特許異議申立
2024-700674
工具交換時自動補正機能を備えた工作機械
- 審判番号
- 2024-700674
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2019-042145
- 登録番号
- 7423030
- 請求日
- 2024年07月17日
- 審決日
- 2024年10月31日
- 公報発行日
- 2024年12月27日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】中村留精密工業株式会社
- 【権利者代理人】大谷 嘉一
- 【異議申立人】野原 利雄
- 審判長/審判官
- 審判長 鈴木 貴雄
- 審判官 本庄 亮太郎
- 審判官 大山 健
- 分類
- P1651.121-Y (G05B) / P1651.537-Y (G05B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条、特許法第36条
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7423030号発明「工具交換時自動補正機能を備えた工作機械」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7423030号の請求項1ないし3に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7423030号の請求項1~3に係る特許(以下「本件特許」という。)についての出願は、平成31年3月8日に出願がされ、令和6年1月19日にその特許権の設定登録がされ、令和6年1月29日に特許掲載公報が発行された。その後、本件特許に対し、令和6年7月17日(同月18日受付)に特許異議申立人野原利雄(以下「申立人」という。)が特許異議の申立てを行った。
第2 本件発明
本件特許に係る発明(以下「本件発明」という。また、請求項1の特許に係る発明を「本件発明1」といい、他の請求項についても同様にいう。)は、それぞれ、前記特許掲載公報の許請求の範囲の請求項1~3に記載された事項によって特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
工具が交換されたことの検出手段と、
前記交換された工具を用いてワークを製品寸法による加工代よりも少ない加工代となる所定のねらい寸法に仮加工する加工代の選択設定手段と、
前記仮加工されたワークの仮加工寸法を自動計測する計測手段と、
前記仮加工後の実測寸法と前記ねらい寸法との寸法差の自動での検出手段と、
前記検出手段にて検出された前記寸法差が所定の閾値内であれば前記寸法差に基づいて加工プログラムを自動補正する自動補正手段とを有し、前記自動補正された加工プログラムにて実加工するものであり、前記寸法差が前記所定の閾値を超えていれば異常信号が出力されることを特徴とする工具交換時自動補正機能を備えた工作機械。
【請求項2】
前記実加工はワークの仕上加工であることを特徴とする請求項1記載の工具交換時自動補正機能を備えた工作機械。
【請求項3】
前記仕上加工の前に荒加工の前加工を有し、工具交換時の前記前加工は前記仕上加工の仮加工寸法に合せて設定された前加工を行う仮前加工手段を有することを特徴とする請求項2記載の工具交換時自動補正機能を備えた工作機械。」
第3 申立理由の概要
1 申立人は、証拠として以下の甲第1号証~甲第5号証を提出し、本件特許については特許法29条2項の規定に違反してされたものであるから、本件特許は取り消されるべき旨(以下「申立理由1」という。)の申立てをしている。
甲第1号証:実願平5-20989号(実開平6-74254号)のCD-ROM
甲第2号証:特許第2514795号公報
甲第3号証:特開2002-205242号公報
甲第4号証:国際公開第2015/097828号
甲第5号証:特開2018-133027号公報
2 申立人は、本件特許については特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、本件特許は取り消されるべき旨(以下「申立理由2」という。)の申立てをしている。
第4 甲号証の記載
1 甲第1号証(以下「甲1」という。他の甲号証について以下同様。)には、次の事項及び発明が記載されている。(下線は当審で付与。以下同じ。)
(1)段落【0016】
「この過程で、ツールカウンタ14がいずれかの工具7につきカウントアップすると(S1)、加工中ワークWの全工程の終了後に、表示装置13に工具交換を促すメッセージが出力される(S2)。このメッセージを見て、オペレータは対応工具7を新たなものに交換し、交換確認の入力を操作盤12で行う(S8)。」
(2)段落【0008】
「【作用】
この構成によると、工具(7)の着け換えの後、その工具(7)を使用する最初の工程は、目標寸法に対して切込み量が若干小さくなるように設定される所定の逃がし工具オフセット値(f)で加工され、工程終了時に加工が停止する。また、表示装置(13)に寸法出し補助画面(13a)が開く。ここで、オペレータはその工具(7)によるワーク(W)の加工部分の寸法を実測し、寸法出し補助画面(13a)に従って測定値を入力する。この入力を行うだけで、寸法出し補助手段(16)により適正なオフセット値が演算され、その値に前記の逃がし工具オフセット値(f)が書き換えられる。この後、再実行手段(21)の制御によりその工程の加工が再度行われ、逃がし加工部分が目標寸法に加工される。
(3)段落【0017】
「新たなワークWの加工が開始され(S3)、ツールカウンタ14のアップした工具7の使用工程になると、表示装置13に寸法出し補助画面13aが開き(S4)、かつ予めプラス目に設定された逃がしオフセット値でその工程の加工が行われる(S5)。また、その工程の完了時に工作機械1の動作が停止させられる。(後略)。」
(4)段落【0013】
「逃し加工手段20は、ツールカウンタ14のカウントアップした工具7が使用される工程を、予め設定された逃がし工具オフセット値で実行させ、かつ実行後に加工を停止させる手段である。逃がし工具オフセット値は、工具オフセットデータテーブル11に、個別工具の寸法精度ばらつきに対するオフセット値fとして仮に設定される。逃がし工具オフセット値の設定は、タレット3の工具ステーションに対して取付工具7の種類を決定したときに、工具7の種類に基づくオフセット値Fと共に所定の値を設定するようにしても良く、また摩耗による工具交換の都度、所定の値を入力しても良い。」
(5)段落【0018】~【0020】
「【0018】
この停止状態で、オペレータはワークWの前記工具7による加工箇所をマイクロメータ等で実測し、その測定値を操作盤12から入力する(S9)。また、測定値入力の確認入力を行う。この入力測定値により、オフセット値演算書換手段19は、次式から適正オフセット値を自動計算して工具オフセットデータテーブル11の対応する工具の逃がしオフセット値fを、その計算結果の値に書換える(S6)。演算式は、
(オフセット値)=(測定値)-(寸法値)-(逃がし量)・・・・・・(1)(当審注:丸数字1を「(1)」と表記した。)とする。逃がし量および寸法値は、各々逃がしオフセット値および目標寸法値を示す。目標寸法値は、各工程毎に所定部分の寸法をオフセット値演算書換手段19に予め設定しておく。
【0019】
図1の寸法出し補助画面13aに図示した数値例は、外径荒削り工程の場合の例であり、これによれば前記の式(1)(当審注:丸数字1を「(1)」と表記した。)は、
(オフセット値)=25.110-25.000-0.100 =0.010
となる。単位はmmである。
【0020】
このようにオフセット値を書換えた後、加工プログラム8を今の工程の最初に戻し、その書き換えられたオフセット値で同一工程を再度切削する(S7)。これにより、適正な寸法に加工される。この後は、通常どおりに次の工程に進み、加工プログラム8における残りの各工程が実行されて、ワークWが目的の製品に加工される。」
(6)段落【0001】
「【産業上の利用分野】
この考案は、タレット旋盤等のNC工作機械において、摩耗により工具を新たなものに交換したときに工具オフセット値を補正する工具オフセット値補正装置に関する。」
(7)甲1発明
前記(2)の「目標寸法に対して切込み量が若干小さくなるように設定される所定の逃がし工具オフセット値(f)で加工され」という記載、及び前記(4)の逃し加工手段20及び(5)の演算式からみて、目標寸法に対して逃がし工具オフセット値の分だけ若干小さい切込み量となる所定寸法に加工するのが逃し加工といえる。
また、逃し加工においては、前記(4)からみて、逃がし工具オフセット値を設定できるものである。
そして、前記(3)からみて、予めプラス目に設定された逃がしオフセット値(当審注:「逃がし工具オフセット値」と同じものと理解。)で逃し加工が行われ、前記(3)及び(5)からみて、逃し加工の完了時の工作機械1の動作停止後に、逃し加工がされたワークWの前記工具7による加工箇所を、オペレータはマイクロメータ等で実測するものである。
そのうえで、前記(1)~(6)の記載を参酌すると、甲1には次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されているといえる。
「工具7を新たなものに交換し、交換確認の入力を操作盤12で行い、
交換された工具7を用いてワークWを目標寸法による切込み量よりも若干小さい切込み量となる所定寸法に逃し加工をする逃がし工具オフセット値を設定し、
オペレータは逃し加工がされたワークWの前記工具7による加工箇所を実測し、その測定値を操作盤12から入力し、
この入力測定値から前記所定寸法を減算してオフセット値を自動計算し、
その書き換えられたオフセット値で同一工程を再度切削する工具オフセット値補正装置を備えた工作機械1。」
2 甲2には、次の事項が記載されている。
(1)3欄4~28行
「<産業上の利用分野>
本発明はNC工作機械でのワーク加工後あるいは加工途中で自動計測装置によってワーク寸法等を計測し公差の判定を行ない、公差の判定に基づき救済可能な加工箇所を追加工するようにした工作機械における追加工処理装置に関する。
<従来の技術>
従来、NC工作機械でのワーク加工後あるいは加工途中、自動計測装置例えば主軸にタッチセンサを装着した計測装置によってワークの加工寸法等を計測し、公差の判定を行なう場合、予め設定されている公差領域に対し、領域内外にあるかどうかを判別し、領域外であると判別されたワークはワーク加工不良として作業者に通知し、自動運転を休止して原因究明にあたっていた。
<発明が解決しようとする問題点>
しかしながら、NC工作機械特にFMSでは多工程の加工を加工スケジュールに従って連携的に稼動しているため、運転を休止してから運転再開までの損失時間が増大するので生産能率低下を招いていた。
本発明の目的は上記事情に鑑み問題点を解決するために提案されたものであって、自動計測装置でワークの加工寸法等を計測した際公差領域外の加工不良に対し、追加工によって公差領域内に入れることのできるものについて追加工の処理を施すことができるようにした工作機械における追加工処理装置を提供することにある。」
(2)5欄44~45行
「第3図(A)では主軸135にワーク寸法を自動計測するタッチセンサTsが挿着されている。」
(3)6欄5~12行
「第4図は本発明を説明するモデル図である。第4図において、例えばNC加工プログラムの指令によりワークに内径加工を施す。CLは内径加工の中心軸線である。次に、加工後の内径の計測箇所を前記タッチセンサTsにて計測し、計測値を得る。この得られた計測値と予め設定された計測目標値A0との差値(すなわち補正値ΔA)を求め、求めた補正値ΔAと予め設定された公差値と比較する。」
(4)6欄29~47行
「補正値ΔAと前記公差値との比較において、補正値ΔAが「OK」の領域内であれば、後述する公差判定回路より「OK信号」が出力される。補正値ΔAが「+OK」の領域内あるいは「-OK」の領域内であれば、「OK信号」が出力されるとともに次に加工されるワークに対して「OK」の領域内で加工され得るように工具補正量を所定量補正する補正指令が出力される。すなわち、「+OK」の領域内の場合は「OK」の領域内で加工が可能なように前記所定値分だけ一方向に補正され、「-OK」の領域内の場合は「OK」の領域内で加工が可能なように前記所定値分だけ+方向に補正される。
また、公差領域との比較において、内径加工の場合補正値ΔAが「-NG」の領域内であれば追加工によって救済可能であるから、追加工指令が出力される。一方、内径加工の場合補正値ΔAが「+NG」の領域内の時はワーク不良であるからNG信号が出力される。「++NG」の領域あるいは「--NG」の領域の時にはワーク不良であると共に工具に異常な変化があったことが予想され、工具破損信号が出力されるようにしたものである。」
(5)7欄31~45行
「公差値レジスタ8には第4図にて説明したように補正値ΔAと比較するための基準となる公差値が記憶されている。すなわち、この公差値とは計測目標値A0寸法公差上限値と寸法公差下限値との半分の値である第1の公差領域(「-OK,OK,+OK」の領域)を示す第1の公差値、第1の公差値より大きな値であるが追加工により第1の公差領域内に修正加工可能な第2の公差領域(「+NG」の領域あるいは「-NG」の領域)を示す第2の公差値のことをいう。加工内容テーブル9には内径加工、外径加工あるいはZ方向加工等の加工内容と計測箇所が対応して記憶されている。なお、「OK」の領域はそのまま加工を続行する領域であり、「-OK」,「+OK」の領域は、ワークの加工寸法は寸法公差内であるが、加工を続行すると加工寸法不良となるおそれがあるため、工具位置と所定量補正する領域である。」
(6)第4図
「
[図:0001417664000001.jpg]
」
(7)甲2記載事項
これらの記載を参酌すると、甲2には、次の事項が記載されている。
「ワーク寸法を自動計測するタッチセンサTsと、
加工後の計測値と予め設定された計測目標値A0との差値である補正値ΔAを求め、
求めた補正値ΔAと予め設定された公差値と比較し、
補正値ΔAが公差値内の「OK」領域内であればそのまま加工を続行し、公差値内の「+OK」又は「-OK」の領域内であれば次に加工されるワークに対して「OK」の領域内で加工され得るように工具補正量を所定量補正する補正指令が出力されるものであり、補正値ΔAが公差値外の「-NG」の領域内であれば追加工指令が出力され(当審注:内径加工の場合。以下同様。)、補正値ΔAが公差値外の「+NG」の領域内のときはNG信号が出力され、公差値外の「++NG」の領域又は「--NG」の領域のときには工具破損信号が出力されるようにした工作機械。」
3 甲3には、次の事項が記載されている。
(1)段落【0001】~【0004】
「【0001】
【発明の属する技術分野】この発明は、旋盤等の工作機械、ワーク搬送手段、および機外の加工ワーク計測手段を備えた加工システムに関する。
【0002】
【従来の技術】従来、タレット旋盤等においては、使用頻度の高い工具等につき、タレットの複数の工具ステーションに同一の工具を取付けておき、同一工具の中の1本の使用を続ける間に、工具摩耗が進んだり折損したときに、同一工具の中の別の新品工具にシフトさせるようにしたものがある。この機能は、ツールシフト機能等と呼ばれ、工具摩耗が進んでも、工具の取り替えのために運転を止めることなく、新品工具にシフトさせて加工を続けることができ、自動運転や無人運転における稼働率の工場が図れる。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】ツールシフトした後、そのままの状態で加工すると、その工具で加工されたワークは不良となる可能性が高い。基本的には、ツールシフト後に、ワークを加工した後、それを機外計測機等で計測し、計測データを加工の制御手段へフィードバックしている。これにより、次のワークが加工不良にならないようにしている。しかし、途中でツールシフトして加工したワークの加工不良は防げず、その不良ワークは無駄になり、生産性を低下させる。
【0004】この発明の目的は、途中でツールシフトして加工したワークにおいても、加工不良の発生が防止できる加工システムを提供することである。この発明の他の目的は、2軸旋盤において、同じワークに第1,第2の加工を順次行う場合に、第1の加工途中のツールシフトで加工不良が発生することを防止することである。この発明のさらに他の目的は、2軸旋盤において、同じワークに第1,第2の加工を順次行う場合に、第1および第2の加工のいずれでツールシフトが生じても、加工不良が発生しないように即座に対応できるようにすることである。」
(2)段落【0006】
「この構成によると、加工中に工具(21)の折損や摩耗が検出されたときなどに、加工制御手段(7)は、第1の工具(21)による加工に切換えて、第2の工具(21)による加工を行わせる。この工具(21)の切換、つまりツールシフトがあると、工具シフト時制御手段(43)は、次の一連の制御を行う。すなわち、前記加工部(5)による加工として、前記ワーク支持体(16)に支持されているワークに必要加工代を残した計測用加工を行わせる。この計測用加工済みのワークを前記ワーク搬送手段(3)により前記加工ワーク計測手段(2)に搬送させ、搬送されたワークを加工ワーク計測手段(2)に計測させる。計測されたワークを前記ワーク搬送手段(3)に前記ワーク支持体(16)へ戻させる。前記加工ワーク計測手段(2)による計測結果に基づき、前記加工制御手段(7)に工具支持体(17)の移動量を補正させて残りの加工を行わせる。このように、ツールシフトがあると、通常の加工を続けずに、必要な加工代を残した計測用加工、いわゆるダミー切削を行い、加工されたワークを機外の加工ワーク計測手段(2)で計測し、計測結果に応じて移動量の補正を行って残りの加工を行うため、途中でツールシフトして加工したワークにおいても、加工不良の発生を防止することができる。機外計測であるため、精度の良い計測が行え、また様々な計測に対応することもできる。」
(3)段落【0018】
「計測用の加工プログラム38は、第2の工具21による加工に切換えられたときに、加工部5による加工として、ワーク支持体16に支持されているワークWに必要加工代を残した所定の計測用加工を行わせる手段である。計測用加工の具体的内容は、ワークWの加工前形状や加工完了形状、使用工具等に応じて適宜の内容に設定しておく。ワーク状態記憶手段40は、ワーク支持体16に支持されているワークWがどのような段階のワークであるかを示す情報が記憶される。例えば、ワーク無し、素材、第1加工完成品、第2加工素材、第2加工完成品、ツールシフト品等の区別を示す情報で、所定の符号(例えば一桁の数字)等で示される。」
(4)段落【0021】~【0022】
「【0021】次に、上記構成によるツールシフト時の動作を、図4の流れ図に従って説明する。同図は、第2の加工部5においてツールシフトされた場合の動作を示す。第2の加工部5においてツールシフトがあると(S1)、同加工部5で計測用加工を行う(S2)。ツールシフトの有無は、工具シフト手段32におけるフラグによって認識でき、演算制御部30は、そのフラグを認識して、計測用加工プログラム38を実行することにより、上記の計測用加工を行う。計測用加工の完了したワークWは、ワーク搬送手段3によって加工ワーク計測手段2へ搬送する(S3)。
【0022】加工ワーク計測手段2は、搬送されたワークWが計測用加工品であることを、第2の加工制御手段7または搬送制御手段14のワーク状態記憶手段40,41の記憶データ等として受け取り、計測用加工品の計測サイクルを実施する(S4)。計測データは、第2の加工部7の演算制御部30における補正手段31にフィードバックする。計測用加工品の計測が完了すると、再びワーク搬送手段3によって、この計測用加工品ワークWを元の加工部5におけるワーク支持体16に戻し(S5)、この加工部5において、残りの加工を行う(S6)。残りの加工は、例えば第2加工の完成品とする仕上げ加工である。この残りの加工では、加工ワーク計測手段22からのフィードバックデータに従って工具支持体17の移動量を補正して行う。」
4 甲4には、次の事項が記載されている。
「[0035] 図2に、工作機械の制御装置に配置されている操作盤の正面図を示す。操作盤41は、加工情報の表示および加工情報の入力を行う表示部28を含む。本実施の形態の表示部28は、画面を接触することにより所望の部分の選択が可能なタッチパネル方式が採用されている。」
5 甲5には、次の事項が記載されている。
「【0018】
また、筐体11の前面16には、切削装置1に加工条件を設定するタッチパネル31が設置されている。タッチパネル31には、設定条件毎に入力セルが表示されると共に、入力セルに対してオペレータからのデータ入力を受け付けるキーボードが表示されている。オペレータによって入力セルが選択された状態で、キーボードでキーがタッチされることで選択中の入力セルに文字データが入力される。そして、キーボードによって各入力セルに対して個々にデータ入力されて、各入力セルの文字データが反映されることで切削装置1に対して所望の加工条件が設定される。」
第5 申立理由1についての判断
1 本件発明1について
(1)対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。
ア 甲1発明の「工具7を新たなものに交換し、交換確認の入力を操作盤12で行い、」という態様は、交換確認の入力に伴い、工作機械側でその入力信号を受信して、工具7が交換されたことを検出しているといえることから、甲1発明は、本件発明1の「工具が交換されたことの検出手段」に相当する手段を有しているものといえる。
イ 甲1発明の「目標寸法」が本件発明1の「製品寸法」に相当し、以下同様に、「所定寸法」が「所定のねらい寸法」に、「逃し加工」が「仮加工」に、それぞれ相当する。
また、甲1発明の「逃し加工をする逃がし工具オフセット値を設定」することは、目標寸法に対して逃がし工具オフセット値を考慮した所定寸法にするための加工代を設定していることにもなるので、本件発明1の「仮加工する加工代の選択設定手段」と「仮加工する加工代の設定手段」という概念で共通する。
まとめると、甲1発明の「交換された工具7を用いてワークWを目標寸法による切込み量よりも若干小さい切込み量となる所定寸法に逃し加工をする逃がし工具オフセット値を設定し、」という態様と、本件発明1の「交換された工具を用いてワークを製品寸法による加工代よりも少ない加工代となる所定のねらい寸法に仮加工する加工代の選択設定手段」とは、「交換された工具を用いてワークを製品寸法による加工代よりも少ない加工代となる所定のねらい寸法に仮加工する加工代の設定手段」という概念で共通する。
ウ 甲1発明の「オペレータは逃し加工がされたワークWの前記工具7による加工箇所を実測し、その測定値を操作盤12から入力し、」という態様と、本件発明1の「仮加工されたワークの仮加工寸法を自動計測する計測手段」とは、「仮加工されたワークの仮加工寸法を計測する計測手段」という概念で共通する。
エ 甲1発明の「オフセット値」は、入力測定値から所定寸法を減算することで自動計算されるものであるから、本件発明1の「寸法差」に相当する。してみると、甲1発明における「この入力測定値から前記所定寸法を減算してオフセット値を自動計算し、」という態様は、実質的にみて本件発明1の「仮加工後の実測寸法と前記ねらい寸法との寸法差の自動での検出手段」に相当する。
オ 甲1発明の「その書き換えられたオフセット値で同一工程を再度切削する」という態様と、本件発明1の「検出手段にて検出された前記寸法差が所定の閾値内であれば前記寸法差に基づいて加工プログラムを自動補正する自動補正手段とを有し、前記自動補正された加工プログラムにて実加工するものであり、前記寸法差が前記所定の閾値を超えていれば異常信号が出力される」という態様とは、「前記寸法差に基づいて実加工する」という概念の限りで共通する。
カ 甲1発明の「工具オフセット値補正装置を備えた工作機械1」は、本件発明1の「工具交換時自動補正機能を備えた工作機械」と、「工具交換時補正機能を備えた工作機械」という概念で共通する。
キ そうすると、本件発明1と甲1発明とは、
「工具が交換されたことの検出手段と、
前記交換された工具を用いてワークを製品寸法による加工代よりも少ない加工代となる所定のねらい寸法に仮加工する加工代の設定手段と、
前記仮加工されたワークの仮加工寸法を計測する計測手段と、
前記仮加工後の実測寸法と前記ねらい寸法との寸法差の自動での検出手段と、
前記寸法差に基づいて実加工するものである工具交換時補正機能を備えた工作機械。」
の点で一致し、次の点で相違する。
相違点1
仮加工する加工代の設定手段について、本件発明1では「選択」設定手段であると特定されるのに対し、甲1発明ではかかる特定がされていない点。
相違点2
計測手段について、本件発明1では「自動」計測するのに対し、甲1発明ではオペレータが実測する点。
相違点3
寸法差に基づいて実加工する際に、本件発明1では「検出手段にて検出された前記寸法差が所定の閾値内であれば前記寸法差に基づいて加工プログラムを自動補正する自動補正手段とを有し、前記自動補正された加工プログラムにて」実加工するものであり、「前記寸法差が前記所定の閾値を超えていれば異常信号が出力される」ものであると特定されるのに対し、甲1発明では「書き換えられたオフセット値(寸法差)で同一工程を再度切削する(実加工する)」ものの、当該オフセット値の書き換えが、加工プログラムを自動で補正することで行われるものか特定されておらず、かつ、オフセット値(寸法差)が所定の閾値内か否かに応じて異なる対応をすることも特定されていない点。
相違点4
工具交換時補正機能について、本件発明1では「自動」であると特定されるのに対し、甲1発明ではかかる特定がされていない点。
(2)相違点についての検討1
これら相違点1~4のうち、事案に鑑み、相違点3に係る本件発明1の構成について、まず、甲1発明に甲2記載事項を適用することで容易想到かどうかを検討する。
ア 前記第4の2(7)の甲2記載事項によると、補正値ΔAを本件発明1の「寸法差」とみて、かつ、公差値内の「+OK」又は「-OK」の領域と、「+NG」又は「-NG」の領域との境界となる値を同「所定の閾値」とみたとしても、甲2記載事項では、寸法差が所定の閾値内であれば工具補正量を所定量補正する補正指令が出力されるだけであって、本件発明1のように加工プログラムを自動補正することまでは特定されていない。しかも、当該補正指令は、「次に加工されるワーク」に対して「OKの領域内で加工され得るように」出力されるものであって、本件発明1のように、仮加工後に「同じワーク」に対する実加工のための加工プログラムを補正するものでもない。
イ また、甲2記載事項の「NG信号」や「工具破損信号」は、それぞれ本件発明1の「異常信号」と、異常状態を伝えるための信号である限りで共通するといえるものの、甲2記載事項では、前述した「所定の閾値」と同じ閾値を超えて「+NG」の領域のときにNG信号が出力されるのみならず、当該「所定の閾値」と同じ閾値を超える場合でも「-NG」の領域のときには異常信号が出力されることなく追加工指令が出力されるものであり、さらに当該「所定の閾値」とは異なる閾値である「+NG」の領域と「++NG」の領域との境界、又は「-NG」の領域と「--NG」の領域との境界を超えて、「++NG」又は「--NG」の領域となったときに工具破損信号が出力されるものである。
ウ そのうえ、甲2には、工具交換時の仮加工について何ら示されていない。
エ つまり、甲2記載事項のものは、加工プログラムを自動補正するものではないし、寸法差を1つの所定の閾値と比較して加工プログラムを自動補正するか異常信号を出力するかを行うものでもないうえ、工具交換時の仮加工についてのものでもない。
オ 以上を踏まえて、甲1発明に甲2記載事項を適用して、相違点3に係る本件発明1のようにすることが、当業者にとって容易であったかを検討する。甲1発明と甲2記載事項とは、工作機械に関し生産性の向上を目的とするものではあるが、甲1発明における工具交換時の逃し加工(仮加工)の結果に基づいて書き換えられたオフセット値で同一工程を再度切削(実加工)するものに対して、甲2記載事項の実加工時における「次に加工されるワーク」のための補正指令や各種閾値を適用する動機付けがない。
カ また、仮に甲1発明に甲2記載事項を適用したとしても、前記ア~エからみて、相違点3に係る本件発明1の構成には到達できない。
キ なお、申立人は特許異議申立書(以下「申立書」という。)18ページにて、相違点を3つあげているところ、そのうちの相違点甲1-2及び1-3は以下のものである。
「相違点甲1-2:構成要件Eについて、本件特許発明1では、自動補正手段が、検出手段で検出された寸法差が所定の閾値内であれば加工プログラムを自動補正し、自動補正された加工プログラムにて実加工するのに対し、甲1発明では、寸法差と所定の閾値との比較に基づいて加工プログラムを自動補正していない点。
相違点甲1-3:構成要件Fについて、本件特許発明1では、寸法差が所定の閾値を超えていれば異常信号を出力するのに対し、甲1発明では、寸法差が所定の閾値を超えていれば異常信号を出力する処理を行っていない点。」
また、これらの相違点について申立書19ページで以下のように検討している。
「次に、相違点甲1-2について検討すると、前述の通り甲1発明に甲2発明を適用する動機付けは認められるため、甲1発明に、甲2発明に開示される、実測寸法とねらい寸法との寸法差が所定の閾値内であれば寸法差に基づいて加工プログラムを自動補正し、自動補正された加工プログラムにて実加工する構成を適用して、構成要件Eとすることは、当業者が容易になし得る。
次に、相違点甲1-3について検討すると、相違点甲1-2と同様に、甲1発明に、甲2発明に開示される、寸法差が所定の閾値を超えていれば異常信号が出力される構成を適用して、構成要件Fとすることは、当業者が容易に想到し得る。」
しかしながら、本件発明1の「前記寸法差が前記所定の閾値を超えていれば異常信号が出力される」という記載からも明らかなように「所定の閾値」は相違点甲1-2と甲1-3とにおいて同じものであるはずなのに、申立書では、これらを別個の相違点として抽出し、これらの「所定の閾値」について同じものとして検討することなく容易想到であると個々に判断している。
この判断の根拠となる甲2記載事項は前記イ、エのとおり様々な閾値を有するものであるから、申立人の相違点甲1-2及び1-3の抽出及びその検討結果については採用できず、また、前記ア、ウのとおり甲2記載事項はそもそも工具交換時の仮加工の結果に基づく同一ワークの実加工のための調整に関する技術ではない。
ク したがって、相違点3に係る本件発明1の構成については、甲1発明に甲2記載事項を適用する動機付けがなく、また、仮に甲1発明に甲2記載事項を適用できたとしても当業者にとって容易に想到できたものではない。
(3)相違点についての検討2
相違点3に係る本件発明1の構成について、次に、甲1発明、甲2記載事項及び甲3記載事項を適用することで容易想到かどうかを検討する。
ア 前記第4の3(1)~(4)に示される甲3記載事項にも、寸法差を所定の閾値と比較して加工プログラムを自動補正するか異常信号を出力するかを行うことは示されていない。
イ そして、前記(2)ア~カを参酌すると、相違点3に係る本件発明1の構成については、甲1発明、甲2記載事項及び甲3記載事項に基づいたとしても当業者にとって容易に想到できたものではない。
(4)相違点についての検討3
相違点3に係る本件発明1の構成について、さらに、甲1発明、甲2記載事項、及び、甲4記載事項又は甲5記載事項を適用することで容易想到かどうかを検討する。
ア 前記第4の4に示される甲4記載事項、及び前記第4の5に示される甲5記載事項のいずれにも、寸法差を所定の閾値と比較して加工プログラムを自動補正するか異常信号を出力するかを行うことは示されていない。
イ そして、前記(2)ア~カを参酌すると、相違点3に係る本件発明1の構成については、甲1発明、甲2記載事項、及び、甲4記載事項又は甲5記載事項に基づいたとしても当業者にとって容易に想到できたものではない。
(5)前記(2)~(4)のとおり、少なくとも相違点3に係る本件発明1の構成は当業者にとって容易に想到し得たものではないから、その余の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明及び甲2~甲5記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
2 本件発明2~3について
本件発明2~3は本件発明1を引用するものであって、本件発明1については前記1(5)のとおりであるから、本件発明2~3も甲1発明及び甲2~甲5記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
3 小括
そうしてみると、本件特許については特許法29条2項の規定に違反してされたものでない。
第6 申立理由2についての判断
申立人は申立理由2として不明確である点を2つあげているので、それぞれ検討する。
1 申立理由2-1
申立書21ページにて、申立人は特に本件発明1の「選択設定」という用語について以下のように申立てをしている。
「エ 記載不備の理由
(ア)本件特許発明1の構成要件Bが不明確である。
ここでは「加工代の選択設定手段」となっているが、「選択」は、通常「多くのものの中から、よいもの、目的にかなうものなどを選ぶこと」 (Weblio辞書)を意味し、「設定」は、「ある物事や条件をつくり定めること」(デジタル大辞泉)であり、予め用意されたものから選ぶ「選択」と、何もない状態から作り出す「設定」とでは意味合いが異なるから、両方を併せた「選択設定」が何を意味しているのか分からず、不明確である。発明の詳細な説明を参照しても、段落【0013】に「工作機械の操作盤等に、交換される工具の種類や実加工のパターンに合せて、仮加工条件の設定画面を設けることで、予め仮加工の加工代を選択設定可能にすることもできる。」と記載されているのみで、選択設定がどのようになされるのか具体的に示されていない。
従って、本件特許発明1及びこれを引用する本件特許発明2-3は不明確となっている。」
しかし、「選択設定」という用語は、「選択して設定する」という意味と理解でき、申立人が指摘する本件特許の明細書段落【0013】の記載にしても仮加工条件の設定画面において仮加工の加工代を選択して設定すると理解できることからみて、本件発明1の「選択設定」は明確である。
なお、このことは、前記第4の4及び5にて、申立人の提示した甲4及び甲5に示される技術水準からも裏付けられる。
2 申立理由2-2
申立書21ページにて、申立人は本件発明3の「前加工」及び「仮前加工手段」という用語等について以下のように申立てをしている。
「(イ)本件特許発明3の構成要件Hが不明確である。
構成要件Hでは、「前記仕上加工の前に荒加工の前加工を有し、工具交換時の前記前加工は前記仕上加工の仮加工寸法に合せて設定された前加工を行う仮前加工手段を有する」であるが、この文章は、「・・前加工を有し、・・前加工は・・前加工を行う仮前加工手段を有する」となって主語・述語関係及び、修飾・被修飾関係が曖昧で、結果「仮前加工手段」の内容が不明確となっている。特に、何度も出てくる「前加工」と「仮前加工手段」との関係が不明確で、「前加工」が「仮前加工手段」を有するとも読める。
仮に、「仮前加工手段」が、荒加工である前加工が仕上加工の仮加工寸法に合わせて設定されていることを示しているとしても、「仕上加工の仮加工寸法に合わせた設定」がどのような内容なのか明確に把握することができない。例えば、前加工の加工代を、仮加工の加工代に一致させることも「仮加工寸法に合わせて設定」と言えるし、前加工の加工代を、仮加工の加工代よりも少なくすることも「仮加工寸法に合わせて設定」と言える。」
この点について、用語の整理をしながら検討すると、本件発明1では工具交換時に「仮加工」をしてから「実加工」をし、本件発明2ではその実加工が「仕上加工」であることが特定されている。
そして、本件発明3ではその仕上加工の前にする「前加工」として「荒加工」を行うものであって、工具交換時の仮加工として仮加工寸法に合わせて設定された前加工を行うのが「仮前加工手段」であると本件発明1及び2を総合してみれば理解できる。
また、本件発明3の「仮加工寸法に合せて設定」することについては、その文言どおり仮加工寸法に合わせて設定するという意味であって、申立人の主張するような仮前加工手段による前加工の加工代を仮加工の加工代に一致させたり、少なくしたりするものも含まれるものと理解できるので、本件発明3を不明確にするものとはいえない。
3 小括
そうしてみると、本件特許については特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものではない。
第7 むすび
以上のとおりであるから、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、本件特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2024-700674