特許拒絶査定不服審判
2022-009156
タッチプローブを用いた計測方法
- 審判番号
- 2022-009156
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2017-121371
- 請求日
- 2022年06月15日
- 審決日
- 2023年01月27日
- 公報発行日
- 2023年04月28日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】中村留精密工業株式会社
- 【請求人代理人】大谷 嘉一
- 審判長/審判官
- 審判長 波多江 進
- 審判官 濱野 隆
- 審判官 後藤 慎平
- 分類
- P18 .561-Z (G01B) / P18 .55 -Z (G01B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第17条の2第3項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2017-121371号「タッチプローブを用いた計測方法」拒絶査定不服審判事件〔平成31年1月17日出願公開、特開2019-7762号〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、平成29年6月21日の特許出願であって、その手続の経緯の概略は、次のとおりである。
令和3年 2月 5日付け:拒絶理由通知書
同年 4月20日 :意見書、手続補正書の提出
同年 8月20日付け:拒絶理由通知書(最後)
同年10月28日 :意見書の提出
令和4年 3月18日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。)
(同月28日 :原査定の謄本の送達)
同年 6月15日 :審判請求書、手続補正書の提出
第2 令和4年6月15日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和4年6月15日にされた補正を却下する。
[補正の却下の決定の理由]
1 本件補正の補正内容
令和4年6月15日にされた特許請求の範囲についての補正(以下「本件補正」という。)は、以下の(1)に示される本件補正前の特許請求の範囲の請求項1、すなわち、令和3年4月20日にされた手続補正後の特許請求の範囲の請求項1の記載を、以下の(2)に示される本件補正後の特許請求の範囲の請求項1の記載に補正するものである。下線は合議体が付した。以下同様である。
(1) 本件補正前
「 【請求項1】
タッチプローブに取り付けたスタイラスの先端球が、被計測物の異なる位置に接触する際に、
前記被計測物に接触する前記先端球の接触位置が同一になるように制御されているタッチプローブを用いた計測方法であって、
前記タッチプローブは工作機械の工具主軸に装着され、前記先端球の接触位置が割り出し制御され、
前記被計測物は工作機械の主軸に取り付けた基準球であり、
前記スタイラスの先端球をZ,Y軸方向のうち、Z軸方向の一方から前記基準球に向けて送り制御し、前記先端球の接点1が前記基準球に接触する接触位置を計測し、次に前記先端球を回転割出し、逆方向から前記基準球に向けて送り制御し、前記接点1が接触する接触位置を計測する工程と、
Y軸方向の一方から前記基準球に向けて送り制御し、その前記先端球の接点2が前記基準球に接触する接触位置を計測し、次に前記先端球を回転割出し、逆方向から前記基準球に向けて送り制御し、前記接点2が接触する接触位置を計測する工程とを有し、前記接点1と接点2とが異なる位置であることを特徴とするタッチプロープを用いた計測方法。」
(2) 本件補正後
「 【請求項1】
タッチプローブに取り付けたスタイラスの先端球が、被計測物の異なる位置に接触する際に、
前記被計測物に接触する前記先端球の接触位置が同一になるように制御されているタッチプローブを用いた計測方法であって、
前記タッチプローブは工作機械の工具主軸に装着され、前記先端球の接触位置が割り出し制御され、
前記被計測物は工作機械の主軸に取り付けた基準球であり、
前記スタイラスの先端球をZ,Y軸方向のうち、Z軸方向の一方から前記基準球に向けて送り制御し、前記先端球の接点1が前記基準球に接触する接触位置を計測し、次に前記先端球を回転割出し、逆方向から前記基準球に向けて送り制御し、前記接点1が接触する接触位置を計測することで、前記Z軸方向におけるオーバーシュート量が相殺され、
Y軸方向の一方から前記基準球に向けて送り制御し、その前記先端球の接点2が前記基準球に接触する接触位置を計測し、次に前記先端球を回転割出し、逆方向から前記基準球に向けて送り制御し、前記接点2が接触する接触位置を計測することで、前記Y軸方向におけるオーバーシュート量が相殺され、前記接点1と接点2とが異なる位置であることを特徴とするタッチプロープを用いた計測方法。」
2 本件補正についての当審の判断
本件補正後の請求項1の記載は「前記接点1と接点2とが異なる位置であること」という発明特定事項を含み、以下に詳述するとおり、当該発明特定事項を追加する補正はいわゆる新規事項を追加するものであるから、本件補正は特許法17条の2第3項の規定に違反するものである。
(1) 当初明細書等の記載について
本願の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「当初明細書等」という。)には以下の記載がある。
ア 特許請求の範囲
「【請求項1】
タッチプローブに取り付けたスタイラスの先端球が、被計測物に接触する際に、
前記被計測物に接触する前記先端球の接触位置が同一になるように制御されていることを特徴とするタッチプローブを用いた計測方法。
【請求項2】
前記タッチプローブは工作機械の工具主軸に装着され、前記先端球の接触位置が割り出し制御されていることを特徴とする請求項1記載のタッチプローブを用いた計測方法。
【請求項3】
前記被計測物は工作機械の主軸に取り付けた基準球であり、前記基準球の位置を計測するものであることを特徴とする請求項1又は2記載のタッチプローブを用いた計測方法。」
イ 明細書
「【発明の名称】タッチプローブを用いた計測方法
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合加工機等の工作機械におけるタッチプローブを用いた被計測物の測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
工作機械の分野においては、幾何誤差の同定及び補正、ワークの寸法、芯出し、位置決め等にタッチプローブを用いた計測方法が採用されている。
タッチプローブは被計測物に接触するスタイラスを装着し、スタイラスの先端球が被計測物に接触した位置をトリガー信号として出力するものである。
この種のタッチプローブは、スタイラスをプローブ本体に3点支持されているもの等、スタイラスの先端球の接触を検出するとともに、スタイラスの保護等を目的に何らかの可変支持構造を有している。
一方、スタイラスの先端球が被計測物に接触し、そのトリガー信号により、スタイラスの送りが停止するまでにオーバーシュートによる誤差が生じることになる。
本発明者が実験検討した結果、スタイラスのオーバーシュート量は先端球の接触送り方向により相違することが明らかになった。
これは、スタイラスのプローブ本体への支持構造に起因すると推定される。
【0003】
特許文献1には、タッチプローブのキャリブレーションに際し、タッチプローブのターゲット球への接触方向毎に補正量を求める方法が記載されている。
これでは接触方向毎に異なるオーバーシュート量も補正する必要があり、キャリブレーションに多くの工数を有することになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2016-83729号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、測定精度の向上を図ることができるタッチプローブを用いた計測方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るタッチプローブを用いた計測方法は、タッチプローブに取り付けたスタイラスの先端球が、被計測物に接触する際に、前記被計測物に接触する前記先端球の接触位置が同一になるように制御されていることを特徴とする。
ここで、前記タッチプローブは工作機械の工具主軸に装着され、前記先端球の接触位置が割り出し制御されていてもよい。
タッチプローブは、スタイラスが被計測物に接触した後に、この被計測物から離れる際に、スタイラスの位置が常に高い精度を持って元の位置に復帰するようにプローブ本体に支持されており、接触の感知方法としては圧力センサ方式,光学センサ方式,電気接点方式等が採用されている。
【0007】
本発明は、マシニングセンター,ターニングセンター等の工作機械や複合加工機において、幾何誤差の同定、補正等を行う際にも有効であり、前記被計測物は工作機械の主軸に取り付けた基準球であり、前記基準球の位置を計測するものであってよい。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る計測方法にあっては、スタイラスの先端球の接触位置及び接触方向が同一になるように制御したので、タッチプローブのオーバーシュート量が概ね同一量になる。
これにより、単一のオーバーシュートの補正量を考慮するだけで精度の高い計測が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明に係る計測方法の例を示す。
【図2】基準球の位置を計測する例を示す。
【図3】先端球を方向2から接触させた例を示す。
【図4】オーバーシュート量の測定方法を示す。
【図5】オーバーシュート量の計測結果を示す。
【図6】従来の計測方法を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明はワークの寸法計測、芯出し、位置決め等の各種計測にも有用であるが、以下、主軸に取り付けた基準球の計測を例にして説明する。
【0011】
複合加工機等の工作機械の幾何誤差を同定、補正する際には、図2に示すように図示を省略した主軸に基準球11を取り付け、その位置を精度高く計測する必要がある。
例えば図2に示すように、Y軸方向の対向する位置、Z軸方向の対向する位置、及び、X軸方向の位置の5点の測定が必要となる。
この際に少なくともX,Y,Z軸方向の並進制御及びB軸廻りに回転制御された工具主軸にタッチプローブ12を装着し、タッチプローブに取り付けたスタイラス13の先端球13aを基準球に向けて送り制御し、その接触位置を計測することになる。
【0012】
従来は図6に示すように、タッチプローブをY軸方向又はZ軸方向に並進制御し、それぞれの位置からスタイラスの先端球13aを基準球11に向けて送り制御していた。
これだと例えば、1つの先端球の位置(接点)13bに着目すると、対向するY方向及び対向するZ方向にて、それぞれ異なることになり、スタイラスのオーバーシュート量に差が生じてしまう。
【0013】
そこで本発明は、図1に示すように先端球13aの接点13bを回転制御し、対向するY方向及び対向するZ方向にて、同一の接点13bが基準球に向けて同じように送り接触するように制御した。
【0014】
本発明の効果を確認するために、オーバーシュート量の接触方向による差を比較調査した結果を図5のグラフに示す。
オーバーシュート量は、図4に模式図を示すように、外径25mmの基準球11に外径6mmの先端球13aを接触させた位置S1からスキップ送りさせた位置S2とする。
これにより、オーバーシュート量bは、下記の式で求まる。
【数1】
[図:0001396134000001.jpg]
図5のグラフにて方向1は、先端球13aの接点13bが基準球に対して同じように接触するように送り制御したものであり、方向2は図3に示すように、先端球の接点が方向1とは逆方向になるように送り制御し、オーバーシュート量を測定した結果である。
いずれもタッチプローブを装着した工具主軸のB軸の回転に合せて、Z,X方向をその分回転させた座標系で測定した。
B軸角度や工具主軸の送り方向によって、オーバーシュート量に大きな差はないが、方向1と2との間で、オーバーシュート量に大きな差が認められた。
このことから、移動する直進軸やタッチプローブの傾きによってはオーバーシュート量に変化がなく、先端球の接点13bの位置を合せ、先端球としては同じ方向に送り制御すると、オーバーシュート量が概ね同一であり、基準球位置計測においてZ,Y方向のオーバーシュート量は相殺されるため、送り方向毎に異なる補正をする必要がない。
【符号の説明】
【0015】
11 基準球
12 タッチプローブ
13 スタイラス
13a 先端球
13b 接点」
ウ 図面
「【図1】
[図:0001396134000002.jpg]
」
「【図2】
[図:0001396134000003.jpg]
」
「【図3】
[図:0001396134000004.jpg]
」
「【図4】
[図:0001396134000005.jpg]
」
「【図5】
[図:0001396134000006.jpg]
」
「【図6】
[図:0001396134000007.jpg]
」
(2) 新規事項の追加の有無の検討
ア 「前記接点1と接点2とが異なる位置であること」について
本件補正後の請求項1は、スタイラスの先端球を、Z軸方向の一方から基準球に向けて送り制御して、前記先端球が前記基準球に接触するときの前記先端球の接点1と、Y軸方向の一方から基準球に向けて送り制御して、前記先端球が前記基準球に接触するときの前記先端球の接点2とが異なる位置であることを特定するものであるところ、請求項1における「前記接点1と接点2とが異なる位置であること」という発明特定事項は、令和3年4月20日にされた手続補正により追加されたものである。
イ 当初明細書等に開示された態様について
(ア) しかしながら、前記(1)において摘記したとおり、スタイラスの先端球を、Z軸方向の一方から基準球に向けて送り制御して、前記先端球が前記基準球に接触するときの前記先端球の接点1と、Y軸方向の一方から基準球に向けて送り制御して、前記先端球が前記基準球に接触するときの前記先端球の接点2とが異なる位置であることは、当初明細書等に直接的な記載はなく、また、以下で検討するとおり、当初明細書等の記載から自明な事項であるともいえない。
(イ) すなわち、明細書の【0013】には、
「 そこで本発明は、図1に示すように先端球13aの接点13bを回転制御し、対向するY方向及び対向するZ方向にて、同一の接点13bが基準球に向けて同じように送り接触するように制御した。」
と記載されており、対向するY方向(以下、それぞれ「+Y方向」及び「-Y方向」といい、両者を総称して「±Y方向」ともいう。)、及び、対向するZ方向(以下、それぞれ「+Z方向」及び「-Z方向」といい、両者を総称して「±Z方向」ともいう。)のいずれの方向から先端球13aを基準球11に接近させたときでも、「同一の接点13b」が基準球に向かうように先端球13aの接点13bを回転制御することが明示されているから、±Y方向についての接点の位置と±Z方向についての接点の位置とが異なるものであることを前提として論じていないことは明らかである。
(ウ) また、本発明を示す図面である【図1】及び【図3】には、±Y方向、±Z方向の四つの方向のいずれから先端球13aを基準球11に接近させたときでも、同じ接点13bが基準球11に接触するように図示されているから(図1では先端球13aの接点はいずれも黒印の位置であり、図3では先端球13aの接点はいずれも黒印とは反対側の位置である。)、±Y方向についての接点と±Z方向についての接点は、同じ位置のものであって、異なる位置のものであることを読み取ることはできない。
ウ 発明の効果について
さらに、明細書の【0008】には、
「 本発明に係る計測方法にあっては、スタイラスの先端球の接触位置及び接触方向が同一になるように制御したので、タッチプローブのオーバーシュート量が概ね同一量になる。
これにより、単一のオーバーシュートの補正量を考慮するだけで精度の高い計測が可能になる。」
と記載されており、【0014】には、
「 このことから、移動する直進軸やタッチプローブの傾きによってはオーバーシュート量に変化がなく、先端球の接点13bの位置を合せ、先端球としては同じ方向に送り制御すると、オーバーシュート量が概ね同一であり、基準球位置計測においてZ,Y方向のオーバーシュート量は相殺されるため、送り方向毎に異なる補正をする必要がない。」
と記載されていることを踏まえると、±Y方向、±Z方向の四つの方向のいずれから先端球13aを基準球11に接近させたときでも、四つの方向毎に異なる補正をする必要がなく、単一のオーバーシュートの補正量を考慮するだけでよいのであるから、上記四つの方向についての接点は、同じ位置である必要があると解するのが相当である。
エ 背景技術との関係について
(ア) 明細書には背景技術として、【0003】及び【0004】に、
「【0003】
特許文献1には、タッチプローブのキャリブレーションに際し、タッチプローブのターゲット球への接触方向毎に補正量を求める方法が記載されている。
これでは接触方向毎に異なるオーバーシュート量も補正する必要があり、キャリブレーションに多くの工数を有することになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2016-83729号公報」
と記載されているところ、当該特許文献1である特開2016-83729号公報には、次の記載がある。
「【0019】
次に、主軸11を0°に割り出すとともに、タッチプローブ13の先端がターゲット球14のX+方向の頂点近傍に位置するように主軸頭12を位置決めした後、X-方向へタッチプローブ13を移動させてターゲット球14のX+方向頂点に接触させ、計測したX軸座標値xm1を記憶する(S23)。また、S23で接触させた点と同じ点がターゲット球14に接触するように、主軸11を180°に割り出すとともに、タッチプローブ13の先端がターゲット球14のX-方向の頂点近傍に位置するように主軸頭12を位置決めした後、X+方向へタッチプローブ13を移動させてターゲット球14のX-方向頂点に接触させ、計測したX軸座標値xp1を記憶する(S24)。そして、記憶したX軸座標値xp1とX軸座標値xm1とを用いて、X中心位置xoを下記数2から求める(S25)。このように、タッチプローブ13の先端における同一の点をターゲット球14に接触させる(図5に示す)ことにより、タッチプローブ13の接触方向の違いによる特性の違いや、タッチプローブ13や主軸11の振れ等の影響を受けることなく、X中心位置xoを求めることができる。
【数2】
[図:0001396134000008.jpg]
【0020】
さらに、主軸11を270°に割り出すとともに、タッチプローブ13の先端がターゲット球14のY+方向の頂点近傍に位置するように主軸頭12を位置決めした後、Y-方向へタッチプローブ13を移動させてターゲット球14のY+方向頂点に接触させ、計測したY軸座標値ym1を記憶する(S26)。また、S26で接触させた点と同じ点がターゲット球14に接触するように、主軸11を90°に割り出すとともに、タッチプローブ13の先端がターゲット球14のY-方向の頂点近傍に位置するように主軸頭12を位置決めした後、Y+方向へタッチプローブ13を移動させてターゲット球14のY-方向頂点に接触させ、計測したY軸座標値yp1を記憶する(S27)。そして、記憶したY軸座標値yp1とY軸座標値ym1とを用いて、Y中心位置yoを下記数3から求める(S28)。
【数3】
[図:0001396134000009.jpg]
」
(イ) 前記(ア)で摘記したとおり、本願の明細書で背景技術として挙げられている特許文献1は、タッチプローブの接触点がX+方向(前記イ(イ)の+Z方向に対応)とX-方向(同-Z方向に対応)で同じ点であること、Y+方向(同+Y方向に対応)とY-方向(同-Y方向に対応)で同じ点であることを開示するものである。そうすると、本願の当初明細書等に記載された発明が、±Y方向についての接点の位置と±Z方向についての接点の位置とが異なる構成を許容するものと解すると、当該構成は背景技術として開示された構成であり、±Y方向と、±Z方向で異なるオーバーシュート量の補正を行う必要があるから、背景技術の抱える問題点を解決したことにならないのは明らかである。
(ウ) すなわち、明細書で提示されている背景技術との関係から見ても、本願の当初明細書等に記載された発明は、±Y方向についての補正と、±Z方向についての補正を同じものとして、キャリブレーションの工数を少なくしたものであると解するのが相当であり、そのためには±Y方向についての接点の位置と±Z方向についての接点の位置が異なるものを許容するものと解することはできない。
オ まとめ
以上検討したとおり、「前記接点1と接点2とが異なる位置であること」は、当初明細書等に開示されておらず、当初明細書等の記載から自明な事項であるともいえない。
そして、補正により追加された、「前記接点1と接点2とが異なる位置であること」との発明特定事項は、±Y方向についての接点の位置と±Z方向についての接点の位置とが異なることを許容するという新たな技術上の意義をもたらすことになるから、本件補正は、当初明細書等の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入しないものであるとはいえない。
(3) 請求人の主張について
ア 審判請求書の主張について
請求人は、図1及び図3の計測の仕方によるオーバーシュート量が図5に示され、その説明として段落0014に「Z,Y方向の(それぞれにおいて)オーバーシュート量は相殺されるため、送り方向毎に異なる補正をする必要がない。」と記載されており、これは先端球の接点位置によりオーバーシュート量が異なったとしても、先端球の移動方向と、その逆からの移動方向にて計測すると、オーバーシュート量が相殺されるのでオーバーシュート量による補正が不要であることを説明しているから、本件特許請求の範囲に記載されている発明は、当初明細書等に記載された範囲内のものである旨主張している。
イ 請求人の主張に対する当審の判断
(ア) 【0014】には、「図5のグラフにて方向1は、先端球13aの接点13bが基準球に対して同じように接触するように送り制御したものであり、方向2は図3に示すように、先端球の接点が方向1とは逆方向になるように送り制御し、オーバーシュート量を測定した結果である。」と記載されているところ、【図1】に示された接触態様と【図3】に示された接触態様とを比べてみれば、二つの接触態様の間では接点は異なる位置であることを読み取ることはできる。
(イ) しかしながら、【図1】に示された接触態様においては、±Y方向についての接点の位置と±Z方向についての接点の位置とは同一であり(図1の先端球13aの黒印の位置が接点の位置である)、同様に、【図3】に示された接触態様においても、±Y方向についての接点の位置と±Z方向についての接点の位置とは同一である(図3の先端球13aの黒印とは反対の位置が接点の位置である)。
(ウ) したがって、各接触態様でみれば、±Y方向についての接点の位置と±Z方向についての接点の位置とは同一であることに変わりはないから、【0014】、【図1】、【図3】、【図5】の記載を根拠として、「前記接点1と接点2とが異なる位置であること」が、当初明細書等の記載から読み取れるとはいえない。
(エ) さらに、請求人の主張する「段落0014に「Z,Y方向の(それぞれにおいて)オーバーシュート量は相殺されるため、送り方向毎に異なる補正をする必要がない。」と記載されて[いる]」との主張について検討すると、【0014】には、「(それぞれにおいて)」との記載は存在せず、請求人の主張は当初明細書等の記載に基づくものではない。また、前記(2)ウ及びエで検討したとおり、当該記載が「(それぞれにおいて)」を意味している、すなわち、±Y方向の接点が同じであり、±Z方向の接点が同じであれば足りる、と解する余地はない。
よって、請求人の主張を採用することはできない。
(4) 小括
以上検討のとおり、本件補正は、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものではなく、特許法17条の2第3項の規定に違反しているから、同法159条1項において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。
したがって、前記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。
第3 新規事項の追加についての当審の判断
1 原査定前補正の補正内容
本件補正は、上記第2のとおり却下されたところ、令和3年4月20日にされた特許請求の範囲についての補正(以下「原査定前補正」という。)は、本願の願書に最初に添付した特許請求の範囲の請求項1の記載を、前記第2の1(1)に示される本件補正前の特許請求の範囲の請求項1の記載に補正するものである。
2 原査定における拒絶の理由の概要
原査定の拒絶の理由2の概要は、次のとおりである。
理由2(新規事項)
原査定前補正は、下記の点で当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものでないから、特許法17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。
記
請求項1における「前記スタイラスの先端球をZ,Y軸方向のうち、Z軸方向の一方から前記基準球に向けて送り制御し、前記先端球の接点1が前記基準球に接触する接触位置を計測し、次に前記先端球を回転割出し、逆方向から前記基準球に向けて送り制御し、前記接点1が接触する接触位置を計測する工程と、Y軸方向の一方から前記基準球に向けて送り制御し、その前記先端球の接点2が前記基準球に接触する接触位置を計測し、次に前記先端球を回転割出し、逆方向から前記基準球に向けて送り制御し、前記接点2が接触する接触位置を計測する工程とを有し、前記接点1と接点2とが異なる位置である」との事項は、当初明細書等に記載されていない。
よって、補正後の請求項1に係る発明は、当初明細書等に記載した事項の範囲内のものではない。
3 新規事項の追加の有無の検討
請求項1の「前記接点1と接点2とが異なる位置であること」という発明特定事項は、原査定前補正により追加されたものであるから、原査定前補正についても、本件補正について検討した新規事項の追加の有無の検討内容が同様に当てはまる。
したがって、原査定前補正は、当初明細書等の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入しないものであるとはいえない。
第4 むすび
以上検討のとおり、原査定前補正は、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものではなく、特許法17条の2第3項の規定に違反しているから、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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