特許異議申立
2024-700650
耐火性モルタル、コークス炉の築炉方法及び耐火性モルタルの選定方法
- 審判番号
- 2024-700650
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2019-211585
- 登録番号
- 7421315
- 請求日
- 2024年07月10日
- 審決日
- 2025年02月12日
- 公報発行日
- 2025年03月28日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】黒崎播磨株式会社
- 【権利者代理人】弁理士法人英和特許事務所
- 【権利者】日本製鉄株式会社
- 【権利者代理人】弁理士法人英和特許事務所
- 【異議申立人】西内 大生
- 審判長/審判官
- 審判長 深草 祐一
- 審判官 三崎 仁
- 審判官 金 公彦
- 分類
- P1651.121-Y (C04B) / P1651.536-Y (C04B) / P1651.537-Y (C04B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第6項第2号、特許法第2条第3項第1号、特許法第2条第3項第2号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7421315号発明「耐火性モルタル、コークス炉の築炉方法及び耐火性モルタルの選定方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7421315号の請求項1ないし8に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7421315号の請求項1~8に係る特許についての出願は、令和元年11月22日に出願され、令和6年1月16日にその特許権の設定登録がされ、同年同月24日に特許掲載公報が発行された。
本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。
令和6年 7月10日 :特許異議申立人西内大生(以下「申立人」という。)による請求項1~8に係る特許に対する特許異議の申立て
同年11月 6日付け:取消理由通知書
同年12月26日 :特許権者による意見書の提出
第2 本件発明
本件特許の請求項1~8に係る発明(以下「本件発明1~「本件発明8」といい、まとめて「本件発明」ともいう。)は、その特許請求の範囲の請求項1~8に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
定形耐火物を用いてコークス炉の炉壁を構築する際に定形耐火物同士の接合に使用するコークス炉目地用の耐火性モルタルであって、
前記耐火性モルタルは、前記定形耐火物の間の目地厚みLjに施工され、養生終了時の厚みをMiとしたときにMi<Ljであり、且つ、
100℃における前記耐火性モルタルの厚みMTが(1)式を満たすことを特徴とする耐火性モルタル。
MT=Mi(1+0.01αMT)≧Lj-0.005(αB1×LB1+αB2×LB2)・・・(1)
ここでMiは養生終了時の耐火性モルタルの厚み、αMTは100℃における耐火性モルタルの線熱膨張率、そして隣接する定形耐火物をそれぞれ定形耐火物1と定形耐火物2とし、Ljは室温における定形耐火物1と定形耐火物2との間の目地厚み、αB1は定形耐火物1の100℃における線熱膨張率、LB1は定形耐火物1の室温長さ、αB2は定形耐火物2の100℃における線熱膨張率、LB2は定形耐火物2の室温長さである。
【請求項2】
100℃における耐火性モルタルの線熱膨張量が養生終了時の収縮量以上である、請求項1に記載の耐火性モルタル。
【請求項3】
粒径0.1mm以上0.5mm未満の珪石原料を5質量%以上50質量%以下、粒径0.045mm以上0.1mm未満の珪石原料を20質量%以上60質量%以下、粒径0.045mm未満のシリカ質原料を5質量以上35質量%以下含む、請求項1又は2に記載の耐火性モルタル。
【請求項4】
定形耐火物を用いて炉壁を構築する際に定形耐火物同士の接合に使用する耐火性モルタルであって、粒径0.1mm以上0.5mm未満の珪石原料を5質量%以上50質量%以下、粒径0.045mm以上0.1mm未満の珪石原料を20質量%以上60質量%以下、粒径0.045mm未満のシリカ質原料を5質量以上35質量%以下含むことを特徴とする耐火性モルタル。
【請求項5】
耐火粘土の含有量が1質量%以下(0を含む)である、請求項1から4のいずれか一項に記載の耐火性モルタル。
【請求項6】
溶融シリカを55質量%以上含む定形耐火物の接合に使用される、請求項1から5のいずれか一項に記載の耐火性モルタル。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか一項に記載の耐火性モルタルを定形耐火物の接合に使うことを特徴とするコークス炉の築炉方法。
【請求項8】
定形耐火物を用いてコークス炉の炉壁を構築する際に定形耐火物同士の接合に使用するコークス炉目地用の耐火性モルタルの選定方法であって、100℃における耐火性モルタルの厚みMTが(1)式を満たす耐火性モルタルを選定する耐火性モルタルの選定方法。
MT=Mi(1+0.01αMT)≧Lj-0.005(αB1×LB1+αB2×LB2)・・・(1)
ここでMiは養生終了時の耐火性モルタルの厚み、αMTは100℃における耐火性モルタルの線熱膨張率、そして隣接する定形耐火物をそれぞれ定形耐火物1と定形耐火物2とし、Ljは室温における定形耐火物1と定形耐火物2との間の目地厚み、αB1は定形耐火物1の100℃における線熱膨張率、LB1は定形耐火物1の室温長さ、αB2は定形耐火物2の100℃における線熱膨張率、LB2は定形耐火物2の室温長さである。」
第3 取消理由及び特許異議申立理由について
1 取消理由の概要
令和6年11月6日付け取消理由通知書は、特許異議申立書(以下「申立書」という。)の17頁25行~21頁18行に記載の申立人の主張を踏まえて、次の取消理由を通知したものであり、その指摘内容は、おおむね以下のとおりである。
取消理由(明確性)
本件特許は、その特許請求の範囲の下記の請求項に係る記載が、特許法第36条第6項第2号に規定にする要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
・請求項1~3、5~8
(1)「養生終了時」について
ア 水分の観点について
本件特許明細書(以下「本件明細書」という。)の記載から、「養生終了時」とは、モルタルから水分が抜けきった時点との解釈も可能であるものの、モルタルからどの程度水分が抜けた時点を「養生終了時」として定義しているのかは明らかではない。
そうすると、「養生終了時」とは、水分の観点からして、いかなる時点を「養生」が「終了」した時点としているのか一義的に定義することはできない。
イ 収縮量の観点について
申立人が提示した以下の甲1には、「図1の如く,けい石れんがにてけい石モルタルの目地を作成し,矢印部の変化をカセトメーターにて測定すると,図2の如く変化する。これによると,初め40~50分間の収縮が極めて大きく,ほぼ直線的に変化していることがわかる。これは当然のことであろうが,粘土の乾燥収縮と同じ傾向を示している。」と記載され、図2として、以下の図面が記載されている。
[図:0001420334000001.jpg]
当該事項を参照すると、モルタルの収縮は、最初に大きく収縮し、その後、徐々に収縮していくものであるから、どの時点を「養生終了時」とするのか、明らかとはいえない。
ウ 硬化の観点について
広辞苑(第7版)によれば、「養生」とは「土木・建築で、モルタルや打ち込んだコンクリートが十分硬化するように保護すること。」であり、また、申立人が提示した以下の甲3には、耐火物用語として、「養生」について「キャスタブルに最適な硬化性能を発揮させるため,鋳込み直後の一定時間,温度や湿度などの周囲条件を調整する工程。」(VII耐火物用語530頁)と記載されている。
そうすると、「養生終了時」とは、モルタルが十分又は最適に硬化した時点であるともいえるが、本件明細書では、モルタルの「硬化」について記載されておらず、硬化の観点からして、「養生終了時」とは、いかなる時点を「養生」が「終了」した時点としているのか一義的に定義することはできない。
エ 小括
水分、収縮量、硬化というモルタルに関連する特性のいずれに着目しても、本願発明における「養生終了時」とは、いかなる時点を「養生」が「終了」した時点としているのか一義的に定義することはできない。
(2)「養生終了時の収縮量」について
「養生終了時の収縮量」が、養生終了時(室温)までに収縮した量のことであるのか、養生終了時(室温)の後に加熱して自由水がなくなるまでの温度(100℃)において収縮した量のことであるのか、さらには、両者の合計量(養生終了時(室温)までに収縮した量とその後に加熱して自由水がなくなるまでの温度(100℃)において収縮した量の合計量)のことであるのか、いずれの収縮量であるのか一義的に定義できない。
2 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由の概要
上記1で記載した取消理由通知の取消理由として採用しなかった特許異議申立理由(以下「申立理由」という。)は、以下のとおりである。なお、甲第○号証は、以下「甲○」という。
(1)申立理由1(進歩性)
申立理由1についての概要は、次のとおりである。
本件発明1~8の各発明は、甲1に記載された発明及び以下に述べる各甲号証の記載事項に基づいて、さらに本件発明4については、甲3に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1~8に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
申立人は、甲1に記載された発明と組み合わせる甲号証として、本件発明1、2、5及び7については甲2を、本件発明3については甲2~4を、本件発明4については甲3及び4を、本件発明6については甲2、5及び6を、本件発明8については、甲2及び3を提示している。
<証拠方法>
甲1:真保義郎他、「けい石モルタルの乾燥収縮」、耐火物誌、28巻、昭和51年1月発行、pp.30-34
甲2:特開2014-214033号公報
甲3:耐火物技術協会編、「耐火物手帳 改訂12版」、耐火物技術協会、平成27年8月31日発行、pp.233-244,p.330,p.530
甲4:素木洋一、「セラミック外論(22)」、窯業協會誌、70巻795号、1962年発行、pp.58-65
甲5:特開2013-189322号公報
甲6:国際公開2017/146254号
(2)申立理由2(実施可能要件)
申立理由2は、本件特許の発明の詳細な説明の記載は、当業者が本件発明1~3及び5~8を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでないことから、本件発明1~3及び5~8に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定にする要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、その主張(申立書の21頁19行~29頁13行)は、おおむね以下のとおりである。
ア 「養生終了時」及び「養生終了時の収縮量」の用語が不明確であることに起因して、具現すべき耐火性モルタルを当業者が理解できず、当業者はどのように本件発明1及び2を実施するかが理解できない。
仮に明確として、(2)式を充足する熱膨張率αMT、目地厚みLj、及び養生終了時の厚みMiの組合せを導き出したとしても、この組合せを実現する耐火性モルタルを製造することができない。
イ 「養生終了時の耐火性モルタルの厚み(Mi)」および「養生終了時の収縮量」は、本件明細書において定義されていないことから、これらのパラメータによって特定される発明を実施することはできない。また、これらのパラメータの数値がばらつくことが考慮されておらず、ばらつきが生じる数値を定量的に決定するための試験方法が示されていない。そのため、当業者が実施に際して、どの部分の厚みをどのような方法で測定し、何点の測定値の平均値を取ればよいか等が不明である。
ウ 本件明細書には、特定の粒径分布を有する耐火性モルタルが(2)式を満たし、当該特定の粒径分布を少しでも逸脱する耐火性モルタルは(2)式を満たさないということが示されている。したがって、粒径分布に係る発明特定事項を備えない本件発明1、2、5~8は、実施可能に記載された発明ではない。
また、特定の組成を除けば、(2)式が要求する「100℃における線熱膨張率が高いという特徴」を満たす耐火性モルタルの組成に辿り着くまでに過度な試行錯誤、複雑高度な実験等を要することになる。
(2)申立理由3(サポート要件)
申立理由3は、本件発明1~3及び5~8は、発明の詳細な説明に記載したものでないことから、本件発明1~3及び5~8に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定にする要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、その主張(申立書の29頁14行~31頁10行)は、おおむね以下のとおりである。
(2)式は達成されるべき結果(すなわち課題)を単に言い換えたものにすぎず、発明の詳細な説明には、本件発明4で特定される耐火性モルタルを適用した手段による発明が記載されているのみであり、他の耐火性モルタルを用いて(2)式の要件を満たす具体的手段は記載も示唆もされていない。してみると、(1)式及び(2)式で規定された請求項に係る発明の範囲まで、拡張ないし一般化できるとはいえない。
第4 甲号証の記載
(1)甲1について
ア 記載事項
甲1には、以下の事項が記載されている。下線は当審において付与した(以下同様。)。
(甲1ア)
「1.はじめに
耐火モルタルは,水と混練してペースト状にて使用されるため,使用後,乾燥脱水による耐火モルタルの収縮は,さけられ得ない現象である。この収縮は,れんが積みを行った場合,れんがの下りとか目地の亀裂発生の原因となる。
JIS R 2504「耐火モルタルの乾燥および加熱の線変化率試験方法」の一部として乾燥収縮の測定法が規定されている。しかしこの方法は,耐火モルタルを規定の方法にて成形したものの乾燥線変化率を単に測定しているだけで,乾燥脱水による収縮について充分な考察のもとに制定されたものでは無さそうである。
図1の如く,けい石れんがにてけい石モルタルの目地を作成し,矢印部の変化をカセトメーターにて測定すると,図2の如く変化する。これによると,初め40~50分間の収縮が極めて大きく,ほぼ直線的に変化していることがわかる。これは当然のことであろうが,粘土の乾燥収縮と同じ傾向を示している。
ここでは耐火モルタルの乾燥収縮の測定を,JIS法とは別の観点(粘土の乾燥収縮の理論)から検討し,コークス炉用けい石モルタルの一測定例を報告する。」(30頁左欄1行~右欄4行)
(甲1イ)
「
[図:0001420334000002.jpg]
」
(甲1ウ)
「3. 実験
1) 使用モルタル
次の如きけい石モルタルを,試験室で作成使用した。
配合:けい石焼粉 78% 粒度:
軟けい石 20 最大粒径 1mm
粘土 2 74μ以下 50%
バインダー(有機) 1
2)試片作成
(1)加圧成形:けい石モルタルに水25%を添加し(最も試験しやすい軟かさとした),よく混練し,図6の如くガラス板にて厚さ約10mmに延ばし,試片を切り出す。
(2)目地成形:JIS S-2れんがを用いてけい石モルタルの10mm目地を作成する。れんがの完全停止後,上部れんがを取り除いて試片を切り出す。尚けい石モルタルの添加水量は34%。初め13mm厚の目地を作成し,途中にて加圧し目地厚を10mmに調整した。」(31頁右欄12行~32頁左欄2行)
イ 甲1発明について
(ア)記載事項の整理
(甲1イ)で摘記した図1から、けい石モルタルは、珪石れんが同士の接合に使用される目地用のものといえ、さらに、(甲1ア)の「コークス炉用」との記載を踏まえると、珪石れんがは、コークス炉の炉壁を構築するものといえ、けい石モルタルは、コークス炉目地用のものといえる。
また、「けい石モルタル」は、(甲1ア)の「耐火モルタル」であり「乾燥脱水による」「収縮」が生じるものである。そして、「けい石モルタル」は、具体的には、(甲1ウ)で記載される配合と粒度を有するものである。
(イ)甲1発明
上記アの記載事項(特に下線部参照)及び上記(ア)の記載事項の整理を踏まえると、甲1には、次の発明が記載されているといえる。
「珪石れんがを用いてコークス炉の炉壁を構築する際に珪石れんが同士の接合に使用するコークス炉目地用のけい石モルタルである耐火性モルタルであって、
前記モルタルは、乾燥脱水による収縮が生じるものであり、
前記モルタルは、けい石焼粉が78%、軟けい石が20%、粘土が2%、バインダー(有機)が 1%の配合を有するもので、最大粒径が1mm、74μ以下が50%の粒度を有するものである、
耐火性モルタル。」(以下「甲1発明」という。)
(2)甲2について
甲2には、以下の事項が記載されている。
(甲2ア)「【0005】
また、30年以上前に建設されたコークス炉においては、この赤れんがに使用される目地モルタルに、ポルトランドセメント系の結合材が適用されていた。しかし、最近建設が計画されているコークス炉は、省エネルギーの観点から、熱を放出させず炉内に蓄熱させる構造に変化してきたことから、より熱負荷の増大が見込まれている。そのため、赤れんがの周辺に使用される不定形耐火物においても、使用する部位によっては耐熱温度を400℃まで高めておくことが望ましくなってきた。」
(甲2イ)「【0031】
[2]コークス炉の炉底部用不定形耐火物に必要な特性
コークス炉は、珪石れんがからなる耐火れんが層と、その外側に配置される赤れんがからなる断熱層とで構成されている。コークス炉の炉底部を安定した構造体とするためには、この赤れんがの築造やレベル調整に使用される不定形耐火物も赤れんがと同等の強度を有するものが好ましく、耐熱性と、強度のバラツキを抑えるための高い流動性も併せ持つ必要がある。そのため、本発明の不定形耐火物の製造方法においては、以下の特性を持つように製造する。
【0032】
赤れんがとしては、JIS R1250の4種(普通れんがのうち、圧縮強度の規格値が30 MPa以上であるもの)に規定されるもので、実測値として45~70 MPaの圧縮強度を有するものが好ましい。従って、不定形耐火物もJIS R2521に準じた型枠を用いて成形した試片の400℃で3時間加熱後の圧縮強度(基準圧縮強度)が50 MPa以上、さらには後述する自己流動鋳込み試験用の型枠に鋳込んで成形して得られる試片においても、注入側から先端側まで全体に45 MPa以上の強度を有するものが好ましい。通常3時間以上加熱すれば、この試片の内部まで温度が均一化することから、3時間加熱後の圧縮強度で評価する。
【0033】
ここで、自己流動鋳込み試験用の型枠に鋳込んで成形した試片の場合、自己流動中に様々な状態で分離が生じ、その状態に応じて強度にバラツキが生じる(一般に先端側が最も低くなる)ため、不定形耐火物の流動性を評価することができる。これに対して、前記JIS R2521に準じた型枠(40x40x160 mm型枠)を用いて型枠の中央から鋳込んで成形した場合は、流動分離の影響をほとんど受けないため、比較的強度低下の少ない試片が得られる。この流動分離の影響を極力受けないように成形した試片の圧縮強度を本願では基準圧縮強度と言う。尚、前記基準圧縮強度を測定するための試片の作製は、混練方法などはJIS R2521に準ずるが、鋳込み方法については、型枠の中央部から不定形耐火物を注ぎ込み、突き棒や鏝を使った均し作業は行わず、自己流動のみで充填させて行うものとする。
【0034】
実機においては、常温で施工・硬化後を基準として稼働時に温度が上昇すると、例えば400℃では0.4%ほど熱膨張する。しかし、加熱収縮が0.5%を超えると、収縮率の方が大きく上廻るようになり、収縮割れが生じるようになる。そのため、不定形耐火物のJIS R2521に準じた型枠を用いて成形した試片の400℃で3時間加熱後の残存収縮率は0.5%以下が好ましい。尚、残存収縮率は、脱枠直後の試片の寸法から400℃で3時間加熱し、室温まで戻した後に何%収縮したかを表している。」
(甲2ウ)「【0065】
(A) JIS R2521に準拠した成形型を用いた試験
この不定形耐火物を用いて、以下に記載したようにJIS R2521に準拠した成形型で試片を作製し、後述する方法で、(1)フリーフロー値、(2)400℃加熱後の残存収縮率、(3)400℃加熱後のかさ比重、及び(4)400℃加熱後の圧縮強度(基準圧縮強度)を測定した。なお試片の作製は、JIS R2521に準じた成形型を用いて行ったが、鋳込みは、型枠の中央部から不定形耐火物を注ぎ込み、自己流動のみで充填させて行い、JIS R2521に記載された突き棒や鏝を使った均し作業は行わなかった。
【0066】
(1) フリーフロー値
JIS R2521に準拠したフロー試験法により測定した。
【0067】
(2) 400℃加熱後の残存収縮率
脱枠直後の試片の寸法から400℃で3時間加熱後に室温まで戻し何%収縮したかを測定した。
【0068】
(3)400℃加熱後のかさ比重
400℃で3時間加熱後の試片のかさ比重を、JIS R2205に準拠した比重の測定方法により測定した。
【0069】
(4)400℃加熱後の基準圧縮強度
400℃で3時間加熱後の試片の圧縮強度を、JIS R2521に準拠した圧縮強さ試験法により測定した。
【0070】
(B) 自己流動鋳込み試験
図2に示すような、底面が幅40 mm、長さ1000 mmの型枠6を用意し、この型枠6の一端から得られた不定形耐火物4を注ぎ込み、そのまま自己流動させた後、養生硬化(JIS R2521に準拠した条件)させたものを試片とし、(5)先端側の試片高さ/注入側の試片高さの比、(6)400℃加熱後の最大圧縮強度及び400℃加熱後の最小圧縮強度を測定し、(7)難分離性の評価を行った。なお400℃加熱後の最大圧縮強度及び400℃加熱後の最小圧縮強度の測定、並びに難分離性の評価は以下のようにして行った。結果を表2に示す。」
(3)甲3について
ア 記載事項
甲3には、以下の事項が記載されている。
(甲3ア)
「3.10.2 耐火モルタルの役割
耐火モルタルは煉瓦を積み合わせて窯炉を築造する場合の,接合材として使用される。
モルタルの目地により煉瓦寸法のばらつきを吸収し,荷重を均等に支持して接合し,窯炉に構造体としての強度を与える。そして炉壁を気密にして継ぎ目からの冷空気の侵入やガスリークを防ぎ,スラグや溶融金属の侵入を防止する。
3.10.3 耐火モルタルに要求される性能
耐火モルタルに要求される性能には,施工性,煉瓦の接合材としての性能,および各々の適用場所に対応した特性の4種類があり,これらは以下のようになる。
(1)作業性が良好で,接着時間が適当なこと
(2)必要な耐熱性を有すること
(3)乾燥・焼成による目地切れや煉瓦との剥離を起こし難く,操業条件下において必要な強度を有し,気密な一体構造を保持すること
(4)適応場所に要求される個々の特性(耐クリープ性,耐食性,耐アルカリ性,耐COガス性,あるいは接着強度特性など)が良好なこと
煉瓦積み構造は,目地部が先行して損傷されることが多く,従って炉の構造使用する煉瓦および使用目的に合わせて.適切なモルタルを選定することが肝要である。
3.10.4 耐火モルタルの分類
耐火モルタルは,硬化の状態によって次のように分類される。
(1) 熱硬性モルタル(Heat setting mortar)
有機のり(糊)などの可塑性結合剤が使用されるが,乾燥のみでは強度が弱く高温で焼成されて,セラミックボンドの生成により強度がでるモルタル。
材質と耐火度によって更に類別され,シリカ-アルミナ系ではSK35以上は高アルミナ質に区分される。表II.3.10-1に耐火モルタルの種類と品質6)を示す。」(233頁右欄1~36行、なお、(1)~(4)は原文では○数字である。)
(甲3イ)表II.3.10-1(234頁)は「耐火性モルタルの種類と品質」についての表であり、抜粋すると以下のものが記載されている。
「
[図:0001420334000003.jpg]
」
(甲3ウ)
「3.10.5 耐火モルタルの構成
気硬性モルタルについてみると,図II.3.10-2ようになっている。
(1) 骨材
骨材としては,煉瓦との熱膨張性が近似すること,煉瓦との間で異常な反応を起こさないことなどから,煉瓦材質に合わせて各種のものが使用される。高温時のモルタルの収縮を回避し,熱膨張を調整するためにカイヤナイト[A1203・Si02]やアンダルサイト[A1203・Si02]が添加されることもある。骨材の粒度は75μm以下が60~80mass%, 最大粒径は0.3~0.5mmの範囲に調整されるのが通常である。コークス炉築造のように目地厚が4~6mmと厚く設計される場合には75μm以下が40~55mass%程度で粗目の粒度に調整される場合もある。」(234頁左欄11行~右欄12行)
イ 甲3発明について
(甲3イ)の表II.3.10-1には、種類が「けい石耐火モルタル」であり、粉末度が「1000μmの標準網ふるいを全通し、74μmの標準網ふるいを25%以上通過する」ものが記載されている。そうすると、(甲3ア)及び(甲3イ)から甲3に記載されている発明を認定すると、次のとおりである。
なお、(甲3ウ)には、気硬性モルタルの骨材として「75μm以下が60~80mass%, 最大粒径は0.3~0.5mmの範囲に調整される」ものが記載されているが、当該骨材は「カイヤナイト[A1203・Si02]やアンダルサイト[A1203・Si02]」と記載され、珪石とはいえないことから、発明の認定には使用していない。仮に珪石であったとしても、「75μm以下が60~80mass%, 最大粒径は0.3~0.5mmの範囲に調整される」ものは、本件発明4の粒度構成を満たしていない。
「煉瓦を積み合わせて窯炉を築造する場合に接合材として使用される耐火モルタルであって、
1000μmの標準網ふるいを全通し、74μmの標準網ふるいを25%以上通過するけい石耐火モルタルである、耐火モルタル。」(以下「甲3発明」という。)
(4)甲4について
甲4には、以下の事項が記載されている。
(甲4ア)
「(7) 珪石モルタル
珪石モルタルがもつべき性質に関する見解は人によって異なり,次に示すようなばらばらな意見が出されている.すなわちモルタルの性質は
i)炉内混度で強固な層となって焼結し,しかも煉瓦同志は結合させてはならない,あるいは
ii)加熱面の煉瓦は強固に結合されていて接目は緻密にあるが,冷熱面は単に付着しているかシンターしていること,あるいは
iii) 煉瓦がはずれずに正しくその位置を保っている程度に付着していること
である.」(64頁右欄6~17行)
(甲4イ)65頁の下側には、以下の表が記載されている。
「
[図:0001420334000004.jpg]
」
(5)甲5について
甲5には、以下の事項が記載されている。
(甲5ア)「【請求項2】
溶融石英と焼成珪石からなる珪石質耐火原料配合物100質量%に対して、外掛けでコロイダルシリカを固形SiO2に換算して3.0~9.3質量%、珪酸ソーダを固形Na2Oに換算して0.04~0.30質量%添加した珪石質キャスタブル耐火物であり、前記焼成珪石がトリジマイト及びクリストバライトを主成分とし、前記珪石質耐火原料配合物の溶融石英と焼成珪石の配合割合が、溶融石英60~100質量%、焼成珪石0~40質量%であり、外掛けでのトータルのソーダ成分添加量が固形Na2Oに換算して0.06~0.32質量%であることを特徴とする珪石質キャスタブル耐火物。」
(甲5イ)「【0001】
本発明は、加熱時の熱衝撃抵抗性に優れ、かつ高温での荷重下収縮が抑制され、クリープ変形し難い珪石質キャスタブル耐火物、及びそれを用いた珪石質プレキャストブロック耐火物に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、コークス炉では、珪石れんががライニングされて30年以上の長期間使用され、その長期間使用中損傷したライニング部位の補修は、れんがの交換あるいは耐火材料の溶射などによって行われている。このうち、補修用れんがは、500℃前後で保温されたコークス炉内壁に築造されるため、熱衝撃抵抗性が要求される。」
(6)甲6について
甲6には、以下の事項が記載されている。
(甲6ア)「[0007] 本発明が解決しようとする課題は、高い熱間強度を有するとともに、高温時における荷重下膨縮挙動が安定なコークス炉用プレキャストブロック耐火物を提供することにある。」
(甲6イ)「請求の範囲
[請求項1] シリカ質のコークス炉用プレキャストブロック耐火物において、P2O5成分を0.3質量%以上2質量%以下含有することを特徴とするコークス炉用プレキャストブロック耐火物。」
第5 本件明細書の記載
1 課題について
「【技術分野】
【0001】
本発明は、定形耐火物を用いて炉壁を構築する際に定形耐火物同士の接合に使用する耐火性モルタル、その耐火性モルタルを使用するコークス炉の築炉方法及び耐火性モルタルの選定方法に関する。」
「【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らが、珪石原料を主体とする各種の耐火性モルタルを使用してコークス炉の築炉試験を重ねたところ、使用部位の稼働中の温度が低いと、十分なガスシール性が得られないことがわかった。
すなわち、炭化室など稼働中の温度が1000℃を超えるような高温部位ではガスシール性に問題はなかったものの、例えばコークス炉の炉中下部に位置するソールフリューは、稼働中の温度が約50℃から250℃程度と低い部位であるが、このような低温部位では、十分なガスシール性が得られないことがわかった。
なお、コークス炉ではシール性としてガスに対するシール性が問題となるが、コークス炉以外の例えば溶融炉では溶融物に対するシール性が問題となり、低温部位におけるシール性の確保は、コークス炉に限った課題ではない。
【0006】
そこで本発明が解決しようとする課題は、使用部位の稼働中の温度にかかわらず、十分なシール性を確保することのできる耐火性モルタルを提供すると共に、その耐火性モルタルを使用するコークス炉の築炉方法及び耐火性モルタルの選定方法を提供することにある。」
2 発明を実施するための形態について
「【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の第1の形態は、100℃における耐火性モルタルの厚みMTが(1)式を満たすことを特徴とする耐火性モルタルである。
MT=Mi(1+0.01αMT)≧Lj-0.005(αB1×LB1+αB2×LB2)・・・(1)
ここでMiは養生終了時の耐火性モルタルの厚み、αMTは100℃における耐火性モルタルの線熱膨張率、そして隣接する定形耐火物をそれぞれ定形耐火物1と定形耐火物2とし、Ljは室温における定形耐火物1と定形耐火物2との間の目地厚み、αB1は定形耐火物1の100℃における線熱膨張率、LB1は定形耐火物1の室温長さ、αB2は定形耐火物2の100℃における線熱膨張率、LB2は定形耐火物2の室温長さである。
【0011】
このように本発明の第1の形態である耐火性モルタルは(1)式を満たすことで、稼働中の温度が100℃程度の低温部位においても十分なシール性を確保することができる。
具体的に(1)式を満たすことの技術的意義を、図1を参照して説明すると以下のとおりである。
図1(a)は、隣接する定形耐火物1と定形耐火物2とを、耐火性モルタルを使用して接合した直後の状態を模式的に示している。この接合直後(室温)における耐火性モルタルの厚みM0は、室温における定形耐火物1と定形耐火物2との間の目地厚みLjと等しい(M0=Lj)。
図1(b)は、耐火性モルタルの養生終了時(室温)の状態を模式的に示している。耐火性モルタルは流動性を付与する必要があるため、所定の水分を添加して混練しており、この耐火性モルタル中の水分は、養生中に定形耐火物1,2の開気孔に吸収されるため、耐火性モルタルは収縮する。加えて、養生中に耐火性モルタルの粉末部が凝集する。これらの作用によって、耐火性モルタルは収縮し、養生終了時の耐火性モルタルの厚みはMiとなり、目地に間隙Aが生じる。
図1(c)は、100℃における定形耐火物1と定形耐火物2との接合状態を模式的に示している。100℃における定形耐火物1と定形耐火物2との間の目地厚みは、Lj-0.005(αB1×LB1+αB2×LB2)となり、これが(1)式の右辺である。すなわち、100℃における目地厚みは、室温における目地厚みLjから定形耐火物1,2の熱膨張量を減じた厚みとなる。なお、αB1,αB2は線熱膨張率、すなわち線熱膨張を百分率(%)で表したものであり、目地厚みに影響を及ぼす熱膨張は定形耐火物1,2の片側のみであるから、係数は0.005となる。
一方、100℃における耐火性モルタルの厚みMTは、Mi(1+0.01αMT)となり、これが(1)式の左辺である。
そして、この100℃における耐火性モルタルの厚みMTが、100℃における目地厚み以上である、すなわち(1)式を満たす場合、100℃において目地に間隙が生じることはなく、十分なシール性を確保することができることになる。
【0012】
なお、コークス炉のソールフリューは、上述のとおり稼働中の温度が約50℃から250℃程度であり、稼働中の温度が100℃を下回ることがあるが、これはコークス炉ガス交換時の一時的なものであり、コークス炉のソールフリューにおいても、(1)式を満たしていれば、十分なシール性を確保することができる。
また、本発明の第1の形態である耐火性モルタルは、コークス炉のソールフリューのような低温部位だけでなく、コークス炉の炭化室のように稼働中の温度が1000℃超えるような高温部位にも問題なく使用することができる。また、本発明の第1の形態である耐火性モルタルはコークス炉に限らず、ガラス溶融炉等の各種溶融炉にも問題なく使用することができる。
【0013】
上述のとおり(1)式では、定形耐火物1,2の100℃における熱膨張を考慮したが、コークス炉等では溶融シリカを主体、具体的には溶融シリカを55質量%以上含む定形耐火物を使用することがある。この溶融シリカを主体とする定形耐火物は、100℃において殆ど熱膨張しない。すなわち、(1)式において定形耐火物1,2が溶融シリカを主体とする定形耐火物である場合、100℃における線熱膨張率、LB1,LB2は実質的に0となり、この場合、(1)式は(2)式のようになる。
MT=Mi(1+0.01αMT)≧Lj・・・(2)」
「【0019】
本発明の第2の形態は、粒径0.1mm以上0.5mm未満の珪石原料を5質量%以上50質量%以下、粒径0.045mm以上0.1mm未満の珪石原料を20質量%以上60質量%以下、粒径0.045mm未満のシリカ質原料を5質量以上35質量%以下含むことを特徴とする耐火性モルタルである。
詳細は後述するが、この第2の形態の耐火性モルタルは、100℃における線熱膨張率が高いという特徴を有しており、この第2の形態の耐火性モルタルは、(1)式及び(2)式を満たすことができる。すなわち、この第2の形態は、(1)式及び(2)式を満たすことのできる耐火性モルタルの具体的な構成例を示すものである。」
3 実施例について
「【実施例】
【0027】
表1に示す耐火性モルタルに適量の水分を添加し混練して得たモルタル混練物について、シール性、圧送性及び鏝塗り性を評価し、これらの評価結果に基づき総合評価を行った。
なお、表1において、「シリカ質原料」とは、珪石原料、溶融シリカ原料等であり、「その他」とは、デキストリン、アラビアゴム、CMC等である。
【0028】
【表1】
[図:0001420334000005.jpg]
【0029】
各評価項目の評価方法及び評価基準は以下のとおりである。
<シール性>
図2に示すように、溶融シリカを55質量%以上含む定形耐火物からなる耐火物ブロックを作製し、目地部にあたる箇所(モルタル鋳込み箇所)にモルタル混練物を鏝により塗布してシール性評価用の試料を得た。そして、この試料中のモルタル混練物の養生終了時の温度(室温)から自由水がなくなるまでの温度(100℃)の収縮量を、図3に示す要領で画像相関法により評価した。すなわち、この収縮量は「養生終了時の収縮量」に相当する。その後、自由水がなくなった状態から室温に戻し、室温から昇温して100℃における線熱膨張量をJISR2207-1 に準拠して評価した。
シール性の評価は、線熱膨張量が収縮量以上である場合を〇(良好)、収縮量よりも線熱膨張量が下回る場合を×(不良)とした。
なお、このシール性の評価において、線熱膨張量が収縮量以上である場合は、上述のとおり必然的に(1)式を満たすことになる。一方、収縮量よりも線熱膨張量が下回る場合は、このシール性の評価に用いた耐火物ブロックは溶融シリカを55質量%以上含む定形耐火物からなり100℃における線熱膨張率は実質的に0である(殆ど熱膨張しない)から、(1)式を満たさないことになる。」
「【0033】
表1中、実施例1~6は本発明の範囲内にある耐火性モルタルである。これらの総合評価は◎ (優良)又は〇(良好)であり、シール性、圧送性、鏝塗り性のいずれも良好な評価が得られた。なかでも実施例5、6は、各耐火原料の含有量が上述の好ましい範囲内にある耐火性モルタルである。その総合評価は◎(優良)であり、実施例1~4に比べてより良好な評価が得られた。
【0034】
比較例1は、粒径0.1mm以上0.5mm未満の珪石原料の含有量が少ない例であり、珪石原料による熱膨張が不足したためシール性の評価が×(不良)となった。
比較例2は、粒径0.1mm以上0.5mm未満の珪石原料の含有量が多い例であり、ダイラタント特性の傾向が強くなったため圧送性及び鏝塗り性の評価が×(不良)となった。なお、比較例2では、そのモルタル混練物を鏝ですくえなかったので、シール性の評価を行うことができなかった。後述する比較例3~5においても同様である。
【0035】
比較例3は、粒径0.045mm以上0.1mm未満の珪石原料の含有量が少ない例であり、ダイラタント特性の傾向が強くなったため圧送性及び鏝塗り性の評価が×(不良)となった。
比較例4は、粒径0.045mm以上0.1mm未満の珪石原料の含有量が多い例であり、この比較例4においてもダイラタント特性の傾向が強くなったため圧送性及び鏝塗り性の評価が×(不良)となった。
【0036】
比較例5は、粒径0.045mm未満のシリカ質原料の含有量が少ない例であり、ダイラタント特性の傾向が強くなったため圧送性及び鏝塗り性の評価が×(不良)となった。
比較例6は、粒径0.045mm未満のシリカ質原料の含有量が多い例であり、珪石原料による熱膨張が不足したためシール性の評価が×(不良)となった。」
第6 当審の判断
1 取消理由(明確性)について
(1)「養生終了時」について
ア 水分の観点
本件明細書には、養生中及び養生終了時の水分について、上記本件明細書の【0011】に「図1(b)は、耐火性モルタルの養生終了時(室温)の状態を模式的に示している。耐火性モルタルは流動性を付与する必要があるため、所定の水分を添加して混練しており、この耐火性モルタル中の水分は、養生中に定形耐火物1,2の開気孔に吸収されるため、耐火性モルタルは収縮する。加えて、養生中に耐火性モルタルの粉末部が凝集する。これらの作用によって、耐火性モルタルは収縮し、養生終了時の耐火性モルタルの厚みはMiとなり、目地に間隙Aが生じる。」と記載され、そして、本件発明の実施例の記載である【0028】に、
「<シール性>
図2に示すように、溶融シリカを55質量%以上含む定形耐火物からなる耐火物ブロックを作製し、目地部にあたる箇所(モルタル鋳込み箇所)にモルタル混練物を鏝により塗布してシール性評価用の試料を得た。そして、この試料中のモルタル混練物の養生終了時の温度(室温)から自由水がなくなるまでの温度(100℃)の収縮量を、図3に示す要領で画像相関法により評価した。すなわち、この収縮量は「養生終了時の収縮量」に相当する。その後、自由水がなくなった状態から室温に戻し、室温から昇温して100℃における線熱膨張量をJISR2207-1 に準拠して評価した。
シール性の評価は、線熱膨張量が収縮量以上である場合を〇(良好)、収縮量よりも線熱膨張量が下回る場合を×(不良)とした。
なお、このシール性の評価において、線熱膨張量が収縮量以上である場合は、上述のとおり必然的に(1)式を満たすことになる。一方、収縮量よりも線熱膨張量が下回る場合は、このシール性の評価に用いた耐火物ブロックは溶融シリカを55質量%以上含む定形耐火物からなり100℃における線熱膨張率は実質的に0である(殆ど熱膨張しない)から、(1)式を満たさないことになる。」と記載されている。
まず、ここで、「水分」と「自由水」との記載があるが、一般に、モルタルはセメントフリーであり、硬化に寄与する水和鉱物の生成がないことを考慮すると、前者の「水分」は「自由水」のことであるから、以下の検討では「水分」と記載することとする。
上記記載を踏まえると、本件発明の(1)式のパラメータである「Mi」は養生終了時のモルタルの厚みであり、これは、モルタル中の水分が養生中に定形耐火物の開気孔に吸収され、モルタルから水分が抜けることでモルタルが収縮し、養生終了時のモルタルの厚み「Mi」となるものである。そうすると、「養生終了時」を水分が抜けきっていない状態であるとすると、モルタルの収縮が途中段階にあることとなり、上記「シール性の評価」が正しく行われないことになり、収縮が途中段階にある「Mi」を代入した(1)式において、その技術的意義も失うことになる。
してみれば、「養生終了時」とは「モルタルから水分が抜けきった時点」であると解するのが相当である。
なお、本件明細書には、「モルタル混練物の養生終了時の温度(室温)から自由水がなくなるまでの温度(100℃)の収縮量を、図3に示す要領で画像相関法により評価した。すなわち、この収縮量は「養生終了時の収縮量」に相当する。」との記載もあるが、本件明細書全体からは「養生終了時」とは「モルタルから水分が抜けきった時点」であると解するのが相当であることから、上記記載は「モルタル混練物の温度(室温)から自由水がなくなるまでの温度(100℃)の収縮量」との技術的内容を示していると解するのが正解といえる。
イ 収縮量の観点について
本件明細書では、実験における時間短縮のため、室温から水分がなくなるまでの温度(100℃)で加熱しているが、上記第3の1(1)イで摘記した図2では「放置」しており、加熱していない。そうすると、図2において、徐々に収縮している状態はまだ水分が抜けきっておらず、収縮量が一定になる「モルタルから水分が抜けきった時点」が「養生終了時」といえる。
ウ 硬化の観点について
本件明細書全体から「養生終了時」は「モルタルから水分が抜けきった時点」であると解するのが相当であり、本件明細書に記載されていないモルタルの「硬化」によって「養生終了時」を定義づけることはできない。
エ 小括
したがって、本件発明における「養生終了時」とは「モルタルから水分が抜けきった時点」として一義的に定義することができ、明確である。
(2)「養生終了時の収縮量」について
「養生終了時」は「モルタルから水分が抜けきった時点」であるから、「養生終了時の収縮量」とは、モルタルから水分が抜けきった時点での収縮量(例えば、室温で収縮した量とその後加熱して水分がなくなるまでの収縮した量の合計量)であると一義的に定義することができ、明確である。
(3)特許権者の主張について
ア 特許権者は、令和6年12月26日に提出の意見書で、次の内容を含む主張をしている。
・「「養生終了時」とは、取消理由通知書でも指摘されているように、「モルタルから水分が抜けきった時点」のことをいいます。」
・「本件特許において養生時間自体を特定する必要はありません。すなわち、本件特許において養生時間は、「養生終了時」の状態(モルタルから水分が抜けきった状態(モルタルから実質的に全ての水分が抜けた状態))となることを条件に任意の時間とすればよいものです。このことは、実際のコークス炉における養生時間に1週間程度から1ヶ月程度と幅があることとも符合します。」
・「本件明細書の【実施例】では、「モルタルから水分が抜けきった時点」である「養生終了時」を実験室にて短時間で実現するために、養生終了時の温度(室温)から自由水がなくなるまでの温度(100℃)まで加熱して、モルタルの収縮量を評価することとしたのです。」
イ 上記(1)及び(2)で述べた当審の判断は、上記意見書における特許権者の主張と整合するものであることからして、上記(1)及び(2)で述べた当審の判断は、妥当なものといえる。
(4)まとめ
以上、本件発明1~3及び5~8は明確であることから、取消理由によって、本件発明1~3及び5~8に係る特許を取り消すことはできない。
2 申立理由1(進歩性)について
(1)甲1を主とした場合
ア 本件発明1について
(ア)対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。
a 甲1発明の「珪石れんが」は、本件発明1の「定形耐火物」に相当するから、甲1発明の「珪石れんがを用いてコークス炉の炉壁を構築する際に珪石れんが同士の接合に使用するコークス炉目地用のけい石モルタルである耐火性モルタル」は、本件発明1の「定形耐火物を用いてコークス炉の炉壁を構築する際に定形耐火物同士の接合に使用するコークス炉目地用の耐火性モルタル」に相当する。
b 甲1発明の「珪石れんが同士の接合に使用する」「目地用のけい石モルタルである耐火性モルタル」「は、乾燥脱水による収縮が生じるもの」であるということは、珪石れんがの間の目地に施工されたモルタルが、乾燥脱水により収縮するということであるから、水分が抜けきった時点(養生終了時)においても収縮しているということ、すなわち、目地厚みをLjとすると、モルタルの養生終了時の厚みMiは、Mi<Ljとなるといえる。
してみれば、甲1発明の「珪石れんが同士の接合に使用する」「目地用のけい石モルタルである耐火性モルタル」「は、乾燥脱水による収縮が生じる」ことは、本件発明1の「前記耐火性モルタルは、前記定形耐火物の間の目地厚みLjに施工され、養生終了時の厚みをMiとしたときにMi<Ljであ」ることに相当する。
c そうすると、本件発明1と甲1発明とは、以下の点で一致し、以下の点で相違する。
(一致点)
「定形耐火物を用いてコークス炉の炉壁を構築する際に定形耐火物同士の接合に使用するコークス炉目地用の耐火性モルタルであって、
前記耐火性モルタルは、前記定形耐火物の間の目地厚みLjに施工され、養生終了時の厚みをMiとしたときにMi<Ljである、耐火性モルタル。」
(相違点1)
耐火性モルタルが、本件発明1では、
「100℃における前記耐火性モルタルの厚みMTが(1)式を満たす耐火性モルタル。
MT=Mi(1+0.01αMT)≧Lj-0.005(αB1×LB1+αB2×LB2)・・・(1)
ここでMiは養生終了時の耐火性モルタルの厚み、αMTは100℃における耐火性モルタルの線熱膨張率、そして隣接する定形耐火物をそれぞれ定形耐火物1と定形耐火物2とし、Ljは室温における定形耐火物1と定形耐火物2との間の目地厚み、αB1は定形耐火物1の100℃における線熱膨張率、LB1は定形耐火物1の室温長さ、αB2は定形耐火物2の100℃における線熱膨張率、LB2は定形耐火物2の室温長さである。」のに対し、
甲1発明では、そのような耐火性モルタルであるかどうか不明である点。
(イ)相違点1の判断
a 本件発明1の耐火性モルタルは、上記本件明細書の【0005】及び【0006】に記載されているとおり、例えばコークス炉の炉中下部に位置するソールフリュー等、稼働中の温度が約50℃ から250℃ 程度の低温部位では、十分なガスシール性が得られないとの技術背景をもとに、【0010】に記載されているとおり、耐火性モルタルは(1)式を満たすことで、稼働中の温度が100℃程度の低温部位においても十分なシール性を確保することができるという技術的意義を有するものである。
一方、甲1発明のモルタルは、(甲1ア)に「耐火モルタルの乾燥収縮の測定を,JIS法とは別の観点(粘土の乾燥収縮の理論)から検討し,コークス炉用けい石モルタルの一測定例を報告する。」と記載されているように、モルタルの乾燥収縮の測定について粘土の乾燥収縮の理論から検討したものであり、モルタルの低温稼働におけるシール性について何ら着目するものではないから、「100℃における耐火性モルタルの厚み」(MT)、「100℃における耐火性モルタルの線熱膨張率」(αMT)、「定形耐火物の100℃における線熱膨張率」(αB1、αB2)等のパラメータが考慮されることはなく、上記相違点1に係る「100℃における前記耐火性モルタルの厚みMTが(1)式を満たすこと」の(1)式は導出されるものではない。
b また、上記甲2には、(甲2ア)に「赤れんがの周辺に使用される不定形耐火物においても、使用する部位によっては耐熱温度を400℃まで高めておくことが望ましくなってきた。」と記載されているように、定型耐火物の周辺に使用される不定形耐火物の耐熱温度を400℃まで高めようとするものであるから、(甲2イ)及び(甲2ウ)に記載されているパラメータである「残存収縮率」、「かさ比重」、「圧縮強度」などの値は、すべて「400℃加熱後」のものである。
さらに、(甲2イ)の【0034】に「常温で施工・硬化後を基準として稼働時に温度が上昇すると、例えば400℃では0.4%ほど熱膨張する。しかし、加熱収縮が0.5%を超えると、収縮率の方が大きく上廻るようになり、収縮割れが生じるようになる。そのため、不定形耐火物のJIS R2521に準じた型枠を用いて成形した試片の400℃で3時間加熱後の残存収縮率は0.5%以下が好ましい。尚、残存収縮率は、脱枠直後の試片の寸法から400℃で3時間加熱し、室温まで戻した後に何%収縮したかを表している。」との記載もあるものの、当該記載は、稼働温度である400℃に加熱した後の残存収縮率が小さい方が割れが生じずらいことが示されているにすぎず、本件発明1のように、モルタルの低温稼働におけるシール性について述べたものではない。
そうすると、甲2は、モルタルの低温稼働におけるシール性について何ら着目するものではないから、「100℃における耐火性モルタルの厚み」(MT)、「100℃における耐火性モルタルの線熱膨張率」(αMT)、「定形耐火物の100℃における線熱膨張率」(αB1、αB2)等のパラメータが考慮されることはなく、上記相違点1に係る「100℃における前記耐火性モルタルの厚みMTが(1)式を満たすこと」の(1)式は導出されるものではない。
したがって、甲2は、上記相違点1の技術的事項を何ら示したものではないことから、甲1発明に甲2に記載された事項を組み合わせても、本件発明1にはならない。
c また、その他の甲3~6についても、モルタルの低温稼働におけるシール性について何ら着目するものではないから、「100℃における耐火性モルタルの厚み」(MT)、「100℃における耐火性モルタルの線熱膨張率」(αMT)、「定形耐火物の100℃における線熱膨張率」(αB1、αB2)等のパラメータが考慮されることはなく、上記相違点1に係る「100℃における前記耐火性モルタルの厚みMTが(1)式を満たすこと」の(1)式は導出されるものではない。
d 小括
したがって、相違点1は、甲1~6の記載事項から当業者が容易になし得たこととはいえない。
(ウ)まとめ
よって、本件発明1は、甲1発明及び甲2の記載事項に基づいて、さらには甲3~6の記載事項を参照しても、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
イ 本件発明4について
(ア)対比
本件発明4と甲1発明とを対比する。
a 上記ア(ア)aによれば、甲1発明の「珪石れんがを用いてコークス炉の炉壁を構築する際に珪石れんが同士の接合に使用するコークス炉目地用のけい石モルタルである耐火性モルタル」は、本件発明4の「定形耐火物を用いて炉壁を構築する際に定形耐火物同士の接合に使用する耐火性モルタル」に相当する。
b 甲1発明の「けい石焼粉が78%、軟けい石が20%、粘土が2%、バインダー(有機)が 1%の配合を有するもので、最大粒径が1mm、74μ以下が50%の粒度を有する」「モルタル」と、本件発明4の「粒径0.1mm以上0.5mm未満の珪石原料を5質量%以上50質量%以下、粒径0.045mm以上0.1mm未満の珪石原料を20質量%以上60質量%以下、粒径0.045mm未満のシリカ質原料を5質量以上35質量%以下含む」「モルタル」とは、前者の「%」が仮に「質量%」であるとしても、両者は、「珪石原料を含む」限りにおいて共通する。
c そうすると、本件発明4と甲1発明とは、以下の点で一致し、以下の点で相違する。
(一致点)
「定形耐火物を用いて炉壁を構築する際に定形耐火物同士の接合に使用する耐火性モルタルであって、
珪石原料を含む、耐火性モルタル。」
(相違点2)
珪石原料を含む、耐火性モルタルについて、本件発明4では、「粒径0.1mm以上0.5mm未満の珪石原料を5質量%以上50質量%以下、粒径0.045mm以上0.1mm未満の珪石原料を20質量%以上60質量%以下、粒径0.045mm未満のシリカ質原料を5質量以上35質量%以下含む」ものであるのに対し、甲1発明では「けい石焼粉が78%、軟けい石が20%、粘土が2%、バインダー(有機)が 1%の配合を有するもので、最大粒径が1mm、74μ以下が50%の粒度を有する」ものである点。
(イ)相違点2の判断
a 本件発明4の成分及び粒度構成を有する耐火性モルタルについて、上記本件明細書の【0019】に「粒径0.1mm以上0.5mm未満の珪石原料を5質量%以上50質量%以下、粒径0.045mm以上0.1mm未満の珪石原料を20質量%以上60質量%以下、粒径0.045mm未満のシリカ質原料を5質量以上35質量%以下含むことを特徴とする耐火性モルタルである。詳細は後述するが、この第2の形態の耐火性モルタルは、100℃における線熱膨張率が高いという特徴を有しており、この第2の形態の耐火性モルタルは、(1)式及び(2)式を満たすことができる。すなわち、この第2の形態は、(1)式及び(2)式を満たすことのできる耐火性モルタルの具体的な構成例を示すものである。」と記載され、そして、(1)式について【0011】に「(1)式を満たすことで、稼働中の温度が100℃ 程度の低温部位においても十分なシール性を確保することができる。」と記載されているから、「粒径0.1mm以上0.5mm未満の珪石原料を5質量%以上50質量%以下、粒径0.045mm以上0.1mm未満の珪石原料を20質量%以上60質量%以下、粒径0.045mm未満のシリカ質原料を5質量以上35質量%以下含むことを特徴とする耐火性モルタル」は、稼働中の温度が100℃ 程度の低温部位においても十分なシール性を確保することができるものである。
それに対し、甲1のモルタルは、上記ア(イ)aで述べたとおり、モルタルの乾燥収縮の測定について粘土の乾燥収縮の理論から検討するために使用したモルタルであり、当該モルタルを、稼働中の温度が100℃ 程度の低温部位においても十分なシール性を確保することができるものとすべく「粒径0.1mm以上0.5mm未満の珪石原料を5質量%以上50質量%以下、粒径0.045mm以上0.1mm未満の珪石原料を20質量%以上60質量%以下、粒径0.045mm未満のシリカ質原料を5質量以上35質量%以下含む」ものにする動機はない。
b また、上記甲3に記載されている成分及び粒度構成は、甲3の(イ)によれば、「1000μmの標準網ふるいを全通し、74μmの標準網ふるいを25%以上通過するけい石」の耐火モルタルであり、上記相違点2に係る粒度構成を示すものではない。
さらに、上記甲4には、(甲4イ)で摘記したの表-7.19の本邦市販珪石モルタル「11」の「0.076mm未満」、「0.076-0.10mm」、「0.10-0.15mm」、「0.15-0.21mm」、「0.21-0.30mm」、「0.30-0.42mm」及び「0.42-0.59mm」の篩分析に着目すると、「0.076mm未満」(12.6%)、「0.076-0.10mm」(20.0%)、「0.10-0.15mm(16.7%)、0.15-0.21mm(6.7%)、0.21-0.30mm(9.0%)、0.30-0.42mm(10.0%)、0.42-0.59mm(5.0%)」を含む「本邦市販珪石モルタル」が記載されており、これを本件発明4の粒径範囲に近似させて整理すると、「0.10-0.42mm」42.4%又は「0.10-0.59mm」47.4%、「0.076-0.10mm」20.0%、「0. 076mm未満」12.6%となり、本件発明4の「粒径0.1mm以上0.5mm未満の珪石原料を5質量%以上50質量%以下、粒径0.045mm以上0.1mm未満の珪石原料を20質量%以上60質量%以下」を満たすといえても、「粒径0.045mm未満のシリカ質原料を5質量以上35質量%以下」については、満たすとはいえない。
そうすると、甲4の上記「本邦市販珪石モルタル」が、上記相違点2に係る耐火性モルタルと同じものとはいえない。仮に甲4の上記「本邦市販珪石モルタル」が、上記相違点2に係る耐火性モルタルと同じものとしても、甲1のモルタルの乾燥収縮の測定について粘土の乾燥収縮の理論から検討するために使用するモルタルを、甲4の上記「本邦市販珪石モルタル」に変更する動機はない。
c また、その他の甲2、5及び6についても、上記相違点2に係る成分及び粒度構成を有する耐火性モルタルを示すものはない
d 小括
したがって、相違点2は、甲1~6の記載事項から当業者が容易になし得たこととはいえない。
(ウ)まとめ
よって、本件発明4は、甲1発明並びに甲3及び4の記載事項に基づいて、さらには甲2、5及び6の記載事項を参照しても、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
ウ 本件発明8について
(ア)本件発明8は、本件発明1の耐火性モルタルの発明から「前記耐火性モルタルは、前記定形耐火物の間の目地厚みLjに施工され、養生終了時の厚みをMiとしたときにMi<Ljであり」を削除し、本件発明1の耐火性モルタルの「選定方法」とした発明である。
一方、甲1において、甲1発明の「耐火性モルタル」は、(甲1イ)によれば実験における「使用モルタル」であるから、甲1発明の「耐火性モルタル」を「耐火性モルタルの使用方法」とカテゴリーを変更し、それを甲1発明’とする。
(イ)相違点
そうすると、本件発明8と甲1発明’とは、以下の点で相違することとなる。
(相違点3)
本件発明8では、「100℃における前記耐火性モルタルの厚みMTが(1)式を満たす耐火性モルタルを選定する耐火性モルタルの選定方法。
MT=Mi(1+0.01αMT)≧Lj-0.005(αB1×LB1+αB2×LB2)・・・(1)
ここでMiは養生終了時の耐火性モルタルの厚み、αMTは100℃における耐火性モルタルの線熱膨張率、そして隣接する定形耐火物をそれぞれ定形耐火物1と定形耐火物2とし、Ljは室温における定形耐火物1と定形耐火物2との間の目地厚み、αB1は定形耐火物1の100℃における線熱膨張率、LB1は定形耐火物1の室温長さ、αB2は定形耐火物2の100℃における線熱膨張率、LB2は定形耐火物2の室温長さである。」のに対し、甲1発明’では、そのような選定方法ではない点。
(ウ)相違点3の判断
相違点3は、相違点1の事項を含むものであり、その相違点1が甲1~6の記載事項から当業者が容易になし得たものではないから、相違点3についても、甲1~6の記載事項から当業者が容易になし得たものではない
(エ)まとめ
よって、本件発明8は、甲1発明’並びに甲2及び3の記載事項に基づいて、さらには甲4~6の記載事項を参照しても、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
エ 本件発明2、3、5~7について
本件発明2、3及び5~7は、本件発明1又は本件発明4を、直接的又は間接的に引用する発明であり、本件発明1及び4が、上記ア(ウ)及びイ(ウ)で述べたとおり、甲1発明及び甲2~6の記載事項に基づいて当業者が容易に発明することができたものではない以上、本件発明2、3及び5~7についても、甲1発明及び甲2~6の記載事項に基づいて当業者が容易に発明することができたものではない。
(2)甲3を主とした場合
上記第3の2(1)で記載したように、申立人は、甲3を主とした場合には、本件発明4のみの進歩性欠如を主張していることから、本件発明4のみを検討する。
ア 対比
本件発明4と甲3発明とを対比する。
(ア)甲3発明の「煉瓦」は本件発明4の「定形耐火物」に相当するから、甲3発明の「煉瓦を積み合わせて窯炉を築造する場合に接合材として使用される耐火モルタル」は、本件発明4の「定形耐火物を用いて炉壁を構築する際に定形耐火物同士の接合に使用する耐火性モルタル」に相当する。
(イ)甲3発明の「1000μmの標準網ふるいを全通し、74μmの標準網ふるいを25%以上通過するけい石耐火モルタル」と、本件発明4の「粒径0.1mm以上0.5mm未満の珪石原料を5質量%以上50質量%以下、粒径0.045mm以上0.1mm未満の珪石原料を20質量%以上60質量%以下、粒径0.045mm未満のシリカ質原料を5質量以上35質量%以下含む」「モルタル」とは、「珪石原料を含む」限りにおいて共通する。
(ウ)そうすると、本件発明4と甲3発明とは、以下の点で一致し、以下の点で相違する。
(一致点)
「定形耐火物を用いて炉壁を構築する際に定形耐火物同士の接合に使用する耐火性モルタルであって、
珪石原料を含む、耐火性モルタル。」
(相違点4)
珪石原料を含む、耐火性モルタルについて、本件発明4では、「粒径0.1mm以上0.5mm未満の珪石原料を5質量%以上50質量%以下、粒径0.045mm以上0.1mm未満の珪石原料を20質量%以上60質量%以下、粒径0.045mm未満のシリカ質原料を5質量以上35質量%以下含む」ものであるのに対し、甲3発明では「1000μmの標準網ふるいを全通し、74μmの標準網ふるいを25%以上通過するけい石耐火モルタル」である点。
イ 相違点4の判断
本件発明4の成分及び粒度構成を有する耐火性モルタルについて、上記(1)イ(イ)aで述べたように、上記本件明細書の【0019】に「粒径0.1mm以上0.5mm未満の珪石原料を5質量%以上50質量%以下、粒径0.045mm以上0.1mm未満の珪石原料を20質量%以上60質量%以下、粒径0.045mm未満のシリカ質原料を5質量以上35質量%以下含むことを特徴とする耐火性モルタルである。詳細は後述するが、この第2の形態の耐火性モルタルは、100℃における線熱膨張率が高いという特徴を有しており、この第2の形態の耐火性モルタルは、(1)式及び(2)式を満たすことができる。すなわち、この第2の形態は、(1)式及び(2)式を満たすことのできる耐火性モルタルの具体的な構成例を示すものである。」と記載され、そして、(1)式について【0011】に「(1)式を満たすことで、稼働中の温度が100℃ 程度の低温部位においても十分なシール性を確保することができる。」と記載されているから、「粒径0.1mm以上0.5mm未満の珪石原料を5質量%以上50質量%以下、粒径0.045mm以上0.1mm未満の珪石原料を20質量%以上60質量%以下、粒径0.045mm未満のシリカ質原料を5質量以上35質量%以下含むことを特徴とする耐火性モルタル」は、稼働中の温度が100℃ 程度の低温部位においても十分なシール性を確保することができるものである。
それに対し、甲3のモルタルは、(甲3イ)の表II.3.10-1にモルタルの種類に応じて「1種」~「4種」、「MOS1」~「MOS4」など記号が記載され、規格化されたモルタルであるといえることから、規格化されたモルタルを「粒径0.1mm以上0.5mm未満の珪石原料を5質量%以上50質量%以下、粒径0.045mm以上0.1mm未満の珪石原料を20質量%以上60質量%以下、粒径0.045mm未満のシリカ質原料を5質量以上35質量%以下含む」ものにする動機はない。
また、その他の甲1、2、4~6についても、上記相違点4に係る成分及び粒度構成を有する耐火性モルタルを示すものはない
よって、相違点4は、甲1~6の記載事項から当業者が容易になし得たこととはいえない。
ウ まとめ
よって、本件発明4は、甲3発明に基づいて、さらには甲1、2、4~6の記載事項を参照しても、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(3)申立理由1(進歩性)についてのまとめ
以上のことから、本件発明1~8に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではないことから、申立理由1によって、本件発明1~8に係る特許を取り消すことはできない。
3 申立理由2(実施可能要件)について
(1)実施可能要件の判断規範
物の発明における発明の実施とは、その物の生産、使用等をする行為をいうから(特許法第2条第3項第1号)、物の発明について、発明の詳細な説明の記載が実施可能要件に適合するか否かは、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願当時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その物を製造し、使用することができる程度に、発明の詳細な説明が明確かつ十分に記載されているか否かを検討して判断すべきである。
また、方法の発明における発明の実施とは、その方法の使用をする行為をいうから(特許法第2条第3項第2号)、方法の発明について、発明の詳細な説明の記載が実施可能要件に適合するか否かは、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願当時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その方法を使用することができる程度に、発明の詳細な説明が明確かつ十分に記載されているか否かを検討して判断すべきである。
(2)実施可能要件に対する判断
ア 本件発明1(引用する本件発明2、3、5、6)について
本件発明1並びにそれを引用する本件発明2、3、5及び6の耐火性モルタルは、「100℃における前記耐火性モルタルの厚みMTが(1)式を満たすことを特徴とする耐火性モルタル。
MT=Mi(1+0.01αMT)≧Lj-0.005(αB1×LB1+αB2×LB2)・・・(1)
ここでMiは養生終了時の耐火性モルタルの厚み、αMTは100℃における耐火性モルタルの線熱膨張率、そして隣接する定形耐火物をそれぞれ定形耐火物1と定形耐火物2とし、Ljは室温における定形耐火物1と定形耐火物2との間の目地厚み、αB1は定形耐火物1の100℃における線熱膨張率、LB1は定形耐火物1の室温長さ、αB2は定形耐火物2の100℃における線熱膨張率、LB2は定形耐火物2の室温長さである。」との特定事項を含むものであるが、上記本件明細書の【0019】に「本発明の第2の形態は、粒径0.1mm以上0.5mm未満の珪石原料を5質量%以上50質量%以下、粒径0.045mm以上0.1mm未満の珪石原料を20質量%以上60質量%以下、粒径0.045mm未満のシリカ質原料を5質量以上35質量%以下含むことを特徴とする耐火性モルタルである。詳細は後述するが、この第2の形態の耐火性モルタルは、100℃における線熱膨張率が高いという特徴を有しており、この第2の形態の耐火性モルタルは、(1)式及び(2)式を満たすことができる。すなわち、この第2の形態は、(1)式及び(2)式を満たすことのできる耐火性モルタルの具体的な構成例を示すものである。」と記載され、上記耐火性モルタルは、実施例として上記本件明細書の【0027】及び【0028】に具体的にその耐火性モルタルを製造し、使用することができる程度に記載されているといえる。
そうすると、上記(1)の判断規範に鑑み、発明の詳細な説明には、当業者が本件発明1並びにそれを引用する本件発明2、3、5及び6の耐火性モルタルを実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものといえる。
イ 本件発明4(引用する本件発明5、6)について
本件発明4並びにそれを引用する本件発明5及び6の耐火性モルタルは、「粒径0.1mm以上0.5mm未満の珪石原料を5質量%以上50質量%以下、粒径0.045mm以上0.1mm未満の珪石原料を20質量%以上60質量%以下、粒径0.045mm未満のシリカ質原料を5質量以上35質量%以下含むことを特徴とする耐火性モルタル」との特定事項を含むものであり、当該粒度構成を満たす耐火性モルタルは、実施例として上記本件明細書の【0027】及び【0028】に具体的にその耐火性モルタルを製造し、使用することができる程度に記載されているといえる。
そうすると、発明の詳細な説明には、当業者が本件発明4並びにそれを引用する本件発明5及び6の耐火性モルタルを実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものである。
ウ 本件発明7、8について
本件発明7は「請求項1から6のいずれか一項に記載の耐火性モルタルを定形耐火物の接合に使うことを特徴とするコークス炉の築炉方法」であり、本件発明8は、本件発明1の耐火性モルタルの発明から「前記耐火性モルタルは、前記定形耐火物の間の目地厚みLjに施工され、養生終了時の厚みをMiとしたときにMi<Ljであり」を削除し、本件発明1の耐火性モルタルの「選定方法」とした発明であるところ、コークス炉の築炉の仕方は、出願当時、当業者の技術常識の範囲であり、また、なにがしかの耐火性モルタルを「選定」するという方法自体も当業者の技術常識の範囲である。そうすると、本件発明7及び8の方法は、使用することができるものである。
よって、上記(1)の判断規範に鑑み、発明の詳細な説明には、当業者が本件発明7及び8の方法を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものである。
(3)申立人の主張について
ア 「養生終了時」及び「養生終了時の収縮量」の定義は、上記1(1)及び(2)で判断したように明確であるから、この用語により本件発明が実施できないということにはならない。
また、申立人は、本件発明1及び8に記載されている「(1)式」ではなく、特許請求の範囲には記載されていない「(2)式」(上記第5で摘記した【0013】参照)に基づいて主張しているところ、当審では、本件発明1及び8に記載されている「(1)式」に基づいて申立人の主張について判断する。
申立人は「熱膨張率αMT、目地厚みLj、及び養生終了時の厚みMiの組合せを導き出したとしても、この組合せを実現する耐火性モルタルを製造することができない」と主張しているが、上記(2)アで述べたとおり、(1)式を満たすことのできる耐火性モルタルの具体的な構成例を示すものは、実施例として上記本件明細書の【0027】及び【0028】に具体的に記載されており、製造することができるものである。
イ 「養生終了時の収縮量」の定義は、上記1(2)で判断したように明確であり、上記本件明細書の【0029】に「収縮量を、図3に示す要領で画像相関法により評価した」と記載されているように、画像相関法により測定、評価されるものである。
また、「養生終了時の耐火性モルタルの厚み(Mi)」については、本件明細書の【0017】で「Mi:養生終了時の耐火性モルタルの厚み=9.99mm」と実際に求めており、9.99mm程度の長さを測れる機器は慣用なものであるから、最初の目地厚みが既知であれば、それから上記画像相関法により求めた収縮量を引けば、「養生終了時の耐火性モルタルの厚み(Mi)」となる。そして、測定値として平均値を採用するかどうかは、当業者において適宜なし得ることである。
ウ 上記(2)アで述べたとおり、実施例の耐火性モルタルは、式(1)を満たすことから、実施例の原料及び粒度分布で本件発明1、2及び5~8を実施することができるといえる。そうすると、粒度分布に係る事項は発明特定事項とされていないからといって、本件発明1、2及び5~8が実施可能に記載された発明ではないとはいえない。そして、式(1)を満たす耐火性モルタルが実施例に記載されているのであるから、申立人が主張する(1)式が要求する「100℃における線熱膨張率が高いという特徴」を満たす耐火性モルタルの組成に辿り着くまでに過度な試行錯誤、複雑高度な実験等を要する、ということはない。
エ 小括
したがって、申立人の主張によって、上記(2)で述べた実施可能要件に対する当審の判断が覆ることはない。
(4)まとめ
したがって、本件発明1~3及び5~8に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定にする要件を満たしていない特許出願に対してされたものではないから、申立理由2によって、本件発明1~3及び5~8に係る特許を取り消すことはできない。
4 申立理由3(サポート要件)について
(1)サポート要件の判断規範
特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が本件特許の出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
(2)サポート要件に対する判断
ア 課題について
上記第5の1で摘記した本件明細書の記載によれば、定形耐火物を用いて炉壁を構築する際に定形耐火物同士の接合に使用する耐火性モルタルにおいて、稼働中の温度が約50℃から250℃程度という低温部位では、十分なシール性が得られないことから、このような低温部位を含む使用部位のシール性を確保することができる耐火性モルタルを提供することにあるといえる。
イ 本件発明1並びにそれを引用する本件発明2、3、5~7、さらには本件発明8については、「100℃における前記耐火性モルタルの厚みMTが(1)式を満たすことを特徴とする耐火性モルタル。MT=Mi(1+0.01αMT)≧Lj-0.005(αB1×LB1+αB2×LB2)・・・(1)ここでMiは養生終了時の耐火性モルタルの厚み、αMTは100℃における耐火性モルタルの線熱膨張率、そして隣接する定形耐火物をそれぞれ定形耐火物1と定形耐火物2とし、Ljは室温における定形耐火物1と定形耐火物2との間の目地厚み、αB1は定形耐火物1の100℃における線熱膨張率、LB1は定形耐火物1の室温長さ、αB2は定形耐火物2の100℃における線熱膨張率、LB2は定形耐火物2の室温長さである。」が特定されていることから、上記第5の2で摘記した本件明細書の【0010】~【0012】によれば、100℃におけるシール性が保たれる、すなわち、低温部位を含む使用部位のシール性を確保することができるといえることから、本件発明の課題が解決できることを当業者が認識できるものである。
したがって、上記(1)の判断規範に鑑み、本件発明1~3及び5~8は、本件発明の課題が解決できることを当業者が認識できるものであり、発明の詳細な説明に記載したものである。
(3)申立人の主張について
申立人は「(2)式は達成されるべき結果(すなわち課題)を単に言い換えたものにすぎず、発明の詳細な説明には、本件発明4で特定される耐火性モルタルを適用した手段による発明が記載されているのみ」であることを主張しているが、上記(2)で述べたとおり、本件発明1~3及び5~8が、本件発明の課題を解決できることを当業者が認識できるものである以上、当該主張によって上記(2)で述べたサポート要件に対する当審の判断が覆ることはない。
(4)まとめ
したがって、本件発明1~3及び5~8に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定にする要件を満たしていない特許出願に対してされたものではないから、申立理由3によって、本件発明1~3及び5~8に係る特許を取り消すことはできない。
第7 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、本件発明1~8に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1~8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2024-700650