特許異議申立
2024-700421
二軸配向ポリプロピレンフィルム、金属膜積層フィルムおよびフィルムコンデンサ
- 審判番号
- 2024-700421
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2020-023070
- 登録番号
- 7375599
- 請求日
- 2024年05月01日
- 審決日
- 2024年08月29日
- 公報発行日
- 2024年09月27日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】東レ株式会社
- 【異議申立人】小林 瞳
- 審判長/審判官
- 審判長 柴田 昌弘
- 審判官 天野 宏樹
- 審判官 植前 充司
- 分類
- P1651.113-Y (C08J) / P1651.121-Y (C08J) / P1651.536-Y (C08J) / P1651.537-Y (C08J)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項、特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第1号、特許法第2条第3項第1号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7375599号発明「二軸配向ポリプロピレンフィルム、金属膜積層フィルムおよびフィルムコンデンサ」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7375599号の請求項1ないし10に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7375599号(以下、「本件特許」という。)の請求項1~10に係る特許についての出願は、令和2年2月14日(優先権主張 平成31年2月18日)の出願であって、令和5年10月30日にその特許権の設定登録(請求項の数10)がされ、同年11月8日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許に対して、令和6年5月1日に特許異議申立人小林瞳(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立て(対象請求項:請求項1~10)がなされたものである。
第2 本件発明について
本件特許の請求項1~10に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」~「本件発明10」という。まとめて、「本件発明」ということもある。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1~10に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
なお、以下において、隅付き括弧は「[ ]」と表記した。
「[請求項1]
ポリプロピレン樹脂を主成分とする二軸配向ポリプロピレンフィルムであって、表面性状のアスペクト比(Str)が0.55~0.95である表面を少なくとも片面に有することを特徴とする、二軸配向ポリプロピレンフィルム。
[請求項2]
表面性状のアスペクト比(Str)が0.55~0.95である表面の最小自己相関長さ(Sal)が10~40μmである、請求項1に記載の二軸配向ポリプロピレンフィルム。
[請求項3]
表面性状のアスペクト比(Str)が0.55~0.95である表面の算術平均高さ(Sa)が10~70nmである、請求項1または2に記載の二軸配向ポリプロピレンフィルム。
[請求項4]
厚み(t)が1.0~3.0μmである、請求項1~3のいずれかに記載の二軸配向ポリプロピレンフィルム。
[請求項5]
表面性状のアスペクト比(Str)が0.55~0.95である表面を両面に有することを特徴とする、請求項1~4のいずれかに記載の二軸配向ポリプロピレンフィルム。
[請求項6]
最小自己相関長さ(Sal)が10~40μmである表面を両面に有することを特徴とする、請求項1~5のいずれかに記載の二軸配向ポリプロピレンフィルム。
[請求項7]
前記フィルム100質量%中に、230℃における溶融流動指数(MFR、単位:g/10min)及び溶融張力(MS、単位:cN)が式(1)を満たす高溶融張力ポリプロピレン(H)を、5.0~15.0質量%含有することを特徴とする、請求項1~6のいずれかに記載の二軸配向ポリプロピレンフィルム。
log(MS)>-0.56×log(MFR)+0.74 ・・・式(1)
[請求項8]
前記高溶融張力ポリプロピレン(H)の溶融張力(MS)が、5~18cNである、請求項7に記載の二軸配向ポリプロピレンフィルム。
[請求項9]
請求項1~8のいずれかに記載の二軸配向ポリプロピレンフィルムの少なくとも片面に金属膜を形成してなる金属膜積層フィルム。
[請求項10]
請求項9に記載の金属膜積層フィルムからなるフィルムコンデンサ。」
第3 特許異議申立理由の概要
申立人は、証拠方法として下記2.に示す甲第1号証~甲第3号証(以下、それぞれ「甲1」~「甲3」のようにいう。)を提出し、概略、以下の特許異議申立理由を主張している。なお、特許異議申立理由の番号は当審が仮に付与した。
1.特許異議申立理由
(1)理由1(甲1に基づく新規性欠如)
本件発明1、3~6、9、10は、本件特許の優先日前に日本国内または外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができるものではなく、それらの発明についての特許は同法第29条の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
(2)理由2(甲1に基づく進歩性欠如)
本件発明1~10は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲1に記載された発明に基づいて、本件特許の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができるものではなく、それらの発明についての特許は同法第29条の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
(3)理由3(実施可能要件違反)
本件特許は、発明の詳細な説明の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第4項第1号に適合するものではなく、本件発明1~6、9、10についての特許は同法同条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
(4)理由4(サポート要件違反)
本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に適合するものではなく、本件発明1~6、9、10についての特許は同法同条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
●理由3及び理由4の具体的な内容
ア 凹凸の高さについて
本件特許発明の構成Bのアスペクト比(Str)の限定は、凹凸形状の周期長さの異方性の指標であるため、凹凸の高さを何ら限定していない。このため、構成Bによっては、フィルムを積層した際のフィルム層間のエアー量等を調整することができず、算術平均高さ(Sa)などを特定しない限り、本件特許発明の課題である「高い生産性、加工性、耐電圧性を有し、かつ、主に大容量コンデンサにおいて適正な保安性を得るため、コンデンサのフィルム層間のエアー量および間隙距離をフィルムの長手方向および幅手方向に均ーに制御する表面性状を有する二軸配向ポリプロピレンフィルムを提供する」([0016])を解決することができない。
イ 高溶融張力ポリプロピレンについて
本件特許の実施例では、構成Bのアスペクト比(Str)の範囲を満たす場合、全ての例で溶融張力(MS)が4cN以上の高溶融張力ポリプロピレン(H)を使用している。高溶融張力ポリプロピレン(H)を使用することで、算術平均高さ(Sa)が一定以上となっている可能性があり、高溶融張力ポリプロピレン(H)を使用せずにアスペクト比(Str)の範囲を満たすものは、本件特許発明の課題を解決することができるとは、当業者が認識できない。
また、高溶融張力ポリプロピレン(H)を使用せずにアスペクト比(Str)の範囲を満たすものは、当業者が過度の実験等を行なわずに実施することができない。
2.証拠方法
甲1:特開2014-114419号公報
甲2:国際公開第2017/221985号
甲3:特表2016-521302号公報
第4 当審の判断
当審は、申立人が申し立てたいずれの特許異議申立理由によっても、本件発明1~10についての特許を取り消すことはできないと判断する。理由は以下のとおりである。
1.理由1(甲1に基づく新規性欠如)及び理由2(甲1に基づく進歩性欠如)について
(1)甲1に記載された事項
甲1には以下の事項が記載されている。
(1-1)「[請求項1]
アイソタクチックポリプロピレン樹脂を主成分とするポリプロピレン樹脂組成物から形成された表層を有し、該表層の表面は、微細凹凸が形成された粗面化表面である二軸延伸ポリオレフィンフィルムであって、
前記ポリプロピレン樹脂組成物は、下記式(1)で表される単位を有するポリメチルペンテンを含有し、
前記粗面化表面は、下記式(2)および(3)の関係を満足することを特徴とする二軸延伸ポリオレフィンフィルム。
[化1]
[図:0001414218000001.jpg]
-15μm≦RSm2-RSm1≦3μm・・・(2)
8μm≦RSm2≦25μm・・・(3)
(式中、RSm1およびRSm2は、前記粗面化表面の表面粗さを光干渉式非接触表面形状測定器で測定した際の曲線要素の平均長さであり、RSm1はポリオレフィンフィルムの縦方向に沿う測定値、RSm2はポリオレフィンフィルムの幅方向に沿う測定値である。)
[請求項2]
前記ポリプロピレン樹脂組成物は、前記ポリメチルペンテンを5~30質量%含有することを特徴とする請求項1に記載の二軸延伸ポリオレフィンフィルム。」
(1-2)「[発明が解決しようとする課題]
・・・
[0008]
本発明の目的は、高電圧印加時の高温耐電圧特性と保安性とを兼ね備えた小型で大容量の電子・電気機器用コンデンサを製造できる二軸延伸ポリオレフィンフィルムと、該フィルムの製造方法と、金属蒸着ポリオレフィンフィルムおよびフィルムコンデンサの提供にある。
[課題を解決するための手段]
[0009]
本発明者は鋭意検討した結果、光干渉式非接触表面形状測定器を用いて、二軸延伸ポリオレフィンフィルムの粗面化表面の「曲線要素の平均長さ(RSm)」をフィルムの縦方向と幅方向にそれぞれ測定した際において、縦方向における測定値と幅方向における測定値との差が特定の範囲にあると、該二軸延伸ポリオレフィンフィルムは高温絶縁破壊強度に優れ、かつ、フィルムコンデンサとした際の高電圧印加時の高温耐電圧特性と保安性とが共に優れることに想到した。また、このような表面の粗さは、特定のポリプロピレン樹脂組成物を用いることで形成できることを見出し、本発明を完成させた。」
(1-3)「[0013]
なお、本発明の二軸延伸ポリオレフィンフィルムは、1層以上からなり、少なくとも一方の表層が、アイソタクチックポリプロピレン樹脂を主成分とするポリプロピレン樹脂組成物から形成される。両方の表層がアイソタクチックポリプロピレン樹脂を主成分とするポリプロピレン樹脂組成物から形成されている場合、少なくとも一方の表層の表面が、上述の特定の粗面化状態とされる。一方の表層がアイソタクチックポリプロピレン樹脂を主成分とするポリプロピレン樹脂組成物から形成されている場合、該一方の表層の表面が、上述の特定の粗面化状態とされる。また、二軸延伸ポリオレフィンフィルムが1層構成である場合、表層とは、該二軸延伸ポリオレフィンフィルムそのものを指す。
以降、「特定の粗面化状態」とは、式(2)および(3)を満足するフィルムの表面状態のことを意味する。」
(1-4)「[0024]
光干渉式非接触表面形状測定器である(株)菱化システム社製の非接触表面・層断面形状測定システムVertScan(登録商標)2.0(型式:R5500GML)を用いたRSm1、RSm2、Saの測定は以下のように行う。
測定モードは、高さ方向の解像度が0.1nmであるWAVEモードにて測定する。
そして、光干渉式非接触表面形状測定器にて、530whiteフィルタ及び×10対物レンズを用いて、一視野あたり470.92μm×353.16μmを640×480pixelとなる解像度にて測定し、表面形状データを得る。この操作を粗面化表面の任意の3箇所について行う。
得られたデータについて、VertScan(登録商標)2.0に付属の解析ソフトウェア「VS-Viewer」を用いて、下記の画像処理および表面形状の測定を行う。
まず、ノイズ除去処理として、メディアンフィルタにて、各画素の高さを、その画素を中央とする5×5画素の領域の高さソートした中央値に置き換える処理を行う。その後、粗さ成分の抽出処理として、ガウシアンフィルタ処理にてカットオフ値30μm以上の高周波成分を抽出し、うねり成分を除去する。
上述のようにして得られた任意の3箇所の表面形状データの各画像それぞれについて、高さデータの絶対値の算術平均の値Saを測定し、3つの値の平均値として高さデータの絶対値の算術平均の値Saを求める。
また、3箇所の表面形状データの各画像それぞれにつき、縦方向、幅方向の各方向について5箇所の断面解析を行い、表面粗さの曲線要素の平均長さRSm1(縦方向)およびRSm2(幅方向)について、それぞれ15のデータを得る。そして、15のデータの平均値をRSm1およびRSm2の測定値として採用する。」
(1-5)「[0068]
〔実施例1〕
アイソタクチックポリプロピレン樹脂Cを90質量%、ポリメチルペンテンとして、三井化学(株)製TPX(登録商標)MX002O(試験荷重5kg、温度260℃で測定したMFR=21g/10分)10質量%を、連続式計量混合機にて混合し押出成形機(1軸混錬タイプ、L/D=40)に供給した。
押出成形機にて樹脂温度が265℃となるように加熱溶融し、フィルタを通した後、押出成形機の回転数とダイスリップ部の平均スリット間隙および冷却成型ロールの速度を制御して、Tダイからドラフト比が5となるような条件で溶融押し出しし、表面温度90℃の1段目の冷却成型ロールにエアナイフを用いて押し当てた。次いで、反対面を表面温度70℃の2段目の冷却成型ロールに押し当てて冷却固化しキャストシートを得た。なお随時測定した二軸延伸ポリオレフィンフィルムの厚みが2.5μmとなるよう、キャストシートの厚みを適宜調整した。キャストシートの厚みは0.15mm前後であった。
引き続きこのキャストシートを145℃まで加熱し、速度差を設けたロール間に通して縦方向に5倍に延伸した。次いで、当該延伸フィルムをテンターに導いて165℃まで加熱し、横方向に10倍に延伸した後、9倍まで緩和し170℃で熱固定した。
次いで、この二軸延伸フィルムの1段目の冷却成型ロールに押し当てられた面側に、空気雰囲気下でコロナ放電処理を行い、ワインダーで巻き取った。巻き取られたロールは35℃の雰囲気下で24時間エージング処理を施し、厚みが2.5μmの二軸延伸ポリオレフィンフィルムを得た。
得られた二軸延伸ポリオレフィンフィルムについて、各種測定および評価を行った。表面特性、絶縁破壊強度の結果を表1に示す。なお、表面特性は、1段目の冷却成型ロールに押し当てられ、コロナ放電処理がなされた側の表面の特性である。
また、該二軸延伸ポリオレフィンフィルムを用いて、後述の方法で製造されたコンデンサ素子(フィルムコンデンサ)について、耐電圧性として、高電圧印加時の高温耐電圧特性および保安性を評価した。結果を表1に示す。
[0069]
図1に、実施例1で得られた二軸延伸ポリオレフィンフィルムにおける、1段目の冷却成型ロールに押し当てられ、コロナ放電処理が施された側の表面のイメージ図を示す。
なお、図1は、表面測定によって得られた高さデータを高さ方向に強調し、視覚的に分かり易く表示したイメージ図であり、上述した解析ソフトウェア「VS-Viewer」にて、3D表示として示されるものである。
図2に、図1に認められる微小突起構造物の頂部(稜線)と、β晶の結晶変態により形成されたクレータ状の微小楕円構造物の頂部(稜線)とをトレースしたトレース図を示す。図2中、多数の直線で示されているのが各微小突起構造物の頂部(稜線)Pである。この図から、該微小突起構造物はフィルムの縦方向に配向していることが理解できる。一方、楕円状に示されているのがβ晶のα晶への結晶変態により形成されたクレータ状の微小楕円構造物の頂部(稜線)Qである。
図3は、図1中の線Aに沿う断面を示す断面解析図、図4は、図1中の線Bに沿う断面を示す断面解析図である。」
(1-6)「[0090]
(4)光干渉式非接触表面形状測定器による表面特性(Sa、RSm1、RSm2)
二軸延伸ポリオレフィンフィルムの表面特性について、光干渉式非接触表面形状測定器((株)菱化システム社製、非接触表面・層断面形状測定システム、VertScan(登録商標)2.0(型式:R5500GML))により、以下の条件にて測定した。
測定モード:WAVE
フィルタ:530white
対物レンズ倍率:×10
視野:470.92μm×353.16μm(640×480pixel)
測定数:フィルム表面の任意の3箇所について測定
[0091]
上記測定データにつき、解析ソフトウェア「VS-Viewer」を用いて、以下の画像処理を行った。
ノイズ除去処理:メディアンフィルタ(5×5画素)
粗さ成分の抽出処理:ガウシアンフィルタ処理(カットオフ値30μm以上)
[0092]
Sa、RSm1、RSm2は、以下のようにして求めた。
(Sa)
上述の画像処理された表面形状データの各画像それぞれにつき、高さデータの絶対値の算術平均の値Saを測定し、3画像分(3つの値)の平均値として、値Saを求めた。
(RSm1)
上述の画像処理された表面形状データの各画像それぞれにつき、フィルムの縦方向の任意の5箇所の断面解析(視野の端から端まで)を行い、3画像分(15個の値)の平均値として、RSm1を求めた。
(RSm2)
上述の画像処理された表面形状データの各画像それぞれにつき、フィルムの幅方向の任意の5箇所の断面解析(視野の端から端まで)を行い、3画像分(15個の値)の平均値として表面粗さの曲線要素の平均長さRSm2を求めた。
[0093]
(5)接触式表面粗さ計による表面特性(Ra、Rz)
二軸延伸ポリオレフィンフィルムの表面特性について、株式会社東京精密製、表面粗さ・輪郭形状測定器、サーフコム1400-3DFを用い、JIS-B0601に定められている方法に準拠して、中心線平均粗さ(Ra)および最大高さ(Rz、旧JIS定義でのRmax)を求めた。測定倍率は2万倍、分解能は2nmの条件にて測定した。測定回数は10回とし、その平均値を評価に用いた。」
(1-7)「
[0099]
[表1]
[図:0001414218000002.jpg]
」
(1-8)「
[図1]
[図:0001414218000003.jpg]
[図2]~[図4]
[図:0001414218000004.jpg]
」
(2)甲1に記載された発明
甲1の請求項1及び2(摘記1-1)には、「アイソタクチックポリプロピレン樹脂を主成分とするポリプロピレン樹脂組成物から形成された表層を有し、該表層の表面は、微細凹凸が形成された粗面化表面である二軸延伸ポリオレフィンフィルムであって、
前記ポリプロピレン樹脂組成物は、下記式(1)で表される単位を有するポリメチルペンテンを含有し、
前記粗面化表面は、下記式(2)および(3)の関係を満足することを特徴とする二軸延伸ポリオレフィンフィルム。
(当審注:化学構造式(1)を省略。)
-15μm≦RSm2-RSm1≦3μm・・・(2)
8μm≦RSm2≦25μm・・・(3)
(式中、RSm1およびRSm2は、前記粗面化表面の表面粗さを光干渉式非接触表面形状測定器で測定した際の曲線要素の平均長さであり、RSm1はポリオレフィンフィルムの縦方向に沿う測定値、RSm2はポリオレフィンフィルムの幅方向に沿う測定値である。)」及び「前記ポリプロピレン樹脂組成物は、前記ポリメチルペンテンを5~30質量%含有することを特徴とする請求項1に記載の二軸延伸ポリオレフィンフィルム」が記載されており、[0013](摘記1-3)には、「本発明の二軸延伸ポリオレフィンフィルムは、1層以上からなり」、「二軸延伸ポリオレフィンフィルムが1層構成である場合、表層とは、該二軸延伸ポリオレフィンフィルムそのものを指す」ことが記載されている。また、[0008](摘記1-2)には、発明が解決しようとする課題が「高電圧印加時の高温耐電圧特性と保安性とを兼ね備えた小型で大容量の電子・電気機器用コンデンサを製造できる二軸延伸ポリオレフィンフィルムと、該フィルムの製造方法と、金属蒸着ポリオレフィンフィルムおよびフィルムコンデンサの提供にある」ことが記載されており、[0068](摘記1-5)~[0099]の[表1](摘記1-7)等には、甲1の請求項1及び2に記載された発明特定事項を備えた1層構成のフィルムの具体例が上記課題を解決し得るものであったことが記載されている。
そうすると、甲1には請求項1、2及び実施例等に基づいて、以下の発明が記載されている。
「アイソタクチックポリプロピレン樹脂を主成分とするポリプロピレン樹脂組成物から形成された1層からなり、該層の表面は、微細凹凸が形成された粗面化表面である二軸延伸ポリオレフィンフィルムであって、
前記ポリプロピレン樹脂組成物は、下記式(1)で表される単位を有するポリメチルペンテンを5~30質量%含有し、
前記粗面化表面は、下記式(2)および(3)の関係を満足することを特徴とする二軸延伸ポリオレフィンフィルム。
(当審注:化学構造式(1)を省略。)
-15μm≦RSm2-RSm1≦3μm・・・(2)
8μm≦RSm2≦25μm・・・(3)
(式中、RSm1およびRSm2は、前記粗面化表面の表面粗さを光干渉式非接触表面形状測定器で測定した際の曲線要素の平均長さであり、RSm1はポリオレフィンフィルムの縦方向に沿う測定値、RSm2はポリオレフィンフィルムの幅方向に沿う測定値である。)」(以下、「甲1発明」という。)
(3)本件発明1について
ア 本件発明1と甲1発明との対比
本件発明1と甲1発明とを対比すると、甲1発明における「二軸延伸」及び「フィルム」は、それぞれ本件発明1における「二軸配向」及び「フィルム」に相当し、甲1発明における「アイソタクチックポリプロピレン樹脂を主成分とするポリプロピレン樹脂組成物」は、本件発明1における「ポリプロピレン樹脂」に相当する。また、甲1発明の「二軸延伸ポリオレフィンフィルム」は、「下記式(1)で表される単位を有するポリメチルペンテンを5~30質量%含有」する「ポリプロピレン樹脂組成物」「から形成された1層から」なるものであるから、本件発明1における「ポリプロピレン樹脂を主成分とする二軸配向ポリプロピレンフィルム」に相当する。
そうすると、両者は、
「ポリプロピレン樹脂を主成分とする二軸配向ポリプロピレンフィルム。」
の点で一致し、
相違点:本件発明1は「表面性状のアスペクト比(Str)が0.55~0.95である表面を少なくとも片面に有する」と特定するのに対し、甲1発明はそのように特定されていない点
で相違する。
そこで、上記相違点について検討する。
イ 相違点について
(ア)新規性について
上記相違点に係る本件発明1の「表面性状のアスペクト比(Str)」は、本件明細書の[0027]等の記載を参酌すると、「ISO25178-2(2012)で規定される自己相関関数が最も速く特定の値s(本発明ではs=0.2)へ減衰する方向の水平距離(後述する最小自己相関長さ(Sal)に相当)を、最も遅く値sへ減衰する方向の水平距離で割った値」と定義されるものである。
これに対し、甲1発明は、「式(2)および(3)の関係を満足する」微細凹凸が形成された粗面化表面を有するものであり、式(2)及び(3)は表面粗さに関する二つの測定値RSm1及びRSm2を含む式となっているが、RSm1及びRSm2は、「前記粗面化表面の表面粗さを光干渉式非接触表面形状測定器で測定した際の曲線要素の平均長さであり、RSm1はポリオレフィンフィルムの縦方向に沿う測定値、RSm2はポリオレフィンフィルムの幅方向に沿う測定値」と定義されており、それらの具体的な測定方法について記載された[0024](摘記1-4)の記載を参酌しても、甲1発明におけるフィルムの縦方向とそれに垂直な幅方向という固定された二方向は、いずれも本件明細書に記載された「自己相関関数が最も速く特定の値s(=0.2)へ減衰する方向」及び「最も遅く値sへ減衰する方向」と一致するとは限らない方向であり、「縦方向」とそれに垂直な「幅方向」が、「自己相関関数が最も速くsへ減衰する方向」及び「最も遅く値sへ減衰する方向」と一致するという根拠も示されていない。また、「甲1発明における「曲線要素の平均長さ」という測定値も、本件明細書に記載された「水平距離」とは異なるものである。
そうすると、甲1発明におけるRSm1及びRSm2の値から、本件明細書に記載された「自己相関関数が最も速く特定の値s(=0.2)へ減衰する方向の水平距離」及び「最も遅く値sへ減衰する方向の水平距離」を求めることはできず、したがって、上記相違点に係る「表面性状のアスペクト比(Str)」を導き出すこともできない。
また、甲1の[0068](摘記1-5)に記載された実施例1等のフィルムの具体的な製造条件や、[0090]~[0093](摘記1-6)の条件で測定された[0099][表1](摘記1-7)に記載された実施例1等の表面特性、及び実施例1のフィルムの写真を含む図1~図4(摘記1-8)に基づいて、上記相違点に係る「表面性状のアスペクト比(Str)」を求めることはできず、実施例1等のフィルムが「表面性状のアスペクト比(Str)が0.55~0.95である表面を少なくとも片面に有する」ことを裏付ける証拠も存在しない。
よって、甲1には、上記相違点に係る「表面性状のアスペクト比(Str)が0.55~0.95である表面を少なくとも片面に有する」ことは記載されているとはいえず、上記相違点は実質的な相違点である。
(イ)進歩性について
甲1の[0009](摘記1-2)には、課題を解決するための手段について、「光干渉式非接触表面形状測定器を用いて、二軸延伸ポリオレフィンフィルムの粗面化表面の「曲線要素の平均長さ(RSm)」をフィルムの縦方向と幅方向にそれぞれ測定した際において、縦方向における測定値と幅方向における測定値との差が特定の範囲にあると、該二軸延伸ポリオレフィンフィルムは高温絶縁破壊強度に優れ、かつ、フィルムコンデンサとした際の高電圧印加時の高温耐電圧特性と保安性とが共に優れることに想到した」と記載されているところ、当該解決手段に代えて、RSmとは異なる測定方法に基づいて導き出される、上記相違点に係る「表面性状のアスペクト比(Str)が0.55~0.95である表面を少なくとも片面に有する」という課題解決手段を採用することを動機付ける記載は、甲1には見いだせない。
また、甲3の請求項1には、「第1の面、第1の面の反対側の第2の面、及びかかる面の少なくとも1つの上のエンボス表面を含み、0.1~0.99の間の表面テクスチャー比Str(ISO-25178によって測定)を有する高周波半等方性表面を有する、エンボスポリマー中間層シート。」の発明が記載されているが、その技術分野は「多層ガラスパネルのエンボスポリマー中間層シート、及びポリマー中間層シートをエンボス加工する方法の分野」([0001])に関し、その課題は、多層ガラスパネルに積層した場合の光学透明性(例えば色斑)及び脱気性(例えば低温ニップロールプロセスにおける脱気均一性)について「低温ニップロールプロセスにおける良好な脱気均一性、及び低い商業的に許容できる色斑を有するエンボスポリマーシートを提供する」というものであるから、甲1発明が課題とする「高電圧印加時の高温耐電圧特性と保安性とを兼ね備えた小型で大容量の電子・電気機器用コンデンサを製造できる二軸延伸ポリオレフィンフィルムと、該フィルムの製造方法と、金属蒸着ポリオレフィンフィルムおよびフィルムコンデンサの提供」とは、技術分野及び課題が異なり、甲3に記載されたStrについての技術的事項を甲1発明に適用する動機は生じない。
さらに、甲2には、上記相違点に係る「表面性状のアスペクト比(Str)」についての技術的事項は記載されていない。
よって、甲1に加え甲3及び甲2の記載を参酌しても、甲1発明において上記相違点に係る「表面性状のアスペクト比(Str)が0.55~0.95である表面を少なくとも片面に有する」という発明特定事項を満たすものとすることを、当業者が容易に想到し得たとはいえない。そして、本件発明1により得られる「本発明の二軸配向ポリプロピレンフィルムをコンデンサの誘電体として用いた場合、生産性、加工性、耐電圧性に優れ、さらに、コンデンサ加工時にフィルム層間のエアー量および層間距離をフィルムの長手方向および幅手方向に均一に制御することができるため、高温・高電圧環境下においても高い保安性が機能し、コンデンサの寿命が改善する」(本件明細書の[0019])という効果は甲1~甲3から予測し得ない顕著な効果である。
(ウ)申立人の主張について
申立人は、特許異議申立書の12~18頁において、甲1の図3及び図4のグラフを読み取って表計算ソフトを利用して相関係数を計算し、図3から求めた自己相関長である約4μmが最小自己相関長さ(Sal)に相当し、図4から求めた自己相関長は約5μmとなり、図1より凹凸周期が最も小さい自己相関長に相当し、アスペクト比(Str)は4μm/5μm=0.8と計算されること、及び実施例1におけるRSm2/RSm1=17.5/22.2=0.79であることから、凹凸形状の周期長さの異方性を示しているアスペクト比(Str)が、0.55未満、又は0.95を超えている可能性は極めて低いことから、甲1発明はアスペクト比(Str)が0.55~0.95である蓋然性が高い旨を主張している。
しかし、上記(ア)に記載したとおり、甲1に記載されたRSm1及びRSm2(曲線要素の平均長さ)は、3次元の測定データに基づいて算出される本件明細書に記載された「自己相関関数が最も速く特定の値s(=0.2)へ減衰する方向の水平距離」及び「最も遅く値sへ減衰する方向の水平距離」とは、測定方向及び計算式が異なるものであり、互いに換算することはできない。また、甲1に記載された平面である図1及び図2並びに縦方向と幅方向という二方向の断面である図3及び図4という限られた情報から、上記水平距離及びアスペクト比(Str)を導き出すことは困難であり、実測値に基づかない推論では、甲1発明が上記相違点に係る発明特定事項において実質的に相違しないと結論することはできない。よって、申立人の主張を採用することはできない。
また、申立人は、特許異議申立書の27頁において、「甲1発明には、式(2)の関係により、縦横の凹凸周期の差を少なくすることが記載され、脱気性を改善する目的で、甲第3号証に記載されたアスペクト比(Str)を採用することには十分な動機付けがあ」ると主張している。
しかし、上記(イ)に記載したとおり、甲1発明と甲3号証に記載された発明とは技術分野が異なり、当業者は、合わせガラスの製造における脱気性改善を課題とする甲3記載の技術的事項が、「高電圧印加時の高温耐電圧特性と保安性とを兼ね備えた小型で大容量の電子・電気機器用コンデンサ」の提供という課題の解決に寄与するものとは認識することができないから、甲3に記載されたアスペクト比(Str)を甲1発明に適用する動機があるとはいえない。よって、申立人の主張を採用することはできない。
(エ)相違点についてのまとめ
以上まとめると、上記相違点は実質的な相違点であり、かつ、甲1発明及びいずれの証拠の記載に基づいても当業者が容易に想到することができたものではない。
ウ 本件発明1についてのまとめ
以上のことから、本件発明1は甲1発明ではなく、かつ、甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(4)本件発明2~10について
本件発明2~10は、いずれも請求項1を直接又は間接的に引用し、本件発明1の発明特定事項を全て備えるものである。
そうすると、本件発明1と同様の理由により、本件発明3~6、9及び10は、いずれも甲1発明ではなく、かつ、本件発明2~10は、いずれも甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(5)理由1(甲1に基づく新規性欠如)及び理由2(甲1に基づく進歩性欠如)についてのまとめ
以上まとめると、本件発明1、3~6、9及び10は、いずれも甲1に記載された発明ではないから、特許法第29条第1項第3号には該当せず、また、本件発明1~10は、いずれも甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではない。
よって、理由1(甲1に基づく新規性欠如)及び理由2(甲1に基づく進歩性欠如)により本件発明1~10についての特許を取り消すことはできない。
2.理由3(実施可能要件違反)及び理由4(サポート要件違反)について
(1)理由3(実施可能要件違反)について
ア 実施可能要件の判断手法
物の発明における実施とは、物の生産、使用等の行為をいうから(特許法第2条第3項第1号)、物の発明について、実施可能要件を充足するためには、発明の詳細な説明に、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、その物を生産し、かつ、その物を使用できる程度の記載があれば、実施可能要件を満たすということができる。
イ 本件明細書の記載事項
本件明細書の[0016]には、「本発明の課題は、高い生産性、加工性、耐電圧性を有し、かつ、主に大容量コンデンサにおいて適正な保安性を得るため、コンデンサのフィルム層間のエアー量および間隙距離をフィルムの長手方向および幅手方向に均一に制御する表面性状を有する二軸配向ポリプロピレンフィルムを提供することにある」ことが記載され、[0019]には、表面性状(Str)が0.55~0.95である表面を少なくとも片面に有する二軸配向ポリプロピレンフィルムをコンデンサの誘電体として用いた場合、「生産性、加工性、耐電圧性に優れ、さらに、コンデンサ加工時にフィルム層間のエアー量および層間距離をフィルムの長手方向および幅手方向に均一に制御することができるため、高温・高電圧環境下においても高い保安性が機能し、コンデンサの寿命が改善する」ことが記載され、[0028]にも具体的な作用機序に基づいて、表面性状(Str)が0.55~0.95である表面を少なくとも片面に有する二軸配向ポリプロピレンフィルムが上記の効果を発揮することが記載されている。
また、[0023]及び[0036]~[0049]にはポリプロピレン原料について記載され、成分調整によりフィルムの寸法安定性、高温耐電圧特性、球晶サイズ等を調整できることが記載され、[0052]~[0071]にはフィルムの製造方法が記載され、溶融押出押出、キャストドラムの温度、溶融シートがキャストドラムに着地し、ドラムに密着している時間、溶融シートをドラムへ密着させる方法、キャストドラムとエアーナイフ温度の温度差、キャストシートの冷却温度、延伸工程前の高温熱処理、縦延伸及び横延伸の条件、二軸延伸後の表面処理と、それらが表面特性に与える影響について記載されている。さらに、[0072]~[0076]には、二軸配向ポリプロピレンフィルムの少なくとも一方の片面に金属膜を設けて金属膜積層フィルムとすること、及び巻回してフィルムコンデンサを得ることも記載されている。そして、[0077]~[0102]には、実施例及び比較例のフィルムの具体的な製造方法、得られたフィルムの表面特性、素子加工性及び素子特性の評価結果が記載されている。
ウ 実施可能要件についての判断
当業者は、本件明細書におけるフィルムの原料についての記載、フィルムの製造方法についての記載並びに実施例及び比較例の記載等に基づいて、ポリプロピレン樹脂を主成分とする二軸配向ポリプロピレンフィルムであって、表面性状のアスペクト比(Str)が0.55~0.95である表面を少なくとも片面に有する二軸配向ポリプロピレンフィルムを生産することができ、さらに得られたフィルムを用いて金属膜積層フィルム及びフィルムコンデンサを製造することができる。また、当業者は、本件明細書の[0019]及び[0028]等における、表面性状のアスペクト比(Str)が0.55~0.95であることによりもたらされる作用効果の記載並びに実施例及び比較例の記載等に基づいて、表面性状のアスペクト比(Str)が0.55~0.95である表面を少なくとも片面に有する二軸配向ポリプロピレンフィルムをフィルムコンデンサの基材として使用することができると理解することができる。
そうすると、本件明細書には本件発明1の発明特定事項に対応した説明の記載や実施例の記載があり、当業者が本件発明1を生産し、かつ、本件発明1を使用することができる程度の記載があるといえる。
請求項1を直接又は間接的に引用する本件発明2~6、9及び10についても、本件発明1と同様の理由により、当業者が本件発明2~6、9及び10を生産し、かつ、本件発明2~6、9及び10を使用することができる程度の記載があるといえる。
エ 申立人の主張について
申立人は、上記第3(4)ア及びイに記載したような主張をしているので、以下、検討する。
(ア)凹凸の高さについて
当業者は本件明細書の記載に基づいて表面性状のアスペクト比(Str)が0.55~0.95である二軸延伸フィルムを製造することができ、かつ、表面性状のアスペクト比(Str)が0.55~0.95である凹凸の分布を有するフィルムは、フィルム層間のエアー量や間隙距離の均質制御の効果が得られ、凹凸の高さによらず一定程度の効果を見込めるから、フィルムコンデンサの基材等として使用できるものと理解することができる。
(イ)高溶融張力ポリプロピレンについて
当業者は[0041]の記載から高溶融張力ポリプロピレンは任意成分として位置づけられていることを理解することができ、また、[0047]~[0048]には、高溶融張力ポリプロピレンはα晶核剤として作用し、球晶サイズの制御を容易にする成分として説明されているが、[0052]~[0070]における製造方法の調整によってもβ晶及び球晶を適切に生成させることができると理解することができるから、当業者は必ずしも高溶融張力ポリプロピレンを用いなくともα晶及びβ晶の生成を制御することができ、表面性状のアスペクト比(Str)が0.55~0.95である二軸配向ポリプロピレンフィルムの製造に過度の試行錯誤を要するとはいえない。
よって、申立人の主張はいずれも採用することができない。
オ 理由3(実施可能要件違反)についてのまとめ
以上のことから、本件明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本件発明1~6、9及び10を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものであるといえるから、特許法第36条第4項第1号に適合するものであり、それらの発明についての特許は、同法同条第4項第1号に規定する要件を満たしている特許出願に対してされたものである。
よって、理由3(実施可能要件違反)により本件発明1~6、9及び10についての特許を取り消すことはできない。
(2)理由4(サポート要件違反)について
ア サポート要件の判断手法
特許請求の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
イ 本件発明の課題について
本件明細書の[0016]等の記載からみて、本件発明1~6の課題は「高い生産性、加工性、耐電圧性を有し、かつ、主に大容量コンデンサにおいて適正な保安性を得るため、コンデンサのフィルム層間のエアー量および間隙距離をフィルムの長手方向および幅手方向に均一に制御する表面性状を有する二軸配向ポリプロピレンフィルムを提供すること」にあり、本件発明9の課題は前記二軸配向ポリプロピレンフィルムを用いた金属膜積層フィルムを提供することにあり、本件発明10の課題は前記金属膜積層フィルムからなるフィルムコンデンサを提供することにあるものと認められる。
ウ 本件明細書の記載事項
本件明細書には、上記(1)イに記載した事項が記載されている。
エ サポート要件についての判断
本件明細書の[0018]~[0019]には、ポリプロピレン樹脂を主成分とし、表面性状(Str)が0.55~0.95である表面を少なくとも片面に有する二軸配向ポリプロピレンフィルムをコンデンサの誘電体として用いた場合、「生産性、加工性、耐電圧性に優れ、さらに、コンデンサ加工時にフィルム層間のエアー量および層間距離をフィルムの長手方向および幅手方向に均一に制御することができるため、高温・高電圧環境下においても高い保安性が機能し、コンデンサの寿命が改善する」ことが記載され、[0028]にも具体的な作用機序に基づいて、表面性状(Str)が0.55~0.95である表面を少なくとも片面に有する二軸配向ポリプロピレンフィルムが上記の効果を発揮することが記載されている。また、[0036]~[0049]に記載されたポリプロピレンを主成分とする原料と、[0052]~[0071]に記載されたフィルムの製造条件との組合せにより、フィルムの表面性状(Str)を0.55~0.95に調整することができ、上記作用機序により本件発明の課題を解決し得ると理解することができる。さらに、[0077]~[0102]に記載された実施例及び比較例の実験データにより、表面性状(Str)が0.55~0.95であることとそれに伴う効果との関係が裏付けられている。
そうすると、当業者は、本件明細書の記載に基づいて、「ポリプロピレン樹脂を主成分とする二軸配向ポリプロピレンフィルムであって、表面性状のアスペクト比(Str)が0.55~0.95である表面を少なくとも片面に有することを特徴とする、二軸配向ポリプロピレンフィルム。」の範囲で本件発明の課題が解決されるものと理解することができる。そして、本件発明1は上記範囲に包含されるから、本件発明1は、発明の詳細な説明に記載された発明であり、発明の詳細な説明の記載により、または出願時の技術常識に照らして、当業者が本件発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。
請求項1を直接又は間接的に引用する本件発明2~6、9及び10も、本件発明1と同様の理由により、発明の詳細な説明に記載された発明であり、発明の詳細な説明の記載により、または出願時の技術常識に照らして、当業者が本件発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。
オ 申立人の主張について
申立人は、上記第3(4)ア及びイに記載したような主張をしているので、以下、検討する。
(ア)凹凸の高さについて
当業者は本件明細書の作用機序に関する記載等に基づいて、表面性状のアスペクト比(Str)が0.55~0.95である凹凸の分布を有するフィルムは、フィルム層間のエアー量や間隙距離の均質制御の効果が得られ、凹凸の高さによらず一定程度の効果を見込めるから、発明の課題を解決できるものと理解することができる。
(イ)高溶融張力ポリプロピレンについて
当業者は[0036]~[0049]に記載されたポリプロピレンを主成分とする原料と、[0052]~[0071]に記載されたフィルムの製造条件との組合せにより、フィルムの表面性状(Str)を0.55~0.95に調整することができること、及び課題解決のために高溶融張力ポリプロピレンは必須の成分ではないことを理解することができる。
よって、申立人の主張はいずれも採用することができない。
カ 理由4(サポート要件違反)についてのまとめ
以上のことから、本件発明1~6、9及び10は、いずれも発明の詳細な説明に記載したものであるといえるから、特許法第36条第6項第1号に適合するものであり、それらの発明についての特許は、同法第36条第6項に規定する要件を満たしている特許出願に対してされたものである。
よって、理由4(サポート要件違反)により本件発明1~6、9及び10についての特許を取り消すことはできない。
第5 むすび
以上のとおり、本件発明1~10についての特許は、上記のいずれの特許異議申立理由によっても取り消すことはできない。
また、他に、これらの特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2024-700421