特許異議申立
2024-700647
表示体
- 審判番号
- 2024-700647
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2022-212301
- 登録番号
- 7413500
- 請求日
- 2024年07月10日
- 審決日
- 2025年06月05日
- 公報発行日
- 2025年09月26日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】リンテック株式会社
- 【権利者代理人】早川 裕司
- 【権利者代理人】村雨 圭介
- 【異議申立人】清水 誠
- 審判長/審判官
- 審判長 岡田 吉美
- 審判官 柳 重幸
- 審判官 谷垣 圭二
- 分類
- P1651.113-YAA(G09F) / P1651.121-YAA(G09F) / P1651.536-YAA(G09F) / P1651.537-YAA(G09F)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条、特許法第120条の5第2項、特許法第120条の5第9項、特許法第44条
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7413500号発明「表示体」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7413500号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~3〕について訂正することを認める。
特許第7413500号の請求項1~3に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
1 本件特許についての手続きの経緯
(1) 出願の分割の経緯
特許第7413500号(請求項の数3。以下「本件特許」という。)に係る特許についての出願は、特許法44条1項の規定に基づいてされた特許出願であり、平成31年4月3日を出願日とする特願2019-71198号(以下「原出願」という。)を最先の出願とする、いわゆる第2世代の分割出願であって、出願の分割の経緯は、次のとおりである。なお、括弧内は当該出願の提出日を示す。
原出願 :特願2019- 71198号(平成31年 4月 3日)
第1世代分割:特願2021-107852号(令和 3年 6月29日)
(以下「親出願」という。)
第2世代分割:本件特許の出願
特願2022-212301号(令和 4年12月28日)
(2) 本件特許の経緯
本件特許の出願日、特許権の設定登録日及び特許掲載公報の発行日は、次のとおりである。
出願日 平成31年 4月 3日(原出願の出願日)
特許権の設定登録日 令和 6年 1月 4日
特許掲載公報の発行日 同月15日
2 本件特許異議の申立てについての手続きの経緯
令和6年 7月10日 :特許異議の申立て
(特許異議申立人:清水 誠 全請求項1~3に対して)
同年11月20日付け:取消理由通知書
令和7年 1月27日 :訂正請求書及び意見書の提出(特許権者)
同年 3月 6日付け:通知書(訂正請求があった旨の通知)
令和7年3月6日付けの通知書において、特許異議申立人に対して期間を指定して意見書を提出する機会を与えたが、特許異議申立人は応答しなかった。
第2 本件訂正について
1 請求の趣旨
本件訂正に係る請求の趣旨は、本件特許の特許請求の範囲を、本件訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~3について訂正することを求めるものである。
2 本件訂正前の特許請求の範囲の記載
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1~3の記載(登録時における特許請求の範囲の記載)は、次のとおりである。
「【請求項1】
一の表示体構成部材と、
他の表示体構成部材と、
前記一の表示体構成部材および前記他の表示体構成部材を互いに貼合する粘着剤層と
を備えた表示体であって、
前記一の表示体構成部材および前記他の表示体構成部材の少なくとも一方が、前記粘着剤層によって貼合される側の面に凹凸を有しており、
前記粘着剤層が、少なくとも1層の着色粘着剤層を備えており、
前記凹凸による段差がある位置から平面方向10mm以内の部分における光束透過率の、前記凹凸の影響を受けない程度に前記凹凸から平面方向に十分に離れた平坦部における光束透過率に対する比が、0.980以上であり、
前記着色粘着剤層を構成する粘着剤が、着色剤を0.0073質量%以上含有し、
前記粘着剤層の厚さが、前記凹凸の深さ又は高さよりも大きく、
前記粘着剤層が、前記凹凸による段差がある部位および前記平坦部のそれぞれに位置している
ことを特徴とする表示体。
【請求項2】
前記凹凸が、前記表示体の平面視一部に設けられた印刷層による凹凸であることを特徴とする請求項1に記載の表示体。
【請求項3】
前記凹凸が、基板上に設けられた複数の発光体による凹凸であることを特徴とする請求項1または2に記載の表示体。」
3 本件訂正後の特許請求の範囲の記載
本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1~3の記載は、次のとおりである。下線は訂正箇所である。
「【請求項1】
一の表示体構成部材と、
他の表示体構成部材と、
前記一の表示体構成部材および前記他の表示体構成部材を互いに貼合する粘着剤層と
を備えた表示体であって、
前記一の表示体構成部材および前記他の表示体構成部材の少なくとも一方が、前記粘着剤層によって貼合される側の面に凹凸を有しており、
前記粘着剤層が、少なくとも1層の着色粘着剤層と、少なくとも1層の無色粘着剤層とを備えており、
前記凹凸による段差がある位置から平面方向10mm以内の任意の5点において、7mmφの光束の光を透過させたときの光束透過率の平均値の、前記凹凸の影響を受けない程度に前記凹凸から平面方向に十分に離れた平坦部の任意の5点において、7mmφの光束の光を透過させたときの光束透過率の平均値に対する比が、0.980以上であり、
前記着色粘着剤層を構成する粘着剤が、着色剤を0.0073質量%以上含有し、
前記無色粘着剤層を構成する粘着剤が、着色剤を全く含有しない、または、着色剤を0.001質量%以下含有し、
前記粘着剤層における前記被着体の凹凸に接触する面に、前記無色粘着剤層が位置しており、
前記粘着剤層の厚さが、前記凹凸の深さ又は高さよりも大きく、
前記粘着剤層が、前記凹凸による段差がある部位および前記平坦部のそれぞれに位置している
ことを特徴とする表示体。
【請求項2】
前記凹凸が、前記表示体の平面視一部に設けられた印刷層による凹凸であることを特徴とする請求項1に記載の表示体。
【請求項3】
前記凹凸が、基板上に設けられた複数の発光体による凹凸であることを特徴とする請求項1または2に記載の表示体。」
4 本件訂正の内容
本件訂正は、一群の請求項〔1~3〕について訂正するものであって、次の(1)及び(2)にそれぞれ示す訂正事項1(訂正事項1-1及び訂正事項1-2から構成される。)及び訂正事項2からなる。
(1) 訂正事項1
ア 訂正事項1-1
特許請求の範囲の請求項1の記載について、次の(ア)の訂正前の記載を後記(イ)の訂正後の記載に訂正する(請求項1の記載を直接又は間接的に引用する請求項2、3も同様に訂正する。)。
(ア) 訂正前の記載
「前記粘着剤層が、少なくとも1層の着色粘着剤層を備えており」、
(イ) 訂正後の記載
「前記粘着剤層が、少なくとも1層の着色粘着剤層と、少なくとも1層の無色粘着剤層とを備えており」、
イ 訂正事項1-2
特許請求の範囲の請求項1の記載について、次の(ア)に示す記載の後に、改行して、後記(イ)に示す記載を挿入する(請求項1の記載を直接又は間接的に引用する請求項2、3も同様に訂正する。)。
(ア) 訂正事項1-2により挿入される記載の直前の記載
「前記着色粘着剤層を構成する粘着剤が、着色剤を0.0073質量%以上含有し、」
(イ) 訂正事項1-2により挿入される記載
「 前記無色粘着剤層を構成する粘着剤が、着色剤を全く含有しない、または、着色剤を0.001質量%以下含有し、
前記粘着剤層における前記被着体の凹凸に接触する面に、前記無色粘着剤層が位置しており、」
(2) 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1について、次のアの訂正前の記載を後記イの訂正後の記載に訂正する(請求項1の記載を直接又は間接的に引用する請求項2、3も同様に訂正する。)。
ア 訂正前の記載
「前記凹凸による段差がある位置から平面方向10mm以内の部分における光束透過率の、前記凹凸の影響を受けない程度に前記凹凸から平面方向に十分に離れた平坦部における光束透過率に対する比が、0.980以上であり」
イ 訂正後の記載
「前記凹凸による段差がある位置から平面方向10mm以内の任意の5点において、7mmφの光束の光を透過させたときの光束透過率の平均値の、前記凹凸の影響を受けない程度に前記凹凸から平面方向に十分に離れた平坦部の任意の5点において、7mmφの光束の光を透過させたときの光束透過率の平均値に対する比が、0.980以上であり」
5 本件訂正の適否についての当合議体の判断
(1) 訂正の目的
ア 訂正事項1
(ア) 訂正事項1-1
訂正事項1-1による訂正は、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1の「粘着剤層」について少なくとも1層の無色粘着剤層を備えることを限定するものであるから、特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。
(イ) 訂正事項1-2
訂正事項1-2による訂正は、訂正事項1-1による訂正を前提にして、訂正事項1-1による訂正により導入された「無色粘着材層」について、その着色剤の含有率を限定するとともに、「無色粘着剤層」の位置を限定するものであるから、特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。
(ウ) 訂正事項1のまとめ
前記(ア)及び(イ)のとおりであるから、訂正事項1による訂正は、全体として、特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。
イ 訂正事項2
(ア) 訂正事項2による訂正は、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1の「光束透過率」の測定条件について、次のa~cの限定をするものである。
a 測定に用いる光束について、「7mmφの光束」であることを限定すること。
b 「凹凸による段差がある位置から平面方向10mm以内の部分における光束透過率」を、「凹凸による段差がある位置から平面方向10mm以内の任意の5点」における「光束透過率の平均値」に限定すること。
c 「前記凹凸の影響を受けない程度に前記凹凸から平面方向に十分に離れた平坦部における光束透過率」を「前記凹凸の影響を受けない程度に前記凹凸から平面方向に十分に離れた平坦部の任意の5点」における「光束透過率の平均値」に限定すること。
(イ) したがって、訂正事項2による訂正は、特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。
(2) 新規事項の追加、特許請求の範囲の実質的拡張・変更
訂正事項1、2による訂正は、いずれも特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」だけを目的とするものに該当するから、これらの訂正における新規事項の追加の有無を判断する際の基準となる明細書等は、特許権の設定の登録がされた時点における願書に添付した明細書、特許請求の範囲及び図面(以下「本件特許明細書等」という。)である。
ア 訂正事項1について、以下に示す明細書の段落【0020】及び【0026】の記載を踏まえると、「粘着剤層」が、「少なくとも1層の着色粘着剤層と、少なくとも1層の無色粘着剤層とを備え」、「無色粘着剤層を構成する粘着剤が、着色剤を全く含有しない、または、着色剤を0.001質量%以下含有」し、「粘着剤層」における「被着体の凹凸に接触する面」が「無色粘着剤層」であるとする訂正は、本件特許明細書等の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものでないから、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものであると認められる。
「【0020】
以下、本発明の実施形態について説明する。
〔粘着シート〕
本発明の一実施形態に係る粘着シートは、表面に凹凸を有する被着体に貼付される粘着剤層を有する粘着シートである。その粘着剤層は、少なくとも1層の着色粘着剤層と、少なくとも1層の無色粘着剤層との積層体であり、上記粘着剤層における被着体の凹凸に接触する面に、上記無色粘着剤層が位置している。」
「【0026】
1.各部材
1-1.粘着剤層
着色粘着剤層111は、着色剤を含有する粘着剤から構成されることが好ましい。一方、無色粘着剤層112は、着色剤を含有しない粘着剤から構成されることが好ましく、また、無色透明であることが好ましい。なお、「着色剤を含有しない」とは、「着色剤を実質的に含有しない」の意味であり、着色剤を全く含有しない他、本実施形態における効果を損なわない量で着色剤を含有する場合も含まれる。その量は、0.1質量%以下であることが好ましく、特に0.01質量%以下であることが好ましく、さらには0.001質量%以下であることが好ましく、0質量%であることが最も好ましい。」
イ 訂正事項2について、以下に示す明細書の段落【0230】、【0231】の記載を踏まえると、「光束透過率」の測定条件を、「凹凸による段差がある位置から平面方向10mm以内の任意の5点において、7mmφの光束の光を透過させたときの光束透過率の平均値」、「前記凹凸の影響を受けない程度に前記凹凸から平面方向に十分に離れた平坦部の任意の5点において、7mmφの光束の光を透過させたときの光束透過率の平均値」とする訂正は、本件特許明細書等の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものでないから、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものであると認められる。
「【0230】
上記サンプルの平坦部、具体的には凸部52の縁から15~25mm離れた位置に対し、小径測定用アタッチメント(日本電色社製)を使用して、7mmφの光束の光を透過させ、JIS K7361-1:1997に準じて、平坦部の光束透過率(%)を測定した。この平坦部の光束透過率を5点測定し、その平均値を平坦部の光束透過率(%)とした。当該平坦部の光束の一例を図5中、L1で示す。
【0231】
また、上記サンプルの凹凸近傍部、具体的には凸部52の縁から10mm以内の位置(図5中、点線の枠内)に対し、上記と同様にして7mmφの光束の光を透過させ、凹凸近傍部の光束透過率(%)を測定した。この凹凸近傍部の光束透過率を5点測定し、その平均値を凹凸近傍部の光束透過率(%)とした。当該凹凸近傍部の光束の一例を図5中、L2で示す。」
ウ 前記ア、イに検討した結果のとおり、訂正事項1、2による訂正は、いずれも本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものであり、特許法120条の5第9項において準用する同法126条5項の規定に適合する。
また、訂正事項1、2の訂正は、いずれも実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法120条の5第9項において準用する同法126条6項の規定に適合する。
(3) 独立特許要件
訂正後の請求項1~3は、前記のとおり、訂正前の請求項1~3に対応するものであり、本件特許異議の申立てにおいては請求項1~3について特許異議の申立てがされているから、特許法120条の5第9項において読み替えて準用する同法126条7項に規定する独立特許要件は課されない。
(4) 本件訂正の適否についての当合議体の判断のまとめ
前記(1)~(3)において検討したとおり、訂正事項1及び訂正事項2からなる本件訂正は、特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる事項を目的とするものであって同項の規定に適合し、かつ、同条9項において準用する同法126条5項及び6項の規定に適合するから、本件訂正は適法なものである。
よって、前記結論のとおり、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~3〕について訂正することを認める。
第3 取消理由について
1 取消理由の概要
本件特許について、令和6年11月20日付けで特許権者に通知した取消理由通知書の取消理由(取消理由1(サポート要件違反)、取消理由2(実施可能要件違反)、取消理由3(明確性要件違反)、取消理由4(新規性欠如)及び取消理由5(進歩性欠如))の概要は、次のとおりである。なお、特許異議申立人が提出した各甲号証の文献を、単に「甲1」等という。
(1) 取消理由1(サポート要件違反)
本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記のア及びイの点で不備のため、請求項1~3に係る特許は、特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
ア 取消理由1-1(サポート要件違反その1)
本件訂正前の請求項1~3には、「課題を解決するための具体的な技術手段」である「凹凸に接触する層を無色粘着材層とすること」が反映されておらず、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えているものである点。
イ 取消理由1-2(サポート要件違反その2)
本件訂正前の請求項1の「前記着色粘着剤層を構成する粘着剤が、着色剤を0.0073質量%以上含有し」との記載は、発明の詳細な説明等(【0026】)においては「無色粘着剤層」の概念に包摂されるものを「着色粘着剤層」の概念に包摂するものであるから、本件訂正前の請求項1は、発明の詳細な説明に記載されたものとはいえない点。
(2) 取消理由2(実施可能要件違反)
本件特許は、発明の詳細な説明が下記の点で、請求項1~3に係る発明について、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されたものではないから、請求項1~3に係る特許は、特許法36条4項1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
発明の詳細な説明は、本件訂正前の請求項1~3が含む、「凹凸に接触する層を無色粘着剤層とする」もの以外の部分について、過度の試行錯誤を要することなく、その発明を実施することができる程度に記載されたものとはいえない点。
(3) 取消理由3(明確性要件違反)
本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、請求項1~3に係る特許は、特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
ア 取消理由3-1(明確性要件違反その1)
本件訂正前の請求項1~3の「前記着色粘着剤層を構成する粘着剤が、着色剤を0.0073質量%以上含有し」について、明細書(【0026】)の記載から、着色剤の量が0.1質量%以下であるものは無色粘着剤層の概念に包摂されるから、着色剤を0.0073質量%以上0.1質量%以下含有するものは、「着色粘着剤層」なのか「無色粘着剤層」なのか判別できず、本件訂正前の請求項1~3に係る発明は、発明の詳細な説明等の記載を考慮すると、当業者の出願当時における技術常識を基礎としても、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確である点。
イ 取消理由3-2(明確性要件違反その2)
本件訂正前の請求項1~3の「凹凸による段差がある位置から平面方向10mm以内の部分における光束透過率」が、次の(ア)から(エ)までのいずれなのか不明であり、本件訂正前の請求項1~3に係る発明は、発明の詳細な説明等の記載を考慮しても、また、当業者の出願当時における技術常識を基礎としても、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確である点。
(ア) 凹凸による段差がある位置から平面方向10mm以内の全ての部分における光束透過率、
(イ) 凹凸による段差がある位置から平面方向10mm以内の部分のある点における光束透過率、
(ウ) 凹凸による段差がある位置から平面方向10mm以内の部分にある全て点について平均を取った光束透過率、
(エ) その他
(4) 取消理由4(新規性欠如)、取消理由5(進歩性欠如)
ア 分割要件について
本願は以下の<分割要件を満たさない理由>により不適法な分割出願であるから、出願日は現実に出願した令和4年12月28日である。
<分割要件を満たさない理由>
本件訂正前の請求項1は「前記着色粘着剤層を構成する粘着剤が、着色剤を0.0073質量%以上含有し」との構成を有しているところ、これは、原出願の当初明細書等(【0026】)において「無色粘着剤層」の概念に包摂されていた着色剤の含有量が0.1質量%以下のものを、「着色粘着剤層」の概念に包摂するものであって、原出願当初明細書等の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものである。
したがって、本件訂正前の請求項1に係る技術事項は、原出願当初明細書等に記載した事項の範囲内のものとはいえず、本願は不適法な分割出願である。
イ 取消理由4-1(新規性欠如)
本件訂正前の請求項1~3に係る発明は、出願前に日本国内又は外国において発行された甲1(親出願の公開公報)に記載された発明である。
甲1:特開2021-177244号公報
ウ 取消理由4-2(新規性欠如)
本件訂正前の請求項1~3に係る発明は、出願前に日本国内又は外国において発行された甲2(原出願の公開公報)に記載された発明である。
甲2:特開2020-169262号公報
エ 取消理由5-1(進歩性欠如)
本件訂正前の請求項1~3に係る発明は、前記甲1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
オ 取消理由5-2(進歩性欠如)
本件訂正前の請求項1~3に係る発明は、前記甲2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
カ 取消理由5-3(進歩性欠如)
本件補正前の請求項1~3に係る発明は、甲4に例示される技術常識を考慮すると、出願前に日本国内又は外国において発行された甲3に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
甲3:特開2011-116916号公報
甲4:特開2016-151580号公報
第4 当合議体の判断
1 本件訂正発明について
前記第2のとおり、本件訂正は認められたから、本件特許の請求項1~3に係る発明(以下、請求項の番号に従い「本件訂正発明1」等という。)は、それぞれ、本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1~3に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、請求項1~3の記載は、前記第2の3に示したとおりである。
2 取消理由1(サポート要件違反)について
(1) 取消理由1-1(サポート要件違反その1)の判断
本件訂正により、請求項1~3において、「粘着剤層が、少なくとも1層の着色粘着剤層と、少なくとも1層の無色粘着剤層とを備え」、「前記粘着剤層における前記被着体の凹凸に接触する面に、前記無色粘着剤層が位置」することが特定されたため、訂正後の請求項1~3には「課題を解決するための具体的な技術手段」である「凹凸に接触する層を無色粘着材層とすること」が反映されている。
したがって、訂正後の請求項1~3は、発明の詳細な説明に記載されたものである。
(2) 取消理由1-2(サポート要件違反その2)の判断
ア 本件訂正により、請求項1において次の事項が特定された。
「前記着色粘着剤層を構成する粘着剤が、着色剤を0.0073質量%以上含有し、
前記無色粘着剤層を構成する粘着剤が、着色剤を全く含有しない、または、着色剤を0.001質量%以下含有」すること。
イ 訂正後の請求項1~3においては、粘着剤層が「着色粘着剤層」と「無色粘着剤層」のいずれにも属するということが無くなっており、かつ、発明の詳細な説明(【0026】)には、無色粘着剤層112は、着色剤を含有する場合、その量は0.001質量%以下であることが好ましい旨の記載があるから、本件訂正発明1~3は発明の詳細な説明に記載されたものである。
3 取消理由2(実施可能要件違反)について
前記2(1)において検討したとおり、訂正後の請求項1~3においては「凹凸に接触する層を無色粘着材層とすること」が特定されており、本件発明1~3は、当業者がその実施をするために過度の試行錯誤を要するものが除外されたものとなっているから、発明の詳細な説明は、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものである。
4 取消理由3(明確性要件違反)について
(1) 取消理由3-1(明確性要件違反その1)の判断
前記2(2)において検討したとおり、訂正後の請求項1~3においては、粘着剤層が「着色粘着剤層」と「無色粘着剤層」のいずれにも属するということが無くなっているため、本件訂正発明1~3は、発明が明確である。
(2) 取消理由3-2(明確性要件違反その2)の判断
本件訂正により、本件訂正前の請求項1~3の「凹凸による段差がある位置から平面方向10mm以内」の「光束透過率」が、「凹凸による段差がある位置から平面方向10mm以内の任意の5点において、7mmφの光束の光を透過させたときの光束透過率の平均値」に具体化されて明確化されたため、本件訂正発明1~3は、発明が明確である。
5 取消理由4(新規性欠如)、取消理由5(進歩性欠如)について
(1) 分割要件について
ア 本件訂正により、請求項1において次の事項が特定された
「前記着色粘着剤層を構成する粘着剤が、着色剤を0.0073質量%以上含有し、
前記無色粘着剤層を構成する粘着剤が、着色剤を全く含有しない、または、着色剤を0.001質量%以下含有」すること。
イ 本件訂正発明1~3においては、粘着剤層が「着色粘着剤層」と「無色粘着剤層」のいずれにも属するということが無くなっており、原出願当初明細書等(【0026】)では、無色粘着剤層112は、着色剤を含有する場合、その量は0.001質量%以下であることが好ましい旨の記載があるから、本件発明1~3は、原出願当初明細書等に記載した事項の範囲内のものである。
ウ したがって、本件特許は、分割要件を満たすものであるから、本件特許の出願日は平成31年4月3日とみなされる。
(2) 取消理由4-1、4-2(新規性欠如)、取消理由5-1、5-2(進歩性欠如)の判断
前記(1)のとおり、本件特許の出願日は平成31年4月3日であるところ、取消理由4-1(新規性欠如)と取消理由5-1(進歩性)に係る甲1は本件特許の出願日後に出願公開されたものであり、取消理由4-2(新規性欠如)と取消理由5-2(進歩性)に係る甲2も本件特許の出願日後に出願公開されたものである。
したがって、これら甲1、甲2に基づいた新規性欠如や進歩性欠如の取消理由は成り立たない。
(3) 取消理由5-3(進歩性欠如)の判断
ア 甲3記載事項及び甲3発明の認定
(ア) 甲3記載事項
甲3には、次の事項が記載されている。
a 【0005】~【0008】
「【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、例えば特許文献1及び特許文献2に記載の構造及び装置では、液体状態の重合性樹脂組成物を液晶表示パネルと表面保護板との間に充填した後、紫外線等の光を照射することで樹脂を硬化させなければならない。従って、液状状態の重合性樹脂を充填する工程で気泡が混入するという問題点がある。また、光照射設備で重合性樹脂を硬化させる工程で光照射強度のばらつきによる硬化度合いの差が生じるという問題点がある。また、樹脂硬化時の体積収縮によりひずみが生じ不良品が発生しやすい問題点がある。
【0006】
また、例えば特許文献3に記載の光透過性透明粘着シートは、衝撃吸収材としての機能を満たすものの、貼り合せ時に気泡が混入しやすく、たとえ加熱加圧のオートクレープ処理を行った場合であっても気泡が残存してしまう問題点がある。特に表面保護板に縁取り印刷があると、印刷部分と非印刷部分との段差(印刷段差部分)に気泡が残存しやすい。そのため、特許文献3に記載の光透過性透明粘着シートでは、残存した気泡によって見栄えが悪化するという問題点がある。加えて特許文献3に記載の透明粘着シートは、重合性樹脂と比較して耐久性が低く、浮きや剥れ、色調変化等が発生しやすいという問題点がある。
【0007】
加えて、近年の携帯電話、携帯端末、タッチパネル等に用いられる画像表示装置の表面保護板には、装飾性を目的に縁取印刷等が施されることがある。このような表面保護板では、従来よりも縁取印刷部分の光透過性を抑える目的で印刷厚みを従来の10μm程度から20μm程度と厚くする傾向にある。従って、画像表示モジュールと表面保護板との間の空気層を埋める透明粘着シートに対しても、貼り合せの際、20μm程度の印刷段差に気泡が残存しないことが要求されている。
【0008】
本発明の目的は、表面保護板、画像表示モジュール、及びタッチパネル間に充填する粘着剤組成物、及び該粘着剤組成物を粘着層として備えた粘着シートを提供することにある。具体的には、画像表示装置の視認性に優れ、且つ、加工容易性、携帯電話等の印刷つき表面保護板に貼り合せたときの初期密着性(タック力)が高く、印刷段差への埋め込み追従性がよく気泡が残存せず、高温および高温多湿環境下での外観や色調変化のない、耐久性および安定性に面で優れた特性を有する粘着剤組成物及び該粘着剤組成物を粘着層として備えた粘着シートを提供することにある。」
b 【0017】、【図1】
「【0017】
図1を参照し、粘着剤組成物7が使用された粘着シート10の物理的構成について説明する。図1に示すように、粘着シート10は、粘着剤層3と、粘着剤層3を挟み込むようにして粘着剤層3に貼付される剥離シート5及び剥離シート6とから構成されている。粘着剤層3は、アクリル酸アルキルエステル、酢酸ビニル、及び水酸基含有モノマーが少なくとも共重合した重合体と、イソシアネート系架橋剤およびエポキシ系架橋剤のうち少なくとも一方とを含む粘着剤組成物7によって構成されている。」
「【図1】
[図:0001426817000001.jpg]
」
c 【0045】~【0047】
「【0045】
上述のようにして作成される粘着剤溶液には、画像表示装置として色調微調整等の要求が生じた場合、必要に応じて染料、顔料等の着色剤が加えられる。染料としては、塩基性染料、酸性染料、直接染料、酸性媒染染料、または媒染染料から選択された1種以上を使用することができる。染料の分類は様々であり、化学構造による分類としては、アゾ染料アントラキノン染料、トリフェニルメタン染料、ピラゾロン染料、スチルべン染料、ジフェニルメタン染料、アゾメチン染料、キサンテン染料、アリザリン染料、アクリジン染料、キノンイミン染料(アジン染料、オキサジン染料、チアジン染料)、シアニン染料、キノリン染料、チアゾール染料、メチン染料、ニトロ染料等が挙げられる。また顔料としては、例えば、アゾ顔料、アントラキノン顔料、インジゴ顔料、チオインジゴ顔料、ぺリレン・ぺリノン顔料、キナクリドン顔料、ジオキサジン顔料、キノフタロン顔料、イソインドリノン顔料、ピロール系顔料、フタロシアニン顔料、アニリンブラック顔料、カーボンブラック顔料などの有機顔料、酸化チタン系顔料、酸化鉄系顔料などの金属酸化物系顔料、クロム酸塩系顔料、硫化物系顔料、ケイ酸塩系顔料、炭酸塩系顔料、フェロシアン化合物などの無機顔料が挙げられる。顔料は、平均粒子径が0.03~0.30μmであるものを使用することが好ましい。所望の貯蔵弾性率が得られ、粘着剤層3中に均一に分散させることができるからである。これら染料、顔料等の着色剤のうち何れか一種或いは二種以上を適宜組み合わせて用いることができる。組み合わせる着色剤の配合比によって、色調を調整することができる。
【0046】
染料、顔料等の着色剤は特に限定されないが、例えば、重合体100重量部に対して、着色剤が固形分換算で0.1~10重量部程度添加される。これによって、表面保護板、タッチパネル及び画像表示モジュールへの接着力の低下、表面保護板の印刷段差への埋め込み適性、高温環境下にさらされた後の視認性および高温高湿環境下での耐久性等の優れた特性を損なうことなく、光透過性能を維持しながら画像表示装置として要求のある色調に適宜補正することができる。
【0047】
粘弾性試験により得られる貯蔵弾性率は、主成分である上述の重合体に依存する。表面保護板の印刷段差埋め込み性、粘着性能および高温高湿環境下における耐久性および透明性と黄変などの色調変化の面で優れた特性を確保するために、アルキルエステルおよび水酸基を有するモノマーを含む重合体のほか、架橋剤を所定の範囲内で適宜調整することで、貯蔵弾性率を設定することができる。」
d 【0053】、【0055】、【図2】
「【0053】
粘着剤層3の厚さは50μm以上500μm以下であることが好ましく、100μm以上500μm以下であることがより好ましい。50μm未満では、段差が10μm以上、特に20μm以上である印刷部2(図2参照、後述)が表面保護板1(図2参照、後述)に印刷され形成されている場合、埋め込み性が低下したり、粘着力や保持力不足により意図しない剥離、剥がれが発生しやすい。500μmを超えると、粘着剤層3の光透過性の低下や、加工時における粘着剤組成物7のはみ出しが発生しやすくなる。」
「【0055】
粘着シート10の使用形態について説明する。図2は、粘着シート10が画像表示装置11に適用された場合の断面構成を示している。図2に示すように、画像表示装置11は、画像表示モジュール4と、画像表示モジュール4における像が表示される側(図2中上側)に配置される表面保護板1とから構成されている。粘着剤組成物7は、画像表示モジュール4と表面保護板1とで挟まれる部分に充填される。なお、表面保護板1における画像表示モジュール4に近接する面(粘着剤組成物7と接する面)側には、印刷部2が印刷されている。印刷部2は例えば、画像表示装置11の表示部に額縁状の外周枠を形成させる場合に、表面保護板1に印刷される。印刷部2は所定の厚さ(10μm程度~20μm程度)を有している。尚図2には記載されていないが、表面保護板1と画像表示モジュール4の間にタッチパネルを組み込んだ構成であってもよい。この場合、表面保護板1とタッチパネルの間の隙間や、タッチパネルと画像表示モジュール4の間の隙間にも本発明の粘着シート10を適用することができる。」
「【図2】
[図:0001426817000002.jpg]
」
e 【0065】~【0087】、【表1】、【表3】、【表5】、【表7】
「【実施例1】
【0065】
実施例及び比較例を挙げて、本発明をより詳細に説明する。しかしながら本発明は、これらによって限定されるものではない。以下、1.評価試料詳細、2.評価方法、3.評価結果の順に説明する。
1.評価試料詳細
【0066】
はじめに、粘着剤溶液の調整方法について説明する。重合体の基となるモノマーを、表1及び表2に記載の種類及び重量部に基づいて配合した。配合したモノマーに、重合開始剤としてアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)0.6重量部を加えて共重合させた。次に、共重合によって生成した重合体30重量部を、溶媒70重量部(トルエン20重量部と酢酸エチル50重量部を混合した溶媒)へ溶解させた。結果、固形分45重量%の重合体溶液を得た。其々の重量平均分子量(Mw)は、表1及び表2記載の通りとなった。次いで、得られた重合体溶液に対し、表3及び表4記載の種類及び量の架橋剤を加え、粘着剤溶液とした。…(中略)…
【0069】
粘着シート10の製造方法について説明する。片面にシリコーン樹脂を塗布した厚さ75μmのPETフィルムからなる剥離シート5を用意した。次いで、剥離シート5のうちシリコーン樹脂塗布面上に、上述において調製した粘着剤溶液を塗布し、100℃にて3分間乾燥処理を施した。これによって、乾燥後の厚さ100μmの粘着剤層3を形成させた。
…(中略)…
【表1】
[図:0001426817000003.jpg]
…(中略)…
【表3】
[図:0001426817000004.jpg]
2.評価方法及び評価結果
【0071】
以上のようにして作成した粘着シート10(実施例1~31、比較例1~8)及びこれらを構成する粘着剤組成物7について、(1)粘着物性(ボールタック、粘着力、保持力)(2)貯蔵弾性率(3)埋め込み性(4)耐久性(外観、色調変化)について評価を行った。測定及び評価方法の詳細について、以下に示す。
…(中略)…
(2)貯蔵弾性率
【0078】
粘着剤組成物7の粘弾性体としての特性を評価する目的で、粘着剤組成物7の貯蔵弾性率を測定した。粘弾性測定装置(日本シーベルヘグナー社製、品番:MCR301)を使用し、各試料に用いた粘着剤組成物7の25℃、1Hzにおける貯蔵弾性率(G´)を測定した。結果を表5及び表6に示す。
【0079】
貯蔵弾性率が9.0×104以下の場合、印刷段差つき表面保護板と画像表示モジュールを貼りあわせた際、印刷段差部分の密着性が良好であり、気泡のかみ込みが少なくなる。さらに貯蔵弾性率が5.0×104以下の場合、印刷段差が20μmであっても気泡のかみ込みが少なくなる。一方、貯蔵弾性率が9.0×104を超過した場合、印刷段差部分への追従性が劣るため、気泡をかみ込みやすくなる。
(3)埋め込み性
【0080】
額縁状の印刷部2が印刷された表面保護板1(材質:ソーダライムガラス、寸法:52mm×74mm)に、剥離シート5を剥離することで露になった粘着剤組成物7を貼合した。剥離シート6を剥離し、印刷の施されていないガラス板を貼合した。貼付直後の状態と、加熱加圧処理(50℃、5気圧、30分間)を施した後の状態とを、拡大顕微鏡(VH-6300、キーエンス社製)で100倍に拡大して観察した。目視で気泡混入、浮き、剥れが発生しているか否かを判断した。結果を表7及び表8に示す。印刷部2の厚さが異なる二種類の表面保護板1(厚さ10μm、及び20μm(幅5mm共通))を使用した。
【0081】
表7及び表8のうち「○」は、貼付直後及び加圧後のいずれの状態においても、気泡混入、浮き、剥れが発生しないことを示している。「△」は、貼付直後の状態において、気泡混入、浮き、剥れが発生し、加熱加圧処理後の状態において、気泡混入、浮き、剥れが発生しないことを示している。「×」は、貼付直後の状態及び加熱加圧処理後の状態のいずれも、気泡混入、浮き、剥れが発生したことを示している。
(4)耐久性(外観、色調変化)
【0082】
作成した試料における耐久性を確認した。粘着剤組成物7の両面に、印刷が施されていない表面保護板1(材質:ガラス板)を貼り合せた。この試料を、(A)温度85℃、湿度0%、(B)温度60℃、湿度95%に保たれた恒温恒湿槽内に入れ、1,000時間放置した。その後、外観および色調変化を評価した。
(4-a)外観
【0083】
外観評価は、所定の温度及び湿度で1,000時間放置した試料について、目視で気泡、浮き、剥れが発生しているか否か評価した。結果を表7及び表8に示す。表7及び表8のうち「○」は、気泡発生、浮き、剥れが発生ないことを示している。「△」は気泡の発生が認められたが、浮き、剥れがなく実使用可能であることを示している。「×」は気泡発生、浮き、剥れが発生し実使用不可能であることを示している。
(4-b)色調変化
【0084】
作成した試料について、1,000時間放置後、で紫外可視分光光度計(島津製作所社製、型番:UV-3150)にて可視光領域(測定波長380~780nm、))の透過率を測定した。(A)温度85℃、湿度0%、(B)温度60℃、湿度95%、の其々の雰囲気下で測定を行った。JIS-Z-87291-1994に準じて、色調L*、a*、b*をそれぞれ算出した。色調変化ΔE*は下式により求めた。
ΔE*=((ΔL*)2+(Δa*)2+(Δb*)2)1/2
ここで、L*は明度、a*値、b*値は色座標を表している。結果を表7及び表8に示す。
【0085】
色調変化が0.5以下である場合、色調変化が少なく透明性に優れている。色調変化が0.5を超えた場合、黄変等の色調変化が見られ透明性に劣るが、実使用可能な範囲である。1.0を超えると、黄変等の色調変化の程度が大きくなり、目視で確認できるレベルとなるため実使上、好ましくない。
【表5】
[図:0001426817000005.jpg]
…(中略)…
【表7】
[図:0001426817000006.jpg]
3.評価結果
【0086】
実施例1~31および比較例1~8の粘着シートはいずれも、紫外可視分光光度計(UV―3150:島津製作所製)によって波長380nm~780nmの範囲について測定した全光線透過率が85%以上と高く、画像表示装置の表面保護板や画像表示モジュール、タッチパネル等に貼合して用いることができる、透明性に優れた粘着シートであった。
【0087】
BA、2EHA、酢酸ビニル、及び水酸基含有モノマーが共重合した重合体が粘着剤組成物7として使用された場合(実施例1~31)、酢酸ビニルがモノマーとして含まれない場合(比較例4,5)と比較して、優れた埋め込み性及び耐久性を示すことが分かった(印刷段差20μmの場合、実施例1~31:○、△、比較例4,5:×)(耐久性-外観(85℃)、実施例1~31:○、△、比較例4,5:×)。また、2EHA及び酢酸ビニルがモノマーとして含まれない場合(比較例1~3)と比較して、優れた埋め込み特性を示すことが分かった(印刷20μmの場合、実施例1~31:○、△、比較例1~3:×)。従って、BA、2EHA、酢酸ビニル、及び水酸基含有モノマーとともに共重合させた重合体を使用することで、埋め込み特性及び耐久性の優れた粘着剤組成物7を作製できることが分かった。」
前記eから甲3の実施例4に関して、以下の事項(以下「甲3記載事項」という。)が記載されていると認められる。
[甲3記載事項]
「アクリル酸アルキルエステルとして(BA)54重量部、(2EHA)40重量部、水酸基含有モノマーとして(2HEA)1重量部、酢酸ビニルとして(VAc)5重量部を配合し、重合開始剤として(AIBN)0.6重量部を加えて共重合させ、共重合によって生成した重合体30重量部を、溶媒70重量部へ溶解させ、重合体溶液を得て、得られた重合体溶液に対して架橋剤として(XDI系)0.4重量部、シランカップリング剤0.1重量部を加え粘着剤溶液とし、調製した粘着剤溶液を塗布し、100℃にて3分間乾燥処理を施すことによって、乾燥後の厚さ100μmの粘着剤層3を形成させたこと。」
(イ) 甲3から読み取れる事項の認定
甲3の【図2】から、次の事項(以下「甲3から読み取れる事項」という。)が見て取れる。
[甲3から読み取れる事項]
「粘着剤組成物7の厚さが、印刷部2の深さ又は高さよりも大きく、粘着剤組成物7が、印刷部2がある部位及び印刷部2がない部位にそれぞれ位置していること。」
<【図2】(再掲)>
「
[図:0001426817000007.jpg]
」
(ウ) 甲3発明の認定
前記(ア)及び(イ)から甲3には、次の発明(以下「甲3発明」という。)が記載されている。
[甲3発明]
「画像表示装置11は、画像表示モジュール4と、画像表示モジュール4における像が表示される側に配置される表面保護板1とから構成され、粘着剤組成物7は、画像表示モジュール4と表面保護板1とで挟まれる部分に充填され、表面保護板1における画像表示モジュール4に近接する面(粘着剤組成物7と接する面)側には、印刷部2が印刷され、(【0055】)
粘着剤層3は、アクリル酸アルキルエステル、酢酸ビニル、及び水酸基含有モノマーが少なくとも共重合した重合体と、イソシアネート系架橋剤およびエポキシ系架橋剤のうち少なくとも一方とを含む粘着剤組成物7によって構成され、(【0017】)、
アクリル酸アルキルエステルとして(BA)54重量部、(2EHA)40重量部、水酸基含有モノマーとして(2HEA)1重量部、酢酸ビニルとして(VAc)5重量部を配合し、重合開始剤として(AIBN)0.6重量部を加えて共重合させ、共重合によって生成した重合体30重量部を、溶媒70重量部へ溶解させ、重合体溶液を得て、得られた重合体溶液に対して架橋剤として(XDI系)0.4重量部、シランカップリング剤0.1重量部を加え粘着剤溶液とし、調製した粘着剤溶液を塗布し、100℃にて3分間乾燥処理を施した。これによって、乾燥後の厚さ100μmの粘着剤層3を形成させ、([甲3記載事項])
粘着剤層3の厚さは50μm以上500μm以下であることが好ましく、50μm未満では、段差が10μm以上、特に20μm以上である印刷部2が表面保護板1に印刷され形成されている場合、埋め込み性が低下し、(【0053】)
粘着剤溶液には、画像表示装置として色調微調整等の要求が生じた場合、必要に応じて染料、顔料等の着色剤が加えられ、(【0045】)
重合体100重量部に対して、着色剤が固形分換算で0.1~10重量部程度添加され、(【0046】)
粘着剤組成物7の厚さが、印刷部2の深さ又は高さよりも大きく、粘着剤組成物7が、印刷部2がある部位及び印刷部2がない部位にそれぞれ位置しており、([甲3から読み取れる事項])
粘着剤組成物7の貯蔵弾性率が5.0×104以下の場合、印刷段差が20μmであっても気泡のかみ込みが少なくなる、(【0079】)
画像表示装置11。」
イ 甲4の記載事項並びに技術常識及び周知技術の認定
(ア) 甲4の記載事項
甲4には次の事項が記載されている。
「【0023】
積層粘着シート20は、画像表示装置の形成において、偏光板の視認側に前面透明部材を貼り合わせるための前面側粘着シートである。図4は、前面側粘着シートとして積層粘着シート20を用いた画像表示装置の一形態を表す模式的断面図である。画像表示装置100では、透明板71上に印刷部76が形成された前面透明部材70と画像表示セル61との間に光学フィルム10が配置されている。光学フィルム10と画像表示セル61とは、セル側粘着シート26を介して貼り合わせられており、光学フィルム10と前面透明部材70とは、積層粘着シート20を介して貼り合わせられている。積層粘着シート20は、第一粘着剤層21側の面が光学フィルム10に貼り合わせられ、第二粘着剤層22側の面が前面透明部材70に貼り合わせられている。」
「【図4】
[図:0001426817000008.jpg]
」
「【0024】
[前面側粘着シート]
上述のように、積層粘着シート20は、偏光板の視認側に前面透明部材を貼り合わせるための前面側粘着シートである。積層粘着シート20は、少なくとも2層の粘着剤層を備える。第一粘着剤層21は光学フィルム10との貼り合わせのための粘着剤層であり、第二粘着剤層22は前面透明部材との貼り合わせのための粘着剤層である。そのため、光学フィルム10上に積層粘着シート20が設けられた粘着剤付き光学フィルムでは、第一粘着剤層21は光学フィルム10に接して配置され、第二粘着剤層22は光学フィルム10から最も離れて配置される。積層粘着シートが第一粘着剤層21と第二粘着剤層22の2層からなる場合、粘着剤付き光学フィルム53は、光学フィルム10上に、第一粘着剤層21および第二粘着剤層をこの順に備える。
【0025】
光学フィルム10に接して配置される第一粘着剤層21は、相対的に柔らかい粘着剤で構成され、光学フィルム10から最も離れて配置される第二粘着剤層22は、相対的に硬い粘着剤で構成されている。画像表示装置形成時に前面透明部材に接して設けられる第二粘着剤層22として硬い粘着剤が用いられることにより、前面透明部材がアウトガスを発生する材料(例えばアクリル板やポリカーボネート板等のプラスチック材料)からなる場合でも、粘着剤層がアウトガスの放出圧力に抗することができ、粘着シートと前面透明部材との間の気泡の滞留を抑制できる。また、第一粘着剤層21として柔らかい粘着剤が用いられることにより、積層粘着シート20全体としての柔らかさ(流動性)を維持して、前面透明部材の印刷段差付近に粘着剤が入り込むことができるため、段差付近への気泡の混入を抑制できる。さらには、積層粘着シート20全体としての柔らかさが維持されるため、印刷段差に起因する画面の周縁部の表示ムラを抑制できる。」
「【0030】
第一粘着剤層21は、20℃における貯蔵弾性率G’20と150℃における貯蔵弾性率G’150の比G’20/G’150が20以上である。貯蔵弾性率の温度依存性が大きく、G’20/G’150の値が大きいことにより、常温では流動性が小さく、カット時のカット刃等への粘着剤の移着を抑制できるとともに、加熱時には流動性が高く印刷段差付近にも粘着剤が入り込みやすいため、印刷段差付近への気泡の混入や画像表示装置の表示ムラを抑制できる。G’20/G’150は、25以上が好ましく、30以上がより好ましい。G’20℃/G’150℃の上限は特に制限されないが、常温での貼り合わせ時の粘着性や加熱時の流動性等を勘案すると、500以下が好ましく、300以下がより好ましく、100以下がさらに好ましい。」
「【0037】
(厚み)
第一粘着剤層21の厚みd1は、40μm以上が好ましい。第一粘着剤層の厚みd1は、50μm以上がより好ましく、60μm以上がさらに好ましく、70μm以上が特に好ましく、80μm以上が最も好ましい。第一粘着剤層の厚みを大きくすることにより、加熱時の積層粘着シートの流動性が高められ、印刷段差付近への気泡の混入を抑制できる。また、第一粘着剤層の厚みを大きくすることにより、粘着シートの段差吸収性が高められるため、画像表示装置の表示ムラを抑制できる。」
「【0140】
<表示ムラ>
(評価用画像表示装置の作成)
任天堂3DSの交換用上部液晶パネルから、バックライト部分を取り外し、液晶パネルのバックライトと反対側の偏光板を取り外した後、エタノールを染みこませた清浄な布を用いて、液晶セル表面の粘着剤を除去した。両面粘着剤付き偏光板を50mm×80mmのサイズにカットした後、セル側の面の保護フィルムを剥離し、液晶セル表面の中央部にセル側粘着シート面を重ね合わせ、ハンドローラーを用いて貼り合わせた。
【0141】
その後、両面粘着剤付き偏光板の視認側の面の保護フィルムを剥離し、黒色インクが周縁部に枠状に印刷されたガラス板(0.7mm×50mm×100mm、インク印刷厚み=15μm、両短辺(長辺方向)のインク印刷幅:各15mm、両長辺(短辺方向)のインク印刷幅:各5mm)の印刷面を、粘着剤の露出面上に載置し、真空熱圧着装置で貼り合わせを行った(温度25℃、装置内圧力50Pa、圧力0.3MPa、圧力保持時間10秒)。その後、オートクレーブ処理(50℃、0.5MPa、15分)を行った。このようにして得られた評価用パネルを、任天堂3DS本体の画像表示パネルと交換して、電気接続を行い、評価用画像表示装置を得た。パネルを白表示とした際の、印刷枠付近での表示ムラの有無を目視で確認した。表示ムラが確認されなかったものを○、わずかな表示ムラが見られたものを△、表示ムラが容易に確認できたものを×とした。
…(中略)…
【0148】
これに対して、実施例1~7では、気泡信頼性および表示ムラの評価結果がいずれも○であった。積層粘着シートの150℃における貯蔵弾性率が1×104未満である実施例1~3および実施例5は、積層粘着シートの150℃における貯蔵弾性率が1以上である実施例4,6,7に比べて、表示ムラがさらに視認され難くなっていた。」
(イ) 技術常識の認定
前記(ア)に示した甲4の記載事項に例示されているように、次の技術事項は、技術常識であったと認められる。
[技術常識]
「印刷部が形成された透明部材に貼り合わされる粘着剤層において、粘着剤層の貯蔵弾性率又は厚みによって、段差付近への気泡の混入を抑制し、印刷段差に起因する画面の周縁部の表示ムラを抑制すること」
(ウ) 周知技術の認定
前記(ア)に示した甲4の記載事項に例示されているように、次の技術事項は、周知技術であったと認められる。
[周知技術]
「粘着材層を第一粘着剤層と第二粘着剤層の二つの層とすること」
ウ 対比
本件訂正発明1と甲3発明を対比する。
(ア) 次の甲3発明の欄に記載した甲3発明の各構成は、それぞれ、対応する本件訂正発明1の構成に相当する。
<甲3発明> <本件発明1>
画像表示装置11 表示体
表面保護板1 一の表示体構成部材
画像表示モジュール4 他の表示耐候性部材
粘着剤層3 粘着剤層
印刷部2 凹凸
(イ) 甲3発明における「画像表示装置11」は、「画像表示モジュール4と、画像表示モジュール4における像が表示される側に配置される表面保護板1とから構成され、粘着剤組成物7は、画像表示モジュール4と表面保護板1とで挟まれる部分に充填され、」「粘着剤層3は、」「粘着剤組成物7によって構成され」ていることから、前記(ア)を踏まえると、本件訂正発明1における「前記一の表示体構成部材および前記他の表示体構成部材を互いに貼合する粘着剤層とを備えた表示体」に相当する。
(ウ) 甲3発明において、「粘着剤組成物7の厚さが、印刷部2の深さ又は高さよりも大きく、粘着剤組成物7が、印刷部2がある部位及び印刷部2がない部位にそれぞれ位置している」ことは、本件訂正発明1における「前記粘着剤層の厚さが、前記凹凸の深さ又は高さよりも大きく、前記粘着剤層が、前記凹凸による段差がある部位および前記平坦部のそれぞれに位置している」ことに相当する。
(エ) 前記(ア)から(ウ)の検討結果を踏まえると、本件訂正発明1と甲3発明を対比すると、本願発明は、少なくとも次の相違点Aにおいて甲3発明と相違する。
<相違点A>
本件訂正発明1においては、
「前記粘着剤層が、少なくとも1層の着色粘着剤層と、少なくとも1層の無色粘着剤層とを備えて」いるのに対して、
甲3発明においては、粘着剤層3が、所定量の着色剤が添加された一つの層からなる点。
エ 判断
(ア)本件訂正発明1の進歩性について
a 前記イ(ウ)において示したとおり、粘着材層を第一粘着剤層と第二粘着剤層の二つの層とすることが周知技術であるとしても(「周知技術」を参照)、
b 前記相違点Aに係る「少なくとも1層の着色粘着剤層と、少なくとも1層の無色粘着剤層とを備え」る「粘着材層」は、甲3には記載も示唆もされておらず、前記の技術常識及び前記周知技術から自明ともいえず、甲4にも記載も示唆もされていない。
c そうすると、甲3発明に、周知技術、技術常識、甲3又は甲4に記載されたそのほかの技術事項をいかに適用しても(したがって、特許異議申立人が提出した文献をどのように組み合わせても)、前記相違点Aに係る本件訂正発明1の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことではない。
d したがって、本件訂正発明1のその余の構成について検討するまでもなく、本件訂正発明1は、甲3発明並びに周知技術、技術常識及び甲3又は甲4に記載されたそのほかの技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(イ)本件訂正発明2、3について
本件訂正発明2、3は、本件訂正発明1の全ての構成を含むから、前記(ア)において説示した理由と同様の理由により、本件訂正発明2、3は、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
第5 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
1 申立理由の概要
取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について検討すると、特許異議申立人は、次の(1)から(3)に示す理由(以下、それぞれ「申立理由A」~「申立理由C」という。)を主張している。
なお、前記第1の2において示したとおり、令和7年3月6日付けの通知書により、特許異議申立人に対して期間を指定して意見書を提出する機会を与えたが、特許異議申立人は応答しなかった。
(1) 申立理由A(サポート要件違反)
請求項1~3に係る発明において、本件特許明細書には、着色剤の含油割合が「0.0073質量%以上」の全体にわたり課題を解決できることは示されていないから、請求項1~3に係る特許は、特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
(2) 申立理由B(サポート要件違反)
本件特許明細書の実施例においては、「凹凸による段差がある位置から平面方向10mm以内の部分における光束透過率の、前記凹凸の影響を受けない程度に前記凹凸から平面方向に十分に離れた平坦部における光束透過率に対する比」は、表示体として測定して導き出したものではなく、厚みが12μmの粘着シートで測定しており、表示体としての「前記凹凸による段差がある位置から平面方向10mm以内の部分における光束透過率の、前記凹凸の影響を受けない程度に前記凹凸から平面方向に十分に離れた平坦部における光束透過率に対する比が、0.980以上」であることは本件特許明細書等に具体的な説明がないから、請求項1~3は、発明の詳細な説明に記載したものでなく、請求項1~3に係る特許は、特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
(3) 申立理由C(明確性要件違反)
請求項1~3においては、表示体としての「凹凸による段差がある位置から平面方向10mm以内の部分における光束透過率の、前記凹凸の影響を受けない程度に前記凹凸から平面方向に十分に離れた平坦部における光束透過率に対する比」の測定方法が不明であるから、請求項1~3に係る発明は不明確であり、請求項1~3に係る特許は、特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
2 申立理由の検討
(1) 申立理由Aについて
ア 本件特許明細書等の【0005】~【0008】等を参酌すると、従来技術においては、着色層は段差に接するように設けられており、被着体の凹凸に起因して着色粘着剤層が圧縮されたり変形したりすることにより、着色層に透過率のムラが生じていたところ、当該粘着剤層における透過率のムラを抑制することが、発明が解決しようとする課題であると認められる。
イ そして、前記第4の2(1)、(2)において示したとおり、訂正後の請求項1~3においては、課題を解決するための具体的な技術手段として次の技術事項が特定されている。
「粘着剤層が、少なくとも1層の着色粘着剤層と、少なくとも1層の無色粘着剤層とを備え」、「前記粘着剤層における前記被着体の凹凸に接触する面に、前記無色粘着剤層が位置」し、また、「前記着色粘着剤層を構成する粘着剤が、着色剤を0.0073質量%以上含有し、
前記無色粘着剤層を構成する粘着剤が、着色剤を全く含有しない、または、着色剤を0.001質量%以下含有」すること。
ウ 本件特許明細書の【0008】等の記載を参酌すると、前記の課題は、前記イの構成により、被着体の凹凸に接触する層が着色粘着剤層ではなく、無色粘着剤層となるところ、このことにより、被着体の凹凸が無色粘着剤層によってある程度吸収することができ、被着体の凹凸に起因して着色粘着剤層が圧縮されたり変形したりすることが抑制され、それにより、粘着剤層における透過率のムラを抑制することができることが理解される。
エ そうすると、着色粘着剤層の着色の度合いによらず前記ウの抑制効果があることは当業者には自明であるから、訂正後の請求項1~3に係る発明は、発明の詳細な説明の記載により当業者が発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。
オ したがって、訂正後の請求項1~3の記載は、特許法36条6項1号に規定する要件を満たしているといえるから、申立理由Aは理由がない。
(2) 申立理由Bについて
ア 本件特許明細書等において、表示体としての「前記凹凸による段差がある位置から平面方向10mm以内の部分における光束透過率の、前記凹凸の影響を受けない程度に前記凹凸から平面方向に十分に離れた平坦部における光束透過率に対する比が、比0.980以上」であることの具体的な説明がないとしても、本件特許発明1~3に前記(1)ウの抑制効果があることは当業者には自明であるから、訂正後の請求項1~3に係る発明は、発明の詳細な説明の記載により当業者が発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。
イ したがって、訂正後の請求項1~3の記載は、特許法36条6項1号に規定する要件を満たしているといえるから、申立理由Bは理由がない。
(3) 申立理由Cについて
ア 本件訂正後の請求項1~3においては、次の構成を有する。
「前記凹凸による段差がある位置から平面方向10mm以内の任意の5点において、7mmφの光束の光を透過させたときの光束透過率の平均値の、前記凹凸の影響を受けない程度に前記凹凸から平面方向に十分に離れた平坦部の任意の5点において、7mmφの光束の光を透過させたときの光束透過率の平均値に対する比が、0.980以上であ[る]」こと。
イ 特許異議申立人の主張する前記アに係る光束透過率の測定方法が不明であることの具体的理由は明らかで無く、発明の詳細な説明に記載された、測定に用いられた被着体は、表示体の凹凸を模したものであり、被着体に対する測定方法が表示体にも適用できることは明らかである。
したがって、訂正後の請求項1~3に係る発明は明確であり、特許法36条6項2号に規定する要件を満たしている。
第6 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知で通知した取消理由及び特許異議の申立ての理由によっては、本件訂正発明1~3に係る特許を取り消すことはできない。
また、ほかに本件訂正発明1~3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2024-700647