以上養生して硬化体を得た。この硬化体をオートクレーブより取り出し、110℃で35分乾燥した後、表面の研磨及び加工を行い、幅450mm×長さ600mm×厚さ9.5mmの足拭きマット(試験片No.1)、並びに幅450mm×長さ600mm×厚さ6.0mmの足拭きマット(試験片No.2)を得た。
・・・・
【0023】
【表2】
[図:0001404794000002.jpg]
」
ウ 「【0027】
[X線回折測定]
生成水和物を確認するために、X線回折測定を行った。試験装置は(株)リガク製のRINT-2500を用い、管電圧35kV、管電流110mA、測定範囲は2θ=5~100°、連続スキャンの定性分析モード、走査速度は4°/min、発散スリット:1°、受光スリット:0.3mmの条件で行った。試験片はNo.1とNo.4を測定した。試験片No.1の測定結果を図8に示す。図8に示すように生成水和物は、Ca4・(5SiO15)・(OH)2・(H2O)5であることが分かり、その他にも原料の消石灰に由来するCaCO3(炭酸カルシウム)、珪石に由来するSiO2(クオーツ)のピークが確認された。」
(2)甲2に記載された発明
上記(1)において摘記した事項において、甲2の実施例1及び2(上記(1)イ、段落【0023】の【表2】)に着目すると、甲2には、次の発明が記載されているといえる。
なお、上記(1)ウでは、試験片No.1について、原料の消石灰に由来するCaCO3(炭酸カルシウム)のピークを確認しているが、試験片No.2についても同様にCaCO3(炭酸カルシウム)のピークがあるものといえる。
「水に、叩解木材バージンパルプ、叩解木材回収パルプ及び未叩解木材バージンパルプのパルプ類と、長さ3mmのレーヨン繊維を加え、パルパー(混合機)で固形分濃度2質量%の懸濁液とし、
この懸濁液に、珪砂、珪藻土、石膏、消石灰、セピオライト、パーライト及び研削ダストを添加した後、撹拌・混合して、抄造用のスラリーを得て、
上記スラリーを丸網抄造機を使用して抄造を行い、得られたシートをプレスして得た厚み約15mmの成型体原板を、長さ2420mmに切断し、更にプレスすることにより厚さ約11.5mmの無機質成型体を得て、
上記無機質成型体を、オートクレーブ中で180℃、1003kPa(10気圧)の条件下で6時間以上養生して硬化体を得て、この硬化体をオートクレーブより取り出し、110℃で35分乾燥した後、表面の研磨及び加工を行って得た、
原料の消石灰に由来するCaCO3(炭酸カルシウム)を含む、
曲げ強度11.1N/mm2又は11.6N/mm2の足拭きマット。」(以下、「甲2発明1」という。)
2 甲4について
(1)甲4の記載事項
ア 「【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、消石灰と無機粉末で構成される成形体を焼成することなく、密封容器中30分~3時間で炭酸固化することによる炭酸固化体を提供することにある。」
イ 「【発明の効果】
【0011】
消石灰および無機粉末により構成される成形体を、焼成することなく、また放出する炭酸ガスを必要最小限にし、極めて短時間で炭酸化させた炭酸カルシウムと無機粉末の複合体である炭酸固化体を製造することができる。」
ウ 「【実施例6】
【0035】
入交産業製消石灰(雪印)25mass%、仮焼生コン廃泥25mass%を固定し、残部の50mass%に砕石廃泥、フライアッシュ、石材スラッジ、浄水汚泥等の無機系廃棄物を配合した混合粉末に対して水を8mass%添加・混合した。次に30MPaの圧力で一軸プレス成形した約50×15×8mmの成形体を、1000mlの密封容器に入れ、-0.02MPaまで減圧した後、炭酸ガスを密封容器内に導入し、+0.05MPaの圧力で炭酸ガスを2時間圧送して炭酸固化した。使用した浄水汚泥は香川県水道局中部浄水場のものである。以上のようにして作製した固化体について、かさ比重、気孔率、曲げ強さを測定した結果を、配合割合と共に表6に示す。
【0036】
【表6】
[図:0001404794000003.jpg]
」
エ 「【実施例7】
【0038】
入交産業製消石灰(雪印)25mass%、仮焼生コン廃泥25mass%、砕石廃泥25mass%、フライアッシュ25mass%の混合粉末に対して水を8mass%添加・混合した。次に30、50、70MPaの圧力で一軸プレス成形した約50×15×8mmの成形体4個を、1000mlの密封容器に入れ、-0.02MPaまで減圧した後、炭酸ガスを密封容器内に導入し、+0.05MPaの圧力で炭酸ガスを2時間圧送して炭酸固化した。三種類のプレス成形圧力で作製した固化体のかさ比重、気孔率及び曲げ強さを表7に示す。
【0039】
【表7】
[図:0001404794000004.jpg]
」
オ 「【0044】
地球温暖化の原因となる焼成工程が不要で、消石灰と無機粉末を使用し、炭酸ガスの使用量を必要最小限度にし、短時間で炭酸固化させた固化体が、土木・建築用材料として有効に利用できる可能性がある。」
(2)甲4に記載された発明
上記(1)において摘記した事項において、甲4の実施例6の資料番号32、34(上記(1)ウ、段落【0036】の【表6】)、実施例7(上記(1)エ、段落【0039】の【表7】)に着目すると、甲4には、次の発明が記載されているといえる。
「入交産業製消石灰(雪印)25mass%、仮焼生コン廃泥25mass%を固定し、残部の50mass%にフライアッシュ50mass%、又はフライアッシュ30mass%及び浄水汚泥20mass%を配合した混合粉末に対して水を8mass%添加・混合し、
次に30MPaの圧力で一軸プレス成形した約50×15×8mmの成形体を、1000mlの密封容器に入れ、-0.02MPaまで減圧した後、炭酸ガスを密封容器内に導入し、+0.05MPaの圧力で炭酸ガスを2時間圧送して炭酸固化して作製された、
曲げ強さ7.8、9.2MPaの固化体。」(実施例6の試料番号32、34に対応)
(以下、「甲4発明1」という。)
「入交産業製消石灰(雪印)25mass%、仮焼生コン廃泥25mass%を固定し、残部の50mass%にフライアッシュ50mass%、又はフライアッシュ30mass%及び浄水汚泥20mass%を配合した混合粉末に対して水を8mass%添加・混合し、
次に30MPaの圧力で一軸プレス成形した約50×15×8mmの成形体を、1000mlの密封容器に入れ、-0.02MPaまで減圧した後、炭酸ガスを密封容器内に導入し、+0.05MPaの圧力で炭酸ガスを2時間圧送して炭酸固化する、
固化体の製造方法。」(実施例6の試料番号32、34に対応)
(以下、「甲4発明2」という。)
「入交産業製消石灰(雪印)25mass%、仮焼生コン廃泥25mass%、砕石廃泥25mass%、フライアッシュ25mass%の混合粉末に対して水を8mass%添加・混合し、
次に30、50、70MPaの圧力で一軸プレス成形した約50×15×8mmの成形体4個を、1000mlの密封容器に入れ、-0.02MPaまで減圧した後、炭酸ガスを密封容器内に導入し、+0.05MPaの圧力で炭酸ガスを2時間圧送して炭酸固化して作製された、
曲げ強さ10.6、12.6、16.3MPaの固化体。」(実施例7に対応)
(以下、「甲4発明3」という。)
「入交産業製消石灰(雪印)25mass%、仮焼生コン廃泥25mass%、砕石廃泥25mass%、フライアッシュ25mass%の混合粉末に対して水を8mass%添加・混合し、
次に30、50、70MPaの圧力で一軸プレス成形した約50×15×8mmの成形体4個を、1000mlの密封容器に入れ、-0.02MPaまで減圧した後、炭酸ガスを密封容器内に導入し、+0.05MPaの圧力で炭酸ガスを2時間圧送して炭酸固化する、
固化体の製造方法。」(実施例7に対応)
(以下、「甲4発明4」という。)
3 甲5について
(1)甲5の記載事項
ア「【0017】
本発明で使用する水硬性石灰の種類には、NHL2、NHL3.5、NHL5、HL2、HL3.5、HL5等があるが、これに限定されるものではなく、将来的に開発される水硬性石灰をも含む。天然水硬性石灰は産地によって、成分に多少のばらつきがあるが、水酸化カルシウムCa(OH)2、炭酸カルシウムCaCO3、ケイ酸二カルシウム(ビーライト;C2S)、二酸化ケイ素SiO2を主成分とするものであればよい。天然水硬性石灰はフランス産のものが有名であるが、チュニジア産、イタリア産等、他の産地のものであってもよい。水硬性石灰は、セメント係数0.55~0.75を有するものが特に好ましい。セメント係数が0.5以下、あるいは0.9以上の場合は、炭酸ガス養生による強度発現の効果は、水中養生に比較してそれほど高くはない。」
イ「【0019】
水硬性石灰と水を含む混合物を、型枠に充填し炭酸ガス養生に供する工程において、水硬性石灰と水を含む混合物は、型枠をはずさない状態で炭酸ガス養生に供されることが望ましい。
炭酸ガス養生の期間は、水硬性石灰と水の混合物が、脱型後に型くずれしない程度に硬化するための必要十分な期間である。その期間は、型枠の大きさ、周囲環境温度及び湿度などにより異なるが、一般的には、2~10日間であることが望ましく、5~8日間であることがより望ましい。
【0020】
炭酸ガス養生の炭酸ガス濃度は、大気中濃度よりも高いほど強度発現の効果が期待できるので、例えば、1容積%以上あることが望ましい。5容積%以上の炭酸ガス養生で高強度を早期に発現させることができ、10容積%や20容積%のようなより高濃度の炭酸ガス養生に供することで、より早期に高強度を発現させることができる。」
第6 当審の判断
1 取消理由1(新規性)、取消理由2(進歩性)について
(1)本件発明1、7について
ア 甲2を主たる証拠とした場合
(ア)本件発明1について
a 本件発明1と甲2発明1との対比
本件発明1と甲2発明1を対比すると、甲2発明1は「曲げ強度11.1N/mm2又は11.6N/mm2の足拭きマット」であり、「足拭きマット」は成形体といえるから、両発明は、「7.5N/mm2以上の曲げ強さを有する、成形体」である点で一致し、次の点で相違する。
(相違点1)
成形体が、本件発明1では、「炭酸カルシウム結晶化された天然水硬性石灰を含む」ものであるのに対し、甲2発明1では、「珪藻土」、「消石灰」などを含むスラリーから製造されるものである点。
b 相違点についての判断
(a)上記相違点1を検討するに、甲2発明1では、「珪藻土」、「消石灰」などを含むスラリーを原料としており、本件明細書の「本実施形態において人工水硬性石灰とは、消石灰にポゾラン質(珪酸(SiO2)、アルミナ(Al2O3)、酸化鉄(Fe2O3)などの鉱物)を後から添加したものを意味」(段落【0015】)するとの記載を踏まえると、甲2発明1は、ポゾランである「珪藻土」と「消石灰」を含むスラリーから製造されるから、人工水硬性石灰を含むものともいえる。
そして、甲2発明1は、「原料の消石灰に由来するCaCO3(炭酸カルシウム)を含む」から、「炭酸カルシム結晶化された人工水硬性石灰を含む」といえる。
しかしながら、本件発明1は炭酸カルシム結晶化された「天然水硬性石灰」を含むものであり、この点において、甲2発明1は本件発明と異なっている。そうすると、相違点1は実質的な相違点である。
(b)次に、相違点1の容易性について検討する。
甲2発明1は、上記の第5の1(1)アで摘記したように、「ぬれた足を置いても滑り難く、冷たい感触もせず、また吸水性能も優れた足拭きマットを提供することを目的」としたもので、「特定の細孔構造を有し、また、構成水和物として珪酸カルシウム水和物を含んだものとす」べく、「懸濁液に、珪砂、珪藻土、石膏、消石灰、セピオライト、パーライト及び研削ダストを添加した後,撹拌・混合して、抄造用のスラリー」から「足拭きマット」を製造したものであり、ここで、スラリーに「珪藻土」及び「消石灰」が含まれているからといって、「珪藻土」及び「消石灰」に代えて、あえて「天然水硬性石灰を用いる動機はなく、そして、「天然水硬性石灰を用いることによって上記足拭きマットの目的を達成できるものでもない。
そうすると、上記相違点1は、当業者が容易になし得たものではない。
c 小括
したがって、本件発明1は、甲2発明1であるとはいえないし、甲2発明1に基づいて容易に発明し得たものともいえない。
d 申立人の主張
申立人は、令和5年7月13日に提出した意見書において、甲5には「本願明細書で使用する場合、『水硬性石灰』は、天然水硬性石灰と人工水硬性石灰を含む」と記載されていること(【0013】)、甲2は「浴室やシャワー室、プール等に使用される無機質板状の足拭きマット」について、「曲げ強度等の機械的特性も十分である足拭きマットを得ることができる」と記載されているとおり強度向上を課題の一部としており、甲5も「水硬性石灰を用いた高い強度を有する建築材料を製造する方法」の提供を課題としているため、両者は強度向上という共通の課題を有し、強度が向上された部材という点で技術分野も関連していること、甲2の、オートクレーブ養生により硬化して硬化体を構成するという「珪藻土、消石灰などを含むスラリー」の作用・機能と、甲5の気中養生又は炭酸ガス養生によって硬化して強度を発現するという「天然水硬性石灰」の作用・機能が共通することから、甲2発明1の「珪藻土、消石灰などを含むスラリー」を甲5の「天然水硬性石灰」に置き換える動機付けが存在するため、本件発明1は、甲2発明1及び甲5に記載された事項から容易に発明し得る旨主張している。
しかしながら、甲5には、「本発明の高強度水硬性石灰建材の製造方法は、(a)水硬性石灰と水を含む混合物を、型枠に充填し炭酸ガス養生に供する工程を含んでなる方法である。この工程(a)は、水硬性石灰中の水酸化カルシウム結晶及び水和物C2Sが二酸化炭素と結合し炭酸カルシウム結晶へと変化する際の体積膨張を、型枠で拘束することにより該結晶間の結合を強固なものにし、高い強度発現を生じさせることができる。
本発明の好適な実施態様では、上記工程(a)の後に、(b)前記水硬性石灰と水を含む混合物を脱型後に更に炭酸ガス養生に供する工程を更に含むことができる。工程(b)により、水硬性石灰と水の混合物に十分な強度発現を生じさせることができる。
本発明の更に好適な実施態様では、上記炭酸ガス養生は炭酸ガス濃度1容積%以上で実施することができる。大気中の二酸化炭素濃度(およそ0.03%)よりも高い炭酸ガス濃度で養生することにより、早期に高い強度を発現させることができる。」(【0009】)と記載されているとおり、甲5において高い強度の達成に貢献しているのは、(a)水硬性石灰と水を含む混合物を、型枠に充填し炭酸ガス養生に供する工程、及び、(b)前記水硬性石灰と水を含む混合物を脱型後に更に炭酸ガス養生に供する工程を採用することであって、水硬性石灰として天然水硬性石灰を選択することではない。
そうすると、甲2発明1において、高い強度の達成を目指して甲5に記載の技術事項を適用する場合、「(a)水硬性石灰と水を含む混合物を、型枠に充填し炭酸ガス養生に供する工程、及び、(b)前記水硬性石灰と水を含む混合物を脱型後に更に炭酸ガス養生に供する工程」を採用する動機があったとしても、水硬性石灰として天然水硬性石灰を採用する動機はない。
してみれば、上記申立人の主張により、上記cの判断が覆ることはない。
(イ)本件発明7について
本件発明7は本件発明1を引用するものであって、本件発明1の特定事項を全て含むものであるから、上記(ア)bに示した理由と同様の理由により、本件発明7は甲2発明1ではないし、甲2発明1から容易に発明し得たものでもない。
イ 甲4を主たる証拠とした場合
(ア)本件発明1について
a 本件発明1と甲4発明1、3との対比
甲4発明1、3は「一軸プレス成形」され、「曲げ強さ7.8、9.2MPa」又は「曲げ強さ10.6、12.6、16.3MPa」の固化体であって、1MPa=1N/mm2であるから、本件発明1と甲4発明1、3は、「7.5N/mm2以上の曲げ強さを有する、成形体」である点でそれぞれ一致し、次の点で相違する。
(相違点2)
成形体が、本件発明1では、「炭酸カルシウム結晶化された天然水硬性石灰を含む」ものであるのに対し、甲4発明1、3では、「消石灰」と「フライアッシュ」などを含む混合粉末に水を添加・混合し、一軸プレス成形した成形体を炭酸固化するものである点。
b 相違点についての判断
(a)上記相違点2を検討するに、甲4発明1、3の「消石灰」と「フライアッシュ」などを含む混合粉末について、本件明細書の「本実施形態において人工水硬性石灰とは、消石灰にポゾラン質(珪酸(SiO2)、アルミナ(Al2O3)、酸化鉄(Fe2O3)などの鉱物)を後から添加したものを意味」(段落【0015】)するとの記載を踏まえると、「消石灰」とポゾランである「フライアッシュ」から製造される甲4発明1、3の固化体は、人工水硬性石灰を含むものともいえる。
また、甲4発明1、3の固化体は、「炭酸固化」されるから、技術常識を踏まえると、甲4発明1、3での消石灰が「炭酸固化」して、炭酸カルシム結晶化されることは明らかであるから、甲4発明1、3の固化体は、「炭酸カルシウム結晶化された人工水硬性石灰を含む」といえる。
しかしながら、本件発明1は炭酸カルシウム結晶化された「天然水硬性石灰」を含むものであり、この点において、甲4発明1、3は本件発明1と異なっている。そうすると、相違点2は実質的な相違点である。
(b)次に、相違点2の容易性について検討する。
甲4発明1、3は、上記第5の2(1)アで摘記したように、「消石灰と無機粉末で構成される成形体を焼成することなく、密封容器中30分から3時間で炭酸固化することによる炭酸固化体を提供すること」を目的としたもので、そのために「消石灰」と「フライアッシュ」などを含む混合粉末に水を添加・混合し、一軸プレス成形した成形体を炭酸固化しているところ、「消石灰」及び「フライアッシュ」が含まれているからといって、「消石灰」及び「フライアッシュ」に代えて、あえて「天然水硬性石灰」を用いる動機はなく、「天然水硬性石灰」を用いると「消石灰」を用いる前提が欠けることになる。
そうすると、上記相違点2は、当業者が容易になし得たものではない。
c 小括
したがって、本件発明1は、甲4発明1、3ではないし、甲4発明1、3から容易に発明し得たものともいえない。
d 申立人の主張
申立人は、令和5年7月13日に提出した意見書において、甲4は「土木・建築用材料」、甲5は「建築材料」に関するものであるため、両者は技術分野が同一であり、甲5は「水硬性石灰を用いた高い強度を有する建築材料を製造する方法」等の提供を課題としているところ、高い強度の達成は建築材料における自明の課題であり、甲4の、炭酸固化により硬化体を構成するという「消石灰と、ポゾランであるフライアッシュ」の作用・機能と、甲5の炭酸ガス養生によって硬化して強度を発現するという「天然水硬性石灰」の作用・機能が共通することから、甲4発明の「消石灰と、ポゾランであるフライアッシュ」を甲5記載の「天然水硬性石灰」に置き換える動機付けが存在するため、本件発明1は、甲4発明1、3、及び、甲5に記載された事項から容易に発明し得る旨主張している。
しかしながら、上記ア(ア)dと事情は同じであり、上記申立人の主張により上記cの判断が覆ることはない。
(イ)本件発明7について
本件発明7は、本件発明1を引用するものであって、本件発明1の特定事項を全て含むものであるから、上記(ア)に示した理由と同様の理由により、本件発明7は甲4発明1、3ではないし、甲4発明1、3から容易に発明し得たものでもない。
(2)本件発明2~6について(甲4を主たる証拠とする)
ア 本件発明2について
(ア)甲4発明2、4との対比
甲4発明2は「30MPaの圧力で一軸プレス成形」され、「炭酸ガスを密封容器内に導入し、+0.05MPaの圧力で炭酸ガスを2時間圧送して炭酸固化する」工程を、甲4発明4は「30、50、70MPaの圧力で一軸プレス成形」され、「炭酸ガスを密封容器内に導入し、+0.05MPaの圧力で炭酸ガスを2時間圧送して炭酸固化する」工程をそれぞれ含むものであり、1kN/cm2=10N/mm2であるから、本件発明2と甲4発明2、4では、それぞれ「5N/mm2以上の圧力でプレス成形する工程」、「プレス成形体を炭酸ガス養生に供する工程」を含む「成形体の製造方法」である点で一致し、次の点で相違する。
(相違点3)
本件発明2は、「天然水硬性石灰」及び水を含む混合物を用いた「天然水硬性石灰」を含む成形体の製造方法であるのに対し、甲4発明2、4は、「消石灰」と「フライアッシュ」などを含む混合粉末に水を添加・混合し、一軸プレス成形した成形体を炭酸固化する製造方法である点。
(イ)相違点についての判断
上記相違点3について検討するに、相違点3は、実質的に相違点2と同じであるから、上記(1)ア(イ)bでの検討を踏まえると、相違点3は実質的なものである。したがって、本件発明2は甲4発明2、4ではないし、甲4発明2、4に基づいて、さらには甲5を参照しても、甲4発明2、4から容易に発明し得たものでもない。
(ウ)申立人の主張
申立人は甲4発明2、4についても上記(1)イ(ア)dと同様の主張をしているが、上記(1)イ(ア)dと事情は同じであるため、上記申立人の主張により、上記(イ)の判断が覆ることはない。
イ 本件発明3~6について
本件発明3~6は、本件発明2を引用するものであって、本件発明2の特定事項を全て含むものであるから、上記ア(イ)に示した理由と同様の理由により、甲4発明2、4ではないし、甲5の記載を参照しても、甲4発明2、4から容易に発明し得たものではない。
(3)まとめ
上記のとおりであるから、取消理由1、2は理由がない。
2 取消理由3(サポート要件)について
本件発明1~7では、水硬性石灰として「天然水硬性石灰」を用いることが特定されている。そして、発明の詳細な説明の実施例において、天然水硬性石灰を用いれば所望の成形体を製造できることが示されている。してみれば、水硬性石灰が「天然水硬性石灰」であることが特定されている本件発明1~7は、発明の詳細な説明に記載されたものである。
したがって、取消理由3は理由がない。
3 申立人の天然水硬性石灰に関する主張について
申立人は、令和5年7月13日に提出した意見書で、「天然水硬性石灰」について、令和5年5月12日に特許権者から提出された意見書に「天然水硬性石灰は、欧州規格EN459-1により、『粉砕に関係なく消化によって粉末化した、いくらか粘土質または珪質の石灰石の焼成によって作られる石灰を意味する。・・・』と定義されており、製造方法においても消石灰とは区別されます」と記載されているため、本件発明1、7の「天然水硬性石灰」は水硬性石灰を製造法により特定するものであるため、物の発明の請求項にその物の製造方法が記載されていることとなる旨主張している。
しかし、本件発明1、7における「天然水硬性石灰」とは、水硬性石灰の種類を表しているのであって、水硬性石灰の製造方法を示すものではない。申立人が引用する「粉砕に関係なく消化によって粉末化した、いくらか粘土質または珪質の石灰石の焼成によって作られる石灰を意味する。」は、特許権者の提出した意見書における記載、又は、本件明細書中での天然水硬性石灰を説明する記載にすぎず、請求項の記載ではない。したがって、意見書中、又は、明細書中の天然水硬性石灰の説明が製造方法を含んでいるからといって、本件発明1、7において「物の発明についての請求項にその物の製造方法が記載されている」とはいえない。
したがって、上記主張は採用されない。
第7 取消理由において採用しなかった特許異議申立理由について
1 申立理由
特許異議申立理由(以下、「申立理由」という)は、概略、以下のとおりである。
ここで、上記第4で記載した取消理由通知書で提示しなかった証拠方法として、次のものがある。
(甲第1号証)特開平11-171632号公報
(甲第3号証)特開2006-328923号公報
(甲第6号証)川端 昌也ら、「ヨーロッパにおける水硬性石灰の建築材料としての利用状況と日本建築への適用」、Journal of the Society of Inorganic Materials, Japan、2004年、11巻、310号、p171-177
(甲第7号証)山崎 寛司、「ポゾラン類」、コンクリート・ジャーナル、1970年、8巻、3号、p24-27
なお、主たる証拠は甲1、甲3であり、甲6、甲7はポゾラン質の具体例に関するものである。
(1)申立理由1(新規性)、申立理由2(進歩性)
訂正前の請求項1、7に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、訂正前の請求項2、3、5に係る発明は、甲第1~3号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、訂正前の請求項4~6に係る発明は、甲第1~3号証に記載された発明及び甲第5号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は、同法第29条第1項又は第2項の規定に違反したものある。
(2)申立理由3(明確性)
訂正前の請求項1~7に係る特許は、特許請求の範囲の記載が以下の点で不備のため、特許法第36条6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
ア 訂正前の請求項1では、「7.5N/mm2以上の曲げ強さを有する、炭酸カルシウム結晶化された水硬性石灰を含む成形体」と特定されており、「成形体」という物の発明を、水硬性石灰を炭酸カルシウム結晶化するという製造方法により特定するものである。物の発明の請求項にその物の製造方法が記載されている場合において、その請求項の記載が明確性の要件に適合するといえるのは、出願時にその物をその構造又は特性により直接特定することが不可能であるか、又はおよそ実際的でないという事情が存在するときに限られるが、本件にそのような事情が存在するとは解されない。
イ 訂正前の請求項1には「7.5N/mm2以上の曲げ強さを有する」との特定があるが、曲げ強さの測定方法について、実施例1と2で試験体数が異なり、実施例1と実施例2の方法は同一ではないため、曲げ強さの測定方法が不明確である。
ウ 訂正前の請求項2には「炭酸ガス養生」との特定があるが、養生における炭酸ガス濃度がどの程度であれば請求項2で特定されている「炭酸ガス養生」といえるのか不明確である。
2 甲号証について
(1)甲1について
ア 記載事項
(ア)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、生コン等のコンクリートスラッジを利用したコンクリートスラッジ成形物の製造方法に関し、より詳細には、コンクリートスラッジ粒子を多量に含有するコンクリートスラッジ組成物からなる、圧縮強さおよび曲げ強度に優れるコンクリートスラッジ成形物の製造方法に関する。」
(イ)「【0007】
【課題を解決するための手段】本発明者らは上記現状に鑑み、コンクリートスラッジについて種々検討を重ねた結果、特定配合量の消石灰と珪砂とを組み合わせたコンクリートスラッジ組成物をプレス成形および炭酸ガス固化して得られたコンクリートスラッジ成形物が、優れた強度を有することを見出し、本発明を完成するに到った。」
(ウ)「【0011】(b)珪砂
珪砂は、石英粒を主とする砂であって、珪酸を90重量%以上含むものであれば他の成分については特に制限はない。」
(エ)「【0018】
【実施例】以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお「%」は、特に示す場合を除くほか「重量%」を示す。
【0019】実施例1
含水率13重量%のコンクリートスラッジ粒子を用いて、表-1に示す配合割合でコンクリートスラッジ組成物を得、これを直径8cm、厚さ1.2cmの円板状の型枠に入れ、次いで圧力6kN/cm2でプレス成形した。その後プレス成形物を常圧、常温、湿度65%、炭酸ガス濃度100%の炭酸ガス槽中に7時間静置し、コンクリートスラッジ成形物を得た。この成形物について、ひび割れの程度を測定した。板状成形物の表裏のひび割れの総長を観察し、3枚の板状成形物の平均値で表示した。結果を表-1に示す。ひび割れの発生は、コンクリートスラッジ粒子に対する珪砂の配合比(スラッジ:珪砂)と高く相関する一方、消石灰の配合割合との相関は少なかった。
【0020】
【表1】
[図:0001404794000005.jpg]
・・・
【0025】実施例4
消石灰20重量部、コンクリートスラッジ粒子48重量部および珪砂32重量部(コンクリートスラッジ粒子:珪砂=6:4)の配合割合に従いコンクリートスラッジ組成物を得た。また表-4に従い、珪砂に代えて、川砂(粒度0.053~0.5mm、珪酸64重量%)またはスラグ(新日本製鉄(株)社製、平均粒径1.0mm、組成;珪酸33重量%)を配合した組成物を得た。次いで、これらの組成物を用いて実施例1と同様に操作してコンクリートスラッジ成形物を得た。この成形物について、実施例2と同様の方法で圧縮強さと曲げ強さを測定した。結果を表-4に示す。その結果、珪砂を配合した場合はスラグや川砂を配合した場合と比較して、圧縮強さおよび曲げ強さがともに優れることが分かった。
【0026】
【表4】
[図:0001404794000006.jpg]
」
イ 甲1に記載された発明
上記アにおいて摘記した事項から、甲1には、次の発明が記載されているといえる。
「消石灰20重量部、含水率13重量%のコンクリートスラッジ粒子48重量部および珪砂32重量部(コンクリートスラッジ粒子:珪砂=6:4)の配合割合に従いコンクリートスラッジ組成物を得、これを直径8cm、厚さ1.2cmの円板状の型枠に入れ、次いで圧力6kN/cm2でプレス成形した後、プレス成形物を常圧、常温、湿度65%、炭酸ガス濃度100%の炭酸ガス槽中に7時間静置して得られた、曲げ強さが7.9N/mm2のコンクリートスラッジ成形物。」(以下、「甲1発明1」という。)
「消石灰20重量部、含水率13重量%のコンクリートスラッジ粒子48重量部および珪砂32重量部(コンクリートスラッジ粒子:珪砂=6:4)の配合割合に従いコンクリートスラッジ組成物を得、これを直径8cm、厚さ1.2cmの円板状の型枠に入れ、次いで圧力6kN/cm2でプレス成形した後、プレス成形物を常圧、常温、湿度65%、炭酸ガス濃度100%の炭酸ガス槽中に7時間静置する、コンクリートスラッジ成形物の製造方法。」(以下、「甲1発明2」という。)
(2)甲3について
ア 記載事項
(ア)「【技術分野】
【0001】
本発明は、炭酸固化体および粘土焼成体上に硬化皮膜を有する建築部材用コーティング膜に関し、特に防水性を付与することで屋外からの湿気を室内に持ち込まないだけでなく、撥水性、耐候性に優れ、生産性も良好な建築用壁材に関する。」
(イ)「【0025】
・・・
(5)実施例に使用した試験体の作成方法
入交産業製消石灰(雪印、#100)150重量部、フライアッシュ(平均粒径24.7μm)100重量部、砕石廃泥(平均粒径21.2μm)250重量部を乳鉢にて混合し、さらに純水8重量部を加えて混合した。次に30MPaの圧力で一軸プレス成形し、50×50×5mmの成形体を作成した。このようにして得られた成形体を密閉容器に入れた後、0.02MPaまで減圧し、次いで二酸化炭素ガスにより、0.05MPaまで加圧した状態で2時間保持することで炭酸固化体を得た。」
イ 甲3に記載された発明
上記アにおいて摘記した事項から、甲3には、次の発明が記載されているといえる。
「入交産業製消石灰(雪印、#100)150重量部、フライアッシュ(平均粒径24.7μm)100重量部、砕石廃泥(平均粒径21.2μm)250重量部を乳鉢にて混合し、さらに純水8重量部を加えて混合し、次に30MPaの圧力で一軸プレス成形し、50×50×5mmの成形体を作成して得られた成形体を密閉容器に入れた後、0.02MPaまで減圧し、次いで二酸化炭素ガスにより、0.05MPaまで加圧した状態で2時間保持する炭酸固化体の製造方法」(以下、「甲3発明」という。)
(3)甲6について
ア 記載事項
(ア)「1 はじめに
石灰に水硬性の性質を与える物質をポゾランと定義するのであれば,含まれるその割合によって,石灰特有の気硬性に加えて,水硬性が得られる.」(171頁左欄1~4行)
(イ)「この火山性の粘土は紀元前2世紀頃から利用されていたと推定されており,ナポリ地方で産出され,採石場がPozzuoliの近場にあったためPozzolanaと呼ばれるようになった.現在用いられているポゾランはこれをもとに石灰に水硬性を与える物質の総称となる.」(172頁左欄下から4行~右欄1行)
(4)甲7について
ア 記載事項
「ポゾラン効果
・・・・
構造学的構造についていえば,ゼオライト構造をもつもの-たとえばzeolitic tuff-が最も活性が高く,次いでガラス質の多いものほど活性が高い。結晶構造をもつもの-たとえば石英やムライト(3Al2O3・2SiO2)-は常温ではほとんど反応性をもたない。」(24頁右欄11行~下から8行)
3 当審の判断
(1)申立理由1、2について(甲1を主たる証拠とした場合)
ア 本件発明1、7について
(ア)本件発明1について
a 本件発明1と甲1発明1との対比
本件発明1と甲1発明1とを対比すると、甲1発明1は「曲げ強さが7.9N/mm2のコンクリートスラッジ成形物」であるから、両者は「7.5N/mm2以上の曲げ強さを有する成形物」である点で一致し、以下の点で相違する。
(相違点4)
成形体が、本件発明1では「炭酸カルシウム結晶化された天然水硬性石灰を含む」のに対し、甲1発明1では「消石灰」、「コンクリートスラッジ粒子」、「珪砂」を含むコンクリートスラッジ組成物から製造されるものである点。
b 相違点についての判断
(a)2(1)ア(ウ)によれば、「珪砂」は、石英粒を主とする砂であるところ、2(4)アによれば、石英は、ほとんどポゾラン反応の反応性をもたないものである。そうすると、甲1発明1の「珪砂」はポゾラン物質であるといえないため、「消石灰」と「珪砂」を含む組成物は水硬性石灰であるとはいえないし、天然水硬性石灰であるといえもない。そうすると、相違点4は実質的な相違点である。
(b)次に、相違点4の容易性について検討する。
甲1発明1は、上記2(1)ア(ア)で摘記したように、「生コン等のコンクリートスラッジを利用したコンクリートスラッジ成形物の製造方法に関し、より詳細には、コンクリートスラッジ粒子を多量に含有するコンクリートスラッジ組成物からなる、圧縮強さおよび曲げ強度に優れるコンクリートスラッジ成形物の製造方法に関する。」ものであるから、その前提となる甲1発明1の「消石灰」、「コンクリートスラッジ粒子」及び「珪砂」に代えて、あえて「天然水硬性石灰」を用いる動機はなく、「天然水硬性石灰」を用いると、「消石灰」を用いる前提が欠けることになる。
そうすると、上記相違点4は、当業者が容易になし得たものではない。
c 小括
したがって、本件発明1は甲1発明1ではないし、甲1発明1から容易に発明し得るものでもない。
(イ)本件発明7について
本件発明7は、本件発明1を引用するものであって、本件発明1の特定事項を全て含むものであるから、上記(イ)に示した理由と同様の理由により、甲1発明1ではないし、甲1発明1から容易に発明し得たものでもない。
イ 本件発明2~6について
(ア)本件発明2について
a 本件発明2と甲1発明2の対比
本件発明2と甲1発明2を対比すると、甲1発明2の「炭酸ガス濃度100%の炭酸ガス槽中に7時間静置する」ことは、本件発明2の「炭酸ガス養生」に相当し、甲1発明1の6kN/cm2は60N/mm2に相当するので、両者は、「(a)水を含む混合物を5N/mm2以上の圧力でプレス成形する工程、及び(b)(a)で得られたプレス成形体を炭酸ガス養生に供する工程を含む、成形体の製造方法」である点で一致し、以下の点で相違する。
(相違点5)
本件発明2は、「天然水硬性石灰」を含む混合物から「天然水硬性石灰を含む成形体」を製造する方法であるのに対し、甲1発明2は、「消石灰」、「コンクリートスラッジ粒子」、「珪砂」を含むコンクリートスラッジ組成物から成形体を製造するものである点
b 相違点についての判断
(a)上記相違点5を検討するに、上記ア(イ)に記載したとおり、「消石灰」と「珪砂」を含む組成物は水硬性石灰であるとはいえないし、天然水硬性石灰であるともいえないため、相違点5は実質的な相違点である。
(b)次に、相違点5の容易性について検討する。
甲1発明2は上記の で摘記したように、「生コン等のコンクリートスラッジを利用したコンクリートスラッジ成形物の製造方法に関し、より詳細には、コンクリートスラッジ粒子を多量に含有するコンクリートスラッジ組成物からなる、圧縮強さおよび曲げ強度に優れるコンクリートスラッジ成形物の製造方法に関する。」ものであるから、その前提となる甲1発明1の「消石灰」、「コンクリートスラッジ粒子」及び「珪砂」に代えて、あえて「天然水硬性石灰」を用いる動機はなく、「天然水硬性石灰」を用いると、「消石灰」を用いる前提が欠けることになる。
そうすると、上記相違点5は、当業者が容易になし得たものではない。
c 小括
したがって、本件発明2は甲1発明2ではないし、甲1発明2から容易に発明し得るものでもない。
(イ)本件発明3~6について
本件発明3~6は、本件発明2を引用するものであって、本件発明2の特定事項を全て含むものであるから、上記(ア)に示した理由と同様の理由により、甲1発明2ではないし、甲1発明2から容易に発明し得たものでもない。
(2)申立理由1、2について(甲2を主たる証拠とした場合)
ア 本件発明2について
上記第5の1(1)に摘記した事項から、甲2には以下の発明が記載されているといえる。
「水に、叩解木材バージンパルプ、叩解木材回収パルプ及び未叩解木材バージンパルプのパルプ類と、長さ3mmのレーヨン繊維を加え、パルパー(混合機)で固形分濃度2質量%の懸濁液とし、
この懸濁液に、珪砂、珪藻土、石膏、消石灰、セピオライト、パーライト及び研削ダストを添加した後、撹拌・混合して、抄造用のスラリーを得て、
上記スラリーを丸網抄造機を使用して抄造を行い、得られたシートをプレスして得た厚み約15mmの成型体原板を、長さ2420mmに切断し、更にプレスすることにより厚さ約11.5mmの無機質成型体を得て、
上記無機質成型体を、オートクレーブ中で180℃、1003kPa(10気圧)の条件下で6時間以上養生して硬化体を得て、この硬化体をオートクレーブより取り出し、110℃で35分乾燥した後、表面の研磨及び加工を行い、
原料の消石灰に由来するCaCO3(炭酸カルシウム)を含む、
曲げ強度11.1N/mm2又は11.6N/mm2の足拭きマットの製造方法」(以下、「甲2発明2」という。)
(イ)対比
本件発明2と甲2発明2を対比すると、両者は「(a)水を含む混合物をプレス成形する工程、を含む、成形体の製造方法」である点で一致し、次の点で相違する。
(相違点6)
本件発明2は、「天然水硬性石灰」を含む混合物から製造され、「天然水硬性石灰を含む成形体」を製造するものであるところ、甲2発明2は、「珪藻土」、「消石灰」などを含むスラリーから成形体を製造するものである点
(相違点7)
本件発明2は、天然水硬性石灰及び水を含む混合物を「5N/mm2以上の圧力でプレス成形」する工程を含むのに対し、甲2発明2では、プレス成形時の圧力が不明な点
(相違点8)
本件発明2は、炭酸ガス養生に供する工程を含むのに対し、甲2発明2では、オートクレーブ中で養生する工程を含む点
(ウ)相違点についての判断
相違点6について検討すると、相違点6は実質的に相違点1と同じであるから、上記第6の1(1)ア(ア)bでの検討を踏まえると、相違点6は実質的な相違点であるし、当業者が容易になし得たものではない。
したがって、相違点7、8を検討するまでもなく、本件発明2は甲2発明2ではないし、甲2発明2に基づいて、容易に発明し得たものでもない。
イ 本件発明3~6について
本件発明3~6は、本件発明2を引用するものであって、本件発明2の特定事項を全て含むものであるから、上記アに示した理由と同様の理由により、甲2発明2ではないし、甲2発明2に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。
(3)申立理由1、2について(甲3を主たる証拠とした場合)
ア 本件発明2~6について
(ア)本件発明2について
a 本件発明2と甲3発明の対比
甲3発明の「30MPa」は「30N/mm2」に相当するから、本件発明2と甲3発明を対比すると、両者は「(a)水を含む混合物を5N/mm2以上の圧力でプレス成形する工程、を含む成形体の製造方法」である点で一致し、以下の点で相違する。
(相違点9)
本件発明2は、混合物が「天然水硬性石灰」を含む混合物から製造され、「天然水硬性石灰を含む成形体」を製造するものであるところ、甲3発明は「消石灰」、「フライアッシュ」を含む混合物から成形体を製造する点
(相違点10)
本件発明2は、炭酸ガス養生に供する工程を含むのに対し、甲3発明は「密閉容器に入れた後、0.02MPaまで減圧し、次いで二酸化炭素ガスにより、0.05MPaまで加圧した状態で2時間保持する」工程を含む点。
b 相違点についての判断
(a)上記相違点9を検討するに、甲3発明では、「消石灰」、「フライアッシュ」などを含むスラリーを原料としており、本件明細書の「本実施形態において人工水硬性石灰とは、消石灰にポゾラン質(珪酸(SiO2)、アルミナ(Al2O3)、酸化鉄(Fe2O3)などの鉱物)を後から添加したものを意味」(段落【0015】)するとの記載を踏まえると、甲3発明は、ポゾランである「フライアッシュ」と「消石灰」を含むスラリーから製造されるから、人工水硬性石灰石灰を含むものともいえる。
しかしながら、本件発明2は「天然水硬性石灰」を含む混合物を用いるものであり、この点において、甲3発明は本件発明2と異なっている。そうすると、相違点9は実質的な相違点である。
(b)次に、相違点9の容易性について検討する。
甲3発明は上記2(2)ア(ア)で摘記したように「本発明は、炭酸固化体および粘土焼成体上に硬化皮膜を有する建築部材用コーティング膜に関し、特に防水性を付与することで屋外からの湿気を室内に持ち込まないだけでなく、撥水性、耐候性に優れ、生産性も良好な建築用壁材に関する。」ものであり、そのような建築用壁材を得るために、「消石灰」と「フライアッシュ」などを含む混合粉末に水を添加・混合し、一軸プレス成形した成形体を炭酸固化しているところ、「消石灰」及び「フライアッシュ」が含まれているからといって、「消石灰」及び「フライアッシュ」に代えて、あえて「天然水硬性石灰」を用いる動機はなく、「天然水硬性石灰」を用いると「消石灰」を用いる前提が欠けることになる。
そうすると、上記相違点9は、当業者が容易になし得たものではない。
c 小括
したがって、相違点10について検討するまでもなく、本件発明2は、甲3発明ではないし、甲3発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。
(イ)本件発明3~6について
本件発明3~6は、本件発明2を引用するものであって、本件発明2の特定事項を全て含むものであるから、上記ア(イ)に示した理由と同様の理由により、甲3発明ではないし、甲3発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(4)まとめ
上記のとおりであるから、申立理由1、2は理由がない。
(5)申立理由3(明確性)について
ア 本件発明1の「炭酸カルシウム結晶化された」との特定は、天然水硬性石灰が「炭酸カルシウム結晶化され」ている「状態」を特定するものであって、その製造方法を特定するものではないため、物の発明の請求項にその物の製造方法が記載されている場合に該当しない。
よって、本件発明1は明確であり、申立人の上記主張は採用できない。
イ 曲げ強さの測定方法については、実施例1についての記載箇所である【0034】に
「2.試験体の曲げ強さの測定
(測定方法)
曲げ強さの測定試験は、100×100×10mmの試験体を作製して行った。試験体は、2体を1セットとして、曲げ強さを測定し、2体の平均値とした。測定は、20kN万能試験機(島津製作所製)を用いて行った。試験体の加力方法は万能試験機による3点支持の一方向単調加力とし、載荷スピードは最大強度を加味しながら1から10N/secに荷重制御して行った。
3点曲げによる曲げ強さは、以下の公式よって計算される。
ρ = 3PD/2bh2
ここで、ρは曲げ強さ(N/mm2)、Pは破壊荷重(N)、Dは支持支点距離(mm)、bh2は成形体の寸法(幅b(mm)、成h(mm))を表し、ここではDを90mmとした。」と記載されている。
そして、実施例2についての記載箇所である【0039】では、「曲げ強さの測定試験は、実施例1と同様に100×100×10mmの試験体を作製して行った。試験体数は3体とし、これら平均を試験結果の値とした。加力方法は、100kN万能試験機(島津製作所製)による3点支持の一方向単調加力とし、載荷スピードは10N/secに荷重制御して行った。3点曲げによる曲げ強さは、実施例1と同様の公式によって計算した。」と記載されており、試験体数以外は実施例1と同じ方法で測定したことが記載されている。そして、試験体数が2であるか3であるかによって、実質的に、得られる測定結果が違うものとなるとはいえない。
そうすると、【0034】に曲げ強度の測定方法が記載されており、実施例1と実施例2で測定方法は実質的に同じであるため、曲げ強度の測定方法は明確である。
よって、本件発明1は明確であり、申立人の上記主張は採用できない。
ウ 本件明細書には、下記記載がある。
(ア)「【0026】
炭酸ガス養生の炭酸ガス濃度は、大気中濃度(およそ0.03%)よりも高いほど強度発現の効果が期待でき、例えば、1容積%以上あることが望ましい。」
(イ)「【0036】
3.2.養生条件による影響
5容積%の炭酸ガスを用いて、3日間、7日間、14日間、21日間、28日間の炭酸ガス養生又は気中養生を実施し、炭酸ガス養生日数が曲げ強さに与える影響について検討した。
図3に示されるように、成形圧力40N/mm2の場合、8号ケイ砂を配合比1:1とした時に曲げ強さ19.47N/mm2が得られた。この値は、気中養生で得られた試験結果(成形圧力、配合や養生期間など同条件で製作した場合3.62N/mm2)のおよそ5倍となり、炭酸養生することにより約5倍まで曲げ強さを上昇できることが確認できる。」
(ア)によれば、炭酸ガス養生では大気中よりも炭酸ガス濃度が高いと強度発現の効果が期待できることが記載されているといえ、(イ)によれば、炭酸ガス養生と気中養生は区別して記載され、気中養生では十分な曲げ強さの上昇が見られなかったことが記載されているといえる。
そうすると、本件発明において「炭酸ガス養生」とは、大気中に含まれる程度の炭酸濃度での養生ではなく、大気中よりも高い炭酸濃度の気体中での養生を意味しているといえる。
したがって、本件発明2の「炭酸ガス養生」の意味は明確であり、申立人の上記主張は採用できない。
エ 小括
したがって、申立理由3には理由がない。
第8 むすび
以上のとおりであるから、本件発明1~7に係る特許は、特許異議申立書に記載された申立理由、及び、取消理由通知書に記載した取消理由によっては、取り消すことができない。
また、他に本件発明1~7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する
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2022-701310